星降る夜に

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ようちか-アイキャッチ9
雪が降っている。

「うはぁ、さむ……」

時計を見る。

待ち合わせまでは、30分。

今日、私は千歌ちゃんに告白する。

pixiv: 星降る夜に by shogun021666

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白い息が空に登っていくのを見つめながら、考える。

『未来に臆病にならなくていいんだよ』

約1年前、ラブライブ決勝のあのとき、私は千歌ちゃんにそんなことを言った。

千歌ちゃんは『ゼロ』だったあのときよりずっと強くなった。

けれど、やっぱり千歌ちゃんは千歌ちゃんで。

そして、私は私のままで。

だから、臆病な私は背中越しに伝えた。

あなたはあなたのままでいいんだよ、と。

だって千歌ちゃんは私の憧れで、輝きで。

いつだって千歌ちゃんと同じモノが見たかった。

いつからだっただろうか。その羨望が少し違う形に変わっていったのは。

「よーちゃん?」

「うわ!?」

「うわってひどいなあ、もう」

いつもみたいに暖かな笑顔で、その人はそこにいた。

「いやちょっとね、考え事を」

「ふーん? 変なよーちゃん」

あの頃と比べて、お互いの外見や雰囲気が変わったかと言えば、多分そうでもない。

変わったのはきっと私の気持ち。

いつも隣にいるのが当たり前だったのに、些細なことが気になってドキドキして。

キッカケなんて本当に小さなことだった。

~

あれから少しだけ私に甘えがちになった千歌ちゃんは、2人きりのときだけちょっぴり甘えん坊だった。

あれは、3年生が卒業して少し経った頃だっただろうか。

2人で私の部屋でのんびり過ごしていたときのこと。

「ねえよーちゃん」

「んー?」

「膝貸して」

「えー?なんで?」

「膝枕して欲しいのー」

「仕方ないなあ」

「ふふ、やった」

千歌ちゃんはにこにこしながら私の膝に頭を預けてくる。

オレンジ色の髪が太陽に照らされて綺麗だった。

思わず撫でてしまう。

「んん……」

「くすぐったい?」

「んーん、気持ちいいよ」

「そっか」

ただ、こうして甘えてくるのはきっと。

「……なんかあった?」

「ん……よーちゃんはなんでも分かっちゃうんだね」

「まあねえ、幼馴染だし」

「……なんとなくね、この先どうなるんだろって」

3年生が卒業して、統廃合も進んで。

私達の未来はやっぱり不安定で。

「……そっか」

私の手は千歌ちゃんの頭を撫で続ける。

「こんなこと言ってもね、仕方ないって分かってるの。でも……」

「いーよ、私には思うまま話してくれればいいからさ」

千歌ちゃんの本質はやっぱり怖がりなんだろうと思う。

「よーちゃんは優しいなあ……ふふ」

「どしたの?」

千歌ちゃんは少しだけ顔をこちらに向けて、にっこりと。

「ううん、やっぱりよーちゃん好きーって」

うぐ。

「もう、何言ってるのさ」

「照れてる照れてる」

そりゃ照れもするよ。

だってあんな顔で、あんな声で。

好き、だなんて。

続けて、少し切なげに言うのだ。

「ずっとよーちゃんの側にいられたらいいのにな……」

心臓に悪い。本当に……心臓に悪い。

本当に……ずっと側にいたくなってしまうよ、千歌ちゃん。

~

そんなことが続いて、私は見事にオチた。

千歌ちゃんの顔を、声を感じるだけで体温が上がって心臓がうるさくて。

今だってひどい有様だ。

「ちょっと早いけど、行こうか」

「うん! よーちゃんはどっか行きたいとこある?」

「そうだなあ、とりあえず服でも見に行きたいかな」

「う……」

「え、だめ?」

「だってよーちゃんすぐファッションショー始めるし……」

心外な。

「しょうがないじゃん、千歌ちゃん可愛いから着せ替え甲斐があるんだもん」

「か、かわ……もー!誰にでも言ってるんでしょ!」

「いやいや、千歌ちゃんくらい可愛い子なんてなかなかいないってば」

これは本心だ。

Aqoursの子達だってみんな可愛いけど、やっぱり千歌ちゃんは可愛い。

「うー……よーちゃん意地悪だ」

「本心なのになあ」

「まったくもう……仕方ないから付き合いますよーだ」

なんて、そんな風に私達はいつもの調子で歩く。

私の心臓は相変わらず早鐘を打っていたけれど。

千歌ちゃんの横に居られることがとにかく幸せだった。

……頭の片隅で『それだけで、十分なんじゃないの?』

そんな声がする。

それは、臆病な私。

向き合いたくない私。

今のこの心地良い関係を壊したくないと思っている自分だ。

でもそれは、あのときと同じ。

私達は、もう少しワガママに、自分勝手にならないといけないんだ。

自分勝手ってことは、責任を持つこと。

自分の決めたことで失敗しても傷ついても、その責任は自分で取らなきゃ。

「よーちゃん?」

「ああごめんごめん、今行くー」

だから、私はこの想いをもう仕舞わない。

きちんと、伝える。伝えたい。

私は、これから先もずっと。

千歌ちゃんの隣を歩きたいんだ。

それから。

2人であちこち歩き回って、気付けばもう日も暮れて。

「ねえ千歌ちゃん、最後に行きたい所があるんだ」

「うん、行こっか!どこ?」

「んっとね、着いてからのお楽しみかな」

「えー?」

「まあまあ、素敵なところだからさ」

「むー分かった、よーちゃんがそう言うならついてく」

「へへ、ありがと」

少しだけ、勇気を出してみる。

「よーちゃん?」

「え、と……イヤかな」

きゅ、と千歌ちゃんの柔らかい手を握った。

「全然!」

太陽みたいな笑顔で嬉しそうに。

ああ、やっぱり私はこの子が好きだなあ。

「それじゃ、行こう」

「うん」

千歌ちゃんも少しだけ握り返してくれる。

その暖かな幸せを、私も大切に握り込む。

ゆっくりと歩く私達の頭上には満天の星空。

子どもの頃から見慣れたその星空は、なぜだかいつもより眩しかった。

瞬間、『あのとき』の私達の幼い声が頭に響いた。

~

『ここが、私達の秘密基地!』

『ひみつきち?』

『そう、秘密基地なんだよ!私達だけの!……ほら!』

ピンと来ていない千歌ちゃんに、手を広げてその景色を見せる。

満天の星空が海に映る星の海を。

『わぁ……!』

『すごいでしょ?この間1人で探検してたら見つけたの』

『すごい……きれい……』

嬉しそうに、星を映していた千歌ちゃんの大きな瞳を覚えている。

そう、ただ大好きな千歌ちゃんに見せたかった。

世界のどんなものより綺麗で大きなこの景色を。

大切な、大切な人に。

それは、幼い頃の大切な記憶。

あのときは少しも意識なんてしていなかったけれど……。

きっとそれは、私の恋心のはじまりだった。

~

あれから、何年も時が過ぎて。

子どもだった私達の歩幅では長く長く感じた道のりはあっという間。

そして、その場所へ辿り着く。

遮る物のない、海の見える高台。

そこが私達の秘密基地だった。

「ここって……」

「そう。覚えてるかな、秘密基地」

あの頃と変わらない星の海がそこにはあった。

ベンチに2人並んで腰を下ろす。

「懐かしいね……」

「うん」

「やっぱり、綺麗だね」

そんな風に言って、千歌ちゃんは微笑んだ。

それは何より綺麗で。

想いが溢れて止まらなくなりそうだった。

「ねえ、千歌ちゃん」

ぎゅ、と握った手に力が入る。

月の明かりが私達だけを照らしていた。

私は、うるさい心臓を落ち着かせながら一言ずつ発していく。

「私ね、少し前まで千歌ちゃんに想いを伝えるのが怖かったんだ」

付き合いが長すぎて、察してしまえる。

言葉なんてなくたって、分かってくれると思っていた。

けど、人間ってそんなに便利に出来てない。

閉校祭のあのときまで、『千歌ちゃんに憧れてる』ってことさえも伝えられなかったんだから。

「千歌ちゃんを傷つけたくなくて……ううん、私が傷つきたくなかったんだと思う」

千歌ちゃんは黙って聞いてくれている。先を促すように。

「『ゼロ』だったあのとき、私は千歌ちゃんに何も言ってあげられなかった」

「どういう言葉をかけなきゃいけないのか、誰よりも分かっていたはずなのに」

それは後悔。

仲間が助けてくれたけれど、あのときのことはずっと胸に刺さっていた。

「子どもの頃からずっと一緒で、これから先もずっと一緒にいられるって。そんな風に思い込んでいたけど……」

「それじゃきっとまた繰り返しちゃうから」

そう、変わらないものなんてきっとない。

3年生のようにそれぞれの道を歩み始めるかもしれない。

だから、離したくないものが、離したくない人がいるならちゃんと言葉にして伝えなきゃダメなんだ。

「情けない話だけどさ、今だってすごく怖いんだ」

足なんかガクガクだ。

それでも……それでも。

「よーちゃん」

そんなとき、にこっと笑って。

「大丈夫だよ。チカはちゃんとここにいるよ」

「よーちゃんと2人で、ここに」

「なんにも……なんにも変わらないよ」

ああ……敵わない。

本当に敵わないや。

やっぱり、私は千歌ちゃんがいなきゃダメだ。

「……ありがと、ちょっとだけ落ち着いた」

ちゃんと伝えよう。

大切で、かけがえのないこの人に。

千歌ちゃんの両手を握って、正面から向き合う。

今度こそ背中じゃなくて……きちんと目を見て。

あの頃と何も変わらない瞳に向かって。

「千歌ちゃん」

「この通り、私は臆病で……頼りがいなんてないかもしれない」

「でも……だけど」

「千歌ちゃんのことを想う気持ちは……大好きだって想う気持ちは誰にも負けないつもりです」

「好きです、千歌ちゃん」

「これから先の未来を、怖がりな私と歩んでくれますか」

心臓の鼓動がうるさい。

千歌ちゃんの目から、視線を外したい。

でも、逃げたくないんだ。今度こそ。

無限とも思えるくらい、無言で見つめ合って。

そして。

「よーちゃん」

「全部言わせちゃってごめんね」

「わたしも……チカもね」

「よーちゃんのこと、大好きです」

「わたしで良ければ、この先もずっと……あなたと手を繋いで歩いていきたいです」

その瞳に涙を溜めて。

千歌ちゃんは、そんな言葉を私にくれた。

気付けば、抱きしめていた。

「わぷっ」

「千歌ちゃん……好きだよ」

「もう、さっき聞いたってば」

「だって好きなんだよ」

「ばかよーちゃん……わたしも……好き、だよ」

恥ずかしそうに言う千歌ちゃんが可愛くて。

想いが繋がったことが嬉しくて。

あとで思い出したら悶えちゃいそうなくらい『好き』を交わした。

「あ……」

「ん?」

「よーちゃん、空……すごい」

そう言われて見上げてみれば。

「流星群……」

流れ星が無数に空を彩っていた。

「すっごいね……」

「うん、すごいや」

そんな言葉しか出ないくらいに、あまりに綺麗な夜だった。

「よーちゃん、ずっと……ずっと一緒にいようね」

私の肩に頭を乗せて、千歌ちゃんが言う。

「うん、約束」

ぎゅ、と抱き寄せて。

また、星が流れた。

そして。

「千歌ちゃん」

「よーちゃん」

あまりに聞き慣れて、言い慣れたその名を呼びながら。

星降る夜に、はじめてのキスをした。
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