なんでもない私たちの夏

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曜-アイキャッチ3
ピンポーン。次、止まります。
機械的な音声がバスの中に響く。
いつものことだけど、遠いと家に行くまでが大変なんだよね。
その分、会えるときのワクワクが大きいのかもしれないけど……隣に住んでる梨子ちゃんが羨ましいや。


「あっつ…」

pixiv: なんでもない私たちの夏 by ash

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冷房が効いた車内から外に出れば温度差でクラクラした。
ミンミンとセミの声が煩い。
バス停から少し歩いて旅館の前で止まる。
あ、裏口からって言われてたっけ。
暑さでだるい体を動かして、裏口から入った。


「お、涼しい。さすが旅館!」

「んぁ?あれ、曜ちゃん早かったね」

「う、うん。一本早いバスに乗れたから」


タンクトップ一枚でアイスキャンディーを頬張る姿は私には刺激が強くて思わず目をそらした。
室内で涼しいはずなのに顔がやたらと熱くて、また汗が出てくる。


「どしたの?」

「なんでそんな薄着なの…?」

「あーこれね。今部屋の冷房壊れちゃってさー……お昼寝してたんだけど暑くって!」

「あはは…それは災難だったね」

「……ねぇ、なんでさっきからこっち向いてくれないの?」


ズイッと顔が近付く。
汗の匂いと千歌ちゃんの匂いが混ざり合って、私の鼻孔をくすぐる。
無自覚でこういうことするから、千歌ちゃんはずるい。


「もー!なにー?」

「い、いや…千歌ちゃんにドキドキ、しちゃって……」


馬鹿正直に答える私の言葉で「へ?」と固まった千歌ちゃん。
ポタリとアイスが千歌ちゃんのタンクトップに落ちた。


「あ、えと、その…き、着替えてくるね!」

「わ、わかった!」


……心臓に、悪い。
無邪気ないつもの千歌ちゃんから、ちょっぴり大人な顔になって。
まだ顔の熱も取れていないうちに千歌ちゃんが帰ってきた。


「お、おまたせ!」

「早い、ね?」

「え?そうかな?」

「うん、そんな気がする」


帰ってきた千歌ちゃんは暑いからか髪を軽く結っていた。
首筋に一滴の汗が流れていく。


「あー…髪短いからすぐ出てきちゃう」


ホロリ。落ちてきた髪を耳にかける。
なんだか色っぽいな、なんて思った。


「ん?ぼーっとしてるけど、平気?」

「あ、う、うん!全然平気!」

「そう?それならいいけど……」

「あ、そうだ。なんかね、美渡姉に他の部屋使っていいか聞いたら、子どもなんだからそれくらい我慢しろー!って言うんだよ!?おかしいよね!」

「あ、じゃあ外出ない?」

「うぇー…ただでさえ暑いのに外行くの?」

「海、見ようよ!防波堤のとこでさ!」

「むー……いいけど、ちょっと待っててね!」


ちょっと不満げに走っていく後ろ姿を見つめる。
結った髪の毛がちょこちょこ動いていて可愛らしい。
少しすると、麦わら帽子をふたつ持って戻ってきた。


「はい、曜ちゃんの」

「ありがと!」


麦わら帽子を被ってサンダルに足を引っかける。


「暑いしコンビニでアイス買おー」

「さっきまで食べてなかった?」

「途中で落としたからノーカン!」


千歌ちゃんの家からそう遠くないコンビニでみかんアイスを購入。
そのまま近くの防波堤に並んで座った。
小さいときから夏場はよくみかんアイスを半分こして、ずっとおしゃべりしてたっけ。
なんだか、タイムスリップしてきたみたいだ。


「ふふ、おいしいね」

「どうしたのさ。いつも食べてるのに」

「そうだけど。なんかいつもよりおいしく感じる」

「そう?」

「うん。暑いし、曜ちゃんと半分こだからかな」


にぃ、って悪戯に笑ってみせる彼女の頬を軽くつねる。


「またそうやって」

「照れてる曜ちゃん、かわいいんだもん」


私の髪を撫でる。
なんだか気恥ずかしい。


「……暑いね」

「半分は、千歌ちゃんのせいだけど」

「暑いのも半分こだね」

「じゃあ、ドキドキも半分こ、したい」


肩を引き寄せられて、距離が近付く。
あと、10cm。5cm。3cm。……0cm。
なんでもない一日の、ちょっとだけ特別なお話だ。


おしまい。
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