千歌 「曜ちゃんはどうするの?」 曜 「私は…」

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曜-アイキャッチ9
あなたは夢を持ってる?

夢を叶えるのは大変なことだけど、見つけるのはもっと大変なことだよね。

さらに、変えるのはもっと大変なこと。

知らない世界へと一歩踏み出すのは勇気がいることで、なかなか簡単に出来ることじゃないんだ。

じゃあ、その一歩を後押ししてくれるのはなんだと思う?

さあ、新しい青春を探そう──

pixiv: 千歌 「曜ちゃんはどうするの?」 曜 「私は…」 by アルト

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ーー
ーーー

曜 「…とりあえず大学に行くつもり」

千歌 「ふーん、そっかー。いいな~、みんな大学行けて~」

梨子 「千歌ちゃんは旅館を継ぐの?」

千歌 「一応そういう形になってるんだけどさ、美渡ねえも志満ねえもいるから私じゃなくてもいいんじゃないかなーって思ってるんだ」

曜 「三人の若女将になるのかな?それはそれで面白そうだねっ!」

千歌 「私こき使われすぎて死んじゃいそうだよぉ…梨子ちゃんは音大だっけ?」

梨子 「うん、海外に行っちゃうから皆になかなか会えなくなっちゃうね…」

千歌 「メールとか電話とかたまにはしてよね?ずっと会えないのは寂しいんだよ?」

梨子 「私だって寂しいわよ。でもそれぞれのユメのためでしょ?ユメ語るよりユメ歌わなくちゃ」

曜 「あはは!流石梨子ちゃん、上手いね~」

千歌 「もう!そうやって言われるの結構恥ずかしいんだからね~!」

曜 「アハハハっ!」

曜 (…私はどうするべきなのかな?)


ーー
ーーー

今までなんでも器用にこなしてきた私は大抵の事を途中で辞めてしまっている。

唯一続けてきたのが高飛び込みだったが、それも千歌ちゃんに誘われたAqoursの活動で疎かになっていった。

最終的には強化選手になったのにも関わらず、キッパリと辞めてしまってAqoursに専念していた。

高飛び込みでオリンピックが夢だった、とは言わない。

ただ、辞めてしまったことに後悔がないとも言えない。

そんなことを考えている間にも、時間は無情に過ぎていく。

気づけば私は高校を卒業していた。


ーー
ーーー

千歌 「遂に高校を卒業しちゃったね…」

梨子 「私は明日にはもう内浦を出ちゃうから皆に会えるのは今日が最後かな…」

善子 「まったく…夏休みとかには戻ってきなさいよね?」

梨子 「夏休みと春休みくらいは戻って来れるといいなぁ…でも忙しいって聞いてるからもしかしたら…」

千歌 「ダメだよ!絶対戻ってこないと!」

曜 「千歌ちゃん…そこは梨子ちゃん応援してあげようよ…」

花丸 「浦女はマルたちに任せて!」

ルビィ 「Aqoursで紡いだ想いは無くさせないから!」

千歌 「…うん、安心だ」

曜 「…じゃ、行こっか」

梨子 「…うん」

──時が経って私達は少しづつバラバラになっていく。

別に友達じゃなくなる訳でもないし、二度と会えなくなるわけでもない。

だけどやっぱり──寂しいんだ。


ーー
ーーー

キーンコーンカーンコーン

「しっかり復習しておくように」

ザワザワ ガヤガヤ

曜 (ふぅ…大学の授業って結構楽しいんだなぁ…最初はあんまり行く気ないなんて思ってたけど最近は友達も増えたし内容も面白いし、なんだかんだ入ってよかったかも…)スタスタ

あれからもう一年経った。入ったばかりの頃は色々と不安を抱えていたが、1年も居れば慣れてしまうものだ。今はそれなりに楽しくキャンパスライフをエンジョイしている。

だけど、いつも心の奥底にモヤモヤしたものが残っている。

曜 「…」ピタッ

曜 (…なんかまだ帰る気が起きないし…少しベンチにでも座っていこっかな…)

ドスン、という音が聞こえる勢いでベンチに腰掛ける。

曜 「…はぁー」

大きな溜息を吐きながら上を見上げると、ポッカリと蒼い穴が空いていて、周りを囲うように葉桜が揺れている。

なんというか…歳をとった。

たった一年、されど一年。自分と周りの環境は随分と変化してしまった。

曜 (…もうヨーソローとか言う元気ないよ…)

今の私はもう輝けないだろうなぁ、と燦々と輝く太陽に思いを馳せてみる。

曜 「…」スッ

太陽に向かってゆるゆると手を伸ばし、握ったり開いたりしてみる。

周りの学生達がくすくすと私のことを笑っているように聴こえたが、そんな事は気にならなかった。

曜 「…はぁ」

しばらくそんな事をしてから、疲れてきた頃にバタッ、と手を落とす。

木製のベンチに結構な勢いでぶつかった私の手は鼓動に合わせてじんじんと痛みだした。

桜は散ってしまい、周りを見渡せばどこもかしこも翠色に染まっている。

曜 (…春ももう終わりか…)

こうやってゆっくりとしてみるのもいいものだ。深く考えているのはとても楽しい。ここに日本酒でもあったらもっと風流なのだろうか。

ときどき、小鳥が私の視界を遮るように飛んでは消え、微かに届く囀りを心の中で反芻する。

なんだか心地が良い、そんなことを考えながら目を瞑ると私は何かに包まれるように微睡みの中に沈んでいった。


ーー
ーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーーー

??? 「こんな所で寝ていると、風邪を引きますよ」

私を包んでいた繭のようなものがするすると解け、同時に瞼がゆっくりと開いてゆく。

木漏れ日の中から覗く顔は私もよく知った顔だった。

曜 「んぅ…ダイヤさん…」

ダイヤ 「おはようございます。お隣、よろしいですか?」

曜 「…はい」

どのくらい寝ていたんだろう。体感では5分程度にも思えるが、そういう時に限って1時間経っていたりするものだ。

ダイヤ 「今日は気持ちのいい天気ですね、私も授業中ウトウトしてしまって敵いませんでした」

うんと伸びをしながら話すダイヤさんは、普段のキリッとしたダイヤさんとは違った印象を与える。いわゆる、ギャップだ。

曜 「あはは、ダイヤさんでもそんな事あるんですね…」

ダイヤ 「残春の候と言ったところでしょうか。いくら私と言えども一人の人間です。こんなにも麗らかな日和では魔が差してしまいます」

曜 「…残春、か…やっぱりもう春は終わりですね…」

ダイヤ 「ええ、暦上では菖蒲の節句が立夏ですので。照りつける太陽が一層厳しいものになると思います」

──夏。

夏はなんだか懐古的な気分になる。別に何年に一度しかこないという訳では無いのに、この季節は私を郷愁の都へと誘う。

ダイヤ 「どうかしましたか?」

曜 「え?」

ダイヤ 「いえ、随分気難しい顔をしていらしたので」

曜 「あ、ああ…ごめんなさい、考え事してて…」

ダイヤ 「…まさか、授業中もそうやって現を抜かしていたのではないでしょうね?」

曜 「ぅえっ!そんなこと…あるかも」チラッ

ダイヤ 「ダメですよ!なんて…今の私は生徒会長じゃありませんから」フフッ

曜 「ふ、ふぅ…良かった…」

ダイヤ 「まあ褒められたことではございませんけど」

曜 「あはは…ダイヤさんは学生会には入らなかったんですか?」

ダイヤ 「はい、今は入る予定はありません。しかし、私ももう3年生ですからね。今後も入る事はないのではないかと思います」

曜 「そっかー、お堅くないダイヤさんって少し変な気がしますね」

ダイヤ 「そうですね、私も少し変だと思います。でも、今はそれでいいかな、と」

曜 「今はそれでいい?」

ダイヤ 「ええ、私がこうあらなければいけない、なんて事はないでしょう?だから今はそれでいいんです」

曜 「…そっか」

ダイヤ 「さて、私はこの後も授業がありますので…」スッ

曜 「うん、頑張ってね!ダイヤさん!」

ダイヤ 「ええ、また」

するりと歩くダイヤさんの後ろ姿を見送りながら、もう一度思考を巡らせる。

曜 (私がこうある必要はない、か…)

その言葉がやけに心に引っかかった。

ダイヤ 「あっ、そうそう──」

振り向かず私に声をかける。その後ゆっくりと振り返り、話を続ける。

ダイヤ 「夏の事を別の言い方でこう言うことがあります」

ダイヤ 「『朱夏』と」

曜 「…しゅ、か…?」

ダイヤ 「はい、それでは春はなんというか知っていますか?」

──春。

なんだろう。桜が舞う季節だし、桃春とでも言うのだろうか?それとも桜春?

ダイヤ 「答えは『青春』です」

曜 「青春…」

ダイヤ 「まだまだ朱夏は始まりませんよ。残春の候を存分に楽しんで下さいね」

曜 「は、はぁ…」

ダイヤ 「それでは今度こそさようなら。私も授業に遅れてしまいますので…」タッタッ

そういうと綺麗な黒髪を靡かせながら校舎の中へ入っていった。

曜 「…青春、ね」

ぼそっと一言口に出してみた。

夏が始まるとか、朱夏が始まらないとか、相変わらずダイヤさんの言っていることは全然分からない事ばかりだ。いつもダイヤさんと話した後は頭が混乱してしまう。

だけどこれだけは確信できた。

振り返った時のダイヤさんの姿は美しく、綺麗で神々しかった、ということ。

あの姿は差し詰め見返り美人という表現がしっくりくるだろうか。

曜 「…なんて、何考えてんだろ、私」

自分を少し嘲てみる。

曜 「…さて、帰ろ」スッ

スマートフォンの時計を確認する。授業が終わってから僅か20分程しか経っていなかった。

曜 (よかった…やっぱり10分くらいしか寝てなかったんだ)

どっかりと座ったベンチから勢いよく立ち上がろうとすると、風が私の身体をふわっと押し出してくれた。

確かにまだまだ春の香りだ──


ーー
ーーー

ある日、授業でこんな事をやった。

自分の人生設計について。

「あなた達はもう後3年後には社会に出て働かなければいけません」

「老後のために貯蓄をしなければいけません」

曜 (将来、ね…)

正直、まだ実感が湧かない。

曜 (後3年もすれば私は社会人として働いているんだよね…?)

曜 (後10年もしたら結婚もしてるのかな?)

曜 (もしかすると子供がいるのかな?男の子?女の子?)

曜 (私はこれからどうやって生きていくんだろう?)

仕事、子供、私、友達、お金──

思いっきり土埃を舞わせながら、頭の中で色んなものが走り回る。

どれもこれもすぐ先だったりもっと先だったり。そんなことばかりで考えれば考えるほど将来への不安が募った。

「あなた達は将来をどうしていけばいいと思いますか?」

1 「え?いや、わっかんね~ww」

2 「そんな先のこと言われたってなw」

3 「え?じゃあお前はどう思ってる?」

曜 「…」チラッ

「あー、もうだりーわ」
「こんなの適当にやっとけばよくね?」
「それ、適当でいいわ」

曜 「…」

曜 (あの人たちはどうして大学に来ているんだろう?そんなにやりたくないならとっとと辞めればいいのに…お金も時間も勿体ないじゃん…)

曜 (でも…私もどうして大学に来ているんだろう…)

この時、私は初めて自分の悩みが何かに気づいた。

この間のダイヤさんとの話で心に引っかかったものの正体に。

──私が今している事とは何なのだろうか。

──私の夢は、何かあるのだろうか。

確かに、ないということは無い。

昔からパパと同じような漁師や、船長になりたいという夢はあった。

だけど、だからといって何かしてきた訳では無い。

曜 (…私、何すればいいんだろう?)

そして私は、一度考えることを止めてしまった。


ーー
ーーー

8月3日、千歌ちゃんの誕生日。久しぶりにAqoursが集まった。

名目上は千歌ちゃんの誕生日会だけど、実際はそれを口実にみんなで集まろうという日。丁度夏休みに入る頃だからみんなも都合がいい。

誕生日会がダイヤさんの家で行われてみんなでワイワイ準備中だ。

曜 「千歌ちゃん!お誕生日おめでとう!」

千歌 「ありがと~!」

果南 「旅館の方は大丈夫なの?」

千歌 「うん、美渡ねえと志満ねえが頑張ってくれるって!」

花丸 「自慢のお姉様方ずらね~」ソロー

あと一寸という所で花丸ちゃんの手が止まる。

善子 「こら、ずら丸。そんな所でつまみ食いしてないで料理運ぶわよ」ゴスッ

善子ちゃんの手刀が花丸ちゃんの頭に刺さる。これは昔の仕返しだろうか。

花丸 「そんなことしてないよ?善子ちゃんがしたいんでしょ?卑しいずら」モグモグ

善子 「アンタね…もう少しマシな言い訳しなさいよ…食べながらとか隠す気ゼロじゃない…」

見ていたが、花丸ちゃんが唐揚げに触れてから口に入れるまで実に0.5秒…すらかかっていなかったかもしれない勢いだった。

ダイヤ 「花丸さーん、善子さーん、こっちの料理もお願いしますわー」

善子 「ほら!行くわよ!」グイッ

花丸 「あぁ…マルの唐揚げがぁ…」ズルズル

果南 「あ、曜、私達も手伝おっか」

曜 「そうだね!…私もからあげ一個だけ…」ソロー

果南 「はいはい、つまみ食いはダメだよ?」グイッ

曜 「だよね…」トボトボ

果南 「……はむっ」モグモグ

曜 「あっ!?今果南ちゃん食べたでしょ!?」

果南 「…ん、んんぅ?はべてはいよ?」モゴモゴ

曜 「…果南ちゃんももっと上手くつまみ食いしてよね?」

千歌 「二人とも昔から変わらないね~」

果南 「…ごくんっ、それは千歌もでしょ?」

千歌 「うん!みんな昔のままだね!」

曜 「…」


ーー
ーーー

「いただきまーす!」

鞠莉 「どう?ワッターシが世界から集めたスペーシャルな食材の数々は!?」

善子 「ふっ…最後の晩餐で食べた味がするわ」

花丸 「素直に美味しいって言うずら」

ルビィ 「そういう意味で言ってるの…?」


ーー
ーーー

千歌 「いやぁ~梨子ちゃん戻ってこれてよかったよ」

梨子 「ほんとに大変だったんだからね?」

ダイヤ 「それだけ戻ってこようと想って下さる方が居て千歌さんは幸せですね」

梨子 「そ、そんなんじゃないってば!」

千歌 「えー!?違うの!?」

梨子 「千歌ちゃんまで何言ってるのよ!」

千歌 「梨子ちゃん相変わらずからかい甲斐があって楽しいよ!」

梨子 「千歌ちゃん後で覚えてなさいよ…?」


ーー
ーーー

曜 「…」カラン

私はと言えば、ダイヤさんの家の縁側で一人でゆっくりと日本酒を飲んでいた。

やっぱりこういう時のお酒は風情があってロマンティックだ。

曜 「…」ゴクリ

別に一人になりたい訳では無かったし、みんなと積もる話もしたい。

でも、そうして昔話に花を咲かせていくうちに私はなんだか耐えられなくなってしまいそうで逃げてきてしまった。

何から?

分からない。

ただ何となく昔に縋る私が嫌になっただけかもしれない。

曜 「…私って何がしたいんだろう」カラン

「そんなの分からないよ」

曜 「えっ!?」ビチャ

曜 「あっ!?冷たっ!うわあっ!?」ドタッ

曜 「…いったた~」サスサス

「一人で何やってんのさ~」アハハ

驚いて、零して、転んだ。

完全にフルコンボ、自爆だ。

曜 「驚かさないでよ…果南ちゃん…」

果南 「大切なのはセルフコントロール、だよ」

曜 「むぅ…まったく…」

果南 「曜の姿が見えないから少し探してたんだけど、どうしてこんな所に一人でいるの?」

曜 「何となく察してるでしょ…?」ムゥ

少し訝しむ様な顔をして果南ちゃんを見つめる。

果南 「うーん…全然分かんないかなぁ~ん」

曜 (わざとらしくニヤニヤしちゃって…ほんと、イジワルなお姉ちゃん)


ーー
ーーー

果南 「ふぅん、そんなこと考えてたんだ」カラン

飲み物片手に二人で談笑なんて、なんだかドラマのワンシーンみたい。

果南ちゃんももちろんお酒。芋焼酎、と言っただろうか。

果南 「…曜も随分大きくなっちゃったんだね」ゴクリ

縁側で片膝を立てながらもう片方の足は地面すれすれでぶらつかせている。

立てた方の膝に肘を置きながらもう片方の手でクイッとお酒を飲むその姿は、思わず見蕩れて鳥肌が立つほどに最高のロマンスを感じた。

果南 「…ん?どうかした?」

曜 「…へ?あっ、ううん!何でもないよ!」

キョトンとした顔でこっちを見られて、誤魔化すようにぶんぶんと首を振る。それとなく顔が熱いのはお酒のせいだろう。

果南 「…将来か、難しいよね」

果南 「私も、凄い悩んでるからよく分かるよ」

また一口お酒を口に含んで、飲み込む。

ごくり、という音が私にも聞こえてくる。

曜 「果南ちゃんはどうしようと思ってるの?」

果南 「…私ね、お父さんには会社に就職したほうがいいって言われてるんだ」

果南 「そのために全然乗り気じゃなかったけど大学にも行こうと決めた」

果南 「…だけど、本当のこと言うと私はダイビングとか、海洋の専門学校に行きたかったんだ」

果南 「ダイビング以外にやれることなんてないって思ってたし、ずっと海と一緒に生きてきたから海を捨てることなんて出来ないとも思った」

果南 「変な話だよね、ダイビングしかやる気がないのに専門に行かなかったなんて…」クイッ

果南ちゃんは自分を嘲笑してから、お酒を一口含む。

果南 「…結局、心の奥底では自分はそれで生きていけるのか不安だったんだよ。心のどこかで自分の将来に保険をかけてた…」

果南 「…でもね、そうやって大学で過ごすうちに大学の勉強も活動もだんだん楽しくなってきてさ、私はブレ始めたんだ」

果南 「ダイビングじゃなくて会社務めでもいいかもって」

むわっとした風が吹いてチリンチリン、と風鈴を鳴らす。憂いを帯びた表情と靡く藍色の髪に一口の焼酎ときたら風流を感じずにいられない。

果南 「…でも、未だに変な迷いがあって決めきれてないんだ。それでやっぱりダイビングにすれば良かったかなー、なんて思うことがしょっちゅうでさ」

果南 「私が本当にしたかった事って何だったのかなって…」

曜 「果南ちゃん…」

果南 「…あー、なんかごめんね、私の弱音になっちゃった…曜の悩みを解決してあげるつもりだったのにね…」

曜 「…初めてだよね、私に弱音を吐いたのって」

果南 「…うん、そうかも…」

曜 (お酒のせい…?おかげ…?かな…)

曜 (まずい…私もお酒回ってきたかも…)

果南ちゃんも懊悩したのだろう。私だって絶対にダイビングを続けると思っていたくらいだから。

大好きだった海を諦める程に果南ちゃんは先を見据えて思い詰めていた。

果南 「…まわりくどい言い方しちゃったけどさ、要するにまだ間に合うんだよ、曜は」

曜 「間に合う?」

果南 「確かに色々先を考えなきゃいけない時期なんだけどさ、もう少し今を生きた方がいいんだよ」

果南 「私だって未だに悩んでるんだよ?」

果南 「だから、やりたい事があるなら悩む前にやってみた方がいい。後悔してからじゃ遅いから…」

寂しそうな笑顔を浮かべて下を向く。

やっぱり面倒な人だ、果南ちゃんは。

曜 (そうだね、こうなったら私からしてあげられることはたった一つ──)

曜 「……なに」

果南 「え?」

曜 「なに悲劇のヒロイン気取ってるの!そんな寂しそうに笑ってさ!そうやって嘆いている自分がかっこいいとでも思ってるの!?果南ちゃんもやってみればいいじゃん!」

曜 (──全力でぶつかってあげることだ。果南ちゃんに恥をかかせないために)

私が声を荒らげると同時に、向こうでどっと笑い声が挙がった。

果南 「いや、だから遅いって──」

曜 「遅くないよ!まだ間に合うよ!確かに学校には通えないかもしれないけどそんな簡単に諦められるものなの!?」

果南 「…私だって諦めたくないよ。だけど、もう諦めるしかないんだよ!」

曜 「違う!果南ちゃんはそうやって自分を騙して逃げているだけだよ!諦められない理由はあっても諦める理由なんてない!」

果南 「曜…」

曜 「それにね…やらないで辞めちゃったら絶対に後悔する。鞠莉ちゃんの時と同じように…」

果南 「…!」

曜 「今回だって後悔してるじゃん…本音でぶつかり合って決めないと…想いは伝えないと届かないんだよ…」

果南 「…でも」

曜 「一歩踏み出さないと何も始まらないって言ってくれたのは果南ちゃんだよ…?あの時から私は一歩踏み出す勇気が持てたんだ」

曜 「私が高飛び込みを怖くなくなったのは…海を好きになれたのは…果南ちゃんのおかげ」

曜 「…とりあえず全力でぶつかってみればいいじゃん。何もしないで諦めるなんて…私は…私はお姉ちゃんのそんな情けない姿なんて見たくないよ…!」

息を切らせる勢いでまくし立てた。少し呼吸が落ち着いてからハッとする。私はなんて事を言ってしまったのだろう。謝ろうと思い、果南ちゃんに向き直ったその時──

──果南ちゃんは微笑んでいた。

果南 「そっか…情けない、か…あはは、言わせちゃったね…」

曜 「ご、ごめん…!何か…勝手なこと言っちゃって…」

果南 「…ううん、曜の言ってることは間違ってないよ」

果南 「あーあ、曜の前ではしっかり者のお姉さんでいたかったのになぁ…ダメだったみたい」

心なしか声が震えていて、もしかして、と心配になる。

果南 「私は何かと理由を付けて逃げていただけ、悲劇のヒロイン気取りで甘えていただけ…」

曜 「…か、果南ちゃ──」

果南 「あー!スッキリした!ありがとね…って、曜の悩みを解決してあげようと思って声かけたのに私が助けられちゃったね…」

果南 「これじゃあほんとに情けないね…お姉ちゃん失格だ…」

曜 「ち、違うの!な、情けなくないよ!あれはその…なんかお酒のせいで口をついて出ちゃったっていうか…」

果南 「ってことは曜の本音って事だよね?」

曜 「だから違うんだってば~!」

あはは、と笑って立ち上がる。

果南 「偉そうなこと言っといて私も今を生きてなかったみたい。ありがとね、流石私の自慢の妹だ」

私の頭をくしゃくしゃっとしてからニカッと笑う。そのまま居間に戻ろうとした果南ちゃんに精一杯の感謝を込めて──

曜 「…どういたしまして──」

曜 「──お姉ちゃん!」

ピクッとして立ち止まる。振り返ったお姉ちゃんは無言で私にウインクを飛ばした。それはとてもぎこちなくて、へたっぴで、不器用なウインク。

曜 「くすっ…まだ出来ないんだね」

聞こえていたかどうか分からない。だけど、果南ちゃんはそのまま居間に戻っていった。

曜 「…悪いことしたかな」

果南ちゃんはまた悩まなくてはならない。私の放った言葉のせいで、一度は出かかった答えをもう一度最初から考え直すのだ。

でも、今の果南ちゃんなら答えを見つけられるだろう。

明確な理由なんてない。強いて言うのなら──

少しばかりの本音と長年の勘、と言ったところだろうか。

曜 「…よし!」

私の心もなんとなくスッキリしていた。

結局、私も果南ちゃんと同じで何かと理由をつけて逃げていただけだった。何をすればいいとか、何をした方がいいとか、そんな事はどうでもよくって──

曜 「──今はやりたい事を、目の前の事を全力で楽しんでいこう!」

何が人生の役に立つかなんて分からない。だから何だってやってみるんだ。

今なら言える、私は輝けると。

今なら言える──

曜 「…全速前進…ヨーソロー!!」

煌めく太陽に向かって全力の敬礼。

果南ちゃん──

私のことをからかうイジワルで面倒なお姉ちゃん。

昔からこうだ、何も言ってないのに私のことを分かったように色々言ってくる。

その癖、本当は自分が一番辛くて、助けてもらいたくて。

だけど強がって誰にもその事を話せなくて。私にああやって言われてるのに笑っていなくなっちゃうし、ほんとに分かりづらい人。

でも──

曜 「…悪くない、かも」クスッ

なんて、独り言ちてから私も居間に戻っていった。

ヨーチャンドーシタノ!?ヨウフクビチョビチョダヨ!?
アッ!ワスレテタ!!

ーーー
ーー


──5年後──

千歌 「みんなー!こっちだよー!」

善子 「は、早いわよ…あっつぅいぃ~」

ルビィ 「そんな黒い服着てくるからだって毎回言ってるのに…」

善子 「黒を捨てた私はヨハネじゃなくなってしまうわ…」

花丸 「元々ヨハネじゃないずら」

善子 「何ですって!?」

ルビィ 「善子ちゃんは善子ちゃんだからね」

善子 「…なんかルビィ最近冷たくなったわよね?ちょっと前までもう少し反応してくれなかったっけ?」

ルビィ 「流石にこの歳でそれは少し厳しいんじゃないかなって」

善子 「…ず、ずら丸?」

花丸 「…」メソラシ

善子 「…フッ、それでも私はヨハネだけどね」

ルビィ (まあ──)

花丸 (それでこそ──)

ルビ丸 ((善子ちゃんだよね))クスッ

千歌 「あれ?ダイヤさんは?」

鞠莉 「ん?レストルームじゃない?私もちょっと行ってきていい?」

千歌 「うん!間に合うように戻ってきてね〜!」


ーー
ーーー

曜 「よし、じゃあこの辺で」

曜 「すみません、こんな形で…」

ダイヤ 「いえ、私も曜さんとお話をしたかったので」

爽やかな笑顔とその綺麗な髪の毛は潮風にさらわれて、私の心に響き渡る。

──またこの感覚だ。

曜 「…良かったです」

曜 「立ち話もなんですから…そこのベンチにでも座って話しませんか?」

夏はいつだって傍にいて、私をときどき都へと連れてゆく。

ーーー
ーー


曜 「後20分くらいですね」

愛用の懐中時計を開いて時間を確認する。

ダイヤ 「ええ、それだけあれば十分です」

曜 「…分かりました」

曜 「なんだか懐かしいですね、こうやって二人でベンチに座るの」

ダイヤ 「ええ、あの時と同じで今日もいい天気ですね。最高の船出になるのではないでしょうか?」

曜 「あはは、そうですね、潮風がとっても気持ちいいです」

ダイヤ 「春は楽しめましたか?」

曜 「…はい、春も青春も最高に楽しんだと思います」

ダイヤ 「…おや、知っていたのですか?」

曜 「いえ、あの後知りました。どうも朱夏という単語が頭から離れなかったもので…少し調べてみたんです」

意外、というより調べちゃったんだ、という顔をしてイタズラな笑みを浮かべる。

私の周りのお姉さんはみんなイジワルな人ばっかりだ

曜 「朱夏っていうのは夏の別称の意味以外にもあるんですよね」

曜 「人間の歳を表すこともある」

ダイヤ 「…」

曜 「朱夏は人間の年齢で言う30~50歳程度の時期、そんな事が書いてありました」

曜 「そこに青春の事も書いてあったんです」

曜 「青春は16~30歳前半と書かれていました」

曜 「その時、ようやくダイヤさんの言っていた意味が分かりました。だけど、ずっと気になっているものがあるんです」

ダイヤ 「…なんでしょう?」

曜 「青春は30前半まであります。あの時期に残春の候というには少し早かったんじゃないかなって。これだけはどうしても分かりませんでした」

二十歳の私に対して残春というにはまだ10年以上あった訳だし、まだ春の途中と言えたのではないだろうか。それをなぜ残春の候と言ったのか。

ダイヤ 「…それでしたら、だいたい予想がついているのではないでしょうか?」

曜 「…その予想に答えを出したいんです」

ダイヤ 「…ふふ、困りましたね」

そういうダイヤさんからは一切困ったような素振りは見えない。むしろ嬉しそうに笑っているくらいだ。

ダイヤ 「そうですね…私は、限られた時間のなかで精一杯輝こうとする姿こそ青春だと思っています」

ダイヤ 「時間は無限ではない、だからこそ大切にしなくてはいけないのです」

曜 「でも…それとこれとはどんな関係が…?」

ダイヤ 「いえ、今のは前置きのようなものです。私の目に映ったあの時の曜さんは、満開の季節を終えて、真っ青な空の下で少しずつ翠色に変わりはじめた桜の様でした」

ダイヤ 「しかし、桜は満開の時だけが美しいわけではありません。散りゆく桜、変わりゆく花びら、もう一度花が咲くまでの全てを以て美しいと言えるでしょう」

ダイヤ 「季節は巡り、また繰り返されます。しかし、それが同じということは決してありません」

ダイヤ 「春は何度でもやってきますが、それが前と同じなんてことはないんです」

ダイヤ 「ほら、耳を澄ませば…きっと青春が聞こえてくるはずです」

綺麗な波の音に千歌ちゃんや梨子ちゃん、みんなの声が重なって──

ときおり、風が耳を掠めてびゅうっと音を鳴らして──

慣れ親しんだ潮の香りが私の鼻をくすぐる──

目を閉じれば、浮かび上がる私達の姿──

耳を澄ませば、聞こえてくる私達の声──

曜 「…聞こえたよ、青春」

また来てしまった、この場所に。

私はこの都に何度も立ち寄ってしまう。

ここに帰ってきてしまう。

曜 「──だけど」

曜 「…今度は探さなくちゃ、新しい青春を」

今は進む時だ。

ダイヤ 「…ふふ、そろそろ戻りますね。みんなが待っています」スタスタ

曜 「…はい!」

曜 (──もう…逃げないよ!)

太陽に誓ってから私は歩き出す。都に一度別れを告げて。


ーー
ーーー

千歌 「あっ!やっときた!二人とも遅いよ~!」

ダイヤ 「ごめんなさいね、少し混んでいたもので…」

鞠莉 「It’s exactly!」

千歌 「それなら仕方ないか!じゃあ行こう!」

鞠莉 「ふふ…しっかり話はできたみたいね」チラッ

ダイヤ 「はい、鞠莉さんも素直に頑張って、と伝えられましたか?」ニッコリ

鞠莉 「当たり前じゃない、しっかり学習してマース♪」


ーー
ーーー

曜 「…」

果南 「緊張してる?」

曜 「…うん」

懐かしい緊張感だ。

初めてAqoursのステージに立った時と同じ感覚。

果南 「…はぐっ!」

曜 「うわっ!」

果南 「…大丈夫、曜なら出来るよ」パチッ

曜 「…ありがと」ニコ

果南 「どういたしましてっ!」

曜 「えへへ、果南ちゃんウィンク、上手くなったね」

果南 「ふふっ、毎日練習したもんね!」

曜 「…じゃあ、行ってくる」

果南 「うん!」

『さあさあお待ちかね!今日は我が水族館初の試み!イルカと人間のパフォーマンスダンス!パフォーマーも今日が初舞台!曜ちゃん&果南ちゃんだよっ!』

千歌 「おぉ〜!!曜ちゃん出てきたよ!」

曜 「みんな!」

曜 「全速前進~ヨーソロー!!」

ビシッと敬礼を決めて私はそこに立つ。

そこは何年も忘れていた場所。

曜 (…戻ってきたね、この場所に──)

『まずは曜ちゃんの高飛び込みを観てもらいましょ〜!』

そこは私だけのステージ、そこから見える景色は私しか知らない世界。

曜 (ただいま──私のステージ)

私はその一歩を踏み出して、新しい場所へと飛び込んでいった。
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