ダイヤ「終点にて希望と涙を併せて」

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Aqours-アイキャッチ7
ダイヤ「千歌さん。どうして……泣いているの? 」

千歌「……ダイヤちゃんこそ、涙、出てるじゃん」

 誰も居ない春の三津浜。まだ少し冷たい海風と、少しずつ気勢を取り戻してきた太陽の日差しと、変わらない波の音と、千歌さんとわたくし。それ以外は他に何も無く、ここが世界の中心と宣誓しても良いくらい、静かで穏やかで──でも、どうしようもなく、辛く寂しい。

 Aqoursの。わたくしの。始点であり、終点であるここにこうして座っていると、どうしてもここまでの軌跡を思い出して──

 奇跡の物語に、エンドマークを付けたくなくなってしまうのは、わたくしだけでしょうか。

pixiv: ダイヤ「終点にて希望と涙を併せて」 by アルフォート

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 目の前にそびえ立つ、空と海。世界と世界を繋ぐバイパスであり、生きとし生けるもの全ての歴史と物語が遺されたキャンバスでもあるそれは、始まりの時と何ら変わりなく、曖昧な境界と眩しい程に鮮明な青の色彩を持ってわたくし達をいつも見下ろしている。見上げている。

 海はここから見えない所まで果てしなく続くし、空は人類が到達すらしていない未開の銀河へと続いている。
 勿論、それに終点など存在せず、無限という概念を冠しても[[rb:遜色>そんしょく]]無い程に途方も無い距離と時間と空間と……多くのものを内包したまま広がり続けていくのでしょう。

 そんな大き過ぎる青に対して、人間が一人居たところで。九人揃ったところで──空の果てに、海の底に届かない様に、終わりを回避することなんて叶わない。
 叶わないから、『終わり』に対して、人は様々な感情を抱く。終わった後のことに思いを馳せる。ここまでの道のりの善し悪しを振り返って感慨に浸る。終わり自体を否定して、涙を流す。
 人の数だけ、終わりへの考え方があるけれど、感情の形をどう変えたところで終わりは等しく訪れる。歩み始めれば必ず終点に辿り着く。

 始まりは終わりを裏打ちしていて、相関し合いながら、それぞれを確固たるものにしている……最も、始まりの段階で終わりのことを考える様な人間は殆ど居ないだろうけれど。
 スタートの段階で、既に終わりへの一本道を走っている。それが人であり、人生であり、物語であり──Aqoursだった。

 定められた『終わり』に何度も何度も抗おうとして。運命を覆そうとして。奇跡を起こそうとして……やはり終わった。

 ラブライブでの優勝は奇跡などでは無く、紛れも無く自分達で掴み取ったものだった。
 その上で、もしもAqoursの軌跡に奇跡が存在したとするなら──それは千歌さんの存在だとわたくしは思います。

 一度途絶えた物語を強引に立て直して、挙句最後まで牽引したまま、終わりまで駆け抜けた。駆け抜けさせてくれた。彼女が居なければ──きっと、永遠に未完のままだった。あの日止まったAqoursは再開することも、逆に終わることも許されずに──許せるはずもなく、海の上を揺蕩[[rb:揺蕩>たゆた]]う[[rb:芥>あくた]]と化していたでしょう。

 だからこそ、気になってしまった。
 わたくし達を引っ張りながらも、自分自身悩み苦しみ抜いてきた功労者の千歌さんが、この結末をどう受け止めたのか。この終点にどういった感情を抱いているのか。

 全てが終わった時の彼女は──悲しそう。嬉しそう。辛そう。満足そう……そういったありふれた言葉で言い表せない不思議な表情を浮かべていたと思います。

 それはこうして、休日の朝にばったり顔を合わせた時も変わっておらず、まるであの日──決勝大会の日から彼女の時だけ止まってしまったかの様でした。

 最も、そんなことを面と向かって言う訳にもいかず、取り留めも無い話をするのみとなっているのですが。

千歌「──あの時の梨子ちゃん、本当に辛そうで……でもちゃんと弾ききれて良かったよね♪ 」

 初めてのライブで、梨子さんはピアノソロを披露することになった際に、ミスしてライブがストップしてしまったこと。今となっては思い出の一つです。

ダイヤ「そうね。本人は納得していないみたいだったけれど……それ以来、一層熱心に練習する様になって──」

千歌「怪我目前までいっちゃってたりしたよね……」


ダイヤ「ふふっ♪ それは千歌さんもでしょう? ロンダートにバク転……ほんと、よくやったものね……」

 二回目のラブライブの地区予選で勝負をかけた曲。大きな見せ場を千歌さんが担っていた。難しいパフォーマンスに何度心が折れそうになったのでしょう……それでも彼女は──いいえ、Aqoursは乗り越えた。大きな壁を……

千歌「えへへ……でも、皆が居なかったら出来なかったと思うな。曜ちゃんも梨子ちゃんも、ずっと傍に居てくれて……」

ダイヤ「きっと全員、一人では出来なかった。輝けなかった……Aqoursだったから、ここまで来られた──そうでしょう? 」

千歌「うん。そうだね……九人だったから優勝まで出来た……爪跡、残せたね♪ 」

ダイヤ「ええ。きっとラブライブの歴史に残る、最上のパフォーマンスだったと、胸を張って言えるわ……」

……ただ、『静岡からの下克上! 』だとか『統廃合決定の学校のスクールアイドル、最後の叛逆! 』なんて報道されたのは、少しどうかと思ったけれど……まぁ、それも仕方の無いことでしょうね。

千歌「……終わったんだね、Aqours」

ダイヤ「そうね。終わった──終わった……」

 千歌さんの方からその言葉が出てきてしまって、少し面食らってしまいました。

 終わり……分かっている。『もう終わったんだ』って。頭で分かって──分かろうとして、分かっている……つもりだったのかもしれない。

 だって。
 
 どんなに理屈で説き伏せようとしても。終わりの鍵をかけても。収まってくれないのだから。

ダイヤ「千歌さん。どうして……泣いているの? 」

千歌「……ダイヤちゃんこそ、涙、出てるじゃん」

 終わりの鍵は、『終わり』の言葉で開いてしまった様で。

ダイヤ「どうして、かしら。何で、こんなに……」

千歌「分かんない……分かんないけどさ……やっぱり、終わるのは、嫌だなぁ……」

 何を言ったところでAqoursは終わってしまったし、わたくしは卒業して、千歌さんは今年から沼津の学校に通う──別の道を歩んでいかなければならない。

千歌「ラブライブね、優勝出来て、すごく、すっごく嬉しかった……嬉しかった、けど……けど、これで全部終わりなんだって思うと、悲しくて……よく、分かんなくってさ……」

ダイヤ「そう……そう、だったのね……」

 軌跡の物語の立役者も、やはり普通の人間で……。

 統廃合が嫌だと思って。普通な自分を変えてみたいって思って。出来ることを最大限やって、いけるところまで行ってみたいって思って。
 どこまでも素直で。普通に、愚直に欲を追い求めていく。

 だから、終わるのは嫌だし──涙が流れているのだと思う。千歌さんも、わたくしも……

 さっきまで遥か遠くの存在に感じていた空と海が、今は不思議とわたくし達に寄り添っていてくれている様な──錯覚に過ぎないのだろうけれど、何だか……落ち着いてくる。
 冷たい海風が、涙を優しく撫で、乾かしてくれる。大丈夫だって、言ってくれている……。


千歌「……ねぇ、ダイヤちゃん。『君ここ』、歌わない? 」

ダイヤ「えっ……? ま、まぁ、別に構わないけれど……」

 さっきまで二人揃って泣いていたのに……突拍子も無いことを言い出すのも、ずっと変わっていませんね、全く……


 『君のこころは輝いてるかい? 』。わたくし達の始まりの歌で、大事な歌で……何度も何度も歌ってきて、歌い慣れていたはずなのに、何故かその歌詞が今、凄く新鮮に聴こえる。始まりの歌だからこそ、でしょうか。終わりを裏打ちする、始まり……


 きっかけなんて、何でも良かった。わたくしと千歌さんの交わりだって、初めはいがみ合いだった。

 上手くいかなくて諦めていたら……きっと後悔していたでしょうね。

 この出会いには……わたくし自身を大きく変えさせられました。自分でも気付かなかった気持ちに、気付けたのだから……。


────


千歌「……へへっ♪ やっぱり、良いね。歌うって」

ダイヤ「ふふっ♪ ほんと、こんなに良いものだって、Aqoursに入るまで知らなかった♪ 」

 歌い上げると、何故か悲しい気持ちは無くなって──はいないけれど。それでも、辛い、悲しいよりももっと大きな感情が、ふつふつと湧いてくる。


千歌「ほんとに、皆に──ダイヤちゃんに出会えて、一緒に駆け抜けられて、良かった」

ダイヤ「ええ♪ こちらこそ──」


 きっとこれからも、始まりと終わりを繰り返していくけれど。
 いくらでも、辛いこと、悲しいことはあるだろうけれど。

 それでも──この物語は終わって、次の物語が始まるのだから!


ダイヤ「これからも、よろしくね、千歌さん♪ 」


 終点に希望と涙を添えて──わたくし達は立ちがりました。



Fin.
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