曜「枯れない桜」

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曜-アイキャッチ12



曜(ここ、内浦には一本の桜の樹がある)

曜(一年中枯れない桜の樹。その桜に願い事をすると、不思議な力で叶えてくれる……らしい)

曜(まあそんな話は流石に眉唾だけど、枯れない桜がある内浦は全国で注目の的に)

曜(観光資源にもなったし、近くにある浦の星女学院の入学生もおかげで急上昇)

曜(一時は統廃合の噂もあったけど、今じゃ地域で一番人気の学校になってその心配もなくなった)

pixiv: 曜「枯れない桜」 by あめのあいまに。

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千歌「おはよーなのだ!」

梨子「曜ちゃん、おはよう」

曜「おはよう、千歌ちゃん。梨子ちゃん」

曜(幼馴染の千歌ちゃんは、今日も元気そう)

曜(梨子ちゃんは最近東京から引っ越してきたんだよね)

曜(なんと家が千歌ちゃん家の隣。だからよく一緒に登校してくる)

千歌「今日も暑いねえ」

曜「だねー。でも、風が吹くと大分涼しいよ」

梨子「ほんと。変わらないようでいて、少しずつ秋が近づいてるんだね」

曜(いつもみたいに、なんでもないおしゃべりを始める私たち)

曜(今日もまた、穏やかな一日になりそう)



梨子「あ、私ちょっとお手洗い行くね」

千歌「いってらー」

千歌「ねえねえ、曜ちゃん」

曜「なに?」

千歌「今日の放課後一緒に遊ばない?」

曜「いいけど、梨子ちゃんは誘わないの?」

千歌「用事があるんだって。それに今日は二人きりが良いの。久々に内浦を遊び尽くそうよ」

曜「わかった。でも内浦ってそんなに遊ぶところあるかなー?」

千歌「あるある! みとしー行って、松月でデザート食べて、お花見だってできるし」

曜「あはは。じゃあそれで。楽しみにしてるね」

千歌「うん!」



曜「いやあ、楽しかったね。イルカとかも、可愛くって見ていて癒されるというか」

千歌「だね! それにまさか、みとしーでスクールアイドルのイベントをやってるなんて。奇跡だよー」

曜「あはは。千歌ちゃんはスクールアイドルが好きだね。いっそやってみたらどう?」

千歌「私が? 無理無理。それに私は見てるだけで十分満足だから」

曜「千歌ちゃん可愛いし、人気出ると思うんだけどなあ」

千歌「か、かわっ!? もう、曜ちゃんからかわないでよー」

曜「いやいや本気だって」

千歌「うぅ……」

曜「あ、千歌ちゃん照れてるー」

千歌「あー、やっぱりからかってた! もう、罰として松月のケーキおごりね!」

曜「ちょ! それは勘弁してー」



曜「ふう。食べた食べた。相変わらずの美味しさだったね」

千歌「そうだね」

曜「そろそろ日も暮れるし帰ろっか?」

千歌「ううん」

千歌「最後にさ、お花見しよーよ。曜ちゃん」

曜「う、うん」

千歌「あ、今のは"しよう"の"よう"と曜ちゃんの"よう"を」

曜「いい、いい。説明しなくても分かってるから」

千歌「さ、ほらほら。競争だよー」

曜「あ、待ってよ千歌ちゃーん」

曜(一瞬真剣な顔をするからドキリとしちゃったけど、気のせいだったのかな)



千歌「と、とうちゃーく。はあ……はあ……」

曜「千歌ちゃん大丈夫?」

千歌「なんとか……曜ちゃんは、余裕そうだね?」

曜「まあ、それなりに体力はある方だし」

千歌「さすが水泳部」

曜「桜、暗くなるとあんまり見えないね」

曜「ライトアップとかもしてないし」

千歌「……そうだね」

千歌「ねえ曜ちゃん」

曜「どうしたの、急に改まって」

曜(千歌ちゃんは桜の樹の下に立つと、大きく深呼吸した)

千歌「聞いてください、千歌の気持ち」

千歌「私、曜ちゃんが好きです」

千歌「ちっちゃい頃から一緒にいて、一緒にいるのが当たり前で」

千歌「私が困ってるときは助けてくれて、私が寂しい時は寄り添ってくれて」

千歌「楽しい時は一緒に笑ってくれる、嬉しい時には一緒に喜んでくれる」

千歌「明るくて、おふざけが好きで、でもやるべきことはきっちりやり遂げる」

千歌「そんな優しい曜ちゃんが好きです。頑張り屋の曜ちゃんが好きです」

千歌「好きです。だから、お友達じゃなくて、恋人になりたいの」

曜(これって、もしかしなくても告白だよね)

曜(千歌ちゃん、震えてる)

曜(多分いっぱい悩んで、不安で、だからきっと桜の樹の伝説にも縋って)

曜(それでも勇気を出して告白したんだ。千歌ちゃんは凄いなあ。そんなの、私にはできそうもない)

曜(大丈夫、千歌ちゃんの願いは叶うよ。それに)

曜「千歌ちゃん、私も好きです」

曜「いつも元気な千歌ちゃんが好き、皆を元気にする笑顔が好き」

曜「いつも隣にいてくれて、私が挫けそうなとき励ましてくれる千歌ちゃんが好き」

曜「だから、これからよろしくお願いします」

千歌「よ、曜ちゃああああん」

千歌「良かったよお……千歌、フラれちゃったらどうしようって」

曜「ふふっ。私たち、恋人になっちゃったね」

千歌「夢じゃないよね? 嘘じゃないんだよね?」

曜「うん。大丈夫だよ。ほら、ね」

曜(願ってもないのに、私の願いも叶っちゃった)

曜(抱きしめた千歌ちゃんの温もりが、これが現実だってことを教えてくれる)

曜(でも、なんでだろう。嬉しいはずなのに。ううん、確かに嬉しいのに)

曜(思ったより心は静かだった)



千歌「よーちゃん、デートしようよ!」

曜「いきなりだね」

千歌「恋の超特急高海千歌は止まらないのだ」

千歌「ということで、週末マリンパーク行こうよ。二人で行くのは初めてだよね?」

曜「そうだっけ?」

曜(ああでも、いつもは果南ちゃんがいたんだっけな)

曜(何度も行ってるから記憶が曖昧だけど)

曜「というか、こないだみとしー行ったばかりだけど」

千歌「良いの! デートと言ったら水族館、水族館と言ったらデートだよ!」

千歌「それとも曜ちゃんは、千歌と水族館行きたくない?」

曜(ちょ、千歌ちゃん。上目づかいは反則だよ)

曜「ううん、そんなことないよ! じゃあマリンパーク行こうね」

千歌「やったー」

曜(まあ良いか。千歌ちゃんといられれば、どこだって楽しいもんね)

梨子「千歌ちゃん、曜ちゃん、おめでとう!」

曜「わっ、びっくりした」

千歌「あ、梨子ちゃん!」

曜「おめでとうって、何が?」

梨子「とぼけなくても良いのに。聞いたよ、付き合うことにしたんでしょ?」

曜「聞いたって……あっ」

千歌「えへへ。実は梨子ちゃんには前から相談してて」

曜「あー、それで」

曜(タイミングよく席を外したり用事が入ってたりしたのは、そういうことだったんだね)

千歌「帰ってから真っ先に報告したんだ」

梨子「私も自分のことみたいに嬉しいよ!」

曜「あはは、ありがとう」

曜(梨子ちゃんハイテンションだなあ。やっぱ恋バナとか好きなのかな。都会っ子だし)

曜(純粋に喜んでくれてる気持ちの方が大きいんだろうけどね)

梨子「曜ちゃん。千歌ちゃんとっても悩んで、それでも勇気を振り絞ったんだから、泣かせたりしちゃ駄目だよ」

曜「もちろん! 世界で一番幸せにしてみせるよ!」

梨子「よしっ!」

千歌「よ、曜ちゃんったら。恥ずかしいよ」

曜「あー、照れて小さくなってる千歌ちゃんも可愛い」

千歌「声に出てるよ」



千歌「楽しかったねー、マリンパーク」

曜「そうだね。何度か行ってたから飽きちゃうかなとも思ったけど、全然そんなことなかった」

曜「短いうちに行ったからこそ、みとしーとの違いとかも分かって面白かったし」

曜「千歌ちゃんとの初デートだからってのが、一番大きな理由だけどね」

千歌「また、そういうことさらっと言ってー」

千歌「……その、千歌も、曜ちゃんと初デートだから特別楽しかったよ」

曜「千歌ちゃん……」

曜(なんだろう、この、守ってあげたくあるような可愛さ。思わず抱きしめたくなるよ)

千歌「あ、そうだ。ちょっと寄りたいところがあるんだけど良い?」

曜「うん。まだ時間もあるしね」

千歌「わぁい。さ、こっちこっち」

曜(私を案内する千歌ちゃんは、自然と手を繋いでいた)

曜(こんななんでもない仕草一つ一つに、私は幸せを感じずにはいられない)

曜(そして、千歌ちゃんに案内されて歩くこと数分)

曜「ここは、アクセサリショップ?」

千歌「うん! せっかく付き合ったんだし、お揃いの何かが欲しいなあって」

千歌「ペアルックでも良いけど、それだと毎日は無理でしょ?」

千歌「だから何か小物をにしようかなと思ったんだけど、どうかな?」

曜「良い、凄く良いよ! 私も千歌ちゃんとお揃いのものがあれば嬉しいし」

千歌「ほんと! それじゃあ、早速選ぼう」

曜(うーん、何が良いかなあ。あんまり高いのは無理だよね)

曜(学校につけていけるように、って考えると校則もあるし……意外と難しい?)

曜「うーん」

千歌「ねえ曜ちゃん。これなんてどうかな?」

曜「あー、ストラップか。良いんじゃないかな」

曜(これなら鞄につけられるし、校則にもひっかからないよね)

曜「どれにする?」

千歌「んーとね、これは?」

曜(千歌ちゃんが選んだのは、ピンクがかった可愛らしい音符の飾りがついたストラップ)

曜(サイズも大きすぎず小さすぎず、ちょうど良い感じ)

曜「良いと思う。千歌ちゃんはセンスあるね」

千歌「えへへ。それじゃ私買ってくるね」

曜「あ、私も出すよ」

千歌「ううん。これは私に買わせて。ささやかだけど、私から曜ちゃんへ初デート記念のプレゼントだよ」

曜「わかった。その代わり次の記念には私がプレゼントするから」

千歌「ありがとう!」

曜(私は家に帰るとさっそく通学かばんにストラップを付けた)

曜(明日、登校したら千歌ちゃんとお揃いかあ。今から学校行くのが楽しみだなあ)

曜(ストラップを突っついて、揺れる音符を眺める)

曜(そういえば、どうして音符にしたんだろ? ま、かわいいからなんでも良いんだけどね)



曜(それからも、私たちの交際は続いた)

千歌「曜ちゃん、クレープ食べにいこー」

千歌「曜ちゃん、映画見に行こうよ」

千歌「曜ちゃん、うちでお泊り会しよ?」

曜(やってることは前と変わらないけど、私たちは恋人なんだって思うだけで幸せだった)

曜(手が触れて、抱きしめあって、唇が触れるたびに、幸せで死んでしまいそうだった)

千歌「曜ちゃんのお弁当かわいい」

曜「ありがとう。はい、千歌ちゃんの分」

千歌「わーい。本当は千歌が作ってあげたいんだけどね」

曜「そうなの?」

千歌「だって曜ちゃんってどっちかと言えば旦那さんでしょ? だったら愛妻弁当を作るのは千歌の役目かなあって」

曜「げふっ……ずいぶん気が早いね」

千歌「だって曜ちゃん以外なんて考えられないもん」

曜「私もそうだけどさ。まあ、良いって良いって。今どきは旦那さんだって弁当くらい作るよ」

曜「千歌ちゃんには千歌ちゃんにしかできないことがあるし、私はいっぱい千歌ちゃんからいろんなものを貰ってるからさ。お弁当くらい作らせてよ」

千歌「そーお? ……あ、曜ちゃんピーマンもらうね」

曜「うん」

曜「千歌ちゃんってピーマン好きだったっけ?」

千歌「え、曜ちゃんが嫌いなんでしょ」

曜「私は別に食べれるよ?」

千歌「あれ。そうだったっけ? あはは、ごめんね」

曜「もう、ボケちゃうにはまだ早すぎるよー?」

曜(幸せなのに……)

曜(どうしてたまに、とっても不安になるんだろう)



千歌「それじゃまた明日―」

曜「うん。また明日。今晩もLINEするからね」

千歌「待ってるよー」

曜(千歌ちゃんと私の家は、それなりに離れてる)

曜(もちろん、学校では毎日会えるし休日も毎週デートしてるけど)

曜(この千歌ちゃんと離れてしまう時間が、どうしても寂しいんだよね)

曜「はあ」

善子「辛気臭い溜め息ね。幸せが逃げていくわよ」

曜「え、それは困るなあ……えーっと、津島さんだっけ」

曜(びっくりした。家が同じ方向だからたまに見かけるけど、話すのは初めて、だよね?)

善子「よく分かったわね。私は津島善子。ヨハネと呼んで」

曜「うん、そのキャラで校内では有名人だからね。よろしく、善子ちゃん」

善子「……ヨハネよ」

曜「あはは。善子ちゃんは堕天使なんだっけ?」

善子「信じてないみたいね。ほら、使い魔だって出せるわ」

曜(そう言って、善子ちゃんが握った手を開くと、そこからデフォルメされた蝙蝠みたいな生き物が出てきた)

曜「えっ、今のなに? 手品か何か?」

善子「正真正銘魔法よ。種も仕掛けもないわ」

曜(次の瞬間、蝙蝠の姿は消えていた)

曜「善子ちゃんは魔法が使えるの? 魔法使いなの?」

善子「この世界での役割では、そうみたいね」

曜「この世界?」

曜(善子ちゃんの言うことは難しくて分からない)

曜(でも魔法が使える人が本当にいるなんて。もしかしてあの桜が枯れないのも善子ちゃんの力だったり?)

善子「なんでもないわ」

曜「ところで、私たちって初対面だよね。まあ顔くらいは知ってたけどさ」

善子「そうね」

曜「その割には凄く話しやすいというか、まるで前から知ってたみたいな気がするんだ。実はどこかで面識が?」

善子「ないわよ。強いて言えば前世、いえ、平行世界の関係が因果となってこの世界のあなたにも影響を及ぼしているのかも」

曜「うーん」

曜(やっぱり、善子ちゃんの言うことはよく分からなかった)

善子「それ以上のことは自分で気づきなさい。それまで私もせいぜい魔法使いライフを楽しませてもらうから」

曜「そもそも善子ちゃんは堕天使じゃなかったの?」

善子「堕天使で魔法使いなの! あとヨハネよ!」



千歌「でねー、曜ちゃんったらさー」

梨子「へー、そうなんだ。意外ね」

千歌「でしょー。あ、曜ちゃんおはよー」

曜「おはよー」

曜(千歌ちゃんと梨子ちゃんは家が近い。なんたって隣だ)

曜(だから、だいたい二人で一緒に登校してくる)

曜(私はバスだし時間も道路事情次第だから、待ってもらうのも申し訳ないし)

千歌「今梨子ちゃんと話してたんだけどさ」

曜「ええ、千歌ちゃんあのこと言っちゃったの」

梨子「曜ちゃんって意外とロマンチストなのね」

曜「うぅ、恥ずかしいなあ」

曜(休日も含めて、平均一日十二時間。一日の半分について、私は千歌ちゃんの一番近くにいると自信を持って言える)

曜(でも、残りの十二時間は? 家族を除いたら梨子ちゃんが、ずっと傍にいる。それこそ、私と同じくらい)

曜(私はそれを思うととってもモヤモヤとした)

曜(梨子ちゃんは私にとっても大切な友達で、千歌ちゃんとの交際を喜んでくれたのに)

千歌「そういえばさー」

梨子「ふふっ」

曜(こうして、梨子ちゃんと楽しそうに話す千歌ちゃんを見ていると、どうしようもなく胸の奥がざわつくんだ)

曜(ダメダメ、こんなこと考えちゃ。こんなんじゃ千歌ちゃんにも嫌われちゃうよね)




曜「おはヨーソロー」

千歌「あ、おは曜ちゃん」

曜「もー、なにそれ」

千歌「えへへ。ヨーソローに対抗してみました」

曜(千歌ちゃんと一緒に梨子ちゃんがいなくてホッとしちゃった)

曜(私、やっぱり駄目だなあ)

曜(……もうすぐHRの時間だけど、お休みなのかな?)

曜「千歌ちゃん、梨子ちゃんのこと何か聞いてる?」

千歌「梨子ちゃん? 誰それ」

曜「え、誰って」

曜(冗談のつもりかな。千歌ちゃん、あんまりそういうことは言わないんだけど)

曜「東京から来た、絵とピアノが好きな子だよ」

曜「昨日も一緒におしゃべりしてたじゃん」

千歌「知らなーい。それより今日は放課後どこで遊ぶ?」

曜「そんな……」

曜(もしかして喧嘩でもしたとか)

曜(いや、それにしたっておかしい)

曜「ごめん、私ちょっとトイレ」

千歌「え、うん」

曜「千歌ちゃん、どうしちゃったんだろ……」

善子「やれやれ」

曜「善子ちゃん!」

善子「ヨハネ!」

善子「お困りのようね」

曜「うん……」

善子「今日の放課後、桜の樹の下に来て。曜さんの疑問を晴らしてあげるわ」



曜「やっぱり、おかしい」

曜(担任の先生も、出席簿で梨子ちゃんのことを飛ばしてた。他の誰もそれをおかしいと思ってないみたいだったし)

曜「何がどうなってるの。わからないよ……」

善子「来たわね」

曜「善子ちゃん、善子ちゃんは何を、どこまで知ってるの?」

善子「全部よ。私はそういう役目だもの。サポート役というか」

善子「ま、今までは放っておいたけどね。私が口出ししても、曜さんのためにならないと思ったし」

善子「でも、リリーがいなくなって曜さんはこの世界がおかしいって気づいた。リリーのいない世界を受け入れなかった」

善子「だけど曜さんの役割ではそれが限界。だから私が出てきたってわけ」

曜「リリーって、梨子ちゃんのこと!? 善子ちゃん、梨子ちゃんのことを覚えてるの?」

善子「知ってるわ。一緒にスクールアイドルをやって、ユニットだって組んだ仲だもの」

曜「スクールアイドル? 梨子ちゃんが?」

善子「ま、気にしないで。この世界の話じゃないから」

善子「曜さん、あなたはリリーがいなくなってこの世界に決定的な違和感を持った」

善子「でも、それ以前にも微かな違和感は何度も感じていたはずよ。それを思い出してみて」

曜「違和感……」

曜(そういえば、初デートの時に千歌ちゃんがピンク色の音符のストラップ。別におかしなチョイスでもなかったのに、妙に引っかかった)

曜(それにこないだお弁当を見せたとき。千歌ちゃんはなぜか私がピーマンを嫌いだと思っていた)

曜(そうだ。ピーマンは、梨子ちゃんが嫌いな食べ物だ。音符だって、私より梨子ちゃんのイメージにぴったりだよね)

善子「あるみたいね。それらは全部、一つの答えを示しているの」

善子「すなわち、曜さん。あなたの今の立ち位置は、消えてしまったリリー、桜内梨子の場所ってことよ」

曜(善子ちゃんの言葉と同時、私の視界は暗転した)



千歌『曜ちゃん、私、梨子ちゃんのことが好きになっちゃったみたい』

曜『そうなんだ、応援するよ。私にできることがあったらなんでも言って』

曜(私の方が、先に好きになったのに)

千歌『曜ちゃん、梨子ちゃんと付き合うことになった! 曜ちゃんが背中を押してくれたおかげだよ!』

曜『おめでとう、千歌ちゃん』

曜(私の方が、ずっと長い時間一緒だったのに)

千歌『見て、桜色の音符のストラップ。梨子ちゃんとお揃いなの! こないだ初デートした時に買ったんだ』

曜『ふふっ、良かったね』

曜(どうして千歌ちゃんの隣は、私じゃないの)



曜(その日、早退した私は我を忘れて走り続けて、気づいたらそこにいた)

曜(他の木々から離れて、寂しく一人ぼっちで佇む桜の樹の下に)

曜(そして願った。千歌ちゃんと付き合うのが、梨子ちゃんじゃなくて私だったら良いのにって)

曜(思い出したよ、善子ちゃん)

曜(夢だったんだね。全部)



曜(気が付くと私は、枯れた桜の樹の下にいた)

曜「そっか、君が見せてくれたんだ」

曜(枯れないわけでもない、ただの桜の樹。だけどきっとこの桜が、私に一時の夢を見せてくれたんだ。そう思えた)

曜「ありがとう、楽しかった」

曜「おかげで、この気持ちも、断ち切れそうだよ」

曜(言葉とは裏腹に、涙が止まらなかった)

曜「あれ、なんでだろ……あはは、おかしいな」

曜(格好良く決まったと思ったのに、締まらないなあ)

曜(やっぱり私、ダメダメだね)

曜「明日になったら本当に忘れるから……千歌ちゃんとはただの友達になるから……今日だけは」

曜(今日だけは、千歌ちゃんを好きな私でいることを、許してください)





曜「おはヨーソロー!」

梨子「おはよう」

千歌「あ、曜ちゃんおはよー」

千歌「ねえねえ、聞いた?」

曜「何を?」

千歌「あの木折れちゃったんだって」

千歌「麓にさあ、一本だけ他と離れて桜が植わってたでしょ。その幹がぽっきりと」

梨子「幸いけが人はいなかったみたいだけど、根っこごと抜いてもう更地にしちゃうらしいよ」

千歌「なんか寂しいよねー。普段は気にしてなかったけど、いざなくなるとなると」

曜「そうだね」

曜(そっか、折れちゃったんだ)

曜(最後の力を振り絞って、私を慰めてくれたのかな)

曜(なんて、自惚れかもしれないけど)

曜「ねえ、千歌ちゃん。お願いがあるんだけど」

千歌「なあに?」

曜「私、新曲の歌詞を書いてみたい」

千歌「良いと思う! 梨子ちゃんもそう思うよね?」

梨子「うん。私も曜ちゃんの歌詞に曲をつけてみたい」

曜「二人とも……」

千歌「ちょ、曜ちゃんどうして泣いてるの?」

梨子「わわっ、辛いことでもあったの?」

曜「ううん、違うの。嬉しくて」

曜「二人とも、私の友達でいてくれてありがとう」

千歌「そんなの、千歌の方がありがとうだよ」

梨子「そうだよ。私たち、ずっと三人一緒だよ」

曜「うん、うん」

曜(あの桜の樹の分まで、前を向いて全力で生きていこう)

曜(それが私にできる、精一杯の恩返し)

曜(千歌ちゃんと梨子ちゃんが支えてくれるから、それができる)

曜(そして私が差しのべられた二人の手を取れるのは、あの日見たうたかたの夢が、私の気持ちを吹っ切れさせてくれたから)

曜(ありがとう。なんて言っても、もう届かないかもしれないけど)

曜(あなたのおかげで、私は今日も元気です)

曜(天高く舞った秋の風が、そんな私の言葉を空の彼方へと運んでいった)

おしまい
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