ダイヤ「甘えに甘んじて」

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ダイヤ-アイキャッチ12
 久しぶりに──それこそ数ヶ月ぶりに二人きりになったせいか、どこかよそよそしい彼女。

……最も、その態度の理由は他にもあって──わたくしはそれらを正す為に、今日千歌を家に呼びつけたんだけれど。


「──貴方、最近ロクに休んでいませんね? 」

「え──そ、そんなことないよ。だってほら、無理して体調崩しちゃ、元も子も無いからね」

「まぁ、そう答えますよね。普通は」

 その通り。そんな馬鹿な話があっていいハズがありません。

 来る日も来る日もAqoursの練習──練習が無い日も千歌はメンバーの誰かしらと何か相談事をしていたり、あるいは休みなのに一人砂浜でダンスの確認、トレーニングから歌の練習まで、熱心に取り組んでいました。

 その意気や良し、と(無理の無い程度に頑張る姿を)見守っているつもりだったけれど、流石に最近の様子は目に余るものがあって──

pixiv: ダイヤ「甘えに甘んじて」 by アルフォート

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 いくら練習を積み重ねたところで、本番一回で成功させなければ、積み重ねたものを否定せざるを得なくなってしまう。

 かけてきた時間、作り上げて来たもの達の意味までは否定出来なくても、意義はあったのか。価値はあったのか。問わなくてはいけなくなる。
 そうなる前に、やはりわたくしは言わないといけない。やらないといけない。必要なこと。
 Aqoursのメンバーとして……いえ。それよりも──今は千歌の彼女として。


「……ねぇ、千歌。わたくしのこと…………好き? 」

「へ? 」

「ですから……わたくしのことが好きなのかどうなのか……聞いてるのですが」

「…………」

「…………」

 やはり、沈黙。それもその筈、突拍子の無いことを突拍子の無いタイミングで言われれば当惑してしまうのは当然です。身をもって知っていますから。

「な、なんで今、そういうこと聞くの……? 」

「なんでもかんでもありませんわ。わたくしは貴方を気遣って──」

「……そんなの、決まってるでしょ」

「だったら──どうして貴方は……ただの一度だって、わたくしを頼ってくれないの? 」

「……」

「答えて。どうして──どうして、頑なにわたくしを避けているの? 」

「……っ」

 問いを投げかける度に、彼女の表情は暗さを帯びていく。その都度、どんどんわたくしの胸の奥も軋む。そんな軋む心から体全体に悪寒が広がって、少し肩が震えているのが自分でも分かるくらいに──彼女の陰鬱な顔を見ているのが辛い。

 辛い。だからこそ、言わなくては。

「千歌、わたくし達は……恋人同士、なのでしょう? それなのに……何も力になれないのは、少し……寂しいですわ」

──未だに『少し』なんて、強がってしまうのは我ながら悪い癖だと思います。でも、この寂しさは紛れも無く本心。昔だったら、ここまで実直に心を打ち明けるなんて考えられないことだったけれど──素直になることは何より大事だと、身をもって知っているから。

 ええ、知っています。一年にも満たない付き合いとはいえ、至極単純な彼女の思考は知り尽くしてしまっている──というより、分かってしまう。
 ひたすら練習に打ち込んでいたのも。敢えてわたくしを避けていたのも。全部が全部、彼女自身の強い想いが故。『絶対ラブライブで優勝する』という願いが故。

 ええ、分かっています。その志に間違いは無くて、余計な邪魔立ては要らないこと。あくまで行き過ぎた際のストッパーとして、彼女を止めるのが、わたくしの役割で──事実、こうして止めようとしている訳ですから。


 でも、そうではない。それだけではない。

 軋むの。貴方のそういう顔を見る度に。そういう、一人でどこまでも行ってしまいそうな顔──眩しすぎる程明るくて……でも、ふとしたきっかけで暗い影へと転じてしまう危うさを含んだ、脆い強さを目の当たりにする度に……辛くて、寂しいの。

 何もしてあげられないことがもどかしい。
 何も貴方に頼られないことがただ侘しい。

「……そんな顔しないでよ。私は、大丈夫だから」

「何を根拠に……そう言えるのですか? わたくしからすれば貴方の顔の方がずっと『そんな顔』だと思うけれど」

 確かに、今は大丈夫なのかもしれない。でも明日はどうでしょう。それとも一ヶ月──ともすれば次の瞬間に……体が、心が、いつ悲鳴を上げるか。それは誰も──恐らく本人すらあずかり知らぬ問題。

 脆い強さは、きっかけ一つで粉々に砕け散る。繊細に束ねられた硝子細工の様に、それがどんなに美しく、輝かしいものであれ、割れてしまえば……失われる。何もかも。どれだけ強くあろうとしても、それは硝子でしかない。

 勿論、千歌の強さは偽物ではない──けれどやはり、放ってはおけない。黙ってはいられない。

 そういって突っ走った末に砕けた人間を知っているから。
 身をもって──知っているから。


「でも……いつまでも皆に頼ってばかりじゃ、駄目なんだよ。勿論、ダイヤちゃんにも……恋人とか、ううん。恋人だからこそ、だよ」

「頼っちゃ、駄目? そんなこと、誰が言っていましたか? 」

「誰がって……そういうものでしょ。私は、リーダーなんだから。人一倍努力しないと」

「ならAqoursは──貴方一人で出来たことなの? 」

「そんな、そんな訳無いよ。私一人じゃ絶対こんなに出来なかった。またすぐ辞めてたよ、きっと」

「それが分かってるなら尚更──頼っちゃ駄目なんて考え、おかしいと思いますわ」

 何回も歌ってきました。一人じゃない。皆となら。一つになって……いつも大事にしてきたことを忘れるはずが無い。まして、その詞を書いてる本人です。一番その想いは強いのでしょう。
 にも関わらず、彼女は『頼らないこと』は『強い』と信じている。

 矛盾。紛うことなき矛盾。誰かがわざわざ正す必要も無い、少し考えれば誰でも気付く様なその齟齬を──彼女が捨てられないのは……かけてきた時間、作り上げて来たもの達の意義を問うことになる未来を想像してしまったから? もしも失敗したら、なんて千歌らしくないけれど、無意識の内にそれを恐れていたから?

 だとしたら、こうして問いただすことが千歌の『強さ』の破綻を招くことに──

「だって、頼ったらそれに甘えちゃうもん。私」

「…………はい? 」

「いっつもそうだったんだ。何か始めて、でも駄目で。辞める度に周りの人に甘えてね──あ、みとねぇには叱られることもあったけど……」

「甘える、というのは……それに現を抜かすとか、そういう意味の行為ですか? 」

「ううん。そうじゃなくって、自分の逃げ道を作るって意味、かな」

 誰かを頼ることは『弱い』こと。そう単純に思っていた時期があっただけに、それが甘えに繋がり、最終的に己の逃げ道になるという考え方は未知のもので、こちらが驚かされてしまいました。

 未知であり、理解し難い──特に、千歌の場合は尚更です。

「誰かに甘えられるのは一種の強さだと、わたくしは思うけれど」

「甘えるのが……強い? そんな……だって、自分の駄目なとこをただ人に押し付けてるだけだし──」

「駄目なところをさらけ出せない人は沢山居ますわ」

 例えばここに。例えば目の前に。

「けど……やっぱり駄目だよ。私がやるって決めたんだから、私が頑張らないと」

「やるって決めたのは、貴方だけではありませんわ。なのに一人でやってるだなんて──わたくし達は眼中にありませんの? 」

 全く、自惚れもいいところです。
 貴方は──自分が思っている程、強い人間では無いのですから。

「──で、でも、頼るって、甘えるってやっぱり相手にとって負担だし、迷惑だし」

「そんなこと、誰が言っていましたか? 」

「誰がって……そういうものじゃ」

「一体誰が──迷惑だって、言っていましたか? 」

「……」

「千歌。確かに、甘えは気の緩みや、それこそ逃げにも繋がりうるものです」

「そう、だよ。だから私は──」

「いいえ。少なくとも、貴方のその『頼らない、甘えない』の姿勢は正しくありませんわ」

 それはただの強がり、痩せ我慢に過ぎない。その証拠に、千歌の顔は眩しさを失っている。危うい眩しさ、脆い強さは崩れ去って、本来の千歌──よりは少し辛そうだけれど。

 そもそも、人が一人で出来ることなど、その手で届くものなど限られているのだから。
 故に頼る。甘える。手を取り合う。そうすれば、一人では出来ないことも叶う。夢に近づける。届かない星をも掴めるかもしれない。
 そういう想いを乗せて詞を紡ぐ貴方が──わたくしにそれを思い出させてくれた他でもない貴方が、よもや忘れていたなんて。
 大きすぎる夢は。欲望は。良い方向にも悪い方向にも、人を変えてしまう様ですね。

「要するに、甘えるは甘えるでも、『甘んじなければ』良いの。頼るは頼るでも、『依存しなければ』良いの」

「──甘んじない。依存しない」

「そう。それに……頼られたり、甘えられたりして迷惑だなんて思う人、そうそう居ませんわ」

 少なくともわたくしは──千歌に頼りにされていた時、嬉しかったから。甘えられた時、気持ちよかったから。

「その……私、末っ子だから、家の中でもそういうことは無かったし、学校とかでもあんましだったから……考えたことなかったよ」

「なら、わたくしは真逆ですわね。家ではいつもルビィにあれこれと泣きつかれ、学校では宿題から生徒代表のスピーチまで……頼られ続きで、いつしか自分が誰かに頼っていいだなんて、思わなくなっていましたし」

「……頼っていいんだよね」

「当然です。毎度毎度歌詞に書いてるじゃありませんか」

「…………甘えてもいいんだよね」

 本来の千歌──よりずっと顔を赤く染めて、俯きながら話すその姿は、凄く愛らしい。

「……ええ。言ったでしょう? 少し──いえ、とても…………寂しかったんですから」

「……」

「た、ただし、『甘んじない』ことを忘れない様に──」

「…………好き」

「な──っ」

「最初に聞かれて、結局答えてなかったから……ダイヤちゃん、好きだよ♡ 」

 自分で聞いたことだったのに、はっきりとそう言われるだけで、胸の奥から体全体に広がる熱さ。数ヶ月ぶりのその感覚に、浮き立ってしまいます。

「わたくしも……好きよ、千歌……♡ 」

「へへ♪ ダイヤちゃん顔真っ赤だね♡ 」

「あ……そ、そういう千歌こそ、耳たぶまで赤くなっていますわっ! 」

「し、仕方ないじゃんっ!! 我慢してたんだもん……意識しない様にって」

 熱い。千歌と同じく、秘めていた想いが一気に溢れ出して、心も体もたまらなく熱い。

 千歌が好きと言ってくれて、わたくしが千歌に好きと言える。それが嬉しくて。幸せで。
 甘えて欲しい。甘えてみたい。千歌ともっと、もっと一緒に居たい。もっと傍に──

「わっ……あっ、ダイヤちゃんからハグ……珍しい……♡」

「…………貴方がわたくしに甘えたいのと同じくらい──わたくしも、貴方を欲していたの……」

 ぎゅっと抱きしめると、同じくらいの力で抱き返してくれる。
 触れ合って、感じる鼓動が自分のものか千歌のものか、分からないけれど──どんどん早くなっていく。ドキドキ、と。
 その動きに合わせて一層広がっていく、幸せ。嬉しさ。愛しさ。恋しさ。それと、これでもかとばかりに浮かぶ『好き』。
 既に満たされている心にはとても入りきらず──千歌とこうして分かち合っていないと、今にも倒れてしまいそうな、感情の奔流。

 もっと、呑まれていたい。その想いに応えるかの様に、千歌が耳元でぼそりと呟く。

「……ダイヤちゃん……ごめんね、寂しい思い、させちゃって」

「こちらこそ……早く気付けなくて、ごめんなさい……」

「……」

「……」

「……ダイヤちゃん、好き♡ 」

「あ……もう……またそれですか? 」

「何回言っても足りないもん……しかも久しぶりだし……♡ 」

「もう……仕方ない子ですわね♪ わたくしも好きよ♡ 千歌♡ 」

「……ん♡ へへ♪ 大好きっ♡ 」

 蕩ける。好きを伝えあっているだけで、自分が自分で無くなる様な──そんな甘い、甘い時間が流れていく。

「ね、ダイヤちゃん……久しぶりに、したいな………キス……」

「千歌……ええ、久しぶりに……♡ 」

 真っ直ぐに、ただわたくしだけを見つめてくる、少しだけ潤んだ赤い瞳。
 そんな赤と同じくらい──それ以上に赤い頬と唇。今だけは──全部わたくしのもの。


「……ダイヤちゃん、いいよ♡ 」

「千歌…………んっ──」

「ん…………は、あ……♡ んっ、ちゅっ……」

「……は、んっ♡ ちゅ、ん……ぅ♡」

「や、あっ…………はっ、あ♡ ん…………」

……自分でさっき、『甘んじない』とは言ったけれど──

「は、ぁ……はっ、ダイヤちゃ……♡ 」

「ちか…………もう一回、する? 」

「……うんっ♪ 今度は私からね♡ 」

 『甘んじて』しまっている自分に、少し呆れながら。

 数ヶ月分の空いた時間を埋める様に、何度も何度も唇を重ねました。



Fin.
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