内浦スクエア。

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曜-アイキャッチ12


【曜】

 人が人を好きになるっていうのは、なんて不思議なことだろう。
 血の繋がらない他人なのに、まるで分かたれた半身のように心が一つになりたいと求めてくる。
 愛おしくって欠かせなくって、そして時々二つであることが寂しくて胸が痛くなる。
 でも同時に嬉しくもある。だって別々の人間だからこそ、出会うことができたから。

 私にとっては千歌ちゃん、今目の前で楽しそうに話している幼馴染がそうだった。
 何十億人もの中で、その人が私の隣にいる。そんな奇跡みたいな確率に感謝していた。

「曜ちゃんはどうするの?」

「え、ごめん。聞いてなかった」

 千歌ちゃんに見惚れていて全く話が頭に入っていなかった。
 ダメダメ、好きな人と一緒にいるのに上の空なんて勿体ないよね。
 もう、と頬を膨らませる可愛らしい千歌ちゃんを見れたから結果オーライかな?

pixiv: 内浦スクエア。 by あめのあいまに。

スクフェス総選挙

「次のお休み、駅前で一緒に遊ばない? って話」

「あー……」

 もちろん、普段の私なら一も二もなく賛成する。
 学校が休みの日でも千歌ちゃんに会えるなんて、とっても嬉しいイベントだもん。
 最近はAqoursの活動で一緒の時間も増えたけど、増える分には幾らでもウェルカムだからね。
 だけど。

「ごめん。その日は水泳部の練習があって」

「えー、曜ちゃん来れないのー?」

 私が謝ると千歌ちゃんが残念がって、とても申し訳ない気持ちになる。
 私としても千歌ちゃんと遊びたかったけど、でもやっぱり断るしかなかった。
 水泳部では、普通に泳ぎもやるけれど、高飛び込みもやっていて。
 けっこう期待もされていて、近々大会も控えているから、ガッツリ練習メニューを組まれている。
 それに自分からやるって決めたことだから、中途半端にはしたくなかった。

「でも曜ちゃんは凄いよねー。水泳部でも結果を出し続けて、Aqoursとも両立させて。千歌なんかとは大違い」

「そんなこと、ないよ」

 両立って話なら、ダイヤさんは生徒会長や習い事もやりながらだし、鞠莉ちゃんなんか理事長として働きながらやってる。
 私なんてそれに比べたらまだまだ可愛い方。
 それに千歌ちゃんは一からAqoursを作って、こんな素敵なグループにして、それも十分凄いことだと思う。
 Aqoursは私にとっても、皆とはまた違った意味で大切な存在だから、余計にそう思う。

 昔、水泳を始めたばかりの頃、千歌ちゃんを何度か誘ったことがある。
 興味はありそうだったから、千歌ちゃんがやりたいって言うのを待ちながら、気付けばそのまま立ち消えになっちゃって。
 しばらくしてから、美渡さんだったか果南ちゃんだったか忘れたけど、けっこう本気でやろうか迷ってたみたいって聞いて。
 もっとしっかり誘っていたら、千歌ちゃんと一緒にできたのかなって。
 だから千歌ちゃんがスクールアイドルを始めるって聞いた時、私もやるって迷わずにいった。
 千歌ちゃんと一緒に何かをする機会を、今度こそふいにしたくなかったから。

「まあでも、来れないものは仕方ないよね」

「うん。ごめんね。また今度誘ってよ」

「そうだね。今回は梨子ちゃんとめいっぱい楽しんじゃうんだから」

 二人は友達同士だし、遊びに行くのはおかしくないんだけど。
 そもそも私も梨子ちゃんとは友達で、今回も予定がなければそこに私もいたんだけど。
 千歌ちゃんが梨子ちゃんと二人きりでいる……考えるととても嫌だった。

 嫉妬、してるのかもしれない。
 千歌ちゃんは最近いつでも梨子ちゃん梨子ちゃんって、楽しそうに話すから。
 もっと私のことだけ見てほしい、私のことだけ考えてほしい。
 でも、そんな本音はもちろん話すことなんてできなくて。

「うん。私の分まで楽しんできてね」

 じくじくと疼く心を隠して、私は笑顔でそう言った。





 思ったよりも練習が早く終わって、私は急いで沼津へと向かっていた。
 千歌ちゃんたちには連絡してなかった。もう夕方で、もしかしたら帰るところかもしれないし。
 それに、上手くいったらびっくりした千歌ちゃんの顔が見れるかも、なんて思ったから。

「とは言ったものの……」

 二人がまだ沼津にいたとして、どこにいるかも分からないんだよね。
 会話の中でざっくりとしたプランは聞いていたけど、アクセサリ見るとかスイーツ食べるとか、本当にざっくりした内容だったし。
 それに千歌ちゃんのことだから、当日になっていろいろ目移りしてあっち行ったりこっち行ったりしてそうだし。
 よし、決めた。三十分だけ探そう。それで見つからなかったら帰ろう。

 そう決心したものの、全く当てなんてなかったし、見つかったらラッキーくらいの気持ちで適当に駅前を散歩していた。
 だからそれは全くの偶然だった。
 近道のために通りかかった、人気のない公園に二人はいた。

 二人は何やら話し込んでいるみたい。
 どうしようか考えたけど、私はこっそり茂みに移動して、そこから飛び出してみせることにした。
 後で怒られちゃうかもしれないけど、驚いた千歌ちゃんと怒った千歌ちゃんで二倍お得だね。

「ん?」

 物陰伝いに近づくと、聞こえてきた千歌ちゃんの声は思ったより真剣で。
 私は飛び出すのをやめて聞き耳を立てた。
 盗み聞きは良くないけど、私がいない時に二人がどういう話をしているのか気になって。

「初めて見た時から、他の人とは違うなって思ったの。それで梨子ちゃんのことが気になって、学校で会う度、部屋で窓越しに話す度、私の中でどんどん梨子ちゃんが大きくなっていって、気づけばいつでも梨子ちゃんのことを目で追ってた。梨子ちゃんのことばかり考えるようになってた」

 千歌ちゃんは熱に浮かされたように語りかけていた。
 その目は心なしか涙ぐんで。その肩は不安に小さく震えて。
 これじゃまるで。

「梨子ちゃん。私、高海千歌は、梨子ちゃんのことが好きです」

 恋の終わる音がした。



【千歌】

 姿見の前で丹念に自分の服装をチェックする。
 ファッションセンスにはあまり自信がないけど、今日は我ながら上手く決まってると思う。
 ちょっと気合入り過ぎかな?

 今日は梨子ちゃんとお出かけ。
 曜ちゃんが来れなかったのは残念だけど……でもこれって神様がくれたチャンスかも。
 今日こそ、千歌の気持ちを梨子ちゃんに伝えるんだ。

「わあ。梨子ちゃん、とっても綺麗だよ」

「そ、そうかな……」

 梨子ちゃんの服装は派手さはないものの、とても自然に梨子ちゃんの魅力を引き立てていて卒がない感じ。
 自分の服装に気合入り過ぎって思ったけど、なし。千歌はまだまだレベルが足りてないみたい。

「それじゃ行こっか」

「うん」

 二人並んで、私たちは街へと向かった。





 遊びにいく、と言っても特にここという場所を決めているわけではなかった。

「梨子ちゃんはどこか行きたいとこある?」

「うーん。画材屋さんかな」

 梨子ちゃんはスケッチが趣味なんだよね。
 ピアノも上手で絵も描くなんて、芸術家の神様に愛されてるのかな?
 音ノ木坂からやってきた芸術家の神様に愛された転校生、そんな子がスクールアイドルを始めるのは、必然というか出来過ぎというか、なんだか漫画みたい。

 梨子ちゃんは絵は上手くないからって言うけど、けっこう本格的に道具も揃えてる。
 ベレー帽を被ってキャンバスの前に座ってる姿はとても様になってるし、おまけに頭も良いんだから、天は二物を与えずなんて言葉は嘘っぱちだ。

 梨子ちゃんは自分のことを見た目も性格も地味だって言うけど、見た目は言わずもがな、性格だってそんなことないと思うんだけどな。
 とても思いやりがあって、千歌たちと話しててとても明るく笑って。
 確かに最初は遠慮がちなこともあったけど、でもすぐに打ち解けられたれたし、最近は冗談を言ったりすることも増えた。
 見知らぬ土地に転校してきたんだから、最初は引っ込み思案になってもおかしくないよね。

「意外と人がいるねー」

「うん。画材だけじゃなく、小物とかメモ帳とか買いに来る人もいるし」

「なるほど」

 普段画材屋さんなんて来ないから知らなかった。
 混んでるわけではなかったけど、若い人からお年寄りまでいろいろな人がいる。
 想像してたのは絵具とか専門道具ばっかり置いてあるお店だったけど、事務用品から折り紙まで何でも揃っていた。
 色とりどりに陳列される商品を見ているだけで、なんだか楽しくなってきちゃった。
 千歌のお小遣いの十倍以上もするボールペンを見て驚いたり、飾ってある紙細工に感心したり。

「お待たせ。ごめん、退屈しなかった?」

「全然。むしろいろいろと新鮮だったよ」

 お会計から戻ってきた梨子ちゃんは申し訳なさそうだったけど、私としては新しい世界を知れて満足かな。
 でも梨子ちゃんが次は千歌がお店を決めて良いよって言うから、お言葉に甘えることにした。

「うーん、最高」

 やってきたのはケーキ屋さん。
 前から気になってたんだよね。一人じゃなかなか入り辛かったけど、今日は梨子ちゃんも一緒だし。
 芸術の秋も良いけれど、やっぱり千歌は食欲の秋かな?

「千歌ちゃんは本当に美味しそうな顔で食べるね」

「だって本当に美味しいんだもん」

 ケーキ自体ももちろん美味しいけど、梨子ちゃんと一緒に食べてるってことも、大いに関係していると思う。
 ああ、こんな時間がいつまでも続けば良いのにな。





 なんて普通に楽しんでたら、すっかり夕方になっちゃった。
 どうしよう。このままじゃ何も変わらないまま、今日が終わっちゃう。

「なんだか遊び疲れちゃった。公園で休憩していかない?」

 とっさに口をついた言葉は、我ながら酷かったと思う。
 もう時間も時間だし、疲れたなら帰ろうってなるよね。
 でもお願い、今日はまだ帰れないの。

「わかった」

 そんな千歌の願いが届いたのかは知らないけど、梨子ちゃんは付き合ってくれた。
 本当、梨子ちゃんは優しいんだから。

「座らないの?」

 疲れたと言った割りに公園のベンチの前で立ち尽くす私に、梨子ちゃんは至極当然な疑問を口にする。
 もちろん疲れたというのは方便で、人気のないところに来たかっただけ。
 梨子ちゃんに伝えたいことがあったから。
 だけど心臓が飛び出そうなくらいドキドキして、私はなかなか口を開くことができなかった。

「ねえ、梨子ちゃん」

 一度大きく深呼吸をして、やっとの思いで話し始める。

「聞いてほしいことがあるの」

「なあに?」

「梨子ちゃん、今日はありがとう。千歌ね、梨子ちゃんと遊べて楽しかったよ。今日だけじゃない。梨子ちゃんといると、いつでも千歌はとても幸せな気分になれるんだ」

 伝えたいことが、いっぱいあった。何を言おうかいろいろ考えていたのに、話していると頭の中がぐちゃぐちゃになって、でも口は動くのを止めなくて、自分でも何を言っているのか曖昧だった。

「初めて見た時から、他の人とは違うなって思ったの。それで梨子ちゃんのことが気になって、学校で会う度、部屋で窓越しに話す度、私の中でどんどん梨子ちゃんが大きくなっていって、気づけばいつでも梨子ちゃんのことを目で追ってた。梨子ちゃんのことばかり考えるようになってた」

「……」

 私の言葉を梨子ちゃんは黙って受け止める。
 真剣な眼差しで、千歌の方をじっと見つめて。

「梨子ちゃん。私、高海千歌は、梨子ちゃんのことが好きです」

 そしてついに私はその言葉を伝えた。
 ここまで来たら、もう後戻りはできない。泣いても笑っても、昨日までと同じではいられない。
 それでも千歌は後悔なんてなかった。もう何もしないで諦めるのも、運命が転がり込んでくるのをじっと待つのも、嫌だったから。

「か、考えさせて」

 梨子ちゃんの答えは保留。いきなり断られなかっただけ、まだ良かったのかな。
 でも、なんとなく分かっちゃった。梨子ちゃんの運命の相手は、千歌じゃないんだって。
 告白された梨子ちゃんの目には、突然のことに対する戸惑いと私を傷つけまいとする優しさと、その二つしか見つからなかったから。



【梨子】

 千歌ちゃんと駅前で遊んだら、すっかり日が暮れちゃった。
 ケーキも美味しかったし、いろいろできて楽しかったな。
 こっちに引っ越してきてから、千歌ちゃんには私が知らなかったいろいろな世界を見せてもらって、本当に感謝してる。

「なんだか遊び疲れちゃった。公園で休憩していかない?」

 帰り際なのにそんなことを言うなんて、なんだかおかしな千歌ちゃん。
 だけど、なんだかすがるような目をしてたから、私は余計なことを言わないことにした。

 公園に着くと、疲れたはずの千歌ちゃんはベンチに座ろうともせず立ち尽くして。
 しばらく黙ってたと思ったら、千歌ちゃん、私のことが好きだって。

「か、考えさせて」

 突然のことに驚いた私は、答えを先延ばしにしてしまった。
 帰りの方向は一緒だったけど、千歌ちゃんは少しだけ夜風に当たりたいから先に帰ってって。
 私も言われるがままに帰ってきちゃった。ごめんね、千歌ちゃん。しっかり考えて、答えは絶対に出すから。





 と、意気込んだは良いものの。
 私は自室のベッドで身悶える。

「はわわ、どうしよう。初めて告白されちゃった」

 それも、女の子に。
 こんな地味で内気な私のこと、好きって言ってくれたのはとても嬉しかったけど。
 答えなんていつまで経っても出そうにないよ……。

「そうだ!」

 一人で悩んで分からないことは、誰かに相談するのが一番だよね。
 もちろん、無闇やたらに言うべきことじゃないのは分かってるけど、私たちのことをある程度知っていて信頼できる人になら、良いよね?

「で、それがヨハネなわけ?」

「うん、そうなの。お願い」

 真っ先に思いついたのはよっちゃんだった。
 こういうことも偏見を持たずに聞いてくれそうだったから。
 よっちゃんとはユニットが同じで仲良くなったんだ。
 ちょっと独特なキャラで最初は怖かったけど、本当はとても優しくていろいろ知ってて。
 堕天使なんて禍々しい設定とのギャップがなんだか面白いな、なんて。

 もちろん、堕天使の時のよっちゃんも今は怖くない。キャラとは言うけど、どっちも本当のよっちゃんだから。
 人間、誰しも色々な側面を持っていて、よっちゃんの堕天使もそれの表現方法の一つなんだと思う。
 そう思うと学ぶべきところもたくさんある。私にも、内気なだけじゃない、格好つけだったり目立ちたがり屋な私がいるはずで。
 最近、ギルキスで活動する時はなんだか違う自分になれた気がするんだけど、それは間違いなくよっちゃんのおかげ。
 きっとよっちゃんの姿を見て、今まで押さえつけられていたマイノリティな私が、顔を出す方法を覚えたんじゃないかな。

「嬉しかったんでしょ。なら良いんじゃない?」

「ええっ、軽くない?」

 よっちゃんの答えは想像以上に適当だった。
 他人事とはいえ、もうちょっと悩んでくれても良いのに。なんだかショックだなあ。

「別にスクールアイドルだから恋愛禁止とか言わないし。こういうのはどこまで行っても当事者同士の問題よ。でも、付き合ってから考えてみるのも悪くないんじゃないかってこと。他に好きな人がいないならね」

 よっちゃん、適当なようでいてやっぱりちゃんと考えてたんだね。
 言葉足らずなのはよっちゃんの悪い癖かも。それで誤解されちゃう時もあるし。
 本人は気にしないわよって言うけど、私はもっとよっちゃんが良い子なんだって皆に知ってもらいたいなあ。

 でも、好きな人、か。

「好きって、どんな気持ちなのかな?」

 そもそも、今まで人を好きになったことはない私は、それがどんなものか想像もできなかった。
 もちろんお父さんやお母さんのことも、Aqoursの皆も友達も好きだけど、多分そのどれとも違う好きなんだよね。

「知らないわよ。私に聞かないでよね」

「ケチー」

「ケチとは何よ、このなしこ。だいたい私だって独り身なんだから。もちろん? このヨハネには数多のリトルデーモンが仕えているから、寂しくなんかないけど?」

 結局、何も答えが見つからないまま、時間だけが過ぎていく。
 でもよっちゃんと話してるととても心が落ち着く。
 いつまでもこうしていたかった。

「ふふっ」

「どうしたのよ、急に」

「なーんでも」

 もしかして恋って、こんな気持ちのことを言うのかな。
 今の私にはまだ分からないけど。
 もしそうだとしたら、それってとっても素敵だな。



【善子】

 梨子との電話を切って、私は溜め息をつく。

「うそつき」

 虚空に向かって呟いたそれは、自分自身に向けての言葉。
 好きっていう気持ちはね。ドキドキして、泣きたくなって、でもその人のことを考えると胸の奥が温かくなる、とっても面倒なもの。
 それは曜さんのことを考えた時の、自分の胸の内。

 曜さんを初めて見たのは、まだ高校に入る前。
 部活帰りなのか仲間と楽しそうにお喋りして、ふわっと癖のある髪を揺らして。
 まるで彼女の周りだけ明るくなったみたいで、天使ってのが実在したらこんなのかしらって思ったわ。

 そしたらまさかその人が同じ高校で、しかも一緒にスクールアイドルなんてのをやるなんて。
 当時の私に言っても絶対信じないでしょうね。
 最初は、やっぱり住む世界が違うなって思った。誰にでも分け隔てなく接して運動神経抜群で、いつでも皆の注目の的。
 ヨハネとは何から何まで正反対。まあ私もある意味注目の的だけど?

 そんなだから私にも普通に接してくれたけど、それは誰にでもしてることなんだって散々自分に言い聞かせた。
 優しい先輩なんて存在がヨハネにできただけで奇跡じゃない。それで満足しなさいって。
 でも、バスが同じこともあって、話す機会もたくさんあった。

 基本的にいつも、話すのは曜さんの役目だった。
 だいたいは千歌さんのこと。あとは部活のこととか、お父さんのこと。
 とても楽しそうに話す曜さんの横顔が私は好きだった。
 ただ、リリーのことを話すときだけ、少し曇った目をするの。
 もちろんリリーと曜さんも仲良しだけど、特に最近の千歌さんはリリーにお熱だったから、いろいろ複雑な感情があるんでしょうね。
 それに気付いたとき、曜さんだってそういう綺麗じゃない部分を持った人間なんだって思えて嬉しかったわ。

 そう、私は恋を知っていた。
 まあ、告白して浮かれてるリリーには教えてあげないけど。
 でも千歌さんとリリーが付き合ったら、もしかして私と曜さんも……なんて。

『ねえ、今なにしてる?』

「送信っと」

 なんだかいても立ってもいられなくって、私は珍しく自分からLINEを送った。
 全く、浮かれてるのはどっちだろう。

『電話して良い?』

 返ってきた返信は私の質問に対する問いではなく、突然の通話依頼。
 あんまり電話は得意じゃないんだけど、でも今日は私も話したい気分だった。

「もしもし」

「あ、善子ちゃん。ごめんね、急に」

「いえ、それは良いんだけど」

 電話越しの曜さんは、なんだか様子がおかしかった。
 別にやり取りは普通なんだけど。

「あ、そうだ善子ちゃん。こないだのアレ見た?」

「アレじゃわかんないわよ。というかヨハネよ」

「それもそうだね、あっはっは。ほら、水曜夜の」

 なんだか妙にテンションが高くて空回り気味だし、それなのに声はなんだかかすれ気味で。
 しばらくして私は気づいた。きっと曜さんも、知ってるんだって。
 わかってたじゃない。曜さんが千歌さんのこと好きって。二人が付き合ったら辛い思いをするって。
 それなのに私は自分のことばっかり考えて……。

 やっぱり私じゃ曜さんと釣り合わない。
 リア充と中二とか、人間と堕天使とか関係なく。
 優しくて繊細な曜さんと、こんな自己中な私とじゃ。
 もし仮に付き合えたとして、きっと曜さんを傷つける。

「善子ちゃん、聞いてるー?」

「もう、ヨハネよ」

 空回り続ける曜さんと電話を続けながら私は――。
 そっと自分の気持ちに蓋をした。



【ダイヤ】

 パタン、と手にした台本を閉じて、私は深く息を吸う。

「破廉恥ですわー!!」

「う、うるさいずら」

 今度開かれるという映像作品コンクール。
 知名度アップと表現力向上を兼ねてAqoursも出場しようという千歌さんの提案。
 いろいろと困難はあるものの得る物も大きいと思い私も賛成しました。
 オリジナル作品限定とのことでしたが、脚本は花丸さんに任せれば安全……そう思ってましたのに。

「なんですか、これは。確かに、百合営業はスクールアイドルでも広く行われています。仲の良さをアピールできて、かつファンの皆さんを盛り上げることもできますから。ですが、これでは逆に不仲説とか昼ドラ並みに愛憎入り混じるグループとか噂されかねませんわ」

「落ち着いて、ダイヤさん。あくまでフィクションだから。見る人もそこは分かってくれるはずだから」

「そ、そうですわね。失礼しました」

 千歌さんに宥められて、少し冷静さを取り戻しました。
 あまりに想像していたものとかけ離れていたので、つい取り乱してしまいましたが。

「そうよ。現実のヨハネはずら丸以外考えられないんだから」

「皆の前で照れるずら」

 いえいえ二人とも。
 何もここで百合営業を実演してみせる必要はないのですが。
 ファンの方の目もありませんし。

「私も梨子ちゃんに全速前進ヨーソローですから!」

「も、もう。曜ちゃんったら……」

 んん? 様子がおかしいですわね。
 梨子さんの照れ方と来たら、まるで本当に恥らっているかのよう。
 これだけ演技ができるなら、今更突貫のミニドラマなどやらなくても十分なのでは?

 いえ、本当は分かっていますとも。
 冗談でもなんでもなく、本当に彼女たちは付き合っているのでしょう。
 はあ。果南さんと鞠莉さんはともかく、まさか、あなたたちまで……。
 いつの間にAqoursの風紀はここまで乱れてしまったんですの。

「ルビィ、あなたはこんな風になっちゃ駄目ですからね」

 黒澤家の名に恥じぬよう、私たちだけでも節度ある生き方をしていきましょうね。

「あ、ルビィは千歌ちゃんと付き合ってるから」

「は?」

「……」

 瞬間、沈黙がその場を包む。
 ルビィがなにを言ったのか、いまいちわかりませんわね。

「ダイヤさーん、もしもーし」

 これは夢、夢に違いありません
 耳元で騒ぐ千歌さんの声を聞きながら、起きろ起きろと念じます。

「おーい、聞こえてますかー?」

 でもどうして、全く覚める気配がないのでしょうか。
 不思議な夢もあったものですね。

おしまい
スクフェス総選挙

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