縁と恋、2つの狭間に立たされて

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曜-アイキャッチ10



「私、よーちゃんのことが好き!
 幼馴染としてじゃなく1人の女の子として、曜ちゃんのことが好きなの!」

それは千歌ちゃんが私の家に遊びにきていたときのことだった。

突如千歌ちゃんから放たれたその言葉を聞いたとき、
私は一体どうすればいいのか、わからなくなってしまった。

pixiv: 縁と恋、2つの狭間に立たされて by アンティークライド

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元々千歌ちゃんとは幼馴染の関係で、
小さい頃から一緒にいるのが当たり前のような関係だった。

たまには意見が合わないこともあったりするけど、
いつも私たちが考えることは割と似ていて、自然と波長が合う感じで。

だから一緒にいることはまったく苦にならないし、
むしろ同じ場所にいられることが嬉しくてたまらないのは事実だ。

なのに千歌ちゃん、突然何を言い出すかと思えば、
『1人の女の子として、私が好き』って・・・!?

そ、そそそ、それは、もしかしてだけど、
幼馴染や友達という関係を超えて、恋人同士になりたいということなの?

いやいや、おかしいでしょ。

恋人って普通、性別の違う人となるものじゃないの?

私たち、女の子同士なんだよ?

そういう関係って良くないんじゃ・・・。

戸惑いを隠せず、たまらず聞き返してしまう。

「い、いやいや、待って千歌ちゃん。
 いきなりどうしたの?」

でも千歌ちゃんは迷いも何もないといった感じでこう答える。

「言ったとおりだよ!
 私、高海千歌は、渡辺曜ちゃんのことが好き!
 だから1人の女の子として、曜ちゃんとお付き合いしたいの!」

聞き間違いかもって思ったけれど、残念ながらそうではなかった。

千歌ちゃん、何かおかしいものでも食べちゃったのかな?

とにかく、今は千歌ちゃんを冷静にさせないと。

「落ち着いて千歌ちゃん。
 私たちは女の子同士なんだから、恋人というわけには・・・」

しかし千歌ちゃんも簡単に折れてはくれない。

「そんなことないよ!
 世の中には女の子同士で恋人だっていう人もたくさんいるって。」

「だからって今さら付き合おうだなんて言わなくても。
 いつも一緒にいるんだし、ね?」

なんとか千歌ちゃんを説得しようと試みるが、千歌ちゃんの意思に変わりはなくて。

「ダメだよ!
 よーちゃんは人気者だから、いつ誰に取られるかわかんないじゃん!
 それともよーちゃんには、誰か想い人でもいたりするの?」

「い、いや、それは・・・。」

千歌ちゃんからの言葉を前に、つい気圧されてしまう。

実はそれに対する答えがないわけじゃないけれども、
そのまま答えてしまうと、千歌ちゃんの機嫌を損ねかねない内容で。

どう答えればよいのかわからず、困ってしまう。

当然千歌ちゃんとしては、真意を一刻も早く聞き出したい気持ちが強いのだろう。

「ねえ、どうなの!?よーちゃん!」

そう言って私を問いただしてくる。

誰か助けてくれないかなあ・・・と思っても、
近くに誰かがいるわけでもなく、そこに関してはどうにもなりそうにない。

なんとかその場をしのぐ言葉を考え、千歌ちゃんの追及を逃れようとする。

「い、いないよ。浦の星は女子高だから同世代の男の子なんていないし。
 それに女の子同士でお付き合いするなんて、考えてもなかったし・・・。」

「むーっ。相変わらず変なところで頭が固いんだから・・・。」

「ゴメンね、本当に。
 でも誰かとお付き合いすることなんてことも、今まで考えたことないしさ。
 だから千歌ちゃんが心配しているようなことにはならないから、ね?」

「・・・本当に?」

「本当だって!千歌ちゃんと私の仲でしょ?
 ウソなんかつくわけないじゃん。」

「そう・・・そうだよね。
 ゴメンね。よーちゃんのことなのに疑っちゃって。」

「ううん、気にしないで。
 すぐに答えられなかった私にも責任はあるしさ。」

どうにか千歌ちゃんの追及から逃れることはできたみたいだ。

しかしそれと同時に、心の奥底がズキッと痛む。

何故かって?

その理由は至って単純。

千歌ちゃんに―――ウソをついたからだ。


翌朝。

今日は梨子ちゃんと一緒にお出かけする日。

沼津のほうに出かけて、今後の衣装作りとかに必要なものだったり、
梨子ちゃんも気分転換になればと思って誘ってみたのだ。

本当は千歌ちゃんも誘ってたんだけど、
旅館のほうが忙しく、手伝わないといけないらしくて予定が合わなかったんだよね。

今度一緒に行こうと約束して、今回は梨子ちゃんと2人だけで行くことになった。

そのときはすごく残念だと思ってたんだけど。

でも昨日の出来事があったせいか、
今は心のどこかで少し安心している、卑怯な自分がいることに気づく。

ウソをついてしまった手前、千歌ちゃんと会うのが少し怖くなっていたのだ。

千歌ちゃんにこのウソがバレてしまったらどうしよう。

昨日の反応を見る限り、千歌ちゃんは私がウソをついているなんて思ってないはず。

いつも私のことを信用してくれて、頼りにしてくれている千歌ちゃん。

そんな大切な幼馴染に対して、
状況が状況で仕方なかったとはいえ、裏切ってしまったのは紛れもない事実。

いつか言わなきゃいけないときはくるのに。

ウソだとわかってしまう時期が遅れれば遅れるほど、その傷は深くなってしまうのに。

それがわかっていても、私は真意を伝えることができなかった。

「(ゴメン千歌ちゃん。
  今の私の想いを、千歌ちゃんに伝えるわけには、いかないんだ・・・。)」



「んー、買った買った。
 これだけあれば次の衣装作りはバッチリなものができるね!」

「今日は本当にいい日だったわね。
 欲しかったものが次々に見つかっていったし。」

買い物が一通り終わり、私たちは無事に私の家にたどり着いた。

今日は本当にツイてる1日だったなあ。

次の曲に使う衣装で欲しかった素材がトントン拍子に見つかって。

しかもセールしていて安く手に入れることができたし。

途中でトラブルもなく、終始気分良く買い物をすることができた。

それはきっと、そばに梨子ちゃんがいてくれたからというのも大きいだろう。

実はあれもこれもって感じで、余計なものまで買いそうになっちゃってたんだけど、
そんなときに梨子ちゃんがきちんと抑えてくれるのだ。

「曜ちゃん、それ買うと予算オーバーしちゃうよ?」
って注意して、止まらなくなりそうな私を諫めてくれるし、
「買いすぎたら持てなくなっちゃうよ?」
と言って買う量もきちんと考慮してくれたり。

千歌ちゃんと一緒のときはついつい買いすぎちゃうことが多いから、
梨子ちゃんのように抑えてくれる人は、今の私にはとてもありがたい存在だった。

もちろん抑えるだけじゃなくて、梨子ちゃんなりのアドバイスもくれたりして。

「ねえ曜ちゃん、これどうかな?
 伸び縮みしやすそうだから、動き重視な曲のときの衣装に使えるかも。」
といった感じで見落としてたりする部分もカバーしてくれるから、本当に助かってる。

千歌ちゃんと一緒に、明るく楽しくどこまでも!っていうやり方はもちろん好きだけど。

梨子ちゃんと一緒のときは千歌ちゃんとは違った安心感があって、
梨子ちゃんがいるからこそ、迷いなく全速前進できるっていうのがあるんだよね。

その分たくさん迷惑もかけてるわけだから、
私からも何か梨子ちゃんにお返ししないといけないけれど。



家に梨子ちゃんを迎えて、リビングに座ってもらう。

ちなみにお母さんは外出していて、今はいないみたい。

そして梨子ちゃんの向かい側に私は座って、そこに2人きりの空間ができあがる。

「今日はありがとね、梨子ちゃん。
 私がやらなきゃいけないことなのに、無理に付き合わせちゃって。」

「ううん、いいの。
 私こそありがとう、曜ちゃん。
 このところ曲作りで練習のとき以外は家に籠ってたから、
 曜ちゃんが買い物に誘ってくれて嬉しかったよ。
 こうしてみると、たまには気分転換することも大切なんだなあって、改めて感じたわ。」

「えへへ、そう言われるとなんだか照れるなあ・・・。」

確かに梨子ちゃんは最近、新しい曲作りであまりお出かけする機会がなくなっていて。

それが原因かわからないけれど、練習中にもイライラするときがあった。

だからこそ気分転換することが必要かなって思って、誘ってみたのは事実なんだけど。

こうして面と向かってお礼を言われると、やっぱり恥ずかしいなあ。

そう考えていると、梨子ちゃんが話を切り出してきた。

「ねえ曜ちゃん。」

「ん?どうしたの梨子ちゃん。」

「あ、あのね・・・その・・・。」

「・・・ん?」

ふと梨子ちゃんのほうを見直してみると、何故か梨子ちゃんは顔を赤らめていた。

え?私、何か恥ずかしいことでも言っちゃったのかな?

あまりに突然だったので、不安になってしまう。

「り、梨子ちゃん、大丈夫?」

すると梨子ちゃんは、突然立ち上がった。

そしてなんと、机越しに身を乗り出してきたのだ。

あまりに梨子ちゃんらしからぬ行為で、私は混乱してしまう。

「え、り、梨子ちゃん・・・?」

「あのね、曜ちゃん!
 聞いてほしいことがあるの。」

そのあとに続けた言葉が、私を大混乱に陥れたのであった。

「私、曜ちゃんのことが・・・好き。
 ・・・付き合って、欲しいの・・・!」

「え・・・えええぇぇぇ!!!???」


「はあ・・・どうしよう・・・。」

翌朝の通学路。

私の足取りは、いつになく重かった。

それもそのはず。

千歌ちゃんと会うのが怖いからだ。

今の状態で千歌ちゃんと会ってしまったら、今にもウソがバレてしまいそうで。

私がウソをついたってわかったら、間違いなく悲しむだろう。

ああ見えて千歌ちゃんは心に深い傷を背負いがちだから、
裏切られたと思ったら立て直せなくなってしまうかもしれない。

そうなってしまうのが、とても怖くて。

バス停に着いてしまったけれど、このまま乗らずに帰ってしまいたい。

けれど行かなかったら行かなかったで、千歌ちゃんも心配するだろうし。

そして―――梨子ちゃんと会うのも、正直不安でたまらない。

昨日梨子ちゃんから出た言葉は、まさかまさかの告白。

一昨日の千歌ちゃんに続いて、昨日は梨子ちゃんにも告白されてしまったのだ。

予想だにせぬ形で2人に挟まれる形となってしまい、私は困惑してしまう。

『私、高海千歌は、渡辺曜ちゃんのことが好き!
 だから1人の女の子として、よーちゃんとお付き合いしたいの!』
という千歌ちゃんの告白と。

『私、曜ちゃんのことが・・・好き。
 ・・・付き合って、欲しいの・・・!』
という梨子ちゃんの告白。

うわあああ!どうしよう、どうしよう!?

こんなことになるなんて、まったく思ってなかったよぉ・・・。

まさに頭を抱えたくなる状況だ。

正直どの選択肢を取っても、誰かが悲しい思いをしてしまうのではないかと感じている。

千歌ちゃんを取れば梨子ちゃんが悲しみ、
梨子ちゃんを取れば今度は千歌ちゃんが悲しむことになる。

私にその気はないと両方断ったら、当然両方が悲しむことになるだろうし、
逆にどちらもOKした場合は、2人がその事実に気づいたときにショックを受けるだろう。

考える限りでは、完全に八方塞がりである。

もちろん、そういう風にしてしまった自分にも責任はあるのだけど。

千歌ちゃんにはウソをついてしまい、そして梨子ちゃんには・・・。

今となっては、こんな状況に陥ってしまったことを後悔している。

もちろん、後悔だけしていても始まらないことはわかっているんだけど。

どうすればいいんだろう・・・。

「はあ・・・。」

こんな状態だから、ため息もずっと出っぱなし。

大丈夫かなあ、私・・・。

「朝からすごくテンション低いわね。」

「うん・・・え、あれ?」

どこからともなく声が聞こえてきたと思ったら、目の前に善子ちゃんがいた。

きているどころか、目の前にいることすら気づかなかっただなんて。

もしかしたら先に声をかけてくれていたのかもと思うと、
申し訳ない気持ちになってしまう。

「おはよう。
 ゴメンね善子ちゃん。すぐに気づけなくて。」

「いや、それは別にいいんだけど・・・。」

バスがくるまでは、もう少し時間がかかりそうだった。

「隣、座っていい?」

「・・・うん。」

善子ちゃんはバスがまだきそうにないことを察すると、隣に座った。

いつもだったら私のほうから善子ちゃんに話しかけにいくんだけど、
今日はとてもそんな気分にはなれなくて。

気まずい空気が周りの雰囲気を支配しようとする。

何か話題を振らなきゃと思い、私が口を開こうとしたとき、
善子ちゃんのほうから話しかけてきた。

「何かあった?」

「え・・・?」

「何かあったかって聞いてるの。
 ため息ついてるのに、何もなかっただなんてわけがないでしょ?」

そう聞いてくる善子ちゃんの表情は、
普段の堕天使ヨハネとして話しているときとは大違いで。

不安そうな面持ちで、私のほうをじっと見つめていた。

いつもだったらその場で、
「大丈夫だよー!心配性だねえ、善子ちゃんは。」
とかなんとかいって、緊張を和らげようとするのだけれど。

今日に関しては、とてもそういう風にはできなかった。

そこまで気が回らないぐらいに、2人のことで頭がいっぱいだったのだ。

でも―――このことを善子ちゃんに話しても、果たして良いのだろうか?

千歌ちゃんとの一件は、やはり私と千歌ちゃんの2人で話し合うべきだし、
梨子ちゃんとの一件も同じく、私と梨子ちゃんの2人で話し合うべきことだ。

本来第三者であるはずの善子ちゃんを巻き込んで話すべきことではない。

善子ちゃんだってこんな話を振られても、
どう答えたらいいかわからなくて困っちゃうだろうし・・・。

そうして悩んでいると、善子ちゃんは小さくため息をついてこう言った。

「答えたくないなら、無理に答える必要はないわよ?」

「え・・・?」

その言葉が、少し意外な気がした。

いつもならハッキリと答えられないときは怒ってくる善子ちゃんなのに。

今日に関してはそれがなかったのだ。

もしかしたら、私が悩んでいるのをすぐに察知したのかもしれない。

気になって善子ちゃんのほうを見ると、
少し暗めの赤い瞳が、じっとこちらを見ているのがわかった。

その様子を見ながら、善子ちゃんは話を続ける。

「曜さんは顔に現れすぎなのよ。
 落ち込んでたり悩んでたりするときは、今みたいに不安そうな表情をしてる。
 いかにも、どうしたらいいのかわからないって感じにね。」

「・・・」

「だけど誰かに相談したくても、自分のことだからって言えずに困っている。
 ・・・違うかしら?」

ああ、善子ちゃんってやっぱり、私のことをよく見てくれているなあ。

本当にそのとおりなんだもん。

私が悩んだときって、大体は気がついたら解決できたりすることが多くて、
そんなに思いつめるほどに悩んだことはほとんどなかった。

だからこんなとき、どうすればいいのか全然わからなくて、途方に暮れていたのだ。

「・・・うん。その通り・・・だよ。」

「はあ。そんなところだろうとは思ってたけど。」

予想どおりの内容だったのか、善子ちゃんは再びため息をつく。

「ま、必要だったらいつでも呼びなさいよ。
 曜さんが気落ちしたままじゃ、一緒にいるこっちまで調子狂っちゃうんだから。」

「・・・うん、ありがとう。」

今の私には、それ以上の言葉は出てこなかった。

そして善子ちゃんも、それ以上追求してこようとはしなかった。


放課後。

このあとはAqoursの練習。

練習着に着替えて、みんなの集まる屋上へと向かう。

私が着くと程なくしてみんなも集まっていき、すぐに準備体操を開始することに。

いつもどおり楽しく、けれどやるべきことはきちんとやっていく。

その辺りはダイヤさんや果南ちゃんがいるから、そんなに心配はしていない。

基本的に準備体操は、2人1組でやるのが定番みたいな感じになっていて。

私が普段一緒にやるのは、千歌ちゃんもしくは梨子ちゃんであることが多い。

3人いるとどうなるかというと、希望が被ったり1人余ったりするわけなんだけど。

もし被ったとしても、その場の状況とか話し合いとかで決めて、
次は違う組み合わせでといった感じですぐに今日一緒にやる人が決まっていく。

だから普段、特に何かトラブルがあることなんて珍しい。

そのはずだったんだけど・・・今日は残念ながら違った。



「よーちゃん!一緒にやろう!」

きっかけは千歌ちゃんの何気ない一言から始まった。

千歌ちゃんと梨子ちゃんの2人の希望が重なるときは、
いつも千歌ちゃんが先に声をかけてくれることが多い。

私も早く始めたいタイプの人間だから、
いつもなら二つ返事でOKして、2人で準備体操を始めていくのだけれど。

「曜ちゃん、一緒に準備体操しない?」

今日は私が千歌ちゃんに返事をする前に、梨子ちゃんがそう言ってきたのだ。

千歌ちゃんが先に私を誘っているときは、
梨子ちゃんはその場の空気を読んで一歩引き下がってくれていたのだけど。

ところが今日は引くどころか、
千歌ちゃんに対抗するかのように自分の主張をぶつけてきたのだ。

まるで千歌ちゃんと私が一緒にいることを嫌がっているかのように。

もちろん、千歌ちゃんも予想だにせぬ出来事に驚いていた。

ただ、驚くだけならまだよかったのだけれども。

その言葉に対する千歌ちゃんの反応が、さらに事態を悪化させることになった。

「待ってよ梨子ちゃん。
 私が先に言ったんだから、よーちゃんと一緒にやるのは私でしょ?」

「で、でも!この前だって曜ちゃんと一緒にやってたじゃない。
 私だって、たまには曜ちゃんと一緒にやりたいのに・・・。」

「ダメだよ。私だって曜ちゃんと一緒にやりたいんだもん。
 いくら梨子ちゃんでも、こればかりは譲れないよ。」

千歌ちゃんの主張は当然といっていいものだ。

さっきも言ったように、先に声をかけてきたのは間違いなく千歌ちゃんである。

特に梨子ちゃんが予約していたりとかそういうわけではないのだから、
基本的には先に声をかけた千歌ちゃんに権利がある。

それは至って普通の考えだし、私も間違ってないとは思う。

けれど、対する梨子ちゃんの主張も、私には納得できる気がした。

このところ準備体操をするときは、いつも決まって私と千歌ちゃんがセットになっていた。

梨子ちゃんも最近は頻繁に私を誘おうとしてくれていたのだけれど、
いつも千歌ちゃんに先んじられて自重するのがほぼ常となっていて。

結局、1人になってしまう梨子ちゃんを見かねた善子ちゃんが一緒にやってくれたり、
ときには果南ちゃんや鞠莉ちゃんなどが誘ってくれることも多くなっていた。

とはいえ、私を誘おうとする度に千歌ちゃんに先を越されて失敗し、
その回数が重なるにつれて、誘えなかったときに寂しそうな表情になっていくのを、
私は見過ごすことができなかったし、それを放っておくわけにもいかなかった。

もちろん表面上は、千歌ちゃんのお誘いを無下に断るわけにはいかない。

なので昨日のように何かあるときにはお誘いして、
その寂しさや悲しさを少しでも紛らわせることができれば・・・と思っていたんだけど。

昨日の一件といい、梨子ちゃんの中で、抑えきれないものがあったのかな・・・?

そんな私をよそに、千歌ちゃんと梨子ちゃんの話が熱を帯びていく。

残念だけど・・・間違いなく、口ゲンカになっていた。

「千歌ちゃんは最近曜ちゃんにベッタリしすぎなのよ!
 曜ちゃんは千歌ちゃんだけのものじゃないんだよ?」

「そ、そんなにベッタリしてないよ!
 梨子ちゃんがそう思ってるだけじゃないの!?」

「どう見たってベッタリしてるじゃない!
 いつもいつもよーちゃんよーちゃんって!
 誰に聞いたって同じ答えが返ってくると思うわよ?」

「だ、だったら梨子ちゃんはどうなの?
 梨子ちゃんだって最近、休みのときはよーちゃんと一緒にいることが多いじゃん!
 私がベッタリなのだとしたら、あれはどうなるの!?
 休日に2人でいてばかりのほうが、よっぽどベタベタじゃん!」

「ええ!?
 だって、あれは・・・その・・・。」

思わぬ反撃を受けたのか、完全に梨子ちゃんが劣勢に立たされていた。

こうなると千歌ちゃんが一方的に言っちゃって終わりになりそう。

それはそれで梨子ちゃんがかわいそうである。

まあ、休日に梨子ちゃんと一緒にいることが多いのは事実だし、
千歌ちゃんの言いたいことも別に的外れなわけじゃない。

ここは千歌ちゃんに花をもたせて、梨子ちゃんには少し我慢してもらおう。

当事者である以上、ここは私がなんとかしないといけないしね。

そう思い、私は2人の間に入る。

「まあまあ、千歌ちゃん落ち着いて。
 確かに最近、週末は梨子ちゃんといることが多かったけれど、
 それには千歌ちゃんも誘ってたでしょ?」

「う・・・それは、そうだけど・・・。」

「たまたまタイミングが合わなかっただけで、
 別に千歌ちゃんを避けてたわけじゃないんだからさ。
 そんなに梨子ちゃんのことを悪く言わないであげてよ。ね?」

「むー・・・でも、よーちゃんがそう言うんだったら・・・。」

よし、千歌ちゃんはなんとか抑えることに成功した。

あとは梨子ちゃんだと思い、もう一方を向く。

「曜ちゃん、ゴメンね。」

向くや否や、梨子ちゃんは俯き気味に、小さな声を震わせながらそう言った。

それは私に情けない姿を見せてしまった申し訳なさからなのか、
それとも千歌ちゃんとの言い合いに敗れてしまった悔しさからなのか、
今の私にはわからなかった。

けれど千歌ちゃんのことを押しのけてまで、私と一緒にやろうとしたのは良くないことだ。

それはきちんと私から注意しないといけないよね。

今の梨子ちゃんに厳しい言葉を投げかけるのは気が引けたけれど、
千歌ちゃんにも注意した手前、一方だけに注意するわけにはいかないから。

「梨子ちゃん。
 確かに最近、準備体操のときは千歌ちゃんと一緒のことが多かったよ?
 でもね、いきなり割って入るのは良くないことだと思う。
 それは梨子ちゃんだってよくわかってるでしょ?」

「・・・うん・・・。」

気落ちしているうえに注意を受けてしまったからか、
梨子ちゃんはすっかり凹んでしまっていた。

あまり厳しく注意しすぎると立ち直れなくなっちゃいそうだから、そこは気をつけないと。

細心の注意を払いつつも、この一件に関しては千歌ちゃんのことも考えて、
私はその地点での思いを伝える。

「だから今日は千歌ちゃんと一緒にさせてね。
 ・・・明日の準備体操は、一緒にやろう?」

「うん、わかった・・・。」

千歌ちゃんと一緒にやると聞いてさらに凹みそうになってしまった梨子ちゃんだけど、
明日は一緒にやるからという約束を取り付けることで、ひとまず納得してもらった。

これで明日きちんと梨子ちゃんと練習できれば、
今日のわだかまりも少しは和らいでくれるはず・・・。



なんとかこの場を取り繕うことに成功し、
その後の練習はひとまず無事に終えることができた―――はずだった。

しかしそれは、さらなる悲劇の始まりに過ぎなかった。


「はあ・・・。」

金曜日の学校からの帰り道。

私はすっかり萎えてしまっていた。

練習による肉体的な疲労は全然問題ないのだけれど、
心へのダメージ・・・つまり、精神的疲労が日を追うごとにひどくなっていた。

千歌ちゃんと梨子ちゃんが衝突したあの1件以降、
私の願いはまったく届かず、2人の仲は目に見えて悪くなっていって。

普段から何事もなく談笑しあう2人が、学校では距離を取り合うようになり、
練習中も必要なとき以外は一緒に練習することはなくなってしまった。

そんな状況のため、最近はユニットごとでの練習時間が増えたのだけれど。

しかし、私と千歌ちゃんは同じユニットだから一緒にいる時間が増える一方で、
梨子ちゃんと私が一緒にいる時間はどんどん減っていってしまっていて。

その結果、ついに今日、梨子ちゃんの怒りが再び爆発してしまったのだ。



「曜ちゃん!なんで最近一緒にいてくれないの!?」

Aqoursの練習が終わったあと、教室に忘れ物をしてしまったので戻ったとき、
たまたま教室に居合わせていた梨子ちゃんに出会って、いきなり怒られた。

確かに昨日もユニットごとの練習だったから、
当然千歌ちゃんと私が一緒に練習することになって。

昨日に限らず、この1週間は基本的にこんな感じだったから、
そうなると当然、梨子ちゃんの不満はどんどん増すわけで。

千歌ちゃんがいない今だからこそ、梨子ちゃんも思わずそう言ってしまったに違いない。

それに関しては私も悪いと思っていたし、つい反射的に謝ってしまう。

「ゴメンね梨子ちゃん。
 ユニットごとの練習になると、どうしても別々になっちゃうから・・・。」

理由としては間違っていないと思うし、
いつもの梨子ちゃんならそれだけでも許してくれていたはず。

でも、今回はそれだけでは全然納得してくれなかった。

「練習のことを言ってるわけじゃないわよ!
 今週、どれだけ曜ちゃんが千歌ちゃんの傍にいたのか、覚えてないの?」

「え・・・?どういうこと・・・?」

思わぬ質問にうろたえながらも、私は必死で今週、特に昨日の動きを思い出し始める。

授業中はともかくとして、お昼休みは・・・ああ、思い出した。

確か、CYaRon!のことで話があったから、それで千歌ちゃんと話してたっけ。

練習前の準備運動も・・・昨日は確か、千歌ちゃんと一緒にやったはずで。

放課後も昨日は千歌ちゃんの家で遊んでたし、
一昨日は千歌ちゃんと一緒にお買い物に行って、その前は―――

そこまで考えて、ようやく私は自分の過ちに気がつく。

梨子ちゃんと一緒にいる時間が、ほとんどなかったのである。

確かに千歌ちゃんと比べれば大人しく、積極的に話しかけてくるタイプじゃないから、
梨子ちゃんとお話ししたり遊んだりする機会は、千歌ちゃんと比べれば少ないほうだけど。

それでも普段どおりなら、こんなに接する機会が少ないなんてことないはずだった。

もしかしなくても、梨子ちゃんは・・・。

恐る恐る、梨子ちゃんの顔を見直す。

その顔は間違いなく、怒っていた。

「この前のこと、まさか忘れた・・・なんてことは言わないわよね?」

梨子ちゃんの可愛くてきれいに整った顔が、怒りの表情で歪んでいる。

その様子は、ダイヤさんに怒られるときよりも、ママに怒られるときよりも、
他の誰かの怒っている様子よりも、はるかに恐ろしく映った。

実は私が千歌ちゃんにウソをついたことというのは―――
『私は、梨子ちゃんのことが好き』ということなのだ。

梨子ちゃんも元々は私のことが好きだったらしく、実は相思相愛の関係にあった。

にもかかわらず、私は幼馴染である千歌ちゃんの心の傷を癒そうと必死になり、
その結果、恋人に近い関係にあったはずの梨子ちゃんのことを後回しにしてしまったのだ。

大切な大切な梨子ちゃんを、こんな感じで怒らせてしまって。

それが何を意味するかは、今さら言うまでもないだろう。

「確かにこの前、私と千歌ちゃんはケンカしちゃったわ。
 曜ちゃんが間に入ってくれたことで、その場はなんとかなったけれど。
 けど最近の曜ちゃん、最近いつも千歌ちゃんのところにいるじゃない。
 私のところには全然きてくれないのに・・・。」

「いや、それはきちんと理由があって・・・。」

もちろんそれはウソではない。

千歌ちゃんを支えなくちゃと思う気持ちが、間違いなくそこにはあった。

けれど梨子ちゃんは、その気持ちを汲み取ろうとはしてくれなかった。

「理由?千歌ちゃんのことが大切だからでしょ?
 確かにそれは大事だよね。
 告白にOKをした恋人を無視してでも駆けつけたい、とても大切な人なんだから。」

「そ、それは違う!
 梨子ちゃんのことだって、私は考えて行動してるよ!」

「じゃあどうして、放課後も千歌ちゃんのところばかりに行ってるの?
 もし曜ちゃんが私のことを考えてくれているんだったら、
 私のところにも何かしら連絡はくれるはずよね?」

聞く耳も持たず、梨子ちゃんはさらに私を追い詰めてこようとする。

こんなに怖い梨子ちゃんを見るのは初めてだ。

先走ってしまう私を困りながらもきちんと抑えてくれる、
優しくて頼りになる梨子ちゃんの面影はどこにもなくて。

今いるのは、感情そのままに私に敵意を向けようとしている梨子ちゃんだった。

なんとかして落ち着かせなきゃ。

前に落ち着かせたときのように、私はどうにかしようと試みる。

「ま、待ってよ梨子ちゃん。
 別に千歌ちゃんばかりに構ってるわけじゃないでしょ?
 たまたま梨子ちゃんから見ればそう感じただけで・・・。」

しかし、今の梨子ちゃんを止めるには、あまりにも私の心が弱すぎた。

「私知ってるよ?
 昨日も曜ちゃん、千歌ちゃんの家で楽しくお話ししてたでしょ?
 私と一緒のときは、あんなに楽しくお話ししてくれないのに・・・。」

「え、いやそれはその・・・ほら、千歌ちゃんは楽しいの大好きだし、ね?」

「ふうん・・・私とは楽しくなくてもいいんだ・・・。」

表情を何一つ変えず、冷ややかな目で私を見続ける梨子ちゃん。

ここまで病んでしまっているのを見れば、おかしくなっているのは明らかだった。

確かに梨子ちゃんとお話しするときは、
千歌ちゃんと一緒にいるときほどハイテンションな感じにはならないのだけれど。

それは一緒にいると落ち着いて安心できるからで、
盛り上がらないからという理由でテンションが下がっているわけではないのだ。

それに、普段こんなことで、私を蔑んだりするような梨子ちゃんじゃない。

今の梨子ちゃんは完全に、自分を見失ってしまっている。

いやだよ、こんな梨子ちゃん、見たくない。

心の中で必死にそう叫ぶ自分がいるのが、痛いほどよくわかる。

その切なる願いが、言ってはならない一言に繋がってしまった。

「そんなこと言ってないじゃん!
 確かに千歌ちゃんといることが多かったのは認めるよ。
 でも千歌ちゃんにあんな風に告白されちゃったら・・・!?」

言葉に出してしまってから、「しまった!」と思ったけれど。

そう感じたときには既に手遅れだった。

ただでさえ今は冷ややかな表情しか見せない梨子ちゃんの顔から、
さらに感情がなくなっていくのがハッキリとわかった。

「・・・そう。
 告白されたのね?千歌ちゃんに。」

「・・・・・・」

「黙らないでよ。
 きっと私が言うより先に言われてたんでしょ?」

「・・・そうだよ。
 梨子ちゃんより先に、千歌ちゃんに告白された。
 でも、私は断ったんだよ?
 千歌ちゃんと付き合うことはできないって。」

「じゃあどうして、今まで以上に一緒にいようとするの?
 断ったのなら恋人として付き合う必要もないはずでしょ?」

「だって千歌ちゃん、すごく落ち込んでたんだよ?
 いくら断ったとは言っても、幼馴染をあんな状態にしたままだと申し訳ないし。
 だからせめて、千歌ちゃんが立ち直るまでは傍にいなきゃって」

  バンッ!!

机を強く叩く音が鳴り響いた。

そうしてしまうほどに、梨子ちゃんの怒りがさらに増していたのだ。

強い怒りのあまり、目には涙が浮かんでいた。

「じゃあ曜ちゃんにとっては、恋人よりも幼馴染のほうが大切なのね!?
 寂しいから何度も何度も曜ちゃんに一緒にいてほしくて呼びかけたのに!
 それでも曜ちゃんは千歌ちゃんのことを優先して、私のことはほったらかしで!」

「待って!それは違うよ!
 梨子ちゃんのことを考えてなかったときなんてない!
 でも千歌ちゃんが元気じゃないと、みんなが心配するでしょ?
 梨子ちゃんだって千歌ちゃんが元気じゃなかったら・・・」

けれど梨子ちゃんに、その想いは伝わらなかった。

「もういいよ!曜ちゃんなんて嫌い!
 曜ちゃんと一緒なら、これからも頑張っていけるって思ってたのに!!」

そう言って教室から出ようとする。

「待って、お願いだから!」

しかし梨子ちゃんは意に介さず、そのまま出ていってしまった。

あとに残されたのは、空虚と悲しみ、そして絶望だけが残った教室。

そしてこの悲劇は、これだけにとどまらなかった。

「ウソ・・・ついてたんだね、曜ちゃん・・・。」

「え・・・ち、千歌、ちゃん・・・?」


「どうして?
 曜ちゃん言ってたよね?
 好きな人はいない、女の子同士で付き合うつもりはないって。」

「あ、あの!これにはその、理由があって・・・。」

厳しく追い詰められていた上に精神的なダメージが大きすぎて、
私は自分を平静に保つことができなくなっていた。

梨子ちゃんに嫌われてしまった罪悪感に加え、
今度は千歌ちゃんにウソがバレてしまったのだ。

気が動転しすぎてしまい、とてもじゃないがどうすることもできなかった。

「『よーちゃんなら大丈夫だよね!』
『どんなときでも私の味方になってくれたんだもん!』
 ・・・そうやって、ずっとずっと、そう信じてたのに・・・!」

そう言う千歌ちゃんの顔は、とても悲しく、寂しそうな表情をしていて。

その姿が、私をさらに絶望の底へと突き落としていった。

何か言わなきゃとは思っていても、
喉元で何かがつっかえているような感覚に襲われて、言葉が一向に出てこない。

そうしていると当然、千歌ちゃんの方から言葉が発せられることになって。

「ねえどうしてなの?
 曜ちゃんは私のことが嫌いだったの?
 私は曜ちゃんの・・・遊び道具でしかなかったの?」

「ち、違っ、ちが・・・私は・・・!」

そんなの、違うに決まってる。

違うって言えるでしょ、私!

千歌ちゃんを千歌ちゃん以外として見たことなんて、一度もない!

それぐらいのこと、こんな状況でも言えるはずでしょ、私!?

―――なのに、言えなかった。

当たり前のことすら、千歌ちゃんの目の前で言うことが、できなかった。

心の中で必死になんとかしようとしている間にも、時間は無情にも過ぎていって。

やがて千歌ちゃんに、こう告げられた。

「ゴメンね、曜ちゃん。
 私がいたから、曜ちゃんは幸せになれなかったんだね。
 曜ちゃんの幸せを奪ったのは、千歌だったんだね・・・。」

そして私に背を向け、悲しみを背負ったまま教室を後にした。

「(違う!違うよ!!
  千歌ちゃんのせいじゃない!私のせいなんだ!!
  千歌ちゃんが気に病む理由なんて、何一つないんだよ!?)」

そう言いたかったはずなのに、私の口からその言葉が出ることは、ついになかった。



それから少しの時間が過ぎた。

この教室にいるのは、私だけ。

・・・いや、違う。

正しくは、私と悲しみと絶望。

梨子ちゃんの心を無意識のうちに踏みにじってしまって。

千歌ちゃんの信頼をすべて崩壊させるようなウソをついてしまって。

私が・・・私のせいで、2人とも不幸になってしまった。

それはあまりにも重く、そして逃れようのない事実だった。

絶望しか見えない現実を前に、涙すら一滴も出てこない。

私は一体、どうすればよかったのだろう?

「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

答えをいくら探し出そうとしても、その答えがここにあるはずもなく。

今の私には、この悲痛な叫びを教室中に響かせることぐらいしかできなかった。


その帰り道のこと。

バスに乗って、沼津にある自宅へと帰っていく途中のことだった。

何も考えることができず、ただ呆然と窓を眺めていた私の目の前に、
あるものが目に入ってきた。

それは、海岸だった。

普段なら何気なく見ているだけの光景だったけれど、
何故か今の私には、そこにいかなければという思いが生じていた。

反射的に降りるボタンを押し、バスを下車する。

バス乗り場から海岸まではほとんど距離もなく、
たどり着くのに大した時間はかからなかった。



海岸から見える沼津の海を見ながら、私は物思いに耽る。

きっかけは、千歌ちゃんの告白から始まった。

けれど既にそのとき、私は梨子ちゃんに想いを寄せていた。

だから千歌ちゃんの想いは感じつつも、その場で真実を伝えておくべきだったのだ。

もちろんこの真実を告げられることで、
千歌ちゃんの心に大きなダメージが残ることは避けられなかっただろう。

しかしそれでも、今の状態のようなことには陥らなかったはずである。

確かにショックなのは違いないだろうけれど、
千歌ちゃんならきっと、応援してくれたに違いない。

千歌ちゃんがなんとか乗り越えようとしていることは私も応援していたし、
逆に私が頑張ろうとしていること、成し遂げようとしていることは、
いつも千歌ちゃんが近くで応援してくれていた。

たとえそれで、千歌ちゃんと私の距離が遠くなりそうだとしても、
千歌ちゃんは嫌な顔一つせず、全力で私の味方になろうとしてくれたのだ。

言ってみなければどうなったのかはわからない。

もしかしたら同じ運命をたどったかもしれない。

けれど今の結果になった原因は、私の心の迷いが引き起こしてしまったものだ。

もし違う結果になっていたらと思うと、後悔せずにはいられない・・・。



そして梨子ちゃんのこともそうだ。

私が梨子ちゃんのことが好きであると同時に、
梨子ちゃんも私のことが好きだったという衝撃の事実が判明して。

嬉しさのあまり、私も最初は告白に対してOKした。

―――それだけでよかったのだ。

ウソだと気づいてしまったときの千歌ちゃんのことを気にしすぎるあまり、
私は千歌ちゃんのことが心配でたまらなくなってしまった。

それを悟られまいとして、必死に千歌ちゃんの傍を離れようとせず、
その代償として梨子ちゃんと一緒に過ごせる時間を犠牲にしてしまった。

結果、私と梨子ちゃんとの間にも認識の違いが生じてしまい、
梨子ちゃんに「私より千歌ちゃんの方が大切」と思われてしまったのだ。

今思えば、あのときの割り込みは、梨子ちゃんからの最終警告だったのかもしれない。

「私のこと、忘れてない?」
という、梨子ちゃんからの大切なメッセージを、私はみすみす見逃した・・・!



結局、私は千歌ちゃんを不幸に陥れ、梨子ちゃんも不幸にしてしまった。

2人の見ていた明るい未来を奪ったのは、他ならぬ自分。

そんな自分がとても情けなく、とても嫌いだ。

こんな自分とは、さっさとおさらばしたい。

―――海の糧となり、誰にも邪魔をされない世界へ。

そう思ったときには、私の身体は砂浜に進んでいき、海の浅瀬に到着していた。

何も迷うことはない。

このまま進んでいけば、千歌ちゃんや梨子ちゃんの悲しむ姿を見なくて済むんだ。

私がいることで不幸になるというのなら、私が別の世界に行けばいいだけの話。

・・・行こう、私。

この世界とあの世界の境界線へと―――





「曜さん!どこ!?曜さん!
 !?こ、このカバン、錨のキーホルダーがついてる・・・。
 どこなの、曜さん!?どこにいるの!?
 ・・・!?この靴と靴下って・・・まさか!ウソでしょ!?
 早く伝えなきゃ!119番に伝えて、それから、それから・・・!」

「(困ったら相談しなさいよって言ったのに・・・。
  どうして誰にも言わなかったのよ・・・!!!)」



その後、私の遺体が見つかることは、二度となかった。




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『縁と恋、2つの狭間に立たされて』へのコメント

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2018年5月26日
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