にこ「好きって気持ち」

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1年生に変わった子がいる。

そんな話で入学式の日から3年の教室でも持ちきりだった。

どうやら、その1年生は自分のことを堕天使と称する、ただの厨二病らしい。

なんでそれを友達のいない私が知っているのかというと、周りの連中がアイドル研究部にぴったりなんじゃない?とか仲良くなれるんじゃない?とか笑いながら色々言ってくるからだ。

こいつらはアイドル研究部のことをなんだと思ってるのからしねぇ。

pixiv: にこ「好きって気持ち」 by ゆき

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そんな1年生も、どうやら自己紹介の大失敗で不登校になったらしいけど。

「まっ、私には関係の無い事ね」

しかし、この10分後にはフラグってものが本当にあるってことを嫌でも実感する羽目になった。




「まあまあ、俺と楽しいことしようぜ」

「ちょっ!離しなさいよ!」

学校の帰りにいつものように買い物に行こうと路地裏を歩いていると、件の不登校少女もとい、件の堕天使が絶賛チンピラに絡まれていた。

チンピラがその少女の手首を掴んで壁に抑えてるところを、取り敢えずパシャリ。

「んなっ!?てめぇ!何撮ってやがる!」

「何って、あんたがその子に乱暴しようとしてる物的証拠だけど?」

「このっ!消せぇ!」

そう言いながらこっちに突っ込んでくるチンピラ。というか本当に頭からヘッドスライディングのように突っ込んできた。

チラッと見えただけだが、チンピラがこっちに向かってこようとしてる時にこの少女が綺麗に足を引っ掛けていた。

あんなことされながら肝が据わってるというかなんというか⋯。

取り敢えず少女とダッシュでその場を離脱することに成功した。

「ふぅ⋯、ありがとう。助かったわ」

「別に良いわよ。それよりなんで絡まれてたわけ?」

「あのチンピラの元カノが私に似てたんだって」

「はあ?それだけ?」

「まあよくあることだし」

「よくあるって⋯」

「私、不幸体質だから理不尽な理由で絡まれることはしょっちゅうあるし、財布を落とすのも家の鍵をなくすのも日常茶飯事なのよね」

そりゃこんな毎日送ってたら堕天使なんて言い出すわ⋯。

「ちなみに今日はその全部を引き当てちゃったのよねぇ」

「は?全部って?」

「チンピラに絡まれたし、財布落としたし、鍵も失くした。もっと言うなら、今日は両親帰ってこないから家に入れないわね」

「はあ!?じゃあ今日どうするつもりだったのよ!」

「適当にその辺ぶらついて一晩過ごす」

「バッカじゃないの!あんたまたチンピラに絡まれるわよ!」

「それは⋯」

「まったく⋯、あんた今日は家に来なさい」

「良いの⋯?」

「そもそも置いて帰れるわけないでしょ!」

そう言って、この不幸娘の手を取ってスーパーに歩き出す。

「ところで、あんた名前なんていうの?」

「⋯津島善子」

「あれ?堕天使ヨハネとか言わないのね」

「な、なんで知ってるの!?」

「そりゃ、あなたの話は3年の教室まで流れてたわよ」

「へっ?3年?」

「リボンの色をよく見なさい」

「あっ⋯!ご、ごめんなさい!」

「ふふっ」

私が上級生だと気づいた途端に、焦ったように謝ってくる善子に思わず笑いがこぼれる。

「何を笑ってるんですか!」

「別にタメ口でいいわよ、なんか気持ち悪いし」

「気持ち悪い!?」

今度はトンカチで頭を殴られたかのような顔をする善子。

何この子、ちょっと面白すぎない?

「そ、それよりあなたの名前はなんなのよ!」

「私?私は矢澤にこよ」

自己紹介をしている内に、お目当てのスーパーに到着。

「善子は食べれないものある?」

「みかん以外ならなんでも食べれるわ」

「りょーかい」

それなら献立は特に変える必要も無いかなーと思いながらぽいぽいお目当てのものを入れていく。

「随分手馴れてるのね」

「まあ毎日のことだからね」

「ご両親は忙しいの?」

「家はシングルマザーだからお母さんは毎日働き詰めなのよ」

「シングルマザーなんだ」

「私が小さい頃にお父さんが亡くなったのよ」

「⋯ごめん」

「気にしなくていいわよ」

「でも⋯!」

「もう、女の子がそんな顔しないの」

雨に打たれた子犬みたいなしょんぼりした顔した善子の頭をわしわしと乱暴に撫でる。

「ほらっ、にっこにっこにー!」

「⋯なにそれ」

「いいからあんたもやりなさい」

「にっこにっこにー?」

「可愛い顔してるんだからそれぐらい笑顔でいなさい」

もう1度、今度は優しく撫でてあげる。

「あぅ⋯///」

「さっ、とっとと買い物終わらせて帰るわよ。ちび達も待ってるんだから」

「ちび達?」

「ああ、妹と弟がいるのよ」

「へぇ、どんな子なの?」

「1番上の妹はこころって言うんだけどね、この子はほんとに真面目でいい子ね。よくお手伝いもしてくれるし」

「1番上ってことはまだ何人かいるのね」

「その下にここあっていうやんちゃ盛りの妹と、虎太郎っていうまだ幼児の弟がいるわ」

「ねぇ、それって私行って大丈夫?」

「大丈夫に決まってるでしょ。いいからあんたは大人しく私について来なさい」

「⋯ありがと」

ボソッと呟きながら私の裾を握る善子。なにこれ可愛い。

なんか1人妹が増えたみたいね。今日だけの、だけど。

「ここが家よ」

「お邪魔します⋯」

「お姉様!お帰りなさい!」

「ねーちゃんお帰りー!」

「おかえりー」

元気にお迎えに来てくれるちび達。

くぅ〜!ほんっとに可愛い!姉バカって言われるかもだけど世界一可愛いと思うのよね。家のちび達って。

「ねーちゃん、その人誰?」

「こら!ここあ、失礼ですよ」

「ああ、ごめんなさい。私の名前は津島善子よ」

「よしこー」

「初めまして、次女のこころです」

「ここあだよー!」

「こたろー」

どうやらちび達も善子に懐いてくれたようで一安心。

「すぐにご飯作るからちょっと待っててねー」

「「「はーい!」」」

「あっ、私も何か手伝うわよ」

「いいのいいの、お客様はその辺座ってて」

「いやいや!流石に泊めてもらうのに手伝わないのは悪いわよ!」

「いいからにこに任せなさいって」

「でも!」

なんて押し問答を繰り返すこと5分。結局私が折れて、手伝ってもらうことにした。

というかこの子、意外と礼儀正しいのよねぇ。やっぱり噂を鵜呑みにしたら駄目ね。

「それで、なにをすればいい?」

「じゃあそこの野菜切ってもらえる?」

「はーい」

自分も作業をしながら横をチラリと見ると、危なげもなく野菜を切っている善子の姿。

「ふーん、善子って料理出来るのね」

「そりゃ、両親が帰って来れない日がよくあるから嫌でも覚えるわ」

「あー、なるほど」

「⋯なんかこうしてると私たち新婚さんみたいね」

「───ツ!」

思わず手元が狂ってしまった。恐る恐る手を見てみると、やっぱり指を切っていたようだ。

「だ、大丈夫!?」

「まあ平気よこれくらい。えーと、カットバンは⋯」

ふと指が生暖かくなった。てかがっつり指を咥えられてた。

「なっ⋯!なにしてるのよ!///」

「ご、ごめん⋯。私のせいで指切っちゃったんだって思ったら焦っちゃって⋯」

「そ、そう⋯///」

気まずい沈黙が流れる台所。無言で料理を作る私たち。

でもこういう空気ってちび達が乱入してくるフラグのはずよね⋯?

結局こういう時に限ってフラグが仕事しなくて、なんとも言えない空気のまま料理を作り終えたんだけど。

それからは特に何事もなく、ちび達にご飯食べさせてからお風呂に入らせて、その後に善子にもお風呂に入らせる。

善子はまた、泊めてもらう立場だから云々言って最後でいいとか言ってたけど、私がちび達を寝かせないといけないからって言ったら大人しくお風呂に入ってくれた。

今日はちび達が珍しく素直に寝てくれて一安心。まあご飯食べた後に善子と遊んでたみたいだし疲れてたのかも。

「お風呂ありがと」

「はいはい⋯ってちょっと待ちなさい」

「?」

「ほら、ここ座って」

善子を化粧台の前に座らせる。

「まったく⋯。折角綺麗な髪してるんだからちゃんと乾かしなさいよ」

「勝手にドライヤー使っていいのか分からなくて」

「そんなの気にしなくていいのよ。女の子は髪が命なんだから」

手櫛で梳きながらドライヤーで髪を乾かしてあげる。

なんか本当に妹みたいね。こころが大きくなったらこんな感じになるのかしら⋯。

「そういえば気になってたんだけど、どうして堕天使とか言いだしたの?」

「あまりそれには触れないで欲しいんだけど⋯」

「どうしても言いたくないって言うなら別にいいけど、まあ不幸に巻き込まれたんだし聞く権利ぐらいはあるんじゃないかなぁって思っただけよ」

「うぅ⋯、それを言われると痛い⋯」

「無理にとは言わないわ」

「別に言えないようなものじゃないんだけどね⋯。ただ黒歴史だからあまり口にしたくないだけなのよ」

「黒歴史なんて誰にでもあるわよ」

「まあそれもそうね。私が不幸体質ってのはさっきも言ったでしょ?」

「病院を勧めたくなるレベルで酷い不幸体質なのは分かった」

「うん、まあ間違ってないわね。それで、何年か前にその不幸体質が死にたくなるほど嫌になった時期があったの。こんな不幸体質じゃ、どれだけ長生きしたって不幸になる未来しか見えなかったから」

「ふーん⋯」

「そんな時に見てたアニメで、神様の恨みを買った天使が地上に堕とされるっていう話を見て、これだ!って思ったのよ」

「これだ?」

「私は余りの美しさに神から嫉妬されて、不幸な目に遭わされてるんだって思ってしまっちゃってね。元々堕天使っていうかそういうダークサイドの話が好きってのもあって、中2ぐらいに堕天使を名乗り始めたの」

「ほんとの厨二病ね」

「何も言えない⋯。堕天使はいい加減卒業しないといけないのに」

「なんで?」

「なんでって、周りから笑われるからに決まってるでしょ!」

「でも好きなんでしょ?堕天使のこと」

「まあ好きだけど⋯」

「ならいいじゃない。好きなら好きで良いのよ」

「無理よ。それで自己紹介で大失敗したんだもん」

高校デビューの失敗がだいぶ堪えてるようで、頑なに堕天使を否定する善子。

「はぁ⋯」

思わず溜息が零れる。

「なによ」

「ちょっとこっちを向きなさい」

ドライヤーで乾かしていた手を止めて、向き直らせる。

「ふぅ⋯、にっこにっこにー♪」

「あなたのハートに、にこにこに〜♪」

「笑顔届ける〜、矢澤にこにこ〜♪」

「にこにーって覚えてラブにこ♡」

うーん、この自己紹介を誰かにするのも随分久しぶりね。

「な、なにそれ⋯」

「私の自己紹介よ。どうだった?」

「正直に言っていい?」

「どうぞ」

「寒い」

「あんたねぇ⋯、少しはオブラートに包みなさいよ⋯」

「正直に言っていいって言ったじゃない!」

「いやまあ、そう言われるのは分かってたけどね。でも私はこれを小さい頃からずっと続けてる」

「なんで?」

「アイドルが好きだから」

「アイドルが好き⋯」

「ええ、私は周りからなんて言われようが、なんて思われようが好きを譲るつもりも曲げるつもりもない。善子はどうなの?」

「私⋯?」

「善子の堕天使への好きって気持ちは周りからちょっと悪く言われる程度で揺らぐようなものなの?」

「違う!」

「でも不幸の逃げ場として堕天使を名乗り始めたんでしょ?」

「⋯確かに最初はそうだったかもしれない。でも今は純粋に堕天使が好き。私が不幸だからとかそんなんじゃなくて、堕天使じゃない自分はもう自分じゃないって思うぐらいには私の中で堕天使は大きなものになってるの!」

「ならそれでいいじゃない。誰に言われようが好きなものは好きでいいのよ。本当に好きなら胸を張って堕天使を名乗りなさい!」

「くくっ⋯!そうね、今こそ我が枷を解放する時が来たようね!感謝するわリトルデーモン!もう私はゲヘナの業火にこの身を燃やされることはない!」

「あっ、ごめん。なんて言ってるか分かんないからやっぱり普通に喋って」

「なんでよ!」

「ふふっ、冗談よ。それじゃ、お風呂入ってくるわね」

「⋯ありがと」

「どういたしまして♪」

それからは人が変わったように、というか多分これが本来の善子なんだろうけど元気になった。

正直半分くらい何言ってるのか分からないけど、出会ってから1番活き活きしてるから止めようにも止めれないのよねぇ。



「そういえば善子、アイドルやって見る気は無い?」

布団に潜って、さあ寝ようかって時にふと思いついたので聞いてみた。

「アイドル?」

「そっ、にこと善子の2人で」

「キャラ濃すぎでしょ⋯」

「それぐらいで丁度いいわよ」

「うーん、アイドルは面白そうって思うけど、にこさんとは組みたくないかなぁ」

「へぇー、なんで?」

「一緒に歌って踊ったら、私の堕天使への好きって気持ちがあまり伝わらないでしょ?」

「ふふっ、なるほどね。まあそれでも、にこのアイドルへの好きって気持ちには到底敵わないと思うけど?」

「いや、私の堕天使への好きって気持ちの方が上よ!」

「じゃあどっちの方が好きって気持ちを伝えれるか勝負よ!」

「良いわよ。このヨハネが負けるわけないもの!」

「「ふふっ」」

「そろそろ寝るわよ」

「ええ」

その後、にこはμ'sの一員として、善子はAqoursの一員として活動することになった。

「私は絶対に負けないわよ」

「ん?にこっちなんか言った?」

「別に、何も言ってないわよ」

「そっか」

今日も私は全力で歌い、踊る。この大好きって気持ちをみんなに届けるために。
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