距離感

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ようちか-アイキャッチ12
「曜ちゃんってさ、千歌ちゃんの事大好きだよね」

「へっ」

 千歌ちゃんが風邪でお休みの日の教室。

 一緒にお弁当を食べていた梨子ちゃんが、いきなりそんなことを言い出した。

「あれ、好きじゃないの?」

「ううん、もちろん好きだけど」

 千歌ちゃんの事を嫌いなわけがない。

「何でそんなこと聞くの?」

「いや、ちょっと気になったの。曜ちゃんの好きは、恋愛的な意味での好きなのかなって」

 さらっと衝撃発言。

「恋愛的な好きって、恋人になりたいとか、そっちの?」

「そうそう」

 さも当然のことのように、何を言ってるんだろうこの子は。

「そんなわけないじゃん。だって私も千歌ちゃんも女の子だよ」

pixiv: 距離感 by わた

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 壁ドン同人誌の読み過ぎで頭がおかしくなってしまっただろうか。

「え~、でも曜ちゃんの千歌ちゃん大好きっ子は異常だし」

「……そんな風に見えるの」

「うん。いつも千歌ちゃんにくっついて、『ちかちゃん』って言ってるイメージ」

 何という偏見。

 確かに千歌ちゃんは大好きだし、いつも傍に居る気はするけど、そこまでじゃない――

「あれ、案外否定できない気が」

「つまりそれは恋なのよ」

「なぜそうなる」

「ずっと相手の事を考えてる。恋以外ありえないでしょ」

「梨子ちゃんの思考の方があり得ないよ……」

 正直付き合い方を考え直したくなるレベルだ。

 しかしいくら梨子ちゃんが痛い人とはいえ、このような誤解を招くのは良くない。

 少し千歌ちゃんとの付き合い方を考えなおした方がいいかもしれない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「最近、曜ちゃんが冷たい」

 お店に遊びに来ていた千歌が、唐突にそんなことを言い出した。
「曜が? 全然そんな風に見えないけど」

「分かんない?」

「全然分からない」

 私が見ている限り、曜と千歌はいつもどおり仲良しだ。

「うーん、チカの考え過ぎなのかなぁ」

「かもね」

 千歌は変に思い込みが激しいところがあるし。

 でも少し気にはなる。幼馴染のお姉さんとして、話しぐらいは聞いてあげよう。

「何で曜に冷たくされてると思ったの? 何か理由はあるでしょ」

「あ、うん。実はね、最近少し距離を取られてるの」

「距離? かかわらないようにされてるとか」

「そっちもあるけど、物理的な距離も。前ほど近寄って来なくなったし、『千歌ちゃん』って呼んでくれる回数も減っちゃって。スキンシップとかも全然してない」

 言われてみると、以前に比べればそう言った光景は減っている気がする。

 何をするときも千歌の横を陣取っていた曜が、最近は他の子の傍に居たりするし、ことあるごとに千歌の名前を出すこともなくなっている。

「そっかぁ、曜も千歌離れに成功したんだね」

「何その親離れ的な言い方」

「いやまあ、比喩表現だけどさ」

 どんな心境の変化があったのかは知らないけど、千歌に依存といってもいいほどベッタリだったことを考えれば、何とも感慨深い。

「いいことじゃないかな。いくら仲良しだからって、大人になってもずっと一緒に居られるわけじゃないんだし」

 曜の夢と千歌の実家の事情を考えれば、いつかは離れ離れになるのはほとんど間違いない。

「そうかもしれないけど、寂しいなぁ」

 顔を伏せて俯く千歌。

 こっちの幼馴染離れには、まだ時間がかかるかもしれないなぁ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(マズイ)

 私は酷く焦っていた。

 理由は仲良しだったはずの同級生二人の関係に悪影響を与えてしまったこと。

 そしてそのきっかけを作ってしまったのが、私であるということだ。

 私が千歌ちゃんとの近すぎる距離感を指摘してから、千歌ちゃんと露骨に距離を取るようになった曜ちゃん。まあここまでは良かった、最初はちょうどいい距離感だったし。

 だけど千歌ちゃんがその事で寂しがり、むしろ自分から距離を詰めるようになって事情は変わってきた。

 千歌ちゃんがくっつくと、適切な距離を保とうと曜ちゃんは離れようとする。すると千歌ちゃんは嫌われているのではないかと不安になりさらに距離を縮めようとするけど、当然曜ちゃんは離れようとするという、見事なまでの悪循環が出来上がっていた。

 まさかこんなことになるなんて思わなかった。

 ちょっと曜ちゃんをからかって、可愛い反応を見たかっただけなのに。

 もし曜ちゃんが本当に恋愛感情を持っていたら、あわよくば自分の保養に利用しようと思っていたのに、なぜこうなった。

「ねえ梨子ちゃん、どうすれば曜ちゃんは私と仲直りしてくれると思う?」

 すっかり凹んでしまった千歌ちゃん。完全に曜ちゃんを怒らせてしまったと誤解している。

「えっと、そうね……」

 事の真相を知っているだけに、逆にアドバイスをしづらい。

 そもそもこの場合、なんてアドバイスすればいいのだろうか。

 下手に話すと、私が原因だとばれてしまいそうだし。

「とりあえず、千歌ちゃんもあんまり近づきすぎないようにしてみたら? 曜ちゃんはもっと落ち着きのある関係を望んでいるのかもしれないわ」

「落ち着きのある関係?」

「ほら、大人の関係的な。私たちももう高校生なんだし」

 うん、我ながら凄い適当なこと言ってる。

 大人の関係とか、何かヤバそうな関係じゃない。

「うーん、よく分からないけど、私も曜ちゃんみたいにすればいいのかな」

「ええ、そうね」

 私もよく分からないけど。というか、何か自ら傷を広げた気がする。

「ありがとう梨子ちゃん。流石頼りになるね!」

「そ、そうかしら」

 できればこの件ではもう頼らないでほしい。

 どんどん悪い方向へ導いてしまいそうだから。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「最近、千歌ちゃんが冷たい……」

「ちかっちが?」

 理事長室。仕事中、相談があるとやってきた後輩の口から出てきたのは、彼女が大好きな幼馴染の名前。

「私のことをね、露骨に避けようとするの。話しかけても無視されたり、抱きついても突き放されたり……」

「それはまた、大変ね」

 以前にも、梨子とちかっちの関係にジェラシーを感じて相談をされたことはあったけど、相手から拒否されるとは、今回は前より深刻そうだ。

「何か原因に心当たりとかないの?」

 元々仲良しな上に、関係も長い2人。そう簡単には崩れない関係を築いていたはずだ。

「えっとね。実は――」



「なるほど、梨子に指摘されたから近づきすぎないようにしたらそうなったと」

 曜から説明を受ける限り、これがきっかけだとしたら何とも可哀想だ。

 そもそも梨子の事だ、絶対に面白がったか、良いリアクションをしてくれる曜の反応が見たくて言っただけだろう。全く、困った子なんだから。

「どうしよう鞠莉ちゃん。私、嫌われちゃったのかな」

 泣きそうな表情を見せる曜。

 たぶん実際は嫌われたわけじゃないと思うけど、可哀想に。

 この子の素直で思い込みが激しい部分は、可愛いところだけど短所でもある。

「気にし過ぎよ、ちかっちと曜の絆はそれぐらいで揺らいだりしないわよ」

 とは言ったものの、さてどうしたものか。

 できればちかっちの話も聞いてからの方が良いけど、この状態で放っておくのも可哀想だし。

「でもさ、曜はどうしたいの?」

「えっ?」

「細かいことは抜きにして、曜は一定と距離を保った状態と、以前のような誤解されるぐらい仲の良い関係、どっちを望んでいるのか聞いてるの」

「それは……」

「私はね、別に誤解されてもいいと思う。梨子みたいに考える人は特殊だし、誤解されたところで気にしなきゃいいだけよ」

 私だって果南との関係をよく怪しまれるけど、特に気になったことはない。

 むしろ仲の良さを示すものだと喜んでるぐらい。

「私は、前みたいな関係の方が好き」

「そうでしょ。関係がおかしくなったのも、無理に距離を取ろうとした所為だと思うわ」

 ずっと近くに居た人が、無理に距離感を変えようとしても上手くいくわけがない。

 そのせいでちかっちも何か誤解をして、関係がこじれてしまったのだろう。

「……そうだね。私、もう少し自分の気持ちに素直になってみるよ」

「うん、その意気よ」

「ありがとう鞠莉ちゃん。やっぱり頼りになるね」

 私に向かって笑顔を見せる曜。

 ああもう可愛いなぁ、妹にしたい。

「あと一つだけ、梨子の言うことはあんまり聞かない方がいいわよ」

「?」

 危ない、肝心なことを言い忘れるところだった。

「あの子の頭の中、だいぶ桃色だから」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「千歌ちゃん、抱っこ」

「もう、曜ちゃんは甘えん坊だなぁ」

 スクールアイドル部の部室内、その中心で、曜さんが千歌さんに抱き着いている。

「なんですの、この光景は……」

 心なしか、背景に百合が見える。

「ねえ千歌ちゃん、私の事好き?」

「もちろん、大好きだよ」

「私も千歌ちゃんの事、大好き」

 私が生きてきた中で見たことのない、異常な光景。

 同性の後輩同士が見せる、これはまさに――

「百合の迷路だね、お姉ちゃん」

「というか部室の真ん中で盛らないでいただきたいのですが……」

 おかげで2人以外のメンバーは隅に追いやられている。

「はっ、2人の背後に淫靡な悪魔の姿が!?」

「未来ずらねぇ」

「お2人も黙っていただけますか。というか1年生は教育に良くないので出て行きなさい」

 ルビィがこれを見て悪影響を受けたらたまったものではない。

 これを見た花丸さんか善子さんと、『私たちも試してみようか……』なんてことになったら――うん、意外と悪くないかも……ではなく。

「鞠莉さん、果南さん、梨子さん。何で曜さんと千歌さんはこんなことに?」

 何かきっかけがなければこうはならないだろう。それを与える可能性があるのは、残っている3人のはず。

「あ~、なんというか」

「……言葉が足りなかったようね」

「ですね」

 的を得ない3人の答え。

「ねえ千歌ちゃん。私、もう我慢できない」

 そうこうしている間に、加速する行為。

「うん、いいよ曜ちゃん」

 淫靡な雰囲気を漂わせ、服を脱ぎ始める2人。

「ピギッ」

「ずらっ」

「だ、だてん……」

 己の許容量を超え、その場に倒れ込む一年生たち。

「おぉ、これは」

「とってもキュートね!」

「……」無言でカメラを構える梨子

 呑気に鑑賞モードに入る3年と、1人の変態。

 皆さんもう駄目だ、私の知らない所で、いったい何があったのか。

「曜ちゃん……」

「千歌ちゃん……」

 2人は顔を見合わせて、濃厚なキスをしようとしている。そして周囲からあがる歓声。

「ああもう、みなさん、ブッブーですわ!」
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