梨子「拍手は一人分でいいのさ」

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梨子-アイキャッチ5


梨子「懐かしいなぁ、これ。この頃は落書きみたいな絵しか描けなかったのに」

____


善子「ハァイ、そこの御嬢さん、この私にあなたのその綺麗な顔、描かせてくれないかしら?」

梨子「な、なに?どうしたの善子ちゃん」

善子「ヨハネよ。もーそこは乗っかりなさいよ」

梨子「はいはい。それで、どうして絵なんて描いてるの?」

pixiv: 梨子「拍手は一人分でいいのさ」 by けつげ

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善子「それは…秘密」

梨子「なんで?」

善子「なんででも!魔界条例で告げてはいけないことになってるのよ!」

梨子「なによそれ。もう、座っててあげるから描いたら?」

善子「クックックッ…すぐに終わらせるわ」

梨子「…」

善子「…」

梨子「…」

善子「…」

・・・

梨子「ふわぁ…ねぇまだ?」

善子「もうちょっとだけ…」

梨子「お尻痛くなってきちゃった」

善子「こ、コラ動くなー!」

梨子「そんなこと言われたってぇ」

善子「あーも……はい、できたわ」

梨子「あ、できたんだ。じゃあ見せてくれる?」

善子「え…?」

梨子「どれどれ…なにこれ」

善子「なによ」

梨子「いやまぁ、えっと、努力は認める」

善子「はっきり下手って言いなさいよぉ!」

梨子「そこまでは………言わないけど」

善子「何よその間は!」

梨子「ご、ごめん」

善子「そのうちもうちょっと上手くなるわよ。だから、またモデルして欲しい」

梨子「花丸ちゃんやルビィちゃんじゃだめなの?」

善子「リリーの顔が描きたいからよ…恥ずかしいコト言わせないでよ…」

梨子「そ、それ…私も照れるから…」

____


梨子「あの時は何で善子ちゃんが絵を描いているのかもわからなかったけど、善子ちゃんも一生懸命だったのはわかったし、嬉しいこと言ってくれたからね。なんだかんだモデルやってたんだよね」

____

善子「いつ聴いても上手ね」

梨子「わざわざ拍手までどうも」

善子「よし、私も今終わり」

梨子「うん…ずいぶんうまくなったと思う」

善子「フフ…ヨハネが本気を出せばこんなもんよ」

梨子「でも、私ってこんなに笑ってた?」

善子「さぁ、どうかしらね」

梨子「なにそれ、ふふ」

善子「よかった」

梨子「え?なにが?」

善子「リリー笑ってくれた。いつも私の絵を見てもびみょーって顔してたから」

梨子「そうだったかな…?」

善子「ねぇリリー。大学いっても、ピアノ続ける?」

梨子「え?…うん、続けるかな」

善子「ホントに?」

梨子「うん。浦の星に転校したおかげでピアノともう一度向き合えるようになって、また好きになれた。ピアノは私の大切な思い出になった…だから、辞めないと思うよ」

善子「そっか…じゃあ私も絵を描くの続ける」

梨子「じゃあってどういうこと?」

善子「そういうことよ」

梨子「答えになってないよ」

善子「この絵、あげるわ」

梨子「いいの?」

善子「私からの卒業証書よ」

梨子「ふふ…変なの」

善子「卒業おめでとう」

梨子「ありがと」

____


梨子「卒業証書が似顔絵って…今となったら変な話だよね。…あの時私がピアノを続けないって言ったら、善子ちゃんはどうしていたんだろうな」

____

善子「大学生ってイガイと大変なのね。講義にも出て、バイトもして、サークル行って」

梨子「そうね」

善子「あーでもなんかさ、この忙しい感じってさ、すっごいリア充って感じしてるよね?」

梨子「そうね」

善子「…ねぇなんでさっきからそんなに素っ気ないワケ?」

梨子「そうね」

善子「ちょっと、私の話聞いてるの?」

梨子「聞いてるよ」

善子「塩対応やめてよ」

梨子「ならいい加減自分の家帰ったら?同じ大学に入ったと思ったら、平日はだいたい私のところ居座って絵を描いてるじゃない」

善子「え…?リリーは私といるのイヤ?」

梨子「そういうワケじゃないけど…ずっと私のところに居ても」

善子「…好きなの」

梨子「え?」

善子「えっ…あっ、リリーのっ、似顔絵を描くのが好きなの!」

梨子「へぇ…似顔絵を描くのが好きなのね」

善子「そう、そうよ」

梨子「別に私のことはどうでもいいのね?」

善子「いやっそんなこと」

梨子「じゃあなんなの?」

善子「ちょ、ちょっと、顔近い」

梨子「ちゃんと答えてよ」

善子「なんのことよ」

梨子「ばか…」

善子「な…」

梨子「もう、いい」

善子「…」

梨子「……帰ってよ」

善子「…ごめん」

梨子「いいから」

善子「言うから!はっきり!」

梨子「ぁ…」

善子「すぅ…はぁ…………好き!好きなの!私、梨子のことが好き!…だから、返事」

梨子「うん…ありがとう。私も善子ちゃんのコトが好き…。ごめんね」

善子「え?」

梨子「私も同じ気持ちだったのに。でも、善子ちゃんから気持ちを言ってもらわないと安心できない自分がいて…。私も臆病者だね」

善子「そうだったの……別にもういいわよ。なんかホッとしたし……とりあえず、離れなさいよ。まだ描き終わってないし」

梨子「もうちょっとぎゅっとさせてよ」

善子「…しょーがないわね」

____


梨子「あの時は嬉しかったな。善子ちゃんから大好きって言ってもらえて。もうあれからほとんど一緒に暮らしてたよね、私たち」

____

梨子「え?善子ちゃん本当に画家になるの?」

善子「ええ。このヨハネの悪魔的芸術を世界に知らしめるのよ」

梨子「久々にヨハネ出たね」

善子「梨子はピアノ止めたままでいいの?」

梨子「止めたワケじゃないよ。仕事もあるから前よりはしていないけど、でも時間があれば弾いてるし」

善子「本当にそれでいいの?大勢の人の前で弾けなくて」

梨子「いいの。だって善子ちゃんが聴いてくれてるじゃない」

善子「私だけ聴いても」

梨子「いいの。あなたのそばで弾いて、あなたの拍手をもらえるだけで私は幸せ」

善子「…ありがと」

梨子「ちょっと、クサかったかな?あはは…」

善子「決めた」

梨子「え?」

善子「私、梨子にはピアノを弾くだけでいい。そうなるように、私は売れる絵をいっぱい描く。そうすれば、私も梨子も幸せになれるよね」

梨子「べ、別に私はピアノだけなんて望んで」

善子「何言ってるのよ。好きな事できるんだから、そうなるべきよ」

梨子「善子ちゃん…?」

____


梨子「ちゃんと善子ちゃんと話していたら、善子ちゃんの気持ちをわかっていたら、今頃善子ちゃんは」

____

善子「どうしてあんな奴の絵が評価されて私のはまともに見てもらえないのよ…おかしいでしょ、何でなの。少なくてもあんなのよりはできはいい筈なのに」

梨子「善子ちゃん…あんまり気負わないで。無理したら作品もよくならないよ」

善子「うるさい!描かなきゃ売れないじゃない!休んでるわけにはいかないの!」

梨子「でも、このままじゃ善子ちゃんの体調が」

善子「大丈夫よ、体は全然元気だから。あなたは何も気にせずに他のコトしなさいよ」

梨子「善子ちゃん…」

善子「描かなきゃ…描かなきゃ…」

梨子「…私、ごはん作るね……できたら呼ぶから…」

善子「はぁ…はぁ…描かなきゃ……描かなきゃ……けほっ…」


・・・・・・


・・・





善子「ふふふ……やったわ梨子。またお仕事もらったわ、最近とっても調子がいい。このままいけば梨子も仕事をしなくて済むんじゃないかしら…ははは」

梨子「善子ちゃん…確かに、絵は売れるようになったけど、あなたの体調が心配なの。いつも咳が出てるからさ、休んで病院に行こう?ちょっとくらいゆっくりしても大丈夫だよ」

善子「何言ってるのよ!この勢いでどんどん作品を売り込んでいかなきゃ!まだまだ休んでいられないわ…けほっ、けほっ」

梨子「お願いだから、休もう?ね?ちょっとだけでいいから」

善子「いいじゃない、私はやりたいことやれて、お金ももらえてる。それなら梨子だって幸せにできるんだから」

梨子「私は…こんなの…」

善子「やっぱり綺麗なモノばっかりじゃダメなのよね。みんな人の黒い部分を、心の醜さを、欲望を見たがっていたのよ!今更こんなことに気づくなんて、やっぱり私は堕天使が、悪魔が似合うのね!……アハハハハ…けほっ」

____


梨子「画家になるって言っていた始めの頃は笑顔や桜や綺麗な景色を描くのが大好きだったのに、だんだんと紙には黒が写るようになっていった…。そういう絵が求められているからって言って…だけど私は、それを善子ちゃんが好んで描いてるようには見えなかった」

____

善子「げほっ…げほっ…」

梨子「大丈夫善子ちゃん…?かなり咳込んでるみたいだけど」

善子「これくらいどうってことない」

梨子「だけど…これ以上無理したら善子ちゃんが」

善子「私は好きにしてるの。別にいいでしょ…げほっ、げほっ」

梨子「善子ちゃん!」

善子「ゲホッ!うっ!うげぇぇっ!あ、あ……」

梨子「ちょっと!?善子ちゃん!!」

善子「ゲホ、ゲホッ…離して、大丈夫だから」

梨子「ねぇ病院行こう?お願いだから言うこと聞いてよ!こんな…ここまでして描く必要なんてどこにもないじゃない!」

善子「ダメよ…もっと描かなきゃ、梨子は幸せにできない」

梨子「違う…違う!こんなの続けても私は幸せにならない!」

善子「梨子が……幸せにならない……?」

梨子「そうだよ…だから、もう休もう?これ以上無理する必要なんて」

善子「……描かなきゃ」

梨子「え?」

善子「もっといい絵を描かなきゃ、売れる絵を…傑作を描かなきゃ。梨子が幸せになれない…梨子がピアノを弾けない…傑作を描く、傑作を描くんだ…もっともっと売れなきゃダメだ…」

梨子「やめて、もうやめてよ善子ちゃん!」

____


梨子「いつから善子ちゃんは変わってしまったんだろう。気づいた時には、もう善子ちゃんには私の声は届いていないみたいだった。そして」

____

善子「はぁ…はぁ…」

梨子「おはよう善子ちゃん…また徹夜で絵を…?」

善子「はぁ…はぁ…ゲホッ、ゲホッ」

梨子「ご飯、ここに置いとくね……私、仕事に行くから」

善子「ゲホッ!ゲホッ!…はぁー、はぁー…」

梨子「…行ってきます」

善子「ゲホッ!ゲホッ!」


・・・・・・

・・・



梨子「ただいま……善子ちゃんごめんね、今日はハンバーガー買って…」

善子「……」

梨子「…善子ちゃん、寝てるの?」

善子「……」

梨子「こんなとこで寝てたら体調悪化しちゃうよ。ベッド行こ?」

善子「……」

梨子「よし、こ…ちゃん…?」

善子「……」

梨子「ねぇ…ねぇ…善子ちゃん……善子ちゃん!!そんな…いやだよ…善子ちゃん!善子ちゃん!!」


・・・・・・


・・・




善子「あ…わたし……」

梨子「善子ちゃん…?」

善子「梨子…?」

梨子「よかった…善子ちゃん…本当に…」

善子「わたし…一体…」

梨子「ずっと、無茶してたんだから…こんなになるまで……」

善子「そっか…梨子…ごめん」

梨子「よかった…」


・・・・・・


・・・




善子「梨子」

梨子「なに?」

善子「私、ずっと必死になっていた。売れる絵を描いて、お金をいっぱいもらって、そうしたら梨子は仕事をする必要もなくなってピアノを好きな時にいつまでも弾くことができるんだって」

梨子「善子ちゃん…いいの、そんなの…」

善子「私にとっての幸せは、いつまでも梨子と一緒にいて、私の絵を見て梨子が喜んでくれて、梨子がピアノを弾いて、そして………ねぇ、梨子」

梨子「なに?」

善子「スケッチブックとペンを持ってきて欲しい」

梨子「え…?」

善子「梨子の顔を描きたい」

梨子「あ……うん、わかった」

善子「…よかった」

梨子「え?」

善子「梨子の笑った顔、久しぶりに見れた」

梨子「…うん」

善子「完成したらすぐに見せる。約束よ、待ってて」

梨子「うん、ずっとそばで待ってるから」

善子「私、やっぱりあなたの笑った顔が一番好き」

梨子「何?またそんな照れること言って」

____


梨子「私は善子ちゃんが売れる画家にならなくてもよかった。いつまでも善子ちゃんが描きたい絵を描いて、お互い支え合って生きて、辛いことも嬉しいことも分かち合えたらよかった。たまに私が弾くピアノを善子ちゃんが聴いてくれたらよかった。あなたのそばにいるだけで、あなたの笑顔を見られたらそれでよかった。私がもっと早くに気持ちを、思いをぶつけておけばこんなことにはならなかったかもしれない……結婚できなくても、裕福じゃなくても、私はいいの!だからっ、お願いだからっ、そばにいてよ!!どうして…どうして…」



梨子「もう、何を言っても善子ちゃんには届かない。この絵だって…いつまでも未完成のまま…。こんなの……私…もう耐えられないよ。善子ちゃんのいない時間が!あなたがいなくなった時間が辛いの!苦しいの!毎日、毎日毎日!もう嫌だよ…私、もう…」



「…梨子」


梨子「え…?」

「梨子、ごめんなさい…」

梨子「善子ちゃん…?善子ちゃん!?」

善子「だけど、わすれないで、私はいつまでもあなたのそばにいるから。そこにある私の大切なものがあるから」

梨子「大切なもの…?」

善子「あなたの大好きなもの。そして、私の大好きな、梨子の笑顔」

梨子「な、なに言ってるの…そんなの、笑えるわけ」

善子「言ったでしょ、私はあなたの笑った顔が一番好きだって」

梨子「それは、覚えてるけど」

善子「なら笑いなさいよ。そのためには…ほら、これがいるでしょ?」

梨子「これって…ピアノのこと?」

善子「ええ」

梨子「どうして…?」

善子「自分のコトなのに気づいて無かったの?まぁ、ずっと見ていた私はわかるけど、ピアノ弾いてる時の梨子の顔とっても笑ってて、かわいいんだから」

梨子「あっ…」

善子「だからわすれないで。あなたの大切なもの、私の大切なものを。私はここにいつでもいるから」

梨子「善子ちゃん…」

梨子「ピアノを弾いている時……か。当たり前だよ。善子ちゃんが、大好きな人がそばにいてくれてたんだから、大好きな人の拍手をもらえたんだから、笑わないワケないじゃん…ね、善子ちゃん………え…?」

梨子「こ、この絵…………」

梨子「……うん。約束、だったもんね。……ありがとう、善子ちゃん」

おしまい
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