にこ「紅白饅頭」

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にこ-アイキャッチ44
ラブライブ!優勝から数年。
私は芸能界入りしアイドルとなった。
そして今、私は毎日のようにメディアに出演するほど有名になった。

“綺羅ツバサさんとともにアイドル界をけん引している”なんて記事を読んだときには少々恥ずかしかった。
それでも人気トップクラスであることは間違いない。
「元スクールアイドルの2人は、プロとなった今なおよきライバル」という記事も、的を射ているといえよう。

「綺羅ツバサとは対照的な経歴にも関わらず、その実力でトップアイドルにのぼりつめた」
という、「非エリートからの出世」も人気の理由だ、なんて分析もされた。
どの分野でも、サクセスストーリーは人気になるようだ。

こうして有名になったため、今やアイドル以外の仕事も増えた。
あるときはCM出演、あるときはモデル、あるときはラジオのパーソナリティ…
当然、バラエティ番組にも出演する機会は多い。

その中でも、特に人気の企画がある。

pixiv: にこ「紅白饅頭」 by tsugarulefthors

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”矢澤にこのお菓子でにこにー”



「にっこにっこにー♪にこにーこと矢澤にこにこー♪」

「今回はにこにーが、渋谷にお邪魔します!」

 某番組内の企画である。
 私がお菓子屋さんにお邪魔して名物お菓子をいただく、というタイトルの通りの内容。
 身もふたもないことを言ってしまえば、ただのグルメ企画。しかしこの企画もまた大人気だそうだ。
 私自身お菓子は好きだし、ブレイク直後に起用された縁も大きく、愛着のある企画だ。
 
 こういう企画に付き物なのが、取材NG。
 当然、お店側の意向が最優先だから、撮影をお断りされたら引き下がるまでだ。
 しかし、私がおすすめしたいお店もまた取材NGなのは少々悲しいのだが。



 さて、夏も本番という頃に連絡が届いた。

『にこちゃん、オフの日はある?空いてる時間が少しでもあればその日でもいいけど…』

 穂乃果からの通知。
 この忙しい宇宙No.1アイドルに、よくアポイントメントをとろうとしたものだ。
 とはいえ、4日後はちょうどオフ。

『ありがとう!それじゃあ…』

 こうして、私は穂乃果と面会する予定をたてた。



 4日後、私は当初の約束通りに穂むらを訪ねた。

「ごめんください」

「いらっしゃいませ!あ、にこちゃん!」

 店頭には穂乃果のお母さんと―高坂穂乃果の姿がそこにあった。



「久しぶりに会ったけど、相変わらず元気そうじゃないの」

「にこちゃんから毎日元気をもらってるからね!」

 むしろ穂乃果は元気を分けるべきではないだろうか。余っているだろうに…。

 しばし穂乃果と会話したところで、あの質問をしてみることにした。



「ところで、どうして取材NGなのよ?」

 手土産で菓子折りを持っていくときには、必ず穂むらの箱菓子にしている。
 だから私は、穂むらを一度紹介したいのである。
 別に見返りを求めるとかではなく、ただただおすすめのいきつけを紹介したいだけ。

 しかし、私が和菓子を買ったときに交渉しても、穂むらは取材NG。
 
 この機会にと、私は切り出してみた。

 切り出した瞬間、雰囲気が急変したように感じた。

「…師匠であるお父さんがあまりテレビに映りたくないとか、常連さんのこともあるから、ってこともあるけど…」

「私を取材したい、って言われて違和感があったことが大きかった」

「それはどういう…?」

 前半の理由はよくあるパターンだ。実際にそう言われて断られてもいる。
 しかし後半については、一度では理解できなかった。



「私は高校を卒業して、製菓学校に入学したと同時にお父さんに弟子入りした」

「スクールアイドルは、あくまで元々”廃校阻止のため”だったからもうやりきったし」

「それにやっぱり、音ノ木坂を残したように、穂むらも残していきたかったわけで」

「だけど、製菓学校を卒業して、本格的に修行し始めたら…」

「私に取材の問い合わせがくるようになったんだよね」

「”矢澤にこと共に活動した元スクールアイドル”として紹介したい、って内容で」



「気持ちはわかるんだよ?にこちゃんが活躍し始めてきた頃と重なるから…」

「あの当時のメンバーはどうしているのか、取り上げたくなるのも」

「だけど”元スクールアイドル”として紹介したい、って内容ばかり」

「それが嫌だった」

「今の私は”和菓子職人の見習い”であって、”元スクールアイドル”はいらない、って」



「それに、”和菓子屋さんだから、和菓子を取材してほしい”と思ってる」

「”おいしくて美しい和菓子を作る、一人前の和菓子職人”として穂むらを継ぎたいし…」

「和菓子職人だから、自分の作った和菓子で頑張りたいもん」

「にこちゃん、お仕事のときは”アイドル”として見てほしいでしょ?」

「”元スクールアイドル”としてじゃなくて、自分の歌とかダンスで勝負するよね?」

「だけど見習いのうちから”元スクールアイドル”なんて目で見られても嬉しくないよ」

「お父さんとか常連さんのこともあるけど、そういう私自身の気持ちもあって」

「それで今まで断ってきたんだよ」



 つまり、穂乃果は固定観念を避け、本業たる和菓子職人として生きていくために、取材を断っていたわけだ。

「にこちゃんは、ずっと”アイドルになりたい”って夢を持ってて、それを叶えた」

「そのアイドルへの情熱をずっと持ってるにこちゃんを尊敬してるんだよ?」

「にこちゃんは”みんなを笑顔にさせることが、アイドルの仕事”って言ってるよね?」

「私も、みんなが笑顔になれるような和菓子を作る職人になりたい」

「だからこそ、和菓子の腕前だけで評価されたいんだ」



 今、穂乃果は”和菓子職人”を目指して頑張っている。
 私が”アイドル”を目指して頑張り、”アイドル”になったように。
 そうか。穂乃果は自分の夢に向かって歩いているんだ。



「それとね…」

 穂乃果が箱を差し出した。

「にこちゃん、開けてみて?」

 言われるがままに蓋を開けると―
 紅白饅頭が1組。
 紅い方には白で「に」、白い方には赤で「こ」の文字が入っていた。



「あともう少しで、にこちゃんのお誕生日でしょ?」

「だからこれもお父さんに無理を言って、私が最初から一人で作ったんだ」

「”まずい餡なんか作った日にゃあ、家にいられねぇと思え”なんて言われて怖かったけどね」

「和菓子となったら師匠と弟子の関係だもんね…」

「それはともかく、ちょっと早いけど、にこちゃんへの誕生日プレゼント」

「にこちゃんがアイドルになったように、私も穂むらを継げるように頑張るからね」



「生まれてきてくれて、ありがとう」

「ありがとう。穂乃果が一人前の職人になれるように、応援してるからね」



 一人暮らしのマンションに帰宅後、紅白饅頭を食べてみた。

「ふん…ほむまんには程遠いわよ…。こんなんじゃ、まだまだ見習いのままね」

 事実今の穂乃果の饅頭じゃ、確かに見習いレベルの出来の饅頭だ。
 でもなぜか、穂乃果が私のために一所懸命になったことが伝わってくるのだ。

 さながら、「アイドルとファン」の立場が逆転した感覚だ。



 それにしても、「おめでとう」はいっぱい聞いてきたが、「生まれてきてくれて、ありがとう」なんて言われるとは思わなかった。
 
 私が感謝されるようなことをしたとは思えない。
 むしろ、私が感謝すべきなのだ。
 今アイドルとして活動できるようになったのは穂乃果のおかげなのだから。
 しかし穂乃果にとっては、私は特別な人間なのだろう。



 だけど取材NGの背景を聞いたときは、私もはっとさせられた。

 私の場合、”元スクールアイドル”はプラスにもなりうる。

 アマ強豪選手がプロ選手に移行、といった感じだからだろう。

 だが副作用が発生することもある。穂乃果はそこまで考えていたのだ。



 一方で、知ったこともある。

 穂乃果は穂乃果なりに、自分の夢に向かって進んでいることだ。

 だったら、あまり心配しなくてもいいんじゃないかしら。

 なんだかんだで、自分の目標をやり遂げそうな気がする。

 私がパフォーマンスでみんなを笑顔にさせているように、穂乃果が和菓子でみんなを笑顔にさせる日は、いつか必ずくるだろう。

 と、それなら穂乃果には負けていられないわね…明日もみんなを笑顔にさせられるように頑張らないと。

 穂乃果をがっかりさせないためにも、穂乃果にお手本を示すためにも、ね。



 紅白饅頭最後の一口を食べながらそう思った。





あとがき
「見習いの職人に餡を作らせるのだろうか」
「高坂父が話すのか」
等様々実際とはかけ離れている点が多いと思いますが、
それらについては脳内補完ということでお願いします…
しかしにこさんの出演企画はぜひとも拝見してみたいですねえ…
ありがとうございました。(了)
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