女子大生海未「穂乃果。セックスを前提に結婚してください」穂乃果「いやだ」

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海未-アイキャッチ28
1: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:24:11.18 ID:uTBftApx.net
海未「なんでですかー!?」

穂乃果「私たちまだ18歳なんだよ?」

海未「法的には何の問題もありません!」

穂乃果「でも、未成年の結婚には親の同意が必要だしさ」

海未「それは……」

穂乃果「………やっぱり学生の内に結婚するなんて無茶だよ。非現実的すぎる」

穂乃果「この4月から大学生活が始まるんだし、お互いに現実を見ないとね」


海未「………」

元スレ: 女子大生海未「穂乃果。セックスを前提に結婚してください」穂乃果「いやだ」

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4: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:26:00.02 ID:uTBftApx.net
海未「……それなら卒業後に結婚しましょう」

穂乃果「え?」

海未「大学を卒業したら、私と結婚してください!」

穂乃果「いやいやいや…」

海未「ダメですか…?」

穂乃果「………」



穂乃果「……わかった。卒業後なら結婚してもいいよ」

海未「本当ですか、わーい!待ちに待った穂乃果との新婚生活!」

穂乃果「う、海未ちゃん…。気が早すぎだよ」

海未「穂乃果、約束ですよ?向こうに行ってる間も浮気は許しませんからね!」

穂乃果「はいはい。わかってるよ」



穂乃果「………それじゃあ、元気でね」

海未「はい!」




こうして私たちはそれぞれの道へと進んだ。

またいつか巡り会うために。
5: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:27:13.68 ID:uTBftApx.net
#1

音ノ水女子大学 食堂



海未「………」

海未「……むっ。これは中々の味ですね…」

海未「………」


ことり「海未ちゃん!お待たせ~」

海未「あ、ことり。遅かったですね」

ことり「さっきの講義が長引いちゃって…。今日は何食べてるの?」

海未「きつねうどんです。出汁がお揚げに染み込んでとても美味しいですよ」

ことり「へー。私もお昼はお弁当じゃなくて、食堂のごはんを食べようかな~」

海未「ことりはお母さまが毎朝お弁当を作ってくださるのですから、ありがたく頂戴するべきですよ」

ことり「……うん、それもそうだね」
6: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:28:21.11 ID:uTBftApx.net
ことり「それじゃあ、いただきます~!」

海未「ことりのお弁当はいつも色彩豊かですね」

ことり「栄養が偏らないよう献立を考えてくれてるから、かな?」

海未「……でも私のきつねうどんも負けていませんよ!」

海未「麺、お揚げ、出汁、ネギ、かまぼこが入っています!さらにかまぼこは2色なので計6色もあるんですよ!参りましたか!」

ことり「海未ちゃんはどうしてすぐに競おうとするの!?」
7: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:29:30.50 ID:uTBftApx.net
海未「美味しいですね…」

ことり「うん。美味しいね…」

海未「………」

ことり「………」



海未「……穂乃果は、ちゃんとごはんを食べているのでしょうか…」

ことり「え…!?」

海未「……どうかしましたか?」

ことり「い、いや…。なんでもないのよなんでも………」

海未「?」



ことりは少し動揺しているように見えました。

穂乃果に関して、何かやましいことでもあるのでしょうか?
8: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:30:20.24 ID:uTBftApx.net
ことり「……あ、もうこんな時間だ。そろそろ次の授業の教室に移動しなきゃ」

海未「ことりは三限があるのですか?」

ことり「うん、あるよ……って海未ちゃんも三限の講義あるよね?」

海未「今日は休講なんですよ」

ことり「あれ、そうなの?」

海未「ええ。自主休講ですが」

ことり「ん…?」
9: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:32:20.22 ID:uTBftApx.net
海未「さーて。せっかくの空きコマですし、久しぶりにサークルの方へ顔を出しましょうか」

ことり「海未ちゃんは確か、登山サークルに入ってるんだったよね?」

海未「はい。……と言っても、新歓以来サボっていましたが」

ことり「そっか。じゃあ頑張ってね」

海未「ことりも、講義頑張ってくださいね」

ことり「講義を頑張るというのもおかしな話だけど…、うん。じゃあまた明日~」
10: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:34:18.83 ID:uTBftApx.net
#2

登山サークル 部室


海未「………」

海未「……鍵が空いていませんね。まだ誰も来ていないみたい…」



先輩「どうかしたの?」

海未「ひゃぁ!?」


先輩b「えっと…園田さん、だったよね?」

海未「は、はい」

先輩b「まあまあ、そんな緊張せずにその辺座って座って」

海未「はい。失礼します…」



先輩b「………」

海未「………」



この沈黙は他の先輩方が来るまでの間、10分続きました。

新歓で顔を合わせた程度の先輩と、二人きりで同じ部屋に閉じ込められるのは、まさに拷問とも言えるものでした。

二ヵ月という時間の壁は想像以上に大きかったのです。

「私は何故ここに来ようと思ったのでしょうか…」「これなら授業に出ておけば良かったです…」

後悔の念に駆られ始めた頃、部室の扉をくぐる者が現れました。
11: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:35:41.01 ID:uTBftApx.net
先輩a「おはよ~。お、園田さん来てるね」

海未「おはようございます」

先輩c「ほんとだ。あれ?もしかして園田さん、新歓以来なんじゃ?」

海未「……そうなりますね」

先輩a「いやー園田さんが戻って来てくれて良かったよー」

先輩c「このサークル、ただでさえ人数が少ないのにさ、新入生は園田さんしか入ってくれなかったからね~」

先輩b「やっぱり都内の女子大だと、登山好きなんて変わり者は中々いないよね」

先輩c「一番の変わり者に言われたくないわ!」

先輩「ははははは!」



海未「は、ははは…」
12: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:37:29.63 ID:uTBftApx.net
先輩a「……そうだ。園田さんはメール読んだ?」

海未「あ、はい。読みました」

先輩b「メール?」

先輩a「ほら、夏休みの登山企画のことよ」

海未「……富士山に登るんですよね?」

先輩c「そうそう!夜の富士山を登って、みんなで富士の御来光を見ようって企画!」

先輩a「園田さんは富士山の登山経験はある?」

海未「はいありますよ。ですが、山頂からの御来光というのは今回が初めてです」

先輩b「いいじゃん!こういうのって人生においてすごく大切な思い出になるんだろうね」

海未「はい。私も楽しみです!」



メールの確認という用が済んだので、私は適当な理由を付けて退室しました。

登山サークルは他の部活に比べてとても良い環境だと思います。

ここが唯一、新歓でお酒を飲まされなかったサークルでした。

メンバーも和気藹々と楽しそうにヤマのことを語ります。

私が登山サークルに入らない理由が見つかりませんでした。


しかしながら、私の居場所はここではないと思わずにはいられないのです。
13: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:40:19.95 ID:uTBftApx.net
#3

レポートをまとめ終え帰る道すがら、公園で旧友と出会いました。


絵里「………あ、誰かと思ったら海未じゃない。久しぶりね!」

海未「はい、お久しぶりです。絵里はこんな所で何をしてるんですか?」

絵里「ちょっと探しモノをね~」



そう言って絵里が渡してきたチラシには、『迷い猫探してます。』という文字が大きくありました。


海未「……猫探しですか?」

絵里「ええ、そうよ。大学の友達に頼まれたんだけど断れなくて…」

海未「へー」



私は空返事をし、もう一度紙に目をやりました。


猫の名前はリッチー。

ロシアンブルーのようですが肥え太っていて、まるでドラえもんのようです。

こんなに特徴のある猫ならば、すぐに見つかるでしょうね。
14: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:41:21.24 ID:uTBftApx.net
絵里「海未は登山サークルに入ったのね」

海未「え…はい。何故そのことを知ってるんですか…?」

絵里「ことりが教えてくれたのよ」

海未「ああ、ことりでしたか。なるほど」



絵里は公園内のベンチに腰を掛け、空を仰ぎながら呟きました。


絵里「………最近、μ'sの頃のメンバーで交流があるのはことりだけなのよね…」

海未「そうですね。私も同じです」

絵里「にこはアイドル業が忙しいみたいだし、希は相変わらずだし…」

海未「まきりんぱなの3人は受験生なので、こちらから連絡するのも憚られますもんね」
15: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:44:59.29 ID:uTBftApx.net
絵里「穂乃果は………確か、京都の大学に行ってるんだったわよね?」

海未「……はい。どこの大学かは知りませんが」

絵里「海未は穂乃果と連絡を取ってないの?」

海未「……高校卒業以来、メールも電話もしていません」

絵里「変な意地を張らず、連絡してあげたら?」

海未「………」



意地ですか…。

確かに私は、穂乃果に対して意地を張っていたのかもしれませんね…。

帰ったら、久しぶりに穂乃果の声を聴きますか。
16: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:49:49.88 ID:uTBftApx.net
#4

学生寮


海未「ただいま帰りました」

k子「んー……海未ちゃんおかえり~」

海未「うっ!酒臭いですよ、また飲んでたんですか?」

k子「あー説教とかマジいいから…。頭に響く」

海未「まったくこの人は…」



私は大学進学にあたり、家を出て学生寮に住むことにしました。

そして、私のルームメイトがこのk子さん。

k子さんは現在4回生で、本来なら就活に追われる年のはずなのですが、この人は日夜飲み会や合コンに明け暮れています。

彼女はいわゆる、うぇーいやパリピと呼ばれる種族の人間です。


ちなみに、"k子"という呼び名は私が勝手に付けたものです。
17: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:51:11.40 ID:uTBftApx.net
海未「k子さん。いつまでゴロゴロ寝ているんですか?」

k子「あと5分…」

海未「まだ寝るつもりですか!」

k子「ちょ、うるさいって…耳障り」

海未「はぁ…」



海未「今から電話するので、大音量でYouTube流したりしないでくださいね?」

k子「わかってる、ちゃんとイヤホンするから」

海未「………」
18: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:52:27.58 ID:uTBftApx.net
k子「……電話しないの?」

海未「こ、これからするところですよ!」



私は勢いのままダイヤルを回しました。
19: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:53:32.10 ID:uTBftApx.net
#5

プルルルルル。

電話のコール音が十回ほど流れたあと、懐かしい声が聴こえてきました。



穂乃果『………もしもし。穂乃果です』

海未「あ、えっと…」

穂乃果『あれ。もしかして海未ちゃん?』

海未「……はい。海未ちゃんです」
20: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:54:23.46 ID:uTBftApx.net
穂乃果『どうしたの?急に電話なんか掛けてきて』

海未「……穂乃果の声が聴きたくなったんですよ」

穂乃果『ふーん。そっか』



海未「………元気ですか?」

穂乃果『元気だよ。海未ちゃんは?』

海未「私も元気です」



海未「そちらの天気はどうですか?もう梅雨入りしてるんですか?」

穂乃果『今日は雲一つない快晴だよ。梅雨入りは来週だって片平さんが言ってた』

海未「そうですか。それはよかったですね」
21: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:55:28.13 ID:uTBftApx.net
海未「………」

穂乃果『……どう?大学生活は』

海未「私は充実した毎日を過ごしていますよ」

穂乃果『ふーん。海未ちゃんは確か、登山サークルに入ってるんだよね?』

海未「はい…。どうして穂乃果も知ってるんですか…?」

穂乃果『ことりちゃんに聞いたんだ』

海未「またことりですか…」



穂乃果『海未ちゃん、彼氏とかできた?』

海未「何言ってるんですか…!穂乃果と婚約しているのに、そんな低俗なものを作るわけありません!」

穂乃果『……ん?婚約って?』

海未「え…。大学を卒業したら結婚すると約束しましたよね…?」

穂乃果『………あー思い出した。そういえばそんな約束もしたっけ』

海未「忘れてたんですか!?」

穂乃果『冗談冗談。ちゃんと覚えてたよ』

海未「まったく…あなたという人は…」
22: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:57:19.35 ID:uTBftApx.net
穂乃果「海未ちゃんは今どこにいるの?授業は終わったの?」

海未「はい。自主休講したので今は学生寮に戻っています。穂乃果は今どこにいますか?」

穂乃果「私も…学生寮だよ」

海未「ほう、穂乃果も私と同じで寮住まいなんですね」

穂乃果「……うん、そうだね」

海未「私の住んでる寮は二人部屋ですが、穂乃果のとこは何人部屋なのですか?」

穂乃果「二人部屋だよ。米子さんっていう人と同じ部屋なんだ」

海未「米子さん、ですか」

穂乃果「うん。今年で米寿だから米子さんって呼んでるの」

海未「米寿!?88歳で大学に通ってるんですか!」

穂乃果「あ…うん。戦争の話とかしてくれてすごく面白い人なんだよ!」

海未「そうですか。是非私のルームメイトと交換してほしいですね」

穂乃果「えー嫌だよ~。米子さんは渡さないよ!」
23: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 15:59:56.67 ID:uTBftApx.net
その後、私たちは長く話し込みました。

積もりに積もった話や感情が、一気に弾けたのです。



穂乃果「へー。授業中にお弁当食べる人なんて本当にいるんだ」

海未「そうなんですよ!これがまた傑作で…」

穂乃果「………あ、ごめん。そろそろ電話切るね」

海未「え…?まだ話したいことが山ほどあるのですが…」

穂乃果「ごめんね?また今度お話しようね。それじゃ!」



ツーッという無機質な音だけが耳に残りました。
24: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/07(金) 16:03:19.06 ID:uTBftApx.net
海未「………」

k子「……今の、彼氏?」

海未「違いますよ…」



海未「あ、そうです。k子さん宛てに郵便が届いてましたよ」

k子「はいはーい。机のとこ置いといて~」

海未「……はい」



私は郵便の宛名を改めて確認しました。

そこには、『k#@92Я0\?\』と書いてあります。


私にはどういうわけか、k子さんの名前を認識することができません。

k子さんの名前を聴けばノイズが入り、
k子さんの名前を見ればボヤけたり文字化けして見えます。

私は、この人の名前がわからないのです。

だから私は、この人のことを仮名として"k子さん"と呼んでいます。
40: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 00:19:12.52 ID:Zjw8CoU2.net
#6

本格的に梅雨入りし、ジメジメとした嫌な空気が立ち込める6月のある日。

私は、先輩からの呼び出しを食らいました。

指定された場所は、大学の近場にあるファミレス。


絵里「来たわね、海未」

海未「なんですか?いきなり呼び出しとは」

絵里「……海未に私の相談を聞いて欲しいのよ」

海未「絵里が私に相談事とは珍しいですね」

絵里「私も、誰かに悩みを打ち明けたい時があるのよ」



そう言うと絵里は、店員にドリンクバーを2つ注文しました。

「私の奢りよ♪」とドヤ顔で言う絵里。

260円(税込)を奢っただけで威張らないでほしいものです。
41: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 00:23:40.83 ID:Zjw8CoU2.net
海未「………して、相談とは何ですか?例の猫のことですか?」

絵里「ん?猫って何のこと?」

海未「……前に猫探ししてたじゃないですか」

絵里「あー、思い出したわ。リッチーのことね!」



最近の女子大生の間では忘れたフリが流行っているのでしょうか…?


絵里「猫はまだ見つかってないのよ」

海未「まだなのですか?あんなに太っていれば、そう遠くまでは行けないと思いますが」

絵里「それが見つからないのよね~」

絵里「どこか、異世界にでも迷い込んじゃったのかしら?」
42: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 00:27:46.01 ID:Zjw8CoU2.net
絵里は、コーラとメロンソーダを配合したゲテモノを飲んでいます。

見た目はグロテスクでしたが、絵里曰く意外と美味しいそうです。

私は、カルピスとオレンジジュースを配合したゲテモノを飲んでいます。

色は綺麗なのですが、可もなく不可もなくといった普通の味です。


絵里「………で、ここからが本題よ」



絵里は鞄から一枚の写真を取り出し、私の前に置きました。

その写真には、タージマハルを背景に、ヒジャブを被った女性が写っていました。


絵里「それは希よ」

海未「ええ!?これがですか…?」

絵里「昨日、希から送られてきたの。ずっと連絡がなかったと思ったらいきなりこれよ。ねえ、海未はどう思う?」

海未「どう、と言われましても…」
43: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 00:30:38.21 ID:Zjw8CoU2.net
海未「………確か、希も元々は音ノ水に通っていましたよね?それがどうして中退することになったのですか?」

絵里「わからないわ…。ある日突然、『うち転校するわ!』と言い残して音信不通になってしまったのよ」

海未「奇想天外な人ですね。で、希は現在インドにいる…ということですか」

絵里「そうみたいね。一緒に送られてきた手紙によると、今はユニバース大学という所に通っているらしいわ」

海未「ユニバース大学…」

絵里「………英語にすると、ユニバースユニバーシティね」

海未「ダジャレですか!」

絵里「この写真も、ユニバース大学のキャンパス内で撮ったそうよ」

海未「タージマハルが大学の敷地内にあるわけないじゃないですか!」

絵里「そうよね…?おかしいわよね…」

絵里「私もなんだか、希のことがよくわからなくなってきたわ」
44: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 00:39:23.33 ID:Zjw8CoU2.net
海未「絵里も大変ですね。希に振り回されて」

絵里「わかってくれる?私の気持ち」

海未「ええ、わかりますよ」

絵里「……やっぱり海未に相談して正解だったわ」

絵里「私たちは、大切な人が離れていってしまった者同士。同じ境遇なのよ」

絵里「私と海未は、たぶんどこかで繋がっているて、気持ちを共有しているんでしょうね」

海未「詩的なことを言うんですね。でも、嫌いではありません」

絵里「………ねえ、よければまた私の相談に乗ってくれる?」

海未「ええ、いいですよ」


ここで一拍。


海未「ただし、今度はチーズインハンバーグも奢ってくださいね?」

絵里「うぅ、海未も現金になったわね…」



眼を潤わせて上目遣いする絵里の姿が、今日の一番のご馳走でした。
46: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 00:55:26.40 ID:Zjw8CoU2.net
#7

海未「まったく…。休日だというのに大学へ足を運ぶことになるとは」

海未「まあ、レポート提出が遅れた私の責任でもありますが…」



凛「おーい!海未ちゃん~!」

花陽「わあ、海未ちゃんだ~!」

真姫「………久しぶり」


海未「凛に花陽!それから真姫も!」
47: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 00:59:37.07 ID:Zjw8CoU2.net
海未「まきりんぱなの3人が、どうして音ノ水に?」

花陽「あれ?海未ちゃんは知らないの?」

真姫「今日は音ノ水女子大学のオープンキャンパスの日でしょ」

海未「ああ、そうだったのですか」

真姫「在学生なのにどうして知らないのよ?」

海未「実行委員以外の学生には関係のないイベントですので…」


海未「あ、そういえば絵里はOC実行委員でしたね。もう会いましたか?」

花陽「絵里ちゃんならさっき会って、キャンパス内の施設をいろいろ案内してもらったよ」

凛「久しぶりに会った絵里ちゃん、なんか小さくなってたよね」

花陽「うんうん。絵里ちゃんは歳を重ねるごとに若返ってる気がするよね」

真姫「どんな数奇な人生よ…」
48: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:02:38.65 ID:Zjw8CoU2.net
海未「………3人はもう、昼食は済ませましたか?」

真姫「いいえ、まだよ」

海未「でしたら、食堂で一緒に食べませんか?もちろん私の奢りで!」

花陽「奢り!?」

凛「おお!お待ちかねの大学飯だー!」

真姫「悪いわよ、海未の奢りなんて…」

海未「遠慮は要りません!先輩としての度量の大きさを見せてあげます!」

凛「そうと決まれば早速食堂に行くよ~!」
49: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:04:04.71 ID:Zjw8CoU2.net
音ノ水女子大学 食堂


凛「おー、結構広いんだね~」

海未「ここで食券を買い、厨房のおばちゃんに渡してくださいね」


ここで一拍。


海未「はい、一万円です!これで好きなだけメニューを選んでください!」

凛「うわ、ドヤ顔…」

真姫「気持ち悪い」

海未「なっ!?」
50: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:05:13.94 ID:Zjw8CoU2.net
花陽「うわぁ…どれも美味しそうだなぁ…」

真姫「海未はいつも食堂でごはんを食べてるの?」

海未「はい。ここの食堂のおすすめは何と言ってもうどんです!」

凛「ラーメンはないのかー。じゃあ私はきつねうどんで」

真姫「私は…月見うどんで」

花陽「ええ!?二人はうどんなの?どうしよう、私は日替わり定食が食べたいけれど………」

海未「周りに流されず、花陽の好きなものを選べばいいですよ」

花陽「……うん!じゃあ私は日替わり定食3つで!」

海未「3つ!?」
51: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:06:37.95 ID:Zjw8CoU2.net
花陽「ん~♡美味しいね!」

凛「この味を毎日楽しめるなんて、音ノ水の学生が羨ましいよ!」

真姫「………まあ、悪くはない味ね」

凛「お、真姫ちゃんが珍しく料理を褒めたよ!」

花陽「真姫ちゃんのお墨付きいただきましたー!」

真姫「いや、別に褒めてないわよ…」


海未「……3人は、もう進路は決まってるのですか?」

凛「私はここを受けるよ!海未ちゃんと同じ学校に行きたいし!」

花陽「花陽も、進学するなら音ノ水かな」

海未「そうですか、それは嬉しいですね。私のキャンパスライフもより賑やかになります」

凛「入学できたら毎日この食堂に通うよ!ね、かよちん?」

花陽「もちのろんだよ!!」
52: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:10:53.27 ID:Zjw8CoU2.net
真姫「………」

海未「真姫は、医大に進学するんですよね?」

真姫「まあ、そうね…」

凛「真姫ちゃんは毎日いっぱい勉強してて、偉いね~」

花陽「偉いね~」

真姫「撫でないで!」


海未「……凛は、勉強の方は大丈夫なのですか?」

海未「この大学は一応国立ですし、偏差値も女子大の中では最も高い学校です。合格するのは大変ですよ?」

凛「あーそれなら心配いらないよ」

花陽「凛ちゃんにはすごい家庭教師がついてるもんね!」

海未「家庭教師…?」

真姫「私が凛に付きっ切りで勉強を教えてあげてるのよ。だから凛は絶対に合格するわ」

海未「真姫…。友達思いの良い子に育ちましたね…」

真姫「だから撫でないで!!」
53: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:11:32.59 ID:Zjw8CoU2.net
凛「あ、もうこんな時間だ」

海未「どうかしましたか?」

花陽「13時から学科別説明会があるんだ」

凛「私たちは文学部だから…2-252号室だね。海未ちゃんはまだ学校にいるの?」

海未「凛たちさえ良ければ終わるまで待っていますが」

凛「そっか。それならここで待っててね!」

花陽「じゃあ私たちはこの辺で。ごちそうさまでした!」

凛「海未ちゃん奢ってくれてありがと!じゃあね~」

海未「はい、行ってらっしゃい」



真姫「………」

海未「真姫は行かなくてもいいんですか?」

真姫「………」

海未「……真姫?」


真姫「ねえ…。海未に相談したいことがあるんだけど、時間いいかしら?」

海未「私に相談ですか。真姫の為ならいくらでも時間を割きますよ」

真姫「へ…?う、うん。ありがと」
54: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:15:27.12 ID:Zjw8CoU2.net
真姫「………私、本当は医大なんかじゃなくて、音ノ水に入りたい」

海未「え…!?」


真姫「私は小さい頃から、医者になって西木野の病院を継ぐ…という人生のレールを歩かされてきたわ」

真姫「それ自体に不満があるわけでもないし、いつからか私自身もそれを望んでいたわ」

真姫「………でも、μ'sと出会って私の思いは変わった」

真姫「私はやっぱり、音楽関係の仕事に就きたい!幼少期から培ってきたピアノの技術を活かした仕事をしたい!」

真姫「音ノ水には音楽学部があるんでしょ?なんでも、著名なアーティストを多数輩出してるとか」

海未「はい。うちの音楽学部は著名なアーティストを多数輩出していますよ」

真姫「でしょ?だから、私もこの大学に通って音楽家になるわ!」

海未「………」
55: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:18:48.94 ID:Zjw8CoU2.net
海未「そのことは、ご両親には相談しましたか?」

真姫「………いいえ、まだよ」

海未「ではまず、家族の許可を得るところからですね」

真姫「………無理よ。うちの両親が許すわけない」

真姫「私は医者になることを期待されているの。だから私の夢を認めるはずないわ」

海未「しかし、ご両親の承諾を得ないことには話が進みませんよ?」

真姫「………それなら大丈夫よ。私、家を出るから」

海未「え?」

真姫「家を出て一人暮らしするの。生活費は大学に通いながらバイトで稼いで…。あ、ルームシェアとかもいいわね!」

真姫「私はもう親の力なんて借りず、一人で夢を叶えてやるんだから!」

海未「………」
56: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:22:24.37 ID:Zjw8CoU2.net
海未「………私と同じですね」

海未「実は私、親に勘当されているんですよ」

真姫「かんどう…?」

海未「はい。園田との縁を切られました」

真姫「ど、どうして海未が…?」

海未「とても簡単な話ですよ」

海未「私は音ノ水への進学を希望する。しかし親に反対され、大げんかに。そして勘当された…というわけです」


海未「現在私は大学の寮で暮らしていますが、実家のことを思い出すたび涙が溢れてきます」

海未「ですので、真姫には私と同じような思いを味わってほしくありません」

真姫「海未…」

海未「もし音ノ水に進学し、音楽の道を志すというのであれば、ご両親の承諾を得てください。それは真姫の為でもありますから」
57: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:27:00.39 ID:Zjw8CoU2.net
真姫「………わかったわ。なんとかして親を説得してみせる」

海未「そうですか。それはよかったです」

真姫「ええ、本当に…。海未に相談できて、良かったわ…」

海未「ん?何か言いましたか?」
58: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:27:32.46 ID:Zjw8CoU2.net
真姫「……あ、海未。実はね…?私が音ノ水に通いたいと思った理由は、もう一つあるのよ…」

真姫「そ、それは…。この大学に、海未が………」

「ミャーーー!」



真姫「ね、猫…?」

海未「あ、リッチー」

真姫「リッチー?」

海未「誰かさんの迷い猫が、ようやく見つかりました」
59: 1 (spmode)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:30:14.71 ID:8tmglgc8.net
私たちが猫と戯れていると、説明会を終えた凛と花陽が戻ってきました。


凛「うわ!その猫なに?」

海未「リッチーです」

花陽「ロシアンブルーだ~!」

凛「太ってるけどかわいいね!」

海未「………」



海未「そういえば凛は、語尾に『にゃ』を付けなくなりましたね」

花陽「今更気付いたのぉ!?」

凛「はぁ…海未ちゃん鈍すぎ。だから穂乃果ちゃんに愛想尽かされるんだよ」

海未「尽かされてませんよ!まだまだ電波はバリ3です!」

凛「ぷぷ、どうだか~?」

海未「と、とにかく!オープンキャンパスが終わったなら帰りますよ!途中まで送りますから!」

花陽「うん、そうだね」

凛「よーし、さっさと帰って勉強するよー!」

真姫「あら。凛も勉強が板についてきたみたいね」

凛「うっ…。少し前までの凛なら考えられない台詞が無意識に出ちゃった…!なんか怖いよ~…」

花陽「よしよし、安心して凛ちゃん。大丈夫だよ~」
60: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:31:29.77 ID:Zjw8CoU2.net
帰り道、夕日が3人を照らしています。


凛「じゃあね、海未ちゃん~!」

花陽「今日はありがとー!またね~!」

海未「ええ、またこの大学で会いましょう!」


真姫「………う、海未。今日は色々相談に乗ってくれて…ありがとう」

海未「いえ、こちらこそ」

凛「真姫ちゃん。ほら、行くよ?」

真姫「あ、ちょっと待ちなさいよ!」



真姫「………じゃあね」

海未「はい」
61: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/09(日) 01:32:29.10 ID:Zjw8CoU2.net
私は、3人の後ろ姿が消えるのを見届けてから、絵里の家に猫を渡しに行きました。


海未「………」



すみません、真姫。

私は一つ、嘘を吐きました。



海未「………」



私にはもう、涙などありません。
80: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/13(木) 00:09:43.74 ID:3slblr1R.net
#8

地獄の前期末テストを終えたこの日。

私は、例のごとく先輩に呼び出されました。

指定された場所は、いつものファミレス。


絵里「海未~。テストお疲れさまー!」

海未「………お疲れさまです」

絵里「あら、どんよりしてるわね。頭にきのこ生えてるわよ?」

海未「ああ、なるほど…。私の学力は頭のきのこに全部吸い取られてしまったのですね」

絵里「ひどい言い訳ね…、目も当てられないわ」

海未「絵里はテストの方はどうでしたか?」

絵里「バッチリよ。もう既に進学できる単位数は揃えているわ」

海未「なんですかそれ…。絵里はポンコツキャラではなかったのですか?」

絵里「そんなキャラになった覚えはないわよ」
81: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/13(木) 00:10:25.29 ID:3slblr1R.net
絵里「あ、そうだ。例の迷い猫を捕まえてくれてありがとう」

海未「いえ、偶然見つけただけですから。……でも絵里のお役に立てたのなら光栄ですね」

絵里「嬉しいこと言ってくれるじゃない!海未、何でも好きな料理を頼んでいいわよ!」

海未「本当ですか!?では、国産トリュフ豚のステーキ(税込5,890円)を…」

絵里「ごめんやっぱ嘘。海未は優しいんだから私の財布を労ってあげて」
82: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/13(木) 00:11:30.38 ID:3slblr1R.net
結局私は、以前絵里と約束していたチーズインハンバーグを頼むことに。

絵里は店員を呼び出し、ドリンクバーとチーズインハンバーグを3つずつ注文しました。


海未「え…。私は花陽みたいな大喰らいではないので、3つも食べられませんよ?」

絵里「一つは私の分よ。まだお昼ごはん食べてないからお腹空いてるの」

海未「では、もう一つは誰の分ですか?」

絵里「……それはまあ、追い追いね」

海未「?」



注文を終えた後、私たちはドリンクバーに向かいました。

そこで絵里が大人ぶってユーヒーを注ぎ始めるものですから、私も負けじと『えすぷれっそ』をカップに淹れました。

不味かったです。

絵里も舌を出して苦そうな反応を見せました。私たちはまだまだ子どものようです。
83: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/13(木) 00:13:30.62 ID:3slblr1R.net
絵里「じゃあ、来る前に話を始めちゃいましょうか」


絵里は鞄から写真を取り出し、私の前にそっと置きました。

その写真には、ピラミッドの近くでラクダに乗っている希が写っていました。


海未「インドの次はエジプトですか。希は世界一周旅行でもしてるんですかね?」

絵里「……この写真も、ユニバース大学のキャンパスで撮られたものだそうよ」

海未「いやいや…ピラミッドが大学の中にあるわけないですよ」

絵里「……希が嘘を吐いてるかどうかなんてどうでもいいのよ」

絵里「希が無事でいてくれるなら、それだけでいいわ」



絵里はユーヒーに口をつけました。

苦そうに舌を出しています。
84: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/13(木) 00:15:17.39 ID:3slblr1R.net
私たちが話に花を咲かせていると、お待ちかねのチーズインハンバーグが運ばれてきました。


海未「3つもありますが…。残る一つはどうするんですか?」

絵里「遅いわね…。ちゃんと時間通りに来るよう言ったのに…」



「お客さま、一名様ですか?」

「いえ、先に友だちが来てるはずなんですが…」


海未「………あの声、あの髪型は…」


絵里「おーい、こっちよ~!」

にこ「……ごっっっめーーーん♡ニコニーのこと、待ったあ??」

海未「にこ!!」
85: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/13(木) 00:16:31.75 ID:3slblr1R.net
絵里「にこ、遅いわよ。10分遅刻」

にこ「しょうがないでしょ?仕事が押しちゃったんだから」

絵里「ああ、そうだったのね。ごめんなさい、にこの事情を考慮できなくて」

にこ「謝んなくていいわよ。それより…」


海未「………久しぶりですね、にこ」

にこ「あんたも変わらないわね、海未」



にこは変装用のマスクと眼鏡を外し、私たちの席に座りました。

今や本物のアイドルとして活躍しているにこですが、そこにはμ'sの頃と変わらない『にこ』の姿がありました。
95: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/14(金) 23:39:50.21 ID:+WvIw6rT.net
にこ「3人揃ったところで乾杯~…といきたいところだけど、私の飲み物がまだだったわね」

絵里「にこの分はドリンクバーを頼んでおいたわよ」

海未「私たちはユーヒーを取ってきました!えすぷれっそです!」

にこ「ユーヒーって何よ…。というか、あんたらもコーヒーなんて飲むのね」

海未「いえ、ふざけて淹れただけです」

絵里「思っていたよりも苦かったわね。私の本音は『もう飲みたくない』よ」

にこ「かぁーっ!まだまだ子どもねー!」

絵里「なによ。にこはコーヒーを飲めるっていうの?」

にこ「当っっったり前じゃない!見てなさいよ~!」



そう言うとにこは私たちのカップを奪い取り、一気に飲み干しました。

飲むというよりも、流し込むという表現の方が合っているような気もしますが。
96: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/14(金) 23:40:35.08 ID:+WvIw6rT.net
にこ「うぷっ………はぁ…。ほら、飲んだわよ!」

海未「すごいです、にこ!」

絵里「流石、大人は違うわね!」

にこ「どんなもんよー!」


絵里「……あ、ごめんなさい。にこは大人だから、ドリンクバーよりもビールとかの方が良かったかしら?」

にこ「え…?」

海未「にこはもう20歳ですから、お酒も飲めるんですよね」

にこ「………20歳~?ノンノン!ニコニーはまだ18歳にこー!」

絵里「にこ…?あなたはもう20歳でしょ?」

にこ「ニコニーは永遠の18歳!!だからお酒もタバコもできないにこ~☆」

海未「都合良く年齢を変えられるんですね…」
97: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/14(金) 23:44:29.99 ID:+WvIw6rT.net
改めて乾杯し、料理を囲みながらそれぞれの近況報告をしました。


にこ「ふーん。あんたらは大学生活をちゃんと満喫してるのね」

絵里「海未は単位が怪しいところだけどね?」

海未「なっ…。嫌なことを思い出させないでくださいよ」

にこ「いいわねー。私も大学に行ってみたいわー」

絵里「それなら、今年の徽音祭に来たらどう?」

にこ「きいんさい?」

絵里「音ノ水で開催される大学祭のことよ。毎年11月の上旬にやってるわ」

にこ「……そうね。絵里や海未がいるなら行ってあげてもいいわ」

絵里「ふふ、決まりね♪」


海未「にこは今、アイドル事務所に所属しているんですよね」

にこ「ええ。まだ売れっ子とはいかずとも、新人アイドルとして活動しているわ」

海未「すごいですよね。まさか本当にアイドルになってしまうとは」

にこ「結構大変な仕事だけど、小さい頃からの夢だったし頑張って働いているわ」

海未「私は、にこのことをリスペクトしてますよ」

海未「私たちみたいに大学で就職までの時間稼ぎをせずに、いち早く大人の世界へと飛び込んだのですから!」

絵里「ちょっと。私は海未と違って専門的な勉強をするために大学へ…」

海未「同じ穴の狢です」



絵里は言い返す言葉が見つからなかったのか、ドリンクバーで作った紅茶をぐびぐび飲んで誤魔化しています。
98: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/14(金) 23:45:47.62 ID:+WvIw6rT.net
にこ「そういえば、希は元気してるの?」

絵里「この写真を見ればわかるわ」

にこ「……なにこれ。砂漠?ラクダ?ピラミッド?」

絵里「希よ」

にこ「ああ…。とりあえず人生を満喫してるってことだけは伝わったわ」

絵里「まったく…。周りで心配してる人のことも考えて欲しいものね」



溜め息をつきながら、絵里はハーブティーをぐびぐび飲んでいきます。

……さっきから飲み過ぎじゃないですかね?
99: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/14(金) 23:48:50.57 ID:+WvIw6rT.net
絵里「………お手洗い行ってくる」

海未「はい、わかりました」



絵里は一目散にトイレへと駆けました。

果たして、無事に間に合うのでしょうか。



にこ「……行ったみたいね」

海未「…?」

にこ「ねえ、海未。あんたを見込んで相談したいことがあるの」

海未「私に相談ですか?」

にこ「……こんな話、他のみんなに話したらきっと笑われるわ。だから常に頭が空っぽの海未にしかできない話なのよ」

海未「待ってください。私の頭にはちゃんと脳が入ってますよ?」

にこ「ああ、そうね。脳はあるけど味噌がないのね」
100: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/14(金) 23:51:03.54 ID:+WvIw6rT.net
海未「して、相談とは何ですか?」

にこ「……私はね、永遠の18歳なの」

海未「ふざけてるんですか?」

にこ「いやふざけてなんかないわよ。私は本気よ」


にこ「私の時間は、未だ18歳のまま固着しているの。まるで時計の針が止まってしまったかのように」

にこ「私は、大人に成りきれないの」

海未「ピーターパン症候群…というやつですか?」

にこ「そうね…たぶんそうよ。私は過去の栄光に囚われて、大人になることを拒んでいるのよ」

海未「別に子どものままでもいいじゃないですか。大人に成ったって良いこと一つありませんよ?」

にこ「……ダメよ。私はこれでもプロだもの。いつまでも子どもみたいに無責任な仕事をしてられないわ」

にこ「だから、海未に聞きたいの。私が大人に成るためにはどうすればいい?」

海未「………」



にこの場合、子どもっぽい姿の方が魅力を感じるのですが…。
101: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/14(金) 23:53:41.32 ID:+WvIw6rT.net
海未「……無理に大人に成ろうとする必要はないんじゃないですか?」

海未「背伸びをしても、バランス崩して倒れてしまうだけです。だから、自分自身が大きくなるまで待てばいいんですよ」

にこ「どれだけ待てば、私は大人に成れるの…?」

海未「それはわかりませんが…。でもいつか、何かのきっかけで突然大人に成る時が来ますよ」


にこ「……ありがと、相談に乗ってくれて」

にこ「果報は寝て待てね…。海未の言う通り、大人に成れる日を大人しく待つことにするわ」

海未「ふふ、にこのお役に立てたのなら光栄です」



にこはやっと、心からの笑顔を見せてくれました。
102: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/14(金) 23:54:29.22 ID:+WvIw6rT.net
絵里「お待たせ~。女子トイレが混んでて遅くなっちゃったわ」

にこ「………それじゃ、用も済んだし帰るわね」

海未「はい、お疲れさまです」

絵里「え、何?私がいない間に話が進展してるわ…!」

にこ「絵里、伝票ちょうだい」

絵里「え、もしかしてにこが払ってくれるの!?」

にこ「あんたたち、どうせバイトもしてないんでしょ?貧乏学生に払わせるのも可哀想だから、ここは私に任せなさい」

海未「いえいえ。私たちの会計をにこに払わせるわけにはいきませんよ!ここは私が払います!」

絵里「………いや、ここは私が…」

海未にこ「どうぞどうぞ」

絵里「!?」



結局、にこが3,840円(税込)を支払ってくださり、私たちは店を後にしました。

帰り道、μ'sと過ごしたあの1年間の記憶を、私たちは語らい合いました。

その時のにこは、少し寂しそうな表情をしていたのを覚えています。

大学に着いた後、そのまま解散しました。


こうして、私の夏休み初日は勢いのままに過ぎ去っていったのです。
103: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/15(土) 00:14:05.83 ID:0DC2z50S.net
#9

Calling。



穂乃果『………もしもし、海未ちゃん?』

海未「おはようございます。ついに夏休み突入ですね!穂乃果はいかがお過ごしですか?」

穂乃果『私は平常運転だよ』

海未「特に病気や怪我もないようですね。安心しました」

穂乃果『海未ちゃんは?』

海未「私も普通に元気です」

穂乃果『ふーん、そっか』



電話越しでしたが、穂乃果の表情が窺えるようです。

穂乃果は私と話せて嬉し恥ずかし、まるで恋する乙女のような顔になっているに違いありませんね。
104: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/15(土) 00:14:39.67 ID:0DC2z50S.net
海未「………ん?いま何か聴こえませんでした?」

穂乃果『え…?何のこと?』

海未「滑車が回るような音が聴こえた気がしたのですが」

穂乃果『……ああ、それは私のルームメイトの米子さんだよ。もうすぐ終戦記念日だから、昂ぶって風車をくるくる回してるの』

海未「そうでしたか。私はてっきり穂乃果が男でも連れ込んでるのかと思いましたよ」


海未「穂乃果は夏休みの間、東京に帰って来るんですか?」

穂乃果『……いや、私はずっと京都にいるよ』

海未「ほう、そうですか」
105: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/15(土) 00:15:29.13 ID:0DC2z50S.net
海未「……実はですね。私はこの夏休みを利用して穂乃果に逢いに行こうと計画してるんです」

穂乃果『え…?』

海未「美味しい御茶屋さんを巡ったり、芸妓遊びで盛り上がったり…。要するに、穂乃果と京都デートがしたいんですよ」

穂乃果『………』

海未「……どうですか?私とデートしませんか?」

穂乃果『いやだ』

海未「え」

穂乃果『勝手にいろいろ決められても困るよ。こっちにも段取りがあるんだし』

海未「す、すみません…。一人で先走り過ぎていたみたいです」



海未「………では、会いに行くだけでも」

穂乃果『ダメ。絶対来ないでね』

海未「何故ですか?」

穂乃果「京都が穢れるから」

海未「!?」
106: 1(茸)@\(^o^)/ 2017/04/15(土) 00:23:14.59 ID:Jqr/JJ1l.net
海未「………実は明日、登山サークルの活動で富士山に登るんですよ」

穂乃果『富士山に?へー、それはすごいね』

海未「山頂からの御来光を観る予定なんです」

海未「無事に下山できたら穂乃果にも写真送りますね」

穂乃果『うん、ありがと!楽しみにしてるね!』
107: 1(茸)@\(^o^)/ 2017/04/15(土) 00:24:08.26 ID:Jqr/JJ1l.net
海未「……それでは、また」

穂乃果『じゃあね。海未ちゃんにご武運を』



私は、通話終了のアイコンをそっとタップしました。
108: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/15(土) 00:25:03.35 ID:0DC2z50S.net
海未「ふぅ…」


k子「海未ちゃんは明日から山登りだっけ?頑張ってね~」

海未「ええ、ありがとうございます」

k子「私も明日から実家に戻るんだけど、戸締りとかちゃんとしといてね?」

海未「はい、わかってますよ」



登山サークル最初の活動、富士登山。

山頂から見た御来光は、どれほど美しいものなのでしょうか。

私は期待に胸を膨らませ、枕に顔を埋めました。
117: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/16(日) 23:53:27.56 ID:G0nJ/NUO.net
#10

東京から電車やバスを乗り継ぎ3時間。

富士山五合目に到着しました。


そこに居たのは、人、人、人。

富士山が世界遺産に登録されたことにより登山客が増えたこと、今が夏休みであること。

その両方が相まって、夥しい数の人がこの山に集結しているのです。

家族カップル子供老人大学生外国人その他………

人の群れに呑まれてしまいそうです。



先輩b「うわ…人多すぎ…」

先輩c「みんな五合目から出発するもんね、仕方ないよ」

先輩a「ほら、はぐれないように付いてきてよ?」

海未「は、はい!」
118: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/16(日) 23:54:16.72 ID:G0nJ/NUO.net
先輩a「あ、そうだ。せっかく富士山に登るんだからさ、金剛杖買っていかない?」

先輩b「何ですかそれ?」

先輩c「各山小屋で押してもらえる焼き印を集める、いわばスタンプラリーみたいなものだよ」

先輩b「へー、面白そう!」

先輩a「じゃあみんなで一つずつ買おっか!」

海未「……はい!」



先輩の提案で、それぞれ金剛杖を買いました。

\1,000。

少し値段が高めな気もしますが、これもまた記念です。

私たちはこの杖を装備し、登山を開始しました。
119: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/16(日) 23:55:18.14 ID:G0nJ/NUO.net
先輩a「この中で富士山の登山経験があるのは園田さんだけだね」

先輩b「私たちは初めての山だから、ちょっと緊張してるよ~」

先輩a「五合目から山頂まではどのくらいで行けるものなの?」

海未「私が前に登った時は、大体5時間で登頂できました」

先輩a「ということは、私たちの場合は7,8時間で登れるかな?」

海未「………そうですね」



登山道も相変わらずの賑わいで、人々は蟻のように列を成し道を進んで行きます。

その異様な光景を眺めながら、ゆっくりと山を登って行きました。
120: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/16(日) 23:56:13.08 ID:G0nJ/NUO.net
七合目。


先輩b「おー!焼き印も結構集まってきたね!」

先輩c「あと何個でコンプリートできるかな?」

海未「………」

先輩b「あれ?園田さん、まだ焼き印押してもらってないよね。押さないの?」

海未「……いえ、今からしてもらうところです」



私は金剛杖を差し出し、焼き印をいれてもらいました。

\200。

一回でこの金額。これを全て集めたとすると、一体どれほどの出費となるのでしょうか。

登山の邪魔にしかならないこの杖に、何故これほどまでに金を掛けなければならないのでしょうか。


私は、後悔していました。
121: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/16(日) 23:57:29.03 ID:G0nJ/NUO.net
登山開始から5時間半。

ここにきてハプニングが起きました。



先輩c「大丈夫?」

先輩b「………ぅ、もう無理…。しんどい………」

先輩a「高山病かな…?えーと、こういう時はどうしたらいいの…?」

海未「……高山病を治す方法は、山を下りることです。なのですぐにでも下山しましょう」

先輩a「そうね…。私はbを連れて山を下りるから、二人は私たちの分まで御来光を見てきてね」

先輩c「うん…、わかった」

海未「………」



私は、残った先輩と一緒に十合目にある宿を目指しました。

山小屋に寄り道せず一気に駆け上がり、宿に着いたのは午後9時頃。

そこで、日の出の時間まで待機します。
122: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/16(日) 23:58:03.31 ID:G0nJ/NUO.net
私は疲れた身体を休めるために寝ました。


………うるさいですね。


他の登山客が宿の中で騒いでいます。


………眠れない。


隣で寝ている先輩も、迷惑そうにしていましたが注意をすることはありませんでした。


………うるさい。


うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。


うるさい。



結局一睡もできないまま、日の出を迎えることになりました。

支度を整え、山頂へと歩み出します。
123: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/16(日) 23:59:08.88 ID:G0nJ/NUO.net
午前4時44分、太陽が昇り始めました。

周りの人たちは光を見ています。

私は目を瞑っています。

これ以上、山に幻滅したくなかったのです。



その後のことはよく覚えていません。

気づいたら、自分の部屋で寝ていました。

最初は夢だと思いました。

しかし、床に落ちていた棒が、それが現実であったことを物語っています。



あの登山以来、私はサークルとの縁を切りました。
124: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:00:16.76 ID:5fQf8ncp.net
その翌年、サークルの顧問からメールが届きました。

件名には、サークルは廃部になったという旨のことが書かれています。

私はそのメールをゴミ箱に移しました。一度も開くことなく。
126: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:32:56.34 ID:5fQf8ncp.net
#11

海未「………」



私は今、寮の自室にいます。

山を下山して一日が過ぎました。

いや、もっと日にちが経っているような気がします。

………頭が重くて、なにがなんだかよくわかりません…。



ここは、どこでしょう?
127: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:34:28.08 ID:5fQf8ncp.net
ガチャ

k子「……あれ?鍵が空いてる…」

k子「戸締まりはしっかりするようあれだけ言っておいたのに…、海未ちゃんめ」


k子「海未ちゃんただいま~。先輩が帰ってきたよ~!」

k子「………おーい。いるんでしょ、海未ちゃん~?」



海未「」

k子「!?……死んでる!」
128: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:36:39.90 ID:5fQf8ncp.net
海未「………ぅう…。なんれすか……うるさいれす……よ………」

k子「あ、よかった。ちゃんと生きてんのね」

海未「うぅぅ…」



k子「………床にビールの空き缶が散らかってる」

k子「そして、私が冷蔵庫に入れてたビールが失くなってる…」

k子「まさか海未ちゃん、全部飲んだの…?」

海未「うるせーれす………。はやく…さけかってきやがれ……れすよ…」

k子「はぁ…。まったく、手を焼かせる子だなあ…」

k子「……やっぱり、数日でも目を離すべきじゃなかったね」


k子「海未ちゃん。とりあえず水飲んで、ほらほら………」
129: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:38:09.64 ID:5fQf8ncp.net
~~~~~~~~~~~~~~



海未「………」



私は今、寮の自室にいます。

夏休みが始まってから、どのくらいの時間が流れたのでしょうか…。

重い頭を振り上げ、携帯で今日の日付を確認しました。

8/15。



この日付が目に入った瞬間、私の身体は反射的に動き出していました。

頭はまったく働いていませんでしたが、身体は一直線に部屋の外へと飛び出していったのです。
130: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:38:59.24 ID:5fQf8ncp.net
海未「はぁ…はぁ…はぁ………」



着いた場所は、寮の、玄関口。

久し、ぶりに、動いたせいか、とても、疲れました。

息を、整え、脳に酸素を、送り込みます。
131: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:39:31.28 ID:5fQf8ncp.net
寮の玄関を入ったすぐ側に、寮生用の郵便受けがズラリと並んでいます。

寮生宛に手紙や郵便が届けば、その郵便受けに投函されているはずです。


私は、自分の部屋番号が書かれた郵便受けを開きました。



海未「………」

海未「………やはり、そうですか…」



郵便受けの中には何も入っていませんでした。
132: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:41:02.62 ID:5fQf8ncp.net
今日は8/15。

もしかしたら、母からの手紙が届いているのでは…。

心のどこかでそのような期待をしていましたが、そんな希望はあえなく散りました。

園田家からも、母からも、手紙は来ませんでした。



海未「………」



さて、これからどうしましょう。

部屋に戻って、また酒に溺れますか………





「海未ちゃん」
133: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/17(月) 00:44:23.74 ID:5fQf8ncp.net
海未「………こ、ことり…。おはようございます」

ことり「今はもうお昼だよ?」

海未「え…?そうでしたか…」

ことり「………」



ことり「ねえ海未ちゃん。今から私とデートしない?」

海未「え、デート!?何を言いだすんですか、いきなり…!」

ことり「………ダメ?」

海未「いえ、そんなことは…」

ことり「じゃあ決定♪ 今すぐ支度してきてね~」

海未「支度…?」

ことり「海未ちゃんは、そんなボサボサの髪やヨレヨレのパジャマで、私とのデートに出掛けるつもり?」

海未「い、いえ………。すぐに着替えてきます」

ことり「うん、待ってるね♪」



何の前触れもなく現れたことりは突然、『デートをしよう』と言い出しました。

そして私は、ことりの手に引かれ、暗くジメジメとした部屋から引きずり出されたのです。
160: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:33:19.51 ID:QD7UHP2I.net
#12

音ノ水女子大学 食堂


ことり「へー。夏休みでも食堂ってやってるんだね~。海未ちゃんは何食べる?」

海未「………うどんで」

ことり「はーい♪今日はことりの奢りです!」

海未「……ことりは元気ですね」

ことり「だって、海未ちゃんとのデートだもん!テンションも上がっちゃうよ~!」

海未「?」



私とのデートだからテンションが上がっている?

ことりの言っていることはよくわかりませんね。
161: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:34:18.89 ID:QD7UHP2I.net
ことり「~~~!美味しいね、このうどん!」

海未「………」

ことり「あれ?海未ちゃんは食べないの?お箸が進んでないみたいだけど」

海未「……はい。少し気分が悪くて…」

ことり「え…!?もしかして体調でも崩してるの?」

海未「いえ、心配していただかなくても大丈夫です。ただの二日酔いですから」

ことり「そっかー。二日酔いならお水を飲めば………って、ええ!?海未ちゃんお酒飲んでるの!?」

海未「嗜む程度ですが」

ことり「嗜むとかそういう問題じゃないよ!海未ちゃんは今何歳?」

海未「……18歳です」

ことり「うん、そうだよね。満19歳だよね。しかも海未ちゃんは早生まれだから来年でようやく19になるんだよね」

ことり「ねえ海未ちゃん。お酒は何歳から飲めるか知ってる?」

海未「バカにしないでください!20歳からに決まってるじゃないですか!」

ことり「………」

海未「す、すみません…」



ことりの無言の圧力が怖いです…。
164: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:37:39.23 ID:QD7UHP2I.net
なんとか食事を終えた私たちは、宛てもなくキャンパス内を徘徊しています。



海未「これはデートなんですよね?いいんですか?さっきから大学内をうろうろとしているだけですが」

ことり「うん、これでいいの。キャンパスデートっていうのも悪くないでしょ?」

海未「そうですかね…?私にはよくわかりません」

ことり「学生や教授、見知った顔の人たちが見てるかもしれない中でイチャイチャする…。これってすごく背徳感があると思わない!?」

海未「ことりは何言ってるんですか!!まったく………ん?」

ことり「あ…、女の子だ。付属の幼稚園の子かな」

海未「迷い子ですかね?」

ことり「さあ?とりあえず話を聞いてみようか」



ことりは、子どもに警戒心を与えないよう歩み寄り、子どもの目線に合わせて話しかけました。

この一連の流れがあまりにも自然すぎて、ことりはこの子の母親なのでは、と勘繰ってしまう程でした。
165: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:39:37.22 ID:QD7UHP2I.net
音ノ水女子大学の敷地内には、付属の幼稚園、小学校、中学校があります。

そこで何らかの研究を行なっているそうですが、詳しいことまでは知りません。
(ちなみに、音ノ水付属高校はこのキャンパス内にはありません)


私たちは、付属幼稚園に迷い子を届けに行きました。

どうやらこの子は、迎えに来た親と幼稚園教諭が立ち話をしている間に、キャンパスまで逃げて来てしまったようです。

子どもを届けると、親と保育者に途轍もなく平謝りをされました。

尋常ではありませんでした。数えてみると、1秒間に16回は頭を上下していました。

子どもは親に手を引かれながら帰って行きましたが、途中、こちらに振り返って手を振ってくれました。



ことり「子ども、かわいいなぁ~…」

海未「ことりは子どもが欲しいのですか?」

ことり「………はぁ。どうして海未ちゃんはこうなんだろう?いつからセクハラおやじになっちゃったんだろう…」

ことり「あーあ、タイムマシンに乗って、無垢で可愛さ全開のロリ海未ちゃんを誘拐したいな~」

海未「っ!?物騒なこと言わないでください!あと私はセクハラおやじではありません!」
166: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:41:50.81 ID:QD7UHP2I.net
研究棟や学生館、徽音堂などを巡り、最後に行き着いたのは中庭のベンチでした。



海未「今日はデートに誘ってくれてありがとうございました。久々に有意義な一日を過ごせましたよ」

ことり「ほんとに!?よかった~…。海未ちゃんずっと険しい顔してたから、楽しくないのかと思ってたよ」

海未「約二週間ぶりに日光を浴びて、運動をしましたからね…。疲れが顔に出ていただけです」

ことり「また海未ちゃんが部屋に引き篭もってたら、ことりがデートに連れ出しますよ♪覚悟しておいてください!」

海未「いえ、デートならいつでも歓迎です。ことりとなら、どこへ行っても楽しいですから」

ことり「え………」


海未「……ことり、どうかしましたか?顔が紅潮していますが…。もしや、体調が優れないのですか!?」

ことり「わわっ、大丈夫だよ~!だから、おでこで熱を計ろうとするのはやめて~!!」

海未「……?」



ことりは何故こんなにも動揺しているのでしょうか?

女心というものはよくわかりませんね。
167: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:42:42.35 ID:QD7UHP2I.net
海未「………あ、ことりに訊こうと思っていたことがあるんです」

ことり「なぁに?何でも答えちゃうよ!」

海未「はい。………穂乃果のことなのですが」

(・8・)「」



ことりは、バツが悪そうに口を閉ざしてしまいました。



海未「あの…。ことり?」

ことり「………」

海未「……私が穂乃果の名前を出すと、ことりはいつも、だんまり決め込んでしまいますよね。それは何故ですか?」

ことり「黙秘権だよ。自分にとって不都合な話はしなくていい権利が、ことりにはあります」

海未「つまり、穂乃果の話題はことりにとって不都合だということですか?」

ことり「黙秘します」

海未「………」
168: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:47:10.00 ID:QD7UHP2I.net
海未「私は、ことりが心配なんです」

ことり「………」

海未「ことりと穂乃果の間に、何かあったのでは?仲違いしているのでは?」

海未「……そう思うと辛いんです。私の幼馴染二人の仲が不良だなんて、悲しいじゃないですか」

ことり「それは穂乃果ちゃんの人間関係の不振が心配なだけで、私のことはこれっぽっちも心配なんてしてないんでしょ?」

海未「いえ、そんなことありません!私にとって、穂乃果もことりも同じくらい大切な存在です!」

ことり「………」

海未「教えてもらえませんか?ことりが隠していることを」



本当なら、ことりから話してくれるのを待つべきなのですが、どうにも私は事を急いてしまいます。

もし、これで話してくれないようなら、もう私からはこの話題に触れないようにしないといけませんね…。



ことり「……わかった。話すよ」

海未「え?話してくれるのですか?」

ことり「海未ちゃんに迷惑が掛かってるのなら…、それはことりの望むことじゃないから」



ことりは語り始めました。
169: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:48:35.26 ID:QD7UHP2I.net
ことり「私はね、容量の悪いトリ頭なの。だから自分のことだけで頭が一杯一杯」

ことり「それなのに…。悩みのタネが多すぎて、私はもう大パニック。ほんと、勘弁してほしいよ…」

海未「………つまり、ことりは悩んでいるということですか」

海未「そんな時は、海のことを考えればいいんです。広い海洋に比べれば、自分の悩みなんて小さなものだと思えますよ」

ことり「悩みの殆どは海未ちゃんのことなんだよ?」

海未「え、私ですか!?すみません!私はことりに何か嫌なことをしましたか…!?」

ことり「はぁ…。どうして海未ちゃんは、こうなっちゃったんだろう…」

ことり「もうイヤだよ…。なんで私だけ…。もう何もかも捨てちゃいたいよ………」



私なりに気の利いたセリフを言ったつもりだったのですが、逆効果だったようです…。

ことりはいつになくブルーになっています。
170: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/20(木) 23:49:24.80 ID:QD7UHP2I.net
海未「あ、あの、ことり」

ことり「………何?」

海未「よければ、その悩みを私にぶつけてくれませんか?」

海未「私にはこれまで数々の人生相談を受けてきた実績がありますから、ことりの悩みも解決できるかもしれませんよ!」

ことり「………」

海未「それに、私のことで悩んでいるのなら、私に話してください。もしかしたら改善できるとこもあるやもしれませんから!」

ことり「……うん、そうだね。海未ちゃんになら、相談をぶつけても気負わなくて済むからね」

海未「ことり…!」

ことり「でも、私の悩みを全部話すことはないです。解決不可能な悩みを打ち明けたって、かえって海未ちゃんに迷惑をかけるだけだもん」

ことり「だからまずは、砂浜の砂よりも小さな、私の悩みを話すね」
171: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:08:47.03 ID:KPO8rFco.net
ことり「私はね、将来保育士さんになりたいの」

海未「そうですか、なんとなくそんな気はしていました。
ことりに向いている仕事だと思いますよ」

ことり「………でもね、私…。子どもたちと向き合える自信がないの。

ピアノも弾けないし、子どもの心にも寄り添えない。

私は保育士に向いているとは到底思えないの」

ことり「はぁ…。私はどうすればいいのかな…?」
172: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:09:56.18 ID:KPO8rFco.net
海未「……ことりは保育士になるべき、だと思います」

海未「ことりは自分のことを過小評価しすぎです。自信を持ってください!
きっと、ことりならいい先生になれますよ!私が保証します」

ことり「そっか…、ありがと。私頑張って保育士資格取るよ!」

海未「はい!頑張ってください!」



海未「………って、もう悩み解決ですか?」

ことり「うん。私の悩みなんて埃以下だもん。すぐに解決できちゃうの」

海未「?…」
173: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:11:10.11 ID:KPO8rFco.net
ことり「さて…、私の相談を聞いてもらったことだし、私も海未ちゃんの相談を一つ聞いてあげるね」

海未「……本当ですか?黙秘権を使うのは禁止ですよ?」

ことり「うん♪話せる限り話すつもりだよ!」

海未「………」



先程とは一転、この態度。

ことりは、つくづく訳のわからない人です。



海未「………では、穂乃果のことで相談させていただきます。……相談というより質問に近いですが」

ことり「うん。何でも聞いていいよ」

海未「先日、穂乃果と電話で話したんですよ」

ことり「………うん、それから?」

海未「私は穂乃果に訊きました、『京都に行ってもいいですか?』と。穂乃果は答えました、『いやだ来るな穢れる』………と」

ことり「海未ちゃん、泣かないで…。はい、ハンカチ」

海未「うぅ、ありがとうございます…。ズルズルズルッ」

ことり「鼻をかむのはやめてほしいな」
174: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:12:27.31 ID:KPO8rFco.net
海未「ことりに尋ねたいのですが、なぜ穂乃果は私に京都に来ないよう言ったのですか?」

ことり「………」



ことり「ことりにはわかりません」

海未「ええ!?何故ですか!ことりは穂乃果のことを何でも知ってる風だったから質問したのに…」

ことり「だって!私は穂乃果ちゃんじゃないし、穂乃果ちゃんが何を思って何を望んでるのかなんて、わかんないもん!」

海未「そりゃそうですが…。ことりは穂乃果と連絡を取り合っているのでしょう?それなら、穂乃果から聞き出してくださいよ」

海未「ことりが尋ねれば、穂乃果は絶対に答えるはず………」


ことり「はいストップ。海未ちゃんはとても大きな勘違いをしています」

海未「勘違い…?」

ことり「私は今、穂乃果ちゃんと連絡を取ることができません」

ことり「もっと正確に言うなら…。現在穂乃果ちゃんと連絡を取れるのは、海未ちゃんだけなんだよ」

海未「え…!?それはどういうことですか?」
175: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:16:16.00 ID:KPO8rFco.net
ことり「春あたりまでは、穂乃果ちゃんと電話でお話しできてたの。でも、6月に入ってから、突然途切れた」

ことり「その頃でしょ?海未ちゃんが電話で穂乃果ちゃんとの交流を再開させたのは」

海未「……はい。確かにそうですが…。そのことは、ことりが穂乃果と不通になる理由にはなりませんよ」

ことり「………今、穂乃果ちゃんがいるのは、そういう所なんだよ」

海未「何言ってるんですか?穂乃果はいま京都にいるんですよね?」

海未「『京都』と『東京都』はたったの一文字違いですし、電話が繋がらないわけが…」

ことり「理論とか理屈は関係ないの。ただ、目の前にあるそれが現実」


ことり「……ほら、想像してみて。自分が今いる空間の外はすべて異世界。そしてその異世界に干渉することは絶対にできないの」

ことり「穂乃果ちゃんがいるのは、そんな所。穂乃果ちゃんは助けを求めてるの。前はことりだった。でも今は海未ちゃん」

ことり「穂乃果ちゃんを助けられるのは海未ちゃんだけなの!だから、お願い…。穂乃果ちゃんを世界の歪みから救ってあげて!」

海未「………」



ことりの頭は、夏の日差しに当てられてしまったようです。
176: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:17:20.21 ID:KPO8rFco.net
ことりは黄昏れ空を見上げています。



ことり「見て…。夕陽が差して、空が真っ赤に燃えてるよ」

海未「……穂乃果も、私たちと同じ空を見上げていますかね?」

ことり「穂乃果ちゃんが空も見られない環境にいるなら、空の赤も知らないんだろうね」

海未「空が見られない環境ってどこですか?」

ことり「例えば………地底世界とか?」

海未「ことりは京都を何だと思っているんですか!?」



ことりは立ち上がり、歩み始めました。

嫌になるぐらい赤い夏の陽が、少女を包み込みます。



ことり「京都は全てを奪う場所だよ。ほんと、大嫌い」
177: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:50:14.55 ID:KPO8rFco.net
#13

呼び出し中。



…。

………。



穂乃果『……もしもし、海未ちゃん?』

海未「あ、もしもし。海未ちゃんです。あの、穂乃果に一つ尋ねたいことがあるのですが」

穂乃果『尋ねたいこと?』

海未「穂乃果は今、どこにいますか?」

穂乃果『え…?どうして、そんなことを訊くのかな…?』

海未「今日、ことりとデートをしたんですが、その時に聞いたんですよ」

穂乃果『………』

海未「穂乃果は今、アナザーワールド、もしくはアンダーグラウンドにいるんですか…?」

穂乃果『………海未ちゃん。夏の日差しに当てられちゃった?』

海未「すみません。私もバカになっていたみたいです。またかけ直しますね…」

穂乃果『ま、待って!たった今、海未ちゃんに訊きたいことができたの!』

海未「……?」
178: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:51:13.92 ID:KPO8rFco.net
穂乃果『………海未ちゃんは今日、ことりちゃんとデートしたの…?』

海未「はい。最初はことりに連れ回されていましたが、これが中々楽しいものでした。またことりとデートをしたいものです」

穂乃果『ふーん……そっか…』



何ですか?この含みのある物言いは…?

これは、まさか………。



海未「もしかして穂乃果は、嫉妬しているんですか?」

穂乃果『なっ…。そんなわけ、ないじゃん…?海未ちゃんなんて眼中にないし…』

海未「私がことりとデートをしてたから、ジェラシー妬いてるんですね!?ね、ね!!?」

穂乃果『もう、うるさいよ!電話口で大きな声出さないでよ!』

海未「きゃっはー!やっぱりほのうみなんですよねー!!!」

穂乃果『ち、違うもん!………………もん!もん!』

海未「穂乃果、さっきから声が上擦っていますよ。図星なんですよね?」

穂乃果『~~~!バカバカバカ!海未ちゃんのアホー!くたばれ!』

穂乃果『海未ちゃんのバーカ!去んじゃえ!往んじゃえ!屠られろー!』

海未「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか!?泣きますよ?」



穂乃果の罵倒を聞いていると、みるみる精神力が削られていくようです。

そろそろ電話を切り上げようかと思ったその時、ある声が聴こえてきました。
179: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:52:08.38 ID:KPO8rFco.net
『あ、穂乃果ちゃん~』

海未「………む…?」



電話の先で、誰かが穂乃果のことを呼んだみたいです。



穂乃果『あ…。ごめんね、いま電話中なの…。うん、また後で………』


海未「穂乃果…?今の声は誰ですか?」

穂乃果『え…?ああ、それは…』

海未「あ、察しました!穂乃果のルームメイトの米子さんですね!」

穂乃果『あ、いや、えっと…』

海未「穂乃果が電話中とは気づかず話しかけてくるとは、米子さんはおっちょこちょいな方なのですね!」

穂乃果『………違うよ』

海未「え、今の声は米子さんではないのですか?それでは一体、誰が…」

穂乃果『……あー、実は今私ね、合コンに来てるんだ!』

海未「………は?」

穂乃果『電話がかかってきて途中で部屋から出たからさー!男の子が、呼びに来てくれた、みたいー、なんだ…よ…ね?』

海未「………何を、言っているのですか?」

穂乃果『……あー、うん。だから、電話切るね!じゃあね!バイバイ!!』

海未「ちょ、ちょっと待ってください!穂乃k…」



………。
180: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:58:42.32 ID:KPO8rFco.net
………穂乃果が、合コン…?男と侍っている…?

あ、あり得ません…。私というものがありながら、穂乃果が合コンなど…。

………しかし、確かに男性のような声が聴こえてきました…。

ま、まさか…。いや、でも………
181: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 00:59:16.46 ID:KPO8rFco.net
一時間後


海未「うぅ…ぐすっ…。ほのかぁ…」

海未「穂乃果が、穢れてしまいますぅ…うああああ………」

海未「なぜ、合コンなんかに………?」

海未「私じゃ物足りないんですか…?遠距離は嫌なんですか…?」

海未「あああああああああ…」

海未「ほの……ほのかぁ………」
182: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/04/21(金) 01:00:13.74 ID:KPO8rFco.net
十時間後


海未「決めました…!」

海未「私も合コンに参加して、穂乃果に嫉妬ファイヤーを炎上させてやります!」

海未「しかしながら、合コンにはどうすれば参加できるのでしょうか…?」



k子「おーっす。先輩が帰って来たぞ~」


k子さんに聞けば…。いやしかし、そう都合良く話が進むわけ………


k子「あ、そうだ。ダメ元で聞くけどさ、海未ちゃん合コン来ない?女の子の数足んなくてさ~」

海未「行きます!是非に!!」

k子「え…、来るの?」

海未「はい!もちろん!!」
213: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 21:53:23.28 ID:hOXRrJJU.net
#14-a

10%の成り行きと、10%のヤケクソと、80%のノリで、私は合コンに参加することになりました。


海未「ちなみに、その合コンはいつあるんですか?」

k子「明日の夜だよ。………ねえ、誘っといてなんだけど、本当にいいの?自棄になってない?」

海未「いいんです!合コンに参加できれば、数合わせでも何でも!」

k子「ふーん、そう。まあ海未ちゃんがいいならなんでもいいや」


k子「……ねえ海未ちゃん。海未ちゃんは数合わせじゃなくて、数揃えをしてくれない?」

海未「数揃え…ですか?」

k子「うん。実は一緒に行くはずだったツレ共が、彼氏作ったとかなんとかで来ないって言うんだよ」

k子「だから私たち以外で合コンに呼ぶ女の子を、海未ちゃんに連れて来てもらいたいわけ」

海未「はい、いいですよ。私もそれなりに人脈はありますから、呼べば来てくれる友だちは幾らかいますし!」

k子「お、マジで?じゃあ、相手は5人来るらしいから、明日までにあと3人連れて来てね」

海未「はい!」
214: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 21:54:57.83 ID:hOXRrJJU.net
………と、ここまで勢いで話を進めてしまいましたが、これからどうしましょうか…?

私は携帯から連絡帳を開き、合コンに誘う人を品定めすることにしました。


海未「………」


まず目に付いたのは、絵里でした。

『絢瀬絵里』で登録している為、常に連絡帳の頭にいるのです。

私はすぐさま、電話をかけました。
215: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 21:56:49.83 ID:hOXRrJJU.net
Вызов…。



絵里『………ハロー?海未から電話してくるなんて珍しいわね。私?私は元気よ。昨日なんて音ノ木坂から皇居までマラソンして…』

海未「もしもし、いきなりマシンガントークをかまさないでください」

絵里『ごめんごめん。それで私に何か用?』

海未「明日、合コンがあるので来てもらえますか?」

絵里『え、何?合コン?話がよく見えないんだけど…』

海未「とにかく、来てもらえますか?」

絵里『……よくわからないけど、海未のお誘いだし、行くわ。その合コンには海未もいるのよね?』

海未「ええ」

絵里『他には誰が来るの?』

海未「私と、私の先輩と………。あと、ことりも…」

絵里『ことりも来るのね。わかった、細かいことはメールで送って頂戴。それじゃあ明日は楽しみにしてるわよ♪』

海未「はい、よろしくお願いします」



Конце。
216: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 21:59:44.91 ID:hOXRrJJU.net
さて、まずは一人目確保です。

あと二人…。



『小泉花陽』

花陽は今、夏期講習の真っ最中なのでしょうね…。

次を当たりましょう。


『k@960&2/?』

k子さんは既に数に入っていますし…。


『高坂雪穂』

雪穂は…、さすがに誘えませんね。


『園田』

………。



『東條希』

希は今頃、どこの国を旅しているのでしょう?


『統堂英玲奈』

あれ?いつの間にか英玲奈さんと連絡先を交換してたんですね。

……でも、この人を誘うにはかなりの勇気が必要です…。


『西木野真姫』
『星空凛』

………花陽と同様、勉強の邪魔はできませんね。
217: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:00:59.91 ID:hOXRrJJU.net
『穂乃果』

穂乃果…。

まさか、私のことを忘れて合コンに明け暮れているとは夢にも思いませんでしたよ。

あなたにも必ず、私と同じ嫉妬の炎を抱かせてやります!



『南ことり』

ことり…。

おそらく、いや絶対に、ことりは私の誘いを断ることはないでしょう。

私が誘えば、例え嫌だと思っていたとしても、私に気を遣って合コンに来るはずです。

ピュアなことりを無理やり連れて行くというのは心が痛みますが、これも合コンの為です。

……すみません、ことり…!
219: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:01:48.87 ID:hOXRrJJU.net
呼び出し中。



海未「………もしもし、ことり」

ことり『もしもし海未ちゃん~?どうかしたの?』

海未「あ、えっと…。実はですね…」

ことり『うんうん』

海未「明日、なんですが…。ことりは何か予定などありますか?」

ことり『ううん、明日は終日空いてるよ?』

ことり『………あ、もしかしてデートのお誘い!?ついに海未ちゃんからデートに誘われちゃいました~!……きゃっ♡』

海未「い、いえ、デートではありませんが…」

ことり『なーんだ。ことりガッカリ』

海未「すみません…」
220: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:03:49.61 ID:hOXRrJJU.net
海未「………あの、ことりは合コンに興味ありますか…?」

ことり『え、合コン…?んー、興味がないわけでもないけど、別に行きたいとは思わないかな』

海未「そうですか…」

ことり『どうしてそんなことを聞くの?』

海未「実はですね…。明日、合コンに行くことになりまして。それで、女の子の人数を集めなくてはならないんですよ」

ことり『じゃあ、ことりも行きます!ことりが数合わせになります!』

海未「………」

海未「無理、してないですか?」

ことり『無理なんてしてないよ!むしろ、海未ちゃんがいるなら是非行かせて欲しいくらいです!』

海未「………ありがとうございます。では、待ち合わせや時間は追って連絡しますね」

ことり『はーい♪ またね~!』



通話終了。
221: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:12:10.61 ID:hOXRrJJU.net
そして、迎えた翌日。

私とk子さんは、今日の合コン会場となる居酒屋で陣取っています。



k子「まだ時間まで結構あるじゃん。ちょっと早く着きすぎたっぽいね」

海未「そうですねー」

k子「あ、そういえば海未ちゃんには相手メンバーの情報言ってなかったっけ?」

海未「ええ、はい…」


正直、相手がどんな人であろうとどうでもいいのですが…。

まあ、一応聞いておきましょう。


k子「男共5人は、確か…ライターがどうのこうのって言ってたよ」

海未「ライター?………writer、つまり物書きの方達ですか?」

k子「いや知らん。どうせその辺のことは自己紹介の時に言うだろうし」

k子「あっ、あとね、顔は流行りの渋顔らしいよ」

海未「へー、そうですか」

k子「なんか、ドリフを5で割ったような顔らしい。はは、うける」


ドリフを5で割ったような顔…?

そんな顔の人、いるわけありません。
222: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:13:24.90 ID:hOXRrJJU.net
k子「で、海未ちゃんは女の子呼んで来てくれたんだよね。どんな子?」

海未「高校時代の先輩と、同い年の幼馴染です。そろそろ来ると思うのですが…」



ことり「おーい、海未ちゃん~!」

海未「あ、来ました!」

ことり「お待たせ~♪………あ、初めまして!私はみなみ…」

k子「南ことりちゃんね~、海未ちゃんから話は聞いてるよ。今日はよろしく」

ことり「はい!よろしくお願いします、k%◯&※#先輩!」



ん…?

私は、ことりの話をk子さんにした記憶がないのですが…。

k子さんはことりを知っていたのでしょうか?
223: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:14:56.31 ID:hOXRrJJU.net
ことり「あ、絵里ちゃんだ!」

海未「ああ、本当ですね。あれは絵里………、!?」



絵里「お待たせー!いやー思ってたより準備に時間かかっちゃったわ」

海未「え、絵里…。なんですかその格好は!?娼婦ですか!」

絵里「え?あーこれね。今日暑いじゃない?だからできるだけ汗をかかないように涼しめな服を選んできたの」

海未「ただの露出狂ですよ!ほら、私のトレンチを貸しますから、これで肌を隠しください!」

絵里「う、うん…。………あ、どうも先輩。ご無沙汰してます」

k子「えっと、絵里ちゃんだっけ?今日はよろしく~」

絵里「はい!お世話になります!」



k子「これでもう一人が来れば全員揃うわけだね」

海未「あの、k子さん…。私が誘ったのはこれで全員です」

k子「え…、じゃあ4人しかいないわけ?」

海未「すみません…!」

k子「別に謝らなくていいよ。4対5でも人数的にちゃんと成り立つし。海未ちゃんありがとね」

海未「あ…、はい!」
224: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:16:19.38 ID:hOXRrJJU.net
k子「………さて、かなりハイレベルな女の子たちが揃ったわけだけど…。あ、私はそんなにレベル高くないか!」

ことり「そんなことないです!k%☆※◯#先輩もお綺麗ですよ?」

k子「そう?お世辞でも嬉しいよ」


流石ことりです。賺さず先輩を立てにいきましたね!


k子「……で、みんなは今日が初めての合コンだよね?」

海未「はい、私はそうです」

ことり「私も初めてです」

絵里「私は合コン経験あります!……あ、でもあれは女の子だけだったし違うのかしら…?」

k子「なるほど、全員素人ね」

k子「じゃあ合コンマスターの私が、絶対遵守のルールを教えてあげる!これさえ覚えておけば何とかなるから!」



k子「唐揚げにはレモンをかけないこと!以上!」

ことり「さすが師匠!参考になります!」

絵里「レモンをかけるのを嫌がる人もいるのよね。……これからは気をつけます!」


この二人もなんだかんだで乗り気なんですね。
225: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:22:21.02 ID:hOXRrJJU.net
私たちは、女子だけの会話で盛り上がっていました。

そこに近づく男5人組。

男達はドリフを5で割ったような顔をしています。

横から見ても正面から見てもドリフを5で割ったような顔です。こういう顔の人は本当にいるんですね。


「君たち、音ノ水の学生だょねぇ?」

k子「あ、もしかして君たちが今日の合コン相手の人たち?」

「えぇ、そぅですょ」

「俺たちぃ、ちょぅが付くほどのエリートが集ぅ大学、ラ板学院に通ぅ学生でぇす!」

海未「ラ板、学院…!?」



k子さんが言っていた『ライター』とは『ラ板』のことだったんですか!?
227: 名無しで叶える物語 2017/04/24(月) 22:24:57.88 ID:hOXRrJJU.net
「メンバーも揃ったみたぃだしぃ、合コン、始めちゃぉぅか…!」

男共「ぅぇぇぇぃ!!!」



男達の熱が上がるのに反比例し、私たちは冷めていきました。

女性陣は笑顔を取り繕うので精一杯です。

絵里は電源の入っていない携帯をチラチラ見ています。おそらく、帰る口実を探しているのでしょう。

私も正直、帰りたいです。

しかし、まだ帰るわけにはいきません!

ここで帰れば穂乃果に笑われてしまいます!

私は絶対に、この合コンを成功させてみせます!



………そして、それぞれの思惑が交錯する合コンが、幕を切りました。
259: 名無しで叶える物語 2017/04/28(金) 23:40:31.66 ID:p3NOegyZ.net
#14-b


「君たちゎ…ぉ酒飲める?」

k子「私は飲めるよ~」

海未「私も飲めます!」

ことり「……海未ちゃん?」

海未「じ、冗談ですよ…」


「店員さん…生中6つぉ…。他のみんなゎ?」

海未「烏龍茶で」

ことり「私も」

絵里「……私はオレンジジュースで」

「烏龍茶2、ォレンジ1で…ょろしく」



この人の喋り方はなんとかならないのでしょうか。
260: 名無しで叶える物語 2017/04/28(金) 23:41:14.25 ID:p3NOegyZ.net
「じゃぁ、まずゎ自己しょぅかぃから始めょぅか」

「………ぉれのなまぇゎ、裸婦茨ーだぁ。ラ板学院一のしゅぅさぃだぁ」

海未「ラブライバー?」

裸婦「違ぅ…。らふいばらー、だぁ」


「次は俺やな。俺の名前は高速増殖炉。ラ板学院文学部一回生やで」

海未「こ、高速増殖炉…さん?」

高速増殖炉「呼びにくかったら、もんじゃって呼んでくれや」


裸婦「ぁとの三人ゎ…全員、中国からの留学生だぁ…」

高速増殖炉「順番に紹介するやで。まずは要!」

要(yāo)「ヨウソ!ヨウソ!」

海未「ヤオさん…ですね」

高速増殖炉「ちなみにこいつのイングリッシュネームは、ソニアや」

海未「要ソニア…」


裸婦「その隣ゎ…、渡雨だぁ」

渡雨(dùyǔ)「コーガ!コーガ!」

海未「ドゥ…イさんですね。よろしくお願いします」

高速増殖炉「こいつのイングリッシュネームは、エアーや」


裸婦「最後ゎ、こぃっだぁ…」

高速増殖炉「みんなのアイドル、柔銀やで!」

柔銀(róugīn)「"Hey! Suzu!"」

海未「ルオジンさん…ですね」

裸婦「こぃっゎ、日本語ぉ全く喋れなぃ…」

高速増殖炉「あ、こいつのイングリッシュネームは、ジャスティンやで」

柔銀「"Super students!"」
261: 名無しで叶える物語 2017/04/28(金) 23:42:30.41 ID:p3NOegyZ.net
k子「………んじゃ、男子の自己紹介も終わったし、今度は女子メンの自己紹介タイームだよ!」

男共「イェェェェェ!!!」

海未「い、いぇーい!」


ことり「」

絵里「」


こ、ことりと絵里が息をしていません!

あからさまに帰りたそうな顔をしないでくださいよ…!
262: 名無しで叶える物語 2017/04/28(金) 23:43:06.78 ID:p3NOegyZ.net
k子「………で、よく聴く曲はA-RISEでーす。よろしく~!」

男共「フッフー!」

海未「……フッフー!」

k子「次、海未ちゃんだよ!」

海未「は、はい!園田海未です。音ノ水女子学校の一回生で、好きなアーティストはμ'sです!よろしくお願いします!」

男共「ラブアローシュウウウウウ!!!」

k子「いぇーい。じゃあ次は、ことりちゃん!」

ことり「………」
263: 名無しで叶える物語 2017/04/28(金) 23:44:21.40 ID:p3NOegyZ.net
ことり「南ことり、18歳……」

ことり「あだ名はコッティー………よろしく」

海未「……いぇ、いぇーい!フッフー!」

ことり「」


こ、ことりが悟りを開いています!

戻ってきてください!あなたにニルヴァーナは早過ぎます!!



k子「じゃあ次は~、絵里ちゃんね!」

絵里「………絢瀬絵里。よろしく」

海未「え、絵里?もうちょっと自己紹介することがあるのでは?」

絵里「別に」


絵里が沢尻エリカみたいになってしまいました!

帰りたい気持ちはわかりますが、もっと合コンへのやる気を出してくださいよ!
265: 名無しで叶える物語 2017/04/28(金) 23:51:27.97 ID:p3NOegyZ.net
k子「お、ビール来たよ~!」

高速増殖炉「せやな。全員に回ったことやし、乾杯しよか!」

k子「では、乾杯の音頭は海未ちゃんにやってもらうよ~!」

海未「えっ!私ですか!?」

k子「みんな待ってるんだから、早く早く~」

海未「………では、僭越ながら…」

k子「乾杯ーーー!」

男共「ウェェェイ!!!」

海未「!?」



私がネタ要員にされているのは不服ですが…。

一先ず、今を楽しみましょう!
266: 名無しで叶える物語 2017/04/28(金) 23:55:56.53 ID:p3NOegyZ.net
海未「ほら、ことりと絵里も飲みましょうよ!」

ことり「海未ちゃん…。どうしてそんなに元気なの…?」

海未「ふふ、これは穂乃果を見返すための合コンですからね!正直相手がどんな人だろうとどうでもいいんですよ!」

ことり「なるほど…。開き直っちゃってるんだね!」

海未「はい!男の顔を見ず、話を聞かなければ十分に楽しめますよ!」

ことり「いいね、それ!ことりも頑張ってみるよ!」

高速増殖炉「おーい、聞こえとるで」
268: 名無しで叶える物語 2017/04/29(土) 00:03:17.69 ID:FNoiarbH.net
海未「あ!唐揚げが来ましたよ!」

k子「海未ちゃん、覚えてる?合コンが始まる前に私が言ったこと」

海未「はい、しっかりと!唐揚げにはレモンをかけな…」


高速増殖炉「あ、ごめん。かけてもうたわ」

海未「」



絵里「………エリチカお家帰る」

ことり「ことりチカも帰るね…」

海未「ち、ちょっと待ってください!」

海未「すべての唐揚げにレモンがかかっているわけではありませんから、まだレモンなし唐揚げの望みはありま…」


高速増殖炉「あ、ごめん。すべての唐揚げに満遍なく搾り尽くしたわ」

海未「」



k子「………帰るか」

海未「そうですね」
269: 名無しで叶える物語 2017/04/29(土) 00:14:43.47 ID:FNoiarbH.net
私たちは男共を置いて店を立ち去りました。


絵里「合コンって地獄のような所業なのね…。もう懲り懲りよ」

ことり「ことりも、二度と行きません」

海未「す、すみません!私が誘ったばっかりに、二人に嫌な思いをさせてしまいました…」

絵里「海未は謝らなくていいわ。行くことを決断したのは私だもの」

k子「そもそも海未ちゃんに数を集めるよう言ったのは私だしね。海未ちゃんの所為じゃないよ」

海未「……先輩。……すみませんでした」

k子「いいのいいの。海未ちゃんは何にも悪くないんだから」

海未「………」



合コンは、物の見事に失敗してしまいました。

このざまでは、穂乃果に嘲笑われるに違いありません…。
270: 名無しで叶える物語 2017/04/29(土) 00:21:38.03 ID:FNoiarbH.net
絵里「じゃあ私はここで」

海未「はい、お疲れさまです」

絵里「今日は楽し………、海未に会えて良かったわ。おやすみなさい」

ことり「おやすみ~」


海未「………ことりの家はもう過ぎたと思うのですが、帰らないのですか?」

ことり「せっかく海未ちゃんに会えたんだもん。もうちょっと一緒に居たいな~。……ダメ?」

海未「い、いえ、そんなことは…」


k子「あー、私はお邪魔虫みたいだね~」

海未「あ、先輩!私たちに気を遣わなくても…」

k子「いいのいいの!あとは若い二人に任せるから!それじゃ!」


ことり「全速力で走って行ったね…」

海未「k子先輩、あんなに走るのが速かったんですね…」
271: 名無しで叶える物語 2017/04/29(土) 00:32:31.42 ID:FNoiarbH.net
合コンが思いの外、早く切り上がったのでまだ夜も浅いのですが、念のため、ことりを家まで送ることにしました。


ことり「海未ちゃんはいつもことりに優しくしてくれるよね。ありがと、海未ちゃん♪」

海未「そうですか?私は普段通りに接しているだけですが…」

ことり「そういう台詞を自然に吐くのは禁止です!かっこ良過ぎます!!」

海未「ふふ、何ですかそれは」

ことり「ことりは、海未ちゃんが他の子のモノになっちゃうことを危惧してるの。海未ちゃんってすぐにたらし込むから~」

海未「大丈夫ですよ。私には心に決めた人がいますから!」

ことり「あー、そっか。そうだったね!じゃあ大丈夫か!」



ことりのやんわり笑顔は、どこか遠くを見つめています。
272: 名無しで叶える物語 2017/04/29(土) 00:41:16.50 ID:FNoiarbH.net
ことり「………そういえば、海未ちゃんはどうして合コンに参加しようと思ったの?」

海未「それはですね…。穂乃果が………かくかくしかじか………嫉妬させてやろうと思いまして」

ことり「ん…?穂乃果ちゃんは、本当に合コンに行ってたの?」

海未「はい。電話口の向こうから、穂乃果を呼びに来た男の声が聴こえましたから!忌まわしい限りです」

ことり「………」


ことりはしばらく考えた後、こう呟きました。


ことり「それ、穂乃果ちゃんの嘘だよ」

海未「へ…?」

ことり「たぶん穂乃果ちゃんも、今の海未ちゃんと同じように嫉妬してたんだろうね」

ことり「だから、海未ちゃんを自分と同じように嫉妬させようと、合コンに行った…なんて嘘を吐いたんだと思う」

海未「……な、何ですかそれは…」

海未「それじゃあ私たち、バカみたいじゃないですか!」

ことり「うん、バカなんだよ」

海未「ことりが辛辣です!」



ことり「………ほんと、二人とも大バカだよ」
273: 名無しで叶える物語 2017/04/29(土) 00:55:43.27 ID:FNoiarbH.net
ことり「海未ちゃんは、前に私が言ったこと覚えてる?」

海未「えっと…、何のことですか?」

ことり「やっぱり忘れてる…。だから穂乃果ちゃんの嘘に気づけなかったんだね」


ことりは、不敵な笑みを浮かべています。



ことり「穂乃果ちゃんは今、異世界にいるんだよ」

ことり「だからさ、現世で行われている合コンに参加できるわけ、ないよね?」



どこか消化不良のような、そんなもやもやとした気持ちを抱えながら寝床に着きました。

長かった夏休みも終わり、ついに後期授業が始まります。
298: 名無しで叶える物語 2017/05/02(火) 23:58:36.66 ID:SHeCcNQG.net
#15

今日はことりの誕生日です。

私は片手にプレゼントを提げ、ことりの家を訪ねました。


海未「ことり、来ましたよ!」

ことり「いらっしゃい♪どうぞ入って~」

ことり「………今日は家に誰もいないからね」



ことりに促されるまま、部屋の中へと入りました。

ことりの部屋は、相変わらず可愛らしいぬいぐるみや人形で埋め尽くされており、ことりらしさ全開です。
299: 名無しで叶える物語 2017/05/03(水) 00:00:04.80 ID:HZ5R6W7Z.net
海未「えー、改めまして。お誕生日おめでとうございます!」

ことり「ありがと~!毎年こうやって祝ってもらえて嬉しいです♪」

海未「ことりは今年で19歳ですからね。ことりのために、スペシャルなプレゼントを用意しましたよ!」

ことり「え、なんだろう?楽しみっ!」

海未「それは…こちらです!」


私は、セブンのレジ袋から『ことりのムースケーキ(税込298円)』を取り出し、ことりに差し上げました。

(・8・)

ことりの顔は、ケーキに描かれた顔とそっくりになってしまいました。
300: 1 2017/05/03(水) 00:15:13.37 ID:w8xwA5Gr.net
ことり「ねえ海未ちゃん。本当に、このケーキが誕生日プレゼントなの?」

海未「ええ、そうですよ」

ことり「そ、そっか…。……プレゼント、ありがとう」


どうやらことりは大変喜んでくれているようです。

嬉しい限りです。
301: 1 2017/05/03(水) 00:16:26.66 ID:w8xwA5Gr.net
ことり「海未ちゃん~。飲み物は何がいいかな?」

海未「何がありますか?」

ことり「えっとー…、果汁100%に野菜ジュースに午後の紅茶に、あとカルピコ!」

海未「コーラはないんですか?」

ことり「え?あるけど…。海未ちゃんは炭酸苦手だったんじゃ…?」

海未「ビールを飲むようになってから、少し炭酸に強くなったんです!」

ことり「それ、舌がバカになってるだけだよね…?」


私たちはケーキを食べ、コーラを飲みながら、ことりの誕生日を祝いました。

ことりのムースケーキは、想像以上の美味しさでした。
302: 1やわ銀 2017/05/03(水) 00:21:02.84 ID:w8xwA5Gr.net
海未「そういえば、私たちしか家にいませんね。お母様はまだ帰ってないんですか?」

ことり「うん、最近は選挙区廻りで忙しいみたいなんだ」

海未「そうなのですか。ということは、ことりはずっと家に一人で居るのですか?」

ことり「まあ、そういうことになるね」

海未「……家に一人きりだと、さぞ寂しいことでしょう」

ことり「うん、確かに寂しい時もあるけど…」

ことり「でもね、小さい頃から親がいないことはしょっちゅうだったし、慣れちゃいました!」


ことり「海未ちゃんも、親元を離れて暮らしてるわけだけど、ふとした瞬間に寂しくなったりしない?」

海未「いえ、一応ルームメイトもいますからね。寂しさに打ちひしがれることはありません」

ことり「そっか…」



ことりは少し間を置いて、私の目を見つめました。

その目は、私を捕らえて離しません。
303: 1やわ銀 2017/05/03(水) 00:45:49.47 ID:w8xwA5Gr.net
ことり「海未ちゃんは、お父さんと仲直りしたいとは思わない?」

海未「………」


私は目を背けようとしましたが、ことりの鋭い視線がそれを許してくれませんでした。


海未「……無理ですよ。今さら仲直りなんて…」

ことり「まだ遅くないと思うよ?もしかしたら、向こうも海未ちゃんが帰ってくるのを待ってるかもしれないよ?」

海未「そんなはずありません」

海未「私との縁を切ったのは、向こうなのですから」

ことり「で、でも、海未ちゃんは帰るべきだよ。それは、海未ちゃん自身の為にも…」

海未「ことりは心配しなくてもいいんですよ。私は、縒りを戻すつもりなどありませんから」
304: 1やわ銀 2017/05/03(水) 00:48:25.73 ID:HVd31nTh.net
ケーキを食べ終えた私は、すぐ帰ることにしました。

ことりはまごまごしつつも、私の後を追って来ています。



ことり「う、海未ちゃん!」

海未「………」

ことり「プレゼントありがとう!今日は楽しかったよ」

海未「……私も楽しかったです。プレゼント、喜んでもらえて何よりです」

ことり「うん…」
305: やわ銀 2017/05/03(水) 00:56:34.87 ID:BUNS6lOq.net
ことり「………でもね、海未ちゃん!
コンビニで買ったケーキを誕生日プレゼントとして渡すのは、いかがなものかと思うよ!?」

海未「な、なんですか突然…?」

ことり「コンビニで買った安物………。まあ、そこは目を瞑ってあげるとして…」

ことり「プレゼントは、袋に入っていたものをそのまま手渡し?言語道断だよ!」

ことり「せめて、ラッピングや装飾を施す手間をかけてよ!」
307: やわ銀 2017/05/03(水) 01:05:36.09 ID:FHAGfWpW.net
ことり「海未ちゃんはこれからも、女の子に何かをプレゼントする機会が"多々"あるよ」

ことり「だから、最低限のセンスは磨いておかないと!」

海未「……コンビニのケーキではダメなのですか?」

ことり「どうしてイイと思ったのか理解に苦しむよ」
308: やわ銀 2017/05/03(水) 01:16:25.43 ID:LiVKtjrd.net
ことり「100万ドルの夜景なんてハードルの高いものは望まないからさ、
独りよがりにならず、相手が望む物をプレゼントしてあげて!」

海未「は、はぁ…」

ことり「海未ちゃんはプレゼント代を出しても生活に支障はない?」

海未「たぶん大丈夫ですよ。毎月奨学金が支給されていますので」
309: やわ銀 2017/05/03(水) 01:17:07.26 ID:LiVKtjrd.net
ことり「それなら安心!ちゃんとプレゼントにお金をかけられるね!」

ことり「『プレゼントは相手を想う気持ちが大事』だけど、それはお金を積んでもらうことが大前提だもん!」

海未「ひどい話ですね…」

ことり「でもね、お金をかけた方が、相手の喜ぶ姿を想像しやすいでしょ?」



ことりのご高説を拝聴し、私たちは別れました。
310: やわ銀 2017/05/03(水) 01:18:39.43 ID:LiVKtjrd.net
そういえば…。

ことりは今日、家に一人きりなんですよね。

慣れている、と言っていましたが、誕生日は誰かと一緒に過ごしたいと思うのが性です。

………しかし、出て来たばっかりに今さら戻れませんね。


ことりのことやことりの言葉を繰り返し、気づくと寮に着きました。

そしてそこで私は、ある大事なことを思い出しました。



海未「あ…。今月はビール代で出費が嵩んで、お金が無いのでした…」
323: 名無しで叶える物語 2017/05/04(木) 23:41:43.00 ID:Dw/oFfUp.net
#16

講義を終え帰る道すがら、私は公園で親友に出会いました。

……前にも同じようなことがあった気がしますね。


絵里「あら、こんな所で会うなんて奇遇ね」

海未「そうですね。絵里はまた猫探しでもしているんですか?」

絵里「私のことを何だと思ってるのよ…」

海未「冗談ですよ。それで、何をしているのですか?」

絵里「ウサギ探しよ」

海未「ウサギ…?」

絵里「白ウサギが、この辺りにいそうだから探してるの」

海未「………」



絵里は、不思議の国にでも行くつもりのでしょうか?

……亜里沙の方が役としては合っていると思いますが。
324: 名無しで叶える物語 2017/05/04(木) 23:43:53.83 ID:Dw/oFfUp.net
海未「では、私はこの辺で」

絵里「あ、ちょっと待って!」


立ち去ろうとする私の腕を、絵里の手が掴みます。


絵里「来月、私の誕生日でしょ?」

海未「………ですね」

絵里「毎年、家で誕生日パーティをするんだけど…」

絵里「今年は希が来ないから、私と亜里沙の二人だけしか出席者がいないの」

海未「はあ…、そうですか」

絵里「……海未、よかったらあなたもパーティに参加しない?」

海未「別にいいですけど…」

絵里「歯切れが悪いわね。何か問題でもあるの?」

海未「実はですね、諸事情で貯金を食い潰してしまい、私は今お金がない状態なんです」

海未「なので絵里に渡すプレゼントは、本当に粗末な物しか用意できないと思うのですが…」

海未「それでもいいのなら、私も誕生会に出席したいと思います」
325: 名無しで叶える物語 2017/05/04(木) 23:44:45.70 ID:Dw/oFfUp.net
絵里「別にプレゼントがなくたって気にしないわ。私は多くを望まない」

絵里「ただ、私のことを祝ってくれる人が側にいる…。それだけでいいのよ」

海未「プレゼントはなくてもいいのなら、心置き無く参加できます」

絵里「ええ、ぜひ来てちょうだい。亜里沙も海未に会いたがってるわ」

海未「大学生になって以来、一度も連絡を取っていませんからね…。私も会うのが楽しみです」

絵里「今の言葉も含めて亜里沙に伝えておくわ。きっと喜ぶでしょうね!」


私は、上機嫌な絵里と別れました。

絵里は来月の誕生日で、20歳になります。

早く一緒にお酒を酌み交わしたいものですね。
327: やわ銀 2017/05/04(木) 23:58:29.29 ID:BRq41N7P.net
音ノ水女子大学 食堂


ことり「海未ちゃん…。それ、本気で言ってるの…?」

海未「ええ。絵里は誕生日プレゼントなど要らぬ、と言っていましたので」

海未「むしろプレゼントを用意することは、かえって迷惑になるのではないでしょうか?」

ことり「………絵里ちゃんは、海未ちゃんに気を遣ってただけだよ」
328: やわ銀 2017/05/04(木) 23:59:08.20 ID:BRq41N7P.net
ことり「本当は絵里ちゃんだって、好きな人からのプレゼントを貰いたいはずです!」

海未「私は絵里の想い人ではありませんよ?」

ことり「揚げ足を取らないでよ…。とにかく、プレゼントを渡すこと!」

海未「とは言っても、お金がありませんし」

ことり「お金がないなら、バイトをすればいいじゃない」

海未「バイト、ですか…?今までに経験がありませんし、一体どうすれば?」

ことり「それは海未ちゃんが考えることじゃないかな?」

ことり「海未ちゃんにはしっかりしてもらわないと困るから…、頑張って♪」

海未「放任です!」
329: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:00:40.38 ID:WU+juCbQ.net
というわけで、絵里に送る誕生日プレゼント代を稼ぐ為にバイトをすることになりました。

まあ、実を言うと、来月の食費を切り詰めればギリギリお金を捻出することは可能なのですが。

しかしそんなことをすると、一カ月もやし生活が始まってしまいます。それだけは避けなければなりませんからね。


バイトを始めようにもあまりに無知な私は、手始めにインターネットで情報収集することにしました。
330: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:01:27.86 ID:WU+juCbQ.net
【バイト 高時給 楽】[検索]



海未「運び屋…治験…事故現場の清掃…」



やはり、高時給の仕事は危ないものが多いようですね。

楽して稼げるバイトなど存在しないのでしょうか…?
331: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:02:21.89 ID:WU+juCbQ.net
海未「………ん?」


求人サイトを眺めていると、ある物件が目にとまりました。

高時給かつ楽なバイト。

それは、ここにありました。



海未「見つけました…!」



私は早速電話を掛けました。

これが運命だと思ったのです。

相手から指定された面接日は、明日の午前11時。

その時間帯には講義がありますが、一日くらいサボっても問題ありません。
332: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:03:50.12 ID:WU+juCbQ.net
翌日、私はその店に即採用されました。


【ローソン音ノ水駅前店】


客数が多く慢性的人手不足であったこと、2年ほど前に私がローソンのキャンペーンガールをしていたこと。

即採用された理由は、おそらくこの2つでしょう。

この店は時給がいいですからね、多少忙しくとも我慢しましょう。



研修の初めに、基本的な仕事内容、礼儀やマナーを教育させる為のビデオを観ました。

ビデオに映っていた店員さんは、とても楽しそうに、楽そうに仕事をしていました。


しかしそれは罠でした。楽に稼げるバイトなど存在しなかったのです。
333: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:04:21.56 ID:WU+juCbQ.net
レジ打ち品出し商品補充フライヤーおでん作り床トイレ掃除…

電気代やガス水道代の支払い受付、宅配便の受付、聴いたこともないようなアイドルグループのライブチケットの発見など………

あまりの業務の多さに、気が狂いそうです。


レジでもたもたしているとおじさんに怒鳴り散らされ、店に届いた商品も積み上げたまま。

商品が棚にない!と怒られせっせと並べていると、今度はファミチキがない!と怒られる始末。


バイトを始めて一週間。

軽くノイローゼを起こしかけていた私は、店長に相談しました。
334: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:05:19.74 ID:WU+juCbQ.net
相談の末、昼や夕方の忙しい時間帯ではなく、深夜にシフトを入れることになりました。

深夜は変な客が一層増えるそうですが、作業量は昼に比べ少ないそうです。

それに、深夜は昼夕より時給が上がるので、願ったり叶ったりです。


私は次の日から、深夜22:00~2:00にシフト入りすることにしました。
335: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:18:56.53 ID:WU+juCbQ.net
『この理論によって、KとMが一対であるということになるわけで…』


海未「……zzz…」


『しかし、これはKとSが一対であることに矛盾する。この問題についてレポートを…』


海未「……zzz………っ、んぁっ!?」

「園田さん。寝息を立てて爆睡するとは、はしたないですわよ?」

海未「え…?あ、すみません…」



近頃、講義の間はいつも眠気に襲われます…。

というか寝てます。

深夜バイトを始めたことにより、生活習慣がずれ、狂っているようです。
336: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:34:53.53 ID:WU+juCbQ.net
すべてはバイトが原因なのですが…。

私は何故、バイトをしているのでしょう?

絵里の為?絵里にプレゼントを渡す為?

プレゼントをあげ、絵里が喜んだとして、何の意味があるのでしょうか?

それに価値はあるのでしょうか?そもそも、絵里は喜んでくれるのでしょうか?

………。
337: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 00:36:39.43 ID:WU+juCbQ.net
給料は、月末締めの15日払いだそうです。

つまり、今月末まで働いて辞めれば、キリよく給料を貰えるということです。

迷いはありません、辞めましょう。

「えー、海未ちゃん一カ月も保たなかったの~!?」なんて穂乃果に言われそうですが、関係ありません。

そこそこ働きましたので、絵里へのプレゼント代も賄える…と思います。

最悪手として、もやし生活という方法もありますからね。



そして月末、私はバイトを辞めました。

店長は私が辞めることを止めませんでした。
348: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 19:34:00.67 ID:WU+juCbQ.net
そしてカレンダーをめくり、絵里の誕生日。


絵里「あら、いらっしゃい」

海未「絵里。二十歳の誕生日、おめでとうございます」

絵里「ありがと。ほら、中へどうぞ。もうパーティーの準備はできてるわ!」



私はカラーテープやバルーン、煌びやかなオブジェたちに迎えられ、家へと上がり込みました。
349: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 19:34:57.13 ID:WU+juCbQ.net
亜里沙「海未さん!お久しぶりだね!」

海未「ええ。亜里沙は少し見ない間にまた大きくなりましたか?」

亜里沙「えへへ、ちょっとね♪」

絵里「ちょっとどころじゃないでしょ。まさか亜里沙が私を越すとは思わなかったわ…」

亜里沙「それはお姉ちゃんが縮んだだけで………、あ!海未さんはここに座って!」

海未「え…?私が誕生日席に座るんですか?」

絵里「遠慮せずに座って。海未は大切なゲストなんだから!」


これ、絵里の誕生パーティなんですよね…?

相変わらずハラショーな姉妹です。
350: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 19:35:33.72 ID:WU+juCbQ.net
絵里「………では、私が挨拶を」


絵里は立ち上がり、手に持ったグラスを高々と上げました。


絵里「絢瀬絵里!20歳!!お誕生日おめでとー!!!」

亜里沙「おめでとー!」

海未「お、おめでとうございますー!」



自分で言うのですか!

………というツッコミが入る隙もなく、鳴らされたクラッカーは勢いよく弾けました。
351: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 19:36:11.41 ID:WU+juCbQ.net
テーブルに食事が運び込まれました。

中央には、圧倒的存在感を放つ七面鳥が陣取っています。

いよいよパーティの始まりです。



絵里「私の誕生日を祝って………」

三人「かんぱーい!!!」


絵里「希も、乾杯♪」

海未「あ、それは希の写真ですか?」

絵里「ええ。また何通か手紙が届いてね、そこに同封されていたわ」

絵里「ご丁寧なことに、プレゼントも一緒に贈られてきたわ」

海未「希も、海外から絵里の誕生日を祝ってくれているんですね」

絵里「そうね…」


絵里「………私が望むのはプレゼントじゃない。ただ、あなたが帰って来てくれるだけでいいのに…」

海未「絵里…」
352: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 19:37:13.64 ID:WU+juCbQ.net
絵里「……ごめん、いきなり湿っぽい話しちゃったわね…。さ、どんどん料理を食べていいわよ!」

亜里沙「この七面鳥も食べていい?」

絵里「ダメよ。先に海未が食べてからでないと」

亜里沙「あ、そっか!海未さん、チキン食べていいよ!」

海未「あの…。今日は絵里の誕生パーティなんですよね…?私ばかり優遇されると、かえって気を遣ってしまいます」

絵里「……じゃあ、三人で一斉に食べましょう?」



絵里は、バカみたいにでかい七面鳥をナイフで切り分け、各受け皿に置いていきました。

そして、三人で一緒に七面鳥を食べました。

ここ最近もやしのみの生活だった私には、涙が溢れるほどの美味しさでした。

みんなと同じ感覚を共有するのも、この美味しさに繋がっているのでしょうね。
353: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 19:37:58.37 ID:WU+juCbQ.net
皆で料理を突き、そして、テーブルいっぱいに広がっていた料理をすべて平らげました。



海未「ごちそうさまでした」

絵里「亜里沙。ケーキの用意しておくから、その間にお風呂に入っちゃって」

亜里沙「はーい!」


亜里沙は脱衣所へと直進して行きました。


絵里「………さて、と。いよいよアレを解禁する時が来たようね…」

海未「アレとは何ですか?」

絵里「私は今日、二十歳になったのよ…?ということはつまり…」



絵里「今日からお酒が、飲めるのよー!」

海未「あ、そういえばお酒って二十歳からでしたね」
354: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 19:39:05.17 ID:WU+juCbQ.net
皆で料理を突き、そして、テーブルいっぱいに広がっていた料理をすべて平らげました。



海未「ごちそうさまでした」

絵里「亜里沙。ケーキの用意しておくから、その間にお風呂に入っちゃって」

亜里沙「はーい!」


亜里沙は脱衣所へと直進して行きました。


絵里「………さて、と。いよいよアレを解禁する時が来たようね…」

海未「アレとは何ですか?」

絵里「私は今日、二十歳になったのよ…?ということはつまり…」



絵里「今日からお酒が、飲めるのよー!」

海未「あ、そういえばお酒って二十歳からでしたね」
355: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 19:40:31.58 ID:WU+juCbQ.net
絵里「どん!クリアアサヒよ!」

絵里「どのビールがいいのかよくわからなかったから、とりあえずCMでよく見るクリアアサヒを買って来たわ」

海未「ああ、アサヒビールですね」

絵里「それじゃあ、今日から大人になったということで…」


絵里「ビール、飲むわよー!」

海未「あ、待ってください」

絵里「な、何よ?人がせっかく良い気になってたのに…」

海未「いえ、一応忠告をしておこうと思いまして」

海未「お風呂に入る前に酒を飲むと、浴槽で眠りに落ち、そのまま溺れる危険性がありますので、気をつけてくださいね」

絵里「………そうね、確かにそうだわ。でもどうして海未はそんなに詳しいのよ?」

海未「飲酒に関しては、絵里よりも先輩ですからね!」

絵里「?」
356: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:23:19.29 ID:WU+juCbQ.net
食器を片付け、ケーキの準備をしていると、湯上りの亜里沙がやって来ました。

ケーキをテーブルの中央に置きました。プレートには、『祝 エリーチカ20才!』とチョコペンで描かれています。

白と赤のコントラストが鮮やかなショートケーキのホールに、立てられたロウソク2本。

火を灯し、部屋の電気を消し、いつもの定例文を読み上げます。


絵里「Happy birthday to you~」

亜里沙「Happy birthday to you~」

海未「ハッピバースデー、ディア絵里~」

三人「Happy birthday to you~」



絵里が息を吹きかけると、ロウソクの火は弱々しく消えていきました。

こうして、絢瀬絵里は20歳になったのです。
357: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:24:02.49 ID:WU+juCbQ.net
亜里沙「ん~♪ヤミー!」

海未「このケーキ美味しいですね。程よい甘さで舌触りも抜群です」

絵里「………」

亜里沙「お姉ちゃん、どうしたの?ケーキ食べないの?」

絵里「さっきの料理、食べ過ぎたみたいで…。苦しくなってきた…」

海未「別腹を使えばいいじゃないですか?」

絵里「それは…」

亜里沙「食べないなら亜里沙が貰うね~」

海未「あ、亜里沙…?今日はよく食べますね」

絵里「今日だけじゃなく、毎日よ」

亜里沙「ヤミー!オーサム!」

海未「なるほど、大きくなるわけですね…」
358: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:24:33.88 ID:WU+juCbQ.net
食後、夢の世界に行ってしまった亜里沙をベッドまで運び、私たちは再びリビングへ。



絵里「さて…亜里沙も寝たことだし、ようやくビールが飲めるわ。お腹も空けておいたし、たくさん飲むわよ!」

海未「お風呂には入らなくていいんですか?」

絵里「ええ。今日は酔いに浸ることにするわ」


絵里は冷蔵庫からクリアアサヒを取り出し、用意したグラスに注ぎます。
359: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:25:05.99 ID:WU+juCbQ.net
海未「あ、私にもグラスを用意してもらっていいですか?」

絵里「どうして?」

海未「私も、ビールを飲みたいので」

絵里「……薄々勘付いてはいたけど、海未…。あなた習慣的に飲酒してるでしょ?」

海未「ええ、まあ」

絵里「まったく…。お酒が飲めたからって偉くなれるわけじゃないのよ?」

海未「と言いつつ、注いでくれるんですね。ありがとうございます」



私たちは静かに、グラスを合わせました。
360: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:25:49.87 ID:WU+juCbQ.net
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


絵里「うぃぃぃ!今日れわらしは二十歳ぃだって言うのに!ろぉしてうぃは、わらしより先にお酒飲んれるのよお!」

海未「ええ!?グラス一杯でもう出来上がったんですか!」

絵里「うぃぃ!そこにぃ直りなあい!チューしてあげるわ!」

海未「ぎゃー!?来ないでください!ぶちますよ!?」

絵里「チューーー!!」


平手を一発。


絵里「いたい…」

海未「ようやく平静を取り戻してくれましたね…」


もう金輪際、絵里とはお酒を飲まないことにしましょう…。
361: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:26:52.69 ID:WU+juCbQ.net
私も酔いが回りやすい体質なのですが、私以上に酔っ払っている絵里を見ていると、酔うに酔えませんでした。

現在絵里は多量の水を飲み、落ち着きを取り戻しています。



絵里「ねえ…、海未?……私ね、今すごく悩んでるの」

海未「………どうしたんですか?」

絵里「今度、水コンがあるでしょ?友達からの推薦で、私がそれに出ることになったのよ…」

海未「水コン?」

絵里「ミスコンのことよ。音ノ水のミスコンだから、水コン」

海未「な、なるほど…」

絵里「水コンは毎年、徽音祭の名物企画となってるわ」

海未「その水コンに、絵里が出場するのですか。すごいです、さすが絵里!」

絵里「……でもね、私は出場を取りやめようと思ってるの」

海未「え…?」
362: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:27:36.01 ID:WU+juCbQ.net
絵里「私はね、水コンの推薦を受けた時こう思ったのよ」

絵里「『今年の水コンで優勝して、私を置いていった希を見返してやるわ!』
『ちやほやされている私に嫉妬させて、飛んで帰って来させるんだから!』………って。だから出場を決めたの」

絵里「でもわかってる、希は帰ってこない。私が水コンで優勝したとしても、目的が果たされることはない」

絵里「私は、水コンに出る理由を失くしちゃったのよ」

海未「だから、出場を取りやめようと思ったのですか?」

絵里「そうよ。特に目的もなく出るなんて、他の参加者に失礼だもの」
363: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:29:35.42 ID:WU+juCbQ.net
海未「………でも、絵里は悩んでいるんですよね?本当は出たいと思っているのではありませんか?」

絵里「ええ、出たいに決まってるじゃない。あのステージに、私も立ってみたい」

絵里「だけど、私には目的が…」

海未「出たい!という気持ちだけでいいじゃないですか」

絵里「ダメよ。こんな中途半端な気持ちで出場したって、優勝なんてできないし…」

絵里「それに、そんな浮ついた気持ちで出場する自分を、私自身許せないわ」



絵里は、自分の決意を正当化できるような理由が欲しいのですね。

それなら………
364: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:30:58.61 ID:WU+juCbQ.net
海未「それなら、私のために出場してください」

絵里「え…?」

海未「私は、絵里がそのステージに立つ姿を見てみたいんです。だから、出てください」

絵里「海未…」



海未「………それとですね」


私は鞄の中から箱を取り出し、絵里に渡しました。


絵里「これは…?」

海未「誕生日プレゼントです。どうか受け取ってください」

絵里「……あ、もしかして海未は、このプレゼントを買う為にバイトをしてたの?」

海未「えっ!何故バイトのことを知ってるんですか!?」

絵里「ことりが教えてくれたわ」

海未「またですか…。ことりはメッセンジャーですね」
366: 名無しで叶える物語 2017/05/05(金) 21:32:35.84 ID:WU+juCbQ.net
私が骨身を削って働き、手に入れた給料。

今月の食費、及び生活費、酒代を極限まで削って捻出したお金。

これらを合わせた、出来得る限り最高のプレゼントです。



絵里「ネックレス……綺麗………」

海未「気に入ってもらえたでしょうか…?」

絵里「……ありがとう、海未。嬉しい…、すっごく嬉しい…!」


絵里は涙を溜めながらも、笑顔を向けています。

心からの悦びが伝わってきて、こちらまで嬉しくなってきます。


海未「絵里…。これは私の、個人的な願いなのですが………」


海未「そのネックレスに、スポットライトの光を浴びせてください」

絵里「ええ、もちろんよ…!私は必ず、水コンで優勝してみせるわ!」



交わした約束は、鎖のように堅く結ばれています。
397: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 20:33:39.33 ID:Iotn6tT+.net
#17-a

第67回徽音祭、一日目。

各サークルがそれぞれ模擬店を構えたり、ステージでパフォーマンスをしたりと、既に大変な賑わいを見せています。


ことり「ほぇ~。朝からすごい人の数だね」

海未「伝統と格式ある学園祭らしいですからね。楽しみです」

ことり「今日のイベントスケジュールは…」

海未「有名声優のトークショー、芸人による漫才、化石学者が説く『本能寺の変の真相』…」

ことり「うーん、ステージイベントは特に面白そうなものはないね」

海未「……14時から行われる、『スペゲスさんのスペシャルイベント』という項目が気になりますが…」

ことり「14時か~。まだ時間は早いし、模擬店をぶらぶら周ろっか?」

海未「はい」


一日目は私とことりの二人で、初めての徽音祭を楽しみます。
398: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 20:40:07.53 ID:Iotn6tT+.net
ことり「たこ焼き、イカ焼き、たい焼き、今川焼き、お好み焼き、
焼きそば、焼きうどん、焼きマシュマロに焼きおにぎり…」

海未「どれも美味しそうで迷いますね」

ことり「海未ちゃんはどれを食べたい?」

海未「そうですね…」



海未「ことり、たこ焼きを食べましょう」

ことり「うん!」
399: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 20:41:04.85 ID:Iotn6tT+.net
たこ焼き店の前に来ました。

たこ焼きはたこ焼き器の上で、物の見事に綺麗な球体へと仕上がっていきます。

このたこ焼き店はテニスサークルが営業しているそうです。

どうりでボール捌きが上手なのですね。


ことり「海未ちゃん、あそこに座って食べよう?」

海未「はい」


ことりが目敏く見つけたパイプ椅子に座り、二人でたこ焼きを頬張ります。



海未「はふはふ…」

ことり「はふはふ…」
400: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 20:42:01.91 ID:Iotn6tT+.net
私たちは、軒を連ねる模擬店を順に周って行きました。

ミニピザ肉まんフランクフルト骨なしチキンからあげクン
チョコバナナクレープカステラチュロスワッフルわたあめ御手洗団子わらび餅…

他にも、輪投げやヨーヨー釣り、紐くじに型抜き、占いの館など、色んな店を訪れました。

的屋では、屋台荒らしの称号をいただきました。



ことり「ふぅ…。ずっと食べてばっかりだから、喉乾いてきちゃった」

海未「あそこに飲み物を売っている店がありますから、そこで何か買いま…」

ことり「そうだね。んー、ことりは何飲もうかな~?」

海未「………」
401: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 20:43:19.38 ID:Iotn6tT+.net
ことり「海未ちゃん…?」

海未「あ…、ことり。向こうに自販機があるので飲み物はそちらで買いましょう」

ことり「え、どうして?こっちのお店で買えばいい…」


海未「いいから!来てください!」

ことり「は、ひゃい…!」



私はことりの腕を掴み、無理やり引っ張って、その場を離れました。

飲料水の販売をしているのは、他でもない、登山サークルの方達でした。

自分の中で区切りをつけたはずでしたが、あの人達と顔を合わせることはどうにも気が進みません。
402: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 20:50:14.00 ID:Iotn6tT+.net
ことりを引き連れたまま、学生棟の裏まで来ました。


ことり「海未ちゃん…、痛いよ」

海未「あっ…、す、すみません。つい、強引に腕を引っ張ってしまいました」

ことり「ううん、ことりは平気…」



ことりは少し怯えた表情でこちらを見上げてきます。

どうやら、ことりを怖がらせてしまったようです。


海未「すみませんでした!ことりのことを考えず無理やり引き連れてしまい…」

ことり「本当だよ…。危うくトラウマになるところだったんだよ?」

海未「本当にすみません!私にできることなら、何でもしますから…だから…」

ことり「………何でも?」


ことりはそう言った途端、笑顔になりました。


ことり「じゃあ…、たこ焼き、もう一個奢ってください♪」
403: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 20:50:58.60 ID:Iotn6tT+.net
私たちは、野外に設けられた特設ステージの客席でたこ焼きを食べることにしました。

ステージの上では、白衣を着た化石学者が本能寺の変の真相について熱弁しています。

学者曰く、「信長の遺骨は大阪にて発見され、現在も大阪の寺院に納められている。」
「信長は本能寺の変では死なずに逃げ延び、その後、逃げた先の大阪で息を引き取った。」…とかなんとか。

この学者の理論は、限られた証拠だけでトンデモ推理を披露する探偵のようです。
404: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 20:51:58.22 ID:Iotn6tT+.net
ことり「もうすぐ14時になるね。結局スペゲスさんって誰なんだろう?」

海未「もし著名人ならば名前を使った方が客寄せできますし、恐らく名前を出しても客寄せが望めないような人なのでしょう」

ことり「なるほど~。例えばどんな人?」

海未「どうせ、売れないアイドルとかその辺でしょうね」


この適当な推理は、見事に的中しました。



にこ「はーい♡ハリウッドも認めそうなスーパーアイドル!矢澤ニコニーどぅえぇす♡☆♪」

海未「あ、にこ」
413: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 23:53:27.15 ID:Iotn6tT+.net
ステージ終了後、私たちはにこの元を直撃しました。


海未「にこ、お疲れ様です」

ことり「にこちゃん久しぶり♪そしてお疲れ様です!」

にこ「ええ、久しぶり。ステージの上からでも、あんたたちはすぐに見つけられたわ」


にこは綾鷹をぐびぐび飲んでいます。


にこ「敢えて連絡はしなかったけど、ちゃんと私がイベントをやることをリサーチしてくれてたのね。ありがと」

海未「勿論ですよ!スペゲスさんは、にこしかあり得ないと思っていました!」

にこ「ふふ、もっと褒めてもいいのよ?」

ことり「褒めてはないと思うなぁ…」
414: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 23:56:42.17 ID:Iotn6tT+.net
海未「にこは仕事で徽音祭に来てるんですよね?」

にこ「まあね。でもステージは終わったし、今からは暇よ」

海未「そうですか。では、オススメの模擬店を紹介するのでぜひ立ち寄ってみてください」


海未「テニスサークルのたこ焼き屋なのですが、あそこのたこ焼きは絶品なんです」

海未「徽音祭の模擬店でたこ焼き屋は二つあるのですが、料理部のたこ焼き屋は汁だくで提供されるので要注意ですよ」

ことり「汁だくも美味しいと思うけど~」

にこ「………というか、サークル名で言われて私がわかるわけないでしょ?」

ことり「じゃあ、案内しますね!」

海未「行きましょう!」


にこをたこ焼き屋に連れて行き、たこ焼きを買い、近くのパイプ椅子に腰を下ろしました。



にこ「はふはふ…」
415: 名無しで叶える物語 2017/05/08(月) 23:59:19.04 ID:Iotn6tT+.net
三人仲良くたこ焼き三姉妹をしている内に、特設ステージで何やら始まっているようです。

ステージの巨体スクリーンに、水コン出場者たちのPVが映し出されています。



海未「水コン出場者のプロフィールが、一人ずつ流れていますね。明日の宣伝でしょうか?」

にこ「たぶんそうでしょ。………ちゃんと絵里もいるわね」

ことり「あれ…?改めて見ると、今回の出場者のレベル、結構高いよね?」

海未「本当に綺麗な人はミスコンに出たがらないはずなのですが…。特に一番の人なんて、佐々木希みたいですよ!?」

海未「絵里は、この強豪揃いの水コンで優勝できるのでしょうか…?」
417: 名無しで叶える物語 2017/05/09(火) 00:23:28.49 ID:25VqqyQU.net
にこ「絵里は負けないわよ」

海未「にこ…?」

にこ「絵里は、海未と約束したんでしょ?必ず優勝するって」

にこ「だったら大丈夫よ!絵里は約束を破ったりしないわ!絶対に勝つ!」

ことり「そうだよね。絵里ちゃんの美貌に勝る人なんていないもん!絵里ちゃんなら勝てる!」

海未「………はい。私たちは、絵里を信じましょう!」

海未「期待に応えるエリーチカなら、必ず成し遂げてくれるはずです!」

にこ「その意気よ!じゃあ明日は横断幕作って、絵里を応援するわよ~!」

海未「え、にこは明日も来るんですか?」

にこ「………悪い?」



そして日は跨ぎ、翌日。

この音ノ水の舞台で、熱き女達の戦いが始まります。
418: 名無しで叶える物語 2017/05/09(火) 00:27:24.34 ID:25VqqyQU.net
ENTRY 05
絢瀬絵里(Ayase Eli)
社会学部国際学科2回生

BIRTHDAY
誕生日 10月21日
BIRTHPLACE
出身地 ロシア
HEIGHT
身長  159.9cm
BLOOD GROUP
血液型 B型

・趣味
キルト作り、YouTube
・特技
バレエ、歌唱
・所属サークル
国際交流部、ダンス部、オペラサークル
OC委員会
・アルバイト
ファミレス、飲食店
・よく行くエリア・スポット
音ノ木坂、神田明神
・よく使うアプリ
スクフェス、ツムツム
・コーヒー派?紅茶派?
紅茶派
・自分を色で例えると?
水色
・休日の過ごし方
エオルゼア、もしくはゲーム
・平均睡眠時間
6時間
・よく読む雑誌
ゼクシィ
・旅行で行きたい場所
インド、エジプト、ヨーロッパ、アメリカ、南極
・無人島に1つだけ持っていくなら
どこでもドア
・ストレス解消法
深夜に自転車を漕ぎながら大声で叫ぶ
・マイブーム
妹とスターウォーズごっこ
・最近買った一番高い物
スクフェス4周年記念セット~μ's~
・最近一番言っている言葉
ハラショー
419: 名無しで叶える物語 2017/05/09(火) 00:32:31.00 ID:25VqqyQU.net
・尊敬する人
ガガーリン
・好きな男性有名人
高倉健
・好きな女性有名人
IKKO
・好きなテレビ番組
世界不思議発見
・好きな映画
七人の侍、男はつらいよ
・好きな本
罪と罰、戦争と平和
・好きな歌手
ビートルズ
・好きな食べ物
2日目のカレーライス
・好きな場所
自分の部屋
・掛けられて嬉しい言葉
髪切った?
・「ドキッ」とする仕草
急に机をバンッ
・理想の告白シチュエーション
裸足で描いた砂の記号「I love you」
・初恋はいつ?
ひ・み・つ♡
・友達が異性に変わる瞬間
性転換手術…?
・自己流モテるテクニック
かしこくあること
・理想の結婚相手
ヤクルトファン
・学生生活を一言で表すと?
てんやわんや
・今までで一番笑ったこと
部活仲間たちとやった寄せ鍋
・今までで一番泣いたこと
自転車に棒を挟んで転倒
・今まで一番嬉しかったこと
μ'sの一員であれたこと
・今まで一番疲れたこと
ジュースを賭けた競走
・これまでの人生で一番美味しかったもの
実家で食べるボルシチ
・100万円あったらどうする?
運用資金にする
・1つだけ願いが叶うとしたら?
3つの願いを叶えてくれるマジックボックスを出す
・将来の夢
世界制服
・座右の銘
困ったら走れ
・ミスコンテストに参加したきっかけ
友達の推薦
・頑張ろうと思っていること
自分磨き
・アピールポイント
アイドルをやってるときに培ったファンサービス
・ミスコンテストへの意気込みを一言
絶対優勝!
453: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:50:34.90 ID:o+PERUXR.net
#17-b

徽音祭、二日目。

水コン当日。



絵里「ああ あああああ あああああああああ…」

海未「絵里!?どうしたんですか、顔色ブルースカイですよ!」

絵里「海未………私、やっぱり無理…」

海未「なに弱音吐いてるんですか!約束しましたよね、絶対に優勝すると!」

絵里「ええ…?じゃあそれは無かったことにしましょう?クーリングオフよ」

海未「バカなこと言わないでください!とにかく、早く支度を…」


「出場者の皆さん。スタンバイお願いしまーす」


絵里「ああ…」

海未「ほら、そろそろ腹を括ってください!」



海未「……始まりですよ」
454: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:51:04.08 ID:o+PERUXR.net
『すぁあああ!始まりました、水・コンテスト!』

『ライバル共を蹴散らし、水の女王の杯を手に入れるのは誰なのかぁ!』


にこ『司会進行はぁ…天上天下唯我独尊!弱肉強食の乱世を駆け抜けるスーパーサラブレッド!矢澤にこにーよぉ!』

「Boo! boooo!!」

にこ『……え~?なんで部外者が司会をしてるのかってぇ~?』

にこ『にこはよく知らないんだけどぉ…。元々の司会役の人がぁ、お腹を下してトイレに立て籠もってるらしいにこぉ~♪』

にこ『だからにこが急遽、ピンチヒッターとして…』

「ぼそぼそ…」

にこ『ちょっと!「お前が下剤盛ったんだろ」とか言ったの誰よ!出てきなさい!!』

ことり『まあまあ、にこちゃん』

にこ『あ、ごめん。ことりの紹介がまだだったわね』

ことり『えー、おほん…。今回衣装係をさせてもらいました、人文学部一回生の南ことりです!』

ことり『コメンテーターとして、みんなのかわいさが120%伝わるよう精一杯がんばります♪』

「Wooooooo!!!」

にこ『どうしてことりの挨拶の方がウケてるのよ…』
455: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:51:32.12 ID:o+PERUXR.net
にこ『では早速、出場者の5人に登場してもらいましょう!』

にこ『エントリーナンバー 1番!今大会の優勝候補で、元スクールアイドルの経歴の持ち主!』

にこ『UTX学院でA-RISEと同格と謳われた実力は果たして本物か!?佐藤ぉ………』



絵里「うぅ…、海未ぃ~…」

海未「大丈夫ですよ。ただそれっぽく歩いてそれっぽいポージングを決めるだけの作業です。絵里ならできます!」

絵里「うん…」


にこ『………えー、最後はエントリーナンバー5!極寒の地シベリアから舞い降りた金髪娘!』

にこ『伝説のスクールアイドルμ'sを支えた大黒柱!プレッシャーに負けず力を発揮できるか!?絢瀬ぇ………絵里ぃぃぃ!!!』


絵里「ガガ ガガガガガ ガガガ ガガガガガガガガガ…」

海未「右手と右足が一緒に出ていますよ!?」

海未「絵里、わかりやすく緊張していますね…」
456: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:51:57.51 ID:o+PERUXR.net
にこ『………えー、以上の5名で水の女王の座を競っていただくわけですが…』

にこ『南さん、5人に何かコメントはありますか?』

ことり『はい!絵里ちゃん、頑張れ~!』

にこ『南さぁん。贔屓目はダメにこぉ~?』

ことり『ひぃっ!?ご、ごめんなさい~!』


にこ『……えー、おほん。これから出場者の皆さんには、
「踊り」「演奏」「歌唱」「スペシャル」の全4項目を披露してもらいます』

にこ『「スペシャル」は毎年違うお題が出されるらしいけど………。お題は直前まで、観客にも出場者にも内緒!完全アドリブでやってもらいます!』

にこ『そして全項目後、客席にいるオーディエンスに各総合得点を投票してもらい、最も票を集めた人が優勝!』

にこ『いよいよ乙女達の熱き闘いが、始まるよーーー!』

「Woooooooooooooo!!!」
457: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:52:55.98 ID:o+PERUXR.net
Woooooooooooo…



海未「すごい熱気…。裏手までひしひしと伝わってきますね」

絵里「ガクガクガクガク…」

海未「絵里!しっかりしてくださ…



「絢瀬絵里!」

絵里「あ、あなたは…」

「私は佐藤よ。元UTX学院アイドル部部長の、佐藤よ!」

海未「あ…」


佐々木希のそっくりさんですね。
458: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:53:40.30 ID:o+PERUXR.net
絵里「……それで、私に何か用かしら?」

「お前も私と同じ、スクールアイドル上がりだからな。軽く挨拶でもしておいてやろうと思って」

絵里「へー、あなたもスクールアイドルだったのね。これはシンパシーを感じざるを得ないわ」

「なっ!?てめ、絢瀬ぇ!私のことを知らないフリして挑発するとは、舐めてるのか!」

絵里「あら、もしかしてあなた有名な人だったの?」

絵里「だったら、あなたが所属していたグループ名を教えてくれるかしら?あなたのことを思い出せるかもしれないわ」


「………B-ROSEよ」

絵里「ビローズ?聴いたことないわね。海未はどう?」

海未「私も知りません」

「くっ!バカにしやがって…!」
459: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:54:18.95 ID:o+PERUXR.net
「お前たちμ'sがうちのA-RISEを倒したおかげで、UTXの株は大暴落!」

「そしてその責任は、アイドル部部長だった私がすべて被る羽目となった!」

「お前らさえ、いなければ…」

「許さない…!私はお前らを、絶対に許さない!」


海未「な、なんですか…。逆恨みもいいところですよ!だいたい…」

絵里「海未、黙ってて。私が話す」

海未「え………はい…」


絵里「ねえ、佐藤さん。私と勝負をしましょう?」

「勝負だと?」

絵里「この水コンで、どちらが優勝できるか競いましょう」

「はっ!わざわざ勝負なんてしなくとも、私が絢瀬をぶっ潰すだけだ!ビビって逃げ出すなよ?」

絵里「望むところよ。私が優勝して、あなたに力の差を思い知らせてあげるわ」

「けっ!」
460: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:55:04.91 ID:o+PERUXR.net
海未「………行きましたね」

絵里「ふぅ…。佐藤さんと話していたら、なんだか緊張も解けちゃったわ」

海未「そ、そうですか…」

絵里「どうして海未がしょんぼりした表情浮かべてるのよ?」

海未「いえ…。結局私の力では、絵里の緊張をほぐすことができなかったので…」

海未「私は約束だとか言って、ただ絵里にプレッシャーを掛けていただけなんですね…」

絵里「そんなことないわよ。海未が側にいてくれるだけで心強かったわ、ありがと」

海未「絵里…」

絵里「ここからはもう大丈夫よ。海未は客席から、私の勇姿を見てなさい!」

海未「……はい!」


絵里の胸元で、ネックレスがきらりと輝きました。
461: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:55:51.99 ID:o+PERUXR.net
にこ『………えー、色々ありまして、全員のダンスが終了したわけですが…』

にこ『1番と5番は、流石元スクールアイドルだけあってキレッキレに仕上がってたわね。他の出場者がモブにしか見えないわ』

ことり『衣装も運動性を優先したから、みんな思いのままに踊ってくれてました!』

にこ『あ、コメントそれだけ?じゃあ次の項目に行くにこ~』

にこ『踊りの次は楽器演奏よー!演奏する楽器は何でもあり!
響けリズム、奏でろハーモニー、届けマイメロディー!』

にこ『まずはエントリーナンバー 1番!演奏は………』
462: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 18:56:27.09 ID:o+PERUXR.net
楽器演奏は、佐藤さんはギター、絵里は電子オルガンを弾きました。

どちらもとても上手でした。

歌唱は、二人ともスクールアイドル時代の楽曲を熱唱していました。

特に絵里の"Angelic Angel"は圧巻のパフォーマンスでした。

ですがここではカットします。


そして、大熱狂の水コンは、ついに最終戦へ…!
463: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 21:19:02.60 ID:o+PERUXR.net
にこ『ついに大詰め!泣いても笑ってもこれがラスト!最終審査ぁ!』

ことり『にこちゃんにこちゃん。最終審査は「スペシャル」って書いてあるけど、結局何をするの?』

にこ『慌てなくてもちゃんと発表するわよ!』

にこ『さあ、最後の審査は………これだ!』


『スクフェス!』


にこ『スクフェス対決よー!』

ことり『どうしてここにきてスクフェスなの…?』

にこ『この学祭のスポンサーがKlabだとか、色々と大人の事情があるのよ』

ことり『あー………なるほどなるほど』

にこ『じゃあ、出場者の皆さんはステージに集まってにこ~。すぐにゲーム始めるよ~』
464: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 21:20:20.92 ID:o+PERUXR.net
「おい、絢瀬」

絵里「あら、佐藤さん」

「ここまでは互角の勝負だったが、次はそういかない!」

「何と言っても、私が得意な『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル』の勝負だからな!奥歯ガタガタ言わせてやる!」

絵里「ふふ、どうかしら?私もスクフェスは得意だもの、そう簡単に勝ちを譲るつもりはないわよ」

「ふん、精々足掻くんだな!」

絵里「お手柔らかにね」



海未「え、絵里!」

絵里「海未…?どうしたのよ、もう私ステージに行かなきゃいけないんだけど?」

海未「ことりに頼まれたんです。絵里の衣装が崩れているから直すようにと」

絵里「衣装?どこも崩れてなんかないわよ」

海未「そ、そんなはずは…。だって、衣装担当のことりが言った言葉ですから…」

絵里「……海未。ことりに上手く遣われたみたいね」

海未「え…?こ、ことりぃ!!」
465: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 21:21:27.03 ID:o+PERUXR.net
海未「すみません、絵里…。大事な最終審査の前に、集中をかき乱すようや真似をしてしまい…」

海未「私はもう戻りますね。頑張ってください!」



絵里「………海未」

海未「え…?はい、なんですか?」

絵里「私に、キスしなさい」

海未「………はい?」

絵里「だから、キスしなさい」

海未「何言ってるんですか、絵里?冗談は休み休みにしてください」

絵里「……私が、冗談を言っているように見える?」



絵里の目は真剣で、しっかりと私を捉えています。

私は思わず目を逸らしました。



絵里「目を逸らさないで、私を見て」

海未「………」
466: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 21:22:03.36 ID:o+PERUXR.net
海未「絵里。手を貸してください」



私は絵里の手を取りました。

その手は少し汗ばみ、湿っています。



絵里「海未…?」

海未「そのままですよ」



私はその場に跪き、絵里の手の甲に、そっと口づけをしました。


海未「尊敬、敬愛…。これが私なりの愛情表現です」

絵里「……キスに意味を添えるなんて、海未らしいわね」

海未「もう、揶揄わないでくださいよ…」



絵里「………私、絶対に約束を果たすから。……だから、ちゃんと最後まで見ててね…?」

海未「はい!思う存分、羽ばたいてきてください」

絵里「……任しておきなさい!」


絵里はそのまま、ステージへと駆け上がりました。
467: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 21:22:38.47 ID:o+PERUXR.net
~~~~~~~~~~

にこ「ふぅー、お役御免!司会役も結構大変なのね~」

ことり「でもすごく様になってたと思うよ?にこちゃんってMCに向いてるのかも!」

にこ「そうねー。また次の機会があるなら、今度は実況者とかもいいかもしれないわね」



海未「にこ、ことり。今日はお疲れ様でした」

ことり「お疲れ様~。私はみんなの可愛さに見惚れてて、碌に衣装のコメントをしてなかった気もするけど…。まあいっか!」

にこ「絵里はどうしたのよ?」

海未「ああ、絵里ならあそこに」
468: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 21:23:09.28 ID:o+PERUXR.net
絵里「………今日は一日、楽しかったわ」

「なんだよ…。私に嫌味か?」

絵里「共に戦った仲間を讃えているのよ」

「仲間、だと…?くそっ、ふざけやがって…!」

「いいか、絢瀬!来年、またこの場で勝負しろ!今度は絶対に勝ってやるからな!」

絵里「また来年、ね。その時までにはもっと音ゲーの技術を上げてくることね」

「ふん、ほざけ」



二人の小指は、強く結ばれています。

あの二人、何だかんだで仲良くなっていますね。
469: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 21:24:40.87 ID:o+PERUXR.net
にこ「さ、絵里の水コン優勝記念に打ち上げするわよー!」

ことり「いぇーい!」

海未「場所はどこにしますか?」

絵里「ファミレスにしましょう!私は今、ものすごくチーズインハンバーグが食べたいわ!」

海未「またですか?」

絵里「私が主役の打ち上げなんだから、私の要望を通してもらうわよ!」

にこ「しょうがないわね。近くのファミレスに行くわよ~!」


ファミレスでどんちゃん騒ぎを起こした結果、店員に怒られました。

かくして、私たちの今日は幕を閉じました。
470: 名無しで叶える物語 2017/05/13(土) 21:26:44.21 ID:o+PERUXR.net
絵里はこの日、私との間に結んだ約束を、見事果たしてくれました。

そして絵里は、水コンの舞台で共に戦った佐藤さんと、また新たな約束を誓いました。

来年の水コンで、再戦することを。





一年後、この約束が果たされることはありませんでした。

……いえ、今はまだ、未来の話はやめておきましょう。



季節は移り変わり、冬がやって来ました。
480: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:30:11.31 ID:cNsoYIQz.net
#18

クリスマスまで一週間を切ったこの日。

何処と無く浮き足立つキャンパス内で、私は独り、パソコンに食らいついています。

今まで提出をサボってきたしわ寄せが来たのです。

私は自らに鞭を打ち、レポート作成が進むよう奮い立たせます。


海未「冬休み…。冬休みの為………」


うつらうつらしながらキーボードを叩いていると、携帯から着信音が聴こえてきました。
481: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:30:51.86 ID:cNsoYIQz.net
誰ですか、人の集中を邪魔するのは!

私はイライラする気持ちを電話口にぶつけようと思い、電話を取りました。


海未「はいもしもし?誰ですか!」

ことり『あ、海未ちゃん~』

海未「ぷわぁ!?」



この声を聴くと、脳が蕩け、全身に電流が走ります。


海未「こ、ことり…」

ことり『海未ちゃん~!来週の24日、暇?』

海未「24日…?ええ、冬休みも始まっていますし、恐らく暇してるでしょう」

ことり『ふーん、そっか~…』

海未「……含みのある反応ですね。ことりは何を企んでいるのですか?」

ことり『何も企んでないよ♪じゃあね~』

海未「あ、ちょっと!ことr…」


電話は一方的に切られました。

結局ことりは何がしたかったのでしょうか…?
482: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:32:22.20 ID:cNsoYIQz.net
私が再び文字を打ち込む作業に戻ると、またも携帯から着信音が聴こえてきました。

またことりですか!全く、何度も何度も…!

私は物のついでにストレス発散をしようと思い、電話を取りました。


海未「ことり!何回電話を掛けてくれば気が済…」

花陽『あ、海未ちゃん~』

海未「ぷわぷわぁ!!?」



この周波数の声は、脳を震わせ、全てをダメにしてしまいます。


海未「は、花陽…!?どうしたんですか、私に何か用でも?」

花陽『……うん。用事というか、何と言うか…』



花陽は少しごもりながら、呟きました。


花陽『海未ちゃんに………話が、あるの』
483: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:34:11.27 ID:cNsoYIQz.net
花陽に呼び出されやって来たのは、音ノ木坂学院。

約一年ぶりに、その門をくぐりました。

校門付近には人の姿はあまり見られませんが、運動部の掛け声が遠くから聞こえてきます。



海未「花陽、お待たせしました」

花陽「あ、海未ちゃん。急に呼び出しちゃってごめんね?」

海未「いえ。それより話というのは?」

花陽「あ…。うん、話しておきたいことがあって、わざわざ学校まで来てもらったんだけど…」

海未「はい」

花陽「……立ち話もなんだし、部室で話をしよっか?ストーブもあるし…」



先程から、花陽と目が合いません。

何か後ろめたいことでもあるのでしょうか。
484: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:35:44.82 ID:cNsoYIQz.net
花陽に連れられ、アイドル研究部部室に到着しました。

私たちのいた頃から何も変わっていませんでしたが、そこは、もう私たちの居場所ではないことがよくわかりました。

部室の机には、音ノ木坂指定の鞄が乱雑に置かれています。

その内の二つは、雪穂の物と亜里沙の物のようです。


花陽「今ね、放課後だから。後輩たちは屋上で練習中」

海未「そうですか。こんなに寒いのに外で練習とは、大変ですね」

花陽「うん、だよね。新しい理事長が体育館での練習許可をくれたんだけど、みんな断っちゃったから…」

海未「何故断ったのですか?」

花陽「みんな、一生懸命μ'sの伝統を守ろうとしてるの。だから屋上での練習に拘ってるみたい」

花陽「特に後輩たちはすごいよ。μ'sの功績を、後世に渡って伝承していこうとしてるんだ」

花陽「『μ'sは伝説なんだー』…ってね」


花陽は頬杖をつきながら、溜め息をつきました。
485: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:37:05.70 ID:cNsoYIQz.net
花陽「………で、私が海未ちゃんにしたい話なんだけどね…?」

海未「ええ。もしかして相談話ですか?」

花陽「相談というか………報告、かな?」


先程とは打って変わり、花陽は私の表情をやたらと気にしています。


花陽「あ、あのね。私、音ノ水にオープンキャンパスで行って、そこで海未ちゃんと会ったよね?」

海未「ええ。凛と真姫も一緒でしたね」

花陽「その時に私、音ノ水に進学します………って言ったと思うんだ。覚えてるよね、海未ちゃん…?」

海未「はい、覚えてますよ」

花陽「……でもね、あれ、訂正!」


花陽は胸の前で両手を十字にクロスさせ、×マークを作っています。

攻守において完璧な構えに、私は動揺を隠せません。



花陽「私………大学には行かず、JAに入ります…!」
486: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:40:05.72 ID:cNsoYIQz.net
海未「JAって、確か農業組合のことですよね?」

花陽「うん。高校を卒業したらJAに入って、お米作りをしたいの」

海未「花陽のお米に対する想いは知っていますが…。大学を出てからでもいいのでは?」

花陽「それじゃダメなのぉ!一秒でも早く現地入りしたいのぉ!!」

花陽「卒業したら、新潟で一からお米作りを教えてもらう予定で…。もう現地の農家さんとは話をつけてあるの」

花陽「もちろん最初は上手くいかないだろうけど…。でも、いつか、何十年掛かってでも、美味しいお米を作ってみせます!」

海未「そ、そうですか…。花陽がそこまで言うのなら止めませんが」

海未「ちなみに、凛と真姫には話しましたか?」

花陽「ううん、まだ…。二人には、受験が終わってから話そうと思ってるの」

海未「今話しても、動揺を招くことは避けられませんからね。その方がいいと思います」
487: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:44:44.26 ID:cNsoYIQz.net
花陽「話はこれでお終いです。あー、海未ちゃんにだけでも話せてよかった~」

海未「あ、花陽。一つ質問していいですか?」

花陽「なあに?」

海未「凛と真姫には、受験が終わってから話すつもり…と言っていましたよね?」

花陽「うん、二人の受験を邪魔したくないし」

海未「ですが、花陽が入試を受けないのなら、受験前にあの二人に気づかれるのではありませんか?」

海未「受験会場にいないのであれば、気づかないわけが…」

花陽「大丈夫!一応私も、凛ちゃんたちと一緒に入試は受けるよ」

海未「え…?でも、花陽は大学に進学しないのでは…」

花陽「形だけの受験って言うのかな。凛ちゃん達には悟られないように、受験が終わるまでは何もかも偽って、女子大生花陽を演じて…」

花陽「そして、全部終わってから打ち明ける。そうすれば、凛ちゃんと真姫ちゃんの受験に迷惑を掛けなくて済むから」

海未「………」



私は、三人で音ノ水に受験した、あの時のことを思い出していました。
489: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:50:16.64 ID:cNsoYIQz.net
花陽「海未ちゃん…?大丈夫?」

海未「……話は終わりなんですよね?だったら私は帰らせてもらいます」

花陽「う、うん…」

海未「それでは」


花陽「………あ、海未ちゃん!もうすぐ後輩達が練習終わって戻って来るけど、会っていかない?」

海未「いえ、私が今のアイドル部メンバーに会ったところで何の意味ありませんから」

花陽「きっと喜ぶと思うけどなあ…」

海未「………」


私は、先程まとめたレポートを机の上に置きました。


海未「暇を持て余して作った詩です。もしよければ、次の曲にでも当ててください」

花陽「ふむふむ、ジェンダー問題を批評する熱い詩…」

花陽「すごくいい詩です!このまま次の曲に使わせてもらうよ!」

海未「ええ、ご自由に」



私は、部室を後にしました。
490: 名無しで叶える物語 2017/05/14(日) 23:56:41.23 ID:cNsoYIQz.net
帰る前に、ふとアルパカ小屋を覗いてみることにしました。

しかし、中には何もありませんでした。

私は大学に戻り、レポート作成に没頭しました。



単位取得の安全域に達し、なんとか平穏な冬休みを手に入れることができました。

そして日付は12月24日。

クリスマス・イヴです。
517: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:42:43.32 ID:XlDN9X3i.net
#19

学生寮


k子「海未ちゃん~」

海未「………なんですか」

k子「海未ちゃんにお客さんだよ~」

海未「……『私は布団が恋しいので、後にしてください。』と、言ってもらえませんか?」

k子「やだよ。自分で行きな」

海未「まったく…。こんなにも寒いのに、どうして毛布から出なくてはいけないのですか…」

k子「いいから早よ行け~」


k子さんに毛布を剥がされ、やむなく来客の相手をする羽目になりました。
518: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:43:32.08 ID:XlDN9X3i.net
ことり「あ、海未ちゃん♪」

海未「ことり…?どうして私の部屋の前にいるんですか…」

ことり「海未ちゃん!私とクリスマスデートしよ?」

海未「いやです」

ことり「えー、なんで~?部屋でゴロゴロしてないで一緒に出掛けようよ~」

海未「ゴロゴロなんてしてません!ダラダラしてるだけです」

ことり「それって同じことだと思うけど…」

海未「私は断固として外に出たりなどしませんから、諦めて帰ってください!……それでは」

ことり「あっ、待って!!」



私がドアを閉じようとすると、ことりは足を挟んで阻止してきました。

ドアを引く力を強めると、ことりはどんどん目を潤わせていき、とても見ていられませんでした。

ああ、もう………。ことりはズルいですよ。
519: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:45:26.25 ID:XlDN9X3i.net
私は暖かそうな服を適当に着込み、外へと出ました。

街はイルミネーションが飾られ、すっかりクリスマス模様です。



海未「クリスマスイブとだけあって、どこもかしこもカップルだらけですね」

ことり「私たちも、周りからはカップルに見えてるのかな?」

海未「ふふ、あなたの頭はお花畑ですか」


人の波を掻き分けしばらく歩いていると、人のばらけたエリアに出ました。

そこは、下品なネオンライトに彩られた場所………ホテル街でした。


海未「こ、ことり…?何故こんな所に連れて来たのですか…!」

ことり「ふぇ!?違うよ!私はただ、海未ちゃんの後を付いて来ただけで…」

海未「私も、ことりの行き先に付いて行ってたのですが…?」

ことり「………じゃあ私たちは、偶々ここに出て来ちゃったってこと?」

海未「そういうこと、になりますね…」


故意ではなく、偶然来てしまったということは確認できましたが…。

互いに気まずくなり、何を話していいかわからずその場に立ち尽くし、押し黙ってしまいました。
520: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:46:48.02 ID:XlDN9X3i.net
先に沈黙を破ったのは、ことりでした。


ことり「ねえ、海未ちゃん…」

海未「な、何ですか?」

ことり「まだ日も暮れてないのに、寒いね…」

海未「ええ…。冬ですからね」

ことり「……だからさ…。この中で、一緒に暖まろう…?」

海未「………は?」



時が止まりました。



海未「……あなたの頭はピンク色ですか」

ことり「ダメ…?」

海未「ダメに決まってます!ことりと情事に溺れるなんて、私がおばさんになっても絶対にありえません!」

ことり「そこまで言い切られると傷付いちゃうなぁ…」

海未「すみません…。ですが、私は穂乃果と約束したんです」

海未「大学を卒業したら、セックスをすると…!」
522: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:48:52.46 ID:XlDN9X3i.net
海未「約束した以上、他の人と行為をするわけにはいきません。だから、ことりとは………。本当にすみません」

ことり「ううん、謝らないで。海未ちゃんは悪くないよ」

ことり「……そっか。穂乃果ちゃんが相手なら、断られても仕方ないよね…」


ことりは悲しげな表情を浮かべています。

しかし次の瞬間には、パッと笑顔に変わっていました。

私のよく知る、ことりスマイルです。



ことり「海未ちゃん、そろそろお腹空く頃じゃない?どこか行こうよ」

海未「そうですね…。では、ケンタッキーにでも行きましょうか」



私たちはケンタッキーで、肉を貪りました。
523: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:49:46.22 ID:XlDN9X3i.net
海未「さて、夕食も食べたことですし帰りますか」

ことり「え、帰るの早いよ!?もっと一緒にいよう!ね…?」

海未「……わかりましたよ。で、これからどこに向かうつもりなんですか?」

ことり「そうだね…」

ことり「波に、流されてみようか」



私たちは人の波に混じり、その流れに身を委ねることにしました。

お互いに離れないよう、しっかりと手を握っています。

流され、流され、流され………。

着いた場所は、駅前にセットされた大きなクリスマスツリーの下でした。


ことり「すごい…綺麗な光…」

海未「このツリー、何メートル位あるのでしょうか?かなり高いですね」

ことり「海未ちゃん!この光を背景に写真撮ろう!」

海未「写真ですか?ツリーの姿を全て写真に収めるなら、ずっと離れた所から撮影しないといけませんね」

ことり「ツリーはいいから!ほら、もっと私に近づいて。見切れちゃう」

海未「は、はい」


人々の騒めきの中、シャッターは静かに切られました。
524: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:53:55.73 ID:XlDN9X3i.net
駅前のツリー付近には、更に人が増え、溢れかえっています。

何かレアなポケモンでも出たのでしょうか。

私とことりは人混みから抜け出し、少し離れた公園に避難しました。

そして、その閑寂な公園にあるベンチに腰を下ろしました。



ことり「………今まで、イルミネーションの光で全然気がつかなかったけど…」

ことり「星って、こんなに明るいんだ…」

海未「ええ。お星様も、イブの夜を照らそうと頑張っているんですね」

ことり「空を見上げれば、ロマンチックな景色が見られるんだね…。このことに気づいてるのって、もしかして私たちだけかな?」

海未「そうかもしれませんね」

ことり「じゃあ、この空を私たちが独り占め!…だね♪」

海未「二人ですから、二人占めです!」


こんな何でもないような会話が妙に楽しくて…

私たちはすっかり時間を忘れました。
525: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:55:23.73 ID:XlDN9X3i.net
ふと視線を感じたのでことりの方を向くと、ことりは私の顔を凝視していました。


ことり「………海未ちゃんのファーストキスは、いつ?」

海未「まだですよ。唇へのキスは経験ありません」

ことり「へー。じゃあ、穂乃果ちゃんともまだなの?」

海未「当然です。私たちは清廉潔白な交際をしていますからね!」

ことり「……そっか」


ことり「海未ちゃん」

海未「はい」

ことり「私と、キスしよ…?」

海未「………はい?」

ことり「ここで私とキスをしたら、海未ちゃんのファーストキスは穂乃果ちゃんではなく、私になるんだよね?」

ことり「だったら…」



ことりは目を閉じ、その肉厚な唇で私を誘惑してきます。
527: 名無しで叶える物語 2017/05/18(木) 23:58:59.59 ID:XlDN9X3i.net
海未「ことり…。目を開けないでくださいね」

ことり「……うん」


私はことりの肩を抱き寄せ、その赤らむ頬に口づけを施しました。



ことり「え…」

海未「親愛、厚意…。これが私の想いです」

ことり「……どうして、唇にしてくれなかったの…」

海未「私はそんなに軽くありません。心の底から好きになった人にしか、唇は捧げませんよ」

ことり「………そっか。海未ちゃんには、大切な人がいるんだもんね…」


ことりは哀しげな表情で、私を見つめています。

その表情にどういった意味があるのか、私には知る由もないのです。
528: 名無しで叶える物語 2017/05/19(金) 00:08:40.21 ID:pCXHFfl1.net
ことりを家まで送った後、私は寮へと戻りました。


k子「海未ちゃんおかえり~」

海未「あ、先輩。イブの夜なのにどこにも出掛けてないんですね」

k子「まあ色々あってね…。それより、デートどうだった?どこまで進んだ?K点超えた?」

海未「うるさいですね…。早く就職決めたらどうなんですか?」

k子「うわ、一番言っちゃいけないこと言ったよ…。悲しい…、悲しいから寝るね」

海未「……私も疲れましたし、もう寝ます」



私は布団に包まり、寝る体勢を整えていきます。



k子「あ、そうだ。海未ちゃんに言っておこうと思ってた言葉があるんだった」

海未「何ですか…?」

k子「メリクリ」

海未「……おやすみなさい」
544: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:34:03.12 ID:Yw/n1+Rc.net
#20

「あけましておめでとうございます」


定番のこの挨拶から始まった新年、一月一日。

私たちは今、神田明神へと初詣に来ています。


ことり「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします!」

絵里「おめでとう。今年もよろしくね」

海未「はい、よろしくお願いします」



早々に挨拶を済ませ、私たちは拝殿へと向かう列に並びました。

今年もこの場所は、初詣客達で溢れかえっています。

昼になってから一層人が増えているようで、為された列は一向に進む気配を見せません。
545: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:35:46.70 ID:Yw/n1+Rc.net
凛「おーい、海未ちゃん~!」

海未「凛!こんな所で会うなんて奇遇ですね!何してるんですか?」

凛「初詣に決まってるでしょ。海未ちゃんバカなの?」

海未「むっ…」


絵里「凛、あけましておめでとう」

ことり「あけましておめでとう~」

凛「あ、絵里ちゃんことりちゃん。あけましておめでとう!三人は一緒に来てるの?」

海未「ええ、まあ…。凛は一人ですか?」

凛「ううん、かよちんと真姫ちゃんと来てたんだ。でも、途中で海未ちゃんを見かけたから一人で走って来ちゃった」

海未「あなたは何やってるんですか…。花陽たちが凛のことを捜しますよ?」

凛「んーでも、こんなに人が多いようじゃ、戻るにも戻れないし…」

凛「ねえ、私も三人に付いて行っていいかな?」

ことり「どうぞウェルカム!」

絵里「人数が多い方が真姫たちも凛を見つけやすいでしょうし、一緒に行動しましょう」

凛「やったー!ありがと、ことりちゃん絵里ちゃん!」

海未「………」
546: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:37:22.65 ID:Yw/n1+Rc.net
拝殿へと続く列は、少しずつですが流れているようです。

太陽の下で、段々と寒さも和らいできました。


絵里「凛は、神様に何をお願いするつもりなの?」

凛「まずは受験のことかな。三人全員合格できるようお願いしておきたいからね」

凛「あとは~、かよちんと真姫ちゃんとずっと友達でいられますようにーとか、美味しいラーメンに巡り会えますようにーとか」

海未「いくつお願いするつもりですか。そんな貪欲な人間の願いなんて、神様は叶えてくれませんよ?」

凛「海未ちゃんこそ、『穂乃果とやらしいことがしたいですー』ってお願いを毎年してるんでしょ?神様も大呆れしてるはずだよ」

海未「な、何故それを…!?」

ことり「海未ちゃん、毎年初詣でそんなことお願いしてたの…?最低…」

海未「違います!そんなお願いをしたのは去年だけです!」

ことり「え、去年って…。受験を控えてたから、私と穂乃果ちゃんは三人での合格を祈願してたのに…。もっと最低だよ…」

海未「………」



これ以上墓穴を掘ると博多駅前のように地面が陥没してしまう恐れがあるので、私はしばらく黙って様子を見ることにしました。
547: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:38:35.51 ID:Yw/n1+Rc.net
花陽「おーい!凛ちゃんー!」

凛「ん…?あ、かよちん!」

花陽「凛ちゃん~!もう、捜したんだよ…?」

凛「ごめんごめん。……あ、真姫ちゃんも」

真姫「凛!まったく…この私に心配かけるんじゃないわよ」

にこ「ほんと、手の掛かる後輩なんだから」

凛「ごめんね、真姫ちゃんにこちゃん………ってにこちゃん!?」

にこ「久々ね、凛。あんたも少し見ない間に結構大きくなったわね~」

凛「にこちゃん…。どうしてここに?仕事がなくて暇なの?」

にこ「」

凛「痛ぁ!?」


絵里「にこ~!あけましておめでとう」

にこ「あけおめ。あんたたちは徽音祭以来ね」

ことり「そうだね、私たちはにこちゃんと会っても、あまり久しぶりって感じはしないね」
548: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:40:05.47 ID:Yw/n1+Rc.net
真姫「絵里、ことり。あけましておめでとう」

花陽「あけましておめでとうございます!」

絵里「ええ、おめでとう」

真姫「今年もよろしく………そして今年からは、もっとよろしくね」

ことり「あ、そっか。真姫ちゃんも志望校を音ノ水に決めたんだもんね。じゃあ4月からは、また後輩になるんだ!」

真姫「ええ、まあね。凛と花陽も入学するから、音ノ水にμ's大集合よ!」

凛「凛の合格を前提に話さないでよ!まだ受かるかも分からないのに~」

花陽「大丈夫、努力は嘘を吐かないよ!凛ちゃんと真姫ちゃんなら絶対合格できるよ!」

真姫「何言ってるのよ。花陽も、でしょ?」

花陽「う、うん…そうだね」


にこ「ねえ、音ノ水に医学部なんてあるの?真姫ちゃんは医学部志望なんだから、音ノ水だと…」

真姫「もうその話は終わったわよ」

にこ「あ、そうなの…?」
549: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:41:09.03 ID:Yw/n1+Rc.net
ことり「………2年前の元旦も、こうしてμ'sのみんなで神田明神に来たよね」

海未「そうですね。あの時は9人揃っていましたが…」

真姫「今は、希と穂乃果がいないわね…」

絵里「あ、待って!希ならいるわよ!」

海未「どこにですか?」

絵里「……写真なんだけどね。ほら、これ」

海未「また希から送られてきたんですね。この写真はどこで撮られたものなんですか?」

絵里「エベレストの麓だそうよ」

海未「え、エベレスト…?」

絵里「なんでも、希はエベレストの山頂から初日の出を拝むそうだわ」

海未「すごい挑戦ですね…。希はどこに向かおうとしているのでしょうか?」
550: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:43:27.51 ID:Yw/n1+Rc.net
絵里「というわけで、希はここはにいないけど、魂はここにあるわ!」

花陽「じゃあ、あといないのは穂乃果ちゃんだけ…」

海未「いや、穂乃果ならいますよ!」

にこ「海未も穂乃果の写真を持ってきてるの?」

海未「写真は持ち合わせていませんが…。今から、電話で穂乃果と繋がります!」


私は目にも留まらぬ早業で、穂乃果にダイヤルしました。



穂乃果『もしもし、海未ちゃん?』

海未「あ、穂乃果?あけましておめでとうございます!」

穂乃果『あけましておめでとう!また新たな年が始まったんだね』

海未「ええ、大変おめでたいことです。どうか今年もよろしくお願いします」

穂乃果『うん!よろしくね!』
552: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:48:56.66 ID:Yw/n1+Rc.net
海未「………穂乃果と電話が繋がりましたよ。これで本当に、念願のμ's集合を果たしました!」

凛「海未ちゃん!その電話、穂乃果ちゃんと繋がってるの?」

海未「はい!私と穂乃果は、離れていても定期的に連絡を取り合って…

凛「私も穂乃果ちゃんと喋りたい!ほら、電話変わって!」

海未「むっ…」


凛が私より穂乃果に興味を持っていることにやきもきしましたが、私は何食わぬ顔で、携帯を凛に手渡しました。


凛「もしもし、穂乃果ちゃん…?」

凛「………」

凛「………」

凛「………ねえ、海未ちゃん」

海未「どうかしましたか?」

凛「……電話、繋がってないよ」

海未「え…?さっきまではちゃんと繋がっていましたよ。穂乃果が電話を切ったのでしょうか…」


ことり「ううん。電話を切ったのは海未ちゃんだよ」

海未「え…?私は通話終了のアイコンを押してませんよ?」

ことり「違うよ、そうじゃない」

ことり「携帯が海未ちゃんの手から離れた時点で、もう穂乃果ちゃんとのリンクは途切れちゃったの」

海未「………」


またことりはおかしなことを言っていますね…。
553: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:49:37.55 ID:Yw/n1+Rc.net
それから数分後、私たちはようやく拝殿へと辿り着くことができました。

みんなは、何を願っているのでしょうか?

私は………


今年こそ、穂乃果に逢えることを願いましょう。



希望に満ちた新年は、明るい未来を照らしています。
555: 名無しで叶える物語 2017/05/22(月) 00:57:13.09 ID:Yw/n1+Rc.net
#21

冬休み明け。

私の元に、一通のメールが届きました。

メールの差出人は、登山サークルの顧問。

件名には、『登山サークルの例の事故と今後の活動について』と書いてありました。



テレビやインターネットのニュースはどこもかしこも、この事故のことを取り上げていました。

『音ノ水大登山部 熊に襲われ全滅』

登山サークルの活動で冬の山を縦走している最中、彼女たちは、熊に出会したそうです。

熊に対する知識を持っていなかった彼女たちは熊から走り逃げ、三日間の逃走の末、三人全員熊に殺されたそうです。

このニュースに対し専門家は、「冬に冬眠せず活動している熊は非常に凶暴」
「彼女たちも冬に熊と会うとは思わなかったため何の対策も講じていなかったのだろう」などと、分析していました。



私は顧問からのメールを開くことなくゴミ箱に送りました。



音ノ水生の三人が死んだことで、枠が三人分空きますね。

………私は、そんなことを考えていました。
591: 名無しで叶える物語 2017/05/27(土) 23:51:43.20 ID:93b206Y2.net
#22

k子「海未ちゃん、朝だよ~」

海未「………何ですか?今冬眠中なんですよ、起こさないでください…」

k子「グリズリーくん、君にお客さんだよ。だから起きろ~」

海未「うがぁ!」


私は毛布にくるまり必死の抵抗をしましたが、k子さんは毛布ごと引き摺り出しました。

私はそのまま床に叩きつけられました。

誰なんですか、お客さんとは…。どうせことりのことなんでしょうけど。



海未「………って、まだ8時じゃないですか…!こんな早朝に訪ねてくるとは、何用でしょうか?」

k子「いいから早く出てあげなよ。かわいい彼女が待ってるよ」


かわいい彼女…?

嗚呼、やはりお客さんとは、ことりのことでしたか。

まったく、こんな朝っぱらに訪ねて来るなんて非常識ですよ!会ったら文句の一つでも言ってやります!

………私はそう意気込んで扉を開けましたが、そこに居たのは、思わぬ人物でした。
592: 名無しで叶える物語 2017/05/27(土) 23:53:24.01 ID:93b206Y2.net
凛「………あ、海未ちゃん」

海未「凛!何故ここに…!?」

凛「あはは。ちょっとね…」


凛は私と目を合わせようとしません。

凛がこの癖をするときは、決まって何か後ろめたいことがあるのです。


海未「……今日って確か、センター試験当日ですよね?こんな所で何やってるんですか?」

凛「いやー、ほら!テストの前に海未ちゃんの顔を拝んでおこうと思ってさ!」

凛「海未ちゃんパワーがあれば今日のテストも乗り切れるかな~、なんて。私にしてはナイスアイディアだと思わない?」

海未「私にはそのような仏チックな能力など備わっていませんよ」

海未「それより、時間は大丈夫なんですか?もう既に8時を回っていますが」

凛「ううん、大丈夫じゃないよ。もうとっくにかよちん達との集合時間に遅れてるし」

海未「……ならば早く行きなさい」

凛「実はね、試験会場は音ノ水女子大学なんだよ。だから海未ちゃんも一緒に来てよ」

海未「いやです。何故せっかくの休日なのに外へ…況してや学校に行かなければならないんですか!」

凛「ここから音ノ水までの道が分からないの!海未ちゃんなら毎日通ってるから分かるでしょ。だから、一緒に来て?」

海未「……わかりましたよ。ちょっと待っててください、すぐに支度してきます」



私はパジャマから着替え、パパッと支度を整えると、凛と一緒に大学へと向かいました。

私が準備をしている間、凛は花陽と真姫に遅刻の連絡を入れていたようです。
593: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 01:49:12.86 ID:dVMPRc5B.net
今は1月も中旬。

冬の朝というものは、何度過ごしても慣れません。

更に、すこし出かけるだけと思って防寒を抜かったことが仇となり、南極に居るかのような寒さを体感しています。

私は身を震わせながら足を前に進めます。



凛「海未ちゃん。手袋してないけど、冷えないの?」

海未「冷え冷えに決まってるじゃないですかバカですか。まったく、誰のせいだと…」

凛「じゃあさ、ほら、手を出して」

海未「…?」


凛に言われた通り手を出すと、凛は私の冷えた手を取り、ぬくぬくと包みました。


凛「で、このまま私のポケットに突っ込むと………ね?あったかいでしょ?」

海未「………」



私は、この少女漫画風なシチュエーションに少しドギマギしました。

しかし、この湧き上がった感情は心の中だけに抑え、敢えて言葉にはしませんでした。
594: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 01:50:57.79 ID:dVMPRc5B.net
右手には凛から借りた手袋をはめ、左手は凛の右手と繋いだままポケットの中に入っています。

多少の羞恥心はありましたが、暫くの間、手がぬくぬくする悦びに浸ることにしました。



海未「見えてきましたよ。今日の試験会場です」

凛「うん、そうだね」


門の前に受験生達が集まっている様子が遠目からでも見えました。


海未「………もうすぐ会場に到着しますが、その前に一つだけ訊かせてください」

凛「何?」

海未「凛は何故、私の元を訪ねて来たのですか?」

凛「あれ、言わなかったっけ?私は海未ちゃんのご尊顔を拝見する為に参ったんだよ。海未ちゃんには御利益があるから~…」

海未「凛は嘘を吐くとき、決まって目が右に泳ぐんですよ」

凛「………流石は海未ちゃん。ほんと、人のそういう所だけはよく見てるよね」

凛「正解だよ。私は海未ちゃんパワーなんて求めてないし、信じちゃいないよ」

凛「本当を言うとね、私はただ、海未ちゃんに逢いたかっただけなの」

海未「どうして私に逢いたかったのですか?」

凛「………」
595: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 01:52:40.19 ID:dVMPRc5B.net
凛「昨夜ね、夢を見たの」

凛「夢の中ではね、海未ちゃんが、どこか遠くに行っちゃうの。すごくすごく遠い場所」

凛「逢いたくても逢えなくて、手を伸ばしても届かない世界…。もう一生、海未ちゃんに逢うことができないんだって…」


凛「………朝起きたとき、私、泣いてたんだ。怖かったんだ」

凛「もう二度と、海未ちゃんと会えなくなるんじゃないかって…。不安で不安で、だから………」

海未「バカ言わないでくださいよ。私がいなくなるわけないじゃないですか!」

凛「ほんとに…?」

海未「ええ、約束します。私は黙って、突然あなたの前から消えたりしません」


ポケットの中で繋いだその手を、力強く握り締めます。


海未「今、海未ちゃんパワーを送りました。……今日のテスト、頑張ってください!」

凛「……ぷっ!あはは!!海未ちゃんパワーって………自分で言っちゃうんだ!」

海未「!?……やっぱりナシです!パワーを返してください!!」



私たちはテスト前とは思えない緊張感の無さのまま、会場へと到着しました。
596: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 01:54:05.46 ID:dVMPRc5B.net
凛「あ、かよちんー!真姫ちゃん~!」

花陽「凛ちゃんー!もう、遅い………って海未ちゃんだ!?」

海未「ど、どうも。凛に頼まれて付いて来てしまいました…」

真姫「ちょっと、何やってるのよ!」

海未「あ…、あまり凛を怒らないであげてください。凛にも色々と事情があってのことで…」

真姫「違うわよ!二人はそのポケットの中で、何やってるのよ!」

海未「え?ポケットって………あっ」

真姫「朝からイチャイチャしてるんじゃないわよ、まったく!」

花陽「ピャーやらしい」

海未「ち、違います!これには深い訳が…」

凛「あーもう!試験前の緊張感があったもんじゃないよ!」

海未「凛がそれを言いますか!?」


こんなくだらない会話をしていると、次第に三人の表情も和らいできました。

私が来たことによって三人の緊張を解せたのなら、付いてきた甲斐もありましたね。
597: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 01:56:12.62 ID:dVMPRc5B.net
凛「試験が終わるまで待たせるのも申し訳ないし、海未ちゃんは先に帰ってくれていいよ」

海未「言われずともそうさせてもらいます」

真姫「じゃあそろそろ時間だし、私たちは行くわね」

海未「はい。凛と真姫はテスト、頑張ってくださいね」

凛「うん!全力で頑張るよ!」

真姫「当然でしょ!全問正解してあげるわよ!」

海未「それから、花陽も………頑張ってください」

花陽「……うん」


海未「さあ、三人共!これまで積み上げてきた成果を、存分に発揮してきてください!」

海未「………ファイトですよ!」



三人はそれぞれの想いを胸に、センター試験へと臨みました。

その後ろ姿はまるで、戦場へ赴く戦士のようです。
599: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 03:22:10.30 ID:dVMPRc5B.net
ことり「おーい海未ちゃん~」

海未「ことり?何故あなたがここに…?」

ことり「さっき海未ちゃんの寮に行ったら、『海未ちゃんなら大学に行ったよ~』と聞いたから、ここまで来ちゃいました」

海未「ん…?私の行き先は、k子さんから聞いたんですか?」

ことり「え?ケイ子…?うん、たぶんその人かな」

海未「しかし変ですね。私の行き先はk子さんには伝えていないのですが、何故知っているのでしょうか…」

ことり「海未ちゃんの行動範囲は限定的だから、察しがついたんじゃないかな?」

海未「失礼ですね。私はもっとアクティブですよ」


ことり「そんなことより、海未ちゃんはここで何してたの?」

海未「色々とありまして、凛の送迎をしていたんです。今日はセンター試験の日ですからね」

ことり「あ、そっか」

ことり「……私たちも去年、この場所で、テストを受けたんだよね…」

海未「そうですね…」



そう、今から丸々一年前。

まだ穂乃果が東京にいた時の話。

私たちも世の学生と同様、必死に机にしがみ付いていたあの頃。

私が勝手に『第一次受験戦争』と呼んでいた、あのセンター試験が、この場所で行われました。
600: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 03:23:14.66 ID:dVMPRc5B.net
穂乃果『ついに、この日が来たんだね』


穂乃果は大学の門を見上げながら、そう言いました。


海未『大丈夫ですよ、この日の為にあれだけ頑張ってきたのですから。努力は嘘をつきません』

ことり『うん、そうだね…』

海未『ああ、でも、いざ戦地に立ってみると、段々緊張してきました…』

海未『いよいよ、第一次受験戦争が始まるのですね…』

ことり『何言ってるの…?アガる気持ちも分かるけど、今日が本番なんだから落ち着いて…ね?』

海未『うぅ…、すみません。私がこの調子では、三人で合格という目標も叶えられそうにありませんね…』

ことり『なんで他人事みたいに言うの!?グロッキーにならないで頑張ってよ~!』


この時、私とことりは緊張のせいかアガってしまい、パニック状態にありました。

しかし、穂乃果だけは平静を保っていました。

そして穂乃果は私たちの手を取り、こう言いました。



穂乃果『ファイトだよっ!二人なら、絶対に合格できるよ!』
601: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 03:25:27.21 ID:dVMPRc5B.net
………あの時、穂乃果は『二人なら』合格できる、と言いました、

『私たちなら』と言えばいいところを、何故か『二人なら』と言ったんです。

花陽の相談を受けた後だから分かります。穂乃果は最初から、音ノ水に入学する気なんてなかったんです。

思えば、穂乃果はあの頃からずっと、おかしかったんですよね。


三人で音ノ水に合格する…。穂乃果はこの約束を破りました。

そして穂乃果は、私との間にも約束を結んでいます。

大学を卒業したら、結婚を前提にセックスすると。

果たして、穂乃果はこの約束を、本当に守るのでしょうか。



海未「………」

ことり「海未ちゃん…。色々と思うところはあるよね、分かるよ」

ことり「だから、その心に溜まったモヤモヤを全部吐き出しちゃおう?」

ことり「私が全部受け止めるから。それが、私の役目だから」



私はことりに連れられ、ファミレスに入りました。

まず頼んだのはドリンクバーでした。

ですが、ドリンクバーの配合よりも、今は穂乃果のことが気になって仕方ありませんでした。

結局私たちは、凛たちの試験が終わるまで、そのファミレスで愚痴をぶちまけていました。
602: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 03:26:11.03 ID:dVMPRc5B.net
3月の初め、三人から一斉に合格の報せが届きました。

凛と真姫は嬉しそうに、喜びと今までの苦悩を語ってくれました。

花陽は、やっと別れの覚悟ができたと、心の内を語ってくれました。

花陽は近々、凛と真姫に伝えるそうです。自分は大学には行かず、農家になることを。

そのとき、あの二人はどういった反応を見せるのでしょうか。花陽との関係はどのように変わるのでしょうか。


あの三人の行く末は、誰にも分かりません。

私だって、幼馴染二人との物語がどういう結末を迎えるのか、想像もつかないのですから。
603: 名無しで叶える物語 2017/05/28(日) 03:26:44.17 ID:dVMPRc5B.net
そして、3月も中頃。

ことりから一通のメールが送られて来ました。



『そのだ 京都、行こう。』
645: 名無しで叶える物語 2017/06/03(土) 23:55:15.62 ID:LqbIUaSw.net
#23-a

3月半ば、外の空気がほんわかと暖かくなってくるこの頃。

ことりに誘われ、私は京都へ行くことになりました。

東京駅からJR東海道新幹線に乗って2時間強。

何故か静岡県内に通過駅が6つもあることに疑問を感じながらも、私たちは京都駅に到着しました。

午前10時25分。


海未「着きました、京都ですよ!いつ来ても歴史風情感じられる良い町ですね」

海未「さて、ことり。まずはどこに行きましょうか?御茶屋巡りや芸妓遊びもしたいですし…。あ、仏閣ラリーなども…」

ことり「海未ちゃん。今回のデートのスケジュールはすべて、ことりが前もって作っておきました」

海未「スケジュール…ですか」

ことり「題して、京都観光弾丸ツアーです!」

海未「弾丸…?私はゆとりをもって京の都を味わいたいのですが」

ことり「ダメです。今日は決められた時間に決められた場所で決められたことをします」

ことり「というわけで、10時半から京都タワーを観光する予定だから………急ぐよ!」



私は人の混み合う京都駅で、ことりの後を必死に追いかけました。
646: 名無しで叶える物語 2017/06/03(土) 23:56:17.59 ID:LqbIUaSw.net
10時30分。


ことり「はい、時間通り着きました!」

海未「はぁ、はぁ…。駅から、結構近い所にあるんですね…」

ことり「ほら、早く中に入ろう?」

海未「こ、ことり!待ってください~!」


私たちは京都タワービルからアクセスし、入場チケット一人770円(税込)を買い、展望台へと向かうエレベーターに乗り込みました。


ことり「海未ちゃん知ってた?この京都タワーの高さは131mで、無鉄骨建築で世界一の高さなんだって」

海未「あ、そうですか。見かけよりも大したことないんですね」

ことり「まあ、ビルの屋上にある観覧車みたいなものだからね」


そうこう言ってるうちに、エレベーターはタワー5階にある展望台に着きました。


ことり「海未ちゃん見て見て!ここから京都が一望できるよ、すごい!」

海未「雲一つない空ですから、遠くの山まで見渡せますね」

ことり「望遠鏡があるよ!空から京都を見てみよう」


タワー展望台、高さ100mから望む京の町はまるでミニチュアのようで、人がゴミのようでした。

もしかすると、その中に穂乃果の姿があるのでは…?

そう思い、望遠鏡で懸命に探しましたが、もちろん見つかるはずがありませんでした。


ことり「海未ちゃん。もう時間だから次に行きますよ~」

海未「まだここに来て10分も経っていませんが、もう移動するんですか…?」

ことり「うん。スケジュールだと、11時には次の場所に着いてないといけないから」

海未「なっ…!?過密スケジュールですよ!もうちょっとゆとりを持ったスケジュール計画ができないものですかね?」

ことり「海未ちゃんにだけは言われたくないよ」
647: 名無しで叶える物語 2017/06/03(土) 23:57:57.71 ID:LqbIUaSw.net
私たちは京都タワーを降りた後、市バスに乗って北へと上がりました。

そして市バス一日乗車券(税込500円)を駆使し、烏丸今出川のバス停で下車しました。

11時00分。


ことり「次は京都御苑です。元は天皇の居住区だったけれど、今では国民公園になってるんだよ」

海未「ただの公園のようにも見えますが、ちゃんと当時の面影も残っているみたいですね」

ことり「11時半には次の場所に着きたいから…、少し早歩きで御苑を周ろっか!」

海未「何故こうも余裕がないのですか…」


私たちは小走りしながら御苑の風景を眺めました。

疲れて息が上がっていましたが、それでも有意義な時間を過ごせたと思います。

途中、テニスコートでテニスに興じている女子大生達を見かけました。

偶然、その女子大生達に混じっていた穂乃果と遭遇………なんてイベントは起きませんでした。


ことり「……あ、海未ちゃん!京都御所が見えて来たよ!」

ことり「鎌倉時代末期から明治初期の天皇達は、みんなこの御所で生活をしてきたんだよ」

海未「なるほど。今で言うところの皇居ですね」

ことり「入場料は無料なんだけど…、もう時間がないから中には入らず、写真だけにしておくね!」


私たちは御所前で自撮り撮影をしました。

約1kmの距離を走ってきた後だったので、撮れた写真は手ブレが酷かったです。
648: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 00:06:12.96 ID:z+paWJqv.net
御苑を出て市バスに乗り、しばらく揺られると、バスは下鴨神社前に着きました。

11時42分。


ことり「あわわ、時間が押しちゃってる…。スケジュール調整しないと…」

海未「ことり。もっとゆったりと観光しませんか?急いてはせっかくの京都が台無しですよ」

ことり「でも、それだと間に合わなくなっちゃう…」

海未「間に合わない?………ああ、お寺の閉門時刻を気にしているんですね」

ことり「うん…。まあね」

海未「それならスケジュールに入っている予定を削って、時間に余裕を持たせたらどうですか?」

ことり「……うん、わかった。予定を削って、太秦映画村には行かないことにします」

海未「!?」

ことり「え、ダメだった?海未ちゃんは映画村に行きたかったの?」

海未「いえ、私は別に…」


もしここに穂乃果がいれば、絶対に映画村に行くと言って聞かなかったでしょう。

しかし、ここに穂乃果はいません。

そうです。わざわざ左京区から右京区の太秦まで行く必要はないんです。
649: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 00:09:38.88 ID:z+paWJqv.net
下鴨神社の鳥居をくぐると、そこは周りを木々に囲まれた小経となっていました。

人々の騒めきも、木々がすべて消し去ってしまうような、そんな神聖さがありました。


ことり「この下鴨神社なんだけど、賀茂御祖神社というのが正式名称で、世界文化遺産に登録されてるんだよ」

海未「下鴨神社が愛称なんですね。こちらの方が親しみやすくていいと思います」

ことり「……で、ここを左に曲がると、美麗の神様を祀る河合神社があります。でも今日はまっすぐ進むよ」

ことり「この一本道を抜けると賀茂御祖神社の本殿があるんだけど」

ことり「そこに続くこの森は糺ノ森と呼ばれ、広さはなんと12万平方メートルもあるんだって!」

海未「ことりは前もって下調べをしていて偉いですね」

ことり「えへへ~」

海未「しかし、糺ノ森ですか…。狸の四兄弟でもいそうですね」

ことり「た、たぬきさん…?」

海未「でも次男は蛙に化けて六道珍皇寺の井戸に隠れていますから、実質三兄弟ですかね」

ことり「さっきから何の話してるの!?」
650: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 00:11:51.61 ID:z+paWJqv.net
糺ノ森を抜け、本殿に辿り着いたのが12時過ぎ。

本来の予定であれば、この時間には既に御茶屋で腹ごしらえをしているはずだったようです。


海未「朝からハードトレーニングでしたから、お腹空きましたね」

ことり「あ、お腹が空いたということで一つ豆知識を」

ことり「この下鴨神社には御手洗池(みたらしいけ)なるものがあって、それがみたらし団子の語源になったんだって」

ことり「池に浮かぶ泡をかたどって、あのお団子が産まれたそうだよ」

海未「お腹が空いているときにする話ではありませんよね!?」

ことり「ごめんごめん。空腹に耐えてる海未ちゃんを見て、つい虐めたくなっちゃった」


その後、私たちは本殿に参拝し、神社を後にしました。

ことりがランチに連れて行ってくれると言うので、私はことりについて行きました。

その道中、私はみたらし団子のことを考えながら歩いていました。

そして、穂乃果のことも考えていました。

もしも今日、穂乃果に会えたのなら、みたらし団子の豆知識をひけらかしてやりましょう。

いえ、穂乃果は今京都に住んでいるわけですから、もしかするとこの豆知識を既に知っているかもしれませんね。

それに仮にも和菓子屋の娘ですから、この程度の知識は一般教養なのかもしれません。


そんなことを考えていると、色んな食べ物が頭の中をぐるぐると渦巻き、余計に腹を空かせる結果となりました。
651: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 00:47:59.91 ID:z+paWJqv.net
きょうの昼食は、パンでした。

賀茂川の上に建てられた川床で、私たちはむしゃむしゃとパンを頬張っています。


海未「京都に来て、川床でパンを食べることになるとは…。なんだか私が思っていた京都観光と違いますね」

ことり「思っていたものと違うっていうのは、ある種旅行あるあるだと思うよ。シンガポールのマーライオンしかり、デンマークの人魚像しかり」

ことり「あと、京都にパンは似つかわしくないイメージがあるみたいだけど、パンの消費量が一番多いのは、実は京都府なんだよ」

海未「そうなんですか?……京都府民は穂乃果に似ていますね」

ことり「あ、私も同じこと思ったよ」

海未「やはり小さい頃から和菓子が身近にあると、成長してからはパンを好む傾向にあるのでしょうか」

ことり「どうだろう?でも、穂乃果ちゃんはパン好きになって当然だったのかもしれないね」


パンがきっかけで、穂乃果の話が溢れるように湧いてきました。

それは止め処なく、私たちの心を満たしていくのです。

私とことりの最大の共通項は、穂乃果であると再認識しました。


春先の川床はすぐに冷え、耐えかねた私たちは近くの喫茶店に入って温かい紅茶を飲み、また観光ツアーを再開させました。
653: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 01:08:20.59 ID:z+paWJqv.net
市バスは私たちを、次の目的地まで運んで行きます。


海未「ことり。次はどこを観光するんですか?」

ことり「次は銀閣寺だよ。銀閣寺は正に京都を代表する観光地だよね」

海未「そうですか?私は京都といえば法隆寺を真っ先に思い浮かべますが…」



銀閣寺に向かい走るバス、その車窓に、その建物は映りました。



海未「………あれ、京大ですよね。テレビで何度も見たことがあるので、間違いありません」

ことり「え?……あ、ほんとだ。確かここにあるのは吉田キャンパスだったかな?」

海未「京大…」

海未「穂乃果は京都のどこかにある大学に行ったとは聞いていましたが、まさか、京大に入ったのでは…?」


海未「………なんて、そんなわけありませんよね!あの穂乃果が京大になんて…」

ことり「…」

海未「ことり…?どうかしましたか?」

ことり「い、いや…。なんでもないのよ、なんでも…」


ことりは何故か、狼狽えています。

目は縦横無尽に泳ぎ回り、口は金魚のようにパクパクと動き、鼻息は荒くなり、汗は滝のように流れているのです。

ことりの様子はおかしかったですが、怖かったので、そっとしておきました。
654: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 01:39:44.05 ID:z+paWJqv.net
私たちが銀閣寺に到着したのは、13時半。

私はその迫力に、ただただ圧倒されていました。

ことり添乗員が銀閣寺に関する話や豆知識を披露していた気もしますが、覚えていません。


そして私たちは、哲学の道と呼ばれる小経を南へと歩きました。

沿道に並ぶ桜の木は蕾を膨らませ、今にも開花してしまいそうでした。

春の訪れを感じました。


そこから更に南下し、南禅寺へ着いたのは15時。

ここでは、よくドラマの撮影に使われると言う水路閣を見に行きました。

昔の人はすごい物を造るなー、と月並みな感想しか出てきませんでした。
655: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 01:40:46.54 ID:z+paWJqv.net
南禅寺から北西へ。16時。

どデカイ鳥居を構えた平安神宮の迫力に、私たちは息を呑みました。


そして、祇園では舞妓さんを見かける度に写真撮影をお願いした挙句、ブラックリストに載りました。


清水寺に着いた時には、既に17時を回っていました。

私たちは、清水の舞台から飛び降りる、の舞台となった本堂前の板敷の所へ出ました。

遠くの空で、夕日が沈んで行きます。

ことりが、実際にこの場所から飛び降りた女性の話をしてくれました。

その人は結局、二回飛び降り、二回とも助かったそうです。

昔も、とんだおバカさんが居たものです。
656: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 02:18:48.66 ID:z+paWJqv.net
18時。


ことり「今日のツアーはここまでです。海未ちゃん、お疲れさまでした」

海未「ことりもお疲れさまです。ことりのお陰で、今日はとても楽しい京都旅行になりましたよ」

ことり「そう言ってもらえると嬉しいな~。ありがと」

海未「………しかし結局、穂乃果は見つかりませんでしたね」

ことり「え?穂乃果ちゃん?」

海未「実は今日の観光ツアーの中で、ずっと穂乃果のことを捜していたんですよ」

海未「まあ、そう簡単に見つかるわけがありませんよね!仕方ありません。今日は諦めて、また後日に…」


ことり「ねえ、海未ちゃん。一つ質問していい?」

海未「ええ、どうぞ」

ことり「海未ちゃんは、穂乃果ちゃんに会いたいの?」

海未「え…?そんなの、会いたいに決まってるじゃないですか!」

海未「穂乃果と婚約したあの日以来、もう一年も会っていないんですよ!会いたくて会いたくて毎晩震えていますよ!」

ことり「そっか…。じゃあ………」



ことり「穂乃果ちゃんに、会いに行こうか」
665: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 21:31:05.21 ID:z+paWJqv.net
#23-b


海未「………穂乃果に、会えるのですか…?」

ことり「うん。海未ちゃんさえよければね」

海未「……会います、会わせてください!」


やっと穂乃果に会える…!

そんな期待を胸に、私はことりの後を追いました。

陽が落ち、観光客も疎らになった京の町を、私たちは歩きました。


ことり「海未ちゃん、ここだよ。ここに穂乃果ちゃんがいるの」

海未「………冗談ですよね?ここ、看板に京都大学と書いてありますが…」

ことり「冗談なんかじゃないよ。ほら、早く行こう」


穂乃果が京大にいるという事実に戸惑いを隠せませんでした。

それに、この建物は京都大学の医学部付属病院で、その名の通り医学部の学生が集う場所です。

穂乃果が、京大の医学部に…?

不審に思いつつも、私は建物の中へと入りました。
667: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 21:43:49.72 ID:z+paWJqv.net
ことり「ちょっと待っててね。手続きを済ませてくるから」


そう言うとことりは、病院の受付に駆け寄りました。

私はその辺にあった椅子に座ってことりを待ちました。

周りをキョロキョロと見回すと、待合室なのに携帯で通話をしている人を見かけました。

そういえば、法律が変わって病院の待合室でも通話可能になったんでしたね。

私の中で合点がいったところで、ことりがやって来ました。

どうやら、手続きとやらは済んだようでした。


ことり「………行こう」


私たちはエレベーターに乗り込み、その階へと辿り着きました。
668: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 22:08:17.40 ID:z+paWJqv.net
ことり「こっちだよ」


ことりは時々、私の方を振り向き、声掛けをしてくれました。

長く続く廊下は、照明が点滅を繰り返し、不気味さを演出していました。

私たちは人っ子一人いない廊下を、黙々と歩き続けました。


ことり「……着いたよ。ここ」


ことりは、ある部屋の前で立ち止まり、そう言いました。

その部屋の表札には、見慣れたあの名前がありました。



『高坂 穂乃果』
669: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 22:09:17.28 ID:z+paWJqv.net
高坂穂乃果。

病室の表札には、確かにそう書いてありました。

その上には誰か他の人の名前が書かれてありました。それが誰だか私にはわかりませんでした。


ことり「海未ちゃん。扉、開けるよ?」


ことりは私の返事を待たず、二回ノックをした後、ゆっくりと、その重たい扉を開きました。



ことり「………穂乃果ちゃん」

穂乃果「ことりちゃん…。来たんだね…」

穂乃果「……海未ちゃんも」


私がずっと捜し求めていた彼女は、病院のベッドの上にいました。
674: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 22:40:00.86 ID:z+paWJqv.net
海未「ほの、か…?」

穂乃果「海未ちゃん…。久しぶり、だね…?よく電話で話してたし、あんまり久しぶりって感覚はないけど」

海未「………」


穂乃果は、病室の奥のベッドで横になっていました。

その周りには、様々なお見舞い品や娯楽品が積まれていました。

それは、穂乃果がここ数日ではなく、何ヶ月も前からこのベッドの上で暮らしてきたことを物語っていました。


海未「………何故、穂乃果はこんな所にいるんですか」

ことり「それは…」

穂乃果「……私が話すよ」

ことり「う、うん…」


穂乃果「海未ちゃん…。今まで隠してて、ごめん」

穂乃果「私はね…病気なんだ。それで、この病院に入院して治療してもらってるの」

海未「……病気だとしても、東京の病院で治療すればいいじゃかいですか…。何故、京都に?」

穂乃果「東京だと治療ができる病院がなかったんだ。だから、専門の治療を受けられる京都に移ったの」

海未「それが、去年の春のこと、ですか…」

穂乃果「うん、正解。海未ちゃんボッシュート~!」

海未「………」

穂乃果「……ごめん」
675: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 22:42:53.44 ID:z+paWJqv.net
いろんな感情が渦巻き、訳がわからなくなりました。

京都で女子大生をやっていると思っていた穂乃果が実は何かの病気で、それもその病気は一年も前から患っていて…。

私はそのことに気がつかず、穂乃果は一人でも上手くやっていると勝手に思い込み、悠々と過ごしてきました。

穂乃果は自分が病気であることを知られたくなかったのでしょう。だから隠していたのでしょう。

ですが、今思えば、この一年の中にヒントはたくさんあったんです。


穂乃果と電話をしている時に、いつも後ろの方で聴こえていたあの音…。

あの音は、待合室の騒めきやコール音、ストレッチャーを走らせる音だったんです。

穂乃果がルームメイトと称していた88歳の人もそうです。

穂乃果が言っていたルームシェアとは、病室の相部屋のことだったんです。

88歳の大学生なんて、普通に考えればおかしいと気づけたはずです。

ことりは、穂乃果は異世界にいると、いつも言っていました。

今になってようやく、ことりの言葉の意味が理解できました。

私たちがいる世界とは違う場所…。社会から隔絶された世界…。

ことりはそれをまとめて、異世界と形容したのでしょう。



隠されていたとはいえ、穂乃果の窮地に気づけなかった自分の不甲斐なさに、だんだん腹が立ってきました。

何故私は気がつかなかったんですか!私はこの一年何やってたんですか!

いつもの私なら、穂乃果のちょっとした変化も見逃さないのに…!

何故、気づいてあげられなかったんですか…!!
679: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 23:33:03.10 ID:z+paWJqv.net
混乱していた私は、腹の底から湧き上がってきた怒りを自制できませんでした。


海未「何故、穂乃果はそのことを、私に教えてくれなかったんですか?」

穂乃果「それは…」

海未「ことりもですよ。ことりは、このことをずっと知っていたんですよね?」

ことり「うん…」

海未「いつから知っていたんですか?」

ことり「去年、私たちが音ノ水の受験を終えた後…」

ことり「私は穂乃果ちゃんに呼び出されて、病気のこと、そして京都に移ることを告げられたの」

海未「……何故、そのことを私には伝えてくれなかったんですか」

海未「知ってたのなら私に教えてくださいよ!私たちは幼馴染ですよね!?なのにどうして!私だけ除け者扱いなんですか!!」

海未「意味がわかりません!あなた達は何故今日に至るまで私に隠してきたんですか!」

海未「どうしてですか!何故教えてくれなかったんですか!?」

ことり「………」
680: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 23:35:14.03 ID:z+paWJqv.net
ことり「言いたかったよ?穂乃果ちゃんが病を患ってるんだから、海未ちゃんにも教えなきゃって、真っ先に思ったよ?」

ことり「でも、言えなかった…。それは穂乃果ちゃん自身の意向でもあったし、私も言うべきじゃないと判断した」

海未「何故ですか…。何故、私に言うべきじゃないと…?」

ことり「だって………去年の冬頃から海未ちゃん、おかしくなっちゃったから…」

ことり「海未ちゃん…。お母さんが亡くなってから、壊れちゃったから…」

ことり「そんな海未ちゃんに、これ以上負担をかけたくなかった…。だからずっと、今まで隠していたの」


海未「………はあ?何言ってるんですか、あなたは…」

海未「私の母が亡くなった?何をバカなことを…。いくらことりとはいえ、そんな悪質な嘘は許しませんよ?」

ことり「忘れちゃったの…?海未ちゃんはちゃんと、お母さんのお葬式でご焼香してたでしょ?」


海未「そんなわけ…」


ことり「海未ちゃんがお父さんに勘当されて家を出たのも、海未ちゃんのお母さんの死が原因だって、お父さんから聞いたよ?」


海未「やめてください…」


ことり「海未ちゃん。目を逸らさないで、こっちを見て。現実を見て?」



海未「やめてって言ってるじゃないですか!!」

ことり「もう逃げないでよ、海未ちゃん!」
681: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 23:37:26.99 ID:z+paWJqv.net
「どうかされましたか!?」

穂乃果「あ、すみません…。大声出しちゃって…」

「そう…?あ、そちらは穂乃果ちゃんのお友達?」

ことり「あ…、はい…」

「穂乃果ちゃんのお見舞いに来てくれたのね、ありがとう」

「穂乃果ちゃん、ここに来てからお年寄りの方とのお喋りがほとんどだったから、お友達と話せて本当によかったわ~」

穂乃果「えっと…、その…」

「ああ、お取り込み中だったみたいね。失礼しました」

「……病室では、あまり大きな声で騒がないでくださいね?」



「………」


海未「すみませんでした…。つい頭に血が昇り、穂乃果に迷惑をかけてしまいました」

ことり「私も…、ごめんなさい」

穂乃果「ううん、いいよ。やっと二人が本音で話し合えたんだもん、嬉しいよ」
682: 名無しで叶える物語 2017/06/04(日) 23:39:09.85 ID:z+paWJqv.net
海未「………穂乃果の病気は、治るんですか?」

穂乃果「……たぶん、治らないと思うよ」

海未「そう、ですか…」

海未「穂乃果まで、いなくなったりしませんよね…?」

穂乃果「わからない…。でもね、私は治療を続けて、ちょっとでも長く生きようと思う」

穂乃果「海未ちゃんと約束したもんね!大学を卒業したら、結婚するって!あ、私は大学を卒業できないけど…」

穂乃果「でも、海未ちゃんが私の代わりに卒業してくれたら、約束は果たせるよね!」

穂乃果「だから私は、その日が来るまで………頑張って生きるね」

海未「……はい!」
684: 名無しで叶える物語 2017/06/05(月) 00:19:56.46 ID:LuB/PHPj.net
午後7時。面会時間が終了し、私たちは病院を後にしました。

そして、京都駅で新幹線に乗りました。

新幹線が走り出し、車窓からは京都が離れていく光景が見られました。


今日一日にいろんなことがあり過ぎて、頭がパンクしそうです。

穂乃果が音ノ水に入らなかったのも、京都に行ったのも…

私が京都に来ることを嫌がったのも、合コンなんて妄言を吐いたのも、電波が悪かったのも…

そのすべては、今の穂乃果の境遇を暗に示していたのですね。

………もし、穂乃果の病気のことを伝えられていたとしたら、私には何ができたのでしょうか?

穂乃果の為に、何をしてあげられたのでしょうか?
685: 名無しで叶える物語 2017/06/05(月) 00:20:57.47 ID:LuB/PHPj.net
ことり「………穂乃果ちゃんは、自分の病気は治らないって言ってたけど…」

ことり「でも、治ったケースは今までに何例もある病気なんだよ」

海未「では、穂乃果も治るかもしれない…と?」

ことり「絶対はないもん。いつか治るって…、また三人で笑いあえるって、信じてるよ」

海未「そう、ですね…。いつか、また………」



こうして、私たちは東京へと帰ってきました。

帰り道の別れ際、ことりは私に、最後のメッセージを残しました。



ことり「海未ちゃん。お誕生日おめでとう!」

海未「え…?あ、今日は私の誕生日だったんですね…。すっかり忘れていました」

ことり「今日の観光ツアーがプレゼントだったんだけど…。いかがでした?」

海未「楽しかったですよ。京都観光だけでなく、最後には穂乃果と会えましたし。お返しが大変で困りますね」

ことり「うんうん、よかったよかった!それじゃあ~!」



そう言い残すと、ことりは夜の闇へと消えてしまいました。

私もすぐに、寮へと帰りました。

今は何時でしょうか?

わかりませんが、少なくともまだ今日は、私の誕生日です。
686: 名無しで叶える物語 2017/06/05(月) 00:28:05.09 ID:LuB/PHPj.net
私は学生寮へと帰ってきました。

寮の部屋は鍵が閉まっていたので、私は合鍵を使い鍵を開けました。

部屋の中は真っ暗だったので、私は電気を点け、部屋へと上がり込みました。

日付が変わる前に帰って来れたので、k子さんが私の誕生日に祝砲をあげてくれると期待していましたが、生憎の留守です。

きっとまたどこかで、夜の遊びでもしているんでしょうね。

私はそんなことを考えながら、ベッドに座りました。

そして、そこでようやく気がつきました。

部屋の中から、k子さんの荷物一式が失くなっていることに。


次の日も、次の日も、k子さんは帰ってきませんでした。

k子さんは、姿を消しました。
696: 名無しで叶える物語 2017/06/05(月) 23:17:34.49 ID:LuB/PHPj.net
#24

3月末。

k子さんがいなくなってから、早二週間。


海未「………」



私がこの寮に来てから、もう一年が経つ。

そんな物思いにふけながら、私は枕に顔を伏せた。



遠い遠い世界で、芳しくも懐かしい音がした。

それは、この部屋の扉が開く音だった。



k子「やっぱり鍵開けたままだ。無用心だよ、海未ちゃん」

海未「k子さん…」

k子「よっ、元気してた?」
697: 名無しで叶える物語 2017/06/05(月) 23:19:30.36 ID:LuB/PHPj.net
海未「k子さん。どうしたんですか…?」

k子「ちょっと忘れものを思い出したから戻ってきただけ。すぐに出て行くよ」

海未「忘れもの…?」

k子「うん。海未ちゃんへの、別れの挨拶をね」

k子「ごめんね海未ちゃん?黙って出て行っちゃって。今私、実家に戻ってるんだ」

海未「実家…」

k子「実は私、大学を卒業したら田舎に帰郷して、家業を継ぐよう言われてたの。もう何年も前から、ずっとね」

k子「海未ちゃんは勘違いしてたみたいだけど、私は別に就活をサボってたわけじゃないんだよ?」

k子「就職先は、もうとっくに決まっていたってわけ」

海未「………」

k子「そんな悲しそうな顔しないでよ。なんか別れ惜しくなっちゃうじゃん」

海未「すみません…」

k子「もし寂しくなったらいつでも会いに来ていいよ。私は北海道で、寂れた店の看板娘やってるからさ」

海未「……はい」



私はそう答えたが、もうこの人と会うことはないと、心のどこかで分かっていた。
698: 名無しで叶える物語 2017/06/05(月) 23:20:46.63 ID:LuB/PHPj.net
k子「それじゃ、そろそろ行くね」

海未「はい、先輩。お元気で」

k子「………」



k子「……結局最後まで、私のことを名前で呼んでくれなかったね」

海未「え…」

k子「海未ちゃんはいつも私のこと、"先輩"とか"k子さん"って呼んでたけど、一度も名前で呼んでくれたことはなかったよね」

k子「海未ちゃん。もしかして、私の名前忘れちゃったの?」

海未「……そんなわけありませんよ。忘れるわけ、ありません」


今まで私は無意識に、あなたの名前を認識しないようにしていた。

しかし、それでも、あなたの名前を忘れたことはなかった。
699: 名無しで叶える物語 2017/06/05(月) 23:22:48.01 ID:LuB/PHPj.net
海未「さようなら…。高坂さん」

高坂「なんだ、ちゃんと覚えてるんじゃん」



高坂さんは最後にその笑顔を残し、私たちの部屋から立ち去った。


再び静寂に包まれた部屋で、私は鞄に入っている求人誌を取り出し、その頁を開いた。

そして、求人情報を眺めていた私は、ある決意を固めた。





一年目は過ぎ去り、私の大学生活も、二年目へと突入した。
736: 名無しで叶える物語 2017/06/10(土) 23:54:26.08 ID:BSsVXr/c.net
#25

音ノ水女子大学 講義棟


「……というわけで、この思考実験によって示された人間の心理の変容についてまとめ、明後日までにレポート提出するように」

「うわっ、めんどくさ…」

「他にもレポート溜めてるし…超やばい~」

海未「………」



「……あれ?園田さんだ」

「園田さんも心理学を履修してたんだ。全然気がつかなかった~」

「ねえ、園田さんも今から、レポート作りに行かない?」

「みんなで協力した方が早く終わるでしょ?だから、園田さんも一緒にどう?」

海未「すみません。これからバイトがあるので」

「あ、そうなんだ…」

海未「では失礼します」


「………なんか、変じゃなかった?」

「園田さんってあんな人だったっけ…?」



海未「………」
738: 名無しで叶える物語 2017/06/10(土) 23:55:05.78 ID:BSsVXr/c.net
海未「カードお預かりします………お返しします」

海未「CD3点で450円です」

海未「……50円のお返しです」

海未「レンタル期限は7泊8日です。ありがとうございました」



「園田さん、お疲れさま。もう上がっていいよ」

海未「はい。お疲れさまでした」

「いやー、それにしても園田さん頑張ってるねー。仕事もすぐに覚えてくれたし、ミスもなく完璧」

「ただ、もうちょっと愛想よく仕事をしてくれたら嬉しいなぁ………なんて」

海未「……頑張ります」

「じゃあ、明日もよろしく~」



海未「………」
739: 名無しで叶える物語 2017/06/10(土) 23:56:00.23 ID:BSsVXr/c.net
海未「失礼します、教授」

「園田くんか。どうかしたのかね?」

海未「先日の講義を受け女性史に興味を持ちまして、もっと詳しく話を聞きたい思い教授の元を訪ねた次第です」

「ほう、それは感心だ。話を聞きたいのなら、どうぞ部屋に入りなさい。講義の続きをしてあげよう」

海未「ありがとうございます」

「しかし、不真面目代表の君からこんな言葉が聞けるとは。二回生になって心機一転したようだな」

海未「はい」



私は、変わろうとしていた。
740: 名無しで叶える物語 2017/06/10(土) 23:57:21.51 ID:BSsVXr/c.net
ことり「………あ、海未ちゃん」

海未「……どうも」

ことり「もう、授業終わったの?」

海未「はい。今から帰るところです」

ことり「そっか…」


ことり「……新学期になってから、海未ちゃんと中々会えなくなっちゃったね」

ことり「ただでさえ学部が違うせいで一緒の授業がないのに、ごはんを一緒に食べることもできないなんて…」

海未「仕方ありませんよ。二回生になってお互い忙しくなり、時間を合わせることが難しいのですから」

ことり「うん…」


ことり「海未ちゃん、4月からバイト始めたんだよね?」

海未「はい。近くのTSUTAYAで働いています」

ことり「未だに信じられないよ。海未ちゃんが能動的に働こうと思うなんて」

海未「生活費を稼がないといけませんので。それに、奨学金返済のために、今から少しでも貯金を作っておきたいですから」

海未「今までの私であれば、そのような考えに至らなかったでしょう。ですが、私は変わりました」

海未「私はもう、誰かに頼るだけの私ではありません」


海未「……では、そろそろバイトの時間ですので、失礼しますね」

ことり「うん…」


ことり「ねえ、海未ちゃん。私たち、また会えるかな?」

海未「きっと、すぐに会えますよ」
741: 名無しで叶える物語 2017/06/10(土) 23:59:06.91 ID:BSsVXr/c.net
私は今まで、多くの人に迷惑を掛けてきた。

数え切れない程、多くの人に。

春休み、そのことに気づいた私は、自分が他人に依存していないと生きられない寄生人間であることを痛感した。

母に依存し、穂乃果に依存し、ことりに依存し、そして先輩に依存し…。

私は、まるで寄生虫のような自身を恥じた。他人に寄生している自分の姿を想像するだけで厭気が差した。


自己嫌悪に陥った私は、決意した。

今までの自身を省み、改め、そして変わることを心に決めた。

もう誰にも迷惑を掛けない、面倒も掛けない。誰の助けも借りない。



私は、独りで生きていく。
742: 名無しで叶える物語 2017/06/11(日) 00:05:45.34 ID:H+eAxlpp.net
#26-a

音ノ水女子大学本館1階。

廊下の壁に設けられた掲示板の前には、一人佇む真姫の姿があった。


海未「………真姫」

真姫「!?う、海未…?あ…久しぶり、ね」

海未「お久しぶりです。キャンパスライフはいかがですか?」

真姫「まあ、ぼちぼちってところね。……そんなことより、海未!こんな所で何してるのよ?」

海未「そのままお返しします。真姫は掲示板の前に立ちつくして、何を見ているのですか?」

真姫「……サークルの、勧誘のチラシよ」


私は視線を掲示板の方へやった。

掲示板には、部活動・サークルの勧誘用のポスターが所狭しと貼られていた。


海未「真姫は、どのサークルに入りましたか?」

真姫「………まだ、考え中」

海未「考え中、ですか。もう大抵のサークルは新歓を済ませているでしょうし、入部するにしては遅すぎるのでは?」

真姫「いいのよ、新歓に行くつもりなんてハナからなかったわ。私、急性アルコール中毒でだけは死にたくないもの」
743: 名無しで叶える物語 2017/06/11(日) 00:07:29.01 ID:H+eAxlpp.net
真姫「サークル、サークル…」

海未「絶対に入らないといけない校則があるわけでもないですし、無理に入部することもないんですよ」

真姫「そうね…。でも、何事も経験だもの、入って損はないでしょ?」


真姫は髪の毛を指で遊ばせながら、私の方を見向いた。


真姫「……私、海未と同じサークルに入ることにするわ。海未はどこのサークルに所属しているの?」

海未「それを訊いたところでどうしようもありませんよ。真姫は、真姫がやってみたいと思ったサークルに入るべきです」

真姫「わかってるわよ、そんなこと…」

真姫「……でも私、初対面の人達と話すの苦手だから…。海未と同じサークルなら、少しは安心できると思ったのよ」

海未「真姫を助けてあげたいのは山々ですが、生憎、私はサークルに所属していませんので力になれそうにありませんね」

真姫「そうなの…?だったら、絵里のサークルに入るわ」

海未「絵里はサークル以外に様々なボランティア活動に取り組んでいるので、サークルには滅多に顔を出さないと思いますよ」

真姫「じゃあ、ことり…」

海未「ことりは園実習関連で何かと忙しいようなので、同じくサークルには顔を出さないかと」

真姫「えーっと…。じゃあ、それじゃあ………」


改めて掲示板の方へ視線をやると、あるサークルの勧誘ポスターが目に飛び込んできた。
744: 名無しで叶える物語 2017/06/11(日) 00:13:44.81 ID:H+eAxlpp.net
海未「真姫…。ピアノサークルなんてどうですか?真姫にぴったりです」

真姫「………」


真姫は黙ったまま、視線をチラチラとピアノサークルのポスターへと送った。

真姫はそのサークルのポスターがどこに貼られているのかを知っていた。恐らくこのサークルは候補の中の一つだったのだろう。


海未「真姫は、音楽の専門的な勉強をする為に、この大学に入学したんですよね」

真姫「うん…」

海未「だったら、ピアノ演奏ができるこのサークルに入ってみるのも悪くないでしょう」

海未「活動も年に数回のコンサートや発表会だけのようですし、交流回数が少ない分、人間関係を気にする必要もありません」

真姫「うん…、そうね…」


真姫は目を伏せながら、手に持っていた紙を私に手渡した。


海未「入部届…?ピアノサークル………なるほど。真姫は最初から、ここに入部しようと決めていたんですね」

真姫「入学式の日に勧誘を受けてから、ずっと入りたいと思ってたのよ?でも、気づいたらこんなに時間が経っていた…」

真姫「最初の機会を逃して以来、この紙を渡すタイミングを失っちゃって…。結局渡せず仕舞いで、こうして毎日掲示板の前に佇むことになってたのよ」

海未「何やってるんですか…」


私は呆れつつも、真姫の決断に付き添うことにした。
745: 名無しで叶える物語 2017/06/11(日) 00:16:59.33 ID:H+eAxlpp.net
その後、踏ん切りのついた真姫に同伴し、真姫が入部届を渡し終えるまでしっかりと見届けた。


真姫「ありがとう、海未。これでようやく、私も素敵なキャンパスライフを送れそうな予感がするわ」

海未「さいですか。また入部届を提出したい時はいつでも呼んでください」

真姫「大丈夫よ、これ以上サークルに入るつもりはないわ。私は凛みたいにフットワークは軽くないから」

海未「凛…」

海未「そういえば、真姫は凛と同じサークルに入ることもできたのではありませんか?」

真姫「いや、無理よ。凛は運動部も文化部も関係なく、殆どのサークルに入部届を出してたわ」

海未「……真姫とは正反対ですね」

真姫「なのに、どこのサークルの新歓にも出てないそうだし…。もう意味分かんない!」



私は真姫の横に並びながら、凛のことを考えていた。

入試の時以来、私は凛と言葉を交わしていなかった。

キャンパス内で見かけることは幾度かあったが、私は凛の後ろ姿に声を掛けることができなかった。

私はいつも、彼女との会話が始まるきっかけを探していた。
759: 名無しで叶える物語 2017/06/12(月) 23:59:22.80 ID:1KcEpMAF.net
#26-b

この日、3限目の講義を終えた私は、大学の図書館へと向かった。

本来ならこの曜日の4限にはドイツ語の講義があり、本来なら私は講義室まで向かわなければならなかった。

しかし、本館の掲示板に、今日のドイツ語が休講であることを報せる掲示が貼り出されていたのを、今朝私は確認していた。

急に講義が抜け、次の講義までの時間を持て余していた私は、図書館で暇潰しをしようと思い立った。そして図書館へと向かったのだ。



私は小説が読みたい気分だったので、本棚に設けられた小説コーナーへと入り、読みたい本を物色した。

まず、ハリー・ポッターを読もうと思ったが、講義の空き時間で読むにはあまりにも文量が多いため諦めた。

他に何か良い作品がないかと彷徨っていたら、本のカバーが特徴的な、その小説に出会った。

確か何年か前に実写映画化されており、かなりの知名度を誇る作品だ。

私はその本を手に取り、図書館の端にある読書席に座って、その小説を読むことにした。
760: 名無しで叶える物語 2017/06/13(火) 00:00:05.30 ID:cLCT9UDm.net
私はこの小説を読んだことはなかったが、映画が公開されたおかげで大まかなあらすじは掴んでいた。


大学生の主人公はある日、同じ高校に通っていたヒロインと再会する。

それを機に主人公と彼女は定期的に会うようになり、次第にその仲も深くなっていく。

しかし、高校時代に起きたある出来事がきっかけで、彼女は心に大きな傷を負っていた。

それを知った主人公は彼女を救おうとするが、その闇はとても深く、主人公もまた…。

これは、主人公とヒロインの淡く切ない恋を描いた、純愛ラブストーリー………。



私が頭の中でそれっぽい映画予告を作っていると、5人のグループが卓を囲み、何かの話をしている光景が目に映った。

グループが使っている机は大人数で囲めるサイズで、よく図書館にある大机だった。

その大机は本棚が立ち並ぶエリアの手前にあり、今私がいる読書スペースからは少し離れた位置にあった。

私はそのグループが何をしているのか、考察をした。
761: 名無しで叶える物語 2017/06/13(火) 00:07:05.27 ID:cLCT9UDm.net
「グループは机を囲み、何かを話しています…。会議をしているのでしょうか?」

「全員、紙にペンを走らせていますね。何かの課題でしょうか?」

「傍らには分厚い本…。あれは辞典ですか?」

「……なるほど。あのグループは同じ講義を取っている仲間で、出された課題を相談や質問をしながら進めているわけですね」

「恐らくその講義は外国語で、課題はその言語でレポートを書く………といったところでしょうか」

「わざわざ図書館で課題をしている理由は、あの分厚い辞典を使って日本語を外国語に訳すためでしょうね」

「私もドイツ語の課題をする時、図書館で同じようなことをしていますから、すぐに分かりましたよ」



私は勝手に解決し、勝手にスッキリした。

しかし、私は何故、あのグループのことをこんなに気にしているのか。

それは簡単な答えだった。

あのグループの中に、凛が居るからだ。
762: 名無しで叶える物語 2017/06/13(火) 00:55:28.52 ID:cLCT9UDm.net
私は机の上に置いたまま忘れられていた小説のことを思い出し、頁をめくり読み始めた。

だがしかし、私はちょうどグループのいる大机の方を向いて座っていたので、凛の姿が目に入って読書に集中できなかった。

小説は、主人公が学生寮に入ったところで止まり、これ以上物語が進まなくなってしまった。


離れた場所から見る凛は、凛々しい顔で課題に取り組み、とても利発そうに見えた。

私はずっと、凛のことを見ていた。

すると、凛もこちらの視線に気づいたようで、グループの人達に何か言葉を残し、席を離れこちらへと駆け寄ってきた。



凛「海未ちゃん。こんな所で、独りで、一体何してるの?」

海未「……読書をしていたんです」

凛「あ、そうだったの?ごめん、もしかして邪魔しちゃったかな」

海未「い、いえ。ちょうど読むのをやめようと思っていたところだったんです。この小説、いつ面白くなるんですかね…?」

凛「そっか、良かった。じゃあもうちょっとお話しよっか。隣座ってもいい?」

海未「ええ、どうぞ」


凛は隣の席から椅子を拝借し、私の横へと並べ、そこに座った。
763: 名無しで叶える物語 2017/06/13(火) 01:27:11.78 ID:cLCT9UDm.net
海未「入学してしばらく経ちますが、もう大学には慣れましたか?」

凛「ううん、全然。授業はいっぱいあるし、講義は長いし、施設の場所も名前もさっぱり覚えられないし…」

海未「そんなものですよ。私も、この大学での生活に慣れるまで、かなりの時間を要しましたから」

凛「ふーん」

海未「……あ、真姫から聞いたのですが、凛はあらゆるサークルに見境なく入部届を提出したそうですね」

凛「あー、うん。そうだね」

海未「どのようなつもりで、そんなことをしたのですか?」

凛「入学式の日にさ、正門から本館までの道に先輩方がずらりと並んで、必死にサークルの勧誘してたでしょ?」

海未「はい。毎年入学式の日は勧誘が激しいですからね」

凛「その時にね、私、言われたんだ。『入部お願いします』って」

凛「だからその期待に応えなきゃいけないって思って、勧誘を受けたサークルはすべて入部したよ」

凛「まあでも、新歓が終わって辞めてく人も多いみたいだし、私も便乗して全部退部しようと思ってるよ」

海未「そうですか」


話の途中から凛が何を言っているのか分からなくなったが、私はとりあえず相槌をうって誤魔化した。
764: 名無しで叶える物語 2017/06/13(火) 01:39:48.84 ID:cLCT9UDm.net
海未「そういえば、凛は普段、真姫と一緒ではないんですね」

凛「どういうこと?」

海未「高校時代の凛は、いつも誰かにくっ付いていた印象があるんです。だから意外だったんです。凛と真姫が連んでいないことが」

凛「学部が違うから、中々会う機会がないだけだよ。お昼ごはんはできるだけ一緒に食べるようにしてるし、別に絶縁したわけじゃないよ?」

凛「……そうだね。高校時代の凛がべったりなら、今の凛はやんわりってところかな」

海未「よく分かりません」


私は、例のグループがこちらを見ていることに気がついた。

凛が突然席を離れ私の元に来たことで、混乱しているのだろう。


海未「凛…。向こうに戻らなくてもいいんですか?」

凛「ああ、いいのいいの。私はいつもあのグループと連んでるんだけど、どうにもあの空気が苦手なんだよね」

凛「同調圧力って言うのかな?みんな、同じじゃないと気が済まないらしいんだ」

凛「みんな同じ服で、同じメイクで、同じ持ち物で、同じ喋り方であることを強制してくるの。おかしいと思わない?」

凛「その内、生理も同じ周期にしろ!…とか言い出すんじゃないかって、いつもビクビクしてるよ」

海未「そうですか…。凛も色々と大変ですね」

凛「そうなの。だから偶にはこうして、息継ぎしないとね」
765: 名無しで叶える物語 2017/06/13(火) 02:11:57.16 ID:cLCT9UDm.net
凛は、何かを考えるような仕草を見せた。

そして、その二つの目で私を捉え、問い掛けた



凛「………海未ちゃんってさ、ドイツ語の授業取ってるよね?」

海未「はい。取ってますよ」

凛「どうして私がそのことを知っているのかって言うと、私も同じドイツ語を受講しているからなんだよね」

凛「それも、知ってるよね?」

海未「ええ、教室で何回か見かけましたから」


凛「………海未ちゃんは講義の時、いつも一人で前の方の席に座ってるよね?」

海未「……はい」

凛「どうして?」

海未「………」


私は少し間を置き、それから語り始めた。


海未「私はこれまで、たくさんの人に迷惑を掛けてきました。そして、自分がいかに最低な人間であるかを知りました」

海未「私は自己嫌悪の果てに、変わろうと決意したんです。もう誰にも、迷惑を掛けないよう…」

凛「あ、ごめん。その話、長くなりそう?」

海未「今話しているのがプロローグで、エピソードは全八章で構成されています」

凛「そんなに長いならもういいや。私はもう行くね?英語の課題がまだ残っててさ、今日中に出さなくちゃいけなくて結構焦ってるんだ」

海未「焦っていたのに、どうして私の元へと来たのですか…?」

凛「だって、海未ちゃんと二人きりになれそうなチャンスだったもん。私は久しぶりに海未ちゃんと話したかったんだよ」

海未「そ、そうですか…」

凛「それじゃ、また授業で!」



そう言うと、凛はまたあのグループの輪へと戻り、仲間内で何か言葉を交わした後、再び課題に取り組み始めた。

私は、止まってしまった小説を元あった場所へ直し、図書館を後にした。

図書館を出る際、司書が私を気味の悪そうな目つきで見ていた。

恐らく私の顔は、表情が弛み、だらしなく若気ていたのだろう。
797: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 13:44:53.32 ID:0zyftieM.net
#27

春の麗らかな陽気は消え、少しずつ夏の兆しが見えてきたこの頃。

私はこの日も、朝からバイトに勤しんでいた。

昨夜未明から降り始めた雨は店の客足を遠のかせていた。

「もう客は来ないだろう」という店長の判断で、私は昼にバイトを早上がりすることになった。

私は更衣室で着替えを済ませ、鞄から携帯を取り出した。

携帯には、一通のメールが届いていた。それは絵里からのものだった。
798: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 13:45:28.79 ID:0zyftieM.net
件名:いまひま?

暇ならどこかでお茶でもし
ましょう。うみに見せたい
ものがあるの。
お返事、お待ちしてまふ。



絵里の言う"いま"とは、私がこのメールを開いた今ではなく、絵里がメールを送信した今のことを指しているのだろう。

私はこのメールを受信した時刻を確認した。

14:09。どうやら、メールは"今"から10分程前に送信されたようだ。

私は返事を綴った。



Re:いまひま?

お茶、いいでふね。
今ちょうど暇になったとこ
ろだったので、お付き合い
させてください。



それから3分程して、返事が来た。



Re:Re:いまひま?

人の揚げ足を取らない!
799: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 13:46:28.17 ID:0zyftieM.net
絵里が指定してきた店は、駅の程近くにあるスターバックスだった。

私が戸を潜ると、店の店員は生気の抜けた声で私の来店を歓迎した。

客も疎らな店内を見回すと、奥の窓際の席から、金髪ポニーテールが覗いていた。私はその席へと向かった。

私がその金髪ポニーテールに近づくに連れ、金髪ポニーテールは大きく揺れ動いた。


海未「お待たせしました」

絵里「来たわね、待っていたわ」


私は軽く一礼し、上座のソファに腰を下ろした。

外はまだ雨が続いており、ガラス窓は雨に打たれ、視界がぼやけていた。


絵里「雨の日って嫌なのよね…。なんだか、自分だけが世界から取り残されたような気がするの」



私は自分の爪を見つめながら、適当に相槌をうった。
800: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 13:48:20.25 ID:0zyftieM.net
絵里「さて、話の前に、まずはオーダーを決めましょうか。海未は何にする?」

海未「何にする…と訊かれても困りましたね。そもそも、この店には何があるんですか?」

絵里「苦いコーヒーと甘ったるい飲み物があるわ」

海未「私は『ユーヒー』には疎いので、何がどう違うのかよく分かりません。オススメは何ですか?」

絵里「そうね…。海未はどのビバレッジがお好みかしら?」

海未「………ビバ…?」

絵里「ビバレッジ、飲み物のことよ」

海未「ああ、そっちですか…。私は『えすぷれっそ』にします」

絵里「エスプレッソだったら…、カフェモカのグランデなんてどう?」

海未「はい…?」

絵里「あ、それとも、エスプレッソマキアートのドッピオを…」

海未「……もう!揶揄わないでください!」

絵里「ふふ、ごめんごめん。つい私のスタバ知識を披露したくなっちゃって。海未の分は適当に繕っておくわ」

海未「お願いします…」


絵里は席を立ち、カウンターに歩いて行った。

私は未だ止むことのない雨を見て、絵里を待った。

しばらくして、絵里は2つのカップとドーナッツと共に帰ってきた。


絵里「海未のメニューはマキアートのソロにしたわ。海未はお子様舌だから、甘いシュガーをたくさん持ってきたわよ」

海未「私のことバカにしてますよね?」

絵里「そして、私のはチョコトップ・フラペチーノよ。あと、ドーナッツも頼んできたから、一緒に食べましょう」


テーブルの上には、見るだけで吐き気を催す程甘ったるいメニューが並べられていた。
801: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 15:15:28.78 ID:0zyftieM.net
私はマキアートを一口啜った。

口に合わなかったので、シュガーを二本投入し、もう一度啜った。

ミルクとコーヒーとシュガーが溶け合い、絶妙な美味さだった。

マキアートを飲みながらドーナッツを齧っていると、優雅な午後が味わえた。


海未「絵里、私に話したいことがあるとメールで言ってましたが、何の話ですか?」

絵里「ええ、今日は話が3つもあるのよ」

海未「……その内の一つが、希の話というわけですね」

絵里「よくわかったわね、ご名答」


絵里は横に置いてある鞄から写真を取り出した。

その写真には、私の知っている希と寸分も違わない、彼女の姿があった。


海未「森の中で撮られたみたいですね。日本の森…いや、違いますね。これはどこで撮られた写真ですか?」

絵里「さあ、どこかしらね?希は『うちはユニバース大学におるんよ。』としか言わないから、いまいち現在地を把握できないのよね」

海未「ユニバース大学ですか…。久しぶりにその名前を聴きましたね」

絵里「……希はいつまで旅を続けるつもりなのかしら…?早く希に逢いたいわ…」


そう言って、絵里はチョコを自分の口に運んだ。

目を閉じ、しみじみとほろ苦さを味わっていた。
802: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 15:20:57.40 ID:0zyftieM.net
絵里「今の話が一つ目の話題で、次が二つ目よ」


絵里は口元に付いたチョコをハンカチで拭い、話を続けた。


絵里「穂乃果は…、今、京都の大きな病院にいるそうね?」

海未「え…。その話、誰から聞いたんですか?………って、ことりしかいませんよね」

絵里「そう、ことりを呼び出して問い詰めたら、『海未ちゃんにも話したし、もういいかな』と、全部教えてくれたわ」

海未「そうでしたか…」

絵里「聞くと、この話は亜里沙も知らなかったそうなのよね。『雪穂は一切そんな話をしなかった』って、驚いていたわ」

絵里「事情を知っていた雪穂もことりも、穂乃果の病気のことを今の今まで伏せてきたのよ。だから私たちも、あまりこのことを触れ回るべきじゃないわね」

海未「ええ、わかっています」


私はドーナッツを一口啄んだ。


海未「……あまり触れ回るべきではないと思いますが、私は、μ'sのみんなには伝えておくべきではないかと思います。絵里はどう思いますか?」

絵里「私はことりみたいに、訊かれるまでは黙っておくつもりよ。まあいずれ、みんなにも知れ渡る日が来るでしょうけど」

絵里「雪穂とことりが穂乃果の件を隠してたのは、やっぱり穂乃果自身の意思だと思うのよ」

絵里「穂乃果は私たちに心配を掛けたくなかったから、雪穂とことりに口止めをしていたんじゃないかしら。だったら、私たちも穂乃果の意思を汲むべきよ」

海未「確かに、絵里の言う通りかもしれませんね」

絵里「………それに、私たちが穂乃果のためにとやかくするよりも、海未が一声掛けてあげた方が穂乃果は喜ぶわ」

海未「そうでしょうか…?」

絵里「海未の言葉一つで、穂乃果は救われるのよ」
803: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 15:22:56.59 ID:0zyftieM.net
絵里「それで、海未は穂乃果とのやり取りは続けているの?」

海未「………」

絵里「海未…?」


私は目の前にあるマキアートに焦点を合わせ、語りました。


海未「春休み………私が京都で穂乃果と会った日以来、何度穂乃果に電話を掛けても繋がらないんです」

海未「病院内で自由に電話ができないのは分かりますが、それでも、今までならちゃんと出てくれてたんですよ。それが、突然…」

絵里「なるほどね。海未は今、穂乃果と連絡が取れていない状況なのね」

海未「穂乃果に訊きたいことは海のようにあるのですが、それも訊けずじまいで…」

絵里「電話が繋がらないってことは、穂乃果に何らかの事情があったのかしら?」

海未「分かりません…」

絵里「ことりは何か言ってなかった?」

海未「ことりとは最近会っていません」

絵里「そうなの?前はよく二人で連んでたのに、どういう風の吹き回しかしら?」

海未「ことりも忙しいようですし…。それに、もう私はことりに頼らないと決めたんですよ」

絵里「ふーん、そう…」
804: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 15:26:09.40 ID:0zyftieM.net
私はマキアートを啜った。

まだ量が半分も残っていることにうんざりさせられた。


絵里「そして、最後の話なんだけれど………」

絵里「海未、近頃の大学生活はどうかしら?」

海未「近頃、ですか…」

絵里「二回生になって後輩もでき、人との交流も増え、益々充実した日々を過ごしてることでしょう?」

海未「……私はそんな人生、望んでいません。私は変わったんです」

絵里「海未は"変わった"のね、へー、それはすごいわ。その割には結果が伴っていないような気もするけど」

海未「さっきから何が言いたいんですか?」

絵里「………海未に、先輩としてアドバイスをしてあげようと思って」


絵里「海未は、自分を変えたい、と思ってるのよね?こんなダメな自分を変えたいと」

海未「ダメな、は余計です。……それに私はもう、変わったんですよ」

絵里「いいえ、何にも変わってないわ。海未は成長も性徴もなく、心も体も高校生の頃のままよ」

海未「っ…」

絵里「『変わった』と唱えるだけで変われる程、世の中甘くないわ。本当に変わりたいのなら、まずは行動を起こさないと」

海未「行動…?」


絵里は「待ってました!」と言わんばかりに、ニヤリと口角を上げた。
806: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 15:54:32.78 ID:0zyftieM.net
絵里「海未。……あなた、今年の水コンに出てみない?」

海未「水コン?私が、ですか…?」

絵里「ええ、そうよ。海未なら顔もそこそこ整っているし、スタイルも悪くない、歌唱力もダンスも一級品だし、充分に優勝を狙えるわ」

海未「いやいやいや…。何故私が水コンに?無理ですよ、あんな舞台に立つなんて私にはできません」


絵里「………去年、私は水コンに出場したでしょ?」

海未「ええ」

絵里「出場が決まった当初は、私は結構軽い気持ちで臨んでいたんだけれどね…」

絵里「運営委員会の人や、ライバル達、そして応援してくれる人達と交流することによって、私は成長できたわ」

絵里「海未も、この水コンに出場することで、何かが変わる切れ端を見つけられるはずよ」

海未「変わるきっかけ…」

絵里「どう?私と一緒に出てみない?」

海未「絵里も、出るんですか?」

絵里「もちろん!これからは、私たちはライバルになるのよ!」

海未「ライバル…」
807: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/18(日) 15:55:51.26 ID:0zyftieM.net
マキアートは空になった。

外はすっかり雨も上がり、しずくは太陽に当てられ眩しく輝いていた。


海未「………出てみようと、思います。……水コンに」

絵里「海未…!」

海未「自信はありませんが、頑張りたいと思います」

絵里「ふふ、よく言ってくれたわ!一緒に頑張りましょう!」


私の決断が、ようやく形になってきたような、そんな音が聴こえてきた。



私たちは割り勘をし、店を出た。

携帯には、バイト先からの連絡があった。

雨も止み、客が増えてきて、人手が足りなくて困っているとのこと。

私は絵里に別れを告げると、バイト先へと向かった。
818: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/19(月) 23:21:47.30 ID:y795smEa.net
#28

学生寮の玄関にある郵便受け。

そこに、私宛の手紙が一通、投函されていた。

差出人は、"ほのか"だった。

講義が始まる時間が迫っていたので、私は手紙を鞄の中に仕舞い、大学へと駆け出した。


私は空き時間にその手紙を読もうと決めていたが、結局読めずじまいで、時間だけが過ぎていった。

手紙を読もうとすると、得体の知れない感情が湧き上がってくるのだ。

それは喜びなのか悲しみなのか怒りなのか、あるいは緊張や恐怖といったものなのか、私には分からなかった。
819: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/19(月) 23:25:12.82 ID:y795smEa.net
その日の3限目、ドイツ語の講義。

講義室に入ると、教壇には既に先生の姿があり、講義の準備をしていた。

私は先生に軽く頭を下げ、部屋の一番左の列の一番前の席に着いた。


私は鞄から手紙を取り出し、それをしばらく眺めた。

覚悟を決め、意を決して、封を切ろうとした。

しかしそれは彼女の出現によって阻止された。



凛「おはよ!海未ちゃん」

海未「……お、おはようございます」

凛「隣、座ってもいい?」


凛は私の返事を待たず、隣の席に座った。

彼女は普段、教室後方にいる数人のグループと一緒に固まって講義を受けていた。

そんな彼女が私の側にひょこっと現れたので、私は少し動揺していた。


海未「いいんですか?後ろのグループを放って来てしまって」

凛「いいのいいの。あの子達と話してたら、私きっと、ダメになっちゃう。一応付き合いで連んでるけど、私はもっと、有意義な話がしたいんだ」

海未「そうでしたか」

凛「………ん?海未ちゃん、手に何持ってるの?」

海未「え…?」


凛が来たことですっかり忘れていたが、私はそこでやっと、手紙の存在を思い出した。


海未「な、何でもないんです。友達から送られてきた手紙で、後で読もうと思っていまして」


私はそそくさと、手紙を鞄の中へ帰した。
820: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/19(月) 23:27:40.14 ID:y795smEa.net
凛「ねえ、海未ちゃん。何か"かしこい"話をしてよ」

海未「"かしこい"話…?」

凛「話題は何でもいいよ、世界情勢のことでも忖度国会のことでも。たまには海未ちゃんの知的な面を見せてよ」

海未「一言余計です。……いいでしょう、私が好きな文学の話をしてあげます」


私は、ハリー・ポッターの話をした。

そしてとりあえず、知っている小説家の名前を並べた。

凛は文学には疎いと踏み、それっぽい話をしていれば何とか誤魔化せると思っていたが、凛からの鋭い指摘を受けることとなった。



凛「海未ちゃん…。チャイコフスキーは作曲家だよ?」

海未「ああ、間違えました。正しくはマルゼンスキーですね」

凛「マルゼンスキーは競走馬だよ」



私は鞄の中に頭を突っ込み、茹でダコのように真っ赤に染まった顔を隠す羽目となった。
821: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/19(月) 23:29:56.43 ID:y795smEa.net
講義後、私は凛と別れ、次の講義に向かった。

4限、5限、6限と終え、寮に戻った私は、手紙を机の上に置いた。

ものさしで手紙の封を切り、中に入っていた手紙を取り出した。

手紙は綺麗に三つ折りにされていた。私はベッドに寝転んでその手紙を展開し、読み始めた。
822: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/19(月) 23:37:49.92 ID:y795smEa.net
海未ちゃんへ


 こうして海未ちゃんに手紙を書くのは初めてなので、少し緊張しています。字が汚かったり誤字脱字を見つけても、どうか気にしないでください。

 まず最初に、海未ちゃんに伝えねばならないことがあります。前に海未ちゃんが私のとこに来てくれた時のあの病院なんだけど、覚えてますか?
私は訳あって、あの病院を出ることになりました。でもそれは私が退院したってわけじゃなくて、他の場所に移ったというだけのことです。私は引越しをしました。
どこに引越したかと言うと、そこもまた京都で、山の中にある施設に入ることになりました。自然も豊かで空気も美味しく、なんだか心がカタルシスな感じになっています。

 ここまで読んで海未ちゃんはきっと、穂乃果はどうして施設に移ったのですか?  と考えてるはずです。なので、その疑問を解消したいと思います。
そもそも私が京都の病院に入院していた理由は、今私が持ってる病気の治療をするためでした。だけど治療はどれも効果なし、そして治療が打ち切られました。
担当の先生は、もうお手上げだと、笑っていました。
そしてお荷物になった私は、この施設への移転を勧められました。施設のパンフレットを見て、いい所だなあと思い、ここに引越すことを決めました。
823: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/19(月) 23:39:18.43 ID:y795smEa.net
 今私はこの施設で病気と向き合っています。この施設では治療というものは一切行いません。その代わりに、カウンセリングを重点的に行なっています。毎日先生とにらめっこしながらカウンセリングをしています。
治療をせずに病気を治す方法を探しながら、  そうだね、私はまともな人間になろうと頑張っています。
だから、また海未ちゃんに京都へ来てほしいです。頑張れって応援してもらいたいです。お見舞い品なんていらないから、会いにきてください。

 施設がある場所は追って連絡します。というより、今はまだ面会が許されてなくて、最近ようやく手紙を書くことも許されたぐらいなんです。
でも夏までには面会OKになると思います。もしその時、海未ちゃんが会いにきてくれるというのなら、それまで私はこの場所で待っています。

まとまりのない文章でごめんね。


穂乃果より
824: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/19(月) 23:42:04.21 ID:y795smEa.net
手紙を読み終えた私は、安堵の胸を撫で下ろした。

一息ついた後、コンビニに行き、62円の切手を買った。

それから二日掛け、手紙の返事を書き上げた。

そして、寮の近くにある郵便局のポストへ投函した。



穂乃果から返事が返って来たのは、夏休みが始まって間もない頃だった。
854: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/24(土) 23:31:50.86 ID:J4ssmaSN.net
#29

この日も、雨が降っていた。


休日だったが、私はレポート提出のために大学まで足を運んでいた。

研究室にいる教授にレポートを押し付け棟を出た私は、傘を差し、大学の正門へと向かった。

6月下旬。雨は一向に止む気配を見せなかった。


水たまりを避けるように跳ね、帰り道を辿っていると、いつ以来かの声に呼び止められた。


亜里沙「海未さんー!」

海未「亜里沙…!それに雪穂も!どうしてあなた方が大学に…?」

亜里沙「いやだなあ、海未さん。今日は音ノ水女子大学のオープンキャンパスの日だよ?」

雪穂「そういうこと。だから私たちがこの場所に居たって、何らおかしなことはないの」

海未「ああ、そうでしたね。オープンキャンパス………」


オープンキャンパスの日にしては、キャンパス内はやけに静かで、閑散としていた。

雨だから参加者が少ないのだろうと、私は一人で納得した。


海未「……あの。二人はこれから、少し時間がありますか?」

亜里沙「うん。時間ならいっぱいあるよ」

海未「では、もしよければ、一緒にお昼を食べませんか?私の奢りで」


雪穂と亜里沙はお互いの顔を見合い、それから、大きく頷いた。

私は二人を連れ、食堂に入った。
855: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/24(土) 23:34:38.81 ID:J4ssmaSN.net
音ノ水女子大学 食堂

券売機で、私は炒飯の食券を買った。

雪穂と亜里沙は券売機の前で、何を買おうか悩んでいる様子だった。

迷っていた二人は、私に尋ねてきた。


雪穂「ねえ、海未ちゃん。海未ちゃんは塩か醤油、どっちがいいと思う?」

海未「な、何ですか、それは…」

亜里沙「何って、ラーメンのことだよ!」

雪穂「そう、ラーメン!塩か醤油、どっち!?」


二人の熱に圧倒された私は、思わず味噌と答えてしまった。

二人は鋭い目で凄んできたが、「味噌もありだね」と言い、二人して札幌味噌ラーメンの食券を購入した。


海未「二人はどうして、そうもラーメンにこだわるのですか?」

亜里沙「練習終わりに、よく凛ちゃんにラーメン屋へ連れて行ってもらってたからね」

雪穂「そのおかげで私たちもラーメンが大好きになったんだ」

海未「やはり、二人を洗脳したのは凛でしたか…」
856: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/24(土) 23:36:11.49 ID:J4ssmaSN.net
私たちは昼食を取った。

私が食べた炒飯は、程よく水分を含んでいて口の中でベタつかず、パラパラとした食感で、とても美味しかった。

凛の弟子達(雪穂と亜里沙のこと)は札幌味噌ラーメンをツルツルと啜っていた。

一口食べる毎に感想を言い合い、ラーメンが残り半分を切ったあたりからは味噌ラーメンの歴史について語り始めていた。

私は二人のラーメン語りを片耳で聞きながら、お冷やを啜った。


亜里沙「たかが食堂のラーメンと侮っていたけど、すごく美味しい!」

雪穂「だよね~。こんな美味しいものが毎日食べられるなんて、この大学の生徒は幸せ者だね」

海未「二人も音ノ水に入れば、毎日美味しいラーメンが食べられるんですよ」

亜里沙「あー………うん。そうだね…」

海未「……歯切れの悪い物言いですね。二人は、音ノ水に入学しないんですか?」

雪穂「うん、私はこの大学じゃない、別の進路を目指すことにしたよ」

亜里沙「海未さんやお姉ちゃんと同じ進路もいいけど…。やっぱり、亜里沙は雪穂と同じ道を歩みたいから」

海未「そ、そうですか…。今までμ'sのほとんどが音ノ水を志願していたので、てっきり雪穂達も同じだと思っていましたよ」

雪穂「うん。私も、そう思ってたよ」


雪穂はラーメンの残り汁を啜った。
857: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/24(土) 23:38:20.16 ID:J4ssmaSN.net
雪穂「私もさ、高校を卒業したら音ノ水に進学して、海未ちゃんやμ'sの先輩達と楽しい大学生活を送るものだと思ってたよ」

雪穂「みんな同じサークルに入って、くだらない話で盛り上がったりして…。そんな未来が来るんだって、信じてた」

雪穂「でも、お姉ちゃんが"ああ"なってから、私の未来予想図は狂った」

雪穂「ずっと憧れだった姉が病に侵され、私は進むべき針路を見失った。そして私は、自分すら見失ってしまった…」

雪穂「何をすればいいのか分からなくて…。とにかく、お姉ちゃんから離れたかった。お姉ちゃんのいない世界へ行きたかった」

雪穂「お姉ちゃんの面影が残るこの町が、息苦しくてしょうがないんだ…。だから、私は、誰も高坂穂乃果を知らない世界へ、いくことにしたよ」

亜里沙「亜里沙も…。雪穂と一緒に、その世界へいくよ」

海未「……二人が決めた道であれば、私がとやかく言う権利はありません。どんな道であれ私は応援しますよ」

雪穂「ありがとう…。やっぱり、ここに来て正解だった」

海未「え…?」

雪穂「最後に、お姉ちゃんが来るはずだった場所に来れてよかったよ」


雪穂と亜里沙はラーメンの汁を飲み干し、顔をテカらせて言った。



雪穂「海未ちゃん、ごちそうさま!」

亜里沙「海未さん、ごっつぁんです!」

海未「あなたはルメール騎手ですか」
858: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/06/24(土) 23:45:15.21 ID:J4ssmaSN.net
二人は、学科説明会を受けることなく帰って行った。

雨は上がり、空には数日ぶりの太陽が顔を覗かせていた。

二人の先には、空へと架ける七色の虹が、淡く輝いていた。


私は二人を眺めながら、先程交わした会話を繰り返した。

そして、先日テレビで特集されていた、がん患者とその家族の話を思い出した。

がん患者を支える家族は患者当人と同等の精神的負荷が掛かるらしく、そのことから『第二の患者』と呼ばれるそうだ。

穂乃果の病気を誰にも打ち明けられず、一人支えてきた雪穂も、第二の患者と呼べるのかもしれない。

雪穂がどれ程のストレスを抱えているのか、私には分からなかった。

これから穂乃果の病気と向き合って行く中で、私も雪穂と同じようになってしまうのではないかと、一抹の不安が頭をよぎった。


そういえば、ことりもまた、穂乃果を支えていた第二の患者であった。

ことりが病んでいく姿を、私は見てきた。どういう経過を辿り精神が参っていくのか、私はよく知っていた。

私の中にある不安の種は、少しずつ膨らんでいた。
899: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/02(日) 00:06:26.71 ID:Dbg+M0r9.net
#30

前期試験を終え、いよいよ夏休みが始まった。

その初日、私は絵里に呼び出されていた。

絵里が指定してきた場所は、駅の側にあるビルの二階に店を構える、ファミレス。

店に入り、駆け寄ってきた店員に「待ち合わせをしている」と伝え、絵里が待つ席へと案内してもらった。

案内された席には、絵里と、ことりがいた。


絵里「来たわね、待ってたわ」

海未「は、はい…」


ことり「……おはよう、海未ちゃん」

海未「……おはようございます」

絵里「何してるのよ?早く座りなさい」


片側がソファ席で片側が椅子の、6人掛けの席だった。

絵里とことりは横並びに座っていた。私はその反対側の席に着いた。
900: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/02(日) 00:07:59.66 ID:Dbg+M0r9.net
テーブルには、お冷やとおしぼりが6つずつ置かれていた。

私はその内の一つを取り、自分の前に置いた。


絵里「注文はみんな揃うまで待っててちょうだい」

海未「はい。今日は私たち以外にも誰か来るんですね」

絵里「ええ、もうじき来ると思うわ」


絵里「……で、海未はテストの方、どうだったの?」

海未「手応えはありました。恐らくA以上の評価でしょう」

絵里「あら、そう?去年までの海未なら単位取得ギリギリのボーダーラインを低空飛行していたのに、見違えたわね」

海未「私だってやればできるんですよ。絵里はどうでしたか?」

絵里「私はいつも通り、平常運転よ」

海未「ということは良い点数が期待そうなんですね」


ことり「……私には訊かないの?」

海未「あ…。こ、ことりはどうでしたか?」

ことり「うん、いい感じだったよ」

絵里「ことりは頑張ってるわよね~。さぞ、GPAも高いんでしょう?」

ことり「まあね。私は実習があるから、少しでも内申を良くしておかなきゃいけないんだ」

海未「この夏休み中に行くんですよね?いつから始まるんですか?」

ことり「7月末から8月の第1週までだよ」

絵里「あら、それってもうすぐじゃない。ことりならできるわ、頑張って」

ことり「……うん、ありがと」
901: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/02(日) 00:09:57.60 ID:Dbg+M0r9.net
海未「あの。机の上にお冷やが6つありますが、これからここに後3人来るということですか?」

絵里「ええそうよ。大体誰が来るのか察しはつくでしょ?」

海未「二人は分かりましたが、残りの一人が誰なのか分かりません…」

ことり「二人は、真姫ちゃんと凛ちゃんのこと?」

海未「はい。凛と真姫は同じ音ノ水ですし、今日の会合にも誘っていることは予想できたのですが…。絵里は他に誰を誘ったんですか?」

絵里「あら、忘れちゃったの?去年もこうやってファミレスに集まったでしょ。その時にいた、彼女よ」

海未「え…?いや、でも、そんなまさか…」



にこ「私はお呼びじゃなかった?」

海未「にこぉぉ!」


私は驚きのあまり声を上げた。その声は店内に響き渡った。

他のテーブルに座っている客がこちらをチラチラと伺ってる様子が、こちらからも伺えた。


にこ「ちょっ、しぃー!大声で私の名前を呼ぶな!」

海未「す、すみません…」


にこは絵里に促され、絵里の隣の椅子に座った。


海未「今日はいつもみたいに、マスクや濃いサングラスを着けていないんですね」

にこ「変装って、なんだか有名人気取ってるみたいで嫌なのよ」
902: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/02(日) 00:12:18.39 ID:Dbg+M0r9.net
絵里「にこ!やっぱり来てくれたわね」

にこ「あんたらに会う機会もめっきり減っちゃったもの。こうして定期的に顔を見ておかないと、誰が誰だか忘れちゃいそうになるわ」

絵里「忙しいのによく都合を合わせてくれたわ。撮影の方は順調なの?」

にこ「ドラマはもうとっくにクランクアップしてるわよ。今は番宣でバラエティに出てるぐらいでそんなに忙しくないわ」

海未「今やテレビで見ない日は殆どないぐらいの有名人となったにこが私たちに会いに来てくれて、私は感激しています!流石にこですね!」

にこ「ちょっと、やめてよそういうの。恥ずかしいでしょ」

海未「何を恥じらうことがあるのですか!事務所に所属して3年目で連続ドラマに大役で出演したんです。にこにはそれだけの素質があったんですよ」

にこ「違うわよ。私がここまで有名になれたのは、プロデューサーや社長、周りの人達の力添えがあったから。私一人の力じゃない」

にこ「アイドル業が鳴かず飛ばずで、テコ入れとして受けたドラマのオーディションに偶々受かって、気づいたら有名人扱いされるようになってて…。私にもよく分からないわ」

海未「ああ、そういえば本業はアイドルでしたね。しかし演技の才能を見出されてなお天狗になろうとしないにこの姿に、私は感銘を受けましたよ」

にこ「そう、ありがと」
903: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/02(日) 00:12:42.87 ID:Dbg+M0r9.net
ことり「ねえねえ、にこちゃん!にこちゃんが探偵さんの助手役で出演しているドラマ『流石にこの謎は解けない』、毎週欠かさず観てるよ!」

ことり「毎週、探偵さんとにこちゃんとの掛け合いが面白いよね!回を重ねるごとに親密になっていってるけど、二人は最後どうなるの?」

にこ「そうね~………って、最終回のネタバレになっちゃうけど大丈夫?」

ことり「うんうん、大丈夫!どうぞ、ネタバレでも何でも!」

海未「何言ってるんですか、ダメに決まってます!私はネタバレをする人と食事マナーの悪い人が嫌いなんです!」

ことり「じゃあにこちゃん、海未ちゃんには聴こえないよう耳打ちして?」

海未「ダメです!私だけ除け者にしないでください!」

絵里「ちょっと!あんまり騒ぐと店員さんに怒られちゃうわ!」

にこ「………あんた達、ほんと変わらないわね」


にこはお冷やに口を付けた。
904: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/02(日) 00:15:56.62 ID:Dbg+M0r9.net
暫くして、凛と真姫が来た。


凛「お待たせ~。あれ?もう私たち以外は揃ってる感じかな?」

絵里「ええ、凛達が最後よ」

真姫「ごめんなさい、待たせちゃったわね。えっと注文は…」

絵里「今からまとめて注文するわ。私たちはもう決めてあるから、二人も何を頼むか決めちゃいなさい」

凛「うん。あ、海未ちゃん。隣座っていい?」

海未「ええ、どうぞ」

凛「さて、何を頼もうかな~?………ってにこちゃんんん!?」


凛は目を点にし、店内に響き渡る声を上げた。

離れたテーブルに座っている客がこちらの様子を気にしていたが、私は「自分は関係まい」と目を逸らした。


にこ「だから大声で私の名前を呼ぶなあ!」

凛「だからって何!?」



絵里はベルで店員を呼び、私たちの注文を並べていった。

絵里ことりにこ私は、肉を頼んだ。

ことりとにこは、野菜も頼んだ。

凛と真姫は、ラーメンを頼んだ。

真姫も既に洗脳済みであったことに、私は驚きを隠せなかった。

そして最後に、6人分のドリンクバーを頼んだ。
917: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/02(日) 23:55:28.21 ID:Dbg+M0r9.net
絵里が言うところの"女子会"は、食事を楽しみながら会話も弾み、和気藹々と進行していた。

そして、話題は真姫の大学生活の話へと移っていた。


絵里「真姫は大学に入ってからどう?何か良いことでもあった?」

真姫「……特にないわね、今のところ」

絵里「え?あ、そうなの…」

ことり「一応サークルには入ってるから、まあ、その…まだチャンスはあるよ!」

真姫「気を遣って言葉選ぶのやめなさいよ!」

にこ「相変わらずぼっちしてるのね。スクールアイドルやってたのに対人スキルが改善されないなんて、ある意味才能よ、それ」

絵里「真姫は勉強やピアノは得意だけど、そっちに一辺倒なのよね。ゲームで例えるとステを攻撃に全振りしてて他のステが軒並ゴミってところかしら」

凛「………」

海未「真姫は人見知り、ということですよ」

凛「おー、そういうことか、なるほど。確かに真姫ちゃんはそういうとこ弱いよね」

真姫「私から誰かに近付くのは気が引けるけど…、相手の方から親しく接してくれたら、ちゃんと友好な関係を築けるわ」


真姫はラーメンを啜った。


真姫「それに、大学生活はあまりぱっとしない私だけど、私生活では結構充実した日々を送ってるのよ」

真姫「実はね、最近、アルバイトを始めたの」

海未「そうですか、あの真姫がバイトを…。何のバイトを始めたんですか?」

真姫「私にしか、できない仕事よ」


それ以上質問をしても、真姫から答えは帰ってこなかった。
919: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 00:00:38.76 ID:ejCiBnGN.net
ことり「あ、そういえば海未ちゃん、今年の水コンに出場するんだってね?」

海未「ギクッ」

凛「ねえ海未ちゃん。水コンって何?」

海未「えーと…。水コンは、水のコントラストの略ですよ。絵画の表現技法として主にルネサンス期に用いられてた手法で…」

絵里「違うでしょ。水コンは音ノ水大学のミスコンのことよ。毎年音ノ水で行われる徽音祭の名物行事なの」

凛「へ~。……って海未ちゃん、その水コンに出るの!?」

真姫「あの恥ずかしがり屋さんの海未が?まさかね」

海未「いや、えっと、それはですね…」

絵里「残念♪ 言質は取ってあるし、それに既に出場登録を終えてるから、もう逃げられないわよ?」

海未「そんな!?モチベーションが無くなったから出場取消…とはいかないのですか?」

絵里「当たり前じゃない。もう既に周りの大人達は準備を進めているの、私たちの勝手な都合でそれを狂わせるわけにはいかないでしょ」

海未「ですが…」
920: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 00:01:12.23 ID:ejCiBnGN.net
凛「海未ちゃんがミスコンにねぇ、ふむふむ…」

真姫「応援に行くから、目が合ったらステージ上から投げキッスしてちょうだいね」

海未「後輩にまで揶揄われて、最悪です…。あの時、何故出場するなんて口走ってしまったのでしょう…」

にこ「いいじゃない。私も海未のステージ、楽しみにしてるわよ。去年の覇者である絵里と、その系統を受け継ぐ海未の戦い、目が離せないわ」

ことり「あ、にこちゃんは去年も徽音祭に来てくれてたよね。今年も来てくれるの?」

にこ「ええ、去年の私のパフォーマンスが盛況だったみたいで、今年もまた大学からオファーが来てるわ」

凛「絵里ちゃんと海未ちゃん、女の戦いか~。面白そう!私も絶対に観に行くからね!」

海未「もう、わざわざ観に来なくていいですよ…」
921: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 02:02:11.74 ID:ejCiBnGN.net
料理を平らげ、ドリンクバーの飲み過ぎでお腹が重くなり、そろそろお開きムードとなった頃。

ことりは突然、その話を切り出した。


ことり「私ね、この夏からフランスに留学するんだ」

絵里「………へ?」


あまりにも突然の話で、そこにいた者は皆、口を開け呆然としていた。

しかし、ことりは私たちなどお構い無しに話を続けた。


ことり「私はフランスの大学に留学して、保育の勉強がしたいの」

ことり「フランスは世界的に見ても幼児教育に力を入れている国で、そこで勉強できたら、きっと私自身の力にもなるなって、ずっと思ってたんだ」

海未「こ、ことり…?何を訳のわからないことを…。それにこの夏って、いくらなんでも急すぎます!」

ことり「ごめんね。でもずっと前から留学することは考えてたの。勉強を頑張って成績を稼いでたのも、本当は留学生奨学金を貰うためだったんだ」

海未「夏休みの実習はどうするんですか?」

ことり「もちろん、実習を終えてからフランスに行くよ。日本の保育の現場も知らずに渡仏なんて、笑い話にもならないからね」

ことり「私はね、フランスの先進教育を日本にも導入できたら、もっといい社会になると思うんだ。これは私の夢であり、野望なの」

ことり「理解は受けられないかもしれないけど、せっかくの門出だから、私のことを応援して欲しいな」
922: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 02:03:51.12 ID:ejCiBnGN.net
真姫「……まあ、ことりが自分で選んだ道なら間違いないでしょうし、反対なんてしないわ。応援してあげる」

絵里「そうね。ことりは自分の歩みたい道を歩めばいいのよ。例えそれが、みんなとは違う道でも、自分を信じて歩み続けなさい」

ことり「真姫ちゃん、絵里ちゃん…!」

海未「ことり。一つ訊かせてください」

海未「………あなたは、逃げるわけではないのですね?」

ことり「………どうだろうね。でもたぶん、私はどうやったって逃げられないと思うよ。海未ちゃんも、ね」

海未「そう、ですか…」
923: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 02:04:40.48 ID:ejCiBnGN.net
凛「ことりちゃん…!もうこれで、今生の別れになっちゃうの?」

ことり「大丈夫だよ凛ちゃん。留学といっても一年だけだから、来年の夏には日本に帰ってくるよ」

凛「そっか、よかった~。ことりちゃんまで消えちゃったらどうしようって、心配してたんだ」

にこ「……9人いたはずなのに、二年で7人になって、また6人になって…」

にこ「ことりが留学したら、今度は5人になる。………もうμ'sが揃うことはないのかしらね」

絵里「それぞれが、それぞれの道を進んでるんだから良いことじゃない。希は相変わらず、得体の知れない大学で怪しいことをしてるみたいよ」

にこ「穂乃果と花陽はどうなの?元気にやってる?」

海未「穂乃果は私と定期的に連絡を取っていますし、………元気、ですよ」

凛「かよちんも休日には電話くれるし、元気そうだよ。みんなと離れ離れだから少し寂しそうだけどね」

海未「この場にいない人も、こうして繋がっています。私たちはいつかまた、一つになれる日が来ますよ」

ことり「……うん、そうだね。その日が来ると、信じよう」

海未「ええ!」


もちろん、そんな日が訪れることはないと、私は知っていた。



それから、私たちはにこの御馳走となり、解散した。
924: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 02:05:03.77 ID:ejCiBnGN.net
数日後。

寮の郵便受けに私宛ての手紙が入っていた。

送り主は、例の施設からだった。手紙は、"ほのか"からのものだった。

私は部屋に戻り、そこで手紙を読むことにした。
925: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 02:05:33.42 ID:ejCiBnGN.net
返信遅くなっちゃってごめんなさい
海未ちゃんへ。


海未ちゃん、お久しぶりです。お元気ですか?
すっかり夏本番になりましたね。私は最近、食欲も落ち、少し夏バテ気味のようです。京都の夏は暑くて堪りません。
東京も暑い暑いと思っていたけれど、今は東京がどれだけ涼しい場所だったのかが身に沁みて感じられます。(でも夜は東京の方が蒸し暑いです。)
水分補給等忘れないよう、熱中症に充分注意してください。

それから、返事ありがとう。じっくり読ませてもらいました。
海未ちゃんも二回生になったんですね。なんだか、時間が過ぎるのはあっという間だなぁ、とノスタルジックな気持ちになるこの頃です。
あ、最近知った面白い豆知識があって、学生が大学に所属している年数を、関東では 年生 と言うのに対し、関西では 回生 と呼ぶそうです。
でも、私たちはカントー育ちなのに、何故か 回生 を使っていますよね。フシギダネ
926: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 02:05:55.06 ID:ejCiBnGN.net
思ったことをそのまま字に起こしてるせいで、いつも話に相関性のない支離滅裂な手紙となっています。ごめんね?
海未ちゃんなら私の想いを解読してくれると信じています。

最後に、本題です。
施設の方から、面会の許可が下りました。これでようやく海未ちゃんと会うことができます。
この手紙に、施設がある所までの地図を添付しておきます。
山道で歩きも多くて大変だと思うけど、海未ちゃんは山登り好きだし大丈夫だと思います。
海未ちゃんの予定はわからないけど、こちらには宿泊できる設備が整っています。好きなだけ滞在していってください。

海未ちゃんに会えるのを心待ちにしています。


穂乃果より。
927: ここまで(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/03(月) 02:10:52.30 ID:ejCiBnGN.net
手紙を読み終えた私は、携帯のカレンダーを確認した。

そして、京都訪問の日程を決めた。

八月一日。

この日、私は穂乃果に会いに行く。
944: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/06(木) 23:49:54.55 ID:h9ViBOvX.net
#31

穂乃果からの手紙を受けた翌日。

私は京都に行く前にしておくべき支度を整えようと思い、寮を出た。

まず向かった場所は、私のバイト先。

先輩達に挨拶を済ませてから事務室へと入り、8月分のシフト希望を書いて、京都へ行くための日程調整をした。

店長はそのシフト表を見て、頭を掻き、都合の悪そうな表情を浮かべていた。


「海未ちゃん、8月のシフト全然入ってないけど…。何か外せない用でもあるの?」

海未「離れた場所にいる友達に、会いに行く予定なんです」

「そっか。だけどここまで休みを入れなくてもいいんじゃないかな?夏休みは稼ぎ時なんだけれどなあ」

海未「店に迷惑が掛かるのは申し訳ありませんが、それでも、バイトより友達を優先させてもらいます」


私がこれまでよく働いていたこともあって、店長は私の希望を承諾してくれた。

店長は椅子に腰掛け、シフト表を睨みながら、また頭を掻いていた。

私は礼を言い、そして店を出た。
945: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/06(木) 23:52:15.18 ID:h9ViBOvX.net
次に、向こうで必要になるであろう物資を揃えるため、近くのショッピングモールに向かった。

向こうに何泊するかはまだ決めていなかったが、とりあえずお泊りの際に必要になるであろう日用品を幾つか買った。

他にも生理用品や正露丸などを買い、お泊りに必要な物をすべて揃えた。

用も済まし、これ以上長居する理由もなかったので、私は帰ることにした。



真姫「え、海未…?」


私がモールを出ようとしたところで、私の名を呼ぶ声が聴こえた。

振り返ると、そこには紙袋を提げた真姫の姿があった。


海未「おや、こんな所で会うなんて偶然ですね」

真姫「本当ね…。海未は今帰るとこ?」

海未「はい、もう用は済みましたので。真姫は何をしていたのですか?」

真姫「ちょっと、買い出しをね」


真姫はそわそわして、何か急いでいる様子だった。


真姫「……ねえ、歩きながら話しましょう」
946: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/06(木) 23:54:33.40 ID:h9ViBOvX.net
ショッピングモールから帰る道は二人とも同じだったので、私たちは横に並んで歩いた。


海未「真姫が提げているその紙袋には何が入っているんですか?」

真姫「さっき楽器店で買ってきた、クラシックの教則本や空のスコアよ」

海未「何故スコアを?もしかして真姫は、今も作曲を続けているのですか?」

真姫「……まあ、そんなところかしらね」


真姫は手を打ち、話題を変えた。


真姫「そうだ。12月にね、うちのサークルが主催のピアノコンサートがあるの。で、そのコンサートに私も出演することになったわ」

海未「そうですか。頑張ってくださいね」

真姫「あ、それでね。ぜひ海未にもコンサートに来てもらいたいの」

海未「いいですよ。また真姫のピアノが聴けるのですね、楽しみです」

真姫「これがコンサートチケットよ。この一枚で2人まで入場できるんだけど………誰か誘う人はいる?」


誰か一人を誘うのなら、あの人しかいないと…、私は強く思った。
947: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/06(木) 23:55:06.63 ID:h9ViBOvX.net
真姫「もし一緒に来る人がいないのなら…。このコンサート、ご家族の方と一緒に観に来たら…?」

海未「………私の家族のことは放っておいてください。どうせ誘ったところで来やしませんよ」

真姫「まだ喧嘩してるのね…。いい加減仲直りしたら?もう海未も大人なんだから」

海未「………」

真姫「私は両親と、ちゃんと向き合ったわ。話し合って、そして反対されていた音ノ水への入学を許してもらえた」

真姫「海未も一度、親と話し合う機会を作りなさい。そしたら、そう…。今の現状から、少しは進歩するはずよ」

海未「……余計なお世話ですよ」
948: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/06(木) 23:58:30.21 ID:h9ViBOvX.net
会話が途絶えたまま歩く帰り道。

途中の曲がり角に差し掛かると、真姫は突然に別れを告げた。


海未「え…。真姫の家は、まだ真っ直ぐですよね?」

真姫「うん、そうだけど…。私、今からバイト先に行くのよ」

海未「バイト?ああ、前にそんなことも言っていましたね。真姫は結局のところ、何のバイトをしているんですか?」

真姫「ピアノの先生よ。いや、ピアノの家庭教師かしら」

真姫「私の生徒の子がいて、その子の家にピアノを教えに行くバイトをしているの」

海未「好きを仕事にしたわけですか。その紙袋の中身も、バイトで使う教材というわけですね」

真姫「ええ、そういうこと」


真姫は空を見上げた。

その口元には、自然と笑顔が込み上げていた。
949: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/06(木) 23:58:45.38 ID:h9ViBOvX.net
真姫「今私が持ってる生徒は中学三年生の女の子一人だけなんだけれど…」

真姫「すごく努力家な子なの。私が出した課題も次の日には完璧に仕上げてくるし、分からないところは積極的に質問してくれるし、上達しようという意気込みが感じられてとても気持ちいいわ」

真姫「その子、高校は音ノ木坂に入学するみたいなの。ゆくゆくはアイドル部に入って作曲をしたり…そんな期待を密かにしてるわ。先生失格かしら?でも、そうなってくれるといいわね」


真姫はとても楽しそうに話した。

まるでその子の存在が、自分の生きがいであるかのように。



真姫と別れた私は、部屋で明日の支度を整えた。

京都はすぐそこまで迫ってきていた。
967: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/09(日) 22:54:05.43 ID:nqAtH+FR.net
#32

8月1日。

私は東京駅で買ったお土産の『東京ばな奈』を提げ、新幹線に乗って京都駅に向かった。

新幹線が駅に着くと、そこからバスに乗り換え30分。

降り立った場所は、山の麓だった。


私は、穂乃果から貰った地図を頼りに山道を歩き始めた。

30分程登ったところで、ようやく目的地に到着した。

音ノ水の校門よりも大きな門を構えた玄関で、私は守衛の方に、施設内の大まかな地図を見せてもらった。


その地図を頼りに歩くこと20分。

私は、穂乃果が使っている寮の前に立った。

周囲を緑に囲まれたその寮は、横に長く連なる5階建で、壁は白のペンキが剥がれ風化している建物だった。



私は携帯を確認した。

山奥にあるこの場所では、携帯は電波を受信できず、圏外と表示されていた。
968: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/09(日) 22:55:33.86 ID:nqAtH+FR.net
30分程待つと、穂乃果がこちらに近付いてきた。


穂乃果「あれ、海未ちゃん…?来てくれたんだ!」

海未「はい。あなたに会いに来ましたよ」

穂乃果「そっかそっか、ありがと~!待ってたよ!あ、そうだ。今から昼食の時間なんだけど、海未ちゃんはもうごはん食べた?」

海未「いえ、まだです」

穂乃果「じゃあ食べに行こう!色々と積もる話はあるだろうけど、ごはん食べながらの話でもいいよね!」


私は穂乃果に連れられ、木造の建物の中へと入った。

そこは、この施設の人達が利用する食堂となっていた。


穂乃果「ここにいる人はみんな、この施設に入居してる人達なんだ」

海未「料理を配給している人達もですか?」

穂乃果「うん。みんな、自分の得意分野を活かして、それぞれの役割を全うしてるんだよ」


私たちは今日の料理を受け取り、長机の空いてる席に着いた。
969: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/09(日) 22:56:41.90 ID:nqAtH+FR.net
台の上には、ご飯みそ汁アジの開き野菜のぬか漬け野菜揚げ…が並んでいた。

「この野菜は施設の中にある畑で採れたものなんだよ!」と、穂乃果は嬉しそうに語った。


海未「あの…、すみません。今日、ここに私一人で来てしまって」

海未「今日、私が穂乃果に会いに行くことを他のメンバーには伝えてないんです。穂乃果も、ことりやみんなに会いたいだろうとは思ったのですが…」

穂乃果「ううん、いいんだよ。海未ちゃんが来てくれただけでいいの。まあ欲を言えば、ことりちゃんにも会えたらよかったんだけどね」

海未「ことりは今、実習に行っています。ですからどの道来ることはできません」

穂乃果「……そっか、残念。ことりちゃんはまたいつか来てくれるかな?」

海未「………ことりは、この夏にフランスへ留学に行ってしまいます。ですから私も含め、しばらくは会えないでしょう」

穂乃果「そうなんだ…。みんな、遠い所へ行っちゃうね」
970: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/09(日) 23:04:30.14 ID:nqAtH+FR.net
海未「京都での生活はどうですか?もう穂乃果は二年目ですから、随分馴染んできた頃でしょう」

穂乃果「まあね。京都弁も理解できるようになったよ」

海未「私は、京都に法隆寺があると思っていた位、京都に関して無知なんです。ですから、もうすっかり京都人となった穂乃果に、京都案内をしてもらいたいですね」

穂乃果「ううん。私は全然京都人なんかじゃないし、京都のことなんて全然知らないよ。だって、私はずっと、籠の中に囚われてるんだもん」

海未「あ…。す、すみません。無配慮なことを…」

穂乃果「気にしなくてもいいよ。それより、法隆寺って京都にあるんじゃなかったっけ?」

海未「私もずっとそう思っていたのですが、どうやら法隆寺は奈良にあるそうです」

穂乃果「あー、言われてみればそんな気もするね」

海未「法隆寺ではなく、"五重の塔"が京都にある…というのが正解でしたね」
971: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/09(日) 23:06:04.45 ID:nqAtH+FR.net
昼食を済ませると、穂乃果は私に鍵を渡してきた。


穂乃果「私は今から昼の仕事があって、夕方まで戻れないからさ、海未ちゃんは私の部屋で待ってて」

海未「分かりました。穂乃果は何の仕事をしているんですか?」

穂乃果「畑、だよ!」


この施設に入居している人達には各々に仕事が与えられているらしく、穂乃果の場合は何人かのメンバーと畑仕事を任されているそうだ。



私は寮に行き、鍵を使って穂乃果の部屋へと入った。

室内は簡素で、無駄な物や空間が一切除外されていた。

私は床に座った。

そして部屋の中を見回していると、ベッドの下に何かがあるのを見つけた。

それは日記帳だった。私はその日記帳を取った。

穂乃果に申し訳ないと思いながら日記帳を開いたが、中に書かれている字や絵は潰れていて、判読すらできなかった。

私は穂乃果から送られてきた手紙を思い浮かべた。あの字は達筆とは言えないが、文字は整っていて綺麗なものだった。


私はなんだか、気味が悪くなった。
972: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/09(日) 23:06:46.24 ID:nqAtH+FR.net
夕方になって部屋に帰ってきた穂乃果と、食堂で夕食を取った。

私たちは部屋に戻り、近況報告や、当たり障りのない話をした。

私は、日記帳の話には触れなかった。


穂乃果に『東京ばな奈』を渡すと、飛び跳ねて喜んだ。

それを見て、私も嬉しくなった。


穂乃果は明日の朝も早いとのことで、10時には床に就いた。

私は穂乃果から借りた寝間着で、床に布団を敷き、そこで横になった。

こうして1日目は過ぎた。

2日目も過ぎた。

この施設にいると、あっという間に時間が過ぎてしまう気がした
973: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/09(日) 23:08:01.12 ID:nqAtH+FR.net
私がこの施設に来てから3日目の、8月3日。

私はこの日に合わせて、穂乃果に会いに来ていた。


海未「穂乃果、誕生日おめでとうございます。これは細やかながら、私からのプレゼントです」

穂乃果「わぁ、ありがとう!これは…ポエム?海未ちゃんが書いたんだね!」

海未「ええ。気に入っていただけると幸いです」

穂乃果「うん気に入ったよ!毎晩ベランダで声を張り上げて朗読するね!」

海未「それはやめてください」


ここまで楽しく談笑していたが、突然、穂乃果は押し黙ってしまった。


海未「穂乃果…?」

穂乃果「ねえ、海未ちゃん。私のこと、好き…?」

海未「……何言ってるんですか。当然ですよ」

穂乃果「だったら、言葉にしてよ。好きって言いなよ」

海未「う…、それは恥ずかしいですよ…」

穂乃果「………」


穂乃果は私の手を取り、迫ってきた。
975: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/09(日) 23:10:26.41 ID:nqAtH+FR.net
穂乃果「だったら…、キスして」

海未「な、何故ですか!?話が飛躍し過ぎではありませんか?」

穂乃果「いいから。キス、しよ…?」


穂乃果はどんどんと接近してきた。

逃げ場を失った私は、事無きを得る為に、穂乃果の前髪を掬い上げ、そこに口付けをした。


海未「ほら、見ましたか?キスしましたよ」

穂乃果「………バカ」


穂乃果はぷいっと頬を膨らまし、ベッドに倒れこんだ。

私もその日は布団に入り、眠ることにした。



こうして、3日目が過ぎた。

いや、もしかすると、この時には既に、もっと多くの時間が過ぎていたのかもしれない。

しかし私にとってはこれが"3日目"であり、次の朝に迎えるのが"4日目"であった。
4: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:06:22.20 ID:mDGS3JnS.net
私が穂乃果の部屋に"お泊り"を始めてから、幾日が過ぎていた。

世界から隔絶されたこの場所は、とても長閑で、デモもテロもない平和な場所だった。

しかしながら、ここの空気は私には息苦しかった。

私はこれ以上、この場所に居ることに堪えられなくなっていた。



穂乃果「海未ちゃん。もう、帰っちゃうの…?」

海未「あまり長居をすると、穂乃果も迷惑でしょう。それに、私には帰る場所がありますし、そこに戻ることにします」

穂乃果「そっか…。海未ちゃんとはまたしばらく、お別れになっちゃうんだね…」

海未「仕方ありませんよ。私たちは、それぞれ別々の道に進んだのですから」

穂乃果「……じゃあさ、また冬休みにでも遊びにおいでよ。たぶんその頃には雪が降り積もって、綺麗な雪景色が見られると思うよ」

海未「ええ、そうさせてもらいます。今から冬が待ち遠しいですね」

穂乃果「うん、そうだね。私はいつも退屈してるからさ、海未ちゃんが来てくれるだけで嬉しいよ。それと…はい、これ」

海未「これは………手紙、ですか?」

穂乃果「それをことりちゃんに届けて欲しいな。メッセンジャー海未ちゃん、よろしくね!」

海未「はい、頼まれました」

※ ここから2スレ目です(管理人)

元スレ: 女子大生海未「穂乃果。セックスを前提に結婚してください」穂乃果「いやだ」2

5: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:07:21.70 ID:mDGS3JnS.net
穂乃果「………あ、ごめん。引き止めちゃったね。もう行ってくれて構わないよ」

海未「………」

穂乃果「海未ちゃん…?」

海未「……あの、穂乃果。かつて私と交わした約束、まだ覚えていますか…?」

穂乃果「え、約束…?」

海未「ほら、あれですよ。結婚の…」

穂乃果「………ふふっ、もちろん覚えてるよ!」





「大学を卒業したら、セックスを前提に結婚しようね!」



こうして私たちは別れ、また元の世界へと戻った。

それぞれの想いを胸に抱えて。
7: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:10:42.82 ID:mDGS3JnS.net
#33

この日も、私は一人きりの部屋で静かに目を覚ました。

部屋の中は茹だるような暑さが漂い、蒸し風呂のようだった。私は身体を起こし、窓を開けた。

外にいる雄蝉達は、私に見られていることにも気づかず、ただ一心に鳴き続けていた。


私はシャワーを浴び、汗を流した。

それから普段着に着変え、濡れた髪の上にタオルを置き、冷えたビールを呷りながらテレビを甲子園実況のチャンネルに合わせた。

試合は大阪の学園が優勢なようで、一回終了の時点で既に4点差をつけていた。

この点差を覆すのは無理だろうと思いながら、私はタオルで髪を拭いた。



携帯に不在着信が入っていることに気づいたのは、ちょうど三回表が始まった頃だった。

その不在着信の送り主は、『園田』と表示されていた。つまり、父からの電話だった。

電話が掛けられて来たのは今から9日前。ちょうど、私が京都にいる間に掛けられていたようだ。

父から電話が掛かってきたことに動揺した私は、思わずその不在着信に掛け直してしまった。
9: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:11:24.74 ID:mDGS3JnS.net
流れてくる呼出音。

私は慌てて電話を切ろうとしたが、時既に遅し。

電話口から聴こえてきたのは、懐かしい、父の声だった。



『はい、園田です』

海未「っ…」

『………もしもし、どちら様ですか?』

海未「………」



海未「お久しぶりです…。……お父様」
10: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:13:33.91 ID:mDGS3JnS.net
この日。

勘当され、ずっと絶縁状態となっていた父と、約一年半ぶりの再会を果たした。



朝、間違えて父からの電話に掛け直してしまった後の話。

私は父が怖くて、声を聴くのも恐ろしくて、すぐに電話を切ってしまおうと思っていた。

しかし、いざその声を聴くと、そんな思いはどこかへと飛んで行った。

眼を閉じると、父と過ごした18年の記憶が溢れ出してきた。


厳しくも、いつも愛情を持って接してくれた父。そんな父が作ってくれた炒飯が、私は大好きだった。

父が時折見せる優しい笑顔が、私は大好きだった。

そして、父と仲違いし、勘当され、それを受け入れている自分が嫌になった。

このままではいけないと、強く思った。


海未「………あの、お父様…」

『……なんだ?』

海未「っ…」



私は、父親に全力でぶつかった。
11: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:14:43.61 ID:mDGS3JnS.net
「………母さんに会いに来るのはいつ以来だ?」

海未「亡くなってからは、初めてです…」

「……そうか」



電話の後、私は実家に向かった。

家の前には、一台の車が停まっていた。その車の中で、父は不機嫌そうな表情を浮かべながら、私を待っていた。

父も、久しぶりに会う私をどんな顔で迎えればいいのか分からず、眉間にしわを寄せて怒ったような顔をしていた。

それを見て、私は思わず笑ってしまった。

父はやはり、不自然な表情で、助手席に乗るよう催促した。


お盆だということもあり、墓地には、生きた人間の姿が多く見受けられた。

私は父の後に付き、亡き母の眠る墓まで来た。

私たちは墓石に水を掛けた。

父はぶつぶつと何かを呟いていた。きっと、母と他愛もない話をしていたのだろう。


私たちは花を添え、線香をあげ、静かに手を合わせた。

言葉数少なく、まだ距離感を掴めていない不器用な私と父を見て、母が微笑んでいるような…、そんな気がした。
12: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:19:14.99 ID:mDGS3JnS.net
帰りの車中、父は突然に口を開いた。


「……母さんは、何て言っていた?」

海未「……私が『お久しぶりです』と言うと、お母様も『お久しぶりです』と、返してくれました」

「そうか…。よかったな」

海未「はい」


会話が途絶えると、車内は驚くほどに静まり返った。

私は会話を続けた。


海未「あの…、お父様」

「……どうした?」

海未「これは、先程の電話の時にも伝えましたが、もう一度言わせてください」

海未「………母が亡くなってから今まで、お父様に散々迷惑を掛けてしまい、すみませんでした」

「………」

海未「母が亡くなり、私だけでなくお父様も傷心していたのに、私はその気も知らず、自分勝手で我が儘な態度をとってしまいました」

海未「『お母様はまだ生きているんだ』と…」

海未「そんな妄想に取り憑かれ、母が死んでいないように振る舞い、周囲にどれだけの迷惑を掛けたことでしょうか…」

海未「お父様…。本当に、すみませんでした…」


「……海未はもう大学生になり、大人になったつもりでいるかもしれないが、私にとってはまだまだ子どもだ」

「子どもなんだから、好きなだけ親に迷惑を掛けなさい」

海未「お父様…」

「……私もあの時はどうかしていた。心が狭くなってしまい、お前の想いに耳を傾けてやることができなかった。本当にすまない」

海未「………」


私は何も言い返さなかった。
15: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:27:07.34 ID:mDGS3JnS.net
夏休みの国道は渋滞を起こし、私たちは道の途中で立往生していた。


海未「お父様…。変なことを言ってもいいですか?」

「変なこと?」

海未「……もしかしたら、お母様はまだこの世にいるのではないか…と、時々思うんです」

海未「あ、私はちゃんと、母が死んだという現実は受け止めていますよ」

海未「……それでもやはり、母は姿を変え、私に会いに来てくれているのではないかと思わずにはいられないんです」

「………」

海未「……いえ、そんなはずがありませんよね。忘れてください」


「………母さんは、私の所にもよく会いに来た」

海未「え…?」

「あの人のせいで、生と死というものが、時折判らなくなる」


停滞する車の群れは、少しずつ、前に進んでいた。


「……海未。これからはどうするつもりだ?」

海未「……まだ、あの寮に居させてください。あそこには私にとって、大切な思い出があるんです」

「そうか。……うちの門はいつでも開けておくから、好きな時に帰ってこい」

海未「ふふ、ありがとうございます」


車が勢いよく流れ始めた。

私たちはようやく、渋滞の中を抜け出した。
16: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/10(月) 21:28:17.30 ID:mDGS3JnS.net
父は、私を寮の前まで送ってくれた。


海未「わざわざ送ってくださり、ありがとうございました」

「ああ」

海未「あ、お父様。12月に、私の友達が出演するコンサートがあるんです」

海未「友達から、家族の方と一緒に来て欲しいと誘われていて…。よかったら、一緒に観に行きませんか?」


父は少し驚いた様子だったが、すぐに私の大好きな優しい顔になり、コクリと頷いた。



私は父の車が見えなくなるまで、手を振り続けた。

それから部屋に戻り、テレビを付けた。

私が朝観ていた試合は、両者9点で同点のまま、延長十三回に突入していた。

外では、蝉が頻りに鳴いていた。
47: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/12(水) 23:45:14.97 ID:CHmDET2Y.net
#34

夏休みも終盤に差し掛かり、蝉の声も日に日に衰えてきたこの頃。

私は朝早くから、ことりに呼び出されていた。

ことりの家の前でインターホンを押し、待つこと5分。ことりは現れた。


ことり「海未ちゃん。おはよう」

海未「おはようございます。あの、今日私をここに呼び出して、一体どうしたんですか?」

ことり「……今日、私はこれから、フランスに出るの」

海未「別れの挨拶、ですか…」

ことり「それもあるけど…。私には、日本を発つ前にやっておきたいことがいくつかあるんだ」


そう言うと、ことりは手に持っていた大きな紙袋を私に差し出した。


ことり「その紙袋に入っているのは、今年の水コンで海未ちゃんが着る衣装だよ」

海未「えっ…!まさか、ことりの手作りですか…?」

ことり「うん、そのまさかだよ」

海未「ことり、ありがとうございます。パッと見ただけで露出の多さが窺える衣装ですね」

ことり「私は、海未ちゃんがこの衣装を着ている姿を見ることができないけど…。でも、遠くの国から応援してるよ」

海未「……はい。嬉しいです、とっても…」
48: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/12(水) 23:47:03.45 ID:CHmDET2Y.net
ことり「………海未ちゃんは、本当に水コンに出場するの…?」

海未「え?どうしてまたそんなことを…」

ことり「だってさ…。海未ちゃんから、やる気を感じられないんだもん。『いざとなったら逃げてもいい』なんて、そんなズルいこと考えてない?」

海未「そんなことありません!……ただ、実感が湧かないんです。私があのステージに立っている姿が、想像つかないんです」

ことり「……でも、海未ちゃんはやるって決めたんだよね?だったら逃げちゃダメだよ」

ことり「私が作った衣装、絶対に無駄にはしないでね」

海未「は、はい…」


ことり「………大丈夫だよ。海未ちゃんには、絵里ちゃんが付いてるんだもん」

ことり「二人は今回、ライバルという形になるけど…。それでも、困った時はお互いを支え合える良き好敵手になれると思うな」

海未「そうでした…。絵里が側にいるじゃないですか。あんなにも頼れる先輩が側にいて、何を恐れることがあるのですか」

ことり「二人なら、きっとイベントを盛り上げられるよ!頑張ってね!」

海未「ええ、任せてください!パリまで届くような歓声を起こしてみせます!」
49: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/12(水) 23:50:38.18 ID:CHmDET2Y.net
腕時計を確認したことりは、そこで話を切り上げた。


ことり「ごめん、もう行かなきゃ。便の時間に間に合わなくなっちゃう」

海未「はい。早く行ってください」


ことりは帽子を被り、キャリーバッグを引き、枕を脇に抱え、私に背を向け走り出した。


海未「……あ、ことり!」

ことり「な、何っ!?」

海未「これ、穂乃果からの手紙です」

ことり「穂乃果ちゃんから…?」


ことりは枕を器用に脇に挟みながら、手紙を受け取った。


海未「穂乃果はあなたに会いたがっていましたよ。もし冬休みにでも日本に帰って来れるのなら、どうか穂乃果に会ってあげてください」

ことり「………」


ことり「ごめんね、穂乃果ちゃん…。私、もう穂乃果ちゃんには会えないと思う…」

海未「どういうことですか…?」

ことり「……向こうに行ったら、留学期間が終わるまで私は帰ってこないよ。もう余所見はしないって、決めたから…」

ことり「この1年は絶対に、日本には戻らない。これは私の決意だから、もう揺らいだりしないよ」

海未「そうですか…。穂乃果だけでなく私も、ことりとはしばらく会えなくなるんですね…」

ことり「………でも、海未ちゃんならいつかまた会えるよ」


ことりはそう言い残して、私の前を立ち去った。



結局、穂乃果がことりに宛てた手紙には何が書かれていたのか。

その後、ことりが返事を書き、ことりと穂乃果の間に繋がりができたのか。

私には知る由もなかった。
60: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/15(土) 02:02:37.41 ID:JoqYzVVd.net
#35


凛「あっ、来た来た!海未ちゃん~」

海未「お待たせしました。……って、凛!何ですかその格好は!」

凛「何って、浴衣だよ。花火を観に行くんだから、浴衣は必要装備でしょ?」

海未「ですが…肌の露出が多過ぎませんか?スクフェス衣装じゃないのですから、もっと肌を隠してください」

凛「でも海未ちゃんはこういう露出ファッションの子が好きなんでしょ?」

海未「確かにそうですが………いや違いますよ!何言わせるんですか!」


私は凛に服を着替えるよう言ったが、凛は断固として譲らなかった。

結局、凛はこの服装のまま出掛けることになった。



この日は東京で、花火大会があった。

私と凛は、東京の空に打ち上がる夢幻の花火を観るために、待ち合わせをしていた。


凛「今から向かう"特等席"からは、綺麗な花火が観られるんだよ!私しか知らない絶景スポットなんだから!」


私は凛と並んで歩いた。

道端にいる男共の視線は凛に集まり、凛が厭らしい目で見られる度に嫌な気分になった。

私は、凛の手を引いて走り出した。
61: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/15(土) 02:03:34.59 ID:JoqYzVVd.net
凛「………次の角を左に。それからまっすぐ行って…」

海未「……ここ、凛の家ですよね…?何故ここに来たのですか…?」

凛「それはね、ここが"特等席"だからだよ!」


凛はドヤ顔でそう言った。


私は、凛の家の中にお邪魔した。

緊張して、家の中に入ってからずっと嫌な汗が止まらなかったが、凛はそんなことなど露知らず、どんどん先へと進んで行った。


海未「あの、先にご両親の方にご挨拶をしておきたいのですが」

凛「あー、今日はどっちもお出掛けしてるよ。だから今、我が家は私と海未ちゃんだけだね」

海未「え…」


緊張収まらぬまま、私は凛に連れられ、ベランダへと誘われた。
62: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/15(土) 02:04:57.23 ID:JoqYzVVd.net
凛「ジュースとお茶とコーヒー、どれがいい?」

海未「……お酒はありますか?」

凛「私はまだ18だよ?未成年に飲酒させて、イカガワシイことでもする気?」

海未「冗談ですよ。ジュースかお茶でお願いします」

凛「コーヒーは無し、ね。オッケー分かった、適当に繕ってくるからちょっと待っててね~」


そう言うと、凛は浴衣の裾をフリフリしながらリビングの方へ消えていった。

ベランダには、白い椅子が一つ置かれていた。

私はその椅子に座り、ベランダからの景色を眺めた。

周囲には家々が建ち並び、少し離れて、高層マンションがずらりと一列に並んでいた。

凛はこの場所を"特等席"と言っていたが、私はその言葉に疑心を抱いていた。ここから花火が観られるとはとても思えなかった。


少し待つと、凛が戻ってきた。


凛「はい、海未ちゃん。麦茶だよ」

海未「ありがとうございます」


私は立ち上がり、凛に椅子に座るよう言葉掛けた。

凛は微笑み、一言礼を述べてから、その白い椅子に座った。
63: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/15(土) 02:06:28.15 ID:JoqYzVVd.net
海未「まだ花火は上がっていないみたいですね」

凛「打ち上がったら空気を破るような音が聴こえるから、いやでもわかると思うよ」


私は麦茶を一口啜った。

凛の方を見ると、凛は麦茶に口を付けず、俯いていた。


凛「………海未ちゃん。かよちんが新潟に行っちゃったの、知ってるよね?」

海未「ええ。花陽は確か、高校を卒業してから向こうに移ったんですよね」

凛「うん。それで、向こうに移ってからも私たち、ちょくちょくメールとか電話で交流を続けてるんだ」

凛「あ、別に大した話なんてしてないよ?日常会話、世間話とか、何気ない会話をしてるだけ」

凛「それでも、やっぱり楽しいんだよね。かよちんがトラクター暴走させて民家に突っ込んだ話とか、そんな下らない話でもすごく盛り上がれるんだ」

海未「凛と花陽は、本当に仲がいいんですね」

凛「うん、仲がいいと言うか、たぶんお互いに好きだったんだよ。"like"じゃなくて"love"の方ね。私はかよちんを愛してたんだよ」

凛「Hしたいなぁとか、めちゃくちゃに犯れたいなぁとか、そんな最低なことを考えるぐらい恋に溺れてたんだよ」

海未「……もしかして二人は、恋仲、なのですか…」

凛「どうだろう?分かんないよ…」


凛は、麦茶の入ったグラスの縁を、指でなぞりながら呟いた。
64: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/15(土) 02:07:30.06 ID:JoqYzVVd.net
凛「私とかよちんが離れ離れになってから、もう4ヶ月も経つんだよ」

凛「その4ヶ月間、私は一回も、かよちんに会いたいと思わなかったんだ。今だってそうだもん、欠片すらないよ」

海未「メールや電話で相手の声を聞くことができるので、会えない寂しさも払拭されているのでは?」

凛「確かにそうだね。でもさ、会えなくて寂しいと思う気持ちと、会いたいと思う感情は別物だよ」

凛「本当に好きな相手だったら、例え寂しさを紛らわせても、会いたいと思う気持ちは隠せないんじゃないかな?」

海未「しかし凛は、花陽に会おうとは思わないのですね…」


凛は指でグラスをなぞるのをやめ、グラスの側面を両手で握った。



凛「ねえ………好きって、なんだろう?」

海未「………」



私は一歩近づき、腰を屈め、凛にキスをした。

向こうの空で、花火が打ち上がった。
65: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/15(土) 02:08:44.71 ID:JoqYzVVd.net
凛は自分に何が起こっているのかしばらく理解できず、呆然と、硬直していた。


凛「…っ!」


私がキスをしてから十数秒後、ようやく現状を理解できた凛は、足をジタバタさせ、なんとかこの状況から抜け出そうと抵抗を始めた。

手に持っていたグラスが傾き、入っていた麦茶が溢れ、浴衣に染みを作った。

足掻く凛は、口を塞がれながらも言葉で何かを訴えようとし、必死の抵抗を見せた。


凛「っ………」


しかし、徐々に抵抗する力も弱くなっていった。

そして凛は目を閉じ、体を委ねた。



打ち上がった花火の光は、高層マンション群の間を抜け、私の目に飛び込んできた。

細い隙間から出てきたはずの光は、その隙間の幅の何倍にも、大きく見えた。



私たちのキスは、およそ1分半に及んだ。
66: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/15(土) 02:14:53.95 ID:JoqYzVVd.net
唇が離れた後も、私たちは目を離さなかった。

凛はまだ理解が追いついていないようで、何かを言おうとして口を開けては、またすぐに口を噤んでいた。

私は、凛が気持ちの整理をつけるまで、花火を観ていることにした。



凛「………ねえ」


私は凛の方に見向いた。

すると、凛は目に涙を蓄えながら、こちらを見ていた。


凛「………どういう、つもりなの…?」

海未「……『好き』という気持ちを表すには、『キス』が一番効果的だと思ったんです」

凛「……それも、冗談なの…?」

海未「いいえ。私は凛のことが好きですよ」

凛「…」


凛が黙り込んでから再び口を開くまで、長い時間が掛かった。


凛「………私には、かよちんがいるから…。一人残して、私だけなんて…」

海未「………」


凛はそうやって、誰かに言い訳をしているように聞こえた。
68: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/15(土) 02:18:39.97 ID:JoqYzVVd.net
凛と別れ、寮に戻ってから、私は指で唇をなぞってみた。

まだ唇には、その温もりが残っているような気がした。



カレンダーは、8月の終わりを告げていた。もうすぐ9月になる。

9月には新学期が始まり、そして、水コンまで残り2ヶ月を切ってしまう。

水コンのことを考えると、憂鬱な気持ちになった。

そんな時は、ことりと絵里のことを考えるようにしていた。

ことりは私の為に、衣装を作ってくれた。

絵里は私と競う為に、頑張ってい自分磨きをしている頃だろう。

私は二人の姿を想像して、自らを奮い立たせた。


『まだ水コンまでは2ヶ月もある。それまでに仕上げればいい』


私は悪魔の囁きに心奪われ、この日はそのまま横になった。
89: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 20:52:35.59 ID:knt7Y5Ix.net
#37-b

三つの競技を終え、いよいよファイナリストが発表された。



にこ『………果たして、第68回音ノ水女子大学ミス・コンテスト、決勝ステージに進出する二人は誰なのでしょうか…!?』

にこ『それでは発表します!まず、一人目は………はいドラムロール!』

英玲奈『トゥルルルルルルルルル…ジャン!』

にこ『エントリーNo.2!佐々木ぃ!!』

Foooooooo!!!


にこ『そして!もう一人の、決勝進出者は………はいドラムロール!』

英玲奈『トゥルルルルルルルルル…ジャン!』

にこ『エントリーNo.5!園田海未ぃ!!』

Wooooooooooooo!!!


にこ『えー、今から10分間のインターバルを置き、その後、ファイナリスト2名による決勝ステージを行います!』

にこ『みんな楽しみに待っててね~♪』

あんじゅ『で、決勝は何の競技で戦うのかしら?』

にこ『はい!今回、決勝で競ってもらうもの、それは………はいドラムロール!』

英玲奈『トゥ、トゥル………くっ!舌が攣りそうだ…!』

ツバサ『情けないわね、私が変わるわ。twrrrrrrrrrrrr…』

英玲奈『何っ!?私よりも巧いだと…っ!』


にこ『………決勝戦では料理対決をしてもらいます。お二方、すぐに準備に取り掛かってください~』
90: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 20:54:40.03 ID:knt7Y5Ix.net
海未「料理対決…。私は、何を作れば…」

「おい、園田」

海未「あ、去年の水コンで絵里に敗れ、準優勝だった方!どうかされましたか?」

「……なあ、どうして絢瀬は来ないんだ。去年、二人で交わしたあの約束を、忘れたって言うのか…!?」

海未「………」

「くそっ!なんでだよおおお!私は再びあいつと同じステージに立てる日を夢見て、今日まで自分磨きを続けてきたというのに!」

海未「……すみません」

「どうしてお前が謝るんだ…。はぁ、もういい」

「園田。私は料理の腕には覚えがある。ここにライバルはいないが、私は全力で優勝を狙わせてもらう。……だからお前も頑張れよ」

海未「はい」


それだけ言うと、控え室に戻っていった。


凛「あ、海未ちゃん!」

海未「凛!何故、舞台裏にいるのですか…!?」

凛「えへへ、来ちゃった」

海未「答えになってませんよ…」
91: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 20:55:46.99 ID:knt7Y5Ix.net
凛「海未ちゃん。衣装、似合ってるよ」

海未「あ、ありがとうございます…。ことりが私のために遺してくれた、オーダーメイドの衣装ですからね」

凛「決勝戦、料理バトルみたいだけど、海未ちゃんって料理できるの?」

海未「昔は母の手伝いで台所に立つことはありましたから、それなりには。だけど、大学に入ってからは一度も包丁に触れていません…」

凛「じゃあ私が料理のコツを教えてあげるよ!まずは猫の手!というかずっと猫の手!これさえできれば何とかなるなる!」

海未「ふふふ、ありがとうございます。期待に添えるよう頑張りますね」



海未「………あ。もう時間のようです。では、私は行きますね」

凛「あっ、海未ちゃん!」


凛は私の手を取り、ギュッと握り締めた。


凛「絵里ちゃんがいなくて、海未ちゃん、ステージの上で寂しい想いしてるかもしれないけど…」

凛「でも、私がいるから。客席で応援してるから!忘れないでね」

海未「……ああ、凛は私を励ましに来てくれたんですね」

海未「大丈夫ですよ。私は、全力を尽くします」


私は凛の手を解き、ステージへと駆け上がった。
93: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 20:59:46.42 ID:knt7Y5Ix.net
にこ『さあ、お待たせしました!これより決勝戦を行います!両者、ステージの方へお上がりください!』


海未「………」


にこ『えー、ステージ上には調理台を二人分設置し、ガス・IHコンロやオーブンに電子レンジ、各種調理器具なども取り揃えております』

にこ『作っていただく料理は自由です!食材や調味料等は冷蔵庫に入っているので、その中の物を使って美味しい料理を完成させてください!』

にこ『えー、審査方法なのですが、完成した順に料理を提供し、それを審査員の方々に実食してもらい、審査をしていただきます』

にこ『自分の得意料理を作るもよし!審査員が好きな料理を狙って作るのもよし!お好きに料理をしてください!』

ツバサ『私はハンバーグが食べたいわ』

あんじゅ『私は今フレンチの気分ね』

英玲奈『では、私はイタリアンで』

にこ『審査員の好みは見事にバラバラです。統一感なし!でもそこがA-RISEのいいところ!』

にこ『果たして、どんな料理が出てくるのでしょうか?制限時間は30分!調理、開始ぃ!!』

英玲奈『ゴーン(銅鑼の音)』
94: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:01:58.61 ID:knt7Y5Ix.net
にこ『まずは両者、冷蔵庫に入っている食材を物色しています!』


海未「卵に海鮮類、野菜と…。あ、ご飯もありますね」


にこ『おっと、既に海未選手は食材を選び終えたようです。調理器具選びに移っております』


海未「まな板、包丁、ボウル、そして………」


にこ『なんと海未選手!巨大な中華鍋を調理台に運んだ!』

にこ『炒飯だ!海未選手は中華料理の定番、炒飯を作ろうとしています!』


ツバサ『あー、炒飯が食べたい。お腹空いた~』

あんじゅ『チャイニーズも悪くないわね。お腹空いた…』

英玲奈『炒飯か。炒飯が美味い店は繁盛すると言われるように、料理の上手さの指標とされる一品だ』

英玲奈『果たして、海未はどこまで炒飯を料理できるのか、見ものだな。それにしても腹が減った』


にこ『おや?佐々木選手、海未選手の方を見てから調理器具を取りました』

にこ『こちらも中華鍋だー!こ、これはまさか、麻婆豆腐を作るつもりか!?なんと、中華に中華をぶつけてきた!』

にこ『この勝負、一体どうなっちゃうにこぉ!?』
95: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:04:34.39 ID:knt7Y5Ix.net
海未「相手は麻婆ですか…。いや、今は自分のことに集中しましょう」


にこ『海未選手は冷凍ご飯をレンジに入れ、ボウルに卵を割り入れ、掻き混ぜています』

英玲奈『鍋で炒める前にご飯を温めているところがポイントだな。ご飯が炊きたてのように温かいかどうかで、出来上がりは段違いだ』

にこ『そして、佐々木選手も順調に作業を進めています!』

あんじゅ『佐々木ちゃんもご飯を温めてるわね。炭水化物ばっかり』


にこ『海未選手、ここでようやく包丁の出番のようです。まな板の上に食材を乗せて…』

にこ『おっと!海未選手、猫の手で観客席に可愛らしくポージング!魅せることを忘れないアイドル魂、今ここに!』

ツバサ『審査は料理の味で決めるけれど、今のパフォーマンスはポイントに加味したいわ。海未ちゃん、+1億点』

にこ『ちょっと。贔屓目はダメにこよ~』
96: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:06:38.87 ID:knt7Y5Ix.net
にこ『………残り時間1分!両者、最後の追い込みに入った!』


海未「中華はスピード。中華はスピード…」


にこ『豪快に鍋を振るう!振り上げられた米達はスポットライトに照らされ、金色に輝いている!美味しそう!』

にこ『おや?どうやらこちらは…』


「できたわ!」


にこ『佐々木選手、調理完了!そして制限時間は後20秒!海未選手、間に合うのか!?』


海未「天を舞え…黄金に煌めけ、我が血肉よ!」



にこ『残り10秒!9!8!7!…』


海未「………できました!」


にこ『海未選手も完成しました!これより、審査員による実食です!』

英玲奈『実食っ!』

あんじゅ『英玲奈は石橋貴明が好きなのね』
97: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:11:59.98 ID:knt7Y5Ix.net
参考画像
http://imgur.com/5ELiNFm
1499688038-レス97-画像


にこ『では、先に調理を終えた佐々木選手の麻婆豆腐から食べていただきます!』


「こちら、四川麻婆豆腐です。ご飯も用意していますので、ご一緒に召し上がり下さい」


ツバサ『やっと、お昼ごはんが食べられる…!』

あんじゅ『料理審査があると聞いていたからお昼を抜いてきたけど、空腹で気が狂いそうだったのよね…』

英玲奈『よし。食べるぞ…!』



ツバサ『あーんっ。………っ!?』

英玲奈『う、美味い!なんだこの美味さは!』

あんじゅ『豆腐と味噌が絡み合って、舌の上で溶けていくわ…!やだ、なにこれ…♡』

ツバサ『美味しいわよ、これ!四川風なのにそこまで辛くないから、日本人の舌によく合う!』


「その通り!四川料理の麻婆豆腐はとにかく辛い。だから日本人の好みに合うよう調節したわ」

「この麻婆に名前をつけるなら…。そう、和風四川麻婆よ!」


ツバサ『ご飯があるのもポイント高いわよ!日本人は米が好きだもの!』

英玲奈『は、箸が止まらない…っ!鎮まれ、私の右手っ…!』

あんじゅ『あ…。もう完食しちゃったわ』

にこ『審査員、全員完食!そして大絶賛!佐々木選手にはかなりの高評価が期待できそうです!』
98: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:13:09.83 ID:knt7Y5Ix.net
参考画像
http://imgur.com/F4KJBpl
1499688038-レス98-画像


にこ『さて、お次は海未選手が作った炒飯の審査です!』


海未「おあがりよ」


英玲奈『な、なんだこれは!?米が輝いているぞ!!』

ツバサ『まるで芸術品ね。いつまでも眺めていたくなるわ』

あんじゅ『素敵なカ・タ・チ♡魚介の色がいいアクセントになっているわね。食べちゃいたくなるわ♡』

にこ『早く食べてください~』



ツバサ『あ~………んむっ。うんうん、美味しい』

英玲奈『見た目からでも分かったが、パラパラとしていて食感は最高だな。ファーストタッチが全然違う』

あんじゅ『あむっ……あむっ…』


海未「父がよく作ってくれた炒飯を基に、この炒飯を作りました。特徴は何と言ってもこのパラパラ感!」

海未「ポイントは2つ。まず、温かいご飯と卵をボウルで混ぜ込み、馴染ませます。鍋に入れてから混ぜると卵がダマになってしまうからです」

海未「次に、卵を混ぜたご飯を中華鍋に入れた後、強火にし、豪快に振り上げます。多少こぼれても気にせず、振り続けることが大事です」

海未「柔と剛。この二つを併せ持つこの炒飯は…。まさに、米と卵の巴投げです!」


にこ『ちょっと意味が分かりませんね。おや、どうやら審査が終わったようですね。間も無く結果発表です!』
99: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:37:04.25 ID:knt7Y5Ix.net
にこ『ついに、今年の水の女王が決まります…』

にこ『第68回音ノ水女子大学ミス・コンテスト!』

にこ『栄えある優勝は………はいドラムロール!』

英玲奈『twrrrrrrrrrrrr…』

ツバサ『明らかに巧くなっている…!?』



にこ『………エントリーNo.2!佐々木ぃぃぃ!!!』

Wooooooooooooooooooo!!!!!

にこ『佐々木さん。どうぞ前の方へ!』

にこ『優勝した佐々木さんに今、水の女王の証である、ティアラが贈られます』


ツバサ「おめでとう。同じUTXの出身として、心から祝福させてもらうわ」

「……ありがとう」


にこ『残念ながら優勝を逃した園田さんにも、大きな拍手を!』

Hooooooooo!!


海未「………」
101: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:39:36.13 ID:knt7Y5Ix.net
凛「えーと、えーと………あ、海未ちゃ…」



「………まさか、麻婆で審査員が全員満腹になって、炒飯の味が判らなくなってるとはな」

「普通は審査できるように腹を残しておくものだろ。まったく、いい加減な審査員達だ」

海未「いえ、そんなの関係ありません。ただ私の力量不足だっただけですよ」

「……そうか。園田がそう言うなら、私もこれ以上は言わねえ。ありがたく勝ちは貰っておく」

「だけど…。お前の炒飯、美味かったよ」

海未「ありがとうございます」


「………どうしてだろうな。念願の優勝を果たしたっていうのに、心がスッキリしないんだ」

「この一年間、ずっと体のどこかに何かがつっかえたままなんだ」

「たぶん、私はこの先一生、このつっかえと共に生きていくんだろうな」

海未「………」


彼女が立ち去る姿を、私は見届けた。



凛「……ねえ、海未ちゃん」

海未「なんですか?」

凛「……よく頑張ったよ。お疲れさま」


私は凛と共に、キャンパスを後にした。

寮に戻った私は、自分の郵便受けの中を見た。

そこに何も入っていないことを確認し、部屋へと戻った。

準優勝のタスキを机に放り投げ、私はベッドにダイブした。

それから眠りに就くまで、それほど時間は掛からなかった。
102: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:40:48.83 ID:knt7Y5Ix.net
#36

それは10月中旬のこと。

絵里の誕生日から、ちょうど七日前の話。


その日、私はふと、絵里の誕生日が近づいていることを思い出した。

絵里には日頃からお世話になっていることもあり、その感謝の想いを伝えるためにも、絵里の誕生を祝おうと思い立った。

まず私は絵里に電話を掛けた。

今年も絵里の誕生会が開かれるのかを本人に確認するためだ。

しかし、絵里は電話に出なかった。

私は、そういえばいつ以来か、絵里と電話で会話をしていなかったことに気づいた。


電話を諦めた私は、絵里にメールを送ることにした。

しかし、何度メールを送っても、エラーメッセージが表示されるばかりだった。

私は絵里のメールアドレスが正しいことを確認し、メールを送り直した。

しかし結局、メールを送ることはできなかった。


私は連絡のつかない絵里のことが心配になり、絵里の家に行こうと思い立ち、部屋を飛び出した。

私が部屋の扉を勢いよく開けると、その衝撃で、扉の隙間に挟まれていた手紙がぽとりと落ちた。

手紙は白い封書に包まれていたが、私はそれが手紙であるとすぐにわかった。


私はその手紙を拾いあげた。

宛名はどこにも書かれていなかったが、右下の隅の方に、『from Eli』と黒インクで書かれていた。

私は封を解き、手紙を開いた。
103: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:42:33.65 ID:knt7Y5Ix.net
海未へ。


私はある、重大な決断をしました。
そのことを我が後輩である海未に伝えるために、こうやって筆を執った次第です。
こうして手紙での報告となってしまい、本当にごめんなさい

#1
私は音ノ水を辞めることにしました。
そして私は、希の元へ行くことにしました。
音ノ水を退学し、希が待つユニバース大学へ行きます。
唐突な話で海未も戸惑っていることでしょう。ですが、これは既に決まったことです。もう誰にも止められません。

#2
ここ、ユニバース大学はとても素晴らしい所です。海未にもこの感動を伝えてあげたいです。
海や山や森などの広大な自然に囲まれ、神秘的な遺跡群や芸術的な建造物が建ち並ぶこの場所には、総てがあります。
ここに居るだけで、心が解き放たれ、許されたような気分になれます。
私は今、幸せです。

#3
水コン、私は参加できません。ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
私は海未のこと、応援しています。頑張ってください。
私の分まで、頑張ってください。
海未ならきっと、優勝できると思います。

#4
私のこと、怒ってますか?ごめんなさい
105: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/17(月) 21:47:53.47 ID:knt7Y5Ix.net
海未「…」


読後、私は部屋の中に戻り、手紙を破り捨てた。

それから、携帯に入っている彼女の連絡先を削除し、ベッドの上に寝転んだ。



私は手紙のことを考えた。

手紙は、扉の隙間に挟まれていた。手紙を挟んだのは絵里なのだろうか。

絵里からの手紙に書かれてあった字は、穂乃果からの手紙に書かれていた字とよく似ていた。手書きの文字がここまで似ることなどあり得るのだろうか。


私は絵里のことを考えた。

絵里は前に、希から定期的に手紙が送られてくると言っていた。その手紙の中には、何が書かれていたのだろう。

手紙を挟んだのが絵里本人ならば、彼女はまだ旅立つ前なのだろうか。

いや、絵里はもういない。手紙の内容から見るに、絵里は既に旅立った後だろう。

私はもう、絵里と話すことはできないのだ。



私は仰向けに寝転びながら、意識の世界で、絵里を犯した。

絵里は私に犯されている間、表情一つ変えなかった。


私はようやく、絵里が遺したメッセージに気づくことができた。
127: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/20(木) 23:58:42.42.net
#38

季節はいつの間にか、冬になっていた。


朝、私は毛布にくるまりながら部屋の中を跳ね回り、テレビを付けた。

気象予報士は、『今年もホワイトクリスマスは期待できない』と嘆いていた。

私は毛布を身体に巻いたまま朝食を済ませ、身支度を整えた。


迎えが来たのは、正午前のこと。


海未「おはようございます。お父様」

「海未。おはよう」

海未「……では、行きましょうか」

「ああ」


私たちは寮を出た。

父は私の服装を見て、「寒くないか?」と尋ねた。

私は父の腕に抱きつき、「寒くありません」と答えた。

しかし、私が寒さに弱いことを知っている父は、自分が着ていたコートを私に被せてくれた。

私は父のコートに身を包み、手を繋いで歩いた。
128: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/20(木) 23:59:22.90.net
私たちはレストランで昼食をとり、近くの公園を二人で散歩した。

取り留めもない話を交わしていると、コンサート開演の時間が近づいてきたので、私たちはコンサートホールに向かった。

コートを預け、会場へと足を踏み入れた。


海未「14:00から開演なので、もうすぐですね」

「今日のコンサートに、海未の友達が出演するんだったな?」

海未「はい。パンフレットによると、順番は一番最後のようですね。トリを任されるとは、真姫はやはりすごいです」


間も無く、コンサートが開演した。

演奏者がステージに現れ、椅子に座り、高さを調整してから座り直し、楽譜を広げ、客席に視線を飛ばした。

弾き奏でられた曲は"Hedwig's Theme"だった。

私が小学生の頃、両親に連れられやって来た映画館で観た『ハリーポッターと賢者の石』。

その記憶が、この曲によって呼び起こされた。

演奏終了後、客席からは絶え間ない拍手が送られた。


参考動画
https://youtu.be/GTXBLyp7_Dw
129: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/20(木) 23:59:51.70.net
海未「お父様は、クラシックなどお聴きになりますか?」

「普段はあまり聴くことはないな」

海未「そうですか。私は曲の勉強のために、一時期聴き込んでいたので、知識は程々にありますよ」

「そうか。だが、海未達の曲でクラシック調だったものなどあっただろうか?」

海未「……まあ、作曲は私ではなかったので…」



開演から1時間。

いよいよ、このコンサートのトリとなる、真姫の演奏が始まろうとしていた。


海未「………」


しかし、いつまで経っても、真姫は現れなかった。


「何かあったのか?」

海未「わかりません…」


しばらくして、ピアノサークルの部長を名乗る人がステージに立ち、他の部員との連弾を始めた。

会場はどよめいたが、次第に曲に聴き入り、また静まり返った。

連弾が終わると、サークル部員が礼をし、それでコンサートは終わった。
130: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/21(金) 00:00:35.32.net
コンサート終了後、観客の波に乗って、私たちも会場外へと出た。


海未「すみません…。一番観て欲しかった演目が、中止になってしまつたようで」

「仕方あるまい。その友達にも、何か出演できないような事情があったんだろう」

海未「事情…」

「だが、海未の友達に何かあったと思うと心配だな。連絡がつくなら、その事情を聞いてみたらどうだ?」


私は頷き、真姫に電話を掛けた。

電話は繋がらなかった。

私はメールを送ろうとした。

しかし送れなかった。



私は父親と別れ、寮へと戻った。
131: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/21(金) 00:01:49.02.net
#39

海未へ。


私はこの町から、私たちの思い出の場所から、離れることにしました。
海未がこの手紙を読んでいる頃には、きっともう、私はいないでしょう。
なので最期に、この手紙をあなたに託します。

私が狂ったのは12月の頭のことでした。いえ、もっと前から狂っていました。
例えば、アナログ時計が狂ったとして、その原因は何なのかと考えた時に、まず何を思い浮かべますか?
ゼンマイがおかしいのか、はたまた電池の消耗か。
何にせよ、時計屋さんに行けばその原因は解ります。「あ、この時計はゼンマイが壊れているんだな」と、いったように。
でも、私の場合、私が狂った原因なんて、果たして誰が解明してくれますか?
時計屋さんは何も答えてはくれません。お医者さんもまた、俯いたまま、両手を挙げて降参してしまうのです。

私は何がおかしいのでしょうか。頭?体?心?それとも外的な何か?
自分のことは自分が一番理解しているなんてこと、絶対にあり得ません。かつて医者を目指した人間として、それはよくわかります。
しかし、私以外に私を理解している人がいないのも、どうしようもない現実なんです。
だから、私は私が辿って着た変遷を淡々と連ねてみることにします。
そうしたらきっと、私が狂った原因が解るかもしれません。いや、解らないくても構いません。
それでも、書き連ねるしかないのです。
132: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/21(金) 00:02:26.93.net
大学に入学した

サークルに入った

友達ができた

友達の薦めでピアノの講師を始めた

生徒は可愛い女の子だった

その子はピアノが上手だった

私はその子の音色に聴き惚れた

ダメだった

その子は狂っていた

その子は私に迫ってきた

一度だけキスをした

私は生徒と教師の関係で居たかった

でもその子は肉体関係を求めてきた

私は拒んだ

本当に?

知らない

私はその子に何をした?

知らない知らない知らない

何度も殴った?

何度も抱き合った?

わからない

でもね、これだけはわかるよ

私も既に、狂っていたんだ。



ねえ、私はどうして、狂ったの?
133: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/21(金) 00:03:39.82.net
海未「………」


手紙はそこで終わっていた。


私がこの手紙を見つけたのは、クリスマスから数日後のこと。

白い封書に入った手紙は、ポツンと、私の部屋の机の上に置かれていた。

『まき』とだけ書かれた差出人の欄は、ひどく汚れていた。


読み終えた後、私はそれを封書ごと破り捨てた。



私は、先日に、真姫の両親から電話が掛かってきていたことを思い出した。

真姫の父親は「真姫を知らないか?」と、切羽詰まった声色で尋ねてきた。

この手紙を読む前の私は、「知らない」と答えた。

真姫の両親は、「そうか…」と、私がそう答えるのを予感していたように、気の抜けた声を漏らした。

話によると、真姫がいなくなったのは、クリスマスイブのこと。

その日、家を出たきり連絡のつかなくなった真姫を心配し、何か出掛け先の手掛かりでもないかと、真姫の部屋に入ったそうだ。

部屋の扉を開けた両親は、驚いた。

部屋の中にはアルコールの臭いが充満し、床には大量の空き缶が転がっていたからだ。
157: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/23(日) 23:58:20.77 ID:E1rcf7Vn.net
#41

冬休みが明ける前日。

どこからか、電話が掛かってきた。


海未「もしもし…?」

『あ、もしもし!海未ちゃん~!』

海未「えっ…」


私は聴き覚えのあるその声に、思わずたじろいだ。


海未「……希、ですか…?」

『そうそう、ちゃんと覚えててくれたんやね。海未ちゃんは偉いなぁ』

海未「忘れるわけないじゃないですか!高校の頃から変わらず快活な声で…、ほんと、希は全然変わっていませんね」

『あはは!よく言われるなぁ、そのセリフ』

海未「……で、今まで全く連絡のつかなかった希は、今どこにいるんですか?」

『さあ、どこだろうね?』

海未「私に訊かないでくださいよ。答えはあなたが持っているんでしょう」

『そうやね。じゃあ今うちは、駅前にいます!海未ちゃんの家の前にいます!海未ちゃんの部屋の前に…』

海未「希はいつも、そうやって都合の悪い話を茶化すんですから」

『冗談冗談!そんなカッカせんといてよ~』
158: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/23(日) 23:59:13.79 ID:E1rcf7Vn.net
『ねえ海未ちゃん。大学の方はどない?』

海未「まあ、ぼちぼちと言ったところですね」

『そっかそっか。好きな人はできた?』

海未「ええ。大学に入る前から想いを寄せていましたが」

『へー。それってもしかして…』



海未「穂の…
『凛ちゃんのことやろ!』



海未「………何故ここで凛の名前が出て来るんですか?私が好きなのは…」

『なあ、海未ちゃん。もう惚けるのはやめにしよう?』

海未「さっきから、何を言ってるんですか…」

『海未ちゃんは凛ちゃんのことが好き。海未ちゃんも、ほんとは分かってるんでしょ?』

海未「いや、ですから!私は穂乃果のことが…」

『……穂乃果ちゃんを言い訳に使うの、見苦しいよ。そんなん、穂乃果ちゃんが可哀想や』

海未「っ!」

『海未ちゃん。そろそろ、素直になってもいいんよ…?』

海未「………」
160: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 00:05:42.06 ID:B+1X819q.net
海未「……どうして、私の想い人は凛だと思ったのですか?」

『そんなん、見てたらわかるよ。凛ちゃんと話す時だけ、いつも鼻の下伸ばしてたし』

海未「伸ばしてません!それだけは断言します!」

『あとほら、そこの机の上にあるラーメン消しゴム。それ、凛ちゃんからのプレゼントだよね。好きな子からのプレゼントだから大事そうに保管してるんでしょ?』

海未「え…?どうして、希は私の部屋にある物の配置を知ってるんですか…?」

『さて、なんでやろう?』

海未「……希!あなた今、どこにいるんですか!?」

『あはは、うちは海未ちゃんのすぐ傍にいるよ』

海未「すぐ傍に…?」


私は部屋中を見回した。

しかし、もちろんそこに希の姿などなかった。


『話を戻すけど、海未ちゃんは本当の気持ちに気付いてるはずだよ』

海未「……私には、よく分かりません…。私は穂乃果ではなく、凛のことが好きなのですか…?」

『答えは海未ちゃんが持ってるんでしょ?うちは答えを出してはあげられないんよ』

海未「私の、好きな人…」

『ふふ、またいつか、その答えを聞かせてな』



そこで通話は途絶えた。
161: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 00:07:53.38 ID:B+1X819q.net
#EFBE


穂乃果「……久しぶりっ!海未ちゃん」

海未「ご無沙汰しております、穂乃果」

穂乃果「どう?冬の京都っていうのも、また乙なものでしょ」

海未「そうですね。京都という町は四季折々、様々な顔を見せてくれます」

穂乃果「ほら、今日は穂乃果が京都を案内してあげるから、ちゃんと付いて来てよ!」

海未「あ、待ってくださいよ!穂乃果~!」
162: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 00:08:59.08 ID:B+1X819q.net
穂乃果「海未ちゃん。着いたよ!」

海未「……ここは?」

穂乃果「見てわからない?法隆寺だよ!」

海未「法隆寺…?今日は京都の観光をするのではなかったのですか?」

穂乃果「もう、何言ってるのさ海未ちゃん~。ここは京都だよ」

海未「ですが、法隆寺は確か奈良にあったはずです」

穂乃果「あはは。今日の海未ちゃんは面白いこと言うね!法隆寺は京都にある寺院だよ」

海未「え…?」


海未「……ああ、そうでしたね。私が間違っていました。すみません」

穂乃果「謝らなくてもいいよ。それより、ここも過ぎちゃったし、次の場所に行こう!」
163: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 00:11:06.86 ID:B+1X819q.net
穂乃果「海未ちゃんー!早く早く~!」

海未「穂乃果は歩く速度が速すぎますよ…」

穂乃果「ねえ、見て見て!足下を川が流れてるよ!」

海未「わぁ、綺麗ですね…。こんな絶景、今まで一度も観たことありません!」

穂乃果「この川、どこまで流れてるんだと思う?」

海未「海まで、ですかね?」

穂乃果「そうかもね。でも、たぶん、果てなんてないと思うよ」

海未「果てがない?つまり、この川はグルグルと周っているということですか?」

穂乃果「本当のところは分からないけどね。そういうことは誰かが足で調べないとはっきりしないから」

海未「では、誰が調べるんですか?」

穂乃果「誰かだよ。少なくとも、私じゃないだろうね」
164: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 00:16:09.73 ID:B+1X819q.net
穂乃果「………はい、到着!ここからは、夜の闇に輝く摩天楼が見られるんだ」

海未「これが100万ドルの夜景ですか…。すごいです、圧倒されてしまいますね」

穂乃果「綺麗だよね…。ほんと、嫌になるくらい輝いてる…」

穂乃果「でも、この輝きはいつまでも続かない。……一つ、また一つ。光が消えていく」

穂乃果「もうすぐ12時だ…」


海未「……穂乃果?」

穂乃果「ありがとう、海未ちゃん…。私もう、いかなきゃ…」

海未「っ…」

海未「……『いかないで』と言えば、あなたは離れないでいてくれますか?」

穂乃果「ごめんね…。でも、そう思ってもらえて、すごく嬉しいよ」

穂乃果「私の人生、無駄じゃなかったんだって実感できた。もう思い残すことは何もないや」

穂乃果「……いや、心残りはまだあったね」


穂乃果は晴れない表情で、壁に背を預けた。


穂乃果「………結局、海未ちゃんは最期の最後まで、『好き』って言ってくれなかったね…」

海未「………はい」

穂乃果「それに…。海未ちゃんとの約束、守れなかった…」

穂乃果「他にも、まだまだやりたいことがあったよ…。私の人生、後悔でいっぱいだ………」



私は何も言わず、穂乃果を抱き締めた。

吹きつける微風に飛ばされてしまわないよう、強く強く、抱き締めた。

穂乃果の肌から伝わってくる感触は、とても硬く、とても冷たかった。



数日後。私の元に、穂乃果の訃報を報せる手紙が届いた。
181: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:39:52.96 ID:B+1X819q.net
#

私は東京を離れ、新潟に行き着いた。

無人の駅で降り、宛てもなく歩くことにした。

あれからどれぐらいの時間が経ったのだろう。

廃人になった私は、何日も何日も、痩せ細った体で彷徨い続けている。



穂乃果の訃報が届いた後、私は深い悲しみに閉ざされ、涙を流した。

母が亡くなった時にも流さなかった涙が溢れてきた。

穂乃果が死んだ。

その現実はあまりにも辛く、私を苦しめた。

泣いて、泣いて、泣いた。

いつしか涙は枯れ、乾いた部屋には私の嗚咽だけが残った。

私は、この部屋から、この町から、この世界から逃げたくなった。

そして、部屋を飛び出した。
182: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:40:33.51 ID:B+1X819q.net
私は田園の中を、ただただ歩き続けた。

どこに行き着くわけでもなく、何かから逃げるように、歩き続けた。

陽に当てられ身体は火照り、疲れで足元が覚束ず、空腹に襲われ意識が朦朧としていた。

私は、田園の中で倒れた。

周りを囲う背の高い稲達は、風が通る度に大きく靡いている。

薄れゆく意識の中で、そんな光景だけが目に映った。



誰かが、私を見下ろしている………

逆光でその姿を捉えることはできなかったが、確かに、そこには誰かが居た。

その人は倒れた私の側まで寄ると、その場で屈み込み、私の頰を撫でた。


「………久しぶりだね、海未ちゃん」


そこで私の意識は途絶えた。
183: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:41:33.44 ID:B+1X819q.net
目が覚めると、私はどこかの家の部屋で寝ていた。

すぐに身体を起こし、辺りを見回す。

しかし、この家の中には人っ子一人いないようだった。

私は畳の上を這いずり、外へと繋がるベランダに出た。

ベランダからは、一面に広がる稲畑が眺められた。恐らくこの家の主は、稲作を生業にしている人なのだろう。


私は改めて、部屋の中を見回してみた。

ちゃぶ台の上には麦茶とおにぎりが置かれていた。

私は、少し緩くなった麦茶を喉に流し込み、炊きたてホカホカのおにぎりを頬張った。

実に、一週間ぶりの摂食だった。


食器を台所に置き、私はその家を立ち去った。

ちゃぶ台の上に、詩を残して。
184: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:42:29.68 ID:B+1X819q.net
#

新潟から帰った私は、寄り道せず真っ直ぐアパートへと戻った。

部屋に入り、靴を脱ぎ、クーラーをつけ、ベッドに腰を下ろした。

私が道具を確認していると、部屋の呼び鈴が鳴った。

私は膝に手をつき、体勢を前に倒し、掛け声と共に立ち上がった。

部屋の扉を開けると、そこには旧友の姿があった。


ことり「ボンジュール!海未ちゃん」

海未「ことり…。お久しぶりです、もういつ以来でしょうか…?」

ことり「さあね?それより海未ちゃん。はい、これお土産ね」

海未「ありがとうございます」


そのお土産は、凱旋門にエッフェル塔が突き刺さった、奇抜なデザインのチョコレートだった。
185: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:43:25.55 ID:B+1X819q.net
私はことりを部屋に通した。

私はベッドに座り、ことりはソファに座った。


ことり「……手紙、読んだよ。大体のことは把握できた」

海未「そうですか。……しかし、まさかことりが、私を訪ねに来るとは思いませんでした」

ことり「ずっと、話してなかったからね。たまにはこうやって会っておかないと、私たちいつか、永遠に会えなくなっちゃう」

海未「……そうですね」


ことりは私の横に座った。


ことり「私たち三人ってさ、どうして出会ったんだと思う?」

海未「ただの巡り合わせですよ」

ことり「なるほどね。でもさ、出会った後、私たちはずっと一緒だった。学校でも休みの日でもいつでも」

ことり「まるで、私たちを糸が繋いでるみたいだね」

ことり「………いや、鎖かな。幼馴染で、腐れ縁。私たちは鎖で繋がれて、離れられないよう捕らえられていたのかも」

海未「それだけ、私たちが親密であったということですよ」

ことり「………私たちはたぶん、近すぎたんだよ。だから、みんなダメになっちゃったんだ…」

ことり「私は鎖を断ち、大空へと飛び去ったけど…。海未ちゃんはずっと、鎖に繋がれたままだったんだよね」

海未「そう、なりますね」

ことり「ねえ、どうして生きてるの?」

海未「………私にとって鎖は、足枷ではないんです」

海未「今までは三人で結ばれて、歩き辛かったですけど…。でも、鎖が一つが断たれたことで、私たちは二人三脚で歩き出すことができました」

ことり「……そっか。海未ちゃんはほんと、強いね」
186: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:44:16.60 ID:B+1X819q.net
海未「ことり。よければ今日は泊まっていきませんか?ホテルに予約してあるのなら、無理にとは言いませんが」

ことり「うん、お言葉に甘えさせてもらうね。というより、元からそのつもりで来てるから」

海未「ふふふ。では、夕ご飯の支度をするので手伝ってください」


私たちは二人で夕食を作り、食べた。

そして寝た。

私たちは服を脱ぎ、全裸になってからベッドに倒れ、キスをした。

ことりのはとても柔らかく、蕩けるような感触だった。

先端は次第に硬くなり、指で摘まむと、ことりの体は大きく反応した。

私がことりの汗を舐め取る度に、ことりは甘い声を漏らした。

身体は火照り、熱を帯びていた。

私たちは汗が止まらなくなっていた。なので、お互いの汗を舐め合った。

私たちは犬のように、お互いがお互いを貪り合った。

舌が当たることで、私の中の何かが昂ぶっていくのを感じた。

私は指で、ことりの中を掻き混ぜた。

ことりは甘い声を出しながらベッドの上で仰け反り、5回、痙攣を起こした。

私たちは抱き合った。抱くことで、お互いの存在を確かめ合った。
187: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:45:16.63 ID:B+1X819q.net
ことり「……じゃあ、私は向こうに帰るね」

海未「はい。お気をつけて」

ことり「………」


ことりは俯きながら呟いた。


ことり「……もし、私が鎖を断っていなかったら…。私たちの関係は、どうなってたんだろう…?」

海未「たらればの話はやめましょう。キリがありません」

ことり「うん、そうだよね。私も、今を生きることにするよ」

海未「ええ。また元気な姿をお見せしてくださいね」



ことり「……バイバイ、海未ちゃん」

海未「さようなら。ことり」


ことりは、元いた場所に帰っていった。

私はその跡を見送った。
189: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:57:13.45 ID:B+1X819q.net
#

『……もしもし、海未ちゃん?』

海未「凛…ですか。どうかしましたか?」

『どうかしたもこうもないよ!ずっと連絡も寄越さずに、一体今まで何をしてたの?』

海未「すみません…。こちらも少しバタバタとしていまして」

『ふーん。まあ忙しいのは分かるけどね。でもさ、それでも連絡ぐらいしてくれたっていいでしょ?』

『こっちから電話しても全然出ないし、あんまり私に心配かけないでよね。分かった?』

海未「……はい」



『ねえ、今どこにいるの?』

海未「………」





「ここはどこ…?」
190: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/24(月) 23:58:11.42 ID:B+1X819q.net
おわり
225: 1やわ銀(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2017/07/26(水) 14:38:11.79 ID:zXzFd2fu.net
本当は50話まで想定してたけど忙しくなったので何話か省略してる

元ネタはノルウェイの森なので大方のストーリーはそちらを読んでもらえれば
省略しすぎて訳わかんないので軽く解説
・どこか遠くにいく(逝く)→死んでる
・電話やメール(電波バリ3)が繋がらない→死んでる
・手紙の文字が同じ→海未の自演
・手紙がいつの間にか部屋に→海未の自演
・希が絵里に送った手紙→絵里の自演

新潟に行った海未が花陽と会うのは、穂乃果が死んでから数十年後で
ことりとヤルのも数十年後の話(一応伏線張ったつもりだったけど判りづらかったね)


後書きはしないので質問があるなら受け付ける
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『女子大生海未「穂乃果。セックスを前提に結婚してください」穂乃果「いやだ」』へのコメント

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