曜「幸せな世界」

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曜-アイキャッチ3
――――


千歌「私は、曜ちゃんに……幸せになって欲しいな」

曜「えっ――うわっ」

ガタン、とバスが大きく揺れたせいで何だか一瞬、意識が飛ぶ様な感覚に襲われて――今聞こえたある単語が私の意識を引き戻した。

『幸せ』

……まず、“幸せ”って何?

普通の人ならすぐ出てきそうなその質問の答えが、私はぱっと思いつかなかった。

夢を叶える。お金持ちになる。いい仕事に就く。好きな人と結婚する。家族を持つ。自由気ままに生活する。仲の良い友達とずっと遊び続ける……うーん。

人の数だけ“幸せ”の形があるって、偉い人が言ってた――様な気がするけど、だとしたら私の“幸せ”もきっとあるはず、だけど……

私にとっての“幸せ”って、一体何なんだろう?

pixiv: 曜「幸せな世界」 by アルフォート

スクフェス総選挙

空っぽの頭を必死に働かせてどれだけ考えても、思いつく“幸せ”は何かピンと来ない……どころか、寒いせいもあっていつもの五割増しで頭が動いてない気がする――このバス、古いとはいえ、冷暖房も止まりますボタンも無いの、流石にどうかと思うんだよね。


曜「……ねぇ、千歌ちゃん。“幸せ”って何だと思う?」

どうしても分からないから、聞き返しちゃった。オウム返しみたいで凄く間抜けな感じだけど、本当に分からないんだもん。仕方ないよね。

……次の私の言葉を待ってる千歌ちゃんが何だか、不安そうに見えて、とりあえず何か言わなくちゃって思ったのもあるけど。

千歌「えっ? うーん、そうだな~……私は、美味しいものを沢山食べる――じゃなくって……やっぱり、好きな人が笑ったり、喜んだりしてるのを見るのが、一番幸せ、かな」

曜「……ふーん」

千歌「ちょっ、何その素っ気ない返事!? 頑張って真面目な事言ったのに~……」

曜「あ、はは、ごめんごめん……」

千歌ちゃんの言葉に何も感じなかった訳じゃない。優しい千歌ちゃんらしいなとは思ったし、いい事言ったな~、とも思ったけど……

ただ、よく分からない事が一つあって、それが引っかかったせいでその場しのぎの返事になっちゃった。


好きな人が笑ったり、喜んだり……っていう事はつまり、千歌ちゃんには好きな人が居るって言う事だよね? 居ないとそんな事言えないだろうし。

名前の知らない千歌ちゃんの好きな人……

想像してみる。どんな人だろう。

かっこいい人なのか、かわいい系の人なのか、それとも筋肉モリモリのガタイのいい人? いやいや、ないない……。

うーん全然分からない――って、考えてみれば、千歌ちゃんとはどんな男の人が好きか、なんて話はした事がなかったな。

ただ、千歌ちゃんの中の好きな人を想像すると――何だか羨ましい……

羨ましい?

何でそう思うの? そもそも私はただ、千歌ちゃんの“幸せ”を聞いただけで、千歌ちゃんの好きな人の事についてなんて全く考えてなかったし、今まで考えた事も無かった。


なのに、どうしてこんなに色々考えちゃってる?

経験した事のない思考の回転。

例えるとしたら、昔からずっとやってる遠泳みたいに、終わりが見えない、底が深い、でも出発したら戻れない……それと同じ様な感覚に陥って――

千歌「……ね、曜ちゃん、私、何かヘンな事言っちゃった、かな? 」

曜「へ――あ、あっ、えっと……その……」

どれくらい黙っていたんだろ。見かねた千歌ちゃんが恐る恐る話しかけてきた。


別に何ともないよ。ただ、千歌ちゃんの好きな人って、どんな人なのかな~って考えてただけ♪

曜「…………」


沈黙。

帰りのバスの中は私達二人だけっていう訳じゃないから、前の席で話してるウチの生徒の声とか、バスのアナウンスとか、そういう音はあるから沈黙っていうのはおかしいかもしれないけど……それでも私と千歌ちゃんの間には、気まずくて、もどかしい沈黙が流れてる。


どうして言わない? 会話を再開出来ない?
別に何にも問題なんて無いはずでしょ?

何にも迷う事なんてない、普段通りの会話だったはずでしょ?

本当に?

本当に普段通りの会話、だったっけ。
そもそも、何で私の“幸せ”の話になったのか……そうだった、そういえば私の将来、どうなるのかなぁって話をしてたんだった。

船長さんにはなりたいと思ってるけど、飛び込みもちゃんとやってみたいと思ってたり――でも、服のデザインなんかもしてみたい、とか色々話してたら――そう、そこで言われたんだ。

『私は、曜ちゃんに……幸せになって欲しいな』

うん。それで“幸せ”って何か、だ。

やっぱり分からない、けど、ただ一つ分かったのは――千歌ちゃんの“幸せ”は『好きな人が笑ったり、喜んだり』っていう事。


なら私は……私の幸せは……

曜「……うん、私もそう思うよ」

千歌「へ? 何が? 」

曜「あ――」

今度は逆に、特に何も考えてなかったのに言葉が出ちゃった。我ながらよく分からない感じだけど、出ちゃったものは仕方ない。とりあえず弁解しなきゃ。

曜「え、えっと。私も、好きな人が嬉しそうにしてたら幸せ、かなって」

千歌「えー、それ絶対私の言った事パクったでしょ! 」

曜「ぱ、パクってないよ! ほんとにそう思ったんだって!! 」

……え?

『ほんとにそう思った?』

いや、ほんとにそう思ったから、そう思ったんだけど……え?


それなら私にも――好きな人が居るって事で。


――千歌ちゃん?


曜「……」

千歌「ん? どしたの、今度はいきなりそっぽ向いて」

曜「……な、何でもないから、もうこの話はおしまいで……」

千歌「ちょっ、ちょっと! 元はといえばそっちが振ってきたんでしょっ! せっかく幼なじみで、長年曜ちゃんを見てきた曜ちゃん博士の私が、お悩み相談してあげようと思ったのに~……」

曜「……」

千歌ちゃんの顔と反対の方向――窓の先には、どこまでも暗闇が広がっていた。日が落ちるのも早くなったな。やっぱり、街頭が無いとほんとに暗いよ。この辺り歩く時凄く危ないと思うんだよね。夜は――


ダメだ。離れない、千歌ちゃんが……どんなに別の事を考えようとしても、千歌ちゃんが頭から離れてくれない。

千歌「……曜ちゃん、今日ほんとにおかしいよ? 大丈夫? 」


大丈夫。

……じゃないよ。


だって。だって……


気付いちゃったんだもん。

今まで考えてた事無かったから――考えない様にしてたから、気付けなかった、本当の気持ちに。


全部、好きだ。

千歌ちゃんの笑ってる顔。むすっとした顔。怒った時に子供みたいに駄々をこねる仕草。びっくりした時に上げる凄い甲高い声。たまに見せてくれるかっこいい顔――ドジしちゃった時、恥ずかしがって顔真っ赤にしてるのも、可愛い。

可愛い。かっこいい。好き。好き……

千歌ちゃんが好きな人――どんな男の人が好きだとか、“幸せ”が何だとか、そんな事関係無い。

女の子が女の子を好き、なんておかしいかもしれないけれど、そんな事も考えてられない。


ただ、ただ。千歌ちゃんの事が、私は好きなんだ。

塞がれてた気持ちは、一回開けると、止まらないみたいで。

外の暗闇と車内の寒さとは正反対に、明るく、熱く、私の心は燃えていて――

顔も、凄く、凄く熱い……


千歌「もーっ、いつまでそっち向いてるの! しっかり顔見て、言いたい事があるなら、ちゃんと――」

曜「……」

千歌「……えっと、それ、熱? 」

曜「あ――そ、そ、そうだよっ! 何か練習の時から熱っぽくて、今もなんか暑いな――くしゅんっ」

千歌「……ね、寒いならさ、おしくらまんじゅうしようよ」

曜「え……? 」

おしくらまんじゅう――なんて、今したら……私……

千歌「ほら、もっと近くに来て? 」

曜「で、でも……ね、熱がうつる」

千歌「いいからっ、寒いんでしょ? 」

曜「あ……う、うん」


ただでさえ近かった距離が更に近づく。
おしくらまんじゅうなんて、子供の頃から当たり前の様に何度もしてきたはずなのに、ドキドキが、凄いの。

こんなの、初めて――飛び込みの決勝よりも。Aqoursの初ステージの時よりも。どんな事よりも、緊張――とも違う

ひょっとしたら死んじゃうんじゃないかってくらい、心臓、ばくばく、動いてる。


こんなに近かったら、この胸の音も聴こえちゃう……きっと……

千歌「おしくらまんじゅう、押されてなーくな、おしくらまんじゅう、押されて、なーくな……ほらっ、曜ちゃんも言って? 」

曜「お、おしくら、まんじゅ、押されてなくなっ、おしくらまんじゅっ、押されて、なくなっ」

声が震えてる。私――それに何故か千歌ちゃんも。

でも、あったかい。

あったかいよ、千歌ちゃん。


千歌「おしくらまんじゅう、押されてなーくな、おしくらまんじゅ――」

曜「うっ……うぅう……ぐすっ、ひっぐ、うぅ……」

千歌「え――な、何でっ、ほんとに泣いちゃってる……!? 」

何で、泣いてるんだろう。私。

突然泣き出した私に、あわあわとしてる千歌ちゃん。当たり前だよね。

大丈夫だよ、って言わないといけないのに。
何ともないよ、って言わないといけないのに。

……『好きだよ』、って言いたいのに。


千歌「あ……え、えっと……えっと――」



――三津郵便局前、っていうアナウンスが聴こえた。千歌ちゃんの最寄りのバス停。

そっか。話してる内にもうそこまで来てたんだね。それじゃ、今日はこれで――っていう声すら出ない。嗚咽と流れる涙が止まらなくて、暖まってきた体も少し冷えちゃってる。

ああ――もう少し、おしくらまんじゅうしてたかったな。もう少し、もう少しで……伝えられたかもしれないのに。本当の気持ちと、私の“幸せ”……。

別れる直前になって急に自分の中に嫌な気持ちがモクモク膨らみ始めた。
どうして私は沼津に住んでるんだろう、とか、どうして学校からこのバス停までもっと長くないんだろう、とか、どうしようもない事ばっかり、浮かんできて。

ほんとに言わなくちゃいけない事も、これじゃ言えな――

千歌「降りよ、曜ちゃん」

曜「……うぇ? 」

千歌「私まだ聞いてないよ。曜ちゃんのお話、何にも」

涙声で返事すらまともに出来なかったけど、千歌ちゃんはそっと私の手をとってくれた。


外に出るとぽつぽつと灯る家の明かりしか無くて、私が住んでる沼津の方とは違って本当の暗闇っていう感じだけど――これっぽっちも怖いと思わないのは。


“幸せ”だからだと思う。


バスの車内以上に寒くて、夜だから一日の中で一番冷たい風が吹いてるけど――それでもちっとも寒くないのは。


“幸せ”だからだと思う。


涙なんて、最近めっきり流してなかったのに、急にぼろぼろ流れ出したのは――いつも泣く時は大抵、悪い事があったからで、泣いた後は絶対気持ちが沈んでたのに……今は何だか気分が晴れているのは。


“幸せ”だからだと思う。


そして――どうして、今私は“幸せ”なのか。


そんなの決まってる。
千歌ちゃんが、好きだから。


好きだって、気付けたから――“幸せ”なんだと思う。


――――


曜「ほんとごめんね、まさか泊まらせてもらう事になっちゃうなんて」

千歌「いいよそんなの、だって私が無理やり引っ張って来ちゃったんだし……」

曜「……もし、引っ張ってくれなかったら、私」

千歌「何? もしって」

曜「何って、その言葉通りだよ。もしも千歌ちゃんがあそこでそのまま帰っちゃったら」

千歌「ありえない! 」

曜「へ? 」

千歌「“もし”とかないから! 絶対連れていくもん! 何十回でも、何百回でも、私はああなったら絶対曜ちゃんの事ほっておかないもん! ううん、ほっとけないもん! だ!! 」

曜「あ……好き」

千歌「は――えっ、えぇ~……う、べ、別に今そういう、その、無かったでしょっ! 好きとか言うとこじゃないじゃん!! 」

曜「……全部好きだもん、千歌ちゃんの事」

千歌「あ……えっと……ほんと? ほんとに、好き、なんだよね、チカの事」

曜「好きだよ。ちょっと天然なところから、可愛いところ、かっこいいところまで、全部」

千歌「そ、そっか……そっか……う、ん……えへへ♪ 嬉しい……な♡ 」

曜「嬉しいのは……私の方だよ。私の話、泣いてて訳分かんない事言ってたかもしれなかったのに、全部ちゃんと聞いてくれて……」

千歌「うん……確かに、後半はずっと『好き、好き』しか言ってこなかったからね……何回も言われて照れちゃったよ、へへ♪ 」

曜「やっぱり……自分でも何言ってるか分かんなかったんだよね~、はぁ……」

千歌「……好き」

曜「あ――あ、う、うん……」

千歌「また素っ気ない返事した! せっかくさっきお返ししてあげたのに……曜ちゃんのばーか! 」

曜「ご、ごめん……その、言われ慣れてなくってさ」

千歌「そんな事言ったら私だって慣れてないよ……一回目の『好き』の時……ほんとに――ほんとに私の事、好きなんだ、曜ちゃんがって思って――血が逆流しそうになったんだよ? 」

曜「……ぷっ、くすっ♪ 流石にそれは言い過ぎだって~♪ 」

千歌「なっ……何で笑うの~!! 」

曜「だって、血が逆流って……ありえないじゃん♪ 」

千歌「そ、そういう曜ちゃんは、どう思ったの? その……『好き』に気付いた時? だっけ? 」

曜「……あー」

千歌「え、何があー、なの」

曜「死んじゃうんじゃないかってくらい、ドキドキしてた……かな」

千歌「……同じじゃん、バカ」

曜「……同じだね、千歌ちゃん」

千歌「……」

曜「……」

千歌「好き……」

曜「ん、私もだよ……」

千歌「……」

曜「……」

千歌「……これってさ、やっぱり……き、キスとかする流れ……だよね? 」

曜「わ、私に聞かないでよっ! 分かんないよ、した事無いし……」

千歌「……曜ちゃんは、き、キスしたい? 」

曜「あっ、えっと……し、したい、かも」

千歌「い、いいの? ほんとに」

曜「い、今更、何でそんな……いいよ、千歌ちゃんとなら……♡」

千歌「ほんとに」

曜「いいってばっ、ほらっ、目瞑って? 」

千歌「え、でもそしたら顔が見えない……」

曜「何でもいいから……もう、千歌ちゃんが言い出したのに、何で……も~……」

千歌「曜ちゃん……バスの時より顔赤い……耳まで真っ赤だ……♡ 」

曜「なっ、や、やめてよっ、そういうの……千歌ちゃんこそ、目潤んでるよ? 」

千歌「だって……“幸せ”なんだもん、私も」

曜「……そうだね。私も……“幸せ”だよ。すっごく♪ 」


千歌「……私からするね、言い出しっぺだからね」

曜「……うん、いいよ」

千歌「すー、ふー……よ、よしっ、いくよっ」

曜「そんなに意気込まれると、こっちまで緊張してく――」

千歌「ちゅっ」

曜「ん!? う……ん、んっ…………んん、う……うっ、はっ…………はぁっ、あっ……初めて、キス、しちゃったね……♡ 」

千歌「ん……♡ なんか、凄いね、唇が重なってるだけなのに、凄い気持ちいい……♡ 」

曜「ちかちゃん……もう一回……」

千歌「うん……♡ いっぱい、しよう♡ 」


――――


千歌「すー……すー……ん、くすぐったいよぉ……」

曜「あ……もう朝……」

曜(って、私……とんでもない事しちゃったなぁ……。はぁ……やばかったよ、色々と)

昨日の? 今日の? 事を思い出して、何もかもが“幸せ”だったなと、噛み締めながら実感する。


“幸せ”。

今ならもう、迷いなく答えられる。


私の“幸せ”は、千歌ちゃんが“幸せ”な事。

それから……千歌ちゃんも……私とおんなじだった。

『好きな人が――曜ちゃんが嬉しそうにしてるだけで、私も何だか“幸せ”になっちゃうんだよね♪ 』


気持ちが同じなのも、幸せ。
両想いだったって事も、幸せ。

一緒に居られるだけで……幸せ。


そんな“幸せ”だらけの私はきっと……


世界中の誰よりも“幸せ”なんだって、心の底からそう思える。


曜「……千歌ちゃん、大好き♡ 」

千歌「……私も、ん、大好き……♡ すー、すー……」

曜「あ……寝言かな? くすっ♪ 嬉し」

千歌「ん、ようちゃ……そんなとこ、だめだよ、そこ……っ……ぐー、すー……」

曜「…………まぁ、いっか。幸せだし……♪」



Fin♡
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