千歌「あなたの隣を歩きたくて」

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千歌-アイキャッチ16
ラブライブが終わり、3年生が卒業し、浦の星女学院は閉校した。

これはすなわちAqoursの解散を意味していた。

私たちは輝くために、自分の好きを形にするためにスクールアイドルを始めた。

そのうち浦女の統廃合が決まり、それを阻止するのが私たちAqoursの目的になった。

pixiv: 千歌「あなたの隣を歩きたくて」 by ゆっきー

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これはAqoursが9人になっても変わらなかった。

気付けば統廃合を阻止することと輝くことが同義になっていた。

私たちの輝きを手に入れるため、毎日毎日練習して、汗まみれになって、何度も筋肉痛で苦しんだりもした。

───しかし努力は実らず、輝きは失われた。

やっぱり普通怪獣の私じゃ駄目なんだって思った。曜ちゃんがリーダーだったらもしかしたら違う結果だったのかな。

ようやく曜ちゃんの隣に立てたと思ったのに、地面が崩れて私だけが奈落の底に落ちていくかのような気持ちだった。

そんな私を支えてくれたのは浦女のみんなだった。

統廃合を阻止できなかった私たちを責めずに、寧ろ応援してくれた。浦女の名前をラブライブに刻んでほしいと言ってくれた。

ラブライブに名前を刻むことが私たちの輝きになった。



そして今、私は沼津の高校に通っている。

私たちは9人だけの輝きを手に入れ、考えられる限り最高の形で解散した。

Aqoursを続ける意味が無かったから。

沼津の高校で曜ちゃんは高飛び込みに専念した。

もともとナショナルチームに入るほどの実力だったから、本格的に高飛び込みをやれば全国大会で優勝できたのは当然と言えた。

改めて曜ちゃんの凄さを思い知ると同時に、そんな曜ちゃんを1年間スクールアイドルに縛ってたことが申し訳なかった───なんてことはなく、それだけの実力があるにも関わらず、スクールアイドルを選んでくれたことが少し誇らしかった。

だってこれって日本の水泳界からの期待より、千歌のことを選んでくれたってことだもんね?

だから私は曜ちゃんが練習しているところを見るのは好きだった。その度に高飛び込みより千歌の方が大事なんだって思えるから。

曜ちゃんが飛び込み台から飛び降りて、くるくるくるっと回りながら水の中に静かに消えていく。

高飛び込みのことを知らなくても曜ちゃんの演技は凄いんだって思う。すっごく上手で、すっごく輝いてるなって思う。

毎日毎日くるくるくるくる飽きもせずに飛び込み続ける曜ちゃんを見て、なんだか最近もやもやしてきた。

去年曜ちゃん言ってくれたよね。



ずっと私と何かに打ち込みたかったんだって。


ずっと私と輝きたかったんだって。



なのになんでそんなにきらきら輝いてるの?

私は端っこで見てるだけなんだよ?

曜ちゃんは私と一緒じゃなくても輝けるんだね。

私は曜ちゃんと一緒じゃないと嫌なのに、曜ちゃんは違うんだね。

やっぱり普通怪獣じゃ曜ちゃんには敵わないなぁ。私もこの1年間で成長したけど、その分曜ちゃんは先を行ってて絶対追い付けなくて───気がついたら曜ちゃんが失敗することだけを祈っていた。



今日も何事もなく練習が終わる。最近は練習を見てても楽しくない。

だって曜ちゃんが輝いているから。

私と一緒じゃないのに輝いてる曜ちゃんなんて曜ちゃんじゃないと思うんだ。

私と曜ちゃんは幼馴染みで小さい頃から一緒だったからずっと隣を歩んでいきたいと思っていた。

去年曜ちゃんと話して、曜ちゃんも同じことを思ってくれてると知った。

それでも才能の壁というものは私たちの間に大きくそびえ立ち、隣に並ぶことすら許されなかった。

才能さえなければ曜ちゃんの隣を歩けるのに。

ん?才能さえなければ?

そうだ!



───えへへ。とっても良いこと思いついちゃった!







浦の星女学院が統廃合になってAqoursは解散。

私たちは沼津の高校に通うことになった。

千歌ちゃんと一緒に輝いたスクールアイドルも浦女がなくなってしまった今、誰も続けようとはしなかった。

スクールアイドルとして歌ったり踊ったりするのは好きだったけど、やっぱりあの9人だったから最高に楽しかったし、輝いてたんだと思う。

私は沼津の高校では高飛び込みの練習を今まで以上に頑張った。

スクールアイドルが終わったことへの喪失感を埋めることに必死だった。



飛び込み台に上がると、ステージからの景色を思い出した。

水面を見つめると、青く輝くサイリウムの海を思い出した。



未練を絶ち切るように飛ぶ。

何度も何度も何度も何度も繰り返し飛ぶ。

みんなそれぞれの道を歩き始めてるのに私だけ後ろを向いて進むわけにはいかない。

前だけ向いて全速前進ヨーソロー!ってね。

幸運なことに、千歌ちゃんがいつも練習を見に来てくれていたから私は頑張れた。

千歌ちゃんに良いところを見せたい一心で飛んだ。

私にとって千歌ちゃんはとても大切で、私のすべてで、千歌ちゃんが傍にいてくれることが一番の幸せだった。

だからやっぱり本音で話したとはいえ、千歌ちゃんに凄いって言われたくて、千歌ちゃんの前ではヒーローを演じたくて───そしてまた失敗した。

最初はキラキラした目で私の練習を見てくれていたのに、最近はいつもつまらなさそうにしている。

それでも練習を見に来てくれていることは嬉しかった。

少なくとも中学生や高1の時とは違うってことだから。



沼津の高校に通うようになってから、私と千歌ちゃんの待ち合わせ場所と別れる場所は沼津にあるバス停になった。

去年の朝は千歌ちゃんと梨子ちゃんが乗ってきてたのに、今年は千歌ちゃんと梨子ちゃんが降りてくるって思うと少し面白かった。

その日もいつものように千歌ちゃんとバス停に向かって歩いていた。

明日から休みだから千歌ちゃんと暫くのお別れ、って言っても2日だけどやっぱり金曜日は好きになれない。

千歌ちゃんも流石に休みの日にわざわざこっちまで練習を見に来てはくれないから、土日はどう足掻いても千歌ちゃんとは会えない。

そんな時、久し振りに千歌ちゃんからお泊まりに誘われた。

私は二つ返事で了承した。





久し振りに訪れる千歌ちゃんの家。

あの頃と何も変わってなくてとても懐かしかった。

「それにしてもいきなりどうしたの?」

「最近全然よーちゃんと遊んでないなぁって思って思わず誘っちゃった!」

「あはは、千歌ちゃんらしいや」

でも実際最近は学校以外で千歌ちゃんと会うことがほとんどなかった。

というか私が練習漬けだったからしょうがないんだけど。

「早速何する?あっそうだ!梨子ちゃんも誘う?」

「その前にちょっとだけお話ししたいんだけど良いかな?」

「お話?」

なるほど。千歌ちゃんが急にお泊まりとか言い出したのはこれか。

「曜ちゃんさ、高飛び込みやめる?」

「やめないよ?」

「だよね」

「えっ?もしかして話ってこれだけ?」

「そうだよ」

こんなこと聞くためだけにお泊まり?うーん、どうも様子がおかしい。

「そっか、やめないならしょうがないよね」

「千歌ちゃん…?」

「よーちゃん、ハグしよ?」

「えっ、うんいいけど」

千歌ちゃんとぎゅーってハグする。あぁ、やっぱり千歌ちゃんは暖かいなぁ。

「よーちゃんごめんね…」

耳元でボソッと千歌ちゃんの謝罪が聞こえた直後、バチン!というゴムが弾けたような音がした。

「・・・えっ?」

音のする方を見ると、アキレス腱の辺りから血が溢れていた。

気づいた途端、猛烈な痛みが襲う。

「なん…で…」

「よーちゃんが悪いんだよ。あれだけ千歌と一緒に輝きたいって言ってくれたのに1人で輝いちゃうんだもん」

「それは千歌ちゃんが見てくれていたからで…!」

「じゃあなんで去年一緒に何かしたいって言ったの?一緒に輝きたいって言ったの?練習見に行って、応援してっていうのはその前からもしてたよね?それとももしかして誰も入らないから同情で入ってくれたの?」

「それは違…

「私はずっと曜ちゃんと輝きたかった!曜ちゃんに追い付いて曜ちゃんの隣を歩きたかった!曜ちゃんの隣に並びたかった!それなのに曜ちゃんはどんどん先に行って…!私だって普通は普通なりに頑張ったのに、それでも追い付けなくて…!だから、こうするしか無かったんだよ」

「千歌ちゃん…」

「私がどれだけ努力しても追い付けないなら、曜ちゃんの足並みを私に合わさせるしか…!」

だからアキレス腱を…?言ってくれればいつでも足は合わせ…っていうのは千歌ちゃんは嫌いだったね。そっか、それならしょうがないか。

「でもどうしてアキレス腱を切ったの?高飛び込みをやめさせたいなら何度も水責めして水恐怖症にするとか色々あったのに」

「だって曜ちゃんって運動神経抜群でしょ?水泳やめても結局他のスポーツで活躍しちゃうじゃん。だからもうスポーツなんて出来ないようにしたの」

「これで千歌ちゃんと肩を並べれた…?」

「そう思いたいんだけどよーちゃん手先器用だからなぁ」

手先が器用だからまだ千歌ちゃんと肩は並べられないってこと?じゃあ右手なんていらないや。

「それならちょっとナイフ貸して?」

「へっ?あっ、うん」

千歌ちゃんから受け取ったナイフを床に置いた右手の甲に向かって一気に振り下ろした。

そして、何度も何度もぐちゃぐちゃになるまで刺し続けた。

「よよよ曜ちゃん!?急に何してるの!?」

「だって…!この右手が…!あるから…!千歌ちゃんと肩を…!並べられないなら…!こんな右手…!ない方がマシだよ…!」

そう言って手がぐちゃぐちゃになって、骨が粉々になって、手の痛みが無くなるまで、刺して刺して刺し続けた。

「ふぅ…、こんなものかな」

「曜ちゃん…」

「ねえ千歌ちゃん。これで私も千歌ちゃんの隣に並べるかな?」

「もちろんだよ!」

「良かった…。あのね、私も千歌ちゃんずっと一緒にいたいと思ってるし、千歌ちゃんがいないと私は輝けないんだよ?」

「嘘だよ。だって高飛び込みやってるよーちゃんはとっても輝いてたもん」

「あれは千歌ちゃんが見てくれていたからだよ。私は千歌ちゃんのためなら頑張れるし千歌ちゃんのためならなんだって出来る。千歌ちゃんと一緒になれるのなら手だろうが足だろうがなんだろうがどうなったって構わないって思ってる…ってなんかプロポーズみたいになっちゃったね」

急に恥ずかしくなってきた。でも千歌ちゃんと一生涯を共にするのも悪くはないかも…?いやでもやっぱり普通に恥ずかしいぞ。うわぁ…、勢いに任せて何言ってんだ私…。

「えへへ、嬉しいな。曜ちゃんがそこまで思ってくれてるなんて」

「うぅ…、さっき言ったことは忘れて…」

「やだよ~!絶対忘れないもん!」

「千歌ちゃんの意地悪!」

「ふっふっふ、何と言われようと絶対忘れないのだ!」

「はぁ、しょうがないなぁ。こうなったら千歌ちゃんの恥ずかしい写真たっぷりのアルバムを梨子ちゃんに見せるしか

「わああああああ!!!それは絶対だめ!」

「え~?どうしよっかなぁ~?」

「むぅ、よーちゃんの意地悪…」

あはは、なんかこの感じ懐かしいや。3年になってから中々こうやってじゃれあったりすることも無くなってたから幸せで───気づいたら涙が出ていた。

「よよよ曜ちゃん!?」

「ごめん…。なんかすっごい幸せだなって思ったら涙が止まらなくて…」

なるべく血が千歌ちゃんにつかないように左手だけで千歌ちゃんに抱きつく。

「こうやって千歌ちゃんと同じ目線になって一緒の時間を過ごすっていうのがずっと夢だったから…」

「うん…。千歌も幸せだよ…」

「千歌ちゃん大好き…」

「私も曜ちゃんのこと大好き…」

千歌ちゃんに優しく頭を撫でられながら私は泣き疲れるまで泣いた。





「ねえ千歌ちゃん」

「なに?曜ちゃん」

「明日は何しよっか」

「明日ってれんしゅ…あっ」

「もぉ、千歌ちゃんがやったんだから忘れないでよ。でもそのお陰で明日も明後日もずっと千歌ちゃんと一緒だよ」

「うん…」

「これから色んなことをしよう?行きたいところ行って、食べたいものを食べて。時間はいっぱいあるんだから」

「そうだよね!あっ、じゃあ明日は三津シー行こ!それで晩ご飯はよーちゃんの手料理が食べたいな!」

「片手しかないのに料理は難しいよ…」

「大丈夫!千歌も手伝うから!」

「そっか、それなら大丈夫だね」

「えへへ、明日が楽しみだなぁ」

「これから毎日がこんな日になるんだよ」

「夢じゃないよね…?」

「夢じゃないよ。凄く痛かったもん」

「良かった…」

「そろそろ寝ない?明日も早いんだし」

「そうだね。おやすみよーちゃん」

「おやすみ千歌ちゃん」
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