リトルデーモンは甘え上手

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ルビィ-アイキャッチ4


 最近は暑くなったり寒くなったりを繰り返して落ち着かない日が続いていたけど、今日は久々に穏やかな天気。
 まさに秋うららの堕天日和……だというのに。

「ねえルビィ」

「なあに、善子ちゃん」

 いつもなら、ヨハネよ、と大声で自己の真名を訂正するところだけど。
 今はそれよりも何よりも言わなくてはいけないことがあった。

「重いんだけど」

 今私はルビィを膝に乗せている。乗せているというか、気づいたら勝手に座られてたんだけど。

pixiv: リトルデーモンは甘え上手 by あめのあいまに。

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 確かに部室でうたた寝していた私も悪いかもしれない。
 鍵もかかってないところで一人寝ていたら危ないって、リトルデーモンなりに警告をしてくれたと捉えられなくもない。
 これが他のCYaRon!組だったりマリーだったりしたら、もっと大変ないたずらをされてたかもしれないし。
 だからって、ずっと座られたら流石に痺れてくるし辛いんだけど。

「ルビィ重くないもん」

 私の気持ちなどお構いなしに、ルビィは眼前で髪をぴょこぴょこと揺らして憤る。
 まあ確かにルビィは平均と比べても軽い方だけど、それはあくまで体重計の上での話であって。
 ヨハネの足は体重計と違って人を乗せるように設計されていないの。

「もうルビィは怒りました」

 怒りたいのはこっちの方よ、とは言わない。
 今余計なことを口にしたらもっと面倒なことになりそうだし。
 とりあえず黙って要求を聞きましょうか。

「善子ちゃん、あれやってよ」

「あれって?」

 聞き返したらまた機嫌を損ねるかもと思ったけど、ここは正直に尋ねる。
 だって、ツーと言えばカー、とは残念ながらいかない。
 あれやってとか、それ取ってとか、指示代名詞で言われてもなんのことだかさっぱり分からないし。

「こう、後ろから抱きしめるやつ」

 不満そうになりながらも今度は説明するルビィ。
 なんなの、そんなにやってほしかったの?
 というか理解はできたけど、そんなの恥ずかしいじゃない。

「いや」

「善子ちゃんに拒否権はありません」

 なんて強情な。
 最初はあんなにおどおどしてたのに、どうしてこうなってしまったのかしら。
 あの頃の可愛らしかったルビィはどこへ……。
 というかさっきから動くたびに髪が当たってこそばゆいんだけど。

「あら、シャンプー変えたの?」

「……!」

 その瞬間、物凄い勢いでルビィが弾けるように飛んでいった。

「善子ちゃん、気持ち悪いよ」

 ええ、私が悪いの?
 だって目の前に髪があったらどうしようもないじゃない。
 まあでも、ルビィをどけるという第一目標は達成したから良いか。
 その代わり大事なものを犠牲にした気がするけど。

「ちなみにだけど」

 ルビィはもじもじと体を揺らしながら口を開く。
 気持ち悪いのは一体どっちよって話。

「善子ちゃんはどっちの匂いが好き?」

「シャンプーの話? 今の方かしら。前のも良かったと思うけどね」

「そっかー、えへへ」

 ルビィはにまにまとだらしない笑顔を浮かべてこちらへとやってくる。
 一瞬で顔の筋肉が溶けちゃったみたい。
 というかこれ、まずいやつなのでは?

「ぎゃー」

 危機を察知して立ち上がろうとしたけど、足が痺れて動けなかった。
 そしてその上にぽふりと、ルビィが再び腰を下ろした。

「え、叫ぶほど重かった?」

 若干不安そうにルビィがこちらを向く。
 さっきの言葉、気にしてたのね。

「いえ、違うの。足が痺れてたから……」

「なぁんだ。良かった」

 ちっとも良かないわよ。
 ルビィは安心したような表情を浮かべるけど、状況が分かったなら早くどいてほしかった。

「ねえ」

「どかないよ?」

 みなまで言う前に遮られてしまった。
 そのままルビィは胸に頭を預けてくる。

「ほら、善子ちゃん」

「仕方ないわね」

 ここまで来たら何を言っても無駄ね。
 そう悟って私はルビィの体に手を回す。
 本当、甘えん坊なところはいつまで経っても変わらないんだから。

「こんなの、他の人に見られたら愧死ものね」

「きし?」

「恥ずかしくて死んじゃうってこと」

 まさかこの私がリトルデーモンの椅子に成り果てるなんて。
 ヨハネも丸くなったものね。
 なぜだかルビィのお願いってあんまり断れないのよね。
 やっぱり妹だし、天性の甘え上手ってやつなのかしら。

「誰か来ないかなー」

「私の話聞いてた!?」

 なんなの、ルビィは私のことを殺したいの?
 そういえば愧という字は小さい鬼、すなわちリトルデーモン。
 これはリトルデーモンによってヨハネが死ぬということを示しているのでは……。
 ううん。ヨハネはリトルデーモンなんかに絶対負けたりしないんだから!

「善子ちゃんを独り占めー」

「ちょっと」

 ピロンと音がして、直後にスマホが振動。
 見るとAqoursのグループLINEに今の私たちの姿が。
 ああ、終わった。今週はこれをネタに弄られ続ける日々になるわ……。

「なんだか眠くなってきちゃった」

 一人憂鬱になっている私を余所にルビィはどうやらおねむの時間みたい。
 短い間に散々振り回されたけど、やっと終わりが見えてきたわ。

「あんた本当自由ね」

「善子ちゃん、あったかい……」

 目を瞑ったルビィの頭を優しく撫でてあげる。
 サラサラの髪の手触りが心地良い。

「なんだか私も眠くなってきちゃった」

 中途半端なタイミングで起こされたせいか、一度は去った睡魔が再び襲ってきた。
 ルビィの寝息を子守唄に、私も気づけば意識を失った。





 ううん、うるさいわね。
 断続的に小さな物音がして私は目を覚ました。

「あ、起きちゃった」

「グッモーニン、良い夢見れた?」

 寝ぼけ眼をこすると、目の前にはAqoursが勢ぞろいしていた。
 さっきのLINEを見て集まってきたのね。野次馬根性ってやつ?
 皆揃いも揃って暇なんだから……はあ。最悪。めっちゃ恥ずかしいんだけど。

「ちょっと、ルビィ起きなさいって」

「うぅん……」

 駄目だ、起きない。
 体をゆすってみるもののルビィは夢から覚める気配もなく。
 その小さな手は私の服をぎゅっと掴んで、どかそうにもどかせない。

「二人ともとっても仲良しずら」

「ラブラブだねー。見てるこっちが熱くなっちゃう」

 ルビィが起きるまでやり過ごす?
 いや、このままからかわれ続けるのは私のハートが耐えられない。
 私は痺れた足になんとか力を入れて、ルビィの体を支えつつ起き上がろうとする。

「やった……きゃ」

 立ち上がれた、と思ったのも束の間。
 力の入らない足は一瞬で崩れて私はルビィを抱えたまま倒れこんでしまった。

「うゅ……あ、善子ちゃん」

「良かった、起きたのね」

 でもその衝撃でルビィが目を覚ました。
 私は床に背中を打ちつけたけど、とりあえずルビィに怪我はないみたいだし、とっととどいてもらいましょう。
 そう思ったんだけど。

「わぁい、善子ちゃんだーいすき」

 まだルビィは寝ぼけていたのか、私に抱き着いてきた。それどころか頬っぺたに、その、キ、キスを。
 そしてそのまままたルビィは眠りについてしまった。
 思い切り抱き着かれて苦しかったけど、私はそれどこじゃなかった。
 なんたってこれはAqours全員に見られてるわけで。

「だ、駄目だよ、よっちゃん。二人はまだ学生なんだよ」

 暴走するリリーは置いておいて、その横に佇むダイヤ。
 静かな雰囲気で表情もけして険しくないけど、その姿を見た瞬間に肌をひりつかせるような緊張感が全身を襲った。
 ああ、修羅はここにいたのね。

「善子さん、少しお話があります」

 確かに私はちょっと他の人と価値観も違って、ダイヤを困らせることも多かったけど。
 ちょっとテンション上がちゃって迷惑かけたことも多かったけど。
 でも今回に関しては私に非は全くないと思うんだけど?

 でも、これから始まるであろうお説教を止めてくれる人は誰もいない。ヨハネの言い訳もダイヤには届かない。
 唯一私を弁護してくれそうな子は、今もまだぐっすり眠っているわけで。
 はあ。やっぱりヨハネって、不幸ね。

 もし生きて帰れたら、今度は私がルビィに甘えよう。
 そんなことを思って、私は覚悟を決めたのだった。

おしまい
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