願う私

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千歌-アイキャッチ38
それはいつもの日常。その一節に過ぎなかった。

「ねぇ…よーちゃん?」

「どうしたの?千歌ちゃん」

銀色の髪のあの子が振り向く。

「曜ちゃんってさ……好きな人とか……いるの?」

pixiv: 願う私 by nop

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別に深い意味があるわけじゃない。ただ、なんとなく気になっただけ、と自分に言い聞かせる。
しかし彼女の口から発せられた言葉は、私を動揺させるには充分すぎる答えだった。

「えっ!?……うーん………いる、かな…?」

時が止まった。
……………えっ
曜ちゃん、好きな人…いるの…?
私の期待に「いる」の選択肢はなかった。
予想外の回答に動揺を隠せない。

「え………。そう、なんだ………」

私の中で何かが崩れた。

「どうしたの?急に…」

「ううん、なんでもない!突然ごめんね?じゃあね!」

「あっ、千歌ちゃん待って…」

いてもたってもいられなくなった私は、その場から逃げるように走り去ってしまった。





ほとんど夏も終わり、初秋の風が涼しいこの時期。
私は幼なじみのあの子について考えることが多くなった。
いつの間にかぼーっと曜ちゃんのことを考えてる。
授業中も、Aqoursの練習中も、みんなで遊んでいても、彼女を目で追いかけてしまう。
なんなんだろう。これ…。
私は昔からずっと、曜ちゃんと一緒。
なんでもできて、いつでも私のヒーローで、キラキラ輝く彼女は、私の自慢の幼なじみ!そして大親友!
小さい頃から遊び相手はずっとずーっと曜ちゃん!
「チカのこれまでの人生史に、曜ちゃんのいないページなんてありえない!」って言い切れちゃうほど。いつもずーっと一緒。
私の彼女への気持ちに気づいたのは高校に入ってから。
いつも通りの日常。いつものバス停。いつもの学校。いつもの教室。いつもの帰り道。
小学校、中学校と毎日一緒に帰ってた。でも最近は…彼女と一緒に歩いてると、なんだか落ち着かなくて。
たわいない会話が続く。
ときどき私に見せてくれる笑顔が愛しい。
ふたりきりで歩いてると、どんどん胸の鼓動が速くなる。
今まで経験したことのないこの気持ち。

「じゃあ、私はここからバスで!じゃあね、千歌ちゃん」

いつの間にか私の家の前にいた。
え…もうお別れなの…?
もっと一緒にいたい。
ずっと一緒にいたいよ。

「うん、よーちゃんまた明日ね!」

名残惜しそうに手を振りながら、彼女が乗るバスを見送った。
胸がくるしい。
これが"恋"だと気づくのにさほど時間はかからなかった。





「はぁっ…はぁっ…」

どこまで来たんだろう。
けっこう走った。足はもう限界。
曜ちゃんから逃げるように走ってきた私。いつの間にか海岸で立ち尽くしていた。
「「曜ちゃんにふられた」」
延々と頭の中をループする。
頭の中がぐちゃぐちゃ。
別に告白したわけじゃない。嫌われたわけでもない。ただ…
""好きな人がいる""
本人の口から発せられたその事実、私には到底耐えられるものではなかった。
始まってもいない試合に負けた気持ち。
曜ちゃんが好きな相手はどんな人なの?
私より曜ちゃんのことを知ってるの?
私の大親友でスーパー幼なじみの曜ちゃん。私は誰よりも彼女のことを知ってると思ってた。思い込んでいた。
内浦の海に夕日が沈んでいく。
ごめんね、ごめんね、曜ちゃん。
友達なのに、好きになって、ごめんね………。
水滴が頬を伝って波に溶け込む。
私の初恋は儚いものとなってしまった。





「ぷはぁっ」

水しぶきがキラキラはじける。
私の得意技、前逆さ宙返り3回半抱え型。
高飛び込みの世界でもこの技を決められる人は少ないみたい。
私のちょっとした自慢。えへっ

「よーし、朝練終わり!」

濡れた髪をタオルで拭きながら教室へ戻る。
朝8時、教室に着いたら真っ先にみかん色の髪をしたあの子のとこに行くのが日課。
といっても席は隣なんだけどね。あははっ

「ちーかちゃーん、おはよーそ…」

外を眺めているのかな?私には気づいてないみたい。

「千歌ちゃん、おはヨーソロー!」

窓際に行っていつもの挨拶。

「あっ…曜ちゃん…お、おはよ…」

…!
千歌ちゃんのまぶたが腫れてる…?
…もしかして昨日の夜…
反射的に千歌ちゃんに詰め寄る。

「ち、千歌ちゃん!?どうしたの!その目…」

「ふぇ?…あっ……」

どうやら腫れてたことに気づいてなかったみたい。

「千歌ちゃんが泣くだなんて…。ねぇ!何があったの!?」

自分でも驚くぐらい取り乱しちゃった。
千歌ちゃんが泣くことだなんてそうそうない。それだけ大変なことがあったはずだった。

「だ、大丈夫だから…ね?曜ちゃん落ち着いて…?」

千歌ちゃんは落ち着かせようとしてか、ゆっくりと話す。

「大丈夫ならいいんだけど…いやよくないけど!」

「えへへ、曜ちゃん優しいね」

「あたりまえだよ!!」

そう言うと彼女は寂しそうな笑顔を向けた。
私はモヤモヤとした気持ちのまま自分の席に座った。





「私、曜ちゃんの恋…応援するよ!」

「…はい?」

これが私なりに出した答え。
朝に腫れてたまぶたは放課後までには治ってくれた。
曜ちゃんには気づかれちゃったけどね。

「あの、千歌ちゃん?私の恋ってなに??」

「曜ちゃん好きな人いるって言ったでしょ?高海千歌、応援することにしたのであります!」

わざとらしく敬礼をする。
これで、よかったんだよね。
曜ちゃんに幸せになってほしいのは幼なじみである私の本心。
曜ちゃんが幸せに笑うとこが見たい。
だから、ね。

「千歌ちゃん、あの…「それでさ、告白はいつするの???」

私の曜ちゃんへの想いは消えた。
昨日の夜で消したの。
私は幼なじみとして、曜ちゃんの恋を全力で応援するんだ。
これでよかったんだぞ高海千歌。これで…。

「大丈夫、私に任せて!絶対成功させてあげるからね!」

スーパー幼なじみの曜ちゃん、ずっとずっと憧れてた曜ちゃん。
だから幸せになってみせてよ。
曜ちゃんなら、なれるよ。大丈夫だから。
最初から応援すればよかったんだ。そうだよね。

「そして曜ちゃ「「私の好きな人は千歌ちゃんだよっ!!!!!」」

再び時が止まった。
私たちの周り、時間止まりすぎだよね。
善子ちゃんの力かな?あはは

「曜ちゃん冗談は「「じょーだんじゃないよっ!!!!!」」

いつの間にか曜ちゃんの顔は夕日と同じ真っ赤な色に染められてる。

「私、渡辺曜は…」

「渡辺曜はっ!千歌ちゃんのことが!大好きでありますっ!!」

………。
…ああ、夢か。夢だよね。
曜ちゃんのことを想うばかりにこんな夢を…。
ふふっ、こんな幸せな夢見ちゃったら、曜ちゃんへの気持ち、忘れられなくなりそうだよ…。

「千歌ちゃんっ…!!」

ちょっとよろめく。
えっ
私は…いま…曜ちゃんに…抱きしめられてるの…?
うっすらと塩素の香り。彼女の体温。すぐそばに感じる…。

「…よぉ、ちゃぁん……ううっ…」

あれ、これは夢なんだっけ?
あったかい。温もりが近すぎるよ…。
いつの間にか私の頬を水滴が伝ってた。

「千歌ちゃん、だいすきっ!!…ずっと好きだったんだよ!千歌ちゃあん!!」

「うっ…ひぐっ……よーちゃあああああん!!!!!」

「千歌ちゃん…!!」

夢…じゃないの?
ほんとに?私なんかでいいの?
ほんとうに?

「…うっ……よーちゃん!!!好き!…好き!好きなの!!!うぐっ……私、ずっとずっと…よーちゃんのことが…」

「私もだよ!!ずっとずっと前から…」

夢じゃない。夢じゃなかった。

「……よぉちゃあああん!!!」

大好きな人の胸でありったけの想いを爆発させた。
昨日の夜に流した涙より多かったかな。
曜ちゃんの胸で流した涙。昨晩とは違う、嬉し涙。
もう離すものかと苦しくなるぐらいには抱きしめた。
曜ちゃん、好き。好きなの。私、ずっと………





初秋とはいっても夜はけっこう寒い。
制服のまま、夜の海岸におさんぽ。

「星、きれいだね」

曜ちゃんのほうが綺麗だよ、なんて格好はつけらんない。ふふ

「私ね、ずっと不安だったんだ。高校に入って、Aqoursの活動が始まって、千歌ちゃんがちょっと遠くに行ってしまったような気がしてさ…」

曜ちゃんも同じことで悩んでたんだ。
こんなとこまで似てるなんて、さすが幼なじみってところか。えへへ

「でも違った。千歌ちゃんがそんなふうに思っててくれたなんて。ちょっと嬉しかったよ。あはは」

…なにそれ。
私だってずっと悩んでたんだからね!
ちょっぴりほっぺたを膨らませて。
ヒューッと冷たい風が吹く。

「ううっ…寒くなってきたなぁ…」

たしかに寒いなぁ。
よーし、それなら…

「よーちゃん♪」

今度は私から!ぎゅーっ!
やっと掴めた、大好きな人との最高の幸せ。
もう絶対に離さないんだからね。
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