さよならの日もわがままに桜を望もう

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千歌-アイキャッチ5
 春になってだいぶ日は伸びてるかなって思ってたけど、案外そうでもなかったみたい。まだ六時だっていうのにすっかり真っ暗。内浦は街灯もほとんど無いから、ほんとのほんとに真っ暗──なのに、目の前を歩くひとの背中だけは目立って見える。

 並んでいるだけでなんだか辛くて、顔を見なくても済む後ろに付いて歩き続ける。でも、私の歩みも、私の前を進むダイヤちゃんの歩みも、一切示し合わせてないのにすごくゆっくりで。もし、私がこのまま止まったら、ダイヤちゃんも止まってくれるかな──なんて冗談にしたくない冗談が頭をよぎる。

 冗談、じゃないよ。こんな……こんな歯切れの悪い別れがあってたまるか。

pixiv: さよならの日もわがままに桜を望もう by アルフォート

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「……結局、お花見出来なかった」

「あら、急に喋り出したかと思ったら。何を呆けたことを言ってるのかしら? 」

 私のぼやきなんて意に介さず、歩き続ける。速度は変わらず、ゆっくりのまま。いつもと変わらず、私を手玉に取る様な話し方のまま。『呆けた』なんて、私の内心も知らずに。

「何って……桜、見られなかったし」

「桜……そうね、残念だったわ。せっかくのお花見だったのに」

「それだけ? あんなに楽しみにしてたじゃん……! 」

 約束だった。最後のデートは、内浦の早咲き桜を見ながら一緒に作ったお弁当を食べようって。
 約束、だった。ダイヤちゃんとは、今日でお別れだって。距離的な意味でも……恋人的な意味でも。

 これからは、友達としても──恋人としても、違う道を進んでいくんだって。そういう約束だった。それなのに……桜は私達の別れを惜しんでくれなかったみたいで。枯れ枯れなあの木々が、私とダイヤちゃんとの縁の終わりを示してる気がして、嫌になる。

「はぁ、桜を見るのがお花見とは限らないでしょ。それに──アザミもタンポポも、みんな花よ」

「そんなの屁理屈だよ! 桜じゃなくちゃ……ダメだったのに……」

 綺麗な桜を一緒に見て、それで綺麗さっぱりお別れだって思ってたのに!!

「……子供っぽい」

「な──それ、本気で言ってるの……? 」

「ええ。本気。本気で呆れてるの……自分自身に」

「……ダイヤちゃん……? 」

 止まりそうで止まらなかったダイヤちゃんの足がついに止まった。振り返って、こっちを見てくる。真っ暗闇の中でもそれが分かるくらい、まっすぐに。

「桜が見られなかった。悔しいに決まってる。後腐れなく故郷を去りたい。そんなの、出来るはずがない。でも──割り切るしかない。だって仕方のないこと、そうでしょう? 」

「……なら、なんで「貴方のせいよ。全部」

「私の、せい」

「本当に……本当に子供っぽくて、わがままで、理にかなわない。けれど、諦められない。諦めさせない、貴方のその……その、千歌ウイルスがわたくしにも伝染ってしまったから」

「いや、人を病原菌みたいに言わないで欲しいんだけど……ぷっ、真面目な話してたと思ったら、なんでそこでウイルスなの? 」

「い、良い喩えが思いつかなかったのよ! はぁ……こほん、とにかく──貴方のせいで、また来年もお花見をしに戻って来ることになりそうね♪ 」

「……」

 面白くて。嬉しくて。でも──やっぱり、寂しくて、辛くて。

「ちょっと、もしかして泣きそうなの? ふふっ、泣かないとかなんとか、言っていた癖に」

「……約束だよ。絶対、来年は」

「それは、来年のこの時期にならないと分からないわ」

「ロマンの欠片もないね急に!?」

「ほら、最近やれ温暖化だやれ異常気象だで、今まで通りにとは行かないことも増えてきたじゃない? だから、まぁ、流石に無いとは思うけれど、もしかすると来年も、なんて……」

「ねぇ、ダイヤちゃん」

「……」

「もし桜が見られたらさ、本当にお別れなんだよね? 」

「……千歌」

「じゃあさ、もし来年も再来年も桜が見られなかったら、お別れしなくても、いいの? 」

「……それは」

「ダイヤちゃんこそ、屁理屈だよ。諦めないって言ってる癖に、結局諦めるんだから。大体、ダイヤちゃんが嫌だって言えば、お見合いなんて断っちゃえば──あ……ご、ごめん、なさい。私、つい言い過ぎて……」

「約束は、約束。多少の誤差は許されても、それが無いことには出来ない、から」

「そう……だよね。うん、そりゃそうだ。だから別れようって話になってたのに。ほんとバカだなぁ、私」

「千歌、本当にごめん「謝らなくちゃいけないのは私の方だよ」

 分かってた。いつまでも続く関係じゃないってこと。
 分かってる。そんな関係は終わらせなくっちゃいけないこと。


 だけど……好きだったから。大好きだから。


「……ごめんね。私のわがままで、沢山迷惑かけちゃって」

 桜が見たい。最後にデートしたい。料理を教えて欲しい。二人きりの時だけでいいから呼び捨てで呼んで欲しい。手を繋ぎたい。週末はどっちかの家でお泊り会がしたい。無理は承知で、でも付き合いたい。全部、私のわがまま……

「いいの。これは、わたくしのわがままでもあるから」

「ダイヤちゃんが、わがまま……? 」

「アザミやタンポポで、ただ別れを彩るんじゃない。本当に潔く、貴方と別れる為に桜を望みたい。子供っぽい、どうしようもないわがまま……だけど、叶えたい。貴方に、叶えてもらいたいの」

 一歩、二歩、顔の赤らみが分かるくらいまで近づいてきたダイヤちゃんは──今までで一番、無邪気な笑顔で。でも、いっぱい涙を目に溜めながら、最初で最後のわがままを私に伝えてくれた。

「千歌、また今度──桜を見に行きましょう? 」

「……もう、仕方ないな♪ 」



Fin.
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