高坂穂乃果のプロデューサー奮闘記

シェアする

穂乃果-アイキャッチ59
 私の名前は高坂穂乃果。
 職業、アイドルのプロデューサー。
 その私の実家は老舗和菓子店。
 芸能界に縁のない私が、なぜ跡を継がずプロデューサーになったか?
 それは国立音ノ木坂学院2年生時代まで遡ります。

※ 前作記事へのリンクです(管理人)

矢澤にこのアイドル一代記

pixiv: 高坂穂乃果のプロデューサー奮闘記 by tsugarulefthors

スポンサーリンク
 

 
 私は廃校阻止の為、スクールアイドルグループμ’sを立ち上げました。
 そのμ’sメンバーには、小泉花陽ちゃんや矢澤にこちゃんがいました。
 出会った当初の花陽ちゃんはアイドル活動を少しだけためらっていたし、にこちゃんは一度活動に失敗し、ずっと1人で過ごしていました。
 でも2人とも、アイドルに対する熱意は誰にも負けない子でした。

 だから思ったんです。
 花陽ちゃんやにこちゃんみたいに、アイドルを目指している子はいっぱいいるんだから、1人でも多くの子をアイドルにしてあげたい、ステージに立たせてあげたい、と。
 こうして私はプロデューサーを目指しました。
 意外にも両親は快諾。いわく、「店の跡継ぎよりも自分の夢を追いなさい」と。
 なお、店は妹の雪穂が跡を継いでいますよ。

 それからは周囲が「こんな姿を初めて見た」というほど、猛勉強しました。
 恥ずかしながら、事実なんですよね。
 しかしその甲斐あって、プロデューサーになることができました。



 20X6年4月1日。プロデューサー人生初日。
 私の師匠は、微笑みを絶やさない穏やかな人でした。

「おはようございます。高坂穂乃果です」

「おはようございます。これからよろしく頼むよ」

「はい…よろしくお願いします」

「さて、君はなぜプロデューサーになったのかね?」

「スクールアイドル時代の仲間の中には、プロのアイドルを目指す子もいました」

「それで私は、1人でも多くアイドルにしてあげたい、ステージに立たせてあげたい」

「そう思って、プロデューサーになりました」

「ふむ…”アイドルにしてあげたい”と言ったのは…私の知る限り君が初めてだ」

「”アイドルを売れさせたい”とか”タイトルを勝ちたい”とか、そういう人は多いが、ね」

「…もちろん、全員がアイドルになることなど不可能だ」

「しかし、アイドルになれるかなれないかは…君の腕次第でもある」

「チャンスを捉えて一気にトップアイドルになれることもあれば、チャンスを逃してアイドルになれずじまい、なんてこともある」

「君一人の仕事で、アイドルの人生が変わってしまう」

「アイドルの人生は君が握っていることを、自覚してほしい」

「はい」

「ところで高坂さんは、”才能”とは何か、わかるかい?」

「…うまれつきの能力、ですか?」

「これは偉い人の言葉なんだが…」

「才能とは”いつまでも同じ気持ちを持ち続け、努力し続けること”だそうだ」

「高坂さんも、”1人でも多くアイドルにしてあげたい”という気持ちを持ち続けなさい」

「はい!」

 こうして、私のプロデューサー人生が始まりました。



 さてそれからほどなく、ある新人アイドルをプロデュースすることになりました。
 彼女は5月にオーディションを受けると合格。
 そして8月のデビューシングルが、いきなりミリオンヒット。
 その勢いのまま10月に新人アイドル大賞(新人タイトル戦の一つ。タイトル戦はアイドルのステータスです)に出場し、見事に優勝。
 その子はアイドルとして成功したのです。あっさりと。

 私も私で、“天才新人プロデューサー現る!”なんて持ち上げられました。
 わずか4か月でミリオンヒットを生み出したことも驚異的な早さでしたし、1年目のプロデューサーがタイトルを獲得するのは史上初でしたから。

 とはいえ、さすがにびっくりしました。
 こんなに早くタイトル優勝までできるとは思っていませんでした。

「今後注目されるだろうし、プレッシャーも感じるだろう。でもあくまでも新人なんだ、新人らしくいなさい」

 と師匠が言っていたことを覚えています。
 その年限りでアイドルを引退した綺羅ツバサさんに会ったときも。

「高坂さんのプロデュースを受けてみたかったわね」

 なんて言われました。

 こうして、いきなりタイトルを獲得した動揺を感じつつ年を越しました。



 20X7年2月。

 1通の依頼が届きました。
『3月の全日本アイドル選手権に出場予定のアイドルをプロデュースしていただきたく…』
 アイドル、それも大物、の名前が私の記憶にありました。

「私のような新人が大物をプロデュースというのは…」

「一流アイドルのタイトル戦を勉強するのも、大事なこと」

「せっかくのいい機会だし、引き受けるべきだ」

 師匠の一声とアイドルの名前で、私は彼女のプロデュースを決心しました。
 早速翌日、出場予定のアイドルと面会しました。

「高坂穂乃果です。よろしくお願いします」

 そこにいたのは、ツインテールと白い肌、赤い瞳が特徴の―
 元μ’sメンバー、大銀河宇宙No.1アイドルこと矢澤にこでした。



 にこちゃんの人気は社会現象レベルでした。
 曲はヒット連発、ライブ動員数は歴代女性アイドル1位。「にっこにっこにー」は流行語になり、比較的アイドルに疎い年配の方でも、名前も曲も知っているほど。
 にこちゃんのアイドルに対する真摯な姿勢も人気に繋がっていました。
 ツバサさんが引退した今のアイドル界は矢澤にこが中心、そんな状況でした。

 さて今、部屋はにこちゃんと私の2人きり。

「何年ぶりかしら…こんな形で再会するとは、思わなかったわ」

 それは私も同じ。かつての仲間が大物となっているのですから。

「…一つ聞いてもいい?」

「…どうぞ」

「どうしてプロデューサーになったのよ?」

「μ’sだったころと同じように話していいから」

 にこちゃんなりの気遣いでした。
 あくまでも私達の立場は、大物アイドルと新人プロデューサー。

「…私がスクールアイドルを始めたころのこと、覚えてる?」

「ええ、覚えているわ」

「私がにこちゃんを加入しようとしたら断られて」

「そうね。アイドルをなめていると思ったからμ’s加入を拒否した」

「でもそれだけ真剣にアイドルを目指していた、そうだよね?」

「ええ」

「それに花陽ちゃんもアイドルに憧れていたよね」

「そうだったわね。もう引退したけど」

「だから思った。にこちゃんや花陽ちゃんみたいに、アイドルを目指している子を1人でも多くアイドルにしてあげたい、ステージに立たせてあげたいって」

「それでプロデューサーになろうと思ったわけね」

「さすがにこちゃん」

「はあ…あのね、ここは―」

「厳しい世界だってわかってるよ」

「いいえ、わかってない。厳しいってわかってるなら、あんたの去年の実績は何よ?」

「プロデューサー1年目でタイトル優勝なんて、ありえないわよ?」

 にこちゃんがそういうのも当然です。なにしろ新人がいきなり優勝したのです。
「厳しい世界が何か、わかっていない」と言われても反論できません。
 だけど私だって能天気でもなくて。

「私もびっくりしたよ…たまたま、素人が雑に磨いても輝く宝石にあたっただけ」

「まあ、間違ってはいないわね。私から見てもあの子は素質があったし」

 にこちゃんの言う通り、あの子には素質がありました。それはそうだけど―

「でも…。アイドルに素質や才能があっても、私の腕が悪いならアイドルは輝かない。でも、私の腕次第でアイドルを一際輝かせることもできる。そう思ってる」

 新人の私なりの持論で反論し、にこちゃんに視線を向けました。

「アイドルを目指している子を1人でも多くアイドルにしてあげたい、ね…」

 にこちゃんはしばらく考えていましたが、やがて。

「…よく考えてみれば、あんたがいなかったらラブライブ!優勝もできなかったし、ましてやこんなアイドルになれなかったのよね」

 百歩譲って前者はともかく、後者が私のおかげなんて。

「そんな、大げさな」

「大げさでもなんでもない、事実よ。まあμ’sの成功もあるし、活躍を期待しているわ」

 いくら仲間だったからって、お世辞が過ぎるよ。期待はありがたいけど。

「と、昔話はこれくらいにして…」

「ところで、どうして私のプロデュースをしようとしたのよ?他にいたでしょ?」

 私達プロデューサーがタイトル戦でプロデュースできるアイドルは1組だけです。
 というのも、タイトル戦はアイドルの他にプロデューサーの腕を競う場でもあるから。
 タイトル戦出場の度に担当プロデューサーが変わるアイドルもいます。

「依頼が来て師匠に相談したら、”いい機会だし、一流アイドルのタイトル戦を勉強してきなさい”って」

「こんなに早く大物アイドルを担当するなんて思っていなかったけど、μ’sつながりだからにこちゃんを担当するならいいかなって思って…どう?」

 実際、にこちゃんでなければもっと尻込みしていたと思います。

「私は構わない。穂乃果なら面識もあるし、仮にもタイトル実績がある」

「じゃあ3月の選手権、私をよろしく頼むわね?」

「はい!」

 あっさりと、にこちゃんのOKが出ました。
 今思うと、私は軽く…を通り越して安易に引き受けたような感じでした。

「宇宙No.1アイドルと天才プロデューサーの最強コンビ」
「μ’sの奇跡、再来か」
「新人に、にこは任せられない」
「高坂がコネを使っただけ」
 賛否両論の中で、全日本アイドル選手権当日となりました。

「全日本アイドル選手権優勝は…矢澤にこさんです!」

 にこちゃんが見事に優勝しました。
 これでにこちゃんは全日本アイドル選手権3連覇。殿堂入りを果たしました。

 インタビューで私について聞かれたにこちゃんは、こう答えました。

「彼女は彼女なりに精いっぱい頑張ってくれました。批判もありましたが、それでも私は高坂プロデューサーを信じていました。褒めてあげたいです」

 にこちゃん、ありがとう。

 翌日の報道には、にこちゃんはもちろん、私を称える記事もありました。
 一方、私の優勝はラッキーだっただけ、という見方も多かったですが。



 その選手権から数日後、にこちゃんと面会したときでした。

「…にこちゃんのプロデュースは、やっぱり違った」

「そうでしょうね。私も、人気に応えたいプレッシャーがあるし」

「やっぱり、にこちゃんはすごいよ。μ’sのころからずっと気持ちが同じだもん」

「宇宙No.1アイドルが笑顔にさせられないなんて、恥ずかしいじゃない?努力よ努力」

 にこちゃんにはアイドルの「才能」があるんだと思いました。
 何年もずっと、「アイドルは、みんなを笑顔にさせる職業」を貫いているのですから。
 それに対して私は。

「それに、あんたこそ私を優勝させることができて、自信になったでしょうね」

「…どうだろう。何かうまくいきすぎて不安になってきたよ」

「私なんかが、にこちゃんのプロデュースしてよかったのかな…」

 実際、不安を感じていました。
 ここまであまりにもうますぎることが、怖く感じていました。
 すると―

「まったく」

 にこちゃんの表情が変わりました。

「あえて言うわよ。あんた一人の仕事で何億という大金が動くのよ?」

「それにアイドルの、人様の人生を、あんたが動かしているのよ?」

 師匠が言った言葉が、にこちゃんの口からも飛び出しました。

「なんであんたがプロデューサーになったか、言ったわよね?1人でも多くアイドルにしてあげたい、って」

「…うん」

「そりゃあ成功できない子も多いし、現実を見せることも必要よ」

「でもプロデューサーが弱気になってたら、諦めてたらどうするわけ?それこそ、アイドルが絶望してしまうと思わない?」

「まあ、”アイドルにさせること”と”タイトルを取ること”は違う。でもせっかくアイドルを目指すなら、望みは大きく持たないと」

 正論ばかりで、返す言葉がありませんでした。

「調子に乗るのと、自信を持つのはまったく別なのよ?穂乃果はもっと自信を持ちなさい。そんなんじゃ、プロデューサー失格よ」

 にこちゃんに叱られました。
 さすが宇宙No.1アイドル。アイドルだけじゃない、プロデューサーも、この世界のこともわかっています。

「…そうだよね。やっぱりにこちゃんには敵わないよ」

 と言って笑うと。

「わかってくれればいいのよ」

 とにこちゃんも笑ってくれました。
 まだまだ、にこちゃんに教わることがたくさんある。私はにこちゃんに勝てない。
 そう思った出来事でした。



 その後、私は厳しさを知りました。
 5月、ルーキーアイドルカップに出場。新人アイドル大賞に続く新人二冠を狙うも、4位。
 この結果にアイドル事務所が怒り、プロデュースを外されてしまいました。
 これも、私の腕が悪かったから。反省です。
 でも切り替えて、結果を出さないと。
 依頼を引き受けたら、「天才新人プロデューサー」と言われたら、期待に応えないといけないよね。

「○○ちゃん、初めてのオーディション、頑張ってね!」
 ―合格おめでとう!アイドル人生のスタートだね!
「△△ちゃん、初めてのライブだね。行ってらっしゃい!」
 ―お客さんがいっぱいいたね!みんな見てたよ!
「□□ちゃん、メジャーデビューが決定したよ!そのPRイベントだけど…」
 ―初登場10位だよ!これからきっとブレイクできるよ!
「◇◇ちゃん、8月のオープン戦で歌う曲は…」
 ―残念だったね。でも、初挑戦で2位ってことは今後チャンスがあるよ!

 夏が過ぎ秋になると「新人とは思えないほど結果を出している。やはり高坂穂乃果は”天才”か?」なんて噂話が流れていました。
 担当アイドルは、新人プロデューサー平均の倍を抱えるようになりました。



 一方にこちゃんは会見を行い、「12月の全日本アイドルGPでタイトル戦出場を最後にする」とアイドル引退を発表。
 アイドル意識が強いにこちゃんだからこそ、引退自体は考えていたと思います。
しかし私が尊敬する人の引退は、あまりにも衝撃的なニュースでした。

 11月、にこちゃんはジャパンアイドルカップに出場。
 結果は15組中10位の、惨敗。私から見ても、明らかに別人のようでした。
「矢澤にこは半年で衰えてしまった」
 と言われるようになりました。
「にこを引退させろ。GPに出したら事務所を襲撃する」
 なんて脅迫文が事務所に届いたこともあったそうです。
 それでも、にこちゃんのGP出場が発表されました。



 そのジャパンアイドルカップ2日後のことです。
『第35回全日本アイドルGPに出場予定の矢澤にこを、高坂プロデューサーに担当していただきたく、お願い申し上げます』
 宇宙No.1アイドル引退戦のプロデュース依頼が、届きました。
 なぜ私の元に来たのか、よくわかりませんでした。

 かつてスクールアイドル仲間だったにこちゃん。
 プロデューサーになるきっかけをくれたにこちゃん。
 私の恩人で第二の師匠で、尊敬しているにこちゃん。
 彼女を私の手でプロデュースしたい気持ちは、当然あります。

 でもにこちゃんは、人気が社会現象になるほどのトップアイドル。
 それに前回と違い今回は引退です。
 大々的に花道を飾ってあげないといけません。
 …重要な場面なら、新人よりベテランに任せますよね?
 いくら「天才」と言われても、新人は新人なのです。

 ベテランプロデューサーがいっぱいいる中で、それも引退という大一番で、力不足の私に大役を依頼することが信じられませんでした。
 華々しく引退してほしいからこそ、仲間だからこそ、今回はお断りしよう。
 そう思って師匠に相談しました。

「今回の依頼は、私にとって荷が重いですし、お断りを―」

「…君はチャンスの前髪を、掴もうとすらしないのか?」

 そのときの師匠は、普段の温厚な師匠ではありませんでした。

「引き受けなさい」

「しかし、これはベテランの先生が…」

「よく聞きなさい。矢澤にこをプロデュースしてみたいと、みんな思っているんだ」

「一流アイドルを担当することは、プロデューサー冥利に尽きるというものだから、な」

「しかしプロデューサーがアイドルを指名することは不可能」

「それに矢澤にこの引退戦。もう二度と彼女をプロデュースできない」

「そんな中で依頼があった。しかも2回目。大抜擢だ。嬉しいこと、喜ぶことなんだぞ」

「一世を風靡したアイドルの引退戦を担当できるなんて、とても名誉なことじゃないか」

「無論名誉だけじゃない。この経験は、君のプロデューサー人生に確実に活かされる」

「貴重な財産に、宝になるというのに、なぜ捨てる?」

「千載一遇のこのチャンスを逃せば、後悔しか残らない」

「君が一流アイドルを引退させてきなさい」

「…はい」

「ただし、ファンをがっかりさせる引退をさせたら…君は破門だぞ。出ていきなさい」

「そんな…!」

「君がアイドルの命を握っているんだ。君も自分の命を握らないといけないだろう?」

 師匠のお叱りを受けて、にこちゃんのプロデュースを引き受けることにしました。
 でもまだ、プロデュースに不安を感じていました。
 そんなことを言うと師匠に怒られますが、実際本心はまだ揺らいでいました。

 「破門」の2文字が、さらにプレッシャーをかけてきます。
 師匠の愛情なのでしょうが、あまりにも厳しい愛情。
 失敗したら、私はプロデューサーを―



「高坂です。よろしくお願いします」

 翌日、不安を抱えつつにこちゃんの所属事務所をうかがいました。

「3月以来ね。他にGP出場候補のアイドルがいるはずだけど?」

 “他に断られたら代打依頼するかもしれない”という不確定の条件ですが、いました。
 そのため”他アイドルのプロデュースが確定しても異議はない”とも。

「依頼されたとき、迷ったんだ。私なんかが受けるべきなのか…」

「にこちゃんの引退戦は、もっと有名なプロデューサーが担当するって思ってたから」

「へえ…」

「だから師匠に、新人の私には荷が重いです、って答えたら怒られた」

「”一流アイドルの引退を担当するなんて、名誉なことじゃないか。千載一遇の機会だ、君が一流アイドルを引退させてきなさい”って」

「でも”ファンをがっかりさせる引退をさせたら破門だぞ”って言われて、怖くなって…」

「…前に言わなかった?自信を持ちなさい、って」

「あんたがμ’sリーダーだったころ、あんたは目標に向かって走っていった。障害も乗り越えていってみせた。でも今は?」

 あの頃は、ね。
 でも、私だって現実的に考えるようになったんだよ。
 あの頃と同じようには…。
 そう思っていた矢先。

「あんたがタイトル戦で勝てたのは運がいいからではない。腕がいいから。断言するわ」

「そんな」

 私の評判や噂こそ聞いていましたが、自分の腕がいいだなんて。
さらににこちゃんが続けて―

「穂乃果はいつか必ず立派なプロデューサーになれる。アイドルサイドもプロデューサーサイドも、そう思い始めているの」

 確かに今でも「天才新人プロデューサー」なんて言われますが。
周囲が私をそんな風に見ていたなんて、思ってもいませんでした。

「実際、何人も担当しているんでしょ?それだけ穂乃果にプロデュースしてほしいのよ」

「タイトル戦で大物を担当するとなれば、普段以上にプレッシャーがかかる」

「アイドルの引退となれば、有終の美を飾ってほしいし、ファンの期待も大きくなる」

「でもそのプレッシャーを乗り越えないといけない。ましてや天才プロデューサーなら」

「もしあんたが今より有名になれば、もっと大きなプレッシャーがかかるのよ?」

「第一私自身、プレッシャーを感じているわよ?ファンをがっかりさせたくないじゃない。タイトル戦で負けたこともいっぱいあるけど」

「宇宙No.1アイドル引退戦という大一番で成功させてこそ、高坂プロデューサーの株が上がるというものよ」

「まあ…ファンも私も納得できる引退なら、成功ね」

「…私にも任せていいか、正直少しだけ不安はある。でも、期待の方がはるかに大きい」

「μ’sの義理とかじゃない。穂乃果に、プロデュースしてほしい」

 にこちゃんが、宇宙No.1アイドルが、私をプロデューサーとして認めているのです。
ならば、私の答えはただ一つ。

「それとも、やっぱり2年目の新人プロデューサーには重すぎるかしら?私には有力プロデューサーとも縁があるし?」

 にこちゃん、今更意地悪しても無駄だよ。だって私はもう、覚悟ができたから。

「矢澤にこさん!GPは、高坂穂乃果に担当させてください!」

 立ち上がって丁寧な言い回しで言うと、深くお辞儀しました。
あくまでも私達の立場は、大物アイドルと新人プロデューサー。

「ええ、私からもお願いするわ。期待しているわよ」

そう答えるとにこちゃんも立ち上がり、笑顔で右手を差し出してきました。

「ありがとうございます!」

 宇宙No.1アイドルと新人プロデューサーが固い握手を交わしました。

「話題作りでどうにか上位入賞を狙う魂胆か」
「天才といえども前回を考えると苦戦しそう」
 報道でもネットでも、否定的、悲観的な意見ばかりでした。



 そんな声を感じ取りつつ、にこちゃんの選曲を考えていました。
 GPでは1組2曲を披露することになっています。
 1曲はにこちゃんの代表曲『まほうつかいはじめました!』で確定。
 しかしもう1曲をどうするか?
 ラブソング?バラード?それともロック?どれもしっくりきません。

 埒が明かないので気分転換。久しぶりに実家のほむまんを買いました。
「餡子飽きた」とは言っていたものの、今となっては懐かしい味です。
 せっかくなので、母校たる国立音ノ木坂学院を訪れました。

 懐かしいなあ。廃校を阻止して。ラブライブ!優勝して。
 にこちゃん達が卒業して、絢瀬絵里ちゃんの妹亜里沙ちゃんや雪穂が入学して。
 私達も卒業して、次に花陽ちゃんや凛ちゃん、真姫ちゃんも卒業して。
 亜里沙ちゃんや雪穂も卒業して、でもそのたびに新入生が入学して。

 …卒業?入学?

 にこちゃん達が卒業したとき、私はどう思った?
 私が卒業したとき、私はどう思った?
 私が音ノ木坂や大学に入学したとき、私はどう思った?
 プロデューサーになったとき、私はどう思った?
 それなら、にこちゃんのアイドル引退は?

 にこちゃんのアイドル人生と自分の記憶が重なり合っていきました。

 …これだ!

 言葉が浮かんできました。
 急いで帰宅するとDTMを起動させました。
 仮にもプロデューサーですし、一通りの音楽理論は勉強しているんですよ?
 この際、私が作詞作曲してしまえばいいんだ。
 プロデューサー制作の楽曲をタイトル戦で披露することはよく行われていて、規則上問題ありませんし、ね。

  Someday of my life, Someday of my love
  悲しくしないで笑おうよ
  私達のままでいれば あしたも笑顔
  Someday of my life, Someday of my love
  たくさんの気持ちが込み上げ
  私達へ希望くれる くれるよ広がれ…夢

 “笑顔”…にこちゃんは、自分の引退でもみんなに笑顔になってほしいはずだから。
 アイドルとしての矢澤にこはいなくなる。でも作品を聞けば、また思い出してくれる。
 いろんな感情が混ざる。別れの悲しみもある。でも新たな夢への喜びもある。
 終わりだけじゃない、始まりでもあるんだ―

 あえて少々切なさも感じられるメロディにする。
 前向きな歌詞とのコントラストのため。
 2曲目『まほうつかいはじめました!』とのコントラストのため。
 
 夜が明けるころには、完成していました。
 曲名、『Someday of my life』。



 こうして12月23日の第35回全日本アイドルグランプリを迎えました。
 アイドル日本一決定戦かつにこちゃんの引退戦とあって、観客は1万人の満員です。

 私は出番直前のにこちゃんを見送りに行きました。

「いよいよだね」

「ええ」

「私はできることを頑張った。今度はにこちゃんが頑張る番だよ」

「…そうね」

 調子が回復したはずのにこちゃんは、不安そうな、暗い顔をしていました。
 アイドルの輝きがなく、くすんでいました。
 もしかしたら、思うような引退ができるのか、再び前回の失敗を繰り返すんじゃないか、と不安だったのかもしれません。

 でも、そんなことを考える彼女は、大銀河宇宙No.1アイドルじゃない。
 私の尊敬するにこちゃんじゃない。
 もしこのままステージに上がったら。
 ファンはもちろん、にこちゃん自身も望んでいない。
 私だってそんなにこちゃんは見たくない。

「…ねえ、にこちゃん」

 だからこの時、私は―

「しっかりしてよ!にこちゃんは、自分を誰だと思ってるの!?」

「矢澤にこだよ!?大銀河宇宙No.1アイドルだよ!?」
 
 にこちゃんを…いや他人を、初めて叱りました。

「アイドルの仕事は、みんなを笑顔にさせること。そう言ってたよね?」

「会場のみんなを、いや…見ているみんなを笑顔にさせてきてね!」

 叱った直後、笑顔で見送りました。

『プロデューサーが弱気になってたら、諦めてたらどうするわけ?それこそ、アイドルが絶望してしまうと思わない?』
『もっと自信を持ちなさい』
『そのプレッシャーを乗り越えないといけない』

 にこちゃんに言われた数々の言葉を、そっくり返すように。
 私はアイドルを叱り、見送りました。
 私は期待していました。

「…ええ、もちろんよ!」

 目の前には、大銀河宇宙No.1アイドルがいました。
 にこちゃんは、自分の最後の仕事に向かっていきました。

 控室のモニターに映るにこちゃんは、光輝いていました。
 ステージから戻るときは、やりきった、という表情を見せていました。



 ファン投票と集計が終わりました。
 関係者には、ステージより一足先に結果が伝えられます。
 控室では私を含め関係者が静かに、固唾を呑んで待っています。
 係員が入ってきました。

「発表します。第35回全日本アイドルグランプリ優勝は―」



「矢澤にこさんです」



 周囲がざわつきました。
 前回大敗のアイドルが新人プロデューサーとのコンビで、引退戦優勝なのですから。
 私は自然と明るい表情になりました。
「にこちゃん、おめでとう」って。

「矢澤にこさんをプロデュースされた高坂穂乃果さん。優勝おめでとうございます」

 係員が述べると、関係者から祝福の拍手が送られました。
「GP優勝こそプロデューサー最大の目標と栄誉」と言われるほど、GPはプロデューサーにとっても別格です。
 私は2年目にして、その目標と栄誉に到達したプロデューサーになったのです。
 そうはいっても、正直実感が湧きませんが…。

「では高坂さん、ステージに立っていただきますので別室で着替えてください」

 別室には、私に不釣り合いなほど上品なドレス。馬子にも衣装、でしょうか。
メイクアップ中、モニターにはステージの様子が映し出されていました。

「第35回全日本アイドルグランプリ優勝は…矢澤にこさんです!」

 その宣言で沸き起こる大歓声に続き―

…ニー!

ニコニー!

ニコニー! ニコニー!

ニコニー! ニコニー! ニコニー!

 歓声が、観客1万人の「ニコニー」コールに変わりました。
 にこちゃんの、最後のステージを見るために来た観客も多かったからでしょう。
 それでも、タイトル戦で1組のアイドルに観客全員がコールするのは前代未聞です。
 敗れたアイドルのファンが、勝ったアイドルにコールしているのですから。
 この光景は、ファンはもちろんのこと「衰えた、限界だ」と言った人でさえも、にこちゃんの優勝を喜び、別れを惜しんでいるようでした。



「コンビを組んだのは高坂プロデューサーでしたが、いかがでしたか?」

「穂乃果は…私を2回もタイトル優勝に導いてくれた、素晴らしいプロデューサーです。今すぐにでも、お礼を言いたいです」

「では、今ここでお礼を言ってもらいましょう!」

 にこちゃんのインタビュー中に私が上手から入場すると、拍手で歓迎されました。

「こちらが、矢澤にこさんを優勝に導いた、高坂穂乃果プロデューサーです!」

 私が一礼すると、再び拍手が起こりました。

「少々高坂プロデューサーにもお話を伺います。今のお気持ちは」

「にこちゃんのプロデュースを引き受けたときは、プレッシャーもありました。でも、にこちゃんを優勝で引退させることができて嬉しいです」

「わずか2年目でGP制覇です」

 事実私は、アイドルを日本一に導いたプロデューサーとなりました。
 でも、私がここにいる為にはどうしても必要な人がいます。
 本来表に出ない私が、今このステージに立てた理由はただ一つ―

「にこちゃんがファンの期待に応えた、おかげです。お礼を、言いたいのは…私の方です」

 私は優勝したんじゃない。アイドルの優勝をおすそ分けしてもらっているだけ。
 でも、それが自分のことのように嬉しくて…。
 もう、我慢できませんでした。ここで私は泣き出してしまいました。

「それでは、まず高坂プロデューサーから矢澤にこさんにお礼を言っていただきましょう」

 司会者に促されて、にこちゃんの方を向き、泣きながらお礼を言いました。

「にこちゃんは、引退しても、永遠に大銀河宇宙No.1アイドルです。優勝、おめでとうございます。そして、私に、プロデュースを担当させてくれて…ありがとうございました!」

 にこちゃんも、すでに涙を流していました。

「お待たせしました、矢澤にこさん。高坂プロデューサーに感謝の言葉をどうぞ」

「穂乃果は…間違いなく世界No.1プロデューサーです。でも、いつか、大銀河宇宙No.1プロデューサーに、なれます。私を、優勝させてくれて…ありがとうございました!」

 そう言い終わると、お互いに抱きしめあってぼろぼろ泣きました。

ニコニー! ホノカ! ニコニー! ホノカ!

「ニコニー」の他に「ホノカ」コールも起こりました。
 正面を向くと、にこちゃんは私の右手を取り、天に掲げました。
 観客の声援に応えつつ、私のことをアピールしてくれました。

 このGPは「アイドル史上に残る伝説」になりました。
 大銀河宇宙No.1アイドル矢澤にこが、不調から奇跡の復活で引退戦を優勝。
 その不調に陥った矢澤にこを復活させた、天才プロデューサーの手腕。
 そして、誰のファンも関係なく、観客全員が「ニコニー・ホノカ」コール。

 この一戦で私は「本物の天才プロデューサー」と言われるようになりました。
 アンチも急減し、「優勝させてくれてありがとう」というコメントがネットに溢れました。
 それだけ、にこちゃんは素晴らしいアイドルでした。
 何より、私はプロデューサーとしての責任と自信を再び実感しました。

 翌年3月、にこちゃんの引退ライブが行われました。そのプロデューサーは、私。
 ライブは大成功に終わり、にこちゃんは宇宙No.1アイドルのまま引退しました。



「GPから半年経った今だから言えるんだけど…」

「なあに?」

「私のマネジャーが、”GPは穂乃果に依頼しよう”って思ってたみたい」

「え?」

「”天才”だしμ’sの頃を知ってるから、復活させられるのは穂乃果しかいない、ってね」

「そうだったんだ…」

「そしてあのとき、不安でいっぱいだった私の心を、穂乃果は見抜いた」

「…うん」

「それだけなら他のプロデューサーでもできるけど、私を叱れるのはいないでしょうね」

「そうかな?」

「トップアイドルの私相手に強く叱れるプロデューサーは、穂乃果くらいよ」

「だって、あんなにこちゃんを、ステージに出せなかったから…」

「そうよね…。それにファンが、みんなが離れてまた1人になるかもしれないと思った」

「そんなことを…」

「でも穂乃果がいてくれた。もう1人じゃないって思えて、嬉しかった」

「にこちゃん…」

「だから…お願い。…私と、一緒に暮らしてほしい。もう私から離れないで?」

「…にこちゃん、ひどいよ…。断るわけないのに…」

「もう、ここで泣くなんて…」

「それだけ嬉しいんだよ…にこちゃん、大好き」

「私も大好きよ、穂乃果」



 私の名前は高坂穂乃果。
 職業、アイドルのプロデューサー。
 宇宙No.1アイドルの教えを受け継いで、今日もアイドルとその卵の為に頑張ります。
「プロデューサーの高坂穂乃果です。これからよろしくね!」





あとがき
矢澤にこさんは競走馬オグリキャップ、高坂穂乃果さんは武豊騎手がモデルです。
ただ、武騎手のエピソードが少ない上に、穂乃果さんが天才すぎましたかね…。
ありがとうございました。(了)
スポンサーリンク

シェアする

フォローする

『高坂穂乃果のプロデューサー奮闘記』へのコメント

コメントの投稿には初回のみDisqusへのアカウント登録が必要です。Disqusの登録、利用方法を参考に登録をお願いします。
表示の不具合、カテゴリーに関する事等はSS!ラブライブ!Disqusチャンネルにてご報告下さい。