凛 「私の紡いだもの」

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凛-アイキャッチ37

μ'sをおしまいにしてから5年後。

私達はいつの間にか伝説の人間になっていた。

だけど、これはいいことばかりじゃなくて、周りからの目はいつも期待に溢れていた。

何をするにも期待を寄せられて生活、その中で私は精神を摩耗し、疲れてしまった。

そうなってからよく考えるようになったことがある。

嵐のように現れて、スクールアイドルの基盤を作り出した存在、μ's、A-RISE。

A-RISEも今は活動を終了し、各々で頑張っている。

μ'sもA-RISEもたくさんのものを残していった。

じゃあ──私は何か残せただろうか?

pixiv: 凛 「私の紡いだもの」 by アルト

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困ったことに、克服したように見えた自分への自信のなさは心の根底に住んでいるようで、こうなってからはまた考えるようになってしまった。

真姫 「…はぁ、貴女、またそんなこと言ってるの?」

凛 「そんなこと言ったって…」

真姫 「黒髪ロングにしたと思ったらもしかしてそれが原因?」

凛 「…そうだね」

真姫 「…わかったわ、会社休んでどっか旅行行ってきなさい」

凛 「そういう訳にもいかないよ、凛のことみんな期待して──」

真姫 「だーかーらー、そういうことから一旦逃げなさいって言ってるのよ」

真姫 「期待のためにやることに意味なんてないわ。私達が決めたことだったでしょ?」

凛 「そうだけど…」

真姫 「はい、決まり。診断書とか出しとくからそれ見せて無理やり休み取りなさい」

凛 「う、うん…」


ーー
ーーー

凛 「とは言ったものの…どこ行こうかな…」

凛 「真姫ちゃんにオススメのところ聞いとくんだったよ…」

上司 「星空さん、大丈夫?」

凛 「あ、はい。すみません、突然休みなんて…」

上司 「いや、いいよ。最近は疲れているみたいだったし」

上司 「ところで、どこに行くとか決まってる?」

凛 「いえ、まったく…」

上司 「だったら私の地元に行ってみない?」

凛 「うーん…」

上司 「田舎町だからゆっくり出来るところだと思うんだけど…」

特に行きたい場所もないし、断る理由もないし、とりあえず行ってみようかな。

凛 「じゃあ行ってみます」

上司 「ほんとに!?いやー、嬉しいなぁ〜、場所はね──」

ーーー
ーー


凛 「鈍行で東京から2時間半くらい…ふぅ…お尻痛くなっちゃったよ…」

凛 「沼津…か」

初めて聞いた場所だった。

上司に簡単なメモを渡されたので、それを確認する。

凛 「お昼は海鮮丼を…って、凛魚苦手だし…」

そんな凛ちゃんのために、かき揚げ丼をオススメするよ!

凛 「…それだけ書いてくれればいいのに」

くすっ、として少し嬉しくなる

凛 「えっと…これだけ!?」

どこが見どころとか何も書いていない。

凛 「それだけ書いてくれればってそういう事じゃなかったんだけど…」

インターネットで検索してみたが、特に見どころらしい見どころは見つからなかった。

履歴を消すと、また振り出しに戻った。

凛 「はぁ…どうしよう…」

とりあえず駅周辺を彷徨くことにした。

そこで、ふと目に入った本屋に立ち寄る。

凛 (…やること無さすぎて本屋とか入っちゃったよ…凛本なんて読まないのに…)

読んでもファッション雑誌くらいのもので、とりあえず雑誌の棚を物色する。

すると、μ'sの特集記事が目に入った。

凛 (…見たところ1冊しか売れてないや。なんか複雑な気分…)

なんとなくそこに居づらくなり、外に出る。

とりあえず移動しようと思い、バス停に向かう。

凛 (っていってもどこ行けばいいかなぁ…)

悩みながらバス停付近をウロウロしていると声をかけられた。

??? 「あの…」

凛 「…ん?私?」

??? 「なにかお困りですか?」

凛 「あ…えっと…」

とりあえずその子に今までの経緯を説明した。

よく見ると背中に風呂敷を背負っている。

今の時代に風呂敷を背負っている少女を見る機会があるなんて思ってもみなかった。

…米俵を背負っている女の子なら見たことあったけど。

凛 「で、どうしようってなってた所…」

??? 「あはは、凄くわかります。バスの時刻表とかどこに行くとかって分かりづらいですからね」

??? 「良かったら私の知っている場所、ご案内しますよ?」

凛 「本当に!?助かるよ〜」

??? 「あ、申し遅れました。私の名前は国木田花丸っていいます」

凛 「花丸ちゃんかー、いい名前だね」

凛 「私の名前は──」

ここで自分の名前を言うべきだろうか。

言ったらまた期待や羨望の眼差しを向けられるのではないだろうか。

凛 「──小西空、呼び方はなんでもいいよ」

花丸 「それじゃあ空さんって呼ばせてもらいますね」

私は逃げる道を選択した。


ーー
ーーー

凛 「…」

バスの窓から景色を眺めてみる。

なんというか──

花丸 「何も無いですよね」

凛 「えっ?」

花丸 「この辺、何も無いですよね」

その言葉には劣等感や悪意のようなものは感じられず、むしろそんなこの街が好きと言っているように聞こえた。

凛 「そういう割には結構好きそうだね」

花丸 「はい、いい街だと思ってます」

凛 「…そっか」ニコ

『次は、島郷、島郷、お降りの方はお手元のブザーをお押し下さい』

花丸 「空さんは東京から来たんですよね?」

凛 「うん、そうだよ」

花丸 「と、東京ってどんな所なんず──ですか…?」

凛 「うーん…どんな所か…」

凛 「一言で言えば…険しい所、かな」

花丸 「け、険しい…」

凛 「そっかー、東京に行ったことないんだー」

花丸 「し、しっかり準備していかないと大変ずらか?」

凛 「ずら?」

花丸 「あっ!何でもないず…です!」

凛 「そうだね、しっかり準備して行ったほうがいいよ」

花丸 「こ、怖いずら…」

凛 「あははっ」

険しい所、か。

我ながら上手い言い方をしたものだ。

また窓から外を眺める。

目の前には海が広がっていた。

凛 「…綺麗」

花丸 「ですよね、だけどやっぱり田舎なんです」

寂しげな表情を見せてから続ける。

花丸 「…私の通っている高校、廃校寸前なんです」

凛 「…廃校?」

花丸 「はい、まだ決定という訳じゃないんですけど、沼津の学校と合併するって噂があって」

凛 「…そうなんだ」

一瞬ドキッとした。

脈が跳ね上がるのが感じ取れて、花丸ちゃんにも分かったんじゃないかと思うくらいだった。

花丸 「それで、私達スクールアイドル始めたんです」

凛 「………へぇ〜、今凄い有名なやつだよね?」

花丸 「はい、廃校を防ぐにはこれしかないっていって」

凛 「…そっか、頑張ってるんだ」

驚くくらいに私達と同じだった。

これも私達の影響なのだろうか。

心臓のドキドキが止まらなくなってきて、少し気持ちが悪い。

花丸ちゃんの顔を見てみると、なんだか見覚えのある顔をしていた。

凛 「…何かあった?」

花丸 「えっ?」

凛 「私、そういう顔してる人のこと知ってる気がするんだ。だから…何かあったのかなって」

いや、本当はもう誰のことか分かっている。

花丸 「…マル…本当はすごく不安なんです…」

凛 「…不安…なの?」

花丸 「…はい、大切な友達がやりたいって言ってて、最初は友達のために一緒に始めたんです」

ああ──

花丸 「だけど、やってみたら凄く楽しくて、みんなに後押しされる形でやってみたんです」

やっぱりこの子──

花丸 「でも、マルはピアノも弾けないし、オシャレとか分からないし、向いてないんじゃないかって…考えちゃうんです」

凛と同じなんだ──

花丸 「やるって言ったからにはしっかりやるつもりです…だけど、私に向いてるとは思えないな、って…」

凛 「…」

花丸 「…ご、ごめんなさい!見ず知らずの人にこんなこと言ってしまって…」

凛 「…花丸ちゃん、この後時間ある?」

花丸 「は、はい。今日一日特にやることないですけど…」

凛 「じゃあ沼津、戻るよ!」

花丸 「え…?」

『次は伊豆・三津シーパラダイス、伊豆・三津シーパラダイス、お降りの方は──』

ピンポーン

凛 「大丈夫!お金なら私が払うからっ!」

花丸 「えぇ〜!?」


ーー
ーーー

凛 「よっし!着いた!」

花丸 「と、突然どうしたんですか!?」

驚いている花丸ちゃんを尻目に服屋を探し始める。

凛 「洋服屋さん、行っくにゃ〜!」

花丸 「あっ、ちょっと待っ──」

とりあえず目に入ったお店に駆け込んでいった。


ーー
ーーー

凛 「うんうん!似合ってるよ!」

花丸 「こ、こんな服…着たことないずら…」

凛 「じゃあ練習着はどんなの使ってるの?」

花丸 「えーっと、お、おふしょる?の下にたんくとっぷ着て…下はすうぇっとみたいなズボン穿いてます」

凛 「ふふっ、そっか〜」

自然と笑顔になってしまう。

凛 「よーし!それ買ってあげる!」

花丸 「ええっ!?大丈夫ずらよ!そ、それにオラには似合わないずら…」

凛 「うーん、じゃあこうしよっか!」

凛 「着たくなったら着なよ!とりあえず買って帰って、気が向いたら着ればいいよ!」

花丸 「そ、そんな…」

凛 「はい!きーまり!行くよ〜!」


ーー
ーーー

花丸 「ほ、ほんとに良かったんですか…?」

凛 「全然気にしなくていいよ〜」

花丸 「で、でも…」

凛 「いつか着てくれたらそれでいいって」

花丸 「は、はぁ…」

凛 「…誰だってさ、自分に自信なんて持てないんだ」

凛 「それはどんな人だってそう。どんなにしっかりしている人だって本当は心のどこかで拠り所を求めているの」

凛 「だから、自分を見せてあげないと」

花丸 「自分を…」

凛 「うん、そしたら花丸ちゃんが友達の背中を押してあげたみたいに、誰かが花丸ちゃんの背中を押してくれる。絶対に!」

凛 「逃げたくなったら少し…逃げるのもいいと思うよ。みんな必ず助けてくれるから」

ははっ、と心の中で笑う。

まるで自分に言い聞かせているようだ。

懐かしい思い出がまた蘇ってきて、目の前が少し霞む。

また背中を押してもらっちゃったね。

花丸 「…オラとかずらとか言ってもいいのかな?」

凛 「うん、いいと思うよ」

だって私だってにゃーにゃー言うし。

花丸 「…そっ、か…」

凛 「…じゃあ、私はそろそろ行くね」

花丸 「え?このまま帰るんですか?」

凛 「なんかもうスッキリしたし、大丈夫!」

花丸 「…そうですか、じゃあここでお別れですね」

凛 「…うん、だけどまた来るよ!」

凛 「…今度は星空凛として、ね」ボソッ

花丸 「え?」

凛 「ううん、何でもない。じゃあね」

花丸 「あのっ!本当にありがとうございました!」

凛 「ふふっ、大丈夫にゃ!」

ーーー
ーー


──時が経って──

凛 「いただきまーす!」

今日もいきつけのラーメン屋でいつものとんこつラーメンをすする。

『今日はスクールアイドル特集!最近人気急上昇中のスクールアイドル!Aqoursの皆さんです!』

凛 「…」ズルズル

すすりながらもテレビを眺める。

千歌 「えーっと、みなさんこんにちは!静岡県の沼津市から来たAqoursです!」

凛 「…ん?」

沼津って昔凛が行った場所だったよね?

千歌 「高海千歌です!」

曜 「渡辺曜です!ヨーソロー!」

梨子 「桜内梨子です。よろしくお願いします」

凛 「あ……あぁ〜〜!!」

花丸 「国木田花丸です!テンション上がるずら〜!」

凛 「花丸ちゃぁん!!」

ラーメンを食べるのも忘れて画面に見入ってしまう。

他のメンバーの自己紹介も耳に入らないくらいに興奮していた。

『次に国木田さんに聞いてみようと思います。ずら、ってなんか凄いですよね〜、方言みたいで』

花丸 「はい!でも自分のお気に入りずら!」

『なるほど。憧れの人は誰かいますか?』

──そりゃそうだよ。

花丸 「…μ'sの星空凛さんです」

『あの伝説と呼ばれるスクールアイドル、μ'sの星空凛さん!いいですね〜』

──だって。

花丸 「この服、凛さんの練習着に凄く似ているんです。それに、私の背中を押してくれた大切な人の一人からのプレゼントでもあるんです」

──その服は私があの時プレゼントした洋服だったから。

花丸 「始める時も、凛さんの姿勢が最後の一押しをしてくれました」

凛 「……ああ、なんだ…」

涙がとめどなく溢れてくる。

凛も…こんなに大きなものを残せてたんだ。

私達の想いも、私の想いも、届いていたんだ。

スクールアイドルが紡いだこの時代。

凛 「…私も──」

今日のラーメンはいつもよりちょっぴりしょっぱい味がした。
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