ラブライブ運営委員

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希-アイキャッチ6


「綺麗な海……いいところだって肌で感じるね」


 透き通る海の沿岸、紫がかった二つのおさげを揺らして一人の女性が深呼吸をする。


 初めて降り立つ沼津の地。百聞は一見に如かずとはまさにこのことだろう。


「ここがAqoursの生まれた場所なんですね……会うのが楽しみですっ!」


 横に立つのは少女……年齢的にはお姉さんだが。


 肩にかかる茶色の髪をふわふわと、しかし瞳にはメラメラと情熱を灯して。

pixiv: ラブライブ運営委員 by そら

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「……そうやねぇ」


「学校には既に連絡済みですっ!放課後ならいつでも良いとのことです!」


「それじゃあ早速行こっか。時間もいい感じやし」


 そろそろ夕焼けが差し込む時間。彼女たちも練習を始める頃だろう。


 最後にひとつ大きく深呼吸して、まだ青がかった海に踵を返す。


 スクールアイドルを訪問する者。それはファンか、記者か、はたまた――。


 そう、私たちは――――ラブライブ運営委員。








鞠莉「どうぞ」


「失礼します」


 数回ノックした後、理事長室と書かれた扉をくぐる。


鞠莉「ようこそおいでくださいました。私がこの浦の星女学院の理事長、小原鞠莉と申します」


 どうぞお掛けください、とソファーを勧められ同時に名刺も交換。


「……本当に学生と理事長を兼任されていらしたのですね」


鞠莉「ふふ。えぇ、よく言われるんです」


「そんな中で鞠莉ちゃ……っと、小原さんはスクールアイドルもされてるんですよねっ!?」


 この子はまた……高校の頃からアイドルのこととなると目がないんやから。今は仕事中。


鞠莉「そうですね。少し大変ではありますが楽しくやらせてもらってます」


 一息置いて小原理事長は表情を変える。


 それは理事長に相応しい眼光の鋭さ。


鞠莉「本日の要件はそのことで?」


「……いえ、小原さん個人にもお話は伺いたいですが……今回はAqours全体のことをお話したいと思ってます」


鞠莉「あら、そうなの?なぁ~んだ……」


 と、小原さん……いや、鞠莉ちゃんと呼ぶべきか。


 雪崩れるように脱力して表情を和らげる。


鞠莉「ラブライブ運営がわざわざ私のところに来るもんだから何かやらかしたのかと思ったわ……」


「あはは……すみません。学校に問い合わせたら理事長が対応してくれるとおっしゃていたと聞いたので……」


「今日はAqoursから三人にお話したいと思ってます!」


「学生でありながら理事長である小原鞠莉さん、Aqoursのリーダーである高海千歌さんと――」




 ――コンコン、と。話を遮るノックオンが響いた。




鞠莉「……?はぁい、どうぞ」


「失礼しますわ」


「――噂をすればなんとやら、ですね」




ダイヤ「すみません、鞠莉さん。生徒会のことでちょっと聞きたいこ……と…………が…………」


鞠莉「…?ダイヤ?」


ダイヤ「な……な…………!?」


「こんにちは、ダイヤちゃん」


「やっぱり映像で見るより生のほうが断然かわいい!!」




ダイヤ「みゅみゅ、μ'sの東條希さんと小泉花陽さんーーーー!!?」


鞠莉「へ?」


希「あら、ばれてもうた」


ダイヤ「ぴ……ぴ…………きゅぅぅぅぅ~………」バタッ


鞠莉「ダイヤ!?ちょっと大丈夫!?」






ダイヤちゃんをソファーで休ませてる間に鞠莉ちゃんが千歌ちゃんを連れてきてくれました!


花陽「はぁあぁぁあ~~千歌ちゃんもかわいい~~!」


千歌「いやいやそんな~~~でへへ///」


希「突然ごめんなぁ。ウチの助手さん、アイドルを前にすると熱くなりすぎちゃうよ」


花陽「写真撮ってもいいですか!?あ、サインとかもお願いします!!」


千歌「写真!?むしろ千歌からお願いしたいです!!…………はぁ~、あの花陽さんとの2ショットなんて奇跡だよぉ~」うっとり


鞠莉「ダイヤも千歌もμ'sの大ファンだから……むしろ名刺もらったときに気づかなくってすみません」


希「いやいや、ええんよ。それより練習抜けて大丈夫なん?ウチらは終わってからでもええんやけど……」


千歌「あぁもうぜんっぜん大丈夫です!!あ、なんなら他のみんなも呼んできて――ルビィちゃんなんか花陽さんの大ファンですし!」


花陽「え、ほんと?何だか照れちゃいます……///」


 これはもう……仕事どころの話じゃなくなってきたなぁ。


鞠莉「ちょっと千歌っち?先方はお仕事で来られてるのよ?少しはわきまえなさい」


千歌「はぁ~い。でも後ならいいよね?」


花陽「もちろんです!こっちから会いに行っちゃいます!」




ダイヤ「ん……んぅ……」


希「あ、ダイヤちゃん。目が覚めた?」


ダイヤ「ここは……って何故のんたんが目の前に!?」


希「…………さすがにこの歳でのんたんって呼ばれるのは恥ずかしいわ……」


千歌「ダイヤさんいつまで寝てるんですか!?μ'sの二人が目の前にいるんですよ!?」


鞠莉「こら千歌っち。話が進まないからちょっと黙ってなさい」


 怒られてしゅんとなってる千歌ちゃんもかわいい♪


鞠莉「ダイヤ、体は大丈夫?いきなり倒れたからびっくりしたのよ?」


ダイヤ「え、えぇ……いまいち状況が掴めませんが体調に問題はありませんわ」


希「ならよかった。……あんまり練習時間を削るのもあれやから早速いいやんね?」


鞠莉「えぇ。よろしくお願いします」


希「では、改めまして……」






希「初めまして。ウチは……私はラブライブ運営委員の東條希です。細かい所属などは省略しますが、主にラブライブに出場するグループのサポートなどを担当しています」


花陽「同じくラブライブ運営委員の小泉花陽です。私はまだ正式な委員ではなく、大学に通いながら助手として東條さんをアシストしています」


ダイヤ「!」


 『ラブライブ運営委員』……その単語を聞いて千歌ちゃんも表情を引き締める。


希「本日はAqoursにお話を伺いたくて訪問させていただきました」


花陽「さしあたってリーダーの高海千歌さん、理事長であられる小原鞠莉さん、生徒会長の黒澤ダイヤさんにお話をと思った次第です」


ダイヤ「つまり、ラブライブ出場に関してのんたん……失礼、希さんたちが聞きたいことがあるということですわね?」


希「………………別にのんたんでも構わんよ」


千歌「のんたんの――」


鞠莉「千歌っち」


千歌「はい」


希「……。そこまで長い話ではありません」


 さっと小泉さんがメモの準備をする。優秀な助手に巡り合えてよかった。


希「2年前、Aqoursはラブライブへの出場を取り消していますよね」


千歌「え、でもそれは」


鞠莉「千歌」


千歌「っ!……」


 鋭い牽制に思わず押し黙ってしまう。でもそれはあの三人がちょっとすれ違っていただけで……。


ダイヤ「……確かにあのとき、わたくしと鞠莉さん、そして果南さんの『Aqours』は事実上解散しました」


鞠莉「当然、ラブライブにも出られないってわけね」


希「はい、ですがそれは過去のことです」


 その一言に皆が疑問の表情をする。


 無理もない。聞きたいことは……お願いしたいことは本当にしょうもないことだから。


希「スクールアイドルの性質上、メンバーが入れ抜けするのは仕方のないことです」


希「2年前、そして今年もまだ半分も過ぎていないのに、浦の星女学院のAqoursはメンバーが不安定すぎるんよ」


千歌「!!」


 思い当たる節はたくさんあった。極めつけは予備予選の『想いよひとつになれ』だろう。


 梨子ちゃんを欠いたそれは……果たして私はAqoursだと胸を張って言えるだろうか。


鞠莉「……それで?」




希「Aqoursが次に出場する東海地区予選。登録楽曲『MIRAI TICKET』」


希「ちゃんと九人欠けることなく出場できる……?」




ダイヤ「……?当然九人で出ますわよ。ね、千歌さん」


千歌「えっ?あ、はい!もちろん九人で出ます!」


希「……そっか」


花陽「希ちゃん……」


希「話はこれだけや、時間を取らせてごめんな」


鞠莉「え、これだけなの?なんか当たり前のことを聞かれただけのような……」


希「誰一人欠けることなく出場する。聞きたかったのは本当にこれだけなんよ」


 誰しもがポカーンとする中、花陽ちゃんがかばんをあさりながら言う。


花陽「いまやAqoursの人気もすごいからね。もし誰かが出られないのなら、私たちがサポートする予定だったの」


希「折角ここまで来たんやからな。みんなで一緒にやり遂げてほしいやん」


ダイヤ「……何故、そこまでしてくださるのでしょうか」




希「……限られた時間の中で、精一杯輝こうとするスクールアイドル。そんな彼女らの夢、希望は些細な壁で押しつぶされたらあかん」


花陽「だからできる限りの支援を運営側からしていこうってことになってね」


希「誰でも輝ける。誰にでも輝いてほしい。実力主義になりつつあるラブライブをいい意味で変えていこう」


花陽「そのためにグループの相談とか要望とか聞いて回ったりしてるの」


希「『PERFECT Dream Project』――――それをウチらはこう呼んどる」


千歌「『PERFECT Dream Project』……」




希「ま!話はこれで終わりや!」


花陽「さぁみんなのところに行きましょう!ばっちり写真を撮らせてもらってもいいでしょうか!?」キラキラ


千歌「お、いいですね!みんな絶対驚きますよ!」


 わいわいと、さっきまでの空気が嘘みたいにはしゃぐ千歌ちゃんと花陽ちゃんに。


 若干の後悔を残して、ウチも二人についていく。


 苦い顔をした三年生二人に気づかないふりをして……。








希「…………」


 練習終わり、といってもほとんど練習になっていなかったが。


 夕焼けが時機に沈む頃、一人浦の星の屋上に佇む。


 ……どうやら一人ではなかったらしい。


ダイヤ「こんなところで一人、どうされたんですか」


希「いやぁ、なんか高校の頃を思い出すなぁって思ってな」


ダイヤ「μ'sの練習話ですか、それもそれで聞いてみたいですわね」


希「ふふ、また時間があればゆっくりお話しような」


ダイヤ「えぇ、約束ですからね?エリーチカの話も聞いてみたいですし!」


 ……ダイヤちゃん、ちょっと鼻息荒いよ。


希「……」


ダイヤ「……」


 静寂があたりを包むこむ。けれど気まずさや恥ずかしさはない。


 ある種の信頼とでもいうのだろうか。ダイヤちゃんなら、何を言っても受け止めてくれる。そんな気がする。


ダイヤ「……いまこの時まで尋ねるかどうかずっと迷っていたのですが、聞いてみることにします」


ダイヤ「今日の本来の目的は何ですの?」


希「……ダイヤちゃんにはかなわんなぁ」


希「…………うちの本当にしょーもない願い、聞いてくれるか……?」


ダイヤ「もちろん」




希「――――Aqours九人での出場を、やめてほしい」


ダイヤ「……」


 ダイヤちゃんはじっとウチの目を見て黙ってる。真剣に話を聞いてくれるということだ。


希「別に予選を辞退してほしいってわけやない」


希「ダイヤちゃんと、鞠莉ちゃんと、果南ちゃんの三人だけで出てほしいんよ」


ダイヤ「どういうことですか?」


希「2年前に見ることのできなかった『Aqours』をもう一度見たい。結果を残してほしい」


ダイヤ「……2年前、リーダーであったわたくしにも責任の一端はあります」


希「…………違う」


ダイヤ「あのとききちんと運営と話をしていれば。果南さんと鞠莉さんと話していれば」


希「……違う」


ダイヤ「わたくしが一人でも踊っていれば」


希「違う!!」


ダイヤ「別に誰が悪いとかではありません。成るようになった結果があぁだっただけです」


希「それでもあの時――」


ダイヤ「希さんは何も悪くありません。むしろ感謝しています」


希「……っ…………」


ダイヤ「そして貴方の願いに応えましょう。今のAqoursは九人です。三人で出ることはありません」


希「……そっか」




ダイヤ「……そもそもAqoursとは」


希「?」


ダイヤ「わたくしたち(ours)が、まるで水(aqua)のように形を変えても一つの塊になる。想いはひとつになる。たとえその量が増えてもそれは変わりません」


ダイヤ「ゆえにAqoursと……あの子たち三人にその名を託しました」


ダイヤ「今、Aqoursの名を背負っているのはわたくし達三人だけではありません。ですので……」


希「うん……うん……わかってたよ。それで正解なんよ」


希「そんな話聞かされたら……もう引き下がるしかないやん……!」


ダイヤ「希さん……」


希「ウチが……ウチがどんな想いで『μ's』って名付けたか……!!」


希「あの九人やからやってこれた。Aqoursも、今の九人やからここまでこれた……!」


希「……ダイヤちゃん、ごめんな。こんなしょーもない願いに真剣に応えてくれて」


ダイヤ「そんなことはありません。わたくしにはこれくらいしか出来ませんので……」


希「そんなことないと思うけどな~~。あ、それじゃあお礼にウチができることなら何かしてあげるやん!」


ダイヤ「えっ!?生希パワーを頂けるのですか!?」


 わいわいと、二人で笑いあう。

 
 今は今。昔は昔。きちんと整理をつけないとずっと囚われたまま。




花陽「……よかったね、希ちゃん」






ダイヤ「あ、そういえば」


希「ん?どうしたん?」


ダイヤ「『PERFECT Dream Project』……要望を聞いてくれるんですわよね?」


希「お、なんやなんや。何かあるん?」


ダイヤ「ちょっと千歌さんとこんなことしたいって話してて――――」








 東海地区予選。運営席から花陽ちゃんと一緒にAqoursのステージを見る。


花陽「まさか劇をしたい……なんて、よく上の許可をもらったね」


希「あはは……ダイヤちゃんに何でもしてあげるって言っちゃったから……」


花陽「まぁこれも『PDP』の大きな一歩と思えばいいんだろうけどね……」


希「……」


花陽「……本当によかったの?」


希「うん」


花陽「ならいいけど……」




  Aqours「MIRAI TICKET かざして~♪」




希「……うん!めっちゃ楽しそうやん!それだけでうちは嬉しいよ」


花陽「……私たちも、あんな感じだったのかな?」


希「そうやと思うよ!なんてったって、あの時めっちゃ楽しかったから!」


花陽「うん!そうだね!!」


希「……さて、ウチはそろそろ行こうかな」


花陽「最後まで見ていかないの?」


希「……あの子たちなら、大丈夫や」


 と、そう言い残して踵を返したとき。


運営「あ、いた!東條さん!」


希「……?はい、どうされました?」


運営「これ、Aqoursの黒澤ダイヤさんから預かってまして。もしいたら東條さんにと」


花陽「ダイヤちゃんが……?」ひょこ


 手渡されたのは一枚の無地のディスク。

 
 ただ表紙に一言『Aqours』とだけ書かれている。


希「……花陽ちゃんも見る?」


花陽「見ます!」








 予選敷設事務所にあるPCにディスクを挿入する。


 どうやら20分弱の動画らしい。




ダイヤ『まさか本当に船上パーティをするなんて……』


鞠莉『いいじゃない!地区予選に向けて景気づけよ!』


果南『まったく、鞠莉のやることはいつも突然なんだから……』




 そこに映ったのは、いつかの日からはるかに成長した三人の姿で。


 どうやらウチたちが訪問した後に撮った動画のようだ。




ダイヤ『ぴぎゃっ!?』


鞠莉『あはははは!!』


果南『もう何やってるのさダイヤぁ~!』




 それはどこまでも楽しそうで。


 見ているこっちまで楽しくなってくる。





 終盤、ラスト4分。三人が壇上へと上がる。


 豪華客船で、花も恥じらう程のドレスを着飾り。


 優雅に、ときにお茶目に、そしてただひたすらに――楽しそうに。


 タイトルは、『G線上のシンデレラ』





誰を呼ぼうか――――1人より三人が盛り上がるから。


独奏曲(アリア)は眠くなっちゃうから――――それなら三人で歌おう。


ずっと踊ろう――――1人では踊れないから三人で。





 そして、曲が終わる。その時壇上にはバックダンサーとして控えていた6人も加えた九人で。





三人よりも――――九人のほうが盛り上がるから。


三人で歌うよりも――――九人のほうが楽しくなるから。


ずっと踊るなら――――この九人で踊るのが最高だから!






希「……あかん。泣いてしまいそうや」


花陽「希ちゃん……ずっと後悔してたもんね。2年前、東京のイベントに『Aqours』呼んだこと」


希「ウチがあのとき呼ばなければ、『Aqours』はもっと大きく羽ばたけたかもしれない」


花陽「でも『もしもは欲しくない』んでしょ?」にこ


希「……はは、あははは!」


希「その通りやで!ウチらは今!困ってるかもしれないスクールアイドルをサポートするのが仕事や!」


花陽「はい!それでこそ希ちゃんです!」


希「よっしゃ!ほないくで!」


花陽「あっ!ちょっと待ってよ~~!!」



  おわり
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