私と堕ちる天使の貴女

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よしりこ-アイキャッチ3
  1


「ご、ごめんね」

 その言葉を聞いた瞬間、私は理解した。
 この愛情を、彼女が受け入れてくれないことを。

pixiv: 私と堕ちる天使の貴女 by わた

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「梨子ちゃんの事は大好きなんだよ。でも、どうしてもそういう目では見れないというか……」

 千歌ちゃんは話し続けている。きっと私を傷つけないように、精一杯。

 だけどその言葉は私の耳には届かない。

 想いを告げる前から理解していたはずだった、こうなることは。
 だって千歌ちゃんが好きな相手を、私は知っていたから。その相手も千歌ちゃんを好きなことも。

「ほら、今日の事は忘れるからさ、これからも友達でいよう!」

 たぶん、気を使ってくれているのだろう。

 でも知ってる? その言葉は、フラれた相手を縛り付けて苦しめる、呪いの言葉だってこと。

「うん、もちろんだよ」

 そんなの無理だって思っても、好きな相手の言葉を否定することなんてできないから。

 私はむしろ突き放してほしかった。

『気持ち悪い』、『二度とかかわらないで欲しい』、『軽蔑した』、そう言ってくれたら、どれだけ楽な気持ちになれただろう。

 私はこれから、叶わない想いを抱えたまま、千歌ちゃんと『友人』として過ごさなければならない。それはただ辛いだけの毎日。

 私には針の筵、千歌ちゃんにとっても、決して居心地のよくない空間、それに耐えきれず、徐々に仲は悪化していく。


 だけど離れることはできないクラスメイトで、『友人』だから。


  2


「ごめんね、善子ちゃん。マルは恋愛とかよく分からなくて」

 ああ、そうなのね。女の子同士の恋愛なんて、普通だったら考えられないものね。

 だからこれ以上聞かなければいい。笑って諦めて、『これからも友達でいてね』なんて言ってしまえば、済む問題。

「でももし、ルビィが同じことを言ったら、どうしたの?」

 だけど聞かずにはいられなかった。

「……分からない、ルビィちゃんは、大切な人だから」

 そして後悔した、それを聞いてしまったことを。

 聞かなければ、まだ淡い期待を持ちながら、仲の良い友達として、一緒に時を過ごせたかもしれなかったのに。

「もういいわ、話してくれてありがとう」

「……ごめんね、善子ちゃん」

「ルビィ、きっと貴女のことが好きよ」

「そう、かな」

「間違いないわよ。ずっと貴女の事を見てきた、私が言うんだから」

 もう明日から、普通に話せる気がしなかった。だから今のうちに、最後に、好きな人の為に、背中を押してあげよう、そう思って。

「ありがとう、善子ちゃん」

 最初は罪悪感を覚えるかもしれない。フった相手の存在や気遣いに。

 だけど告白が上手くいけば、徐々に忘れていくだろう。どんどん甘い記憶に上書きされていって、私の事などどうでも良くなっていく。

 そうなっても、花丸が薄情な人間と言うわけではない。

 恋愛とは、そういうものだから。


 3


 告白から一か月も経つと、私はクラスでの居場所がなくなっていた。

 理由は、三つ。

 一つ目は、想像していたとおり、私と千歌ちゃんの『友人』としての関係が上手くいかなくなったから。

 二つ目は、千歌ちゃんと曜ちゃんが付き合い始めて、2人きりで過ごす時間が増えたから。
 つまりそれは、千歌ちゃんだけでなく、曜ちゃんまで私の事を構ってくれなくなったことを意味する。

 三つ目は、私がAqoursのメンバー以外、気軽に話せる相手がいない事。

 クラスメイトと話すことはあったけど、あくまでも千歌ちゃんや曜ちゃんの友達として。
 桜内梨子という一個人して会話できる相手などいなかったから。

 そんな現状に気づきながらも、千歌ちゃんは私から目をそらして、関わろうとしてこなかった。

 曜ちゃんは何とかしてくれようとしていたけど、千歌ちゃんはそれを阻むし、私も曜ちゃんの事を受け入れられなかったから。

 仕方ないでしょう、曜ちゃんは私から見れば恋敵。千歌ちゃんを盗った、因縁の相手だから。

 そんな風にしている間に、曜ちゃんも私に関わってこようとしなくなった。

 私は1人で過ごせる場所を探した。

 そしてたどり着いたのが、音楽室。

 ほとんど人が立ち寄らずに、ピアノがある空間。

 1人でも、音色を奏でていれば寂しくない、濁った心を誤魔化すことができる。

 誰かに見つかっても、Aqoursの作曲作業だと言い訳も可能だ。これ以上の環境は間違いなくない。

 最初は昼休みや放課後、直に短い休み時間でも音楽室に籠るようになった。

 教室で楽しそうに過ごす二人をこれ以上見ているのは、辛すぎたから。


  4


 教室では、いつも花丸とルビィと一緒だった。

 他に話せる相手がない私にとって、そこは大切な、唯一の居場所で。

 だから花丸との関係が無くなった時、私の居場所はなくなった。

 あれから一度も、私と花丸は会話かわしていない。

 何も知らないルビィは、しつこく、だけど心配そうに『喧嘩でもしたの?』と尋ねてくるけど、私は適当にあしらって、寝ているか本を読むフリをした。

 ルビィとは話したくはなかった。八つ当たりだと分かっていても、きっと彼女に攻撃的な態度を取ってしまうから。

 その態度によって歪になってしまっても、関係を壊したくなかったから。

 だって、ルビィも大切な友達だから。

 結果的に、同じように不安定な状態ながら、心配してくれる相手を拒否しない花丸の方に、ルビィは近づいていく。
傷ついた花丸はルビィに甘え、依存する。ルビィもそんな花丸を受け止める。

 結果的に、2人の仲は深まっていく。私はまた2人の仲を助けているわけだ。

 皮肉な結果、だけどどうしようもない。自分の心を偽りながら、それを喜ぶことしか、私にはできない。ただそこにいることしかできない。

 でも何よりも辛かったのは、1人きりで過ごさなければいけないこと。

 ひとりぼっちには慣れているはずなのに、浦の星に入ってから、知ってしまったから。誰かと、友達と一緒に過ごす時間の楽しさを。

 もう以前のようには戻れない。

 それが嫌で。こんなことになるなら、仲良くならなければ良かったなんて考えてしまう自分がもっと嫌で。
 
 雁字搦めだ。

 私は最後の希望を、居場所を求めて彷徨う。
 休み時間、ただぶらぶらと、自分を受け入れてくれそうな場所を、延々と探し続ける。

 そんな中、見つけた。
 たった一人、音楽室でピアノを弾き続ける、その人の存在を。


  5


「梨子さん」

 私にとって聖域だった音楽室に訪れた、予想外の来客。

「どうしたの、善子ちゃん」

 音楽室のイメージとは、まるで合わない彼女の存在。

 そもそも、いつも花丸ちゃんやルビィちゃんと過ごしているイメージのあるのに、どうして。

「その、ピアノの音が聞こえてきたから」

 よく分からないけど、音につられてやってきた迷子の子猫さんみたいなもの?

 だとしたら何とも可愛らしい。

 正直、最初は疎ましくも感じたけど、せっかくのお客さんだ、大事にしなければ。

「ちょうど良かったわ。私も1人で寂しかったから」

「そ、そう?」

「こっちにくる? そこで立ってると、何だか私がいじめているみたいだし」

 私は入り口で棒立ちになっている善子ちゃんに向けて手招きする。

 善子ちゃんは無言で私の方に近づいてくると、ピアノの近く、だけど少し離れた椅子に座る。

 微妙な距離感。そして招き寄せたはいいけど、話題が思いつかない。

「善子ちゃん、ピアノ弾く?」

「弾けないけど、聴いてるだけで十分よ」

 とりあえず出た一言は、あっさりと受け流される。

「続き、弾かないの?」

「あ、ええ」

 要するに私にピアノを弾けということなのだろう。

 まあこのまま喋るよりは、だいぶ気楽な気はするので、助かったかもだけど。

 ピアノに向き直り、とりあえず善子ちゃんに分かるように、Aqoursの為に作った曲を弾く。
 時々、ちらりと彼女の方に目を向けると、楽しそうな表情で私を見ている。

 私の特別に上手とはいえない演奏の、何が楽しいのだろうか。

 実際に歌ったときの事を思い出しているから? だけど善子ちゃんが居なかった時の曲だとしても、その表情は変わることはない。

「ふぅ」

 一通りの曲を弾き終え、手を止めると、聞こえてくる拍手。

「凄く上手ね、梨子さん」

「そんなことないわよ。これぐらい練習すれば誰だって」

 私より上手い人なんていくらでもいる。
 もちろん、普通よりは上手いけど、それは時間もお金もかけた結果。

「もしそうだとしても、私は好きよ、梨子さんのピアノ」

 ずいっと身を乗り出してくる善子ちゃん。

「なんかね、凄い心に来るの。梨子さんの強い感情が、そこに入り込んでいるみたいに」

 私の感情、いまそれを感じたとしたら、それは間違いなく負のもので。

 それが結果的に深みをもたらしたのだろうか。だとすれば、また皮肉な。

 本来内浦にやってきた目的であるピアノに、千歌ちゃんにフラれたことがプラスの効果をもたらしたとは。

 苦々しい思い、だけどそれと同時に、それをポジティブに捉えることができる要素ができて、心が少しだけ軽くなった。

「ありがとう、善子ちゃん」

「お礼を言われるようなこと、してないわよ」

「ううん、そんなことないよ――」

 タイミングよく、予鈴が鳴り始める。

「私、次移動教室だから、急がなきゃ」

 この時間は名残惜しいけど、授業に遅刻するわけにはいかない。

 急いで教室を出ようとする私の袖を、善子ちゃんが掴む。

「どうしたの」

「梨子さんはいつも音楽室でピアノを弾いてるの?」

「最近は、大体ね」

「また来てもいいかしら」

 訴えかけるような、善子ちゃんの表情。

 私は気づく。もしかしたら、この子にも私のような事情ががあったのかもしれないと。

「ええ、もちろんよ」

 気づいてしまったら、断る事などできない。

 こうして始まった、私と善子ちゃんの、2人の時間は。


  6


「よ、善子ちゃん。久しぶりに一緒に帰らない?」

 どれだけ無視しても、ルビィは私に構ってくる。
 今日は花丸が風邪で休みだ。だからいつもより積極的なのだろう。

「いいわよ、帰りましょう」

 最初は無視しようと思った。

 だけど思い直った。いつかちゃんと話さなければいけないとは思っていたし、正直花丸との関係がどうなっているのかも気になった。

 それに確かリリーは今日、用事があると言っていたはずだ。

 これ以上のタイミングはないだろう。

―――――――――――

 私たちが向かったのは松月。

「美味しいねぇ、ここのケーキ」

「ええ、そうね」

 最初はどうなるかと思っていたけど、私たちは普通に接することができていた。

 面白いもので、友達というのは少し離れてしまっても、すぐに感覚を取り戻せるようだ。

「良かったぁ、笑ってくれて。最近、元気なかったみたいだから」

 嬉しそうに微笑みながら、私を見つめるルビィ。

 あれだけ冷たい態度を取っても、私を心配し続けてくれて。

 私は、こんな良い子に対してつまらない嫉妬をしていたのか。

 不思議と以前の様な、負の感情は湧いてこなかった。

 これはリリーのおかげなのかな。

 私は気づいていた。自分がリリーに対して、花丸に抱いていたのと同じような感情を抱き始めていることに。

「花丸、ルビィのこと好きかもしれないわよ」

 だからこれは、ちょっとしたサービスだ。

「少し、特別な意味でね」

 だからこれは、好きだった人と、大切な友達へのサービスだ。


  7


 音楽室での出来事から、幾ばくかの時が経った。

 私と善子ちゃんは、だいぶ仲良くなっていた。

 当たり前だ、休み時間、ずっと一緒にいるのだから。

 2人きりの音楽室で、時間が許すギリギリまでピアノを弾いて、お喋りをして。

 気づけば、善子ちゃんが私を呼ぶ言葉が、『梨子さん』から『リリー』になっていた。

 最初は照れ臭かったけど、彼女なりの愛情表現だと考えると、少し嬉しくて。

 善子ちゃんは私には『ヨハネ』と呼んでほしいと頼んできたけど、流石に恥ずかしかったので『よっちゃん』と呼んで誤魔化した。

 善子ちゃんは少し不満そうな言動を見せたけど、照れているのか、少し顔が赤くなっていた。

 私も照れ臭かったので、それ以降一度もあだ名で呼んでいない。

 そもそも善子ちゃんの名前が好きだというのもある。善い子、それがまさに彼女の体を表している、ピッタリなものだから。

 決して、千歌ちゃん関係の辛さが薄れたわけではない。

 だけど、善子ちゃんと過ごす、心穏やかな時間のおかげで、少しは楽になれたのも事実で。

 相変わらず教室では、ひとりぼっちの時間が続いている。

 私が2人を避け続けることで、状況はただ悪化していくだけ。

 善子ちゃんが抱えている問題も、上手くいっていないようだ。

 おそらく、花丸ちゃんやルビィちゃんとの事。

 最近、Aqoursの活動中に善子ちゃんを除いた2人で話している様子をよく見るようになった。じっくり観察してみると、花丸ちゃんと善子ちゃんは一言も会話をしていない。あれだけ仲良しだったのに。

 だけど詳しい話は聞いていない。

 お互いに、何があって音楽室へ来るようになったのかは知らない。

 話すような話題でもないし、必要だったら自然と口に出るだろう。

「リリー、どうしたの?」

「ううん、何でもないわ」

 今日も放課後は、音楽室で2人きり。

 Aqoursのみんなに作曲だといって誤魔化した。

 当事者の1,2年生はもちろん、3年生も何かを感じ取っているのだろう、善子ちゃんを連れたっての明らかに不自然な行動なのに、誰もそれを止めようとしない。

「そろそろ帰りましょうか、あんまり遅くなっても良くないし」

「ええ、そうね」

―――――――――

 夜、自室でピアノを弾きながら考える。

 善子ちゃんへの、私を安らげてくれるあの天使のような子への、私の気持ちを。

 私の中に、明らかに以前とは違う気持ちが芽生えていた。

 名前を付けるには、まだ淡すぎるそれ。だけど時期に、分かるのだろう。

『コツン』

 手を止め、考え事をしていると、窓の方から音が聞こえる。

「千歌、ちゃん?」

 反射的に振り向いてみると、そこに写るのは、千歌ちゃんの姿。

「梨子ちゃん、少しお話しない?」

「いいけど、どうしたの?」

「私と曜ちゃんね、付き合うことになったの」

「それは、おめでとう」

「ごめんね、こんな話――」

「どっちから、告白したの」

「……曜ちゃんから。梨子ちゃんの様子が変だって曜ちゃんに相談されてから、流れで」

「そっか、良かったね、両思いで」

 なるほど、私は意図せずキューピットになってしまったわけだ。

「千歌ちゃん、何でこんな話をしようと思ったの?」」

「その、梨子ちゃんには話しておかなきゃと思って――」

「ごめんね。私、千歌ちゃんとは話したくないの」

 そう言って、窓を閉める私。

「梨子ちゃん――」

 千歌ちゃんが何かを言っている。

 泣いているような声も聞こえる。それを聞かないために、私は耳を塞ぐ。

「千歌ちゃんの、馬鹿ぁ」

 私の目からも涙が流れてくる。

 終わった、私と千歌ちゃんの、『友人』としての関係も。

 清々したはずだった。これも嬉し涙だと、自分に言い聞かせる。

 だけどそれを、私の中からあふれ出す感情が否定する。

 悲しかった、ただひたすらに悲しかった。

 一枚の窓を挟んで、私たちはただひたすら泣き続けた。


  8
 

「……」

 最近、花丸とルビィの様子がおかしいことに気づいた。
 そこで思い切ってクラスメイトに尋ねてみると、花丸がルビィにフラれたことを知った。

「ごめんね善子ちゃん、花丸ちゃんの事、助けてあげて」

 花丸がいないタイミングでルビィを問いただそうとすると、ただそんな風に返されて。

「ルビィ、貴女は――」

「ルビィはお姉ちゃんの所に行けばいいから」

「でも……」

「今の花丸ちゃんを助けてあげられるのは、善子ちゃんしかいないから」

 無茶を言わないでほしい。

 ルビィは私が花丸に告白したことを知らない。
 だから悪気はないはずだ。だけどそれは、私には難易度が高すぎる。

 でもこれはチャンスだった。花丸との関係を修復する。

「ずらマル、ちょっといいかしら」

「……善子ちゃん」

 ルビィに頼まれたという免罪符を得たことで、私は思い切って行動を起こす。

――――――――――

 花丸は思いのほか、普通に私と接してくれた

 助けになる、相談に乗ると言うと、色々な事を――聞きたかったことだけではなく、聞きたくなかったことまで――話してくれた。

 そしてルビィにフラれた反動からだろうか、妙に私を頼るようになった。

 私もそんな彼女を拒むどころか、ただ頼られることを喜んだ。

 私の気持ちは、梨子さんに向いていると思っていた。

 だけど花丸がフラれたと知り、また話ができるようになると、ぐらつく。

 もしかしたら、私にもまだ可能性が残っているかもしれない。そんな風に考えてしまう。

「ねえ花丸」




 私は毎日、花丸と2人で帰るようになった。


 気づけば音楽室には、行かなくなっていた。


  9


 善子ちゃんが音楽室に来なくなった。

 たまに見かけると、花丸ちゃんと一緒にいる。

 ルビィちゃんの姿はないのが気になったけど、仲直りできたのだろうか。

 私とは違って、それができる程度の問題だったのだろうか。

「……馬鹿みたい」

 花丸ちゃんとの関係が戻ると、善子ちゃんは音楽室に来なくなった。

 あれだけ私に、ベタベタと、甘い言葉をささやいていたのに。

 私たちの関係は歪だった。

 特に約束もせず、ただ理由もなく、音楽室に集まっているだけという建前で成り立っていた。


 その建前を、事実にしてしまえば、簡単に崩れる。

 そもそも、私だけだったのかもしれない、建前だと思っていたのは。

 気を紛らわそうと、ピアノに集中するけど、以前の様に楽しめない。

 1人きりなど慣れていたはずなのに、ピアノなんてそもそも、1人で弾くはずのものなのに。

 善子ちゃんがいないだけで、安らかな世界は、とげとげしく変化してしまった。

「会いたいよ、よっちゃん……」

 私はまた1人になった。


  10


「今日はどこに行こうか?」

「うーん、そうねぇ」

 花丸との関係を取り戻してから、数週間が経った。

 私たちの仲は、以前よりも深まった。

 花丸は私に対して、フラれる前のような毒を吐くような言動を向けられることは少なくなり、以前のルビィに対するように、優しくなった。

 私もふざけることが少なくなり、より親密な、恋人に近いような関係を築くことができていた。

 上手く告白すれば、今度は成功する。そんな確信が持てるぐらい、私たちは仲良くなったのだ。

「良かったら、私の家に来ない? ちょうどお母さんもいないし」

 花丸は断らないはずだ。そしてもしタイミングがあれば、告白する。

「いい案だね――」

「花丸ちゃん!」

 そんな私の思惑を打ち破るように、私たちの後ろから聞こえてくる声。

「ルビィちゃん……」

 ここ数日間、ルビィは以前の私のような行動を取っていた。

 休み時間になるとどこかへ消えてしまう。だから話すこともできずに、心配していた。

「お話があるの、ちょっといいかな」

「えっ、でも……」

「いいから来て!」

 強引に花丸の手を引いていくルビィ。

「ちょ、ちょっと」

 何事なのだろうか。

 私は急いで、2人の後を追う。

「な、なにするの、ルビィちゃん」

 たどり着いたのは、図書館。
 以前2人が、ずっと一緒に過ごしていた場所。

「ずっと、考えたんだ。女の子と恋愛をすることが、どんなことか」

 嫌な予感がした。ルビィの言葉から。

 私のそれはよく当たる。だけどこの時ばかりは当たらないで欲しかった。

 だってルビィはもう、花丸の事をフったはずでしょ。

「正直ね、抵抗はあるの。普通じゃないでしょ、そんなの」

 飛び出して、止めたかった。

 だけど身体が動かない。まるで金縛りにあったみたいに。

「だけど、花丸ちゃんを想うと、そんな気持ちはどこかに行っちゃって。離れてみて、分かったんだ」

 やめて、それ以上言わないで。

「ルビィ、花丸ちゃんの事が好き」

 ああ、言ってしまった。

 この後、どうなるかは私も分かっている。

「マルも、マルもルビィちゃんの事、好きだよ」

 私もそうだった。例え距離を縮めたように感じても、本当に好きだった相手への気持ちは忘れられない。それを超えることはできないと、自らの行動で証明していた。

 2人は抱き合っている。

 紆余曲折を経て結ばれた、お似合いの2人の、感動的なシーン。

 私にとっては、最悪のはずなのに目が離せない。

「んっ」

 ルビィが花丸にキスをする。

「る、ルビィちゃん」

「えへへ、嫌だった?」

「ううん、嫌じゃないよ」

 今度は花丸から。

 ほんの数分前まで、手が届くと思っていた彼女が、遠ざかっていく。


 私はずっと見ていた、2人が愛を確かめ合うのを。

 逃げることも、目をそらすことも、私の身体と心は許してくれなかった。

 
  11


 音楽室に、善子ちゃんが戻ってきた。

 顔には泣きはらした痕。

 何があったのかは、分からない。

 だけどただ事ではない、それだけはあきらかで。

「おかえりなさい、善子ちゃん」

 私は何も聞かずに、彼女を迎え入れた。

「ごめんなさい、リリー」

 その謝罪の意味は、聞かない方が良いのだろう。

 話す必要があれば、言ってくれるはずだから。

「私もごめんね、よっちゃん」

 そしてきっと、彼女が謝罪する原因を作ったのは、私。

 今はまだ、少し気まずいけど、時間が経てば元の穏やかな空間に戻る。

 私たちはこれからも、こうして過ごしていくのだろう。

 2人きりの世界で、手が届かない相手への気持ちを抱えたまま。
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