嫉妬

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花丸-アイキャッチ13
 ルビィちゃんはマルの大切な友達で、ルビィちゃんにはマル以上の友達がいない、そんな風に思ってた。

 普段は弱気のルビィちゃんも、マルの為だったら動いてくれる。マルもルビィちゃんの為に苦手なことができる。中学時代、2人きりで濃密な関係を築き上げた、私たちだからこそできること。

 きっとその関係は永遠に変わることはない、そんな風に思っていたのに――。

「理亞ちゃんの為に、か」

pixiv: 嫉妬 by わた

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 あのルビィちゃんが、自分から主張した。私や善子ちゃんに向かって、我儘を言った。自らの意志で、言葉で、マルたちの協力を仰いだ。

 マルはもちろん手伝った、もちろん善子ちゃんも。

 ルビィちゃんの成長は嬉しかったし、Aqoursに入ってから少し関係が薄れていた中、マルの事を頼ってくれたのも凄い嬉しかった。

 立派になったルビィちゃんの姿に涙した。結局みんなで踊ったけど、ライブも成功した。
 すべてが上手くいった、最高の結果。だけど――

「理亞ちゃん。良かったね」

 函館から帰る飛行機内。寂しそうに、だけど嬉しそうに北の大地を見つめるルビィちゃん。

「そうだね。マルたちも頑張った甲斐があったよ」

「寂しいなぁ。せっかく仲良くなれたのに、離れ離れになっちゃうの」

「スクールアイドルを続けるって言ってたし、まあ会えるでしょ」

「うん、そうだよね」

 善子ちゃんに笑顔を向けるルビィちゃん。函館に来る前にはなかった、その力強い雰囲気。
 良いことのはず。だけど、そこにはマルの知らないルビィちゃんがいる気がして。

 いや、何を考えているんだろう。凄くいけない思考が頭をよぎった。

「花丸ちゃん、どうしたの?」

 ルビィちゃんはすぐにマルの異変に気づいてくれた。

「何か元気ないわね」

 善子ちゃんも心配そうにマルを見てくる。

「だ、大丈夫。ほら、寒かったから少し風邪ひいちゃったのかも」

「ま、マルちゃん。ごめんね、気づかなかった。薬とか――」

 マルの嘘に簡単に騙され、本気で心配して、鞄の中を漁りだすルビィちゃん。

「あんた、いくら食べても太らない癖に風邪はひくのね」

「善子ちゃん、酷いずら……」

 それに比べて善子ちゃんはいつもどおりだ。まあ嘘を見抜かれているだけかもしれないけど。

「駄目だよ、善子ちゃん。自分が太ったからって八つ当たりは」

「あ、あんたも言うようになったわね……」

 和気藹々とじゃれ合う2人を他所に、マルは椅子にもたれかかり、目を閉じる。

 一度寝て、おかしな気持ちを消し去りたかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 だけど、マルのそれが頭の中から消えることはなかった。

 沼津に戻ってからも、漠然としたまま、心にくすぶり続ける感情。

 ルビィちゃんから理亞ちゃんの話題が出る度に、それ大きくなっていく。

「理亞ちゃん、久しぶり!」

「ルビィ!」

 そんな中、春休みになって、理亞ちゃんが沼津にやってきた。

「会いたかったよぉ。元気だった?」

「当たり前よ。昨日だって何度も連絡し合ったでしょ」

「でもぉ」

 マルたちも居るのに、そっちのけで自分たちの世界に入ってしまう2人。

「感動の再開ねえ。そんな頻繁に連絡を取り合っていたなんて、ずらマル知ってた?」

「う、うん」

 知っていた。
 いつも、ルビィちゃんは嬉しそうにその事を報告してきたから。

 今日は理亞ちゃんとこんな話をした、あんな写真が送られてきた、色々なことがあったetc.

 その頻度から、相当濃密な関係を気づいていたのだと分かる。

 それに比べて、マルとルビィちゃんのやり取りは、少ない。

 学校ではずっと一緒に居るし、直接話してもいるのだから、当たり前なのかもしれないけど、親友なのに、付き合いも長いのに、そんな気持ちが心をよぎる。

「ちょっとルビィ。理亞を独占してないで、私たちも混ぜなさいよ」

「あ、ごめんね」

 善子ちゃんに連れられ、ようやく2人の世界は消え去る。

「2人とも、久しぶり」

「うん、久しぶり、ずら」

「その方言、変わってないのね」

 理亞ちゃんが笑う。きっとそれは肯定的な感情。
 それなのに、マルにはそれが皮肉的な、馬鹿にされているような笑みにしか見えない。

「くっくっくっ。リトルデーモン10号、達者だったようね」

「善子も変わらないわね」

「ヨハネ!」

 当たり前だけど、善子ちゃんはマルと違って普通。

「じゃあさっそく街を案内するね! どこか行きたいところとかある?」

「浦の星を見てみたいわ。だって、ルビィたちが通ってる学校だもん」

「えへへ、もちろんそのつもりだよ。終わったらルビィの家にお泊りだもんね。お姉ちゃんも待ってるから」

「……うん」

 ルビィちゃんの家にお泊り。そういえば最近していない気がする。

「まずは沼津からでしょ。地元愛を語る者として素晴らしさを教えてあげるわ!」

「ここが? 何にもなさそうじゃない」

「あんたの地元だってそんなもんでしょ! 黙ってついてきなさい、リトルデーモン」

「私、そもそもリトルデーモンなんてものになった覚えがないんだけど」

 善子ちゃんも、当たり前のように2人の輪の中に入っている。
 マルだけ取り残され――いや、それを避けようとしている。

「マルちゃん? どうしたの、行こうよ」

「うん……」

 普通にしなきゃ。
 こんなことじゃ駄目だ。みんなに、ルビィちゃんに心配をかけてしまう。

「花丸、体調良くないの?」

 理亞ちゃんも私の様子がおかしいことに気づいていたのだろう。少し不審げにこちらを見てくる。

「う、ううん。理亞ちゃんと久しぶりに会ったから、ちょっと緊張しちゃってて」

「そっか。私も緊張してたから、仲間ね」

 いつもの硬い表情を崩して笑う理亞ちゃん。

 またこの顔だ。何か裏があるように見えてしまう顔。

 良い子なのに、マルだって嫌いなわけじゃないのに。

「偉そうにしてる割に、ずらマルも内弁慶だからね~」

「善子には言われたくないと思うわよ」

「ヨハネ!」

 みんな楽しそうに笑っている。

 マルもそれに合わせて笑う。だけど、ちゃんと笑えている自信が、あまりなかった。




 考えちゃダメ。そんな風に考えれば考えるほど、悩みは深まる。

「はぁ……」

 ルビィちゃんは今頃、理亞ちゃんと仲良くお泊り。

『マルちゃんも一緒に泊まる?』なんて言われたけど、その場にこれ以上居たくなかったので断ってしまった。

 だけど家に帰っても、頭が余計な思考に埋め尽くされ、まともに本を読むこともできない。仕方がないので、少し気分転換にと、マルは淡島神社の石段を走っていた。

 ルビィちゃんの背中を押した、思い出の場所。
 周りに人がいない中、無心で走ると、頭も心も、少しすっきりしてくる。

「はぁ、はぁ」

 頂上に着く、もう周囲はぼんやりと暗くなり始めているけど、その景色は壮観だ。
 だけど疲れた。境内に座り込み、一息つく。

「あれ、花丸ちゃん」

 そうしていると聞き覚えのある声と共に、人影が1人。

「よ、曜ちゃん」

「珍しいね、こんなところで会うなんて」

「えっと、ちょっと走ろうと思って」

「へぇ、私もだよ。仲間だね~」

 曜ちゃんも私同様走ってきた割に、息1つ切らしていない、流石だ。

「でも今日ってさ、理亞ちゃんがこっちに来る日じゃなかったっけ。そっちの方行かなくていいの?」

 理亞ちゃんの話、思わず肩が震える。

「えっと、さっきもう会ってきたから」

「……ふぅん」

 あからさまに動揺し過ぎたのだろう。曜ちゃんは怪しんでいる。

「喧嘩でもしたの?」

「ち、違うずら。別にそういうわけじゃ」

「じゃあ、ルビィちゃんを理亞ちゃんに盗られちゃって嫉妬してるとか?」

「!」

 鋭い、また肩が震える。

「おぉ、当たりか~」

 そう、マルは理亞ちゃんに嫉妬しているのだ。
 認めたくはない、自分の中にあるどろどろとした黒い感情。
 
 マルが一番の親友のはずなのに、ルビィちゃんはマルの事だけを見ていてほしいのに。いつも理亞ちゃん、理亞ちゃんって言って、マルに見せない強気な面を見せて、マルといる時よりも自然に、楽しそうに笑って。

 自然とルビィちゃんの横にいて、それを周囲も平然と受け入れて。そこマルの場所なのに、マルの居場所のはずなのに。今日会っていた時も、ずっとそんなことを考えていた。

「……曜ちゃん、何で分かったの?」

「う~ん、私も似たような経験、あるからね」

「え」

 あの曜ちゃんが嫉妬?

 いつも元気いっぱいで、爽やかな、嫉妬とは程遠そうな、曜ちゃんが?

「前にさ。梨子ちゃんがピアノの関係で東京へ行って、千歌ちゃんと2人でセンターやった時、あったでしょ」

「うん」

「あの時ね。千歌ちゃんと梨子ちゃん、凄い仲良しだったじゃん」

 思い返してみると、確かに。完全に心が通じ合っている、恋人みたいだった。

「私ね、梨子ちゃんが来るまで、千歌ちゃんの一番の親友は私で、千歌ちゃんの事を一番分かっているのは私だって思ってたの」

 千歌ちゃんと曜ちゃんは幼馴染。ずっと一緒に居て、とても仲良し。そんな風に考えてもおかしくはない。

「でもね、梨子ちゃんが来てから気づいたの。私、千歌ちゃんの事、全然理解できてないことに。梨子ちゃんの方が千歌ちゃんを理解して、千歌ちゃんもそんな梨子ちゃんを信頼して。私は1人取り残されて、千歌ちゃんを盗られちゃった気がして」

 あの時、確かに2人のセンターは噛みあっていなかった。でも上手く解決して、流石は幼馴染の仲良しコンビぐらいにしか考えていなかった。

「だから分かるよ、花丸ちゃんの気持ち。辛いよね」

 曜ちゃんはやさしく私の頭を撫でてくれる。

「気になることがあったらね、ちゃんと話した方が良いよ。今のままだと、ルビィちゃんと一緒に居るのもきついでしょ」

「でも、こんな気持ちを知られるのは恥ずかしいし……」

「大丈夫。私が苦しんでいた時に相談に乗ってくれた人は言ってたよ。『嫉妬するのはその人が大好きな証』だって」

 大好きな証。
 そっか、マルはルビィちゃんが大好き、この気持ちは、その証明。

「それにね、きっとルビィちゃんだって分かってくれるよ。やさしい子だし――」

「だし?」

「きっと、ルビィちゃんも似たような気持ちを抱いたことがあるだろうからね」





「理亞ちゃんは?」

「寝ちゃったよ。長距離移動だったから、疲れてたんだね」

 曜ちゃんと話した後、私は黒澤家へ向かった。ちゃんとルビィちゃんと話したかったから。

 ルビィちゃんも最初はびっくりしていたけど、ちゃんと歓迎してくれた。理亞ちゃんも嬉しそうだった。マルみたいに、嫉妬してるような様子なんて微塵もなくて。

「それで、話ってなにかな?」

「うん、実はね――」

 私は正直に話した。

 理亞ちゃんに対して抱いた嫉妬という感情について。

「――そっかぁ、そんなことを考えていたんだね」

 ルビィちゃんは少し驚いたように、だけど冷静に聞いてくれた。

「軽蔑した?」

「ううん。むしろごめんね。気がつけなくて」

 ペロッと舌を出して謝るルビィちゃん。

「良かった、嫌われたらどうしよかと……」

「嫌うわけないよ、むしろ嬉しかったぐらい。それぐらい大切に想ってくれてたんだって」

 マルの手を取って、朗らかに笑うルビィちゃん。

「ありがとう、ルビィちゃん」

 嬉しかった、こんなマルでも受け入れてくれて。
 やっぱりルビィちゃんはやさしい、マルの大好きな女の子だ。

「それにね、ルビィも同じような気持ちだったことあるから、気持ちも分かるんだぁ」

「ルビィちゃんが?」

 曜ちゃんが言ってたことは本当に? でも、そんな様子は全くなかったのに。

「うん。高校に入ってからね、マルちゃんが善子ちゃんと再会して、凄く仲良くなったでしょ」

「最初はただ、友達ができて嬉しかった。だけどマルちゃんがルビィより善子ちゃんと居る時間が長くなってきて、段々思うようになったの。中学生の時はずっと2人きりだったのに、マルちゃんを盗られちゃったなって」

「ルビィちゃん……」

 そんなこと、意識したこともなかった。少なくとも、自分では気づいていなかった。

 だけど振り返ってみると、久しぶりに再会してから、その嬉しさも相まって、マルは善子ちゃんとよく一緒にいた。善子ちゃんのくだらない言動にツッコんで、ルビィちゃんもそれを一緒に楽しそうに見ている、それぐらいのつもりだった。

 でもルビィちゃんは嫉妬して、悲しんでいたんだ。
 知らない間に、ルビィちゃんを傷つけていたんだ。

「ごめんね、マル、全然知らなくって」

「ううん、ルビィも同じことしたから、一緒だよ」

 少し苦笑いをするルビィちゃん。

「難しいね、相手の気持ちを知ること」

「どんなに仲良しでも、全部は分からない。でもルビィはそれでいいと思うなぁ」

「えへへ、そうずらね」

 本音をぶつけたからこそ分かることもある。恥ずかしかったけど、打ち明けて良かった。

 確認できたから、ちゃんとお互いに、相手の事が大好きだって。

「ねえ、2人で何を話しているの?」

「ピギッ」

「ずらっ!?」

 そんな幸せな空気の中、やってきたのは理亞ちゃん。

「ルビィ、花丸と2人で何をしているの?」

「え、えっと、理亞ちゃんが寝たから、少しお話を」

 ルビィちゃんの言葉で、キッとマルの事をにらむ理亞ちゃん。

「直接会える貴重な機会なんだから、ルビィの事を盗らないで!」

「「……」」

 凄いストレートな感情表現。
 自分で勝手に嫉妬して、悩んでいたマルたちが馬鹿らしく思えてくるぐらい。

 マルとルビィちゃんは、思わず顔を合わせて苦笑い。

「ほらルビィ、行こう」

 グイグイとルビィちゃんを引っ張り、自分が寝ている布団へと引きずり込もうとする理亞ちゃん。

「理亞ちゃん、マルも一緒に寝るずら!」

 負けられないと言わんばかりに、その中に飛び込む。

「な、何なのよ貴女!」

 口ではそんなことを言いながら、マルを受け入れてくれる理亞ちゃん。

 ああ、いいなぁ、この感じ。

「楽しいね、マルちゃん」

「ずら!」
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2018年5月26日
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