千歌「やっと、私から」

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千歌-アイキャッチ7
「これでよしっ!」

 鏡の前で真新しい制服に身を包みポーズを決める。
 今日は沼津高校の入学式。私も遂に高校三年生。
 頑張って早起きして身嗜みに時間を使っていた。

 早起きした理由は二つ。
 寝ぼけた頭じゃ浦の星の制服に着替えてしまいそうだから。
 うん。多分、そのうちすると思う……。押し入れの奥深くに仕舞っておこうかな……。

 もう一つはなんと――思い切ってイメチェン!
 とは言っても、髪を下ろすだけ。なぜなら……。
 ラブライブ決勝の感想に『今日の千歌ちゃんすっごく可愛い!』『やっぱ髪下ろした千歌ちゃん最高!』『こっちのが絶対いい』
 こんなのがたくさんあったわけですよ、ええ。

pixiv: 千歌「やっと、私から」 by ヤオナ

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 え? 何? 今日の? いつもは可愛くないと? オシャレしようと思って頑張って編み込んでたんですけど?
 はぁ……。優勝したのは嬉しいけど、ちょっと複雑な気分。

 みんながあまりにもそう言うから、今日を機に髪を下ろしていこうかと思ったわけ。

「……」

 鏡の向こうにいる自分を見つめる。

「うーん……やっぱり……」

 幼い。

 元々童顔な私が髪下ろすと余計……。
 私はもっと大人っぽくなりたいんだけどなぁ。梨子ちゃんみたいな。
 でも、みんなはこっちの方が好きなんだよね。このロリコン共め……。

 髪――伸ばしてみようかな。



「千歌ー、梨子ちゃん来たわよー」

「はーい、今行くー!」

 美渡ねぇに呼ばれ鏡とのにらめっこを終わりにする。
 最後に笑顔を作って――うん! 今日も可愛い! 絶対に口には出さない言葉で締め括る。








「おはよう千歌ちゃん」

「お、おはよう梨子ちゃん」

 玄関先で、梨子ちゃんと挨拶を交わす。
 ……。
 なんだこの美人! ブレザーめっちゃ似合うですやん!
 音ノ木坂の制服が似合ってたから当然だけどさぁ!

「どうかした?」

「制服似合うなぁと思って……」

「ふふふ、ありがと。千歌ちゃんも似合ってるわよ」

「あ、ありがと……」

 天は二物与えすぎでしょ!
 美人でピアノも弾けて性格もイイ!
 曜ちゃんもそうだけど、なんで私の傍にはこんな超人ばっかりなの!! 全然普通怪獣じゃないからな君達!

「髪、本当に下ろすんだ」

「うん。編むの面倒だったし、丁度いいかなって」

「そっかー。私も思い切ってイメチェンしてみようかな……」

「い、いいよ! 梨子ちゃんはそのままで十分可愛いし!」

「えーっ、なにそれ」

 やめて。
 私のイメチェンが霞むから。
 梨子ちゃんがポニテとか絶対ダメ! ほら、最近は校則でも禁止されてるんだからね!

「それじゃ……行こっか」

「うん……」

 和やかな雰囲気は一変。哀愁漂う中、私達は歩き出す。
 いつもとは反対側のバス停へ――。








 バスの中、窓際の席で風景を眺めていた。
 沼津の練習で何度も見てきた光景なのに、なぜかノス……ノ……?
 なんだか懐かしくも切ない気持ちになった。

 今日からはこれが当たり前になっていくんだと。
 浦の星の制服を着て、浦の星に通うことはもうないという現実を改めて思い知らされる。

「どうするか……決めた?」

 感傷に浸っていると、不意に話しかけられた。

「ごめん……まだ……」

「そう……」

 二人の間にまた沈黙が訪れる。

 私には今、決めなくてはいけないことがある。
 それは――私達『六人』の今後。


 Aqoursの活動は九人で話し合った結果、休止。ということになった。
 『解散』ではない。
 なぜかと言うと、『Aqours』は『浦の星女学院』のスクールアイドルだからだ。

 その名前はラブライブ! というこの先も長く、長く続くであろう歴史に確かに刻んだ。
 決して、終わりなんかじゃない。

 いつの日か。
 浦の星女学院、スクールアイドル。Aqoursが『九人』で再びステージに立つ日が来ると信じて。
 
 だから、私達六人がAqoursの名前で沼津高校で活動することはない。
 スクールアイドルを続けるのであれば、新しいグループを作ることになる。
 その決断を私はしなくちゃいけない。Aqoursの『リーダー』として――。



「今日の集まりまでには決めるから」

「焦らなくていいからね? 私達は今年受験だし……」

「うん、大丈夫。よく考えて決めるね」

 嘘をついた。

 私の中で答えはもうとっくに決まっている。
 けれど、その答えを一番最初に伝えたい人がいるから。
 一年前にやり残したことを――いや、ずっと前からやり残していた。伝えられなかった想いを。
 その一言を。








 沼津高校に着くとまず、人の多さに驚かされた。
 こ、これが都会の高校……!
 これじゃクラス名簿を見るのも一苦労だよ……。

 なんて考えながら人混みに突入しようとした矢先、囲まれた!

「あ、千歌ちゃんだ!!」
「えっ! 嘘!」
「ラブライブ優勝おめでとうございます!」
「私もAqours入れて下さい!」
「スクールアイドル続けるんですか!?」
「うちのグループに来ませんか!?」

 わー! わー!
 私は聖徳太子じゃないっつーの! 何言ってるか全然わかんないよ!

「髪下ろしたんですね、可愛い!」

 うむ。もっと頂戴。

「ち、千歌ちゃん助けて~~……」

 遠くから助けを呼ぶ梨子ちゃんの声が聞こえる。
 遠目だけど、私より明らかに人が多い。
 けっ。

「え、えっと。Aqoursについては式の代表挨拶の時に説明するので今は答えられません!!」

 言い忘れてましたが、なんとわたくし高海千歌、浦の星女学院の代表として挨拶を任されているのだ。えっへん。

「なんだぁ千歌ちゃんでもダメか……」
「私もAqours入りたいなぁ」
「曜ちゃんのとこ戻ろ」

 ん? 曜ちゃん?

「全速前進! ヨーソロー!」
『『ヨーソロー!』』

 掛け声の方に視線をやると、私と梨子ちゃん以上に人が集まっていた。

「曜ちゃんサイン下さい!」
「一緒に写真撮ってください!」
「ハグいいですか!?」

 最後のはダメだよ?

「いいよ、いいよー。みんな並んでねー!」

 おい渡辺。

「はぁ……曜ちゃんって……ふぅ……こういうの慣れっこよね……」

 息を切らしながら梨子ちゃんが戻ってきた。

「うん。昔から曜ちゃんは人気者だったからね!」

 そう。昔からずっと人気者で、私の自慢の親友で――私の憧れの人。









「――――浦の星女学院代表挨拶。高海千歌」

「はい!」

 ダイヤちゃんに用意してもらった式辞用紙を手に壇上に向かう。

 ラブライブの決勝ステージとは、また違う緊張感に体が震えそうになるも、

 壇上から浦の星のみんなの顔を見たら不思議とリラックスできた。

 演台の後ろで一礼をして深く深呼吸をした後、一歩踏み出し読み上げた。









「お疲れ、千歌ちゃん」

「立派だったわよ。さすがリーダーね」

「ありがとう、二人共」

 クラスの挨拶も終わり、下駄箱で合流した私達三人。
 残念ながらクラスは全員バラバラという結果だった。
 それはまるで、私達の未来を案じてるかのようにも思えた。

「新鮮だよねー。千歌ちゃんと違うクラスになるなんて」

「今までずっと一緒だったの?」

「うん。田舎だもん」

「田舎ってすごい……」

「すごいのかな?」

 やばい。何も考えず合流しちゃったけど、これじゃ曜ちゃんと二人きりになれない!
 どうしようどうしよう……。

「ほいじゃ行こっか」

「ええ」

 私に確認をせず二人は歩き出す。なんか最近の二人仲良くない?
 うぅ……。もういいや!

「よ、曜ちゃん!」

「ん?」

「今からちょっといいかな? 二人きりで話したいことがあるんだ」

「私と?」

「うん。梨子ちゃん、悪いんだけど先に一年……二年生達と向かってくれないかな」

「……あっ、ふーん。わかったわかった。先行ってるね」

 何を察したのかな?

「うん……ごめんね」

「いいのいいの」

 そう言いながら私の元に駆け寄って

「頑張ってね」

 と、耳打ちされる。何を言っているんだこのつり目女は。
 頑張るのは確かだけど……。



「それじゃ、いい報告待ってるから~~」

 満面の笑みで手を振り去っていく梨子ちゃん。

「いい報告って?」

「さぁ……」

 梨子ちゃんのことは放っといて、覚悟を決めなきゃ。
 私の心臓はラブライブの決勝よりも代表挨拶よりも――ドキドキしていた。





「それで、私に話って?」

 桜の花びらが舞う校庭の隅を歩きながら問いかけられる。
 ここならいっか。人もいなくなったし。
 歩みを止め、曜ちゃんと向き合う。

「少し長くなるけどいい?」

「うん。ゆっくりでいいよ」

 その微笑みに少し緊張が和らぐ。

「よ、曜ちゃんさ」

「閉校祭の時に私に憧れてたって……」

「私と同じ景色を見てたいんだって言ってくれたよね」

「うん。今も変わらないよ」

「ありがとう……。私もね……曜ちゃんと同じ気持ちだったんだ。ずっと」

 あの日には言えなかった想いを打ち明ける。この想いはきっと重すぎるから。

「小さい頃からね、飛び込み台にいる曜ちゃんを見上げながら思ってたんだ」

「会場にいるたくさんの人が曜ちゃんを見てる。私もその大勢の中の一人でしかなくて、見ている世界は周りの人と同じで」

「一体、曜ちゃんのいる場所からはどんな風に見えているんだろうって。曜ちゃんの見てる世界はどんなんだろうって」

「私もいつか、曜ちゃんと同じ景色が見たいって、そう思ったんだ」

「だからね、色んな事に挑戦したの。私も曜ちゃんみたいになるんだって」

「でも、なれなかった」

「やればやる程、曜ちゃんが遠い所に……高い所にいるのがわかった……」

「一緒に何かをすればする程、曜ちゃんとの差を突き付けられてるみたいで嫌だった……」

「それで……曜ちゃんの誘い断る様になって……ごめんね……」

 瞳から涙が零れ落ちる。

 本当は一緒にやりたかった。本当は誘いたかった。なのに私の醜い部分が顔を覗かせる。水泳部にいるからなんて理由を付けて――。

 憧れはやがて嫉妬に変わり、いつしかコンプレックスになっていた。

「そっか……。そうだったんだね。打ち明けてくれてありがとう」

 優しい曜ちゃんはこんな私でも受け入れてくれる。

「私の方こそ……ありがとう……こんな私の傍にいてくれて……」

「私の憧れの人を『こんな』なんて言わないで」

「うん……ごめん……」

「もぅ……。はいっ、これで涙拭いて!」

 ハンカチを手渡され、溢れる涙を拭う。
 そうだ。
 このハンカチに置いていこう。私の涙を。


『未来のことに臆病にならなくていい』


 そう言ってくれた彼女に答えるためにも。

 ハンカチをぎゅっと握りしめ、顔を上げる。
 滲んだ視界の中で彼女の顔をしっかりと見据える。



 やっと、この言葉を言える日が来た。


 やっと、この想いを伝えられる時が来た。


 やっと、私から。



「曜ちゃん」


 ――もう一度


「私と」


 ――あなたと


「スクールアイドル、やりませんか!」


 ――輝きたい!!




 One More Sunshine Story
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