【SS】キス魔にこにー

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にこ-アイキャッチ18
1: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:54:02.24 ID:ni629J1N.net
#キス魔にこにー


じわりじわりと、にこの背後に迫る怪しい影。

スクールアイドルの踊る姿に夢中になっていたせいで、気がつけなかった。

「―――隙あり!そーれ、わしわし〜!」

「ひゃっ!だれっ、希!?ちょっやめなさいよぉ、こらぁっ!」

じたばたと暴れる私の胸を容赦なく揉みしだく希。

いつもいつも、飽きもせずに揉んでくる。いい加減にしなさいよ!

元スレ: 【SS】キス魔にこにー

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3: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:56:35.04 ID:ni629J1N.net
「あんたねぇ〜〜〜!」

「あははは、まあそんな怒らんとってよ。にこっちは何してたん?」

怒りが爆発寸前に、希がほにゃほにゃーとした笑顔で質問してきた。

久々に、にこにービンタをかましてやろうかと思ったのに毒気を抜かれしまった。

そんなに上手いことかわされちゃったら、怒る気も失せるってもんよ。

……でも、そんな憎めない感じな希だからこそ、長く付き合えてきたのかも。
5: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:58:01.63 ID:ni629J1N.net
「見てわかんない?スクールアイドルの動画を見てたに決まってるでしょっ」

「……これスクールアイドルなん?」

希はパソコンの画面に映る彼女たちを見て不思議そうにしている。

まあ、そういう感想が出るのも仕方ないかもしれない。

彼女たちは、怒られないギリギリの範囲で過激なことをするグループとして有名なのだ。

仕方ない。せっかくだし、私が見ているものをちゃんと説明してあげよう。

ちょうど誰かに語りたかったってのもあるしね。
6: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:59:11.67 ID:ni629J1N.net
「この娘たちはね、私達の一歩先を行くスクールアイドルよ!」

「一歩先……?いったい、なんの?」

まあ、正確に言えば私達というよりも、私と真姫ちゃんに関わる話だけど。

つまり、μ’sにだって関係するんだから問題なしなのだ。

「百合営業よ!」

ででん!と無駄にこぶしを突き上げながら叫んだ。

「………」
7: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:00:34.47 ID:ni629J1N.net
にこの言葉が理解できなかったかのかしらね?

ぽけーっとしたあほ面を存分に晒している希。しげしげとその顔を眺める私。

それにしても、本人にいうと少し不機嫌になるけど、希の顔ってたぬき顔っていうのよね。

私は結構好きなんだけどな〜。なんで嫌なんだろ。

そんなことを考えていたら、ようやく意識を取り戻したみたいだ。

「……って、にこっち。百合営業って、にこっちと真姫ちゃんがやってるやつ?」

「そうよ!」
9: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:02:06.68 ID:ni629J1N.net
そう、ここで真姫ちゃんが登場するというわけ。

一応、私と真姫ちゃんはそういう営業をやっていることになっている。

なっている、というのは真姫ちゃんが恥ずかしがって余りやってくれないから。

私としては、もっともっとやりたいんだけど。

「えぇ……にこっち……。一歩先ってことは、この娘らみたいにやるつもり……?」

ないわーって表情で引いている。失礼なやつめ。

それを売りにしている彼女たちにも、それを実践しようとしている私にもだ。
10: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:03:29.04 ID:ni629J1N.net
「なによ、文句あるってわけ?この娘たちの百合営業、別に下品じゃないでしょ?」

「そうだけど……」

あけすけにえっちだとか、そういう過激さじゃなくて、プラトニックラブという感じなのだ。

ただ、演出や歌の効果によって、とてもイケナイものを見ているかのような気分になってしまうだけ。

でも、それがスピリチュアルとか精神的なものが好きな希には、逆に効いちゃうのかもね。

「真姫ちゃん、嫌がるとおもうよ?」

「むっ……」
11: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:04:49.69 ID:ni629J1N.net
痛いところを突く。これが一理あるのよねー。

にこが更なる百合営業を提案したとして、シャイガール真姫ちゃんが受け入れてくれるのか。

きっと無理。恥ずかしがりすぎて、意味分かんないを連呼する機械になっちゃうかも。

「ね、やめとこ?二人は今くらいの感じで十分やん?」

「……むむぅ」

最高のアイディアが否定されてしまったので、ぶぅー、とほっぺを膨らませる。

そして、私は今不機嫌です!ほっといて!と肩を怒らせながら、パソコンに向かう。

希が仕方ないなーって表情で笑ってたから、余計につーんとしてやった。
12: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:07:06.11 ID:ni629J1N.net
(絶対良い案だと思うのに。真姫ちゃんだって、誰かに近づくのが慣れてないだけよ!)

話にあげていたスクールアイドルの公式サイトをチェックしながら、憤慨する。

でも、慣れてないのなら、どうせ出来やしないのが現実だ。

(少しずつ慣らしていけば……)

少しずつ、少しずつ。地道に営業の度合いを強めていけば、いずれ……。

(……たぶん、その頃には卒業してるわよねえ)
13: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:09:13.82 ID:ni629J1N.net
出来るだけすぐに、真姫ちゃんを慣れさせる方法はないものか。

そう上手くはいかないか。あ゛〜、とうなりながら、マウスを適当にカチカチする。

すると、インタビューのようなものが載ったページが開かれた。

このグループが雑誌に掲載された時のものみたい。

(―――ん?これって……)

『そういうのを売りにしていこうって、みんなで決めたこととはいえ

 やっぱり最初は恥ずかしくて、上手く出来なかったんですよ。

 だから、その恥ずかしさをなくすために色々やりました。

 中でも一番効果があったのは、毎日挨拶のキスをすることでしたね(笑)』
15: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:10:15.72 ID:ni629J1N.net
ピシャーーーン!雷が落ちてきたかのような衝撃。

そりゃあ、毎日キスしてれば恥ずかしさなんて消えちゃうわよ!

「ふふふっ……ふふふふっ……!これよ、これだわっ!」

「どしたんー?」

私の様子を見ていたらしい希が近づいてきた。

ふふん。発見したばかりの解決法を教えてしんぜよう。

「あのね、さっきのことだけど―――」
17: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:12:00.78 ID:ni629J1N.net
―――いや、待つのよ私。

そもそも、シャイガール真姫ちゃんにキスすること自体が難易度高いんじゃないの?

こういう方法があるの、試してみていい?といったところで拒否されるのがオチだ。

となると、何も言わずにキスしてしまうのが一番なわけだけど。

その後にヘソをまげられてしまって、百合営業自体をやめられてしまっては元も子もないわよね。

「にこっち?」

ふむ。真姫ちゃんに行く前に、確認が必要だ。

私のちゅーによって、どの程度の影響があるのかっていう確認がね。
19: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:14:05.12 ID:ni629J1N.net
「おーい、にこっち〜」

目の前には、不思議そうに首を傾げている希がいる。

そういえば、このわしわし女は、ついさっき私の胸を蹂躙してくれやがったのだったっけ。

くっくっく……、ちょうどいいじゃない。

確認もできる上に、復讐も果たせるし、一石二鳥というやつよ。

「希、お願いがあるんだけど」

「なに〜?」

「ちょーっとだけ、目つぶっててくれない?」

「ん〜?ええけど……?」

限りなく真剣な表情でお願いする。

そうしたら、あっさりと目を閉じてくれた。

ふふ、馬鹿め。これから何が起きるともしらずに。
20: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:15:55.91 ID:ni629J1N.net
「目つぶったけど、なんなん?」

改めて希の顔を見る。うーん、にこには劣るけど、やっぱり可愛い。

唇もぽってりしていて、実にエロい。さすがμ’sが誇るお色気番長。

でも、そんな希に今からキスしちゃうって考えたら、なんだかドキドキしてきた。

本当にやっちゃうの、私……?いやいや、怖気づいてどうするの、にこ!

あのグループだってやってるっていってたし!

「まだなんー?」

いけない、痺れを切らした希が目を開けてしまいそう。

四の五の言ってる場合じゃない!ええーい、ままよ!
22: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:17:48.10 ID:ni629J1N.net
「んもー、もう目開けるよ、にこっ―――んむっ!」

希が目を見開いて、びっくりしている。私を見て、すっごい動揺している。

私はその様子を見て、ざまあないわねー、なんて思いながら少しだけゾクゾクしていた。

「んぅ―――!んぅ―――!」

やっと何をされているのか気がついたのか、振り払われそうになった。

がっちりと抑えこんで、希の唇を味わう。念の為に言っとくと、触れ合わせてるだけよ?

ディープなのは流石にないってことくらい、私でもわかってる。
23: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:19:38.64 ID:ni629J1N.net
「んむむ……んぅ……」

だから軽いキスだったんだけど、希にはダメージが大きかったみたいで涙目になっている。

私は、結構気持ちよかったけどね。希の唇、柔らかかったし、なんかピリピリしたし。

あれ、なんだか希がとろ〜んとしてきている。もしかしたら酸欠かもしれない。

倒れられても困るので、いい加減唇を離すことにした。

「ぷはぁ。……ごちそうさま」

途端に希はこてん、と崩れ落ちた。

しかし、ギリギリで体を支えることが出来た。危ない危ない。
24: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:21:12.45 ID:ni629J1N.net
「どうしたのよ、危ないでしょ?しっかりしなさいよ」

「あ、うん……ありがとう、にこっち……」

どうしたのだろう。

真っ赤な顔で、何だかぼんやりとしていて、私をじっと見つめている。

なんなの、これがキスの効果ってやつ?成功っていっていいのかしら。

(うーん、これじゃあ、まだわからない……)

とりあえず、距離の近いスキンシップをとって確認してみましょう。
25: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:22:49.42 ID:ni629J1N.net
「のぞみ〜」

「うひゃあっ」

ほっぺた同士をスリスリさせてみる。ううむ、柔らかい。希のほっぺ侮りがたし。

なんか悲鳴あげてたけど、逃げようとはしない。なら、成功かも。

(ん?待てよ……?)

よく考えてたら、私と希って結構ボディタッチとか、触れ合うこと多くない?

わしわしを含めなくても、希って結構触ってくるし。

私も希には体ごともたれかかったりして、じゃれつくことがある。

要するに、いつもと大して変わらない。
26: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:24:20.12 ID:ni629J1N.net
(これじゃあ、効果があったか確認出来ないじゃないの!)

希ではわからない。かといって、いきなり真姫ちゃんのところに行くわけにはいかない。

となると、他のメンバーに試しに行くしかないわよねえ。

面倒だけど、仕方ない。

「ねえ、絵里って今どこにいるの?」

「えりち……?えっと、生徒会室で穂乃果ちゃん達、手伝ってると思うけど……」
29: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:25:25.34 ID:ni629J1N.net
なすがままにスリスリされている希が答える。

なるほど、生徒会室……。穂乃果たちもいるなら好都合。

せっかくだし、一人ずつに試してみるのもいいわよね。

あ、でも海未はまずいかも……?ビンタされそうよね。

まあ、行ってから考えることにしましょう。

「そうなの。じゃ、私、ちょっと生徒会室行ってくるから」

「えっ」
30: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:27:56.19 ID:ni629J1N.net
そんじゃねー、と軽くいいながら、希から離れて、すたこらさっさと部室から立ち去る。

希が何か言いたげにしてたけど、後でいいわよね。重要なことなら追いかけてくるでしょ。

それに、早く行かなきゃ生徒会の仕事が終わって帰っちゃうかもしれないし――――。

すたすたすた……。

「……うち、放置なん?」





『え?挨拶のキスはどこにするのか、ですか?

 あはは、頬にする欧米式ですよ。頬同士をあわせて、「ちゅっ」って

 音を鳴らすだけの、あれです。ご期待に添えなくて、すみません(笑)

 でも、効果は本当にあるんですよ?』
31: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:29:36.58 ID:ni629J1N.net
1人目、終わり。
47: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:03:59.50 ID:YNyyOboT.net
「たのもー!」

がららっ!一息で扉を開ききる。こういうのは勢いが大事なのだ。

生徒会室にいた絵里、そして二年生ズが目を丸くして私を見ている。

「あれ、にこちゃん!どうしたのー?」

何が嬉しいのか満面の笑みで私を迎える穂乃果。まったく、ワンコみたいで可愛いやつめ。

でも、今は絵里のことで私の頭はいっぱいだから、相手をしてあげるのは後よ。
48: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:05:12.01 ID:YNyyOboT.net
「絵里に、たいせ〜っつな用事があってきたの」

「絵里ちゃんに?」

まさか自分に用があるとは思わなかったのか、絵里はびくっとしている。

なんなの?私が絵里に用事あったらおかしい?

「え、私?」

「そう、あんたよ!」

びしぃ!全身を使って指を突き付ける。

私が求めてるのはあんたなのよ。よくわからない情熱をこめながらポーズを決める。
49: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:06:20.82 ID:YNyyOboT.net
「それって、今じゃないと駄目な用事なのかしら……?」

「にこ的には、今すぐがいいんだけど」

そうだった。絵里は手伝いしにきてるんだった。

急に呼び出したところで、渋られるのは予想できたはずよね。勢いだけで突撃するのも考えものね。

それに絵里の性格上、最後まで手伝うだろうし。終わるまで待たなきゃいけないかも。
50: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:08:49.92 ID:YNyyOboT.net
「絵里。こちらも終わりが見えてきましたし、にこの用事をすませてあげてください」

「あら、いいの?」

「ええ。今日はありがとうございました」

実質的な生徒会の支配者・園田大明神の鶴の一声。

ナイスアシストよ海未。あとであんたにちゅーする時にはサービスしてあげる。

二人は、とても助かりましただの、海未はしっかりものよね、だのお互いを褒めあっている。

それを眺めながら待っていたら、穂乃果がにっしっしと笑いだした。
51: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:11:12.84 ID:YNyyOboT.net
「ところで、にこちゃんっ。大切な用事って、も・し・か・し・て〜……」

「もしかして、なによ?」

「絵里ちゃんに、愛の告白とか!」

いきなり何言ってるんだか……。

ちゃちゃいれるにしたって、もう少し笑えるやつにしなさいよ。

こういうことに弱い海未ですら、あんたに冷たい視線を浴びせてるわよ?

ほら、絵里だって、ないない、ありえないって感じで苦笑して―――

「えっ、えっ、えっ……にこが私に……?」

ってえ、なんで真っ赤になってるのよ!動揺しすぎでしょ!

言いだした当人の穂乃果だって、真に受けるとは思ってなかったみたいでびっくりしてる。

絵里が変な勘違いする前に、違う!って断言しておかないと。
52: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:13:13.10 ID:YNyyOboT.net
「……でも、わたし……ううん、だけど……」

「真面目に考えなくていいわよっ違うからっ!穂乃果、適当なこというんじゃないわよっ」

ぼそぼそと何かをつぶやいていた絵里をさえぎって、断言する。

……ったく、穂乃果のせいで告白をしなければならなくなるところだった。

「ええっ、にこ、違うの……?」

これで誤解はとけたと思ったら、なぜか絵里は納得いってないらしい。

ぬぁんでよっ。ていうか、うるんだ瞳で見つめるな。

ただでさえ、白い肌が赤く染まっていて色っぽくて、少しドキドキしちゃってるのに。
53: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:14:54.46 ID:YNyyOboT.net
「あーもう、めんどくさい。絵里、連れて行くわよ」

あれやこれや言うのが面倒くさくなって、無理やり連れ出すことにした。

海未に宣言して、答えは聞かずに絵里のところにずんずん歩いていって手を引く。

なんかウジウジとしていたけれど、大人しく外にまでついてきた。

ちなみに、余計なことをしてくれた穂乃果には、すれ違いざまにデコピンの刑に処してやった。
54: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:16:09.28 ID:YNyyOboT.net
「あーん、おでこが痛いよぉ、ことりちゃーん」

「おー、ほのかちゃん、よしよし。痛いの痛いの、とんでいけー!あいたっ、私のほうに飛んできちゃったぁ」

「何いってるんですか、ことり……」

生徒会室から聞こえる馬鹿っぽいやりとりを背に、私は歩きだす。

絵里は私の後ろ三歩くらいを、そわそわといった様子でついてくる。
55: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:17:49.22 ID:YNyyOboT.net
「ねえ、にこ、どこにいくの?」

「もう少しでつくわ」

さて、どこに連れて行こう。ノープランなので、もちろん何にも考えていない。

行き当たりばったりが、にこにー流よ。

(どこか、人気のない場所ないかしらね〜)

放課後とはいえ、生徒はまだまだ残っている。

キスする現場を誰かにみられるのは、流石にごめんだから、考えないとね。

悩みながら適当に歩く。そして、階段を降りている時に、階段の裏にある空間が目についた。

奥のほうは周囲から影になってるみたいだし、いい感じじゃない?うん、ここにしよう。
56: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:20:28.95 ID:YNyyOboT.net
「そこよ」

「……ここ?」

私が指さした階段の裏側は、薄暗くてジメジメしている感じのところだ。

どうやら絵里持ち前の、暗いところ苦手設定が疼きだしたようで、実に嫌そうな顔をしている。

でもそんなの知ったこっちゃないと、困り顔の絵里を引っ張って、周りから見えない位置につれていく。

そして、どうやって話を切り出したものかなって迷っていたら、絵里のほうからたずねてきた。
57: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:22:12.13 ID:YNyyOboT.net
「それで、にこ。……その、告白、でないのなら、一体私に何の用?」

わざわざ連れだしてまでする用事だもんね。気になるわよね〜。

にやけそうになるのを我慢して、たった今思いついたキスをするための作戦を実行する。

「手、出して。手のひらが私に見える感じで。あ、指先は上向けてね?」

「えっ……こう?」

絵里ってば、予想外のことに弱すぎじゃない?

まったく関係ない私の言葉にたいして、素直に手を差し出してくれるなんて。

都合がいいんだけど、ちょっと心配になるわ。
58: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:23:48.56 ID:YNyyOboT.net
「―――ていっ!」

とはいえ、その隙を逃す私じゃない。絵里が広げた手に、自分の手を重ねあわせてやった。

しかも、指と指の間に指を滑り込ませる、いわゆる恋人繋ぎ。

ガッチリと繋いだ手と手は離れることはないし、なんていったって二人の距離が近くなる。

ふふ、これで、キスをしようとする私から逃げるのに、手を使うことができないってわけよ。

私ってば頭いいわね。恐ろしくなるわ。

「ちょ、ちょっとにこ!?」

手繋いだだけで騒ぎ過ぎじゃない?絵里の顔は赤くなっちゃってるし。

さっきの告白がうんぬんで意識しちゃってるのかしら。

とにかく、準備は整ったんだし。いつでもいける。さあ、どうしてくれよう。
59: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:25:09.55 ID:YNyyOboT.net
「にこ……?」

絵里の瞳をじーっと見つめながら、考える。

希の時みたいに、ただ長時間ちゅーするってのもねえ。

「にこ、何か言ってよ」

せっかくだし、色々試すのもありだけど。

奇をてらいすぎたら、キスの効果を確認できなかったりするかもだし。

普通が一番?なかなか考えがまとまらない。
60: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:26:16.20 ID:YNyyOboT.net
「にこってばっ―――」

「ああもう、うるさい!」

「―――んむっ」

……あ。考え事をしているところにうるさくするから、思わずやってしまった。

唇を塞いで黙らせるって、どんなプレイボーイよ、私。

でもせっかくなので、そのまま続けようとしたら、頭を動かした絵里に唇を離されてしまった。

恋人繋ぎのせいで私の両手も使えなくなるから、抑えこむことも出来なかった。

……この方法、全然使えないじゃない。誰よ、考えたやつは!
62: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:28:19.74 ID:YNyyOboT.net
「なにするのよ、にこ!」

涙目になって怒る絵里。でも、残念ながら迫力はまったくない。

本気で怒った絵里だったら、私はひえ〜って感じで尻尾を巻いて逃げちゃうくらいなのに。

今の絵里なんて、虚勢をはってる子狐みたいで、可愛いって思っちゃう。

だからそんな絵里に、いじわるしたい気持ちが湧いてくるのも、当然よね。
64: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:30:33.50 ID:YNyyOboT.net
「なにか言ったらどうな―――んっ」

「ぷぁっ―――またキスしたぁ!もうやめ……んむー!」

「……まだ、喋ってる……途中なの、にっ……」

だから、絵里が口を開く度にキスをしてみたんだけど、これがなかなか楽しい。

キスの度に顔が赤くなって、抵抗する気力が減っていくのが、ありありとわかるんだもん。

でも、ちょっとやりすぎちゃったかな?絵里の目から、涙があふれそう。
66: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:33:32.39 ID:YNyyOboT.net
「絵里、すっごく可愛いんだもの。こんなの、抑えきれないわ」

「はぁ……、はぁ……」

汗だくで、息を荒くしている絵里。答える余裕はないみたい。

うーん、いきなりだったし、びっくりさせちゃったかな。

一応、謝っておいたほうがいいわよね?
67: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:37:37.69 ID:YNyyOboT.net
「いきなり、ごめんね」

言いながら、握っていた手を離して、絵里を抱きしめる。

そして、潤んだ瞳からこぼれ落ちようとしていた涙を、キスですくいとる。

よし、これでオッケー。絵里だって許してくれるはず……。

「ぁ―――」

……と思ったら、全身の力を使い果たしてしまったかのように、座り込んでしまった。

なんだか、眼の奥から光が消えてる気がする。私のキスで、そんなに疲れたのかしらね?

「絵里ー?……絵里ちゃーん?」
68: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:39:56.75 ID:YNyyOboT.net
意識はあるみたいだけど、反応がない……。オッケーじゃないわね、これは。

あーあ、こんなにグッタリしてたら、キスの効果の確認なんて出来ないじゃない!

今の絵里に、これ以上何かするわけにもいかないし……はぁ。

絵里には、後で回復した時に感想を聞くことにでもして、次にいくべきね、うん。
70: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:43:40.03 ID:YNyyOboT.net
「絵里。私、生徒会室に戻っとくわ。……立てるようになったら、来てよね」

時間は有限なんだから、有効に使わないと。ただでさえ私は三年生なんだし。

さて、次は誰にしようかな。居場所がわかってる二年生ズなのは決めてるけど。

やっぱり順番は、まずは海未を無力化、そして、穂乃果かことりって感じかな。

でも、ここで問題なのは、三人バラバラに各個撃破出来るかってことよ。

一対一になろうとしたら、絶対怪しまれるし。そこはどうやって解決しようかしら―――。

すたすたすた……。



「……あれ?にこ、どこいったの……?ねえ、にこ……」
71: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 23:44:27.64 ID:YNyyOboT.net
2人目、終わり。
87: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:46:06.21 ID:B2eEye5w.net
そろそろ〜っ。抜き足、差し足、忍び足。

別に普通に歩いていいんだけど、なんとなく静かに歩かなくちゃいけないような気がしてる。

これって何なんでしょうね?絵里に嘘ついて呼び出した手前、生徒会室に戻ってくることに引け目を感じてるのかも。

「……ついちゃった」

なんて考えているうちに、生徒会室にたどりついてしまった。

中から穂乃果たちの声が聞こえる。まだ仕事は終わっていないみたいね。

ええい、悩んでいても意味がない。賽は投げられたのよっ。

海未だけを呼び出すため、生徒会室のドアを少しだけ開ける。
88: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:46:52.14 ID:B2eEye5w.net
「っ!」

中を覗いてみると、こちらを向いていた海未と目が逢った。

ひぇ……音が出ないように動かしたのに、どうして……?

まさか、ドアが動く気配でも感じたなんて、いわないわよね。うーん、恐ろしい子だわ。
89: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:48:12.40 ID:B2eEye5w.net
「……?」

部屋内に入ってこない私を不思議そうにみている。

おっと、いけないいけない。海未が言葉を発する前に、外に呼びださないとね。

いかにも事情がありますという顔で、しーっと指を立てる。そのあとに、ちょいちょいと手招きをする。

「すみません、穂乃果、ことり。少し、お手洗いに……」

「あいあい〜」

「いってらっしゃぁい」

ちゃんと意図が伝わったみたいで、二人にバレないように外に来てくれるみたい。

部屋から少し離れた場所で、海未がやってくるのを静かに待つ。
90: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:48:42.22 ID:B2eEye5w.net
―――かちゃ。

開いたドアから出てきた海未を、こっちこっちと軽く手を振って誘導する。

綺麗な姿勢でまっすぐに歩いてくる海未をみて思う。

この子、どんな所作でもいちいち綺麗よねえ。日本舞踊の賜物かしらね?
91: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:49:39.81 ID:B2eEye5w.net
「にこ、どうかしましたか?……それに、絵里は?」

いやいや、そんな考え事してる場合じゃない。今は海未の唇を奪うことに集中しないとね。

海未って気配に敏感だし、私の奇襲にも平気で対応してきそうだもの。

「絵里が力尽きてへたりこんじゃって……。海未に運ぶの手伝ってほしいのよ」

嘘はついてない。絵里、実際力尽きてへたりこんでたし。

あとは絵里の時のように、どこかの物陰につれていって―――。
92: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:50:31.59 ID:B2eEye5w.net
「力尽きる……?一体、にこは絵里と何をしていたのですか?」

「へぁっ!?……え、えっとぉ、三年生には色々あるのよ、色々……」

変な声が出た上に、あからさまに話を誤魔化しちゃったせいで、海未は不審そうにしている。

うっ、下手うっちゃった。まさか、この場でそんなことを聞かれるなんて思ってなかったし。
93: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:51:23.56 ID:B2eEye5w.net
「あの。力尽きた絵里を運ぶというお話でしたら、穂乃果とことりも呼んだほうがいいのでは?」

「ううん、私達二人で大丈夫よ。だからほら行きましょっ」

「いえ、やはり二人を呼んでおきましょう。人体というのは意外と重いものですし」

まずい、止めなくちゃ!体をひるがえして、生徒会室に戻ろうとした海未の腕をがっしりと掴む。

そして、あ、と気がつく。ここで無理やり止めるのって、どう考えてもおかしいでしょ。

……私が二人きりになりたがってること、バレたかも。
94: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:52:06.92 ID:B2eEye5w.net
「―――にこ。あなた、何かたくらんでいますね?」

うぐっ、やっぱりバレた。ぎろっと睨みつけられて、ダラダラと汗が流れる。

海未の顔が、悪戯をした穂乃果や凛を叱る時の般若の顔になってる。

もちろん、私だって何度も見た表情だ。いつみても怖い!
95: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:53:34.66 ID:B2eEye5w.net
「やだぁ〜、海未ちゃんったら顔こわ〜いっ」

「ほぉ、誤魔化すんですか……。まあいいです。続きは生徒会室で聞くことにしましょう」

にこにーモードでしのごうと頑張ってみるもの、当然のごとく通じない。

(ことりのおねがぁい♪は効くくせに、愛らしいにこにーモードは効かないなんておかしくない?)
96: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:54:30.83 ID:B2eEye5w.net
不満に思いながら、これからどうするかを思案する。このままだと尋問が待っている。

うん。三十六計逃げるに如かず、よ!

「わたしぃ、用事思い出しちゃった!それじゃ―――」

「―――逃しません!」

一瞬で逃亡失敗。

私がさっき掴んだ腕を、逃げるために離した途端、逆に掴み返された。

これまでに散々悪戯をしてきたせいで、すっかり行動パターンを読まれているみたいね。
97: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:55:12.60 ID:B2eEye5w.net
「絵里に何をしたのか、今どうしているのか、私に何をしようとしたのか。……ちゃんと話してくださいね?」

「ひぇっ」

ずるずると、引きずられるようにして生徒会室へと連行されてゆく。

このままでは、三対一になってしまう。そうなればキスの実行は不可能となってしまう可能性が高い。
98: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:56:19.94 ID:B2eEye5w.net
(もう、人目を気にしている場合じゃないわ!)

この場でやっちゃうしかない。

無理やり引き止めた海未が悪いのよ、と責任転嫁。

(よし、それじゃあ……)

あえて自分から突っ込んでいって、海未がバランスを崩したところを狙いましょう。

私を引きずるのに気がいっていて、隙だらけだし。海未といえども、そこまでやればガードできないでしょう。
99: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:57:36.71 ID:B2eEye5w.net
(―――ていっ!)

たたたっ。引きずる力に抵抗せず、海未のほうへと自分から体を飛び込ませる。

一瞬、驚いたような表情をした海未。さあ、体をふらつかせなさい!

……しかし海未は、バランスを崩さずに平然としている。

(嘘でしょ!?どんな体幹してんのよっ!)

あてが外れたからといって、飛び込ませた勢いは止めることは出来ない。

そのまま、ぽすん、と海未の胸に収まる。これじゃあ、単に抱きついただけじゃない。
101: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 12:59:39.09 ID:B2eEye5w.net
「……にこ?」

あわわ、海未が少し怒った顔になっている。悪あがきをしたってことで、雷を落とされちゃう!

何度も味わったことのある雷神園田の恐怖に、むぎゅーっと抱きつく力が強くなる。

私だって怖いものは怖いのだ。

「に、にこっ……?」

あれ……海未の様子がおかしい。抱きついたまま、ちらりと顔をあげて様子をうかがう。

そこには、頬を染めている海未がいる。照れてるみたいだけど……急にどうして?
102: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:00:41.03 ID:B2eEye5w.net
「そ……そんなに強く、抱きしめないでくださぃ……」

この子、もしかして熱烈な抱擁に弱い……?

思い返してみれば、穂乃果や凛に全力で抱きつかれてる時、ふにゃふにゃになってるような。

(ふふっ可愛いところあるじゃない)

チャンスタイムの鐘がなる。窮地が一転、絶好の機会!

ふふん。これが私。転んでもただでは起きない、スーパーアイドル矢澤にこの力よ。

自分で自分が恐ろしいわあ。でも、手はゆるめはしない。

持てる力の限り、情熱的に海未を抱きしめる。むぎゅぎゅ。
103: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:02:46.23 ID:B2eEye5w.net
「やぁ……だめれすぅ……」

あ、そうそう。

絵里の時のアシストのお礼もしないとね。耳元で名前を、艶めかしく囁く。

「うーみ♡」

「ひぁっ」

面白いくらいに体がガクガクのぷるぷるだ。ちょっと楽しくなってきた。

しっかし、恥じらってる海未が可愛く可愛くてたまらない。

普段の力強さはどこにいったのかっていうくらい、か弱い力で抵抗するのも可愛い。
104: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:05:05.93 ID:B2eEye5w.net
「海未ってば、可愛いすぎるわ……」

「なにいってるんでしゅかっ」

可愛い。舌が回っていない。でも、耐性なさすぎるのが、ちょっと心配。

ここは、もっーとからかってあげて、慣れさせてあげるのが先輩としての役割よね?

海未の瞳をじ〜っと見つめて、撃ち落とす準備をする。

私の姿しか映らなくなったころを見計らって、愛のささやきを発射する。
105: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:06:12.38 ID:B2eEye5w.net
「愛してるわ、海未」

「あいっ―――!?」

ぴしっ!だか、ぼんっ!だかの音が鳴ったような気がしたあとに、海未は完全に停止した。

撃墜成功ね。瞳を覗き込んで見ると、ぐるぐるとまわっている。

ていうか、撃墜しちゃったら、もうからかえないじゃない。迂闊。気が付かなかったわ。

(残念ね……。もっと海未で遊びたかったのに)
106: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:07:52.84 ID:B2eEye5w.net
まあいいわ。とりあえず、目的を達成しておこうと思考を切り替える。

今なら何しても反撃はなさそうだし、何より艶々とした唇がとっても柔らかそうで。

大和撫子な海未だけに、花の蜜のように甘さを感じたりして。ふふっ。

くだらない冗談に一人で笑いながら、手を合わせ、つぶやく。

「いただきます」
107: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:11:45.67 ID:B2eEye5w.net
ちゅぅ。静かに唇を落とす。予想通り、抵抗はない。

柔らかそうだと思っていた唇だったけど、それよりも先に海未の匂いに意識が向いた。

すごくいい匂いがする。一秒でも長く続けていたい、と思わせるような甘い香り。

「……ぷぁっ。もっかい、するわよ―――」

柔らかい唇と甘い匂いに釣られて、何度も何度もキスを繰り返す。

回数を増すごとに、ぴりぴりと、ひりつきが大きくなっていくのがわかる。

その感覚が、更に私をキスへと駆り立てる。
108: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:13:46.64 ID:B2eEye5w.net
「に、こぉ……」

(ごめんね、海未。止まりそうにないの)

いつの間にか動き出していた海未。でも、自分たちがしている行為に頭がパンクしちゃったみたい。

熱っぽい吐息を弾ませながら、倒れないように私にしがみついている。

(私、海未を支配してるんだ……)

私の唇の都合に、海未が振り回されていることに、ぞくりとした快感が駆け巡る。
109: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:15:49.70 ID:B2eEye5w.net
「だめっ、だめですっ……にこっ……」

当初の目的は、頭の端っこの方で膝を抱えて座り込んでいる。

今はただ、思うままに海未を貪り続けるのが、私の全て。

「やぁ……!」

そんな声を上げる割に、嫌がってる様子じゃない。

さっきなんて、海未から吸い付いてきてたし。

……いじわるしてみようかしら。
110: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:17:14.23 ID:B2eEye5w.net
「そうよね……。うん。次、嫌っていったら、やめるわ」

なんて答えるのでしょうね、海未は。

ま、嫌っていっても、やめる気なんてさらさらないけど……と思いながら、唇を近づける。

「……」

答えは、沈黙だった。

嫌じゃないなんて、はしたないことは言えない。でも、嫌だと言ってこの時間を終わらせたくもない。

その妥協点が、何も言わないってことなわけね。……ふふっ、もっと素直になればいいのに。

目を閉じて、ふるふるとキスを待つ海未を見て、笑う。
111: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:20:33.47 ID:B2eEye5w.net
(そんなところも可愛いけど、ずるいことは許せないわ)

唇から、頬に変更。ふにゅう、と唇とは別種の柔らかさ。これはこれで、いい感じ。

「え……?」

だというのに海未は、ショックを受けたような表情で、物足らなさそうにしている。

気にせず、何度も頬の感触を楽しむ。そうしていると、どんどん海未は悲しげになってきた。

はぁ、仕方ないわね〜。チャンスをあげましょう。自分の唇を指さしながら、言う。
113: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:21:22.47 ID:B2eEye5w.net
「ん」

不思議そうにしていた海未だったけど、私が顎を上向けて待ちの体勢でいることに、気がついたみたい。

唇にしたいのなら自分から、ということを理解したわね。

「そんなの、むりですぅ……」

あたふたと取り乱しているけれど、私から行く気はない。

それが伝わったのか、意外と早くに覚悟を決めたみたい。

もっと時間かかるかと思ってたけど。

「う、うごかないでくださいね……」
114: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:22:29.12 ID:B2eEye5w.net
ふらふらと、海未が近づいてくる。手が震えていて、可愛いなって思う。

羞恥で涙目になっているのが、なんだか扇情的だし、ドキドキしてきた。

(……そういえば、相手からされるの、海未が初めてね)

視界いっぱいに海未が映り込む。目を閉じて、未知のものへと期待をふくらませる。

そして、数秒後……唇が、唇に触れた。
115: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:23:49.74 ID:B2eEye5w.net
(っ―――!?)

脳内が痺れるような衝撃。ぐわんぐわんと世界が揺れる。

するのとされるのじゃあ、こんなに違うものなの?それとも、目を閉じて唇に集中していたから?

何故なの?……わからない。
116: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:24:48.29 ID:B2eEye5w.net
「あの……どう、でしたか……?良かった、ですか……?」

でも、そんな疑問は、すぐにどうでもよくなった。

心配そうに私を気遣う海未を見て、愛おしい気持ちが抑えきれなくなったから。

返事なんてまどろっこしい。かわりに、唇を奪う。
117: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:25:54.36 ID:B2eEye5w.net
「んっ―――はぁ、はぁ」

「にこっ―――んむっ」

自分からキスをしたことで、タガが外れたみたいで、海未から積極的に私の唇を求めてくる。

夢中で、お互いを貪り合う。海未も、私も、相手のことしか見えていなかった。

時間の感覚すら消えて、どれだけの時間がたったのかすら、わからない。
118: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:26:38.05 ID:B2eEye5w.net
―――だから、気づけなかった。

いつの間にか、自分たちが生徒会室の目の前にまで、やってきていたこと。

そして……部屋の中から、誰かが出てこようとしていることに。

『海未ちゃん遅いねぇ。私、ちょっとみてくるよっ』

気がついていたとしても、既に、止まることは出来なくなっていたけれど。
120: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:28:39.78 ID:B2eEye5w.net
『それじゃ、行ってくるね!』

がちゃり、とドアが開かれる。音に気がついて、横目でそちらを見れば、穂乃果がいた。

すぐに、こちらに気がついた穂乃果と視線が交差する。海未は、未だに気がついていない。

「あれ?にこちゃん?……え……海未ちゃんと、なにして……るの……?」

海未とキスしたまま、穂乃果を見つめる。

私が思ったことは、一つだけだった。

―――穂乃果の唇も、美味しそう。
121: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 13:30:43.52 ID:B2eEye5w.net
3人目、終わり。
150: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:01:09.62 ID:ZiTs0L7u.net
「わわっ、わぁー!なんで!?ええーっ!?」

呆然としていた穂乃果が、急に叫びだした。すごくうるさい。

場を支配していた甘い雰囲気は、どこかへ消えようとしている。

盛り上がっていた気分も、穂乃果のアホ面を見ていたら萎えてきてしまった。

(あーあ、海未との時間も終わりか)

わあわあ言いながら、いけないものを見てしまったかのように、自分の顔を手で覆い隠してる。

……指の隙間から、私達のキスをバッチリ見ているのがバレバレだけど。ベタなことするわね〜。
151: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:03:48.78 ID:ZiTs0L7u.net
「えっ……穂乃果……?……私、いったい……」

穂乃果に気がついて、海未は唇を離した。どうやら、正常な思考に戻ろうとしているみたい。

蕩けていた瞳に、いつもの理知的な光がやどり始めている。

でも、大丈夫かしら?今、いつもの海未に戻っちゃって……あ、正気に戻ったのか、ぷるぷるし始めた。

「あ、あ、あ……わ、わたしはなんてことを―――きゅう」

うっ、重っ……。恥ずかしさの余りに気を失って、こっちにもたれかかってきた。

さっきまでは、雰囲気に流されていたから大丈夫だったけど、穂乃果に現場を見られて一気にきちゃったのね。

……にしても海未、重い。私一人じゃ無理だ。助けを求める。
152: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:04:27.02 ID:ZiTs0L7u.net
「穂乃果、海未運ぶの手伝って」

「え、あ、うん……」

展開についてこれてない穂乃果だけど、手を貸してくれた。

どこに連れて行こうかしらね……。保健室は遠いし、生徒会室でいいわよね?

イスにでも座らせておけば、そのうち気がつくでしょ。

部屋の中に海未を連れて入ると、ことりが目を丸くして驚いた。
153: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:05:11.32 ID:ZiTs0L7u.net
「あれぇ?海未ちゃん、どうかしちゃったの?」

「まあ、ちょっとね。気を失っちゃって。……穂乃果、そこのイスに座らせるわよ」

「うん、わかった。……せーのっ」

よっせ、よっせ、と苦労して座らせる。海未の言ってたとおり、人体って重いのね〜。

くふふっ。まさか、海未自身で証明することになるとは思わなかったでしょうけど。

……さて、それよりも問題はここから。穂乃果をどうするかってことよ。
154: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:05:51.70 ID:ZiTs0L7u.net
「それで……にこちゃん?さっき、海未ちゃんと、その……」

穂乃果は、ちらちらとことりのほうを気にしながら、囁き声で切り出した。

ことりに聞こえないように気を遣ってくれてるのかしら?

「……お付き合いしてるの?」

「はぁ!?」

キスしてるから付き合っているんじゃ?という発想に驚く。

穂乃果は逆に、私が驚いたことに驚いている。
155: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:07:32.56 ID:ZiTs0L7u.net
「ほえ?違うの?」

「違うわよっ」

「それじゃあ、なんで……してたの?」

キスという単語を言おうとして照れてるんじゃないわよ。小声すぎて聞こえないっての。

ていうか、アイドルは恋愛禁止!そんでもって、女の子同士なんですけど?

いろいろ言いたいことはあったけど、キスの理由は正直に答えらんないし、言葉に詰まっちゃう。

言い訳を考えるために、意味ありげに話を引き延ばす。
156: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:08:14.85 ID:ZiTs0L7u.net
「うーん、これ、話しても大丈夫かしらねぇ」

「なになに?なにかあるのっ?教えてよっ」

「えー、でもねぇ。一応、内緒だし……」

「お願いにこちゃんっ」

そしたらなんか、えらく食いつかれた。内緒話に飢えてるのかしら?

この感じだと、突拍子のないデタラメでも信じそう。
157: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:09:09.27 ID:ZiTs0L7u.net
「……そんなに聞きたい?」

「聞きたい聞きたいっ」

「しっかたないわね〜。あのね―――」

……ふふ、ちょっと面白いことを思いついた。

にやにやと、もったいぶって海未と私がキスに至った経緯を語り始める。

語るも涙、聞くも涙の物語。まあ、捏造だけど。
158: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:10:58.78 ID:ZiTs0L7u.net
「海未ってね」

「うんうんっ」

「お姫様に憧れてるらしいのよ。ほら、海未って王子様みたいなキャラしてるじゃない?周囲もそれを求めるっていうかさ。

 それで色々悩んでたらしいのよね〜。恋愛がテーマの歌詞を書くときにも、気を抜くと王子様視点になって、なかなか書けなかったみたいだし。

 そんなこんなで、部長である私に相談したきたってわけ。やっぱり、可哀想じゃない?

 あんなに可愛い海未は本当はお姫様になりたいのに、周囲の期待がそれを許さないなんて。だから、私が海未をお姫様扱いしてあげることにしたのよ」

べらべらと、ないことないこと話しだす。実際に海未がどう思ってるのか知らないけど、私と恋人扱いされるよりマシよね。

穂乃果は思ったより真剣な表情で聴いている。さっきの興味津々な感じはどこへいったのやら。
159: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:11:45.08 ID:ZiTs0L7u.net
「で、お姫様扱いしてるちに気分が盛り上がっちゃって、しちゃったってわけよ」

「へ〜……そっかぁ……。海未ちゃん、お姫様になりたかったんだ。ふぅーん……」

思うところがあったのか、なにやら考え込んでいる。

「穂乃果がしっかりしなかったせいかなぁ……」

ごめんね穂乃果。しんみりしているところに悪いけど、これ作り話なの。
160: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:12:43.16 ID:ZiTs0L7u.net
「ねえ、穂乃果ちゃん、にこちゃん。海未ちゃん、大丈夫なの?」

そんな時、背後からことりの不安そうな声がかかった。完全に存在を忘れてた。

大事になったら困るし、すみやかに海未の状態を伝えて落ち着かせる。

「ちょっと気を失ってるだけよ。そのうち気がつくわ」

「保健室に連れて行かなくて大丈夫かなぁ……?」

「別に頭をうったわけじゃないから、大丈夫でしょ」
161: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:13:35.17 ID:ZiTs0L7u.net
ほら、穂乃果も何かいいなさいよ……とヒジでつつく。

反応がないので、どうしたのだろうと顔を覗き込む。爛々と輝く瞳が飛び込んできた。

……これ、無茶なことを言う前の表情だ。

「―――にこちゃんっ!穂乃果もお姫様扱いしてっ!!」

「……は?」

私としては、突然の要求にぽかーんとするほかない。

海未にしていたってところから、どうなったら自分にもしろ、に変わるのよ。

事情を何も知らないことりがびっくりしてるじゃない。
162: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:15:33.00 ID:ZiTs0L7u.net
何が「だから」なのか、わからないんだけど?

王子様キャラで悩んでたって話しなんだから、穂乃果がお姫様扱いされても悩みわかんないでしょ。

……ま、幼馴染の悩みを理解したいという気持ちは褒めてあげるべきよね。

「しょうがないわね〜。部長であるこの矢澤にこが、一肌脱いであげましょう!」

「わーい!にこちゃんありがとーっ」

「???」

ことりは、わけわかんなさそうに話をきいている。

だけど特に口を挟む気はないみたいで、私達を見守っている。
163: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:18:37.52 ID:ZiTs0L7u.net
「手の甲を出して」

「こうってなに?」

「……。手の平を下に向けて出して」

「これでいい?」

本当に海未をお姫様扱いしてたわけじゃないから、適当にそれっぽいことをやって乗り切ることにする。

でも、やるからには本気でだ。

「じゃ、穂乃果。手を借りるわね―――」
165: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:20:38.43 ID:ZiTs0L7u.net
ひざまずいて穂乃果の手を取る。

そして、恭しく、手の甲に軽く口付ける。

―――ちゅ。

ふふ、お姫様への挨拶といえばこれよね。

ちょっと気取り過ぎな気がしないでもないけど。
166: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:21:22.67 ID:ZiTs0L7u.net
「えへへ……、なんだか照れちゃうな〜」

「わわっ……」

上目遣いで穂乃果ををうかがえば、照れた顔で頭を掻いていた。ことりも頬を染めている。

ふふん。あふれでる可愛さのせいで、あんまり格好良くならないかなーって思ったけど、杞憂だったみたいね。

気分も盛り上がってきたところで次に行きましょう。
167: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:23:22.95 ID:ZiTs0L7u.net
「さぁ、穂乃果。なんでもいってごらんなさい。この私が叶えてあげる」

「え!なんでもいいのっ!?ほんとにっ?」

「お姫様に嘘はつかないわ」

「あははっ、なにそれー!……ん〜と、それじゃあね……頭なでてほしい!」

それって、お姫様関係ある?って言おうとしたけど、わくわく顔の穂乃果をみてやめた。

穂乃果がいいなら何でもいっか。可愛がってあげましょう。
168: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:25:09.48 ID:ZiTs0L7u.net
「ほら、おいで」

「うんっ」

手を広げ、微笑む。そうしたら、穂乃果はためらうこともなく胸に飛び込んできた。

ぽふっ、と柔らかく私に抱きついて、ぎゅーっとしてくる。本当に、犬みたい。それも、大型犬ね。

理由?私よりも大きいからよ。

「優しいのと乱暴なの、どっちがいい?」

「……優しいのがいい」

「ふふ、姫の仰せのままにーってね」
169: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:25:55.89 ID:ZiTs0L7u.net
注文通りに、優しく、ゆっくりと頭をなでる。

ふわぁ……と声を漏らして、わかりやすくリラックスしている。

こんなことで喜んでくれるなら、普段からしてあげるのに。

「寝ちゃわないでよ?」

「……うん」
170: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:27:46.79 ID:ZiTs0L7u.net
しっかし、リラックスしすぎでしょー。

うつらうつらと頭が揺れている。体も暖かくなってきてるし。あんたは赤ちゃんか。

眠らせないために話しかけることしよっと。何聞こうかしら……そうよ、なでてほしくなった理由でも聞いてみましょう。

「ねえ、どうしてなでてほしいって言ったの?」

「……んっとね……」

眠そうな声で、とろとろと話す穂乃果。というか半分寝てる感じがする。

……寝ちゃったら、その時はその時ね。海未の横にでも置いとけばいいわよね?
171: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:31:38.02 ID:ZiTs0L7u.net
「あのね……ほのかがね……」

語られようとする理由に、別にドキドキしたりはしないけど、実は気になる点が一つ。

スキンシップ大好きっ子な穂乃果が、あえて今なでてほしいなんていうの、変じゃない?っていうこと。

いつも周囲からしてもらってるでしょうに。特にことり辺りから。だから、疑問なのよね。
172: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:33:03.14 ID:ZiTs0L7u.net
「いつも、ぽこぽこたたかれるから……」

もしかしたら悩みを抱えている可能性だってあるし、部員のメンタルケアも部長の務めだから、仕方なく気にしてあげ―――

―――って何?今なんて言った?叩かれる?……ちょっと待って、イジメられてるとかって話じゃないわよね?

穂乃果に限ってありえないと思うけど……。

(あ、海未に叩かれて辛いってことじゃない?これならあり得そうよね)

謎は全て解けた。犯人は海未、あんたよ!

安心しなさい穂乃果。今度、私から海未に一言いってあげる。安らかに眠りなさい。
173: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:35:35.26 ID:ZiTs0L7u.net
「……ほのかのこと、いつも、あほのかっていうし……」

穂乃果に、「あほのか」なんていうやつを、私は一人知っている。

たしかにそいつは、いつも穂乃果の頭をことあるごとに、ぽこぽこ叩いている。

ねえ、そうよね―――矢澤にこ!真犯人は……あんたよ!
174: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:36:49.12 ID:ZiTs0L7u.net
(疑ってごめん海未。私が犯人だった)

確かに、私は穂乃果にあんまり優しくない。調子に乗らせるとやっかいだからだ。

だから厳し目に接していたんだけど……。まさか気にしてるなんて思ってなかった。

それで、なでて欲しいだなんていったのだと考えると……罪悪感で胃がずきずきとしてきた。
175: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:37:41.34 ID:ZiTs0L7u.net
(穂乃果、本当にごめんね。可愛いからこそ、ぽこぽこしてたのよ)

あんた良い反応するしね。たぶんこれからもする。でも、たまには優しくしてあげるわ。

そんなことを考えながらも、なでる手は止めない。よしよし。

「にこのこと、いやになっちゃった?」

「……ううん」

私達の様子を、後ろからガン見してることりの顔がちょっと怖い。
177: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:43:55.18 ID:ZiTs0L7u.net
「にこちゃんのこと、すきだよ……でも……」

「でも?」

「……やさしいにこちゃんは、もっとすき」

その言葉に、心がずきゅううんと撃ちぬかれる。穂乃果ってこんなに可愛かったっけ。

本当の意味で、何でもお願いごとを聞いてあげたい気分になっちゃった。
178: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:45:00.54 ID:ZiTs0L7u.net
「ねえ、穂乃果。他にお願いはないの?もーっと凄いことでもしてあげるわよ?」

「……ほか……ほか……えっと……」

ダメ、穂乃果が本格的に寝ちゃいそう。

ぐでーっと体重の大半を私にのせてきている。重い。

「眠いの?」

「……ねむい……」
179: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:51:09.81 ID:ZiTs0L7u.net
寝られちゃったら、穂乃果を可愛がることが出来なくっちゃう。

そうなったら、この爆発しそうになっている穂乃果愛はどこに向けたらいいのよ。

それだけは阻止しないといけない。かといって無理に眠気を覚まさせるのは、ちょっとねえ……。

(……そうよ、あるじゃない。お姫様を優しく起こす方法がっ!)

くっくっく。あまりに天才的な思いつきに、静かに高笑い。天が私に味方していると思えるほどの運命じゃない、これ。
180: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:52:32.44 ID:ZiTs0L7u.net
「目が覚めるおまじないしてあげましょうか?」

「……うん……おねがい……」

お願いされちゃった。穂乃果、もう後戻りは出来ないからね?

お姫様扱いして欲しいっていったの、あんただし。私をその気にさせたのもあんただもの。

「―――んっ」

妖しく笑いながら、穂乃果の唇をついばむ。

「……ふぇ……?」

寝起きのような状態なのか、何をされたのか認識できていないみたい。

ちょっとずつ目は醒めてきてるみたいだけど。
181: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:53:38.75 ID:ZiTs0L7u.net
「穂乃果の唇って、妙に甘いわね」

「……ぅ……?ぁぇ……?」

ぺろりと唇を舐めてみると、砂糖のような甘さ感じる。

流石に穂乃果がもともと持っていた甘さではないと思う。なんだろう、これ?
182: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:55:08.02 ID:ZiTs0L7u.net
「お菓子でも食べてたの?―――んっ」

「……にこちゃ……ん?……いま、なにを―――んむっ」

「ふぅ―――わかった。あんた、マカロン食べてたでしょ?あたってる?」

「……え?……ええ!?……うぇぇぇっ!?」

あ、完全に起きた。とろんと眠そうだった目が、一気に全開になっている。

驚きで飛び上がりそうになっていたけど、私が抱きついていたから腕の中でもがいただけだった。
183: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:55:56.71 ID:ZiTs0L7u.net
「わぁーっ!うわぁーっ!にこちゃん、何をしてるのさっ!」

「何ってキスだけど」

「キ、キス……って……あぅぅ……」

キスという単語が出た途端、カァーっと真っ赤になる穂乃果。

……μ’sってウブな子しかいないんじゃないでしょうね。
184: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 22:56:55.97 ID:ZiTs0L7u.net
「おまじないよ、おまじない。お姫様はキスで起こすものって決まってるし」

「うぅ……そんなの決まってないよっ」

「……一応、許可はとったけど。あんた覚えてないの?」

「……覚えてるよ?でも、いきなりキスはだめだよっ!」

「いきなりじゃなかったらいいの?」

「ひょええっ?」

言うなり、顔を近づけていく。いきなりはダメといわれたので、ゆっくりと。

穂乃果はテンパっているのか、固まっている。そうして唇が触れそうなほど近づいた時、穂乃果が大声を上げた。
186: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 23:01:28.77 ID:ZiTs0L7u.net
「ゆっくりでも駄目ーーー!」

同時に、体を振りほどかれた……と思った瞬間、ビンタが飛んできた。

バシンっと全力がこもっていたそれをまともに受けてしまった。衝撃で頭がくらくらと揺れる。

「にこちゃんのばか!えっち!すけべっ!ちび!ひんにゅう!」

まぬけ、ばか、あほ、へんたい……と延々と続けている。言い過ぎでしょ、と反論する暇もない。
187: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 23:04:55.04 ID:ZiTs0L7u.net
「どうせいじわるでキスしたんだもんね!ふんだっ!穂乃果もう怒ったからっ!」

どうやら、嫌がらせでキスをしたと思われているらしい。いやいや、嫌いな相手にするわけないでしょ。

そんなわけないじゃない……といおうとして、頭をぽこぽこ叩いて悲しませていた前科があるのを思い出した。

……すれ違いって怖い。

二度と起こらないように、ちゃんと伝えておかなくちゃいけないわよね。
189: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 23:14:11.63 ID:ZiTs0L7u.net
「バカね、穂乃果。あんたのこと好きだから、キスしたに決まってるでしょ」

「ふん!私の事好きだなんて言ったって、もう遅いもん!絶対に許さな―――え?」

「聞こえなかった?好きだから、よ!」

「……あわ、あわわ……」

穂乃果の体が震えている。顔が赤くなったり青くなったりしている。

えっえっ……何事よ……?
190: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 23:18:11.73 ID:ZiTs0L7u.net
「わぁーーーっ!穂乃果何もきいてないから!きいてないから!うわぁあー!」

がららっ、ぴしゃっ!穂乃果は足をもつれさせながら、走ってどこかへと行ってしまった。

……本当にどうしたのよ、穂乃果。もうお姫様扱いはいいの?私は満足してないんだけどなぁ。

今から追いかけても間に合わないわよね……。すこぶる残念よ。
192: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 23:23:28.83 ID:ZiTs0L7u.net
「はぁ……ほっぺた痛い……」

穂乃果作の綺麗なモミジが頬に咲いている。しかも、ヒリヒリとした痛みつき。

手でスリスリと痛みを和らげる。すると、私の手に、誰かの手が重なった。

後ろを振り返ると、ことりが微笑んでいた。

「ねえ、にこちゃん。穂乃果ちゃんのこと好きって、本当?」

何かを貼り付けたような表情で。

私の奥底を見つめるように、笑っていた。
194: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/09(水) 23:24:20.93 ID:ZiTs0L7u.net
4人目、終わり。
231: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:13:36.79 ID:SyoDYlds.net
「そりゃ、本当よ。聞いてなかったの?」

雰囲気がガラリと変わったことりに内心ビビりながら、正直に話す。

さっきまで頬を赤らめて私と穂乃果の様子を見ていたのに。今のことりからは、いつものほんわかさは感じられない。

「……遊び、じゃないよね?真剣な気持ちで、穂乃果ちゃんのことが好きなんだよね?」

話しながら私の隣へと並び立ち、細腕をぬるりと絡みつかせてくる。

半身が拘束されて、逃げ出すことはできなくなってしまった。
232: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:14:39.77 ID:SyoDYlds.net
「ことりに、にこちゃんの本当の気持ち、教えてほしいなぁ……」

隣から私を覗き込むその表情は、限りなく笑っていない笑顔だ。

この子がこんな顔するの初めてみる。正直いってかなり怖い。

「ねえ、にこちゃん……。どうなのかなぁ……?」

だけど、後輩に迫られてオドオドビクビクするなんて私のプライドが許さない。

ここはビシッといってやろう。私は穂乃果が好きだってね。
233: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:16:55.73 ID:SyoDYlds.net
「本当に好きよ」

「本当の本当?」

「しつこい!本当の本当!好きだって言ってるでしょ!」

「……なぁんだ。それならいいの。変なこときいて、ごめんね」

ことりが謝るなり、雰囲気がほわほわとしたものに戻る。絡められていた腕も解放されて、一安心。

穂乃果が好き!なんて、こっ恥ずかしいことを何度もいわされた甲斐はあったみたいだ。

「もう、なんなのよ……」

「えへへ……。穂乃果ちゃんは大切な幼馴染だもん。心配になっちゃうよぉ」

「過剰だって言ってんのよ」

好きだ嫌いだいうだけで、あそこまで怖くならなくてもいいと思う。

あんたらだって「ことりちゃん好きー」だの「穂乃果ちゃん好きー」だの言い合ってるでしょうに。
234: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:18:35.59 ID:SyoDYlds.net
「にこちゃんが真剣に穂乃果ちゃんのことが好きだってわかったから、ことりは安心しましたっ」

「そりゃよかったわ」

「あ、でも……。穂乃果ちゃんが、にこちゃんのこと好きになるかはわからないけど……さっきの感じだと、脈ありだと思うよ?」

「……は?」

「私は応援してるからねっ」

ああ、なるほど。道理で変なわけだ。シリアスモードで詰め寄ってきたことに、やっと合点がいった。

つまりこいつは、穂乃果と同じような勘違いをしている。私が、穂乃果のことをそういう意味で好きだと考えている。

だから、キスをして好きだと言ったと……。はぁ。もう、やれやれって感じよね。

そういうお年ごろだからって、なんでもかんでも色恋沙汰に結び付けないで欲しい。
235: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:19:38.52 ID:SyoDYlds.net
「あのね、私は穂乃果のこと―――」

「うんうん!穂乃果ちゃんのことなら何でも聞いてっ!」

そういう話に飢えてたのかと思ってしまうほどの食いつきね。きらっきらに瞳が輝いている。

女子校だし、幼馴染の穂乃果と海未はあんなんだし。そーゆーのと縁遠くなるのも仕方ないけど。

(それにしたって、協力的すぎるでしょ!)

あんたのそれ、勘違いよ?って言いづらいこと、この上ない。

でもここで言っておかないと後々面倒なことになるのは明白なことだから、ちゃんとしておきましょう。

……気は進まないけど。
236: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:22:15.13 ID:SyoDYlds.net
「ことり。最後まで聞いて」

「うんっ♪」

「私はそういう意味で、穂乃果が好きだって言ったんじゃないの」

「―――え?」

あからさまにことりの顔が曇ってゆく。その様子に心が痛む。

別に私は悪いことしてないのにね。……いや、結構してるかもだけど。

「誤解させちゃったみたいだけど、さっきのは違うのよ」

「違う……?」

「さっき、穂乃果が私に寄りかかってた時の会話、聞こえてた?」

「……ううん。穂乃果ちゃんの声が小さくて、きこえなかったけど……」
237: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:24:51.38 ID:SyoDYlds.net
やっぱり、そうよね。私と穂乃果の会話が聞こえてたなら、そんな勘違いしないもの。

あれだけ好き好きいってたのは、穂乃果が私に嫌われてるんじゃないかーって拗ねてたからだもん。

「その時の会話で色々あってね。私は穂乃果のこと、ちゃんと仲間として好きなのよって伝えてたってわけ」

「……それじゃあ、キスしたのも好きだよって伝えるため?」

「嫌いな相手にキスなんか出来ないでしょ?」

キスしたのは、単に私がしたかっただけだけど、それは言わぬが花。

とにかくこれで誤解が解けてくれたらいいんだけど、どうかしら?

「つまり、穂乃果ちゃんとにこちゃんが、もっともーっと仲良しになりました!ってことでいいのかな?」

「そーよ。……ビンタされちゃったけどね」

「あはは、いくら穂乃果ちゃんでも、とつぜんキスしたら怒っちゃうよ〜」
238: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:29:05.55 ID:SyoDYlds.net
にっこりと笑うことりに安堵する。ちゃんとわかってくれたみたいで何よりだわ。

ちゅーの効果によって、穂乃果ともっと仲良くなれたのか、結果はいまいちわかんない。

でも、頬に残った痛みが、私達の距離が縮まった証のような気がしてくるのよね。

「あれ……ほっぺた、まだ赤いね。……にこちゃん、いたくない?」

そんなことを考えていたから、頬が痛いです、と顔に出てしまったのかもしれない。

ことりが近寄ってきたかと思うと、すりすりと手で頬をいたわりはじめた。
239: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:31:16.01 ID:SyoDYlds.net
「いたい。……だから、もっとして」

「ふふ、はぁい」

たぶん、頬にあてられたことりの手が、とっても心地よかったから。

不意に、ことりに甘えてみたいなどと思ってしまって、もっと続けてほしいとねだってしまった。

私のほうが年上なのにね。恥ずかしい気もするけど、たまにはいっか。

「あ、そうだ!ふふー、にこちゃん。痛みが消えるおまじないしてあげるね?」

痛みが消えるおまじない?……そういえば絵里を連れ出した時に、痛いの痛いのとんでいけーってやってたわね。

しかも、自分に痛いのが飛んできたーなんてことまでやっていて、アホだと思っていた。

だというのに、いざ自分にもされるんだと思うと胸がドキドキしてくるんだから、不思議なもんよね。
240: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:36:42.67 ID:SyoDYlds.net
「いたいの〜いたいの〜、飛んでけー♪」

ほわほわぷわぷわーって感じの声に、脳みそが蕩けそう。

いつまでも聞いていたい。いつまでもすりすりされていたい。天国はここにありよ。

「あいたっ……ことりのほうに、いたいのがとんできちゃったよー、えへへ〜」

あざといけど可愛い。天然で既にあざといのに、あえてあざといことをするなんて卑怯だ。

いい加減にしないと私、あざとさの過剰摂取で死んじゃうわよ?死因はきゅんきゅん死です、ってね。

それに、にこにだってあざとさのプライドというものがある。死んでしまう前に一矢報いてあげましょう。
241: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:38:08.23 ID:SyoDYlds.net
「ねぇことり。いたいの、どこに飛んできた?」

我ながら、馬鹿っぽい質問だけど、こういうノリを楽しむには、自分も進んでノっていくのが鉄則よ。

少し困惑気味のことりをみてニヤリと笑う。

「え?……うーんと、ほっぺたかなぁ?にこちゃんと一緒だよっ」

ぬぬっ、やるじゃない。急な振りにも可愛らしい答えを返すとはね。流石伝説のメイドといわれるだけはあるわ。

私も全力を出さないといけないわね。
242: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:40:26.19 ID:SyoDYlds.net
「それじゃあ、私もやってあげる」

おもむろに、ことりの頬に手を当てる。

赤くもなっていない、綺麗なままの白い肌をすりすりと、優しくさする。

そうしていたら、くすくすとことりが笑い出した。

「二人で向かいあってこうしてるの、なんだかおかしくて」

たしかにへんてこだ。私も、この様子を傍目にみていたら、何してんのあんたらって笑ってたと思う。

「それに今日のにこちゃん、なんだか優しいし、素直だし」

失礼な。普段が優しくなくて、素直じゃないみたいなことを言う。……その通りだけど。
243: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:41:42.60 ID:SyoDYlds.net
「こういうにこは、イヤ?」

しゅん。うるうる。いじいじ。そして上目遣い。

ことりのあざとさに対抗して、私もあざとさを総動員してみる。

ほらほら、私の余りの可愛さに、思う存分きゅんきゅんするがいいわ。

「まさかぁ。にこちゃんがどんなにこちゃんでも、ことりは大好きだよ?」

……うぐぅ。ことりのストレートな好意に反撃された。胸がドキドキしてくる。

天然であざとい娘ってこれだから怖い。メイドやってた時も、こうやってお客さんを落としてきたんでしょうね。
244: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:45:27.07 ID:SyoDYlds.net
「ことり、あんたが怖いわ……」

「え〜?」

素直な私の感想に、ことりは不服そうにしている。

「そんなこという子には、もうしてあげませんっ」

大好きと言った後に怖いといわれて、ショックを受けたのかもしれない。

ぷんぷんと怒ってますという表情になったことりは、私の頬から手を引き戻した。

それ罰になると思ってるの?痛みも引いたし、もうしなくていいわよ……と言おうとして、自分が寂しさを感じていることに気がついた。

やっぱり、まだ続けて欲しい。
245: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:49:03.17 ID:SyoDYlds.net
「続けてよ、ことり」

「……にこちゃん、ことりのこと怖いんでしょう?」

「怖くないわよっ」

「でも、さっき怖いって、」

「可愛すぎて怖いってこと!もうっ言わせないでよっ」

「えぇっ」

うぅ、恥ずかしい……。可愛すぎるなんて、誰かにいうの初めてかも。

ことりも、私にそんなこと言われるとは思ってなかったみたいで驚いてたけど、その言葉には満足したようだ。

表情を一転させて、赤い顔でてれてれと笑っている。
246: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:50:16.42 ID:SyoDYlds.net
「えへ、そっかー、可愛すぎてなんだ。えへへー」

「なによぅ。あんたなら言われ慣れてるでしょっ」

「にこちゃんにいわれたから、とっても嬉しいんだよ♪」

ああもう、すぐそうやって恥ずかしいことを言うんだから!

「〜〜〜!!いいから、さっさと続けてよっ」

「はぁーい♪」

うきうきと無駄に楽しそうな様子で、やっと手を動かし始めた。

だんだんと私の頬に近づいてくる。そろそろ頬に―――というところで、ことりの動きが止まった。
247: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:52:31.84 ID:SyoDYlds.net
「どうしたの?」

「にこちゃんが可愛いっていってくれたから、サービスすることにしたのっ」

「……はぁ?サービス?」

そういって近づいてくることり。

(なんだろ?両頬にしてくれるのかしら)

だんだんと、ことりの顔が近づいてきて、そのうち、ことりしか見えなくなって……って近づきすぎでしょ―――!

「―――ちゅっ」

「ひゃああっ」

そのまま頬にキスされた。サービスってこれのこと?びっくりするじゃない!

つーか、ほっぺたとは言え、いきなり人にキスするなんて何考えて……私が言えることじゃないわね。
248: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 21:54:58.86 ID:SyoDYlds.net
「……なにすんのよ」

「穂乃果ちゃんみたいに、仲良しの証にいいかなーって思って。……ダメだったかなぁ?」

「うぐっ……ダメじゃない、けど……」

答えを聞いて、えへへーと幸せそうに喜んでいる。ことりを相手にするのは調子狂うわ、ほんとに。

「それじゃあ、もっとするね?―――ちゅ〜」

はっ?と疑問を投げかける間もなく、ことりはほっぺにちゅーを続行した。

最初は抵抗しようかと思ったけど、よく考えたらそうする理由がないし。気の済むまで好きにさせてあげましょう。

それに、手ですりすりされるより心が満たされる気がする。
249: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:05:08.67 ID:SyoDYlds.net
「……好きにしなさいよ」

ちゅっ、えへっ、ちゅっちゅっ、えへへ〜、ちゅっ。

延々と続けられるキスと、にこにこと笑うことり。キツツキに突かれる木になった気分だ。

(そっか。ことりはキツツキだったのね)

自分の発想ながら、ちょっと笑ってしまう。木を突く理由は、木の中にいる虫を食べるためだけじゃない。

この話でちょっとからかってみることにしましょう。反応が楽しみね。

「そうやってると、キツツキみたいね、あんた」

「ふふっ、そうかもしれないね―――ちゅっ」
251: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:07:07.66 ID:SyoDYlds.net
喋ってる間もやめないし。いよいよキツツキって感じ。私の中には虫でも入ってると思ってるのかもしれない。

ぱくっとおやつ代わりに食べられてしまう前に、話を続けましょう。

「……キツツキが木を突く理由って知ってる?」

「ちゅっ―――ん……木の中の虫を食べるため、かな?」

「それもあるんだけど……、あれって、求愛行動っていう意味もあるのよ」

「へぇ〜、求愛行動……きゅうあい、こうどう……」

このタイミングよ、にこ。妖しい笑顔で問いかける。

「ねえ、ことり、もしかして……。私が欲しいの?」

「……ふぇ!?」
252: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:08:51.63 ID:SyoDYlds.net
意味を理解したことりは、ぼふん、と音を立てて真っ赤になった。

あたふたと手をわちゃわちゃさせながら、必死に言い訳をしている。

「ち、違うよっ?あくまで、これは友情の証で……!」

「その割に、夢中になってたじゃない?ずーっとやってたし」

「それは、その……可愛いっていってくれたのが、とっても嬉しくて……!」

おー、おー、焦ってる焦ってる。今日は色んなことりの顔が見れて楽しい。

ふふ、もっといじめちゃおーっと。ことりを引き寄せて、優しく笑う。
254: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:20:40.68 ID:SyoDYlds.net
「そうそう、私もキスのお返ししなくちゃね?……穂乃果みたいにーって言ってたけど。それなら、ちゃんとここにしなくちゃね?」

ここに、と言いながら、ことりの唇をぷにぷにと触る。ことりは耳たぶまで赤くなってしまった。

「えっとね、その……私は、いいんだけど……穂乃果ちゃんのこともあるし……ええと……」

次はどうやってからかっちゃおうかなーってことりを眺めていた、その時。

ふと壁にかかっている時計に目が行って、気がついてしまった。……結構な時間が経っていることに。

(もうこんな時間?)

まずい。時間がだいぶたってしまっている。このままじゃあ他のメンバーが帰っちゃってるかも……。はやく探しに行かなくちゃ。

……これからことりをイジり倒そうかと思ってたけど、お預けかな。
255: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:29:29.89 ID:SyoDYlds.net
「ねぇ、ことり。私、用事があったんだった。続きは今度でいい?」

「え……今度?……うん、今度ねっ?わかりましたっ」

ことりはあからさまに胸をなでおろしている。

……そのほっとした様子に釈然としないけど、他のメンバーのところに行かないとだし。深い詮索はやめておきましょう。

「じゃあね」

挨拶をして歩き出す。ことりとキスしてないのは心残りだけど、時間がないから仕方ないわ。

また今度という約束をしている。その事実で自分を納得させる。はぁぁ。
256: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:32:45.62 ID:SyoDYlds.net
「いってらっしゃぁい」

背中から聞こえた声に、軽く手を上げて返す。

生徒会室のドアノブを掴んで、外に出ようと、力を込めて―――ドアノブをまわさずに振り返った。やっぱり、このままじゃ行けない。

ことりはにこにこと手を振っていた。急に向き直った私にどうしたんだろう、という顔。気にせず、私はことりのほうへと歩き始める。

「にこちゃん、どうかした―――んむぅっ」

ずんずんと、近づいて、手を掴み引き寄せる。バランスを崩したことりを、支えるように抱きとめる。

そのまま、ことりの唇を甘噛みするようにキスをする。驚きで開かれたことりの目と、私の目がぶつかり合う。
258: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:48:59.64 ID:SyoDYlds.net
「―――」

徐々に、ことりの瞳の色と呼べるものが変化していく。驚愕から、動揺、そして……喜びに。

目と目で通じ合うというのは、本当だったのね。ことりの思いが伝わってくる。

私の思い―――好きってことを、今日の内に一回くらい伝えておきたかった―――も、伝わってるといいな。

「……今日は、これで我慢してね」

「……うん」

ことりの表情と言葉の温度で、伝わっていることが確信できた。

これで、生徒会室に心残りはなくなった。挨拶代わりの微笑みを残してから、扉の方へと歩き出す。

もう、振り返りはしなかった。
260: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:55:32.39 ID:SyoDYlds.net
―――きぃ、ばたん。

よし、次はどこに行こうかな。

一年生がいそうな場所。一年生の教室……にはもういないと思うし。

いるとしたら、部室か音楽室かな。部室のほうが近いし、そっちから行ってみましょう―――。







「キス、しちゃったんだ……それも、にこちゃんと……」

「ふふ、今日はこれで我慢してね、だって」

「今度……楽しみ、かも」
262: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 22:56:36.36 ID:SyoDYlds.net
5人目、終わり。
280: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:40:04.06 ID:cPs+bcnn.net
「のぞみー、戻ったわよ―」

部室にいるはずの希の名前を呼びながら、ノックもせずに扉を開ける。

しかし、そこには見慣れたスピリチュアル女はおらず、代わりとばかりに一人の女の子が読書をしていた。

自慢の赤毛をくるくると巻きながら、闖入者の私をジロリと睨みつける。

「ノックぐらいしなさいよ」

やれやれといった口調で呟いて、本に目を戻す。

まったく、このにこに会えたんだから、もう少し嬉しそうな顔してほしいものだわ。
281: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:42:02.80 ID:cPs+bcnn.net
「ねえ真姫ちゃん、希知らない?ここにいたとおもうんだけど」

「……さっきまでいたけど。絵里に呼ばれたとかで、どこかに行ったわ」

絵里に呼ばれて……?もしかして、未だに力が入らなくて希に助けを求めたとか?

いつまで腰抜けてるんだか。

「にこちゃん、絵里に何かした?電話で話してた時の希の顔……怖かったわよ」

顔は本に向けたまま、恐ろしいことをたんたんと告げてくる。

絵里が希に泣きついたのだとしたら……相当まずい。怒れる希に捕まったら、何されるかわかったもんじゃないわ。

やっぱり無理矢理はよくなかったってことね。にこ反省。
282: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:43:12.25 ID:cPs+bcnn.net
「何にもしてないにこよ〜」

しかしここで可愛らしく知らぬ存ぜぬを貫き通すのが、にこぷり女子道。

真姫ちゃんにちゅーするために色々してたんだもの。不審に思われたら元も子もないし。

「……はぁ。ほんと仕方ないひと」

だけど、そんな思惑は真姫ちゃんには通用しなかったみたいで、ため息をついて呆れられちゃった。

疑惑の目を向けられたわけじゃないから、セーフだけど。せめて私のほう向いて喋ってくれないかなぁ。

(真姫ちゃんへのちゅー、どうしようかな……)

凛と花陽にはまだしてないとはいえ、当初の目的を達成するのなら今が絶好の機会だ。

部室で二人きりな上に、真姫ちゃんは警戒していない。でも、どこかで絵里の存在が気がかりになってしまって、気が進まないのよね。

だって、絵里がちゅーしたことに怒ってるのだとしたら、真姫ちゃんだって怒っちゃうかもしれないし。

それは私の望まないところだから、やめておいたほうがいいじゃないってなっちゃうのだ。
283: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:44:33.24 ID:cPs+bcnn.net
(でもねぇ……)

真姫ちゃんの横顔を黙って見つめる。じじーっと見つめる。

ほぅ、と息をついちゃうくらいに綺麗よねえ。まぁ、それでいえば絵里や海未も綺麗なんだけどさ。

自分と比べた時の違いっていうか、にこのぷりちーフェイスはどう足掻いても可愛くなっちゃうからね。

そういう系統の顔の子をみると、いじめたくなっちゃうのよねー、うふふ……。

(……あれぇー?)

なんて考えながら、ねめーっと見つめている内に気がついた。真姫ちゃん、さっきから本のページめくってない。

これは、あれよね。私に見られてることを意識しちゃって動けなくなってるパターンね。

顔もほんのりと赤くなってるし、これぞ真姫ちゃんって感じだ。可愛い。いじってやろう。
284: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:45:51.63 ID:cPs+bcnn.net
「真姫ちゃ〜ん」

「なによ」

相変わらず本から顔をあげようとはしない。でも、一瞬嬉しそうな表情をしたのは見逃してないわよ?

「真姫ちゃん、ちゃんまき、まっきっきー」

「……見ての通り読書中なんですけど。用がないなら話しかけないで貰える?」

「えー、そう?さっきからページが動いてないから、てっきり―――」

ぐちゃ。言葉に反応して、本に力が込められる。

ああ、真姫ちゃん、そんなに握りしめたら本がしわしわになっちゃうわよ。

でも、やっとこっちを見てくれて私は嬉しいわ。
285: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:47:04.20 ID:cPs+bcnn.net
「何言ってるの?私は重要なところを何度も読んでいるだけよ」

「にこのことが気になってたわけじゃないんだ?」

「にこちゃんってば、自意識過剰なんじゃないの。私がにこちゃんのことなんて気にするわけないじゃない」

へぇー。そんなこと言っちゃうんだ。

照れ隠しなのはわかってるけど、私のことを気にするわけないなんて言われたら、黙ってはいられなくなる。

不機嫌な調子で、不貞腐れたように言い返す。
286: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:48:48.94 ID:cPs+bcnn.net
「そっか。そうよね、私も真姫ちゃんのこと気にすることないし、同じよねっ」

「えっ……。そうよ……同じよ……」

途端にしゅんとなって落ち込む真姫ちゃん。同じこと言い返されてへこむならいわなきゃいいのに。

本気で私が真姫ちゃんに無関心なのだとは思ってないだろうけど、本当に怒らせてしまったくらいは思ってるかもしれない。

「ふーんだっ!」

「……う……えっと……」

「知らないっ」

わかりやすく、つーん!としているポーズをとる。

そうしたら、真姫ちゃんはおどおどしはじめた。これで、わたわたと焦り始めるのは真姫ちゃんくらいなものだ。

他のメンバーなら『かわいいー』といって抱きついてくるか、『にこ、何してるんですか?』と真顔で聞いてくるか、『寒くないかにゃ?』などと鼻で笑われるところだ。
287: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:50:03.96 ID:cPs+bcnn.net
(ぐぬぬ……想像とはいえ、むかついてきたわっ)

ヘコんでる真姫ちゃんを放置して、嘲笑してくる猫に脳内で痛い目にあわせる。

ふっふっふ……凛、あんたなんて私にかかればチョチョイのチョイよ。ざまあみろ。

「う゛ぇぇぇ……」

そんな風に悦に入っていたら、真姫ちゃん特有の声が聞こえてきた。そろそろ限界かしら?

視線を真姫ちゃんの方向へ戻してみれば、しょんぼりしすぎて真下を見ている。

本はいつの間にか閉じているし、目を伏せているからよく見えないけど、ちょっと泣きそうにすらなっている気配がする。

たくもー、しょーがないわね〜。
288: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:51:27.65 ID:cPs+bcnn.net
「真姫」

「……なによ」

「急に百合営業の練習したくなったから、抱きつくわね」

答えを聞かずに、えいっ!と抱きつく。真姫はイスに座っているから、またがる形になってしまう。

その体勢に思うところがないわけでもないけど、気にしたら負けだ。

「ちょ、ちょっと!にこちゃん!」

「なに?練習するの嫌なの?」

「別に、そういうわけじゃないけど……近すぎっていうか……」
289: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:53:07.98 ID:cPs+bcnn.net
にこと触れ合えて嬉しいくせにー。顔ニヤけてるわよ。

結局のところ、中途半端な言葉より肉体的なコミュニケーションのほうが効くのよね。

特に真姫みたいな、頭が良いくせにどこか幼さを見せる子には余計にね。

「ねえ、真姫。これだけ近くにいたら、気にするわけなくても気にしちゃうわよね?」

言い聞かせるように、優しい声音で語りかける。

さっきのことを有耶無耶で終わらせても良かったけど、あとであんた気にしそうだもんね。

理由は作ってあげたわよ?ほらほら、素直になっちゃいなさい。
291: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:54:37.20 ID:cPs+bcnn.net
「……うん。仕方ないから、にこちゃんのこと気にしてあげる」

「真姫ちゃんにそういって貰えるなんて〜、光栄にこっ」

「もうっ、ふざけないで」

そして、顔を見合わせて、くすくすと笑って仲直り。ふふ、まったく、真姫ちゃんはちょろいものだ。

でも、すぐに助けてあげなくちゃ―ってなっちゃう私も、同じくらいちょろいのかもしれない。

(はぁ、もう、かわいーんだから)

なんだかもう、とにかく愛おしくなってくる。真姫ちゃんの髪を勝手に手櫛でときはじめる。

真姫ちゃんは突然の行為に驚いたみたいだったけど、すぐに受け入れてくれた。気持ちよさそうにしている。
292: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:57:28.27 ID:cPs+bcnn.net
(やっぱり、綺麗な顔……)

真姫ちゃんの表情をつぶさに観察しながら、手を動かす。

ほんの少しだけ赤みのさした頬に、長いまつげ。そして……淡桃の唇。

気がつけば、先程のためらいなんて忘れたかのように、私はその言葉を投げかけていた。

「ねえ、真姫ちゃん。百合営業のことで相談があるの」

「ふぅん……?」

「そろそろ、次の段階に移ろうとおもうのよ」

「次?」

さらさらと流れる髪を、手を弄ぶ。いつもの真姫ちゃんの様に、くるくるくる。
293: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:58:14.36 ID:cPs+bcnn.net
「そう、次。もう考えてあるんだけど、ちょっとお試しでやってみていい?」

「お試しって、なにをするのよ」

「それは、ひ・み・つ♪」

じとー。胡散臭いものを見る眼差しに晒される。

負けじと視線を合わせていたら、ぷいっと顔をそらされてしまった。

「……おことわりします」

そうよねー。ここで、いいわよといってくれる真姫ちゃんじゃないわよね。
294: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 16:59:10.27 ID:cPs+bcnn.net
「真姫ちゃん、お願いっ!」

仕方ないので、奥の手を使う。髪をいじるのをやめて、思い切り、むぎゅーっと全力で抱きつく。

ほっぺたから足から全部をくっつけて、さっきとは密着度が段違いよ。

真姫ちゃんはこれに弱いから、奥の手といいつつ毎回使っていたりする。

「う゛ぇぇっ!」

「ね?真姫ちゃん、いいでしょー?」

「わかった、わかったわよっ!だから、少し離れてっ」

必死な顔で、くっつき虫と化した私を押し返す。

それにしても、少し離れて、だって。膝から降りてとは言わないあたりに可愛さが見え隠れする。
295: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:10:50.84 ID:cPs+bcnn.net
「はぁ……仕方ないんだから。さっさとしてよねっ」

照れているのか不安なのか、身体をカチンコチンにさせながら虚勢をはっている。

……そういうところが、私の嗜虐心を刺激するんだけど、わかってないわね。

「それじゃあ、遠慮なく食べちゃうにこ〜」

「はぁ?食べるって何、」

喋ってる途中でも気にせず、真姫ちゃんのセレブリップにかぶりつく。

口を開いていたせいか内唇を食べてしまう。にゅるにゅるとした感触と、唾液の味。

うーん、これが真姫ちゃんの味ね……なぜかトマトの味がするけど。
296: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:13:09.80 ID:cPs+bcnn.net
「―――ん……ふっ……、もう、なにするのよ!」

一瞬の間を開けて、何をされているかに気がついたみたい。

頭が後ろに引かれて、唇はちゅるんと離れてしまった。

「真姫ちゃん、トマトでも食べてたの?」

「え……?さっきまでトマト味の飴を舐めてたけど……ってそうじゃなくて!」

トマト好きがこうじてトマトになっちゃったのかと思ったわ。

「真姫ちゃんがトマトになっちゃったのかなーって思ったんだけど、違って良かったわ」

「話をそらさないで!」
297: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:15:54.06 ID:cPs+bcnn.net
ああだこうだ、なんだかんだと、真っ赤な顔でガーッと私を責める言葉を並べ立てる真姫ちゃん。

「人の気持ちを確かめもせずに、こんなことするなんて……バカなの!?」

ううっ、まずい。本気で怒らせちゃったかもしれない。

このまま百合営業中止にでもなってしまったら困る。

「私にだって、心の準備ってものがあるんだから!大体にこちゃんは―――」

髪の毛をくるくるイジりながら私を罵倒する真姫ちゃん。

しかしその罵倒をよくよく聞いてみると、にこちゃんは空気が読めないだとか、思わせぶりだとか、なんというか……。
298: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:19:13.71 ID:cPs+bcnn.net
(……これ、怒ってるように見えて、怒ってないんじゃないの)

試しに、頭をよしよししてみる。……うん、振り払われないわね。

「なによぉ……私は怒ってるんだから……!」

潤んだ瞳で可愛らしく睨まれた。

そんなのじゃ、真姫ちゃん検定一級のにこにーじゃなくても、怒ってないってわかる。

……でも、真姫ちゃんが怒ってるっていうのなら、ちゃんと謝っておかないとね。
299: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:23:33.51 ID:cPs+bcnn.net
「ごめんね」

「……言葉だけじゃ、許さないから」

真姫ちゃんからそういってきたことに、私は驚いた。

だって、言葉だけじゃ許さないって、つまりそういうことでしょう?

「じゃあ、これで許してね?」

真姫ちゃんの手をとり、自分の手と重ねあわせる。指先で感じる、真姫ちゃんの体温。不思議な緊張と高揚。

胸を高鳴らせながら、どちらともなく見つめ合い、そして、どちらともなく目を閉じて―――。
301: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:38:34.09 ID:cPs+bcnn.net
「―――んっ」

柔らかい。暖かい。胸が爆発しそうなほど脈打つ。

心が通じあったキスは、どうしてこんなに満たされるのかしら……。

「んぁっ」

いつの間にか、真姫ちゃんは私の首の後ろに手を回して、身体を更に引き寄せられる。

その熱烈な求められているという感覚に、身体が熱くなる。

「ふぅ……っ……んっ……」

十分なほど体と体は近づいているのに、まだ足りないというかのように、手には力が込められていく。

自分の心臓が、どくんどくんと音をかき鳴らす。血はめぐり、顔を赤らんでゆく。意識は茹だったようにぼやけてくる。
302: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:40:28.55 ID:cPs+bcnn.net
「ふぅ……ん……むぅっ……」

息を継ぐ時間すら惜しいとばかりに、真姫ちゃんは私を貪ろうとする。

頭がぼうっとしてきて、今日何度か味わった、じんじんとした痺れが蘇ってくる。

その痺れが脳髄を支配しようとした、その時―――体が悲鳴をあげはじめた。

「ぅ……ぅぅ……!」

苦しい。息ができない。真姫ちゃん、そろそろ離れて、息がもたないの。

背中をぺしぺしと叩いてみる。しかし、完全に無視される。私の唇に夢中になって、それ以外が見えていない。

(……心、通じ合ってなかったみたい)

ぐぅ、仕方ない。やりたくなかったけど、これに頼るしか……。

おもむろに手を真姫ちゃんの胸に持っていき、揉みしだく。
303: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:44:51.22 ID:cPs+bcnn.net
「―――ひゃああ!にこちゃんどこ触ってるのよ!」

突然のわしわしには流石に驚いてくれたみたいで、やっと離れてくれた。

すぅー、はぁー、と深呼吸。ああ、空気ってこんなにおいしいのね。

「そういうのは、もっと段階を踏んでから―――」

息を全身に巡らせたところで、真姫ちゃんに向き直る。

「だって、真姫ちゃん離してくれないんだもん。呼吸できなくて危なかったのよ?」

「―――すること……え?」

「背中叩いても気がついてくれないし……」

段階ってなんだろうと思いつつ、ちゃんとした理由はあることをのべる。

一応、雰囲気を壊さないように気を遣ってたんだから。だっていうのに、真姫ちゃんときたら、自分の世界に入ってるし。
304: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:54:54.96 ID:cPs+bcnn.net
「にこちゃんの、ばかーっ!!」

だから、私は悪くないのよ?と思っているところにに降り注ぐ怒鳴り声。

膝の上から私を無理やり押し出して、机に向かって不貞寝しだした。

「ちょっと真姫、どうしたのよ」

「ふんっ!」

腕と赤毛に阻まれて表情はうかがい知れないけど、誰がどうみても怒ってるわよね。

「わしわししたことは謝るわ。ごめん!」

「……部屋から出てって!」

えぇ、謝ったのに出て行けとまで言われてしまった。この部屋の主は私なんですけど……。

ヒステリー真姫ちゃんになってもらっても困るから、黙ってるけど。
305: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:56:53.05 ID:cPs+bcnn.net
(しょーがない。言うとおり出て行きましょう。そのうち、頭も冷えるでしょ……)

ちょっと時間をあけて話せば、真姫ちゃんから謝ってくるかもしれないし。

それでもダメなら、もう一度私から謝ればいいし。

「わかったわ。少ししたら、戻ってくるから」

「……」

沈黙の真姫ちゃん。はぁ、今日中に仲直りできたらいいけど。

ため息を付いて、扉へ向かう。ぎし、ぎし、ぎし。がちゃ、きぃー。

開いた扉から外に出ようとした時、ふと思い立った。もう一度だけ、真姫ちゃんの様子をみてみよう。チラリと後ろをみやる。
306: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 17:58:36.15 ID:cPs+bcnn.net
「っ!」

ばっちりと逢った目は、すぐさま逸らされた。

組んだ腕に不貞寝しながら、横目でこちらを見ていたのだ。

くふふ、結局、私の事が気になってるんだから、かわいーものよね。

「真姫ちゃん、また後でちゅーするから覚悟しててね」

一方的にそれだけ告げて、扉をしめる。部屋の中から聞こえた『う゛ぇぇ』という声は放っておいて、るんるん気分で歩き出す。
307: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 18:01:02.09 ID:cPs+bcnn.net
「さ〜て、凛と花陽はどこにいるかしらね〜」

真姫ちゃんとちゅーっていう目的は達成できたけど、せっかくだもの。凛と花陽のもいただいておこう。

どうせ二人は一緒にいることだろうし、凛はうるさくて目立つしで、すぐに見つかることでしょう。

ただ、それまでに気をつけなければいけないこともある。

希と絵里だ。あいつらに出会って、捕まってしまったら、何をされるかわかったもんじゃない。

慎重に学院内をうろつかないとね。ふふふっ。





「はぁ。わしわしのことを勘違いしちゃうなんて……恥ずかしい……」

「……にこちゃん、気がついてなければいいけど」
308: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/23(水) 18:02:29.12 ID:cPs+bcnn.net
6人目、終わり。
336: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:01:01.87 ID:9FyTUlOy.net
337: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:01:53.69 ID:9FyTUlOy.net
ぜぇっぜえっぜえっ……!息が荒い。苦しい。だけど、全速力で走る。

それだけが私が生き残れる道。校舎内を右へ左へ上へ下へとウネウネクネクネと走り回る。

「待ちーや、にこっちぃ!」「止まりなさいっ!」「にこちゃぁぁぁん!」

そんな私の後ろを執拗に追いかけるのは、三人の般若たち。希と絵里。そして、なぜか穂乃果。

どうして穂乃果まで追いかけてくるのよっ!他二人はわかるけどっ!

「あんたたちなんで追いかけてくるのよぉぉ!!」

「自分の薄い胸に聞いてみいやっ!」
339: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:03:25.84 ID:9FyTUlOy.net
ひええ!希がマジギレしてる。ナチュラルに胸のことをバカにしてきたし。

私は胸が薄くても可愛いからいいのよ!って反論しながらチョップでもかましたいところだけど、そんなことをしたら逆に捕獲されて処刑されてしまうことだろう。

「あー、もーーー!」

走って、走って、走って逃げる。まさか部室を出てすぐに見つかるとは思わなかった。

はぁっはぁっはぁつ……息が切れる。ダメ、そろそろ限界。

距離がある内に、どこかに隠れてやりすごすしかないか―――でも、そんな場所があったかわからない。

今までずーっと教室と部室を往復するだけの学園ライフだったんだもの。学院の地理に詳しくなくて当然よ。
341: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:05:51.38 ID:9FyTUlOy.net
(ぐっ、ここまでか……。はぁ、出来るだけ優しくしてもらえるよう頼んでみましょう……)

よく頑張ったわ、私。元気お化けの穂乃果やパーフェクト優等生の絵里、無駄に運動神経がいい希。

この三人相手に、体力がない上に足も早くない私がここまで逃げられたんだもの。たいしたもんよ。

そうやって私が諦めかけながら、廊下の角を曲がった時―――救いの手がさしのべられたの。

「にこちゃん、こっち!ここに隠れてっ!」

突如現れた救いの女神―――花陽のいうままに、教室へと誘われる。

花陽の示すままに、私は教卓の下に隠れる。数秒後、どたばたと三人がやってきた。

角を曲がった途端に私がいなくなったものだから、どこかに隠れたと思ったんでしょうね。
343: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:07:52.55 ID:9FyTUlOy.net
「はぁ、はぁ……あれ?花陽ちゃん?……にこっち知らへん?」

「にこちゃんならそこの窓から中庭に出て行ったよ?」

「わかった、ありがとね!」「またね花陽!」「花陽ちゃんありがとね!」

ばばばーっと足早に立ち去る三人。きっと中庭のほうへ行ったんでしょうね。……ふぅ、なんとか逃げおおせた。

それにしても、なんで花陽がこんなとこにいるのか不思議に思わなかったのかしら。私は不思議なんだけど。

「本当に助かったわ……。でも、なんでこんなとこにいたの?」

「ふふっ、なにいってるのにこちゃん。ここ、一年生の教室だよ?」
345: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:09:51.41 ID:9FyTUlOy.net
くすくすと笑う花陽に言われて、周囲を見回す。

個人の荷物らしきものがいたるところに置いてあるし、黒板には色んな情報が書かれている。

どうやら、本当にそうみたいね。全然周りが見えてなかったわ。ちょっと恥ずかしい。

「さっきまで凛ちゃんの課題のお手伝いをしてたんだけど……ことりちゃんから連絡がきてね」

「……ことりから?」

「うん。にこちゃんが追われてるから助けてあげてーって」

私は感動していた。ことりぃ……あんたも女神だわ。まさか裏から手を回してくれてるなんて……。

そんなことしても大丈夫?私からの好感度あがっちゃうわよ?今度、楽しみにしてなさいよね。
347: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:12:09.33 ID:9FyTUlOy.net
「凛ちゃんは走って探しに行っちゃったから、私は教室付近で待ち構えてたんだぁ」

どうやら凛も私の救出に動いていてくれているらしい。やっぱり、持つべきものは優しい後輩ね。

鬼のような顔で追いかけてくる同輩達は永遠にご勘弁願いたいわ。

「……それで、にこちゃんはどうして追いかけられてるの?」

ことりからそこまでの事情は聞いていないらしい。そもそも、ことりも知らないと思うけど。

(あれ?それじゃあ、どうして私が追いかけられていることを知ってるの?)

う〜ん……。ま、考えても答えが出るようなことじゃないし、後で本人聞くことにして、まずは花陽に答えてあげましょう。
349: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:13:58.47 ID:9FyTUlOy.net
「それには、ふかぁ〜い事情があるのよ……とっても、ふかぁ〜い事情が」

「ふかぁ〜い事情……それは一体……?」

ごくり。私達の間に緊張感が張り詰める。もう、今更適当な理由をでっちあげる必要もない。

正直に私があいつらに追いかけられていた理由をいうわ。耳をかっぽじって聞きなさい、花陽!

「無理やりキスしたら怒っちゃった。てへにこっ」

神妙な表情をしていた花陽に電流が走る。

あー、ぴゅあぴゅあな花陽に、前置きなしで話すのはまずかったかしら……。
350: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:16:57.96 ID:9FyTUlOy.net
「にこちゃん、キスしちゃったのぉ!?」

「そうよ。ぶちゅーっと唇を奪ってやったわ」

「ぴゃあっ……」

照れちゃってまあ。でも、安心しなさいよ花陽。あんたもこれから、その仲間入りを果たすのよ。

……本気で泣かれそうだから、拒否されたら大人しく諦めるけど。

「どうして、そんなことしちゃったのぉ……?悪戯で、じゃないよね……?」

非難が込められた瞳に見つめられる。悪いことをしていなかったとしても、罪悪感でズキズキしちゃいそうな威力がある。
351: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:18:23.97 ID:9FyTUlOy.net
「当たり前でしょ。真姫ちゃんとの百合営業にもっとリアリティを出したかったから、その練習のためよ」

一瞬、あっけな取られたみたいだった花陽。次の瞬間には、非難の色は消えていた。

「……ふふ。にこちゃんはやっぱり、にこちゃんだね。アイドルのことをいつも考えてる」

安心しましたとばかりに微笑んでから、花陽が私の両手を手に取る。

そのまま、祈るかのように胸の前に抱き込まれた。手が触れ合っているだけなのに、抱きしめられているみたいに暖かい。

「怒らないの?」

「私はにこちゃんの気持ちがわかっちゃうから。怒れない、かな」
352: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:21:25.07 ID:9FyTUlOy.net
くすっと笑みをこぼしながら、花陽はいった。

……そんな風に肯定されちゃったら、迷惑をかけるのが申し訳なくなってくるじゃない。

だというのに、花陽がいいたいのはそれだけじゃなかったみたい。

「だから……ちょっと頼りないかもしれないけど。また三人が来たら、その時は私が守るよ」

きゅんときた。腑に落ちるというか。ころん、と花陽に気持ちが転がった。

自信はなさそうに、でも、覚悟を感じる眼差しで。私を守ると宣言した花陽に、心が惹かれてしまった。

そんなことをいわれてしまったら、どうしてもしたくなっちゃうじゃない。
356: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:33:38.23 ID:9FyTUlOy.net
「それじゃあ、今の私の気持ちもわかる?」

ずいっと顔を急接近させる。花陽とキスしたいという想いを込めて、まっすぐに見つめる。

花陽は、徐々に意味を理解していっているみたい。そのうちにみるみると顔を赤くして、あたふたとしだした。可愛い。

「え、えと、それって百合営業のためってこと、だよね……?」

そのためなら受け入れても―――花陽はそういいたいのでしょうね。

だったら、違う。私は、純粋に花陽とキスしたいだけだもの。そこで嘘はつきたくない。
357: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:35:02.45 ID:9FyTUlOy.net
「違うわ。花陽が可愛いから、したいなぁって」

「ひゃぁ」

私の言葉に、驚きでぷるぷると震えはじめた花陽。

ずっと、あぅ……えぅ……と呟いていて、なかなか答えが返ってこない。仕方なく私のほうから口を開く。

「……ダメ、かしら」

悲しげな表情でいったそれの効果は抜群のようで、花陽はやっと落ち着いたみたいだった。

首をふるふると振って、私の目をジッと見つめて、答える。
358: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:36:23.96 ID:9FyTUlOy.net
「あのね、違うの、嫌じゃないの。私、本当は……嬉しくて」

恥ずかしがっていたのかと思っていたけれど、そうじゃないらしい。

花陽は、その理由をぽつぽつと語り始める。

「二人の百合営業をみててね、いつも思ってたの。私のほうが百合営業に詳しいのに、どうして私とじゃないんだろうって」

「真姫ちゃんのほうが可愛いから、にこちゃんは真姫ちゃんを選んだのかなって……ずっとそんな嫌なことを考えてた」

そういって、そう思う事自体が悪いことをしたかのように目を伏せた。

……まさか花陽が嫉妬していたなんて、思ってもみなかった。
359: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:42:16.40 ID:9FyTUlOy.net
「だから、ね。可愛いからっていう理由が……とっても嬉しいんだ。えへへ……」

たんぽぽのような健気な笑顔に、心が撃ち抜かれた。どくんどくんと鼓動が跳ねて、やかましい。

どうやら、花陽の持つ優しさといじらしさに、私はメロメロになってしまったらしい。

「……ねえ、花陽。私のこと好き?」

「うん、好きだよ」

照れながらも、ちゃんと答えてくれる。だけど、そんなのじゃ足りない。

「じゃあ、私と違うわね」

えっ……と呟く声。その声の色が変わる前に、私は続ける。

「だって、私は―――花陽のこと大好きだもの。好き、じゃ足りない」
360: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:43:10.43 ID:9FyTUlOy.net
宣言して、何か言わせる間もなく腰に手を回して、花陽の身体を引き寄せる。

教室に響き渡る、ぴゃあっという声を聞き流しながら、首筋に唇を落とす。まずは、ここに……。

―――ちゅうう

私の証をつける。これで花陽は私のもの……と一人勝手に満足する。

うん、こういうのは気分の問題よ。

「っ……いま、なにしたの……?」

「んふふ〜、気にしない気にしない〜」
361: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:45:05.77 ID:9FyTUlOy.net
誤魔化しながら、すりすりと肌を合わせて花陽を堪能する。肌の滑らかさ、柔らかさ―――どれをとっても一級品。

匂いだって、いい匂いがする。うなじのところをクンクンすると……ほわぁ、癖になりそう。

「にこちゃん、それは恥ずかしいよぅ……」

匂いをくんくんされるのはお気に召さないらしい。嫌よ嫌よも好きのうちってやつかしら?

悪戯心がむくむくと沸き起こってきて、魔が差した。ペロッとうなじを舐める。……うん、しょっぱい。

「ひゃんっ……それもダメだよぉっ」

そういって、抗議のつもりなのか、ぎゅーっと強く抱きしめられた。

大きな胸がふにふにと当たるので、私にダメージを与えるという意味では結構なものだ。ぐぎぎ。
362: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:49:13.71 ID:9FyTUlOy.net
「ごめんごめん、花陽が可愛いから色々したくなっちゃうのよ」

う〜、と涙目でうなる花陽に弁解する。私だって好きでやったわけじゃ……いえ、好きだからやってるんだけど。

それって要するに、可愛すぎる花陽が悪いってことじゃない?ほらね、にこ悪くない。

「でも、そろそろ―――貰っちゃうわね?」

からかう調子を少しまぜて、しかし半分以上の本気を込めて、最後の通告をする。

私の言葉に少しは躊躇うかなって思ったけれど、花陽は考えることもなく、こくんと頷いて、頬を赤く染めた。
363: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:51:09.67 ID:9FyTUlOy.net
「……うん。優しくしてね」

どこまでも可愛らしい花陽の言葉を聞いた瞬間に、気がつけば唇を奪いにいっていた。

「んむぅ―――」

「……んぅ……ふぅ、っん」

好き。好き。大好き。花陽、大好き。心のなかは、その一色になっていた。

夢中で、お互いの『好き』を、唇を通じて確かめ合う。繋がれば繋がるほど、満たされてゆく。

「……ふぁ……はぁっ……んんっ……」

私も花陽も、呼吸が荒くなっているのに、息を継ぐ間すら惜しいとばかりに唇に熱中している。

花陽の吐息が、熱くて、甘い。きっと、私もそうなっている。
364: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:57:02.30 ID:9FyTUlOy.net
「ふぁっ……にこちゃぁ……」

完全に蕩けきっている花陽。舌っ足らずに発された私の名前に、体の中で何かが疼いたのを感じた。

もっと近くに、もっと熱く花陽を感じていたい。

「ふぁ……花陽っ……」

「……んぅっ……」

熱烈なキスによって、口内の唾液が漏れ出したのか、花陽と私が離れる一瞬、糸が引いた。

光によって反射をしたそれを目にした時の、ぞくぞくと震えるような感覚を私は味わってしまったから。

こう思ってしまったのは、当然の帰結だったのだと思う。花陽の口の中は、どんな味がするんだろう……って。
365: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 22:58:21.57 ID:9FyTUlOy.net
「はぁっ―――にこちゃん、どうしたの……?」

動きの止まった私を、花陽は物欲しそうな瞳で見つめている。

ああ、困った。そんな目で見つめられたら、止まることなんて出来ないじゃない―――。

「あの、にこちゃ―――んむっ……んむぅっ!?」

普通にキスをしてから、何も言わずに舌の侵入を試みる。

花陽は驚いたなのか、必死に唇を閉ざしている。一旦離れて、上目遣いでお願いする。私だって必死よ。
366: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 23:00:08.77 ID:9FyTUlOy.net
「くち、んべって開けてよ」

「えっと……それは、ちょっと怖いよぉ……」

「……私の事、嫌い?」

目を潤ませて、悲しそうに嘆く。

このタイミングでこれは卑怯だと自分でも思う。予想通り、花陽に効果は抜群だったみたい。

「うぅ……狡いよ、にこちゃん……」

ただでさえ真っ赤になっている顔を更に赤くして、おずおずと口を開いた。
367: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 23:03:10.19 ID:9FyTUlOy.net
「……エロいわね」

「みょうっ、しょんなこといわないでぇ……」

口を閉じずに喋る花陽も可愛いって思ったけれど。

私の目線は、ピンク色の舌とテラテラと濡れた口内に釘付けになっていた。早く、食べちゃいたい。

「わがまま、聞いてくれてありがとね。花陽、大好きよ―――」

花陽をこれ以上、驚かせないように、ゆっくりと近づいていく。

最初はためらっていた様子の花陽も、近づくに連れて、どこか期待の色が浮かべはじめているのがわかった。
369: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 23:10:14.42 ID:9FyTUlOy.net
「ん―――」

自分の舌を、花陽に見えるように少しだけ出す。熱いほど見つめられているのがわかる。

これ以上進んだら、きっと今以上に蕩けてしまう。その予感が、私と花陽を興奮させている。

「ぁ―――」

唇と唇、舌と舌の先が、ほんの少し触れ合う。

お互いの息の熱を感じるほど近く。もう少し、もう少しで花陽の中に―――。

「―――たっだいまだにゃーーー!!」

「……ぅえ?」

振り返ると、そこには。

開きっぱなしだった教室の入り口で、凛が叫んでいる姿。

私はただただ思った。あんた、戻ってくるタイミング最悪よ……。
370: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/09/27(日) 23:11:08.18 ID:9FyTUlOy.net
7人目、終わり。
416: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:03:01.79 ID:UKL9FWUp.net
「にこちゃん、何かよちんに抱きついてるにゃー!」

「ぐふっ」

どーん!と背中に衝撃が走り、肺が圧迫されて息が漏れる。凛が背中に突撃したきたみたいだ。それも、助走付きで。

前には花陽を抱きしめていて、後ろからは凛が組み付いている、この状況。苦しい上にとても暑い。仕方なく花陽を解放する。

「かよちんっ、にこちゃんにいじわるされてたの?」

もぎゅもぎゅと私を全力で拘束しながら、花陽を心配している。私が花陽をいじめるわけないでしょーが。まったく、失礼なやつめ。

まあ、単に私が花陽に抱きついてからかっていたように見えたなら、それはそれでセーフだ。

もしもキスの現場を見られていたとしたら、容赦なく猫パンチが飛んできたことでしょうし。
417: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:04:24.49 ID:UKL9FWUp.net
「ううん、違うよ。ちょっと遊んでただけだよ」

「ほんとに?」

乱れていた制服を正しながら、何事もなかったと説明している花陽だけれど、その額には玉のような汗浮かべている。

顔が不自然に赤い上に、それだもの。説得力なんてないわよね。凛もそれがわかっているらしく、怪しむのをやめようとしない。

「……」

今もなお、たぶん私をジロジロと眺めているであろう凛。

背中にひっついているから顔は見えないけど、首のあたりにひしひしと視線を感じる。

ふん、ここは先輩として威厳を見せるところね。
418: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:05:24.84 ID:UKL9FWUp.net
「花陽のいう通りよ。ほら、いい子だからそろそろ離しなさい」

「にこちゃんのいうことは信用できないもん」

「ぬぁんでよ!信用しなさいよっ」

余りの言い草に、ぐがーっと吠える。

せっかく、心優しいにこにーが出来るだけ優しく声をかけてあげたってのに、すげなく突っぱねるなんて!

こうなったら実力行使で振り払ってやろうか―――そう考えた時、花陽のとりなしが入った。

「凛ちゃん。本当に遊んでただけだから、ね?」

「……かよちんがそこまでいうなら」
420: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:06:56.16 ID:UKL9FWUp.net
途端に、パッと手を離されて解放される私。なんか納得いかない。

私の言葉って、そんなに重みないかなぁ?

「ったくもー、苦しいじゃないの。……何回も助けてくれてありがとね、花陽」

「どういたしまして」

またもや助けてくれた花陽に感謝。ほんとーに、いい子だ。頭をなでてあげましょう。よしよし。

「えへへっ」

うん、目を細めて喜ぶ花陽に、ほのぼのとしてくる。

そうそう、これなのよ。私が求めているのは。それに比べて、凛ときたら。
421: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:08:10.08 ID:UKL9FWUp.net
「……」

未だに私をジーっと見つめている。いや、にらんでいるっていったほうがいいかも。

私が花陽を撫でるのが、そんなに不満?私だって花陽を可愛がりたいんだけど!……そんな想いを込めて、むむむーっとにらみ返す。

「にこちゃんのばかっ」

そうしたら、罵倒された挙句にそっぽ向かれてしまった。まったく、なんなのよ。

普段から、私にソンケーとかアコガレーとかする感じじゃないけどさ、それにしても酷い対応だ。

(凛に何かしたっけ……?)
422: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:09:29.26 ID:UKL9FWUp.net
最近の私達を思い返してみる。特に悪戯をした覚えも、意地悪をした覚えもない。

それどころか花陽や真姫ちゃんがいない時にだって、一緒にラーメン食べに行ったり、買い物にいったり、カラオケにいったりと、二人であれやこれや……。

(むしろ、めちゃくちゃ可愛がってるじゃない!)

脳裏に浮かぶのは、一緒に遊んでいる時の思い出。ふとした瞬間に、にぱーっと笑う凛の姿。

機嫌がいい時は猫の様にごろにゃんと甘えてきて、花陽並みにとは言わないけど、それなりに心を開いてくれたと思っていたのに。

それが今では、ツンケンツンケン、ふしゃー!って感じ。近づいたら噛まれそうな気さえする。
423: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:10:11.93 ID:UKL9FWUp.net
「かよちん、にこちゃんなんて放っておいて、部室いこっ」

「え……にこちゃん、助けてあげないと、」

「いいの!」

そういって凛は、半ば無理やり花陽の手を引いて歩きだした。

「ちょっと凛、待ちなさいよっ!」

何をそんなに怒っているのかわからないけど、花陽まで連れて行こうとしている。

文句のひとつくらい言わないと気が済まない。

「あんたね、何をそんなに怒ってるのかしらないけど―――」

空いてる方の手を掴んで、凛を引き留める。そして、無理やり振り向かせる。
424: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:11:20.52 ID:UKL9FWUp.net
「―――!?」

そして、思わず言葉を失ってしまった。なぜなら凛は不機嫌そうな表情なんてしていなかった。

そのかわりに、目尻に涙を溢れんばかりにして、口元を真一文字にきゅっと結んで―――泣きそうにしていたからだ。

「ちょっ、えっ?あんた、なんで……」

花陽も凛の様子に気がついたようで、凛の後ろでおろおろと慌てている。

「……にこちゃんは、凛にはなにもないの?」

言葉と共に、堰を切ったように涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。

私の問いかけが、最後の一線を超えさせてしまったらしい。
425: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:12:28.81 ID:UKL9FWUp.net
「凛だって、にこちゃんのこと早く助けてあげないとって、一生懸命探してたのに……それなのに、かよちんのことばっかり!」

悲しみと怒りが篭った言葉が、ぐさぐさと心に突き刺さる。

言われて気がつく。凛だって私のために動いてくれていたのに、感謝の言葉も言わなかった。

(さっきのは、ただ私をにらんでいたんじゃなくて……ありがとうっていわれるのを待ってたのね……)

汗をかきながら走り回って、帰ってきたら花陽と遊んでる私がいて、ほめてくれない上に、あまつさえ、にらみかえされる。

考えれば考える程、自分がしでかしたことの大きさがわかってくる。

凛が私に酷い対応をしていたんじゃなくて、私が凛に酷いことをしていたんだ。
426: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:13:36.87 ID:UKL9FWUp.net
「……ごめん」

「許さないもん!……手、離してよっ!」

掴んだ手を振りほどこうとする凛。だけど、絶対に振りほどかせない。ここで凛を行かせてしまうわけにはいかない。

私が泣かせてしまったんだから、私が笑顔に戻してあげないといけない。力を目一杯いれて、凛を引き寄せて抱きしめる。

「―――んにゃぁ!」

私の腕の中で、じたばたと喚きながらもがいている。背中を強めに叩かれているけど、気にせずに抱擁を続ける。

「花陽。少しの間、凛と二人きりにしてくれない?」
427: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:14:30.44 ID:UKL9FWUp.net
あたふたしている花陽に声をかける。

それでようやく落ち着きを取り戻してみたいで、こくこくと頷いている。でも、やっぱり心配そうに凛を見ている。

―――ちょん、ちょん

花陽に目配せしながら、自分の唇を指先で軽くつついて、その後に凛の背中を指差す。

花陽のことが可愛くて大好きなように、凛のことだって大好きだから、絶対に仲直りをするっていう意思表明だ。

「うん、わかった。……ふふ、いっぱい可愛がってあげてね?」

私の意図は無事に伝わったようで、花陽は微笑んでから、静かに教室を出て行った。

凛は暴れながらも花陽の言葉をきいていたみたいで、その言葉に反発している。
428: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:16:11.92 ID:UKL9FWUp.net
「やだっ!にこちゃんなんかに可愛がられたくない!」

下手なことをいえば、余計に刺激してしまう。沈黙したまま、凛が落ち着くのを待つ。

「ばか!ばかっ!ばかぁ……!」

「……っ」

背中がじんじんと痛む。既に青タンがいくつか出来ているのだと思う。

でも、叩いている凛の手だって痛いはずだし、そして心の痛みはもっと大きいはずだもの。

「はなしてよ……」

振り払おうとする力が弱くなってきている。言葉にも力がない。さっきまで荒かった呼吸音も静かになっている。

もう少しで、落ち着きそう。その時に向けて、なんて言おうか考えようとして、やめる。いうことなんて、最初から一つしかない。
429: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:17:11.24 ID:UKL9FWUp.net
「……」

ついに凛が沈黙する。体からは力が抜けて、私に身を委ねはじめている。

心のガードも、肉体のガードも緩んでいる。このタイミング。

すかさず凛の耳元に口を寄せる。そして、じわりじわりと心に染みこむように、優しく、甘く囁いた。

「私のためにありがとね。大好きよ」

ビクッと凛の体が跳ねる。だけど、それだけ。沈黙したまま、私の肩に頭をうずめている。

凛の様子を見るために、仕方なく少しだけ体を離そうとして―――がっちりと捕まっていることに気がついた。
430: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:18:38.55 ID:UKL9FWUp.net
「凛?」

どうしたの、というニュアンスで名前を呼ぶ。

そうしたら凛は、肩に頭をくっつけたままイヤイヤと首を振りはじめた。

ぐにぐにと肩が揺れる。耳に当たる凛の髪の毛がこそばゆい。

(これは……まだ足りないってことかしら?)

物は試し。先程花陽にしたように、凛の頭を撫でてみる。

「……にゃ」

反応あり。小さな呟きと共に、頭をごしごしと縦に動かしている。やっぱり、もっと可愛がれということらしい。

……ふふ、さっき可愛がられたくないっていったの、誰だったかしらね。
431: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:20:47.28 ID:UKL9FWUp.net
(ほんと、あまえんぼね。……そんなところも可愛いけど)

さらさらとした髪の感触と、凛のぬくもりを楽しむ。なんだか、凛のお姉ちゃんになった様な気がしてきた。

ずっとこうしていたいなーって思ったけど、花陽を待たせてるし……ううん、もう少しだけこうしていよう。そう思った時、凛が口を開いた。

「もういいよ、にこちゃん。……許してあげる」

お互いの顔が見える程度に体を離す。凛の表情をみれば、微笑んでいる。

「……許してくれるの?」

「うん!にこちゃん、凛のこと大好きっていってくれたから。凛だって、にこちゃんのこと大好きだもん。これでお相子だにゃ!」
432: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:23:18.07 ID:UKL9FWUp.net
言って恥ずかしくなってきたのか、えへへっ、と照れている。

ったくこの子は。可愛いこといってくれるじゃない。そんなこといわれたら、もっと可愛がりたくなっちゃうでしょう。

心の赴くままに、優しく凛を引き寄せる。こつんとおデコ同士をあわせて、凛のまんまるな瞳と目を合わせる。

「……にこちゃん?」

「ねえ、凛―――」

不思議そうに、私を見つめる凛。

ちょっと、あんた。こんなにあどけない凛に、一体何をしようとしているの。さっきまで泣かせていた癖に……そういう風に私を止める私は、既に消え去っている。

「―――キス、していい?」

「にゃ?キスって―――キス!?凛とにこちゃんが……?」
433: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:25:07.36 ID:UKL9FWUp.net
言葉の意味を理解した途端、とてもびっくりしている。

ま、そりゃそうよね。私だって今日まで、こんなことを言うようになるとは思ってなかったもの。

「ダメ?」

「そんなの……困るにゃあ……」

まあ、そう簡単には許してくれないわよね。凛は瞳を右に左にキョロキョロと動かして、私の視線から逃れようとしている。

でも、口では困ってるといっているけど、私から離れようとせずに顔を赤くしながらモジモジしている。これって、あと一押しよね?
434: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:26:17.80 ID:UKL9FWUp.net
「凛のこと、大好きなんだもん。凛は、私の事、嫌い?」

「ぅぅ……その言い方はずるいよ……」

今、私に嫌いって言えるわけがないとわかってる。だからこれは卑怯な物言いだ。

でも、これくらいしなきゃ凛は動いてくれないと思ったんだもの。

「……いいよ。でも、怖いから、ゆっくりしてね」

凛は、すうっと深呼吸をして、ゆるゆると息を吐いて。

ただでさえ緊張で赤かった顔を更に赤くして、しかし真っ直ぐと私を見据えながら言い切ってくれた。

「ふふ、あんたのそういうハッキリいうところ、好きよ」

思ってることをストレートにいう。毒舌だなんていわれることもあるけど、私は好ましく思ってる。
435: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:27:02.26 ID:UKL9FWUp.net
「……そんなに好き好きいわないでほしいにゃ」

あらら、目を逸らされてしまった。照れちゃったみたいね。

でもね、凛。そんなことされたら、もっと好き好きいいたくなっちゃうのよ?

くししと笑いながら、わるーい顔で、情感たっぷりに愛を囁く。

「りん、すきよ。だーいすき」

「もぉー!」

わざとらしく好きを連呼する私に、凛は頬を膨らませてぷんすかと怒ってる。

もちろん、本気で怒ってるわけじゃない。これはじゃれあってるだけ。証拠に、凛も私も、くすくすと笑っている。
436: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:27:47.64 ID:UKL9FWUp.net
「にこちゃん。……そろそろ、キスしてよ」

「え〜?もうちょっと凛と、こうやって遊んでいたいんだけどなぁ」

おデコをぐりぐりと動かしながら、もっとじゃれ合いましょうって誘ってみる。

だけど、凛は待ちきれなくなったみたいだ。

「かよちんを待たせちゃってるし……それに……」

「それに?」

「……ずっと、にこちゃんの唇にドキドキしちゃって……とってもつらいの」

はぅあ。あまりに愛らしい、その熱のこもった呟きは、弓矢に胸を貫かれた気がするほどに甘かった。

どうしてこう、うちの一年生達は私のツボを抑えてくるんだろう。いや、ツボなんて関係なく、誰だって虜になっちゃうか。
437: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:28:47.94 ID:UKL9FWUp.net
「わかったわ。……目、閉じてくれる?」

「うん……」

凛が両目を閉じるのを確認して、両頬に手を添える。未知の行為に、表情が強張っている。

そういうのも全部可愛いなと思う。緊張を出来るだけ解いてあげるために、優しく撫でる。

少しずつ、頬が柔らかくなっていく。もう、大丈夫かな。

「キス、するわね―――」

健康的な桃色の唇に狙いを定めて、ゆっくりと近づいていく。

凛を包む両手が熱い。凛が暖かいのか、私が熱を持っているのか。二人の温度は融け合っていて、自分でもわからない。
438: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:29:40.49 ID:UKL9FWUp.net
(あ、この匂い……汗の匂い)

あちこちを走り回っていてくれたんだから、汗をかくのも当然だけど。今更、汗の匂いを凛から感じる。

さっき抱きついていた時には、特に感じなかったのに不思議なものだ。

(嬉しいわ、凛)

自分のための匂いだと思うと、その想いは深まる。健康的な汗の匂いって実は結構好きだったりするし。

私のために、本当にありがとう。感謝の気持ちをのせて、凛の唇を甘く噛んだ。

「―――んっ」
439: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:32:13.63 ID:UKL9FWUp.net
ふにっとした感触。ぴくりと反応した凛を尻目に、軽く吸い付く。ぴりぴりとした刺激が走る。

「ふにゃぁ……んぅ……」

思い切って、舌先で唇をちろちろと舐めてみる。

凛の唇が湿り気を帯びてきて、てらてらと光りはじめた。

……なんだか、やらしいことをしている気分になってきた。

「にゃあっ、にこちゃん、舐めるの、やだっ……」

刺激が大きすぎたみたいで、体をびくびくさせながら顔を逸らされた。

よくみてみれば、目尻には涙が溜まっている。うぐ。やりすぎちゃったみたい。
440: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:33:50.31 ID:UKL9FWUp.net
「また意地悪しちゃった。ごめんね」

指先で涙をぬぐう。すんすんと鼻を鳴らす凛の頭を抱きかかえて、よしよしとあやす。

今日、やたらと経験値をためてきた私と違って、凛はたぶんはじめてだ。

それなのに唇を舐められてしまって、びっくりしちゃったんだろうと思う。

一回泣かせてしまっていたから、心のタガが緩みやすくなっていたというのもありそうね。

(そのことを考慮に入れてなかった。はぁ……)
441: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:34:37.85 ID:UKL9FWUp.net
凛自身のことを考えていなかったことに、自己嫌悪。

このまま続けてたら、きっと私は止まらなくなる。そうなれば、また、凛を泣かせてしまうだろう。

だからもう、終わりにしたほうがいいでしょうね……。

「凛、ありがとね。もう、花陽のとこ行きましょうか」

「うん……」

仲直りするといって席を外してもらった手前、恥ずかしいけれど。花陽に凛を慰めてもらおう。

そして更に泣かせちゃったことを、大人しく叱られて―――いや、花陽なら逆に叱らないかもしれない。

そっちのほうが私的にはつらいけど……それでいい。自業自得だもの。
442: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:38:03.25 ID:UKL9FWUp.net
「ほら―――凛?どうしたの?」

凛の手を引いて、歩きだして―――数歩歩いたところで、凛の手に引き止められた。

見てみれば、俯いたまま足を止めている。私が凛に向きなおると、ぽつぽつと話し始めた。

「……かよちんのところに行く前に、おデコにちゅーして欲しい」

それは想像だにしていなかった言葉だった。

さっきのことがあったのに、凛がおデコとはいえ、自分からキスしてほしいというなんて。

どうして?―――尋ねる前に、凛は答えた。
443: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:39:17.14 ID:UKL9FWUp.net
「泣いて終わりはやだもん。……唇は怖いから、おデコがいい」

そういって、凛は顔をあげた。どこか弱々しさを感じさせる笑顔。

精一杯の表情から、笑顔で終わらせようっていう、凛の想いが伝わってくる。

……まったく、あんたって奴は。このにこに、笑顔の大切さを思い出させるなんて。

「ありがとね、凛」

凛の前髪をかき上げる。うん、可愛いおデコだ。

おデコを見せる髪型も似合いそう……そんなことを考えながら、少しだけ背伸び。愛情を込めて、キスをする。
444: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:39:55.98 ID:UKL9FWUp.net
―――ちゅっ

体を離そうとして……そこにすかさず、凛の手がのびてきた。

有無をいわさずに私の前髪をかき上げる。わるい顔でにやーっと笑って、こういった。

「凛も、する」

―――ちゅっ

お互いの顔を見合わせる。そこにはもう、弱々しい笑顔の凛は居なかった。

いつもの、一緒に悪戯をしたり、遊びに行ったりする時の……私の大好きな凛がいた。
445: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:41:54.91 ID:UKL9FWUp.net
「えへへっ」

「ふふっ」

満面の笑みの凛を見ながら、思う。

今の私も、凛に負けないくらいの笑顔になってるんだろうな。

「ほら、かよちんのところに行こっ、にこちゃん!」

凛は、元気いっぱいに私を引っ張り始める。

……ああ、楽しい。反省してないっていわれちゃいそうだけど、やっぱり凛にキスしてよかったかも。

「はーやーくーっ!」

「はいはい、わかったから、そんなに引っ張らないでちょうだいよっ」

教室の扉を開く。

廊下に出て、花陽を探すと、少し離れたところにいた。扉の開閉音に気がついていたようで、笑顔でこちらに手を振っている。
446: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:42:50.72 ID:UKL9FWUp.net
「かよちーん!」

「ちょっ、もうちょいゆっくり……」

「……あれ?かよちん?」

凛の不思議そうな声に、花陽をみる。

変わらず、別に変わったところはないけど……?

さっきと同じように、手を振って―――んん?ううん、妙に手を振るのが早い。

それに振るっていうか、引き寄せようとしているかのような動きは―――。
447: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:44:12.57 ID:UKL9FWUp.net
「―――にこちゃん!後ろ!」

私の肩に、後ろから手がするするとまわってきて、ぎゅっと抱きしめられる。

そして背中に大きな弾力。幾度となく感じたことのある感触。

その度にぐぎぎっとなってきたのだから、忘れるわけがない。

ああ、ついにこの時が来たのね。今日くらいは、逃げられると思ってたんだけど。……ね、希。

「はろー、にこっち」

今日の晩ごはんの献立、何にしよう……。

どたどたと走ってくる二人分の足音を聴きながら、私は現実逃避を始めていた。
448: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/04(日) 21:44:43.88 ID:UKL9FWUp.net
8人目、終わり。
499: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 22:54:16.66 ID:FMZjmTXa.net
「にこちゃん捕まえたっ!」

私の右腕をがっしりとつかみながら、希から数瞬遅れてやってきた穂乃果が叫んだ。

「にこちゃんは渡さないにゃ!」

希達の登場に驚いていた凛だけど、負けじと繋いでいた左手を改めてしっかりと握る。

「にこっ!もう逃がさないからっ!」

ワンテンポ遅れてやってきた絵里が、穂乃果と一緒に右腕を抑えこむ。

「にこちゃんは私が守りますっ!」

さらに少し遅れて登場した花陽。当然のように凛と一緒に左手を握っている。

四人からは絶対に離さないという意思がびんびんと伝わってくる。もう、この時点で嫌な予感しかしない。
500: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 22:55:17.76 ID:FMZjmTXa.net
「ねえ、凛ちゃん、花陽ちゃん……。手を離してくれないかな?にこちゃん、連れていけないや」

「だめ!にこちゃんは、凛とかよちんと一緒にいるの!」

ぐいっと引かれる右腕。反発するように引き返される左手。

「……凛、花陽、聞き分けてくれないかしら?にこと少しだけ話があるのよ」

「にこちゃんは渡しません!」

ぐいぐいっと引かれる右腕。ぎゅーっと引っ張られる左手。

小競り合いのたびに、私の体は揺れ動く。少しずつ、双方の引く力が強くなる。なんかのお話で見たことあるわ、これ。
501: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 22:56:11.98 ID:FMZjmTXa.net
「穂乃果の!」「凛の!」「私のよ!」「私だよ!」

「ちょっとあんた達、そんなに引っ張らないで――――いたっ!あいたたっ!やめ、やめなさいよこらー!」

両方から力いっぱい引っ張られたら、当然こうなる。両腕が限界まで引っ張られて、とても痛い。

やめてー!といっているのに、誰もやめようとしないし。というか腕を引っ張るのに夢中で私の言葉を聞いちゃあいない。

「あはは、にこっち、このままやと半分こにされちゃうね」

「ちょっと!のんきなこといってないで、助けてよ!」

「えぇ〜。でもなー。うちも怒ってるんやけど〜?」
502: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 22:57:51.29 ID:FMZjmTXa.net
希は私の首に手を巻き付けたまま、楽しそうに様子を眺めている。

そんなこと言ってる場合じゃないっての!脱臼したらどうすんのよ!にこのぷりちーな腕が可哀想なことになっちゃう!

「いいからはやく!」

「……しゃーないなぁ。うちの奥の手を使って空気を和ませてしんぜよう」

そういって希は私から離れた。首に巻かれていた手も消えている。

しかし次の瞬間、二本の腕が私の腋の下を通って、前方に突き出された。指がワキワキと準備運動のように動いている。

それを見た私は思った。奥の手とかいっといて、結局いつものやつじゃないの!

「―――そーれ、わしわし〜!」

「ぎゃああああああああああ!!」
503: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 22:58:56.92 ID:FMZjmTXa.net



ぜえ、ぜえと息を弾ませる。まさに息も絶え絶え状態。

希に頼んだのは間違いだったかも。いつものやつだと思ったら、それどころじゃなかった。

怒っているというのは本当だったようで、例のアレもパワーアップしていたのだ。

「にこちゃん、大丈夫?」

「にこ、一人で立てる?肩、貸すわよ?」

怒っていたはずの穂乃果と絵里すら、優しい言葉をかけてくれるほどの容赦のない希のわしわし。

私の腕を引っ張る四人を落ち着かせることに成功していたけど、代償に私が負ったダメージは大きい。

この後、更に三人に何かされるのかもしれないと考えると、悲しみの果てにたどり着いたんじゃないかって気分だ。
504: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 22:59:43.77 ID:FMZjmTXa.net
「……ふぅ。大丈夫よ、自分で立てるから」

「にこっちって頑丈やねえ」

「うるさい」

希の言葉を冷たくあしらいながら、やっとのことで顔をあげる。

まず目に入ったのは、争う雰囲気ではなくなったせいで所在なさげにしている花陽と凛だった。

私を助けようとしていたんだから、褒めてあげなくちゃね。

さっきも教室で褒めたけど、褒めるにすぎるということはないのだ。

おいでおいでと手招きをして呼び寄せる。
505: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:00:48.14 ID:FMZjmTXa.net
「……?」

「にゃ?」

そろそろ近寄ってきた二人まとめて、力いっぱい抱きしめる。

少し腕が痛むけど、これは二人が頑張ってくれた証拠。なんてことはないわ。

「私が追われてたのは、私が悪いからだし。やっぱり、素直にお仕置きを受けることにするわ」

「……うん」

「にこちゃん……」

「ちょっと痛かったけど、私のためにありがとね」
506: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:03:57.86 ID:FMZjmTXa.net
もっともっと、ぎゅーっと強く抱きしめる。

本当はこれでも足りないくらい感謝してるんだからね。

「えへへ……」

「ふふ、苦しいよぉー」

……よし。二人からいっぱい元気をもらった。覚悟は出来た。今の私は最強よ!

「さぁ、希、絵里、穂乃果。好きなところに連れて行きなさい」

ばばん!と胸を張って宣言する。……なのに、反応は芳しくない。
507: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:05:56.52 ID:FMZjmTXa.net
三人は顔を見合わせて、こそこそと

「どうするの?」「そんな雰囲気じゃないわよね」「うちに考えがあるよ、当初の予定通りで」

……などと相談しあっている。あの、丸聞こえなんですけど?

「それじゃあ、部室にいこっか。実は、ことりちゃん達に集まってもらってるんよ」

「あ、そう、わかったわ。花陽、凛。行ってくるわね」

「花陽ちゃんたちも来てな」

……。

締まらないわね……。
508: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:06:57.35 ID:FMZjmTXa.net



「にこっち連れてきたよ〜」

中には、いっていた通りに、残りのメンバーが集まっていた。

まず目に入ったのは、ことり。

心配そうに私を見ていたけれど、険悪な雰囲気がないことに安心しているみたい。

そして次は、真姫ちゃん。なぜか不機嫌そうに睨みつけられた。怖い。

残るは海未。未だキスのショックが抜け切らないみたいで、ぼけっと天井を眺めている。これはこれで怖い。
509: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:08:32.57 ID:FMZjmTXa.net
「とりあえず、みんな座ろっか」

希の言葉のままに、自分の席に向かう。希は、全員が着席したのを確認してから話を切り出した。

「おほん。一連のにこっちの行動について、話し合いを始めたいと思います。

 えっと……まずは、事実確認からがいいかな。にこっち。うちにキスしてからのこと、全部話してくれる?」

「……わかったわ」

もう逃げる気はないので、正直に答えることに。

真剣な顔で、始まりの動機から、その結末までを詳細に語り始める。
510: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:09:58.28 ID:FMZjmTXa.net
「私がみんなにキスしだした最初の理由は―――」

始まりのキスの理由。そして、キスが心地よかったこと。回数を重ねるうちに、より強く満たされていったこと。

半ば暴走状態にあったことや、キスをした時の相手の表情や。途中からは、キスをするのが目的になっていたこと。

誰それには何回くらいキスをしたとか、どこそこが可愛かったとか、いい匂いがしたとか。そういうことも全部。

「―――で、花陽と合流しようとしたところで、希に捕まって、わしわしされて今に至る。これで全部よ」
511: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:11:42.82 ID:FMZjmTXa.net
そして、希から始まり凛に終わった、通り魔的キス行為を語りを終えて、みんなの様子を順番に見ていく。

希。少し顔を赤くしている。意外に初心なのよね、希。

絵里。ちょっと不満そう。本当に嫌がってたのに無理やりっていうのは、絵里くらいだもんね。ごめんね。

海未。羞恥の余りに頭をふらつかせている。ああ、そんなにふらふらしたら危ないわよ……。心配ね。

穂乃果。う゛ーとうなって、私を威嚇している。可愛らしい。
512: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:12:17.98 ID:FMZjmTXa.net
ことり。キスの時のことを思い出しているのか、にこにこと笑っている。あ、ウィンクされた。……末恐ろしい。

真姫ちゃん。不機嫌じゃなくなっている。語っていた時に何度も可愛いって褒めていたからかも。ちょろい。

花陽。意外にも、顔を赤くしていない。にこちゃんは仕方ないなぁって感じで、優しく微笑んでいる。

凛。真っ赤になって照れている。しかも、目が逢うと唇を隠した。あー、可愛い。
513: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:15:50.45 ID:FMZjmTXa.net
(この子たち全員にキスしちゃったのよね……)

夢中だったけど、振り返ってみれば凄いことやらかしちゃった……と考えていたその時。

―――ごん!

突然、部室内に鈍い音が響いた。

いよいよ限界を越えた海未が、机に頭を突っ込ませたみたいだった。

「海未ちゃん、大丈夫……?」

海未はぷすぷすと煙をあげながら、ひたすら『破廉恥です、破廉恥です』と呟いている。

ことりの心配そうな声に応じる声はなく、壊れたロボットのように、同じ言葉を垂れ流し続けている。

まあ、私が語っていた内容を思い返せば、海未には追い打ちかけてたようなものだしね。
514: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:18:21.44 ID:FMZjmTXa.net
「こほん。えー、とりあえず海未ちゃんは置いといて。にこっちが全部話してくれたから、次の話に移るけど……」

流石の希も、海未の様子には気勢をそがれたみたいだったけれど、話は続けるようだ。その辺りは本当にしっかりしている。

「今の話を聞いた上で、にこっちへの罰を決めようと思ってたんやけど……」

実際のところ、希はあんまり怒ってなさそうなのよね。穂乃果と絵里にしても同じ。

私がわしわしされたことで気が済んだのかもしれない。

「それぞれが別々にどうするっていうんじゃなくて、みんなで同じ罰を与えるっていうのにしたいんよ」

「みんなで同じ……?」
515: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:20:03.37 ID:FMZjmTXa.net
「うん。正直、うちらも、もうそんなに怒ってないし。うちら以上に怒ってる人もいなさそうやし。
 ただ、ケジメとして、みんなが同じ罰をして、この話は終わりにしたほうがいいんちゃうかなって」

「でも……罰なんて……」

ことり達が悩んでいる。

自分は、にこちゃんに迷惑をかけられたと思ってないから、罰を与えるのはためらう―――といったところね。

だけど、これは私が受けないといけないものだ。

有耶無耶にしてしこりを残すかもしれないより、スッキリ終わらせたほうがよっぽど良いもの。
516: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/14(水) 23:22:35.67 ID:FMZjmTXa.net
「みんなに迷惑をかけたことは事実だから気にしなくていいわ。わしわしはもう勘弁だけどね」

私の潔い言葉に、希がふふっと笑う。その笑顔に、少し黒いものが見えた気がする。

「それで、にこっちに与える罰の内容だけどね。にこっちにお願いを一つ頼めるっていうのはどうかな?もちろん、酷いことはなしで」

予想外の提案に、みんなが互いに顔を見合わせる。

まあ、それなら……と、ちらほらと頷きだしたメンバーをみながら、少なくとも、わしわしされることはなさそうだと安心していた。

―――それが、罠だとも知らずに。
534: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/19(月) 19:43:18.10 ID:qh/8C06I.net
20時投下にこ
537: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/19(月) 20:01:13.09 ID:qh/8C06I.net
ピピッ―――かちゃ。

「ふわぁ。……朝ね。起きなくちゃ……」

目覚まし時計へと伸ばしていた手を引っ込めて、もぞもぞと体を丸めて暖を取る。

でも、いつまでもそうしているわけにはいかない。少しためらってから、勇気を出して掛け布団をはねのける。

(……うぅ、やっぱり寒い)

軽い眠気と冷たくなる体。ふつふつと沸き起こる二度寝したい気持ちを強引に抑え込んで、ベッドから起ち上がる。

「よし。朝ごはん作ろっと」

ぱしん、と頬を軽く叩いて気合をいれる。

お仕事で疲れてるママのため。最高に可愛い妹達のため。

今日もおいしいご飯、作らないとね。

こうして、私の一日は始まるのだ。
538: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/19(月) 20:02:45.30 ID:qh/8C06I.net


マンションの廊下をてくてくと歩きながら、思考に耽る。

私こと、矢澤にこの朝はとても早い。自分でそんなことを考えてしまうほど、早い。

お肌のために早く寝ちゃうから、早く起きてしまう。

朝ごはんとお弁当を作らなきゃいけないっていう理由もある。

さらに、最近の私にはもう一つの理由が出来た。
539: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/19(月) 20:04:01.01 ID:qh/8C06I.net
「はぁ……なんで私がこんなこと……」

目的の場所に到着。いつものように愚痴とため息をひとつこぼしてから、ポケットから鍵を取り出す。

目の前の鍵穴に躊躇なく突き刺し、回転させる。かちゃり。扉ををあけて、慣れた足取りで中に入っていく。

何も言わずに、奥へ奥へと進んでいく。ここの住人はどうせまだ寝ているから、構わない。

(というか、だからこそ私が来てるんだけど……)

もう一つの扉をあけて、寝室に入る。

そこには、心地よさそうに眠りこけているそいつがいた。
540: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/19(月) 20:05:24.64 ID:qh/8C06I.net
「……すぅ……すぅ……」

うちの妹たちなんて、学校へ行く準備を全部終わらせて、ゆったりとテレビを見てる時間よ?

この時間に起きていないのは遅すぎるっつーの。肩を掴んで、ゆさゆさと体を揺らす。

「希、朝よ」

「……ん……にこっち……?」

「ほら、起きなさい」

「……やっ……」

一応、起きはした。でも、起き上がらない。いやいやと頭を振っている。
541: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ 2015/10/19(月) 20:06:33.41 ID:qh/8C06I.net
この後の展開は、いつも同じ。掛け布団で顔を半分隠して、可愛こぶりながら、こういうのだ。

「ちゅー、して」

……ってね。そう、キスの要求よ。困ったもので、これをしないと希は起きようとしない。

私は『毎朝起こしにきて』っていう『お願い』で来てあげてるのに。

それも、日課だった朝の趣味(アイドル)の時間を潰してまで。

だってのに、こいつはこれだもの。ちょっと腹が立ってきた。むんずと掛け布団を掴んで、引き剥がしにかかる。
542: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:07:42.52 ID:qh/8C06I0.net
「いいから起きなさい!」

「いややぁー!」

希は必死にベッドから出まいと全力で抵抗する。引っ張っても引っ張っても出ようとしない。

「おはようのちゅーしてくれな、おきひんもん!」

今度は掛け布団に全身を包み込んで籠城し始めた。ああもう、面倒くさくなってきた。このまま放置しとこうかな。

でも、そんなことしたら後々余計に面倒くさくなるのが目に見えてるし。そうなるとμ’sの活動にも支障が……。

(……どうせ、今日で最後じゃない)

『お願い』が有効な期限は今日までだ。だから、希にこんなことをいわれるのも、これで最後。
543: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:09:23.12 ID:qh/8C06I0.net
(せっかくなんだし……ね?)

そう考えてしまったら、もうだめだ。言い訳が、私を動かしてしまう。

私だって、本当の本当はキスしたいと思ってるんだもの。希に甘えられるのだって、嬉しいし。

だけど、あの日の反省から、出来るだけ我慢しようって決めたんだ。我慢できたこと、一度もなかったけど……。

「さっさと布団から顔出しなさい」

「やっ!」

籠城している希に声をかける。諦めて出てこいって意味じゃないわよ、バカ。

「……そうしないと、キス出来ないでしょ」

言葉を聞いた途端に、にょきっと布団から頭が生える。そして、嬉しそうに笑った。

「へへ、にこっち、好き〜」

「うるさい」

ちゅっ。
544: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:10:34.62 ID:qh/8C06I0.net


話は、私が暴走した日のにさかのぼる。

希の提案に、わしわしされることはないだろう、とホっと息をついたのもつかの間のこと。

次の瞬間、希から飛び出たお願いは、私の生活を激変させるものだった。

「にこっち、それじゃあ私のお願い。『毎朝、起こしに来て』」

ええ。その瞬間、部室に衝撃が走ったのがわかったわ。

言葉にするならば、『え?そういうのもありなの?』といった感じの。もちろん、私は速攻で拒否した。

だってそんなの、なんでもありになっちゃうし。期限ないし。大変だし。だっていうのに希ときたら。
545: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:11:41.88 ID:qh/8C06I0.net
「乙女の唇を奪っといて、そんなこというんや……酷い……」

涙を浮かべながら、ついでに黒いオーラを背負いながら、そんなこと言われたら反論しようがないじゃない。

本当に仕方のない『仕方ないわねー』で、嫌々そのお願いを受けることにしたの。

ただ、後悔があるとするならば。他のみんながいるところで、受け入れるべきじゃなかったということ。

「それじゃあ、穂乃果も……えへへ……』

「……にこには、報いを受けてもらわないとね?」

「凛も、にこちゃんにお願いしていいんだよね!えっとね、なんにしようかなぁ〜」

「ふふ。にこちゃんに何でもお願いできるんだぁ」
546: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:12:16.95 ID:qh/8C06I0.net
騒然とし始めた部室に、私は下手を打ったことに気がついた。

黒い顔で笑う穂乃果と絵里に、ウキウキと私へのお願いを考えはじめる凛。

闇が深そうな笑顔を浮かべることり。こら、何でもじゃないわよ。

花陽や真姫ちゃんも、どこかソワソワと目を輝かせている。ちなみに海未は壊れたままだった。

そしてそれから、私に色んな『お願い』が降り注ぐ中、なんとか出来たことは。

『お願い』の有効期限を、今日から一週間、と限定することだけだった。
547: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:13:36.89 ID:qh/8C06I0.net


「ごちそうさま。やっぱり、にこっちのご飯は美味しいわぁ」

「ただの卵焼きとお味噌汁でしょ」

「それがええんよ〜」

希はにこにこと笑いながら、私を褒める。まあ、感謝されて悪い気はしないもんよね。

なし崩し的に朝ごはんを作らされているとはいえ、そういうこといってくれるから作ってあげてるところもあるし。

あとはそうね。もう少し、ぱぱっと起きてくれたら満点なんだけど……って、なに点数つけてるんだろ。
548: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:15:00.43 ID:qh/8C06I0.net
「にこっちに『お願い』して良かったわ〜」

「ふんっ。あんたの『お願い』のせいで、こっちは大変な思いしてるんですけどー?」

毎日毎日、あの子達に振り回されてるのよ?休む暇なんてありゃしない。

ま、それも今日で終わりだけど。

「もう慣れたやろ?延長せえへんー?」

「なれないし、しない」

「それは残念。にこっちにこんなこと頼めるの、もうなさそうやしね」

「……っていうかさ。あの時のあれ、あんた狙ってたの?」
549: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:16:01.18 ID:qh/8C06I0.net
後から思ったこと。

それは希の怒りようだった。不自然だったっていうか、過剰だったっていうか。

絵里と穂乃果も、場をしきっていた希に上手く誘導されていたような気がする。

(そもそも、希は怒ってなんかいなかったんじゃ?)

最初から、私に『お願い』を受けさせるつもりで動いていたんじゃないかっていう、疑惑があった。

「ふふーん、なんのことかな〜」

この話を振っても、こんな風にふわふわとかわされちゃって終わるんだけど。

狙っていたといっても、キス前に考えていたということはないはずだし。キスの後に思いついたのでしょーし。

飄々とした笑顔の希を見つめながら思う。どういうつもりだったにしろ、底知れないやつ。
550: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:17:10.49 ID:qh/8C06I0.net
「うちは、みんなが幸せになれたらいいなーって思ってだけやん―――あたっ」

胡散臭いセリフを吐く希に軽くデコぴんをしながら、その疑惑にはフタをする。

実際のところ、どっちでも良かったりする。重要なのは、希が今どう感じているかということだし。

「……ほら、そろそろ身支度してきなさいよ。お皿は洗っとくから」

「え?……あ、もうこんな時間なんや。それじゃ、にこっちにお願いするね。ありがとうなぁ」

ひらひらと手を振りながら、お茶碗とお皿を持って台所へ向かう。

慣れた手つきでスポンジを手にとって、自分の自然な動きに、思わず吹き出す。

(ふふ、人の家の台所に慣れる日が来るとはね……。これもお願いのせいね)
551: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:17:51.98 ID:qh/8C06I0.net
狙っていたかどうか―――という疑惑の他に、一つ疑問があった。

『お願い』の意味。どうして『毎朝起こしにきて』なのか。

私はこちらのほうが気になっていたんだけど、今はもう気にしていない。その疑問はすぐに消えちゃったからね。

だって、毎朝のおはようのちゅーをめぐるやりとりとか、料理中の私を眺める希の様子とか、お喋りしながらの朝ごはんを美味しそうに食べる希とか。

とっても嬉しそうにしてる希を見てたら、誰だって理由がわかっちゃうもの。

「ほんと、寂しがり屋なんだから」

素直にいってくれてたら、『お願い』なんかじゃなくても毎朝来てあげるのに。

あんたが何も言わないから、私は踏み込めないんだ。

「もっと頼りなさいよ」

小さなつぶやきは、溶けるように部屋の中に消えた。
552: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:19:20.03 ID:qh/8C06I0.net


「早くしなさいよ!絵里、来ちゃうわよー?」

「ちょっとまってー。まだ見つからへん」

玄関の扉をあけて、いざ出発よ―――といったところで、希が忘れ物をしたことに気がついて、部屋に取りに戻っている。

そろそろ一緒に登校している絵里が、マンションの入り口に来て待ってる時間だ。いそがないと。待ちぼうけさせるわけにはいかないし。

「ないなぁ……。どこ置いたんやろ」

頼りない声が聞こえて来る。先に私だけ降りて、絵里と待ってようかしら。

でもなー、そうしたら希不機嫌になるし。

ううん、やっぱり、これ以上時間がかかるようなら先に私だけでも―――
553: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:20:10.34 ID:qh/8C06I0.net
「あった!」

―――と考えていたところで、目的のものを見つけたらしい。

どたどたと足音をたてながら、待たせてごめんなあ、と頭を掻きながら玄関に戻ってきた。

一応、聞いておきましょう。

「何忘れてたの?」

「タロットカードやけど?」

肩からどっと力が抜ける。別に忘れていいでしょ、そんなもん。
554: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:20:55.74 ID:qh/8C06I0.net
呆れていたら、表情からそれが伝わったらしい。口を尖らせて反論してきた。

「うちには必要なもんやの!」

「あっそ。……先に出るわね」

時間もないし、タロットカードの必要性の議論を続ける気はない。

希が靴を履くのに、私が玄関にいては邪魔になる。

外で待っておこうと、扉をあけようとして―――がしっ、と腕を掴まれた。

「にこっちも、忘れもんしてるよ?」
555: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:22:01.67 ID:qh/8C06I0.net
希はにやにや笑いながら、唇を突き出している。これは、いってきますのちゅーをしろ、ということだ。

夫婦みたいで恥ずかしいって嫌がったんだけど、昨日も一昨日もその前も、言い争ったあげくに結局やらされた。

(それに、いくらなんでも甘えすぎよ)

甘えられるのは嬉しいけれど、甘えすぎるのは許さない。

今日は厳しめでいきましょう。最終日だなんて関係ないわ。

時には冷たく突き放すことだって大事なのよ。……といっても、ちょっとした意地悪だけど。
556: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:22:45.31 ID:qh/8C06I0.net
「あんたが先に、いってらっしゃいのちゅーをするなら、ちゅーしてあげる」

希はいつも受身で、私からのキスを待っている。自分からは恥ずかしくて出来ないのだと思う。

だから今日こそは希からさせて、存分に赤面させてやろうという魂胆だったんだけど―――希は、迷いすらしなかった。

「いってらっしゃい、にこっち」

ちゅぅ。

「……少しくらい、ためらいなさいよ。バカ」

「ふふーん。だってうち、にこっちのこと大好きやしー?」
557: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:23:34.03 ID:qh/8C06I0.net
……ふん、無理しちゃって。

にしし、と悪戯っ子のように笑っているけれど、林檎みたいに赤くなってるのは隠せていない。

相当恥ずかしいのを我慢して、キスしてくれたみたいだ。約束通り、お返しをしてあげましょう。

「いってきます、希」

それに、私だって。

あんたの大好きに負けないくらい、あんたのこと大好きだっての!

―――ちゅっ。

そうして、誰が見ても小っ恥ずかしいであろうやりとりを経て。

私と希の最後の朝は、終わりを迎えた。
558: 名無しで叶える物語@10/11名前欄変更投票・詳しくは議論スレへ(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-cYps) 2015/10/19(月) 20:24:55.51 ID:qh/8C06I0.net
希編、終わり。
578: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:21:30.80 ID:6J62MDGY0.net
ざわ……ざわ……。教室の喧騒が私を包む。

そして、もうひとつ。むぎゅっと私の体を物理的に包んでいるものがあった。

「それでその時の亜里沙ったらね―――」

「あはは、それほんまなん?えりち話盛ってない〜?」

「……」

最初の頃は騒然としていたこのクラスも、今となっては慣れたもの。当然のように私達の様子を受け入れている。

人は慣れる生き物だものね。頭上で飛び交う会話を死んだ魚の眼で眺めながら、そんなことを考える。
579: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:22:35.52 ID:6J62MDGY0.net
「本当よ!ねぇ、にこは信じてくれるわよね!?」

むぎゅぎゅ。背中に当たるは、μ’s二番目の膨らみ。希の軽口にムキになって、私を強く抱きしめているのだ。

……そう。絵里は大きいぬいぐるみを扱うかのごとく、膝の上に私を抱っこしているのだ。

「あーそうね、私は信じるわ」

私の適当な答えに絵里は、パァッと笑みを咲かせる。むぎゅっむぎゅっと、より強く抱きしめる。

たまに頬ずりも混ぜながら。……ちょっと苦しい。
580: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:24:05.19 ID:6J62MDGY0.net
「さすがにこね!」

むぎゅぎゅぎゅぎゅ。

ほらみなさい、とばかりに希に向き直った絵里は、亜里沙ちゃんの話に戻る。

何がさすがなのかわからないけど、満足はしてくれたらしい。一瞬、希が哀れみの視線を向けてきた。

……こっちみんな。

(あー、早く休み時間終わらないかな……)
581: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:25:03.81 ID:6J62MDGY0.net


絵里の『お願い』。

それは見ての通りに、私を『抱っこ』することが出来るというもの。しかも、場所を構わず、時間を問わずによ。

まあ、といっても実際は、他の子たちとの兼ね合いもあって休み時間の間だけだけど。

(ひと目につかないところでやるなら、文句なんてないんだけど)

移動している時間がもったいないという理由で、教室で行われているになってしまった。これが私には不満だった。
582: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:25:58.95 ID:6J62MDGY0.net
(座り心地はいいけどね)

絵里の体にぐにぐにと体重を預けながら考える。

当然のことだけど、こんなことを人目のある教室ですれば注目の的になるわけで……。

今となっては静かなものだけど、最初はわざわざ他の教室から見に来る子が出たくらい、変な目で見られていて非常に恥ずかしかった。

(なんでこいつ平気なの……)

絵里とは別のクラスだから、休み時間になる度に私から教室を移動しなくちゃいけない。

自ら抱きかかえられにいくっていうシチュエーションが、微妙な気分を更に加速させる。
584: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:26:56.86 ID:6J62MDGY0.net
(絵里だって恥ずかしい癖に)

真面目で、綺麗で、下級生の憧れの的である絵里だって、こんなのは恥ずかしく思うに決まっている。

だからやめましょうよって言っても、絵里はやめようとしない。

『私だって恥ずかしいけど、にこを辱めるほうが大切なの』とかいって笑うだけ。

(復讐なら、他にだってあるでしょうに)

私は、一緒に恥ずかしい思いをしなくてもいいのにってことを言いたいのよ。
585: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:28:32.99 ID:6J62MDGY0.net


「いってらっしゃーい」

希のそれを聞くのは今日で2回目ね、と思いながら、繋がった手から意識を遠ざける。

今は三限目で、体育の時間。今日は週に一度の、絵里と希のクラスと合同で授業を受ける日だ。

それはつまり、休み時間以外で、私を抱っこできる可能性がある唯一の時間ということでもあった。

(まさか、絵里がここで仕掛けてくるなんて)
586: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:30:42.29 ID:6J62MDGY0.net
授業が始まって、ある程度自由になった途端

―――要するにサボってもバレにくくなった途端に、『ついてきて』と絵里に手を引かれている。

希が大人しく見送っている辺り、これは計画的な犯行なんでしょうね。

周囲の子も『きゃーっ』とか『ついに……!』とかいって見てるだけ。

「元生徒会長ともあろうものが、授業サボっちゃっていいのかしらねぇ?」

「……」

嫌味ったらしい私の言葉も、まるっと無視された。反応がないって虚しい。

やりとりをしている合間も、私の手を引っ張ってずんずんと歩いて行く。
587: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:31:53.73 ID:6J62MDGY0.net
(どこに連れて行かれるのかしら。絵里はずっと無表情だし……)

もしかして校舎裏にでも連れて行かれて……やめとこ。あんまり考えないようにしましょう。

「さあ、ここよ」

立ち止まって、振り向いた絵里がいう。周囲を改めて見てみれば、見覚えのある場所だった。

薄暗い空間。周囲からは見えにくくて、階段の裏。秘め事をするにはうってつけの場所。

……そう。そこは、私が絵里に襲いかかった場所だった。
588: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:32:51.89 ID:6J62MDGY0.net
「ここって……」

「見覚えあるわよね?」

にこっと微笑んでるけど、目は笑ってない。思ってたより本気で恨まれてるのかもしれない。

ああ、どうしよう。私、ヤキいれられちゃうのかしら……。

「もっとこっちにきてよ、にこ」

あの時のように壁の近くにたっている絵里の、私を呼ぶ声。思わず、ビクッとしてしまう。
589: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:33:19.35 ID:6J62MDGY0.net
その小動物的な動きが面白かったみたいで、絵里はくすくすと笑い始めた。

「そんなに怯えないで。酷いことなんてしないわよ?」

そういう約束だしね、という呟き。そして、おもむろに絵里はその場に腰を下ろした。

展開についていけない私を他所に、今度は本当の笑顔でニヤリと笑った。

「ただ、『お願い』を果たしてもらうだけよ」
590: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:34:54.82 ID:6J62MDGY0.net


むぎゅぎゅと背中に当たる感触。何度味わっても慣れることがない現実。

不愉快。圧倒的に不愉快よ。いくら心が広大な私といえど、許せること許せないことがある。

「ふんふんふーん」

そんな私を尻目に、絵里は上機嫌で鼻歌を口ずさんでいる。私のぷりちーなふくれっ面を気にする様子はない。

これがいくら償いのためのものだとしても、文句の一つでもいいたいところ。……うん、そうよ。いってやればいいのよ。
591: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:35:42.66 ID:6J62MDGY0.net
「ねえ」

「ふんふふー……どうかした?」

「なんでこんなとこまで来て、これなの。サボってるのがバレたら、にこまで怒られるんですけど?」

結局やることが同じなら、わざわざ授業中に抜け出してくるような場所じゃないでしょ。

さっきから抱っこしてるだけで、改めて何かをいってくるわけでもなさそうだし。
592: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:36:16.93 ID:6J62MDGY0.net
「だって……」

ちょっと拗ねているような口調。

「あの時は、にこに置いて行かれたから」

「……?」

よくわかんないって顔でぼけっとしていたら、どんどん拗ねている声になってきた。

「動けない私を置いて行っちゃったじゃない……こんなところに、私一人……」

「……それはその……」
593: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:37:37.39 ID:6J62MDGY0.net
いやね?あの時は他のことで頭がいっぱいだったのよ。

次は誰にどうやってキスしようかなーってね……って、こんなこといったら余計に拗ねてしまう。

何をいえばいいのかわからなくなって、口ごもってしまう。そんな私を見て吹き出した。

「ぷっ……うそうそ、今のはうーそ」

「……なによそれ。焦って損した」

質の悪い冗談だわ。もう少しで土下座の体勢になるところだったじゃない。

絵里は、私の慌てようが面白くて仕方がないといった感じでからからと笑いながら、理由を説明している。
594: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:38:23.29 ID:6J62MDGY0.net
「本当はね。二人きりになれる場所って、ここくらいしかないなって思ったから来ただけよ」

「そんなの、部室でも屋上でも良かったじゃない」

ここしかないって何をいってるの?他にもいっぱいあるでしょ。

わざわざ苦手な場所を選ばなくたっていいのに。授業中で人だってこないんだし……。

「部室と屋上は、みんなとの思い出が多すぎるもの。本当に二人きりになれた気がしないわ。だけど―――」
595: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:42:07.53 ID:6J62MDGY0.net
ぎゅっと抱きしめる力が強まる。金色の髪が視界で揺れ動く。

そして耳元に、熱い空気を感じた。

「ここは、私とにこだけの、思い出の場所でしょ?」

甘い囁き。どくんどくんと脈が早鐘を打ちはじる。どうしようもなく顔が火照りだす。

ちょっとカッコよく決めただけで、こんなにも人の心を動かせるなんて、絵里はずるい。
596: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:43:18.96 ID:6J62MDGY0.net
「あんた、誰にでもこんなことしてるんじゃないでしょうね?」

妬み半分、照れ隠し半分。ぶっきらぼうに忠告。

絵里は、自分が同性から見てもかっこ良い存在だっていう自覚がないのかもしれない。

(私だって、少し、ときめいちゃったもの……)

今みたいなことを誰彼なくしているのだとしたら……考えるだけで恐ろしい。

どれだけの女の子たちの涙が流れたか。
597: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:45:11.61 ID:6J62MDGY0.net
「こんなこと、ねえ……?」

「今みたいな思わせぶりな行動は罪なんだからっ」

だっていうのに絵里ときたら、含みをもたせた言葉と、どこか挑発的な笑みを返してきた。

さらに、こんなことまで。

「もしかして。にこってば、私にドキドキしちゃった?」

「……。そんなわけないでしょ!」

「でも、にこがそう感じてないと、そんなこと言えないわよね?」
598: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:46:10.04 ID:6J62MDGY0.net
うぐ。図星をさされて、顔が熱くなってくる。……この話は続けないほうがよさそうね。

このままだと、本人を目の前にして、あなたにドキドキしてしまいましたって言わされかねない。

そんなの恥ずかしすぎる。絶対回避よ!

「とにかく!相手を勘違いさせるようなことは慎みなさい!わかった!?」

「……そうかしら?」

「そーなの!」
599: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:47:29.81 ID:6J62MDGY0.net
無自覚っていうか鈍感っていうか。まったく、こんなこといわせないで貰いたい。

スクールが頭につくとはいえ、アイドルなんだから、もっと気をつけて欲しいものだわ。

そう呆れていたら、静かに、しかしハッキリとした呟きが聞こえた。

「でも、最初に勘違いさせたのは、にこよね?」

「はっ?」

聞き返そうとするよりも先に、絵里は急に起ち上がる。膝の上にのっていた私は押し出されて、尻もちをつく。

反射的に文句をいおうとしたら、その前に引き上げられて、壁に押し付けられた。
600: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:49:40.29 ID:6J62MDGY0.net
「人気のないところに連れて行かれて、もしかして本当に告白されちゃうのかもってドキドキして、挙句の果てにはキスまでされたのよ?」

怒涛のごとく吐き出される言葉。ぐるぐると目が渦巻いている。

「え、絵里……?」

「勘違いしちゃって、にこのこと意識しちゃってもおかしくないわよね?この一週間、抱きしめるだけで我慢してたんだし?」

思考が混乱する。待って待って。

絵里、ずっとそんなこと考えてたの?しかも意識って……。
601: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:50:07.27 ID:6J62MDGY0.net
「それにこんなこと、にこにしかしないから安心してね―――?」

「絵里、ちょっ、ちょっとまっ」

底知れない笑顔で接近してくる絵里に、抵抗しようとするも、力で抑えこまれ。

考える時間をちょうだい、と伝えることも出来ずに。

「んむぅ―――!」

私の世界は、絵里に埋め尽くされた。
602: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:50:42.42 ID:6J62MDGY0.net


むっすー。

「ごめんってば」

むすすー。

そんな謝り方じゃ私の気は晴れない。蹂躙された乙女の心は、そう簡単には治らないのだ。

「そんなに怒らなくても……。にこだって私に無理やりしたじゃない」

「絵里だってそれで怒ったんだから、私も怒るわよ!」

「……う」
603: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:51:35.90 ID:6J62MDGY0.net
ふん。論破してやったわ。にこ、賢い。絵里、賢くない。

これからはかしこいかわいいは私のものよ。

「にこ、本当にごめんなさい」

そういって、むぎゅっと私を抱きしめる。許す許さないの前に、まずは抱っこをやめてほしい。

絵里は思う存分にキスを楽しんだ後、放心状態だった私を抱っこしはじめて。

そのまま私に許してだとかなんとかいってるのだ。

誠意が足りないわよね、誠意が。
604: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:52:42.79 ID:6J62MDGY0.net
「もうこれで『お願い』は終わりでいいから」

しゅん、と項垂れる気配が伝わってくる。

自分から期限を短くするなんて、本当に反省してるみたいね。

「ふん。……そこまでいうなら、許してあげる」

「ほんとうっ?」

嬉しかったのか、抱きしめる力が強くなる。

こうやって体を密着させていると、絵里が考えていることがより伝わってくる気がする。
605: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:53:12.65 ID:6J62MDGY0.net
(こっちまで嬉しくなってくるけど、そろそろ時間切れよ)

いつまでもこうして、絵里に抱っこされてるわけにはいかない。サボってるのがバレる前に、戻らないと。

先生には既にバレてるかもしれないけど、希が必死に誤魔化してるかもだし。

「ほんと。……さ、もういいでしょ」

するっと腕の中から抜けだして立ち上がる。

絵里も時間が時間なのがわかっているのか、渋々頷く。
606: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:53:56.14 ID:6J62MDGY0.net
(これで、私と絵里の時間も終わりね)

だっていうのに。いえ、やっぱりっていったほうがいいかもね。

自分からこれで終わりでいいって言い出した絵里が、悲しげにしている。

(私は本当にこれで終わらせるわよ)

でも。

最後にこんな顔をされたら、それはそれで矢澤にこの名が廃るってものだし。

私の虜になっちゃった絵里に、特別にファンサービスをしてあげなくもない。
607: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:54:33.88 ID:6J62MDGY0.net
「絵里、こっち向いて」

あの時みたいに、指と指を絡める。

驚きの声をあげようとした絵里を、満面のにこにースマイルで封じ込める。

一応、念の為に聞いておきましょう。

「これは、合意の上よね?」

言葉の意味を徐々に理解して、顔が赤くなっていく。

碧眼を伏せながら、おずおずと答えた。

「……うん」

私達の影が重なって、薄暗い空間へと溶けていく。

残ったのは、荒い息遣い。そして、衣擦れの音だった。
608: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-c+Vo) 2015/10/24(土) 14:55:39.41 ID:6J62MDGY0.net
絵里ちゃん編終わり
次から複数人が出てきたりするにこ
641: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:09:58.22 ID:QJ1qZeNn0.net
「にこっち、いってらっしゃ〜い」

三度目のその言葉をきいて、苦笑する。もしかしたら希は、私を送り出すのが好きなのかもしれない。

そんな馬鹿なことを考えてしまうくらい、嬉しそうに手を振る。将来、希の旦那さんになる人は、きっと幸せになれることだろう。

「ほら、えりちも!」

「……私はやめとくわ……」

絵里は体育の時間以降、まともに目を合わせてくれない。

ちょっとファンサービスしすぎたみたいで、私の顔を見るたびに真っ赤になってしまう。
642: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:10:26.39 ID:QJ1qZeNn0.net
「え、なんで?にこっちいってまうよ?」

「……私はいいの……」

「にこっち、ちょっと待っててね。えりちは素直になられへんだけだから!ほら、えりち!」

「だからいいってば……!」

そして、そんな絵里を無理やり私の方へ向かせようとする希。その情熱はどこから来るのか。

部室に行く途中でなんとなく寄っただけなのに、二人のやり取りが続くせいで離れられないじゃない。
643: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:11:21.73 ID:QJ1qZeNn0.net
「お昼休みに、せっかく来てくれたんよ?」

「でも……」

うじうじと、丸聞こえな話し合いをしている二人。結局するのかしないのかハッキリしてほしい。

あの子たちが部室で待ってるんだから、早くしてよね。

「にこっち、ずっと待ってくれてんで?」

「……恥ずかしいんだもの……」

もう、無視して行っちゃおうかしら……。
644: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:12:17.79 ID:QJ1qZeNn0.net


「にこちゃん、遅いよー!」

「ごめんごめん」

「……なにしてたのよ」

「まあ、ちょっとね」

扉をあければ、ふくれっ面の凛と、ぷいっとあらぬ方向を見つめている真姫ちゃんがお出迎え。

私が遅れてしまったから、ご機嫌斜めのようだ。凛の隣に座っている花陽は、二人とは対照的に微笑んでいる。
645: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:13:00.62 ID:QJ1qZeNn0.net
「ふふ。凛ちゃんも真姫ちゃんも、ずっとにこちゃんはまだかー、まだかー、ってそわそわしてたもんね」

「へぇー。……そうなの?」

それを聞いて、二人を窺ってみる。

自分がそんなに待ち望まれていたんだって思うと、ちょっとどころでなく嬉しい。思わずニヤけ顔になってしまう。

「かよちん!それいっちゃだめ!」

「花陽!」

「えへ。もういっちゃった」

二人揃って顔を真っ赤にして否定。たくもー、可愛い反応するんだから。
647: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:15:00.34 ID:QJ1qZeNn0.net
「そんなことより、にこちゃん!凛、お腹減った!」

強引に凛が話を打ち切って、手を差し出してきた。改めて三人の様子を観察する。

お揃いで買ったとかいうランチョンマットを机の上に敷いて、それぞれお弁当と飲み物をセット済み。

ただし、凛のマットの上には水筒しか置いていない。でも、それは当然のこと。

「はいはい、ちょっと待って」

大きめの手提げ袋から、お弁当を取り出す。自分の分ともう一つ。凛の分だ。

お昼休みは、まず凛の『お願い』から始まる。にこにーお手製弁当を私と一緒に食べたいっていう、控えめで可愛らしいものだ。
648: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:16:28.47 ID:QJ1qZeNn0.net
「はい、これ。味わって食べなさいよー?」

本当は、今日も喜んでくれるかなってドキドキしていたりするけど、それは秘密。

なんでもない顔で、猫ちゃん型の可愛らしいお弁当箱を手渡す。凛は渡されるやいなや、蓋をあけて中身を確かめはじめた。

「あ、お魚はいってるにゃあ……」

凛は魚の登場でみるみるテンションが下がりはじめた。苦手だもんね、魚。

私のお弁当は、基本的に前日の夕食の残り物と、朝に簡単に作ったもので構成されている。

凛のために、魚抜きで凝ったものを作ってもよかったんだけど、当人が『にこちゃんがいつも食べてるのがいい!』だそうで。

そうなると、凛が苦手としている魚が入ることがある。でも、ちゃんと対策はしてある。
649: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:17:17.62 ID:QJ1qZeNn0.net
「安心しなさい、凛。あんただって美味しく食べれるようにしてあるから」

「ほんと?」

「ほんと!……ま、見た目でダメなんだったら、他のおかずと交換してあげるけど」

「……。ううん、凛、頑張って食べる。にこちゃんのいうことだから……信じてみる!」

その意気やよし。苦手を克服しようとしてこそ、真のアイドルになれるってものよ。

うんうん、と頷いて、凛の頭をぽんぽんと優しく叩く。にこっと笑った凛に笑顔を返しながら、自分のイスに座りってお弁当を広げて、準備良し。

三人を見れば、私の合図を待っている。さてと、それじゃ頂きましょう。手と手を合わせて―――

「いただきます」

「いただきます!」「いただきますっ」「……いただきます」
650: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:19:28.12 ID:QJ1qZeNn0.net


ふるふるふる……。凛が持つお箸の先で、鰯が震えている。ちなみにこれは、鰯の生姜煮という料理。

「凛ちゃん、もうちょっとだよ!」

「……うん」

凛が苦手としているのは、魚の骨。だから圧力鍋を使って、骨がふにゃふにゃになるように調理してある。

こうすれば丸ごと食べられるし、骨が喉に刺さったり、嫌な感触を与えたりすることもない。それになにより、安くておいしい。
651: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:20:06.77 ID:QJ1qZeNn0.net
「にゃっ……にゃあ……!だめだにゃ……」

とはいえ。大丈夫だっていわれたからと、躊躇なく食べられた―――とならないのが苦手意識というもの。

数回目のチャレンジも失敗。凛は口に運ぶのを諦めてしまって、鰯を元の場所に戻した。

見守っていた花陽は、残念そうにため息をついている。真姫ちゃんは早々に見てらんないと見切りをつけて、黙々と自分のお弁当を食べ進めている。

「凛。無理して食べなくてもいいのよ?それ、肉団子と交換しない?」

「……食べるもん!」

だからといって交換を提案すれば、こうして頑なに断られてしまう。

食べようって気持ちは嬉しいけれど、苦しませたかったわけじゃないから複雑だ。
652: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:20:46.13 ID:QJ1qZeNn0.net
「口にさえ入れば、凛ちゃんも普通に食べれると思うの」

花陽の語るところによれば。凛は、パッと見で骨がないお刺身とかお寿司は食べられるし、味とかニオイも平気だそうで。

ただ、見た目が魚そのものな食べ物は、その時点で拒否反応が出てしまうとか。

(鰯の生姜煮は……もろに魚!って感じよね)

ちなみに、見ながら食べるのが無理なら、目を閉じて食べればいいじゃない!という発想はもう試している。

結果は失敗。既に鰯の姿をじっくりと見た後だったから、それが頭から離れなくて無理だったみたい。
653: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:21:26.65 ID:QJ1qZeNn0.net
(どーしたもんかしら)

凛を見れば、お箸で鰯を突っつきながら『にゃぁぁ……』と呻いている。

普段の私なら行儀が悪い!と叱り飛ばすところだけど、悲壮な雰囲気を纏っている今の凛にはいいにくい。

どうにかして食べさせてあげたいんだけど、どうすれば―――

(自分で食べるのが無理なら、食べさせてあげればいいじゃない)

簡単に試せることを、まだやっていなかった。私が口まで運んであげればいい。

そこまでして無理だったら、諦めもつくでしょうし。そうと決めたら即実行。お弁当を持って、凛の隣の席に移動する。

私の急な動きに一年生たちは目を丸くしている。まあ、見てなさいな。
654: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:22:02.84 ID:QJ1qZeNn0.net
「……にこちゃん?」

不安げな表情で私を見る凛に、件の料理を差し出す。

「はい。あーん」

「ええっ……恥ずかしいよ……」

「いいから、ほら。早く」

日常的に花陽に食べさせて貰ったりしてる癖に、私相手だと恥ずかしいらしい。

じれったくなって、更に口元に近づけてみる。やっと覚悟を決めたみたいで、ぱくりと食いついた。

とりあえず、もぐもぐと咀嚼はしている。私自身はおいしく作れたと思ってるけど、凛にはどうかしら。
655: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:22:42.43 ID:QJ1qZeNn0.net
「……どう?」

緊張の一瞬。花陽と真姫ちゃんも固唾を飲んで見守っている。

凛は、ごくりと飲み込んで、そして―――目を輝かせながら、叫んだ。

「にこちゃん!これ、おいしい!」

「……それはよかったわ」

ほっと息をついて、一安心。

今日が最後のお弁当だったし、食べてくれて本当に良かった。
656: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:24:56.88 ID:QJ1qZeNn0.net
(問題解決。よし、自分のお弁当食べよっと)

まずは卵焼きから食べよう―――とした時、くいっくいっと袖が引かれているのに気付いた。

引くことが出来るのは、隣に座っている凛しかいない。

視線を凛にあわせれば、ペカーって感じの明るい笑顔で、口を開きながら何かを待っている。

何かっていうか、次の『あーん』を待ってるんでしょうね、これ。

「まだ、自分じゃ無理だもん」

面倒だし、何回もやるのは恥ずかしいし、早く自分のお弁当食べたいの。

いくつもの拒否するための言葉が浮かんでは、凛の笑顔の前に消えていく。結局、私がとる行動は一つだけ。

「ったくもー、しょーがないわねー」

生姜煮なのに、しょうがないとはこれいかに。

そんなアホなことを考えながら、二回目の『あーん』をする私。感謝しなさいよね。
657: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:26:04.52 ID:QJ1qZeNn0.net


じー。

凛に幾度目かの『あーん』をすませた頃から、視線をビシビシと感じている。

それも、机を挟んだ反対側から。つまり、真姫ちゃんから飛んできている。

(いいたいことがあるなら、さっさといいなさいよね)

どうせ、私にも『あーん』しなさいよってことなんでしょうけど。

あえて私からは何もいわない。自分からいうまではスルーよ、スルー。
658: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:27:10.91 ID:QJ1qZeNn0.net
「にこちゃん、凛も食べさせてあげる!はい、あーん!」

見なさい。凛なんて自分から『あーん』をしてくるくらい積極になったわよ?真姫ちゃんも見習いなさい。

「あー……ん」

口を開いたところで気がついた。年下に『あーん』されるのって結構恥ずかしい。

「あれ?にこちゃん照れてるの?かわいーとこあるにゃー」

「うっさい」

「うにゃあっ」

放り込まれた鰯を咀嚼しながら、けらけらと笑って調子に乗る凛にチョップ。

そしたら頭を抱えて『痛いにゃー』とかいいながら花陽に抱きついた。あんたそれ、花陽に抱きつきたいだけでしょ。
659: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:32:28.51 ID:QJ1qZeNn0.net
「ねえねえ、にこちゃん。おかず交換しない?私も、それ食べてみたいんだ」

凛の頭をよしよしとなでながら、花陽は私に提案する。もちろん、オッケーだ。

「いいわよ。お弁当箱から、とって……」

お弁当箱から直接取って貰おうと花陽を見れば、そこには口を開けて待っている花陽がいた。

もう、はいはいわかりましたって感じで苦笑するしかない。

「あーん」

「あーん。……えへへ、おいしっ」

ぱぁっと咲いた笑顔に、しみじみと癒される。花陽はまっすぐに素直だから、安心して可愛がれる。
660: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:34:10.79 ID:QJ1qZeNn0.net
「にこちゃん。お返しは何がいい?」

「えーと、そうね……里芋の煮っ転がしで」

「うん、わかった。はい、あーん」

「んー、あぐっ」

恥ずかしいだのどうのこうのを考えるのはやめて、無心で里芋に食らいつく。

もぐもぐ……。うん、柔らかさも、味付けもいい感じだ。

「おいひい。甘めなのがいいわね」

「ほんとう?にこちゃんが褒めてたよって、お母さんにいっておくね!」

「お願いだからやめて」

本物の主婦の料理に、『褒めてた』って上から目線すぎるわよ。
661: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:35:23.58 ID:QJ1qZeNn0.net
「かよちん、凛にもそれちょーだい!」

「ふふ、ちょっと待ってね」

凛はがばっと起きあがるなり、そういった。

ひとしきり花陽を堪能して満足したのかと思ったら、今度は食べさせてもらいたいらしい。

ほんとやりたい放題っていうか、凛は根っからの末っ子っていうか。一年生を姉妹に例えるなら、三女に凛は決定ね。

長女はしっかりものの花陽にやってもらいましょう。となれば、残るは二女は当然、真姫ちゃんね。

(さて、その真姫ちゃんはというと――――)
662: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:38:03.76 ID:QJ1qZeNn0.net
先ほどまで机の反対側にいたんだけど、既にそこには姿はない。

花陽に『あーん』をしたあたりで、席を立つ音は聞こえていた。そして、私の隣に座る音もだ。

現在の机の着席状況はこうよ。花陽、凛、私、真姫ちゃんの順に、片側に四人が座っている。……バランス悪いわね。

そして、私は凛のほうに体を向けているから、ちょうど真後ろに真姫ちゃんがいるはず、というわけだ。

(正直、見るのがちょっとこわいのよね)
663: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:39:41.15 ID:QJ1qZeNn0.net
熱い視線をスルーしていたから、もしかしたらものすごく拗ねてるかもしれない。それが恐ろしい。

とはいえ、ずっとこうしてるわけにはいかないし……。ええい、女は度胸よ!一息に、くるりと後ろへ振り向く。

「ひゃっ!」

「……」

びっくりしたぁ。なんとそこには、口を開けっ放しにしている真姫ちゃんがいた。

振り向いても、沈黙したまま私をにらんでいる。しかしよく見れば、瞳は少しだけ潤んでいる気がする。

(もしかして、ずっと口をあけて待ってた……?)

いやいや、そんなこと―――真姫ちゃんならやりかねない……。

普段なら絶対しないだろうけど、凛と花陽には私から『あーん』したから、ムキになって何もいわずに待っている、というのは大いにありうる。
664: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:40:06.59 ID:QJ1qZeNn0.net
(とりあえず、何か食べさせてあげよう)

こんな時のトマト頼り。トマトトマト……ああ、今日入れてこなかったんだった。

仕方ない。鰯の生姜煮で我慢してもらいましょう。最後の一尾よ、もってけ真姫ちゃん。

「真姫ちゃん。あーん」

「……あーん」

素直にぱくりと口に含む。もぐもぐ、と咀嚼して、ごくんと飲み込んだ。

そして数秒後に、ふにゃっと表情が柔らかくなった。
665: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:41:15.74 ID:QJ1qZeNn0.net
「おいしい」

「ふふん。まあ、私が作ったんだから当然よね」

ドヤ顔でそんなことをいいながら、内心は口に合って良かったーってドキドキバクバクだ。

鰯の力……というより『あーん』の力で、みるみるうちに機嫌を直した真姫ちゃんは、自分のお弁当を手に持ち私に笑いかける。

あー、はいはい、次は真姫ちゃんが『あーん』する番ってわけね。

「にこちゃん、お返しは何がいい?」

「うーん、そうねえ……じゃあ、トマトがいいな」

真姫ちゃんからトマトを取り上げるという暴挙に走る私、矢澤にこ。

そんなことをしてしまうくらい、西木野家のトマトはお高いフルーツトマトで、とっても甘いのだ。
666: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:42:55.18 ID:QJ1qZeNn0.net
「はい、あーん」

「んー、はむっ。………甘い!おいしい!」

「もう、にこちゃんってばいつも大袈裟なんだから」

「そんなことないわよ〜」

こんな時しか見られない穏やかな真姫ちゃんの笑顔を眺めながら、ほのぼのとした空気にひたる。

うんうん。お弁当を食べるときは、ゆったりと、心が満たされてないとね。

しかし、幸せなひとときは長くは続かない。どすん、と背中に衝撃が走る。
667: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:44:46.87 ID:QJ1qZeNn0.net
「にーこちゃんっ!凛にも構ってよー!」

「ぐえっ」

突然、凛が抱きついてきた。思わず、蛙を踏んづけたときのような声が出ちゃう。

「ちょっと凛!今は、私がにこちゃんとお話してるんだから!」

真姫ちゃんは、二人の時間を邪魔されたことに、むきーっと憤慨している。

ねえ真姫ちゃん。そのセリフ、ちょっと恥ずかしいわよ。怒りで我を忘れてるんだろうけど。

「え〜?凛そんなの知らないにゃ〜」

「あなたねえー!」

「ふ、二人とも、落ち着こう……?」

怒れる真姫ちゃんにも、どこ吹く風の凛。それをみて更に怒り出す真姫ちゃん。

とりなそうとする花陽を含めて、部室は一層賑わいを増していく。

(……まあ、騒がしい中で食べるのも悪くないわよね)

二人の争う声と花陽のあわあわする声をBGMに、凛にむぎゅーっと抱きつかれたまま。

ぱくぱくと、お弁当を食べ進めるのだった。
668: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ c57e-l1cv) 2015/10/31(土) 19:47:00.15 ID:QJ1qZeNn0.net
まきりんぱな編・前編、終わりにこ
ほのぼの部分だけで力尽きたにこ
2: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:38:00.91 ID:TDh0m+Gg.net



「にこちゃん、そろそろいいかな……?」

「ん……そうね」

『ごちそうさま』を終えて一息をついていたところに、花陽がおずおずと切り出した。

さっきから妙にそわそわしてるなーとは思ってたけど、そういうこと。『お願い』が待ちきれなかったみたいだ。

「ほら、凛、真姫ちゃん。離れた離れた。立てないでしょーが」

「にゃぁぁ〜」

「う゛ぇぇ……」

「それにあんた達、まだお弁当食べ終わってないでしょ?ちゃんと食べときなさい」

ぐいぐいっと二人を押しのけて立ち上がる。先程の言い争いの結果、なぜか二人揃って私のくっつき虫となっていたのだ。

そのせいでお昼ごはんを食べ終えているのは、気にせず食べていた私と、諍いを止めるのを諦めた花陽だけ。

ここから2スレ目です(管理人)

元スレ: 【SS】キス魔にこにー

3: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:38:46.42 ID:TDh0m+Gg.net
「じゃ、行きましょうか」

「にこちゃん、あの……今日は部室じゃ、駄目かな?」

まずは、屋上へ移動―――しようとする体を急停止。

花陽からの思いもしなかった提案に、少し動揺する。

「え……ここで?」

「うんっ」

「別にいいけど……」

はて、どういう心境の変化かしら。

これまでは二人の前で『お願い』をするのが恥ずかしいから、屋上でってことだったのに。

別に、ここでやる分には私は構わないんだけど……二人は嫌がらないかなぁ。
4: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:39:49.13 ID:TDh0m+Gg.net
「えーっと……、凛、真姫ちゃん。ここでやってもいい?」

「いいよ!かよちんがどんなことお願いしたのか、興味あったんだ!」

「……好きにしなさいよ」

約一名は不満そうにだったけれど、一応の許可は出た。

……っていうか、花陽は『お願い』の内容を凛にすらいってなかったのね。ちょっと意外だ。

「良かったぁ。それじゃあにこちゃん、そこに座って?」

ガラ空きになっている反対側を指し示す花陽。

そこに座って……って。そこだと、二人がご飯を食べてる目の前でやるってことなんだけど。

流石にちょっと、と拒否しようと花陽に向き直ってみれば、キラキラした瞳が私を見つめていた。
5: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:40:24.20 ID:TDh0m+Gg.net
(うん、これは私には断れない)

あっさりと拒否するのは諦める。

花陽に甘すぎるかしら、と心の中で溜息をつきながら、座席へと向かって、適当に真ん中あたりに座る。

花陽は隣の席にちょこんと腰かけて、これから起きることへの喜びが抑えきれないといった様子で、にこにこと笑っている。

「では、お願いします!」

その言葉を合図に、無言で花陽の体を思いっきり引き寄せて、むぎゅっと抱きしめる。

柔らかい感触と、鼻孔をくすぐる甘い香りと汗の匂い。

くらくらと脳髄が痺れていくのがわかる。
6: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:40:59.28 ID:TDh0m+Gg.net
「もっと強く、抱きしめてほしいな……」

期待の篭った眼差しに、艶めかしく耳元で囁かれた言葉。

先程まで感じていた羞恥心が消えてゆき、かわりとばかりに花陽をどこまでも甘やかしたい気持ちが湧いてくる。

願われたままに強く抱きしめながら、『お願い』を叶えてあげるために、偽らざる想いを伝える。

「可愛いわ、花陽」

『たくさん可愛いといってほしい』という、花陽の『お願い』が、今、始まった。
7: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:41:48.68 ID:TDh0m+Gg.net



「にこちゃん、私って可愛いかな?」

「うん。すっごく可愛い」

「本当?」

「本当に決まってるでしょう?可愛すぎて困るくらいよ」

「えへっ、そんなにかなぁ……?」

「そんなによ!」

抱きしめ、頭を撫で、ほっぺをぷにぷに。全力で甘えてくる花陽を、全力で可愛がる夢の時間。

何かと疲れる一日の癒やし。

人に見られるのは恥ずかしいかなって思ったけど、いざ始めてみれば、凛と真姫ちゃんの視線なんて気にならない。

ひがな一日こうしていたいと思えるほど、可愛いといってほしがる花陽は可愛いのだ。
8: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:42:29.08 ID:TDh0m+Gg.net
「かよちんが幸せそうでなによりだにゃー」

「なによ、見せつけてくれちゃって……!」

ブツクサと聞こえて来る声は聞こえないふり。

凛はともかく、真姫ちゃんは後で面倒くさいことになりそう……。

いやいや、そういうのは気にしない方向で頑張りましょう。

気にしないのを頑張るっていうのも変だけど。

「―――にこちゃん、どこ見てるの?」

そうやって二人のほうに意識を割いていたら、ぶぅっと膨れた花陽が私をジトッと見つめていた。

う、まずい。他所に気がいっていたのがバレてしまった。とりあえず、笑ってごまかしてみる。
9: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:43:15.61 ID:TDh0m+Gg.net
「あは、あはは……なんでもないにこよ?」

「……もう、今は私の時間なんだよっ」

そんな誤魔化しが通じるわけもなく、ぷんぷんとお怒りを受ける私。

例の事件の時に判明した事実だけど、花陽は意外と嫉妬深いのだ。

実は、これまでの一週間の間にも、独占欲じみた感情を垣間見せることはあった。

こうもハッキリと言葉に表したのは初めてだけど。それはやっぱり、目の前に二人がいるのが大きいのかもしれない。

「にこちゃんには罰を受けてもらいます」

「えっ、ちょ、ちょっと、」
10: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:43:57.42 ID:TDh0m+Gg.net
そういうなり、近づいてくる花陽。

お叱りの言葉だけでは足りなかったみたい。

罰ってなんだろう。花陽なら痛いことはしないでしょう、と動きを見守る。

そして、視界を占める花陽の姿がどんどん大きくなっていって、何をされるのかを気がついた時には、もう遅かった。

―――ちゅっ

「にゃっ!?」「う゛ぇぇ!?」

二人の驚く声が部室に響き渡る。

まさか自分たちがいるのにキスするなんて思っていなかったんだろう。私だって思っていなかった。
11: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:44:40.63 ID:TDh0m+Gg.net
(あ、そっか。私、二人が見ている前で、唇にキスされちゃったんだ……)

キスから少し遅れて、ぼふん、と顔が赤くなる。

目はぐるぐると回りはじめ、頭がなんだかぼーっとしてきた。

人前でキスするのって、こんなに恥ずかしいんだ……。今更、そんな当たり前のことを理解する。

「えへへ〜。にこちゃん、とっても可愛いよぉ。ふふ、もっともーっと可愛がってあげるからね?」

この時間は私が花陽を可愛がる時間でしょ、とか、二人が見ている前でこれ以上は、とか。

そういう抵抗の声は、覆いかぶさってきた花陽によって封じ込められてしまった。

「これまで可愛がってもらった分、お返しするねっ」
12: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:45:30.97 ID:TDh0m+Gg.net



それからというもの。

私が花陽にしてきたように、抱きしめ、頭を撫で、ほっぺをぷにぷにされて、可愛い可愛いと愛でられ続けている。

最初こそ下級生に甘えるという行為に照れを感じていたけれど、可愛いと何度もいわれるうちに慣れてきて、まあいいかなと思えるようになって。

そして、それが続いた結果、こうなってしまった。

「はなよぉー!」

甘えた声で名前を呼びながら、花陽に抱きつく。

当然のように私を抱きとめて、頭をなでなでしながら優しく問いかけてくれる。
13: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:46:20.49 ID:TDh0m+Gg.net
「どうしたの、にこちゃん」

「あのね、にこって……可愛いかなぁ?」

「もちろん!とってもとっても可愛いよっ」

「えへへへ、そっかぁ」

もぎゅもぎゅ。ふにゅふにゅ。ぷわぷわ。人目なんてなんのその。

夢心地の花陽の腕の中でママに甘えるかの如く、一年生の花陽に甘えるのを繰り返す、三年生の私。

「ふわぁ〜、はなよぉ〜」

「よしよし」

こんなの抜け出せるわけがない。私を甘えさせるなんて大したものよ。

凛がしょちゅう抱きついて甘える気持ちもわかってしまう。

恐るべし花陽地獄。天国はこんなところにもあったのね。
14: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:46:51.82 ID:TDh0m+Gg.net
「ちょっと、花陽!そろそろ私の時間よ!」

だけど、そんな私達を見過ごせない子がひとりいる。ついに真姫ちゃんの横槍が入った。

今までは花陽の時間というのもあって我慢していたけれど、もう十分でしょう、ということでしょうね。

「うん、そうだね。それじゃあ……」

「あっ……」

お昼休みの間に、真姫ちゃんの『お願い』も叶えてあげなくちゃいけないから、仕方ないっていうのに。

躊躇なしに離れようとする花陽に思わず、物欲しげな声をだしてしまったのは何故だろう。

そして、そんな名残惜しそうにしている私をみて、花陽は影のある笑みを浮かべながらいった。
15: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:47:50.55 ID:TDh0m+Gg.net
「ふふ……。にこちゃんは、どうしたい?」

「え……?」

「真姫ちゃんが怒っても、花陽が守ってあげます……。だから、にこちゃんが望むなら、ずっとこうしててもいいんだよ?」

甘い誘惑が、耳朶から染み渡り、全身に広がっていく。

それはつまり、真姫ちゃんの『お願い』を反故にして、花陽と一緒にいるということ。

そんな裏切るようなことは出来ないから、すぐに断らなきゃいけないんだけど……。

花陽に包まれていたいという欲望が、拒否の言葉を思いとどませる。

「その……」

そんなわけにいかないでしょ、とか、駄目、とか、何でもいいのに。たった一言が、喉から先に進もうとしない。

ちらりと真姫ちゃんの様子を窺う。花陽の言葉をしっかりと聞いていたみたい。

言葉が出てこない私に、真姫ちゃんの瞳が潤んでいく。

ああ、まずい、泣いてしまう―――と思ったその時、花陽はにぱっと笑って、私から離れた。
16: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:48:32.86 ID:TDh0m+Gg.net
「なんちゃって。冗談だよぉ」

「……ふぇっ?」

「ちゃんと交代しないとだめだよね。にこちゃん、真姫ちゃん。困らせちゃってごめんね」

居住まいを正しながら、花陽はいった。

なあんだ、冗談だったのね。良かった良かった。……だいぶ焦ったわ。

「も、もーう!本気かと思ったじゃない。ね、真姫ちゃん」

「……そうね」

ぐぬ。真姫ちゃんってば、私が花陽を拒否をしなかったことで明らかに落ち込んでいる。

私がさっさと断っていれば良かったんだけども、どうにも私は欲望に弱い。ちゃんと反省しよう。
17: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:49:42.73 ID:TDh0m+Gg.net
「こほん!さあさあ、話も片付いたところで。次は、真姫ちゃんの番ね」

部室内に漂っている微妙な空気を無視しながら、立ち上がる。

今日はちょっと変則的になってしまったけれど、本来は屋上での花陽の『お願い』を終えたあとは、交代で真姫ちゃんと屋上ですごすことになっている。

花陽と同じように、誰かに見られるのが恥ずかしいからっていう理由だ。

「じゃ、行ってくるわね」

「はぁい」「にゃっ」

少しでも機嫌が直ったら良いなと思いながら、真姫ちゃんの手を引いて歩き出す。

繋いだ手から、テンションの低さが否応なしにも伝わってくる。やりにくい。

「今日も可愛がってあげるわ。真姫ちゃん、覚悟しなさいよ?」

「うん……」
18: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:50:29.29 ID:TDh0m+Gg.net
一人で空回る言動に悲しさを覚えつつ、部室のドアノブをひねる。

そうだ。屋上に着くまでに、落ち込んでる妹達を喜ばせてきた姉の技の数々を見せてあげましょう。

私の手にかかれば、真姫ちゃんみたいにチョロイ子はチョチョイのチョイなことを証明してあげるわ。

そんなことを考えながら、廊下に出ようとしたその時。後ろから、花陽の声が聞こえた。

「あ、にこちゃん。ひとつ、聞き忘れてたことがあるの!」

「ん、なーに?」

振り向いて、花陽を見る。

冗談だとネタばらしした時と同じ、明るい笑顔。

「あのね。私達、凛ちゃん達が見てるところでも………人がいるところでも、その……キス、したよね」

「え、ええ。そうね」

「花陽は、にこちゃんと一緒なら、恥ずかしいのだって大丈夫なんだよ」

「うん……?えっと……?」
19: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:51:18.41 ID:TDh0m+Gg.net
なんて言おうとしているのか。とてつもなく嫌な予感が、胸をざわつかせる。

これ以上、花陽を喋らせてはいけないという、そんな予感が駆け巡り、だけどそんなあやふやなもので花陽を黙らせることは出来ない。

結局。何の容赦もなく、花陽の口は開かれた。

「だから、にこちゃんの百合営業の相手は―――私のほうが、向いてるんじゃないかなぁって」

ピキッ。

私は確信を持っていえる。

その時に聞こえた音こそが、空気にヒビが入る音なのだと。そして―――

「宣戦布告するかよちんも凛は好きだにゃ〜」

ずっと存在感を消していた凛の呟きに思う。

あんた、どんな花陽ならダメなのよ……。
20: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:52:27.21 ID:TDh0m+Gg.net



シーン……。

部室の中は、凛の言葉を最後に静まりかえっている。

凛は凛で、それ以上に何かをいうつもりはないらしい。

机にべたーっと寝そべりながら、事態の推移を見守っている。

(ちょっと!いいたいことだけいって寝そべるな!)

この空気の切っ掛けの作った花陽は、いうべきことはいったという表情で、私を―――いや、真姫ちゃんを見つめている。

そして、真姫ちゃんは顔をうつむかせて押し黙ったまま。重苦しい雰囲気が私の背中にのしかかる。

(これは、私が答えをいうべき……なのよね……?)

どうみても真姫ちゃんに向けての言葉だったけれど、一応は私への問いかけなんだし。

『先に誘ったのは真姫ちゃんだから、これからも百合営業は真姫ちゃんにお願いする』とでも言えば、花陽だって身を引いてくれると思う。
21: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:53:13.25 ID:TDh0m+Gg.net
(でもそれは、解決になってない)

花陽だって覚悟をして『向いている』と発言したはずだ。

だっていうのに話を有耶無耶にして終わらせるのは、真姫ちゃんより向いていると暗に認めているようなもの。

そうなれば、花陽だけでなく、真姫ちゃんにもしこりを残したままになってしまう。

(ああああっ!どうしたらいいのよ!)

混乱する思考。下手な手は打てない。答えは見つからず、結局体は固まってしまう。

でも、そんな時。真姫ちゃんと繋いでいた手が、ぎゅっと強く握りしめられた。
22: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:54:09.86 ID:TDh0m+Gg.net
「……できるわよ」

小さな呟きと共に、真姫ちゃんは顔をあげた。覚悟を決めた表情で、花陽を見据えている。

「私も、二人の前で……にこちゃんと恥ずかしいこととか……キスだって、できるわよ!」

キッと花陽を睨みつけながら、今度は大きな声で宣言した。

それに対し、心なしか嬉しそうな花陽が応える。

「それじゃあ、真姫ちゃんの『お願い』……私達も見せてもらうね?」

「ふん、望むところよ。存分に見せつけてあげるわ。にこちゃん!ほら、こっちに座って!」

真姫ちゃんに手を引かれるまま、先程まで座っていたところに座らされ、『お願い』に向けての準備が着々と進む。

さっきまでの陰鬱な様子を一転。花陽への対抗心で、瞳を燃え上がらせている。

(私、何も言ってないんだけど、いいのかなぁ。……まあ、二人が納得してるならいいか)

兎にも角にも。

私を置いてけぼりにしながら、話はトントン拍子に進んでゆくのだった。
23: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:55:15.80 ID:TDh0m+Gg.net



もぎゅうううううう。

花陽の挑発により、部室で真姫ちゃんの『お願い』を見せることになった私達。

椅子に座る私の上にまたがっているのは、当然『お願い』をした真姫ちゃんご本人。

木に縋り付くコアラを思わせるような姿で、私を抱きしめている。

自分を抑圧している子が欲望を爆発させると際限がなくなってしまうとよくいうけれど、今の真姫ちゃんはまさにそれ。

「にこちゃん、にこちゃん、にこちゃんっ」

真姫ちゃんの『抱きしめさせてほしい』という『お願い』。

本人がいうには、いつも私に抱きつかれて困っているから、そのお返し……らしいんだけど。

実際は、素直に『お願い』するのは恥ずかしいから適当にこじつけただけだと私はみている。
24: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:56:15.74 ID:TDh0m+Gg.net
「にこちゃん、にこちゃん、にこちゃん……!」

それにしても、ひたすら私の名前をブツブツと呟いているのはなんなんだろう。

真姫ちゃんには悪いけど、ちょっと怖い。

(昨日までは、ここまでじゃなかったわよね……)

今まではせいぜい、軽く抱きついて、たまに名前を呼ぶくらいのものだった。

こうなったのは、花陽への対抗心と、花陽との『お願い』を見ていた時の嫉妬が爆発しているからなんだろうけど。

怖いものは怖い。
25: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:57:13.27 ID:TDh0m+Gg.net
(……にこってば、愛されすぎじゃない?)

名前を連呼する真姫ちゃんの頭を撫でながら思う。

怖い怖いといいつつも、こんなに好意を全力で向けられると、それはそれで嬉しくなってくる私。

「ちょっと怖くないかにゃー?」

「そんなこと言っちゃダメだよ、凛ちゃん」

でも、外野の声にはやっぱり同意だ。

(まあ、そういうところも真姫ちゃんの可愛いところだし?)

意外に直情的なところとか、独占欲が強いところとか。

それに、この場で可愛い可愛い真姫ちゃんを自由にできるのは、この私だけなのだ。

そう考えれば大抵のことは可愛く思える。

どうよ、羨ましいでしょ?って全世界の人間にいいたいくらいだ。
26: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:58:20.96 ID:TDh0m+Gg.net
(ふふ……。それに、真姫ちゃんの髪の毛をくるくるできるのも、私だけだもんね)

真姫ちゃんの綺麗な赤毛にするりと手を通しながら、一人悦に入る。

すると、軽くカールのかかった髪の毛が指先に絡みついてきた。

それが、まるで自分からくるくるしてほしいといっているかのようで、たまらなく可愛らしい。

(髪の毛まで可愛いなんて狡くない?)

その可愛さに免じて、お望み通りにくるくるしてあげましょう。

くるくる、くるくる。するするとした感触が気持ちいい。真姫ちゃんも心地よさそうにしている。

「……にこちゃん。もっとして……」

お、私の名前以外が真姫ちゃんの口が出てきた。

思う存分抱きついて、ようやく落ち着いてきたみたいだ。

ここはトドメとばかりに、最高のくるくるをしてあげましょう。

「ふふん、にこに任せなさい。なんていったって、真姫ちゃんに次ぐ髪の毛くるくる名人ですもの」

「……なにそれ。意味わかんない」

くすっと笑った真姫ちゃんに、微笑を返して、やっと普段の私達に戻った気がしたのだった。
27: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 16:59:20.64 ID:TDh0m+Gg.net



「もっと撫でて」

「はいはい」

シャイガール真姫ちゃんの特徴。

友達との接し方がわからない。感情表現が下手。

高いプライドが素直になるのを邪魔しちゃう。端的にいえばそんな感じ。

そんな真姫ちゃんだからこそ、『お願い』っていう建前があっても、素直に甘えるのは難しい。

だからこれまでの時間だって、まずは真姫ちゃんの緊張をほぐしてあげることから始めていた。

「もっと、ぎゅってして」

「はいはい……」

でも、今日はそれがまったく必要なかった。

暴走したことで思う存分ストレスを発散できたみたいで、良い感じに力が抜けている……どころか、ああしろこうしろとウルサイくらい。

凛と花陽の前だってのに恥ずかしがるそぶりすら見せないし、もしかしたら色々と開き直っちゃったのかも。結果オーライかな。
28: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:00:16.58 ID:TDh0m+Gg.net
「今日はずいぶん、甘えんぼさんなのね」

「……別にいいでしょ。今日で最後なんだから」

私の肩に頭を預けて、ご満悦そうにしている真姫ちゃんに尋ねる。

返ってきた答えに、なるほどと納得。最後の日だというのが拍車をかけていたわけね。

「もちろんいいんだけど……。ただ、素直に甘えてくれて嬉しいなって思って」

素直じゃない真姫ちゃんはイジくりやすくて可愛いけど。素直だと可愛がり甲斐があるからね。

「……。にこちゃんは素直な私のほうが、好き?」

そんなことを言ったせいか、真姫ちゃんは普段の自分が素直じゃないことを気にしだしちゃった。

なまじ頭がいいせいか、裏の意味を探っちゃうのかもしれないけど。

私はいちいち考えて喋ってないから安心しなさい。
29: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:00:56.82 ID:TDh0m+Gg.net
「なーに心配してるのよ。私はどんな真姫ちゃんでも大好きよ?」

そんな風になった真姫ちゃんを、いじらしく思ったからかな。

思わず、花陽に対する凛みたいな恥ずかしいセリフをポロッといってしまった。

言った後で、顔が熱を持ちはじめる。

「う゛ぇ……」

真姫ちゃんってば、直球で好きだといわれて狼狽えている。

ああもう、そんな本気で赤くならないでよ。私まで赤くなっちゃうじゃない!

「見てみてかよちん、にこちゃんの顔も赤くなってるにゃ」

「凛ちゃん、しーっ」

本家本元の恥ずかしいやつが何かいっている。あーあー、聞こえない。

そんなことをして自分を誤魔化していると、真姫ちゃんが突然動いた。
30: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:01:31.05 ID:TDh0m+Gg.net
―――ぎゅっ

より深く、私に抱きついてきたのだ。赤くなった顔を私に見られまいとそうしたのかも。

でも真姫ちゃん、真っ赤なお耳が隠しきれていない。頭かくして耳隠さずって感じだ。

「あっれえ?もしかして真姫ちゃんってば、照れちゃった?」

そんな姿をみたら、からかうのが礼儀というものよね。

私自身、照れ隠し半分でいってるのはご愛嬌。

「……うるさいわよ」

ごつん。肩に、照れ隠しの頭突き。ちょっと痛い。でも可愛いから許しちゃう。

「真姫ちゃん、そろそろ顔あげてもいいんじゃない?」

「……」
31: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:02:04.94 ID:TDh0m+Gg.net
呼びかけても無視。私に深々と抱きついたまま離れようとしない。

にこにーの抱き心地に酔いしれてるのかもしれないけど、私だって放置されたら寂しいのよ。こっち見てほしいな。

「ねー、こっち向いてってば。おーい」

「……」

無言。

(へぇ〜、そういうことするんだ。……これはもう、お仕置きをするしかないわね)

私を構わない真姫ちゃんが悪い。罰を与えるわ。

ニヤリと笑いながら真姫ちゃんの耳へ手を伸ばす。もぎゅっと掴めば、ぴくりと反応があった。
32: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:02:38.35 ID:TDh0m+Gg.net
「ふーんだ。真姫ちゃんが相手してくれないのなら、私だって勝手に楽しむもんねー」

言いながら、ぐにぐにと耳の感触を楽しむ。当たり前だけど、普通に柔らかい。

だけどやっぱり、物足りない。ぐにぐにする度に真姫ちゃんは頭をもぞもぞさせているけど、それだけだし。

勝手に楽しむとはいったものの、反応が小さいし、なんだか面白くない。

(もっと激しくしちゃお)

にやつきながら、一旦耳から手を離す。

そして数秒後、真姫ちゃんが油断した頃合いを見計らって、指先を耳の内側へと突撃させる。

そーれ、こちょこちょこちょ!

「ひぁっ!」

効果抜群。真姫ちゃんヘッドが逃亡しようと暴れだす。でも、そうはさせないんだから。

頭を逃すまいとがっちりと抱え込み、ひたすら耳をいじり倒す。こちょこちょ。

暴れる真姫ちゃん。抑える私。格闘は続く。
33: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:03:09.01 ID:TDh0m+Gg.net
「……う゛ぇぇ……」

しばらくしたら、例の声が聞こえてきた。限界が近い証拠。そろそろ許してあげましょう。

パッと手を離せば、真姫ちゃんはすぐさま顔を上げた。涙目で私をにらんでいる。うひゃあ。

「もう、にこちゃん!なにするのっ!」

鼻をすんすんと鳴らしながら、私の胸をぽかぽかと叩いてくる。

なんだろう、これ。真姫ちゃんに怒られているはずなのに、すごく癒やされる。可愛い。

「だって真姫ちゃん、無視するんだもん。にこ寂しかったなー」

「うっ……」
34: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:03:44.18 ID:TDh0m+Gg.net
お怒りのところ申し訳ないけど、私にだって言い分はある。

ちゃーんと行動に理由はあるんだから。

「むしろ、私が怒りたいくらいなんですけどー?」

「それは……その、ごめんなさい……」

たじろいでいるあたり、真姫ちゃんだって私を無視していたのは悪いと思っているみたいだ。

悪いことはちゃんと悪いと思える子。

真姫ちゃんは良い子ね。うんうん。

(……あ、そうだ。これを使って真姫ちゃんに『お願い』してみよっと)
35: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:04:57.39 ID:TDh0m+Gg.net
真姫ちゃんが二人の前で叩いた大口を、そろそろ果たして貰わないといけない。

理由を作ってあげないと真姫ちゃんからはいつまでも来そうにないし、ちょうどいい。

あんまりちんたらとしてるのは、傍で見ているだけの二人にも悪いもんね。

凛なんて、暇そうにあくびしているのをチラホラとみかけるくらいだし……。

「本当の本当に反省してる?」

「……うん」

「許して欲しい?」

「うん」

不安そうな表情の真姫ちゃんに少なからず罪悪感。同時にしめしめと思っていたりもするけど。

我ながら業の深いこと。でもね、これは全部、真姫ちゃんのためなんだからね。

「それじゃあ、にこのお願い、きいてほしいな」

ここまできたら、あとは。

真姫ちゃんが私にキスしやすいように、精一杯。可愛らしく、おねだりしてあげる。
36: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:09:41.84 ID:TDh0m+Gg.net



じわりじわりと迫ってくる、薄紅色の唇。

少しばかり荒くなった吐息が、私の唇をなぞるかのように吹き抜ける。

息遣いの音が聞こえるほどに近づいた頃、真姫ちゃんは思い出したかのように口を開いた。

「にこちゃん、じっとしててね」

じっとも何も、さっきから私はまったく動いていないけど。

むしろ、真姫ちゃんが近づいたり離れたりを繰り返していて落ち着きなさいといいたい。

「……いくわね」

自分に言い聞かせるような呟き。

更に唇を近づけはじめた真姫ちゃんは、やはりあと一歩というところで動きが止まった。
37: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:11:09.35 ID:TDh0m+Gg.net
「やっぱり人前でなんて無理よぉ……」

トマト色に染まった顔を手のひらで覆い隠している。

よっぽど花陽と凛に見られながらのキスが恥ずかしいらしい。

(せっかく、私がキスをしやすいようにお願いしてあげたってのに……)

五分ほど前。

可愛らし〜くおねだりをすると決めて、それはもう、やりすぎなくらい媚び媚びな感じでおねだりをした。

余りの媚び具合に、花陽すら少し引いていたので回想は割愛。

まあ、そんなのでも真姫ちゃんには効果てきめんで、やる気にはなってくれたんだけど……。
38: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:13:00.79 ID:TDh0m+Gg.net
「う゛ぇぇ……」

ちなみにこれは3回目の挑戦で、そして3回目の失敗だったので、真姫ちゃんもへこみ気味だ。

菩薩の如き聖母と言われた矢澤にこといえど、焦らされることにそろそろ不満が溜まってきたりする。

「ねえ、私からキスしちゃダメなの?」

真姫ちゃんからキスできないなら私からするしかない。

だから当然そういうことを尋ねるわけだけど―――

「やだ。私だって花陽と同じことするんだからっ」

―――途端に真姫ちゃんは頑なになって、オコトワリされてしまうのだ。

どうしても花陽の様に自分からするつもりのようで。

にこ的には、別にそこまで一緒にしなくてもいいじゃないって思うんだけど、真姫ちゃんプライド高いからね。
39: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:13:56.54 ID:TDh0m+Gg.net
(……これじゃあ埒があかないじゃない)

仕方ない。あんまりやりたくなかったけど、逃げ道を塞いじゃいましょう。

未だ赤い顔で恥ずかしがっている赤毛娘の手をつかみ、無理やり顔の前から手を引き離す。

何事かと驚く真姫ちゃんの瞳をしっかりと見つめながら、断固たる意志を込めて通告する。

「次もキスできなかったら、もう真姫ちゃんと百合営業しないから」

瞬間、雷に打たれたように真姫ちゃんの表情が硬直した。

赤くなっていた肌色が、どんどん青ざめていく。
40: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:16:26.94 ID:TDh0m+Gg.net
「にこちゃん、それ、本当……?」

「本当よ。本当で、本気」

私の返答に、真姫ちゃんは顔を俯かせる。心の何処かで、高をくくっていたのだと思う。

もしもキス出来なかったとしても、自分との百合営業は続くはずだと。

きっと私が花陽に上手くいってくれるだろうと。

しかし、たった今、私の宣言によってそれが崩れてしまって、どうしようか必死に考えてるに違いない。

(……こんなこといっておいて何だけど、次も無理そうなら私からしちゃうつもりだ)

ちょっと苦しいけど、どちらからキスしないと、とはいってないから何とでも言える。……と思う。

そもそもの話、これまでの百合営業にだって実績があるのだから急に相手を変えるわけにいかないしね。

ファンを混乱させちゃうことは避けなくてはいけない。だからこれは追い込むためのブラフにすぎない。
41: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:18:06.52 ID:TDh0m+Gg.net
(にこってば悪女かも……なんてね)

狡いことをしている罪悪感にほんの少し心を痛めながら、真姫ちゃんを掌の上で転がしている感覚に得意げになっていた時。

がしっ!と自慢のツインテールの根本を何者かに掴まれた。

「……ふぇ?」

当然、そんなことが出来るのは目の前にいる真姫ちゃんしかいないわけで。

間抜けな反応を返す私に、当の真姫ちゃんは心の奥底から絞りだした、凍えるような声で一言。
42: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:19:11.38 ID:TDh0m+Gg.net
「そんなの絶対ダメ」

そして、頭を掴んだ手に力が込められた。

ぐいと引き寄せられる頭は、両手によって固定されているせいで抗うことも出来ず。

視界に映る景色は、急速に変化していく。

「まき、ちゃ―――」

そこでやっと動き始めた思考は、どうにか名前を呼ぶことを選択した。

きっと呼びかけが間に合わないであろうことは、知っていた。

なにせ、その時にはもう、目の前に真姫ちゃんの瞳があったから。

「―――んむぅ!」
43: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:20:56.29 ID:TDh0m+Gg.net



「んんっ……」

前から思ってたことだけど、真姫ちゃんのにはスイッチがついているに違いない。

オフの時は恥ずかしがり屋で甘えん坊だけど、オンにしたら暴走が始まって周りが見えなくなるとか、そういうやつ。

例えば、私が少し追い込んだだけでスイッチが入って、唐突に熱烈なキスをしてくるとか。……うん、今の私の状態のことだ。

(……まあ、それはいいわよ。感情表現が苦手なのはわかってたことだし)

とにかく。

真姫ちゃんは極端で困る。もう少し中間がほしいところよ。
61: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:24:59.96 ID:TDh0m+Gg.net
「あむっ」

現実逃避気味の思考をしている間も、息継ぎを挟みながらキスは続く。

雰囲気なんて皆無のキスだったけれど、こうも熱っぽく求められたら、やっぱり嬉しくなってしまう。

自然と頬は上気してくるし、頭だってなんだかボーッとしてくる。

「にこ、ちゃぁ」

かすかに聞こえてきた、甘ったるいねだるような呟きに、どくんどくんと体が疼き始める。

(あ、まずい)

これ以上触れ合っていると、私も暴走してしまう。いますぐ離れないと―――。

「やぁっ」

いち早く逃亡を察知した真姫ちゃんは、私の体を包み込むように絡みついてきた。

膝上にいる真姫ちゃんとの揉み合い。

身をよじらせればよじらせるほど、密着した肌と肌がより強くこすれあって、痺れるような感覚が体を突き抜ける。
68: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:25:44.43 ID:TDh0m+Gg.net
「ひぁっ……!まきちゃん、ちょっ、だめ、だめだからっ……!」

本当にまずい。私の中の抵抗する力が、だんだんと弱くなってきている。

このまま流されてしまったら、取り返しがつかないところまで、いっちゃう―――

「―――おっほん!二人とも、それくらいにしてくれないかにゃ?」

「ひゃあ!?」

「う゛ぇぇ!?」

ババっと声のしたほうに振り向く。

やれやれと肩をすくめている凛と、顔を赤らめて微笑んでいる花陽の姿。
102: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:31:43.62 ID:TDh0m+Gg.net
(ああああっ、完全に凛と花陽がいることを忘れてたあああ!!)

どたどた、がたん。

現状を完璧に理解した真姫ちゃんは、初めて見るほどの素早い動きで私の膝上から降りてイスに座った。

髪の毛をくるくるしながら、何か?とでもいうような表情を装っているけれど、顔色のほうはこれ以上ないくらい真っ赤だ。

さっきの部室が凍った時の張り詰めた空気とは違った、気まずい空気が流れる。

(ひゃあ、恥ずかしい……どうしよ……)

どうしたらいいのか悩んでいたら、花陽がくすくすと笑い出した。
108: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:32:27.46 ID:TDh0m+Gg.net
「ふふ……真姫ちゃん、にこちゃんのこと大好きなんだね」

知っていたことを改めて確認するような質問。

真姫ちゃんはそっぽを向いて、数秒の沈黙。花陽に向き直って、凛とした声でハッキリと答えた。

「……当たり前でしょ?二人の前でキス出来るくらい、にこちゃんのことが大好きよ」

―――それも、花陽よりもずっと、ずっーとね。

―――そうかな?私のほうが、大好きだと思うよ?

言葉を付け足しあってから、二人は顔を見合わせる。

そこに、暗い感情はなかった。ただお互いを認め合うような、挑戦的な笑みが浮かんでいて。どちらともなく笑い出した。

「えへ、えへへ……」

「ふふふっ……ふふっ」

うわあ、なんか怖い笑い方してる。

でもまあ、これは二人の間に新たな絆が芽生えたともいえそうだ。

とりあえずは丸く収まったということで、一件落着。……で、いいのよね?
113: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:33:07.13 ID:TDh0m+Gg.net



なんやかんやで、いつもの雰囲気に戻った私達。

……いや、違うわね。いつも通りではなかった。

「でね、その時にこちゃんが――」

「―――ふふ、なにそれ、すっごくいいそうね」

急に距離が近づいて、仲良しになった花陽と真姫ちゃんがいる。いや、元から仲良しだったけども。

さっきから仲良さげに、こそこそ話で何かを自慢しあっている。

まあ、何かっていうか……漏れ出してくる声だけで、私とのエピソードを披露しあってるってわかるんだけど。

(どんな顔してればいいの、これ)

私に話を振ってくるでもなく、たまに私の方をみてクスクス笑い合う二人。ああ、すっごい複雑……。

それに私だけじゃないわ。凛だってすっごい暇そうにしている。ちょっとは気にしてあげてほしい。

私と花陽がアイドルの話で盛り上がっている時のような表情で天井のほうを見上げている。
118: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:33:50.58 ID:TDh0m+Gg.net
(……何見てるんだろ?)

ちょっと気になって、視線を追ってみる。するとそこには壁掛け時計。

私も、授業早く終わんないかなーって思ってる時はよく時計を見つめてるから気持ちはわかる。

(にしても、もうこんな時間なのね。……頃合いかな)

そろそろ解散してもいい時間。三年生の教室は部室から近いけど、一年生の教室は結構遠い。

今から戻りはじめてちょうどいい時間だったりする。

パンパン、と拍手を鳴らして三人の視線を集め、話し始める。

「はいはい、お喋りはそこまで。もう時間が時間だし、教室に戻りなさい」

「あ、はぁい」「……うん」「んにゃあー」

どこぞのスピリチュアルと金髪と違って、素直に聞き分けてくれる一年生。

こういう時に一番ぐずる凛が、あんな感じだったからってのも大きいけどね。
124: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:34:33.43 ID:TDh0m+Gg.net
「それじゃあ、にこちゃん。また部活でね」

花陽の言葉を皮切りに、三人は去っていく。

小さく手を振る花陽に、物足りなさそうに私をチラ見する真姫ちゃんに、またね!と元気な様子の凛。

「またね」

手を振り返しながら、花陽たちを見送る。

ばたん、とドアが閉じる瞬間まで、手を振り続ける。

(今日は特にいろいろあったけど、やっぱり楽しかった)
132: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:35:44.37 ID:TDh0m+Gg.net
一緒に食べるお弁当も、ちょっとした諍いも、全部大切な思い出だ。

ここまで後輩に慕われる日がくるなんて思ってもなかったから、送り出した後に物思いに耽ってしまう。

(花陽もなかなかだったけど、あの時の真姫ちゃんの顔が一番傑作だったかな)

これまでの一週間の思い出に浸りながら、教室に戻る準備をしていると、がちゃ、とドアが開く音がした。

視線を向ければ、凛がいた。どたどたと足音をたてながら近づいてくる。

「ただいま、にこちゃん!戻ってきたよ!」

「……あれ、どうしたの」

「忘れ物したのっ」

お昼休みに凛が持ってくるものといえば、お弁当一式が入った袋と水筒くらいなものだと思うけど。

机の上にらしきものは見当たらない。何を忘れたんだか。授業に遅れちゃうわよ。
140: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:36:57.98 ID:TDh0m+Gg.net
「一緒に探してあげる。何忘れたの?」

「これだにゃー」

凛は、自分の前髪が掻きあげて、おデコをあらわにする。

そして、くりくりした目から放たれる期待に満ちた眼差し。

ここまでされたら、凛が忘れたものが何かなんて誰でもわかる。

(まったく。人前では甘えてこないくせに)

これまでも、隙を見てはデコチューをねだってきていた。こんなに積極的にではなかったけど。

もしかしたら、さっきの花陽と真姫ちゃんとのキスのやりとりで内心思うところがあったのかもしれない。

(私に対して一番のツンデレって、もしかしたら凛かもね)

実際のところはわかんないけど、そう思えば凛の面倒そうな行動とかが全部かわいく思えてくる。

あんたのことも大好きなんだから安心しなさい。愛おしい想いを込めながら、おデコに唇を落とす。

ちゅっ。

「えへへっ。……凛も返しするにゃっ」

―――ちゅっ。

「……じゃあ、私もお返ししなくちゃね?」

そうしてチャイムがなるまで、私達のお返し合戦は続き。

バッチリと授業に遅刻してしまったのだった。
153: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/12/30(水) 17:38:56.56 ID:TDh0m+Gg.net
まきりんぱな編終わりにこ!
2: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:13:34.39 ID:3lJLdVKO0.net


「はぁ……暇ね……」

凛のせいで遅刻してしまった授業も終わり、休み時間がやってきた。

本来なら休み時間になる度に絵里に抱っこされる運命(さだめ)を背負っていた私だったけど、今日のそれは絵里の自粛によってなくなった。

気楽になったといえば気楽なんだけど、やることがなくなって暇になったともいえる。

「希んとこ行こうかなー」

机にべたーっと寝そべりながら、ぼそっと呟く。

別に絵里の『お願い』がなくったって、休み時間にあいつらのところにいってもいいはずだ。

ここから3スレ目です(管理人)

元スレ: 【SS】キス魔にこにー

3: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:14:33.84 ID:3lJLdVKO0.net
(ただ……行ったとしても、絵里がまだ面倒くさい感じかもしれないのよね。あー、どうしよっかなぁ)

教室でだらーっとしてるのも、悪くないっちゃ悪くない。

放課後に始まる『お願い』たちとの戦いに向けて、心に休養を与えてあげなくちゃ、っていうのもなくはない。

(これで、周囲から突き刺さる視線さえなければ……)

実は先程から突き刺さっているクラスメイトたちからの視線。

絵里のところへ行こうとしない私を不思議そうにチラチラと窺っている。

(この視線が、私の人気から来るものならともかく……絵里の人気なのがね……)
7: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:16:59.43 ID:3lJLdVKO0.net
絵里は女性人気が高い。

同じ学校に所属する同学年の彼女たちからだって、同じこと。何事にも絵里に絡むとなれば、注目度が途端にアップする。

しかも、その憧れの絢瀬絵里が誰かを膝抱っこするともなれば動向が気になってしまうのも当然のこと。

直接問いただしてくるようなクラスメイトがいないのは、私がクラスで浮き気味だからでしょうね。あはは……。

(だめだめ、自分でいってて憂鬱になるわ)

クラスに置ける自分の立ち位置に思いを馳せるのはやめましょう。ネカティブになるだけだ。

それくらいなら、面倒くさい絵里と一緒にいたほうがマシだ。希と一緒にイジって楽しんでやろう。

「んー、しょっと」

立ち上がり、丸めていた背中を伸ばす。肺に溜まった空気を押し出しながら周囲を見渡す。

サッと逸らされる視線に苦笑を漏らす。そうよ、ポジティブに考えればいい。これは人気者の宿命ってやつなのだ。

「さて、行きますか」

あいつらが何処かに行っていないことを願いながら、隣の教室への一歩を踏み出した。
9: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:18:46.06 ID:3lJLdVKO0.net


そして時は経過し、放課後。

いつものように部室へ向かっていた私の目の前に、亜麻色の髪の乙女が笑顔で駆け寄ってきた。

「あ!」

「げっ」

その乙女は私の発した『げっ』を毛ほども気にせず、ほわほわとした笑みを浮かべたまま更に近づいてくる。

「にこちゃん、みつけたぁ」

南ことり、17歳。理事長の娘。μ'sの衣装担当。穂乃果と海未の幼なじみ。

大人しそうに見えて、意外と頑固で芯が強い。甘いものが好きで、特にチーズケーキが好き。あと、いつも笑顔のせいか真顔になると怖い。

プロフィールをつらつらと脳内で思い出しているのは、これから起こることに対する心の準備運動なのかもしれない。
10: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:20:31.36 ID:3lJLdVKO0.net
「……どうしたのよ、こんなところで」

「にこちゃんと一緒に部室にいこうと思って。別にいいよね?」

二年生の教室と三年生の教室は、校舎でいえば部室を挟んで反対側にある。

だから、わざわざこっち側にいるってことは、まあそういう理由だろうなって見当はついていた。

「わざわざご苦労なことで。……好きにしなさい」

多少の戸惑いのせいか、なかなか素っ気ない返事をしてしまった。嫌味ったらしくなかったか心配になってくる。

「ふふ、良かったぁ。それじゃ、失礼しますっ」

しかしことりは私の返事を全く気にする様子もなく、それどころか、隣に並ぶと同時に自然に腕を絡めてきた。

驚きはしたが、この一週間で似たような行為は散々繰り返されていたから慌てはしない。
11: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:21:04.55 ID:3lJLdVKO0.net
「……人が来たら離れてよね」

「わかってるよー」

―――慌てはしない、とはいえ。それは慣れているというわけではない。

「えへへ〜」

ベッタリと体を寄せてきて、そんな嬉しそうな表情を向けられると……その、あれよ。

私の心の中は、少しだけ―――本当に少しだけ、ドキドキと高鳴ってしまうのだ。

(くっつきすぎだっつの!)
12: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:22:05.14 ID:3lJLdVKO0.net



「ほらほら、いつまでもお喋りしない。そろそろ練習はじめるわよ!まずは柔軟から―――」

μ’sの練習は絵里の合図で始まる。いつも思うけど、この仕切り力は見習いたいところだ。流石は元生徒会長といったところね。

うーん、でも、現生徒会長の穂乃果は普段はボケっとしてるし、やっぱり個人の資質なのかもしれない。

「にこちゃん、こっちだよ〜」

「はいはい」

そんなしょーもないことを考えながら、ことりのほうに歩み寄る。

まず最初に行われる柔軟は、いつもなら真姫ちゃんあたりと組むことが多いけど、今はことりと組んでいる。なぜか。

(って、そんなの理由はひとつしかないわよねー)

放課後から、練習が終わるまで。それがことりとの『お願い』の時間。

まとまった時間がないかわりに、練習中でも隙を見てかなえてもらってもいい―――というのが、私を除くみんなで決められたことらしい。
13: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:23:03.76 ID:3lJLdVKO0.net
(仲良く時間の配分してるなら、それはそれでいいけど。……別に、いいんだけど!)

今更ながらに、時間配分に私の意思がまったく反映されてないことに多少の不満を覚えつつ。

とにかく今は、柔軟をキッチリしましょう。おろそかにすれば、怪我の原因になってしまう。

ことりに背を向けるようにして、地面に座る。

「それじゃ、先に背中押してくれる?」

「はーい、かしこまりました♪」

ことりって、素の状態でもメイドっぽいわよねぇ……などと暢気に思いながら、手足を左右に広げて伸ばす。

何度かその動作を繰り返して、準備は完了。さあことり、いつでも来なさい。
14: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:23:42.63 ID:3lJLdVKO0.net
「じゃあいくね〜。……えーいっ」

背中にあてられたことりの両手に力がこもる。ぐい、ぐい、ぐいー。

なかなかどうして、ちょうどいい感じ。苦しくない程度に痛気持ちいい。

「あ〜、気持ちいいわぁ……」

「お客さん、こってますねー?」

「ふふ、なによそのノリ」

ことりは空気を柔らかくするのが非常に上手い。くだらないやりとりでも、なんだか癒やされてしまう。

だからこそ、だろうか。私は完全に忘れてしまっていた。ことりの『お願い』は、決して油断してはいけないものだということを。
15: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:25:07.95 ID:3lJLdVKO0.net
ことりは空気を柔らかくするのが非常に上手い。くだらないやりとりでも、なんだか癒やされてしまう。

だからこそ、かしら。私は完全に忘れてしまっていた。ことりの『お願い』は、決して油断してはいけないものだということを。

「ねぇ、にこちゃん……」

「んー?」

「―――隙ありっ♪」

気付けば両脇の下に、ことりの腕が伸びている。ぞわぞわっと背筋が凍りついた。

これから何をされるのか、瞬時に予想がついたから。今からでもガードすれば―――いや、間に合わない!

「それ、わしわし〜!」

「ふひゃあっ!」

突如行われた容赦なしのわしわし。痛いような、こそばゆいような、体をよじりたくなるような、色んな刺激が襲ってくる。

反射的に体をそらそうとしてみても、体勢が悪いのか、ことりの両手が執拗に絡みついてきて離れることができない。
16: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:26:10.26 ID:3lJLdVKO0.net
「ちょっと、ことりっ!や〜め〜な〜さ〜い〜っ」

「えっへっへ〜、良いではないか〜」

「よかないわよっ!はなれろー!」

じたばたと必死にもがいても、心底楽しんでる笑い声が聞こえてくるばかり。

まったく、なんてやつなの。ほのぼのとした優しい雰囲気を壊してまで、セクハラをしてくるなんて。

「ふふふ、ごめんね。もうやめるから、怒らないで。ね?」

やっと離れたことりをガルルルと威嚇してみるも、効いちゃあいない。

何事もなかったかのように柔和な笑みを浮かべて、のほほんとしている。
17: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:26:57.91 ID:3lJLdVKO0.net
「……別に、怒ってないし!」

「本当かなぁ。ことりには怒ってるように見えるけど……」

「ふん。そういう『お願い』でしょ。怒ってないわよ」

「そっかぁ〜」

思わず釣り上がりそうになるまなじりを必死に抑える。そう、あくまでも私は怒ってなどいない。

ことりの『何をしても怒らない』という『お願い』があるから。

どれだけ怒ってるように見えたとしても、私が怒っているわけがないのだ。うん。

「ことり。柔軟、交替しましょ」

「あ、うん。お願いするね?」

いつだったか、この子を女神みたいだなんて思ったことがあったけれど、とんだ間違いだった。

ことりは、にこにも匹敵する―――ううん、にこ以上の小悪魔だ。素直に負けを認めようじゃないの。

柔軟の準備がすんだ様子のことりの背中に優しく手をかける。

「いた、いたたっ!にこちゃん強く押しすぎだよ〜!やっぱり、怒ってるよね!?」
20: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:29:36.26 ID:3lJLdVKO0.net



「十五分、休憩です。ちゃんと水分補給しておいてくださいね」

「ぜえっ、ぜえっ……はぁー……ふぅ……。あ゛ー、疲れた……」

休憩の号令がくだされて、すぐさま人気のない日陰のほうにいって壁によりかかった。

他の面々はいえば、元気にお日さまの下で楽しそうにお喋りしているけれど、こちとら海未教官の鬼指導によって体はクタクタになっている。

もともと体力がないほうとはいえ、その差に泣きそうになる。……とにかく、ほんの少しでも体力を回復しましょう。

(あ、そういえば、水分補給しないといけないんだった……)

そんなことを思っていた時、ちょうどことりが私のもとへとやってきた。

「にこちゃん、水筒もってきたよ?はい、どうぞ」

「ん……ありがと」

助かった。取りに行くの面倒くさいなぁと思っていたところだ。

水筒―――中身は何の変哲もない麦茶―――を受け取って、こくこくと喉を潤す。うーん、生き返る。
21: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:30:58.16 ID:3lJLdVKO0.net
「ハァー……五臓六腑に染み渡るわぁ〜……」

「あはは、にこちゃんおじさんくさいよー」

この可愛い可愛いにこにーを捕まえて、おじさんですって……!?せめておばちゃんでしょ。いやそれもイヤだけど。

まあ、水筒持ってきてくれた恩があるから、聞かなかったことにしてあげるけどね。

「で、ことり。わざわざこっちにきたのは、何かしにきたんでしょ」

もちろん今も『お願い』の時間なので、ちょっかいをかけにきたことに問題はない。あるけど。

「うん♪」

「一体、何しに―――」

質問を制するように、ことりは私の真ん前に座り込む。

とりあえずその動きを眺めていた私に向かって、にぱっと笑ったかと思ったら、手を広げてこう言った。
23: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:32:28.84 ID:3lJLdVKO0.net
「にこちゃんを甘やかしてあげようと思って♪」

「……はぁ?」

「疲れてるでしょ?ほらほら、こっちにおいで〜おいで〜」

ぱたぱたと手を振りながら私を呼び寄せている。

いや、いきなりそんなこといわれても行かないからね?私にも年上のプライドっていうものがあるんだけど……?

無言でことりを見つめていると、不思議そうな表情で頭をひねっている。私のほうが不思議だっての。

「どうしたの?甘えてもいいんだよ?」

「いやいや……、甘えないわよ。意味わかんないし……」

「えぇ〜?」

「こっちが、えぇ〜?よ。急になんなのよ……」

「えっとぉ……」

ことりの目が泳いで―――ではなく、屋上のどこかを窺っていた。視線の先を追う。

そこには、凛と真姫とお喋りに興じている花陽がいた。しばらく二人でみつめていると、こちらの視線に気がついたようだ。

しかしなぜだろう、すぐに視線を逸らされてしまった。ことりは私に向き直って、衝撃の事実を教えてくれた。
24: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:33:49.54 ID:3lJLdVKO0.net
「あのね、にこちゃんの甘える姿がとっても可愛かったよ!って花陽ちゃんが教えてくれたの!」

(ちょっと花陽ぉー!何いってくれてるのよっ!)

どうやら昼休みの体験を赤裸々に語ってくれていたらしい。

ぐああ、あれが知られているなんて恥ずかしい。ただでさえ思い出したくない醜態なのに。

「それでね、ことりもそんなにこちゃんを見てみたいなぁって思って。……ダメかな?」

さっき胸を執拗に揉んできたやつと同一人物だとは思えない殊勝な態度。

しかし、あんなみっともない姿を人には―――特に下級生には見せたくないってのが本音だ。

私はいつだって、この娘たちの前では頼れる先輩でいたいのだ。……実際にどう思われているかは、ともかくとして。
25: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:35:13.22 ID:3lJLdVKO0.net
「にこちゃぁ〜ん……」

押し黙ったまま悩んでいると、ことりは拒否されたと思ったのか、うるうるとした目を私に向けている。

見ているだけで罪悪感に埋め尽くされそうになる表情だ。海未ならこれだけで何でもいうことを聞いてしまうことだろう。

でも、騙されてはいけない。ていっという掛け声と共にことりの額にチョップを落とす。ぽこっと、小気味いい音が響いた。

「なにするのぉ……?」

「だまんなさい。どうせ嘘泣きなんでしょ。いい?はっきり言っとくけどね、『お願い』以外は聞かないからね」

「うぅ〜、にこちゃん酷い。今のって、怒ってるようなものだよ〜」

悲しそうな雰囲気どこへやらと消え去って、今度は恨みがましい表情で私を睨んでいる。まあ、ことりがやってもまったく迫力はない。

「怒ってないし。教育的指導だし。そんな顔しても、ダメなものはダメ」

「むぅ〜」

ことりはほっぺたをぷうっと膨らませて不機嫌アピールをしている。

この娘に限っては、天然なのか計算なのかわからない。
26: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:36:28.57 ID:3lJLdVKO0.net
「あざといっていうか、ベタっていうか……はぁ、もう……」

どちらにしろ、せっかくの可愛い顔が台無しだ。

そう思って、ほっぺたの空気を吐き出させようと手を伸ばす。しかし、手は空を切った。

「ちょっと……」

すかっ。またもや空振り。

「くぉのっ……!ふぬっ……!」

すかっ。すかっ。ことりは無駄に敏捷性を発揮して、するすると避け続ける。

しかも、私の手が届くか届かないかの位置をキープしながら。器用なやつめ。

それにしても、普段はなんだかんだいっても、わがままを言うほうじゃないのに、どうしたのよ……。
27: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:37:27.44 ID:3lJLdVKO0.net
「もー、なにがそんなに不満なのよ」

ことりは尖らせていた口を開いて、不満です!という表情のまま話し始める。

「だって……ずるいもん」

「はぁ?」

「花陽ちゃんだけ、ずるい!ことりも特別なにこちゃんが見たいもん!」

いうだけいって、またもや頬を膨らませ黙り込む。

甘えんぼにこにーを見たのは花陽だけじゃないという事実は置いといて。ああ、そういうことねと納得した。

つまり、花陽が羨ましくて拗ねていると。
28: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:39:50.16 ID:3lJLdVKO0.net
(可愛いところあるわね〜)

そういう事を―――幼馴染の二人だけでなく―――私にも思ってくれるのだと思うと、妙に胸がくすぐったい。

しかも、わがままで聞き分けの悪いことり、だなんて。幼馴染でも滅多に見れない特別なものといっていいと思う。

(そんなの見せられちゃったら、私だけ見せないわけにはいかないじゃない)

でも、甘えることは絶対にしたくない。

だから代わりに、別の宥める方法を考える。何かないかしら、何か……。

(そうだ、ついでに胸をわしわしされた復讐もしてやろっと。となると―――うん、あれがいいわね)

これはセクハラの恨みを晴らすチャンスでもある。そう考えるとやる気がみなぎってきた。

さっきみたいに頬を抑えようとしても逃げられるのがオチなので、抱きしめる形で捕まえることにした。

疲れきっている体にムチを打ち、ことりに突撃する。
29: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:40:55.59 ID:3lJLdVKO0.net
「どりゃあっ!」

「ひゃあっ」

実にアイドルらしくない雄叫びをあげながら、ことりにしがみつく。動けないようにガッチリと体を固める。

「にこちゃん、」

「つーかまえたっ」

言葉を遮って、ことりの頭を強引に引き寄せた。一瞬だけびくっと震えたけれど、抵抗するでもなく私に身を任せている。

そして十数秒ほど経過した頃、まだちょっと不機嫌な様子のことりが口を開いた。

「……にこちゃん。私、今、汗臭いよ」

「そんなの私もよ。嫌なら離れるわよ?」

返事はない。嫌ではないってことよね。ちょっぴり安心したところで、髪をすくように撫ではじめる。
30: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:41:57.06 ID:3lJLdVKO0.net
「仕方ないから、あんたにも特別なことしてあげる」

「ほんとう……?」

「本当。でも、甘える、じゃなくて、こういうことだけど―――」

ニヤリとほくそ笑む。ことりは完全に油断している。これが、この時が、私が狙っていた瞬間だ。

隙だらけの体に、わしわしの恨みとありったけの愛情をのせて首筋を狙う。

ぺろり。

「っ……!」

最高のタイミングで舐めたつもりだったけど、声を上げさせることは出来なかった。

ことりの恥ずかしい声をみんなに聞かせてあげようかと思ったのに、残念ね。

「ふぅ……っ、にこちゃ……ん……やめっ……てっ……」

「やだ」

肌を這い動く私の舌に、ついには声が漏れ始めて、拒絶が聞こえた。

しかしその言葉は、むしろ私を燃え上がらせるだけ。……でも本気で抵抗されたらやめようとだけ決めて、ことりの肌を味わい続ける。
31: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:43:12.11 ID:3lJLdVKO0.net
「だ、め、だって、ばぁ……」

口とは正反対に体の力は抜けていっている。

舐める部分を下へ、下へと移動していく。首筋から肩へ、肩から鎖骨へ。反応は徐々に大きくなっていく。

「んっ……ぁ……」

おまけとばかりに鎖骨に唇を落として、軽く吸い付く。ちゅーっ。

「ふぁ……!」

それが決定打になったのか、ことりはふらふらとへたり込んだ。

ふふ。予定通り、お風呂で背中に水滴が落ちてきて、ひゃん、となる感じを味あわせる―――という目的は達成できた。

「ちょっと、大丈夫?」

呼びかけてみる。力が入らないのか、顔だけをこちらに向けた。どこか熱っぽい表情で私を見つめている。

なんとなく気恥かしさを覚えてしまって、誤魔化すために舌をんべーっとしながら、からかうように話しかけた。

「しょっぱかったけど、結構好きな味だったわ」

ことりの肌は汗でしょっぱかったけれど、甘いものを舐めた不思議な気分だ。

これって、ある意味では甘えていたのかもしれないわね―――っていうのは、変態チックすぎるかしら。
32: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:44:43.37 ID:3lJLdVKO0.net
「……ちゃ……、…っち」

ことりはただでさえ赤かった顔をさらに赤くして、かすれるような声で何かをいった。

今なんていったの?聞こえなかった、と尋ねながら耳を近づける。今度は、ことりが声を大きくしたのもあってはっきりと聞こえた。

「にこちゃんの、えっち」

睫毛をうっすらと涙に濡れさせて、上目づかいに、甘ったるい声で、恨めし気に。

私を責めるその姿に、ぶつん、と理性の糸が切れる音が聞こえた気がした。

気がつけば、先ほどとは逆の首筋にかぶりついていた。

「ひぁ……!にこちゃん、だから、舐めちゃだめだってばぁっ!」

既に声は聞こえない。夢中になって、ことりを弄ぶ。舌の動きに反応して、体をくねらせているのが愛おしく仕方ない。

奥深くまで、執拗に。ことりがより反応をみせる場所を、もっと可愛い姿が見せる場所を探して。

「全部、あんたが悪いのよ?」

最初に望んだのは、あんただもの。責任はとってもらわなきゃ。

そして、結局、この卑猥で特別な行為は―――

休憩の終わりを告げにきた海未の、破廉恥ですビンタによって終焉を迎えるまで、続くことになった。
33: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:46:29.01 ID:3lJLdVKO0.net



ぶっすー、という音が聞こえてきそうになるほど不機嫌な表情で、ことりが不貞腐れている。

ここまでぶぅたれている姿を見るのは初めてだから、正直面白くてしょうがない。だけど、一応尋ねておこう。

「今ならまだ追いつくかもしれないわよ?」

他のみんなは着替え終えて下校してしまったけれど、そんなに時間はたっていないから十分追いつけるはず。

とある都合により部室に居残っている私に付き合って、ことりも残らなくてもいいのよ?という意味を含ませて、優しく語りかけた。

「……」

ことりは何も答えない。じとーっと責めるように見つめてくるばかり。

「別に居たいなら、いいんだけど」

はじめは、せっかくの空いた時間だから、サービスで『お願い』を延長してあげようと思っていた。

でも、肝心のことりが、あのぺろぺろ攻撃が終わってから、ずっとこんな感じだ。

(やっぱり、ちょっと居心地悪いにこ……)

こうなっている原因は私にあるから、いいたいことがあるならいいなさい!と怒ることも出来ない。
36: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:52:31.80 ID:3lJLdVKO0.net
「暇ねー……」

ことりから視線を外して、目を閉じる。肩の力をだらんと抜いて首をぐるりと回す。あーうー。体が疲れている。

『お願い』から解放されるまで、あと二人。長いんだか短いんだか。海未はともかく、穂乃果がね……と考えながら、目を開く。

目と鼻の先に、身を乗り出したことりが迫っていた。
38: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 20:58:57.28 ID:3lJLdVKO0.net
「うわわっ!?」

がたがた!驚きで飛び上がり、バランスを戻せないところまでイスを傾かせてしまう。やばい、倒れる―――!

しかしその瞬間。どこからか伸びてきた腕が、私を引き寄せて元の位置に戻してくれた。まあ、どこからもなにも、ことりしかいないんだけど。

「危ないよ、にこちゃん。気をつけないとっ」

「あ、ありがと、気をつけるわ―――って、ぬぁんでよ!あんたのせいなんですけど!あー、びっくりした……」
39: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:07:38.49 ID:3lJLdVKO0.net
ことりは、めっ、というポーズをとって注意をしてきた。

私が目を瞑っている間に心境の変化があったらしい。その表情には決意のようなものが見て取れた。

「そうなの?ごめんね。にこちゃんに聞きたいことがあったんだけど、寝ちゃったのかと思って……」

憂いを秘めたような顔で、そんなことを言うので、怒りが静まってしまった。

とりあえず、聞きたいこと、とやらの続きを促す。
40: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:08:26.57 ID:3lJLdVKO0.net
「なに?どんなこと?答えるかは保証しないけど、いってみなさい」

一応、予防線を張っておく。変な質問ならノーコメントで切り抜けるつもり。

しかし、投下された質問は、思ってもみなかったものだった。

「……にこちゃんは、みんなの中で誰が一番好きなの?」

「はっ?」

予想外の質問に、間抜けな声が出てしまった。

誰が一番好き?なんて順位をつけるようなことを、仲良しこよしが大好きなことりがいうなんて、驚いた。
41: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:09:12.65 ID:3lJLdVKO0.net
「……あんたでもそーいうの気にすんのね」

「ことりだって気にするよ。穂乃果ちゃんの一番は誰なのか。海未ちゃんの一番は誰なのか。……にこちゃんの一番は誰なのか」

「ふーん……」

幼馴染の名前が出てくるあたり、三人で仲良しという中にも色んな葛藤があったのかなー、と思いながらも。

これは少なくとも、ただの世間話というわけではないことを理解した。なので、正直に思ったままを答えることにする。
42: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:10:12.46 ID:3lJLdVKO0.net
「にこが好きなのはね」

真剣な表情で耳を傾けてる。せっかくなのでもったいぶろう。少し間を置いてから、大仰に宣言する。

「私が好きなのは―――当然!この!にこ自身よ!」

ででーん。立ち上がり、ない胸を精一杯張りながら、にっこにっこにーを決める。

これ以上の答えはないっていうくらいの、会心のにっこにっこにーだった。
45: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:10:58.32 ID:3lJLdVKO0.net
「にこちゃん、ふざけないで答えて」

しかし、ことりには通じなかったみたいで、真顔でこちらをみている。

別にふざけてないんだけど。というかその顔苦手だからやめてほしい。

「ふざけてない。私が一番好きなのは、私。最高に可愛い私が大好きで、そんな私だからこそ、みんなを笑顔にできるって思ってるんだし〜?」

「私は、そういう話をしてるんじゃなくて……!」

「にこにとっては、そういう話なの」
46: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:12:00.67 ID:3lJLdVKO0.net
続いた抗議の言葉を、ぴしゃりと撥ねのける。ことりは押し黙った。

「ほら、しけた顔してないで。あ、そうだ。私もことりに聞きたいことあるのよ」

重苦しい雰囲気は嫌いだ。場の空気を変えるため、逆に私のほうから質問してみる。

「……なぁに?」

「あんたの『お願い』って、なんで『何をしても怒らない』なの?」

内容は『お願い』のこと。他のメンバーは何かしらの行動を要求するものばかりだったけど、ことりだけが違った。

あくまでことりの行動に対して、私が怒らないという、一風変わったものだったから気になっていた。
47: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:12:38.63 ID:3lJLdVKO0.net
「それは秘密ってことじゃあ……だめ?」

暗い顔を一転させて、ことりは焦りはじめる。

この反応は何かある。逃げ出してしまう前に追い詰める。

「私は答えたんだから答えなさいよ」

「えぅ」

答えにくそうにしているけれど、そんなの知らない。さあ、キリキリ吐きなさい。
48: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:14:17.00 ID:3lJLdVKO0.net
「うー……あのね……そのね……」

指をもじもじさせながら言葉を探している。視線もあっちこっちにさまよっている。

早くいいなさいよと念じながら睨みつけていると、ようやく観念したらしい。すぅ、はぁと深呼吸して、口を開いた。

「穂乃果ちゃんとか、凛ちゃんみたいに抱きついたり、希ちゃんみたいに悪戯したり……そういうの、私もやってみたかったんだ」

「はぁ?……あー、まあ、そういうこと色々されたっけ」
49: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:15:12.40 ID:3lJLdVKO0.net
くっついたり、悪戯されたり、くっついたり、悪戯されたり、くっついたり、悪戯されたり。

この一週間の思い出が駆け巡る。これまでになく、ベタベタされた。

「だから、そういう『お願い』だったら、私にも許してくれるかなって思って、そうしたの」

ことりは、全てを語り終えたとばかりに目を閉じた。

いやいや、なんだか清々しい感じになってるけど。にこは全く理解できてないからね。
50: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:16:43.72 ID:3lJLdVKO0.net
「そんなこと『お願い』関係なく、やってくればいいのに」

思ったままを口にすると、ことりは驚いたかのように目を見開いて、私をまじまじと見つめだした。

その様子に不安になってくる。私、何か変なこといった?

「……いきなり、にこちゃんを抱きしめてもいいの?」

「時と場所さえ選んでくれたら、別にいいけど……?」
51: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:18:08.25 ID:3lJLdVKO0.net
「希ちゃんみたいな悪戯は?」

「笑って許せる悪戯なら、まぁ……ちょっとは怒るかもだけど。わしわしにはキレるわ」

「私でも、そういうことして……いいの?」

「なに?遠慮してんの?同じμ'sの仲間でしょ、っていうか―――」
52: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:19:01.67 ID:3lJLdVKO0.net
あの日の光景を思い浮かべる。

私の頬に何度も親愛の証を落としていった、ことりの照れる表情。そして、たった一度だけ交わった唇と唇。

「―――私達、キスまでした仲でしょ?」

ほんっとーうに、今更すぎる。私とあんたは、あんなことまでした関係なのに、どうして抱擁や悪戯程度でためらうのよ。

そんなことで悩んでいたなんてバカなんじゃない?といいそうになった。
55: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:20:21.19 ID:3lJLdVKO0.net
「そっかぁ、そうだったんだ……あはは……」

ことりは安堵の言葉を零している。緊張の糸が切れたのか、いつものほわほわ笑顔が戻ってきた。

(とにかく、これで一件落着―――じゃ、ないわね)

ことりの話を聞いて、私の方に問題が発生したというか。やり残したことがあるのを思いだした。
56: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:22:18.97 ID:3lJLdVKO0.net
「はぁ……、まさか、実はことりが心を開いてくれてなかったなんて……とっても悲しいにこ……」

よよよ、としなを作りながら、悲しそうな表情で呟く。
狙い通り、復活してきたほわほわ笑顔は、その言葉で硬直した。ことりは慌てて弁解し始める。

「あの、にこちゃんっ、別にわたしね、心をひらいてなかったとかじゃなくてね、自分に自信がもてなかっただけで―――」

「いっぱいほっぺにキスしてくれたのは嘘だったのかしら……はぁ……」

「だから、ちがうの!話きいてよぉ〜!」
57: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:23:32.04 ID:3lJLdVKO0.net
これまでの一週間、ことりは心の底で一歩引いていたらしい。
この事実に私はちょっと怒っている。そしてそれ以上に、自分が情けなくて仕方ない。

「やっぱりあれねー。足りなかったかな。それとも、我慢させすぎちゃった?」

「ほぇ? えっと、なんのはなしをしてるの……?」

それまでの私とことりはベタベタするような関係じゃなかったんだから、配慮すべきだった。
急に距離を近づけたのに、安心させてあげるようなこともいってなかった。
58: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:24:22.14 ID:3lJLdVKO0.net
「これの話よ、これの」

決まってるでしょ?という態度で、ことりに指を突きつける。指し示している場所は、もちろんことりの唇だ。
しばらくして意味を理解したみたい。顔を赤らめて、視線が泳いでいる。見るからに挙動不審。

「あの日の約束、覚えてる?」

期待させるようなことをいって、そのままだった例のこと。
交わした約束は、未だ果たされていない。
59: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:29:22.32 ID:3lJLdVKO0.net
「うん。覚えてるよ。続きは今度……だよね?」

これから何が起きるのかを想像しているのか、ことりの顔は既に紅潮しきっている。耳たぶも真っ赤だ。
あまりの気の早さにくすりと笑みを漏らす。まあいいや。きっと、その通りになるんだもの。

「こっちおいで」

手を広げて呼びかける。ことりは何もいわずに席を立ち、フラフラとあやうい足取りで歩み寄ってくる。
そして、ぽふ、と軽い音をたてて腕の中に収まった。
60: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:30:28.73 ID:3lJLdVKO0.net
「にこちゃん……」

熱に浮かされたように見上げる瞳。浅く繰り返され、私の肌を焦がす吐息。互いの熱で、滴り落ちる汗。
その全てがキラキラと輝いて、ことりの可愛さをより引き立てる。そして、甘えるような声で、ことりは囁いた。

「……続き、して?」

ふと、壁にかけられている時計をみる。
二人で居られる残り時間は、長くもなく、短くもない。
そんな中途半端な時間だったけれど―――。

私とことりの、少しだけ開いていた距離をゼロにするのには、十分すぎる時間だった。
61: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/22(金) 21:30:59.14 ID:3lJLdVKO0.net
ことり編 終わり
87: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:01:46.03 ID:Yf4unqnT0.net



待ち人、未だ来ず。

「まだかしら……」

あの子のことだから、それ相応の理由はあるんでしょう。でも、だからといって待つのが辛くなくなるわけじゃない。
何度目かわからない溜め息をつきながら、彼女のことに思いを馳せる。

(顧問との話って、なんだろ……)

背後を振り向く。そこには、寂れた学校には似つかわしくない立派な弓道場が鎮座していた。

本当は中に入って待っていてもいいんだけど、どうにも雰囲気が苦手だった。

板張りの床。壁にかけられた弓。賑わっていた過去を思わせる書状と、錆びたトロフィー。

張り詰めるような、独特で、静かな空気。そういうのが肌に合わないんだと思う。
88: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:02:36.17 ID:Yf4unqnT0.net
(どうせ次の大会の話でもしているんでしょうけど)

近く、そういうことがあると本人から聞いた覚えがある。

こんな遅い時間に話をしているのは、アイドル研究部のほうを優先してくれているからだ。

ありがたいことだけど、兼部は大変ね。

(帰ってからも習い事、あるのよね……。どんな体力してるのかしら)
89: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:03:33.48 ID:Yf4unqnT0.net
本人によれば『ふふ、慣れですよ、慣れ』ということらしい。

その時の私は、よっぽど納得出来ない顔をしていたのか、『にこも、妹さんたちのお世話をだいぶしているのでしょう?同じことですよ』ともいわれた。

とりあえず納得している振りをしてはいるが、やっぱりどうなの?大丈夫?と思うことがある。

(ま、気にしすぎても仕方ないんだけど……)

大丈夫じゃなくなったら幼馴染あたりがどうにかするはずだし。
私はアイドル研究部の部長として見守るだけでいい。もやもやする気持ちを胸の奥底に仕舞いこんで、そう結論付けた。

「とにかく、早く来なさいよね……ばかうみ」
91: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:04:50.45 ID:Yf4unqnT0.net



「―――にこ!お待たせしてしまって申し訳ありません!」

海未のつむじは、左巻き。最初に思ったことはそれだった。

というのも、弓道場の扉が開く音に反応して振り向き終える頃には、深々と下げられた頭しか見えなかったからだ。

そして、今もなお、すみませんすみませんと繰り返し下げられる海未の頭しか見えていない。

「顔あげなさいよ……。そんな必死に謝ってるのを誰かに見られたら、私が怖い先輩だと思われちゃうでしょ?」

大抵の部活動がすでに終わっているとはいえ、構内にはまばらには人影があった。

こうしているところを誤解されて噂にでもなって、"衝撃スクープ!μ’s矢澤にこ、後輩イジメか!?"とでも新聞部に書かれてしまっては、色々とまずい。

……あれ?音ノ木坂って新聞部あったっけ?まあいいや。とにかく困ることには変わりない。
92: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:05:27.03 ID:Yf4unqnT0.net
「しかし、かなりお待たせしてしまったので……」

控えめにそういって、ようやく見せた顔の眉尻は随分と下がっていた。

「そんな顔しないでよ。私、別に怒ってないし」

海未のいうとおり、結構な時間を弓道場の前で過ごしはした。でも、私は本当に怒ってなんていなかった。

どうせ顧問の話が長引いたとか、止むに止まれぬ事情があったのだろうし。遅刻を責めるつもりはない。
93: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:06:32.51 ID:Yf4unqnT0.net
「ですが……」

「だーかーらー、いいっていってるのっ。しつこい謝罪は逆効果よ?」

「……そうですね。わかりました」

しゅん。少し語気を強めてしまったせいか、まさに意気消沈という具合にうなだれてしまった。

これから一緒に帰るというのに、そんな顔しないでほしい。ううーむ、ここはにこが慰めてあげるべきなのだろうか。

(……別に、説教じみたこといったのを、後悔してるわけじゃないからね)

誰に聞かれるでもない言い訳を内心に呟きながら、おもむろに海未の頭に手をのせる。

私の急な行動に目を白黒させている海未のことは気にせず、よしよしと撫ではじめる。
94: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:07:32.57 ID:Yf4unqnT0.net
「に、にこっ、なにを……!」

「なにって……。よしよし?もしくは、いいこいいこ?」

「そういうことでなくてっ」

「え、嫌だった?じゃあやめるけど」

本当に嫌だったら、すぐさま振り払われていたでしょうけど……と思いながら、手を離す。

その瞬間、海未が、あっ、と寂しそうな表情をしたのには思わず吹き出しそうになった。

こういうところは実にわかりやすい。
95: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:08:20.86 ID:Yf4unqnT0.net
「いやではない、です……」

「そ。じゃあ続けるわね」

もう一度、頭の上に手をのせる。真っ赤な顔で、海未はそれを受け入れる。

よしよし、よしよし。しばらく、髪型を乱さないように優しく撫でていると、次第に気持ちよくなってきたらしい。

目を細めて、とろんと眠そうになっている。
96: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:09:23.84 ID:Yf4unqnT0.net
(こころたちも、こんな感じでよく寝かしつけたっけ)

ママが仕事でいない時は、それが自分の役目だった。

今だって、幼いこたろうを寝かしつけることはある。

でも、こころやここあが代わりにしてくれることも増えて、私の出番はなくなりつつある。

成長を嬉しく感じながらも、寂しいと思う気持ちもあったりして、海未を撫でていると、その気持ちがより鮮明に感じられる。

それに、そういえば―――海未にも、お姉さんがいると聞いたことがある。

姉と妹という立場は反対だけど、海未も似たように、寂しいと思っていたりするのかもしれない。
97: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:10:13.25 ID:Yf4unqnT0.net
「ねえ、海未。あんたってお姉さんいるのよね?」

「……あ、はい。ひとり、歳の離れた姉が」

「ちっちゃい頃とか、よくこうされたりした?」

「そうですね……。姉は家をでるのが早かったので、あまり記憶は多くないのですが―――ふふっ」

海未は急に吹き出した。何事だろうと思う私に、海未は慌てて弁明する。
98: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:11:13.17 ID:Yf4unqnT0.net
「いえ、あの……姉は、物事にはキッチリしている几帳面な人だったのですが。私を褒めるときは、ぐしゃぐしゃと頭をかき回す人でして」

「ふぅん?」

「それなのに、にこは逆に荒っぽそうに見えて、優しく細やかに撫でてくれる―――というギャップが面白く感じてしまって……ふふ、すみません」

「……それって、私は怒るところ?喜ぶところ?」

「どうでしょう、ね?」

荒っぽいという言葉には微妙に納得がいかないと思いつつ。

嬉しそうに、そして悪戯っぽく微笑む海未の前には、どうでもいいことだった。
99: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:13:01.72 ID:Yf4unqnT0.net



『お願い』が『二人きりで下校すること』だと告げられた時、私はとても戸惑った。

そんなことで許してくれるのかとか。逆に、許すつもりがないからこそ、その程度のことなのかとか。

襲いかかった中では一番酷くしてしまったという思いもあって、不安に思っていた。

「にこ。あそこに、ねこさんがいます。可愛いですね」

「ん、ほんとね。可愛いっていうか、ブサかわだけど」
100: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:15:09.29 ID:Yf4unqnT0.net
でも、それは全くの杞憂だった。海未は以前と変わることなく―――それ以上に良く接してくれている。

時折、あの日のことを思い出すのか、私を見て赤面していることがあったりするが、それ以外では平常通りなようにみえた。

「私は普通に可愛いと思いますが……。ほら、鼻がぺちゃっとなっているところか、可愛いじゃないですか」

「まぁ、可愛いっちゃ可愛いわよ」

加えて、二人で下校するようになって気がついたこともある。それは、海未が意外にお喋りだということ。

沈黙を苦痛に思うタイプとも思えないのに、間をおかずによく喋る。

もしかしたら、普段二年生組やリリホワに引っ張り回されているから、その分溜まっているのかもしれないけれど。

どちらにしろ、海未と会話するのは楽しいから全然いいんだけど。
101: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:16:37.35 ID:Yf4unqnT0.net
「それにしても、あんたってねこさんって呼ぶのね。……くふふ」

ほらね。今だって、「ねこ」に「さん」を付けるという、海未の知らなかった一面を知ることが出来た。

「―――なんですか。いけませんか?」

思わずこぼしてしまった笑みを、馬鹿にされたと思ったみたいだ。ツンとむくれている。

「違う違う、そうじゃなくて。海未らしくて、可愛いなって思ったのよ」

「本当ですか?」

「あんたに嘘ついてどうすんのよ」
104: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:17:36.58 ID:Yf4unqnT0.net
じろり、と探るように視線をぶつけてくる海未に、負けじと力強く見つめ返す。

立ち止まり、二秒、三秒と続くにらみ合い。十秒が経過する頃、海未は顔を赤らませながら背けた。

(ふふ、勝負を制したのは私のようね……!)

何の勝負かはさておいて。こういうのは目を逸らしたほうが負けだと大昔から決まっているのだ。

「……わかりました。にこを信じましょう」

「そりゃどーも。ありがたいわ」

仕方ありませんね、といった様子の海未を仕方ないわねーと思いながら下校を再開する。

少し歩いたところで、海未が何かを思い出したかのように周囲を見回してから、私の方へと振り向いた。

「ねこさん、いなくなってます……」

その時のしょんぼりとした顔は、幼い感じがして、とても印象的だった。
105: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:19:05.69 ID:Yf4unqnT0.net



こつ、こつ、こつ―――。

花を咲かせていたお喋りも、いつしか鳴りを潜めている。

いま私達の間に横たわっているのは、重苦しい沈黙とアスファルトに響く足音だけ。

(もうちょっとで、終わりね)

二人きりの時間が終わることに寂しさを覚えている。

別れ道に近づくにつれて交わす言葉は少なくなっていった。たぶん、海未も同じ気持ちなのだと思う。
106: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:19:46.72 ID:Yf4unqnT0.net
(一緒に帰ってるってだけなのに、妙に寂しい)

これからだって、機会がないわけじゃない。

私が誘ってもいいし、海未から誘われることがあるかもしれない。

だけど、そうなってしまうと意味が違ってくるんだと思う。

今日までは、特別なあの日からの延長戦。明日からは、日常の延長線。その違いだ。
107: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:20:26.33 ID:Yf4unqnT0.net
「はぁ……」

漏れだした溜め息からは、自分でも笑えるくらいにそれを感じ取ることが出来た。

「どうかしましたか?」

「……なんでもない。ちょっとぼけっとしちゃって」

余計な心配させまいと、表情を取り繕いながら質問に答える。海未に聞かれてしまった。迂闊。

しかし幸運な事に、海未は特に疑問に思うでもなく、そうですかと納得してくれた。
108: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:21:50.12 ID:Yf4unqnT0.net
こつ、こつ、こつ―――。

再度、広がる沈黙。足音だけが支配する世界。

静かなのが嫌いなわけじゃないけれど、ついさっきまでの海未がお喋りだったこととの落差に、大きな違和感がつきまとう。

(海未も黙ってないで、何か話してくれたらいいのに)

他人任せな思考をしながら、横目に様子をうかがう。なぜか、不自然なほどに前を向いている。

どうしたというのだろう。首を傾げながら観察していると、もう一つ不自然な点を見つけた。

私から見える手―――海未の左手だ―――が、変に力が入っていてガチガチだ。
109: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:22:34.74 ID:Yf4unqnT0.net
(むむう……?)

そして、海未の左手が恐る恐るといった様子で、私の右手に近づいたり離れたりを繰り返している。

「ぷふっ」

この動作が意味するところは一つしかない。私と手を繋ぎたいけど、恥ずかしくて踏み切れないのだ。

微笑ましさに、笑いが漏れでてしまって―――それがいけなかった。

即座に声に反応した海未は、体をびくっと跳ねさせて完全に手を引っ込めてしまった。
110: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:23:42.55 ID:Yf4unqnT0.net
(海未が静かだったのって、これが原因だったのかしら……)

私が感じていたような寂しさでもなんでもなく、単に私の手に意識を集中させていて緊張していたから、とかだったら……。

愛おしさに吊り上がってゆく口の端をなんとか抑えこみながら、こほんと喉を整える。

こういう場面でこそ、先輩が後輩を導いてあげなくてはいけない。

「ねえ、海未」

「なんですか?」

素知らぬ顔で応じる海未。だが、語尾が微かに震えていた。笑いがこみ上げそうになる。
111: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:24:40.55 ID:Yf4unqnT0.net
「もう少し、こっちに寄ったら?」

言外に、そうしたほうが手を繋ぎやすいでしょうと示しながら、軽い調子で勧めてみる。

これだけお膳立てしてあげればシャイな海未でもイケるでしょうと思いきや。

思惑とは逆に、海未はするすると離れていってしまった。

「って、ぬぁんで離れるのよっ!」

「その……、恥ずかしいですし……」
112: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:25:24.12 ID:Yf4unqnT0.net
海未は顔を赤らめて、そんなことをのたまった。ガッカリするやら、それでこそ海未だというべきか。

しかも、私を意識してしまったのか元の距離にすら戻ろうとしない。

(ったく、じれったい!)

こうなった海未に四の五のいっていても始まらないし、待ってもいられない。

こちらから行動を起こすことにする。にこにー先輩は短気なのだ。
113: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:26:25.76 ID:Yf4unqnT0.net
「私から近づくことにするわ。それならいいでしょ」

口を挟ませる前にずかずかと近づいて、ぐいぐいと肩を寄せる。

何もせずとも手と手が触れ合う至近距離に、海未は茹だったタコのように赤くなった。

「近すぎです、にこっ」

「いいでしょ、別に。誰かさんが私のお誘いを蹴ったりしなかったら、こんなことしなかったんだけど」

「うぅ……にこはいじわるです……」

羞恥で消え入りそうな抗議の声も、私にはどこ吹く風。原因は海未にあるから手加減なしだ。

とはいえ、私は意地悪をしたくてこうしてるわけじゃないので、ちゃんと救いの手もさしのべる。
114: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:27:44.91 ID:Yf4unqnT0.net
「二度と逃げないって約束してくれるなら、そうね……少しだけ離れてあげる」

「別に私は、逃げたわけでは……」

「約束するの?しないの?」

「……します」

言質はとった。海未のことだから自分の言葉は違えないでしょう。信用してるわよ、海未。

「じゃ、指きりげんまんね」

「はい……」
115: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:28:39.06 ID:Yf4unqnT0.net
少しだけ肩を離しながら、自然な流れで腕をするりと滑りこませて小指同士を絡め合わせる。

歩いたまま、しかも横手に繋いだ変則的な指切りに、海未は不思議そうな顔。ま、普通は向かい合ってするものよね。

でも、私はあえて言及せずに歌いはじめた。

「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本、飲ーますっ」

歌に合わせて、腕を軽く弾ませる。残るは『指切った』のみ。

海未は当然のように最後に向けて弾みを大きくした。思わずニヤリと笑ってしまう。

「指切―――っらない!」

「えっ?」

驚いている海未には構わずに、外れそうになった海未の小指をムギュッと強く繋ぎ止める。

海未が呆然としている間にも、他の指と指を絡めていく。外れないように、しっかりと。
116: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:29:26.08 ID:Yf4unqnT0.net
「あの、にこ、これは―――」

「このまま帰りましょ?」

言葉を遮って、それだけを伝える。説明不足も甚だしい。だけど、その一言で海未には伝わるはずだ。

なんせ、さっき自分がやろうとしたことだから。思った通り、言葉を飲み込んだ海未は、赤い顔で控えめに頷いた。

繋いだ手のひらには、外れないようにとぎゅっと力が込められた。

「……」

三度、静寂。お互いに何もいわずに歩き出す。広がっているのは心地良い沈黙。

海未が静かな理由。喜んでいるか、照れているか。たぶん、その両方。

そして、私が静かな理由も―――喜んでいて、照れていたからだった。
120: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:50:36.22 ID:Yf4unqnT0.net



何の変哲もない住宅地の一角、古めかしい街灯の下で、私達は足を止めた。

時間帯のせいなのか、場所のせいかはわからないが人影は少ない。けれど空を見上げれば、いまだ陽は世界を明るく照らしている。

「着いちゃったわね」

この場所は、私と海未の帰路の分岐点。つまり、私達に交わされた『お願い』の最終地点ということだ。

ここで終わる。手を繋ぐのも、一緒に帰るのも、特別な時間も、すべてが終わる。
121: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:51:36.85 ID:Yf4unqnT0.net
「にこ」

声。隣を見る。海未が微笑を浮かべて私を見つめている。

次の瞬間には、別れの言葉。名残惜しい。無理にでも止めてしまおうかと馬鹿なことを考える。

「一週間、ありがとうございました。とても楽しかったです」

「本来はお礼をいわれる立場じゃないんだけど……、喜んでくれてなによりだわ」

海未の笑顔からは、心底、楽しかったという気持ちが伝わってくる。
122: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:52:21.28 ID:Yf4unqnT0.net
「本来?……ああ、そういえばそうでしたね。ふふ、忘れていました」

面白い事実を再発見したかのように笑う海未。私は呆然とする。

あれだけのことを忘れていたと、あっけらかんといわれるなんて思っていなかった。

「きっと、にこと帰ることが楽しすぎたからですね」

晴れ晴れとした表情で、そんなことをいう。

「本当にそう思ってる?」

「私がにこに嘘をついて、どうするんですか」

ねじくれたことを聞いていると自覚はあった。海未が嘘をつく子ではないこともわかっているし。

でも、どうしても聞いておきたかった。ただ楽しいだけの時間ではなくて、特別な時間であったことを確認したかった。
123: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:53:09.66 ID:Yf4unqnT0.net
「一緒に帰ってただけじゃない」

「私の話をいっぱい聞いてくれました。にこの話もいっぱい聞けました」

「それだけ?」

「本当はもっとあるんですが……これだけでも十分でしょう?」

「気になるじゃない。全部いいなさいよ」

「にこは褒めすぎると調子に乗るので」

からかうように笑う。はぐらかすような、見透かすような物言いに私は少しムッとしてしまう。

さらに問い詰めようとしようとした時―――繋いだ手を海未に引っ張られた。

バランスを崩した私の体は、流れるように海未の腕の中にスッポリと収まった。
124: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:53:55.40 ID:Yf4unqnT0.net
「ちょっと、なにすんのっ!」

「なかなか信じてくれないようなので、実力行使です」

「なんでそうなんのよっ!」

「にこならそうするじゃないですか」

ぐぅ、反論できない。

「それにしたって、こんな人目があるところで―――!」

少ないといえど人はいる。しかも周囲にいるのは全く関係のない赤の他人だ。

通行人から向けられる奇異の視線に、顔から火が吹き出そうになる。

力づくで引き剥がそうにも、海未の腕力に勝てるわけもない。
125: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:54:36.21 ID:Yf4unqnT0.net
「私だって恥ずかしいんですから。一刻も早く私を信じてほしいです」

体は押さえつけられていて、海未の顔を見ることは出来ない。

ただ、赤く染まりきった耳が見えている。

「信じる、信じるから!私が悪かったから!」

「……良かった。嬉しいです」

ぼそりと呟いて、ようやく解放される。尻餅をつきそうになったけれど、足腰にムチをうって何とか耐えきる。

文句の一つでもいってやろうと、目を前に向けると海未がいない。かわりに、視界の隅のほうに見覚えのあるつむじがあった。
126: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:55:20.72 ID:Yf4unqnT0.net
「なんでアンタがへたり込んでんのよっ」

視線を下げれば、腰を抜かしている海未の姿が。なにやら悶えている。

手を差しのべて立ちあがらせながら、呆れてしまう。

「うぅ、恥ずかしい……。公衆の面前で、私はなんということを……あああっ」

「あのね……。そんな風になるならやらなきゃ良かったのに」

さっきまでの海未は何だったんだと思いながら、ジトッと見つめる。

すると、顔が赤いままながらも、打って変わって真剣な表情になった海未に見つめ返された。
127: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:55:52.53 ID:Yf4unqnT0.net
「大好きなにこに信じてもらえないのは、恥ずかしいことよりつらかったんです」

「……そ、そうなの」

大好きなにこ、なんて恥ずかしい台詞を面と向かっていわれるなんて。しかも凛々しい表情で。

心臓は早鐘を打つように高鳴りはじめて、耐え切れず、ふいっと顔をそらす。

(なによ……。恥ずかしいのはアンタのほうじゃない……)

パタパタと手で顔を仰ぎ、顔の火照りをなんとか冷ます。

それから、オホン、とわざとらしく咳き込んでから海未に向き直る。仕切りなおしだ。
128: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:56:51.58 ID:Yf4unqnT0.net
「海未の気持ち、疑ってごめん。私だってすごく楽しかったって思ってたのに」

「本当です。酷いです」

わざとらしく膨れながら、ジト目で見つめてくる。

仕草がいちいち可愛いんだからと思いながら、話を続ける。

「だからごめんってば。……とにかく、私のほうこそ一週間ありがとね」

「ええ。ちなみに私、もう怒っていませんからね」

「知ってる。あんたの顔に書いてるもの」

「そうでしたか」

くすくすと微笑む海未に、やれやれと笑顔で呆れる私。
129: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/24(日) 23:57:49.17 ID:Yf4unqnT0.net
「さて……。いつまでも、こうしてるわけにはいかないし。そろそろ、行くわね」

「そうしてください。穂乃果も待ちくたびれているでしょうし」

本当は、もっとこうしていたいけど。

もしも、それを提案したとしても、海未は断るでしょうね。

「今頃ふて寝してるんじゃないかしら。……それじゃあね、海未」

「ふふ、ありそうですね。……それでは、にこ」

引かれる後ろ髪を断ち切るように、お互いの道へと歩き出す。

あえて海未のほうは見ない。理由はもちろん、寂しくなってしまうから。
130: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/25(月) 00:00:35.28 ID:d37CIyPW0.net
「明日から、元通り、かな……って、そんなわけないか」

独り言をぼやきながら、海未を筆頭に、『お願い』を叶え終えたメンバーたちの顔を思い浮かべる。

どう考えてみても、私との関係性は変化してしまっている。

(でもま、海未とは仲良くなれたし。結果オーライよね)

あれだけのことをしてしまった割に、誰とも険悪にならなかったのは僥倖だった。

やっぱり、μ'sの魅力はメンバーの仲の良さもあるんだし。それを崩壊させる可能性があることは慎まなければ。

特に海未にキスしてしまうようなことは、金輪際ないようにしよう。
131: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/25(月) 00:03:36.94 ID:d37CIyPW0.net
「にこ」

―――えっ?

聞き覚えのある、というより先程まで聞いていた声が間近から聞こえて、振り向く。

「渡すものがあったのですが、なかなか踏ん切りがつかなくて」

どうしたの?―――質問する前に、腕が引かれる。

意識はその動きについていけない。海未の意思のまま、抱き込まれ、背中に手を回される。

そして、私の唇は海未の唇へと吸い寄せられて―――ぎゅっと時間は圧縮されて、世界は無音になった。
132: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/25(月) 00:04:54.83 ID:d37CIyPW0.net
「にこは、ずっと気にしていたようなので。これで、お互い様ということにしてください」

衝撃から抜け出せない私には、わけもわからないまま頷き返すのが精一杯だった。

ただ、頷いた私を見て海未は安心したようだった。

「良かったです。これからも、甘えさせてくださいね、にこ。……それでは、失礼します」

ぼんやりとした頭のままで、スカートを翻して、髪を乱しながら物凄い勢いで走り去る海未の姿を眺める。

次第に意識がハッキリしてくる。最初に考えたのは、誰にも見られていないだろうかということ。

あたりを見回せば、偶然か、それとも海未が狙っていたのか。その時だけは、周囲には人影がまったくなかったのだった。

(あ、そういえば……)

先ほどの続き。

キスしないようにと考えていたけれど―――海未のほうからキスしてきた場合は、セーフよね?
133: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 0376-iqWO) 2016/07/25(月) 00:06:17.12 ID:d37CIyPW0.net
海未編、終わりにこ
194: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:27:27.21 ID:utXa0I+U0.net



静かなようでいて、それなりに人通りのある通い慣れた道筋。

次の角を曲がれば、穂乃果の家はすぐ近くだ。

(遅刻してきたことに怒ってるだろうなあー。本当にふて寝してるかも……)

穂乃果の現在の様子を想像して、気が重くなる。

あいつの機嫌が悪くなるということは、同時に私の被害が大きくなるということであった。

とはいえ、私には穂乃果の元へ行くという選択肢しか残されていないのだから、気を揉んでいても意味がない。

諦めて歩みをすすめる。角に差し掛かる頃、それが見えた。
195: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:28:34.49 ID:utXa0I+U0.net
(うわっ)

玄関前に穂乃果が仁王立ちしている。気づかれる前に、物陰に身を隠す。

一瞬だけ見えた表情は、怒っているというより無表情で、それがより怒っていることを表していた。

(やば……すごい怒ってる……)

隠れていても仕方ないとはいえ、やはりためらってしまう。

こうなったら多少なりとも機嫌を直すため、穂乃果の好物のイチゴでも買っていこうかと考え始める。
196: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:29:10.40 ID:utXa0I+U0.net
(でも、イチゴって高いし……ここはイチゴ味のお菓子でどうにかならないかしら……)

しかし寂しいお財布事情との折り合いは中々つかない。頭をひねる。うーん、どうしましょう。

そうして、お金のことに集中していたせいだろう。後ろから近づいてくる足音にはさっぱり気が付かなかった。

「……あれ、にこさん?そんなところで何してるんですか?」

「ふぇっ?」

振り返れば、すっかり顔馴染みとなった雪穂ちゃんの姿。

物陰にしゃがみこんでいる私を不思議そうに覗き込んでいる。
197: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:29:47.39 ID:utXa0I+U0.net
「しーっ、しーっ!」

「?……はい」

いつもならコスメ談義やファッション談義に花を咲かせるんだけど、今はまずい。

穂乃果に隠れていたということが知られてしまったら、イチゴどうこうですまなくなる。

必死に大きな声を出さないようにお願いしながら、玄関のほうを指差す。

「あー……お姉ちゃん、すごく怒ってますね……」

「そうなのよ、来るのが遅くなっちゃって……。穂乃果ってどうすれば機嫌なおるの?」
198: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:30:47.25 ID:utXa0I+U0.net
雪穂ちゃんは『お願い』の簡単な事情を知っている。

といっても、私が罰ゲームでメンバーのお願いを聞いていて、その順番の最後が穂乃果であるというくらいのものだけど。

私がキス魔と化した事件のことは全く知らないし、穂乃果も教えていないだろう。

「あそこまで行っちゃうと、難しいですねー。ほら、お姉ちゃんって無駄に頑固だから」

「えぇ……、どうにかならない?」

この世で最も穂乃果と喧嘩と仲直りをしてきたであろう雪穂ちゃんなら、きっとあるはず。

「うーん、なくもないですけど……」

「ほんとっ?」

「怒りの矛先をそらせばいいんですよ。お姉ちゃん、単純な頭してるので。そっちに食らいつけば大分マシになるはずです」
199: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:31:23.69 ID:utXa0I+U0.net
なかなか酷いいわれようだけど、ふむ、と納得するだけの説得力はあった。実に穂乃果っぽい感じがする。

しかし解決法がわかったとしても、今度はどうやって怒りをそらすかという問題が出てきてしまう。

「矛先ねぇ……」

「そこで、私にいい考えがあるんです!……聞きたいですか?」

ピンとたてた人差し指をくるくるまわしながら、ふっふーんと誇らしげな顔で語る雪穂ちゃん。

ここまできたら聞かざるをえないでしょうね。無言で頷いて、続きを促す。

「まず、私とにこさんが腕を組んでイチャイチャしながらお姉ちゃんのところへ行きます」

「―――ちょっと待って。頭痛くなってきた」

初っ端からぶっ飛び過ぎでしょう。やはり、あの姉あっての妹か。
200: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:33:39.13 ID:utXa0I+U0.net
「いやいや、にこさん。これにはちゃんとした理由があるんですよ」

「どんな理由よ……」

「ほら、私とお姉ちゃんって二つしか歳違わないじゃないですか。
だから―――なのかはわからないですけど、物をよく取り合ったりしてたんですよ」

雪穂ちゃんの語るところによれば。

幼き頃の高坂姉妹の物の取り合い―――おもちゃやお菓子などをめぐるバトルは、それはもう激しかったらしい。

流石に今では夕食のおかずや食後のデザートでぐらいしか争わないらしいが。

うちの妹達も物を撮り合って喧嘩していることがあるので、そういうのはわからないでもない。
201: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:34:36.72 ID:utXa0I+U0.net
「で、今回はそれをにこさんで争うことにして、怒りの矛先をずらしちゃえ、というわけです」

「うん、まぁ、一応納得はしたけど―――それって、穂乃果が私を取ろうとしてくれないと意味なくない?」

両者に自分のものにしようという意志がなければ、取り合いは発生しない。

そのあたりのことがスッポリと抜け落ちているのではないだろうか。

「それは大丈夫だと思いますよ。にこさんにこだわってるからこそ、あんなに怒ってるんでしょうし」

ちょっと照れる。……こら、雪穂ちゃん。そのニヤニヤした顔をやめなさい。

とりあえず、その考えをお願いする方向に決めた。だけど、一つだけ聞いておかなければいけないことがある。
202: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:35:58.22 ID:utXa0I+U0.net
「雪穂ちゃんはいいの?穂乃果と喧嘩になるかもしれないけど……」

狙い通りにいったとすると、最低でも少しの間、穂乃果は雪穂ちゃんに対して不機嫌になるはずだ。

私個人のことにそこまで巻き込んでしまっていいのかという思いがあった。

しかし雪穂ちゃんは、そういう話をされることが想定済みだったのか、考える素振りすらせずにいった。

「条件として、今度一緒にお買い物に行くってことで、どうです?」

「……そんなことでいいの?」

「いいんです!私も、にこさんともっと仲良くなりたいなーって思ってるんで!」
203: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:36:44.73 ID:utXa0I+U0.net
穂乃果そっくりな笑顔を輝かせながら、そういう雪穂ちゃん。

性格が違うように見えて、やはり姉妹なのだとしみじみ思った。

「それじゃ、お願いしようかな」

「任せて下さいっ!それでは早速、お姉ちゃんのところに突撃しましょう!」

返事と共に、ためらいなしに腕を組まれ、強制的に物陰から連れだされる。

打ち合わせとか何にもしないのかと、止める間もなく、気がつけば―――

「にこちゃん。雪穂。一体、二人でなにしてるの?」

―――私の姿は、穂乃果の前へと引きずり出されていた。
211: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:38:59.77 ID:utXa0I+U0.net



「偶然、にこさんと帰り道の途中であってさ。今日もうちにくるっていうから、一緒に帰ってきたんだ」

先行、雪穂ちゃん。無表情な穂乃果にも平然と対応している。

「へぇ……、いつの間にそんなに仲良くなったの?」

後攻、穂乃果。予想していなかったことに戸惑っているのか、まずは探りを入れているといったところか。

私と雪穂ちゃんの仲睦まじく組まれた腕を見ながら、冷静に話を聞こうとしている。

「まあまあお姉ちゃん。玄関先で話もなんだし、中には入ろうよ。にこさん、どうぞっどうぞっ」

「え、ええ……穂乃果、お邪魔するわよ」
212: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:39:53.77 ID:utXa0I+U0.net
質問にとりあわず、いかにも「にこさんは私のもの」だというかのように穂乃果を押しのける雪穂ちゃん。

瞬間、あきらかに顔をムッとさせたけれど、なんとか我慢したようだ。

「あ、そうだ。にこさん、私の部屋に来てみません?いっつもお姉ちゃんのところで、もう飽きたでしょう?」

雪穂ちゃんは玄関を入ったところで、軽い口調ではあるものの、煽るようなことを言い始めた。

それだけでも穂乃果は我慢できなかったらしい。不機嫌丸出しの声で雪穂ちゃんを非難する。

「ちょっと雪穂!にこちゃんは、私と遊ぶために来たんだよ?」

「えー、でも、私のほうが話合いそうだし……」

余り否定出来ないことだからか、穂乃果は言葉に詰まっている。

確かに趣味という点でいえば雪穂ちゃんのほうが近い。
218: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:40:57.62 ID:utXa0I+U0.net
「……そんなことないもんっ!」

「じゃあ、にこさんに聞いてみようよ。にこさん、どっちの部屋に来ますか?」

「にこちゃんっ!わかってるよね!ね!」

ねっ!ねっ!と必死に私にアピールしてくる穂乃果。

もともと『お願い』で来てるんだから、雪穂ちゃんのところに行くわけないのに……私のことで必死になってくれているのは嬉しいけど。

それに引き換え、隣の雪穂ちゃんはといえば。余裕の表情で、私にウインクしている。ここで穂乃果を選べということでしょうね。

「……穂乃果で」

「―――!ふっふーん!残念だね雪穂。にこちゃんは私がいいってさっ♪」
224: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:42:39.94 ID:utXa0I+U0.net
穂乃果は物凄いドヤ顔で勝ち誇っている。

これで本当は妹の手のひらの上で転がされているのだと知ったら、どんな表情になるのかしらね。

想像して、変な声がでそうになる。あぶないあぶない。

「あーあ、振られちゃったか〜。……にこさん、今度私と遊びましょうね!」

「ええ。楽しみにしとくわ」

「はい!では、ゆっくりしていってくださいね!―――あ、そうだお姉ちゃん、これから店番の時間ってこと忘れてるんだろうけど、代わってあげるから」

「えっ、あ……うん、ありがとう……雪穂」

それだけいって、雪穂ちゃんはあっさりとお店のほうへと歩いて行った。

見事な引き際だ。しかも最後に姉へのフォローまでしていった。これだと後で喧嘩になることもなさそうね。

「雪穂ちゃんって、いい子ね」

「……うん、自慢の妹だよ」

穂乃果は微笑んで、階段のほうへと向かっていく。

私もそれに続きながら、見えないところで含み笑い。目論見通りに誤魔化せたわ。雪穂ちゃん、ほんとにグッジョブ!
230: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:43:59.03 ID:utXa0I+U0.net



「二個目食ーべよっと」

なにがそんなに楽しいのか、にへらとした顔で穂乃果はそう宣言して、二つ目となるお饅頭を手にとって食べはじめた。

雪穂ちゃん情報によれば「あんこ飽きたー!」としょっちゅう漏らしているらしいが、今の姿からだとそうは思えない。

(それだけ、穂むらのお饅頭がおいしいってことかしら)

あと、家庭の味だから安心できるというのもありそうだ。考えを巡らしながら穂乃果が淹れてくれた煎茶を啜る。

(ずずーっ、はぁ……。おいしい。やっぱり、お饅頭には熱いお茶ねー……)

お茶の渋味が甘みに溺れた口内を中和して、次の一口も最高の状態で甘味を味わえるという寸法だ。
236: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:45:18.26 ID:utXa0I+U0.net
「二個目、頂くわね」

「うん、どうぞどうぞ〜。足りなかったらいってね?お店のほうに行けば何個でもあるから!」

「……売り物をそんな気軽に持ってきたらダメでしょ」

目の前のお饅頭は余り物だと聞いているから、気兼ねせずに食べているというのに、まったく。

呆れながらもお饅頭を手に取り、一口。うん、おいし。そして、お茶を一啜り。ふぅ、落ち着くわぁ……。

さてと、もう一口いきますか。ぱくっ―――

「ああ〜〜〜っ!」

びくっ。突然の叫びに体が跳び上がる。声の発生源である穂乃果をみてみると、合点がいったという表情をしていた。
241: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:46:19.99 ID:utXa0I+U0.net
「思い出した!―――穂乃果、怒ってるんだから!」

勢いのままに穂乃果は立ち上がり、私に向かってビシっと指をつけつけた。

あー、思い出しちゃったか。最後まで忘れてたら良かったのに―――そう思いながら、口の中のお饅頭をモグモグと咀嚼する。

まあでも、雪穂ちゃんのおかげか怒髪天を衝く!というほど怒ってはいないみたいのが救いかな。

「にこちゃん、聞いてるのー!?」

プンスカ喚いている穂乃果にも慌てず、お饅頭を味わって飲み込んでからお茶を一口。

「聞いてるけど……。その話、これ食べてからじゃダメ?」
243: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:47:45.78 ID:utXa0I+U0.net
『これ』とは、もちろんお饅頭のこと。そして、穂乃果の手に握られている物のことでもある。

穂乃果は自分のお饅頭を見つめながら、悩み始めた。

「むむっ」

眉根を寄せて、頭をひねらせている。

あの顔は、怒ったあとに食べる気にはならないし、かといって食べたあとだと怒る気にもなれなさそう。そんなことを考えている顔だ。

私としては、食べるほうを選ばせたいところだ。

「まあまあ、とりあえず座りましょうよ。特別に、にこにーがお茶いれてあげるから」

「むー……」

「ほら、湯呑みだして。ねっ?」

満面のにこにースマイルを発揮しながら、急須を手にご機嫌伺い。

穂乃果はうなりながらも、元通りに座る。お饅頭を置いてから、渋々と湯呑みを差し出した。
251: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:49:06.50 ID:utXa0I+U0.net
「こんなのじゃ許さないからね」

「わかってるわよ」

返事をしながら、微笑む。今の言葉は、逆にいえば許す気がありますといっているようなものだ。

湯呑みにとくとくとお茶が注がれる様子を眺めている穂乃果の表情は、既に少し不機嫌かなというくらいに落ち着いていた。

「それくらいでいい。ありがと」

「どういたしまして〜」

ちょっとブスっとした言い方だけど、お礼はかかさないあたり穂乃果は優しくて出来た子なのだ。

惜しむらくは表情が未だ固いことだけど、そこはにこの腕の見せどころ。私だって、穂乃果の扱いかたは多少は心得ている。
256: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:50:13.17 ID:utXa0I+U0.net
「穂乃果」

「……なに?」

「かわいい」

「なっ」

もそもそとお饅頭とお茶を交互に口に運んでいたところに、唐突な褒め言葉。

当然というべきか、穂乃果は驚きで言葉を失っている。頬には赤みがさしている。
258: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:50:53.01 ID:utXa0I+U0.net
ニヤニヤしながら机に頬杖をついて、穂乃果の顔を眺める。

膨れっ面が褒められてニヤケ顔になったり、そんなことじゃ誤魔化されないぞと真剣な顔になったりと百面相が面白い。

そのあとも、穂乃果の反応に逐一可愛い可愛いといっていたら、ついには顔を真っ赤にして爆発した。

「もー、なに!からかってるの!?」

「本当に可愛いんだからしょーがないでしょ」

真面目なトーンで言葉を返す。

穂乃果は一瞬言葉に詰まったけれど、すぐさま勢いを取り戻して言い返してきた。
265: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:51:54.52 ID:utXa0I+U0.net
「今まで、そんなに可愛いなんていわなかったじゃん!」

「思ってたけど言わなかっただけよ」

「ふんだ、ご機嫌取りでいってるだけでしょ。余計に許す気はなくなったよ」

そういって穂乃果は顔を逸らした。確かに、機嫌を取ろうとしていることはその通り。

でもそれで可愛いという言葉が嘘になるわけじゃないでしょう。

「本心を伝えてるだけなのにぃ。ちょっとショックだわ……」

うるうる。アイドル力で瞳を潤ませながら上目遣い。ふ、これは決まったかしら。

褒め殺しと罪悪感を煽るという二段構えだもの、これだけやれば穂乃果も折れてくれるはず……!
271: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:53:14.43 ID:utXa0I+U0.net
「……にこちゃん、どうせみんなに可愛い可愛いっていってるんでしょ」

ちらっとだけ私を見て淡々と言い放ち、ぷいっと顔を背けた。

(ぐぬぬ……。否定出来ない……)

立場の弱い私に、みんながこれ幸いとばかりに甘えてくる状況だったんだもの。

そんなの、可愛がっちゃうに決まっているでしょう?

「どうしたら許してくれるの?」

「自分で考えればっ」

にべもない。こうなったら、自棄だ。

奥の手を出すしかないわね。『可愛い』がダメなら、更にその上の言葉よ。
279: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:56:05.36 ID:utXa0I+U0.net
「穂乃果、好きよ。だから許して」

「へっ!?」

あんたが好きだから私を許せ、なんて無茶苦茶な言い分が通用するかはわからない。

けど、私がいいたいのは結局そういうことだったし、それに好きな相手にこそ許してもらいたいものだと思う。

「な、何言ってるの、そんなので許すわけ―――」

「あんた、前に『優しいにこちゃんはもっとすき』っていったわよね。私も優しい穂乃果のことが大好きなの。だから、許しなさい!」

どうだとばかりに、わがままを貫き通す。

生徒会室での一幕を思い出しながら、今回はビンタされないといいなと思いながら―――数秒待っても、衝撃は来ない。

少しずつ視界を広げれば、そこには微笑みがあった。
288: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-oK17) 2016/08/03(水) 23:57:52.80 ID:utXa0I+U0.net
「はぁ……。ずるいよ、にこちゃん。そんなこといわれたら、誰だって許さないといけなくなっちゃうよ」

穂乃果は「しょーがないなぁ、にこちゃんは……」という表情で、私に優しく語りかける。

「今回だけだからね。……ほら、お饅頭食べようよ」

そうして浮かべた聖母のような優しい笑顔に、調子に乗った私は思わずバカなことをいってしまった。

「穂乃果って本当にいい子ね。可愛いし、お嫁さんにしたいくらいだわ」

ぱちくりと目を瞬かせ穂乃果は、言葉の意味を理解したと同時にボッと火がついたように赤くなる。

あ、まずい。こんなこといったら、今度こそビンタが飛んで来るのではと身構える。

「調子いいんだから、もうっ。穂乃果は構わないけど、誰かれ構わずそんなこといっちゃダメだからね?」

「……え。うん、そうよね。気をつけます」

何も飛んでこないことに安心しながら、反省の言葉を返したものの。

はにかんでいるだけの穂乃果に、どこか釈然としないものを感じる私だった。
326: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:09:48.84 ID:hdAABIe50.net
「今日も『お願い』の時間がやってきたねっ!」

すっかり元気と機嫌を取り戻した穂乃果が口にするのはもちろん、『お願い』のこと。

るんるんしながら自分のベッドを綺麗に片付けている。

「さっ!にこちゃん、どうぞ!」

目を輝かせながら、はーやーくー、はーやーくー、と急かしている。

ぐぐ、仕方ない……今日も、この地獄に体を投じてやろうじゃないの。
327: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:10:23.25 ID:hdAABIe50.net
(矢澤にこ、18歳。スクールアイドル。今日も枕営業を始めます)

覚悟を決めてベッドに転がる。間髪入れずに、穂乃果が飛び込んできて、私に覆いかぶさった。

スピリングがぎしぎしと軋むのも、ベッドシーツが乱れるのもお構いなし。

「ぎゅーっ!」

そして、叫びながら私を抱きしめる。体が密着して蒸し暑くなってくるけれど、抵抗はしない。

なぜなら、穂乃果の枕になりきることこそが穂乃果の『お願い』だからだ。
328: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:11:26.91 ID:hdAABIe50.net
「……あつい」

「穂乃果はちょうどいい温度だよっ」

「あっそ」

どうせ何をいっても離れないのが経験的にわかっていたので、それ以上に口は出さない。

「ん〜、にこちゃんって本当に良い枕だよね。柔らかいし、抱きしめやすいし。やっぱり、凹凸が少ないからかな?」

「ぬぁんですって!」

「あ、痛い痛い!ちょっとにこちゃん、枕は攻撃してこないよっ!?」

穂乃果の背中に手を回してつねる攻撃。体型を馬鹿にした罰だ、バカモノ。
329: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:12:30.34 ID:hdAABIe50.net
「うるさい。……それにこうでもしてないと、あんた寝ちゃうでしょ。ちょうどいいじゃない」

「そうだけどさぁ〜」

「いっつも寝ちゃったたびに起こすの面倒なのよ。今日はずっと起きてなさいよ」

「ええ〜、そんなぁ……」

私だって抱きしめられてたら眠くなってくるのに、こいつときたら気にもしない。

帰りの時間のことを考えて、必死に起きている私に少しくらいは気を遣え。
330: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:13:30.07 ID:hdAABIe50.net
「じゃあさじゃあさ、眠らないように何かお話してよ」

「何かって。また漠然としてるわね……」

「え、そう?んー、じゃあね―――穂乃果の可愛いとことか、どうかなっ」

その話蒸し返すの?と穂乃果をみれば自分でいって照れているらしく、顔を私の胸に埋めて足をバタバタさせている。

やっぱり、あほのかね。そう思いながらも、愛おしいと思う自分がいたりする。

「あんたがそれがいいってんなら、別にいいけど。ちゃんと聞いておきなさいよ」

そして私は、自分が感じている穂乃果の魅力を語り始めた。

実例と聞いた話を織り交ぜて、例えばこういう時のあんたは可愛いとか、意外に繊細なところがあるとか、乙女なところも可愛いとか。

気がつけば、穂乃果は耳からは湯気が出ているんじゃないかと思えるくらいに赤くなっていた。
331: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:14:18.07 ID:hdAABIe50.net
「にこちゃん、もういいよ……」

「え、なに?遠慮してるの?」

「遠慮じゃないよっ。……思ってたより恥ずかしかったから、もういいの!」

ばかね。恥ずかしかったからやめて欲しいなんて、もっとやってくれといっているようなものじゃない。

わるーい顔でニヤニヤしながら、ささやく。

「え〜、でも、穂乃果の可愛いところ、まだまだあるんだけどな〜」

「……にこちゃんのいじわる」

抗議のつもりか、ぐりぐり頭を押し付けてくる。ちょっと痛い。
332: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:15:30.78 ID:hdAABIe50.net
「仕方ないでしょー。可愛い子には意地悪したくなるっていうし。あれ?好きな子には、だっけ?」

「……もぉ!すぐそういうこというし!」

今度は背中をぽかぽかと叩いてくる。こういうところも可愛い。

「はぁ、もう……、にこちゃんの相手は疲れるよ」

「あんたがそれいう?」

「いうもん」
333: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:16:23.93 ID:hdAABIe50.net
軽く膨れながら、穂乃果は私に向き直る。

「あ、そうだ」

ジトーっと私を見つめていたかと思ったら、急に何かを思いついたらしい。

私を抱きしめるのをやめて、ベッドから降りた。ああ、嫌な予感。

「そろそろ枕変える!にこちゃん、あれになって!」

「あれって……例のあれ?やよ、あれやるの私恥ずかしいし……」

「いいからほらっ、ベッド降りてっ」
334: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:18:56.84 ID:hdAABIe50.net
軽く拒否するものの、強制的にベッドを降ろされる。

『例のあれ』はベッドでは広さが足りないので、床でやることになっている。渋々とカーペットにうつむきになって寝そべる。

その様子を満足気に眺めていた穂乃果は、ちょうどいい位置を探して頭を降ろした。

「あー、ぷよんぷよんだよぉー。にこちゃんのお尻枕、最高!」

「屈辱だわ……」

尻枕。それこそが、私に課された第二の試練だった。なんといっても恥ずかしいのがつらい。

眠くならないので楽ちんではあるのだけど、乙女として大切な何かを失っている気がする。
335: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:20:02.30 ID:hdAABIe50.net
「ぷにぷに〜」

「こら、つまむな」

しかも穂乃果は穂乃果で、適当に手を伸ばしてきては、お尻をつまんだりお腹をつまんだりしていく。

地味に鬱陶しい上に、こそばゆい。シッシッと振り払っても懲りずにやってくる。

「だって、にこちゃんの反応が楽しいんだもん」

「だもん、じゃないわよ。セクハラまで許した覚えは―――」

「えいっ♪」

「―――うひゃあ!……あんたねぇ〜!」
336: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:20:58.82 ID:hdAABIe50.net
いってるそばから太ももをつまんできやがった。もう怒ったんだから。

すっと立ち上がって、お尻から頭を転げ落とす。

「あたっ!」

寝転がりながら痛がっている穂乃果を気にもかけず、むしろこれ幸いとばかりにお腹にまたがる。

いわゆるマウントポジションだ。さあ、復讐の時間だ。

「ふっふっふ……穂乃果。覚悟しなさい」

「だ、だめだよ!枕はそんなことしないんだから!」

「……知らないの?にこにー枕には反撃機能がついてるのよ」
337: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:21:46.64 ID:hdAABIe50.net
ワキワキと両手を動かして、ニヤリと笑う。穂乃果の顔が、さぁーっと青くなる。

迫り来る運命から逃れようと、必死にジタバタしはじめた。でも、もう遅い。

「とりゃあっ、わしわしわし〜!!」

「ひああっー!」

ぐにょんぐにょんという感触に軽く苛立ちを感じつつ胸を揉みしだく。

穂乃果は掴んでいる手を必死に剥がそうと抵抗しているが、その体勢では力は入るまい。
342: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:23:16.74 ID:hdAABIe50.net
「ふひゃっ!にこ、ちゃん、だめ!離してっ、よぉっ!ひゃあんっ」

「もうちょっと楽しんだらね」

「も〜!だめ、だって……!んんっ、いってる、のにぃ〜〜!」

青くなった顔も、荒い呼吸のせいか今では上気している。

ふふ、愉快愉快。もうちょっとなんていったけど、まだまだ楽しめそうだ。

「いいざまね。悔しかったら、どうにか止めてみなさいよ、うひひひ―――ひ!?」

ぐるん、と回転する世界。同時に背中に衝撃。

床にぶつかった―――でも、どうして。頭は混乱の一色に染まる。
350: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:24:39.84 ID:hdAABIe50.net
「……立場、逆転だね?」

「な、なあっ!?」

気がつけば、お腹の上で穂乃果が笑っている。

しかも、またがられている。私の時と違って、両腕を巻き込んだ形で。これだと、何をされても何もできない。

「簡単な護身術だけど、海未ちゃんに仕込まれてるからね。これくらいなら、頑張れば返せるよ」

「あは、あはは、そうなの……、道理で……」

「教わっておいて、本当に良かった」

ギロリ。体が蛇に睨まれた蛙のように動かない。

背中には冷や汗をどばどばとかいている。もがいてみるものの、びくともしない。どうしよう、逃げ場所がない。
356: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:26:41.34 ID:hdAABIe50.net
「さぁ〜てと。それじゃあ、どう料理してあげようかなぁ〜?」

「ひぃぃ!」

「そんなに怖がらなくても……。あ、でも、『自分の』枕なら何してもいいよね」

完全に目を据わらせて、穂乃果は私の頬をつねりだした。ぐねぐねと引っ張って遊んでいる。

「ひょのひゃ!ひゃひひゅるのひょ〜!」

「あはは、何いってるのかわかんないや」

笑いながらも穂乃果はどこか不満気にしている。少しして、つねる指が離された。
362: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:27:50.99 ID:hdAABIe50.net
「はぁ……、はぁ……」

「う〜ん、やっぱり汗で滑っちゃうなぁ……、そうだ!中にいれたらいいんだ!」

「えっ。ちょっと、嘘でしょ―――!?」

休む間もなく、穂乃果の指がズボッと勢い良く口内に侵入してくる。

「お邪魔しま〜す。……わぁ〜、にこちゃんの口の中、暖かいね!」

穂乃果の指が四方八方に動きまわり、にゅるにゅるとした感触が口内を刺激している。

腰が浮きそうになるのを必死に我慢して、洒落になってないから中止するように叫ぶ。
364: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:28:43.37 ID:hdAABIe50.net
「あがが、あがががっ」

「あはははっ、にこちゃんやめてよ〜!舌があたってくすぐったいよ!」

あんたがやめろ!と伝わらない絶望。こうしている間にも数々の刺激が私を襲う。

口の中の形を探るようにくまなく触ってくるのが余計に苦しい。こいつわざとやっているんじゃないか。

「あがが〜!」

「もー、わかったよ、仕方ないなぁ」

やっと解放される―――と思いきや、今度は私の口を広げて、しげしげと口内観察をはじめた。
371: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:29:38.02 ID:hdAABIe50.net
「わぁ、すっごくぬらぬらしてる。なんだかえっちだね〜」

「ひょら!ひょのひゃ!」

「ごめんごめん、うそうそ」

ぬるん、という感触を残して指が引き抜かれる。

ああもう、口周りがヨダレでべとべとしてて、最悪。早く拭きたい。

「もう満足したでしょ……、どきなさいよ……」

「じゃあ、次ので最後にするね」

「なによ……、まだ何かする気なの……」

―――ちゅっ

色んな意味で疲れ果てていたから、反応が遅れた。

穂乃果が覆いかぶさってきたと思ったら、次の瞬間には立ち上がって、離れていった。
379: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:30:50.69 ID:hdAABIe50.net
「……穂乃果?」

唇に残った感触だけが、何をされたのかを物語っている。

見れば、頬を染めた穂乃果が、もじもじしながら私の反応を伺っていた。

「これまでご褒美っていうか、一週間お疲れ様っていうか。イヤだった、かな……?」

そんな顔で見られたら、私まで照れるでしょうが!

否応なしに熱くなっていく顔を、必死にクールダウンさせる。

「ううん、ありがと。嬉しい」

「……だよねっ!へへ、どういたしまして!」

穂乃果は初々しい様子から一転、眩しいほどの笑顔を見せた。
383: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:31:30.88 ID:hdAABIe50.net
(あーもう、可愛いわね!)

穂乃果は可愛さに骨抜きにされてしまいそうなのを抑えこむ。

私こそが宇宙ナンバーワンアイドルなのだから、誰かに骨抜きにされてはいけないのだ。

「穂乃果。とりあえず、手、洗ってきたら?ベトベトでしょ」

「え。ああー……」

私のヨダレでベトベトの指を眺めている穂乃果。

そのままじゃ何も触れないだろうし、引き戸くらいは私があけてあげよう。しかし、穂乃果は動く気配をみせない。

「穂乃果?」

「んぅー?」

どうしたのかしら、と様子を窺うと―――そこには、自分の人差し指を咥えている穂乃果がいた。
396: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:34:14.11 ID:hdAABIe50.net
「……なにしてんの?」

一瞬、見惚れていた。呼吸が止まりそうになったことには気付かれなかっただろうか。

ぷはぁ、と指を咥えるのをやめた穂乃果が、にこっと笑って答える。

「どんな味するのかなぁって思って。にこちゃんって、甘いんだね!」

本当は聞かなくても答えはわかっていた。

万が一ということもあるからって聞かなきゃよかった。無自覚バカは恐ろしい。

「……ばーか。お饅頭食べてたからでしょ、あほのか。さっさと洗いに行ってきなさい!」

「はぁい」

階下に降りていこうとする、穂乃果の後ろ姿を見ながら。

宇宙のてっぺんまで届くような大きな声で。

うるさいほど鳴り響く鼓動をねじ伏せるように、私は私に宣言した。

―――絶対に、骨抜きになんてされてやらないんだから!
405: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ cb76-+Lqe) 2016/08/05(金) 23:35:42.57 ID:hdAABIe50.net
ほのほの編 終わりにこ

あとエピローグで終わりにこ
近日中に投下できたらいいなぁと思ってるにこ
516: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:18:27.20 ID:0gXKCz760.net



ピピピピッ―――かちゃ。

「ふわぁ。朝ね……。起きなくちゃ……」

目覚まし時計へと伸ばしていた手を引っ込めて、もぞもぞと体を丸めて暖を取る。

しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。

少しだけためらってから布団をはねのける。
517: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:19:04.12 ID:0gXKCz760.net
(うぅ、さむ……)

冷気に晒され、ぶるりと震える肉体を抑え込みながらベッドから起き上がる。

ふつふつと沸き起こる二度寝したい気持ちに蓋をして、なんとなく時計を見てみれば、現在時刻は昨日と同じ。

『お願い』用に調整した、早めの設定時刻のままだった。

(あぁ、戻すの忘れてた……)
521: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:19:49.57 ID:0gXKCz760.net
どうしたものかと思案してみるものの、目は既に冴えている。二度寝しようにも出来ない状態だ。

時間を無駄にしたような気がしたけれど、早起きに越したことはない。

気を取り直して、朝食の準備に取り掛かることに決めた。

「……よし。朝ごはん作るわよっ」

ぱしん、と頬を軽く叩いて気合をいれる。今日も、一日がんばろう。

お仕事で疲れてるママのため。最高に可愛い妹達のため。今日もおいしいご飯を作るのだ。
523: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:21:09.01 ID:0gXKCz760.net



「にこ、時間大丈夫なの?」

ママは壁掛け時計に目を遣りながら心配そうに尋ねる。

そういえば、早出をするのは昨日までだということを伝えていなかった。

「今日からはいつも通りなの」

「あぁ、そうだったの」

答えに納得したのか、話を掘り下げることなく食後のコーヒーに口をつける。

ママには、早出したり、お弁当を作ったり、ちょっと遅く帰ってきたり―――といった私の行動を『友達との約束』としか話していない。

あまり気にする様子がないのは、信用されているからだろうか。
526: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:21:59.78 ID:0gXKCz760.net
「……あれ?でも、にこ……」

なあんてぼんやり思っていると、ママは新聞を読む手を止めて、思案するような表情で台所のほうを見ている。

目線の先を追いながら、一体なんだろうと言葉を待つ。

「お弁当、三個作ってるけど……。お弁当はいつも通りじゃないの?」

「―――あっ」

ママの分。私の分。妹たちは給食なのでお弁当はなし。

残る一個は、誰の分か。答えは一つだった。
530: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:23:06.17 ID:0gXKCz760.net
(……凛の分だ)

やってしまったと頭を抱える。一週間も続けていたせいで、体が勝手に動いていた。

(どうして凛のお弁当箱、まだ持ってるのよ……)

返していないとおかしいはずなのに。昨日のお昼休み、凛とのやりとりを思い出してみる。

『ごちそうさまにゃ〜。今日もとってもおいしかったよ!』

『はいはい、どーも。ま、にこが作ったんだから当たり前よね』

『とかいいつつ、すっごく嬉しそうだよね。にこちゃんの顔、にやけてるにゃ!』

『あー、うっさいうっさい。そーゆーのいいから、さっさとお弁当箱渡しなさいよっ』

『え?』

『はーやーく!』

『あ、うん……わかったにゃ』

はい。お弁当を褒められたことにニヤけて、箱を受け取るというか、むしろぶん取っていた。

あの時、どうにも凛が変な顔をしているなと思っていたんだけど、今やっとその理由がわかった。私はアホか。
532: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:24:20.09 ID:0gXKCz760.net
「お弁当、間違って作っちゃったみたい。ママ、お弁当二つ食べたり……はしないよね」

「そうねえ。にこの作るお弁当はすっごくおいしいけど、さすがに二つはね」

「だよね……」

私も二つ食べるのは無理。夕方まで置いておくのも、だし。箱だって早く返したほうがいいだろうし。

……となると、手段は一つだ。

「今日もお友達に食べてもらったらいいんじゃない?」

「うん、そうするね」
539: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:26:09.04 ID:0gXKCz760.net
ママと意見の一致をみたところで、持ち主である凛に食べて貰うことに決定。

もしも凛が違う箱でお弁当を持ってきたとしたら、その時はみんなで分けて食べてもらえばいいしね。

「じゃあわたし、部屋に戻るから。何かあったら呼んでね」

「ええ。いつもありがとうね、にこ」

「うんっ!」

凛のお弁当を作ってしまうというアクシデントはあったものの、私の日常はいつも通りに元通り。

朝のお仕事が終わったので、自室に戻って久しぶりのお楽しみ。朝のプライベートアイドルタイムの始まりよ!
544: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:26:44.47 ID:0gXKCz760.net



集中できない。

目の前のモニターには、大好きなアイドルのライブ映像が流れている。

なのに、私の意識はそわそわと浮き足立っている。

(う゛ー)

なんとなくしっくりこないという感覚。足に何かがまとわりつくような小さな不快感。

苛立ちの貧乏揺すりが、余計に苛立ちに拍車をかける悪循環。
545: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:27:52.04 ID:0gXKCz760.net
(理由はわかってるのよ……)

理由その1。気がつけば、アイドルが映るモニターから時計に目移りしてしまっている。

理由その2。気がつけば、あいつの家の冷蔵庫の中身を思い出して今朝の献立を考えている。

理由その3。気がつけば、朝っぱらからベタベタしてくるバカの顔が浮かんでくる。

要するに先ほどから、希のことが気になって気になってしょーがないのだ。

「あ゛あー!もやもやするー!」

がしがしと頭をかき乱す。たった一週間、通っていだけでこうなるものなの?

朝は一人で起きられるのかとか、きっちり朝ご飯は食べているのかとか、そういう心配が頭から離れない。
555: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:30:18.64 ID:0gXKCz760.net
(もともと希は一人でちゃんとやってたんだから、気にするこたぁーないのよ)

あいつは表ではしっかり者で通っているわけだし。そこまで心配するのは余計なお世話というもの。

一旦どうにか、希のことを忘れなければ。

垂れ流されたままのライブ映像に集中しないと、モニターの中で精一杯輝いているアイドルにも失礼だしね。

(気晴らしにサイリウムでも振りましょーかね)

朝からは汗をかくのは嫌だから基本的にはやらないけれど、気分が乗らない時には使うべきだろう。

クローゼットに仕舞ってあるサイリウムを取りに行こうと、イスから立ち上がったところで太ももに固いものがあたる感触があった。
556: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:32:46.53 ID:0gXKCz760.net
(……ん?なんだろ、ブレザー?)

背もたれにかけていたブレザーに足があたって、ポケットに入っている固い何かにぶつかったようだ。

反射的に中を探って、謎の物体を取り出す。現れたのは、見慣れた銀色の鍵だった。

「希の家の、鍵……」

まじまじと見つめるながら、手のひらの上で鈍く光らせる。

お手製にこにー人形がキーホルダー替わりに装着されたそれは、知らない人が見れば私のものだと思うだろう。
557: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:33:29.64 ID:0gXKCz760.net
「あれもこれも忘れすぎでしょ、私」

無駄に早起きした上に、凛のお弁当を無意識で作り、希の家の鍵は持ったままときた。

最終日だなんだといって、喜んでいた昨日はなんだったのだろう。まったく切り替えられていない。

(一番しょーがないやつなのは、自分だったってことね)

つい忘れていたという偶然も、これだけ重なれば必然だ。

己の本当の気持ちに嫌でも気がつく。これっぽっちも終わるつもりなんてなかったのだ。
558: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:34:27.97 ID:0gXKCz760.net
「くくく……。やんなっちゃうわね」

言葉とは裏腹に心は決まった。即座に頭のなかで、これからの予定を組み立てていく。

まずは学校へ行く準備を終わらせよう。カバンの中の確認、お弁当を二つ持って、ブレザーに袖を通す。

それからママに早出することを話す。いよいよ何か聞かれるかもしれないけれど、それは何とかして家を出発する。

そして、あいつの驚く顔を見物しに行く。

どうせ放っておいたら、朝ご飯にロクなものを食べないし、とても嬉しそうにしていた二人の食卓を今更一人に戻すのは酷い気がした。

だからこうして気にかけているのは、本当に仕方のないことなのだ。

「―――待ってなさいよね、希」

ひとりごちてから、ふと思う。

きっと私はこれからずっと、こういう風に、みんなのことを気にしてしまうのだろうけれど。

それって結構、幸せなことなのだろうな、と。
559: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:35:05.99 ID:0gXKCz760.net



「……と、こんなもんでいいかな」

お気に入りのA-RISEファングッズボールペンを置いて、背伸びをする。

ノートに手記としてまとめたのは、私のキスから始まり、終わった物語。

今となっては、キスをしなくても、『お願い』がなくても、お互いを信じ合うことが出来る仲間たちとの、特別な日々の話。
560: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:36:00.75 ID:0gXKCz760.net
「今でもキスしてるし、『お願い』みたいなこともしてるけどね〜」

誰にいうでもなく、それはそれ、これはこれ……と、ぼやきながら笑みを深める。

まあ、キスを安売りするつもりはないので毎日しているわけじゃない。

週に一度くらいの、相手が油断した頃に不意を打って反応を楽しんでいる。『お願い』も頻度を減らしている。

(あいつらも嬉しそうだし、これでいいのよね……?)

みんなを満点笑顔にできているのだから、たぶん問題はないはず。

たまに本当にいいのかなあ、と思わないでもないけれど。

私は、キスや『お願い』をする時に感じる胸のドキドキが、どうしても忘れられなくて、やめられない。

我のことながら欲望に弱いなぁと思うけれど、そういう性質のおかげで今があるわけだし、人生どう転がるかわからないしね。
567: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:38:05.50 ID:0gXKCz760.net
「あ、そうだ」

そんなことを考えていたら、なんとなく思いついた言葉を追記したくなった。

悪戯っ子のような笑顔でペンを取り、ノートにさらさらと筆を走らせる。

「―――うん、これでよし!」

綴られた手記の最後のページ。

文章の終わり部分の、少し下。

小さめの文字で書かれた控えめな一文を、インクの乾燥を見計らって小指でなぞる。
 
 
『キス魔にこにー、今日も元気に活動中。』
 
 
 
 
#キス魔にこにー おわり
573: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7576-gQqU) 2016/08/25(木) 22:40:24.59 ID:0gXKCz760.net
終わったにこー
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『【SS】キス魔にこにー』へのコメント

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