愛香「改札を抜けるとそこは……」

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愛香「ん……寝ちゃってた……」

目を覚ますと秋の色づきとなった静岡の風景が窓の外に広がっていた。

愛香「なんだかすごい夢だったなぁ」

寝ぼけ眼で左腕に目をやると時計の針が9時を指していた。
今日はヌーマーズ リトルデーモン店ことゲーマーズ沼津店で久々にイベントが行われる。
Aqoursとしてではなく、看板娘の声優である私1人の出演だ。

愛香「そろそろ三島ね。 着いたらまず朝ごはん食べに行こ」

イベントは夕方からの開催なのだが、個人的に沼津の街を観光したくなったので早朝から出発して聖地を堪能してからスタッフと合流することに決めた。
新幹線に揺られながら朝食のことを考えていると三島駅到着を告げるアナウンスが車内に響いた。





愛香「ん~! いい天気!」

駅構内を出て青空の下で大きく伸びをしてから、鞄にしまっていたスマートフォンを取り出す。
周辺でモーニングのサービスのあるカフェを検索して、足取り軽く歩き出した。

愛香「よし、今日も頑張ろう!」

思えばあのとき既に至る所にヒントが散りばめられていたのだ。

pixiv: 愛香「改札を抜けるとそこは……」 by にほーん

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愛香「あ、ここPVの回で出てたなぁ。 ヨハネは自転車でコケてたっけ?」クスクス

カフェで朝食を済ませた後、バスに乗り伊豆長岡駅へ降り立った。

愛香「舞台となった場所はファンの方で賑わってるって聞いてたけど、朝だからかな? それらしき人は見当たらないわね」

せっかくなのでSNS用に写真を1枚撮って、バスを乗り継ぐ。
行先は伊豆三津シーパラダイスだ。

通勤ラッシュも終えたからだろう、サラリーマンや学生の姿はなく車内は女性客ばかりだった。
それも皆地域住民の方に見える。
この時間はまだ観光客が少ないのだろうか。
そんなことを考えているうちにバスは目的地に到着する。






愛香「みとしーに来るのも久しぶりね。 前は仕事だったからあんまりゆっくり観れなかったけど、今日はじっくり楽しんじゃお」

チケットを購入して胸を躍らせながら水族館へ足を運ぶ。

愛香「あれ? たしかここにパネルがあったはずだけど……」

以前来た際に展示されていたAqours9人のパネルが綺麗になくなっていた。
不思議に思い近くにいた館内スタッフに声をかける。

愛香「すみません、ここにあったAqoursのパネルってどこかに移動したんですか?」

女性のスタッフさんは何のことを言っているのかわからない風に首を傾げる。
話を聞くにそんなものは元々なかったらしい。
そんなはずはない。
明らかに何かがおかしい。

愛香「だってみとしーのサイトにも! あれ……?」

目を疑った。
Aqoursに関する記載が一切見当たらないのだ。

「Aqoursって、あのスクールアイドルのですよね? みんな頑張ってますよね、私も応援してますよ!」

愛香「あ、はい! ありがとうございます!」

混乱はしていたけれど、そのまっすぐな応援の言葉に心が温かくなる。
スタッフさんはまた少し不思議そうな表情を見せた後、何かあったらまたお声かけくださいと笑顔で言った。





愛香「絶対におかしい……」

みとしーを出て1人考え込む。
館内にいた間も魚達の姿はまるで目に入ってこなかった。

太陽が天辺近くまで昇り通行も多くなっていた。
自意識過剰かもしれないが、日曜日だというのに作品ファンらしき人の姿はない。
それどころか作品に関する展示やポスター等がどこにも見当たらないのだ。
今思えば三島や伊豆長岡にもそのような場所はそこかしこにあったはずなのに。
加えて言えば静岡に入ってから1人も男性を見ていない。
そこから考えられる1つの予測――。

愛香「そうだ、電話!」

嫌な予感がしてマネージャーに連絡する。

『おかけになった電話番号は、現在使われておりません――』

愛香「どうしよう……」

もう観光どころではない。
訳のわからない状況に恐怖し体が震える。
ただそんな中ひとつの責任感が自分を奮い立たせる。

愛香「そうだ…イベント。 それだけは何としても成功しなきゃ」

入り時間まではまだ随分と余裕があるが、状況が状況だ。
少しでも早く現場に入って頭を落ち着かせたかった。

のだが――。





愛香「そんな……」

急いで沼津へ向かったが、そこに在るはずのゲーマーズが存在しないのだ。
一体何がどうなっているのか。
自分は別世界にでも迷い込んでしまったのだろうか。
絶望的な体験にへたりとその場に座りこんでしまう。
歩道の真ん中だとか、服が汚れるだとか、そんなことを意識する余裕があるはずもなく。

愛香「どうして……」

そんなときだった。

「あの、もしや何かお困りですか?」

背後からの聞き覚えのある声に驚きつつ、そっと振り向く。

「そんなところに座っていてはお召し物が汚れてしまいますわ。 それにここは公道でしてよ?」

綺麗な黒髪に映える白い肌の少女が手を差し伸べる。

愛香「あ……す、すみません」

彼女の手を取り立ち上がる。

「これほどまでにわかりやすく落胆している姿を見るのは初めてだったもので、つい声をかけてしまいましたが……一体どうされたのです?」

愛香「ダイヤちゃん……?」

この特徴的な口調と耳に馴染む声、緑色に輝く澄んだ瞳、秋らしいニットのワンピースに身を包む彼女はどれをとってもその人に瓜二つだった。
混乱は深まるばかりだ。

ダイヤ「え……? 私のことをご存じなのですか? もしかしてAqoursを応援してくださっている――」

しまった。
驚きのあまりつい声に出してしまった。
そのことで悪い予感が一気に現実味を帯びてきた。

愛香「ご存じ、というかなんというか……えっと……」

上手く言葉が見つからない。
それもそのはず、自分達が演じているキャラクターの1人がこうして目の前に現れたのだから。

愛香「すごくそっくりですよ! まるで本物みたい!」

ダイヤ「そっくり……はて? どなたのことを仰っているのでしょう?」

カマをかけてみたが、やはりコスプレイヤー等の類ではないらしい。
慌てて言葉を取り繕う。

愛香「いや! 私の友達でダイヤちゃんにそっくりな子がいて……!」

咄嗟に出た言葉だったが嘘ではない、はずだ。

ダイヤ「あら、ではさぞかし綺麗な方なのでしょうねぇ」

自信気にニコリと笑う彼女に見とれてしまう。

ダイヤ「それはそうと、お困りの様子でしたけれど。 もしよろしければお話聞かせていただけませんか?」





ダイヤ「ふむ……愛香さんはお仕事で先ほどの場所にあるはずの、ゲーマーズ? というお店に向かっていたと」

愛香「はい、でもそこにはお店がなくて……それに私の知ってる沼津とは色々違ってて」

これは夢なのではなかろうか、いやきっと夢に違いない。
そう思うと随分と冷静さを取り戻してきたように感じた。
今までの状況から推測するに、やはりここはラブライブの中の世界なのだろう。
冷静に考えてこんな馬鹿げた結論に行きつくなんて、頭が痛くなりそうだ。

ダイヤ「それにしても聞いたことのない店名ですわね」

ソーサーにティーカップを置くとカタッと小さな音を立てる。
作法とかは私にはよくわからないのだけれど、彼女の仕草はとても上品に見えた。
落ち着いて話したいからと入った純喫茶も、女子高生が選ぶとは思えない渋さだ。

愛香「ここのマスターも知らないそうですし、携帯で探しても出てこないんですよ」

ダイヤ「貴方が嘘をついているようにも見えませんし……どうしたものでしょう?」

愛香「あの、ほんとごめんなさい。 お時間取らせちゃって」

ダイヤ「お気になさらず。 困っている人を見るとどうにも放っておけない性格でして」

優しく微笑む彼女はやっぱり私のよく知るダイヤちゃんなんだなぁとしみじみ思う。

ダイヤ「差支えなければ、お仕事の内容をお聞かせ願いたいのですけれど」

思わず息を呑む。
これは答えていいものなのだろうか。
私はヨハネの声優で、でも話を聞く限りきっとこの世界? にもヨハネは至極普通に存在していて。

愛香「私声優をやってて、アニメ関連のイベントに出演するために東京から来たんです」

差し障りのない範囲で答える。
これ以上深く聞かれると困るかもしれないけど。

ダイヤ「声優さんなのですか! もしかして私すごい方とお話しているんじゃ……」

愛香「いえ、そんなこと――」

ダイヤ「代表作などがあれば是非教えていただきたいのですが」

かもしれない、ではなくしっかりと困ってしまった。

愛香「いや! まだ駆け出しの新人だしダイヤちゃんが知ってるような作品にはまだ全然出てなくて!」

嘘のような本当のような苦しい返答だ。

愛香「あの! 相談乗ってもらってありがとうございました! 私とにかく東京に戻ってみます!」

焦って席を立つ。
これ以上ややこしい状況を伝えて彼女を混乱させたくなかったし、それに東京に帰れば元の世界に戻っているかもしれない。
おかしな現象が起こっているのに気づいたのは三島駅に着いてからなのだから、東京へ戻る間に何か2つの世界を繋ぐゲートのようなものが存在するかもしれない。
いや絶対に存在してくれなければ。

ダイヤ「あ、愛香さん!? ちょっとお待ちください!」

急な大声に足が止まる。

愛香「あ……すみません、つい。 これお代です」

ダイヤ「そうではなくて! ……連絡先を教えていただけませんか?」

愛香「へ?」

ダイヤ「何かまたお困りになったら、力になりたいので」

底知れぬ優しさに思わず涙腺が緩む。

愛香「ありがとう……ダイヤちゃん」

この暖かな胸に抱かれ眠るルビィちゃんが羨ましい、なんて少し邪な考えを持ってしまった。





その道中は随分と長く感じられた。
それは私が一縷の希望よりも、不安を大きく持っていたからだろう。

愛香「一体、どうすれば……」

東京で待ち受けていたのは過酷な現実だった。
所属事務所は存在せず、自宅のものであるはずのドアには覚えのない表札が掲げられていた。

愛香「頼れそうな人……誰にも連絡つかないし、参ったなぁ……」

連絡先をスクロールしていると黒澤ダイヤの文字が目に入った。

愛香「ダイヤちゃん、心配してるかなぁ……」

しばらく考えた後メールを送信する。

『無事帰宅しました。 だから心配しないで大丈夫です! 今日はほんとにありがとうございました』

愛香「これ以上巻き込むわけにはいかないもんね」

ヨハネと同じで不器用な性格だな、なんて思って少し笑ってしまう。
しかし家がないとなるとこれはまた新たな問題だ。
とりあえず今夜はビジネスホテルにでも泊まろうと考えて、手持ちの現金が少ないことを思い出す。





後ろに並ぶ中年女性から何か圧力を感じる。
しかし何度試してもATMはキャッシュカードを読み込んでくれようとしない。

愛香「あの、このカードなんですけど……」

出金ができない趣旨を窓口スタッフの方に伝えカードを渡す。
スタッフさんは奥でいろいろと調べてくれている様子だ。

愛香「なんだか災難続きだなぁ……」

しばらくすると数人の銀行員が彼女の元に集まってひそひそと何か話している。
コトの重大さに気づき、急いで銀行を飛び出す。
どのくらい走っただろう、乱れた息を整えるため公園のベンチに腰掛けた。

愛香「そっか、こっちでは私いないはずの人間なんだ……」

家もなければ、口座もなく、きっと戸籍すらないのだろう。
孤独と恐怖に手が震える。

愛香「うっ……ぐす……」

ああ、ついに泣いてしまった。
堤が決壊したダムのように、その涙は止まる気配がない。
仕事は疎か、これからどうやって生きていけばいいのかもわからなくなっていた。

そんな絶望をかき消すかのように鞄の中から着信音が鳴った。

愛香「繋がった……!?」

涙を拭い慌てて電話に出る。

ダイヤ『愛香さん!? 今どこにいるんですの!?』

怒気を含んだ声に体がびくりと揺れた。

愛香「え、いや、ちゃんと家に――」

ダイヤ『嘘おっしゃい! 私も馬鹿ではございません! 貴方がまだこちら側にいることはわかってましてよ!』

流石ダイヤちゃん、妙なところでするどい。

愛香「って……こちら側!?」

ダイヤ『そのことについてお話したいことがございます。 今から東京駅へ来られますか?』





愛香「東京まで来てくれてたんだ……」

ダイヤ「ええ、少し引っかかることがありまして」

銀の鈴の前で待ってくれていた彼女は神妙な面持ちだった。

ダイヤ「こんなことを口にするのは気後れするのですが……もしかして愛香さんは違った場所からここへ来たのではないでしょうか?」

この子には敵わないと、素直にそう思う。

ダイヤ「愛香さんが沼津を発たれた後、貴方のことを少し調べてみましたの。 声優だと仰っていたので、興味本位で……」

自分でも整理がついていないのか、言葉を探しながら話している様子だ。

ダイヤ「探せど探せど何の情報もなく、でもゲーマーズというのは有名なアニメショップなのでしょう?」

愛香「はい……」

ダイヤ「そんな所で単独でイベントをやる方の情報がまるで見つからないなんて不自然ですし、イベント当日なのに関係者の方への連絡手段を探す前に東京へ戻るだなんてどう考えてもおかしいですわ……」

ここにきて言葉を詰まらす。
その推測はおそらく私と同じ結論に行きついているのだろう。

ダイヤ「確証はありませんでしたが無事帰られていたならばメールは届かないはずだと思いましたし、電話してみれば泣いているではありませんか」

愛香「……きっと考えてる通りなんだと思います。 東京に帰ってきてから、ここに私が存在していた形跡が見当たらなくて……」

ダイヤ「やっぱり、そうだったんですの……」

しばらくの沈黙の後、ふと思いついたかのように彼女は私の手を取る。

愛香「え、ダ、ダイヤちゃん!?」

ダイヤ「帰りましょう! 沼津へ!」

そう言って券売機へ向かい手を牽いた。

ダイヤ「帰る家もないのでしょう? なら今夜はうちへいらしてください。 歓迎いたしますわ」

愛香「流石にそんな! 悪いですよ!」

その後ろ姿は私の遠慮なんておかまいなしに改札を抜けていく。





ダイヤ「今日はお疲れでしょう? ゆっくりおくつろぎになってくださいませ」

居間へ通されるとそこもまた見覚えのある風景だった。
ガラス窓の向こうには庭が見える。
日が沈み暗くなっていても手入れがよく行き届いているのが見て取れた。
思い入れのあるシーンを思い出してはつい辺りをきょろきょろと見回してしまう。

ダイヤ「お茶をお淹れしますのでしばしお待ちくださいな」

台所へ足を運ぶ彼女とは逆の方向からとてとてと足音が聞こえた。

「お姉ちゃん? 帰ってるの?」

声の主はもちろん――。

ダイヤ「ただいま帰りましたわ。 遅くなってしまってごめんなさい」

「おかえりなさいお姉ちゃん」

姉と同じ色の瞳を持つ少女は満面の笑みを見せた。
髪をほどいた姿を見るのは初めてだったがとても愛らしい。
彼女はちょこんと座る私に気づく。

「ピギッ!?」

愛香「あ……お邪魔してます、小林愛香と申します。 今日はその、お世話になります」

座布団から外れ頭を下げる。
姉の後ろに隠れながらこちらを見つめる様子は私もよく知るそれだ。

ダイヤ「はぁ、電話で伝えたでしょう? 今日は知人が泊りにいらっしゃると」

ルビィ「く、黒澤……ルビィです……よろしくお願いします」

何度も聞いた台詞だったのでつい顔が綻んでしまう。

ダイヤ「さぁルビィ、お夕飯の準備を手伝ってくださいますか?」

ルビィ「うん! がんばルビィ!」

愛香「あの、私がやります! やらせてください!」

ダイヤ「ふふっ、お客様に手伝わせるなんて、私に恥をかかせないでくださいませ」

愛香「でも、ここまでお世話になっておいて何もしないわけには……」

ダイヤ「ふむ……ではまた明日にでもお願いしましょうかね?」

くすりと笑う彼女は、明日以降も私を受け入れてくれるつもりらしい。





夕飯は静かな時間だった。
人見知りのルビィちゃんの影響もあったのだろうが、元々こういった環境で食事をする家庭のようだ。
意外だったのはルビィちゃんも箸使いや作法がきちんとしていてなんだか少し大人びて見えたことである。
2人が洗い物をする間に一番風呂をいただいてしまった。
明日は起きたら掃除をさせてもらおう。

ダイヤ「お湯加減はいかがでしたか?」

愛香「最高でしたぁ~。 なんかほっこりしちゃいましたよ」

ダイヤ「それは何よりですわ」フフッ

隠れているつもりなのだろうか、先ほどからルビィちゃんが戸の影からこちらを覗いている。

愛香「寝間着も貸していただいて、ほんとに何から何までありがとうございます」

ダイヤ「お気になさらないでください。 そうだ、何かテレビでもご覧になりますか?」

ニュースを見ればこちら側のことが何か掴めるかもしれないと考えていると、テレビ台に並べられたブルーレイディスクが目についた。

愛香「あ、μ's……」

ルビィ「μ's好きなんですか!?」

目を輝かせたルビィちゃんがひょこっと顔を出す。

愛香「はい、もちろん――」





打ち解けるのはあっという間だった。
2人とスクールアイドル談義に花を咲かせているとつい時間を忘れてしまう。
作中では描かれていなかったAqoursの日常の話は私の中のラブライブへの想いを更に強くさせた。
なんとしても向こうへ帰らなくては。

ルビィ「Aqoursのことも応援してくれてるなんて、ほんと嬉しいなぁ~」

人見知りがまるで嘘のようだ。
そこにはもう年齢の壁も、世界の壁もなくなっていた。

ダイヤ「9人の中で思い入れのあるメンバーはいるんですか? 私たちには気を遣わず仰ってくださいな!」

ルビィ「えへへ、ルビィなんとなくわかるよ? だってよく似てるもん、善子ちゃんと――」

愛香「ヨハネっ!!」

ダイヤ「」

ルビィ「」

しまった。
条件反射で言ってしまった。

ルビィ「すごい! そっくりだったよ! ほんとに善子ちゃんが好きなんだね~」

ダイヤ「……」

ルビィ「ねっ! お姉ちゃん」

ダイヤ「え? ええ、何ですの?」

ルビィ「聞いてなかったの? もしかしてもう眠たい?」

ダイヤ「そうですわね、少しはしゃぎ過ぎてしまいましたから。 では今日はそろそろお休みしましょうか」

ほっと胸をなでおろす。
つい興奮して色々とを喋り過ぎてしまったらしい。
私と彼女らの関係を伝えるのはやはり気が引けてしまう。
自分は創作物の一部だなんて知ればショックを受けてしまうのではなかろうかと。

ルビィ「愛香ちゃんのお布団は客間に用意してあるからね」

愛香「ありがとルビィちゃん、それじゃおやすみなさい」

考えなければいけないことは山積みだったが、疲労のせいか床に就くとすぐに睡魔が襲ってきた。





翌朝こっそりと居間の掃除を終えると、ダイヤちゃんが朝食を持ってきてくれた。
どうやら早い段階から見つかっていたらしい。

ダイヤ「夕方には帰りますので、何か手伝えることがあったら仰ってくださいな」

学校へ向かう2人と一緒に家を出る。
向こう側へ戻るための手掛かりがこの近くにあるかもしれない。

愛香「ありがと、2人も練習頑張って!」

ルビィ「ありがとう愛香ちゃん! 気をつけてね」

ダイヤ「授業も頑張るんですよ? では、行ってきます」

仲良く登校する2人を見送って、再度三島駅へ向かう。
事件の起点はあそこなのだ。





ダイヤ「おかえりなさい、何か進展はございましたか?」

わざわざ玄関で出迎えてくれる彼女に対して、私は苦笑いを見せることしかできなかった。

ダイヤ「そうですか……」

愛香「明日こそは絶対に何か掴んで帰るからね! あ、それからお弁当ありがとう! すっごく美味しかったよ」

彼女に暗い顔をさせてしまったと反省して気丈に振る舞う。
手持ちが少ないのを知ってか知らずか、温かいお茶の入った水筒とお弁当を朝から持たせてくれた。
お客様に部屋の掃除をさせておいて礼もしないようでは黒澤家の名折れだそうだ。
既に返しきれない程の助けをもらっているというのに。

愛香「立派なさつまいもが売ってたから、お返しにスイートポテト作るからね!」

ダイヤ「まったく、貴方というお方は……」

そう言いながらも微笑む彼女はまんざらでもない様子だった。





ダイヤ「あら、この香りは……?」

愛香「おはよう! ちょうどいい大きさのココットがあったからプリン焼いてるんだ。 ダイヤちゃん好きだよね?」

ダイヤ「まぁ! なんと!」

あれから5日が過ぎた。
Aqoursに所縁のある場所は勿論、それ以外の場所も訪れては聞き込みをしてきたが未だ何の手掛かりも見つかっていない。
何かしている方が私の気が紛れると考えたのか、ダイヤちゃんは私が家のことを手伝うのを止めることはなくなっていた。
時には2人で談笑しながら同じ台所に立ったりもする。
僅かな時間で本当に仲良くなったものだ。
ルビィちゃんに至っては一緒にお風呂に入りたいと誘われてしまった。

愛香「帰る頃には冷えてると思うから楽しみにしててね」

そう言ってプリンの焼き具合をチェックするためオーブンを覗く。

ダイヤ「あの、愛香さん」

愛香「ん?」

振り向くと真剣な面持ちで彼女は言った。

ダイヤ「私たちに隠していることがありますわよね?」

愛香「えっと……何のこと?」

ダイヤ「昨日ルビィと話しましたの。 私もずっと気になっていたんですが……異世界から来た貴方が何故私達やμ'sのことを知っているのか」

聡明な彼女が気付かないはずがなかった。
額に冷や汗が滲むのがわかる。

ダイヤ「決して悪い人ではないとは思っていますわ。 でも貴方は、一体何者なんですの?」

愛香「やっぱり、隠し通せないよね……」

ダイヤ「このような事態ですし、今更何を言われても驚きません。 本当のことを教えていただけませんか?」

ルビィ「ルビィも! 聞かせてほしいな……」

傍で聞いていたらしいルビィちゃんが台所に入ってくる。
私は意を決して口を開く。

愛香「わかった……でもショックを受けないで聞いて――」





黒澤家の居間はこういう重たい空気が妙に似合う。
そんなことを思いつつ自分の住む世界のこと、作品としてのラブライブのこと、自分の仕事のことを事細かに話した。

ルビィ「愛香ちゃんが善子ちゃんの声優さんだったなんて……」

ダイヤ「流石にこれは驚きですわ……」

愛香「ちょっと! 何を言われても驚かないって言ったじゃない!」

机を叩いて一喝する。

ダイヤ「……ふふっ」

ルビィ「ぷっ……あははははは!!」

2人は大声を上げて笑いだす。
あまりの衝撃に気でも触れてしまったのだろうか。

愛香「ちょっと……大丈夫!?」

ダイヤ「ふふ……すみません。 あまりに……その、怒る様が善子さんとそっくりだったもので」

腹を抱えて笑う2人の目には涙が見える。
その様子に安堵するとともに気抜けしてしまう。

ルビィ「でもなんだか不思議と納得しちゃうよ」

愛香「2人ともそれでいいの? もうはっきり言うけど自分がキャラクターだってことがどういうことかちゃんとわかってる?」

ダイヤ「無論、理解していますわ。 だけどそれは貴方の世界での話でしょう?」

ため息混じりに半ば呆れながら訊ねたのだが、彼女は自信のある顔つきで続ける。

ダイヤ「ここで暮らす私たちは違う。 確固たる自身の意志でスクールアイドルとして輝きを目指していますの!」

ルビィ「ルビィはね、異世界とかそういうのはよくわからないけど、どこかでもう1人の自分も頑張ってるだって思うとすっごく嬉しいよ」

そう、Aqoursはこういう子たちの集まりだったのだ。
元々存在していたのか、何かしらのきっかけで生まれた世界なのかはわからないが、彼女らはここで強い志を持って生きている。
たとえ何があろうとその輝きを失うことはない。
少し考えればわかることではないか。

ルビィ「そうだ! Aqoursの皆に会ってみない!?」

愛香「へ?」

思いもよらぬ提案に素っ頓狂な声が漏れる。

ルビィ「愛香ちゃんとこの世界を繋ぐのはAqoursなんだよ!」

ダイヤ「そうですわ! 謎を解く鍵はきっと私たちの中にあるはずです!」

愛香「で、でも……」

ルビィ「心配いらないよ、善子ちゃんなら逆にこんな超常現象喜んで受け入れちゃうに違いないもん」

けらけらと笑うルビィちゃんの笑顔に、私の心配は先回りして吹き飛ばされてしまった。





千歌「奇跡だよぉー!」

スクールアイドル部の部室で顔を合わせるやいなや、左耳の横の三つ編みをリボンで結ぶ少女は立ち上がり叫んだ。

花丸「絶対言うと思ったずら」

果南「変わらないね、千歌は」アハハ

画面の中では見たことのなかった彼女らの会話に胸が躍る。
このままじっと眺めていたい衝動に駆られるがそうもいかない。

ダイヤ「紹介いたします。 彼女が先ほどお話した小林愛香さんですわ」

愛香「はじめまして、今日は練習時間を削ってお時間を作っていただいてありがとうございます」

梨子「いえそんな、私たちにとっても興味深いお話ですし」

愛香「それに鞠莉さんも、助かりました」

鞠莉「No problem! 気にしないで。 それから、私のことはマリーでいいわ」

学院の理事長である鞠莉ちゃんの計らいで校内へ立ち入ることを許可してもらった。
浦女に何かヒントがあればいいのだが。

曜「それにしても私たちがアニメの登場人物だったなんて、びっくりだよね」

ルビィ「うん、ルビィも今朝は驚いちゃった。 でも愛香ちゃんすっごくいい人なんだよ! それにμ'sやAqoursのことにも詳しいし!」

千歌「そうなの!? じゃあじゃあ、穂乃果さんがライブで――」

楽しそうに話す彼女に釣られまたもスクールアイドルの話で盛り上がってしまう。
自分達だけの道を歩き始めても、μ'sへの愛は変わらないようだ。

ダイヤ「やはりスクールアイドルとは良いものですわ。 初対面でも話題ひとつでこうも楽しく話せてしまうのですから」

愛香「ところでさっきから気になってたんだけど、ヨハネちゃんは? お休み?」

花丸「ああ、善子ちゃんならまた――」

マルちゃんが言いかけると同時に扉が開く。

善子「誰よ!? 高いジュース頼んだの!」

第一声からその不幸が見て取れたが、そんなことよりも愛して止まない堕天使の姿に感極まる。

愛香「ヨハネちゃん! 会いたかったよー!」

善子「うぇっ!? え、ちょっと何!?」

黒いローブに身を包む彼女を思わず抱きしめた。





善子「そう……あなたが私の……」

愛香「ご、ごめんね、突然……」

興奮してしまったことを恥じて赤面する。

善子「気に負うことはないわ。 私の魅力に取り憑かれ堕天したのならそれは致し方ないこと」

果南「自分を演じる声優さんが現れたわりには随分落ち着いてるんだね、善子ちゃん」

善子「ヨハネよ! 当たり前じゃない? 堕天使である私に異界から魔力を提供するリトルデーモンに対して、狼狽えるはずがないわ」

曜「いつにも増してノリノリだね善子ちゃん……」

愛香「きゃあああああ! ヨハネー! 格好いいー!」

梨子「そうね……この人も大概どうかと思うけど」

花丸「それよりいいのかな、全然本題に入る気配がないけど」

愛香「ごほん……そうだったわ、皆に聞きたいことがあるの」

千歌「任せて! 何だって協力するからね!」

これまでの経緯を一通り説明してメンバーに何か心当たりがないが訊ねるが、期待するような答えは帰ってこなかった。





ダイヤ「お力添えになれず、申し訳ありません」

校門の前でダイヤちゃんが頭を下げた。

愛香「謝らないで、すごく感謝してるんだから。 それに今日はとても楽しかったし」

鞠莉「Don't give up! きっと元の世界へ戻れるはずよ。 そのためなら小原家も協力は惜しまないわ」

私の肩を抱く鞠莉ちゃんの笑顔を夕日が赤く照らす。

曜「そうだね、何かあったらいつでも連絡してよ」

善子「この身体が器であるように、あいきゃんっ……」

愛香「え?」

花丸「格好つけようとして盛大に噛んだずら」

善子「うるさい!」///

梨子「でもあいきゃんって、あだ名だったら可愛くていいかも」クスクス

善子「なっ!? 愛香さんにはもっと相応しいリトルデーモンネームがあるわよ!」

愛香「堕天使ヨハネから賜ったその呼び名、ありがたく存じます」

善子「ちょっとあなたまで私をからかう気!?」

ダイヤ「さぁ、お喋りはそこらへんにして帰りますわよ」

愛香「今日はほんとありがとね、元気出たよ。 皆気をつけてね」

私たちはそれぞれに岐路に着く。





手を繋いで歩く帰り道。
長く伸びる影はなんだが三姉妹のようにも見えた。
ぼんやりとそんなことを思っているとルビィちゃんの鞄から電話の着信音が鳴る。

ルビィ「もしもし……え? うん……うん、ちょっと聞いてみるね」

ダイヤ「どうしましたの?」

ルビィ「今日、善子ちゃんも家に泊まりたいって。 いいかなぁ?」

ダイヤ「善子さんが? ええ、かまいませんが」

ルビィ「いいって! えへへ、楽しみに待ってるね」

通話を終えたルビィちゃんは満面の笑みだ。

ダイヤ「先週も泊りに来たばかりだと言うのに、本当に仲がよろしいんですね」

愛香「そうなの?」

ルビィ「うん、愛香ちゃんが家に来る前の日だから、ちょうど1週間前だよ」

多めにプリンを焼いていてよかった。
気づけば私もルビィちゃんと同じ顔をしていた。





ルビィ「いらっしゃい善子ちゃん!」

善子「お邪魔します。 これ、お母さんから」

ケーキ箱を手渡すと善子ちゃんは靴を後ろ向きに揃える。
些細なところもきっちりしているんだと感心する。
今後の芝居に生かすため、彼女の一挙手一投足に目を配る。
そんな私の視線に気づき指を指された。

善子「あいきゃん! 貴方に話があって来たわ!」

愛香「結局その呼び方でいいんだ」クスクス

校門前で噛んでしまったことはもう吹っ切れたようだ。

ダイヤ「先にお夕飯にしましょう。 もう待ちくたびれてしまいましたわ」

食材の準備は既に終えてある。





愛香「本当に食べたことないの? 美味しいのになぁ」

ルビィ「ルビィは食べてみたいけど」

食べ終えた鍋を囲みながら談笑する。
トマト缶とチーズを入れようと提案したのだが邪道だと一蹴されてしまった。
タバスコを鍋に入れようとしたヨハネちゃんはダイヤさんにこっ酷く叱られていた。

ダイヤ「ところで何かお話があるとのことでしたけど、やはり愛香さんのことでして?」

善子「ええ、ペテロの門を開くその鍵はおそらく、やつがれの――」

ダイヤ「大事な話なのですからちゃんとわかるように話してくださいませんこと?」

善子「はい……」

愛香「しゅんとするヨハネちゃんも可愛いよ」

ダイヤ「貴方までふざけないでください!」

善子「べつに私はふざけてなんかないんだけど! まぁいいわ……あいきゃんは私の声優だって話だったわよね」

真剣な表情を見せる彼女の言葉に頷く。

善子「今まで何のヒントも得られなかったんなら、事の原因はやっぱり私にあると思うの」

ルビィ「そう、かもしれないね……」

ダイヤ「ではその辺りをもう一度洗ってみましょうか」

善子「先週の日曜日、私がここから帰った後ダイヤさんとあいきゃんが出会ったと……」

愛香「その時間ヨハネちゃんは何をしてたの?」

善子「家で生放送してたかしら?」

見せてもらおうと思ったが、話の腰を折るといけないので口にはしなかった。

ダイヤ「ただそれより以前に愛香さんはこちら側にいらしてるんですのよね?」

愛香「うん、新幹線を降りたのが朝9時くらいだよ」

ダイヤ「その時間は――」

ルビィ「ああっ!」

突然の声に一同は体を仰け反らす。

愛香「どうしたのルビィちゃん?」

ルビィ「善子ちゃん、その時間お庭でいつもの変な儀式してたんだよ!」

善子「変なとか言うな!」

ダイヤ「何かしら手掛かりが欲しいので一応お聞きしますけれど、一体何の儀式を?」

善子「それはもちろん……」

言いかけてはっとする。
その表情に私たちも息を呑んだ。

善子「悪魔召喚の儀式よ」





キーボードを叩く音がカタカタと鳴る。
ルビィちゃんがパソコンで情報を調べてくれているからだ。
時計の針はとうに天辺を回っていた。
私はヨハネちゃんが普段から持ち歩いているという悪魔大百科を読み進める。
初めて召喚に成功したと喜ぶ彼女だったが、すぐに本を取り出してくれた。

ダイヤ「呼び出したその悪魔はどうやって元に戻すんですの!?」

興奮冷めやらぬ様子でヨハネちゃんの肩を揺らす。

善子「そんなのわかってればもうやってるわよ! だから今調べてるんじゃない!」

愛香「ちょっと落ち着きなって……」

ダイヤ「これが落ち着いてなどいられますか! にわかには信じがたいことですけれど、最早何が起きても不思議ではありませんわ!」

善子「今はこの線が有力と見て調べるしかないわね……ルビィ、何か見つかった?」

ルビィ「うーん、召喚の方法ならたくさんヒットするんだけど、戻し方は全然載ってないよぉ……」

愛香「こっちもそれらしい記載はないね。 困ったなぁ」

ドン詰まりの状況の中で一筋の光が見えたと思ったのだが、それもここまでのようらしい。
その落胆は到底隠しきれない。

ダイヤ「駄目ですわ……いくら探しても何も出て来やしません」

善子「くっ……堕天の力を持ってしても敵わぬというのね……」

私と同じように皆がっくりと肩を落とす。

ルビィ「ねぇ、そもそも悪魔ってどういうものなの? ルビィにはそれすらよくわからないんだけど……」

善子「え? そうねぇ、呪術者の望みを叶える存在かしら」

気の抜けた雑な返答につい笑みがこぼれる。

ダイヤ「そう聞くとなんだか神様みたいですわね」

善子「ただ悪魔はその望みを叶える代わりに見返りを求めるの。 それが契約ね」

ルビィ「ふーん……」

質問した本人は興味なさげに呟く。

ダイヤ「あれ……? ちょっと待ってください」

善子「何よ?」

ダイヤ「愛香さんのことをそのように言うのは心苦しいのですが――」

何か思いついたように話し始めるダイヤちゃんに目を向ける。





愛香「皆、来てくれたんだ!」

曜「うん、これでお別れになるかもしれないし」

鞠莉「サヨナラはちゃんと言っておきたいしね」

翌朝、儀式の準備をしているとメンバーの皆が集まって来てくれた。

千歌「それに本当に成功したらすごいことだもん! これはしっかり見届けなくっちゃ!」

ダイヤ「では皆さん! はじめますわよ!」

ヨハネちゃんはローブを身に纏い、シニヨンに黒い羽根を挿す。
いつも楽しそうに儀式を行う彼女だが、今日に限ってはそうもいかないらしい。
緊張した様子で蝋燭に火を灯す。

花丸「あんな善子ちゃん見るの初めてで、こっちまで緊張してくるずら……」

梨子「大丈夫、きっと上手くいくわ」

愛香「ちょっと待って!」

庭に描かれた五芒星の中へと進める彼女の足が止まった。
ヨハネちゃんに向けられていた皆の視線が私の元に集まる。

愛香「これで最後かもしれないから、今のうちに皆に伝えておきたくて……」

善子「どうしたの?」

愛香「私ね、ここへ来てからたくさん怖い思いをしたけど、それと同じくらい……ううん、それ以上に素敵な体験ができたって思う」

ダイヤ「愛香さん……」

愛香「落ち込んでた私にダイヤちゃんが声をかけてくれて、ルビィちゃんと出会って、皆とお話して……ほんと嬉しかったんだ」

善子「わ、私だってリトルデーモンに会えて嬉しかったわよ!」

ヨハネちゃんは少し照れながら、でもしっかりの私の目を見て言ってくれた。

果南「そうだね、向こうの私たちに負けないようにもっと頑張らないとって思うし、愛香さんに出会わなきゃこんな気持ちになることもなかったもんね」

ルビィ「一緒にスクールアイドルの話ができてすごく楽しかったよ!」

それぞれの言葉に胸が熱くなる。
今にも零れ落ちそうな涙を堪えながら言葉を紡ぐ。
だって笑顔でお別れしたいから。

愛香「Aqoursに出会えて私の人生は大きく変わったの。 だから最後にもう一度だけ言わせて。 ありがとう、皆大好きだよ」

駄目だ、やっぱり堪えきれなかった。





善子「私の願いはただひとつ……貴方を元いた場所へ還すこと」

魔法陣の中心で彼女は悪魔である私に取引を持ちかける。

善子「貴方の求める代償は何?」

どうしたものか。
愛する彼女から奪いたいものなんて在るはずない。

愛香「べつに何もいらないんだけど……」

善子「そうはいかないわ。 それだと契約の儀が成立しないもの」

愛香「うーん……じゃあせっかくだから――」

ヨハネちゃんがこくりと頷いたその瞬間、足元の五芒星が白い光を上げた。
あまりの眩さに皆目をつぶる。
契約が成立したのだ。

鞠莉「シャイニ~! まだ目がちかちかするわ」

曜「ねぇ皆見て!」

梨子「愛香さんが、消えた……」

ルビィ「ちゃんと元の世界に戻れたのかな……」

ダイヤ「ええ、きっと大丈夫ですわ。 だってほら、ご覧なさい」

善子「へ……?」





愛香「ん……寝ちゃってた……」

目を覚ますと秋の色づきとなった静岡の風景が窓の外に広がっていた。

愛香「なんだかすごい夢だったなぁ」

寝ぼけ眼で左腕に目をやると時計の針が9時を指していた。
今日はヌーマーズ リトルデーモン店ことゲーマーズ沼津店で久々にイベントが行われる。
Aqoursとしてではなく、看板娘の声優である私1人の出演だ。

愛香「そろそろ三島ね。 着いたらまず朝ごはん食べに行こ」

イベントは夕方からの開催なのだが、個人的に沼津の街を観光したくなったので早朝から出発して聖地を堪能してからスタッフと合流することに決めた。
新幹線に揺られながら朝食のことを考えていると三島駅到着を告げるアナウンスが車内に響いた。





改札を抜けるとそこはAqours関連の看板やポスターが至る所に飾られたいつもの三島駅だった

愛香「ん~! いい天気!」

駅構内を出て青空の下で大きく伸びをしてから、鞄にしまってたスマートフォンを取り出すとひらりと何かが舞う。

愛香「何だろう……黒い羽根?」

不思議に思ったがひとまずその羽根を鞄にしまい、周辺でモーニングのサービスのあるカフェを検索して足取り軽く歩き出した。

愛香「よし、今日も頑張ろう!」










おしまいこー

中の人って口調考えるの難しいですね
王道っぽい異世界モノを目指しつつ、想いよひとつになれを裏テーマに書いてみました
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『愛香「改札を抜けるとそこは……」』へのコメント

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