善子「ヨハネがダイヤの妹になる話」

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善子-アイキャッチ7
ルビィはずるい。

「ルビィ、お疲れ様。はい、飲み物」

「うゆ? ありがとうお姉ちゃん!」

なんの努力もしなくても、妹と言うだけでダイヤと一緒にいられて、愛されてて。

私なんて、好かれようと努力して、いっぱいいっぱい話しかけても――

「そういえば善子さん。聞きましたわよ、また遅刻ギリギリで登校して来たそうですね――」

なんて説教ばっかり。

私のことを思って言ってくれてるのはわかるけど、私だってルビィみたいに一緒にいたいし愛されたい。

だって、私津島善子は――

黒澤ダイヤのことが好きだから。

pixiv: 善子「ヨハネがダイヤの妹になる話」 by しゆう

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――

「ここは――?」

見慣れない天井に少し戸惑いつつ、起き上がる。

そして、部屋を見回して、もしかしたらという疑いは確信に変わった。

そこは間違いなく、何度か遊びに行ったルビィの部屋だったから。

――黒澤ルビィと入れ替わった。

部屋にあった姿見を見て――鏡に映った赤い髪の小さな少女の姿を見て更なる確信へと変わっていく。

入れ替わりという超常現象に全く戸惑いはない。

それは私がオカルト好きだからだとかそういうことではなくて、単純に私が起こしたことだから。

昨晩、私は魔術書にあった入れ替わりの魔術を試した。

ルビィの髪の毛を手に入れて、ルビィと入れ替わるように。

だって、ルビィと入れ替われればダイヤと一緒にいられるから。

津島善子でいるよりもずっと近くにいられるから。

結果、魔術は成功して、ヨハネは黒澤ルビィとしてここにいる。

魔術が成功したという嬉しさと、ルビィになれたという二重の嬉しさで思わず大きくガッツポーズをとってしまう。

「何をしていますの?」

突然声が聞こえてきて、その声がした方を見てみる。

遠慮がちに開かれた扉から戸惑いを隠せない様子のダイヤがおずおずとそう尋ねていた。

そういえばさっきからノックの音が聞こえていたような気がする。

現状の確認を最優先してしまったけど。

ノックしても返事がないから遠慮しながらドアを開けたんだろう。

「だ、ダイヤ!?」

「ダイヤ?」

慌てて思わず素が出てしまう。

いけない、オカルトとか全然信じてないダイヤだけど、万が一入れ替わりを疑われたりしたら面倒だもの。

ルビィを演じなきゃいけない。

「な、なーんて、善子ちゃんの真似。似てた?」

「……。えぇ、とっても」

そう言って、優しそうに笑いながらダイヤは近付いてくる。

そして、私のことを――ルビィのことをぎゅっと抱きしめる。

やっぱりルビィは愛されてる。

そう思うと同時にどうして急に抱きしめられたのか分からない戸惑いも出てくる。

「ごめんなさい、いつも気を遣わせてしまって」

全然話が見えない。

今の話の流れからするとルビィが私の真似をすることがダイヤに気を遣っていることになる。

けれど、そこに全くつながりなんて見えない。

「いつも、善子さんに告白をする練習に付き合ってもらっていたから、日頃から善子さんの真似を練習してくれていましたのね」

「……は?」

今ダイヤはなんて言った?

告白する練習? 誰に告白するって?

「告白って、ダイヤ――じゃなかった、お姉ちゃんは善子ちゃんのこと好きなの?」

「? いつも相談していたでしょう?」

さも当然のようにそう答えるダイヤ。

ダイヤがヨハネのこと……?

嬉しいような、聞いてよかったんだかわからないような気持ちで頭が真っ白になる。

それってつまりダイヤとヨハネは両想いだったってことだから。

「それでね、実は今日善子さんに告白しようと思うの」

「え!?」

なんてタイミングが悪いんだろう。

私は今ルビィと入れ替わってここにいるのに。

ダイヤはそんな様子微塵も見せてなかったのに。

「ルビィに付き合ってもらって、練習はばっちりですから」

「え、えっと……。が、がんばルビィだよ、お姉ちゃん!」

「えぇ、がんばルビィですわ! ありがとう、ルビィ」

ルビィの頭をなでてからダイヤはルビィの部屋を後にする。

どうしたらいいのか一瞬悩んだけど、やることなんて決まってる。

これは一刻も早くルビィともう一回入れ替わらなければならない。

確か元に戻る方法は――

「手を握ってお互いに元に戻りたいと願うこと」

記憶を手繰って思い出す。

魔術書に書いてあった元に戻る方法。

思い出して安堵する。

そんなの簡単じゃない。

だって入れ替えた張本人である私は一刻も早く戻りたいって願ってるんだもん。

後はルビィに事情を説明して戻ればいいだけ。

元に戻れば、ヨハネはダイヤに告白されて、晴れて恋人になれる!

そうと決まった私はスマホを取り出して、津島善子――つまりルビィに電話をかける。

「ぴぎぃ!? ど、どど、どうしてルビィから電話がかかってくるの!?」

当たり前だけど、電話に出たルビィはやっぱり混乱していた。

そりゃそうよね、起きたら違う部屋で、違う人になっていて、かと思ったら自分から着信がある。

何も知らなければ混乱するに決まってる。

自分からの電話となれば、何かの手がかりがあるかもしれないから出ないわけにはいかないだろうし。

「落ち着いて、私はヨハネよ。今私たちは入れ替わってるの」

「入れ替わり……? 君〇名は。みたいな?」

「そう、君〇名は。みたいな」

最近そういう映画が流行ったおかげで飲み込みが早いのは助かった。

転〇生なんて言っても絶対ルビィはわからないだろうし。

「なんで急に入れ替わっちゃったんだろう……」

ルビィは言葉に困惑を浮かべながら、そう呟く。

そりゃそうだ、普通何もなしに入れ替わったりしない。

有名なのはぶつかったり、一緒に転げ落ちたり。

そんな覚えは全くないのに何故身体が入れ替わっているのだろうと、そう考えるのは当然だろう。

「……。実はね、ヨハネがやったの」

「善子ちゃんが!? どうやって!?」

「魔術書に載ってた魔術でね。……。私ルビィになりたかったの」

とぼけて「手を握って戻りたいと願えば戻るってどこかで見た」って言うのもありかと思ったけど少し悩んでから、全てを打ち明けることに決めた。

ダイヤの告白の練習に付き合っていたルビィならきっと許してくれる。

きっと私たちの関係を応援してくれるはず。

多少怒られることはあるかもだけど、それは仕方ない。

「ルビィに? なんで?」

「私ね、ダイヤが好きだったの。それで、ルビィになれば一緒にいられるって思って」

「……ふぅん」

「……ダイヤね、今日ヨハネに告白するんだって」

「…………」

私の話にルビィは沈黙を続ける。

まるで何かを考えているような雰囲気に、私は少し不安を覚える。

いや、きっと元に戻る方法を考えてくれているんだろう、何も不安になることなんてない。

「それでね、元に戻る方法なんだけど――」

私がそこまで言ったところで通話が途切れる。

大事な所で切れる通話に少しイライラしながら、もう一度ルビィに電話をかける。

ワンコールで切れる。

もう一度かける。

ワンコールもしないうちに切れる。

「は……?」

もしかしてルビィが意図的に切ってる?

いや、そんなわけない。

きっと電波が悪いんだろう、ヨハネったらやっぱり不幸ね。

――なんて思っているとメッセージが届く。

ヨハネ、つまりルビィからだった。

『ごめんね』

最初にきたのはたった4文字の謝罪だった。

しかし、その短い突然の謝罪に言い様のない不安がヨハネを襲う。

『ルビィもお姉ちゃんのこと、好きなの』

『だから善子ちゃんになりたかった』

『善子ちゃんになれたらお姉ちゃんに好きになってもらえるのに』

『お姉ちゃんとお付き合いできるのにって』

『でも』

ルビィが次々と送ってくるメッセージに、背筋が凍る。

最悪の展開を想像してしまう。

『善子ちゃんもルビィになりたかったんだから、いいよね?』

何もよくない。

ヨハネは自分の身体に戻りたい。

けれど最後に送られてきたのは――

『ヨハネ、ダイヤと付き合うから』

そんな、黒澤ルビィからではなくて津島善子からのメッセージだった。

この一文を見て、2度と元に戻れないことを悟る。

ルビィは、元に戻ることを絶対に望まない。

でも、全て私がやったことだから、ルビィを恨むこともできない。

私がルビィの位置を奪ってやろうなんて思ったから。

全部私が悪いんだから。

――

魔術をもう一度試しても、2度と成功することはなかった。

魔術書に書いてあった通り同じ魔術は2度同じ人間には使えない、そういうことだろう。

「では、ルビィ。出かけてきますわね」

「……うん、いってらっしゃい」

「ダイヤ、はやくー!」

「もう、善子さん。はしゃぎすぎですわよ」

笑いあって出かけていく2人を見て、どうしてあそこにいるのが私じゃないんだろう、と自分の行いを深く後悔する。

――後悔してももう遅いんだけど。

誰に説明しても、こんなことは信じてもらえるわけはないし。

私はこの罪を背負っていかなければならない。

人の身体を入れ替えるという罪を犯してしまったゆえの当然の報いだろう。

こうして、黒澤ルビィは黒澤ダイヤの恋人に、津島善子は黒澤ダイヤの妹になった。

おわり
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