ルビィ「これが最後のチャンスだもん」

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ルビィ-アイキャッチ19
あたたかな風が、無防備に晒された顔や脚に吹きつける。冬はとっくに過ぎ去って、もうすぐ春がやってくることを予感させる、そんな風だった。

家の大きな門を抜けて、まっすぐ進む。観光案内所の脇の道を抜けていくと、すぐに海沿いの道に突き当たった。

「...さむっ」

まだ朝も早い。海を遮るものが何もなくなったところに吹く風は、やっぱり冷たかった。

少しかじかんだ手でスマートフォンのホームボタンを押す。『3月13日 水曜日』μ’sの九人がにっこり笑うロック画面に、白く小さい文字でそう表示されていた。

...明日は、三年生———千歌ちゃんたちの卒業式。

だから、きっと今日が最後のチャンス。

今日、ルビィは———千歌ちゃんに、想いを伝える。

pixiv: ルビィ「これが最後のチャンスだもん」 by Abanta

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去年、ルビィたちのやってたスクールアイドル、Aqoursは...ラブライブで優勝することができた。

アキバドームの大観衆の中で、割れんばかりの声援を受けて...そんな中で優勝して、精一杯輝いた、浦の星女学院の名前を歴史に刻んだのは、ルビィの忘れられない思い出、誇りになった。

そんなルビィのことを引っ張ってくれたのが、千歌ちゃんだった。

ルビィのことを熱心に勧誘してくれて、スクールアイドルになってからもドジばかりするルビィを一生懸命に支えてくれた。

ルビィと同じで、スクールアイドルが大好きな千歌ちゃん。μ’sや他のたくさんのスクールアイドルの話に二人で花を咲かせているうちに、仲良くなっていくのは自然なことだった。

だけど、ルビィはそんな千歌ちゃんを見る眼差しがだんだんと変わっていったことに気づかなかった。気づくことができなかった。

東京の大会で誰もAqoursのことを見てくれなかったとき、千歌ちゃんは全力で前を向こうとした。これが結果なんだから受け入れなきゃ、受け止めなきゃってウジウジしてたルビィとは大違いだった。

二度目の地区予選の前、千歌ちゃんはルビィには到底できそうもない危ない技に何度も挑戦して、その度に傷ついていった。あんなの、ルビィならとっくに音を上げていたと思う。でも、千歌ちゃんが諦めることは絶対になくて、本番のステージではカンペキに宙を舞ってみせた。

千歌ちゃんは輝いていた。だからこそ、見上げるルビィからしたらとても眩しい存在だった。

千歌ちゃんとおしゃべりしてるときに感じる不思議な胸のドキドキは一体なんなんだろう、ってずっと考えてたけど、その時のルビィは答えにたどり着けなかった。

それでいて、答えにたどり着いたときは、もう遅かった。

浦女が廃校になって、沼津の街のほうにある別の学校に通い始めるのを機に、曜ちゃんが千歌ちゃんと結ばれた。

千歌ちゃんが取られた、って思った。でも変だよ。千歌ちゃんは元々ルビィのものだったってわけでもないのに。

悶々としているうちに、千歌ちゃんに対して抱いているこの想いは恋だったんだと、少しずつ気づき始めた。

太陽みたいに明るくて、みかんを食べるときはとびきりの笑顔になって、ルビィの好きなキャンディをたくさんプレゼントしてくれて、辛いときには背中を押してくれて、精一杯輝こうとして...そんな千歌ちゃんのことを、ルビィは好きになっていた。

こんな気持ちになるのは初めてだった。だから気づけなかったんだ。

そしてきっと、曜ちゃんも千歌ちゃんに対してルビィと似たような想いを抱えていたんだと思う。

先を越されたことが悔しかった。けど、ルビィにはどうしようもなかった。だって、曜ちゃんは千歌ちゃんの幼馴染で、ルビィなんかよりもずっとずっと長い間千歌ちゃんと一緒に過ごしてる。いつもドジばかりで、スクールアイドルが大好きなだけのルビィより、ずっと千歌ちゃんの隣で輝き続けた曜ちゃんのほうが千歌ちゃんにお似合いだ、そう思った。

気付けば小さなハンカチを涙で濡らすことになっていた。Aqoursは結局、お姉ちゃんたちの卒業で終わりになっちゃったし、新しい沼津の学校は浦女より何倍も多くの生徒がいて、千歌ちゃんとおしゃべりする機会は日を追うごとにどんどん少なくなっていった。

たまに学校で千歌ちゃんとすれ違うと、その隣にはほとんど必ず曜ちゃんがいた。これまでと変わらないはずの光景が、ルビィの心をちくちくと痛めた。

そんなもやもやとした一年を送ってきたけど、それも今日で終わり。

曜ちゃんが東京の体育大学に進学するのを追いかけて、千歌ちゃんも東京の別の大学に行くことになった。

だから、自然な形で千歌ちゃんに想いを伝えられるのは、今日が最後。

想いを伝えたところで、どんな答えが返ってくるのかなんて分かりきってる。でも、そうしないと、ルビィ自身が納得できない。一方的に伝えるだけなんて意地悪かもしれないけど、そんなにウジウジしたことはもう言ってられない。

だって...最後なんだもん。

ルビィももう一歩を踏み出す時なんだ、そう思った。


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「ルビィちゃ〜ん!久しぶりだね〜〜!」

「ぴぎぃっ!ち、ちかちゃん...苦しいよ...」

今日は卒業式の予行練習があるだけで、午前中で学校は終わった。

そしてルビィは、放課後に千歌ちゃんと一緒に遊ぶ約束をしていた。待ち合わせ場所の正門に向かうと、千歌ちゃんは既にそこにいてルビィのことを待っていた。目を合わせた途端、ルビィは千歌ちゃんの温もりを身体で感じることになった。

「わ、ごめん!久しぶりすぎてついついハグしたくなっちゃったのだ!」

「ふふ、なんかそれ、果南ちゃんみたい...」

「えへへー、果南ちゃんのハグ癖が移ったのかな?それにしてもルビィちゃん、ちょっと見ない間にすっごく大人っぽくなったんじゃない?」

「えぇ!?そんなことないよ...ルビィはまだ全然ちっちゃくて...」

「ううん、なんか顔がキリッとした気がするの!はあ、若い子ってのは成長が早いんだねえ...」

「若いって...ルビィと千歌ちゃんひとつしか違わないよ...それを言ったら、千歌ちゃんだってずいぶんキリッとしてるよ」

「そ、そうかな?大人っぽくなってるかな?大学生になるんだし少しは大人っぽくならなきゃなーって思ってるところでさ!」

「うゅ、千歌ちゃんすっごく変わったと思う!それなら東京に行ってもバッチリだよ!」

「えっへへ...東京で華の女子大生ライフ...楽しみだなあ...」

ここしばらくの千歌ちゃんは、受験勉強のことや、いざ合格が決まったとなると東京への引っ越しの準備とかがあったりして、ずいぶん忙しそうだった。だから、今日こうして会うのは久しぶりのこと。と言っても、数週間しか経ってないけれど。

東京での新たな生活に夢見る千歌ちゃんを横目に、ルビィは将来のことを考えて少し憂鬱になった。まだまだ未熟なルビィに未来のことなんて全然考えられなかった。

でも、今日はそんなことを考えてる場合じゃない。

せっかく、大好きな千歌ちゃんと二人でいるんだから。楽しまなくちゃ!

「それでそれで?今日はどこに行くの?」

「あ、えっとね!まずは駅の向こうに新しくできた———」


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「ルビィのコーディネート、どうかな...?」

「...すっごい!すっごい可愛いよこれ!さすがルビィちゃんだよ!」

服屋さん。

千歌ちゃんに似合う服の取り合わせを考えて着てもらうと、大好評だった。

「あー、こんな服で東京を歩きたい!...よし、買っちゃおう!」

「え、買うの!?でも、それ全部合わせると結構な値段になっちゃうよ...大丈夫...?」

「だいじょぶ!お金ならたっぷりあるから!しばらく遊んでなかったからお小遣いが貯まってるんだよね〜」

そう言って、上機嫌で服をレジに持っていく千歌ちゃん。

カウンターには...ルビィには目が回るような金額が表示されてる。

でも、ルビィのコーディネートを気に入ってくれて嬉しかった。この服装でニコニコしながら東京を歩く千歌ちゃんを想像すると、ルビィの憧れる大人の女性像がありありと浮かんでくる。

コーディネーター冥利に尽きるなあ、と思った。


——————


「μ’sの缶バッジガチャガチャ、一回五百円...でもでも、こういうの始めると全部揃えたくなっちゃう...どうしよう...」

「———えいっ!!」

「わわっ!?」

スクールアイドルショップ。

『新登場!』とポップ体で書かれたガチャガチャの宣伝を見ながらも回すのをためらっていたところを、突然千歌ちゃんが駆け寄ってきて、勢いよくお金を入れてガチャガチャを回し始めた。

「さぁて出てきた、誰が出るかな...」

「...ごくり...」

息を呑む。誰が出ても嬉しいのはもちろんだけど、とにかく緊張する。

「...花陽ちゃんだ!」

「わ、す、すごい!」

引き当てたのは花陽ちゃんの缶バッジだった。ルビィのイチオシ。

「花陽ちゃんだあ...すごいなあ...」

「...ちょいとルビィちゃん、手出して」

「へ?こ...こう?」

水をすくうときのように手で小さなお椀を作る。

「はい、ルビィちゃんにプレゼント!」

そこに置かれたのは、ついさっき千歌ちゃんが引き当てた花陽ちゃんの缶バッジだった。

「え、ダメだよ!これは千歌ちゃんが引いたんだから...」

「だって、そんなにキラキラした目で見られたら、あげたくなっちゃうなーって」

「え、ルビィ、そんなに顔に出てた...?」

「うん、すっごく!」

「そ、そっか...恥ずかしい...でも、ありがとう、千歌ちゃん!」

「えへへ、礼には及ばないのだ〜」

思わぬ形で花陽ちゃんの缶バッジを手に入れることになった。ぎゅっとそれを握りしめる。

絶対、大事にしよっと。


——————


「あ、あのイルカのぬいぐるみ、可愛い〜!」

ゲームセンター。

何台ものクレーンゲームが並ぶところで、千歌ちゃんはひとつのぬいぐるみに目をつけた。

「一回百円...よし、やってみる!」

「ち、千歌ちゃん、がんばルビィ!だよ!」

コインを流し込み、真剣な眼差しでクレーンと戦う千歌ちゃん。

思えば、今日だけで千歌ちゃんのいろんな表情が見れている。

そのひとつひとつが、ルビィの想いをどんどん膨らませていっていた。

「ああ!落ちちゃった...もう少しだったのに...」

「る、ルビィもやってみる!」

ルビィはさっきの缶バッジのお返しをしようと、クレーンゲームに挑んだ。

イルカの胴体をぎゅっと掴む。あとはここからバランスが崩れないように、ゆっくり持ち上げて...。

「...ぴぎっ、落ちちゃった...」

「うーん、やっぱりクレーンゲームは難しいねえ...」

「も、もう一回!」

お返しをするというより、ただ千歌ちゃんにいいところを見せたかっただけかもしれない。

イルカは元々置かれていた状態から裏返って、タグが見えるようになった。その輪っかにクレーンを差し込んで...ゆっくり持ち上げる。クレーンは安定したまま進み、取り出し口にたどり着いた。

「...取れた、取れたよ、千歌ちゃん!」

「やったね、ルビィちゃん!」

「はい、それじゃこのイルカはプレゼント」

「え、でもこれはルビィちゃんが...」

「ふふ、さっきの缶バッジのお返しだよ!そのつもりで取ったんだから、断るのは無しだよ?お金はつりあわないけど...」

「そっか、ありがとうルビィちゃん!すっごく嬉しい」

「えへへ、喜んでもらえると、ルビィも嬉しいな」

お返し作戦、大成功。

千歌ちゃんの笑顔が見られるのもあと少しだという事実は、考えなかった。


——————


「ふぁ〜楽しかった!暗くなってきたし、そろそろ帰ろっか?」

冬に比べて日が長くなったと言っても、五時半を回った頃には外は暗くなり始めていた。もうすぐ楽しい時間は終わってしまうことを考えると、少し物足りなく感じた。

それに、一番重要なことがまだ残ってる。

「あ、あの、千歌ちゃん!最後にひとつだけ行きたいところがあるんだけど、いいかな...」

「そうなの?よっしゃあ、行こ行こ?どこなの?」

「えっとね...」

最後のチャンスを作りに、目的地へと向かった。


——————


「浦女か〜...ここに来るのも久しぶりだなあ」

バスに揺られてたどり着いたのは、ルビィたちが去年まで通っていた学校、浦の星女学院だった。

廃校になってからというもの、建物はまったく手入れがされず、廃墟のようだった。

「懐かしいなあ、もうあれから一年になるんだねえ」

「私もここで三年間過ごしたかったなあ...まあ、今更言ってもなんにもならないけど」

ルビィたちにとって、たくさんの思い出が詰まった浦女。閉ざされた校門の前に立ち、校章を見上げる。

「...実はルビィ、学校の中に入れないかな、って思って、来たんだけど...」

「あはは、さすがにこんな様子じゃ、入れそうにないね。電気も通ってないだろうし」

太陽はとっくに沈んでいて、学校とは逆の方向を照らす小さな街灯が頼りなく灯っているだけで、学校を照らすものは何もなかった。

「...あのね、ルビィね」

「ん?」

「ルビィ、千歌ちゃんとスクールアイドルができて本当に楽しかった。辛いこともあったけど、千歌ちゃんがリーダーでいてくれたから、ルビィは頑張れたんだと思う」

「...うん、私も、ルビィちゃんとスクールアイドルができて良かったよ」

「ルビィね、千歌ちゃんに憧れてた。いつも元気いっぱいで、苦しいことがあっても全力でぶつかって、乗り越えようとする千歌ちゃんのこと、すごいなって思ってた。ルビィだったら絶対に途中で投げちゃってたもん」

「...ルビィちゃんにだって、辛いことはあったでしょ?でも、ちゃんと乗り越えて来た———」

「千歌ちゃんがいたからだよ」

錆びついた校章をずっと見上げていた千歌ちゃんが、ふとルビィのほうを向いた。

「だんだんとルビィにとって、千歌ちゃんが特別になってきたの。千歌ちゃんにもっともっとすごいねって言ってもらいたい、千歌ちゃんがいるから明日も頑張ろう、って、思うようになったの」

「...ルビィちゃん」

「だから、その、ルビィは」

深く息を吸って、吐いて。千歌ちゃんのほうに向き直る。

「ルビィ、千歌ちゃんのことが好きなの。ルビィにとって、千歌ちゃんは世界で一番特別な存在なの!」

千歌ちゃんの表情が凍りついたのが分かった。それでも、構わずに話し続けた。

「......千歌ちゃんには、曜ちゃんっていうきっとルビィより特別な存在の子がいることも知ってる。でも、最後だから、せめて伝えておかないと、ルビィが納得できなくて」

「......」

「えへへ、ごめんね、急にこんなこと言って。ルビィの話を聞いてくれてありが———」

「———ありがとうは私の台詞だよっ!!」

たぶん、千歌ちゃんの返事を聞きたくなかったんだと思う。だから、話を終わりにしようとした。

でも、千歌ちゃんはルビィの言葉を遮って、勢いよく抱きしめてきた。

「ありがとう...こんな私のことを、そんなに想ってくれて...本当に...ありがとう...」

「...ルビィの大好きな人のこと、こんな、なんて言わないで。悲しくなっちゃうよ」

「えへへ、そっか...ごめんね」

千歌ちゃんの声には嗚咽が混じっていた。つられてルビィも泣きそうになるのを、ぐっと堪える。

「ふふ...私も、ルビィちゃんのこと好きだよ?」

「...ええっ!?」

「まあ、正しく言うなら、曜ちゃんの次に、だけど」

「うぅ...」

「...ルビィちゃん、私のことが世界で一番特別な存在だ、って言ってくれたよね」

「う、うん」

あらためてルビィの台詞を復唱されて、ちょっと恥ずかしくなる。千歌ちゃんは恥ずかしそうに俯いたルビィを見て少し笑って、こう続けた。

「私ね、誰かの特別になることに憧れてた。私の存在が誰かの原動力になることに。だから、私はAqoursの中でそういう存在になれてたかなって、ずっと考えてた。一年も経って何言ってるのって思うかもしれないけど、やっぱり憧れだったから」

「じゃあ...ルビィは、千歌ちゃんの憧れになれたのかな」

「...そうだね、えへへ、ありがとう、ルビィちゃん。...でも、やっぱり私には曜ちゃ———」

「待って!!」

「...えっ」

「分かってる、分かってるから...その先は言わないで」

「...そっか、ごめん」

「ルビィこそ...わがままばっかりでごめんなさい」

千歌ちゃんには、ルビィよりも大事な人がいる。その事をわかってて大好きだなんて言ったのだから、悪いのはルビィのほうだ。

「でも、本当に嬉しかった...ありがとう、ルビィちゃん」

「...うん」

静かに抱き合う二人のことを、頼りない街灯が照らしていた。千歌ちゃんの少しだけ荒い呼吸の音が聞こえる。校舎のそばに立つ、開花までもう少しの桜の木と、それを控えめに揺らす穏やかな風は、去年と少しも変わっていなかった。

千歌ちゃんの温もりを身体で感じていると———突然、黒い鳥がルビィの目の前をかすめていった。

「ぴぎゃあっ!!」

「え、何!?...って、カラス?」

それは校門の上に止まったかと思うと、すぐに飛び立っていった。

「び...っくりしたあ〜〜...」

「ふふ、そろそろ帰る?真っ暗だよ」

「そ、そうだね」

千歌ちゃんは、腰を抜かせたルビィの手を優しく取って、ゆっくり歩き出した。

「はあ、なんで私が泣いちゃってるんだろ」

「千歌ちゃん、泣き虫さんだね」

「む...そんなことないし。明日の卒業式だって、絶対泣かないし」

「じゃあ、千歌ちゃんのこと、後ろからずっと見てるね!」

「そ、それはいいよ!なんか怖いから!」

「ルビィがしたいからするんだもん!」

ルビィは泣くわけにはいかなかった。

去年のお姉ちゃんたちの卒業式で真っ先に泣いちゃった———泣かないって約束したのに———あの頃とは違うから。

坂を下りきって、海沿いの道に出たあたりで、ルビィは千歌ちゃんの手を強く握り直す。

「...ルビィちゃん?」

「ううん、千歌ちゃんの手、あったかいなあって」

「...そっか」


——————


浦女からルビィの家までは案外あっという間で、千歌ちゃんと話しながら歩いているとすぐに着いてしまった。

「...ルビィちゃん」

「...うん」

帰らないといけないのは分かっていても、千歌ちゃんと繋いだ手を離すのが惜しい。家の門の前で二人、立ち尽くす。

「...離れていても、空は繋がってるよ」

「え?」

「ふふ、果南ちゃんが言ってたんだ。どれだけ離れてても、この空の向こうに必ずいるって」

「空は...つながってる...」

ゆっくりとその言葉を復唱して、空を見上げる。数え切れないほどたくさんの星が瞬いていた。

ルビィは意を決して千歌ちゃんの手を離し、家に向かって走り出した。

「ルビィちゃん!?」

「———ちかちゃんっ!!」

数歩走ったところで勢いよく振り向いて、街灯に照らされて輝く千歌ちゃんの顔をじっと見つめ、叫んだ。

「今日、とっても楽しかった!千歌ちゃんとたくさん遊べて、幸せだった!」

「...私も、ルビィちゃんの想いが聞けて、嬉しかった!」

「...ふふ、あははっ」

ルビィが笑い出すと、つられて千歌ちゃんも笑った。この時間が、永遠に続けばいいのに、と思った。せめてこの瞬間の空気を歌にして、永遠に残しておきたいと思った。

「それじゃあ、千歌ちゃん!!


———また、明日ねっ!」


「うん!また、明日ね!」

千歌ちゃんの返事を聞いて、ルビィは家の方向に向き直って、また勢いよく走り出した。

頰を、何か熱いものが流れていったような気がしたけど、気のせいだと思った。

不思議と、心は晴れやかだった。

そして、明日は絶対に千歌ちゃんを笑顔で送り出す。そう誓った。


おしまい

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2018年5月26日
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