善子「惚れた女の弱み」

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善子-アイキャッチ33


善子(冬の寒さも大分和らぎ桜のつぼみが膨らむ今日この頃)

善子(私が通う高校では、年に一度の重大イベント――卒業式が行われていた)

善子(そんな日に私は一人、木漏れ日揺れる中庭の木の下で立ちすくんでいた)

善子(皆と別れを惜しまなくて良いのかって? いいのよ、私の卒業式じゃないから)

曜「ごめん、遅れちゃった……」

善子「大丈夫よ、抜け出すのも大変だったんでしょ?」

曜「あはは、まあね」

pixiv: 善子「惚れた女の弱み」 by あめのあいまに。

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善子(苦笑いで頭をかく曜。その制服の胸には花のコサージュがつけられていた)

善子(そう、今日は曜たち三年生が卒業する日)

善子(浦の星が廃校になって転校したその先でも、曜はまたたく間に人気者になった)

善子(きっと今日も寄せ書きやら何やらで色んな人に引き留められたんだろう)

善子(私は卒業式なんて常に即帰宅してたから、式後の様子なんて知らないし完全に妄想だけど)

曜「で、今日は一体どんな用? 在校生はお休みなのに」

善子「曜は、卒業したら東京に行っちゃうのよね?」

曜「う、うん。やっぱり水泳を続けたいなって思って」

曜「小っちゃな頃からずっと続けてたし、幸運にも期待してるって声をかけられちゃったから」

曜「こんな機会、二度とないって思ったら、二つ返事で承諾してたよ」

善子(自分でもびっくりしたくらい、と付け足す)

善子(今までに何度も聞いた話を、確かめるように私は噛み締める)

曜「私ってさ、昔から泳ぐのが好きで、それなり速かったけど、でもそれだけだったんだよね」

曜「もちろんいつでも本気だった。勝負で手を抜いたことはないし、負ければ悔しい。勝てば嬉しかった」

曜「だから練習だっていっぱいしたけど、でも一番には楽しいからやってるって気持ちがあった」

曜「楽しいから練習も続けられる。楽しいからもっと速くなりたいって思う」

曜「だから、語弊があるかもしれないけど、泳ぐとき私はいつも一人だった」

善子(この話は、初めて聞いた。曜も卒業式で昂っているのかもしれない)

善子(目を熱く潤ませて語る曜の姿に、思わず私は見入ってしまった)

曜「でも、今は違う。自分の本気がどこまで通用するのか、自分の限界が皆の中で、一度試してみたくなったんだ」

曜「そう思えたのはAqoursのおかげ。自分だけじゃない、誰かと一緒にやることで、もっと輝けるんだって気づけたから」

曜「それはチームでも、競い合うライバルでも、同じだと思う」

曜「だから行くよ。私は東京に」

善子「そう……ね。それが良いわ」

善子(胸を張って決意表明した曜は、私の目には既にこれ以上ないくらい輝いて見えた)

善子(長く暮らした地元を離れて、皆と離れて、寂しくないわけではないでしょうけど)

善子(でも、その目には迷いや後悔なんてなくて、まっすぐ未来だけを見つめていた)

善子(こんな曜だから私は……)

曜「あっ、長々と話しちゃってごめん!」

善子「いえ。私も曜の話を聞けて良かったわ」

善子(今の話、家族には、そして千歌や梨子には話しているのか分からないけど)

善子(少なくとも誰にも彼にも言ってることではないと思う。私には、そんなちょっとしたトクベツが嬉しかった)

曜「それにしても善子ちゃんの用事ってなんなのかなあ。こんなお手紙で呼び出されて、ラブレターかと思っちゃったよ」

善子「そうよ」

曜「えっ?」

善子(柄にもなく演説をぶって恥ずかしくなったのか、茶化すように話題を逸らす曜)

善子(そんな照れ笑いを浮かべた曜の顔が、私の返事で驚きの色に染まった)

善子「今日ここに呼んだのは他でもない、曜に告白するためよ」

曜「よ、善子ちゃん……?」

善子(戸惑う曜をそのままに、私は告白を続ける)

善子「私が最初にあなたを知ったとき、絶対に相容れないと思ったわ」

善子「当り前よね。片や学院一の人気者で明るくてスポーツ万能、片や学院一の変わり者で友達もいないし堕天使だし」

善子「文字通り、住む世界が違ったもの」

曜「そんなことは」

善子「あるの。少なくとも私の中ではそうだったの」

善子(何か言いたそうな口に人差し指を当てると、曜はチャックでもされたみたいに黙り込む)

善子「でもね、人生って不思議なものよね。そんな別世界の住人と、まさか一緒にスクールアイドルやることになるんだもの」

善子「最初はやっぱり、全然合わないって感じだけどね」

善子「ルビィたちは私のこと褒めてくれるし、自分でも容姿には多少自信があったのよ」

善子「でも曜とは比べ物にならない。ダンスもそうだし、なにより曜は誰よりアイドルだった」

善子「キラキラと輝いて、元気を振りまいて、気づけば見る人皆を虜にしてしまう」

善子「そしてそんな曜を近くで見ていた私も、気づけばあなたのファンになってた」

善子「それからよ。私の中で何かが変わり始めたのは」

善子「練習も今まで以上に頑張るようになった。親しくない人にもできるだけ明るく振る舞おうと努力した。辛いことがあっても、ちょっとだけ頑張ろうって思うようになった」

善子「おかげで転校してからも、昔みたいに一人に戻ることはなかった。もちろんAqoursの皆がいたのも大きいけど」

善子「それに、変わったのは外面だけじゃない。私の曜に向ける思いも、ちょっとずつ変わっていった」

善子「曜に笑われないくらいには頑張ろう。最初はそんな感じだったけど」

善子「次第に、曜に少しでも近づけるように、曜の隣に立てるように、そう思うようになった」

善子「あなたと一緒にいたい、あなたと並んで歩きたい、あなたと――湧き上がるこの気持ちが恋だって気づくのに、時間はかからなかった」

曜「そうだったんだ……」

善子「そうよ。でも臆病だからなかなか言い出せなかった。もし話して断られるだけじゃなく、気まずくなったら、疎遠になったら」

善子「そう考えると、切り出せなかった」

善子「でも、気づけば曜はもう卒業するし、東京の大学に行っちゃうって言うし」

善子「さっきの曜じゃないけど、これが最後の機会だって思ったの。だから……」

善子(ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた気がした。曜も緊張しているんのかしら)

善子「ここまで聞いたら分かると思うけど、はっきり言うわ」

善子(私の口はカラカラだ。心臓は今にも飛び出しそうだし、気を抜けば声は震えて言葉にならない)

善子(ここまで来てもなお怯えて逃げ出そうとする自分の情けなさに呆れつつ、私はなんとかその言葉を振り絞る)

善子「好きです。私と、付き合ってください」

善子(私の言葉を聞いた曜は、少ししてからゆっくりと顔を動かして――)



善子「ごめん、遅れたわ! 待った?」

曜「いや、大丈夫。今来たところだよー」

善子(久々に会った曜はどこか大人びて落ち着いていた)

善子(マイペースな口調も雰囲気も昔のままなのに、一体何が違うのかしら)

善子(やっぱり過ごしてきた環境がそうさせるのかもね。なんたって曜は――)

曜「善子ちゃんこそ、抜け出してくるの大変だったでしょ? なんたってあの超大手出版社・丸山書房広報部のエースだもんね」

善子「まあね? 今日も皆が私を掴んで離さなかったわ。デートに行く暇があるなら仕事を手伝えだの、お前に男ができたら男性社員の士気が半減するから困るだの」

善子「デートじゃないわよ! というかセクハラよ!」

曜「あはは……災難だったね」

善子「ま、そんなこと言う奴らは勿論足蹴にして帰ったけどね。でも少し遅くなっちゃったわ」

曜「まあまあ、それは気にしてないから。それにしても流石善子ちゃんだなあ」

善子「なによ、嫌味にしか聞こえないわ。それを言ったら曜なんて日夜メディアを賑やかすスーパースター様じゃない」

善子「こないだの世界大会だってぶっちぎりで優勝して、沼津が生んだ奇跡とか静岡の至宝とか騒がれてたでしょ?」

曜「恥ずかしいからやめてほしいんだけどねー、ってそれより善子ちゃん見てくれたんだ!?」

善子「たまたまよ、たまたま! 仕事終わりにテレビつけたらやってたからご飯食べるついでに見ただけ」

曜「そっかあ、それでも嬉しいけどねー。というか、日本時間だとけっこう遅くなかった?」

善子「それくらい仕事が忙しいのよ」

曜「うへえ、大変だ。それなのに今日は大丈夫だったの?」

善子「良いのよ。適度に息抜きしないと仕事の効率も落ちるし、エースの私の効率が落ちたら部署どころか会社全体の不利益だもの」

曜「おおっ、言うことが違うね。凄い! 大統領! 日本一!」

善子「だから、日本一どころか本物の世界一に言われても嫌味にしか聞こえないっての」

善子「それより、ほら。さっさとお店行きましょう」

曜「そうだね! どんなところか楽しみだなー」

善子「お店のURL送ったでしょ。見てないの?」

曜「うん!」

善子「うん、って、あなた。そんな元気に言うことじゃないでしょ」

曜「だってせっかく善子ちゃんがエスコートしてくれるんだから! 事前に調べちゃうより、何も知らずに行った方が、よりドキドキして楽しめるかなって」

善子(屈託のない笑みを浮かべてそう宣う曜に、私の胸はチクリと痛んだ)

善子「馬鹿なこと言ってないで。ほら、こっちよ」

曜「わわっ、待ってよー」

善子(私は誤魔化すようにつれない態度で、予約していた店へと向かった)





善子「それじゃ、乾杯!」

曜「かんぱーい!」

善子(カチン、と小気味の良い音を合図に、私たちは手に持ったグラスを傾けた)

善子「っぷはぁ! やっぱり仕事の後の一杯は最高ねー!」

曜「ちょっと、善子ちゃんオジサンみたいだよ」

善子「誰がオジサンよ! こんな美少女捕まえて失礼にもほどがあるわ」

曜「美……少女?」

善子「なにっ? 文句あるの!? 私はまだまだ現役よ!」

曜「善子ちゃん、開始十秒で絡み酒はきついよ。もう若くないんだから落ち着いて飲もう?」

善子「なによぉ、私はまだ若いのよおおお。行き遅れだの仕事が恋人だの余計なお世話よ!」

曜「まあまあ」

善子「ふん、曜は余裕そうね」

曜「そ、そんなことないって」

善子「いいのよ、隠さなくったって。幼馴染の素敵な奥さんが待っててくれるんだものね。心も広くなるってもんだわ」

曜「善子ちゃん……」

善子(そう、曜は千歌と結婚していた。日本の法律では女性同士で結婚はできないけど)

善子(慎ましやかだけど幸せに満ち溢れた結婚式を挙げて)

善子(都内の同性婚条例が制定された区に引っ越して、パートナー登録もしている)

善子(世間ではまだ同性同士の交際に多少の偏見は残ってる。でも二人はそれを隠し立てもせず、堂々と胸を張っている)

善子(もし、曜が女性になんて興味がなくて、なんでもない男と結婚していたら、きっと私も少しは楽になれてた)

善子(でも、そうじゃなかった。だから、もしも……なんて考えていつまでも吹っ切れずにいる。私にも可能性があったんじゃって)

善子「あーあ。私も密かに曜のこと狙ってたんだけどなあ」

曜「し、知ってるよ。告白されたし、密かじゃないと思うけど」

善子「断られたけどね」

曜「よ、善子ちゃん。勘弁してよぉ」

善子(わかってるけどね。曜は千歌だから付き合ったってこと。千歌だから好きだったってこと)

善子(でも、悔しいじゃない。だからこうして会った時は曜を困らせて、溜まったモヤモヤを発散させることにしてるの)

善子(私みたいな美人をフったんですもの。それくらい安いもんでしょ)

善子「おかげで私は傷心から立ち直れず、いまだに独り身のまま……」

曜「わかった、わかった! ここは私が奢るから。好きなだけ飲んでくれて良いから」

善子「ほんと!? 流石曜ね。だから好き」

曜「私は善子ちゃんが時々恐ろしいよ……」

善子(腕に抱きついて愛想をふりまく私に、曜がぼそっとそう呟いた)



善子「っはぁ。流石に飲みすぎたわね」

曜「うん、そうだろうね」

善子(普段はあまり飲まないという曜は、私に付き合わされてげっそりとしていた)

善子「さて、それじゃそろそろ本題に入りますか」

曜「本題?」

善子「そうよ! あなたまさか私が何も考えずに遊びに来たとでも思ってたの?」

曜「違うの?」

善子「違うわよ。私は天下の丸山書房広報部のエースよ? 寝てる間にアイディアをまとめて、起きてる間に奔走するの」

曜「でも息抜きが必要だって……」

善子「適度にね。それはここまでで十分したわ。だからここからは仕事の時間」

曜「えー」

善子「まあまあ。そんな難しい話じゃないから」

善子「昨今の女子スポーツの隆盛は目覚ましいものがあるわ。そこでうちも専門誌を新たに作ることになったの」

曜「おおっ、おめでとう!」

善子「でも、はっきり言って他社と比べてうちは出遅れたわ」

善子「もちろん中身で勝負して負けない自信はあるけど、まずは手に取ってもらわなきゃ話にならないでしょ?」

曜「確かに、そうかもね」

善子「そこで大々的に宣伝を打つことにしたの。大手の強みを最大限に活かして、お金も時間も人手も使って派手にやるわ」

善子「世界で活躍してる女性アスリートにも協力してもらって、世間の注目を一気に集める! シンプルだけど、それ故に堅いわ」

曜「で?」

善子「で、じゃないわよ。そこで今、日本で一番世間を賑わせているのは誰がどう見ても曜、あなたよ」

善子「我が社としてはあなたの協力が是非ともほしいし、それなくして成功はないと思ってるわ」

曜「ふぅん。でも、私がそういうの全部断ってるの、知ってるよね?」

善子「ええ」

曜「私は自分を飾るつもりも隠すつもりもない。だから勝手に騒がれる分には構わないよ。でも進んで見世物になる気はない」

善子(真剣な表情はすぐに崩して、それに一つ受けたらアレもコレもってキリがないしね、と付け加える曜)

善子「あなたの言い分は知ってる。だからこっちにもいくつか案があるわ」

善子「もし受けてくれたら、うちとは専属契約を結ぶことになる。だから他の依頼を断る良い口実になるわ」

善子「外には出さないけど、契約上専属を曜側から破棄できるようにするから、そっちにデメリットはないし」

曜「ふうん。でもそれくらいのことなら他所からだって似たようなことを」

善子「あとね」

善子(こちらの提案をかわそうとする曜の言葉を遮って私は続ける)

善子「この企画を、曜ありきの宣伝を考えたのは私よ。絶対大丈夫って上にも啖呵切っちゃったから、断られたらさぞ立場が悪くなるでしょね」

曜「なにそれ、泣き落とし?」

善子「ええ、そうよ」

曜「天下の丸山書房ともあろうものが、随分こすい真似をするもんだ」

善子「だって必死だもの。あのね、曜。言うけど私はまだあなたを諦められてないの」

善子「付き合えなくても良い。離れ離れになっても良い」

善子「でも、また昔みたいに、Aqoursでそうだった時みたいに、もう一度あなたと一緒に何かしたいの」

善子「これは私にとってチャンスよ。今、あの頃のように輝いているあなたと、仕事をする数少ないチャンス」

善子「いい? 私が偉くなるのなんて待ってられないの。だって私は今のあなたと仕事がしたい。そうしなきゃ次へ進めない」

善子「だからここまで来るのに無茶もしたわ。大見得も切った。あなたに無様な姿を見せてでも必死で食らいつくわ」

曜「わがままだね」

善子「わがままよ。でも、私をこんなにわがままにしたのは、他でもない曜だからね」

曜「はぁ……」

善子(やれやれとでも言うように、曜は一つ溜め息をついた)

曜「善子ちゃんには敵わないな」

善子(それは、事実上のオーケーサインだった)

善子「惚れられた女の弱みってやつよ」

曜「普通逆だと思うけど」

善子「普通、なんて物差しじゃ私は測れないわ。なんたって私は」

曜「堕天使ヨハネ、だもんね」

善子「違うわよ! もうそれは卒業したの。広報部のエースってこと!」

曜「えー、可愛くて好きだったのになあ。善子ちゃんのヨハネ」

善子「もうそれ善子なのかヨハネなのか分からないじゃない」

曜「どっちも同じようなもんだし」

善子「ちーがーうーのー!」

善子(一仕事終えた私は飲んで、騒いでまた飲んで、朝まで遊び明かした)

善子「あ、そうだ。CM撮影終わったら取材と、機を見て本の出版もあるから覚悟しててよ?」

曜「ええっ!? ハードすぎる……。というか段取り良くない?」

善子「そりゃもう、今日この場で決まること前提で動き出してたからね」

曜「やっぱり善子ちゃんが怖いよ、私は……」

善子(それは、ここ数年で一番楽しい時間だった)

善子(ああ、こんな時が、いつまでも続けば良いのに)












善子「はっ……」

善子「寝てたのか」

善子(どうやら慣れない電車での長旅で、いつの間にやら眠ってしまっていたらしい)

善子(なんだかとっても長い夢を見ていた気もするけど、どんな内容だったか思い出せないわ)

善子(重い瞼を開いた先に見えるのは、大きく口を開けた電車のドアと、そこから出入りする大勢の人たち)

善子(やっぱり都会って凄いのね。なんでもない日の昼間なのに、どこもかしこも人だらけだし)

善子(電車もたくさん走ってるし……)

善子「って、ここどこ!?」

善子(慌てて飛び上がると、窓から見えた案内板にはまさに目的地の名前が書かれていた)

善子「すみません、降ります! 降りま~す!」

善子(私は人混みをかきわけて、扉が閉まるギリギリのタイミングで駅のホームへと転がり出た)

善子「着いて早々疲れた……」

善子(電車のシートで寝たせいか、いつもよりだるく感じる体を引きずって、私はなんとか改札を出る)

善子(すると、そこにはとても馴染みのある顔を見つけた)

善子「曜!」

曜「やっほ、善子ちゃん」

善子「どうしたの、こんなところで。今日は用事があるって」

曜「うん……善子ちゃんを迎えるって大事な用事がね! びっくりしたでしょ?」

善子「も、もう。バカ」

善子(恥ずかしげもなくそんなことを言う曜に、こっちの顔が熱くなる)

善子(でも、それよりなにより、曜に会えたってことが嬉しかった)

善子「会いたかった……」

曜「うん、私も」

善子(ここが道端だということも忘れて、私たちは見つめあう)

善子(私たちはあの卒業式の日、私が曜に告白した日、お付き合いをすることになった)

善子(あの時のことは今でもよく覚えている)

善子(曜が私の問いに頷いて返した時、夢なんじゃないかと疑って自分の頬っぺたをつねった。痛かった)

善子(翌日、やっぱり昨日のことは夢だったんじゃないかって曜に連絡した。やっぱり夢じゃなかった)

善子(安心したのも束の間。今度はすぐ別れの時がやってきた。曜は東京に行ってしまったから)

善子(曜が、好きな人が側にいない。すぐに会えない。それはとても寂しく辛いことだった)

善子(何度も泣きそうになった。泣いた夜もあった。でも、それじゃいつまでも曜と並べない。そう思った)

善子(だから私は勉強を頑張って、曜が通う東京の大学に合格したの)

善子(そしてついに今日から、私たちは一緒に暮らす。今こうやって目の前にいる曜と、私で)

善子(ああ、夢みたい。でも夢じゃないのよね?)

曜「そうだ、善子ちゃん疲れてるでしょ」

善子「え? ええ、まあ」

善子(曜の突然の問いかけに、しどろもどろに答える)

善子(危ない危ない。意識が天界に飛びかけてたわ)

曜「それじゃゆっくりできるように、案内するよ。私たちの愛の巣へ!」

善子「な!」

善子(道行く人が何人か、一瞬こちらに目を向けた気がした)

善子(大声でなんということを言うんだろうか、この馬鹿な先輩は)

善子(どうしてこんな人、好きになっちゃったのかしらね)

曜「さ、行こう?」

善子「あっ……」

善子(曜が自然に私の手を握る)

善子(それだけで私は胸がいっぱいになってしまう)

善子(我ながら容易いもんだと思うけど、惚れた女の弱みってやつかしら)

善子(一生敵いそうにないわね、この人には)

曜「それじゃあ、全速前進ヨーソロー!」

善子「ちょ、急に走らないでってば! こっちは受験明けで体力落ちてんのよ!」

曜「それじゃリハビリも兼ねて家まで走ろう!」

善子「意味わかんないわよ、この脳筋!」

善子(いつかみたいに真っ青な空の下、私たちは駆け出した)

善子(家に向かって、そして夢みたいな私たちの未来に向かって。なんてね?)

おしまい
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