大好きだったら大丈夫

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雪穂-アイキャッチ5

「雪穂ー、これ追加のほむまんねー」
「はーい、並べとくね」

 今日は私もお姉ちゃんも午後の講義がないから二人で店番。
 ……というかお父さんとお母さんは海未ちゃんのご両親とお出かけなので閉めてもよかったんだけど。
 お姉ちゃんが作ったものも最近は商品として出せるようになった(ただし種類は少ない)から一応営業中。
 とはいえ……

「今日は暇だなー……」

 平日の午後とは言え普段以上に客足が少ない。
 さすがにもう何年も経ったからお姉ちゃん目当てに来る人も少なくなったし。

pixiv: 大好きだったら大丈夫 by 桃桜

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「今日は雪穂目当ての人も来ないんだね」
「それお姉ちゃんに言われると結構凹むからやめてよー……」
「またまたー。去年は私より雪穂目当ての人の方が多かったよ」
「そりゃさすがに去年は……」

 花陽ちゃんの後を継いでアイドル研究部部長として出場した最後のラブライブ。
 優勝……は出来なかったけど一応二位という結果を残せた。
 嬉しさと、ちょっとの悔しさ。
 そして……と、考えに沈みそうになった所で入り口が開く。
 緊張の所為か少し息を弾ませて髪の長い少女がやってきた。

「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー!」

 こちらの挨拶に軽く頭を下げながら入ってきたのは、一目でわかるオトノキの生徒。
 リボンの色を見るに一年生か。それだと私が卒業してから入った子だし面識はない。
 果たして私とお姉ちゃん、どっちのファンだろう……なんて考えたけど。
 結論から言えばそのどちらでもなかった。
 うん、自意識過剰でした。

「ご、ごめんなさい。私ピアノと……ドンにしか興味がなくて。お二人のこともその、知らないんです」

 後半なんて言ったか聞き取れなかったけど、オトノキの生徒にしては珍しくスクールアイドルに興味がないらしい。
 
「こちらこそ。緊張してたみたいだから早とちりしちゃって……」
「私……犬が苦手で」
「あー……向かいの子ですね」
「分かる分かる。私もピーマンが苦手で……」
「は、はぁ……」

 お姉ちゃんが全然分かってないことを言ってお客さんを困惑させてしまった。

「すいません、気にしないで下さい。ご注文はいかがなさいますか?」
「え、と……お世話になった人に渡す詰め合わせみたいなのを」
「それだと日持ちするものの方が……」

 と、注文を受けているとお姉ちゃんが不意に変なことを言い出す。
 まぁ……いつも通りなんだけどね、変なのが。

「ね、時間あるならちょっと私たちとお話しない?」
「……はい?」
「お茶入れてくるねー」
「え、あの……」

 お姉ちゃんが……自分からお茶を入れに行った、だと?
 と、お客さんとは別の理由で一瞬フリーズしてしまう。
 けどどうにか立ち直りフォローしておく。

「あんなんだけど元生徒会長だし、日本一のスクールアイドルのリーダーだったから……何か悩んでいることがあるなら話してみてもいいかもしれないよ」

 一応私もオトノキOBだしね、と付け加えているとお茶とお菓子(多分失敗作)を持ってお姉ちゃんが戻ってきた。

「これ、形があれで出せないやつだけど味は大丈夫だから良かったら食べて」
「証拠隠滅して失敗をお父さんに隠そうとしてない?」
「や、やだなー……試食だよ、試食」

 言いながら飲食スペースに半ば強引に連れて行き一緒に座る。

「あなたの名前、教えてくれる?」
「あ、桜内、梨子です……」
「私は高坂穂乃果。で、こっちが妹の雪穂。なんだったら美人看板娘姉妹とでも呼んでくれたらいいよ」
「呼ばなくていいから」
 
 しょうもないことで笑いを取ったからか梨子ちゃんも少しだけ力を抜いてくれた。

「私……悩んでるように見えましたか?」
「まぁ勘、なんとなくって感じだけど。昔友達が悩んでるのに気づけなかったことがあったからちょっと過敏になっちゃったと言うか……」

 ことりちゃんが留学するかもって時のこと、かな。

「何も無いならただの試食ってことで良いし。……どうかな?」

 それ以上は何も言わず、少しの間無言が続く。
 一口だけお菓子を食べて、ゆっくりお茶で流し込んだ後梨子ちゃんは話し始めた。

「さっきピアノをやってるって言いましたけど……弾けなくなったんです」
「……怪我とか?」
「そういうのじゃなくて……精神的なものだと思います」
「何か心当たりはあるの?」
「夏にあったコンクール……『海に還るもの』っていう初めて自分で作った曲だったんですけど失敗どころか弾くこともできなくて。最近は伸び悩んでいたのもあったけどそれからは鍵盤に触るのも気軽に出来なくなっちゃって」

 それで親やピアノの先生と相談した結果環境を変えてみようということになり、新学期から引っ越すことになって……
 今日うちに来たのもそのピアノの先生に今までのお礼の品として渡す為のものを探しに、とのことだった。

「ピアノ、楽しくなくなった?」
「……はい」

 いきなり初対面の相手の相談にのろうなんて勢いばっかり……と思っていたけど。
 やさしく先を促すお姉ちゃんの顔を見ていたら気にならなくなる。
 こういう顔をした時のお姉ちゃんは頼りになるって私は誰よりも分かっているから。

「こんなんじゃ、あの人に追いつけないのに……」
「あの人って?」
「あ、その……昔、一度見ただけの人なんですけど」

 梨子ちゃんが小学生で始めてコンクールに出た時、中学生の部で優勝していた人に憧れているのだとか。

「ただ、その人が高校生になってからは一度もコンクールに出てこなくて……引越しでもしたのか、ピアノをやめちゃったのか」
「そっか……」
「情熱的な赤い髪……」

 あれ?赤い髪って、いや、まさかね……

「それで確か、病院の跡取りだとか……」

 あー、多分よく知ってる人だー。

「あんな人にカベドンされたら素敵なんだけど」
「カベドン?」
「なんでもないです!忘れてください!」
「う、うん……」
「あの何も寄せ付けないクールな眼差し、まさに高嶺の花というか」
「……高嶺のFlower」
「ぶふぅ……!?」

 お姉ちゃんの不意打ちに思わず噴出してしまう。

「ど、どうしたんですか?」
「なんでもないからなんともないからなんでもなんともないから!ちょっとお茶でむせちゃっただけ!」

 まぁ実際……ずっと凛ちゃんと花陽ちゃんに囲まれてたのもあって卒業するころには大分丸くなったと言うか。
 高三時点でもサンタを信じているとか……高嶺の花と言う感じはすっかりなくなってしまったかも。

「……その人はピアノや音楽をやめたわけじゃないよ。ちょっと表現の仕方が変わっただけ」
「知ってるんですか?」

 お姉ちゃんはその質問には答えず、逆に質問を返す。

「さっき楽しくなくなったって言ったけど……ピアノのこと嫌いになった?」
「……嫌いには、なれません。やっぱり好きなんです」

 好きだから、弾けない自分が嫌になるんだ、と。

「そっか。なら、大丈夫だよ」
「え?」
「大好きだったら大丈夫」

 何簡単に言ってるの、と思ったけどお姉ちゃんの眼差しはどこまでも優しくて。
 それ見た私も、梨子ちゃんもその言葉を信じてしまいたくなる。

「自分が変われないなら環境を変えてみるっていうのは悪くないと思うよ」
「でも、逃げてるみたいで」
「……そこで何かが始まるかもしれない」

 それに、と。

「もし引っ越した先に海があったら、海と向き合ってみるのもいいんじゃない?」
「海と、向き合う……」
「うん。海を見たり、波の音を聞いたり、潮の香りを感じてみたり……いっそのこと海の中に入ってみるとか!」

 いやいや、まだ三月だよ。と思ったけどまぁ梨子ちゃんもさすがにそこまではしない……よね?
 そして。

「色々聞いてもらって、ありがとうございます」
「いえいえ、うちの姉が強引でむしろ申し訳ないです……」
「少しだけ楽になった気がします。東京に戻ってくることがあったらまた来ますね」

 梨子ちゃんは大分おまけした詰め合わせを買って店を後にする。
 その背中に……いつもの声援を受けて。

「ファイトだよっ!」





 季節が巡り、夏。

「雪穂ーっ!」

 夏休みと言うことで普段何もなければ昼まで惰眠をむさぼっているお姉ちゃんが珍しく午前中に動き出していた。
 それはそれで騒がしいんだけどね。

「もう、朝から何?」
「これ見て、これ!」

 手にしていたノートパソコンに映っているのは……今年のラブライブの動画っぽいけど。

「昨日にこちゃんと花陽ちゃんから教えてもらった今年一押しのスクールアイドル……」
「あの二人が言うなら相当だね……」

 でもわざわざ慌てて私に見せに来る必要はないんじゃ、と思いつつ動画を再生する。

「東海地区予選、浦の星女学院スクールアイドルAqours……?」

 そう言えば何か厳重注意を受けたスクールアイドルが居るって話だったけど……

『今日は皆さんに伝えたいことがあります!』

 アピールタイムを使ってミュージカル風に街と学校の紹介が始まった。
 きっかけはμ's……これはそう珍しいことじゃない。

『そう、作曲が出来なければ……ラブライブには出られません!』

 これは本当にハードル高いよね……
 真姫ちゃんが居なかったら私と亜里沙は最初から躓いてたと思うし。

『そんな時、作曲の出来る少女梨子ちゃんが転校して来たのです!』

 ん?

『東京から来た梨子ちゃんは最初はスクールアイドルに興味がなかった。東京でつらいことがあったから』
『でも』
『輝きたい!』
『その想いは、梨子ちゃんの中にもあった』

 こ、この子は……とお姉ちゃんの方を見ると静かに頷く。
 Aqoursのパフォーマンスは確かに厳重注意を受けても仕方が無いものではあったけど。
 みんなと一緒に楽しむと言うそれは、勝ち負けに偏重しがちな昨今のスクールアイドル像に一石を投じるものだった。
 これは……うちの後輩(CV:水瀬いのり)に強力なライバル出現かも。
 
「お姉ちゃんが言った通り、何かが始まったんだね……」
「そう思うでしょ?でもそれだけじゃないんだなー」

 何かにやにやしながら、別の動画を見せてくる。

「こっちは予備予選の動画?……梨子ちゃん居ないね」

 さっきの紹介の時から考えれば梨子ちゃんは初期メンバーのはずだけど……

「この時梨子ちゃんは同じ日にあったピアノのコンクールに出てたんだって」
「ピアノ?」
「真姫ちゃんに調べてもらったら……ほら」

 動画はそのままに今度はスマホでピアノのコンクールの結果発表のページを見せてくれた。

「優勝……浦の星女学院、桜内梨子」

 そっか……弾けるようになったんだ。

「応援しないとね」
「それはそうだけど……うちの後輩も応援しないとだし」
「両方応援しよう!梨子ちゃんだって元後輩だし」

 簡単にそう言えるのはお姉ちゃんらしいけど。
 投票する時はまた頭を悩ませそう……ま、それは決勝のパフォーマンスを見てから決めることだけどね。

「……決勝の時、うちに寄ってくれるかな」






「できたーっ!」
「これが私たちの、私たちだけの曲……」

 千歌ちゃんと曜ちゃんと共にハイタッチして曲の完成を祝福する。
 スクールアイドルとしての私たち三人の初めての共同作業。
 曜ちゃんが衣装を。
 千歌ちゃんが作詞を。
 そして私が作曲をした、この曲……あれ?

「千歌ちゃん、この曲のタイトルは?」
「え?」

 グループ名といいどうしてこう、ネーミングせずに先に進んでしまうんだろう……

「うーん、歌詞から印象的な言葉を抜き出してみる?」

 曜ちゃんの提案で歌詞を見ながら色々考えてみるんだけど……

「『キラリ!』とか」
「それはスクールアイドルじゃなくて超時空シンデレラだよ」

 超時空……?何のネタなんだろう。

「やっぱりサビからの方がいいよね」
「『ダイスキがあればダイジョウブさ!』……?」

 千歌ちゃんのそのフレーズを聞いた瞬間。
 あの時の言葉を思い出した。

「大好きだったら大丈夫……」
「それいい!」
「ちょっと歌詞と違うけど……うん、いいと思う!」

 二人も賛成してくれて、曲のタイトルは『ダイスキだったらダイジョウブ!』に決まった。
 ふふっ、あの美人看板娘姉妹に感謝しなきゃ……
 ちなみに、その姉妹がすごいスクールアイドルだと気づいたのは……大分先のことで。
 千歌ちゃんやダイヤさんにすごく羨ましがられたのはまた別の話。
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