花丸「紅い唇」

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花丸-アイキャッチ6
1: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:47:28.25 ID:rpEihqQk.net
「―――ふぅ」

読み終えた小説をぱたんと閉じて、マルは一息。


この本―――浦女の図書室の最後の購入リストの中にあった、1冊なんだ。

もう廃校になっちゃうから―――図書室の購入リクエストも、これでおしまい。

浦女が無くなっちゃうのも、もちろん寂しいけど。


この図書室の本棚には、もう―――本が増えることも無い。


ううん、むしろ―――

最近置かれたばっかりの本棚も、もう古くなって歪んじゃった本棚も―――

そこに住む本たちも、それを読む生徒も、みんな――――

ここから、いなくなっちゃう。


実際、もう学校の備品は少しずつ片付けられていて―――

図書室も例外じゃない。

元スレ: 花丸「紅い唇」

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2: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:49:22.62 ID:rpEihqQk.net
いくつかの本棚は、もう空になった。

そこに居た本たちは、生徒たちが貰っていった。


オラたちは、統合した学校に行くことになるけれど―――

貰われていった本たちは、生徒たちが大切にしてくれるけれど。

じゃあ、居場所のなくなった本たちは、どこに行くんだろう?

ふと、そんな考えが頭をよぎった。


きっとオラたちの行く学校の図書室でまた会える本は、ほんの少しで―――

沼津の図書館や他の学校の図書室に行く本もいれば―――

処分されて、二度と誰にも読んでもらえない本もいる。


そう思うと、マルは寂しくて、寂しくて仕方なくて。

居ても立っても居られなくて―――

今まで読んだことのなかった本も、苦手で遠ざけていた本も、全部読んでみようって。

そう決めたオラは、暇さえあれば図書室に引きこもるようになったのでした。
3: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:52:01.75 ID:rpEihqQk.net
えっと、それで―――

この本は、ちょっと前に流行ったネットの小説が、本になったもの、みたいで。

オラ、そういうのはあんまり読まないんだけど―――


その、えぇっと―――すごく、は、恥ずかしい、描写が、あって―――。

えっと―――その、男女のそういうシーンなら、他の本でもたまに目にはしていたんだけど。


この小説の主人公は女の子で、ヒロインも女の子で。

最後に―――


「マル~~?」

「ひゃあ!!」


がらっと、突然勢いよく開いたドアに―――マルはおかしな声をあげてしまいました。
4: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:55:12.87 ID:rpEihqQk.net
「わっ―――」


ドアを開けたのは、ヨハネちゃんでした。

オラの声にびっくりしたヨハネちゃんは、転んで、机に頭をぶつけて―――

あっ!

その机の上には、積まれた本が――――


どさどさどさ―――。


倒れたヨハネちゃんの上に、何冊も本がのしかかる。


「うぅ……」


ヨハネちゃん―――本当に、小説の登場人物みたいな不幸ぶりずら……。
5: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:58:11.87 ID:rpEihqQk.net
「ふぅ―――変なとこぶつけなくて済んでよかったわ」

「よっちゃん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫。もう―――いくら読むのに夢中だったからって、本を積んでおくのはやめてよね」

「うん、ごめんなさい……」

「そ―――そんなに落ち込まないでよ。マルちゃんのせいじゃないし―――それで、今日は何読んでたの?」

「えっ!?え、っと―――」

「―――あ、これこれ!映画がすごく私好みだったから、本になってるのを知って探してたのよ♪」


ヨハネちゃんは、マルがさっきまで読んでいた本を手に取って―――

上機嫌で、貸出カードに名前を書いている。


「これ―――読んでたの?」

「えっ――――と、その……うん、さっき読み終わった、ところで―――」

「へえ、意外―――マルちゃんって、こういうの読まないと思ってたのに」
6: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:00:54.83 ID:L8Flrlaf.net
「ねえ、ところで―――」

「な、なに?」


「この小説の主人公とヒロイン、マルちゃんとルビィに似てなかった?」


「な、なななな――――――」


顔が、かぁっと熱くなるのがわかった。


そう、この小説の主人公と、ヒロインは―――


「弱気な女の子がふたり、お互いに引っ張り合って―――なんて、

映画を観てる時からマルとルビィみたいだって思ってたのよ。

でもまさか、最後があんなことになるなんて思わなかったけれどね。女の子同士で―――――」


「わあああああああ!!!」


オラは耳をふさいで大声を上げてしまって―――


「ちょ、ちょっとどうしたの?大丈夫?」


わああああああああ、聞こえない、聞こえない――――!
7: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:03:25.70 ID:L8Flrlaf.net
……その、ね。


この小説は、気弱な女の子ふたりが力を合わせて困難を乗り越えていくお話、なんだけど。

マルはビルドゥングスロマンは好きだし(成長物語のことずら)

文章も読みやすくて、スラスラ読めたんだぁ。


そ、それでね。

主人公もヒロインも、お互いのことを大切に想っていて―――

最後の、シーンで―――――

2人は、お互いの気持ちを確かめ合って、き、きき、―――――


キスを、するの。


ヨハネちゃんが言う通り、小説の主人公は、なんだかオラに似てて―――

ヒロインの子は、ルビィちゃんに似てるなって、思ってて。
8: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:07:36.07 ID:L8Flrlaf.net
マルはいつも、本を読むと夢中になって―――

主人公がオラと似ているから、余計に、物語の中に居るように錯覚して。


頭の中で、ルビィちゃんと――――


「ねえ、マルちゃん」

「ひゃああああ――――あ、よ、よっちゃん」

「ホントに大丈夫?……これ、カードにハンコ、押してくれる?」

「あ、わ、わかったずら」


カードに日付の入ったハンコを押して、ヨハネちゃんに返す。


「はい、お待たせ……」
10: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:12:31.18 ID:L8Flrlaf.net
「ん、ありがと。今日は練習無いけど―――マルちゃんは、まだ図書室に残ってるの?」


うん―――って声を出したつもりだったんだけど、ヨハネちゃんは首をかしげている。

こくり、と頷いて意思を示す。


「顔も赤いし―――帰った方がいいんじゃない?今日のマルちゃん、ちょっと変よ?」

「でも、ルビィちゃんを待ってないといけないし、図書室の当番も、もう少し残ってないとだから―――」

「だったら私が待ってるわ。ルビィには伝えておくから―――
それに、当番って言っても、ハンコ押すだけでしょ?」

「でも―――」


でも。

たしかに、今、ルビィちゃんを見たら――――


ううん。


見れない、気がするずら……。
11: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:19:07.69 ID:L8Flrlaf.net
「じゃあ―――お願い、してもいい……?」

「いいって言ってるでしょ。本は読まないで、早く寝るのよ?」

「ありがとう、ヨハネちゃん―――ヨハネちゃんは、堕天使なのに、優しいよね」

「ほら、今はいいから―――早く帰りなさいよ」


ちょっとだけ赤くなったヨハネちゃんは、マルの代わりに席に座ってくれた。


優しい堕天使のヨハネちゃんに後を託して―――


マルはふらふらと、帰路につくのでした。
12: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:20:35.75 ID:L8Flrlaf.net
―――その紅い果実は、この世の何よりも甘美なものだった。

―――いつも手と手を重ねていたように、唇をそっと重ねるだけで。

―――この身で、これ以上ないくらいに、たしかに彼女の存在を感じられた。


「うぅ……」


帰ってから寝るまで―――ううん、寝て起きても。

あの小説のキスシーンは、マルの頭の中をず~~~っと、ぐるぐるしていた。


教室の前まで来て、ドアにかけた手が止まる。


もしも――――――


あ。


オラ―――今、なんて酷いことを考えたんだろう。
13: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:25:36.35 ID:L8Flrlaf.net
"ルビィちゃんが居たらどうしよう"


そんなことを、思ってしまった。

この世界で一番大切な、マルのお友達。

そんなルビィちゃんを―――


「―――最低ずら」


「何が?」

「きゃああ!!」

「わっ、ちょ―――まだ治ってないの?」


マルが悲鳴を上げて振り向くと、そこにいたのはヨハネちゃん。
15: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:27:16.83 ID:L8Flrlaf.net
「よっちゃん……その―――昨日はありがとう」

「それは別にいいんだけど―――大丈夫?」

「大丈夫って―――なにが?」

「いや、なにが?じゃなくて―――昨日と何も変わってないように見えるけど」

「う―――」


図星―――ヨハネちゃん、鋭いずら……。


「―――あら? 2人揃って、教室の前で何をしているの?」


不思議そうに声をかけてきたのは、ダイヤちゃんでした。
16: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:31:21.10 ID:L8Flrlaf.net
「あぁ、そういえば―――マルちゃん、具合が悪かったの?」

「え?」

「ルビィも昨日心配していたわ。大丈夫?」

「う、うん―――」

「ならいいけど。無理しないようにしてね」

「ありがとう……」

「そういえばルビィは?教室にも居なかったけど」

「あの子ならまた寝坊よ」

「ふぅん―――」


「は、はぁ、はぁ―――ま、間に合ったぁ!」


その声を聞いて、オラの身体はびくん、と跳ねた。
17: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:36:17.22 ID:L8Flrlaf.net
「あら、今日は間に合ったのね」

「お姉ちゃん、酷いよぉ―――なんで、いつも、先に行っちゃうの」

「今日も3回起こしたわ。起きなかったのはルビィのほうでしょ?」

「そ、そうだけど―――」

「―――あ、わたくし、朝の放送があるから行くわね。マルちゃん、お大事に」

「は、はい―――」

「お、お姉ちゃぁん……」


一挙一動が美しいダイヤちゃんを見送ったあと―――


マルは恐る恐る、視線をずらした。
18: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:38:24.42 ID:L8Flrlaf.net
その紅い髪は、いつもと違って結われることなく垂れている。

幼さの残る彼女の顔は、走ってきたおかげか、紅潮していて―――

姉に冷たくあしらわれ、目には涙が溜まっている。


「はぁ、はぁ―――あ、お、おはよう、よっちゃん、マルちゃん」


私に向けてくれる純粋な笑顔にも、色気を感じさせた。

赤い、紅い唇から零れる微かな吐息も。


いつもは何とも思わないのに―――


今日は、とても甘く。


―――吐き気すら覚えるほどに、甘く感じた。
19: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:43:04.39 ID:L8Flrlaf.net
「おはよう、ルビィ」

「お、おはよう―――ルビィちゃん」

「うん♪―――あ、そうだ!マルちゃん、大丈夫?調子悪かったんだよね?」


突然手をぎゅっと握られる。

またオラの身体は、びくんと跳ねる。


「え、っと―――うん。大丈夫、ずら」


無理矢理笑顔を作って―――そっと、ほんの少しだけ、手を握り返す。


「そっか!よかったぁ―――ルビィ、すっごく心配したんだよ?」

「ごめんね、ルビィちゃん……」

「いいよいいよぉ、マルちゃんが元気ならそれで!」

「ルビィ、髪すごいことになってるわよ?結んであげようか?」

「いいの?ありがとう、よっちゃん!」

「マル?―――マルちゃん?ほら、教室入るわよ?」

「あ―――うん」


このもやもやをどうすればいいのかわからなくて―――

マルは大きく、溜息をつくしかありませんでした。
21: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:51:42.21 ID:L8Flrlaf.net
オラは気づけば、ルビィちゃんをぼーっと眺めていました。

ヨハネちゃんが髪を持ち上げると、ルビィちゃんの綺麗な首筋が見えて―――

目を、逸らしてしまう。

いつも―――小さいころからずっと。

なんなら、お風呂にだって一緒に入ったりして―――

ルビィちゃんのことを、ずっと見ていたはずなのに。

ドキドキが、止まらない。


でも、気になって、またちらりと、ルビィちゃんを見る。


「あ―――エヘヘ♡」


目が合ってしまって―――

硬直したマルに、ルビィちゃんは優しく微笑みかけてくれる。

オラもなんとか、笑顔を返した――――つもり。

どんな顔をしていたかは、わからない。


マルは―――

いつもは嬉しい、大好きなルビィちゃんの優しさが。

もやもやと、心を覆うようで。

胸をちくちくと刺してくるようで―――


とても、辛かった。
22: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:57:46.15 ID:L8Flrlaf.net
お昼休み。

教室に、鞠莉ちゃんがやってきた。


「ハァイ! Lunchの途中にごめんね?今日の練習の事だけど―――」


ダイヤちゃんが、オラの体調を案じて、練習を休みにするって決めたみたい。


「マル、大丈夫?顔色はいつもと変わらないけど―――」


ずずい、と顔を近づけてくる鞠莉ちゃん。

鞠莉ちゃんはハーフで、海外の人っぽいところがあって―――人との距離感が近いずら。


「もしかして―――好きな人でもできたとか♡」

「え――――?」
23: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:59:15.84 ID:L8Flrlaf.net
「すっ―――」

「好きな人ぉ!?」


鞠莉ちゃんの一言で、ルビィちゃんとヨハネちゃんが立ち上がる。


「ウ、ウソでしょマル!?」

「ど、どんな人!?ルビィも会ってみたい―――あ、でも男の人は苦手だから、えっと―――」


2人の声が頭に入ってこない。


耳たぶが熱くなるのを感じる。


「って――――もしかして、本当に―――?」


鞠莉ちゃんの笑顔が少し引きつる。


「そ、そうだわマル!ちょっと来てくれる?」


鞠莉ちゃんに腕を引っ張られて、マルは教室を飛び出した。
24: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 01:07:00.14 ID:L8Flrlaf.net
鞠莉ちゃんに連れられてやってきたのは、屋上だった。

太陽の光を浴びて、キラキラ光る駿河湾がまぶしい。


「――ごめん、マル。冗談のつもりだったんだけど―――まさか本当に、恋しちゃってるなんて」


恋。


本の中では、何度も経験してきた。

物語の世界の恋なら、熟知している。

Aqoursの曲で恋の歌も、そんな物語の世界の恋を想像しながら歌ってた。


でも、現実の世界の恋は――――知らない。


「恋、なのかな」

「……ん?どういうこと?」
25: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 01:10:18.86 ID:L8Flrlaf.net
「オラ、恋なんてしたことないから、本当に恋かわからないんだぁ」

「う~ん」

「それに―――」

「それに?」

「―――鞠莉ちゃん、誰にも言わない?」

「もちろん!マリーは味方よ♪」

「……じゃあ、お話、聞いてほしいずら」


オラは、ルビィちゃんの名前を出すのは伏せたけど―――

あの小説を読んでからのことを、鞠莉ちゃんに話した。


「そ、そっか―――ええと」


いつも飄々と、ハキハキとしている鞠莉ちゃんが―――珍しく、言い淀んでいる。
26: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 01:13:19.72 ID:L8Flrlaf.net
「それはきっと―――恋に、"なってしまった"のかもね」

「なってしまった……?」

「マルはその友達のこと、ずっと大切だったんでしょう?」

「うん」

「きっとそれは―――その気持ちは、friendship…"友情"だったんだと思うの」

「でも、小説がきっかけで、それはlove―――"愛情"に変わったんだわ―――なんてね☆」


鞠莉ちゃんの言葉を聞いて、なんとなく――――

はっきりしたような、気がした。


「あ、えっと―――マル?」

「そうかも、しれないずら」

「え?」

「マル、このもやもやが何かわかって、ちょっとだけスッキリしたずら」

「え、ええ!それならよかったわ!」

「お話聞いてくれてありがとう、鞠莉ちゃん」


マルは屋上を後にした。


「あれってゼッタイ―――ルビィのことよねぇ……」
41: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 20:49:50.78 ID:4x6tpkwX.net
「あ、帰ってきた」

「マルちゃん、なんのお話だったの?」


教室に戻ると、善子ちゃんとルビィちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。


「ねえ、好きな人ができたって本当なの?」

「よ、よっちゃん!?その話はやめようってさっき決めたよね―――」

「あっ―――ごめん」

「うーん……わからないずら」

「わからない?」

「そう。マル、恋なんてしたことなかったから。だから、まだわからないずら♪」

「ふぅん……」

「あ、そうだマルちゃん!欲しい本が出たんだけど、今日一緒にマルサン行かない?」

「えっと―――」

「―――もしかして、お寺のご用事とかある?」
42: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 20:53:59.14 ID:4x6tpkwX.net
「そうじゃないけど、オラ―――放課後は教室で、図書委員の集まりがあるから」

「じゃあ―――図書室で待ってるね。読みたい本あるし♡ よっちゃんは?」

「私は―――やめとく。今日は行きたいところがあるから」

「そっか」

「あの、ルビィちゃん―――」


キーン、コーン――――。

お昼休み終了のチャイムが、マルの言葉を遮った。


「ん?どしたの、マルちゃん」

「―――ううん、なんでもないずら」
43: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:01:14.48 ID:4x6tpkwX.net
「次なんだっけ?」

「古典だよ。よっちゃん、あの宿題やった?」

「やってなーい。あんな難しい問題、わかるわけないもの」

「えへへ、だよね……マルちゃんはわかった?」

「えっと―――」


ぺらぺらとノートをめくり、ふたりに見せる。


「わぁ―――すごい!さすがマルちゃん♪ねね、ちょっと見せて?」

「もちろんずら!」

「えへへ、ありがとぉ♡」


机に手をついて、ぴょんぴょんと跳ねるルビィちゃん。

飛び跳ねる度にふわりと、ルビィちゃんの匂いがする。

かわいいなぁ、ルビィちゃん。
44: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:05:34.65 ID:4x6tpkwX.net
さすが鞠莉ちゃん―――

マルのお悩みを、すぱっと解決してしまったずら。


オラの心を覆っていたもやもやは―――

胸を刺すちくちくは、今はむしろ心地良い。


さっきまで、眩しくて見えなかった彼女の笑顔も、

この世の何よりも美しく見えた。


―――そっか。


この気持ちが―――そうなんだ。


マルは、幼馴染に恋をした。
45: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:16:40.19 ID:4x6tpkwX.net
今日の図書委員の議題は、残った本の行先を決めるものだった。

生徒向けのポスターを作ったり、図書館や他の学校に電話したり。

浦女の図書室って、あんまり人は来てなかったんだけど―――

図書委員のみんなや先生たちはすごく一生懸命に活動していて。

みんな本を大事にしてくれているんだな、って―――マルは感動しました。


そのおかげで思っていたよりも時間がかかっちゃって―――日も落ち始めていた。


ルビィちゃんが待っている図書室へと向かう。

その足は軽くて―――朝、教室に入るのを躊躇っていたのがウソのようだった。

ルビィちゃんに会いたい。

今すぐ、ルビィちゃんを、感じたい。
46: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:26:44.66 ID:4x6tpkwX.net
「ルビィちゃん、お待たせ!」

がらっ、と勢いよく扉を開ける。

奥の机に、紅い髪がちらりと見えた。


―――ルビィちゃんだ♡


「ごめんねルビィちゃん、すっかり遅くなっちゃった。マルサン閉まっちゃうし、急いで―――」


と―――そこまで言って、初めて。


安らかな寝息に気づいた。


開きっぱなしの本は、ルビィちゃんの涎で濡れている。


あぁ、またやっちゃった―――。
47: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:35:38.04 ID:4x6tpkwX.net
仕方ないなぁ、とマルはハンカチを取り出して―――

口から零れ、頬まで達した涎を拭く。

枕になった本をそっと抜き出して―――

これくらいだったら、大丈夫かな。

水分をハンカチでふき取って、濡れたページにコピー用紙を挟む。


本を乾かしていたら、春のことを思い出した。

ヨハネちゃん―――あのときはまだ、善子ちゃんだったっけ。

ヨハネちゃんがリクエストしたアイドル図鑑を、ルビィちゃんが涎でべたべたにしちゃって―――

そこから、ちょっとずつ、ヨハネちゃんと話すようになって。


まだ、1年も経っていないのに―――なんだか、懐かしいな。


ページを扇風機の風に当てて、水気を飛ばす。

うん、そろそろいいかな―――

コピー用紙を新しいものに交換して本を閉じ、重しをする。


これでよし。
48: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:44:17.77 ID:4x6tpkwX.net
置きっぱなしのハンカチを仕舞おうと思って―――

涎を拭いて湿った部分に、ふと指が触れた。


…………。


う、うわあああああああ~~~~!


何を考えてるの、オラは―――!


……でも。


―――誰も、見ていない。


――――ちょっとくらい。


そう思って。


ルビィちゃんの涎を拭いた、そのハンカチを―――――


ちろりと。


舐めた。
49: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:51:24.21 ID:4x6tpkwX.net
胸のドキドキが止まらない。


ルビィちゃんへの気持ちが―――

いけないことをしている背徳感が、興奮が―――


なにもかもが、おさまらない。


「ルビィちゃん」


耳元でつぶやき、ぷにと頬をつつく。

起きない。


大丈夫。


こうなったルビィちゃんは、なかなか起きない。
50: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:00:11.04 ID:4x6tpkwX.net
ルビィちゃんのことなら―――ダイヤちゃんだって負けないくらい知っている。


かがんでルビィちゃんの顔を覗き込む。


綺麗な寝顔。


マルの世界で、一番愛おしい寝顔。


ゆっくりと――――顔を、近づける。


ほんのちょっとだけなら、いいよね。


唇を少しだけ尖らせて、目を閉じる。


ルビィちゃん、


大好き―――――――――。
51: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:13:27.33 ID:4x6tpkwX.net
頭にぴりぴりとしたものが走る。


―――――快楽。


紅玉のような彼女の唇は、私の脳を溶かしてしまうような、甘さだった。


いや――――実際、溶かされてしまったのかもしれない。


ルビィちゃんのことしか、考えられない。


愛しくてたまらない。


惜しいけれど唇を離して、そっと目を開けると―――――


「……」


ルビィちゃんと、目が合った。
52: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:22:33.49 ID:4x6tpkwX.net
慌てて飛び退いたけれど―――唇を、糸が伝っていた。

言い逃れはできない。


誰も見ていないわけがなかったんだ。


ここはミッションスクールの浦の星女学院。


マルはお寺の娘。


誰も見ていないように見えても―――神様はちゃんと見ている。


悪いことをしたら、罰が当たるずら。


「ま、マルちゃん―――」


ルビィちゃんが立ち上がった。


血の気が引くのを感じる。


近づいてくるルビィちゃんが怖くて、後ずさってしまう。
53: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:28:55.59 ID:4x6tpkwX.net
――――怖い。


ルビィちゃんに嫌われた。

マルはいけないことをした。


勘違いしていたんだ。

あの小説の女の子に似ているからって、自分を主役だって勘違いしてた。


でも本当は違う。

オラは所詮ただの脇役で――――

主役のルビィちゃんに、触れていい人間じゃなかった。


それを履き違えて、ルビィちゃんを汚してしまった。

ルビィちゃんに嫌われた。


ルビィちゃん、


ごめんなさい―――――――
54: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:39:08.62 ID:4x6tpkwX.net
えっと―――


ルビィ、マルちゃんの図書委員が終わるのを待ってる間、本を読んでたんだけど。


寝ちゃってたみたいで。


起きたらなんだか、息苦しくて。


唇がすごく熱くて。


目を開けたら、目の前にマルちゃんが居て。


何が起こってるのか、全然わからなくて――――


じーっとしてたら、マルちゃんの顔が離れて――――それと同時に、息苦しさも無くなった。


なんだか顔が真っ赤なマルちゃんを見つめていたら、ばっちり目が合って。


マルちゃんの口から、糸が引いているのが見えた。
55: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:40:34.68 ID:4x6tpkwX.net
ルビィの口も、なんだか湿っているような気がして――――


口元に手を当ててみる。


――――ルビィ、またよだれ垂らして寝てた?


じゃ――――ないよね。


いや――――そうかもしれないけど。


じゃあ、なんでマルちゃんの口から、ルビィの方に糸が伸びていたの?


……。


あの息苦しい感じ。


唇に残ってる感覚。


もしかして――――


ち、ちち――――――ちゅー、してた、とか。
56: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:43:51.77 ID:4x6tpkwX.net
―――――あ、あわわわわわわ!!


みるみる顔が熱くなるのがわかった。


熱くて、熱くて、このまま燃えて死んじゃうんじゃないかってくらい、熱かった。


「ま、マルちゃ――――」


うまく、声が出せない。

だからマルちゃんに声が聞こえるように、近づこうとしたら――――

さっきまで真っ赤だったマルちゃんの顔は真っ青になって。


ふらふらと後ずさりして――――


「ごめんなさい――――」


ばたん―――って、糸が切れたみたいに倒れた。


「マルちゃん!?」
57: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:00:06.26 ID:4x6tpkwX.net
ぼんやりと―――意識が戻ってきた。

目を開けようとしたけれど―――

窓から差す夕焼けの眩しさに、また目を閉じてしまう。


「―――マルちゃん!」

「ルビィ、ちゃん―――」

「よかったぁ、目が覚めて―――突然倒れちゃったから、びっくりしたよぉ」


涙目のルビィちゃんが、上から覗きこんでくる。

気まずくて、ぷいと顔を逸らすと―――

目の前にあるのは、ルビィちゃんのお腹。


「あ、ごめんね。ルビィの膝じゃ、寝心地悪かったかな―――」

「ひゃあああ!」


ごん―――と。

慌てて飛び起きたら、ルビィちゃんとオラの頭が、鈍い音を立ててぶつかった。
58: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:03:49.88 ID:4x6tpkwX.net
「いたた……だ、大丈夫、マルちゃん―――」


ルビィちゃんが、オラを心配して伸ばしてくれたその手を―――払ってしまった。


「―――マル、ちゃん……?」


ルビィちゃんがまた、泣きそうになる。


「―――駄目だよ、ルビィちゃん。オラ―――ルビィちゃんに触られる資格なんて、ないずら」


あんなことをしてしまったんだから――

本来なら、もうここで―――


言葉を交わす資格すら、ない。
59: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:14:50.14 ID:4x6tpkwX.net
「そんなこと、言わないで」


ルビィちゃんは目を擦って、泣くのを必死に我慢して―――震える声でオラに話しかける。


「マルちゃん、覚えてるかな―――ルビィたちが、仲良しになったきっかけ」

「そんなの―――忘れるわけ、ないよ」


幼稚園のお泊り会の夜。

怖くておトイレに行けなかったマルに、手を差し伸べてくれたルビィちゃん。

自分だって怖くて仕方なかったのに、オラを助けてくれたルビィちゃん。


忘れたくても、忘れられない。

生まれ変わったって、絶対覚えてる。


「あの時もルビィ、こうやって手を伸ばしてたよね」


オラが払った手を、ルビィちゃんは―――再び、伸ばす。


「マルちゃんに資格が無いなら、ルビィがあげる」
60: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:18:09.03 ID:4x6tpkwX.net
「だって、マルちゃん、は―――ルビィの、一生の、大切なっ、人、だからっ……」

「ぜったい、ずっと、いっしょ、だからっ……!」


涙がぼろぼろと零れる。


オラも、つられて泣いてしまう。


「でもっ…でもオラ、ひどいことを―――」


「ひどくないよっ!!」


「マルちゃん、キスってね、っ―――大好きな人と、するんだよっ……」

「マルちゃんが、ルビィにキスしたのは、嫌いだから?」


それは―――それだけは、絶対に、違う。


「エヘヘ―――;だよね♡」
61: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:24:37.75 ID:4x6tpkwX.net
「ルビィたち、女の子同士だし―――ビックリもしたけど」


「でも、ルビィも、マルちゃんのこと―――大好きだから」


――――――――――――――――――――――――――――。


「えへへ、お返しっ♡」

「あ、あ―――」

「……な、なんて―――恥ずかしいね」


言うに事を欠いたマルは―――


「も―――もう、こんな時間ずら。早く行かないと、書店、閉まっちゃうよ」


なんて言って、誤魔化そうとした。


「いいよぉ、今度で」
62: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:34:24.79 ID:4x6tpkwX.net
「でも―――」


「本はいつでも読めるし、買えるでしょ?」

「今日はルビィ、マルちゃんとずっと一緒に居たい気分なんだぁ♪」


「―――ルビィちゃんが、そう言うなら」


「うんっ♪新しい本の代わりに―――この図書室のオススメの本、教えて?」


「でも、オラの好きな本って、ルビィちゃんにはちょっと―――」


「いいからっ!」


すくっと立ち上がったルビィちゃんはまた、手を伸ばす。


「―――いこ♡」


オラは、その手をぎゅっと握る。


「―――うんっ♡」
63: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:39:23.83 ID:4x6tpkwX.net
おわりです


グッダグダになってしまって大変申し訳ございませんでした
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『花丸「紅い唇」』へのコメント

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