梨子(ルビィちゃん……、やっぱり可愛いなぁ)

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梨子-アイキャッチ18
1: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 04:40:47.27 ID:tbeSUpeE.net
 学校の帰り道。
 電柱の陰に身を潜めて、こそこそと桜内梨子は、赤毛の少女の後を追い掛けていた。

「~~♪」

 ハミングで気分を盛り上げながらとてとてと可愛らしい擬音が付きそうな足取りで歩くその少女の名前は、黒澤ルビィ。
 その幼い外見からは想像もできないが、これでもれっきとした高校生である。

(うん、今日も一日ルビィちゃんは可愛い)

 まじまじと熱視線を送るが、ルビィは全く気付く様子がない。
 この子は少し鈍い……、というよりはとても警戒心が薄い。

(ま、そういう無警戒なところも可愛いけど……)

 そんなことを思いながら、こそこそと後を追っていると、不意にちょんちょんと肩を叩かれた。

「ん?」

 振り向くと、そこには黒髪の先輩が鬼神の如き形相で立っていた。

「またですか、あなたは! 本当いい加減にしなさいな!」

 このひとは黒澤ダイヤ。桜内梨子の将来の義姉になる予定の女性である。

「お義姉さん……」

「誰が義姉さんですか!」
 






 

元スレ: 梨子(ルビィちゃん……、やっぱり可愛いなぁ)

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2: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 05:09:29.18 ID:tbeSUpeE.net
「あ、ごめんなさい。……えっと、それじゃ……ダイヤお義姉ちゃん?」

「呼び方が問題というわけではありません! そもそも私があなたの義姉だなんて、認めるわけないでしょう」

 相変わらず妹のことになると口やかましい。
 梨子がルビィと結ばれる為には最大の障害になるだろう。

「えー、どうしてですか?」

 
4: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 05:18:53.21 ID:tbeSUpeE.net
「どうしてもです! 大体、あなたはいつもいつもーーー」

「あ、ダイヤさん、ルビィちゃん行っちゃうから少し歩きながらで」

 ぴきっとダイヤの額に青筋が走る。

「いい加減にしなさい!」

 ごすっと梨子の後頭部に、花丸直伝のチョップが落ちた。

「痛っ……! 」

 その場に蹲り、少し目を潤ませながらダイヤを睨む。

「ぼ、暴力は、だめ!」

「ええ、そうですね。でも、ストーカー行為はもっとダメです」

「す、ストー……!? 私のこれはただ見守ってるだけです!」

 心外だ、と言いたげに抗議の声を上げるが、その言は大多数のストーカーと大差ないことに彼女は気が付かない。
6: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 05:36:40.94 ID:tbeSUpeE.net
「さっきの義姉がどうこうということを本気にするわけではありませんが、こんなことばかりしてるとあの子に本当に嫌われてしまいますよ」

 呆れ混じりにそう言うダイヤに、梨子はごにょごにょと口篭りながらも答える。

「……だって、今まで誰かをこんなにも想ったことなかったですし……、その……、どうすればいいのか、分からないんです……」

「どうすれば……って普通にアタックすればいいのでは?」

 やれやれと肩を竦めて、梨子は言う。

「その普通が分かれば苦労しません」

 ごすっと再び花丸直伝のチョップが落ちた。

「ぅぅ……、暴力はんたい」

「暴力ではありません。ただの制裁です」

 ぱんぱんと手を擦るように叩き、ダイヤは深い息を吐く。

「とはいえ、このままではAqoursの活動にも支障をきたす可能性があるので、少しだけ協力してさしあげます」

 ぱぁーと梨子の顔が一瞬で喜悦に染まる。

「お、お義姉さん……!」

「調子に乗らないでください。それはまだ認めてません」




 
8: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 05:54:25.56 ID:tbeSUpeE.net
 ーーー近くの喫茶店。
 その一角の小さなテーブルの席に梨子たち『三人』は座っていた。
 三人というのは、ダイヤが気を利かせてかルビィの手を取って、ここまで連れてきたからだ。

(な、何を話せばいいのかな)

 梨子の右隣に座るルビィは、可愛らしい笑顔で、姉の奢りのプリンにスプーンを通しては、それを口に運んでいた。

「んんー! おいひい」

 スプーンを咥えたまま恍惚な表情で震えるルビィのその姿に、ダメだとは分かっていても、いけない妄想が膨らんでしまう。
 すると、そんな彼女の内心を察したのか左隣に座ったダイヤが、テーブルの下にある梨子の爪先を思い切り踏み付けた。

「いっ……!!」

 たぁ、という声が口に出るよりも早く左の耳にダイヤの吐息が触れた。

「変なことを考えてる場合ではないでしょう。もう少しルビィと会話を含ませなさい」

「ひっ!」

 耳に触れた生暖かい吐息のせいで、その言葉が耳に入ってこない。
 
(さ、流石ルビィちゃんのお姉ちゃんだけある……、距離感が……ち、近い)

 
10: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 06:14:34.71 ID:tbeSUpeE.net
 悶える梨子の姿に、ダイヤは訝しに眉根を細めた。

「梨子さん、真面目にやってくださらないと、私も協力はできませんよ」

 ダイヤが耳元で囁くせいなのだが、自覚のない彼女にしてみれば、ふざけてるようにしか見えないのだろう。

 そして、そんな梨子の姿に、ルビィも小首を傾げる。

「あの、梨子さん。どうかしました?」

 小動物を思わせるような愛くるしさのせいで、抱き締めたくなるような強い衝動が湧き上がるが、ここでそれに身を委ねたら左隣のひとからまた鉄拳(チョップだが)制裁が下るだろう。
 
 だからその衝動を堪えながらも梨子は答える。

「な、なんでもない……かな」

 ようやく捻り出した言葉だが、左隣の彼女がそれには納得してないようで、

「もっと何かあるでしょう。お話を広げなさい」

 などと言っていた。
 ダイヤにしてみれば、梨子の本心をルビィに訊かれないようにという配慮のつもりなのだろうが、もう少し配慮の仕方を考えて欲しいとは思う。

「あ、あの、ダイヤさん……、少し、近いです」

 ぼそぼそとそう言うと、ダイヤは「あっ」とそのことに気が付いた。

「ご、ごめんなさい」

 ダイヤは慌てて離れて、まだあまり減ってない買ったばかりの飲み物のストローに口を付ける。
 
11: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 06:29:57.52 ID:tbeSUpeE.net
 ぱくぱくとプリンを口に運ぶルビィと、照れを隠すようにドリンクを飲み続けるダイヤ。
 そんな二人の間に挟まれるように座ってるせいか、とても肩身が狭い。

(き、きまずい)

 いや、想い人とその姉に囲まれてるようなこの状況で、そう思うのは至極当然のことかもしれない。
 とはいえ、このままではいけないような気もするので、梨子はダイヤの助言通りにもっと会話することを目指して、それの糸口を見出す為に、ちらちらと隣に座るルビィの姿を盗み見る。

(うん、やっぱり可愛い)

 ……ってそういうことではない。
 ルビィが可愛いのは、周知の事実だろう。
 今、確認するべきなのはそこではない。
 趣味や好きなものを考察できて、なおかつ会話に発展できるようなものを探すことだ。

「あ、あの、ルビィちゃん……」

 少し躊躇いがちに声を掛ける梨子に、ルビィは「なぁに?」と首を傾げる。
13: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 06:39:05.85 ID:tbeSUpeE.net
 梨子な息を吸い込み、呼吸を整えて、覚悟を決める。

「や、やっぱりプリンとか好きなの?」

「うん、好きだよ」

「あ、そうなんだ」

「うん」

 ……会話が終わった。
 いや、これは会話と捉えてもいいべきなのか。
 だが、当の本人は。
 
(は、話せた……)

 大いに満足していた。
 その様にダイヤは呆れを通り越して、もはや憐れみすらも抱いていた。

(もう少し、ルビィとの距離を詰める為に協力してさしあげましょう……)
16: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 07:05:32.20 ID:tbeSUpeE.net
 その後、プリンを食べ終えたルビィを先に帰すと、ダイヤは梨子の正面の席に移動した。
 
「梨子さん、折角、私のお財布にダメージを与えてまであの子を釣ってきたのに……、全く本当ぶっぶーですわ」

「ごめんなさい……」

 梨子はダイヤの言葉に項垂れる。

「とりあえず、人並み程度にはルビィと仲良くなってもらいます」

 『人並み程度』の部分を強調しながら言うが、それに「えーっ、恋人以上になりたいです」と不満の声を上げる梨子を「お黙りなさい」と一喝する。

 あまりの迫力に一瞬ぴたっと店中の会話そのものが止まったが、それにもどうやら彼女は気が付かないようだ。
 ダイヤは興奮すると周りが見えなくなることがある、と前に先輩達が言っていたことを思い出した。

「いいですか、私が認めるのは、健全な交際だけです」

「健全な交際がいいなら恋人でも問題は……」

「大ありに決まってるでしょう! 高校生の内の恋仲は不健全です。いや、それ以前に女の子同士なんですから、少しは考えなさい」
25: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 07:12:18.86 ID:tbeSUpeE.net
寝ます
この先は下5までに多かった方にします

りこ×るび
りこ×るびだい
26: 名無しで叶える物語(わたあめ)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 07:14:56.18 ID:J5Rh/Mfp.net
りこるび
27: 名無しで叶える物語(地図に無い島)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 07:15:13.09 ID:jyvu389p.net
りこるびだい
28: 名無しで叶える物語(きびだんご)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 07:20:15.10 ID:FvkfC/kP.net
りこるび
29: 名無しで叶える物語(秋と紅葉の楼閣)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 07:23:34.05 ID:Jicq5Yoa.net
りこるび
30: 名無しで叶える物語(ぎょうざ)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 07:29:51.85 ID:ryxDYSo9.net
りこるび
43: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 17:40:08.38 ID:tbeSUpeE.net
「分かりました」

 健全な交際とやらがどこまでのことを指してるのかまではよく分からないが、とりあえず納得を示しておく。
 
「よろしい。それでは作戦会議を始めますよ」

「はい、頑張ります」

 巷で流行りのゾイのポーズで答え、梨子はテーブルの上に全体がピンクで彩られた女の子特有の可愛らしいノートを開く。

「いや、別にメモを取る必要は」

「折角、お義姉さ……、ごほん……、ダイヤさんが協力してくれるんだから私も最善は尽くしたいので」

 何気に真面目な子だ。
 
(いや、その真面目な性格が災いして、ストーカー行為をすることになったんでしょうね)

 ダイヤは溜息をつく。
 
「まずはあの子と仲良くなるところから始めないといけませんね。梨子さん、今あなたが一番仲の良い後輩は誰ですか?」

 その質問の意味も意図も分からないが、とりあえず答える。

「多分……、よっちゃんかな」

 よっちゃん、というのは津島善子のことだ。
 
「そうですか……、それでは当面の目標はその善子さんと同じくらい仲良しになることですね」

「えっと……、それは良いですけど、そのためにはどうすればいいんですか?」

 その疑問は最もだろう。
 さっきルビィと同じテーブルに付いて、軽く言葉を交わしただけであれだけ緊張したのに、それを休日によく遊ぶ善子レベルまで仲の良さを引き上げるとなると梨子一人ではなかなか難しいものがある。



 

 
44: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 17:57:07.78 ID:tbeSUpeE.net
「心配無用ですわ! その為に私がいます」

「あの、随分と自信があるみたいだけど、本当に大丈夫ですか?」

 梨子の訝しげな視線を受け流しながら、ダイヤは言う。

「当然。私ほどルビィのことを深く知ってる人間はいません」

 自信満々だ。
 どうやらこれは信用できそうだ。

「お義姉さん……」

「誰がお義姉さんですか……!」

 がつんと一発食らった。

 その後、小一時間話し合い、その日は作戦会議を終わらせた。
 とりあえず有意義な時間だったと梨子は思う。
 ダイヤのおかげで色々と情報を得ることができて、それを元に仲良くなる為の作戦を立てることもできた。
 それを実行するのは、翌日。
 今から待ち遠しい。
45: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/03(金) 19:33:01.01 ID:tbeSUpeE.net
 翌日。
 早速、梨子は作戦実行の為に動き出していた。
 ひょこりと一年生の教室に顔を覗かせて、仲睦まじく会話する後輩達の姿を遠巻きに眺める。

「すぅ……はぁ……」

 とくんとくんと心臓の鼓動が早くなる。
 仲良くなる為には同じ時間を共有することですわーーーなどとダイヤは言っていた。
 そして、その為に先ずは昼食を共にするのがいいとも彼女は言っていた。
 その助言に従って、梨子は一年生の教室までやってきた。

(ど、どうやって誘えば……)
 
 こそこそと相変わらず姿を見る隠しながらも三人の様子を伺う。
 そんな梨子の姿に気付いたのか、窓際で黄昏ていた善子が「リリー、どうしたの?」と近寄ってくる。

「あ、よっちゃん……、えっと……、ルビィちゃんは……」

「……? ルビィならあそこにいるけど」

 自分の席で大人しく読書に耽ってるルビィを指差して、言う。

「呼んでくる?」

「う、うん、 ……おねがい」
61: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/04(土) 22:57:25.85 ID:hUfO3Sxz.net
 善子は梨子の元を離れて、読書の最中のルビィの方に向かう。
 
「ルビィ……、ちょっといい? リリーが呼んでる」

「?」

 ルビィは小首を傾げて、ぱたんと本を閉じる。

「善子ちゃん、ありがと」

 がたっと席を立ち、ルビィは小走りで梨子の前に来る。
 その姿を見送った後、善子は花丸の席に行った。

「あの……、梨子ちゃん……? どうかしたの?」

 梨子が一年生の教室に来ることはあまりない。
 たまに来ることがあっても、そのほとんどが善子への用事ばかりだ。
 だから、こうして自分が呼ばれたその理由が何なのか。
 ルビィには分からなかった。

「そ、その……、いきなりごめんね」

 だんだん早くなる心音を悟られないように、梨子は息を咬み殺すように平静を保つ。

「きょ、今日の……、お昼……一緒に」

 少しでも気を抜いたら、緊張のあまり腰が砕けてしまいそうだ。

「食べない?」

 何とか絞り出したその言葉に、ルビィは、

「うん、いいよ」
 
 と、軽く答えた
62: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/04(土) 23:20:47.98 ID:hUfO3Sxz.net
「ーーーそれで、どうして私まで一緒に食べることに……?」

 昼。ルビィを引き連れた梨子は、流石に二人きりだと緊張するということでダイヤも混ぜて、三人で昼食を取ることにした。
 
「まだ二人きりだと緊張するので……、それにこの作戦の立案人はダイヤさんですよね」

「はぁ……、全くもう……、次は二人きりで頑張るんですのよ」

「わ、分かってます」

 言いながら梨子は、いつものように朝早くに起きてから作ったサンドイッチを机の上に広げた。
 具材はタマゴやハム、レタスなどのシンプルなものから、フルーツ入りのものまで色々ある。

「わぁ、おいしそう」

 ぴょこんとルビィが梨子のサンドイッチに反応を示し、

(き、きた)

 それに心の中で小さなガッツポーズをする。

「る、ルビィちゃんも……食べる?」

「えっ、いいんですか!?」

 ルビィの顔に満面の笑顔が咲いた。
 
74: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/06(月) 05:22:09.18 ID:h7yMmkaT.net
「どうぞ」

 サンドイッチを詰めた容器を差し出し、その内の一つをルビィは手に取った。

「ありがとうございます」

 お礼を言い、ルビィはサンドイッチを一口齧り、もぐもぐと咀嚼する。
 流石に育ちがいいだけはあって、東京の女子高生にはほとんど見られないような綺麗な食べ方だ。

(ルビィちゃんが……、私の作ったサンドイッチを食べてる……、なんか……、こういうのもいいな……)

 微かに頬を染めながら梨子もサンドイッチを食す。
 
 咀嚼を終えて、ごくりと口の中のものを喉奥まで流し込んだルビィは、ようやく口を開いた。

「梨子さん、これすっごく美味しいです!」

「そっか……、うん……よかった」

 ほっと息を吐くと梨子はサンドイッチの容器をダイヤの元に寄せる。

「ダイヤさんも、食べませんか?」

「……私もよろしいんですの?」

「勿論です」

「なら私もいただきます」

 ダイヤは箸を置き、サンドイッチに手を伸ばす。
 すると、それに同調するようにルビィもまた「じゃあルビィも、もういっこもらうね♡」とサンドイッチに手を伸ばした。

 好評だったようだ。
 多めに作ってきて正解だった。
75: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/06(月) 05:40:20.87 ID:h7yMmkaT.net
「ご馳走さまでした」

 昼食を終えて、それぞれが弁当の片付けに入る。
 最初はどうなるかと思っていたが、結果としてはルビィとも仲良くなれたし、とても有意義な時間になった。
 梨子はそう思っていた。

 だが、ダイヤはそうは思ってはいなかった。
 5時限目に体育があるからと片付けを終え次第、足早に戻っていったルビィの小さな背中を見送り、ダイヤは呆れたように言う。

「結局、それは出さなかったようですね。全く……、好意は伝えなければ何も始まらないというのに」

 それ、と言うのは、今梨子の鞄の中に入ってるもののことを指す。

「……その、なんというか……ごめんなさい。ただ、えっと……」

 鞄の中から一つの容器を取り出して、机の上に置いた。

「これを出すのは……、いかにもルビィちゃん狙ってますよ感が強くて……、恥ずかしかったんです」

 その中には銀紙に包まれたスイートポテトが並べられていた。

「そこまで気負う必要はないでしょう。『友達』にお菓子を差し入れするだけなのに」
 
 あくまで『友達』というところを強調しながらもダイヤは言う。



 
83: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/07(火) 03:30:05.30 ID:kb788xw8.net
「あの……なのでこれを」

 梨子が何かを言い終わるよりも早くダイヤは「却下」と一蹴する。
 梨子が言いたい事は手に取るように分かる。
 どうせ、このスイートポテトを後でルビィに渡してくれ、というようなお願いだろう。

「お、お願いします! わ、私じゃ恥ずかしくてルビィちゃんには渡せません。だからこれをルビィちゃんに……!」

 思った通りの内容に思わずダイヤは溜息を漏らす。

「だから、お友達にあげるみたいに渡せばいいでしょう。それくらいは自分でやりなさい」

「……」

 しゅんと落ち込む梨子に、根っからのお姉ちゃん気質のダイヤは僅かに胸を痛めた。

「と、とりあえず続きは放課後に話しましょうか。そろそろあなたのクラスも授業でしょう」

「……はい」

 気落ちしたままの梨子に、ダイヤは仕方なく、

「まあ、どうしても無理ならその時は私が私に行きます」

 そう口に出してしまった。
 すると、今までの落ち込み具合が嘘のように梨子の表情が明るくなった。

「あ、ありがとうございます!」

 ぺこりと頭を下げる梨子にダイヤは少し呆れ気味に、

(いや、どうしても無理なら、の話なのに……、無理前提ですのね)

 と思うのだった。
94: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/07(火) 17:35:08.81 ID:kb788xw8.net
 ダイヤと別れて、二年の教室に戻り、梨子は五時限目に必要な教科書等を机の上に置き、授業に備える。
 
「それでは授業を始める。日直、号令をーーー」

 担当教諭のその言葉に「はい!」と女生徒が立ち上がり、流れるように「起立、礼、着席」を終わらせる。

 五時限目の授業が始まった。
 皆、先生の教鞭に耳を傾け、それをノートに書き記す。
 流石に来年受験ということもあり、みんな真面目だ。
 だが、そんな中でも梨子は、シャーペンで手遊びをしながら別の思考に耽っていた。

(ルビィちゃんともっと仲良くなるには、どうしたらいいんだろ)

 ダイヤに言われた通り自分から動かなくては何も始まらない。
 そんなことは百も承知だが、それが出来ないからこそのこの悩みだ。
 どうしてもルビィの前に立つと緊張で思考が蕩けてしまう。

「はぁ……」

 思わず溜息をついた梨子の元にコツンとそれが落ちた。

「桜内ィ、ちゃんと聞いてるのか」

 それは先生の手の中にある丸まった教科書。
 授業に身が入らず、別の思考に耽っていたことがバレたのだろう。
 体罰問題に発展しない程度の威力で叩かれた。

「あ、ごめんなさい」

 怒られた梨子は慌てて、机に向き直る。その様子に「くすくす」と漏れ出た小さな笑声に、梨子は顔を赤めて、恥ずかしそうに背中を丸めた。

(い、今は授業に集中したほうがいいよね……)

 
95: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/07(火) 18:17:08.16 ID:kb788xw8.net
 ーーーなどと決意をしたのに結局集中することもできずに授業は終わった。

「りーこちゃん、どうしたの?」

 落ち込み、ぐでーっと机の中に顔を沈める梨子の背中に飛かかるように千歌が抱きついてきた。
 その隣には、曜もいる。
 
「千歌ちゃん……、それに曜ちゃんも……」

 二人は梨子と仲良しの女の子で、同じAqoursのメンバーだ。
 心配そうに梨子を見ている二人に「ちょっと考え事をしてて……、大丈夫だよ」と答えた。

「そっか、ならいいけど……、何か困ったことがあったら言ってね。私に出来ることなら何でもするから」

 そう言う千歌に、梨子は「ありがと」とだけ返した。

 優しい子たちだ。
 東京とは違って、一人一人との距離が近く、優しさに溢れている。
 いい場所に来たものだ、などと少し年寄り臭いことを思いながらも梨子は微笑む。

 

 
113: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/09(木) 23:49:39.31 ID:qrKsgOXS.net
 その日の放課後。
 いつものようにダンスの練習の為にAqoursのメンバーは屋上に集まっていた。そこには当然ルビィの姿もある。
 彼女のイメージカラーを示すピンクの軽装で、一年組だけで仲良く談笑している。

(いいな、私もあの中に混ざりたい……)

 そう思うけど、それを実行できるほどの勇気は梨子にない。
 そんな彼女の視線に気付いたのか、ルビィは天使のような笑顔で、ふるふると手を振ってくれた。

「っ!」

 思わず梨子は顔を下げた。
 とくとくと心臓の鼓動が激しく脈打つ。
 ただ、遠目で眺めてたことに気付かれただけで、この様だ。
 
「あっ……」

 一方のルビィは、手を振ったのに視線を逸らされたことが効いてるようだ。
 悲しそうな表情になっていた。

 そんな二人の姿を横目にダイヤは、

(梨子さん、まったくルビィを悲しませて……。何をやってるんですの)

 溜息をついた。
127: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/11(土) 18:40:20.20 ID:31FiFU5f.net
 ダイヤは梨子の側に寄り、その脇腹をつんつんと肘でつついた。

「ひゃっ……!!」

 いきなりのことに、梨子の反応は大きい。
 周りのメンバーの視線が、梨子の元に集まる。それを散らすように「なんでもない」と梨子は言い、直ぐに隣のダイヤの方を向く。

「だ、ダイヤさん、いきなりなにを」

 文句を言おうとするも、ダイヤの一瞥に黙殺された。

「梨子さん、今日はルビィと二人で帰路を共になさい」

「!?」

 いきなり二人きりで帰るなんてそんなのは……。

(無理…!)

 心臓がもたない。
 が、そんな梨子の逃げ道を塞ぐようにダイヤは、

「ルビィ、ちょっと来なさい」

「なーに、お姉ちゃん」

「今日は梨子さんと帰りなさい」

「!?」

 勝手に約束を取り付けていた。

「…梨子さんがいいなら」

 ちらっと視線を梨子に向けるルビィに、梨子は小さく首肯で応じた。
 これが精一杯の意思表示だ。
130: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/11(土) 22:53:50.82 ID:31FiFU5f.net
 練習も終わり、その日は解散になった。
 その帰り道、梨子とルビィは肩を並べて、帰路についていた。

「……」

 気まずい沈黙が二人の間に流れていた。
 既に日は落ちて、うっすらと街灯の微光だけが辺りを照らす。

「く、暗いね」

 梨子は気まずい空気をぶち壊すために、勇気を振り絞って話かけるも、


「えっと、そうですね」

「うん」

 すぐに会話が途切れた。
 再び気まずい静寂が戻ってくる。

「あ、あの、梨子さんは…、その、休日とかは何をしてるんですか」

 ルビィも話題を振るも、

「えっと、色々かな」

「そうですか」

 また静寂の中に引き戻された。
 どこかから「お見合いですか!」というツッコミが聞こえたような気がするが、多分ダイヤがどこかで様子を伺ってるのだろう。
134: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/11(土) 23:53:02.03 ID:31FiFU5f.net
 気まずい。
 梨子もだけど、ルビィも人懐っこい方ではない。
 あまり仲良くないひとを相手に、会話で盛り上がれるほどコミュニケーション能力も高くはない。
 勿論、仲良くなりたいとは思っているが、逆にその気持ちのせいで、空回ってしまう。
 ルビィは肩を落とし、しゅんとなる。
 そんな彼女の姿を視界の端に捉えると、それに呼応するように梨子の気分も沈んでいく。

(やっぱり私には…)

 そこまで思ったその時、自分の鞄がこつんと膝に当たった。

「…!」

 膝で叩いたときその中に、何か硬い感触を感じた。
 そこで梨子は、そのことを思い出した。
 ルビィに渡すために用意したものだ。

(これ…)

 ごくりと息を呑む。

(食べてもらいたい)

 梨子は思う。
 ただ、その気持ちとは裏腹に、体の方が全力でそれを拒んでいる。
 口が渇き、心臓が激しく脈動し、体に熱が灯り、息が荒立つ。
 
(でも…)

 怖い。
 もしもこれを渡して、気味悪がられたら……、そう思うと、怖くて一歩が踏み出せない。
 ダイヤは言った。
 友達にあげるように渡せばいいのでは、と。
 でも、それは無理だ。
 何故なら梨子にとってルビィは……。

「梨子さん?」

「ひゃい!」

 その声に梨子の肩がびくんとはねた。


 
 
 
142: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/12(日) 15:22:55.62 ID:0KS1qUn4.net
「大丈夫ですか?」

 心配そうなルビィの声。
 それに、こくりと頷く。
 言葉は出ない。
 そんな梨子の態度に、ルビィは足を止めた。

「えっと、ルビィちゃん…?」

 それに合わせて、梨子も立ち止まる。

「……」

 ルビィは俯き、その顔にはどこか翳りが帯びている。
 なんだか様子がおかしい。

「梨子さんは……、そんなにルビィのこと苦手ですか?」

「えっ」

 何かに堪えるようにスカートを握り、顔を伏せるルビィ。
 その手は僅かに震えていた。
 そこで、ようやく梨子は気が付いた。

(ああ、私は自分のことばっかり……、ダメだなぁ、私のほうがお姉さんなのに)
143: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/12(日) 15:32:28.71 ID:0KS1qUn4.net
 ルビィは仲良くなる為に何度も寄ってきてくれていた。
 昨日も喫茶店に来てくれたし、今日の昼の食事の誘いにも応じてくれた。
 放課後には少しでもコミュニケーションを取ろうと手を振ってくれたり、
 この今も練習で疲れてるのにわざわざ梨子に付き合ってくれている。

 自身人間関係が得意というわけでもないのに、頑張って距離を縮めようとしている。
 それなのに……。

 自分が苦しいからと梨子は、そんなルビィの想いを無碍にするようなことをしている。
 そのことに気が付いた梨子は、ゆっくりと鞄の中に手を入れる。

 怖い。体が拒絶する。
 怖い。脳が先延ばしを求める。
 怖い。心臓が悲鳴を上げる。

 だが、それを一息。梨子は飲み込んだ。

「る、ルビィちゃ……、これ!」

 そして、ついに至った。
144: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/12(日) 15:46:02.41 ID:0KS1qUn4.net
 スイートポテトの詰まった容器を差し出す梨子の手は震えていた。
 体が痙攣し、少しでも気を抜けばカチカチと歯が音を鳴らしてしまいそうだ。

「これ……、ルビィに……?」

 梨子は頷いた。

「う、うん……、ルビィちゃんに食べてもらいたくて…、その、作りました」

 怖くて、ルビィの顔を直視することができない。
 不安だ。
 もしも受け取ってもらえなかったら……、いや、この気持ちまでバレたら……。
 そう思うと不安で、とても怖い。
 だが、そんな彼女の恐怖を払拭するような、声が上がった。

「わあ! 梨子さん、ありがとうございます!! うれしいです」

 スイートポテトの容器を受け取り、それをルビィは胸に抱く。
 その声に梨子は、視線を揺らし、それを見た。
 そこには、ルビィの満面の笑顔が咲いていた、
 翳りは消えていた。
 その表情を視界の中心に置いた梨子は、

(……かわいい)

 と心底思う。
 
164: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/14(火) 17:05:15.42 ID:bb+boptW.net
 それから二人は色々とお話をした。
 好きなもの、嫌いなもの、休みの日はどうしてるのか。
 それ以外にも本当に他愛のないことまで。
 互いのことについて語りあった。
 最初こそ困惑の抜けきってない梨子だったけど、次第に緊張も解けて、だんだんと思考もクリアになっていく。
 もちろん体の変調までがなくなったわけではない。
 こうして話してる今も心臓がうるさいくらいに鳴いている。
 だが、少し慣れた。

 いや、慣れたというよりは、スイートポテトを渡すときのあれに比べればまだマシだから相対的に今の脈動が大した事ないように錯覚してるだけである。


「あ、梨子さん、ルビィはこっちの道なので」

 未だスイートポテトの容器を胸に抱えたままルビィは言う。
 ついにお別れの時間か。
 結局あっという間だったような気がする。

「その、梨子さん、これ、ありがとうございました」

「ううん、喜んでもらってうれしい」

「……」

 二人の間に沈黙が走る。
 だが、今度は先までの気まずいものとは違う。 
173: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/16(木) 01:42:03.63 ID:3MJVmcU/.net
 もう少し話を続けたいなという思いによって生じたものだ。
 破るのが惜しい、そんな沈黙。
 しかし、いつまでも二人、ここにいるわけにもいかない。
 だから…

「じゃあ、また明日ね…、ルビィちゃん」

 梨子は先に沈黙を破り、それにルビィも応じる。
 本心ではまだまだ一緒にいたい。
 折角、調子いいのにここで分かれるのはもったいない。
 でも、流石にそれは我侭だろう。
 梨子は次から次に沸いてくる欲を飲み込み、踵を返す―――
 その時だ。

「待ちなさい」

 その声が聞こえたのは。
 梨子とルビィは「え」と同時に振り向いた。
 そこには街灯の微光を避けるように闇夜を率いた少女―――ダイヤがいた。
 ダイヤは街灯の下まで歩いてくると、

「梨子さん、どうです? このまま今晩は泊まっていきませんか」

 そう言った。

 


 
184: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/17(金) 00:27:26.79 ID:F8px1mDh.net
 ルビィは暗闇から湧き出た姉の姿に一瞬だけ驚くが、すぐにそれに同調する。

「あの、ルビィもそれいいと思います。梨子さんがご迷惑でなければその…もう少し一緒に」

 恥ずかしいのかどんどん語気が弱々しくなる。
 迷惑なんてあるわけがない。
 むしろうれしい。
 だけど、本当にいいのだろうか。
 いきなりお邪魔して二人の親から迷惑に思わないだろうか。
 そんな後ろ向きな思考が梨子の脳裏を巡る。
 だが、それを悟ったのかダイヤは、

「今日は家に誰もいないので、夕食のお手伝いもお願いしたいのですが」

 後押しのために梨子が家に来るための口実まで用意する。 
 それに梨子は小さく「分かりました」と答えた。


 
186: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/17(金) 00:52:50.37 ID:F8px1mDh.net
 黒澤家。
 梨子は二人の後を続き、その広い敷地までやってきた。

「大きいですね」

 思わず零れたその言葉にダイヤは「鞠莉さんの家のほうが大きいですよ」と答えた。
 
(私にはどちらも同じように見えるんだけど)

 そのまま玄関に行き、戸を開けたらダイヤとルビィは「ただいま」を言い、その後に梨子は「お邪魔します」と続けた。

 中は静まり返り、三人の声に答えるものは誰もいない。
 ダイヤは下駄箱から三人分のスリッパを取り出し、それを梨子とルビィの前に置く。
 なんだか手馴れている様子だ。

「ありがと、お姉ちゃん」

「ありがとうございます」

 


 
 
228: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/24(金) 21:29:08.00 ID:yu/vUvXc.net
 その後、ダイヤを先頭に梨子とルビィが付き従うように三人は、長い通路を隔てた先にある居間まで行く。

「ルビィ、着替えてきなさい」

「うん、わかった」

 ぽふぽふとスリッパを弾ませながらもルビィは、自室のある方に向かった。
 その胸には大切に梨子の渡したスイートポテトの容器がある。

「ルビィ、それはここに置いていきなさい」

「あ、そうだよね」

 ルビィはそれを冷蔵庫の中に入れると今度こそ駆け足で自室に向かった。
 ダイヤに軽く「走らない」と注意を受けるも逸る気持ちを抑えられずに少し速度は落とすが、駆け足なのは変わらない。

「まったく……」

 少し呆れ気味に溜息を零すダイヤ。
 その慈愛に満ちた表情は手の掛かる妹を心配する姉のものだ。
 梨子はダイヤと二人きりになった。
 
「あ、あの、ダイヤさん。えっと……、今日はありがとうございました」

 梨子は感謝の意を告げる。
230: 細かいところは勝手な想像です(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/24(金) 21:49:01.41 ID:yu/vUvXc.net
「何がです?」

 それにダイヤは首を傾げる。
 感謝される理由が分からないといった様子だ。

「えっと、ですから、その……、色々と私に協力してくれて」

「ああ、そんなことですか。Aqoursからストーカー加害者と、その被害者を出さない為に協力してるだけですわ」

 言いながらもダイヤは手馴れた様子で割烹着を身に付ける。

「それに私がしているのは、ただの協力です。それに姉としてあなたとあの子の仲を取り持つなんてことを絶対にしません」

 ダイヤは予備の割烹着を用意すると梨子は「ありがとうございます」と受け取り、こちらは少し不慣れにも割烹着を身に付ける。

 割烹着を羽織った後、二人は台所に入る。この家の古びた外観から想像していた炊事場は一昔前のものだったのだが、
 実際に見てみるとそのイメージからは完全に離れたようなーーーIH搭載のシステムキッチンがそこにはあった。

「綺麗な台所……」





 
243: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/26(日) 18:57:36.46 ID:4O0xGkCy.net
 隅々まで掃除が行き届いている。
 越してきたばかりの梨子の家のそれよりも綺麗だ。
 まるで新品同様の輝きではあるが、よく目を凝らすと歴史を思わせるような小さな傷が点々とある。

 料理が趣味の彼女にしてみれば、炊事場が綺麗だとそれだけでやる気が湧き上がる。
 是非とも使ってみたい。
 そう思うのは、至極当然だろう。

 梨子はやる気を表出するかのように三角巾を強く引き締めると、

「それで、何を作るんですか?」

 傍らのダイヤに問う。
 
「母は冷蔵庫に入ってる材料を好きに使ってもいいと言っていたので、梨子さんが決めてくださいませんか」

「あ、えっと、分かりました。それじゃあ、冷蔵庫を見てもいいですか?」

「ええ、構いません」

 許可を貰い、梨子は冷蔵庫を開ける。
 と、そこには豊富な食材や、こんなの滅多に使わないよというような多種多様の調味料が詰まっていた。
 もちろん、すぐに鮮度の落ちるような魚介類はほとんどなかったが、それでもこれだけあれば選択肢はとても多い。
 
「色々ありますね。あ、ダイヤさんの嫌いなもの……、何かありますか?」

 ダイヤは台所の下の、冷暗所の役割を担う棚の中からジャガイモを幾つか取り出す。

「私はハンバーグとかグラタンがちょっと……」

 
 

 
 
248: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/26(日) 21:23:28.17 ID:4O0xGkCy.net
「……なるほど。分かりました! それよりそのジャガイモは?」

 ダイヤの嫌いなものを把握した梨子は、その取り出されたジャガイモを見て、首を傾げる。

「あの子……、ルビィの為にポテトフライを作ろうと思いまして」

 答えながらてきぱきと動くダイヤ。
 それに呼応するように梨子も冷蔵庫から色々なものを取り出す。

「ほんと、ダイヤさんってシスコンの節がありますよね」

「シスコンではありません。妹を思うのは、姉として当然の義務ですわ」

「そういうものなんですか?」

「そういうものです」

 こうして話していると、着替え終わったルビィがぱたぱたとスリッパを弾ませながら戻ってきた。
 
「えっとえっと、遅くなりました」

 ふわりと柔らかくスカートが揺れる。
 その可愛らしい私服姿。
 それを見た瞬間、梨子は思わず手を止めて、ごくりと息を呑んだ。

(か、か……、……かわいい)

 それは徹底的に凛々しさや格好良さといった要素を排除した、まさに可愛さのみを追求するような……。
 そんな姿だ。

参考画像
http://i.imgur.com/txsLS2g.png
251: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/26(日) 21:48:44.54 ID:4O0xGkCy.net
 見蕩れて、自失する梨子の様子を怪訝に思ったのか、ルビィは小さく首を傾げる。

「あの、梨子さん?」

 その不安混じりの声に梨子は強制的に自我を戻された。

「あ、ご、ごめんね。少し見蕩れちゃって」

「ふぇ!?」

 急に自失から覚めた為、咄嗟に本心が零れ出た。
 それにルビィは驚き、一瞬にして顔が紅潮する。
 
(あっ、つい本音が……! ど、どどど、どうしよう)

 あわわ、と出来るだけ焦りを表出しないように抑えながらも、横目でダイヤに助けを求める。
 不意に出たとはいえ、まるで口説くようなその言葉。流石に恥ずかしい。
 だが、ダイヤはそれを受け流し、助け舟を出す素振りすら見せない。
 自力で何とかしろということなのだろうか。

(えっと、えっと)

 梨子は思考を巡らせ、その末に捻り出した言葉は、

「じゃ……、じゃあ夜ご飯の支度はじめよっか」

 それだった。
 ルビィは恥ずかしそうに小さく頷きながら、自分専用のエプロンを身に付けた。
 機能性重視のダイヤとは違って、見た目の可愛らしさを重視しており、割烹着ではなくエプロンを使用しているのである。
252: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/26(日) 22:10:40.27 ID:4O0xGkCy.net
「る、ルビィちゃんはエプロンなんだね」

「う、うん。これも自分で作りました」

 スカートの丈を掴み、もじもじとするルビィだが、その言葉の端々には僅かに自信の色が伺える。
 
「これも?」

「この下のこれもルビィが作ったんだ」

 その誇りを僅かに孕んだ言葉に梨子は「ああ、そういうこと」と納得する。
 本来ルビィは梨子に似て、自分に自信を寄せるタイプではない。
 だけど、そんな梨子でも趣味や特技のことに関しては少なからず自信がある。
 そして、それはルビィも同じことだ。
 自分の趣味で作ったものにはそれなりの自信があり、それを説明する時には大なり小なり誇らしげになる。
 それは至極真っ当な感情だろう。

 梨子は息を呑み、精一杯に言葉を捻り出す。

「凄いね。凄い、可愛いよ」

 声が震える。
 身に付けてるものを褒めるだけでも緊張が激しい。
 少し軟派な物言いだが、自作のものを褒められたルビィは心底嬉しそうに口元を緩ませた。

「ありがとうございます、梨子さん」
 
 
259: 料理シーンはカットします(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/27(月) 16:54:59.18 ID:hTAxyAKk.net
 そんな二人の会話を聞きながらもダイヤは、ビーラーを使い、ジャガイモの皮むきに取り掛かっていた。
 しゅっしゅっという果肉と皮が乖離する音に気付き、

「あ、ごめんなさい。私も直ぐに始めます」

 梨子もダイヤの隣で、慌ててジャガイモの皮むきを始める。
 こちらはビーラーではなく、器用に包丁で皮を剥いていた。
 流石に料理が趣味というだけのことはあり、包丁捌きがとても上手い。
 そして、ルビィとダイヤはその料理上手の梨子の指示に従い、動く。
 手際が良い。
 何もかもが早く、指示も的確で、一つのことを行いながらも別のところを動かしている。
 そんな感じだ。

 それに対して、黒澤姉妹は思わず感歎する。
 料理趣味は伊達ではないということだ。

 それから約二時間後(合間合間の待ち時間は軽く談笑していた)。
 ようやく夜ご飯は完成し、それらは机の上に並ぶ。
 
「なんというか、流石ですわね」

 ダイヤは率直な感想を述べた。
 
「うん、とっても美味しそう」

 ルビィもそれに同意する。
 
 そんな二人の言葉に、余程嬉しいのだろう。梨子の表情は緩む。
 料理を趣味にする者は作ることそのものよりも、作った料理を食べてもらうことで満足感を得るタイプも多い。
 梨子もそのタイプなのだろう。
 
「えっと、じゃあ食べよう」

 照れを飲み込みながらも梨子は言う。




 
262: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/27(月) 17:30:14.55 ID:hTAxyAKk.net
 三人は席に着く。梨子、ルビィ、ダイヤの並びだ。
 目の前には煮物や生姜焼き、厚焼き玉子、白米等の和をモチーフにした料理の数々があるが、
 ただ、その端々に置かれたポテトフライが異彩を放ち、不自然さを醸し出していた。

 ルビィの好物だから作ったが、これが白米に合うかどうかは謎である。

 三人は手を合わせて、ほぼ同時に「いただきます」と言う。
 食前の挨拶を終えたら三人はこれまた同時に箸を取る。
 そして、全員目の前の料理に手を付けた。

 ここら辺はその人の個性を表してるのだろう。
 ルビィが最初に手を付けたのはポテトフライで、ダイヤは煮物、梨子は主菜の生姜焼きだ。
 それぞれが違うものを同時に食べる。
 だが、出た言葉は同じものだ。

「おいしい」

 それが作った本人の口からも出た。
 一見、自画自賛のようにも思える発言だが、それはただの評価だ。
 同じ手法で作っても、食材によっては味に変化がある。少なくともこれほどの味は普通出ない。
 それが出るということは、食材の味そのものがいいのだろう。
 
「ええ、本当に。梨子さん、ありがとうございます」
 
 咀嚼を終えて、口内のものを飲み込んだ後、ダイヤはお礼の言葉を口に出す。


 
 
277: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 00:23:19.50 ID:+vDgyGw6.net
 梨子はそれに頷いて応じ、その隣のルビィに視線を向ける。
 彼女は小動物のようにサクサクとポテトを食べ進め、唇に油分が付着し、艶やかに輝いていた。
 その姿に梨子の視線は釘付けになる。
 ぼーっと見つめ、思考の全てがルビィの挙措ひとつひとつに満たされた。
 ポテトを食べ終えて次に何を食べようかなと悩む仕草、
その末に生姜焼きを選んで満足そうに咀嚼する生き生きとした表情、
水分補給する為に水を一気に飲み干す少し豪快な姿、
姉のポテトをモノ欲しげにチラチラと横目に見る、ちょっと欲張りな姿……、
 そういうルビィの何もかもが愛しく思い、梨子の心臓が激しく踊る。
 
 そんな風にルビィに熱視線を送り続けていると、そのことに気が付いたダイヤはゴホンとひとつ咳払いをして、梨子に注意を示す。

「!」

 それによって、ハッと梨子は我に返り、今が食事中だったことを思い出した。

(あ、そ、そうだ。私も食べないと)

 梨子は慌てて、煮物の中の里芋を口の中に放り込む。
 



 

 
 
279: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 01:00:16.99 ID:+vDgyGw6.net
(……まったく)

 ダイヤはルビィにポテトを譲ると、それだけのことなのにルビィの表情は喜色に溢れていた。
 
(それにしても……)

 もぐもぐぱくぱくと無心のままに流れるように食事を進める梨子の姿に、ダイヤはふふと小さな笑みを零す。

(本当に世話のかかる子ですわね。まるで、妹がもうひとり増えたみたい)

 本人には絶対に言わないが、梨子の頑張りを見守ってる内に僅かながらに姉としての琴線が刺激されていた。
 もちろん、だからといって梨子を義妹として認めるつもりは毛頭ない。が、それでも今後とも協力することは吝かではない。
 などと考えるダイヤの暖かい視線に気付いた梨子は、怪訝な顔で、ダイヤのことを見つめ返す。

 こうして何故か見つめ合う形になった梨子とダイヤの……、その仲良さげな二人の姿に、ルビィは……、
 ずきりと胸の奥に小さな痛みを感じた。
 それが何なのかは、ルビィ本人にも分からない。
 

 
283: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 01:30:43.91 ID:+vDgyGw6.net
 食事を終えると、黒澤姉妹はお皿の後片付けに入った。
 片付けまでしようと皿を集め出した梨子の行為を制し、休憩するように促した後、ダイヤとルビィは台所で皿洗いをする。
 きゅっきゅっとスポンジで皿の汚れを落としながらも二人は、いつものように何気ない会話を広げていた。

「美味しかったね、お姉ちゃん」

「ええ、本当に」

 同意し、居間の液晶テレビの前でちらちらとこちらを伺う梨子の姿を視界の端に捉え、思わずダイヤは笑う。
 大方、一人何もせずに休憩してることに罪悪感でも抱いてるのだろう。
 実際その通りではあるのだが、流石に調理に動き続けた梨子に洗い物まで押し付けるようなことはダイヤ側の良心が痛む。

「……っ」

 梨子の方を見て、不意に柔らかな笑みを漏らした姉のその様子に、再びルビィの胸の奥に鋭い痛みが走った。
 
(なんなのかな、今の……)

 良く分からない。でも、梨子とダイヤの間にある、何か、にルビィの心がずきりと痛みを以て、羨望を自覚させた。
 
284: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 01:54:56.07 ID:+vDgyGw6.net
(……いいな)

 そこでルビィはハッと我に返る。
 
(何が……?)

 今、何に対して羨ましがったのか自分でも分からない。
 いや、違う。
 何に、ではない。
 「誰」に対して「いいな」と思ったのか。
 それが分からない。
 自分の姉が、別の子のことを気にしていることに嫉妬したのだろうか。

(でも、それならマルちゃんやヨハネちゃんに対しても同じ気持ちになるよね)

 同年代の友達とダイヤが仲良くしていても特に嫉妬することがなかったのに、一つ上の先輩と仲良くしたからと嫉妬するはずはない。
 ルビィはスポンジを動かす手を止めて、考えに耽る。
 
(まさか……、もしかしてお姉ちゃんに……? ううん、でも、そんなの……だって、……そんなのは……)

 梨子と仲良いいから姉に嫉妬した。
 いや、そんなのはありえない。
 ...…だってそれじゃまるでーーー

(ルビィが梨子さんのことを……)

 そこまで思考を巡らせると、隣から「ルビィ?」という心ここに在らずのルビィを心配するようなダイヤの優しい声がかかる。 
289: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 13:06:21.18 ID:+vDgyGw6.net
「ひっ!」

 思考外からの不意のそれにルビィは驚き、肩が跳ね、その拍子に手に持っていた皿を流し台の中に落としてしまい、それが一気にルビィの心を引き戻すようにパリンと割れた。

「あっ……」

「もう何やってますの、ルビィ」

 その音を聞き付け、梨子が飛び込んでくる。

「い、今の何!? どうしたの? 大丈夫」

 捲し立てるように言いながら近付く梨子に、ルビィは咄嗟に、

「う、うん。だだ、だだだ大丈夫です!」

 答え、シンクの中の皿の破片に手を伸ばす。

「ルビィ、危ないのでそれは私が!」

 が、そのダイヤの言葉を受けるよりも早くに、散らばる皿の欠片がルビィの指先を切り付けた。

「っ!」

 細く小さな指先に点のような赤い雫がぷくりと膨れ上がる。
 
「な、なななな、ル、ルビィ!? だ、大丈夫なんですの!?」

 普段は何事に対しても泰然と構える彼女だが、妹の事になると全くの別人のようにあたふたと取り乱す。
 ただ、指先を切っただけだから直ぐに応急処置をすればいいのに、そんな当然のことにも思考が回らないほどに混乱し、「ルビィが怪我を! ど、どうしましょう」などと顔を真っ青に慨嘆していた。
290: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 13:38:06.18 ID:+vDgyGw6.net
 とはいえ、当の本人は針を扱うというその趣味の性質上、この程度の怪我はよくあることだ。
 ルビィは慨嘆する姉を宥める為に、その方を向くと、不意にその怪我した手を取られた。

「えっ」

 最初、姉が傷口を確かめようとしているのかと思ったが、どうやら違う。
 ルビィの手を取ったのは、姉ではなく、梨子だった。
 
「ル、ルビィちゃんが怪我を……、早く応急処置を」

 梨子はルビィの手を取ると、次の瞬間、驚くべき行動に走った。
 指先にぷくりと膨らむ血の半球。それをいきなりぱくりと咥えたのだ。

「ぇ……」

 いきなりのその行為に、黒澤姉妹は硬直する。
 それは梨子にとって、癖のようなものだった。
 ついつい、いつものように、それをしてしまった。
 ルビィの患部に舌を這わせて、吸血鬼のようにその血液を優しく拭い取る。
 大したことないとはいえ、梨子もダイヤ同様に、想い人の怪我に混乱しているのだろう。

 それがどれだけ恥ずかしいことなのかすらも気が付かない。

 黒澤姉妹の驚きは硬直に変わり、硬直はそれぞれ照れを噴出した。

 が、その照れの理由は大いに異なる。
 
 恥ずかしいものを見たように照れて頬を染めるダイヤとは違って、ルビィのそれは全くの別種のものだった。

「ぁ、ああ……」

 恥ずかしいというわけではない。いや、それもあるかもしれないが、そんな羞恥心を遥かに凌駕するほどの不思議なものだ。
 それによって、ルビィの頬が真っ赤に沸騰する。
 
297: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 21:23:56.92 ID:+vDgyGw6.net
 ルビィはその不思議な情感の正体を知らない。
 ちゅぷと梨子は、ルビィの指を吐き出すと、ようやく彼女のその茹で上がった表情に気付き、
 今、何をしたのかを自覚した。
 料理が趣味の彼女は手の皮膚が切れたり避けたりは日常茶飯事だ。
 だから、その度に消毒して絆創膏を貼るのは面倒ということもあり、余程の大怪我でもない限りはいつも舐めて患部を消毒している。
 それが癖になっていた。

(ど、どどど、どど、どうしよう。わ、わた、わたし、なにやって)
 
 そういうわけでルビィにも同じことをしたのだが、よく考えればこれは不愉快極まる方法だろう。
 当然だ。
 自分のものならともかく、他人の唾液なんてのには好んで触れたいと思うようなひとは、ただの異常性癖者である。
 
 ルビィは不快に思ったはずだ。
 事実、その証拠にほら。
 今ルビィは顔を赤くして、怒りや悲しみといった負の感情のあまり肩が震え、その目尻に涙を溜めていた。
 いや、ルビィの内心を知ればそこにそういう単純な感情はないことは明確だが、ただの概観では不快のあまり怒りや悲しみを抱いてるように見えなくもない。
 少なくとも梨子は、ルビィの抱いてるものを勝手にそう決め付けていた。

「ご、ごめんね! あの、えっと」

 必死に謝意を告げるが、ルビィは俯き、首を横に振るだけ。

(や、やっちゃった……。折角、仲良くなれたと思ったのに)

 俯くルビィは、その胸の奥に怖いほどの何かを抱き、それを抱えて、抱え切れずに涙となって外に溢れた。
 怖い。怖い。
 それを自認することが、怖くて怖くて堪らない。
 
(……違う。この気持ちは違う。だって、だって、そんなことあるわけがない。梨子さんは女の子で、優しい先輩で、Aqoursのメンバーで、それに、お姉ちゃんと仲が良くて……、たったそれだけのひとなのに……、違う。これは違う)

 だからこそ、絶対に認めるわけにはいかなかった。
 だが、否定すれば否定するほどにそれは強く大きく膨れ上がり、ルビィの小さな体から溢れてしまいそうになる。
298: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 21:56:03.74 ID:+vDgyGw6.net
 あたふたと慌てふためく梨子に、それに無言で頷き応じるルビィ。
 そんな二人の様子に、正気に戻ったダイヤはようやくいつもの調子を取り戻し、溜息を吐く。
 いつの間にか、縮まったと思った心の距離が離れていた。
 互いに隔意を持ち、その心の距離をわざと離していた。

(本当に子供ですわね。世話が焼ける)

 あまり年齢差はないが、それでも一年二年は長くこの世を生きるダイヤは、大人として二人の間に立つ。

「梨子さん、ルビィ、ここは私が片付けておきますからあなた達は一緒にお風呂に入ってきなさい」

 それは有無を言わさぬ、指示だ。
 この今それを提言するか。
 と、梨子なダイヤを見るが、泰然とした態度で屹立したまま、梨子の視線を軽く受け流す。

 流石にそれは恥ずかしい。
 が、それを応じる声も上がった。

「わ、かった。お姉ちゃん」

 か細い。だが、どこか明確な意思を感じさせるような、そんな質の声だ。
 
「よろしい」

 ダイヤは満足そうに頷くと、次に梨子に視線を移す。
 
「……っ、わ、わかり、ました」

 緊張のあまり喉が詰まったように答える梨子に、うんうんとダイヤは頷き、やはり満足そうに笑う。
300: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 23:13:49.57 ID:+vDgyGw6.net
 ちゃぷんと浴槽の湯に、梨子は足を入れ、その爪先からゆっくり沈めて、浸す。じんわりと湯の熱が梨子の足の血流を促し、白い肌が薄らと赤みを帯びる。
 そのままもう片足を湯船の中に沈めると、膝を折り曲げて、ゆったりと体育座りをするように張り詰めた湯の中に肩まで浸かる。

「ふぅ……」

 湯の熱に体内の空気が押し出されるように、梨子は吐息を零した。
 ぽたぽたと濡れた髪先から滴り落ちる雫を、搾り取るように梨子はタオルを頭に巻き、その長い髪を纏める。
 
(きもちいい)

 ぽかぽかと湯の熱の中に身を浸しながら、

(それにしても、私ほんとに……)

 先程の事を思い出し、あまりの恥ずかしさに小さく悶え、湯の水面が揺れて、波及が広がる。

(うう……、はずかしい)

 もじもじと太ももを擦り合わせ、一気に顔半分を湯の中に沈めた。
 ぶくぶくと湯の水面に気泡が弾けては消える。
 と、そこで浴槽の外から想い人の声が聞こえた。

「梨子さん、入りますね」

 ルビィだ。
 それを聞き受けた梨子は、咄嗟にばしゃと湯の中から顔を出して、答える。

「う、うん、どうぞ」
302: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 23:35:04.68 ID:+vDgyGw6.net
 しゅるりと衣の擦れる音が浴室の外から漏れた。
 ルビィが今、まさに服を脱いでいる最中というわけだろう。
 浴室は、静まり返る。
 別に意図したわけでもなく、ただ、何となく、そうなった。
 その衣擦れの音と、ぽつぽつという梨子の髪先から雫が落ちる音だけが、妙に大きく響き渡る。

 カチッとブラのホックが外れる音、ふぁさっとスカートが落ちる音、その合間合間に緩むように零れる吐息、ばさっと髪が解けた音……。
 それらが確かに、梨子の耳まで届いた。

 ごくりと梨子は無意識に喉を鳴らす。
 もうすぐルビィが入ってくる。
 きっと裸身のまま、無邪気に……。
 想い人のルビィが……、入って……。

(って、わ、私、何考えて……、こ、こんなのまるで変態みたいだよ)

 そして、己を律する為に水面を叩き、わざと静寂を打ち破る。
 その迫り来る、愛しいひとの音を聞かないように……。
 そして、その到来を迎え入れる心構えを作るように……。
 すると、浴室の濁った硝子の中に背丈の小さな女の子の……、つまり彼女のシルエットが浮かび上がる。
 来た。
 と思うのと同時に、その戸が開き、子供のように小さな足が浴室のタイルの上にぺたりと打ち込まれた。

 
304: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/30(木) 23:54:53.04 ID:+vDgyGw6.net
 そのままもう片方の足でぺたりと浴室のタイルを踏み、ルビィが入ってきた。

「っ!」

 その姿に……、その膨らみも何もかもがない本来は色気の欠片もないような幼児体型に……、梨子は見蕩れていた。
 色気には程遠いはずなのに、何故か目が話せない。
 両腕で、恥ずかしそうに胸を隠すその姿。
 頬を赤らめながら「あ、あまり見ないでください」と言うそのいじらしい姿に、梨子は思い知る。

(やっぱり私はルビィちゃんのことが好き)

 今までは自覚こそしていたものの、改めて思い直すことはなかった。

(好き……)

 見蕩れて、思う。

(好き……)

 焦がれて、想う。

(好き……)

 長らく、憶う。

「だ、だから、梨子さん。そんなにじっと見ないでください……!」

 そして、ついに怒られた。
305: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/03/31(金) 00:30:56.58 ID:cdwJ6k81.net
 ーーールビィは緊張していた。
 浴室の戸を開ける前、
 その胸の中の何かが悲鳴を上げて、そこに入ることを拒み続ける。
 戸の凹んだ取っ手に触れる手が震える。
 怖い。
 自分の中のそれを確かめるこの行為が、とても恐ろしい。
 もしも本当にこの気持ちが、想像通りの……、最悪なものだとすれば、それは本当に確かめるべきなのか。
 まだまだ未熟な彼女には、どうするのが正解なのかは分からない。
 分かるはずがない。
 これがあの出来る姉ならば、既に答えを持ってるかもしれない。
 そう思い、ルビィはここに来る前にダイヤに胸中を吐露した。
 だが、しかし、返ってきたのは、

「それは自分で考えるべきことですわ」

 そんな突き放すような言葉だった。
 分からないから聞いたのに……、
 などと内心に不平を抱きながらもルビィは、覚悟を決める。

(確かめよう。この気持ちがどんなものでも……、きっと逃げるのは得策にはならないと思うから)

 震えを理性で抑え込み、強引に体を動かす。
 ここら辺は導くことを必要とする梨子とは違い、ルビィの強みだろう。
 自己評価が低く、普段は小動物のように弱々しい彼女だが、その心はさほど弱くはない。
 いや、むしろ精神的には強い部類に入るかもしれない。

(よし!)

 ルビィは戸を開き、ぺたりと梨子の待つ浴室の中に踏み込んだ。

 
322: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/01(土) 21:18:39.13 ID:sDlI3gRH.net
 むわりと湯気が溢れ、濛々と外に漏れ出した。
 同時にルビィの裸身を押し出すように外の冷気も浴室に入り、内外の温度が混淆する。
 ぺたりと湯気に濡れたタイルを踏み、ゆっくりと奥まで踏み入ると、
 その最奥の湯船の中にルビィを思い煩わせる元凶である、一つ年上の先輩の艶やかな様相がそこにはあった。
 濡れた髪の水分を頭上のタオルに吸収させながら僅かに溢れたその毛先からは雫が肌を伝い、湯の中に溶けて消える。
 肌は上気し、赤みを帯び、呼吸の度に漏れる小さな吐息と、太股に押し潰された二つの胸の膨らみが色気を何倍にも増長させて、
 狂熱を孕んだ双眸がルビィの裸身を捉えて離さない。
 それにルビィは思わず恥ずかしくなり、その両手で胸元を隠す。

「あ、あまり見ないでください」

 ルビィはか細い声で鳴くように言うも、梨子は答えず、それどころかその瞳に宿る熱気がさらに膨大したことをルビィは直感的に悟る。
 しかも、その熱のある瞳を見ていると何故だかルビィの心まで焼け焦げそうになる。
 どくどくと心臓の鼓動が激しく昂り、それに耐え切れずルビィは言う。

「だ、だから、梨子さん。そんなにじっと見ないでください……!」

 
326: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/02(日) 01:32:05.15 ID:JZoYBkRy.net
「あ、ご、ごめんなさい」

 ルビィの言葉に、「好き」を改めて自覚した梨子は、恥ずかしさのあまり湯の中に再び顔を半分ほど沈め、ぶくぶくと湯面に気泡を作る。
 それにルビィは、梨子の瞳が自分から離れたことに、少し残念に思う。

(えっ)

 何故だが、そう思ってしまった。

(目線が離れただけなのに、途端に寂しくなる)

 喉が詰まるような寂寥感に晒されたままルビィは、浴室椅子にその小さなお尻を乗せて、
 きゅっきゅっとシャワーのハンドルを捻り、お湯を出す。
 
(これは、やっぱり……、そういうことなのかな)

 ハンドルで四十度程度に温度を調整すると、足元から肩まで登るようにシャワーをかけていく。

(でも、ルビィは、……)

 少し熱い。でもこの熱さが気持ちいい。

(ルビィは……、どうしたいんだろ)

 シャワーを頭にかける。
 分からない。
 ただ、一つ確かなことは、
 この気持ちが本物だったとしても、それは決して許されないということ。
 同性云々も問題ではあるが、それ以上に彼女が『黒澤ルビィ』である限りは、絶対にあってはならないことなのである。

(どうしたい……、ううん、そんなことは考えるだけ無駄だよね。だって、どうにもできないんだから)

 じくりと胸が痛む。

(……、どうすることもできない)

 それが現実で、それが全てだ。
 
328: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/02(日) 04:04:55.43 ID:JZoYBkRy.net
 ルビィは憂愁な思考を追い払うように頭を振り、飛沫と一緒にネガティブな考えを振り払う。

(ううん、考えるのはやめよう)

 ルビィは髪を洗い、梨子同様に濡れた髪をタオルで一つに纏めると、次に体を洗う。

(でも、この気持ちの正体だけは知りたいな)

 泡立てたスポンジで撫でるように全身を洗った後、もくもくと肌にまとわりついた白い泡をシャワーで流し落とし、ルビィは立ち上がる。
 と、梨子の待つ浴槽に向かった。

「あの、梨子さん……、失礼します」

「ど、どうぞ」

 お互いがお互いに意識し合ってるせいか、どこか会話がぎごちない。
 今日の帰り道とは大違いだ。
 ちゃぷんとルビィは湯の中に足から身を沈め、梨子と向かい合わせに腰を下ろす。

「……」

 二人の間に会話はない。
 が、別に会話を放棄したわけではなく、お互いに何を話そうか迷ってる状況である。

「ルビィちゃんは今」

 先に口を開いたのは、梨子だ。

「好きな人とか……その、いるのかな……?」
 
 だんだんと語気が緩く、小さく沈んでいき、

「……なんて」

 最後には、その問いをいつでも冗談だと誤魔化せるようにと、そう付け加えられた。

「……っ」

 前までの彼女ならその問には間髪入れずに姉や友達の名前を出していただろう。
 しかし、もはやそれを即答することはできなくなっていた。
 無論、姉や友達のことを嫌いになったというわけではない。ただ、ルビィ自身の「好きな人 」の解釈が変わっただけ。
 だから少し考えて、ルビィは答える。

「えっと、ルビィが好きなのはお姉ちゃんやマルちゃん、ヨハネちゃんかな」

 その誤魔化しの答えを……。 
329: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/02(日) 04:25:54.76 ID:JZoYBkRy.net
 そういう意味じゃないんだけど、などと内心で思いながらも梨子は、「そっか」と納得だけは示す。
 と、次にルビィから、

「梨子さんは……誰かいないんですか?」

 同じ質問が返ってきた。
 もちろん、いる。
 しかも、目の前に。
 だが、それをそのまま伝えられるわけもなく、

「……うん、好きな人なら……いるよ」

 そう本心の一部を答えるだけが精一杯だった。
 
「っ」

 ずきりとまた胸が痛む。それも今度は先程までのものとは比べ物にならないほどの痛みだ。

(誰、なんだろ。も、もしかして東京に、そういうひといたりしたのかな……)

 ずきずきという胸の痛みに耐えながらも、ルビィは思う。


 
334: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/02(日) 18:37:56.00 ID:JZoYBkRy.net
 東京に、というのは消去法だ。
 沼津に来たばかりの彼女に、その県内に異性の知り合い、あるいはそれ以上に想ってるひとがいるとは思えない。
 当然、ルビィの知らないところでそういう出会いがあったのかもしれない。
 でも、その可能性が低いのは、人見知りという梨子の性格上、明らかだ。
 だから、東京に想いを残してきた可能性の方が遥かに高い。

(どんなひとなんだろ……、やっぱり梨子さんが好きになるくらいなんだから素敵な男の人なのかな)

 ちなみにその相手が自分であるということも、そもそも相手が同性だということも、全く視野には入らない。
 あくまでも常識的かつ、良識的にそのことを考えていた。
 が、そこでルビィは、一つの妄想にも等しい想像をする。

(男の人、か。やっぱり……、それが普通なんだよね)

 自分が男の人と、どうにかなる、その想像を……。
 して、した途端に、ぞわっと不快感が全身を駆け巡った。

(む、無理。やっぱりルビィは、男の人が苦手……)

 それはもはや苦手の度を超えているが、やはりそのことに違和感を持つこともなく、ただただ苦手なものだと切り捨てて、ルビィは対面の梨子の姿に目を向ける。

(……)

 唇が濡れて、艶を引き出し、色気を醸し出す。
 その、ぷるんと柔らかそうな(実際に柔らかかった)唇に、さっき自分の指が、血液が吸い取られたのだと思うと、それだけでルビィは、不覚にも喜悦を覚えた。
 だが、その唇も恐らくは……。

(誰かのものになるんだよね)

 ぽつりと髪先から一滴、湯面に弾けるそれだけが辺りの静寂を壊す。
 
(……ルビィがもしも男の人だったならこの気持ちのままに、生きられたのかもしれない。ルビィがもし男の人ならきっと悩むことなく、梨子さんにアタックを……)

 そこまで考えて、直ぐに我に返る。

(だめ! これはそういうんじゃない。これはきっとただの憧れだもん……、そう思わないと……、そう思ってないと……)

 心が壊れてしまいそうだ。
335: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/02(日) 18:56:45.53 ID:JZoYBkRy.net
 梨子に対する気持ちとそれを否定しなければならない理性の働き。その二律背反にルビィは苦悩する。
 
「ルビィちゃん、どうしたの?」

 と、そこに同様の苦悩を抱く、対面に座す梨子はどこか心配そうに言う。
 それに関してだけはルビィほど酷くはないが、それでも梨子も当然悩んでいる。
 もちろん、ルビィはそのことを知らない。

「な、なんでもないです。それより梨子さんの好きなひとは……、どういうひとなんですか?」

 無理に笑顔を作り、ルビィは答える。

「それは……」

 梨子は言い淀む。
 答えたくないのだろうか。
 それとも言えないようなひとなのだろうか。
 
「あ、その、無理ならいいです」

 梨子は申し訳なさそうに肩を落とし、「ごめんね」と謝り、さらに続ける。

「今はまだ言えないけど、いつかきっと言うから」

 弱々しくもどこか力強い目で笑う梨子。
 ルビィは小さく「うん」と答えた。


 
 
342: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/04(火) 00:27:11.38 ID:deboT+fG.net
 ダイヤは片付けを終えて、そのことに思いを致していた。
 それは最愛の妹のことだ。
 最初、ダイヤは何をするつもりもなかった。
 二人の仲を縮める協力も、その進展を認めるつもりも一切なく、ただただ妹の大切に想う居場所をより心地の良いものにするために働きかけていただけだ
 それなのに今、ダイヤが二人の仲を取り持つようなことを行っているのは、

(ルビィ……)

 やはり最愛の妹が理由だ。
 ルビィ本人ですらも茫漠に抱いてるその熱情に、何よりも早くダイヤが気付き、それ故の苦悩に苛まれる妹のことが見ていられなかった。
 本来は自分で気付き、片付ける(言い方は悪いが)べき問題ではある。
 が、そんなことは百も承知だけれども、ルビィの為にならないことは分かってはいるけど、それでも妹の懊悩する様を見て見ぬ振りは出来なかった。
 とはいえ、全てダイヤが導くのでは、いつかルビィが手元を離れた時に、必ず苦労する。
 それはいけない。
 あってはならない。
 だから、あくまでも二人を基準に、水面に軽く石を放る程度のアドバイスだけを送り続けた。
 本当にそれがいいことなのか。
 そこまではダイヤにも分からない。
 二人よりは年上だが、しかし、まだまだ未熟なことには変わりなく、自分の言動の全てが正しいという認識も当然持ってる訳では無い。
 それほど傲慢にも、高飛車にも、自意識過剰にもなれない。
 ダイヤは最愛の妹のことを想い、嘆息する。

(あなたまで黒澤に縛られる必要はないんですのよ。あなたはあなたの望むがまに道を選べばいいんです)

 あの優しい妹のことだ。
 きっと心のどこかで、自分だけが自由になることを、
 思うがままに選ぶ生き方を是とはしないのだろう。
 姉のことを思うが故に。
 だからこそ、そんな妹だからこそ、気儘に人生を謳歌してもらいたい。
 それがダイヤの抱く望みであり、全てでもある。

(そうすることが、きっとあなたにとって最良なのだから)

 妹のそう近くない未来の一人だちを思って、ダイヤは少し寂しげに笑い、飲み物を取るために冷蔵庫を開ける。
 と、そこには「ダイヤさんへ」と可愛らしい丸文字で書かれた紙切れと、それの下敷きになる抹茶のプリンを見付けた。
 それを見て、ダイヤは……、今度は楽しげにクスッと笑い、それを置いた人物のことを思う。

(梨子さん、こういう気の回し方を少しでもルビィにもしてあげられたらいいのに)

 抹茶のプリンを手に取り、やはり愉しそうに笑う。

 
 
344: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/04(火) 01:00:03.17 ID:deboT+fG.net
 梨子とルビィは風呂を上がり、ぽかぽかと湯気の残滓が僅かに二人の赤みがかった肌から漏れる。
 常とは違い、二人とも髪を下ろした姿で、居間に戻ってきた。

「あ、ダイヤさん。お風呂、ありがとうございます」

「いいお湯だったよ」

 少し湿った髪が妙な色気を醸し出している。

「そうですか。それでは次は私ですね」

 ダイヤは立ち上がり、そこで「あっ」と思い出したように梨子に、

「梨子さん、プリン美味しかったです。きちんと私の好みを知っていたようで、不覚にもドキッとしてしまいましたわ」

 少し意地の悪そうな笑みを浮かべて、からかうように言った。
 元々の麗容な立ち振る舞いと、怜悧な思考。そういう普段のダイヤと、今の子供のような無邪気な笑みのギャップが、とても魅力的だ。
 
「よ、よかったです」
 
 思わず照れを交えてはにかむ梨子の様子に、

(もしかして……、梨子さんの好きなひとは……、お姉ちゃんなのかな)

 ルビィの勘違いが加速する。

(もし、そうなら……、ルビィに勝ち目はないよね)

 ルビィは沈み、落ち込むも、机の上にそれを見付けた為、直ぐにネガティブな思考を振り払う。
350: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/04(火) 14:25:38.00 ID:deboT+fG.net
(これ……、お姉ちゃんの)

 入浴に行ったダイヤの着替えだ。
 珍しく用意したまま、ここに置き忘れている。
 ルビィはそれを手に取り、
 梨子に「これお姉ちゃんに渡してくるね」と一声かけて、
 ぱたぱたとダイヤの後を追い掛ける。

 梨子は「うん」とだけ応えて、ルビィの背を見送った。

 先程まで自分たちが入っていた浴室の手前、その脱衣場まで来ると、曇ったガラス戸の先に湯浴びをする姉の輪郭が見える。
 シャワーがタイルに落ちて、弾ける音にダイヤの鼻唄が重なり合い、混淆する。
 ルビィは脱衣場の幾つかある、木の吊を複雑に編み込んだような朝底の籠の中に持ってきた着替えを入れて、

「お姉ちゃん、着替え持ってきたからね」

 その旨を伝える。
 と、それに応じる為にダイヤはキュッキュッとハンドルを捻り、シャワーの音を消す。

「ありがと」

 ダイヤはお礼を言い、さらに

「丁度よかった。私の背中を洗ってくれると助かるわ」

 そう付け加える。
 ルビィは「わかった」と快諾して、腕を捲ると、浴室の戸を開けて、その中に入る。
 ダイヤは浴室椅子に座り、濡れた髪を一纏めにして、タオルを巻き、ルビィを迎える。

「おねがいね」

「うん」

 ルビィはダイヤの元まで来ると、スポンジを手に取り、桶に張られた湯を使って、もこもこと泡立てる。
 
「じゃあ、洗うね」
 
 言うルビィに、んっと吐息を漏らすように応じるダイヤ。
 ルビィはスポンジを背中に押し当て、そのまま軽く擦る。
 と、そこでダイヤは口を開く。

「ルビィ、指の怪我はもう大丈夫?」

「あ、うん。梨子さんにきちんと手当してもらったから」

「そうですか。それはよかった」

「……」

 ぴたりとルビィのスポンジを動かす手が止まった。
 それに怪訝に思ったダイヤは、「ルビィ?」と声をかける。

「お姉ちゃんは……、梨子さんのことはどう思ってる?」

 それだけで聞きたいことの全容を瞬時に理解したダイヤは、

「どうして?」

 と問いを返す。
370: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 16:56:00.05 ID:iwq+bIlG.net
「それは……」

 言葉に詰まる。
 姉妹として他にも色々と話すことはあったはずなのに、どうしてか梨子のことだけがルビィの思考を埋め尽くしていた。

(どうして……?)

 分からない。
 ただ、気になっただけというわけでもなく、かといって会話を続ける為の適当に出した問いでもない。
 不意に口から零れた、大きな想いの残滓。
 ルビィは沈思し、その問いへの答えを自己の想いに照らし合わせて、反芻する。
 が、やはり答えを出すことはできない。

「き、気になったから」

 ルビィは己を偽り、上辺だけで答える。
 感情が乗らず、どこか冷たさも孕んだ小さな声に、ダイヤはため息をつき、視線を後ろに流す。

「本当にそれだけ?」

「う、ん、それだけだよ」

 ルビィは再び手を動かす。が、どこか集中を欠いている。

「それで、どうなの、お姉ちゃん」

「……」

 直ぐには答えず、ダイヤは黙考する。

(そのまま答えるべきか、それともお茶を濁すべきか)

 ルビィの問いの、本人も認めない無自覚の真意を、その変移を、そして往々たる想いの有り様を、知り得たダイヤは、どう答えるのがルビィの為になるのかを、それだけを考える。
 
(ルビィはきっと、私の否定を貰いたいんでしょうね)

 もしも万が一、梨子が姉のことを好きだった場合、ダイヤがその想いを否定することで、ふたつの気持ちは交差することはなく、梨子からの一方通行のものになる。
 もちろん、梨子の気持ちを知っているダイヤは、そんなこと有り得ないのは承知の上だが、そのことを知らないルビィにとっては、
 姉の存在も心に芽生えた幾つかの不安の種のひとつで、
 それを姉からの否定の言葉を受けることで、摘み取りたいということだろう。

(それもいいけど、私としては、正々堂々としてほしいですわ)

 いつかのように、とダイヤは思う。
 だから、
 
「梨子さんのこと、好きですわよ」

 そう答える。もちろん、友愛の意味で。いや、本来そう捉えるのが普通である。
 ルビィも花丸や善子に「好き」と告白されたところで、直ぐに「ありがとう、わたしも好きだよ」と返すことができるだろう。
 同性同士で、お互いに女の子だ。
 友愛の意味であることは、至極当然の話である。
 しかし、ルビィはそうは捉えなかったようで、その表情が暗い翳りに侵された。

 

 
371: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 17:30:15.29 ID:iwq+bIlG.net
「そ、そっか」

 ルビィは笑みを取り繕い、その手を動かす。
 上手く笑えているだろうか。
 笑顔を作るも、どこか堅苦しい。
 悲喜の混ざった複雑な表情だ。

「そ、それなら、ルビィは」

 心無い言葉を淡々と紡いでいく。

「ルビィは……」

 ルビィの手が再び止まる。

(どうしてこんなに、苦しいのかな)

 理由は分かってる。

(分からない)
 
 ただ、認めたくない。

(ルビィはどうすればいいのかな)

 いや、ただ認めるわけにはいかない。

(この気持ちを)

 これを認めてしまうと、今までの全てが変わってしまう予感があった。

(この気持ちを消すには)

 きっと誰もが認めてくれない。祝福もしてくれない。悲哀の結末を辿ることは間違いない感情だ。
 あってはならない想いでもある。
 ルビィの手に力が込められた。

(振り払うには、どうすればいいのか、ルビィには分からないよ)

 無意識に手が、唇が震えていた。

(お姉ちゃんなら多分割り切れるのに、どうしてルビィなんだろ。それになんでよりにもよって、同じ女の子の梨子さんに……)

 ルビィは悩乱し、否定の限りを想い続ける。
 その、妹の様子にダイヤは嘆息する。

「ルビィ、ありがとう。もういいですわよ」
 
 だが、その苦悩に対する答えは与えない。
 ルビィは否定と肯定の思いの板挟みになりながらも「わかった」と力のない声だけを残し、ふらふらと浴室を出ていった。

(ルビィ、何があっても私はあなたの……、いいえ、あなた達の味方ですわ)

 

 


 
372: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 18:01:32.55 ID:iwq+bIlG.net
 ルビィは浴室を出た後、覚束無い足取りのまま梨子の元に向かった。
 
「ルビィちゃん!? ど、どうしたの?」

 ルビィの顔色を見た瞬間、梨子は駆け寄ってきた。
 その表情は心底心配をしているようだった。

(り、こさん)

 認めたくはない。
 認めるわけにはいかない。
 でも、体が、心が梨子のことを求めてることが、分かった。
 梨子に心配されるだけで、その誰にでも振るわれるようなただの心遣いが、それだけなのに、総身に電流が駆け抜ける。
 ぴりぴりと頭から爪の先まで。
 痺れるように熱くて蕩けそうな、激しい何か。

「っ!」

 その、蕩けた表情に、梨子は固まった。
 
「る、ルビィ、ちゃん、どうしたの?」

 爆発し、溢れそうな感情を必死に押し殺しつつも、梨子は話し掛ける。

「何か、あった?」

 ルビィは顔を伏せると、轟々と荒れ狂う熱情が表出するように徐々に呼吸が乱れて、熱を帯びていく。

(……そういうこと。そういうことなんだね、もう)

 そこで、ようやくルビィは自覚する。

(もう見ているだけじゃ、話しているだけじゃ、ダメなんだ。それだけじゃ、もう……、満足できないんだ)

 その秘めた想いを。
 ひとつ、ひとつ、紐解くように受け入れていく。
 
(お姉ちゃんは梨子さんのことが好き。だけど、ルビィだって)

 ダイヤに問われて、自身の想いについて心を巡らせたからこそ、至った答え。
 
(きっと梨子さんのことが好きなんだ)

 恋愛感情。
 もう。もはや認める他ないだろう。
 少しでも気を抜くと溢れてしまいそうなほどに膨れ上がったそれは、耐え続けるにはあまりにも育ち過ぎていた。
 
378: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 22:06:02.66 ID:iwq+bIlG.net
 それを意識した途端、その想いは再現無く加速する。
 
(これが、恋)

 初めての気持ち。
 親にも、姉にも、友達にも、今まで誰にも抱いたことのない、不思議な気持ちだ。
 どこか恥ずかしくて、だけど、どこか居心地がいい。
 ルビィは胸に手を当てる。
 と、総身を蝕むような熱の中でも、心音は穏やかに脈動していた。

(……これが、恋)

 もう一度、しっかり確認するように心の中で繰り返す。
 と、ゆっくり顔を上げて、目の前にある梨子の顔を見る。
 
「ほ、本当に大丈夫?」

 そこにはルビィ同様、恥ずかしそうな赤面があった。

(……これが、恋なんだね)

 三度目の確認を終えて、
 ルビィは抗うことを諦め、本心のままに身を委ねる。
379: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 22:11:15.04 ID:iwq+bIlG.net
「梨子さん」

「!」

 ただ、名前を呼ばれただけ。
 たったそれだけだ。
 それだけなのに、
 どうしてか目を離せない。
 まるでメデューサに魅入られたかのように視線が固まった。
 ルビィは柔らかく笑う。
 幼い容貌の中に、含まれる凄艶。
 それと同じく垣間見得る、強い決意と覚悟。
 
(な、に……)

 見たことも無いような、力強くも艶やかな表情だ。
 梨子は必死に崩れそうな体幹を守りつつも、平静を装い、そのまま息を吐き出すように言う。

「どう、したの?」

「……あのね、梨子さん」

「……うん」

 ルビィは一息つくと、一歩。梨子のパーソナルスペースに踏み込み、体に張り付くようにその身を寄せる
 
「っ!」

 梨子は思わず一歩。近付い分だけ後ろに離れようと、

「動かないでください」

 下がる足をルビィの一声で止められた。
 反射行動だったが、ルビィの声はそれを上回り、梨子の脳に届いた。

「ル、ビィちゃん」

 ルビィは呼吸の触れ合う至近まで唇を寄せると、口を開く。

「嫌なら、その、突き飛ばしてくれていいですから」

「えっ……」

 ゆっくり。
 ゆっくりとルビィの顔が、徐々に近付いてくる。
 
「!」

 ここまできて、未だに悟れぬほど梨子は鈍くはない。
 ルビィは目を閉じて、足りない背丈を補うように少しだけ背伸びをして、梨子の唇に……、

「やっぱりダメだよ、ルビィちゃん」

 届かなかった。

「……」

 そして、それが何を意味するかもルビィは分かっていた。
380: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 22:31:56.27 ID:iwq+bIlG.net
(そっか、そう、だよね)

 ルビィの心中の熱が急に冷めて、同時に後悔だけが心の中に浸透を始めた。

(分かってたのに、うん、だって女の子同士だもん)

 視界が滲み、世界がぼやける。
 目に熱いものが溜まるのを、どこか遠くに感じていた。
 喉が、胸が、締め付けられる。
 息をするだけで決壊してしまいそうで、必死に奥歯を噛み締めて、迫り来る何かに耐える。

(……)

 耐える。が、耐えられそうになかった。
 すると、そんなルビィの悲哀と絶望が複雑に絡み合ったような表情に梨子は慌てて、

「あ、違、ルビィちゃん、勘違いしないでね。これは拒絶というわけじゃなくて、その」

 あわあわと身振り手振りに説明する。
 が、今のこの状況では、振った相手を慰めてるだけにしか見えないだろう。

(ど、ど、どうしよう。私はただ、好きを通い合わせてからそういうことをしたかったんだけど)
 
 すとんとルビィの腰が抜けて、その場にへたりこんだ。

「……」

 急に弱々しくなったルビィの姿に梨子は、

(……仕方ないよね。覚悟を決めよう)

 しゃがみこみ、ルビィの小さな肩を掴み、顔を上げさせる。
 と、

「好きです」

 そう告げた。
 想いの全てを乗せて。


 
386: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/08(土) 02:39:34.89 ID:w/GMTGNx.net
 その告白に、その真剣な眼差しに、ルビィの後悔に凍え固まったその心は、再び熱を取り戻し、日射を兆す雪路のようにじんわりと溶け広がっていく。
 
「す、き?」

 ルビィは梨子の告白の意味するところを口の中で転がし、それを咀嚼し、何度も脳裏に繰り返す。

(……す、き。すき、今、好き……、聞き間違い? 好き、好き……、好きーーー)

 徐々に実感が芽吹き、悲哀は枯れていく。
 そして、縋るように梨子の裾を掴むルビィに、もう一度。
 後押しの為に。
 今度も、最大の愛を込めて。

「ルビィちゃん、好きです」

 簡潔に伝える。
 
「……」

 ルビィは何も言わない。いや、言えない。
 喉が詰まって言葉が出てこない。
 だから、こくこくと頷き、何度も頷き、その喜悦と感銘を全面に表して、告白に応じる。
 それに今まで梨子が胸中に押し殺していた想いが、溢れ出して、
 
「好きです」
 
 再び告白の言葉に変わる。
 それにルビィは涙を目尻に溜めながら頷いて、応じる。

「……好きです」

 諾々と溢れ続ける想いが、さらに告白の言葉に変わる。
 それにルビィは、一雫の涙を零し、頷いて応じる。

「好き……、好きです」

 まだまだ想いは途切れず、それどころか激流のように勢いを増し、言葉以上の衝動に変えて、気が付いた時にはルビィのことをがばっと力強く抱き締めていた。
 
「ぅん……うん」

 何度も何度も何度も何度もーーー。
 ルビィは頷いた。
 その瞳からは、もはや我慢の堰を切り、止めどなく涙が零れ落ちる。

 そして、最後に。
 梨子はルビィを抱きながら、その耳元で囁くように言葉を置く。

「好き」

 ルビィは頷き、最後はしっかりと自分の言葉で。

「ルビィも……好きだよ」

 そう伝えた。
 
390: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/08(土) 03:24:13.99 ID:w/GMTGNx.net
 二つの視線が交わり、結び付き、そこに込められた互いの想いが交差する。

「ルビィちゃん」

「梨子さん」

 それは直前のやり直し。
 というよりは正しい順序を経て、ようやく至った行為。
 そっとルビィの頬に手を添わせ、梨子はごくりと息を呑む。
 
「……」

 ルビィは微かに顎を上げて、ゆっくりと目を閉じ、梨子のキスを待つ。
 
「……っ、や、やっぱりまだこれは、は、早いよフギャッ」
 
 が、やはり梨子には無理だった。
 しかも、慌てて飛び上がったからか足が縺れて、後ろに倒れ、尻餅をつく。
 とても締まらない。

「ぁうう」

 そんな梨子に、いつの間にか目を開けていたルビィから一言。

「……へたれ」

 その言葉を貰った。
 が、先程キスを拒まれた時とは違って、今度は晴れやかな表情で、しかも微笑を含める余裕もあった。

「ご、ごめんね。でも、こういうことはやっぱりもう少し大人になってからじゃないと」

 ごにょごにょと言い訳をするが、その姿さえも愛おしい。
 これが恋。
 ルビィはそれを強く実感し、そして、自覚しながら、ゆっくりと梨子に近付き、その頬に唇を押し当てた。

「!」

 驚く梨子に、ルビィは笑う。

(今はこれだけ、でもいつか、必ず……)

 その笑顔は、紅玉のように赤く煌めき、幸福が満面に満ち満ちていた。
 とても美しい笑顔だ。
 それに釣られて、梨子も思わず笑顔を零す。
 お互いに笑い合い、ぴったりと親愛を示すようにぴったりとおでこをくっつけた。
 そんな二人の姿を遠目に眺めて、ダイヤは一人。

(おめでとう、ルビィ)

 妹が離れていく寂寥感を抱きつつも、笑った。


 
392: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/08(土) 03:55:36.91 ID:w/GMTGNx.net
 この先、二人には障害が、試練が、乗り越えなくちゃならない壁が幾つも迫り来るだろう。
 名家の生まれということもあって、
 黒澤の両親はまずルビィの想いを認めることはないだろう。
 まず直面する第一の問題が恐らくこれだ。
 それも致し方ないことではある。
 名家に生まれた者には、それ相応の責任が人生についてまわるからだ。
 だからまずは両親を説得する必要がある。
 が、これはルビィが己の想いを受け入れることよりも、遥かに難しい問題である。
 このまま梨子と共に歩み続けたいのならば、勘当されることも覚悟しなくてはならないかもしれない。
 それにもし仮に父と母に認められたとしても次は、その先の世間の壁がある。
 幸い世間は、同性愛を容認する社会に傾きつつあるが、それでも未だ個人としては、同性愛者への偏見は根強く残っているだろう。
 さらに子供が出来ないということもあり、老後などの心配もある。
 他にも色々と、問題や障害を上げれば限りがないほどに。
 二人が歩もうとしているのは、そういう茨の道である。
 
 だからダイヤは思う。

(いつか破局を迎えるかもしれない。でも、その時に今日の選択を良かったと思えるように、姉として、先輩として、心より祈ってますわ)

 未だに仲睦まじく笑い合う二人を遠目に眺めながら、そう強く確かに思うのだった。





 
 
393: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2017/04/08(土) 03:57:45.57 ID:w/GMTGNx.net
一応これにて完結
最初はストーカーから始まったのにどうしてこうなった
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『梨子(ルビィちゃん……、やっぱり可愛いなぁ)』へのコメント

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