無くした髪と、優しい貴女

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花丸-アイキャッチ15
 今日もみる、あの時の夢。

 ルビィに向けられるのは、ただの悪意。
 
 髪を掴まれ、強引に押し倒される。
 覆いかぶさる男の人の感触。

 悲鳴をあげようにも、恐怖で言葉が出ない。
 口を塞がれ、抑え込まれる。

 近づいた顔、血走った眼と、荒い息。
 抵抗することも、悲鳴をあげることも許されない。

pixiv: 無くした髪と、優しい貴女 by わた

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 壊れていく、1つ、2つと、黒澤ルビィという人間が。

 男はただ機械的に、行為を進めていく。
 
 自らの欲を満たす為か、何か目的があったのか。

 それは分からなかった、そしてそんなことは、ルビィにはどうでもいい問題だった。




「はぁ、はぁ」

 最も恐ろしい部分まではたどり着かずに、いつも目が覚める。
 その後の事は思い出せない、思い出したくもない、最悪の記憶。

 覚えているのは、痛み、悲しみ、崩壊。
 意識が戻った時の最初の記憶は、お父さんやお母さんの怒号や悲鳴、病院のベッドの横で泣きじゃくるお姉ちゃん。

 幸い、身体の後遺症は少なかったけど、傷物になった。

 そして心にはさらに大きな傷を負った。

 かなりの頻度で、カウンセリングの先生やお医者さんの所に通うことになった。
 大好きだった学校へは、あまり行けなくなった。

 地元の名家の令嬢を襲った悲劇、噂は瞬く間に広がり、人々が楽しめる方向へと一人歩きしていく。
 仲の良かった友達も、ルビィの事を奇異の目で見るようになり、近づかなくなった。

 ただ道を歩いていても、周りの人が噂しているのが聞こえる。

 目立つ容姿、名前、一目見ただけでみな認識できてしまう。
 興味や関心という名の悪意が、毎日のようにルビィを襲った。

 そうしている内に、人が怖くなっていった。

 酷い人見知りになり、見知らぬ相手とまともに話すことができなくなった。

 男の人は、たとえ親しかった相手でも顔を見ただけでトラウマが蘇り、まともに接することさえできない。

 お母さんやお姉ちゃんも、ルビィの傍に男の人を近寄らせないようにしているみたいで。内浦でルビィが男の人を見ることはほとんどなくなった。

 長かった髪もバッサリ切った。

 容姿を変えたかった、ルビィだと分からないように。

 さらに思い出してしまうから、あの時男に触られた感触を。

 お姉ちゃんは勿体ないと言ってくれたけど、どうせこの後、見せる相手もいないのだから。

 可愛い、美人さんだね、そんな風に言われて、自慢だった長髪は、もうどこにもない。

 習い事も辞めて、人とかかわらないようになった。

 お父さんやお母さん、お姉ちゃんも止めるどころか、それを勧めてきたぐらい。

 みんな分からなくなっちゃったんだ、可哀想な末っ子との接し方が。

 お姉ちゃんは特に変わった。ただルビィを甘やかすばかり。
 事件の前は凄い厳しかったのに。その厳しさの中にあるやさしさが、大好きだったのに。 

 大好きな家族とも壁ができた。そしてルビィはひとりぼっちになった。

 今も1人で、震えながら泣くことしかできない。




 目が覚めてしまったので、今日は久しぶりに登校。

 念のためにとお姉ちゃんと一緒に、お父さんが運転する家の車に乗せられて登校。

 校門前に車が止まると、ざわつく周囲。そしてすぐに広まる内緒話の輪。

 近づくと、一応挨拶をしてくるクラスメイト。仕方なく、可哀想なルビィに気を使っての行為。完全に腫れ物扱い。

 彼女たちを無視をして、自分の机に突っ伏し、眠り始める。
 この程度なら、教師も何も言わない。ルビィは汚された、可哀想な子だから。


 休み時間になると、逃げるように図書室に来ていた。

 ここにはほとんど人が来ない、それを知っていたから。

 誰もいない図書室の床に座って、スクールアイドル雑誌を広げる。

 スクールアイドル。ルビィが憧れていたもの。

 だけどもう届かない。

 汚れたものは輝けない、それに知らない人に囲まれるステージになんて立てないから。ステージに立てないアイドルなんて、不可能だから。

 ポツリと、一粒涙が零れる。

 いけない、雑誌を汚してしまう。急いで涙を拭こうと鞄にあるハンカチを探そうとして――

「ぴ、ぴぎゃっ」

 転んでしまう。
 我ながらなんというドジ、人がいなくてよかった――。

「……」

 無言でこちらを見つめてくる、女の子。

 ぬかった、ここにも人がいたなんて。

 急いで雑誌で顔を隠す、変に注目されたくなかった。

「ねえ、あなた――」

「な、何でもない、ルビィは、えっと」

 思わず名乗ってしまう、ドジばかり、いつもお姉ちゃんに言われていたとおりだ。

 名前を知られたら、間違いなく興味を持たれてしまうのに。

「ルビィちゃん? 可愛い名前だね~」

 だけど名前を聞いても、女の子は反応を示さない。

 もしかして、ルビィの事を知らない?

 そっか、休み時間に1人で図書室に籠っているような子だから、あんまり友達とかいないのかもしれない。
 それで噂も知らないのかも。

「あ、貴女は?」

「マル? マルは国木田花丸、一年生」

 同級生だけど、聞いたことのない名前。

 でもこれはチャンスかもしれない。

 この子の穏やかな雰囲気のおかげか、初対面なのに怖くない。

 事件の話も知らないなら、友達になれるかもしれない。

 1人でいるよりも、隣で信頼できる誰かが居てくれた方が、絶対に安心できる。

「ねえ、花丸ちゃん。良かったらルビィと友達にならない?」

「ずらっ」

「ずら?」

「う、ううん、何でもない。いいよ、もちろん。ルビィちゃんみたいな可愛い子なら、大歓迎だよ」

 人当たりの良さそうな笑顔。
 やさしそう、国木田花丸ちゃん、きっと素敵な子。

「じゃあこれからよろしくね、花丸ちゃん」

「うん!」

 2人きりの、他に誰もいない図書館。
 居場所ができた気がした、ルビィの、大切な居場所が。


―――――――――――――――――――


 図書室での出会いから、少しの時が経った。

 花丸ちゃんは、お寺の子で、いつも図書館に籠って1人で本を読んでいて、他に友達もいないみたいで、すっかり仲良くなれた。

 学年も同じ、クラスも1つしかないから当然同じ。

 自然と、常に一緒に行動するようになった。
 登下校、授業中、休み時間、放課後……。急激に距離を縮め、仲良くなっていく。

 お互いにとって、唯一の友達。

 彼女は周囲に関心が薄かったおかげで、事件どころかルビィの存在すら知らなかったみたいで。

 私たちはとても気が合ったし、親友と呼べる関係になっていくまで、そう時間はかからなかった。

 彼女がいるおかげで、ルビィは毎日学校へ通えるようになり、精神的にもだいぶ安定してきた。

 凍り付いていた心が溶けて、また以前のように笑えるようになった。

 図書館で一緒に本を読む。会話はほとんどない時間だったけど、居心地のいい、落ち着いた時間。

 本を読まない時は、花丸ちゃんは好きな文学の話、ルビィはアイドルや裁縫の話。

 お互いに相手の言っていることはよく分からなくても、大切な人が好きなことについて楽しそうに語っている、それを聞いているのが楽しくてたまらなくて。

 家で楽しそうに花丸ちゃんの話をすると、お姉ちゃんは凄い嬉しそうで。

 花丸ちゃんのことをすっかり気に入って、『ぜひうちに招待しなさい』なんて言い出すぐらいになって。

 今日も花丸ちゃんと放課後、どこかに遊びに行く約束。

 日直の仕事がある彼女を、図書室で1人、本を読んで待つ。
 彼女が隣に居てくれれば、外の世界も、知らない人も怖くない。

 影が落ちたルビィの人生に灯った明かり。

 今日はひそかにプレゼントも用意してある。

 日ごろの感謝の気持ちを込めて作ったトートバッグ。

 前に可愛いと言ってくれた熊の刺繍をあしらった、ちょっとした自信作。

 きっと喜んでくれると思う、楽しみだなぁ。

「うーん」

 それにしても遅いな。

 日直の仕事が終わらないのだろうかな。
 教室へ行ってみて、大変そうだったら手伝おう。早く遊びに行きたいもんね。

 
 教室に近づくと、微かに話し声が聞こえる。

「ねえ、国木田さん」

 こっそりとドア越しに中を覗いてみると、見えるのは花丸ちゃんがクラスメイト数人に囲まれている光景。

「なぁに?」

「国木田さんってさ、何で黒澤さんと仲良くしてるの?」

 ルビィの話?

「凄いよねぇ、あの黒澤さんと、仲良くできるなんて」

「ルビィちゃんになにか?」

 少しムッとしたような、花丸ちゃんの声。

「あれぇ、国木田さん知らないの? 黒澤さんの、事件の話」

 ハッとする。この人たち、花丸ちゃんに何を吹き込もうとしているの?

「事件?」

 駄目、聞かないで。

 教室に飛び込んで止めたかった。でもそれだと、自分から何かあることを肯定しているようなもので。

「黒澤さんってさ、入学早々、男に襲われたんだよ。複数人だとか、数日に渡ってとか、詳しいことは分からないけど」

 ああ、駄目だ、言われてしまった。

「子どもできて、中絶の為に学校休んでたらしいよねぇ~」

「そもそも、その襲ってきた相手から散々貢がせていたらしいじゃん」

 好き勝手言わないで、そんなのでたらめだ。

 叫びたかったけど、クラスメイトの言葉で思い出す、あの時の光景。

「ほら、あそこの家って怪しい権力者じゃん。だから都合のいいように操作したんだよ」

「今でも放課後になると、男漁ってるらしいよ。凄いよねぇ~」

 誰かに助けてほしかった。だけど、唯一の味方の花丸ちゃんは、彼女たちの言葉に聞き入っている。

 耐え切れず、その場から駆け出す。

 一番知られたくない人に露見してしまった過去。

 きっともう、明日から花丸ちゃんも、他の人と同じように、ルビィを腫れ物扱いするんだ。

 あの子たちみたいに、存在しない噂話をして、ルビィと距離を取ろうとする。

 楽しかった時間は、もうお終いなんだ。

 夢見てたんだ、高校生になって、大人になっても、花丸ちゃんが傍に居てくれる事を。

 でもそれはもう、終わってしまった夢。

 靴も変えずに、校舎の外に飛び出す。早く学校から離れたかった。

 さらにスピードをあげようとして、正門の前で転んでしまう。

 膝が痛い、鞄も遠くへ飛んでしまう。所々血も出ている。

 だけど構わず走る。

 鞄なんてどうでもよかった。

 どうせもう、学校へなんか来ない。

 花丸ちゃんに嫌われる、疎まれる、そんなの耐えられない。

 1人で部屋に籠り、悪夢に震えているのがルビィにはお似合いなんだ。

「っ」

 ろくに前も見ずに俯いて走っていたせいで、人とぶつかってしまう。

「ってぇな、どこ見てんだよ」

「ひっ」

 相手は大学生ぐらいの男の人、威圧的にルビィに迫ってくる。

「謝れよ。ぶつかってきたのはそっちだろ」

「あっ、あっ」

 悪いのは自分、早く謝らなきゃでも声が出ない。

 怖い、男の人、怖い。

 ぶつかった時の感触、迫ってくる圧迫感、嫌でも思い出してしまう。

 ルビィは耐えきれずに、言葉も出せずに走りだそうとする。

「ちょっと待てよ!」

 肩を掴まれる。

 そうだ、あの時もこうやって肩を掴まれて――。

「ぴ、ピギィ―――――――――」


―――――――――――――――――――


「あ、あれ?」

 意識が戻ったのは、自室のベッドの上。

 何があったのか。覚えているのは、口から飛び出す悲鳴、ショートする頭の回路。ブラックアウトする意識

「ルビィ! 目を覚ましたのですか!」

 酷く憔悴して、泣きそうな顔をしたお姉ちゃん。

「ど、どうしたの」

「どうしたのではありません、貴女、3日も気を失っていて」

 3日、ルビィはそんなに眠っていたのか」

「ごめんなさい、また辛い目にしまって。もうあんな事、二度と起こらないようにと、誓って、いたのに」

 泣きながらルビィを抱きしめるお姉ちゃん。

 もしかして、何か誤解をしているのだろうか。

「な、なんで泣いてるの」

「当たり前でしょう、大切な妹が、また男に汚されて……」

 汚されて?

 もしかして、あの意識を失った後、また何か――。

「うぷっ」

 想像してはいけなかった。
 吐き気を催し、布団に嘔吐してしまう。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 私に謝り続けるお姉ちゃん。

 こんな姿見たくなかった。大好きなお姉ちゃんが苦しむ姿なんて。

 口から、鼻から、目から、色々な物が流れ出る。

 心が、凄く冷たかった。


―――――――――――――――――――


 検査や周囲の目撃情報を総合した結果、幸いなことに襲われたわけではなかったようだ。

 ひとまず安心、だけどお姉ちゃんはルビィの1人にするのを怖がるようになった。

 ルビィはそれを良い事に、学校へ行かなくなった。
 お母さんも何も言わなかったし、お姉ちゃんはむしろそれに賛成してくれた。

 昼間は1人で部屋に籠って、夜になるとお姉ちゃんがずっと寄り添ってくれる。

 過剰なまでの愛情、ルビィの傍を一時も離れようとしない。

 昔のお姉ちゃんの面影はどこにもない、ルビィが壊してしまった。

 今日もルビィは1人きり、暗い部屋で布団に籠って過ごす。

 あれ以来、花丸ちゃんには一度も連絡を取っていない。

 彼女は携帯電話を持っていないので気軽に連絡を取れないし、お互いの連絡先も知らない。

 きっとこのまま、自然に関係は消滅していくのだろう。

 それなら、きっと綺麗な思い出のまま残る。
 楽しかった時間、それだけを持ち続けられる。

 神様から最後に与えられた、儚い夢のような時間だった。

 きっとルビィは、この暗い部屋の中で一生を過ごすのだろう。

 お姉ちゃんに迷惑をかけながら、可哀想な子として庇護されて。

「会いたいよ、花丸ちゃん……」

 会ってしまったら傷つく。

 分かっているけど、それでも。

 学校に行かなくなってから、相当な期間が経った。

 日に日に、想いは強くなっていく。

 時を巻き戻したい。あの日、最初から日直の仕事を手伝おうとしたら、もっと早く教室へ戻っていたら、今もルビィたちは一緒に笑っていられたかもしれない。

 後悔、未練。胸が苦しい。

 自然と涙が溢れ出てくる。ルビィは顔を枕に押し付けて、それを止めようとする。

 だけど止まらない、
 もう嫌だった、生きるのは、ただただ辛いだけ。

「あぁ、そうだぁ」

 時を巻き戻す方法、1つだけあった。

 死んじゃえばいいんだ、ルビィが死んじゃえば、来世で、夢の世界で昔に戻れる。

 花丸ちゃんと出会ったばかりの頃に。それどころか、あの事件の前にだって。

 無邪気に生きてきたころに戻って、負い目なく花丸ちゃんと過ごすこともできる。

 こんな名案何でもっと早く思いつかなかったんだろう。

 やっぱりルビィは出来の悪い妹だ。ごめんね、お姉ちゃん。

 でもどうやって死のう。

 どこかから飛び降りるのがいいかな。花丸ちゃんが教えてくれた小説の話にも、よくあるもんね。

 どこか良い場所があるかな。

 とりあえず外に出れば、見つかるかな。

 外の世界も、死を意識すれば怖くなくなる。たとえ怖くても、我慢できる。

 幸い、家にはお母さんしかいない。こっそり外に出ることは、そんなに難しくない。

 ベッドから起き上がり、適当な服に着替える。

 ルビィだってすぐにばれないように、髪型も変えてみたり。

 ずいぶん幼い容姿になっちゃうけど、子どもっぽいルビィにはちょうどいいや。

 家から簡単に抜け出せた。外に飛び出して、どこへ行こうか考える。

 バスと電車でどこかへ行く? それも面白そう。
 崖とかから飛び降りたりしたらカッコいいかな。

「ルビィちゃん!」

 そんなルビィの思考を遮る声。

「はな、まるちゃん?」

 そこにいたのは、一番会いたかったけど、会いたくもなかった人。

「やっと会えた……」

 嬉しそうな顔。前よりも少しやつれたように見えた。

「何でこんなところに。学校は?」

「あの日、図書室へ行ってもルビィちゃんが居なくて。それで学校にも来なくなっちゃったから、何かあったのか心配で」

「押しかけちゃ悪いと思って、ダイヤさんにお手紙を渡したんだけど、返事がないからずっと会えるのを待ってたの。お家の人にばれないように、毎日」

 手紙? そんなの知らない。

 それにずっと待ってたなんて、何で?

「聞いたんでしょ。ルビィの、色んな噂」

「うん。でもマルは知ってるよ。ルビィちゃんが、そんなことをする子じゃないこと」

 花丸ちゃんはやさしいから、ルビィを傷つけないように言ってくれるだけ。

 はっきりと言ってほしかった、一瞬希望を見せるようなことを、言ってほしくなかった。

 だからその言葉は受け入れられない。

「分かんないよ、ルビィはそういう子かもしれない。それに面倒くさいでしょ、そんな訳ありの子なんて、気持ち悪いし――」

「ルビィちゃん、辛かったでしょ」

 言い終える前に、花丸ちゃんはルビィの事を抱きしめる。

「面倒くさい? 気持ち悪い? マルはそんなこと、一言も言ってないよ」

「ルビィちゃんはマルの、唯一の、大好きで、大切な友達。たとえどんな過去があったとしても、それは変わらないよ」

 いつものおっとりした彼女から想像もできないような、芯の通った声。

「ルビィちゃんは、マルの事嫌い?」

「……そんなわけないよ」

 嫌いなわけがない。

「ルビィも、花丸ちゃんのこと、大好きだよ」

 こんなルビィを大切に想ってくれる子を、好きなじゃないわけがない。

「マルはね、何があってもずっと一緒にいる、もうそばから離れたりしない」

「うん」

 涙が出てくる。

 でもそれは、今まで流し続けていた涙とは違う。

「だからルビィちゃんも、マルを信じて」

「うんっ」

 嬉しくて、涙が止まらない。

 花丸ちゃんの温かさで、身体中が包まれるみたいで。

「ずっと一緒だよ、ルビィちゃん」


―――――――――――――――――――


 桜が咲いて、散って、また咲いて。

 ルビィは三年生になった。

 今日も元気に登校。

 あの日以来、ルビィは一度も学校を休まずに、花丸ちゃんと仲良く通学している。

 髪は短いまま、だけど髪型だけは変えた。

 あの日マルちゃんが言ってくれたから。『いつものルビィちゃんも可愛いけど、マルはこっちのルビィちゃんの方が好きかも』って。

 帰ってきたお姉ちゃんが、ルビィの姿を見てびっくりしてたかな。

 そういえば、お姉ちゃん。花丸ちゃんが何かに絡んでいると疑って、手紙を渡すのを拒んだみたいで。

 そのことでルビィたちに謝ったお姉ちゃんを、花丸ちゃんは『ダイヤさんが、ルビィちゃんの為にやったことだから』と笑顔で許してくれた。

 お姉ちゃんは『花丸さんに頼まれたら、どんなことでもしますわ』なんて話していたっけ。

 ルビィは高校生になって、地元の浦の星女学院に進学する予定だ。

 そこにはお姉ちゃんもいる、花丸ちゃんもいる。
 クラスメイトの大半は、沼津の高校へ進学していった。私の事を花丸ちゃんに話した、あの子たちも。

 トラウマは、消えていない。

 今でも初対面の人に触られただけで叫び出してしまうし、男の人の顔を直視することもできない。

「ルビィちゃん」

 でも大丈夫、貴女がいれば。

 貴女が隣にいてくれるだけで、ルビィは立ち上がれる。

「マルちゃん、おはよう!」


 彼女の名前は国木田花丸、ルビィの大切な友達。
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2018年5月26日
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