とくべつな、ふつう。ふつうな、とくべつ。

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ようちか-アイキャッチ12
千歌

「次はさ、千歌と曜のダブルセンターで行こうよ」

「えぇっ!?」

「おお、それはいいアイディア!」

驚くわたしとは真逆の反応を返す曜ちゃん。

「あ、あの」

「千歌ちゃん、頑張ろうね!」

何かを言う間もなく、ぐっと手を握られる。

いつもみたいなキラキラした笑顔。

曜ちゃん、かわいいなあ。

それに比べて、わたし、は……。

pixiv: とくべつな、ふつう。ふつうな、とくべつ。 by shogun021666

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「よ、よーし! 頑張ろうね曜ちゃん!」

一瞬頭に浮かんだ嫌な気持ちを振り切るように、わたしは強がる。

曜ちゃんのことは大好き。

子供の頃からチカのヒーローで……。

いつだってキラキラしてる、わたしの憧れ。

スクールアイドル始めてからは、なおさらかなあ。

その輝きはどんどん増すみたいで。

「さ、そうと決まったら練習練習!」

本当に嬉しそうに駆け出す曜ちゃんの背中を見て、ちくり、と胸が痛む。

どうしてこんなにちくちくするんだろう。

嬉しいこと、なのになあ。

ーーー

わたしの胸の内なんて関係なく、練習は始まる。

曜ちゃんと並んで踊るとどうしても思い知ることがある。

すごい。

とにかく曜ちゃんはすごいんだ。

指の先まで弾けるように踊る姿は見惚れちゃうくらい。

なんて、ボーッとしてる場合じゃ……!

「いたっ!」

足がもつれて転んでしまう。

「ご、ごめんね曜ちゃん」

「だいじょぶだいじょぶ、もう一回やろ!」

何回も何回も、繰り返す。

なのに、どうしても……。

「ごめんね、曜ちゃん……」

「大丈夫だよ、そんなに気にしないで」

やっぱり……。

やっぱり、無理だ。

「ううん、ごめん……やっぱり、わたしじゃ無理だよ」

「え?」

「わたしじゃ、曜ちゃんとセンターなんて無理だと思う」

「な、なんでそんなこと」

言いたくないのに、言葉が止まらない。

「曜ちゃんは、とくべつ、だから」

ここにいるのが辛くて、それだけ言ってわたしは走り出す。

逃げたくて、逃げたくて。

とにかく、どこかへ。

曜ちゃんがいないところへ。

ああ、どうしてわたしは。

こんなに、ふつう、なんだろう。






「曜ちゃんは、とくべつ、だから」

ガツン、と頭を殴られたようだった。

どういう、意味?

聞き返す間もなく。

千歌ちゃんはそれだけ言って走り出してしまって。

「え、と……とりあえず、今日はこのへんにしとこうか」

果南ちゃんが少し所在なさげに話す。

「そうですわね……」

ちら、とダイヤさんが私を見る。

任せた、とでも言わんばかりに。

私はこくり、と頷く。

「では、各自気をつけて帰るように」

ダイヤさんのそんな言葉を合図に、とりあえず解散する。

私の頭の中ではぐるぐるとさっきの言葉が残っていて。

なんだかすぐに帰る気にも、あんな風に頷いたものの千歌ちゃんを追う気にもなれなくて。

「あ……忘れ物、しちゃった」

ふと、教室に教科書を置き忘れていたことを思い出す。

教室に向かう途中、ピアノの音色。

「梨子ちゃん……かな」

なんとなく足がそちらに向いて、そっと音楽室に入る。

「あ、曜ちゃん」

「邪魔しちゃったかな」

「ううん、私もそろそろ帰るところだったから」

「あの……ね、梨子ちゃん」

「ん?」

「さっきの千歌ちゃんの言葉……どういう意味か、わかる?」

「んと……」

言いよどむ梨子ちゃん。

何か、分かるのかな。

「何か知ってるなら、教えてほしいんだ……私、どうすればいいのかな」

「えっとね……私は千歌ちゃんじゃないから、あくまで推測でしか話せないよ?」

「なんでもいいの、聞かせて欲しい」

私じゃ、何も分からない。

こんなに付き合いが長いのに、なにひとつ……。

情けなくて、泣きそうだ。

「千歌ちゃんね、曜ちゃんにずっと憧れていたみたいで」

「憧れ……?」

「そう」

「飛び込みで結果を残してきた曜ちゃん」

「誰からも好かれて、スクールアイドルとしても人気者の曜ちゃん」

「そして、いつだってキラキラしてる曜ちゃん」

「千歌ちゃんにはね、それが眩しかったみたい」

「そんな……そんなの」

私は、そんな立派な人間じゃない。

大切な幼なじみの気持ちひとつ分からないのに。

「千歌ちゃんもね、分かってるんだよ」

「曜ちゃんが相応の努力をして、その上で輝いていること」

「曜ちゃんがどんな人かなんて、痛いほど分かってる」

「そんな風になりたくて、でもなれなくて……」

「だから、千歌ちゃんは何も言えなくなっちゃってるんだと思う」

「これってね、私もよく分かるんだ」

「梨子ちゃんも……?」

「ピアノの世界も、一緒だから」

梨子ちゃんが鍵盤に指を置くと、ぽろん、と悲しげな音が鳴る。

「自分より実力が上の人がいて、勝ちたくて、努力して……でもどうにもならなくて」

「そうやってね、どんどん動けなくなっちゃう」

「そういう気持ち……分かるかな」

苦しげに呟く梨子ちゃんの言葉に、何も言えなくなってしまう。

分かる、なんて簡単に言ってはいけないのだろうと思う。

「……私、どうすればいいのかな」

ぽろり、と言葉が滑り落ちる。

「私、こんなのやだよ……」

「千歌ちゃんのこと、だいすきなのに」

「誰よりも優しくて、いっつもニコニコしててさ」

「でもほんとは泣き虫で……なのに、必死で我慢して……」

「どうして、私には何にも言ってくれないのかなあ……さみしいよ」

こんなこと、梨子ちゃんに言っても仕方ないのに。

言葉がどうしても止まらない。

「2人はね、一度ちゃんと話すべきだと思う」

梨子ちゃんは鍵盤から指を離して、言う。

「付き合いが長い分、変に相手の気持ちを察しちゃってるでしょ?」

「それはきっと素敵なことだけど、でも邪魔になることもあると思うの」

「言葉にしなきゃ分からないことって、きっとたくさんあるよ」

「大好きなら、ちゃんと伝えなきゃ」

「カッコ悪くたって、みっともなくたって、いいじゃない」

柔らかく微笑んで梨子ちゃんは言う。

「……そっか、そうだよね」

結局、私は怖いだけだ。

千歌ちゃんの本音が。

本当はどう思われているのか、嫌われてるんじゃないかとか。

そういうことを恐れて本気で踏み込めない。

それが私の弱さなんだと思う。

いつからか、千歌ちゃんの優しさに甘えていたのかもしれない。

千歌ちゃんは、そのせいで苦しんでたのかな。

……ううん、やめよう。

推測じゃなくて、ちゃんと話そう。

伝えよう。

思っていること、ちゃんと。

「ありがとね、梨子ちゃん」

「ううん、力になれたなら良かった」

「ちょっと、行ってくるね」

「うん、行ってらっしゃい」

私は、恵まれてるなあ。

こんなに優しくて、素敵な友達がたくさんいる。

ちゃんと、話そう。

いろいろなことを。



千歌

どこに行っていいのか分からなくて、結局海を見ている。

「なにやってんだろ、わたし……」

一応リーダーなのに、あんな風に逃げ出して。

曜ちゃんにもあんなこと言っちゃって。

「あーもー! チカのバカぁ!」

誰もいない海に叫んでみる。

「ほんと、なにやってんだろ……」

曜ちゃんはなんにも悪くないのに。

わたしが「ふつう」なのが悪いんだ。

ううん。

これは言い訳だ。

「とくべつ」になるために必死に努力したかと言われればきっと素直に頷けない。

必死に頑張って、それが報われないことが怖くて。

だからいつしか、笑って諦めてたんだ。

「情けない、なあ……」

ぽつり、零れる。

情けなくて情けなくて。

泣きたくないのに。

泣く資格なんてないのに。

一度溢れた涙は止められない。

もういいや、泣いちゃおう。

そんな風に思ったとき。



「千歌ちゃん!!」

わたしの後ろから、誰より聞き慣れた声が聞こえた。




予想した場所に、彼女はいて。

拳を握りしめて苦しそうに泣いていて。

「千歌ちゃん!!」

これ以上千歌ちゃんが泣いている姿を見たくなくて。

私は気づけば叫んでいた。

「千歌ちゃん……大丈夫?」

「曜ちゃん……どうして、ここが」

目を腫らしながら、千歌ちゃんは驚いたように。

「だって、千歌ちゃんは何かがあるといつも海を見に来るから」

家族と、友達と、ケンカしたり嫌なことがあったとき、千歌ちゃんは決まってここに来る。

「あの、曜ちゃん……さっきはごめ」

「ストップ」

「え……?」

謝罪の言葉が聞きたいわけじゃない。

そもそも、きっと誰も悪くないんだから。

「千歌ちゃん」

「う、ん」

千歌ちゃんの目をじっと見ながら、私は語りかける。

きちんと気持ちが届くように。

「思ってること、聞かせてほしいんだ」

なんだって構わない。

罵倒だって、キライって言葉だって……。

「千歌ちゃんの、気持ちが知りたいの」

「わたしの、気持ち……」

「そう、千歌ちゃんの気持ち」

「なんでもいいから、全部ぶつけてほしいんだ」


千歌

「え、と……」

「ゆっくりでいいよ」

どうしたらいいか分からないわたしに、曜ちゃんは笑顔を向けてくれる。

これまで、この笑顔にどれだけ救われてきただろう。

眩しくて。

眩しすぎて。

だからこそ、いつしか曜ちゃんに気持ちを伝えることができなかったのかもしれない。

「あの、ね……チカって、ふつうでしょ?」

だから、少しだけ。

少しだけ踏み出したいと思った。

「曜ちゃんが、すごく羨ましかった」

「なんでもできて、すっごくカッコよくて……ずっと憧れてたんだ」

いつからだっただろう。

曜ちゃんが飛び込みを始めて、最初の観客はわたしだった。

子供のわたしから見てもすごく綺麗で、素直にすごいって思った。

それはやっぱり誰の目から見ても同じで。

いつしか曜ちゃんの周りには人が集まっていて。

「そんな曜ちゃんを見るたび、すごく嬉しくて、誇らしくて……けどね」

「ちょっぴり……ううん、きっとだいぶ嫉妬してたんだと思う」

そう、嫉妬。

これは、紛れもなく嫉妬だ。

「だからね、ちょっと曜ちゃんから逃げたの、わたし」

「ふつうな自分を突きつけられるのが怖くて」

「逃げてる自分を見つめてるのが怖くて」

そんな嫉妬をバネに頑張ろうとするんじゃなくて。

わたしは、そこから逃げ出した。

努力してもきっと曜ちゃんみたいにはなれないって諦めた。

「だからね、やっぱりわたしが悪いんだよ」

わたしが逃げ続けていたせいで、曜ちゃんを困らせた。

みんなを困らせた。

「本当に……ごめんなさい、曜ちゃん」

声が震える。

曜ちゃんがどんな顔をしているのか見られない。

また、逃げてるんだわたしは。



「千歌ちゃんの、ばか」

そんな言葉と共に、わたしの体は暖かな体温に包まれた。




思わず、抱きしめていた。

この子は。

千歌ちゃんは、こんな想いを抱えながらずっと私の傍にいてくれたんだ。

私の傍で、笑っていてくれたんだ。

あまつさえ、スクールアイドルにまで誘ってくれたんだ。

なんて強いんだろう。

なんて、悲しいんだろう。

「千歌ちゃん、私が飛び込みを始めたキッカケ覚えてるかな?」

「……?」

「千歌ちゃんなんだよ。キッカケは、千歌ちゃん」

「わた、し?」

初めて飛び込みを成功させたとき。

本当に嬉しそうに、自分のことのように喜んでくれた千歌ちゃんを覚えている。

千歌ちゃんが喜んでくれるのが嬉しくて。

千歌ちゃんが笑ってくれるのが嬉しくて。

千歌ちゃんの笑顔が大好きで。

ただ、それだけだったんだ。

「周りがどうとか、そんなの関係なくて……千歌ちゃんが笑ってくれるのがただ嬉しくてさ」

だから、始めた。

だから、楽しかった。

「でも、飛び込みってやっぱり1人だからさ」

「だからね、千歌ちゃんと一緒に何かがやりたかったんだよ」

あのとき言った言葉は心から。

「誘ってくれたとき、本当に嬉しくて」

スクールアイドルがどういうものかなんて、よく分からなかったけど。

私の心はもう決まっていた。

無邪気に、嬉しくて楽しくて。

「ねえ、千歌ちゃん」

「私を……渡辺曜を、見てよ」

「私はね、今も昔も千歌ちゃんのことが大好きなだけの『よーちゃん』、だよ」

それだけを、伝えたかった。

他のことなんてどうでもいい。

私にとっての「とくべつ」は間違いなく千歌ちゃんで。

私は、たったそれだけがあればいい。


千歌

その言葉は、あまりにも暖かくて。

当然のように言う曜ちゃんの声はあまりにもいつも通りで。

「よ、ちゃん……よーちゃん」

「うん」

ゆっくりとわたしの背中を撫でてくれる曜ちゃんの手が優しくて。

「わたしも、だいすき、だよぉ……っ!」

わたしの口からあまりにも自然に飛び出したその言葉。

長い、長い間凝り固まったものは「だいすき」というその言葉だけに溶かされて。

嫉妬心とか、劣等感とか。

すべてが涙と一緒に流れていくみたいで。

「ありがと、千歌ちゃん」

「ごめんね、ごめんね、よーちゃん」

「もういいから謝んないの」

「だってぇ……」

もうグズグズだ。

曜ちゃんにこんなに甘えるの、いつぶりだろう。

「久しぶりだね、こういう千歌ちゃん」

想いが重なっていく。

口にしてみればとても簡単なことだったのに。

「ねえ、よーちゃん」

「なーに?」

ずっとやりたかったこと。

ずっと、言えなかったこと。

それを口にしてみたいと、ようやく思えた。

「わたし、よーちゃんと一緒に踊りたい」




「うんっ!」

ずっと、聞きたかった言葉。

私たちの近いようで遠かった距離が、やっと少し埋まった、と思う。

こんなに近くにいて見えなかったこと。言えなかったこと。

「千歌ちゃん、頑張ろうね」

「うん、頑張るよ」

こんな簡単な言葉が、暖かい。

「これからはさ、もっと私に甘えてね」

「やーだ、恥ずかしいもん」

「えー」

私の胸でいたずらっぽく笑う千歌ちゃん。

嬉しいな、と思う。


ーーー

それから、少し2人で座って話した。

昔のこと、今のこと、これからのこと。

今までの時間を少しずつ埋めるように。

そして気づけばすっかり時間も経っていて。

「よっし!時間も遅いし帰ろっか、千歌ちゃん」

「あ、ほんとだ!帰んなきゃ!」

慌ただしく帰り支度をして。

「あ、曜ちゃん」

「ん?」

くるり、と千歌ちゃんの方を向く。

ちゅっ。

頬に暖かな感触。

「……え?」

「じゃあ千歌先に行くね!」

そう言い残して千歌ちゃんは走り出す。

熱くなった頭は冷静になれなくて。

「ちょ、ま、待って!今のどういう!」

「よーちゃんのにぶちん!」

少し遠くから千歌ちゃんのそんな言葉。

耳まで真っ赤にした千歌ちゃんの姿が見えて。

「も、もう……明日からどうすればいいのさ」

せっかく落ち着いたのに……もう。

だけど、私の頬はすっかり緩んでいた。



千歌

あのね、わたしだって恥ずかしい。

けれど、ああせずにはいられなかった。

貰った言葉が嬉しくて、暖かくて。

何かが解決したとか、そんなんじゃないけど……。

「はっ、はっ」

なんとなく走りたくて、わたしはそのまま走り続ける。

ふつうなわたしが、少しでも曜ちゃんの隣を自信を持って歩けるように。

この気持ちを今は脚に乗せて、とにかく走る。

「ちかちゃーん!待ってよー!」

「わーっ、速い!」

やっぱり追いつかれてしまいそうだけど……。

でも、わたし、頑張るから。

「待っててね、よーちゃん!」

「こっちのセリフだってばー!」

そんな風に言い合うわたしと曜ちゃんは笑顔で。

少し肌寒い内浦の海に、2人の声が楽しげ響くのでした。
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