打ち上げ花火

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2年生花火-アイキャッチ



 ドーン、と大玉の花火が上がるたび、私の心臓も同じくらい大きく震える。

「見て見て、曜ちゃん。綺麗だねえ」
「う、うん」

 人ごみから少し離れた高台で、二人きりで空を見上げる。
 髪を上げた千歌ちゃんの、花火に照らされるうなじが眩しい。
 千歌ちゃんの方が綺麗だよ、なんて言えるはずもなく。
 皆にこうしてお膳立てまでしてもらったのに、浴衣姿で並んだまま、ただただ時間だけが過ぎていく。

「たーまやー、とーちまーん、なんて」

 冗談を言ってあどけなく笑う千歌ちゃんの姿に、いよいよ私の鼓動は花火よりも大きくなる。
 言わなくちゃ。そう思っているのに、口から飛び出そうなほど早鐘を打つ心臓が、喉を塞いでいるみたい。

pixiv: 打ち上げ花火 by あめのあいまに。

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 ことの始まりはある日の練習前だった。
 忘れ物を取りに行くと家に戻った千歌ちゃんを待って、外は暑いので私たちは部室にいた。
 なんでそうなったかは分からないけど、気付くと恋バナになっていた。
 女の子が八人も集まれば、ある意味必然なのかもしれないけど。

「あんたたち、まだ付き合ってなかったの」

 善子ちゃんの、あっきれたとでも言いたげな声が部室に響く。

「あっきれた」

 本当に言われた。
 善子ちゃんってたまに容赦がないよね。

「そんなこと言ったって……」

 私だって告白できたら苦労しないけど、無理なものは無理というか。
 今まで何年もできなかったものが、昨日今日で急にできるようになるというのも有り得ない話で。

「でも、千歌と曜なら安心して祝福できるのになー」
「そうですね。グループ内カップルはスクールアイドル活動としてもプラス……というのは置いておいても、千歌さんと曜さんならお似合いだと思いますのに」

 果南ちゃんとダイヤさんも応援してくれるみたいで、今まで一人で抱えてたことを皆に話して良かったとは思う。
 というか、反応を見る限り皆は気付いてたのかな。必死に隠そうとしてたことを思うと、ちょっと恥ずかしい。

「曜ちゃんって普段格好良いのに、ここぞという時にヘタレずら」
「マルちゃん……」

 格好良いだなんて照れちゃうヨーソローなあ。
 というか花丸ちゃんも意外と辛辣!?

「でもやっぱり、無理ったら無理」
「それじゃあ、千歌ちゃんに告白するの、やめる?」
「やめない! ……はっ」

 梨子ちゃんに乗せられて、思わず千歌ちゃんみたいなことを言っちゃったよ。
 告白したいっていうのは本当だけどさ。

「良いこと思いついた」
「また変なことじゃありませんの?」

 ダイヤさんは鞠莉ちゃんが良からぬ提案をするんじゃないかと疑ってるみたい。

「ノンノン、今回はまともよ。題して、夏祭りで良い雰囲気になっちゃおう作戦!」

 作戦名はともかく、聞く限り確かに王道そうだった。
 というか、今回はって、自分でも普段まともじゃないって認めてるようなもんじゃ。

「話は簡単。今度の夏祭り、曜は千歌っちを誘いなさい。もちろん、最初はAqoursで行くって体で良いわ。頃合を見計らって私たちは逸れるから、後は二人で回るの。花火を見るのにベストなプレイスはこっちで用意しとくから」
「鞠莉ちゃん……でも上手くいくかな」
「少女マンガで鍛えた私の頭脳を信じなさーい」

 鞠莉ちゃんの提案は至極まともだった。
 それでも、もし失敗したらと不安が残る。

「ねえ、曜。確かに失敗するかもしれない。この世に絶対なんてないからさ。でもこのまま気持ちを伝えられないままで、曜はそれで良いの? 後悔しない?」
「果南ちゃん……」
「フーン。果南が言うと説得力が違うわね」
「こんな時に茶化さないで」

 確かに、果南ちゃんの言うことはもっともだった。
 まだ実感は湧かないけど、私たちもいつか卒業して、大学はバラバラになるかもしれない。
 そうなったらきっと、今以上に伝え辛くなる。ううん、今できないことを、その時にできるとは思えない。
 だったら今、こうして皆が協力してくれるのは、後にも先にもない絶好の機会なんじゃないかな。

「わかった! 私、渡辺曜、千歌ちゃんに告白します!」
「よく言った!」
「曜ちゃん、男らしいずら」
「花丸ちゃん……」

 皆に背中を押されて、私はついに決断した。
 皆もその決断を心から応援してくれた。
 私、こんなに気にかけてもらって、幸せ者だなあ。こうなったら絶対に告白してみせる!

「お待たせー、って皆なに盛り上がってるの?」
「ち、千歌ちゃん!? な、なんでもないよ」
「? ……そう?」

 大丈夫? 聞かれてないよね?
 部室へ戻ってきた千歌ちゃんにパニックになる私。
 うう、やっぱり不安になってきた。
 本当に、できるんだろうか。



 かくして、計画は実行に移された。
 お祭りの日、鳥居の下に集まったAqoursは、また一人また一人と姿を消して、ついには私と千歌ちゃんの二人きりになっていた。

「はぐれちゃったね?」
「そうだね」
「せっかくだからしばらく二人で回ろうか」

 千歌ちゃんと二人で雑踏の中を歩く。
 時折聞こえる祭囃子の音が、いかにも夏を感じさせる。

「あ、見て。りんご飴だよ」
「買う?」
「うん」

 真っ赤なりんご飴を満足そうに手に取る千歌ちゃん。
 それを見ながら私は隣の屋台でわたあめを買う。
 ふわふわとして甘いわたあめ。砂糖を溶かしただけなのに、どうしてこうなるのか不思議でならない。

「あ、いーな。一口ちょうだい」
「あっ」

 千歌ちゃんは、私の食べたわたあめに可愛らしくかぶりつく。

「ごめん、駄目だった?」
「ううん……」

 千歌ちゃんの食べた形にあわせてへこんだわたあめ。
 私はそれをまじまじと見る。
 これって、間接キスだよね……。

「食べないの?」
「っ。食べる食べる」

 千歌ちゃんに言われて私は慌ててわたあめを口に運ぶ。
 わたあめなんだから当たり前だけど、その一口はとっても甘かった。

「ねえ千歌ちゃん、もうすぐ花火だね」
「そうだね」
「良い場所があるんだ。皆のこともそこで待とうよ」
「うん。わかった」

 鞠莉ちゃんが教えてくれたとっておきのスポットへ、私は千歌ちゃんを誘う。
 花火を前に、なんだか人も増えてきたみたい。

「千歌ちゃん、手つなご? はぐれないように」
「良いよー」

 今はこれが私の精一杯の勇気だった。
 でも、平然としている千歌ちゃんを見ると、なんだか一人空回ってる気がして、少し寂しかった。
 千歌ちゃんにとっては、私はただの友達なのかな。

「えへへ、なんだかカップルみたいだね」
「……そうかな?」

 思わずドキリとする。
 千歌ちゃんのその一言で、沈みかけてた私の気持ちは一気に跳ね上がった。
 やっぱり私、千歌ちゃんのことがどうしようもなく好きだよ。



 最後の花火が夜空に打ちあがって、スーッと夜空に吸い込まれるように消えていった。

「花火、終わっちゃったね」

 耳が痛くなるくらいの静けさに千歌ちゃんの声だけが響く。
 足元の喧騒も、今は遠く感じる。
 結局私は言えなかった。皆にも協力してもらって、シチュエーションだって最高だったのに、ただ一言が言えなかった。

「ねえ、曜ちゃんって好きな人はいる?」
「えっ」

 千歌ちゃんのその質問が、あまりに唐突で何も言えなかった。

「私はいるよ。好きな人」

 最初は何を言っているのか理解できなかった。千歌ちゃんに好きな人が……。
 でも、それなら告白しなくて良かった。頭でそう言い聞かせるけど、心は全然落ち着かなかった。

「その人はね、とっても頑張り屋さんで物凄く格好良いの」

 千歌ちゃんは、私におかまいなしで話し始める。
 私は聞きたくなかったけど、やめてとも言えなかった。今口を開いたら、きっと涙を我慢できないから。

「その人はいつも近くにいてくれて、私が立ち止まったら背中を押してくれるし、私が迷ったら一緒に悩んでくれるの」

 ゆっくりと歩きながら、千歌ちゃんは続ける。
 千歌ちゃんの語るその人は、なんだかとっても知っている気がした。

「でも、その人があまりに凄すぎて、たまに不安になるんだ。私ってその人にとって本当に必要なのかなって。幼馴染だから付き合ってくれてるだけなんじゃないかって」

 そんなんじゃないって、頭では分かってるのにね。
 千歌ちゃんは笑いながらそう言った。

「でも、一緒に活動して、楽しいことも辛いこともたくさん経験して、今は少しでも近づけたかなって思う。千歌は、その人がすっごく大好き」

 千歌ちゃんはそう言うと、立ち止まって振り返った。

「ねえ、曜ちゃん。曜ちゃんは好きな人いる?」

 千歌ちゃんの声は、少し震えていた。
 ああ、私はバカだ。バカ曜だ。
 何が千歌ちゃんは平然としているだ。私は本当に空回っていた。何も見えていなかった。
 一人で勝手に落ち込んだり臆病になったり。
 千歌ちゃんだって、ずっとドキドキしてたのに。怖かったのに。
 でも、ここまで言ってくれた。
 ねえ、千歌ちゃんの気持ち、ちゃんと伝わったよ。
 だから次は、私の番。

「私の好きな人は――」



 私たちはまた、部室に集まっていた。
 あの日の反省会というわけでもないけど、自然と話題はそっちに流れていった。

「それにしてもやっとかって感じ。苦労かけさせるんだから」
「善子ちゃんは何もしてないずら」
「まあまあ。今は二人を祝福しましょ」

 私が千歌ちゃんに告白したことは、その日のうちにAqours中に広まっていた。
 というか、あの場で皆隠れていたらしい。
 まあ鞠莉ちゃんに教えてもらった場所だから皆知ってもおかしくはないけど、まさか覗き見されてるなんて。
 あのダイヤさんですら止めずにその輪に入っていたというからどうしようもない。

「千歌、曜、おめでとう。二人にとってはこれからが大事なんだから、お互い相手のことをちゃんと考えるんだよ」
「うん、ありがとう果南ちゃん!」
「もちろん!」

 果南ちゃんは昔から私たち二人を気にかけてくれて、今もこうして心からお祝いしてくれている。
 私の背中を押してくれたのも果南ちゃんだったね。私は結局土壇場で躊躇しちゃったけど……。
 今こうして私が千歌ちゃんと付き合えたのは果南ちゃんによるところも大きい。果南ちゃんには感謝してもしきれない。

「鞠莉ちゃんも、ありがとうございます。素敵な場所を教えてくれて」
「ふふっ、お安い御用よ。たまには恋のキューピッドになるのも悪くないわ。良いものも見させてもらったし」

 鞠莉ちゃんは冗談めかすけど、私にとっては本当に恋のキューピッドだった。

「実はー、なんとAqoursにはもう一組カップルが誕生したのです」
「ええっ」

 鞠莉ちゃんのそんな言葉に驚きを隠せない。

「それはー、善子と花丸でーす」
「ヨハネよ! って、なんでバレてるの」
「ずらっ」

 衝撃の発表、というわけでもなかった。善子ちゃんが花丸ちゃんのことを好きなのはバレバレだったしね。
 というか、二人ってまだ付き合ってなかったんだね。善子ちゃんは私にあんなこと言っといて。

「ねえねえ、その話聞きたい!」
「私も!」

 千歌ちゃんと一緒に、二人に詰め寄る。
 私たちは十分話題を提供したから、今度は提供される側にならなきゃね。

「嫌だ。絶対言わないわよ」
「あれは、善子ちゃんからだったずら」
「ずら丸!」

 こうしてAqoursの騒がしくて楽しい一日が、いつものように過ぎていく。
 今までと違うのは、この手にぎゅっと握った千歌ちゃんの手の温もりがあること。

 願わくば、いつまでもこの幸せが続きますように。

おしまい
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