未来への選択

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真姫-アイキャッチ36
真姫「はあぁ」

 スクールアイドル部の部室、過去問を前にしながら、思わずため息が漏れる。

pixiv: 未来への選択 by kana

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真姫「はあぁぁ」

 二度目のため息は少し伸びる。

花陽「ま、真姫ちゃん。大丈夫?」

真姫「大丈夫じゃないわよ、全然……」

 心配してくれる花陽には悪いけど、余裕があるはずがない。

 私たちは3年生。外の木々は赤く色づき始めているのだから。

真姫「貴女こそ余裕見せてて大丈夫なの? 狙ってる大学、結構倍率高いわよ」

花陽「う~ん、でも医学部の、それもトップクラスを狙う真姫ちゃんに比べたら、楽ちんだよ」

 えへへと笑う花陽。楽ちんかよちん、可愛い。

真姫「私だって苦労しているわけじゃないけどね。そこで突っ伏している人に比べたら」

花陽「えっと、それは……」

 二人仲良く視線を向ける、部室の隅で萎れている猫ちゃんに。

凛「にゃー、にゃー」

真姫「凛、順調に壊れているわね」

花陽「仕方ないよ、今まで勉強なんてしてこなかったんだもん……」

 英語の参考書とにらめっこしながら、日本語どころか人語を忘れてしまった彼女の姿は、それはもう悲惨だ。

真姫「そういえば花陽、にこちゃんが遊びに来るのは今日だっけ?」

 現実と凛から目を逸らしたくて、私は話題を変える。

花陽「そうだよ。何かバイトがお休みらしくて――

にこ「みんな。このスーパーアイドルにこにーが遊びに来てあげたわよ!」

 噂をすればなんとやら。

真姫「呑気でいいわね、ニートのにこちゃんは……」

にこ「ニート言うな! せめてフリーターとか、夢追い人と言いなさい」

花陽「それは良いんだね……」

 にこちゃんは大学へ進学せず、フリーターをしながらアイドルを目指している。

 一応事務所には所属しているけど、なかなか本職でデビューするのは大変なようだ。

にこ「でも2人とも、元気そうでよかったわ」

真姫「おかげさまでね。まあ1人、やばそうなのはいるけど」

凛「にゃー……」

 私の言葉で、にこちゃんも凛の存在に気づいたようだ。

にこ「あれ、本当に凛なの?」

真姫「まごうことなき、本物の凛よ」

 無理もない、変わり果てた後輩の姿に、動揺を隠せない。

にこ「凛、どうして隅で丸くなっているのよ! まるで2年生までの私みたいじゃない!」

 しかし流石はにこちゃん。怯まずに凛に接触する。

凛「凛はかよちんのパンツを履いている。つまり凛はかよちん? かよちんは凛だった!?」

「「「…………」」」

 黙り込む私たち3人組。

 にこちゃん渾身の自虐ネタにも一切反応を示さず、ようやく人間に戻ったと思ったら話す内容がこれ、見たくなったか、こんな友達の姿。

にこ「花陽、何とかしなさい」

花陽「えぇ、無理だよぉ」

にこ「先輩命令よ!」

花陽「μ’sは先輩禁止じゃ――」

にこ「にこはもうμ'sじゃないから。従いなさい!」

花陽「そ、そんなぁ。ダレカタスケテ~」

凛「かよちん!?」

 花陽の悲鳴に反応する凛。

花陽「凛ちゃん!」

凛「わぁい、かよちんにゃ~」

 正気に戻る凛。

にこ「ふふん、流石わたし、花陽に任せて正解だったわ」

真姫「まあ、そう――

凛「あれ? でも凛はかよちんなのに、何でかよちんはここにいるの? もしかして偽物? どっちが? あれ、あれ」

 駄目だ、全然正気に戻ってない。
 感心しかけた私が馬鹿だった。

花陽「う、うわぁん。凛ちゃんが怖いよぉ~」

 部室から飛び出す花陽。

凛「ま、待ってかよちん」

 追いかけて行く凛。

真姫「ねえ、誰が流石だって?」

にこ「……にこにはよく分からないにこ~」

 あ、誤魔化した。

にこ「困ったわね……。久しぶりにどこか遊びに行こうと思ったのに」

真姫「イミワカンナイ。私たち受験生なんだけど」

にこ「いいじゃない、息抜きも重要よ」

真姫「全否定はしないけど……」

 同級生も先輩も、困った人だらけだ。

にこ「とりあえず2人が帰ってくるまで待ちましょうか」

真姫「……仕方ないわね」

 私は席に戻り、過去問を開き直す。

にこ「ねえ真姫ちゃん、何してるの?」

真姫「勉強に決まってるでしょ」

にこ「せっかく久しぶりに、にこに会えたのに?」

真姫「悪いけど余裕がないのよ、私も」

にこ「へぇ、あのいつも余裕たっぷりの真姫ちゃんがねぇ」ニヤニヤ

真姫「その気持ち悪い顔はなによ」

にこ「なんでもないわよ」

 うわぁ、うざい。

真姫「ほどほどにしないと、話し相手してあげないわよ」

にこ「勉強するんじゃないの?」

真姫「喋りながらでも勉強ぐらいできるわよ」

にこ「へぇ。流石は天才マッキーね」

真姫「ちょっと黙って。頭の中身を捌くわよ」

にこ「彼氏いない歴17年の人、こわぁーい」

真姫「私はもう18歳だから、そのネタ通用しないわよ」

にこ「はっ、じゃあ真姫ちゃんに彼氏――

真姫「できるわけないでしょ!」

にこ「それ自慢げに言うことじゃないわよ~」

真姫「に、にこちゃんだって彼氏いないでしょ」

にこ「にこにーはー、アイドルだからー、恋人はファンのみんなにこっ」

真姫「ニートの癖に」

にこ「だからフリーターよ!」

 久しぶりのだった、こんなくだらなくも楽しいやり取り。

真姫「アイドルの方は順調なの?」

にこ「そりゃもう、順調でにこ! といいたいところだけど……」

真姫「だけど?」

にこ「正直に言うとね、あんまり上手くいっていないのよ」

真姫「また気合いが空回り? 変わらないわね」

にこ「ホントに、否定はできないわね。全く、μ’sのみんなは凄かったわよ、私をちゃんとコントロールしてくれたんだから」

真姫「あら、素直ね」

 にこちゃんにしては珍しい。

にこ「私ももう二十歳になったのよ。いつまでも子供っぽくはいられないわ」

真姫「じゃあその恥ずかしいキャラ止めなさいよ」

にこ「キャラ? 何のことか分からないな~」

真姫「ふざけないで」

にこ「にこはいつだって真剣よ」

真姫「そうでしょうね……」

 だからこの人は性質が悪い。

にこ「それにもう、自分の一部みたいなものだしね。アイドルである限り変わらないわ」

真姫「……困った人ね」

 だけどそれでこそにこちゃん。
 口では憎まれ口を叩くけど、私は内心嬉しかった。

にこ「見てなさいよ、にこはこのキャラでアイドル界の頂点に立ってみせるわ!」

真姫「まあ楽しみにしてるわよ」

にこ「真姫ちゃんも素直になったわね」

真姫「来年から大学生だもの。当然でしょ」

にこ「そっか、成長したのね」

 よしよしと頭を撫でるにこちゃん。

真姫「な、撫でないでよ」

にこ「いいじゃない。先輩なんだし」

 もう、こんな時だけ先輩面して。

真姫「でも何どうして素直に近状なんて話したのよ。見栄っ張りのにこちゃんなのに」

にこ「真姫ちゃんには教えてもいいかなと思ってね。一番仲良しなメンバーだったから」

真姫「っ」

 顔が赤くなる。
 どうしてこの人は、急にカッコよくなれるのか。

にこ「真姫ちゃんの方こそ、どうなのよ」

真姫「わたし?」

にこ「進路とか、決まってるの?」

真姫「進路なら医大に決まってるでしょ」

にこ「でも花陽から聞いたわよ。何か音楽関係の勉強をしてるって話」

真姫「へっ」

 思わず変な声を出してしまう。

真姫「な、なにを言ってるの。そんなわけ――

にこ「苦労してるのは、勉強が大変だからじゃないでしょ。二つの異なる勉強の両立と、進路の悩みが真姫ちゃんを苦しめているのね」

 これは駄目だ、誤魔化せそうにない。

 誰にも喋ってなかったのに完全にバレてる。

にこ「隠しているのも疲れるでしょ。ここで吐いちゃいなさいよ」

真姫「でも」

にこ「誰にも言わないわ。にこを信頼しないさいよ」

真姫「……少し前からね、声を掛けられてるの。作曲家を目指して見ないかって」

にこ「作曲家? ピアニストとかじゃなくて?」

真姫「演奏する側としては、中学のブランクは大きすぎる」

 元々、社会的地位のある親を持ちながらコンクールで1位になれない程度の才能だし。

真姫「それに見込んでくれた人は、私の作曲の才能を買ってくれてるの」

にこ「確かに。真姫ちゃんの作る曲は高校生が作ったとは思えないぐらい出来がいいものね」

真姫「μ’sの作曲家としての実績もあるし、音大でしっかり勉強すれば成功する自信もある」

にこ「自信家のあんたらしいわ」

真姫「私は音楽が大好き。それで生きていけるなら、それ以上の幸せはないわ」

真姫「でもね、私は決めたはずなのよ。パパの後を継ぐこと」

にこ「……」

真姫「μ’sのみんなを巻き込んで、パパを説得して、青春を駆け抜けたらアイドル活動はおしまい。医師としてのパパの事は尊敬しているし、その後継者になれるなんて、凄い幸せだとも思ってる」

にこ「誰でもなれるわけじゃないもんね。お医者さんの、それも院長さんなんて」

真姫「だけどね。受験が迫ってくるほど、考えてしまうの。本当にそれでいいのか、自分が一番やりたいと思うことを諦めて、後悔しないのかと」

にこ「なるほど、真面目な真姫ちゃんらしい悩みね」

真姫「そうかしら」

にこ「私が同じ立場だったら、間違いなく作曲家の道を選ぶわ」

真姫「にこちゃんならそうでしょうね」

 周りの流されずに、我が道を行くのがにこちゃんの強さ。

にこ「でも、例えやりたい事が出来ても後悔することはあるわ」

にこ「私はね、必死でトップアイドルを目指す今の時間が楽しくて仕方ない」

にこ「だけどね、後悔もしているの。大学生になって楽しそうな希や絵里の姿を見たら、せめて大学には進学しておけば良かったなんて考えることもある」

にこ「あとは家で大変そうなママの姿の顔を見る度に、せめて普通に就職するべきだったなんて考えたりもね」

真姫「にこちゃん……」

にこ「きっとどんな道を選んでも後悔は付きまとう。自分の好きな事、選んだ道でも、壁にぶつかるたびに、それは避けて通れない」

にこ「だけど、きっと夢を目指して生まれた後悔と、最初から夢を諦めて生まれた後悔とでは、大きな差があると思うの」

真姫「後悔の、差」

にこ「諦めた後悔は重い。一生逃れられない。私が一度スクールアイドルを諦めた時、それを知ったの」

にこ「あくまで個人的な意見だけどね。一般論は逆でしょうし、堅実な選択肢の方が、快適な人生を送れるとも思うわよ」

 ふふんと、偉そうに胸を張るにこちゃん。

真姫「夢を追った結果、フリーターだもんね」

にこ「ちょっと」

真姫「でもありがとう。おかげですっきりした」

にこ「まったく、一言余計なのよ」

真姫「いいじゃない。素直すぎるのは、私たちらしくないもの」

にこ「そうね」

 顔を見合わせ、笑いあう。

にこ「本当はね、花陽に頼まれてのよ。真姫ちゃんが悩んでるみたいだから、相談にのってあげて欲しいってね」

真姫「そっか、花陽が」

 やさしいあの娘らしい。

にこ「凛の事も含めてだけどね。あの娘、あんな様子だし」

真姫「そういえばあの2人遅いわね。そろそろ帰ってきても――

花陽「た、ただいま」

 タイミングの良く帰ってくる花陽。

凛「にこちゃん。いたの?」

 凛も一緒だ。そして正気に戻ってる。

にこ「凛が部室を飛び出していく前からいたじゃない」

凛「そうだったかにゃ~」

真姫「花陽、お疲れ様」

花陽「もう、真姫ちゃん酷いよ。私一人に凛ちゃんを押し付けて」

真姫「ごめんね、あとでおにぎりでも奢るから――にこちゃんが」

にこ「な、なんで私なのよ!」

真姫「花陽に頼んだのはにこちゃんでしょ。責任とりなさいよ」

にこ「ぐっ」

凛「でも何でにこちゃんが部室に居るの?」

にこ「あんたの現役での合格が絶望的だって聞いたから、慰めてやろうと思ってね」

凛「ひ、酷いよ。まだ分からないもん!」

にこ「へぇ。さっきまで部屋の隅で壊れてた凛ちゃんにしては強気ねぇ」

凛「む、むぅ」

真姫「大丈夫よ凛。ここにいるじゃない、浪人より酷い、パラサイトシングルさんが」

にこ「あ、あんたねぇ――

凛「それもそうだね!」

 よし納得した。

花陽「にこちゃん、流石です」

にこ「もー、見てなさいよ。今に見返してやるんだから」

 前向きなにこちゃん。

 きっとその日はそう遠くない、そんな風に思える。贔屓目かもしれないけど。

にこ「ともあれ、全員揃ったところで遊びに行くわよ!」

凛「にこちゃん、凛たち受験生」

にこ「あんたまで真姫ちゃんと同じこと言ってんじゃないわよ」

凛「でも凛お金ないし」

にこ「今日は私の奢りよ!」

凛「それなら行く!」

にこ「げ、現金な奴ね」

 元気いっぱいにはしゃぎ始める2人。

真姫「凛に元気が戻って良かったわね」

花陽「うん。それに真姫ちゃんも」

真姫「そんなに変わったように見えるかしら?」

花陽「何となくだけどね」

 もうこの子との付き合いも3年目だもんね

 私のことぐらい、お見通しか。

真姫「ねえ花陽。私が音楽の勉強をしていたこと、いつ気づいたの?」

花陽「うーん、少し前から。真姫ちゃん、分かりやすいから」

真姫「それは花陽だから分かったのよ」

花陽「そうかな?」

真姫「きっとそうよ。だって凛は気づいてないでしょ」

花陽「ふふっ。そうだね」

 意味深な言い方。

 もしかして、凛にもバレてた?

凛「2人とも、早く行くにゃ~」

真姫「はいはい」

花陽「ちょ、ちょっと待ってー」

 まったく、この2人には敵わない。

花陽「真姫ちゃん。道は決まった?」

真姫「ええ、おかげさまでね」


 私はもう迷わない。

 決めたから、自分の未来を。
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2018年5月26日
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