人の噂も

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曜-アイキャッチ24
 Aqoursの練習が休みの日の放課後、私と梨子ちゃんは部室でのんびりしていた。

「はぁ、平和ねぇ」

「ホントにねぇ」

 外は良く晴れていて、気温的にも過ごしやすい日。

 しばらくはライブの予定もない、完全な休養日。飛び込みの練習へ行くという曜ちゃんがいないのは残念だけど、久しぶりに安らげる貴重な時間。

 一度はどこかに遊びに行こうかと考えたけど、それよりもこうしてだらけていたい気分。

「た、大変です!」

 そんな穏やかな気持ちを破ったのは、甲高い後輩の声だった。

pixiv: 人の噂も by わた

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「ルビィちゃん、少し落ち着いて」

「す、すいません」

 少し気分を害され、不機嫌気味に反応する私と申し訳なさそうにするルビィちゃん。

「でもどうしたの、そんなに慌てて」

 私とは違って冷静な梨子ちゃんが、場を収めるようにルビィちゃんに尋ねる。

「その、これを見てください」

 ルビィちゃんが差し出すのはいつも持っているパソコンの画面。そこに移されていたのは、スクールアイドルのまとめサイトで――、

『あの人気スクールアイドルグループのメンバーに熱愛発覚!?』

 なんて見出しが躍っていた。

「へぇ、スクールアイドルの恋愛でもこんな記事になるんだね~」

 私からすれば、完全に他人事。だってそんな相手いないし、そもそも出会いもない。

「実際のアイドルみたいに、恋愛禁止なんだっけ?」

 不安そうに尋ねる梨子ちゃん。まあ彼女なら私と違って何かあってもおかしくないけど。

「う、ううん、そんなことはないんだけど……」

「「だけど?」」

「今回の場合は、結構人気ある人だし、その、相手が……」

「「相手が?」」

「ピギッ。と、とにかく内容を見てください」

 私たち2人に迫られ、少しおびえ気味のルビィちゃんからパソコンを受け取り、問題の記事を開く。

「えっ!?」

 そこに表示された写真に、私は思わず声をあげてしまう。

「これって……」

 信じられないと言わんばかりの表情を見せる梨子ちゃん。

「えっと、ルビィちゃん流のジョークとかかな。よくできてるねぇ~」

 信じられない私は、半ばそれを望む。

「本物ですよ。スマホからも見れますし、SNSでも一部で話題になってます」

 スマホで同じサイトを調べると、再び出てくる記事。

「ど、どうしよう千歌ちゃん。これ、まずいんじゃ……」

 梨子ちゃんも確認したのだろう、明らかに動揺している。

「まだ本人には知られていないと思います。だけど、この調子で広まっていけば……」

「は、早く何とかしないと」

 慌てて話し合い始める2人。だけど私は頭の中が真っ白になって、そこに加われないでいた。

 信じられなかった、そこに写っていた写真は、飛び込みの練習へ行っている幼馴染が、何周りも年上の男性と、まるで恋人の様に腕を組んで歩く姿だったから。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「マズイことになったわね……」

 急いで曜ちゃん以外のメンバーに招集をかけ始まった、緊急のAqoursの会議。

 事情を説明すると、鞠莉ちゃんは渋い表情を見せる。

「イメージ的に深刻ヤバいんじゃない、せっかく乗っている勢いに水を差しかねない」

 いつもはこういう話題に入ってくることが少ない果南ちゃんも、今回ばかりは真剣だ。

「ただの恋愛ならともかく、相手がねぇ。ダイヤ、これもみ消せないかな?」

「既にネット上で出回ってしまっているとなると、難しいでしょう……」

 半ば諦めムードのダイヤさん。アイドルに詳しいからこそ、事の重大性が分かるのだろう。

 何でもない恋愛1つで積み上げてきた物を失いかねない世界だ。しかも今回の場合、スキャンダラスなにおいもする、無風とはいかないだろう。

「でも曜さんがそんなことをするなんて、信じられないずら……」

「うゅ……」

 3年生の様子から、深刻なことは分かるのだろう。ルビィちゃんと花丸ちゃんは寄り添いながらうつむき加減だ。

「でも、曜はたぶん年上好きじゃない。事実でも不思議じゃないわ」

 それはそうだ。いつも曜ちゃんの口から出る男の人の話は、彼女のお父さんぐらいの年齢の人ばかり。

「もしこれが事実だとしたら、いや事実でなくても、曜さんが世間の格好から注目されて、おもちゃにされてしまうことは避けられませんわね……」

 唇を噛むダイヤさん。

 想像もしたくない、曜ちゃんが色々な人から悪意を向けられ、弄ばれる様なんて。

「小原家の方でも少し動いてみるわ。多少できることはあるかもしれない」

「私もできる限りの事はしてみます。ルビィ、帰ったらお父様たちに相談してみましょう」

「う、うん」

「とりあえず、曜さんから事情を聞く必要がありますね。千歌さん、そちらの方はお願いできますか?」

「わ、分かりました」

 デリケートな問題だけど、この中で聞きやすいのは確かに私だろう。

「今日は一度解散にしましょう。皆さん、何かしたい気持ちは分かりますが、下手に動かないでおいてくださいね」

 仕方がない。いくら私たちが動いても、できることなんてほとんどないだろう。

 今は言われた通り、曜ちゃんに話を聞きに行くほうが先だ。

「ふふふ、この堕天使の千里眼を持ってすれば――」

「善子ちゃん」

「わ、分かってるわよ……」

 善子ちゃんのボケも、花丸ちゃんのツッコミもいつものキレがない。

 重苦しい空気が、部室の中を流れている。

「最後に一応聞いておきますが、千歌さんにも心当たりはないんですよね」

「はい、何も……」

 曜ちゃんから恋人の話なんて聞かされたこともないし、そんな様子を感じ取れたこともない。

「……何かわかり次第、私と鞠莉さんに連絡をください。お願いします」

「了解です……」

「ちかっち、あなたも無理しちゃだめよ」

 鞠莉ちゃんが心配そうにしてくれる。そんなに私は表情に出ていただろうか。

「うん、ありがとう……」

 これから曜ちゃんに会いに行かなければならない。

 信じたいけど、もしこれが真実だったら。それが私には憂鬱だった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 飛び込みの練習後に遊びに行ってもいいかと曜ちゃんに連絡をすると、二つ返事でOKが来た。

「千歌ちゃん、待ってたよ~」

「あ、うん」

 笑顔で私を迎えてくれる曜ちゃん。この様子を見る限り、ネット上でのことは知らずに、本当に私が遊びに来たと思っているのだろう。

「珍しいね、千歌ちゃんが私の家に遊びに来るなんて」

「た、たまにはね。いつもうちに来てもらってばかりじゃ悪いし」

「気にしなくていいのに、私は千歌ちゃんのお家が好きだし」

「ほ、ほら。私も曜ちゃんの家に来たかったから」

「嬉しいことを言ってくれますな~。まあ立ち話もなんだし、上がってよ」

 曜ちゃんの家は、以前と特に変わった様子がなく、部屋もいつもどおり。

「相変わらず、私との写真多いね」

「えへへ、千歌ちゃんとの大切な思い出だからね~」

 昔からずっと飾ってある写真たち。そこにあるのが当たり前になっているから特に何も感じていなかったけど、よく考えると、少し照れくさい。

 でも今はそれどころではない。きちんと話をしなければならない。

「ねえ曜ちゃん、この写真に見覚えある?」

「ん、なになに~」

 無防備に私が差し出したスマホを覗き込む曜ちゃん。

 その写真を見た瞬間、見る見るうちに顔色が悪くなる――ようなことはなく。

「あー、コーチとの写真だね。何で千歌ちゃんが持ってるの。もしかして隠し撮り~?」

「ち、違うよ! 今これがネットに流れてるの!」

 まるで気にした様子がないどころか、むしろ私にあらぬ疑いをかけるとは心外だった。

「え、何で? 2人で歩いてるだけの写真じゃん」

「どう見ても歩いてるだけじゃないよ! 仲の良い恋人にしか見えないよ!?」

「そうかなぁ、普通だと思うけど……」

 そうだ、曜ちゃんは人との距離が近いし、それが異性でもお構いなしだ。それが原因でよくいらぬ勘違いを相手に抱かせたりするのだけど、本人はまるで気にした様子がない。

 この写真だって何も知らずに見せられたら親密にしか見えないけど、曜ちゃんからすればそんな意識はまるでなかったのだろう。

「そんなに私に恋人ができるのが気になったの? 別に抜け駆けなんてしないし、できたらちゃんと報告するよ~」

「でも誤解だったとしても、世間はそうは思わないってダイヤさんが言ってたよ。みんな曜ちゃんは年上好きの人と付き合ってるって思ってて――」

「別に気にしなければいいんじゃないか。きっとみんなすぐに忘れるし、私が年上好きなのは事実だし」

 私の気持ちも知らずに、ケラケラと笑う曜ちゃん。

 そんな様子に呆れながらも、特に落ち込んだ様子もなくて良かったと、安心する。この様子だったら、多少中傷されたところで落ち込まないだろう。元々曜ちゃんはそれなりの有名人だ、好奇の目にさらされることだって慣れていると思うし。

「心配してくれてありがとね、千歌ちゃん」

「うん」

 ダイヤさんに頼まれて来ただけなんだけど、まあいいかな。これもある意味役得みたいなものだ。

「とりあえず今日は泊まってく? もう時間も遅いしさ」

「いいの?」

「千歌ちゃんだったらいつでも大歓迎だよ~」

 正直今から帰るのは面倒だったからありがたい。

「ならお言葉に甘えようかな」

 久しく曜ちゃんの家にお泊りなんてしてないし、楽しみ。

「ヨ―ソロー! じゃあお母さんに伝えてくるね」

 勢いよく部屋を出て行く曜ちゃん。

 私はその間に、ダイヤさんと鞠莉ちゃんに曜ちゃんから聞いた内容を伝える。

(う~ん)

 すぐに返事が来たけど、内容は『良かったけど、やっぱり広まった噂は止められない』という内容だった。

 いくら本人が気にしないといっても、私は気になってしまう。どうにかして止めたいけど、下手に否定したりすると逆効果だろうし、良い手が思いつかない。

「どうしたの~?」

 私のスマホの画面を後ろからのぞき込みながら、抱きついてくる曜ちゃん。

「えっとね、何かもう曜ちゃんについての噂、だいぶ広まっちゃったみたいで」

「さっきも言ったけど、別に良くない?」

「でも私は気になるし……」

「ふぅん、そっか――」

 言葉を切り、突然私を押し倒す曜ちゃん。

「よ、曜ちゃん」

 梨子ちゃん的に言うと床ドンの状態。顔も滅茶苦茶近い、心臓がどきどきしてくる。

「それならね、いい方法があるよ」

「いい方法?」

「それはね――」

 突然曜ちゃんが私にキスをしてくる。それと同時に、部屋に響くシャッター音。

「千歌ちゃんと私が、恋人ってことにしちゃえばいいんだよ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あなたたち、とんでもないことをしてくれましたね……」

 翌日、学校中が曜ちゃんの噂でもちりきだった。

 そりゃそうだ、年上との交際が噂されたと思ったら、突如幼馴染とのキスシーンをネットにアップして『私の恋人は千歌ちゃんだから変な噂を流さないでください』なんて言い始めたのだから。

「曜さん、主犯はあなたですよね……」

「主犯って、人聞きが悪いヨ―ソローなぁ」

「ブッブッブーですわ! なんですかこの破廉恥な写真は!?」

 おかげで私もろとも、ダイヤさんに生徒会室で説教を喰らっている。

 ちなみに鞠莉ちゃんは嬉しそうに『よくやったわね、2人とも!』なんて言っていた。それでいいのか、理事長。

「千歌さん、聞いています!」

「は、はい」

 当然、私もネットに出たことで、曜ちゃん同様に噂の中心だ。

 朝から家族にからかわれ、むっちゃんたちにも茶化された。

「いやぁ、酷い目に遭ったね」

 ダイヤさんの説教が終わり、生徒会室を出るとだいぶダメージを受けたように私にもたれかかってくる曜ちゃん。

「まったく、曜ちゃんの所為だからね」

「いやーごめん、流石に千歌ちゃんには悪かったと思ってるよ」

 その割に悪びれた様子が全くない。

「気にしてないから、早く教室行こ」

「ヨ―ソロー!」

 駆け出す曜ちゃん。

 その後ろを追いかけながら、私は考える。

 どうやったら、またキスをしてもらえるかな、なんて。
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