千歌「ポケットモンスターAqours!」

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千歌-アイキャッチ7
1: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:20:53.81 ID:WoQi+oWD0
......prrrr

......prrrrrr

pi!!


 「あーあーテステス……これ繋がってるのかしら?」

 「……ん、よし大丈夫そうね」

 「Hi ! こんにちわ! 見えてるということは、あなたが今度旅立つ新人Trainerさんね」

 「え? なに? どうしたの、キルリア? ……ああ、名乗るのを忘れていたわ」

 「わたしは鞠莉。あなたの住むウラノホシタウンの外れの島──アワシマに研究所を構えるポケモン博士よ! って、言ってもまだ新人博士なんだけどね」

鞠莉「この世界にはポケットモンスター──通称ポケモンと呼ばれる生き物たちが草むら、洞窟、空、海……至るところにいて、わたしたちはポケモンの力を借りたり、助け合ったり、ときにポケモントレーナーとして、ポケモンを戦わせ競い合ったりする」

鞠莉「わたしはここオトノキ地方で、そんなポケモンと“どうぐ”の関わり合いについて研究しているの。ただ、まだまだ新人のせいもあってか、余りフィールドワークの情報が足りてなくてね……」

 「キルキルゥー!!」

鞠莉「って今度は何、キルリア……? ……わたしの話は後でいい? 確かにそれもそうね……それじゃあ、とりあえず、あなたの名前を教えてくれるかしら?」


…………


鞠莉「Hm...Your name is CHIKA。千歌、いい名前ね」

鞠莉「それじゃ千歌。研究所で待っているから、また後で──」


【ウラノホシタウン】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
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元スレ: 千歌「ポケットモンスターAqours!」

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2: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:24:13.02 ID:WoQi+oWD0


■Chapter001 『旅のはじまり』





 「千歌ちゃーん!!」


外からチカを呼ぶ声がする。

私は窓を開け放って、半身を乗り出しながら、屋外に向かって返事をする。


千歌「曜ちゃーん! おはよー!!」

曜「おはよー!! 準備できたー?」

千歌「うん! 今行くね!」


そう言って、チカは室内に翻して、昨日お母さんが用意してくれた、リュックを乱暴に引っ手繰り、曜ちゃんの元へと向かう。

チカが自宅の階段を滑るように駆け下りると、一階で姉たちがなにやら雑談をしていた。


美渡「ついに、今日か……」

志満「もう、美渡ちゃん。心配しすぎよ……もう千歌ちゃんも16歳なのよ?」

美渡「って言ってもあの千歌だよ?」

千歌「どのチカなのさ!」


不届きな姉の言葉に不満気に抗議の声をあげる


美渡「この千歌でしょ」

千歌「むー!! 志満姉の言うとおり、もう私16歳なんだよ!」

美渡「いやー……まだ、こんなちんちくりんのガキじゃん」

千歌「うっさいな! お母さんからも許可貰ってるんだからね!」

志満「二人とも、こんな日にケンカしないの」


顔を合わせるや否や、ケンカが勃発する下の姉妹二人を長女の志満姉が嗜める。


志満「それに、しいたけもいるから」

美渡「……ま、千歌よりは頼りになるか」

千歌「みーとーねーぇー?」


私はますます顔を顰めながら、美渡姉を睨み付けた。


美渡「……ま、せいぜい頑張れよー」


手をひらひら振りながら私の視線から逃げるように美渡姉は家の奥の方に歩いていってしまう。


千歌「むぅ……失礼しちゃうな」

志満「ふふ、美渡ちゃんもあれで千歌ちゃんが心配なのよ」

千歌「そうなのかなぁ……」

志満「それより、曜ちゃん。待ってるんでしょ?」

千歌「あ、そうだった!」

3: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:25:37.96 ID:WoQi+oWD0

私は志満姉の言葉で幼馴染を待たせてることを思い出して、外へ飛び出そうとする。そんな私の背中に──


志満「千歌ちゃん」


志満姉の優しい声。


千歌「なに?」

志満「いってらっしゃい」

千歌「……いってきます!」


私は返事をして、家を飛び出した。





    *    *    *





千歌「曜ちゃん、お待たせ!」


外に出ると、曜ちゃんが眩しそうに手をかざしながら、お空の太陽を見つめていた。


千歌「……曜ちゃん?」

曜「いい天気だなって思って」

千歌「……うん、そうだね」

曜「いよいよ、始まるんだね」

千歌「うん」


私は幼馴染の呟きに、微笑みながら相槌を打つ。

二人して、物思いに耽りながら、空をぼんやりと仰いでいると


 「ワンッワォゥ!!」


そんな鳴き声とともに、さっき自分が飛び出してきた家の方から、白い毛むくじゃらのポケモンが私の足元に擦り寄ってくる。


千歌「わわ!? なんだ、しいたけか……」

美渡「ほらさっさといきな、二人とも。博士が待ってるんでしょ?」


しいたけの来た方向から、美渡姉がやってきて、私と曜ちゃんを促す。


美渡「しいたけ、千歌をよろしく頼むぞー」

 「ワフ」

千歌「もう、大丈夫だってば」

曜「美渡姉、行って来ます」

美渡「おう、曜ちゃんも千歌のことよろしくね」

曜「ふふ、はーい」

千歌「むー……いつまでそのネタ引っ張るのさ……いこう、しいたけ」

 「ワフ」


そういって、私はしいたけと一緒に失礼な姉に背を向ける。
4: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:26:49.90 ID:WoQi+oWD0

美渡「千歌ー!」


それでも、まだ、声を掛けてくる姉に


千歌「なにー?」


振り返りながら、ぶっきらぼうに返事をすると


千歌「……!」


──美渡姉は親指を立てながら、私に向かって


美渡「思う存分、暴れて来い!!」


そう言ってから、私に向かって、ニカっと笑った。


千歌「!! ……うん!!」


──私は姉達に背中を押されて、思わず走り出す。


 「ワフ」


私に釣られて、しいたけが


曜「あ、千歌ちゃん! 待ってよー!」


曜ちゃんが


千歌「えへへっ!」


思わず笑みが零れる。

これから、始まるんだ


千歌「──私たちの冒険が!!」





    *    *    *





曜「しいたけ、連れてくんだね」


曜ちゃんがそういって私の横を歩くしいたけに目を向ける。


千歌「うん、美渡姉が旅に出るなら、連れて行けって」
 「ワフ」


しいたけ──はニックネームなんだけど……この子はトリミアンの♀で、子供の頃から一緒に育ってきた家族みたいな子。

しいたけは毛むくじゃらで、カロス地方とかのオシャレなトリミアンから見たら、トリミアンに見えないらしいけど……。

私は子供のころから見てるトリミアンと言えば、しいたけだから、そういわれても全然ピンと来ないんだよね。

──海岸沿いを曜ちゃんと歩きながら、船着場に目を向ける。


千歌「アワシマまでの定期便まで、もう少し時間あるかな?」
5: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:28:18.40 ID:WoQi+oWD0

私たちの目的地──アワシマの研究所に行くためには、ここウラノホシタウンから船に乗らないといけない。

いけないんだけど……。


曜「そんなの待ってられないよ!!」


そういって今度は曜ちゃんが走り出した。船着場の横の砂浜にめがけて一直線に

そして、走りながら海に向かって──


曜「ラプラスー!! いるーー!?」


声を張り上げた。

寄せては返す波の音が、絶えず聴こえるこの海いっぱいに、曜ちゃんの声が響き渡る。

そのまま海に向かって──


千歌「よ、よーちゃん!」


──曜ちゃんは走る

砂浜へ、

そして、そのまま幅跳びの要領で海へと、


曜「とうっ!」


飛んだ──


千歌「よーちゃん!」


ザブン!! と海に水しぶきがあがる──ことはなく、曜ちゃんは水面に着地していた。

いや──


 「キュゥー♪」
曜「ラプラスー! おはよー♪」


曜ちゃんの着水地点に先回りした地点に、さっき呼んだラプラスが浮上していた。


千歌「もう……びっくりさせないでよ……」

曜「えへへ、ごめんごめん。昨日ラプラスと約束してたんだ♪」

千歌「ラプラス、おはよー」

 「キュウー」


海の上に長い首を伸ばして、ラプラスは気持ち良さそうに伸びをした。

この子は私としいたけの関係みたいに、曜ちゃんの家族のポケモン。曜ちゃんのお父さんのラプラスです。

とっても人懐っこくて、私も昔からよく一緒に遊んでいたんだけど、曜ちゃんには特に懐いています。


曜「千歌ちゃんと同じで、私もパパから連れて行くように言われてたんだ。せっかくだし、アワシマまで乗せて行ってもらおうと思って」

千歌「なるほど。戻れ、しいたけ」
 「ワフ」
6: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:29:47.65 ID:WoQi+oWD0

私は曜ちゃんに返事をしながら、しいたけをボールに戻す。

……あ、“モンスターボール”の説明って必要かな?

ポケモンはモンスターボールって言う小さなカプセルに入れて、持ち歩くことが出来ます。

ボールに入れたポケモンはポケットに入ってしまうから、ポケットモンスター──通称ポケモンって言うらしいんだよね。

なんでこんなボールに入っちゃうのか、不思議だよね。確かその理屈を学校の先生が前に言ってたような──


曜「千歌ちゃーん! いくよー!」

千歌「あ、うん!」


……ま、いっか。どうせ後で先生にも会うし。

私は曜ちゃんに引っ張りあげて貰って、ラプラスの背に乗る。


曜「ラプラス、いける?」
 「キュゥ~」

曜「よぉーっし! 全速前進! ヨーソロー!」
 「キュゥ~♪」


ラプラスは曜ちゃんの掛け声と共に海の上を走り出した。





    *    *    *





──ウラノホシタウンは海に囲まれた自然豊かな町です。

まあ、自然豊かななんて言うと聞こえはいいけど、逆に言うなら周りには海しかない。

そんなウラノホシだけど、離れの島には研究所があります。

その名も『オハラ研究所』

最近建ったばっかりの新設研究所で、そこの博士も最近博士になったと言うオハラ博士。

何を隠そう、私たちはオハラ博士からの依頼で集められた選ばれた新人トレーナーなのです!


曜「えへへ」


ラプラスの背で揺られながら、空でみゃーみゃーと鳴いているキャモメの群れをぼんやり眺めていると、突然前に座っていた曜ちゃんが一人笑う。


千歌「どしたのー?」

曜「んー、なんかワクワクしちゃってさ!」


曜ちゃんは目を輝かせながら、陽光をキラキラと反射する海に目を向けている。


曜「やっと旅に出られるんだなって! それも千歌ちゃんと同じ日に!」

千歌「曜ちゃん……うん、私も嬉しい」


ラプラスの背の上で曜ちゃんが楽しそうにくるくると回る


千歌「よ、よーちゃんっ 危ないよ」


私の声を聞いてか、曜ちゃんは不安定なラプラスの背の上でピタリと止まって、今度は私の顔を見つめてくる。
7: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:30:56.96 ID:WoQi+oWD0

曜「千歌ちゃん、覚えてる? 子供の頃、よく一緒に冒険ごっこしたよね」

千歌「あ、うん! 隣のウチウラシティまで、しいたけ連れて冒険に行ってたよね!」


幼馴染との在りし日のことを脳裏に思い出しながら。


曜「子供の頃は野生のポケモンに襲われたら大変だからって言われて、あんまり遠くまでいけなかったけど……今度は違うんだって、そう思ったら何か嬉しくて!」

千歌「そっか」

曜「千歌ちゃんは旅に出たら何したい?」

千歌「えっへへ、とりあえずなんかすごい感じになりたいかな!」

曜「あはは、なんか千歌ちゃんらしいね! 私は船乗りのパパみたいに、世界中の海をラプラスと一緒に冒険できたらなーって思ってる!」
 「キュー♪」

千歌「そっかそっか! あとね、旅にワクワクしてるのは私も曜ちゃんと同じだよ。ずっと、憧れてたんだもん」


ポケモンを貰って、旅に出る。それは子供たち、みんなの憧れ。


千歌「この辺は研究所もなかったし、オハラ博士のお陰だよねっ」

曜「研究所がないと、初心者用ポケモンってもらえないしね。普通の子は10歳くらいで旅に出るみたいだけど……」

千歌「この辺あんまり人いないもんねぇ。10歳のときは研究所でポケモンを貰って旅に出る、なんて考えてもみなかったけど、まさに地獄に仏……!! あ、いや、でもウラノホシはいい町だから、天国に仏……?」

曜「なんかいろいろごちゃごちゃだね……」

千歌「と、とにかくっ! 今回はなんせ博士直々の御指名だもんねっ!」


──そうなんです。今回の旅は博士直々にチカと曜ちゃんに依頼が来たのです。


曜「って、言い切っちゃうと語弊があるけどね」


曜ちゃんがそんな風に補足を入れる。

正確にはウラノホシタウンの子供たちにオハラ博士から依頼されたんです。


千歌「この辺、そもそも子供も少ないから、たまたまこの辺に珍しく住んでる子供たちってことでチカたちにお願いしてきたんだろうけど……でも、ラッキーだったよね!」

曜「聞いた話だと、一応他の町からも何人か来るらしいけど……」

千歌「そうなの?」

曜「うん。隣のウチウラシティから一人。それと、もっと遠くから、もう一人って言ってたかな」

千歌「えっと……確か、ウラノホシから旅立つのは私と曜ちゃんと……ちょっと遅れて花丸ちゃんとルビィちゃんが、ポケモンを貰うって話になってるんだっけ」


共通の幼馴染の名前を挙げながら、指折り数える。


曜「うん、私はそう聞いてるかな。だから、さっきの2人を含めて、6人だね」

千歌「普通って、多くても3人くらいなんじゃないっけ?」

曜「私もそう思ったけど……まあ、オハラ博士もいろいろ事情があるってことじゃないかな。それも含めて今から聞きに行こうってことだしさ」

千歌「それもそっか」


のんびりと海を行くラプラスの背中の上で、目線をあげると……その先に目的地のアワシマが近づいてきていました。





    *    *    *


8: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:31:57.47 ID:WoQi+oWD0

──アワシマ。

ウラノホシタウンとウチウラシティを南北に繋ぐ道路──1番道路。その西側に面している海にその島はあります。

ラプラスを岸に付けて、私たちはアワシマへと降り立つ。


曜「ラプラス、じゃあまたあとでね」
 「キュー」


曜ちゃんがそう言うと、ラプラスは再び海へと潜って行く。


千歌「ラプラス、ボールに入れないの?」

曜「どっちにしろ島から出るときも乗るし。それに……」

千歌「それに?」

曜「普段ボールに入れてなかったから、ちょっと抵抗あって……」

千歌「あーわかるかも……」


私も、しいたけをボールに入れるのに抵抗があって、旅立ちまでに慣れておけって美渡姉に言われて、ボールに入れて持ち歩く練習とかしたなぁ……。


曜「私も、しいたけみたいに慣れないとなんだけどね。それこそ、陸を行くときはボールに戻さないといけないし」

千歌「ラプラスじゃ長距離歩けないもんね」

曜「もともと海のポケモンだから、長時間陸を歩かせるとケガしちゃうかもしれないしね」


そんな話をしながら、研究所に向かって歩を進めていると──


 「ロトトトトトトト!!」


……と、奇妙な鳴き声が目的地の方から聴こえてくる。


千歌「……?」

曜「……ポケモン?」


次の瞬間。

今度はガラスが割れるような、音が響き渡る。

音と共に、


 「ロトトトトトー」


板状のポケモンらしきものが視界の先に見えていた研究所から飛び出してくる。


千歌・曜「「!?」」


そのポケモンは手……っぽい場所にモンスターボールを持っている。

私たちが目の前で起こった状況を飲み込もうとしている場所に、更に


 「ちょっと待ちなさーい!!」


と叫びながら研究所を飛び出してくる若い女性。


曜「今度は何……?」


その容姿は金髪に左側頭部に特徴的な6の字のような形に髪を結んだ女性──というか見たことある。
9: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:32:40.63 ID:WoQi+oWD0

千歌「……オハラ博士?」

鞠莉「……え?」


ビデオ電話で見たから、間違いない。オハラ博士だ。というかこんな特徴的なビジュアルなかなか忘れないし。


鞠莉「あ、あー……えーっと」


ビデオ電話だったということは博士も私たちの顔を知っていると言うことで……


鞠莉「……」


博士は何故かバツが悪そうに目を逸らしていたけど

少し悩む素振りを見せてから、諦めたように私たちに向き直って。


鞠莉「……あなたたち、千歌と曜ね」


そう切り出してくる。


千歌「は、はい」

曜「き、今日はよろしくお願いします……?」

鞠莉「……こちらこそ、と言いたいところなんだけど……。Emaergency──ちょっと緊急事態」


博士は一旦神妙な表情をしてから、


鞠莉「……あなたたちに渡すはずだったポケモン……連れ去られちゃった……♪」


そういって、いたずらっぽくペロリと舌を出した。


10: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 12:33:23.27 ID:WoQi+oWD0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【アワシマ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口



 主人公 千歌
 手持ち トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 曜
 手持ち ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!


...To be continued.


11: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 13:46:59.24 ID:WoQi+oWD0

■Chapter002 『パートナー』





千歌「え」

千歌・曜「「ええーーーー!!」」


私たちは博士の言葉を聞いて驚きの声をあげた


曜「え、え、それじゃ私たちポケモンもらえないんですか!? 博士!? せっかく、今日まで楽しみにしてたのに……!!」


曜ちゃんが博士の両肩を掴んで前後に揺する。


鞠莉「Oh... Wait a minute」

千歌「うぇぃ……?」

鞠莉「2人とも落ち着いて? あなたたちのポケモンはちゃんと私が連れ戻すから。あと私のことは博士じゃなくて、気軽にマリーって呼んでくれる?」

千歌「え、えーっと……」

鞠莉「はい、マリー」

千歌「ま、まりー?」

鞠莉「OK.それじゃ、ちょっとあのイタズラポケモンを捕まえてくるから、あなたたちはここで……」


そういって私たちの前を去ろうとするマリー……えっと、鞠莉さんに、


曜「ちょっと待ってください!」


曜ちゃんが食い下がる。


鞠莉「?」

曜「さっきあの変なのが持ってたボールに入ってるのが、私たちが貰う予定だったポケモンなんですよね?」

鞠莉「ええ、そうだけど」

曜「それなら……取り戻すの私たちも手伝います!」

鞠莉「え、ダメよ。あなたたち、新人Trainerでしょ? 野生のポケモンに会ったらどうやって戦うの?」

千歌「あ、私たちポケモン持ってますよ! 家族に借りた子だけど……」


私はそう言って、さっきボールに戻した、しいたけ入りのモンスターボールを取り出し放る。

ボン、という特有の音と共にしいたけがボールの外に飛び出してくる。


 「ワフ」

鞠莉「……見たことないポケモンなんだけど」

千歌「ト、トリミアンです!」

鞠莉「Furfrou...? トリミアンってもっと、精悍とした顔つきだったと思うんだけど……」
 (*Furfrou=トリミアンの英名)

千歌「ちょっと、この子はのうてんきな性格なんで!」

鞠莉「Hmm...? まあ、手持ちがいるなら、付いてくるのは構わないけど……あなたは?」


鞠莉さんは今度は曜ちゃんに尋ねる。
12: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 13:48:53.63 ID:WoQi+oWD0

曜「あ、はい! ラプラスー!」


海に向かって名前を叫ぶと

 「キュゥー」

少し遠目の海岸にラプラスが顔を出したのが見える。


曜「ラプラスがいます!」

鞠莉「なるほど……」

曜「どっちにしろ、さっきのポケモン……? アワシマの外に飛んで行きましたよね? それなら海を渡る手段が必要だと思います!」

鞠莉「Hmm...OK. じゃあ、すぐに身支度済ませてくるから、二人とも海岸で待っててくれる?」

千歌「はい!」

曜「了解であります!」





    *    *    *





──アワシマの浜辺にて。


千歌「なんか大変なことになっちゃったね」

曜「あはは、そうだね……」

千歌「さっきの……南の方に飛んで行ったよね。あれってポケモンなのかな?」


これから海の上を運んでくれるラプラスを撫でながら、ぼんやり呟く私に、


鞠莉「──半分ポケモンよ」


研究所の方から戻ってきた鞠莉さんがそう答える。


千歌「半分?」

鞠莉「……あれはロトムって言うポケモンなんだけど。家電に住み着くゴーストタイプのポケモンなの」

曜「ロトム? 千歌ちゃん知ってる?」

千歌「うぅん……知らない」

鞠莉「ちょっと珍しいポケモンだからねぇ……。最近カロスの方で開発された、ポケモン図鑑とロトムを一体化させた、ロトム図鑑って言うものの話を聞いて私も試してみたんだけど……」


聞きなれない単語の羅列に私は眉を顰めた。


千歌「ポケモン図鑑……? ロトム図鑑……??」


カロスって言うのは地方のことだってわかるけど……確か、しいたけ──じゃなくて、トリミアンが主に分布してる地方だったよね。

説明を聞きながら、私たちはラプラスの背に乗る。


鞠莉「あ、えーっと……後で話そうと思ってたんだけど、ポケモン図鑑。自動で出会ったポケモンたちのデータを登録してくれる、ハイテクな図鑑よ。今回初心者Trainerを集めたのも、この図鑑のデータを収集してもらうためだったんだけど……」

曜「じゃあ、もしかして、半分ポケモンって言ってたのは……」

鞠莉「ええ、あなたは察しがいいのね。ポケモン図鑑を乗っ取ったロトムよ」


話を聞いていて、私はあることに気付く。
13: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 13:51:14.55 ID:WoQi+oWD0

千歌「え、それじゃもしかしてそのポケモン図鑑……って言うのも持ってかれちゃったってことですか?」

鞠莉「ああ、それなんだけどね。あなたたちの分はここにあるわ」


そう言って鞠莉さんが私たちにそれぞれ橙色と水色の板状の端末を差し出してくる。


曜「え、じゃあさっきのって……」

鞠莉「あれはわたしの……ついでに言うならロトムもわたしの手持ちなんだけど……なまいきな上にイタズラが好きな子でね……」

千歌・曜「「…………」」


私たちは思わずジト目で鞠莉さんを見つめる


鞠莉「何、その目は?」


軽く頭を掻いてから、鞠莉さんは頭を振って、言葉を付け足す。


鞠莉「……コホン。とりあえず、あなたたちのポケモン図鑑。ここで渡しておくわ。ホントは使い方も含めて研究所で教えるつもりだったんだけど……これがあるとポケモンバトルも便利になるから」

曜「便利、ですか?」


私は橙色の図鑑を、曜ちゃんは水色の図鑑をそれぞれ受け取る。


鞠莉「取り急ぎだけど……スライド式になってるから、画面を出して液晶を押してみて?」

千歌「ここですか?」


言われたとおり、図鑑の開いて、液晶を押す──と


 『トリミアン ♀ Lv.15』


というデータが表示されていた。


鞠莉「……さっきの子、ホントにトリミアンだったのね」

曜「私のラプラスは……Lv.20って表示されてる」

鞠莉「この通り、図鑑があれば、自分の手持ちや周りにいるポケモンの詳細なデータがわかるわ。ポケモンの強さ、使える技とかもね。きっと戦闘の役にも立つと思うから、うまく使ってね」

千歌「あ、ありがとうございます」

鞠莉「ついでに……わたしの図鑑が発している固有電波も登録しておいたから、マップを開くと表示されると思うんだけど」

曜「あ、ホントだ」


言葉に釣られて、曜ちゃんの図鑑を覗き込むと、確かにマップが表示されていて、アワシマから少し離れた場所で赤く点滅している表示がある。


鞠莉「そこにロトム……とわたしの図鑑があるってことね。……よりにもよって面倒くさいところに逃げ込んでくれたわね」

千歌「ここって……」

曜「うん……」


曜ちゃんと二人で顔を見合わせる。


千歌「クロサワの入江ですよね」

鞠莉「あはは……さすが地元民。詳しいわね」


──クロサワの入江。

ウラノホシタウンの西端にある入江で、地元の人でもほとんど立ち入り禁止の場所だ。
14: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 13:52:47.10 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「うーん……ここはちょっと手が出し辛いわねぇ……。まあ、止むを得ない、か……」

曜「あんまり地元の人も近付かない場所だけど、大丈夫かな……?」

千歌「でも、どっちにしろ入江の奥に逃げちゃったんなら、行くしかないよっ」

鞠莉「……そうね、あそこの入江は水上からの出入り口は一つしかないし。むしろ、これ以上逃げる道がないと言う意味では助かるか……」


鞠莉さんはそんな言葉に付け加えるように、ボソリと、


鞠莉「──後でうまい言い訳考えておかないといけないわね」


そんなことを呟いていました。





    *    *    *





──クロサワの入江。


曜「……ここかぁ」

千歌「相変わらず、おっきな入江だね」


海岸の崖に出来た大きな横穴からは、海水が流れ込んでいて、中も水に浸かっている。


鞠莉「奥の方に行けば陸があるわ。そこまでラプラスで進んでもらっていい?」

曜「あ、はい。ラプラス」
 「キュ」


ラプラスの背に乗ったまま洞窟を進んでいく。


千歌「鞠莉さん、入江の中、詳しいんですか?」

鞠莉「ん、まあ、前に調査で入ったことがあるから」

曜「地元の人でもあんまり入らないのに……」

鞠莉「一応研究者だしネ。ここの野生ポケモンは基本臆病だから、考えなしに近づくなとは言われてるんだけど……」


そんな鞠莉さんの言葉を耳の端に捉えながら、入江の洞窟を見回していると、


千歌「……?」


私の視界にキラリと光る物が飛び込んでくる。


千歌「なに? ……宝石?」


洞窟の壁や天井に小さな宝石のようなものが……


曜「い、いや、あれ動いてない?」


曜ちゃんに言われて気付く。確かに僅かにぷるぷると震えている気がする。


鞠莉「ふふ……早速役に立ちそうね♪ 二人とも図鑑を開いてみて」

千歌「え、あ、はい」
15: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 13:54:22.51 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんに促されて、二人で図鑑を開く。


 『メレシー ほうせきポケモン 高さ0.3m 重さ5.7kg
  身にまとう 宝石は 多種多様な 種類が ある。
  また その宝石の 種類によって 性格が 異なる。
  地の底には メレシーの女王が暮らす 国があるという。』


図鑑にはそう表示されていた。


曜「宝石はポケモンの一部……あれ、もしかしてメレシー?」

千歌「先生とかルビィちゃんが持ってるポケモンだよね。……ウラノホシのおとぎばなしにもよく出てくるし」


ウラノホシにある御話には何故かこの宝石ポケモンがよく出てきます。

それがメレシーです。

小さい頃から、メレシーは大切にしなさいと、おじいちゃんおばあちゃんたちから口酸っぱく言われて育った記憶があります。


鞠莉「Yes. ここクロサワの入江はCarbink──メレシーの群生地なのよ」
                (*Carbink=メレシーの英名)


ここは洞窟だから、奥に進むほど外からの太陽の光が入ってこなくなるため、キラキラと光るメレシーたちの宝石の光がより一層眩く見える。

それはまるで星空のようで──


千歌「綺麗……」


私は思わず、そう呟いていた。


鞠莉「夜に宝石に溜め込んだ、月の光が漏れ出しているから、暗い洞窟の中でも光って見えるのよ。強い個体だと、その溜め込んだ光を一瞬で外に解き放つ“マジカルシャイン”って言う技が使える子もいるわ」

曜「へぇー……」

鞠莉「それと……わかるかしら、メレシーたちの光の色がそれぞれちょっとずつ違うんだけど」

千歌「あ、ホントだ! あの子は青……あっちは赤」

曜「あっちは緑に、黄色……水色……ピンクの子もいる」

鞠莉「本来は水色から透明の水晶を身に纏っているんだけど、ここクロサワの入江のメレシーは特別で、いろんな宝石を身に纏っている個体がたくさんいるのよ」


まるで夜空に輝く七色の星のようなその光景に私と曜ちゃんはうっとりしてしまう。


鞠莉「……すごく綺麗なんだけど、こんな見た目だから、悪い人からしたらいい獲物になっちゃうの。見てのとおり、普段は体を岩にすっぽり嵌めて、大人しいから尚更ね。だから、ここは基本的に立ち入り禁止なのよ」

曜「そうだったんだ……」


幼い頃から近づいちゃいけないと言われていた、この場所だけど。そんな理由があったんだ……。


千歌「それにしても、鞠莉さん! ホントに博士なんですね! すごいポケモンに詳しい!」

鞠莉「あはは、ありがと、千歌っち。でも、わたしもまだまだ未熟でね。……こんな事態になっちゃったのもわたしのせいだし……」

曜「そ、そんなこと……」

鞠莉「ふふ、二人ともそんなに気を遣わなくて良いのよ? わたしこう見えて歳もあなたたちと一つしか変わらないのよ? トレーナー歴で言うならかなり先輩かもだけど」

千歌「え、そうなんですか?」

鞠莉「若い新人女性博士だなんて持て囃されるけど……その実は経験不足な若輩者なのよ。だからこそ、今回あなたたちに旅に出ることをお願いしたのだけれど」

曜「鞠莉さん……」

鞠莉「……って、新人Trainerちゃんたちにする話じゃなかったわね! 早くロトムひっとらえて、研究所に戻りましょう」

千歌「は、はい」
16: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 13:55:29.49 ID:WoQi+oWD0

ラプラスの背に揺られ、私たちは幻想な七色の星空を見ながら、ゆっくりと入江の奥へと進んでいく。





    *    *    *





鞠莉さんの言ったとおり、洞窟の奥に進むと陸が顔を出していた。

私たちはラプラスから降りて、洞窟の地面に足を下ろす。


曜「ロトムは更に奥に逃げ込んだみたいだね……。ラプラス、ちょっと窮屈かもしれないけど、ごめんね」
 「キュゥ」


曜ちゃんがそう言いながらボールにラプラスを戻す。

私は改めて洞窟を見回してみる。

薄暗い洞窟の中だけど、依然キラキラと光るメレシーたちが、天井に張り付いてぷるぷると震えているため、洞窟内は常に七色の優しい光に包まれている。

辺りには私たちが入ってきた場所同様、海から続いているのか波打つ水辺がいくつかあるけど、陸地自体はしっかりとした足場になっていて、歩いて探すのに不安はなさそう。

──ふと、そんな探索の視界の中に赤い欠片のようなものが落ちているのを見つける


千歌「ん、あれ……?」


私はそれに小走りで駆け寄って拾う。


鞠莉「モンスターボールの破片ね……」


私が手に取ったそれを、横から覗き込んで鞠莉さんがそう呟く。


曜「どうしてこんなところに?」

鞠莉「Hmm...」


曜ちゃんの言葉を受けて、鞠莉さんが辺りを見回す。


鞠莉「……二人とも、あそこを見て」


何かを見つけたのか、鞠莉さんが指を差して、私たちを促す。


千歌「……穴?」

曜「穴というか……窪み?」


鞠莉さんが指差した先には幅30cmほどの幅の窪みが壁に空いていた。


鞠莉「たぶん、ふらふら飛んでるロトムがあそこに嵌ってたメレシーにぶつかったんだと思うわ」

千歌「あ。あれって、メレシーが嵌ってた窪みなんだ!」

鞠莉「Yes. 個体によるけど……メレシーの特性は“がんじょう”だから、運悪くボールがぶつかって砕けちゃったんだと思うわ。ぶつけられたメレシーはびっくりして奥に逃げちゃったんだと思うけど……」


私の手からボールの破片を摘みあげて、鞠莉さんはそう言う。


千歌「え……そ、それじゃ中のポケモンは……」

鞠莉「たぶん外に放り出されてると思うわ。参ったわね……」

千歌「! ……しいたけ!」
17: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 13:57:36.84 ID:WoQi+oWD0

私は腰からボールを取り出して、しいたけを外に出す。


 「ワフッ」
千歌「鞠莉さん、その破片もう一度貸してもらえますか?」

鞠莉「え、うん。いいけど……」


私は再度ボールの破片を受け取って、しいたけの前に置く。


千歌「しいたけ、“かぎわける”」
 「ワフ」


私の指示でしいたけはくんくんとボールの欠片の臭いを嗅ぐ。


 「ワフ」


しいたけが一回吼えてから、地面を嗅ぎながら歩き出す。


鞠莉「ち、千歌っち?」

千歌「たぶん、しいたけなら外に飛び出しちゃった子の臭いを嗅いで見つけられると思うんで! 曜ちゃんと鞠莉さんはロトムを探してください!」

鞠莉「で、でも……」

曜「鞠莉さん、ここって危険な野生ポケモンとかもいるんですか?」

鞠莉「……たまにSableyeが出るとは聞くけど……基本的にはメレシーだけよ」

曜「じゃあ、千歌ちゃんに任せましょう。千歌ちゃん、しいたけ、お願いねー!」

千歌「任せて!」
 「ワフッ」


私はガッツポーズを作ってから、洞窟の奥へと歩を進めていきます。





    *    *    *





鞠莉「ホントによかったの?」


鞠莉さんが私に尋ねて来る。


曜「ターゲットが二手に分かれちゃったなら、その方が都合がいいかなーって」

鞠莉「千歌っち、一人にしちゃって心配じゃないの? 幼馴染なんでしょ?」

曜「心配じゃないわけじゃないですけど……。でも千歌ちゃんはこういうとき、どうにかしちゃうんです」

鞠莉「どうにか?」

曜「子供の頃二人でトレーナーごっこって言って、町の外まで出てたことがあったんですけど……そのとき、たまたまオニスズメに襲われたことがあって」

鞠莉「……」

曜「そのとき、私ビックリしちゃって、あれだけ大人にポケモンを持たずに外に出るなって言われてたのに……どうして言うこと聞けなかったんだろうって……すっごい後悔しながら逃げ回ってたんだけど」

鞠莉「だけど……?」

曜「オロオロしてる私の前で、千歌ちゃんったらオニスズメに自分の羽織ってる上着被せて、身動きを取れなくして……」

鞠莉「それは……なんというか、度胸があるというか、無鉄砲と言うか……」

曜「まあ、結果としては、オニスズメが怒って仲間を呼んじゃって、結局群れに囲まれて更にピンチになったんですけど……」

鞠莉「Oh... よく無事だったわね」

曜「あはは……千歌ちゃんのお姉ちゃんが駆けつけてくれて、しいたけと一緒に追い払ってくれたんです」
18: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 13:58:48.69 ID:WoQi+oWD0

その後、結局すごい怒られたんですけど、と私は笑いながら付け足す。


曜「でも、あのとき千歌ちゃんにどうしてあんなことしたのって聞いたら、こう言ったんです」

 千歌『チカも怖かったけど……曜ちゃんに何かあったら嫌だったから』

曜「千歌ちゃん、誰かが困ってたら放っておけないんです」

鞠莉「……」

曜「それが人でも、ポケモンでも放っておけない。千歌ちゃんってそんな人なんです」

鞠莉「……なるほどね」

曜「それで今回もどうにかしてくれる──と言うか止めても聞かないんじゃないかなって……まあ、今回はしいたけも一緒だし」

鞠莉「……確かにどちらにしろ、二手に分かれる必要はあったから、間違った選択ではないのだけれど……」


鞠莉さんの話を聞きながら、私は図鑑の表示を見て足を止めた。


曜「──鞠莉さん」

鞠莉「? What ?」

曜「近くに……います」


私はサッと図鑑の画面を鞠莉さんに見せる。

図鑑に表示されたマップには自分たちの現在位置を示すアイコンと、追いかけているロトム図鑑の赤い点滅が重なっていました。





    *    *    *





千歌「迷子のポケモンくーん?」


私はしいたけの後ろを付いていきながら、反響する洞窟内で声をあげる。


千歌「うーん……せめて、どんな名前かくらい、聞いて置けばよかったかな」


ロトムが手に持っていたのは両の手にボールを1個ずつ。それなら、2匹のうちのどちらかが今現在、迷子になってる子だと思う。

鞠莉さんなら、もちろん何のポケモンかは知ってるはずだから、それさえ聞けば……。


千歌「まあ、名前聞いただけじゃ、どんな見た目かわからないけど……ん?」


──ガンガン、

何か硬いものを打ち付けるような音が聴こえてくる。

その音を、辺りを見回しながら探していると──大きな岩の割れ目に、ガンガンと身体をぶつけているメレシーを見つける。


千歌「あわわ……なんかすごい頭ぶつけてる……」
 「ワフ」

千歌「もしかして、ロトムにボールをぶつけられて、逃げてきたメレシーかな?」
 「ワォ…?」


そんな風にしいたけと会話していると、

 「メ…」

メレシーと目が合う。
19: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:01:23.53 ID:WoQi+oWD0

千歌「……?」


その目からは脅えてるような感じはしなかった。と言うか──


千歌「……怒ってる?」


次の瞬間、天井から──ゴッ、ゴッという重たい音が響く、


千歌「え、何……?」
 「ワオッ!!」

千歌「うわっ!?」


しいたけの声がしたかと思った途端、視界が揺れる。


千歌「し、しいたけ!!?」
 「ワフ!!」


気付くと私の身体を庇うように、しいたけが覆いかぶさっていた。

その上からは大小様々な石や岩が降ってきている。

──もしかして、メレシーに攻撃されてる!?


千歌「そうだ、図鑑!」


私はしいたけの下でうつぶせになりながら、ポケットに入れた図鑑を取り出した。

鞠莉さんはポケモンの技とかもわかると言っていた。メレシーの使ってる技を調べて対策を……。


 『メレシー 覚えている技 いわおとし』


千歌「“いわおとし”……!」


理由はわからないけど、メレシーが怒って攻撃してきている。

当のメレシーは完全に私たちを敵と認識したらしく、先程まで激しく頭を打ち付けていた、岩の窪にすっぽりはまってこちらに“いわおとし”をして来ている。


千歌「とにかく、どうにかしないと……!!」


遠距離攻撃でこっちの行動を封じられてるのが不味い。ならこっちも遠距離で……!


千歌「しいたけ! “つぶらなひとみ”!」
 「ワフ」


指示するとしいたけのもふもふの毛が軽く逆立って、目が露出する。

くりくりの目が。


 「メ…」


可愛い目で相手の戦意を削ぐ技、“つぶらなひとみ”

一瞬メレシーの攻撃が止む。


千歌「いまだよ! しいたけ、“たいあたり”!」
 「ワフッ!」


私の指示でしいたけが飛び出す。

大地を蹴って、
20: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:02:39.68 ID:WoQi+oWD0

 「メッ!!」


しかし、メレシーはすぐに正気に戻ったようで、しいたけに向き直って、岩を飛ばしてくる。

──“うちおとす”だ!!


千歌「しいたけ!」
 「ワフッ!!」


しいたけは私の声に反応して、首を一振り。飛んできた岩を頭で弾き飛ばす。

しいたけの特性“ファーコート”は防御を著しく上昇させる特性。

小さな岩くらいでは体当たりの勢いが止むことはない!

 「ワォ!!」

ゴツン!! と言う鈍い音がする。

しいたけの“たいあたり”が炸裂した──んだけど


 「メ…」


岩の窪みにすっぽり嵌った、メレシーはびくともしない。


千歌「しいたけ! 大丈夫!?」
 「ワフッ!!」


有り難い事にしいたけは、自慢のファーコートのお陰で堅い岩にぶつかってもダメージが跳ね返ってくることはない。

だけど……。


千歌「ここからどうしよう……」


完全に膠着状態だ。

そのとき──


 「ヒノ…」


戦っている真っ最中のメレシーの岩の下から、微かにだけれど……か細い鳴き声が私の耳に届いてきた。





    *    *    *





 「ロトトトトトト」


──洞窟の中に鳴き声が響く。


曜「研究所の前で聞いた鳴き声……!」

鞠莉「ロトム!! どこにいるの!? 出てきなさい!!」

 「いやロトー」


鞠莉さんの声に返事が返ってくる。──返事?
21: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:03:50.87 ID:WoQi+oWD0

曜「え、返事?」

鞠莉「要求は何!?」

 「週休8日制を要求するロトー あと、おやつを増やせロトー」

鞠莉「あんた、わたしの手持ちで一番おやつ食べてるじゃない!? いつもスターブライト号からポフィン横取りして!!」

 「あれは貰ってるだけロトー」

曜「理由しょうもなっ! というか、喋ってる!?」


機械の合成音声のような音で返って来る言葉が洞窟内に響き渡っている。


鞠莉「図鑑の機械音声を使って喋ってるのよ。コミュニケーションが取れるのはありがたいんだけど……なまじ頭がいいから、手に負えないわね……」

曜「鞠莉さんの手持ちなんですよね?」

鞠莉「むかしっから、なまいきな子で困ってたのよね……あんまり懐かないし……」

曜「…………」


思わず再度ジト目になる。


鞠莉「……最後通告よ、ロトム。ゲコクジョーなんて無駄な考えやめて、出てきなさい」


鞠莉さんの声が、水気を含んだ入江の洞窟内で何度も反響する。

私も改めて洞窟内を見回して、ロトムの姿を探してみる。

随分奥まった場所まで来たけど、視界の端にはちらほらと別の場所から入り込んだ海水溜まりが目に入る。

さっき千歌ちゃんが探していた子が、その水溜りに落ちていたらと考えると少しぞっとするけど……。

そんなことを考えながら、ロトムを探して視線を彷徨わせていると──


 「い・や・だ・ロトー!」


突然そんな声と共に洞窟の岩がフワリと空中に浮かんだ。


曜「!? な、なに!?」


──いや、違う。浮かんだのは岩じゃない!!


曜「メレシーが飛んでる!?」

鞠莉「“テレキネシス”か……あくまで抵抗するっていうのね」


どうやら、鞠莉さんの口振りからすると、ロトムが“テレキネシス”という技でメレシーたちを浮かせたらしい。

 「ロトー!!」

ロトムの声と共にメレシーたちが一斉にこっちに飛んでくる。


曜「わわ!?」

鞠莉「出てきて、キルリア、ポリゴン」


そんな状況に臆することもなく、鞠莉さんは腰からボールを2つ放つ。


 「キルゥー!」「ポリリ…」


ボールから、飛び出したポケモンが方や元気な声をあげ、方や角ばったポケモンが静かな鳴き声で低空を浮遊しながら飛び出す。


鞠莉「キルリア! “ねんりき”!」
 「キル」
22: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:04:49.11 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんが指示をするとこちらに飛んできたメレシーたちが空中で止まる。


 「ロトトトト! 止められてしまったロト! でも、また逃げればいいロトー!」


再び声が響き渡る。


鞠莉「ふふ、ロトムったらおばかさんね~」

 「ロト…?」

鞠莉「せっかく隠れてるのに、“テレキネシス”で浮かせたメレシーをこっちに飛ばしてきちゃったら……飛んできた方向の先にいるって言ってるようなものよ?」

曜「あ、確かに……」


浮かび上がったメレシーはたくさんいたけど、それはほぼ私たちの前方で浮いていた。

それが私たちに向かって飛んできたということは、そのメレシーたちを挟んで向かい側にロトムは潜んでいるということで……。


 「ロ、ロト!?!?」


メレシーたちが飛んできた方向の先に向かって、鞠莉さんは指を指す。


鞠莉「ポリゴン! “じゅうりょく”!」

 「ポリ…!」


さっき指示を出さなかった角ばった方のポケモンが、一瞬鈍く光ったと思ったら、

──鞠莉さんの指差した方向の天井から板状の何かが落ちてきた。


 「ロ、ロトー!!」

曜「ロトムだ!」


左手……の様な部位にボールを1個持っている!


鞠莉「ロトム……よくも好き勝手やってくれたわね……」

 「ロ、ロトー! 来るなロトー!」


ロトムはポリゴンの重力を受けて、地面でばたばたとのた打ち回っている。


 「そ、そうだロト!! ポイー!!」

鞠莉「なっ」


ロトムは思いついたかのように持っていたボールを投げ捨てる


曜「あ……!」

 「さぁ、マリー早くボールを追いかけないとロトー」

鞠莉「次から次へと……!!」


そのボールはカツンカツンと音を立てながら転がり、入江内の洞窟に出来た大きな海水溜りへ──


曜「ま、まずい……!!」


私は思わず飛び出した。

──“じゅうりょく”下だから、このままだとボールが沈んでしまう。
23: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:05:36.74 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「よ、曜っ!?」

曜「鞠莉さんはポケモンへの指示を!」

 「ロト!? 邪魔するなロトー!!!?」


私はロトムの脇にある海水溜りに一直線に走る。

──走る。

だが、転がったボールは縦穴の中にコロコロと

転がって……。

ポチャン──


曜「……!!」


私は思わず腰からラプラスのボールを穴に向かって投擲する。

 「キュウゥー!!」

ボールから飛び出したラプラスが本当にギリギリ入れるくらいの穴。


曜「ラプラス!! 潜れる!?」
 「キュゥー!!」

曜「よし、いくぞー!!」


私は走りの勢いのまま、水へ飛び込んだ。


鞠莉「曜、待って──!!?」


飛び込む最中に、背後では鞠莉さんが、声をあげたのが聴こえた気がした。





    *    *    *


24: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:06:30.21 ID:WoQi+oWD0


──水の中は静かだった。

私はラプラスの背に掴まって、真っ直ぐに縦穴を潜っていく。

この狭い穴では、身体の大きなラプラスじゃ、水底に落ちたボールを拾い上げて浮上することは難しい。

そうなると──

私が助けなきゃ……!

海水の中で目を開ける。

──暗い。

ここにはメレシーがほとんどいない。

つまりほとんど光源がない。

いわタイプは水の中は苦手だからかな。

私の中で焦りが芽生える。

見切り発車過ぎたかもしれない。

──でも、私も助けたい。

無鉄砲に皆を助ける幼馴染のように。

……ラプラスが止まる。

水底に着いたようだ。

私はラプラスの身体を伝いながら、水底に手を伸ばす。

手で探る。

手繰る。

でも、私の手は砂や岩肌を攫うばかりで、ボールが見つからない。

──お願い。

お願い。

息が苦しくなってくる。

お願い、お願いだから──。

──コツン──

水底を攫う指に何かが当たる。


曜「……!!」


私はソレを掴む。

後は戻──。


 「メレ!!!」


瞬間、何かの鳴き声と共に、目の前が突然激しく光る。


曜「──!!!??!?」


私は驚いて、思わず水中で息を吐いてしまった。


曜「……がぼっ……!!」
25: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:07:15.33 ID:WoQi+oWD0

口の中に海水が流れ込んでくる。

とてつもない塩気が口内を満たしていく。

──不味い。

不味い。

目の前が暗くなっていく。

息が──

…………。

だ……め……。

だめ……だ……!!

この子は……この子だけは……助け……る……!

手を伸ばす……。

ラプラス……この子だけ……でも……。

外に……連れて……。

手の中でボールが揺れている…………。

ごめん……わた……し……。

……。


──ボム。


落ちていく意識の端で──聞き覚えのあるような音を聞いた気がした。





    *    *    *





鞠莉「曜……!! 曜!!」


わたしは僅かに気泡の浮かぶ水面を覗き込んで叫ぶ。


 「ロ、ロト…ここまでするつもりじゃ……」


端で無責任な発言をしているロトムを振り返って、


鞠莉「ロトム!! 曜の図鑑サーチ!!」
 「ロトト!?」


指示を出す。


鞠莉「早く!!」

 「た、たぶん縦穴の底に……」

鞠莉「そ、そんな……」


絶望的な言葉。わたしは……わたしはなんてことを……。


鞠莉「今いくから……!!」
26: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:08:25.68 ID:WoQi+oWD0

白衣を脱いで、海に飛び込もうとする。

 「キ、キルゥー!!」

キルリアが腰にすがりついてくる。


鞠莉「キルリア!! 放しなさい!!」

 「無理ロト…人間が一人で潜るのは」

鞠莉「じゃあ、曜はどうなるの!!? わたしが、わたしが連れてきたから……!!」


わたしは思わずへたり込む。


鞠莉「何が……何が博士よ……。何も、何も出来てないじゃない……!!」

 「ロト…」

鞠莉「……一番足引っ張ってるの……わたしじゃない……」

 「……マリー……。……!! 図鑑の反応!!」


突然ロトムが声をあげた。


鞠莉「!?」

 「どんどん昇ってくるロト!!」


ロトムの言葉と共に

水面から──何かが顔を出した。


 「ゼニィー!!」

鞠莉「ゼニ……ガメ……」


その水面からは水色のカメポケモン──曜か千歌に渡すはずだった最初のポケモン。

そして、飛び出したゼニガメの頭上には──


曜「…………ぅ……」

鞠莉「……曜!!」


わたしはすぐに、ゼニガメの掲げた両腕の上に持ち上げられている曜を、水から引っ張りあげる。

曜は気を失い、ぐったりとしていた。


鞠莉「曜!! 曜!! しっかりして!!」

曜「ぅ……げほっげほっ……」


ちゃんと、息はある……!!


鞠莉「曜……!! よかった……!」

曜「ぅ……鞠莉……さん……私……」

鞠莉「もう……!! あんな無茶して……!!」

曜「……光って、溺れ……て……あ……、……あれ……“マジカルシャイン”……かな……? 私……助かって……? ……ラプ……ラス……?」
27: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:09:46.41 ID:WoQi+oWD0

途切れ途切れな言葉で曜はラプラスに呼びかける。

気付くと水面に上ってきたラプラスが曜に首を伸ばして、曜の顔に頬ずりをしていた。

 「キュゥゥ…」

そして、ラプラスは首を振る。


曜「じゃあ、誰が……」


曜が力なく辺りを見回すと。

 「ゼニィ」

ゼニガメが水から出て、曜の傍に寄り添ってくる。


曜「あ……そっか、君が、助けてくれたんだ……」
 「ゼニ」

曜「あはは……君、みずタイプだったんだね。……じゃあ、最初から大丈夫だったんだ」
 「ゼニィ…」


そうやり取りする一人と一匹を見て、わたしは驚きを隠せなかった。


鞠莉「ゼニガメ……どうやってボールから……」

 「……感情を強く揺さぶられたポケモンが、思わず自らボールを飛び出す、と言うのはよく聞く話ロトー」


わたしの疑問にロトムが勝手に答える。


曜「……ゼニガメ……ありがと」
 「ゼニ」


曜の助けたい気持ちを感じたゼニガメが、逆に曜を助けるためにボールから飛び出した……。


曜「えへへ、よかった……」


曜がくたりとする。


 「ゼニィ…!」 「キュゥ…」

曜「ごめん……少し疲れた……だけ、だから……。……」


そういって、曜は静かに寝息を立て始めた。

わたしはさっき脱ぎ捨てた白衣を拾って、曜の体に掛ける。


 「いい話ロト…」


未だ重力の影響を受けたまま、地面で感動しているロトムを見下ろす。


鞠莉「……あなた、これで丸く収まったと思ってる?」

 「…ロト!?」

鞠莉「わたしも甘やかしすぎた……今後こんなことがないようにしないとね」

 「ぼ、ぼぼぼ、暴力反対ロト…!!」

鞠莉「…………言い残したことはそれだけ?」

 「……。……仕方ないロト。罪を償う……ロト」


ロトムが潮らしく萎縮する。
28: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:11:00.64 ID:WoQi+oWD0

 「なんて言うと思ったロト!?」


──刹那、わたしに両手を向けて、攻撃の態勢を取った。

“10まんボルト”の姿勢。

──……残念ながら、不発したけど。


 「ロ、ロト!? な、なんで攻撃が出ないロト!?」

鞠莉「ふふ、ロトム。せっかくの図鑑機能なんだから、それ使ってキルリアの技を確認してみなさい」

 「? キルリアの技なら、“ねんりき”、“でんじは”、“10まんボルト”、“ふういん”。……“ふういん”?」

鞠莉「“ふういん”ってどんな技でしょうか?」

 「そんなの簡単ロト! 自分が覚えてる技が周りのポケモンも使えなくなる……ロ…ト…」

鞠莉「はい、よく出来ました♪ さすがポケモン図鑑ね♪」

 「“テレキネシス”!! “テレキネシス”!!」


ロトムが叫ぶ。


鞠莉「まだポリゴンが“じゅうりょく”を発動中だから、“テレキネシス”は使えないわよ」

 「マリー、仲良くしようロト」


わたしはロトムにニッコリと微笑みかける。


 「鞠莉ちゃん」

鞠莉「ロトム」

 「鞠莉様」

鞠莉「少し頭を冷やしなさい。ポリゴン“シグナルビーム”」
 「ポリッ」


ポリゴンから七色のビームが発射して、


 「ロドドドドドド!!!?!!」


洞窟内にロトムのイルミネーションが眩くShinyした。





    *    *    *





しいたけとメレシーが頭を押し付けあって、膠着している中。


千歌「い、今の鳴き声、まさか……!?」


私はメレシーの岩の下に目を向ける。

──最初あのメレシーを見つけたとき、ガンガンと岩の隙間に向かって突進していたのを思い出す。


千歌「……攻撃してたんだ……」


自分にぶつかってきた、他所から来たポケモン。ボールから飛び出してきたポケモンに怒って……!!


千歌「じゃあ、あの下には!!」
29: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:12:07.33 ID:WoQi+oWD0

私は思わず、走り出す。

そして、岩にくっついて声をあげる。


千歌「ごめん……!! ずっと一人で逃げてたんだね……!!」


岩の隙間に向かって。


 「メ…!!」


突然視界に現れた私の姿に、メレシーが驚いて攻撃の姿勢を取る。

 「ワフッ!!」

──ガスン!!

それを止めるように、しいたけが頭を振って、メレシーに“ずつき”をしてひるませる。


千歌「今、助けるからね……!!」


私はメレシーの下に空いた僅かな岩の隙間に手を入れようとする。


千歌「せ、狭っ……」


けど、ギリギリ腕は入る。

私は隙間の中を手で手繰る。

すると──ふわりとした感触に当たる。


 「ヒノ…!!」


感触と共に鳴き声がした──と思った、その瞬間。


千歌「熱っ……!!」


──ボフっと、小さく“ひのこ”が爆ぜた。

 「ワフッ!!」

千歌「……大丈夫。しいたけ、もうちょっと」
 「ワフ!!」


しいたけは私の言葉に応えるように、今度は“かみつく”でメレシーをひるませる。

それを確認してから、私は岩の隙間に向かって、出来るだけ優しく声を掛けた。


千歌「ごめんね……。研究所にいたのに、突然こんなところ連れてこられて……初めて見る野生ポケモンに追いかけられて、怖かったよね……」
 「ヒノ…」

千歌「震えてたね……すっごい怖い思いしたんだよね……。ごめんね。もう少し早くチカたちが研究所に来てれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに」
 「…………」

千歌「……でも、もう大丈夫だから……今助けるから……!!」

 「…メェ!!」


──その瞬間、突然メレシーが激しく“フラッシュ”した。

全く警戒していなかった為、激しい光によって至近距離で目を焼かれる。


千歌「い゛……!!!」


思わず声をあげそうになったけど──
30: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:13:22.09 ID:WoQi+oWD0

千歌「……ぐっ」


堪える。


 「ワンッ!!」

千歌「しいたけ……大丈夫……!!」


私はしいたけを落ち着かせる。

かくいう、しいたけは無事のようだ。普段から目が隠れてるのが功を成したのかも。

私は霞む視界のまま、再び岩の割れ目に手を伸ばす。

切り立った岩肌で、手や腕に引っかき傷が出来るのを感じる。

でも、伸ばす。

私がここで痛がったり、大声をあげたら、この子が不安になっちゃうから。

今怖がってるこの子を不安にさせちゃいけない。

今この手を引っ込めるわけにはいかない。

だって、だって──


千歌「私はキミのパートナーだから……!!」
 「ヒノ…!」


再び柔らかい感触が手を撫でる。


千歌「これからは……私が守るから……!!」


撫でた手の先で……キミの震えが止まる。


千歌「私の言うこと……聞いてくれる……?」
 「ヒノ…」


岩の隙間で丸まったキミが、僅かにもぞもぞと動くのがわかった。

……今度は熱くない。


千歌「ありがとう……」


私は岩の隙間からそっと手を引き抜いて。


千歌「──私が合図したら、さっきの炎で思いっきり!! できる!?」
 「ヒノォー!!」


私の指示に呼応するように鳴き声が響く。


千歌「よし、しいたけ!! “ほえる”!!」
 「ワォンッ!!!!」


しいたけが大きな声が吼えると、

 「──!!!?」

驚いたメレシーが一瞬勢いを止める。


千歌「いまだよ!! 思いっきり!!!!」


私は叫んだ、私のパートナーに向かって、
31: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:14:10.49 ID:WoQi+oWD0

 「ヒノォーーーーーー!!!!」

 「メメメ──!?!?!!!?」


メレシーの直下の岩が赤く光ったと思った直後

そこから激しい炎柱が立ち上り、

 「メェーーー!!!?」

メレシーを打ち上げた。


千歌「いっけぇーーーー!!!」


まるで“ふんか”のように噴出すその炎は

 「ヒノォオオオオオ!!!」

私の声に呼応するように更に勢いを増して、


 「──!!!!!!!?!?!?!?」

そのまま、メレシーを天井まで突き上げた。

メレシーはガスン、と鈍い音を立てながら天井にぶつかった後、

 「メ…レ…」

床に落ちて、目を回してひっくり返り、大人しくなった。


千歌「……か、勝った……」


私はよろよろと岩の隙間に近づいて、手を伸ばす。

炎の余熱で少し熱かったけど、それよりも今は……。


千歌「ありがとう……キミのお陰で勝てたんだよ……」


岩の隙間で丸まっているキミを抱き上げた。


 「ヒノ…」


もふもふとした、キミを抱き上げて。


千歌「帰ろっか」


優しく撫でながらそう語りかけた。


 「ヒノ…」


キミはもぞもぞと丸まった体を伸ばして、顔を出す。


千歌「ふふ、キミの目もしいたけみたいだね」


可愛らしくつぶったままの目を見て、私は思わず笑ってしまった。





    *    *    *


32: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:15:06.67 ID:WoQi+oWD0


鞠莉「千歌っちーーー!!」


鞠莉さんの声が遠くから聞こえてくる。


千歌「あ、鞠莉さーん!! こっちー!!」


声をあげると鞠莉さんが、曜ちゃんをおんぶしたまま、私の元に走ってくる。


千歌「って、よーちゃん!?」

鞠莉「気を失ってるだけよ。それにしても、よかった……。爆発音が聴こえたから、心配したのよ?」

千歌「あ、えへへ、ごめんなさい……」

鞠莉「もう煤だらけじゃない……」


鞠莉さんは私の身体についた黒い煤を見てから、


鞠莉「……無事見つかったみたいね」


私の腕の中にいる子を見て、そう言った。


千歌「はい。……ちょっと怖い思いさせちゃったみたいだけど……」
 「ヒノ…」

鞠莉「……大丈夫よ」

千歌「?」

鞠莉「だって……“おくびょう”な性格のヒノアラシが、今あなたの腕の中でそんなに安心してるんだもの……」


鞠莉さんはそう言ってから、私に向き直って。


鞠莉「千歌……本当にありがとう……」


そうお礼を言ってくれました。


千歌「えへへ……はい!」





    *    *    *





曜「ん、んぅー……」

千歌「あ、曜ちゃん!」


入江の外へ繋がる海の上をラプラスで航行している最中、曜ちゃんが目を覚ます。


曜「あ……千歌ちゃん……」

千歌「曜ちゃん、お疲れ様」

曜「うん……あ、あれ? ゼニガメは……」


曜ちゃんが半身を起こして、辺りをキョロキョロとする。
33: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:16:25.76 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「大丈夫、そこにいるわ」


鞠莉さんが曜ちゃんの視界に入るように視線で、水面の方を指す。

そこではゼニガメが、辺りを警戒しながら泳いでいた。


曜「あはは、まだ警戒をしてくれてるんだね。……ありがとーゼニガメー!!」


曜ちゃんが声を掛けると、気付いたゼニガメが背面泳ぎになって

 「ゼニー」

曜ちゃんに向かって手を振る。


曜「……あ、そうだ! 千歌ちゃんの方は──」

千歌「うん、大丈夫。ほら」
 「...zzz」


私の腕の中でのんびりお昼寝をしている、ヒノアラシを見せる。


曜「ほっ……よかったぁ……」


それを見て、曜ちゃんが安堵する。

間もなく、入江の外が近くなってきて、外の光が洞窟の中に差し込んできた。

そのとき、


鞠莉「二人とも……」


突然、鞠莉さんが立ち上がった。


鞠莉「……今回は本当にごめんなさい。わたしの不手際のせいで……危ない目にあわせてしまって」


鞠莉さんはそう言って頭を下げる。


千歌「い、いや、付いていくって言ったのは私たちですし……!」

曜「そうですよ! それにロトムを止めたのも鞠莉さんだったし……」

鞠莉「そういう問題じゃないの……これは大人として、ちゃんと反省しなくちゃいけないことだから……」


依然、頭を下げて謝罪する鞠莉さんを二人で必死にフォローしようとしていると──


 「──全くその通りですわ」

千歌・曜「「!?」」


入江の外から、洞窟内に向かって、聞き覚えのある声が木霊した。

声のする方に目を向けると、細長い体躯で海を悠然と泳ぐポケモンの上に、毅然と立ちながら黒いロングの髪を潮風にはためかせて、こちらを見据える女性が一人。


 「……事情を説明して頂けるかしら? オハラ博士?」

鞠莉「...Oh. 思ったより早かったわね……」


──私と曜ちゃんはその光景を見て、思わず顔を見合わせて声をあげてしまった。


千歌・曜「「──ダイヤ先生!?」」

34: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 14:17:44.91 ID:WoQi+oWD0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロサワの入江】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./             .●回/         ||
 口=================口



 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.6  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:7匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.5  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:2匹


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



35: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 17:52:25.74 ID:WoQi+oWD0

■Chapter003 『オハラ研究所』





ダイヤがこちらに向かって鋭い眼光を向けている。

長い付き合いだからわかるのだけど、あれは結構怒っているときの目だ。

参ったなぁ……だから、ダイヤにバレる前にSolution──解決しちゃいたかったんだけど。

良い言い訳も思い浮かんでないし……。


ダイヤ「わたくしの可愛い生徒達に何かあったら、どうするつもりでしたの? 回答によっては──」


ダイヤの冷たい声が響くと共に、ダイヤをここまで泳いで運んできたミロカロスが、トレーナーとシンクロするかのように冷たく睨みつけてくる。


千歌「ま、待ってダイヤさん!」

曜「これは私たちが勝手に付いて来ただけで……!」


二人が再びフォローを入れてくれるが、


ダイヤ「今は貴方達には聞いていません。これはあくまで監督者側の問題ですわ」


そう言って、一蹴する。Umm...相変わらずVery hardだネ……。まあ、その意見はわたしも概ね同意なんだけど。


鞠莉「……反省はしてるつもり。でもとりあえず、今はここを出てからにしない? 説教なら研究所で聞くから」

ダイヤ「…………。……はぁ……まあ、いいでしょう」


ダイヤは嘆息してから、ミロカロスに目配せする。

言葉を発さずとも察したミロカロスが、ラプラスの横に付けて併走──いや、泳いでるから併泳かしら?──しだす。


千歌「あ、あの……ダイヤ先生……」

ダイヤ「学校の外ですから、いつも通りでいいですわよ」

千歌「あ、はい、ダイヤさん」


先生と言ってもダイヤは千歌たちとは一歳差。

トレーナー歴ではかなりの先輩になるけど、基本は地元の幼馴染みたいなものだものね。


ダイヤ「それにしても……二人ともずぶぬれに煤だらけ……危険なことをしては、ダメではありませんか」

曜「ご、ごめんなさい……」

ダイヤ「はぁ……貴方達は二人揃って昔から無鉄砲でしたわよね……。お母様も貴方達の先生をやっている間は手を焼いたと言っておりましたわ」

千歌「うぅ……」


ダイヤは息をするように生徒達に説教を始める。


ダイヤ「ただまあ……」

千歌「?」
 「ヒノ……zzz」


ダイヤは千歌っちの腕の中で眠るヒノアラシと、
36: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 17:53:35.15 ID:WoQi+oWD0

 「ゼニガーー」


ラプラスの前方を警戒しながら泳ぐゼニガメに目を配らせてから、


ダイヤ「良き出会いに恵まれたようですわね」


優しい口調で二人に語りかける。


千歌「えへへ……」

曜「ヨーソロー!」


そんな三者の姿を見て、反省中にも関わらず、思わず笑ってしまう。


鞠莉「──ふふ……なんだかんだで、すっかり良い先生じゃない」


わたしはダイヤに聴こえないように、そんなことをこっそりと呟いたのだった。





    *    *    *





千歌「ところでダイヤさん」

ダイヤ「なんですか?」

千歌「どうやって、私たちが入江にいるってわかったんですか?」


私はダイヤさんに疑問をぶつける。


ダイヤ「噫……それはですね」


ダイヤさんがそう言って腰からボールを放る。

ボールからは、さっきから何度も目にしていたポケモンと同じ姿──


 「メレ…」

曜「あ、ボルツ」


──ダイヤさんの手持ち、メレシーのボルツが顔を出した。

その頭には目立つ真っ黒な宝石がキラキラと光っている。


ダイヤ「この子が教えてくれたのよ。この子がタマゴから孵ったのも、この洞窟だからかもしれないのだけれど……この洞窟で何かあるとすぐに気付くのよ」

千歌「そうなんだ……」

 「メレ…」


聞いてぼんやりと関心する私の傍にボルツがふわふわと近付いてくる。

学校では先生の手持ちとして、授業のサポートもしていた子なので、私も曜ちゃんも顔見知りなわけで……。

──でも、ここ最近は旅の準備で会ってなかったから、


千歌「ボルツ、久しぶりだね」


私はそう挨拶した。
37: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 17:55:49.07 ID:WoQi+oWD0

 「メレ…」


ボルツは軽く一鳴きすると、『千歌の反応は確認した』とでも言わんばかりに、ふわふわと私の傍から離れてダイヤさんの元へと戻っていく。


ダイヤ「ごめんなさい、相変わらずぶっきらぼうな性格でして……」

曜「あはは、なんかこの感じ懐かしいなぁ」

千歌「あ、そういえば……“ボルツ”の名前って」

 「メレ…?」


私は振り返って入江の洞窟の奥の方を見る。

出口に近付くほど数は減ってきたが、遠方に先ほど見た宝石の星達の瞬きが目に入る。


千歌「不思議な響きだなって、学校にいるころから思ってたけど……もしかして、その子の体の宝石に関係があるのかなって」

ダイヤ「……驚きましたわ。あの千歌さんがそのようなことに気付くとは……確かにボルツはこの子の宝石の種類が由来ですわ」

千歌「む、それどういうことですか」


私は先生の失礼な物言いに、怪訝な顔をする。

一方ダイヤさんは鞠莉さんの方をチラリと一瞥。

すると、鞠莉さんは、


鞠莉「まあ、一応これでも博士だからね? ちょっとした課外授業よ」


そうおどけて言う。


千歌「メレシーたち、いっぱいいるけど……皆、個性的に光ってて……もしかして、ダイヤさんのメレシーも……うぅん、ルビィちゃんのメレシーも琥珀先生のメレシーもニックネームがあったから、そこから付けてるのかなって」

曜「あー確かに……琥珀先生のオレンジの宝石のメレシーはそのまんま、アンバーだったもんね」

ダイヤ「ええ、その通りですわ。少し考えはしたのですが……何せわたくしの名前がダイヤでしたので、ダイヤモンドと付けるのも分かり辛いかと思いまして」

鞠莉「ブラックダイヤモンドって言う黒いダイヤのことをボルツって言ったりするのよ」

ダイヤ「そこから名前を貰って、ボルツと名付けました」

曜「じゃあ、ルビィちゃんのメレシーも?」


そう言う曜ちゃん。

ルビィちゃんの持っているメレシーは、コランと言うニックネームだ。


ダイヤ「ええ、コランもルビーの含有物のコランダムから名前を貰って、ルビィが自分でそう名付けたようですわ」

曜「へぇ……なんか学校のメンバー、花丸ちゃんと私以外、皆ニックネームの付いた手持ちがいるんだね……ラプラスにもニックネーム付ければよかったかな? ……ヨーソロー丸とか?」

千歌「そ、それはどうだろう……」

 「キュウゥゥ・・・」


曜ちゃんのネーミングセンスを聞いて、ラプラスも困り顔になる。


ダイヤ「ふふ……まあ、ニックネームですと、どのようなポケモンなのかは他の人には分かり辛くなってしまいますし。クロサワの家は代々メレシーも子へ継ぐと言う習わしがあるため、ニックネームがないと区別が出来ないから付けてるだけですのよ」


そんな話を聞いて、しいたけもそうなのかな? ……と、少しだけ思ったけど。

たぶん、トリミアンと呼んでも周りが混乱するからニックネームを付けていたんだろうな、などと思い私は一人で苦笑い。

──さて、そんな話をしながら気付けば、私たちは入江を抜けて、アワシマへと再び辿り着こうとしていた。

38: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 17:57:27.31 ID:WoQi+oWD0



    *    *    *





──さて、オハラ研究所に戻るや否や。

ダイヤさんは鞠莉さんを床に正座させ、


鞠莉「Seiza? ここ床なんだけど……」

ダイヤ「いいから正座なさい」


……正座させ、私たちをほっぽりだして、説教を始めました。


ダイヤ「今回のことに関して、貴方がどうしてもと頼むから、わたくしも承服したのですわよ? その辺り、わかっているのですか?」

鞠莉「……」


鞠莉さんが苦い顔をする。


ダイヤ「そうでもなければ、わざわざ危険な旅に自分の生徒を送り出すと御思いなのですか? 貴方は?」

鞠莉「それはわかってる……Sorry.」


鞠莉さんが再び潮らしく謝罪する。ただ、一方的に捲くし立てられるのが気に入らなかったのか、


鞠莉「……でも、ダイヤもこの話を持ちかけたときは喜んでたじゃない。生徒の門出だ、なんて言って」


そう呟く。


ダイヤ「……そ、そんなことあったかしら……?」


ダイヤさんは図星を指されたのか、少し赤くなってホクロを掻く──ダイヤさんが誤魔化すときの癖です。


ダイヤ「だ、第一、なんでわたくしの生徒四人、余すことなく皆旅に出るのですか!」


重ねて誤魔化すように、ダイヤさんはそう言って声を荒げる。

その口調に鞠莉さんは更にムッとした顔をして、


鞠莉「それはダイヤの教え子が少ないからでしょ!」


反論。


ダイヤ「新米教師なんだから仕方ないではないですか!? それにこの辺はそもそも子供も少ないのです! それくらい貴方も知っているでしょう!?」

鞠莉「だーかーら、ダイヤにお願いしたのよ!! この辺りで旅に出る子供紹介して貰うんだったら、学校しかないじゃない!!」

ダイヤ「貴方も研究者なら、ここまでにコネの一つでも作れなかったのですか!?」

鞠莉「しょうがないでしょ! 研究所設立のアレコレで手一杯だったのよ!? と言うか、そこらへんはダイヤも知ってるでしょ!?」


二人が子供みたいな口喧嘩を始める。


千歌「……」
 「…ヒノォ…ッ…」


私は腕の中であくびをするヒノアラシを撫でながら、博士と先生の口論をぼんやりと眺めていた。
39: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 17:58:54.13 ID:WoQi+oWD0

曜「……それにしても、鞠莉さん、先生と知り合いだったんだね」

千歌「あ、うん。それも結構仲良さそうだよね」


横で私と同じように行く末を眺めていた曜ちゃんが耳打ちしてくる。


ダイヤ「このような危険なことに巻き込むのでしたら、今後ルビィと花丸さんを旅に出すのは反対ですわ!」

鞠莉「う……だから悪かったって言ってるじゃない……反省もしてるわ……」

曜「あ、あのー……ダイヤさん、私はこの通りピンピンしてるから……」


詰問され続ける鞠莉さんを見かねてか、曜ちゃんが割って入るが、


ダイヤ「曜さんは黙っていてください! 今はこの人と話をしているので」

曜「は、はいっ! 失礼しましたっ!」


すぐに回れ右して戻ってくる。


千歌「……長くなりそうだね……」


ダイヤさん、お説教始まると長いんだよね……。

 「…ヒノ」

そんなことを考えていたら、腕の中でまたヒノアラシが眠そうにあくびをした。





    *    *    *





ダイヤ「──第一呼ばれて来てみたら、研究所には誰もいませんし、最初のボールも6つのうち4つがなくなっているし、最初と約束が全然違うではありませんか!」

曜「……? なんの話だろう」

千歌「……さぁ?」

ダイヤ「……なんですって?」


首を傾げる私たちに、ダイヤさんはピクリと反応して、こちらに視線を向けてくる。


千歌「ひぃ!?」

ダイヤ「まさか、鞠莉さん! そのことも説明していなかったのですか!?」

鞠莉「Wait! Wait! それは予め説明してたヨ!」

曜「なんの話ですか……?」


このままじゃ本当に埒が明かないと思ったのか、曜ちゃんが質問する。


ダイヤ「今回旅立つ新人トレーナーは6人……という話は前に話しましたわよね」

曜「あ、はい」

ダイヤ「それに当たって、人数分の初心者用ポケモンと図鑑を用意して頂いたのですが……」

千歌「……あ、言われてみれば私たち、ヒノアラシとゼニガメにしか会ってないね」

ダイヤ「その通りですわ。……わたくしは公平性を欠かないように最初のポケモン選びは3人ごとに集まって、相談して選んで決めて貰うようにお願いしたではありませんか!!」

鞠莉「Wait! Wait! それもちゃんと理由があるのよ!」
40: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 18:01:46.82 ID:WoQi+oWD0

激昂したダイヤさんに襟首を掴まれて、慌てて弁明する鞠莉さんとの会話を聞いて、私も今朝曜ちゃんとした話を思い出す。


千歌「そういえば、最初のポケモンってどうして3匹のうちから1匹を選ぶんですか?」


別に選ばせてくれるんだったらもっと多くてもいいし、貰えるって言うんだったら、いっそ選べなくても文句はないのに、なんで決まって『3匹から1匹』なんだろ?


ダイヤ「まずはポケモンタイプ相性に慣れてもらうため、初心者でも扱いやすい、くさ、ほのお、みずの3つのタイプから選んで貰って渡す。これが理由の一つですわ。自身で決めてタイプを選ぶことによってポケモンに相性があることを強く認識してもらうためですわね」

鞠莉「もう一つは、研究者側の理由なんだけど……最初にポケモンを渡すのはデータ収集の目的もあるから、育成のデータに初期状態から大きくブレが出ないように、出来るだけタマゴから孵化した時期の近い3匹を厳選する。更に出来るだけトレーナーも歳の近い3人に渡すのよ」

ダイヤ「それがわかっていて、なんでここにくさタイプを選んだ子がいないのですか!?」

鞠莉「Oh stop DIA!!」


再び鞠莉さんを睨みつけながら、怒るダイヤさん。


鞠莉「くさタイプを選んだ子は朝一番、研究所の戸を開けたらすぐ外で待っていたから、そのとき渡したのよ!」

ダイヤ「あ・な・た……人の話を聞いておりましたの!? それが平等性に欠けると言う話をしていて……!!」

千歌「ダ、ダイヤさん、ちょっと落ち着いて!!」

ダイヤ「……考えてみれば、千歌さん! 貴方も貴方ですわ!! あれほど、クロサワの入江には近付くなと言っていたのに、どうして付いていったのですか!?」

千歌「うわっ!? 飛び火した!?」


思い出したかのように、突然話題を切り替えたダイヤさんに詰問される。

びっくりして、私が飛びのくと腕からヒノアラシがころころと研究所の床に転がり落ちる。


 「ヒノ…」

千歌「あわわ、ヒノアラシ! ごめんね!」


床の上で丸くなって、ヒノアラシがボールのようにころころと転がっていく。

私はすぐにヒノアラシを再び抱き上げる。


 「ヒノォ…」

千歌「……大丈夫?」


私が撫でるとヒノアラシは再び丸めた体を伸ばして、あくびをする。

大丈夫みたいだ。


ダイヤ「…………」


気付くと、ダイヤさんが少しバツの悪そうな顔をしていた。

自分が怒鳴った勢いでヒノアラシを落としてしまったからだろう。


曜「とにかく、ダイヤさんも、鞠莉さんの話を一度聞きましょう? このままじゃ話進まないし……」

ダイヤ「は、はい……そうですわね」


ダイヤさんはやっとクールダウンしたのか、少し赤くなって俯く。


鞠莉「──今回旅立つのは最初にも言ったけど、6人。そのうち2人はウラノホシの外から来た子なんだけど……」

ダイヤ「まあ、ルビィと花丸さんがポケモンを貰ったという話は聞いていませんから、察するにそのお二方が先に貰いに来たということなのでしょうけれど……」

鞠莉「ま、結論から言っちゃえばそうなるわ」

ダイヤ「それで……納得の行く理由なのでしょうね?」

鞠莉「んー……そうね」
41: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 18:03:55.99 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんが少し、顔を顰める。


鞠莉「とりあえず、千歌と曜がいるから、先にそっちの3匹のうち1匹についてね。さっきも言ったけど、ここにはいないもう一人の子が朝一で受け取りに来たのよ」

ダイヤ「それで言われて渡してしまったのですか?」

鞠莉「まさか。わたしも最初は断ったわよ」

曜「それで引き下がらなかったってことですか……?」

鞠莉「そういうことね。……今すぐにでも旅に出たい……というか、何か切羽詰ってる感じがしたから」

ダイヤ「切羽詰っている感じ?」

鞠莉「『私には時間がないんです』って」

ダイヤ「……ああ、そういえば……その子は他の地方から来た良家のご子息と言う話だった気がしますわ」

鞠莉「……なにそれ初耳なんだけど? なんでダイヤが知ってるのよ」

ダイヤ「その子のご両親から、旅立ちの際に軽く指南して欲しいと依頼されていたのよ。まあ、来てみたら既に当人がいなかったのですが……」

鞠莉「……ははーん……なんとなく、話が読めてきたわ」

曜「……? ……。……あ、ああ、なるほど」


皆が勝手に納得する中


千歌「……?」


正直、私は話がよくわからなかった。


千歌「まあ、よくわかんないけど、とりあえず、その子がもう一人のトレーナーってことだよね?」

ダイヤ「ええ、まあ、そうですね」

千歌「今朝早く来て、先にポケモンと図鑑を貰って旅に出たってことだよね?」

鞠莉「そうね」

千歌「よっし!」

曜「千歌ちゃん……?」

千歌「じゃあ、まだ急げば追いつけるかも! 行こう! ヒノアラシ!」
 「ヒノ!」


そう言って私が声を掛けると、腕の中で寝息を立てていたヒノアラシが目を覚まして、もぞもぞと動く。

私はそのままヒノアラシを床に降ろして走り出す。


曜「え!? ち、千歌ちゃん!?」

千歌「せっかく一緒に旅に出る子なんでしょ? 同期ってことだよね!? 挨拶しなくちゃ!」


私の後ろをヒノアラシが走りながら付いてくる。


曜「ええ!? ま、待ってよ千歌ちゃん! 私も行くから!! ゼニガメ!!」
 「ゼニ!」


曜ちゃんが研究所の出入り口の前で、律儀に外を見張り続けていたゼニガメに声を掛けて、走り出す。


ダイヤ「あ、ちょっと千歌さん! ウチウラシティに着いたら、ポケモンスクールに寄るのですよー!?」


背後でダイヤさんが、そう叫ぶ


千歌「わかってまーす!!」
42: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 18:05:47.19 ID:WoQi+oWD0

後ろに向かって手を振りながら、返事をする。


鞠莉「あ、そうだ! 図鑑は3つで1セットで、近くに揃うと音が鳴るからー! それですぐに本人だとわかると思うわー!」

千歌「はーい!」

曜「い、いってきまーす!」


──とにかく、曜ちゃんと一緒に、図鑑が鳴るところまでダッシュだ!


千歌「いっくぞー!!」
 「ヒノォー!!」


せっかくの旅立ち前にずっと話聞いてられないもん!

私はヒノアラシと研究所を飛び出した。





    *    *    *





突然弾けるように飛び出して教え子たちが去ってしまった。研究所内が突然静かになる。


ダイヤ「……全くあの子達は変わりませんわね」


そういえば、学校のいるときもお説教から逃げるときはこんな感じだった気がしますわ。

今回はお説教していたわけではないのですが……。


鞠莉「そういえば、7年前ウチウラシティでポケモンを貰ったときもこんな感じだったわね」

ダイヤ「……もうそんなに前のことですか……」

鞠莉「わたしたちが旅に出たのって、10歳のときだからね~ パパからポケモンを貰ったあと、いろいろ説明受けてるとき……」

ダイヤ「……ああ……言われて見れば確かに、果南さんが我慢できずに飛び出して行ってしまったのでしたわね」

鞠莉「そうそう、懐かしいわね……」

ダイヤ「……7年ですか。……気付いたら貴方はポケモン博士になっているし」

鞠莉「あら、あなたも気付いたら教師になってたじゃない」

ダイヤ「そうね……ただでさえ忙しいのに、最近は“もう一個”大きなお勤めも増えてしまって、大変ですわ」

鞠莉「……“そっち”は名誉なことじゃないの?」

ダイヤ「もちろん、どちらの仕事も誇りを持ってやっているつもりですが……」


なんだかセンチメンタルな気分になって、なんとなく机を撫でる。

図鑑と二つのボールが残っている、机を。


鞠莉「そういえば……もう一人なんだけど」

ダイヤ「あ、ああ……そういえば話の途中でしたわね」

鞠莉「こっちは、正直かなり強引に持ってかれちゃったのよね」

ダイヤ「……貴方が強引と揶揄するとは、相当ですか?」

鞠莉「理由は説明したんだけど……『依頼されたのは私なんだから、いいでしょ?』って言って、さっさと貰うもの貰って出て行っちゃったのよ」


鞠莉さんが苦笑してから、
43: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 18:07:14.08 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「やっぱダメね……新人だからイゲンが足りてないのかしら」


そう零す。


ダイヤ「……。……らしくもない。貴方も随分謙遜するようになったのですわね」

鞠莉「……今回の件も元はと言えばロトムのシツケの問題だからネ」

ダイヤ「貴方のロトムは昔からトラブルメーカーでしたからね。一応、苦労は察しますわ」


落ち込む幼馴染の姿を見て、なんだかこれ以上責めるのも憚られる。

そんなわたくしの胸中を知ってか知らずか、


鞠莉「……リューインは下がったの?」


そう不安そうな顔をして訊ねてくる。


ダイヤ「まあ……そうですわね。……トレーナーがポケモンを選ぶように、ポケモンにもトレーナーを選ぶ権利がありますから」

鞠莉「……?」

ダイヤ「……ヒノアラシも、ゼニガメも、よく懐いていましたし。……それが確認できたのなら、これ以上口出すのも野暮かと思いまして」

鞠莉「……なるほど」


……まあ、ルビィと花丸さんが貰うポケモンが不平等なことに関しては少し納得出来ていない節もありますが……。それはその本人を問い詰めたが良さそうですし。


ダイヤ「さて……わたくしも仕事に戻りますわ」

鞠莉「ん、今から学校?」

ダイヤ「いえ──そちらではない方の仕事ですわ」

鞠莉「ああ、なるほど。ダイヤも忙しそうね」

ダイヤ「ふふ、お互いね……。まあ、もう少ししたら落ち着くと思いますから。そうしたら、またお茶でも飲みに来ますわ」

鞠莉「OK. 頑張ってね──新米ジムリーダーさん」





    *    *    *





──汗が頬を伝う。

目の前にいる小鳥ポケモンと何度目の対峙だろう。


 「今度は、逃げられないように……」


呼吸を整える。

ちょっとずつ弱らせながら追いかけているのだ、そろそろ捕まえられるはず。

私は件の鳥ポケモンの目の前で、不機嫌そうに待っているポケモンに指示を出す。


 「チコリータ! “はっぱカッター”」
  「チコッ」
44: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 18:08:10.26 ID:WoQi+oWD0

指示と共に鋭利にとがった葉っぱが飛び出して、

 「ポポッ!」

目の前の対象を怯ませる。

そこに向かって追い討ちを掛けるような強力な一撃、


 「チコリータ! “やつあたり”!」
  「チィィコッ!!!!!!」

 「ポポォッ!!?」


チコリータが葉っぱを振り回して、ポッポに攻撃する。

貰ったばっかりでまだ懐いていないから、“やつあたり”の威力が大きい。

強力な攻撃を受けてフラフラな状態になったポッポに向かって、


 「……今だ!!」


私は博士から受け取った空のモンスターボールを投げつけた。

シュゥゥ──という音と共にポケモンがカプセルに吸い込まれる。


 「お願い……いい加減、捕まって……」


コンコン──と地面に落ちたモンスターボールが一揺れ……二揺れ……

三回目の揺れを確認した後、

止まった。


 「はぁ……やっとゲットできた……」


私が溜息を吐いてへたり込むと、


 「チェリリ」


バッグから相棒のチェリンボが飛び出して、ポッポの入ったボールを拾って持ってきてくれる。

  「チェリリ!」
 「ありがと、チェリンボ……。チコリータもお疲れ様。戻って」


そう言ってチコリータをボールに戻す。


 「ブルル…」


先ほどの戦闘を後ろで見守っていたメブキジカが、へたり込む私の傍にやってきて、鳴き声をあげる。


 「あはは、ありがとメブキジカ……」


メブキジカに支えられながら、私は立ち上がる。


 「……はぁ、ポッポ一匹でこれじゃ……先が思いやられるなぁ……」


そんな風に1人ぼやいていると──

pipipipipipipi──!!


 「きゃぁ!?」


上着のポケットに入れた図鑑が激しく鳴り出す。
45: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 18:08:38.19 ID:WoQi+oWD0

 「な、何!?」


咄嗟に図鑑のボタンを押すと音が止まる。

私は顔を顰めながら、今先程まで鳴っていた図鑑を睨む。

……なにかの通知かな?

そんなことを考えていると……


 「今鳴ったよー! この近くにいるみたい!」

 「うん! あと一息かな!」


背後から、私と同じくらいの歳の女の子の声が聞こえてきた。

私が振り返ると──


 「──もしかして、貴方!?」


そこには、それぞれヒノアラシとゼニガメを連れた二人の女の子が、立っていました。


46: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 18:10:45.89 ID:WoQi+oWD0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【1番道路】
 口================= 口
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 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.6  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.5  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
     ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:2匹

 主人公 ???
 手持ち チコリータ♀ Lv.6 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.6 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.34 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ポッポ♀ Lv.5 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 曜と ???は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.

47: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 20:54:48.56 ID:WoQi+oWD0
■Chapter004 『梨子』


  「ケロ…」
 「……ケロマツ? どうしたのよ」


上空を飛びながら、肩の上でケロマツが下方に何かを見つける。

私はポーチからオペラグラスを取り出して、ケロマツの見ている方を覗き見る。


 「女の子? ……しかもこんなド田舎に3人も。……もしかして、同業者?」


我ながら素晴らしい考察。


 「観察の余地ありね。ヤミカラス、しばらくこの辺り旋回出来る?」
  「カァー!」


脚に掴まった私を持ち上げ羽ばたく相棒に頼み、彼女らを観察することにする。


 「……さて、どうなるかしら」


対象から、やや角度と高度を保って、出来るだけ目立たないように、でも見失わないように、私は密かに彼女達を注視する──。




    *    *    *





 「──もしかして貴方!?」


髪を片側で三つ編みにしている、明るい髪色の快活そうな女の子が問い掛けてくる。


 「えっと……どちら様ですか?」


私は怪訝な顔をする。


 「千歌ちゃん、自己紹介しないと! 困ってるよ!」


もう一人、癖っ毛のショートボブの子がゼニガメを抱えたまま、隣の子にそう言う──最初に私に問い掛けてきた子は千歌ちゃんと言うらしい。


千歌「あ、そうだった! 私、千歌! 16歳! さっき、鞠莉さんからヒノアラシを貰った新人トレーナーだよ!」
 「ヒノ」


……『千歌』と名乗った子がそう言うと、足元でヒノアラシが声をあげる。

鞠莉さん……? ……ああ、オハラ博士のことか。


曜「私は曜。見てのとおり、私も鞠莉さんからゼニガメを貰った新人トレーナーだよ」
 「ゼニィ」


今度はもう一人の女の子──『曜』と名乗る子が自己紹介をする。そして、さっきの子の手持ちのヒノアラシ同様、今度はゼニガメが声をあげた。


 「えっと……それで何の用ですか?」

千歌「あ、うん! 貴方が最初の三匹を貰った最後の一人かなって思って! 図鑑、鳴ってたでしょ?」

曜「図鑑は三つセットで揃うと音が鳴るんだってさ」


二人の子がそれぞれ手に持った橙色と水色の図鑑を掲げる。
48: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 20:56:03.38 ID:WoQi+oWD0

 「あ、あぁ……」


先ほど、けたたましい音を立てて主張をしていた私の桜色の図鑑にはそういう仕組みがあったんだ……つまり、同期ってことだよね。


 「えっと……私は梨子です。オハラ博士からはチコリータを頂きました」


私──梨子はそう言ってペコリと頭を下げた。


千歌「梨子ちゃんって言うんだね! えへへ、同じ新人トレーナーとしてよろしくね!」

梨子「……よろしく。それじゃ、私急いでるから」


そういって踵を返す。


曜「え、あ、え?」

千歌「え、ちょっと! 梨子ちゃん!」


歩き出そうとした、ややうるさい方の子が私の肩を掴む。


梨子「何?」

千歌「いや、えっと……私たち同じときに同じ場所でポケモンを貰った仲間だよ? もっと親睦とか……」

梨子「私は先に貰ったんだけど」

千歌「あ、確かに……」

曜「そこ納得しちゃうんだ」

梨子「……ホントにそれだけなら行ってもいい? 私忙しいの」


私が再び、歩を進めようとすると、


千歌「──バトルしよう!」


彼女はそう言った。


梨子「……え?」

千歌「ポケモンバトル! トレーナー同士は目があったらポケモンバトルだよ!」


……確かにポケモントレーナー同士は、視線があったらポケモンバトルをする。

……というのは多くの地方でも共通認識的なところはあるけれど、


梨子「……それなら、そっちの子──えっと」

曜「あ、曜だよ!」

梨子「そうそう、曜ちゃんとバトルすれば?」

千歌「曜ちゃんはいいの! いつでもバトルしてくれるから! 私は梨子ちゃんとバトルしたいの! 私すっごいトレーナーになるんだから、梨子ちゃんにだって負けないよ!」


彼女は慌しく、そう捲くし立ててくる。

……正直こういうタイプの子はめんどくさい。苦手だ。
49: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 20:57:54.18 ID:WoQi+oWD0

梨子「…………」

曜「梨子ちゃん」

梨子「何?」

曜「なんか、急いでるみたいだけど……私たちって最初の三匹を貰った三人で、それなりに縁があるわけだしさ」

梨子「……まあ、そうね」

曜「挨拶代わり、と言ってはなんだけど……トレーナー同士の流儀でもあるわけだしさ、ちょっと千歌ちゃんの相手してあげてくれないかな」

梨子「…………」


まあ、一理ある。


梨子「……はぁ、しょうがないな」

千歌「ホントに!? やったぁ!」


千歌ちゃん、とやらが目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねる。元気な子だなぁ……。


千歌「よっし! いくよ、ヒノアラシ!」
 「ヒノ!」


千歌ちゃんの掛け声と共にヒノアラシが前に躍り出る。

──さて、私は……。


梨子「ん……?」


そのとき、腰に納めたボールがカタカタと動いているのに気付く。


梨子「……チコリータ」


先ほど戻したチコリータのボールだ。

チコリータからしても、ヒノアラシは同郷のライバル。やる気が出るのはわからないでもないんだけど……。

……まだ、出会ったばっかりでこの子のことはよくわからない。先ほどポッポと戦闘を終えたばっかだし、今は──


梨子「メブキジカ、お願いね」
 「ブルル…」


傍らのメブキジカにお願いする。


梨子「チェリンボはバッグの中に居てね」
 「チェリリ」


私の言葉を聞いてチェリンボは再びバッグの中に潜り込む。


曜「それじゃ、ポケモンバトルスタート!」


曜ちゃんの合図と共に、


千歌「ヒノアラシ! “ひのこ”!」


ヒノアラシの背中から戦意を示す炎が噴出し、


 「ヒノ!」


開いた口から火の粉が飛んでくる。
50: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 21:00:08.55 ID:WoQi+oWD0

梨子「そんな小さな炎じゃ効かないわ」

 「ブル」


メブキジカは首を振って、火の粉を軽くあしらう。


千歌「あ、あれ!?」

梨子「メブキジカ! “メガホーン”!」
 「ブルッ!」


地を蹴って、飛び出したメブキジカが、

 「ヒノッ!?」

ツノでヒノアラシを掬い上げるように、上空に投げ飛ばす。


千歌「ひ、ヒノアラシー!?」




    *    *    *




観察していたら、ポケモンバトルが始まったわけだけど……。


 「随分一方的……レベルが違うわね」


二人とも新人トレーナーだと思ってたんだけど……。

髪の長い子の方が圧倒的に強そうね。


 「あっちの三つ編みアホ毛の方が弱いのね」


バトルを見つめながら、私はふんふんと一人頷く。


 「ん? ああ、ヒノアラシ、メガホーン一発で戦闘不能になっちゃったのね。次のポケモンが出てくるわ。……って、何あのポケモン。見たことないんだけど」


思わず図鑑を開く。


 「トリミアン……? ……トリミアン……。 ……トリミアン……??」


私の独り言が空に消えていく中、バトルは進む。




    *    *    *




千歌「しいたけ! お願い!」
 「ワォンッ!!」


戦闘不能のヒノアラシをボールに戻して、千歌ちゃんは次のポケモン繰り出す。


梨子「……ひっ! 犬!?」


見たことのないポケモンだけど、私が滅法苦手な犬だと言うのは一目でわかる。


千歌「しいたけ! “たいあたり”!」
 「バゥッ!!」
51: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 21:02:16.76 ID:WoQi+oWD0

梨子「こ、こっちこないでぇ!!」


突撃してくる犬ポケモンに私が声をあげると。

 「ブルル…」

メブキジカが自慢のツノで“たいあたり”を押さえ込む。


梨子「び、びっくりした……。メブキジカ、そのまま“ウッドホーン”!!」


そして押さえつけたまま、そのツノを突き刺す。


千歌「力くらべなら負けないもん! しいたけ! “ふるいたてる”!!」
 「ワフッ!」


しいたけと呼ばれたポケモンが鼻息を荒げて、気合いを入れる。


梨子「……ふふ」

千歌「む、何がおかしいの!」

梨子「貴方、本当に初心者なのね」

千歌「? それってどういう──」
 「ワゥ…」


私に疑問を投げかけるとほぼ同時に、しいたけが膝を付く。


千歌「え!? し、しいたけ!?」

梨子「“ウッドホーン”は相手のHPを吸う技なの。ただの力比べをしてたわけじゃないのよ」

千歌「し、しいたけ、離れて!!」

梨子「逃がさない! メブキジカ、“とびげり”!」


一歩引いた、しいたけ──と呼ばれてるポケモン──に素早く背を向けたメブキジカが後ろ足で蹴り上げる。


 「ワフ!!」
千歌「しいたけ!!」


その蹴りに吹っ飛ばされて、

ドスンと音を立てて、

──地面に落ちる。


千歌「しいたけ!!」
 「ワォ…」

曜「えっと……ヒノアラシ、しいたけ、戦闘不能で千歌ちゃんの手持ちは残ってないから、梨子ちゃんの勝ち……だね」

千歌「…………戻って、しいたけ」

梨子「……これで気は済んだ?」

千歌「……うん、ありがとう」


お礼を言う千歌ちゃん。だけど、顔をあげない。

まあ、ここまで惨敗したら、悔しいもんね。


梨子「……それじゃ、私は行くから」


そう言って踵を返したが、
52: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 21:05:37.14 ID:WoQi+oWD0

千歌「……次」

梨子「え?」


千歌ちゃんの声に振り返る。


千歌「次、会うときは……負けないから……」

梨子「……そう、頑張ってね」


私は、それだけ返して、メブキジカと共に歩き出す。

そのとき、


梨子「……?」


またカタカタとチコリータのボールが震えた。


梨子「……ごめんね、もう戦闘は終わったの。メブキジカが全部やってくれたから」


私はそうボールに声を掛けるが、

カタカタ、カタカタとボールは抗議をあげるように震え続ける。


梨子「……もう、何?」


そんなに戦いたかったのかな……。

今日知り合ったばっかでこの子のことよくわかんないな……。

早くなついてくれるといいんだけど……。





    *    *    *





 「……終始一方的だったわね」


一部始終を見届けた私は嘆息してから、


 「……しかし、いい情報が手に入ったわ」


そう言って、一人ニヤリと笑う。


 「……あいつには私のポケモンたちの良い経験値になってもらおうかしら。ヤミカラス、ホシゾラシティまでお願い」
  「カァー」


ヤミカラスに指示を出して、私は少し先の町へと向かう。


 「クックック……全てはこの堕天使ヨハネの計画の礎に過ぎないのよ……!!」


笑いながら北に向かって飛ぶ空は、そろそろ逢魔時が迫り、闇に呑まれ始めていた。





    *    *    *

53: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 21:08:55.46 ID:WoQi+oWD0


千歌「…………」

曜「千歌ちゃん……」

千歌「あはは、自分から勝負吹っかけた割に、全然歯が立たなかったね……悔しい」


思わず拳を握る。


千歌「負けるのって……悔しいんだね」

曜「…………」

千歌「……強く、ならなきゃ」


戦闘不能になった2匹が眠るボールを撫でる。


千歌「……一緒に強くなろう、ヒノアラシ、しいたけ」


私は2匹のボールに……そう、語りかけた。


54: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 21:09:53.85 ID:WoQi+oWD0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
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【1番道路】
 口================= 口
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 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.7  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.6  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
     ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.6 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.6 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.34 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ポッポ♀ Lv.5 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:6匹

 主人公 ヨハネ?
 手持ち ケロマツ♂ Lv.7 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.9 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:22匹 捕まえた数:17匹

 千歌と 曜と 梨子と ヨハネ?は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.

55: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 23:47:22.88 ID:WoQi+oWD0

■Chapter005 『姉妹とメレシー』





研究所から“そらをとぶ”で飛び立ち、幾数十分。

自らの勤める学び舎の隣に併設された、ポケモンジムへと戻ってくる。

わたくしはジムの前へと降り立ち、


ダイヤ「ありがとう、オドリドリ」
 「ピィ」


此処まで運んできてくれた“まいまいスタイル”のオドリドリをボールに戻す。

──さて、ジムに戻って一仕事しましょうか。

と思った矢先。

腰に付けた真っ白なボールがカタカタと震える。


ダイヤ「? どうしたの? ボルツ?」


件のボールを放り、ボルツと言うニックネームを付けられたメレシーを外に出してあげる。

 「メレ…!」

ボールから飛び出したボルツは体中の漆黒のダイヤモンドに夕陽を反射させながら、声をあげてジムの隣のポケモンスクールへと飛んでいく。


ダイヤ「?」


わたくしが怪訝な顔をしていると、


 「ま、まってー!! コランー!!」


……と、学校の方から幼い少女のような子の叫び声。


ダイヤ「……なるほど」


わたくしは肩をすくめてから、一旦ポケモンスクールへと足を向けることに致しました。





    *    *    *





 「コランー!!」
  「ピィー」


コランと呼ばれた赤い宝石を煌めかせたメレシーが、元気そうに教室内を飛び回っている。

その子の“おや”のルビィちゃんが追い掛け回しているけど、コランは楽しそうに逃げ回ってる。

コランはおいかけっこしてるつもりなのかな?


ルビィ「コランー! お願いだから言うこときいてよぉー! またお姉ちゃんに叱られちゃうからー!」
 「ピピピー!」


マルは読んでいた本をパタンと閉じて、辺りをキョロキョロと見回す。
56: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 23:49:19.53 ID:WoQi+oWD0

花丸「アンバー……いないずら?」


そうルビィちゃんに訊ねる。

アンバーと言うのは、黄色寄りのオレンジの宝石を身に纏ったメレシーで、ルビィちゃんのお母さん──琥珀さんのメレシーのこと。


ルビィ「アンバーはお母さんと出かけちゃってて……」


ルビィちゃんはそう言って、涙目になる。

いたずらっこのコラン。

いつもならアンバーかボルツが止めてくれるんだけど……。


花丸「いないなら、しょうがないずら……ゴンベ」
 「…ゴン?」


横でパンを齧っている、マルの手持ちのゴンベに声を掛ける。


花丸「どうにかできる?」
 「…ゴン」


尋ねてはみたけれど、ゴンベも困り顔。

……カビゴンに進化すれば“とうせんぼう”が使えるんだけど……。

──えっと、ゴンベが使える今役に立ちそうな技……

“いやなおと”、“おいうち”、“なげつける”……うーん、どれも微妙ずら。


花丸「“ふきとばし”……は、どっか行っちゃうし。あ、行動を能動的に制御する技なら“おさきにどうぞ”とか……」

ルビィ「“おさきにどうぞ”しても余計に暴れるだけだよー!」

花丸「うーん……じゃあゴンベ、“ゆびをふる”」

ルビィ「え!? は、花丸ちゃん!?」

 「ゴン」


“ゆびをふる”は何かの技がランダム出る技──ゴンベが覚えることの出来ない技もランダムで飛び出す。

特に状況を打開できる技もないし、こうなったら運任せずら。

マルの指示を出すとゴンベがチッチッチと指を振る。

すると、ゴンベの指から火花が散って、教室中に緩く稲光が走る。


ルビィ「ピ、ピギィ!?」

花丸「いい技引けたずら? “でんげきは”かな?」


広がる電撃を見て“でんげきは”かと思ったんだけど……。

 「ピピピピピピー」

コランは依然、その細い稲妻のネットの中を楽しそうに飛び回っている。


花丸「んんー? “エレキネット”ずら? でも、それならすばやさが下がるはずだし……」


そんなことをぶつぶつ呟いていると

 「ピーピピー!」

暴れまわっていたコランが、今度はこっちに回転しながら突っ込んでくる。
57: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 23:51:47.16 ID:WoQi+oWD0

ルビィ「は、花丸ちゃん! 分析してる場合じゃないよっ」

花丸「ずら!?」


体当たりしてくるコランの体表には稲妻が絡み付いている。

 「ゴン」

咄嗟にゴンベがマルたちの間に立ち塞がったけど──

その必要はなかったみたい。

──気付いたら教室中に石の欠片が浮いていることに気付く。


花丸「ずら? “ステルスロック”?」


コランがその石にぶつかって、一瞬動きが鈍ったところに


 「ボルツ! “パワージェム”!」


そんな声と共に、光る石が飛んでくる。

──ガスン


 「ピー!?」


鈍い音と声をあげながら、コランが教室の端の方に弾き飛ばされる。


 「“リフレクター”で囲って、ついでに“じゅうりょく”」
  「ミミミ」


教室内でコランの吹き飛んだ逆サイドから、真っ黒な宝石を身に纏ったメレシーと一緒に女性が入ってくる。


ルビィ「お、お姉ちゃん~……」

ダイヤ「ルビィ? 学校では先生と呼びなさいと言っているでしょう?」


ルビィちゃんが泣きつく先には、ルビィちゃんのお姉さん──ダイヤ先生が立って居たずら。


 「ピーピピピピ!!」


リフレクターの物理障壁に囲まれながら、赤い宝石を光らせならだ、コランがじたばたしている。


ダイヤ「はぁ……全く元気ね、この子は……。それはそうと花丸さん」

花丸「はいずら」

ダイヤ「“ゆびをふる”で出た技……何かわかりましたか?」

花丸「うーんと……“たいあたり”が電撃を纏ってたところからして……“そうでん”ずら?」


“そうでん”は場の攻撃全てがでんきタイプになるっていう珍しい技ずら。


ダイヤ「正解。よく勉強していますわね」

花丸「えへへ、褒められたずら」

ダイヤ「それに比べてルビィ……また、コランを暴れさせて……」


ダイヤさんが溜息を吐きながら、泣きつくルビィちゃんに視線を落とす。


ルビィ「ぅ……る、ルビィも……コランにやめてって言ったもん……でも、やめてくれなくて……」

ダイヤ「はぁ……全く……」
58: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 23:53:34.73 ID:WoQi+oWD0

ダイヤさんが溜息を吐くと

 「ピピピピピピピピピピ」

と声をあげて、コランが床で回転し始める。


ルビィ「ふぇ!? 今度はなに!?」

花丸「“こうそくスピン”……? ってメレシーは覚えないような」

ダイヤ「ですわね。それに“こうそくスピン”なら先ほどボルツが撒いた“ステルスロック”を吹き飛ばせるはずですわ」

花丸「じゃあ、あれって……?」

 「ピピ!!」


急に回転を止めたコランが気持ちスマートに見える。

体を床に擦り付けて体表の岩を削ったみたい。


ダイヤ「“ロックカット”で身軽になったみたいですわね」

花丸「……ルビーの硬度で回転したから、床が抉れたずら」

ルビィ「コランー!? もうやめてよー!!」


ルビィちゃんの制止も虚しく、コランが小さな岩の欠片を飛ばす。さっきダイヤさんのボルツが使ったのと同じ“ステルスロック”。


ダイヤ「……ふむ。確かに補助技ならリフレクターをすり抜けますわね。ボルツ、“マジックコート”」
 「ミー」


冷静に指示を出すダイヤ先生。

飛び出してきた岩の欠片が、薄ピンクの透明な壁に反射されて、コランの元へと跳ね返っていく。

変化技は“マジックコート”で反射できるずら。


ダイヤ「はぁ……ただでさえ騒がしいのに、これ以上素早くなっても困りますわね……。“トリックルーム”」
 「ミ」


視界が一瞬ぐにゃりと歪む。

 「ピ」

それと同時にコランが速いのに遅くなる。

──何を言ってるかよくわからないと思うけど、文字通り速いのに遅いずら。


ルビィ「わぁっ すごぉい!」

ダイヤ「“トリックルーム”下ではすばやさの遅いポケモンほど速く動き、速いポケモンほど遅くなる不思議な技ですわ。ルビィ、今のうちにボールに戻しなさい」

ルビィ「あ、うん!」


ルビィちゃんはダイヤ先生の指示通りにコランに近付いて、真っ白なコラン専用のボールを投げつける。


ルビィ「ほ……よかったぁ」


ボールを手に取って、ルビィちゃんが安堵でホッと──


ダイヤ「……全然、よくありませんわ!」

ルビィ「ピギィ!?」


訂正、ホッと出来てなかったずら。
59: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 23:55:18.52 ID:WoQi+oWD0

ダイヤ「教室も滅茶苦茶……わたくしが帰るまで大人しく自習と言ったではありませんか!」

ルビィ「だ、だから……それはコランが……」

ダイヤ「貴方はコランの“おや”でしょう? 手持ちの責任はトレーナーが取るものです!」

ルビィ「ぅ、でもコランをルビィに持たせたのはお母さんだもんっ ルビィが決めたことじゃないもんっ」


二人が姉妹喧嘩を始めてしまう。


花丸「ずら……」


困ってゴンベに視線を送ると

もぐもぐとまたパンを食べている。

我が手持ちながら、かなりのんきずら……。


ダイヤ「だいたい貴方はこれから旅に出るというのに──」


詰問口調の先生の前に

 「ミィ…」

ボルツが割って入る。


ダイヤ「ボルツ……」


妹メレシーのコランの失態を許して欲しい……とでもいいたげに。


ダイヤ「……はぁ。……今日のところはボルツに免じて不問に致しましょう。……留守にしていたわたくしにも非がありますから」


ダイヤ先生は「ルビータイプのメレシーは何故かやんちゃな子が多いのも事実ですし……」と呟きながら、めちゃくちゃになった教室を片付け始める。

ボルツも妹の失態を取り返すかのように“サイコキネシス”で物を片付ける。


花丸「マルたちも手伝うずら。ゴンベ」
 「ゴン」


ゴンベが自分の毛にパンを押し込んで──また後で食べるのかな──椅子や机を元の場所に戻し始める。


花丸「ルビィちゃんも……ルビィちゃん?」


そう言ってマルが振り返ると、ルビィちゃんは少し暗い顔をしていて、


ルビィ「…………」

花丸「ルビィちゃん……?」

ルビィ「……あ、ごめんね、花丸ちゃん」


そう言ってから、いそいそと片付けの輪に加わっていく。


ルビィ「……こんなんで、ルビィ……冒険なんか出来るのかな……」

花丸「……」


自信なさ気にそう呟くルビィちゃんの独り言を、端で捉えながら、マルたちは散らかった教室の片付けに勤しむのでした。

60: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/28(日) 23:57:48.52 ID:WoQi+oWD0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================= 口
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 口=================口


 主人公 花丸
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 花丸と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.

63: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:08:31.61 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter006 『ポケモンスクール』





私たちが1番道路を抜けて、ウチウラシティに付く頃には日もすっかり暮れていた。

歩いてそこまで掛かる道程ではないんだけど……。

私は後ろを歩く千歌ちゃんを振り返る。


千歌「…………」


千歌ちゃんは俯いて、二つのボールを悔しそうに見つめながら、とぼとぼと歩いている。

草むらを避けて歩いていたから、あのあと野生ポケモンに会うこともなかったけど、

何かあったときのために手持ちが二匹とも戦闘不能な千歌ちゃんの前を私が先導する形を取っていた。


曜「千歌ちゃん」


私が声を掛けると、


千歌「……え。あ、なになにっ?」


笑顔を作って、駆け寄ってくる。


曜「……大丈夫?」


もう何年の付き合いだと思っているんだろうか。

そんな作り笑顔で誤魔化せないよ。


千歌「……あはは」


私の胸中を察したのか、千歌ちゃんは頭を掻いた。


千歌「……バトルで負けるのって……思った以上に悔しいんだね」

曜「…………」

千歌「それに……ヒノアラシにも、しいたけにも……申し訳なくて。私を信じて付いてきてくれてるのに……何もさせてあげられなかったなぁって……」


そう言いながら、千歌ちゃんがその手いっぱいに握っている2つのボールに力を込めたのが私の目から見てもわかった。

本当に悔しいんだ……。


曜「千歌ちゃん……」


私は思わず、千歌ちゃんの手を握る。


千歌「曜ちゃん……」

曜「これからだよ! まだ私たちの旅ははじまったばっかりなんだから!」

千歌「えへへ……うんっ」


千歌ちゃんは頷きながら、握った私の手に──二つのボールに──コツンとおでこを当てて、


千歌「……私、強くなるから」


自分のポケモンたちに言い聞かせるように、宣言するように、そして自分自信に誓うように、
64: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:09:38.76 ID:VhOLIMaZ0

千歌「強く、なるから……」


そう言いました。





    *    *    *





千歌「こんばんはー!」


私はそう言いながら、かつて自分たちの通っていた教室の引き戸を開ける。


ダイヤ「ごきげんよう。先程振りですわね」


自分たちが通っていたあの頃と変わらない、ダイヤ先生の笑顔で出迎えられる。


曜「遅くなりました!」


曜ちゃんがそう言いながら敬礼する。


ルビィ「千歌ちゃん! 曜ちゃん!」

花丸「二人とも、お疲れ様ずら」


そんな私たちに後輩二人が駆け寄ってくる。


千歌「ルビィちゃん、花丸ちゃん、待っててくれたの?」

 「ゴン……」

千歌「あはは、ゴンベも」


……もう外は暗いのに


ダイヤ「帰って良いと言ったのですが……二人とも、残ると言って聞かなかったので」


ダイヤさんはそんな風に言うけど、口振りに反してその表情は笑顔だった。


花丸「先輩達の勇姿を見届けたかったずら! ゴンベもだよね」
 「ゴンー」

ルビィ「うん! 二人とも先に冒険の旅に出るんだもんね!」

千歌「えへへ、ありがとっ 二人とも」

曜「ヨーソロー! こんな後輩が持てて、私たち幸せだね!」

ダイヤ「──尤も、先程までコランが散らかした教室の片付けをしていたのですけれど」

ルビィ「お、お姉ちゃん……っ」

曜「あはは、コランは相変わらずやんちゃなんだね」


ダイヤさんのボルツとルビィちゃんのコラン。同じメレシーなのに、性格は真逆だもんなぁ……。

それはそうと、と。ダイヤさんはパンと手を打って、
65: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:10:53.66 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「さて……日は暮れてしまいましたが、千歌さん、曜さん。貴方達には旅に向けて、いろいろな基礎知識をおさらいしてもらおうと思います」

千歌「はーい!」

曜「了解であります!」

ダイヤ「まあ、尤も……もうすでに千歌さんは悔しい思いをしたようですが」


ダイヤさんが私に視線を向けて、そう言う。

私は思わず両手に持ったボールをささっと背中に隠したけど……。

流石、元担任の先生だけあって、お見通し……。私が梨子ちゃんに負けたこと……なんとなく気付いてる。


千歌「え、あ、っと……」


うろたえる私に、


ダイヤ「……大丈夫よ」


ダイヤさんはそう言って、優しく頭を撫でてくれる。


ダイヤ「……貴方はきっと強くなりますわ。わたくしはそう信じています」

千歌「……はい」

ダイヤ「ですから、今はその悔しい気持ちをバネに、前に進み続けてください」

千歌「……はい!」

ダイヤ「ふふ、良いお返事ですわ」


ダイヤさんは優しく笑ってから、


ダイヤ「それでは、二人とも、一旦ジムのバトルスペースに移動しましょう」


そう言って身を翻しました。





    *    *    *





──今、私たちがいる、ここウチウラシティには、ダイヤさんとルビィちゃんのお家、クロサワ家が代々ジムリーダーを努めている、ウチウラジムがあります。

ちょっと前までは二人のお母さんの琥珀さんがジムリーダーだったんだけど……。

つい最近、ダイヤさんが代替わりでジムリーダーに就任しました。


曜「ここのバトルスペースも久しぶりだなぁ……」


曜ちゃんが言うように、私たちはここには何度か来たことがあって──ウチウラジムの横に併設されたポケモンスクールの体育館的な役割も兼ねています。


千歌「でも今日はただの生徒としてじゃないんだよ!」


私は胸を張る。
66: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:12:24.68 ID:VhOLIMaZ0

千歌「チカは今、一人のポケモントレーナーとして、ポケモンジムの門を潜ったのだ!」

花丸「おぉー!」

ルビィ「千歌ちゃんすごーい!」


後ろから後輩達がやんややんやと褒めてくれる。


千歌「さあさあ! ヒノアラシたちも回復したし、ダイヤさん! ジムバトルだよ!」


カツンカツンとヒールを鳴らして、前を歩くダイヤさんがこちらを振り返る。


ダイヤ「そうですわね。……トレーナーたるもの、ポケモンジムに訪れてすることは一つ──」


ダイヤさんの表情が、普段の優しい先生から、ジムリーダーのソレに代わり、私は思わず身構える。


ダイヤ「──と言いたいところなのですが」

千歌「ふぇ……?」


緊張したところに予想外の言葉を貰って、間抜けな声が出る。


ダイヤ「本来ポケモンジムはある程度はトレーナーの持っているバッジの数に合わせて、ポケモンを変えるのですが……」

千歌「ですが……?」

ダイヤ「新人ジムリーダーのわたくしは、バッジの少ないトレーナーさんとのジム戦に使うポケモンの育成が終わっていませんの」

千歌「えぇー!! そんなぁ!! じゃあ、せっかくのチカのやる気はどこにいっちゃうの!?」

ダイヤ「申し訳ないのですけれど……このジムは現状では、ジムバッジ5つ以上のトレーナーのお相手をしていますわ。お陰で来客も少ないので、早く準備を整えたいのですが」


ダイヤさんはそう言って溜息を吐く。


ダイヤ「時に花丸さん。何故ジムリーダーはチャレンジャーのバッジの数によって、使用ポケモンを変えるのか、答えられますか?」


唐突にクラスの優等生の花丸ちゃんに質問が飛んでいく。


花丸「ジムリーダーは地方全体のポケモントレーナーを育成のために存在するポケモンリーグの公認機関ずら。だから、どこの町の出身の人でも段階を持って、ステップアップしやすいようにチャレンジャーのバッジの数を基準に、手持ちを変えているずら」

ダイヤ「その通り。よく勉強していますわね」

花丸「逆に本気の手持ちはちゃんと別に持ってる人が多くて、ジムリーダーは地方の中でもトップクラスの実力者。だからなのか、自然とジムのある町ではジムリーダーがそこのリーダー的な役割なことが多いみたい」

曜「ここでも、クロサワのお家がいろいろ仕切ってるもんね」

ダイヤ「ええ、そうですわね」


ダイヤさんが得意気に頷く。


花丸「ついでに言うと、もう一個理由があって……」

ルビィ「あ、花丸ちゃんそれは……」

花丸「ジムへの挑戦者の数はジムリーダー協会に通達されて、あまりに突破人数が多かったり、逆に少なかったり、そもそも挑戦者が少なすぎたりすると、上から注意を受けるずら。だからジムの難易度調整は臨機応変に対応しないといけない。公務員は大変ずら」

ダイヤ「……よ、よく勉強していますわね……」


ダイヤさんは今度は少し困ったような顔をした。気を取り直すように、一回コホンと咳払いして、


ダイヤ「とにかく、そういうことですので、ジムに挑戦するなら、ここからだとホシゾラシティのホシゾラジムが一番近いポケモンジムになりますので、そこを目指すことになると思いますわ」

千歌「うー……じゃあ、ジム戦デビューはお預けかー……」


そう聞いて、私はうなだれる。
67: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:13:25.83 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「今日トレーナーに成り立てで気が早いですわよ。ですので、ここからは旅立ち前の最後のおさらい。ポケモンバトルの実習と致しましょう。曜さん」

曜「はーい!」


ダイヤさんに呼ばれて、曜ちゃんがバトルスペースの奥の方へと駆けていく。


ダイヤ「最初にポケモンを貰った、千歌さん、曜さんに実際にポケモンバトルをして頂きます」

千歌「おお! だから、バトルスペースに来たんだね!」

ダイヤ「ええ。ルビィ、花丸さんもすぐに後に続く形で旅立ちになると思いますので、よく見ておくように」

花丸「了解ずら」

ルビィ「…………」

ダイヤ「……ルビィ?」

ルビィ「あ、はいっ」

ダイヤ「……。……コホン」


ダイヤさんは二人の返事を確認してから、軽く咳払いをする。


ダイヤ「それでは二人とも、バトルの準備は宜しいですか?」

千歌「はーい!」

曜「いつでも大丈夫であります!」

ダイヤ「ルールは使用ポケモン1体。戦闘不能が1体出た時点で試合終了です。それでは──バトル、スタート!!」





    *    *    *






──空に二つのボールが放たれる。


千歌「いけ! ヒノアラシ!」

曜「行くよ! ゼニガメ!」


ヒノアラシとゼニガメが対峙する。


曜「やっぱり、ヒノアラシ!」

千歌「曜ちゃんも!」

曜「千歌ちゃんとの最初のバトルはパートナーの子って決めてたんだ!」

千歌「えへへ、私もだよ!」

ダイヤ「二人とも、バトル中ですわよ!」


ダイヤさんが私語は慎めと言わんばかりに喝を飛ばしてくる。


千歌「てへへ、叱られちった……。ヒノアラシ! “ひのこ”!」

曜「ゼニガメ! “あわ”!」

 「ヒノ!」 「ゼニッ」
68: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:14:44.98 ID:VhOLIMaZ0

小さな火と泡が両者から飛び出し、ぶつかる。

爆散した“あわ”のみずエネルギーと“ひのこ”が散りフィールドを毛羽立たせ、

お互いが相殺し合って、バトルフィールドには湯気が立つ。


ルビィ「あわわ……互角……」

花丸「“ひのこ”も“あわ”も同じくらいの威力の技だから相殺したずら……」


曜「ゼニガメ! “たいあたり”!」


ゼニガメが甲羅に身体を引っ込めて、そのまま回転しながら突っ込んでくる。


千歌「ヒノアラシ! “まるくなる”!」

 「ヒノ……」


──ガスンッ!!

私の指示でヒノアラシがその場で丸まり、ゼニガメの体当たりでピンボールのように弾き飛ばされる。


曜「ゼニガメ! そのまま吹っ飛んだヒノアラシを“みずでっぽう”で狙い打ちだよ!」

 「ゼニィ!!」


甲羅から首を出したゼニガメの口から、噴出す水流。

空中にまるまったまま、浮いているヒノアラシは避けられない。


千歌「ヒノアラシ! 背中の炎! とりあえず、おもいっきり!!」


入江でメレシーを撃退したときの炎を指示。

丸まった状態から、一本棒が生えるように前方に向かって火柱が伸びていく。

水鉄砲とぶつかりあって、相殺しようとするが──


ダイヤ「水と炎。水に軍配が挙がりますわね」


火柱を押し返すにように、

ジュウジュウと火柱を消火しながら水流が一直線に飛んでいく。

気持ち威力は殺せたが、消しきることは出来ずにヒノアラシは水に飲み込まれ、

そのまま、水流に押されるようにヒノアラシが更に天井近くまで突き上げられる。


曜「よっし、ナイスゼニガメ!」


ルビィ「あわわ、一方的……」

花丸「攻撃が届かないと、水で圧倒されちゃうずら……」


ダイヤ「ですが、千歌さん……何かたくらんでますわね。イタズラを思いつくのはいつも曜さんではなく、貴方なのですから」


千歌「ニシシ♪ ヒノアラシ!」


天井にぶつかるその瞬間──

丸まったヒノアラシが激しく回転を始める


曜「!?」
 「ゼニ!?」
69: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:16:04.76 ID:VhOLIMaZ0

回転したヒノアラシの身体は天井板の反動を借りて“ころがる”ことによって、ゼニガメに向かって射出される──!!


曜「ゼ、ゼニガメ!? よ、避けて!?」


咄嗟に起こったことに反応出来ず、曜ちゃんの指示が雑になる。

──間に合わず、ヒノアラシの回転突進がゼニガメを吹き飛ばす。


曜「ゼニガメッ!!」

千歌「ヒノアラシ!! 畳み掛けて!!」


ゼニガメを吹き飛ばして尚、回転を続けるヒノアラシ

地面を転がり空や天井以上に大量の運動エネルギーを得た回転体は速度を増して、ゼニガメを追尾する。


曜「ゼニガメ!! “こうそくスピン”!!」


そのままじゃ防御が足りないと判断した曜ちゃんの指示でゼニガメが地面を転がりながら、甲羅に首を引っ込め回転する。


ルビィ「回転と……」

花丸「回転がぶつかるずら!!」


ダイヤ「……! なるほど、考えましたわね」


──えへへ、ダイヤさんは気付いたみたい!


千歌「ヒノアラシ!!」


回転するヒノアラシの身体が──

ボン──という爆発音と共に

──爆ぜた。


曜「え!?」


爆炎の中、

ヒノアラシが回転したまま炎を纏って、

ゼニガメに突っ込む──


千歌「いっけえええええええええ!!!!」


掛け声と共に勢いを増した炎の車がゼニガメを飲み込む──!!

…………。

──場が一瞬静まり返る。


曜「…………!!」

千歌「はぁ……はぁ……!!」


──気付けば、フィールドには気絶して伏せったゼニガメと、

──黒く焼け焦げた、一直線のレールを引いた先にヒノアラシが立っていた。
70: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:17:51.91 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「……ゼニガメ戦闘不能。よって千歌さんの勝ちですわ」

千歌「……ゃ、」


千歌「いやったあああああああ!! ヒノアラシー!!」


私はヒノアラシに駆け寄る。


千歌「やったぁ!! 勝った!! 私たちの勝ちだよー!!」
 「ヒノー!」

喜びながら相棒を抱き上げると、ヒノアラシも嬉しそうに声をあげる。


曜「……あはは、負けちゃったね。ゼニガメ、ありがと」


曜ちゃんがそう言ってゼニガメをボールに戻す。


ルビィ「ね、ねぇ、最後何が起こったの……?」

花丸「爆発したずら……」

曜「私も知りたい……千歌ちゃん、何か指示出してた?」

千歌「えっとね……ヒノアラシをずっと撫でてて、思ったんだ……この子って、戦闘以外はこんなに大人しいのに、どうして背中から炎が出るんだろうって」

曜「……?」

ダイヤ「ふふ、確かに。常時、燃えているヒトカゲやポニータと違って、ヒノアラシは能動的に炎を出しますわね」

千歌「それで私思ったんだ! きっとこの子の背中は爆発してるんだって! それで図鑑で確認したの!」


私は図鑑を開く


 『ヒノアラシ ひねずみポケモン 高さ:0.5m 重さ:7.9kg
  ふわふわの 体毛の毛先は 可燃性の 火薬のような 
  成分を含んでおり 危険を 察知すると その体毛を 
  擦り合わせ 火花を散らし 引火させ 爆炎を巻き起こす。』


ダイヤ「ヒノアラシが丸くなると、露出する部分はほぼ黒い毛で覆われる」

花丸「……あ、もしかして空中であんなに回転できたのって……」

千歌「うん! あのふわふわの毛なら、降ろしたての毛皮のコートが水を弾くみたいに、水を受け流せるかなって思って!」


そして、それはまるで水車のように水を噛みながら、回転へのエネルギーへ


ルビィ「で、でも爆発の説明が……」

曜「……最初の“ひのこ”と“あわ”の撃ち合い……」

ルビィ「え?」

曜「……弾けた火の粉と泡がフィールドをちょっと毛羽立ててた」

ダイヤ「まるでヤスリのように荒れた地面の上で、ヒノアラシが高速で回転したらどうなるかしら」

ルビィ「……あ!!」

花丸「火花と摩擦熱で毛先に着火するずら!」

千歌「えへへ、そういうこと! まあ、最初は考えて“ひのこ”撃ったわけじゃなかったけど……」

曜「それであの火力か……」

ダイヤ「加えて、“まるくなる”から“ころがる”を出すことによって威力が上昇しますわ。それによってより大きな回転を得たヒノアラシは本来のレベルでは覚えていないであろう、“かえんぐるま”を擬似的に再現した」

千歌「えっへへ!」
 「ヒノ!」

ダイヤ「よくヒノアラシを観察し、短時間でその子の特徴を把握して、尚且つ強い信頼関係を結んだ。千歌さん、貴方の勝利ですわ」

千歌「はい!」
71: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:18:48.60 ID:VhOLIMaZ0




    *    *    *





曜「完全敗北だったなぁ……」


千歌ちゃんが嬉しそうにヒノアラシを胴上げしている。


ダイヤ「曜さん、貴方も初のバトルでよく健闘しましたわ」


そういって、ダイヤさんに頭を撫でられる。


曜「えへへ……」

花丸「それにしても、千歌ちゃんがあんな頭脳戦を……」

曜「頭脳戦……というか、なんとなく思いついたんだと思う」

ルビィ「なんとなく?」

ダイヤ「……戦いの場になると、そういう直感が強く働く人が稀にいますが、千歌さんはそういうタイプなのかもしれません」


ダイヤさんは物思いに耽るように、


ダイヤ「トレーナーの機転により、ポケモンの力を100%……いえ、120%引き出す。……千歌さんはもしかしたら、とんでもないトレーナーになってしまうのかもしれませんわね。──あの人たちのように」


あの人たちが誰を指してるのかはわからないけど……。


千歌「ばんざーい!! ばんざーい!!」
 「ヒッノォ!! ヒノォ!!」


千歌ちゃんとヒノアラシを見ながら、そう呟いていました。


72: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 12:19:59.49 ID:VhOLIMaZ0



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  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.9  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:19匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.7  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:19匹 捕まえた数:2匹

 主人公 花丸
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 千歌と 曜と 花丸と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.


73: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:11:16.89 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter007 『はじめての捕獲』





早朝のウチウラシティの家屋に、静かに響くコール音。

──1コール……2コール……3コール……

早起きな鳥ポケモンたちの鳴き声に耳を澄ませながらぼんやりと回数を数え、

大凡、30回を超えるくらいのところで──


鞠莉『Be quiet!! 何時だと思ってるのよ!!』


鞠莉さんがやっとポケギアを取る。


ダイヤ「6時ですわ」

鞠莉『ダイヤは早起きすぎ……』

ダイヤ「幼馴染からのモーニングコールですのよ? もう少し有難がって頂きたいものですわ」

鞠莉『はぁ……んで、何?』

ダイヤ「あの子たちが起きる前に報告でもしようと思いまして」

鞠莉『ん……ああ、千歌っちと曜のこと?』

ダイヤ「昨日バトルについては一通り復習して……今日捕獲の実習をして、旅立つと思いますわ」

鞠莉『相変わらず過保護ねぇ……』

ダイヤ「そうでしょうか?」

鞠莉『電話の一本も滅多に寄越さない、幼馴染もいるのよ?』

ダイヤ「……まあ、確かに」


紺碧の髪をポニーテールに縛った共通の幼馴染を思い出す。


鞠莉『緊急時のポケギアの番号だけ教えといて、後は好きにさせてあげればいいのよ』

ダイヤ「また、貴方はそのようなことを言って……」

鞠莉『……でも、嬉々として連絡してくるくらいなんだから──そっちは順調なんでしょ?』

ダイヤ「べ、別に嬉々としているわけでは……」

鞠莉『声が弾んでいるわよ、幼馴染サン♪』


そういって鞠莉さんは家庭用のポケギアの向こうでからからと笑う。


鞠莉『大丈夫よ。あなたの見立て通り、勇気もあるし、自分たちのポケモンのことも信頼している』

ダイヤ「……そうですわね」

鞠莉『まあ、もっとも……梨子に関しては心配だけどね……』

ダイヤ「梨子……例のチコリータのトレーナーですか」

鞠莉『その感じだと、あの子ジムにも寄らなかったんでしょ?』

ダイヤ「ええ」


鞠莉さんは電話口で少し「Umm...」と唸り声をあげましたが、
74: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:12:28.11 ID:VhOLIMaZ0

鞠莉『まあ、なんとかなるでしょ……。最悪、ポケギアに掛ければ連絡も取れるし』

ダイヤ「割と楽観的ですわね……」

鞠莉『そういうことも含めての旅だからネ。可愛い子には旅をさせよって言うじゃない』

ダイヤ「……一理あります」

鞠莉『まあ、報告は素直にありがたいけどね。とりあえず──』
 『マリー起きたロト!? そろそろ、反省したから解放して欲しいロト!!』


通話の先でロトムが騒ぎ出す。


ダイヤ「ロトム、相変わらず元気そうですわね」

鞠莉『……とりあえず、また明日ね。研究所で図鑑とポケモン用意して待ってるから。ルビィと花丸によろしく伝えておいて』
 『ロトー!! マリー!! 解放を要求するロトー!!』

鞠莉『ポリゴン、“シグナルビーム”』
 『ロドドドドドドド!!!?』

ダイヤ「あははは……。了解しましたわ。……あと、あまりロトムを虐め過ぎないようにしてくださいませね」

鞠莉『……まあ、善処するわ』


そのような言葉を残して、鞠莉さんからの通話が切れる。

……まあ、あれでロトムとは長い付き合いなので大丈夫でしょう。多分。


ダイヤ「さて……」


わたくしはポケギアをポケットにしまってから、身を翻してルビィの部屋へと歩を進める。

──ルビィの部屋の襖を静かに開けると。


ダイヤ「……ふふ」


その光景を見て、思わず笑ってしまう。


千歌「……わらひは……すごいとれーなーにぃ……むにゃ……」
 「ヒノ…zzz」

曜「すぅ……すぅ……」
 「ゼニィ…zzz」

ルビィ「ぅゅ…………」
 「zzz…」

花丸「……もう食べられないずら……」
 「ゴン…zzz」


ルビィの部屋で雑魚寝をしながら、眠る四人の生徒とそのポケモンたち。


ダイヤ「可愛い子には旅をさせよ……ですか」


先程、鞠莉さんに言われた言葉を思い出し、一人反芻するように呟く。


ダイヤ「……あと一仕事して、しっかり見送らないといけませんわね」


そうひとりごちてから、皆を起こすために敷居を跨ぎ、部屋の中へと──生徒達の元へと。わたくしは歩を進めるのでした。





    *    *    *



75: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:13:55.25 ID:VhOLIMaZ0

千歌「ふぁぁ……」


朝の日差しに照らされながら、私は欠伸を漏らす。


ダイヤ「もう、だらしないですわよ」

千歌「はぁい……」


ダイヤさんに注意されて、ぼんやりと返事をする。

一方で、腕の中では──


 「ヒノ……zzz」


ヒノアラシが相も変わらず、おやすみ中で釣られて眠くなりそう。


曜「ヒノアラシ、のんびり屋さんだよね」
 「ゼニ」


横で私たちを見て笑う曜ちゃんと相変わらず真面目そうなゼニガメ。

私たちとは真逆かも……。


ダイヤ「はい、二人とも、私語はおやめなさい」


ダイヤさんがパンパンと手を叩きながら、私たちを注意する。


ダイヤ「これから捕獲について実習致しますわ。これが貴方達にとっての最後の授業になると思いますので、心して受けるように」

千歌・曜「はい!」


元気に挨拶。ダイヤ先生の元での指導もこれが最後になると思うとちょっと寂しい気もする。

そんな様子を見ながら、後ろで見守っていたルビィちゃんが私たちに、とことこと近付いてきて耳打ちする。


ルビィ「お姉ちゃん、みんなが旅に出ること心配してたから……」

曜「……まあ、そりゃそうだよね」


曜ちゃんが苦笑いする。

まあ、あれだけ苦労掛けた先生だもんね。


千歌「よっし……!! そういうことなら、ここは華麗に捕獲を決めて、先生を安心させてあげるよっ!!」


私はそう啖呵を切った。


花丸「二人とも頑張るずら!」
 「ゴン」

ダイヤ「──だから、貴方達!! わたくしが喋っているときに私語は慎みなさーいっ!!!!!」





    *    *    *



76: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:15:29.31 ID:VhOLIMaZ0

──2番道路。

ウチウラシティとホシゾラシティを繋ぐ道路で、両側を海にそれぞれ違う名前の海があります。

西側はスルガ海、東側はスタービーチと呼ばれていて、まさに大自然の真っ只中にあるこの道路は、

草むらにも、海にも、そして仰ぎ見る空にも、たくさんの種類のポケモンが生息しています。

そして、私と曜ちゃんはこんな2番道路で捕獲の真っ最中なのです!!

……なの、ですが──


千歌「わー!! ヒノアラシ!! 火力強すぎ!!」
 「ヒノ…?」


ヒノアラシが私の方を不思議そうに振り返る。

その先では戦闘不能になったコラッタが気絶している。


千歌「うぅ……全然うまくいかない……」


全然、捕獲出来ていませんでした。


ダイヤ「戦闘不能にしてしまっては、捕獲できませんからね……。弱らせてボールを投げればいいのですが……」

千歌「さっきから、やってるもん! なのに、逃げられたり、一発で倒しちゃったりで……」
 「ヒノッ」

ダイヤ「……どうにも貴方には捕獲の才能はないのかもしれませんはね……」

千歌「うぅ……酷い……。……ん? 『捕獲は』ってことは、他の才能ならあるんですか……?」

ダイヤ「それは言えませんわ」

千歌「えーなんでー!!」

ダイヤ「教えたら調子に乗るでしょう?」

千歌「むー……ちぇっちぇっ……いいもん……」


私は頬を膨らませながら、草むらを掻き分ける。


千歌「……そういえば、曜ちゃんは?」


気付いたら近くから姿を消していた曜ちゃんのことをダイヤさんに尋ねると、


ダイヤ「曜さんなら、先程釣竿を持って、スルガ海の方へ行きましたわよ。少し沖に出てポケモンを探すみたいですわ」

千歌「えーいいなー。チカもそっちの方がうまくいくかも……」

ダイヤ「貴方はみずタイプのポケモンを持っていないでしょう。どうやって沖まで出るのですか」

千歌「むぐ……じゃあそれはいいとして……。なんでダイヤ先生は私についてくるんですか。曜ちゃんは心配じゃないの?」

ダイヤ「曜さんは昔から釣りが得意でしたし……何よりあの子は器用ですから。捕獲にもあまり苦労しなさそうだったので」

千歌「……」


──チカもしかして、信用されてない系?

……まあ、悔しいけど、ダイヤさんの言う通り曜ちゃんの方が捕獲は上手いかもしれない。

釣りも上手だし、あの真面目なゼニガメと穏やかなラプラスなら、いい感じに弱らせられるかもしれない。

反面私の手持ちは……


 「ヒノ……?」
77: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:17:31.57 ID:VhOLIMaZ0

ヒノアラシが小首を傾げる。

どうやらこの子はフルパワーはすごいんだけど、火力の調整が少し苦手みたい。

お陰で、近くにいたポケモンは焦げた草の臭いのせいか逃げちゃうしで、遭遇すら思うようにいかない。


千歌「うぅ……前途多難だよぉ……」


逃げ惑うオタチやポッポを見ながら、私はぼやく。


千歌「ん……?」


──ふと、逃げ惑うポケモンたちの中に、随分と堂々とその場に居座っている鳥ポケモンを見つける。


ダイヤ「あれは……ムックルですか」

千歌「ムックル……」


私はおもむろに図鑑を開く。


 『ムックル むくどりポケモン 高さ:0.3m 重さ:2.0kg
  普段は たくさんの群れで 行動している。
  身体は 小さいが 羽ばたく 力は 非常に
  強い。 鳴き声が とても やかましい。』


千歌「……群れてないじゃん」


思わずポケモン図鑑にツッコミを入れてしまう。


ダイヤ「珍しい個体ですわね……。わたくしもあのようなムックルを見たのは、初めてかも知れません」


そのとき、

 「ピィ…」

そのムックルがその見た目に似つかわしくない目つきで私たちを睨みつけてくる。


千歌「……なんか睨まれてる」
 「ヒノ…」


──次の瞬間、

ムックルが地面を蹴って、低空を飛びながら、

突っ込んできた──


千歌「……!? ヒノアラシ! “えんまく”!!」
 「ヒノッ!!」


ブシュウウウ──と

ヒノアラシの背中から黒い煙幕が噴出し、視界を塞ぐ。

その煙幕から、ムックルがそのままの勢いで飛び出し、

ヒノアラシ、そして私のすぐ横を掠めていく。


千歌「……!!」


私はすぐさま振り返ると、ムックルは空に飛び上がっていた。

そして、バタバタと力強く羽ばたき始める。

すると、撒いた“えんまく”が見る見る吹き飛ばされている。
78: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:18:48.97 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「先程の技は“すてみタックル”でしょうか? ……そして今度は“きりばらい”。あまり野生の個体が使う技ではないのですが……本当に珍しいですわ」

千歌「ねえ、ダイヤさん!」


少し離れたところでムックルを分析するダイヤさんに声を掛ける。


ダイヤ「なんでしょうか」

千歌「つまり、あのムックル……強いってこと?」

ダイヤ「……まあ、そう言ってしまって差し支えないと思いますわ」

千歌「なるほど……。……よし、決めた……!」
 「ヒノ!」


私は空から、私たちに向かって狙いを定めるムックルに対して、


千歌「キミは絶対、チカが捕獲するんだから!」


そう宣言した。





    *    *    *





曜「コイキング……シェルダー……メノクラゲ……」


捕まえたポケモンをボール越しに透かしてみる。


曜「うーん……なんか違うんだよなぁ……」
 「ゼニ?」「キュゥ?」


私のぼやきにゼニガメとラプラスが疑問の鳴き声をあげる。


曜「なんか……せっかく一緒に旅するんだったら、海にきたぞー!! って感じのポケモンがいいんだけど……」
 「……ゼニ?」


再びゼニガメが不思議そうに首を傾げる。

ふと顔をあげると、

ザッブーン──と、大きな音を立てて水しぶきがあがる。


曜「そうそう……あんな感じにド派手に水しぶきを上げて……ん?」


少し間を置いて、丸い──丸いクジラが飛び出した。


曜「……!!」


ザッブーンと──再び大きな音を立てて水しぶきがあがる。


曜「きたきたきた!! 曜ちゃんレーダーにピンと来たよ!!」


海のポケモン──たまくじらポケモン、ホエルコ!!!

パパに乗せてもらった船の上で見たことがある、あのとにかくおっきなクジラ、ホエルオーの進化前のポケモン!


曜「あの子! 捕獲するよ! ゼニガメ!」
 「ゼニ!!」
79: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:20:44.76 ID:VhOLIMaZ0

私の指示と同時にゼニガメがラプラスの背中から飛び降りて海に着水する。

そしてすぐさま、身体を甲羅に引っ込める。


曜「“アクアジェット”!!」
 「ゼニッ!!」


指示と共にゼニガメが甲羅から水を逆噴射して、水中をロケットスタートする。

私だって、千歌ちゃんに負けてられない!

トレーナーとして、フィールドを利用したり、技を組み合わせて、ポケモンから本来よりも強い力や技を引き出すんだ!


曜「そのまま“ずつき”!!」


ロケットスタートした、ゼニガメの痛烈な頭突き──それ即ち、


曜「“ロケットずつき”!!」


ゼニガメが水中から抉り込むように、ホエルコへ頭突きする。

──水中から、ホエルコが玉突きのように突き出される。


曜「よっし!!」


しかし、ホエルコは宙をくるくると舞いながら、


曜「……?」


ホエルコを突き上げた拍子に飛び出したゼニガメに向かって、

落下しながら、


曜「!? ゼニガメ!! “からにこもる”!!」
 「ゼニ!!」


私は咄嗟に指示する。

突き飛ばしたはずのホエルコはその巨体のままゼニガメに向かって落ちてくる。

“ヘビーボンバー”だ!!

殻に篭ったゼニガメを海面にたたきつけるように、

ホエルコが落下し、三たび、大きな水しぶきがあがる、


曜「くっ……!! ゼニガメ!!」


水上から海中を見る。

だが、ホエルコの落下の際に発生した波が激しすぎて、全然見えない。


曜「こーなったら!!」


私はバッグから、水中メガネを取り出す。

この前の反省を生かして、水中戦も考慮に入れて持ってきた秘密兵器!


曜「とう!」
80: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:29:14.60 ID:VhOLIMaZ0

素早くゴーグルを付けて、ラプラスからダイビング!

ザブン──!!

──水中に潜ると、ゼニガメが何度もホエルコに突進しては跳ね返されていた。

よかった、ゼニガメは無事みたいだ……。

……というか。

──ホエルコ、大きくなってない?

私は水中で図鑑を開く。


 『ホエルコ たまくじらポケモン 高さ:2.0m 重さ:130.0kg
  身体に 海水を 溜め込むことによって 大きく膨らむ。
  丸く大きな 身体は 弾力性に 富んでいて 地上でも
  高く 弾む。 但し 身体が乾くと 元気が なくなる。』


海水を飲んで大きくなって弾力性があがってるんだ……。

じゃあ、突進系の攻撃じゃダメだ!

図鑑をポケットに押し込んでから、私は水中で両手の指を怪獣の爪のように立て、それを上下に合わせるように動かす。

 「ゼニ…!!」

それを見たゼニガメはコクリと頷いて、ホエルコに“かみつく”

 「ボォォォォ……」

ホエルコが苦しそうな鳴き声をあげて、少しずつしぼんで行く。

よし! 効いてる!

でも決定打に欠ける……。

図鑑の通りなら乾けば弱る……。

乾けば……。

…………。

そうだ……!!

私は今度は水中で拳を突き上げるジェスチャーをする。


 「ゼニ!!」


痛みでしぼんだホエルコを再び海上に吹き飛ばすためにゼニガメの拳がホエルコを穿つ、

“メガトンパンチ”!!

私はすぐさま、上に泳ぎ出て、

海上に飛び出したホエルコを指差し、


曜「ぷは……っ!! ラプラス!! “フリーズドライ”!!」
 「キュウッ!!」


ラプラスに指示を出す

ラプラスから放たれた、乾いた冷気がホエルコを一気に乾燥させる。

 「ボォオォォォォォ……!!!!」


曜「いまだ!!」


私はラプラスの背中に片手を伸ばして手を付き、その反動を使ってボールを中空のホエルコに向かって投げつける。

──でも、


曜「……っ!! 届かない!!」
81: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:30:50.46 ID:VhOLIMaZ0

僅かに投げたボールの勢いが足りない、

──だが、

 「ゼニッ!!」

海中から回転しながら飛び出したゼニガメが、その勢いのまま尻尾でボールを打った。


曜「ナイス!! ゼニガメ!!」


乾いた身体でHPの減ったホエルコにボールが当たり。


 「ボオォォォ……」


ホエルコがボールに吸い込まれ、そのまま水面に落ちていった。


曜「…………」


ラプラスの背に乗ったまま、ボールの落下地点へと移動すると──。


曜「……ゼニガメ、ラプラス、ありがと!」
 「ゼニッ」「キュゥッ」


私たちの新しい仲間を入れたボールが大人しくなってぷかぷかと浮かんでいました。





    *    *    *





──上空に羽ばたいたムックルがヒノアラシに向かって一直線に急降下してくる。


千歌「また“すてみタックル”……! ヒノアラシ、“ひのこ”!」
 「ヒノッ!!」


私の指示で小さな火球が飛んで行く。

──が、


 「ピィィィィ!!!!!!!!!」


ムックルは火球を突き抜けて、さらにそのまま突進してくる。


千歌「わわ!! ヒノアラシ、前に向かってダッシュして……!」
 「ヒノッ」


──間一髪、ヒノアラシの上スレスレを通ってムックルが背後の地面に突き刺さる。

その破壊的なタックルの威力によって地面が抉れていた。


ダイヤ「……いくらなんでも、ただの“すてみタックル”にしては威力が高すぎますわね。あのムックルの特性は“すてみ”ですわね」

千歌「それなんですか!?」

ダイヤ「自分への反動を省みずに突っ込むことで、突進系の技の威力をあげる特性ですわ」

 「ピィィィィ!!」


なんて話をしていたら、ムックルが鳴き声をあげて、再びヒノアラシへの突進体勢を取っている。
82: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:31:57.35 ID:VhOLIMaZ0

千歌「あの威力じゃ、“かえんぐるま”でも負けちゃうし……。……あれ?」


──自分への反動を省みず?

つまり、自分への反動は普段よりも大きくなる……。攻撃をすればするほど……。

じゃあ、適任がいるじゃん!


千歌「しいたけっ!!」


私はボールは放って、しいたけを繰り出す。


 「バゥッ!!」


千歌「しいたけ、“いばる”!」
 「ワフッ」


しいたけはその場に堂々とお座りして、偉そうに鼻を鳴らす。

 「ピッ…」

それを見たムックルが、前方で戦っていたヒノアラシから注意を逸らされ、しいたけを睨みつけてくる。

そして、地面を蹴って飛び出す、

三たびの“すてみタックル”!


千歌「しいたけ、“コットンガード”!」
 「ワフ」


しいたけの体毛が更にもこもこになる。

これで防御力倍増……!!

──ガスン!!

と、ムックルがしいたけに突き刺さる。

──が、ふわふわの体毛で受け止めたため、しいたけへのダメージは小さい。

ここからは根競べだ!

 「ピィピィ!!」

ムックルは鳴きながら、距離を取るために空中でサマーソルトし、そのままの勢いで再び突っ込んでくる。

──ガスン!!

──ガスン!! ガスン!! ガスン!!

鈍い音を立てながら、何度も突進を繰り返す。


ダイヤ「……ですが、いくらトリミアンの防御力を持ってしても、これ以上は耐えられませんわよ?」

千歌「わかってる! しいたけ! “ねむる”!」
 「ワフォ…zzz」


一旦あくびをしてから、しいたけが眠りだす。

──ガスン!! ガスン!!

依然ムックルの攻撃は止まないけど、


ダイヤ「なるほど……眠って体力を回復して、その分更にムックルには反動を蓄積させる」
83: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:34:43.03 ID:VhOLIMaZ0

 「ピッピッピッピ…!!」

“いばる”の効果もあってか目に見えて、ムックルがイラついている。

……と思った次の瞬間

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!」

とてつもなく甲高い声が、辺りを劈いた。


千歌「うわわわわ!? 今度は何!!?」
 「ワオッ!?」


寝ていたはずのしいたけが思わず目を覚ます。


ダイヤ「こ、これは……“さわぐ”ですか……!?」


怒ったムックルが騒ぎながら、突撃してくる。


千歌「う、うるさ……っ!! でも起きたなら丁度いいかも! しいたけ!」


迫るムックル、

私の言葉でもこもこと毛を増量するしいたけ、

防御姿勢で乗り切る!!


千歌「──と、見せかけて」
 「バウッ」


しいたけがお手をするように、ムックルを前足ではたく。


 「ピイイイイィィィ!?!?」


ムックルは予想外のことに反応出来ず、ゴロゴロと草むらの上を転がっていく、


ダイヤ「これは良い“ふいうち”ですわね」


そして、地面に転がったムックルに向かって、先ほど走り出た先から戻ってくるように、こちらに向かって、一直線に転がる、焔──


千歌「ヒノアラシ!! “かえんぐるま”!!」
 「ヒノォォォ!!」

 「ピィィィィ?!?!」


燃える車輪に弾き飛ばされ、大きなダメージを負って高く高く空に跳ねるムックル。

 「ヒノォ」

ヒノアラシは昨日同様、焼け焦げた黒いレールを地面に引きながら、私の前で停止する。


千歌「いま!!」


私は軽くボールを放る。

──ヒノアラシの背中辺りに、

 「ヒノッ」

──ボンッ!!

という爆裂音と共に、ヒノアラシの背中の爆発でボールがムックルに向かって一直線に弾き飛ぶ。


 「ピィ…」
84: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:35:28.87 ID:VhOLIMaZ0

ムックルは弱々しい鳴き声を残して

──パシュン。

という音と共にボールに吸い込まれた。

ボールは高所から地面に落ちて、

──カツーン!!!

という大きな音を立てて、大きく一揺れした後、すぐに動かなくなった。


千歌「……!!」


私はそのボールの元に走り出して、

それを手に取った。


千歌「えへへ……ムックルゲットだよ!」


それをヒノアラシとしいたけに見えるように前に掲げた。

 「ヒノ!」「ワン!」

──パチパチパチパチ

気付いたら、傍で見ていた、ダイヤ先生が拍手をしていた。


ダイヤ「お見事でしたわ」

千歌「え、えへへ……」


恩師からの賛辞に、思わず照れる。

そして、いいタイミングで遠方から声が聞こえる。


曜「──千歌ちゃーん!! ダイヤ先生ー!!」

ダイヤ「曜さんの方も終わったみたいですわね」


ダイヤさんは私に向き直って、


ダイヤ「合格ですわ。おめでとうございます」


そう言って、いつものあの優しい笑顔を向けてくれました。


85: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:36:14.83 ID:VhOLIMaZ0



    *    *    *





ダイヤ「二人とも、食事はちゃんと取るのですよ? 特に山や森に入るとき、海を渡るときは入念に食料を調達して……」

千歌「もう、わかったからぁ……」

ダイヤ「本当ですか? 曜さんはともかく、千歌さんは特にそういうところが心配ですわ」

千歌「むー……大丈夫だって言ってるじゃないですか!」

曜「あはは……」

ダイヤ「……コホン。……まあ、確かに旅立ち前にながながしいお説教も野暮でしたわね」


ダイヤさんは咳払いをしてから、そう付け足す。


ダイヤ「二人とも、これを」


ダイヤさんはバッグから、宝石のようなものを二つ取り出し、赤い物を私に、青い物を曜ちゃんに手渡す。


千歌「……これは?」

ダイヤ「ジュエル……というものですわ。一回限りしか使えませんが、それぞれほのおタイプとみずタイプの威力をあげる効果がある道具です。旅立つ教え子への餞別ですわ」

曜「ダイヤさん……」

ダイヤ「それでは改めて、千歌さん、曜さん」

千歌・曜「はい」

ダイヤ「ポケモンたちとの旅……楽しんできてくださいませね。いってらっしゃい」


ダイヤさんの激励に、二人で笑顔になりながら──


千歌・曜「「いってきます!!」」


──私たちは元気にそう答えました。


86: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 13:37:29.18 ID:VhOLIMaZ0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【2番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
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  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
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  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.11  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.16 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.10 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:24匹 捕まえた数:3匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.9  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.10 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



87: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:26:36.92 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter008 『ホシゾラシティ』 【SIDE Chika】




──ダイヤさんに見送られ、私たちは2番道路の先の分かれ道で立ち止まる。


千歌「私はこのままホシゾラシティを目指して西に進むけど……曜ちゃんはどうするの?」


私が訊ねると、曜ちゃんは、


曜「私は、最初に言ったとおり海を旅したいから……東のスタービーチから海を渡ってフソウ島を目指そうかなって思ってるよ!」


そう答える。


千歌「じゃあ、ここで一旦お別れだね」

曜「あはは、そうだね」


私の親友は返事をし、笑いながら、拳を前に突き出してくる。


千歌「! えへへ……!」


私も同じように、拳を前に出して、コツンと合わせる。


千歌「……次会うときは」

曜「お互いもっとすごいトレーナーに!」

千歌「うん!」


ずーっと、曜ちゃんとは一緒に過ごしてきて……。

離れ離れになるなんて、ほぼ初めてかもしれないけど──


千歌「……今はこの子たちがいるから」


──腰に付けた3つのボールに目の端で視線を送る。


曜「うん!」


お互いの拳が離れて、曜ちゃんはそのままトトッと後ろにステップし、


曜「それじゃ! またね、千歌ちゃん!」


敬礼のポーズをした後、踵を返してスタービーチに向かって走っていった。


千歌「よーちゃーん!!」


私は曜ちゃんの背中に呼びかける。


千歌「わたしー!! 次会うときはホントにすっごいトレーナーになってるからー!! 楽しみにしててねー!!」

曜「わたしもー!! いっぱい海の旅のお話、聞かせてあげるからー!!」


そして、私たちの一人旅はここから始まります──。





    *    *    *
88: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:28:17.70 ID:VhOLIMaZ0




歩くこと数時間。


千歌「ここが……」


到着しました。ホシゾラシティ。

大きな町ではないけど、ウラノホシタウンに比べればポケモンセンターやフレンドリーショップなど、いろいろな施設が揃っている町……。

でも、右手には大きな山、左手には相も変わらずスルガ海が広がっている。そんな自然豊かな町です。


千歌「とりあえず、ジムだよね!」
 「ヒノ?」


足元をちょこちょこ歩くヒノアラシが小首を傾げる。

私は、そんな小さな町の中でも気持ち大きめな建造物を目指します。

ポケモンジムは分かりやすいように、外観はどの町でも、さほど変わらないので、ウチウラシティで見た覚えのある建物を見つけ、そこに直行。

ジムの前に辿り着き。扉を開こうとして、気付く。


千歌「……張り紙?」


ジムの扉には張り紙がしてあって、


千歌「『所用により、『流星山』にいます。──ジムリーダーより。』 ……」
 「ヒノォ…zzz」

千歌「また、出鼻くじかれたー!!」


──足元でヒノアラシ寝てるし!


千歌「むー……ここで待つのもなぁ……。いつ帰ってくるのかわからないし……」
 「ヒノ…zzz」


流星山って──私はジムの更に向こう側に見える大きな山に視線を向ける。


千歌「確か、あの山だよね」


──どっちにしろ、ジムリーダーには会わなくちゃいけないんだし、


千歌「じゃあ、いってみよっかな!」
 「ヒノ…zzz」


お昼寝中のヒノアラシを抱き上げて、町の北にそびえる山へ、歩を進めます。





    *    *    *





──流星山。

その名の通り、流れ星や天体観測の有名なスポットで、ウチウラシティからそこまで離れていない観光地でもあります。

そのため、山道と言ってもほとんどはロープウェイで山頂まで行くことが出来るので、行き来はそこまで大変ではありません。

なんでこんなに詳しいのかと言うと。小さい頃、何度かお母さんや果南ちゃん──あ、果南ちゃんって言うのはアワシマに住んでた1個年上のお姉さんです──に連れていってもらって訪れたことがあるからです。
89: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:29:38.31 ID:VhOLIMaZ0

千歌「そういえば果南ちゃん……今何してるんだろう」
 「ヒノ…zzz」


7年前にポケモンを貰って旅に出て以来、たまーに帰ってくることはあるんだけど、正直ほとんど会っていない。

確かダイヤさんと一緒にポケモンを貰ったんだったよね。

……じゃあ、そうなると果南ちゃん、ダイヤさん、鞠莉さんが一緒にポケモンと図鑑を貰った3人なのかな。


千歌「そういえば、鞠莉さんも図鑑持ってたもんね」
 「…zzz」


お昼寝中のヒノアラシをもふもふしながら、先程乗り込んだロープウェイのゴンドラの外を見る。


千歌「町、ちっちゃいなぁ……」


子供の頃、お母さんや志満姉、美渡姉……そして、果南ちゃんと一緒に乗って見たこの景色。

あのときは一人でここに来ることはできなかったけど、今はこうして一人でこの景色を一望出来る。


千歌「私……今旅してるんだ」


景色を目に焼き付けながら、私はそんなことを今になってやっと自覚する。

──すると、さっきまで丸まって寝ていたヒノアラシが首を伸ばして、私の胸辺りに鼻をこすりつけてくる。

 「ヒノ」

千歌「あはは、ごめんごめん。一人じゃないね。皆が一緒だもんね」
 「ヒノ…」


そう言って、ヒノアラシの頭を撫でると、また丸まって、

 「…zzz」

お昼寝を始めた。


千歌「キミは自由だね……」


私はぼんやりと言葉を零す。

ゴンドラは間もなく頂上に到着しようとしていた。





    *    *    *





千歌「……着いたっ!」
 「ヒノ…zzz」

千歌「そろそろ、起きてくれないかな……」
 「ヒノ…?」


ヒノアラシをそっと地面に転がすと、のそのそと歩き出す。


千歌「よしよし」


私はヒノアラシが起きたのを確認して、辺りを見回す。


千歌「──確か、天文台があったはず……あ、あそこだ」
90: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:31:37.22 ID:VhOLIMaZ0

山頂にある建物を見つけ、そこに数人の白衣を着た人達が集まっているのが見える。

たぶん、あの中にジムリーダーもいるんだろう。

そう思い、そっちに向かおうとしたとき──

 「ヒノッ」

ヒノアラシが声をあげた。


千歌「? どうかしたの?」


ヒノアラシの視線の先を見ると──どこかで見たような人影。

メブキジカを連れて、長い葡萄色の髪の毛をバレッタ留めた女の子。


千歌「あ、梨子ちゃん!」

梨子「え?」


私の声に梨子ちゃんが振り返る。


梨子「ああ……貴方……」


そして、少しめんどくさそうに応える。


千歌「梨子ちゃんもジムリーダーを探しに?」

梨子「違うわ」


そう言って梨子ちゃんはポケットからケースを取り出して、それを開けて見せてくる。

その中には流れ星のような形のバッジがはまっていた。


梨子「この通り、私はホシゾラジムを突破した後よ」

千歌「そうなんだ……! すごいね!」

梨子「……1個目のバッジなんて、誰でも手に入るわよ」


そう言って、梨子ちゃんは私の横をすり抜けていく。


千歌「あ、あれ? もう行っちゃうの?」

梨子「……ここにはないみたいだから」


私が振り返りながら問い掛けると、梨子ちゃんは若干苦しそうな顔をして、そう言う。


千歌「ない……? なにが……?」

梨子「……なんでもない」


そう言って、去っていく。

 「ブルル…」

その後ろでメブキジカが私に向かって、会釈をしてから、一人と一匹は去っていった。


千歌「……なんだろ?」
 「ヒノォ…」


気付くと足元でヒノアラシがあくびをしている。


千歌「あーもう……寝ないのー。いくよー?」
91: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:34:26.64 ID:VhOLIMaZ0

私がそう言って天文台の建物に向かって歩き出すと、

 「ヒノ」

ヒノアラシは後ろをとてとてと付いて来る。

このまま突っ立ていると、またヒノアラシがお昼寝しちゃうし。

梨子ちゃんの言ってたことはちょっと気になるけど……。私もジムリーダーと戦わなくちゃだもんね!





    *    *    *





 「──ですから! せっかく最新鋭のですね!」

 「えー、でも実際目で見たほうが早くないかにゃ? ほら双眼鏡もあるし」


天文台に近付くと、その外で白衣を着た人、数人と比較的明るい髪色のショートカットのお姉さんが何やら口論をしていた


 「せっかくローズシティから頂いた観測機なんですよ!?」

 「真姫ちゃんはすぐお金に頼るから……こーいうのは自分の目と足で確認した方がいいんだってばー」


お姉さんは恐らく天文台のスタッフさんらしき人たちからプイっと顔を背ける。


千歌「……あっ」

 「……にゃ?」


その拍子にお姉さんと目があった。


 「? ……?」


お姉さんは少し考える素振りをして、


 「……あ、もしかしてキミ。ウラノホシ旅館トチマンの末っ子ちゃんかにゃ?」


思い出したかのように、そう言った。


千歌「え、あ、はい……?」


私は突然、自分の正体を言い当てられて少したじろぐ。


凛「あ、ごめんごめん。私のこのホシゾラ天文台の所長の凛って言うんだけど、あなたちっちゃい頃何度かここに来てたよね?」

千歌「え、あ、はい。……何度か、親とか、友達と……」

凛「やっぱり! よく子供の頃、果南ちゃんと一緒に遊びに来てた子だよね! 懐かしいにゃ~! ……って言っても当時はお母さんが所長だったけど」

千歌「果南ちゃんのこと、知ってるんですか?」


私は凛さんの口から飛び出した、聞き覚えのある名前に反応する。


凛「うん! 7年前にも旅してる果南ちゃんに会ったし……そのときもこうしてお話したんだよ」

千歌「そうなんだ……」


果南ちゃんもここに来たんだ……。まあ、そっか。同じ場所から旅に出てるんだから、同じ場所に来てるのなんて全然不思議なことじゃない。
92: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:36:09.11 ID:VhOLIMaZ0

凛「もしかして、あなたも……えぇっと」

千歌「あ、千歌です!」

凛「千歌ちゃんも冒険の旅に?」


凛さんは私の足元で、もそもそと動くヒノアラシを見ながらそう問うてくる。


千歌「あ、はい!」

凛「……それじゃ、まずはこっちだにゃ!」


凛さんが突然、私の腕を掴む。


千歌「え!?」

凛「レッツゴー!!」

千歌「え、えええーー!?」


凛さんがそのまま私の腕を引っ張って走りだす。

 「ヒノ…」

その後ろをヒノアラシがトコトコと付いて来る。


千歌「ち、ちょっと……」


突然の展開に動転して、一旦制止しようとするが、


凛「にゃにゃ~!」

千歌「ちょ、は、はやっ……!!」


思った以上に腕を引いて走る凛さんの足が速いため、転ばないように頑張って足を動かすことで精一杯。制止の声を掛けるどころではない。

──と思ったら、


凛「到着!」

千歌「わわ!!」


すぐに目的地に到着したのか、凛さんが急に停止して、私は前につんのめる。


凛「おっとと……」


凛さんがつんのめった私をぐっと引っ張って、体勢を立て直させる。

華奢で小さな体躯に見えたけど、思ったより力が強い。

それはともかく──


千歌「い、いきなりどうしたんですか……?」


私は顔を顰めながら、凛さんに尋ねる。


凛「えへへ……冒険に来たのなら、まずコレを見ないと──って思って!」


そう言って凛さんが指差す先には、


千歌「コレ……? ──うわぁ……!!」
93: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:39:30.68 ID:VhOLIMaZ0

高い山の上から、一望出来る絶景。

先に見える、豆粒みたいな町々や自然豊かな山、河、森もすごいんだけど……何より──


千歌「あの木……すごい……」


流星山よりもずっと高く伸び、雲さえも突き抜ける高さの大樹が目を引いた。


凛「この山から北西に見えるあの木。あれが、ここ──オトノキ地方のシンボルとも言われている『音ノ木』だよ」

千歌「音ノ木……!」

凛「ちょっと遠いから、夜は意識しないと見えにくいけど、あれだけ大きな木だから、晴れた日にこの山から見るとその大きさに圧倒されるにゃ。……通称『龍の止まり樹』……」

千歌「龍の止まり樹?」

凛「昔から、あの樹の先から龍の雄たけびのような音がすることがあってね。あの樹のテッペンでは龍が休憩しているなんて言われてたんだよ。今では違うってことがわかってるんだけど……はいこれ」

千歌「? ……双眼鏡?」


次々と進んでいく話に多少頭が付いていかないながらも、とりあえず手渡された双眼鏡を覗いてみる。


凛「──あ、もっと上の方」


言われて、音ノ木の上の方を見ると。


千歌「……岩?」


岩のようなものがふわふわと浮いているのが見えた。


凛「あれはメテノって言うポケモンだにゃ」

千歌「メテノ……」


言われて私は図鑑を開く。この距離でサーチできるかな?


 『メテノ ながれぼしポケモン 高さ:0.3m 重さ:40.0kg
  もともと オゾン層に 棲んでおり 身体の 殻が重くなると
  地上に 向かって 落ちてくる。 とても 頑丈な 外殻だが
  落下 したときの ショックで 木っ端微塵に 砕けてしまう。』


凛「にゃにゃ? それポケモン図鑑かにゃ?」

千歌「え? あ、はい」

凛「凛が使ってたときよりも進化してるにゃ~……」

千歌「凛さんもポケモン図鑑、持ってるんですか……?」

凛「うん! 旅してたときにね! でも、もう結構前の話だけど……。──っと、いいタイミングだにゃ!」


そう言って、凛さんが突然指を指す。


凛「あっち! あそこのメテノを見てみて欲しいにゃ!」

千歌「あっち!? どっち!?」


双眼鏡を上に下に動かす。


凛「もうちょっと、上にゃ」
94: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:41:03.35 ID:VhOLIMaZ0

凛さんが私に手を重ねて微調整する。

……というか、この人肉眼で見えてるんだ。すごい視力。

すると、ちょうどいいタイミングで、


千歌「!?」


メテノが音ノ木にぶつかって──弾けとんだ。

そして、数秒の後、その爆発音がここ流星山まで響いてくる。


凛「あれが龍の咆哮の正体」

千歌「え、メテノは……」

凛「にゃ? ああ、大丈夫だよ もう一度、さっきの場所を見てみて」


言われて、双眼鏡を覗き込むと


千歌「……ピンクのがいる」


シルエットは同じなんだけど、今度は岩ではなく、ピンクの柔らかそうな質感の物体が飛んでいる。


凛「メテノの特性“リミットシールド”って言うんだけど……。ダメージを受けるとああやって外殻が割れて身軽になるんだよ。殻が割れて軽くなったら、あとはまた上空に向かって戻ってくにゃ」

千歌「そうなんだ……よかった」

凛「本来オゾン層にいるんだけど、いろんな理由で降りてきたり、休もうとしたメテノが音ノ木にぶつかった時の音が、昔からずっと鳴り響いてたんだろうね」

千歌「それで音の木……」

凛「そうそう、そういうこと」


凛さんは嬉しそうに笑いながら、


凛「そして、そんな音ノ木とメテノたちの観測をしているのが、ここホシゾラ天文台なんだよ。……あ、もちろん普通の天文観測もしてるけどね」


そう続ける。

──私は凛さんの言葉を聞きながら、再び大樹に目を向ける。

とてつもなく大きい、雄々しい、大樹。


凛「気に入ってくれたかな?」


そう言って、凛さんが私の顔を覗き込んでくる。


千歌「……はい!! とっても!」

凛「それはよかったにゃ」


凛さんはそう言って、からからと笑う。


凛「ところで、千歌ちゃんはどうしてここに?」

千歌「え?」

凛「わざわざこんな時間に山頂まで来るなんて物好きだなぁって思って……」

千歌「えっと……あれ? なんでだっけ……」


言われて首を傾げる。

 「ヒノ…」

やっと追いついたヒノアラシが私の足元にトコトコと寄って来る。
95: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:41:48.95 ID:VhOLIMaZ0

千歌「……あ、そうだ! ジムリーダー探しに来たんだった!! 凛さん、知りませんか!?」

凛「にゃ? ……ああ、ジム!!」


──瞬間。

凛さんが何かを思い出したかのように突然走り出す。


千歌「──え、ちょっと!? 凛さん!?」

凛「ジムリーダーに挑戦だよね!? ジムで待ってて!!」


そう残して、居なくなってしまった。


千歌「……ってか、足はや」


下手したらポケモンより速いんじゃないかな……。


千歌「う、うーん……? 凛さんがジムリーダー呼んで来てくれるってことだよね? ……ジムで待ってよっか」
 「ヒノ」


騒がしくも明るい女性、凛さんとの衝撃的な邂逅を終え、

私はヒノアラシと一緒にロープウェイへと戻っていくのでした。





    *    *    *

96: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:42:48.91 ID:VhOLIMaZ0



──ロープウェイを下り、ホシゾラシティのジムに戻ると、さっきまであった張り紙がなくなっていました。


千歌「ジムリーダーさん、戻ってきたんだね!」
 「ヒノッ」


私はジムのドアを押し開ける。


千歌「た、たのもー!!! ……でいいのかな?」
 「ヒノ!!」


私の声がジムの中に反響する。

その奥で、女性が一人。


千歌「──え」

 「もう、遅いよ千歌ちゃん。待ちくたびれちゃったにゃ」


先ほど流星山で会った人。


千歌「凛、さん……?」

凛「にゃ? どうかしたの?」


凛さんが素っ頓狂な声を出す。


千歌「え? ジムリーダー……え??」

凛「あれ? 言ってなかったっけ? ……それじゃ、改めて」


凛さんはそう言ってから、一歩前に出る。


凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛! 正々堂々……お願いします、にゃ♪」


私の目の前でジムリーダーが直々に頭を下げました。


97: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/29(月) 15:43:58.66 ID:VhOLIMaZ0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
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  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
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  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
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 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.13  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.11 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:26匹 捕まえた数:3匹

 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



100: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:39:06.89 ID:8koyJWg30

■Chapter009 『決戦!ホシゾラジム!』





凛「使用ポケモン2体! 先に2匹とも、戦闘不能になった方が負けだよ! 行け、バルキー!」


そう言って、凛さんが放ったボールから、ポケモンが飛び出す。


 「バルッ」

千歌「え、えーっと……」

凛「ほーら! 早く! 千歌ちゃんもポケモン出して!」

千歌「あ、は、はい! 出てきて、ムックル!」


倣う様に私がボールを放ると中空でボールが弾け、ムックルが飛び出す


 「ピィィィ!! ピィィィ!!」

凛「そのムックル、気合い十分だね! バルキー“マッハパンチ”!」
 「バルッ!!」


バルキーが大地を蹴る。

──と、思った瞬間、

ムックルに拳が迫っていた。


千歌「!! “でんこうせっか”!」
 「ピィィィ!!」


音速の拳に対抗するように、

素早く空を切りながら、拳と嘴が相対する。

──しかし

 「ピピッ!!?」

一瞬遅れた指示のせいか、力負けしたムックルが吹き飛ばされる。


千歌「ムックル!?」
 「ピピィィッ!!」

地面を転がったが、ムックルはその勢いのまま床を蹴って、再び空に飛び立つ。


千歌「大丈夫だね!? よっし!! “すてみタックル”」


勢いを殺さぬまま、ムックルが更に加速する。


凛「真っ向勝負!! いいね、凛そういうの好きだよ!」
 「バルッッ!!」


──ダンッ!!

凛さんの声に呼応するようにバルキーが震脚する。

踏み込んだ足の反動を利用して、捻り出す弾丸拳。


凛「“バレットパンチ”!!」
101: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:40:30.60 ID:8koyJWg30

再び衝突する拳と嘴。

──ガィン!と鈍い音と共に、

軌道をズラされたムックルがバルキーのすぐ横の床に刺さる。


千歌「ムックル! すぐ振り返りながら“つばさでうつ”!」

 「ピピッ!!」


すぐさま床から嘴を引き抜き、

その勢いも載せて、翼を振るう


凛「“ローキック”!!」


バルキーも振り返りながら、その反動で低位のムックルに蹴りを繰り出す

──今度は翼と脚が交差し、

お互いの膂力がぶつかり合い、弾ける。

 「ピピッ」「バルッ」

威力はほぼ互角

両者、お互いの攻撃を交えた反動で距離を取る。

バルキーは私に背を向ける形でステップを踏み、

ムックルは凛さんに背を向ける形で空へ。


凛「かくとうタイプのポケモンにも劣らない筋力! すごいにゃー!」


両者互角の真っ向勝負。


千歌「ムックル、“みだれづき”!」


再び宙空から、嘴を、

──今度は連打で!!


凛「バルキー “こらえる”!」


一方、凛さんは防御を選択。

──ガガガガガ!!

嘴の連撃をバルキーは両腕で頭を庇うようにして、堪える。

──でも確実にダメージは与えてる……!!


千歌「そのまま押し切って!!」
 「ピピ!!」


私の声に呼応するムックル

だが、

一瞬声を掛けたのがかえって仇となった、
102: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:41:38.41 ID:8koyJWg30

凛「いまにゃっ! “かわらわり”!」

 「バルッ」

 「ピギッ!?」

私の声に反応した瞬間に生まれた隙を突いて、

バルキーの手刀が振り下ろされ、

 「ピピィ!!」

ムックルが地面に叩き付けられる。


千歌「!! ま、まだ!! “リベンジ”!!」

 「ピィィィ!!」


地面を蹴って、ムックルが全身を使った体当たりで応酬する。

そのまま“がむしゃら”にぶつかって攻撃する。


凛「バルキー! “こうそくスピン”!」

 「バルッ」


でも凛さんは冷静に対抗策を打つ。

バルキーは指示に従い、右足を軸にして回転し、我武者羅に突撃するムックルを弾き飛ばす。


千歌「ムックル!」

 「ピピッ!!」


──ザザッと、

今度は地面を転がらないように、ムックルは自慢の脚の爪で床を踏ん張る。


凛「そろそろ、お互い体力も限界かな?」


──なら……!

先に繰り出す、

地を蹴り、

飛び出す、


千歌「“でんこうせっか”!!」

 「ピピィ!!!!!」

凛「“マッハパンチ”!!」

 「バルッ!!!!」


最初に選んだ技の応酬。

神速の攻撃がすれ違い様に、ぶつかった後、

先に指示を出した、ムックルが──

──地に落ちた。


千歌「ムックル!?」
103: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:42:47.94 ID:8koyJWg30

私はムックルに駆け寄る。

 「ピピィ…」

千歌「ど、どうして……」


戦闘不能になったムックルを抱きかかえながら、私は呟く

攻撃は先に出したはずなのに……。


凛「さっき当てた“ローキック”」


──そんな私の疑問に答えるように


凛「すばやさを下げる効果があるんだよ。その差が出たにゃ」

千歌「……くっ」


私はムックルをボールに戻す。


凛「さぁ! まだ、バトルは終わってないよ!」

千歌「……っ ヒノアラシ!!」


私は元の立ち位置に戻るため走り出すと共に、バトルスペースの外で待っていたヒノアラシに声を掛ける。

「ヒノッ!!」

私の声を聞いて、スペースに走り出すヒノアラシ。


千歌「“えんまく”!!」
 「ヒノッ!」


──ブシュウウウウ、と

私とすれ違い様にバトルフィールドに立ったヒノアラシの背中から、黒煙が噴出す。


凛「にゃ? ここで目晦まし? せっかく真っ向勝負だと思ったのに……」


黒煙の先で凛さんの残念そうな声が聞こえる。


凛「まあ、絡め手も対策済みだけどね! バルキー“みやぶる”!」


凛さんの声が響く。

…………。

……だが、変化は無い。


千歌「ヒノアラシ、警戒!」
 「ヒノッ」


ヒノアラシがキョロキョロと見回しながら、周りを警戒する。

──瞬間、

黒煙の中から腕が伸びてくる。

 「ヒノッ!!」

そして、ヒノアラシの背を掴む。


凛「逆に、煙幕が仇になっちゃったね!」
104: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:44:39.42 ID:8koyJWg30

煙の先で凛さんの声が響く。

眼前には気付けばバルキーの姿、

“みやぶる”で“えんまく”の先のヒノアラシの位置がバレていた。


千歌「……えへへ」

凛「……にゃ?」


思わず笑いが漏れてしまった。


千歌「ヒノアラシの警戒方向はむしろ背中側です!」

凛「……!?」

千歌「ヒノアラシ!! “はじけるほのお”!!」
 「ヒッノッ!!」

 「バルッ!!!?」
凛「バルキー!!?」


──ボンッ

と音を立てて、

ヒノアラシの背中が弾ける。

その爆風によって晴らされた黒煙の先では──


 「バ…ル…」


吹き飛ばされたバルキーが気絶していた。戦闘不能だ。


凛「しまったにゃぁ……。……まあ、さすがに一匹じゃ無理か」


凛さんはそう言ってバルキーをボールに戻す。


凛「ズルッグ!」


二匹目のボールが放たれると同時に


凛「“ねこだまし”!」
 「ズルッグ!!」


先制攻撃が飛び出す、

ヒノアラシの眼前に飛び出た黄色い影が、

彼の目の前で両手を叩いて、威嚇する。

 「ヒ、ヒノッ」

驚いて怯むヒノアラシに畳み掛けるように、


凛「“グロウパンチ”!!」


──拳が襲う!!


千歌「ヒノアラシ!! 踏ん張って!!」
 「ヒノッ!!」


私の合図で背中から炎を吹き出し、その炎の反動で自身を地面に押さえつけ、踏ん張る。


凛「“グロウパンチ”!!」
105: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:46:07.32 ID:8koyJWg30

連打される拳!


千歌「ひ、“ひのこ”!」


ズルッグの腹部辺りに“ひのこ”を打ち込む。

──だけど、


凛「まだまだにゃ!! “グロウパンチ”!!」


連打が止まらない、

踏ん張りが追いつかず、ヒノアラシの身体が浮きかける、


千歌「ヒノアラシッ!! 一旦距離とって!!」
 「ヒノッ!!」


拳にあわせるように“ずつき”して、その反動で後ろに下がる。

──というか、軽く吹っ飛ばされる。

たぶん、パンチをする度に威力が上がってる……さっきの“ローキック”みたいにそういう効果がある技なんだ、


千歌「じゃあ、長期戦は出来ない!! ヒノアラシ!!」
 「ヒノッ!!」


再び背中に炎を宿し、

そのままヒノアラシは身体を丸める

十八番──


千歌「“かえんぐるま”!!」


地面の反動を借りて飛び出す、火炎車。


凛「にゃ、大技!? ズルッグ“てっぺき”!!」
 「ズルルッグ!!」


ズルッグは指示と共に身体の皮を伸ばして、防御姿勢を取る。

──でも、関係ない!!


千歌「燃えろおおお!!」
 「ヒッノオオオオオ!!!!」


回転量と比例して、火勢を増しながら、

炎球がズルッグに突撃する──

 「ズルルッ」

──勢いで吹き飛ぶズルッグ

踏ん張ることなど、許さない威力……!


千歌「よっし!」
 「ヒノッ!!」


炎を解除した、ヒノアラシが身体を伸ばして、着地する。


凛「ズルッグ、大丈夫?」
 「ズル…」

凛「ありゃりゃ、やけどまでしちゃったにゃ……」
106: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:47:19.46 ID:8koyJWg30

──効いてる!


千歌「なら、もう一回! “かえんぐるま”!」


…………

……?

しかし、何も起こらない。


千歌「ヒノアラシ? “かえんぐるま”!!」
 「ヒ、ヒノ…」


ヒノアラシが困ったように頭を振る。


千歌「ど、どうしちゃったの……??」

凛「にゃはは♪ ねー千歌ちゃん。ジム戦の前にポケモンセンター寄った?」

千歌「え?」


突然そう尋ねられる。

──言われてみれば行ってない。


凛「ダメだよー 挑戦の前はちゃんとHPもPPも回復しておかないと」


PP──技のパワーポイントが切れた……?


千歌「え、そんな……すぐにPPが切れるような技じゃ……」


私は急いで図鑑を開く。

──見ると、ほとんどの技のPPが切れ掛かっている。


千歌「……!?」

凛「ふふん♪」


得意気な凛さんを見て、何かされたんだと気付く。


千歌「ヒ、ヒノアラシ! “まるくなる”!」
 「ヒ、ヒノ」

凛「んー……時間稼ぎ?」


凛さんが問い掛けてくる。


千歌「さっき、やけどしたって……!! それなら、防御に徹して──」

凛「──じゃあ、遠慮なく。ズルッグ“だっぴ”のチャンスだよ」

千歌「……え?」


そう言うとズルッグが身体に纏う皮を脱いだ──下から、同じような皮が出てきたけど。


凛「ふふん、状態異常を回復する特性にゃ」

千歌「う……」
107: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:48:15.17 ID:8koyJWg30

対策されてる……。

それじゃ、次の指示、他の技を……!!

図鑑に視線を落とすと、“まるくなる”のPPがどんどん減っている。


千歌「!? 使ってる技のPPを削る技!? ヒノアラシ、元に戻って!」
 「ヒ、ヒノ…!?」

凛「えへへ、ばれちゃったにゃ。その技は“うらみ”って技だよ」

千歌「ひ、“ひのこ”!!」


僅かに残った小技でどうにか削りきるしか……!!

──飛び出す“ひのこ”がズルッグを襲うが、

 「ズルル…」

ボーっとした様子で、まるで熱がらない。


千歌「き、効いてない……?」

凛「“ドわすれ”──これで熱いのも忘れちゃうにゃ」

千歌「……そんな……」

凛「終わりかにゃ? じゃあ、“ドレインパンチ”!」
 「ズルッ─」


──拳が、

ヒノアラシを、

吹き飛ばす、


千歌「──あ……」
 「ヒノッ…」


ぼてっとヒノアラシが私の足元まで飛んでくる。

 「ヒノ…」

足元で弱々しく鳴く、ヒノアラシ


千歌「……ヒノアラシ……!!」
 「ヒ、ノ……」

千歌「……っ」


傷つき倒れたヒノアラシを見て──梨子ちゃんとの戦いを思い出す。

私の力が足りないばっかりに、また自分の手持ちを傷つけてしまった。

そんな後悔が襲ってくる。


凛「……辛いなら、やめにしてもいいよ」

千歌「……え?」


凛さんが突然そんな提案をしてきた。


凛「“ドレインパンチ”でヒノアラシの体力を吸収して、ズルッグは回復もしちゃったし。ヒノアラシももう打てる技がないんだったら、降参してもいいんだよ」

千歌「──降参……」

凛「ジムは何度でも、チャレンジャーの挑戦を受け付けてるから、もっと修行してから出直してきても大丈夫だにゃ♪」

千歌「…………」
108: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:48:57.66 ID:8koyJWg30

──まだ、私たちのレベルじゃ足りなかったんだ。

これ以上、ヒノアラシを傷付けるだけなら──


千歌「……こうさ──」
 「──ヒノオオオオオオ!!!!!」

千歌「!?」


そのとき突然、ヒノアラシが、吼えた。

 「ヒノオオオオオオ!!!!」

背中から炎を吹き出して、


千歌「あ、あっつ!!?」


というか、私を炙っていた。


凛「…………」

千歌「ヒ、ヒノアラシ……?」
 「ヒノッ!!!」


声を掛けると、ヒノアラシが顔をこっちに向ける。

相変わらずの無表情だけど──なんとなく、わかった。

ヒノアラシはこう言ってる──「まだ戦える」と、


千歌「──そうだよね……」


──私、言ったもんね。


千歌「── 一緒に強くなろうって……!!」
 「ヒノッ!!!」


──最後まで諦めるもんかっ!!!


 「ヒノッ!!!!」


ヒノアラシの背中にやる気の炎が燃え上がる。


千歌「“ひのこ”!!」
 「ヒノッ!!!」


飛び出す“ひのこ”、


凛「降参はしないってことだね」

千歌「“ひのこ”!! ありったけの“ひのこ”!!!」
 「ヒノッ!! ヒノッ!!」

凛「千歌ちゃんのそういうところ凛は好きだよ♪ それなら、こっちも相応の技で──ズルッグ!! “もろはのずつき”!!」
 「ズルッグッ!!!」


──ダン、と床を蹴って、ズルッグが前傾姿勢で突撃してくる。


千歌「“ひのこ”!!」
 「ヒノッ!!!」


その勢いで“ひのこ”を蹴散らしながら、
109: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:49:58.60 ID:8koyJWg30

千歌「“ひのこ”!!!」
 「ヒノッ!!!!」


──迫る。

最大の攻撃。

──でも、


千歌「──負けるもんかっ!!!!」

 「ヒッノォ!!──」


──瞬間、

ヒノアラシが光り輝いた。


千歌「“ひのこ”!!!!!!」
 「──マグッ!!!」

千歌「“ひのこ”!!!!!!!」
 「マグッ!!!」


私の声に呼応するかのように、

飛び交う“ひのこ”は勢いを増して、


千歌「ありったけの!!!!! “ひのこ”を!!!!!!」
 「マグゥゥゥッ!!!!!」


咆哮と共に、

キミの口から爆ぜ出す炎は、

辺りいっぱいに散らばった“ひのこ”たちと一つになり、

それを凌駕する、

大きな火炎へと、


千歌「いっけえええええええええ!!!!!!」


──昇華した。


千歌「やきつくせえええええ!!!!!!」
 「マグウウウゥゥゥゥゥ!!!!!!」


ありったけの火の粉を集めて出来た火炎の中を、頭で裂きながら突き進むズルッグは──

 「…」

走った末に、

私たちの目の前で、

──ドサッ

っと、崩れ落ちた。


千歌「……はぁ…………はぁ…………??」


一瞬、状況が理解できず思わず言葉に詰まる。


千歌「……あ、あれ……?」


凛さんが焼き焦げた、ジムの床を歩きながら、近付いてくる。
110: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:51:22.70 ID:8koyJWg30

凛「ズルッグ、戦闘不能だにゃ。凛の負けみたいだね……」

千歌「……嘘……」

凛「嘘じゃないよ、ほら──」


そう言って、凛さんが向けた視線の先を、釣られて追うと──


 「マグ」


ヒノアラシ──ううん、さっきまでヒノアラシだった子がそこに立っていた。


凛「千歌ちゃんのマグマラシは、ちゃんとまだ立ってるよ」

千歌「マグ、マラシ……」
 「マグッ」


そう鳴いて、マグマラシは私の足元に擦り寄ってくる。


凛「諦めない気持ちが──ポケモンの力を引き出したんだね」

千歌「──」


私は未だ状況が飲み込めずポカンとしていたけど、

だんだん、実感する。


千歌「キミが──キミが助けてくれたんだね……」


マグマラシが、私に応える為に、新しい力を解放したんだ──と。


凛「千歌ちゃん」

千歌「……はい」

凛「その最後まで諦めない気持ち。これから先も、忘れちゃダメだよ」


そう言って、何か小さな物を私に向かって差し出してくる。


千歌「バッジ……」

凛「あなたをホシゾラジムの勝者と認め、この“コメットバッジ”を進呈するにゃ」

千歌「……はい!」


──こうして、私たちは初のジム戦に勝利したのでした。

111: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 01:52:09.72 ID:8koyJWg30


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.●_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.14  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.12 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:4匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



112: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 12:54:32.78 ID:8koyJWg30

■Chapter010 『サニーゴの海で……?』 【SIDE You】





千歌ちゃんと別れて、半日ほど。

私はスタービーチから開けた海をラプラスの背に乗って移動中であります。

──スタービーチはその名に相応しく、多くのヒトデポケモンが群生していることで有名な海。

また、ちょっと潜ると色鮮やかな桃色と水色の二色のサニーゴを見ることができ、この光景はその煌びやかな名前に恥じない、この地方の名物と言われています。

……言われているんだけど──


曜「んー……」


私は水中メガネを装着して、ラプラスから半身を乗り出す形で水面を覗く。

ぶくぶくぶく──


曜「……ぷはっ! ……聞いてた話と全然違う」
 「ゼニ」


水面に顔を出した、私の元に辺りを泳いでいたゼニガメが寄って来る。


曜「ゼニガメ……どうだった?」
 「ゼニゼニ」


尋ねてみるも、ゼニガメも首を左右に振るだけ──


曜「後は深くまで行ったホエルコ待ちだけど……うーん……」


──私が何を唸っているのかというと、


曜「──サニーゴ、全然居ないよね……」


この星の海に、件のサニーゴの姿がほとんど見当たらないのだ。


曜「……というか、アイツ多くない?」


私はそうボヤキながら、水底に居る“アイツら”を調べるために図鑑を開く。


 『ヒドイデ ヒトデナシポケモン 高さ:0.4m 重さ:8.0kg
  頭 以外の 場所なら 千切れても すぐに 再生する。
  サニーゴの 頭に 生える サンゴが 大好物で
  獲物を 探して 海底や 海岸を 這い回る。』


曜「ヒドイデ……」


確かにこのポケモンも、ヒトデポケモンだけど……。

 「ボォォォォ…」

そんなことを考えていたら、海底まで潜ってくれていたホエルコが顔を出した。


曜「ホエルコ、どうだった?」
 「ボォォォォォ」


尋ねるとホエルコは、頭部に付いた二つの鼻の穴から潮を噴出し、×を作って見せてくれた。


曜「……ホエルコ、思いのほか器用だね」
 「ボォォォォ」
113: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 12:55:54.55 ID:8koyJWg30

……それはともかく。

なんだか、嫌な予感がしてくる。

そんなところに──


 「おーい……!!」

曜「?」


女性の声が聞こえて来てその方向に振り返る。

──とは言っても、もちろん海の上なので、立っているなんてことはなく、スターミーに掴まって泳いでいるビキニのお姉さんが視界に入る。

どうやら一般トレーナーのようだ。


ビキニのお姉さん「こんにちは」

曜「こんにちは、何かご用ですか?」

ビキニのお姉さん「あなたさっきから海の中を確認してたから、もしかしてサニーゴを見に来た人かと思って……」


ズバリな話を振られる。


曜「! はい、そうなんですけど……」

ビキニのお姉さん「せっかく来てくれたのに残念なんだけど……今サニーゴが減っていて、ちょっと問題になってるの」

曜「それって……もしかしなくても、あのたくさんいるヒドイデたちが原因ですか?」

ビキニのお姉さん「ええ……貴重な観光資源……ってこともあるんだけど、最近フソウタウンからスタービーチの間で、ヒドイデが異常に増えてるの。有志を募って原因を探ってるんだけど……」


つまり、このお姉さんはその有志のトレーナーの一人と言うことだろう。


曜「何かわかりましたか……?」

ビキニのお姉さん「うーん……ホントに突然増えたのよね。それと、今まで野生で見られてたヒドイデよりもサニーゴの捕食能力が高い個体が多いのよね……」

曜「……捕食能力が高い?」

ビキニのお姉さん「ヒドイデって、サニーゴを食べるんだけど……」


確かにそんなことが図鑑に書いてあったっけ。


ビキニのお姉さん「集団で一匹のサニーゴを囲い込んだり、異様にレベルの高い個体が居たり、ちょっと不自然なくらいにサニーゴが狩られてるのよね」


……それって……。


曜「……誰かが訓練されたヒドイデを逃がしてる……とか?」


──いや、これはさすがに考えすぎかな……


ビキニのお姉さん「……そうじゃないかって考えてる人も少なくないわ。……だけど──」

曜「──なんのためにそんなことを?」

ビキニのお姉さん「……そうなのよね」


サニーゴを減らすことに意味があるのか、ここが問題だ。

私は図鑑を開いて、サニーゴの項目を確認する。


 『サニーゴ さんごポケモン 高さ:0.6m 重さ:5.0kg
  暖かく 綺麗な 海に 生息する ポケモン。 サンゴの 
  枝は 太陽の 光を 浴びると 七色に キラキラ 輝き
  とても 綺麗な ため 宝物としても 人気が 高い。』
114: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 12:57:35.93 ID:8koyJWg30

捕まえる……とかならともかく、食べられてしまったら、誰も得しない。


曜「…………」


私は思わず眉を顰めた。


ビキニのお姉さん「結局誰かがやってるんだとしても、理由がわからないのよね。とりあえず、強い個体をどうにかこうにか、倒したり捕まえたりしてるんだけど、キリがなくて……」

曜「……この数ですもんね」


水底を蠢く、大量のヒドイデたち。

僅かにポツポツと見えるサニーゴたちも脅えて、すぐに岩の隙間に逃げ込んでしまう。

名物の景観は見る影もないと言ったことになっている。


ビキニのお姉さん「だから、もしサニーゴの海を見に来たんだったら、残念だけど……」

曜「そうですか……」


せっかく、海に出たのに、幸先悪いなぁ……。


ビキニのお姉さん「私たちも全力で原因は探るから……あなたも、もし何かわかったら、フソウタウンの本部に来てくれると助かるわ」

曜「わかりました」


そう返事をすると、お姉さんはスターミーに掴まったまま、離れていった。


曜「……うーん」
 「ゼニ」「キュゥ?」「ボォォ」


ゼニガメ、ラプラス、ホエルコと一緒に海を進みながら頭を捻る。


曜「やっぱ、明らかに不自然だよね」
 「キュゥ?」

曜「突然増えた。しかも強いヒドイデがたくさん」


ヒドイデからしたら食事をしているだけ、かもしれないけど……。

それもサニーゴを狩りつくしてしまったら、餌がなくなったヒドイデはどうなるか。

明らかに自然のバランスを欠いている。不自然な程に。

うまく言葉にならないけど……そうだなぁ──


曜「……何か悪意──みたいなものを感じる気がする」
 「…キュゥ」


私の言葉にラプラスが静かに頷く。


曜「ラプラスもそう思う?」
 「キュゥ」

曜「……そっか」


私は少し、考えてから、


曜「……できる範囲で私たちも原因を探ってみようか」
 「キュゥ」「ゼニ」「ボォォォ」


ヒドイデ対策に協力することにしたのだった。



115: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:00:25.96 ID:8koyJWg30

    *    *    *





曜「──とは言っても……」


私は適当に捕まえたヒドイデを並べながら、ラプラスの上で頭を捻る。


曜「……とりあえず、捕まえたりはしてみたけど、原因らしい原因もよくわからない……」


私は、ポケモン図鑑を開く。


『ヒドイデ♂ Lv.11
 ヒドイデ♀ Lv.16
 ヒドイデ♀ Lv.8
 ヒドイデ♂ Lv.25』


曜「レベルも性別もバラバラだし……。いや、むしろバラバラなのが問題なのか」


通常個体よりも強い個体がうろついてるから、サニーゴが一方的に襲われるわけだし。

でも、捕獲できるってことは、以前はどうだったのかはともかく、現在誰かのポケモンってわけではないだろう。

人が所持しているポケモンは、逃がしたりしない限り、捕まえたときに使ったもの以外ではモンスターボールに入ってくれないのだ。

そうなると、誰かから直接指示を受けてるとも考えづらいし……。


曜「うーん……とりあえず、このままフソウタウンまで捕まえるなり倒したりするくらいかなぁ……」
 「キュウ」


気付くと、ラプラスが鳴きながら、私を振り返っていた。


曜「ラプラス、どうしたの?」
 「キュウ」

 「ゼニ」


私が訪ねると、ラプラスは近くを泳いでいるゼニガメを呼び寄せ、


 「キュキュゥ」
 「ゼニ」

何か会話をしたあと、ゼニガメがラプラスの上に登って来る。


曜「?」
 「ゼニ」


そして、ラプラスの背の上に並べたボールを、

 「キュウ」

ラプラスの指示でゼニガメが並び替える。


曜「……ん?」


図鑑でその順番を確認すると、

『ヒドイデ♀ Lv.8
 ヒドイデ♂ Lv.11
 ヒドイデ♀ Lv.16
 ヒドイデ♂ Lv.25』


曜「レベル順?」
116: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:01:32.41 ID:8koyJWg30

ラプラスは非常に賢いポケモンとしても有名だ。

もしかしたら、何かに気付いたのかも……?

私は目の前のボールの開閉スイッチを押す。


「ヒド」「ドヒ」「ヒドド」「ドイデ」


飛び出したヒドイデ達を見て、


曜「……あ」


あることに気付く。


曜「レベルが高いほど、体が大きい」


考えてみれば当たり前のことだった、

強い個体ほど多くの餌が捕食できるってことだから、その分身体も大きくなるということだ。


曜「…………」


元々この海には大なり小なりヒドイデは生息していた。

しかし、最近になって突然強い個体のヒドイデが増えた。

──もし、さっきお姉さんと話した通り、誰かが意図的に強いヒドイデを放っていたのだとしたら、


曜「……相変わらず理由はわからないけど、確認したいことは出来たかな」


ヒドイデ達をボールに戻して、

私は近くでぷかぷかと浮いている、ホエルコに飛び移り、再びゴーグルを装着する。


曜「ゼニガメ、ラプラス、付いてきて」
 「ゼニ」「キュゥ」


私の言葉でゼニガメが再び海に飛び込む。


曜「ホエルコ、“ダイビング”」
 「ボォォ」


そして、私たちは海へと潜っていく──。





    *    *    *





視界が深い蒼色に染まる。

その海底には未だ、大量のヒドイデ。

──だけど、

岩場──サニーゴの隠れ場──に群れている、ヒドイデと、

その輪から外れていてるヒドイデを見比べると……。

……
117: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:03:19.79 ID:8koyJWg30

明らかに、輪の外にいるヒドイデは身体が小さい。

逆に言うなら、大きいヒドイデはより多くのサニーゴを狩る事が出来る強い個体、それが何故か“群れている”。

つまり、小さいヒドイデたちと大きいヒドイデたちはそもそも“違う群れ”なんじゃないだろうか?

何故そんなことが起きるのか? 大きくて強いヒドイデたちはなんらかの原因で“外から混じり込んだ群れ”だからでは?

──つまり。


今回の事件。イレギュラーなのはあくまで大きなヒドイデたち。

元から居たヒドイデたちが大量発生したのではなく、大きなヒドイデがサニーゴを狩るために、どこかから混入したと考えた方がいいのかもしれない。

相変わらず『何故?』の部分に回答は出ないが、とにもかくにも、体の大きなヒドイデを優先的に捕まえるなり、倒したりすることが、解決への近道だと言うヒントにはなっている。

私はパッとホエルコから放れる。

そして、ホエルコに指示を出す。

──水中で腕を振り下ろす。


“のしかかり”
 「ボォォォオ」


ホエルコがヒドイデたちの群れに圧し掛かる。

 「ドヒ!?」「ドドヒ!?」


突然、真上からの物陰に驚いたヒドイデたちがのそのそと岩場から離れる。

 「ボォォォォ」

ホエルコの“のしかかり”が、すんでのところでかわされて、水底の岩の上をホエルコが跳ねる。

ヒドイデ達が驚いて散り散りになって逃げる中、

それでも、堂々と残って戦闘態勢を取っている個体達も居る。

ことごとく大きい個体。

──今度は拳を作って、下に向かって打ち付けるように腕を下ろす。


“ヘビーボンバー”
 「ボォォォォ」


今度は逃げない、気の強いヒドイデ達を薙ぎ払いながら、

ホエルコが岩に向かって落ちていく。

そして、再び岩にぶつかり跳ね──


 「ボオオオオオ……!!!」


と、思ったらホエルコが苦しみ始めた。


曜「!?」


私は咄嗟に図鑑を開くと『どく』の表示。

……毒? ヒドイデ達に刺された?

でも、攻撃姿勢とかは見られなかったし……。

 「キュウ」

やや混乱した、私の肩をラプラスが突っつく。

ラプラスの方を振り返り、彼女の視線を確認して、その先を見ると、ホエルコがぶつかった岩──いや、岩だと思っていたものがもぞもぞと蠢いていた。

あれ──岩じゃない……!!
118: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:04:11.50 ID:8koyJWg30

 「キュゥゥゥ~~♪」


私が指示をするまでもなく、ホエルコのサポート姿勢に入ったラプラスが“いやしのすず”でホエルコのどくを回復する。

その間に私は図鑑を開き、動き出した岩だと思っていたものを確認する。


 『ドヒドイデ ヒトデナシポケモン 高さ:0.7m 重さ:14.5kg
  12本の 足で 中身を守る ドームを作る。 その 
  ドームは  頑丈で 更に その表面に 毒針を 持つ。
  近付いてきた 相手は 足の 先端にある 爪で 追い払う。』


ポケモンだ──!!

ヒドイデの進化系、ドヒドイデ。


──恐らく、あれが群れのボス……!!


恐らく今ホエルコが毒を受けたのは、ドヒドイデの“トーチカ”のせいだろう。

攻撃を防ぐと同時に接触した相手をどく状態にする技だ。


──なら、あいつさえ倒しちゃえば──


そう思って図鑑を開くと──

『ドヒドイデ♂ Lv.51』

──と、表示されていた。





    *    *    *





──レベルが高すぎる。

そう思った瞬間、

私のすぐ横を何かが掠める。

 「キュウゥゥ!!?」

声で気付き振り返ると、


 「キュ、キュゥ…」


ラプラスが一撃で戦闘不能になって、水中を力なく漂っていた。

恐らく今の攻撃は“ミサイルばり”……!


──真っ先に回復手段を潰してきた……!? 不味い……一旦退却……!!


ゼニガメとホエルコに指示を出そうと、辺りを見回すと


曜「!?」


気付かないうちに、紫色のトゲトゲの機雷のようなものがそこら中に浮遊していた。


──たぶん、ヤバイ。何かわからないけど、かなりヤバイ!!
119: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:05:57.08 ID:8koyJWg30

ラプラスをボールに戻しながら、ゼニガメとホエルコの様子を確認すると、

二匹とも既に水中でふらふらとしていた。

立て続けに起こる予想外のことに対処するべく図鑑を開こうとした瞬間──

──自分の左足辺りにビリビリとした、激痛が走った──


曜「……っ……!?」


思わず息を吐きそうになったが、すんでで堪える。

痛みの先を見ると、先ほどから漂っていたトゲトゲが私の左足に接触していた。


──これ、“どくびし”……!!


ラプラスに気を取られているうちに、辺り一体に“どくびし”を撒かれて、

ゼニガメもホエルコもそれに触れて、毒で弱らされている。


──ホンットに不味い!!!


私はすぐさま、海上に浮上するように、手を下から上に振って、ゼニガメとホエルコに指示を出す。

──が、

 「ゼ、ゼニィ…」「ボォォォ…」

ゼニガメもホエルコもいつもの調子で泳げていない、

ふと、ドヒドイデの方を見る、と

ドヒドイデはドーム状の触手を少しだけ持ち上げて、

──笑っていた。

不気味に。

嘲るように。

そして、想った。


──完全に相手の方が格上だ──


そんな言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、左足の激痛が勢いを増して主張を始める。

本格的に毒が回ってきたのかもしれない。


──あはは。……これ、もう……ダメ……かも……
 「ゼ、ゼニィ…」


ゼニガメが近付いてきて、私の口元で“あわ”を出す。

息継ぎに使えってことかな?

ありがと……ゼニガメも毒で苦しいのに……。

落ちていく意識の中で、


──ごめん……未熟な……トレーナー……で……


あのときと同じように、

ゼニガメのボールを、皆底で拾い上げた取ったあのときと、同じように。


──ゼニガメ……ホエルコ……逃げ……て……
120: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:07:27.34 ID:8koyJWg30

──逃げて──と、

キミたちだけでも助かって、と

祈って──。

私は力なく手を振る。

──瞬間。

脇の辺りを何かが、

掴んだ。

そのまま、

引っ張りあげられる──





    *    *    *





──ザバァ、


曜「……ぁ……っ……は…………??」


霞む視界に、太陽の光が見える気がする。


 「“どくびし”から“ベノムトラップ”、野生にしては、あんまりに手際がいいね、あのドヒドイデ」


消えかけの意識の外から、何処か懐かしい声がする。


曜「だ……れ……」

 「今、毒消し使ったから。……あーこれポケモン用だけど……まあ、大丈夫でしょ」

曜「…………??」

 「曜、後は私がどうにかするから、そこで休んでるんだよ?」

曜「……ぅ…………」


その声を最後に、私の意識は──プツリと落ちた。





    *    *    *





 「ギャラドス、曜のことお願いね」


シュノーケルを口に咥え、再び海中へと潜る。

そしてすぐさま、腰からボールを三つ放つ。

 「ボ~ゥ」「ボンッ」「…」

それぞれ、ママンボウ、ニョロボン、ドククラゲ

私は両手を広げるように動かし、


──散!!
121: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:09:04.65 ID:8koyJWg30

三匹を散開させる。

 「ボ~ゥ」

ママンボウは“いやしのはどう”でホエルコとゼニガメの回復、そして回収。

 「…」

毒タイプのドククラゲには“どくびし”の回収をしてもらう。

そして、ニョロボンは、


 「ボンッ!!!」


動かないドヒドイデの触手に“ばくれつパンチ”を叩き込む。


 「ドイヒ…」


効果はいまひとつのようだ……。

忌々しそうに、ドヒドイデが僅かに開いた触手のドームに、


 「ボンッ!!」


すかさず、ニョロボンが手を差し込む


 「ドヒッ!!?」


驚いたドヒドイデはすぐさま、ニョロボンに自らの“どくバリ”を突き立てて応戦してくる、が──


──上等!! でも技はもう決まってるから、


私はそれだけ確認して、海上にあがっていく。


 「ぷはっ……」


シュノーケルを外す。

そして、その背後で、

ザバァ──と音を立てて、ドヒドイデが水中から飛び出した、


 「“ともえなげ”はそっちが組み付いてくれた方がうまく行くしね」


続け様、宙を舞う、ドヒドイデに向かって


 「ギャラドス!! “はかいこうせん”!!」
  「ギシュァァァア!!!」


ギャラドスの咆哮と共に飛び出した、破壊の一閃が、

空を突きぬけ、


 「ドヒッ!!!!!!」


無抵抗なドヒドイデを貫く。


  「ドヒ…」

 「よっし」
122: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:12:16.42 ID:8koyJWg30

私はそのままギャラドスに飛び乗り、

その背の上から、振りかぶって、空のダイブボールを放る。

──パシュン。

音と共にドヒドイデはボールに吸い込まれて、海面に落ちていった。





    *    *    *





 「──ミャァミャァ」

──と、キャモメが鳴く声が聞こえる。

そして、水を切りながら、進むいつもの波の音、

──いや、ラプラスのそれよりは力強い、かな。


曜「──う……ん……」


私が目を開くと、差し込んでくる赤い夕日が眼を焼いた。


曜「……まぶし……」

 「あ、気が付いた?」


すぐそこから、聞き覚えのある声がした。

私は上半身を起こそうとして、


曜「……っ゛……!!」


左足に痛みを感じて、思わず声にならない声が漏れる。


 「まだ動いちゃダメだよ。ドヒドイデの毒は猛毒なんだから……。応急処置はしたけど、ちゃんとポケモンセンターで見てもらってからだね」

曜「あ……うん……」


横たわる私の頭上の方。藍色のポニーテールを海風に靡かせながらギャラドスに指示を出すトレーナー──果南ちゃんに向かって、私は力なく返事をした。


曜「……また、助けられちゃった……」


自分から解決のために飛び出したのに、ゼニガメのとき同様──また誰かに助けられた。


果南「また?」

曜「……あ、ゼニガメとホエルコは!!? ……っつぅ……!!!?」


思い出して、跳ねるように身体を起こそうとして、再び主張してきた痛覚に悶える。


果南「だから、動いちゃダメだって。二匹とも無事だよ」


そう言って果南ちゃんが私に二匹が入ったボールを差し出してくる。


果南「二匹とも、ママンボウが回復したけど、一応ポケモンセンターで見てもらってからの方がいいかな」

曜「あ、ありがと……」

果南「二匹とも、随分“どくびし”に触れてたからね」
123: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:13:22.21 ID:8koyJWg30

曜「……」

果南「余りに多く毒を受けてたけど……きっと、曜のところに“どくびし”が行かないように、してたんだろうね」

曜「……そっか」


私は話を聞きながら、空を仰ぐ──まあ、動けないから必然的に空を仰いでるんだけど。

そして、思い出したかのように、


曜「──果南ちゃん……久しぶり」

果南「ん? ……ああ、言われてみれば随分久しぶりかもね」


そんな私の言葉に、果南ちゃんはあっけらかんと返事をする。


曜「……助けてくれて、ありがとう」

果南「いや、ホント……たまたま通りかかってよかったよ」

曜「よく海の中にいる私たちに気付いたね……」

果南「あーまあ……ちょっと人を探しててね」


──なんで、人を探して海に潜るんだろう。

……そう疑問には思ったけど、今は正直そんなことよりも──


曜「果南ちゃん……」

果南「んー、なに?」

曜「……私……弱いね……」

果南「……。……あれは完全にイレギュラーだよ。あのレベルのポケモン相手によくやったよ。今回は運が悪かっただけ」


横になったままの私の頭を、ふわりと果南ちゃんが撫でる。


果南「まあ……旅をしてれば、いろんなことがあるから」

曜「……でも……果南ちゃんがいなかったら、今頃……」

果南「……ゼニガメやホエルコが、頑張ってたから、案外どうにかなったかもよ」

曜「…………」


彼女の言葉に、私は思わず押し黙ってしまう。

そんな私の様子を見てか、果南ちゃんは一度頭を掻いてから、


果南「まあ……こんなとき、なんて言ってあげればいいのか……。……私こういうの得意じゃないからさ。ごめん」

曜「あはは……やっぱり果南ちゃんだ……」


私は変わらぬ先輩トレーナーを見て、力なく笑った。


果南「……でもね、曜」

曜「何……?」

果南「今回は運が悪かったけど、その勇気は大切なものだから。誇って良いと、私は思うよ」

曜「果南……ちゃん……」

果南「……明らかに格上だってわかってても、ずっとポケモンたちに指示を出し続けていたのを私は見てたから」

曜「…………ぅ……っ……ぐす……っ……」

果南「……フソウタウンに着くまで、まだ時間あるからさ。……今はゆっくり休んでていいよ」
124: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:14:07.11 ID:8koyJWg30

そう言って、再び前を向いて、私に背を向ける。


曜「……っ……ぅ……っ……」


──自分が情けなくて、悔しくて、ポケモン達にも申し訳なくて、声を殺して泣く私に気を遣ってくれたのかもしれない。

滲む視界の先で、

熱い目頭の先で、

夕暮れの背景に揺れる、紺碧のポニーテールが、とても印象的でした。


125: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 13:15:07.54 ID:8koyJWg30



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【13番水道】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥●‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.13  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:36匹 捕まえた数:9匹


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



126: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:20:01.82 ID:8koyJWg30

■Chapter011 『 † 堕天使 † 』 【SIDE Chika】





凛「千歌ちゃーん! 早く早くー!」

千歌「ち、ちょっと待ってください~……」


ロープウェイから降りるやいなや、弾けるように飛び出した凛さんが、私に向かって早く来るように促している。


千歌「ジム戦の後なのに、体力ありすぎ……」
 「マグ…」


同調するように足元でマグマラシが呻く。

凛さんを追いかけるために、顔をあげると、


凛「これから、旅を続けるのにそんなこと言ってる場合じゃないにゃ!」

千歌「わわっ!」


目の前に戻ってきていた。


凛「いつでもどこでもポケモンが指示を出せる場所にいるとは限らないんだから、トレーナーはフットワークが軽くないとダメだよ!」

千歌「……は、はい……」

凛「じゃあ、天文台に先に行ってるから、早く来てね!」


凛さんはそれだけ残して、再び走り去って行ってしまう。


千歌「え、えー……」


──正直、今日だけで二度目の登山。

しかも途中にジムバトルを挟んだし……。

いい加減、膝が笑っている。


 「マグ…」


そんな私を心配してか、マグマラシが私の足先に頭をすりすりと擦り付けてくる。


千歌「あはは……大丈夫だよ、マグマラシ。ありがと」
 「マグ」


マグマラシにそう伝えてから、私はお昼にも近くを通った、天文台を目指して歩き始めた。



127: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:21:20.14 ID:8koyJWg30

    *    *    *





──さて、私たちは再び流星山に登っています。

ジムでのあの闘いの後のことなんだけど……。



────────
──────
────
──


バトルに勝利し、凛さんから手渡された、バッジ──コメットバッジ。


千歌「……」


初のジムバッジを手にした感慨に浸っていたところ、目の前の凛さんから、


凛「ジムバッジはただ勝った証ってだけじゃないから、大切にしてね」


そうアドバイスを受ける。


千歌「? どういうことですか?」

凛「ジムバッジはポケモンリーグ公認の特注品でそれぞれ不思議な効力を持ってるものが多いにゃ。そして、そのコメットバッジもその一つ。持っているだけで手持ちのポケモン素早さがちょっとだけ上昇するんだよ」

千歌「……そうなんだ」


じゃあ、ダイヤさんのバッジにもそういう効果があるのかな……。


凛「他にもポケモンがトレーナーの実力を認める基準にもなるから、バッジの数に応じて他人から貰ったポケモンが言うことを聞きやすくなるとも言われてるよ」

千歌「なるほど……」

凛「えーっと、ここが初めてのジムだよね?」

千歌「あ、はい」

凛「じゃあ、このバッジケースも渡しておくから、大切に保管してね!」


そう言って凛さんから、ケース状のものを手渡される。

早速開いてみると、窪みが8つあり、一番左端には先程貰ったばっかりのコメットバッジのシルエットが見て取れた。

──カチリ

コメットバッジをそこに納めると、なんだか心地のいい音がした。


千歌「えへへ……」


なんだか嬉しくなってニヤけてしまう。


凛「えっへへ、改めてジム攻略おめでとう」

千歌「はい! ありがとうございます!」


ジムバッジの説明と激励もそこそこに、


凛「そういえば、千歌ちゃんはこの後どうするの?」


凛さんは私にそう訊ねて来る。
128: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:23:44.97 ID:8koyJWg30

千歌「この後ですか?」

凛「すぐにコメコに向かうのかなーって」

千歌「こめこ……?」


余り聞きなれない単語に首を傾げる。

──そう言えば先生が授業で言ってたような気もしなくはないけど──


凛「あ、えっとね。ホシゾラシティの西にある町、コメコタウンのことだにゃ」

千歌「あ、そうだ! ダイヤさんが授業で言ってた! モーモーミルクの町!」

凛「そうそう! あそこのモーモーミルクは絶品だよね!」


凛さんが楽しそうに同調する。

確か牧場の町って言ってた気がする。


凛「それで、どうするにゃ?」

千歌「んーっと……どっちにしろ、東は海だから、西のコメコタウンに行くとは思いますけど」

凛「それじゃ、ここを発つのは明日の方がいいかもね」

千歌「? 何かあるんですか?」


私が訊ねると、


凛「うん。コメコタウンに行くには、『コメコの森』を抜けないといけないから」


凛さんはそう答える。


千歌「森……」

凛「穏やかな森ではあるんだけど……それなりに広いし、大きくはないけど川も流れてるから。暗がりの中、初心者が歩くにはちょっと大変なんだよ」

千歌「なるほど」


ふと、ジムの窓から外を見ると、日が傾き始めている。


千歌「──それなら、今日はこの町で休もうかな」


私がそう呟くと、


凛「じゃあ、今日はこの町で過ごすってことだよね! なら、星! 見に行こっ!」


凛さんはご機嫌になって、声をあげた。


千歌「え、星?」

凛「せっかくホシゾラシティに来たんだから! 流星山から夜空を見てかなくちゃ損だよ!」


矢継ぎ早にそう捲くし立てて、私は手を引かれる。


凛「さぁ! レッツゴーにゃ!」

千歌「え、ちょ、まっ……!! せ、せめて、ポケモンセンターによらせてくださいぃーーーっ!!」


──
────
──────
────────

129: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:25:22.02 ID:8koyJWg30


──というわけで、ポケモンセンターで手持ちを回復させたあと、この流星山に再び登ってきたわけです。

天文台の前では凛さんが、その場に留まったまま、忙しなく足踏みをしていた。


凛「千歌ちゃん! 遅いにゃー!」

千歌「す、すいません……」


この人、元気すぎる……。


凛「じゃあ、もうちょっと高いところまで行くよー。お昼に音ノ木を見た場所まで」

千歌「あ、はーい」


──とは言っても、

私は夜空を仰望する。


千歌「……綺麗」
 「マグッ」


すでに満天の星空が煌いている。

子供の頃、果南ちゃんやお母さん、お姉ちゃんたちと見た、あの星空と同じだ。

今はこうして、自分のポケモンたちと共に、見れていることがなんだか不思議な気分。

ぼんやりと空を仰ぎ見ながら、歩いていくと、程なくして件の場所に到着する。

──もう既に爛々と輝く星空は堪能した、と思っていたんだけど──


千歌「……わぁ……っ!!」


夜空の中に薄暗く聳え立つ一本の大樹──音ノ木。

その周りに色とりどりの光がイルミネーションのように輝く、幻想的な光景がそこにはあった。


千歌「あの光……もしかして、メテノですか?」

凛「うん、そうだよ! 今はちょうどメテノの発生期だからね! 世界の中でもこんな風にメテノが見られる場所は珍しいんだよ!」


満天の星空をバックにひっそりと暗闇の先に聳える大樹と、たくさんのイルミネーション。

確かにこれは絶景かも……!


凛「朝一番でジムに挑戦しに来た子にもオススメしたんだけどにゃー」


凛さんがそう呟く。


千歌「……あ、それってもしかして梨子ちゃん?」

凛「ん、知り合い?」

千歌「一緒に最初のポケモンと図鑑を貰った一人です」


──厳密にはちょっと違うけど


凛「なるほど……」

千歌「梨子ちゃんもジムは突破したんですよね」

凛「うん、割とあっさり」

千歌「そっか……負けてられないな」
130: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:26:24.14 ID:8koyJWg30

そう呟く私に反して、凛さんは


凛「……」


少し複雑な顔をしていた。


千歌「……どうかしたんですか?」

凛「ん、うーん……ちょっと梨子ちゃんを見てると、焦りすぎてて心配に思ったと言うか……」

千歌「……?」

凛「……ま、こういうのはきっと取り越し苦労だよね」

千歌「は、はぁ……」


なんだろう……?

……そういえば、ジムリーダーは地方のトレーナーを育てる機関でもあるって花丸ちゃんが言ってたっけ。

私も含めて、ジムリーダーは戦いながら、そのトレーナーがどう成長するのかを見守ってくれる人たちなのかもしれない。

そんなことを考えていたら──

──すんすんと、


千歌「?」

凛「……?」

千歌「人の……声……?」


女の人がすすり泣くような……。


凛「誰かいるのかにゃ?」


凛さんが辺りを見回していると、今度は


 「キィアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

千歌「!?」


それは泣き叫ぶ声に変わる。


千歌「な、なに!!!?」

凛「……これって」


凛さんは心当たりがあるみた──

突然、頭──いや髪を後ろから何かに引っ張られる


千歌「!!!?!?!?」


驚いて、叫びにならない叫び声が出る。


 「マグッ!!」


主の急変にマグマラシが臨戦態勢になるが、


凛「落ち着いて千歌ちゃん」


落ち着いた調子のまま、凛さんが声を掛けてくる。
131: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:27:18.66 ID:8koyJWg30

千歌「り、凛さん……い、今……」


私は恐る恐る後ろを振り返ると、


 「ムマァァァァァッ!!」

千歌「わひゃぁっ!!?」


闇に溶けるかのよう体色で、浮遊している何かが眼前にいた。

私は驚いて尻餅をつく。


千歌「いったぁ……!!」
 「マグッ!!」


軽く涙目になりながら


千歌「マ、マグマラシ……お、おばけ……」


マグマラシに抱きつく。


凛「うにゃ!? 大丈夫!? お化けじゃなくて、ポケモン……あ、でもゴーストタイプだから、ある意味お化けかな……?」

千歌「ポ、ポケモン……?」


私はポケモン図鑑を開く。

 「ムマァ~」


 『ムウマ よなきポケモン 高さ:0.7m 重さ:1.0kg
  夜中に 人の 泣き叫ぶような 鳴き声を 出したり
  いきなり 後ろ髪に 噛み付き 引っ張って 人の
  驚く 姿を見て 喜んでいる イタズラ好きな ポケモン。』


千歌「な、なんだ……びっくりした……」

 「ムママ♪」


ムウマは驚かせるのに成功したことに満足したのか、ご機嫌そうに飛び回っている。


凛「……でも、ムウマなんてこの辺りで見たことないにゃ」

千歌「え? ……じゃあ、これって誰かのポケモンってことですか?」


私がそう言った直後、


 「よくぞ見破ったわね!!!!!」


上空から声が響く。


千歌「こ、今度は何……?」

 「とうっ!!」


声と共に、人影が飛び降りてくる。


 「シュタッ!!」


自分で着地音言ってるし……。
132: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:28:50.45 ID:8koyJWg30

 「ふ、決まった……」

千歌「…………」

 「全く待ちくたびれたわよ、『 † 火鼠の衣の所有者 † 』よ」

千歌「え、えーと……どちら様ですか……」

 「相手に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら? 堕天使ヨハネの前でそのような狼藉が許されると思っているの?」


いや、そう言いながら自分から名乗ってるし、


千歌「えーっと……千歌です。ヨハネ……ちゃん? って言うのかな?」

ヨハネ「さぁ、トレーナー同士、目が逢ったら始まることと言えば!!」

千歌「え、えぇ?」

ヨハネ「……クックック……!! さぁ、サバトをはじめましょう……!!」


全然会話が成立しない。


凛「……オカルトガールかにゃ?」


ヨハネちゃんを見て、凛さんが一言。


ヨハネ「誰がオカルトガールよ!! と・に・か・く!! そこの三つ編みアホ毛!!」

千歌「三つ編みアホ毛……?」


私のことかな……。


ヨハネ「ヨハネとバトルしなさい!!」

千歌「え、あ、はい……」

ヨハネ「ムウマ!! “サイコウェーブ”!!」
 「ムマッ」

千歌「え、い、いきなり!?」


ボールから出てきたムウマと呼ばれたポケモンが、念波を発し、マグマラシを襲う。


 「マグッ」

千歌「マグマラシ!」


少しふらついたけど、ダメージは少ないみたいだ。


千歌「ふ、不意打ちなんて卑怯だよ!」

ヨハネ「勝負の世界に卑怯もへったくれもないわ!! ムウマ!! “くろいまなざし”!」
 「ムゥー」


ヨハネちゃんの指示でムウマの紅い瞳が、黒く染まる。


ヨハネ「クックック……これでもう、マグマラシは逃れられない──」

千歌「マグマラシ! “やきつくす”!!」
 「マグッ!!」


マグマラシの口から火炎が吹き出し、ムウマを焼き焦がす。


 「ムマッ!!? ムマァッ!!?」

ヨハネ「ちょ!!? ムウマ!!?」
 「ム…マ…」
133: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:30:09.01 ID:8koyJWg30

炎で焦がされ、ムウマが地に落ちる。


ヨハネ「何してくれてんのよ!!」

千歌「……えー」


この子、理不尽……。


凛「ムウマ戦闘不能にゃ。他に手持ちは?」

ヨハネ「まだ居るわ!!」


凛さんもしれっと審判してるし……。バトルしているはずなのに、何故かチカだけ置いてかれている……。


ヨハネ「目覚めなさい『 † 変幻自在、激流の水蛙-スイア- † 』よ!!」

凛「……ちょっと、寒くないかにゃー」


口上と共に、ヨハネちゃんがボールを放る。


 「ケロッ」


出てきたのは水色のカエルポケモン。


 『ケロマツ あわがえるポケモン 高さ:0.3m 重さ:7.0kg
  胸と 背中から 出る 繊細な 泡で 身体を 包み 肌を
  守る。 弾力のある 泡で 攻撃を 受け止めて ダメージを
  減らす。 のんきに 見えて 抜け目のない 性格。』


千歌「ケロマツ……みずタイプのポケモン……!」


マグマラシの弱点タイプのポケモンだ


ヨハネ「よくぞ、見破ったわね…… † 叡智の端末を扱いし者 † ……ケロマツ! “みずのはどう”!!」
 「ケロッ」

千歌「マグマラシ! “かえんぐるま”!」
 「マグッ!!」


波状に広がるみずエネルギーに、炎を纏って回転したマグマラシで対抗する。

水と炎がぶつかり、

──ジュウウウウ、

と言う、水が煮える音と共に、

 「マグッ!」

マグマラシが波動に弾き飛ばされる。


千歌「マグマラシ!?」
 「マグッ…!!」


戦闘不能にはなっていないようだけど、さすがに相性不利。

分が悪い。


ヨハネ「“みずあそび”!」
 「ケロッ」


ヨハネちゃんの指示でケロマツが辺りに水を散布する。
134: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:31:00.53 ID:8koyJWg30

ヨハネ「クックック……これで、炎の威力は更に半減よ……」

千歌「なら……!!」


マグマラシの技はほのおタイプだけじゃない……!!


千歌「マグマラシ!! “スピード──」


私が指示を出そうとした、

瞬間、

──ドォーーーン!! と、

轟音が辺りに鳴り響き、地が揺れる。


千歌「!?」


その轟音は、余りの衝撃からか、周囲の空気をビリビリと震わせている。

──ケロマツが何か……!!


ヨハネ「え、ちょ、え!? な、なに、今の!!?」

千歌「ほぇ……?」


予想外にも、ヨハネちゃんもその爆音に驚いて取り乱していた。


凛「二人とも! バトル中止!」

千歌「凛さん!?」


私たちの間に凛さんが割って入ってくる。


千歌「い、一体何が……」


辺りを見回してみるが、爆音は周囲の上空全体に轟き、あまりに音が大きすぎて、どこからの音なのかがよくわからない。


凛「……緊急事態にゃ」


そう言って凛さんは──夜の闇の先にある、音ノ木の方を指差した。


千歌「……え」

ヨハネ「……嘘」


その指差す先には、

こちらに向かって、猛スピードで降り注ぐ、

七色の隕石たちだった。


135: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 15:32:16.67 ID:8koyJWg30



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|●⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.12 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:33匹 捕まえた数:4匹

 主人公 ヨハネ?
 手持ち ケロマツ♂ Lv.14 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.12 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.10 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:37匹 捕まえた数:20匹


 千歌と ヨハネ?は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



136: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:47:50.72 ID:8koyJWg30

■Chapter012 『龍の咆哮……?』 【SIDE Yoshiko】





──こちらに向かってくる七色の隕石。

あれは、恐らく……。


凛「メテノたち……」


私はポケットから白色のポケモン図鑑を取り出した。

 『メテノ ながれぼしポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.3kg
  コアは とても脆く 剥き出しの ままだと  直に 消滅してしまう。 
  急いで ボールに 入れれば 無事。 野生の モノは 外殻を 作るため
  餌である 大気中の チリを 求めて オゾン層へと  戻っていく。』


千歌「あ、あれ!? それポケモン図鑑!?」


三つ編みアホ毛が、私──ヨハネの図鑑を見て驚きの声をあげた。


千歌「もしかして、私たちより先に、最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出た、梨子ちゃんと別の子って……!」

ヨハネ「ふふふ……バレてしまっては仕方ないわね……私は──」


──ドォオオーーーンと、

名乗りを掻き消すように再び大地が揺れる。


ヨハネ「ちょっと! 今ヨハネがかっこよく名乗ってるところなのに……」

凛「だから、緊急事態なんだって!」

千歌「そうだった! 一体何が……」


三つ編みアホ毛──もとい千歌はそう言う。


凛「メテノたちが降って来てるんだよ!」

ヨハネ「降って来てるって……」

千歌「じゃあ、さっきの揺れって……」

凛「メテノが地上にぶつかって“だいばくはつ”したんだと思う……。危ないから一旦バトルは中止、二人とも建物の中に避難して──」


凛と呼ばれていた人──えーっと、確か割と有名人。ホシゾラシティのジムリーダーだったかしら──の話を聞きながら、考える。

──“だいばくはつ”。

現在確認されているポケモンのわざの中では最も威力の高い技だったと思う。

その代償に、ポケモンは戦闘不能に……。

……?

ちょっと待って、さっきの図鑑の通りなら……。


ヨハネ「……!!」


私はとあることに思い至り、咄嗟に駆け出して、


千歌「ヨハネちゃん!?」

凛「!? ち、ちょっと待って!?」

ヨハネ「ヤミカラス!!」
 「カァッーーー!!」
137: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:49:03.53 ID:8koyJWg30

千歌「ヨハネちゃん!?」

凛「!? ち、ちょっと待って!?」

ヨハネ「ヤミカラス!!」
 「カァッーーー!!」


先ほど、上空から飛び降りたときに、その場で旋回しながら待っているように指示を出した、ヤミカラスを呼び寄せ、

その脚を掴んで飛び立つ。

──ぐんぐんと地表を離れ、山肌を上空から観察すると、


ヨハネ「……いた!」


さっきの爆音に相応しく、山を穿ったクレーターの中心に、メテノを見つける。

──そのメテノは、弱々しく光っていた。


ヨハネ「……っ!!」


私は考えるよりも先にメテノに向かってボールを放っていた。





    *    *    *





千歌「ヨ、ヨハネちゃん……??」


突然飛び立ってしまった、ヨハネちゃんを見て呆然とする。


凛「千歌ちゃん!!」

千歌「……! は、はい!」


すぐに凛さんの声で意識を呼び戻される。


凛「危ないから、一旦天文所に避難してて。いい?」

千歌「え、えっと……」


凛さんから二回目の避難警告を受ける。


千歌「ヨ、ヨハネちゃんは……」


私の言葉に対して、凛さんは両肩を掴みながら、私の目を真っ直ぐ見て、


凛「あの子は凛が連れ戻すから!」


そういう。

具体的な説明ではなかったけど、その剣幕でわかる。

それくらい危険な事態が起こっているんだ。


千歌「は、はい……!」
138: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:50:39.85 ID:8koyJWg30

私が頷くのを確認すると、凛さんはすぐさま、ヨハネちゃんが飛び立った方向に駆け出した。

私は言われるがままに天文所に向かって駆け出す。

……でも、なんでヨハネちゃんは、飛び出してしまったんだろう……?

さっき図鑑を見てたけど……。

小走りで天文所に足を運びながら、改めて図鑑のメテノのページを確認する。


千歌「……あれ?」


すると、メテノの図鑑の項目に『りゅうせいのすがた』と……『コア』という項目があるのに気付く。

──そして、コアの項目を見ると……。


千歌「……!!」
 「マグ?」


──私は踵を返す。


千歌「マグマラシ、戻って」
 「マグ」


マグマラシをボールに戻し、


千歌「出てきて、ムックル!」


代わりにムックルを出す。

 「ピピピッ」


千歌「ぶっつけ本番だけど……!! ムックル!! 私を持ち上げて飛べる!?」
 「ピピィ!!!!」


私の無茶振りにムックルは、任せろと言わんばかりに頼もしく返事をしてくれた。





    *    *    *





──パシュン。

メテノがボールに吸い込まれる。

クレーターを見つけたら、とにかく片っ端からボールを投げつける。


ヨハネ「次……!!」


私は次のクレーターを探す。

 「ケロッ!!」

そのとき、肩の上のケロマツが鳴き声をあげる。


ヨハネ「何!? 新しい子、見つけたの!?」


ケロマツの視線を追うと、上空を覆わんばかりの大量の七色の煌き。

次のメテノが降って来る。

──キリがない。
139: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:51:44.83 ID:8koyJWg30

ヨハネ「……っく」


腰に下げたポーチから、げんきのかけら──戦闘不能のポケモンを回復させるアイテムを取り出して、


ヨハネ「ムウマ! ちょっと、忙しないかもしれないけど、手伝って!」


ムウマにアイテムを使い、空にボールを放る。

 「ムマー」


ヨハネ「“あやしいかぜ”で……どうにか勢いやわらげられる……?」
 「ムマァ~」


ムウマは私の指示に従って、落ちてくるメテノたちに向かって風を起こす。

正直、怪しい技の使い方だけど……。

いや……。

──メテノたちを助けるには元の原因を絶たないと──

考えるのよ、善子……。……。


善子「……メテノたちは音ノ木から、山に向かって落ちてきてる……」


本来なら、音ノ木にぶつかって“リミットシールド”が剥がれたら、オゾン層に戻っていくはず。

なのに、それが何故か山に落ちてくる……。


善子「……原因は音ノ木にある?」





    *    *    *





凛「ハリテヤマ、“ふきとばし”! コジョンド、“アクロバット”!」


ハリテヤマが大きな両手で風を生み出し、メテノたちの勢いを殺したあと、

 「コジョッ」

クイックボールを持たせたコジョンドがメテノたちが着弾する前に、軽い身のこなしで山肌を飛び跳ねながら、ボールを当てる。


凛「サワムラー! 手伸ばして届く限界までボール投げられる!?」
 「シェェイ!!」


同じようにサワムラーにも捕獲を手伝って貰う。

視線を空に戻す。

已然、夜空は七色の光はこちらに向かって、いくつも落ちて来ている。

こういうとき自分を運びながら飛べるポケモンを持ってれば違うんだろうけど……!!


凛「……って!! 凛が弱気になってどうするにゃ!!」


パンと気合いを入れるために両の頬を叩く。

それと同時に、鳴き声が聞こえてくる。
140: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:52:43.36 ID:8koyJWg30

凛「……にゃ?」

 「ピピピピピッ!!!」


聞こえた声の先に振り返ると、


千歌「頑張れ! ムックル!!」


先ほど、避難するように言ったはずの千歌ちゃんが居た。

少しだけ浮いた状態で、


凛「千歌ちゃん!? 凛、避難するように言ったよね!?」

千歌「言われました!! けど、このままじゃメテノたちが……!!」

凛「……!」


せっかく、言わないでおいたのに気付かれてしまった。


凛「千歌ちゃん、あのね……!!」


すぐさま、千歌ちゃんを説得しようと、言葉を発するが、

それを阻止するかのように、『pipipipipipipi』と、ポケットから音が鳴り出す。


凛「もう!! 今度は何!?」


ポケギアの着信音だ。

乱暴にポケギアを取る。


凛「今、緊急事態!!! 後に──」

 『所長!! 音ノ木からメテノたちが降って来ています!!』


天文所の職員からだった。


凛「知ってる!! それだけなら切るよ!?」

職員『それが音ノ木の方に素早いポケモンの影を確認しまして……!!!』

凛「ポケモン!? 種類は!?」

職員『調査中ですが、観測機によるとドラゴンタイプであることがわかっていまして……!!』

千歌「──凛さん!!」


通話に気を取られていたら、千歌ちゃんが凛の近くまで来ていた。


千歌「メテノたち、そのドラゴンポケモンにびっくりして、落ちてきてるんですか!?」


凛はその問いに一瞬迷う。

──どう答えるべきか。


千歌「凛さん!! 教えてください!!」


千歌ちゃんは叫ぶ。


千歌「今、チカに出来ることはないですか!?」

凛「……っ」
141: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:53:43.58 ID:8koyJWg30

ジムリーダーなら、わざわざ目の前の子供を危険に晒してはいけないと思う。

だけど、


千歌「メテノたち!! 助けたいんです!!」


真っ直ぐな想いと言葉。それは皆、同じなんだ──そう感じて。

凛は腰からボールを放る。


 「~~~」


そこからふわふわと私の手持ちのメテノが飛び出す。


凛「千歌ちゃん……!」

千歌「は、はい!」

凛「凛が今持ってる手持ちだと、千歌ちゃんやさっきの子みたいに空を飛べないから……せめて、お供に凛のメテノを連れて行って……!!」

千歌「!」

凛「敵はたぶん音ノ木の周辺を飛んでるドラゴンポケモン! 途中ヨハネちゃんにもそう伝えて!」

千歌「……はい!!」
 「ピピィー!!!」

千歌ちゃんがムックルに掴まったまま、飛び出す。

それを補助する形で凛のメテノが、千歌ちゃんのバッグの下から持ち上げる。

飛行の補助として。


凛「無理はしちゃダメだよー!! 追い払うだけでいいからねー!!」

千歌「はーい!!」


飛び立つ千歌ちゃんに向かってそう叫んだ。


凛「……はぁ。こんなの海未ちゃんにバレたらお説教待ったなしだよね……」


そうボヤキながらも、


凛「──ま、後で考えよっと」


七色の隕石たちに向き直る。


凛「……ここからは一匹たりとも、地上には落とさせないから」


──凛はボールを構えた。





    *    *    *





落ちてくるメテノたちを避けながら、


善子「ムウマ! “サイコキネシス”!」
 「ムマー!」


メテノのたちの勢いを殺して
142: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:55:23.64 ID:8koyJWg30

善子「よし! てりゃ!」


ボールを投げて、捕獲する。


 「ケロッ」


肩の上でケロマツが鳴いたら、クレーター発見の合図


善子「ケロマツ!? どこ!?」
 「ケロッ」


ケロマツの指差す先を見ると、今にも光が消えそうなメテノが見える。


善子「……っ!! ヤミカラス!!」
 「カァー!!」


ヤミカラスに指示を出してクレーターまで、飛行するが──

どんどん光は弱くなる。

──間に合わない……!!

そう思った瞬間。


 「コジョッ」


機敏な動きの何かが、今にも命の灯火が消えそうなメテノに覆いかぶさった。


善子「な、何!? コジョンド……?」

 「コジョッ」


コジョンドは私を一瞥してから、軽い身のこなしで山肌を登っていく。

その手にはクイックボールを持っていた。


善子「! あのジムリーダーのポケモン!」


どうやら、この場はジムリーダーに任せてしまった方がいいのかもしれない、と思った矢先、


 「ヨハネちゃーん!!」


名前を呼ばれて、振り返る。


善子「アホ毛!?」

千歌「む、チカだよ! ……ってそれどころじゃなくって」

善子「それどころじゃなさそうなのは、あんたのムックルだと思うんだけど……」


ムックルは力が強いポケモンではあるけど、30cmほどの大きさで人間を運ぶのは、ビジュアル的にかなり重そうに見える。

──まあ、それを言ったらヤミカラスも大変そうだけど。


千歌「ダイジョブ! この子気合いならあるから! それに、凛さんのメテノもいるし!」
 「~~~」


言われて、よく確認してみると、千歌の背負ったリュックの下から持ち上げるように『りゅうせいのすがた』のメテノがいる。
143: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:56:28.21 ID:8koyJWg30

千歌「っと、それよりも! メテノたちが落ちてきてる原因!」

善子「何かわかったの?」

千歌「音ノ木の近くでドラゴンポケモンがメテノたちを脅かしてるみたい」

善子「……わざわざヨハネにそのことを伝えに来たってことは──」

千歌「うん! ヨハネちゃん! 止めに行こう! 音ノ木まで!」


真っ直ぐな瞳で、千歌はそう言う。


善子「──しょうがないわね。今回は特別に貴方をこのヨハネ様のリトルデーモンにしてあげるわ!」

千歌「……ほぇ?」


…………。


千歌「……えっと?」

善子「……一旦休戦して、共闘しようってことよ!!」

千歌「あ、うん!」





    *    *    *





善子「メテノたちにぶつかったら、一発アウトだからね!?」

千歌「うん! ってヨハネちゃん、前!!」

善子「!? ヤミカラス、左!!」
 「カァカァ!!」


すぐ横をメテノが過ぎって行く。


善子「……し、死ぬかと思った」

千歌「ヨハネちゃん! ダイジョブ!?」

善子「へ、へーきよ、これくらい!」


虹の閃光の中を2人と5匹で前進する。


善子「ケロマツ! “あわ”!」
 「ケロッ」


ところどころで泡を散布しながら、メテノの素早さを下げて進む。

気休め程度だけど、ないよりマシでしょ。


善子「そういえば、千歌!」

千歌「何ー!?」

善子「あんた、スカイバトルの経験は!?」

千歌「すかいばとる……初めてー!!」


まあ、そうよね。自分のポケモンだけで飛べないんだから。


善子「相手も飛んでる以上、完全に空中戦だから、マグマラシやトリミアン……? は使えないから、それは頭に入れて置いた方がいいわよ!!」

千歌「わかった!」
144: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:57:21.30 ID:8koyJWg30

ヒノアラシのままだったら、ギリ肩に乗せて戦うのもアリだったかもしれないけど……。

まあ、そんなことは言っても仕方がない。

程なくして、虹の流星の先から、


千歌「……? 音……?」


驚いて騒々しいメテノたちの“それ”とは違った、叫ぶような甲高い音が聴こえる。


善子「……明らかにメテノの鳴き声じゃない……!!」


私は図鑑を開く。


善子「……どうやら、ボスキャラのお出ましのようね……」

千歌「……あれが、ドラゴンポケモン……!」


虹の光の先に、素早く飛び回るポケモンの姿を捉える。

薄い翼膜と鋭い眼光。そして、何より目を引くのは、頭に付いた大きな耳のような部位。


 「キィーキキキキキキ!!!!」


そして耳に不快感を与える甲高い鳴き声。


善子「……オンバーン!!」


 『オンバーン おんぱポケモン 高さ:1.5m 重さ:85.0kg
  月明かりすら ない 闇夜を 飛び回り 獲物を 襲う。 耳から 
  発する 超音波で 巨大な 岩をも 粉砕する。 非常に 
  乱暴な 性質で 目に 入る もの 全てに 攻撃する。』

ついで言うなら図鑑曰く、あのオンバーンはLv.51


 「キィーーキィーーー!!!」


私たちに気付いたのか、オンバーンがこちらに進路を向けてくる。

──ってか、

気付いたら、眼前に迫っている。


千歌「は、はやっ!?」


前歯を剥き出しにして、噛み付いてくる気満々だ


善子「!? ケロマツ! “えんまく”!!」
 「ケロッ!!」


ケロマツが白煙を噴出す。

 「ギィイイイ!!!」

耳障りな叫び声をあげながら、オンバーンが煙を突き抜けてくる。


善子「ムウマ!!」
 「ムー!!」
145: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:58:21.75 ID:8koyJWg30

オンバーンが飛び出し、ムウマに前歯を立てる──が、

すり抜ける

 「キィィィイイ!!!!」

善子「やっぱり“いかりのまえば”ね! ゴーストタイプには不発よ!」

千歌「ヨハネちゃん、すごーい!」


でも、このスピードは厄介。レベルが高いだけはある。


善子「でも手の打ち様はいろいろあるわよね! ムウマ、“トリックルーム”!!」
 「ムマァー」


ムウマを起点にして、周囲の空間の時間が逆転する。


善子「格上相手には、やっぱりこれに限るわ!」

 「キィィィィィィイイイ!!!」


だけど、もちろん相手が止まるわけではない、

オンバーンは口をガバっと開けて、ムウマに“かみつく”姿勢を取る。


善子「千歌!! あわせなさい!!」

千歌「おっけー!!」

善子「ヤミカラス!!」
千歌「ムックル!!」

千歌・善子「「“フェザーダンス”!!」」


 「ギギキィィイィイイイ!!?!?」

二匹の羽が舞い踊り、オンバーンに纏わり付く。

“フェザーダンス”は相手の攻撃を著しく下げる技だ。

 「ギィィィィィイイイ!!!」

重なるデバフと歪んだ時空の中で、尚も激しく威嚇の声をあげ、噛み付く意思を見せてくるオンバーン。


 「~~~」

千歌「? ヨハネちゃん! 凛さんのメテノが何か言ってる!!」

善子「!! その気があるなら、盾役任せるわよ!!」


そう声を掛けると、千歌のバッグの下で、メテノ外殻の割れ目からチカチカと光が漏れ出るのが見える。


善子「了承と受け取るわ! ムウマ、“サイドチェンジ”!!」
 「ムマァッ」


ムウマが叫んだ瞬間、ムウマとメテノの位置が『入れ替わった』

──ガキッ!!

オンバーンの牙がメテノの頑丈な外殻に噛み付き、鈍い音が響く。

 「~~~」
 「キィェィィィイイイイ!!!!」

オンバーンが予想外の硬さに歯を立ててしまったためか、また激しく鳴き声をあげる。
146: ◆tdNJrUZxQg 2019/04/30(火) 23:59:32.16 ID:8koyJWg30

千歌「す、すごい!! って、あれ? これチカ落ちない?」
 「ムゥ~」

千歌「あ、こっちにはムウマがいるんだ」

善子「感謝しなさいよ! リトルデーモン!」


まあ、正直相性が悪いムウマであくタイプの“かみつく”を受けるのは、よろしくなかったし、メテノと入れ替わるは助かるんだけど。


善子「距離も取れたし、悪くないわ! ムウマ! “いたみわけ”!!」

 「ムー」


千歌のバッグの下で、ムウマの目が光る。


 「キギッ!!?」


途端、オンバーンは動きが目に見えて重くなり、メテノから離れて距離を取る。


千歌「な、何したのー!?」

善子「“いたみわけ”はお互いのHPを足して平等に分け合う技よ。こっちの方が圧倒的にレベルが低いから、オンバーンは相対的に大ダメージを受けたはずよ!!」

千歌「よ、よくわかんないけど、ヨハネちゃんすごい……!!」


オンバーンは距離を取りながらも旋回して、こちらを睨みつけてくる。

まだ戦意はあるようだ。


善子「なら、ケロマツ、“うちおとす”!」
 「ケロッ」


──バシュン、と

道中でメテノの砕けた殻でも拾ったのか、小さな石礫を泡で包んで相手の翼目掛けて撃ち出す。


善子「これでチェックよ……!!」


飛行の制限も加わればさすがに──

そう思った瞬間──


 「──ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


──それは──

──空気が裂けるような音だった。

ケロマツの飛ばした礫を消し飛ばすほどの空気の振動。


千歌「……!!!?!?」

善子「……っ!!!?」


途端、身体が浮遊感に包まれる。


千歌「……!!!」


何故か、視界の上の方で千歌が私の方に腕を伸ばしてきて、私の腕を掴む。

メテノも戻ってきて、私の下に潜り込む。


千歌「──!!! ──!!!!!」
147: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 00:01:36.60 ID:oTWJbR4y0

千歌がパクパクと何かを言っている。

──そこでやっと気付く。

ヤミカラスがオンバーンの撃った“ばくおんぱ”で気絶しかけている。

千歌の方もムックルが相当ダメージを負ったらしく、かなり我武者羅に翼を振っているのが目に入る。

──千歌、あんた、私を助けてる場合じゃないわよ……!!


善子「──!!」


そこで気付く。声が出ない。

──いや、“ばくおんぱ”で一時的に耳が聴こえ辛くなっている。

咄嗟にポーチに手を伸ばし“いいきずぐすり”を二つ取り出し、

一個を千歌に投げ渡す。


千歌「!?」


説明してる暇は無い。

戦闘不能になったケロマツをボールに戻しながら──見て真似ろ、と言わんばかりにヤミカラスにスプレー状の回復アイテムを使う。


千歌「!」


それを見て気付いた千歌も倣うように、ムックルを回復させる。

それに伴い、赤い顔をして頑張っていた、ムウマの表情が緩むのを確認する。

ムウマがゴーストタイプで“ばくおんぱ”を透かせていなかったら、本当にやばかったかもしれない。

──いや、それでも結果が先送りになっただけだ。


千歌「──!!! ──!!!!」


わかってるわよ。

めちゃくちゃ不味い状況なのは。

 「────」

オンバーンがこちらを睨みつけている。

私は咄嗟に、掴んだヤミカラスの足先、叩く。

『トンツー トントンツートン ツートントンツートン トンツートンツートン』

うまく声が出せないし、ヤミカラスも聴覚をやられている可能性を考慮して、モールス信号を出す。

ヤミカラスが文句を付けるようにオンバーンを挑発する。

“いちゃもん”──同じ技を繰り返し出すことを封じる技だ。

とりあえず、これでオンバーンは“ばくおんぱ”を連発できない。

……まあ、これも問題の先送りでしかないけど。

私は一旦、チラリと千歌のムックルに目を配らせる。

 「──」

何言ってるか、聴こえないし、聴こえてもわからないけど、あんたはご主人様を守りなさい。


善子「──」
148: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 00:02:44.70 ID:oTWJbR4y0

私は今度はムウマを一瞥して、手の平を後ろに向けて見せた。

 「──」

私のハンドシグナルを見て、ムウマが嫌そうな顔をした。

ご主人様の命令だから、聞きなさい。


善子「……」


そして、今度は人差し指と中指の二本だけ立てて、前を指す。

オンバーンに。

まるで銃口を向けるように、

この合図を確認した、3匹は、

動く──

ムックルが振り返り、ムウマと共に千歌を後退させる。


千歌「!!?!?!? ──!!!!? ──!!!!!!!」


そして、私とヤミカラスは前へ。

ムウマ、ごめんね。


千歌「──!!!!! ──ヨ──ネ──ん!!!! ──待──だめーーーっ!!!!!」


千歌の絶叫が途切れ途切れに聴こえてくる。

全く、今更戻ってこなくていいのよ、聴力。


善子「──ヤミカラスッ!! “ちょうはつ”!!」


私も声──出るじゃない。


 「カァーーーー!!!」

ヤミカラスが全力でオンバーンを挑発して、惹き付ける。


 「ギキィイイイイ!!!」

オンバーンが私たちに注意を向けてくる。

その横をすり抜けて、ヤミカラスは風を受けて、一直線に滑空する。

──言っておくけど、ヨハネは誰かのために生贄になってあげるほど、お人好しじゃないんだからね?


善子「ヤミカラス!!! 全速力で音ノ木まで飛んで!!!」
 「カァーーー!!!」


無茶は承知。

でも、現状全員が無事に生き残るにはこれしかない!!

 「~~~」

さっきまでは私の身体の下に潜り込んでいた、メテノが今度は背中を押してくる。

背後で──パキパキと、何かが割れる音がしてから、一気に加速する。


善子「“ボディパージ”? 洒落た技持ってるじゃない! 貴方、私のリトルデーモンにならない!?」
 「~~~」


自ら外殻を脱いで身軽になった、メテノに背中を押されて、音ノ木まで一直線に進む。
149: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 00:03:52.71 ID:oTWJbR4y0

 「キシャアアアアアアアアアア!!!!!」


そろそろ、“トリックルーム”も切れた頃だろう。

背後からはオンバーンが猛追してくるのが気配でわかる。

スピード比べ……!!!

雲の隙間を抜け、闇に溶けていた大樹の樹皮がだんだんと鮮明に見えてくる。


善子「あと、ちょっと──!!」


そう言葉を零した、

瞬間、

──ガブリ、

体内に響く嫌な感触と音、

そして、右足の脹脛に激痛が走る。


善子「──っ!!!!!」


痛みの方向に目を向けて、

見ない方が良かったと後悔する。

──後ろから右足の脹脛にオンバーンが噛み付いていた。


善子「……っ!!!」


私は咄嗟に左足の踵で、オンバーンの顔を蹴る。


 「キィィィ」


オンバーンの発声体である、耳からまた耳障りな音がする。


 「~~~」


今度は背中を押していたメテノがオンバーンを小突く。

だが、牙は抜けない。

──痛い。

──あ、やばい。

──オンバーンって“きゅうけつ”覚えたっけ

──“すいとる”だったかしら。

いろんなことが頭の中を過ぎる。

あとちょっとで音ノ木なのに──

そう思って、目を配らせた音ノ木から


──刃が飛んできた。


何を言ってるかわからない?

……私も何が起きたかわからないから、おあいこよ。


 「ギシャアアアアアアア!!!?」


空を薙ぐ刃がオンバーンに直撃し、オンバーンの牙が私の脚から離れる。
150: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 00:04:45.58 ID:oTWJbR4y0

善子「……っ!! な、何が起きたの……?」


今の何……?

刃が飛んできたであろう方向を見ると、


善子「ポケ……モン……?」


音ノ木の太い枝の上に、

白い体毛と、頭の先に黒い鎌のような刃を生やしたポケモンが、四足で堂々と、立っていた。

初めて見るポケモンだった。


善子「…………」


──その毅然とした姿に、思わず息を呑む。

月に照らされる、そのポケモンの姿は余りに美しく、一瞬怪我の痛みすら忘れてしまう程で。


善子「……今のは……あのポケモンの“かまいたち”?」


 「ギシャアアアアアアアア!!!!」


そんなことを呟いていたら、私の横をオンバーンが猛スピードで、通り過ぎていく。

攻撃をされて、怒り狂っている。


善子「ま、まずっ!! 逃げて!!」


私は叫ぶが、オンバーンは猛スピードで音ノ木に近付き、

 「ギシャアアアアアアアアアアア!!!!!」

白いポケモンに噛み付こうとする、

──が、

 「……」

そのポケモンはひらりと身を交わす。


善子「“みきり”!?」


華麗なステップのまま、オンバーンの胸部を、自らの頭から生えている鎌の先で

一突きした。

 「キィァ!!」

オンバーンはよろけたが、頭部の耳を白いポケモンに向かって構える。


善子「……あっ!! 他の攻撃挟んでるから、“いちゃもん”の効果切れてる!! “ばくおんぱ”を撃ってくるわよ!! 逃げて!!」


私は白いポケモンに向かって叫んだ、

──が、それは不要だったことを知る。


 「キィァ…」

善子「え」


何故か、オンバーンの“ばくおんぱ”が……攻撃が不発した。


善子「い、今の……もしかして、“じごくづき”……?」
151: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 00:06:03.00 ID:oTWJbR4y0

──“じごくづき”──受けた相手が音を発する技を出せなくなる技だ。

 「……」

白いポケモンがオンバーンを睨みつけると、

 「キィ…」

オンバーンは勝てないと思ったのか

 「キィー」

已然速いあの飛行速度のまま

逃げ出して、闇夜に消えていった。

オンバーンが見えなくなったのを確認してから、大樹に視線を戻す。


善子「…………」

 「……」


白いポケモンと目が逢う。


善子「……貴方は……」


名を問おうとしたら、


「──ヨハネちゃーん!!!」


後方から声が聞こえた。


千歌「ヨハネちゃん!!!」

善子「千歌……!! なんでこっちくるのよっ!!」


思わず振り返りながら、怒鳴る。


千歌「それはこっちのセリフだよ!! いや、こっちのセリフじゃないけど!!! なんで、囮になんかなったのっ!!!! 脚も怪我してるしっ!!!!」

善子「……それは」


更に言い返そうと思ったけど、


千歌「……あんなことしないでよ……っ……共闘するって……っ……言ったじゃん……っ……」


千歌は泣いていたから、それ以上の追い討ちは憚られた。


善子「悪かったわ……でも、あのポケモンが助けてくれて……」

千歌「……ぐす……っ……あのポケモン……?」


私が再び、音ノ木を振り返ると


善子「あれ……?」


既にそのときには、そこにはあのポケモンの姿はなかった。


善子「……一体……なんだったの……?」


私の呟きが、先ほどまでの絢爛なイルミネーションの奔流が嘘のように、

澄んだ闇夜の先──月と大樹だけの背景に、

静かに溶けて消えていった。
152: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 00:08:50.71 ID:oTWJbR4y0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【大樹 音ノ木】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回● |    |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.14 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ムウマ♀ Lv.14 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:34匹 捕まえた数:6匹

 主人公 善子
 手持ち ケロマツ♂ Lv.16 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.15 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      メテノ  Lv.49 特性:リミットシールド 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:41匹 捕まえた数:21匹


 千歌と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



153: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:03:40.48 ID:oTWJbR4y0

■Chapter013 『夜の帳は下りていく』 【SIDE Yoshiko】




千歌「これでよし……」

善子「……思ったより、器用なのね」


包帯が巻かれ、応急処置を施された右足を見て思わず関心する。


千歌「えへへ……昔っから、生傷が絶えなかったから、応急処置くらいならね」


──私たちはあの戦いの後、音ノ木の太い枝の大きな葉の上で休息を取っていた。


千歌「思ったよりは傷も深くはないみたいだし……しばらくは少し痛むかもしれないけど、ひとまず大丈夫だと思うよ」

善子「そ……あ、ありがと……」

千歌「えへへ、どういたしまして♪」


千歌が無邪気に笑う。

さっきまでの泣き顔が嘘のようだ。


千歌「ポケモンたちも回復しないとね。ムックル、ヤミカラス、ムウマ、メテノ、こっちおいでー」
 「ピピ」「カァ」「ムゥ」「~~」

千歌「ついでに善子ちゃん、ケロマツも回復してあげて」

善子「……そうね」


千歌が呼び寄せたポケモンたちに、順番にきずぐすりを吹きかける。

 「~~」

その際メテノはHPが回復したためか、再び外殻を身に纏い、元の『りゅうせいのすがた』に戻っていた。

私もポーチから取り出した、げんきのかけらでケロマツを回復させて、ボールから出す。


 「ケロッ」
善子「ケロマツ、お疲れ様」


自らのポケモンに労いの言葉を掛けていると、


千歌「ど、どうしたの!? ムックル!?」


隣で千歌が困惑の声をあげた。


善子「な、なに?」


私も釣られて、ムックルの方を見ると、


 「ピィ…」


ムックルは声をあげながら、ぷるぷると震えていた。


千歌「ムックル? 寒いの……?? ど、どうしよ……!!」

善子「千歌、落ち着きなさ──」


うろたえる千歌を落ち着かせようとしたら、
154: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:05:17.67 ID:oTWJbR4y0

 「ケロロッ…!!」

善子「え!? ケロマツまで!?」


ケロマツも同じように震えだした。


次の瞬間

二匹は眩く光り。


千歌「…………あ」

善子「…………!」


一回り大きくなった、違う姿になっていた。


 「ピピイーー」「ゲロ…」


千歌共々、二人で図鑑を開く。


 『ムクバード むくどりポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.5kg
  森や 草原に 生息し むしポケモンを 狙って 飛び回る。
  群れで 行動し グループ 同士が 出くわすと 縄張りを 
  懸けた 争いが 始まる。1匹になると やかましく 鳴く。』

 『ゲコガシラ あわがえるポケモン 高さ:0.6m 重さ:10.9kg
  器用で 身軽な ポケモン。 泡で 包んだ 小石を 投げ 
  それを 30メートル 先の 空き缶に 命中させる ほど。 また
  その身軽さで 600メートルを 越える タワーも 1分で 登りきる。』


千歌「進化した……!!」

善子「あれだけの激しい戦いだったし……経験値が溜まって、進化したのね」

千歌「えへへ! ムクバードーっ!」
 「ピピイ!!」


千歌が喜びの声をあげながら、ムクバードを抱きしめる。

一方で、


 「ゲロ…」


ゲコガシラは静かに鳴き声をあげるだけだった。

らしいと言えばらしい。

私は思わず肩を竦めながら、図鑑をしまおうとして、

──画面に見慣れない表示が出ていることに気付いた、のだが、


千歌「ヨハネちゃん! 進化だよ! 進化ー!!」


千歌が有無を言わせず抱きついて来たため、詳しく確認する暇がない。


善子「わ、わかってるわよ! って、抱きつかないでって!!」


喜び勇んで抱擁に巻き込んでくる千歌をあしらう。


善子「と、とりあえず……」

千歌「はぇ……?」


嬉しい気持ちはわかるが、今は一旦確認することがある。
155: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:07:40.53 ID:oTWJbR4y0

善子「これからどうする?」

千歌「……あー、そうだね……」


音ノ木の枝は太く、しっかりとしているため、ここで一晩過ごしても問題はなさそうだが……。

辺りを見回すと、落ち着きを取り戻したメテノたちが、昼間と同じようにふよふよと浮遊している。

そこからも、恐らく今回の事件は解決したと見ても問題はないのだが、


千歌「うーん……とりあえず、私は凛さんのところに戻る方がいいと思う。心配してるだろうし……」

善子「連絡先はわかんないの?」

千歌「……聞くの忘れてた……」

善子「あっそ……」


私はゲコガシラをボールに戻しながら、立ち上がって東の方へ歩き出す。


千歌「あ、あれ? ホシゾラシティってそっちだっけ……?」


千歌が投げかけてくる疑問に


善子「いや、流星山ならここから見えるでしょ」


そう言って、南を指差す。


善子「私はちょっと、用事が出来たから……ホシゾラには戻らないわ」

千歌「用事? 一緒に戻らないの?」

善子「……まあ、ちょっとね」

千歌「ケガ……大丈夫……?」


千歌は心配そうに声をあげるが、


善子「お陰様で、痛みも大分落ち着いたから」

千歌「でも……」

善子「……東の方にある、サニータウンに付いたら、ちゃんと病院にも寄るから」

千歌「そ、そっか……」


千歌は少しシュンとしていたが……まあ、急用が出来たのは事実だし。


善子「あ、そうだ……」

千歌「?」


私は思い出したかのように振り返って、バッグから大量のダークボールを取り出して、千歌の前に一個ずつ置く。

1個、2個、3個……7個ほどある。


善子「捕まえたメテノよ。弱ってるから、ボールから出さないで、そのままジムリーダーに渡してもらえる? 私じゃ、この後どう処置するのかわかんないから」

千歌「あ、うん。わかった」


千歌はそう言って、いそいそと黒いボールをリュックに詰め込む。

私は今度は、一緒に戦ったメテノの方を見て、


善子「それじゃ、千歌の帰り道と……あのジムリーダーさんによろしく伝えてね」
156: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:08:38.23 ID:oTWJbR4y0

メテノに言伝する。

 「~~~」

メテノは再び外殻の割れ目から光を点滅させる。きっと了承の返事だろう。


善子「……ま、ムックルもムクバードに進化して、飛行能力もあがったから大丈夫だとは思うけど」

千歌「あ、待って! ヨハネちゃん!」

善子「……まだ何かあるの?」

千歌「連絡先! 教えて!」

善子「……え?」

千歌「何かあったら、今度は私が助けるから!」

善子「…………」


少し考える。


善子「…………」

千歌「ね? ね?」

善子「……………………」


考えて……。


千歌「ね、ねねね? 教えて?」

善子「…………はぁ……わかったわよ」


根負けする。

お互い、ポケギアの番号を赤外線で手早く交換したあと。

私は背を向けて、再び東へと歩を向ける。


善子「あー……千歌」

千歌「ん?」


去り際に千歌に向かって、


善子「……できれば次会うときもヨハネって呼んでくれるかしら」

千歌「え? ……あ」


恐らくポケギアの登録名を見て、気付かれたと思うので──我ながら、なんで本名で登録しちゃったのかしらね──


善子「それじゃ」


私はヤミカラスに掴まり、ムウマを従えて、虹の夜空を飛び出した。


千歌「元気でねー!!!!」


背後から大きな声が聞こえてくる。


千歌「……またどこかで会おうねー!!! 善子ちゃーん!!!!」

善子「だから、ヨハネよー!!!!!」
157: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:11:21.39 ID:oTWJbR4y0

背後に怒声を浴びせながら、私たちは東へ向かって飛行する。

……だから、あんまり教えたくなかったのよね。

…………。

……まあ、それはそれとして。

私は図鑑を開く。

さっきの白いポケモン。あれだけ近付いたなら、データが登録されているはずだ。


善子「……えーっと……。あ、このポケモン……」


 『アブソル わざわいポケモン 高さ:1.2m 重さ:47.0kg
  アブソルが 人前に 現れると 必ず 地震や 津波などの 災害が
  起こるという 言い伝えが あるため 災いポケモン という 別名で
  呼ばれる。 普段は 山奥に 生息し 人前には 余り 現れない。』


善子「アブソル……って言うのね」


災いポケモン──そのワードがそもそも私好みではあるのだけど、


善子「借りも出来ちゃったし……」


図鑑をポチポチと弄ると、先ほど見つけた新機能──。


善子「追尾モード……」


動き回るポケモンを追跡することを想定されているであろう名前の機能を開くと、タウンマップ上にポケモンの所在を示す黒い点が東の方に表示されていた。

ちょうど方角的にも、サニータウンの方だ。都合がいい。

正直、特別コレと言った目的がある旅でもなかったが、一先ず目標が出来た。


善子「アブソルにもう一度会う……!!」
 「カァー」「ムマ♪」


決意新たに飛び出して、

静かな夜空に、一人と二匹の闇色のポケモンの声が溶けて消えていくのだった。





    *    *    *

158: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:12:30.30 ID:oTWJbR4y0



──ウチウラシティ。

一通り事務仕事を終えて、メレシーのボルツと共に教室の見回りをしていると、


 「メレシ…」
ダイヤ「……あら?」


体育館──もとい、ジムの方の明かりが付いていることに気付く。


ダイヤ「……」


出来るだけ物音を立てないように、ジムの方へと足を運び、


 「──コラン! “いわおとし”!」


ジムの中をこっそりと覗き見ると、


 「ピーピー」
ルビィ「だ、だから、“いわおとし”!」


ルビィとメレシーのコランの姿が見えました。


ルビィ「ねーコラン……」
 「ピ?」

ルビィ「ルビィのこと……嫌い?」
 「ピピピ」


難しい顔をして、そう問い掛けるルビィに対して、コランは楽しそうに身を寄せる。

好きとか、嫌いと言うより、遊び相手という認識なのでしょう。


ルビィ「これから一緒に旅に出るんだよ?」
 「ピピピ」


コランは鳴きながら、ルビィの周りをくるくると飛び回る。


ルビィ「はぁ……ホントにルビィが冒険なんかに出て、大丈夫なのかなぁ……」

ダイヤ「……」


ルビィはあまり言うことを聞いてくれないコランを見て溜息を吐く。


 「メレシ…」


そんなルビィの許に、わたくしの近くにいたボルツがふよふよと飛んで行く。


 「ピィ」
ルビィ「あ、ボルツ……」


ボルツが近付いてくることにいち早く気付いたコランの声を聞いて、ルビィもボルツの姿を認める。

わたくしもその後ろについていくように、ジムの中へと足を運ぶ。


ダイヤ「ルビィ。明日は早いのですから、そろそろ休みなさい」

ルビィ「お姉ちゃん……」


ルビィは弱々しい声を出す。
159: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:14:00.82 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「ダメよ……トレーナーがそんな不安そうな顔していては──」


──ポケモンが不安になってしまう。

そう続けようとしましたが、


ルビィ「──ルビィ、きっと才能ないんだと思う……」


ルビィは先ほどとは打って変わって大人しくなったコラン──ボルツが近くにいるからでしょうか──を抱き寄せて、そう言う。


ダイヤ「……始める前から、才能なんて言葉を使うものではありませんよ」

ルビィ「でも……」


気持ちはわからなくはない。お昼のことと言い、消極的なルビィに対してコランは少しやんちゃが過ぎるのは概ね同意できますし。


ダイヤ「最初は誰しも、うまく行かないものですわ。ましてや、貴方はまだ旅立ち前なのですから」

ルビィ「……うん」

ダイヤ「コランも貴方のことが嫌いなわけじゃなくて……遊んで欲しいだけなのでしょう。いざ旅に出たら案外頼もしいパートナーになってくれるかもしれませんわよ?」

ルビィ「……そうなの、コラン?」
 「ピピ?」

ダイヤ「とにかく、そう言う諸々のことを確認するために、ポケモントレーナーは旅に出るのですから」

ルビィ「……うん」

ダイヤ「……今日はもう遅いですから、早く休みなさい」


わたくしはそう言って、ルビィの頭を撫でた。


ルビィ「……はぁい」


ルビィは弱々しく返事をすると、コランを抱えたままトコトコとジムを出て行った。

……それを見計らっていたかのように、


 「ふふ、姉としても、教師としても、それらしいことが言えるようになりましたね。ダイヤ」


ジムの奥の方から、声がする。

声の方へ、目を配らせると、妙齢の女性が一人。


ダイヤ「……お母様、こちらにいらしたのですか」


私の母──名を琥珀。わたくしやルビィと同じように、メレシーを従えて、ジムの奥の倉庫でなにやら片付けをしていた。


琥珀「私が居ないと、ルビィがここで特訓をしている間の監督役が居ないでしょう?」

ダイヤ「確かにそれはそうですけれど……。戻るなら、一報を入れてくれれば、迎えを出しましたのに……」

琥珀「どちらにしろ、今日は一旦戻って仕事をしようと思っていたから大丈夫ですよ。昨日は入江の方が少しざわついていたので大変でしたが……」

ダイヤ「噫、えっと……それについては──」

琥珀「大丈夫よ、鞠莉さんから事情は聞いたから。千歌さんも曜さんも相変わらず元気なようで安心しましたわ」


件の入江での大立ち回りで、多少メレシーたちが動揺していたのかもしれない。


琥珀「お陰で……というわけではないですが、今回はそれなりにいろいろ石が採掘できましたし」
160: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:16:53.70 ID:oTWJbR4y0

お母様はそう言いながら、倉庫内へと目を配らせると、エレザードやレアコイルたちが石の仕分けをしている。

彼らはお母様の手持ちのポケモンなのですが、

それはともかく採掘──とは一体なんのことなのか、説明した方がいいかもしれませんわね。

クロサワの入江は、ただのメレシーの群生地というわけではなく、我がクロサワ家の私有地でもあります。

詳しい理由はわかってはいませんが、洞窟内では“ほのおのいし”や“みずのいし”と言った──所謂、進化の石や先刻、千歌さんと曜さんに手渡した“ほのおのジュエル”や“みずのジュエル”のような宝石。

そして、多種多様な鉱物が採掘できます。

他の街が天文観測や農業、工業などで経済を回しているように、わたくしたちの暮らす、ウラノホシタウン~ウチウラシティではこうした鉱物を採掘・出荷することによって、成り立っています。

『お陰で』と言うのは、千歌さんたちが戦闘をしたためか、いつもよりも鉱物が掘り返されていたということでしょう。


ダイヤ「……あまり、褒められた話ではないのですが……」

琥珀「ふふ、生徒はちゃんと見てなくてはいけませんよ? ダイヤ」

ダイヤ「……元はお母様の教え子でもあるのですが」


入江の管理を隠居されたお婆様から任されて、それに集中するために、お母様は教職を離れて、入江の正式な管理者になったのです。

そして、その教え子を引き継ぐ形でわたくしが受け持っているのが現状というわけです。

尤も、明日にはそんな教え子たちも全員が旅立ってしまうので、当分はジムリーダーの職務に集中できそうですが……。


琥珀「そういえば……今日、入江で珍しいヤミラミを見たのですが」

ダイヤ「……珍しいヤミラミ?」


──ヤミラミは、簡潔に言うとメレシーの天敵です。

捕食者と言っても差支えがない。宝石を食べるポケモンです。

入江内はメレシーの群生地なので、餌を求めてヤミラミが現れることはそこまで珍しくはないのですが……。


琥珀「普通ヤミラミの胸の宝石は赤いはずなのに、それがダイヤモンドになっている個体だったのです」

ダイヤ「……確かにそれは珍しいですね。わたくしも見たことがないですわ。それで、そのヤミラミはどうしたのですか?」

琥珀「一応、捕獲しましたわ。この通り」


そう言ってお母様がヤミラミの入ったボールを見せてくれる。

ヤミラミはメレシーが居れば、どこからともなく現れるので、それを捕獲して、メレシーたちの安全を確保するのも管理者の仕事というわけです。


ダイヤ「流石ですわね、お母様。後日、鞠莉さんに調査してもらいましょう」

琥珀「ええ、そうですわね」


──しかし、ダイヤモンドを持ったヤミラミ……。


ダイヤ「……何かの予兆でなければいいのですが」


思わず、そんなことを呟いていた。

──然し、千歌さんたちが暴れてくれたお陰(?)でお母様が緊急で様子見に出掛け、それによって、ヤミラミの変種個体を見つけることが出来た──と言うのはある種の『人間万事塞翁が馬』と言うことなのかもしれませんわね。

そんなことを胸中で嘯きながら、


ダイヤ「全く、あの子たちの周りではいつも事件ばかりですわね──」


そんなトラブルメイカー──というかトラブルヒッターでしょうか──な彼女たちは今頃何をしているのでしょうか。

……また、危ないことをしていなければいいのですが……。

……まあ、止まれと言って止まるなら、それこそ苦労はしないのですけれど──
161: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:18:14.03 ID:oTWJbR4y0




    *    *    *





千歌「──へくしっ!!」
 「ピィー?」

千歌「あ、ごめんごめん、大丈夫だよ、ムクバード」


突然くしゃみなんて、誰かが噂でもしてるのかな……。

……それはさておき、音ノ木で善子ちゃんと別れてから、私たちも空に飛び立ち、流星山を目指しています。

さっきの虹の流星群とは打って変わって、静かな夜空を風が切る音と、ムクバードの羽ばたきの音だけが聴こえてくる。

先ほどまでの激闘が嘘のようだった。

流星山が眼前に迫ってくると、山頂には飛び出してきたときと同様に──


凛「おーい!」


凛さんが手を振りながら待っていた。

 「~~~」

相も変わらず私のリュックの下に潜り込んで飛行のサポートをしてくれていたメテノがぷるぷると震える。

主人の許に帰ってきたことを喜んでいるようだ。

地表近くで軽く、減速してから、


千歌「よっと……!」


ムクバードから手を離して飛び降りる。


千歌「ありがとね、ムクバード。ボールの中でゆっくり休んでね」
 「ピィ~」


ムクバードに労いの言葉を言ってからボールに戻す。


凛「千歌ちゃん!」


そんな私に凛さんが駆け寄ってくる。


凛「よかったにゃ……無事に戻ってきてくれて……」
 「~~~」

凛「メテノも、お疲れ様」


凛さんはメテノに労ってから、キョロキョロとあたりを見回す。


凛「千歌ちゃん、あの子……えーっと」

千歌「あ、善子ちゃん」

凛「そうそう、善子ちゃん……あれ、そんな名前だったっけ?」

千歌「善子ちゃんは用事があるからって、音ノ木から東の方に飛んでいきました」

凛「……まあ、言いたいことはあったんだけど、とりあえず無事ってことだよね?」

千歌「はい、ちょっとケガしたくらいで……」


そのとき突然、腰に付けたボールの1個がカタカタと震えて、
162: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:19:47.84 ID:oTWJbR4y0

 「ワフッ」

千歌「わっ!? しいたけ!?」


しいたけが飛び出した。


千歌「急にどうしたの?」
 「ワフッ」


ずっと控えが続いてたから、退屈で出てきちゃったのかな……?

私の足元に擦り寄ってくる。


千歌「……あ、そうだ」


それはともかくと思い出したかのように、リュックから黒いボールを取り出して。


千歌「凛さん、これ善子ちゃんから……」

凛「にゃ?」


凛さんに手渡す。


千歌「捕まえた瀕死のメテノたちだって……」

凛「……そっか。直接お礼言いたかったんだけどなぁ」
 「~~~」


凛さんがそう言うと、メテノがチカチカと点滅する。

それを見て凛さんは何か納得したように、


凛「まあ、いっか! そのうちまた会った時にお礼しよっ」


強引に話を締めくくった。


凛「とりあえず、今回のことをまとめないといけないから、千歌ちゃんに聞きたいことがいくつかあるんだけど……」

千歌「あ、はい」


事後調査ってことだよね。

私が返事をしながら、前に歩み出ようとした時──

──カクン。


千歌「──え?」


突然膝が折れて、前に倒れる。

──バフ。

 「ワフッ」

そこにはしいたけが居て。


凛「ち、千歌ちゃん!?」

千歌「あ、あれ……足に力が……」


考えてみれば、今日は本当に一日中ずっと動き回っていた気がする。

全てが終わって、緊張の糸が切れたのか、身体が体力の限界を主張し始めた。
163: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:20:57.93 ID:oTWJbR4y0

凛「……お話聞くのは明日にした方がいいかもね」

千歌「あはは、そう……みたい……です……」


疲れを自覚すると、今度は急激に眠気が襲ってくる。


千歌「う……ふぁぁ……」
 「ワフ」

凛「天文所に仮眠室があるから、そこで休もっか」

千歌「はい……」


しいたけは私が限界なのに気付いて、出てきたんだね……なんだかんだ一番付き合いが長いだけはある。

そのまま、しいたけの背中にぐでっともたれかかったまま、


凛「すぐに付くからもうちょっとだけ頑張ってね」

 「ワフッ」


長い一日が終わりを迎えるのでした。





    *    *    *





──13番水道。

ぼんやりとした、意識の中、依然波の音が聴こえてくる。

うっすらと目を開けると、空が暗い。

私はギャラドスの背の上で横たわったまま、眠ってしまったんだと気付く。

近くには変わらず果南ちゃんの紺碧のポニーテールが潮風にはためいている。


果南「あーもしもし」


どうやら、電話をしているらしい。


 『……果南、貴方今どこにいるのですか?』


ポケギアから通話先の人の声が、私の耳にも聞こえてくる。

はっきりとしていて、凜とした通る声だ。
164: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:23:00.46 ID:oTWJbR4y0

果南「13番水道」

 『……はぁ、まあ自分から連絡を寄越してきただけ、いいとしましょう。13番水道からなら、見えたのではないですか?』

果南「虹色の流星群なんて、おだやかじゃないねぇ……」

 『そうですね……。とりあえず、凛の報告待ちですが……。最近各地でポケモンの大量発生や異常行動が見られて、今度はメテノですか……またしばらく休めそうにないですね……』

果南「13番水道もヒドイデが大量発生してるよ」

 『それもすでに他の方から、報告を受けていますよ』

果南「ついでに親玉らしき、ドヒドイデも見つけた」

 『親玉、ですか……』

果南「とりあえず、捕獲したから、フソウに付いたら引き渡すよ」

 『お願いします。……しかし、どうにも嫌な感じがします』

果南「……まあ、そうだなぁ」

 『……同時に起こっている各地の異変……何者かの差し金なのでしょうか……』

果南「現状じゃ何も言えないかなぁ……」

 『そうですね……。引き続き調査をお願いできますか?』

果南「はいはい、りょーかい。……まあ、私の目的はそこじゃないんだけど」

 『そういえば、捜索の真っ最中でしたね……もし、どこかで会うことがあったら──なんですか?』

果南「……? どうかしたの?」

 『……あ、すみません。凛からキャッチが入ったみたいです』

果南「さっきの報告かな」

 『だと思います……。話の続きは、またいずれ──』

果南「んー」


ツーツーと電話が切れた音が聴こえる。


曜「……果南ちゃん、誰と電話してたの?」

果南「ありゃ、曜……起きてたの? んーまあ、偉い人?」

曜「……何か、起きてるの?」

果南「ま、それを調査中って感じかな。その定期報告」

曜「……そっか」


ヒドイデたちの動きから感じた、妙な悪意のようなもの──それを感じているのは私だけじゃないらしい。

この地方で何かが起ころうとしている、もしくは起きている。


曜「…………」


私が仰ぐ夜空には静かに月が光っているのに……波の音のすぐ下では何やら謀略が渦巻いているのかと考えると、少しだけ複雑な気持ちになる。

私の大好きな、海で……。


曜「…………」


なんか嫌だな……。

そのとき、またフワリと、果南ちゃんが私の頭を撫でる。


果南「……ま、どうにかなるよ」

曜「果南ちゃん……」

果南「……きっと、どうにかなるから」
165: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:24:43.52 ID:oTWJbR4y0

無責任な言葉だけど、果南ちゃんが言うと不思議とどうにかなってしまう気もした。


曜「うん……」


──夜の漣を聴きながら、私たちはフソウタウンへ向かう。





    *    *    *





 『……民間のトレーナーを巻き込んだんですか?』

凛「えーと……まあ、そうなるにゃ……なります」

 『……まあ、いいでしょう』

凛「……え、いいの?」


電話口に向かって間の抜けた声が出る。


 『なんですか?』

凛「てっきり、お説教されるかと思ってたから……」

 『……まあ、褒められたことではありませんが、規模が規模でしたし……。結果どうにか収まったなら、必要以上に責任追及するのも頭の堅い考え方かなと思いまして』

凛「……海未ちゃん丸くなった?」

 『丸く……なったのでしょうか。まあ、無茶苦茶する人に囲まれすぎたのでしょうか……』

凛「苦労人だにゃ……」

 『……貴方もその一人ですからね?』


電話の先で溜息を吐く声が聞こえる。


 『とりあえず……情報をまとめると、音ノ木上空へのオンバーンの襲来が原因。結果、音ノ木を休息場にしていたメテノたちが地上及び流星山に落下すると言う事態が発生したということですね』

凛「うん」

 『原因となっていたオンバーンは現地に居合わせたトレーナー二人が撃退。……千歌さんと善子さんという名前だったでしょうか』

凛「うん、千歌ちゃんと……善子ちゃん?」

 『……ふむ』

凛「あとは落ちてきたメテノたちは全部捕獲出来た……と思う」

 『件の善子さんが捕まえた7匹……と凛が捕獲した19匹。26匹ですね。ただ、コメコの方からも報告があったのですが』

凛「え、そうなの?」

 『数匹、町周辺とコメコの森に落ちたそうです。町のメテノはジムの方で保護したそうですが、森に落ちたメテノは夜が明けてからでしょうね』

凛「そっか……」


思わずシュンとなる。……メテノ大丈夫かな。

166: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:26:37.65 ID:oTWJbR4y0

 『コメコの方で保護したメテノはポケモンセンターで治療した後、そちらに転送すると思いますので』

凛「了解にゃ」

 『……さて、オンバーンについてなんですが』

凛「……オトノキ地方にオンバットもオンバーンも生息してないよね」

 『せいぜい私は見たことがないですね……かなりの高高度を住処にしていると言う可能性もなくはないですが……』

凛「音ノ木の上の方から降りてきたってこと?」

 『まあ、可能性はゼロではない……くらいですね。どちらにしろ、音ノ木の上層部はあまり調査も進んでいなかったので、今度調査隊を派遣します』

凛「そのときは声掛けてね。ホシゾラからも人出すから」

 『助かります。なんせ人手不足ですからね……それに拍車を掛けるかのように各地でのポケモンの大量発生……猫の手も借りたい状況ですね。……む、またキャッチですね』

凛「大変そうだね……」

 『お互い様ですよ。それじゃ、何かあったらまた連絡してください』

凛「うん、了解」


通信を切って、一息吐く。


職員「所長、まだお休みには……」


職員が気遣って声を掛けてきたけど、


凛「んー……もう少しだけ。あとちょっと仕事したら仮眠取るから」

職員「分かりました。無理しないでくださいね」

凛「ありがと」


電話口でてんてこ舞いの旧知の友人と話した直後だったからか、休む気にはあまりなれなかった。


凛「……よし、もう少しだけ、頑張ろう」


凛は自分に喝を入れて、普段は滅多にやりたがらない事務仕事に取り掛かることにした。





    *    *    *





カタカタとキーボードを打ち鳴らしながら、本日の研究結果をまとめる。


鞠莉「これでよし……っと」


一通り、まとまった文章を軽く見直してから、わたしは伸びをする。


鞠莉「んー……」


さて、明日も早いし、そろそろ寝ようかしら……。


 「お嬢様」


そう思って机に背を向けたところに声を掛けられる。

オハラ家の仕様人だ。


鞠莉「……研究所では博士と呼びなさいって言ってるでしょ」
167: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:28:32.41 ID:oTWJbR4y0

──兼、研究所の手伝いをしてもらっている。


メイド「失礼しました。博士、お休みになられるのですか?」

鞠莉「ええ、そのつもりだけど……どうかしたの?」

メイド「いえ、その先ほど郵便受を見たら、手紙が入っていまして……」

鞠莉「Letter...? 朝昼はそんな報告なかったと思うけど……」

メイド「見落としていたのかもしれません……申し訳御座いません」


申し訳なさそうに頭を下げるメイド。


鞠莉「別に大丈夫よ」


手紙を受け取り、宛名を見る。


鞠莉「……カヅノ・聖良……?」

メイド「送り主に心当たりがないのですか? ……でしたら、代読いたしましょうか?」

鞠莉「んーいや……確か、どっかの学会でチラッと見たことがあったような……。とりあえず、中は自分で確認するから、下がって大丈夫よ。ありがとう」

メイド「かしこまりました」


仕様人を下げて、再び椅子に腰を降ろして、机の上のペーパーナイフで便箋の入った封筒を開ける。

内容に目を通す。


『拝啓
風が春から初夏の香りを運んでくるのを感じる季節。お健やかにお暮らしのことと存じます──』


鞠莉「……」


目が滑る……。ダイヤの書く手紙みたいね……。

とりあえず、上から流し読みしながら、要点をかいつまんでいく。


鞠莉「……まあ、要約すると同年代の研究者の一人として、会って話したいってとこかしら……」


そう呟きながら、学会で見かけた彼女のことをだんだんと思い出してくる。

少し前に新しくポケモンを研究するために調査団を作ったカリスマ女性研究員がいるという話が話題になっていた気がする。

その頃、丁度研究所を新設するためのごたごたで、わたしは余り情報が追えていなかったのだけれど……。

──まあ、光栄な話ではある。同年代と言うことなら、わたしも会って話してみたい気もするし……。
168: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 02:29:20.63 ID:oTWJbR4y0

鞠莉「……って、約束の日取り、明日じゃない……」


手紙の後付を確認すると、書かれたのは数週間前だと思われる。

ポストマンの手違いで届くのが遅れたのかしら……?


鞠莉「うーん……明日か……」


朝に花丸とルビィにポケモンを渡して……その後だったら大丈夫かしら。

まあ、どちらにしろ今から返事を書くのは無理そうだし……研究所に来てくれるということだから、どっちでもいいか。


鞠莉「とりあえず……」


私は研究室の長机に並んだ、二つのボールと図鑑を一瞥してから、


鞠莉「明日に備えて本当に寝た方がいいわね……」


手紙を机に置いて、就寝するために寝室へと足を向けるのだった。


170: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:23:27.11 ID:oTWJbR4y0
>>169
AAずれてた 訂正。


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラ天文台】【9番道路】【13番水道】【ウチウラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.  ● /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂●|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥●:  .||
  ||.      /.         ● .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.14 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:7匹


 主人公 善子
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.16 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.15 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.14 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:46匹 捕まえた数:22匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.13  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:36匹 捕まえた数:9匹

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 千歌と 善子と 曜と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



171: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:25:52.10 ID:oTWJbR4y0

■Chapter014 『来訪者』 【SIDE Ruby】





ダイヤ「ルビィ、準備は出来ましたか?」


玄関でお姉ちゃんが訊ねて来る。


ルビィ「だ、大丈夫……」


旅の荷物はちゃんとまとめたし、コランもボールの中で大人しくしている……きっと大丈夫。


ダイヤ「……花丸さんはアワシマに直接行くとのことでしたので、わたくしたちも向かいましょうか」

ルビィ「う、うん」


お姉ちゃんの後ろをちょこちょことついていきながら、アワシマ行きの船が出ている港に向かう。

──今日からポケモントレーナー──

そんなワードが頭の中に浮かんでは消えていく。

大丈夫かな……。


ダイヤ「ルビィ」

ルビィ「……へ? あ、なに、お姉ちゃん?」

ダイヤ「緊張してる?」


前を歩くお姉ちゃんが少しだけ歩みを遅めて、ルビィの顔を覗き込みながらそう聞いてくる。


ルビィ「ぅ……その……うん……」


ルビィは正直に頷いた。

正直、昨日からずっと不安で堪らない。


ダイヤ「……そう」

ルビィ「ルビィに出来るのかなって……」

ダイヤ「……最初は皆そう思うものよ。次第に自信もついてくると思うから」

ルビィ「ホントに……そうなのかな……」

ダイヤ「大丈夫……コランも一緒でしょう?」

ルビィ「それが一番心配なんだけど……」

ダイヤ「大丈夫よ、あの子やんちゃだけど、ルビィのことが嫌いなわけじゃないから」

ルビィ「ぅ、ぅゅ……」


コランは本当にいたずらっ子で……だけど、生まれたときからずっと一緒に居る。お姉ちゃんとは違った意味で姉妹のように育った子だから、

お姉ちゃんが言わんとしてることの意味はわかる気はする。

だけど、ルビィは本当にコランのトレーナーとしてちゃんとできるのかな……。


ダイヤ「……ほら、定期船が来てしまいますわ。急ぎましょう」

ルビィ「……ぁ、うん……」


不安からか、ますます遅くなっていた歩みをお姉ちゃんに急かされ、ルビィは研究所に向かいます。

……ポケモントレーナーになるために。
172: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:27:04.04 ID:oTWJbR4y0




    *    *    *





花丸「ルビィちゃん、おはよう」

ルビィ「花丸ちゃん……おはよう」


アワシマに着くと船着場には、花丸ちゃんがゴンベと一緒に待っていました。


花丸「ダイヤさん、おはようございます」

ダイヤ「おはようございます。花丸さん。ゴンベも、おはようございます」

 「ゴン…」


ゴンベはもそもそとおにぎりを食べながら、お姉ちゃんに返事をする。


ダイヤ「それでは二人とも、研究所に参りましょうか」

花丸「はい」

ルビィ「う、うん……」


お姉ちゃんが再び先導する形で前を歩き出す。

その後ろを花丸ちゃんと並んで、のろのろと歩き出す。


花丸「ルビィちゃん、大丈夫?」

ルビィ「あ、うん……ちょっと緊張してる、だけだよ」


花丸ちゃんがさっきのお姉ちゃんみたいに、心配そうに顔を覗き込んでくる。


花丸「そっか……」

ルビィ「ねえ、花丸ちゃん……」

花丸「ん、何?」

ルビィ「花丸ちゃんは緊張……してない?」

花丸「……緊張はしてるけど」

ルビィ「……けど?」

花丸「ちょっと、ワクワクもしてるかな……」

ルビィ「ワクワク……?」

花丸「物語の中の登場人物みたいに、マルも旅に出るのかなって思ったら少しだけ、ね」


花丸ちゃんはそうおどけた風に言う。


ルビィ「そっかぁ……」


ルビィもそんな風に思えればいいんだけどな……。

そんなことを話していると程なくして研究所が見えて来ました。





    *    *    *

173: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:28:25.70 ID:oTWJbR4y0



鞠莉「ルビィ、花丸。待ってたわ」


研究所に入ると、そんな言葉と共に鞠莉さんに出迎えられる。


ルビィ「き、今日はよろしくお願いします……」

花丸「お、お願いします……!!」


博士を前にして、改めて二人揃って緊張してしまう。

鞠莉さんはお姉ちゃんの幼馴染でもあるから、ルビィとは面識があるんだけど……。

こうして研究所を訪れたのは初めてで、鞠莉さんの研究所と言われるとなんだか身構えてしまう。


ダイヤ「ほら、二人とも、入口に立っていないで中に入ってください」

鞠莉「Yes. 奥の部屋までお願いできる?」

ルビィ「は、はい!」

花丸「ずら……」


鞠莉さんとお姉ちゃんに促されて、後ろをついていく。

言われるがままに奥の部屋へ通されると、


花丸「み、未来ずらぁ……」

ルビィ「う、うわぁ……」


見るからに研究所っぽい感じの、大きな装置が目に入る。


鞠莉「ふふ、それはポケモンの回復装置よ。ポケモンセンターに置いてるのと同じものね」

花丸「こ、こっちは転送装置ずら!?」

鞠莉「ええ、ボックス管理システムに繋がってるモノでポケモン転送が行えるわ」

花丸「み、未来ずらぁ……!!」

鞠莉「花丸はこの装置に興味があるの?」

花丸「あ、えっと……子供の頃から、そういう研究の本とかも読むことがあって……その、オハラ博士の──」

鞠莉「マリーでいいわよ。オハラ博士ってなんか堅苦しいし」

花丸「え、えっと……鞠莉さんの“どうぐ”についての論文もいくつか読ませてもらったずら……!! ……じゃなくて……もらいました。面白かったです!」

鞠莉「Really? そう言われるとなんだかこそばゆいわね」


花丸ちゃんがやや興奮気味に鞠莉さんと談笑している。


ダイヤ「花丸さんは勉強熱心ですからね」


そんな教え子の姿を見て、お姉ちゃんがクスクスと笑う。

……そのやり取りを見て、ルビィも少しは勉強とかしてくればよかったかなと、思ってしまう。


花丸「ミラクルシューターについての戦略研究とか、すごく興味深かったずら!」

鞠莉「Wao! そこに食いつくとは将来有望ね」


なんかすごい盛り上がってるし……。


ダイヤ「鞠莉さん、盛り上がるのはいいのですが、本題を忘れないでくださいね?」

鞠莉「Oh... そうだったネ」
174: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:30:34.55 ID:oTWJbR4y0

お姉ちゃんに言われて、鞠莉さんはツカツカと歩いて、ボールと板状のアイテムがそれぞれ2つずつ置いてある、長机に移動する。


鞠莉「さて、ルビィ、花丸」


鞠莉さんがそう切り出しながら、ルビィたちの方を振り返る。


鞠莉「あなたたちにはこれから最初のポケモンとポケモン図鑑を託すわ。初心者用のポケモン3匹──と言いたいところなんだけど、1匹は既に他の子が持って行っちゃったから、残りの2匹から選んでもらえる?」

ルビィ「は、はい」

花丸「ずら……!」


言われて二人しておずおずと机の前に進む


鞠莉「ボールのボタン、押してみて?」


言われるがまま、二人でそれぞれボールのボタンを押し込むと──

ゆっくりとモンスターボールが開き、

 「チャモ」
 「トル~」

ヒヨコのようなポケモンとカメのようなポケモンが飛び出した


鞠莉「ほのおタイプのアチャモと、くさタイプのナエトルよ」

ダイヤ「二人で相談して、どちらが欲しいか決めてください。……まあ、本当はみずタイプのケロマツもいるはずったのですが」

鞠莉「……」


事情はもう聞いてて納得してるけど、お姉ちゃんがそう言うと鞠莉さんはバツが悪いのか目を逸らす。


花丸「ルビィちゃんはどっちの子がいい?」

ルビィ「え、んっと……」

 「チャモ」
 「…zzz」


アチャモは見た目からして可愛いけど、ほのおタイプ……火はちょっと怖いかも。それにちょっと元気が良さそうでコランも居るルビィの手には余りそう……。

一方ナエトル。すごく大人しいポケモンみたいだ。というかむしろのんきすぎるくらいで、早速居眠りを始めている。くさタイプだから、ほのおよりは怖くないかな? ……あ、でも草で手切っちゃうかな?

ルビィがじーっと2匹を吟味していると、

 「チャモッ!!」

アチャモが“ひのこ”を吐き出した。


ルビィ「ピギィッ!?」


びっくりして、思わず後ろに下がる。


鞠莉「こら、アチャモ? びっくりさせちゃダメでしょ~? ごめんね、ちょっとやんちゃで」

ルビィ「い、いえ……」


やっぱりほのおポケモンは怖いかも……そう思って、今度はナエトルに視線を向ける。


ルビィ「え、えーっと……ナエトルさん……こんにちは、ルビィです」


しゃがみこんで声を掛けてみるが、

 「…zzz」

完全に寝ている。
175: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:33:45.80 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「……ナエトルさーん……」

 「…トル…?」


再び声を掛けてみたら、目を開けた──けど、

 「…zzz」

すぐにまた居眠りを始める。

全く相手にされていない。

どうしよう……どっちとも気があわないかも……。


ルビィ「は、花丸ちゃんはどっちがいい?」

花丸「ずら?」


ルビィじゃ決められそうにないから、花丸ちゃんに訊ねてみる。


花丸「んー……マルは大人しい子の方が好きだから、どっちかって言うならナエトルかなぁ……」

ルビィ「そっかぁ……」


じゃあ、ルビィは消去法でアチャモかなぁ……。

そう思ってアチャモに視線を向けると、


 「チャモッ!!」

ルビィ「ピギィ!?」


再びアチャモが口から“ひのこ”を散らす。

……どうしよう、こっちはこっちでダメそう。


鞠莉「まあ、ゆっくり決めてもいいから。これから旅を共にするパートナーだからネ」


そう言いながら鞠莉さんは机の上にあった板状のアイテムを手に取って、


鞠莉「先に図鑑……渡しておくわね」


そう言いながら、私に桃色の図鑑を、花丸ちゃんに黄色の図鑑を手渡してくる。


花丸「! こ、これが……ポケモン図鑑……!! 未来アイテムずらぁ~!!」

ルビィ「お姉ちゃんが使ってたやつとも、千歌ちゃんが持ってたやつとも形が違うね」


記憶の中でお姉ちゃんや千歌ちゃんたちが使ってたモノと形状が違うことに気付く。


鞠莉「ええ、わたしたちが貰った旧型はともかく、あなたたちに渡す3つのセットは千歌っちたちが持っていったものとは違う機種だからネ」

ルビィ「そうなんですか?」

鞠莉「千歌っちたちに渡したのは液晶が二つあるモデルね。イッシュ地方から取り寄せたものから橙色のものを千歌っちに、水色を曜に……そして、桜色を梨子って子に渡したわ。そしてあなたたちに今渡したものはホウエン地方から取り寄せたモデル。桃色、黄色、白色の3つで1セットよ」

花丸「共鳴音って言うのも鳴るんですか!?」

鞠莉「ええ、詳しいわね。3つのセットが近くに集まると音が鳴るわ。だから、ここにもう一個白色の図鑑があると音が鳴るわよ」

花丸「ずらぁ~!! 未来ずら~!!」

ルビィ「……それはそんなに未来感ないと思うけど……」


それはともかく……その白色の図鑑を持ってるのがケロマツを貰ったルビィたちと同じ図鑑の所有者。

旅をしてたら、会ったりするのかな……。そんなことを考えてたら、
176: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:35:47.18 ID:oTWJbR4y0

 「チャモッ!!」

ルビィ「ピギッ!?」


後ろからふくらはぎ辺りを軽く突かれる。


ルビィ「あ、アチャモ……? ビックリした……」

 「チャモ!!」

鞠莉「何、アチャモったら……ルビィが気に入ったの?」

ルビィ「気に入られたと言うか……たぶんからかわれてるんだと思います……。ルビィ、自分のメレシーにもよくからかわれるし……」


きっとそういう星の元に生まれた人なんだと思う。ますます自分がポケモントレーナーに向いてないんじゃないかと思ってしまう。


鞠莉「あら、イヤヨイヤヨモスキノウチって言うじゃない」

ダイヤ「それは言葉の意味が違います……」

鞠莉「好きな子をついイジめちゃうみたいな?」

ダイヤ「言い得て妙ですが、それも違うような……」


ルビィ、イジめられてるんだ……。

お姉ちゃんたちの会話を端で聴きながら、再びアチャモに目を配らせる。

 「チャモッ!」

アチャモは目が逢うと、また鳴き声をあげる。

やっぱりやんちゃな子みたいだ。

……でも、嫌われてはないのかな?

そんな風に思っていると、


メイド「博士、今宜しいですか?」

鞠莉「ん? どうしたの?」


いわゆるメイドさんの衣装をした人が鞠莉さんに話しかけてくる。


メイド「博士にお客様が……」

鞠莉「来客……? ……あ、あー、そうだった」

ダイヤ「何か約束があったのですか?」

鞠莉「まあ、ちょっと昨日急にね……」

メイド「一先ず、応接室にお通ししました。もし、宜しかったらなのですが、ダイヤ様も一緒にお越しいただけませんか?」

ダイヤ「わたくしもですか?」

鞠莉「先方にダイヤがここにいることも言ったの?」

メイド「いえ、お客様がお嬢様──失礼しました。博士とダイヤ様を訪ねてウチウラシティに来られたと仰られていたので……この後、ダイヤ様の元へも足を運ぶのだと思いまして」

ダイヤ「なるほど……たまたまわたくしが居合わせていたから」

メイド「はい、僭越ながら声を掛けさせて頂きました」

ダイヤ「その人はどのような人なのですか?」

鞠莉「若い女性の研究者よ。同じ若い研究者として、話がしたいってことで……確か進化の石とか宝石とか、そういう方向の研究家だった気がするけど」

ダイヤ「なるほど……それならわたくしも同席しますわ」

鞠莉「いいの?」

ダイヤ「あの子たちも、もう少しゆっくりポケモンを選びたいだろうし……」
177: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:38:29.51 ID:oTWJbR4y0

そう言いながらお姉ちゃんがルビィと花丸ちゃんの方に目を配らせてくる。


ルビィ「あ、うん……しばらく二人でどっちがどの子を貰うか相談してるね」

花丸「ルビィちゃん! この図鑑、どうやって使うかわかる!?」

ルビィ「あ、えっと……それはね」


花丸ちゃんは図鑑に夢中でそれどころじゃないから、もう少し時間も欲しいし……。


鞠莉「そう? そういうことなら……少し席を外すわね。ここ少しお願いできる?」

メイド「承知しました」


メイドさんが鞠莉さんの言葉に頭を下げる。


ダイヤ「それじゃ、二人とも余り騒ぎ過ぎないようにね」

ルビィ「はぁい」


そう残して、お姉ちゃんは鞠莉さんと来客対応に向かっていきました。





    *    *    *





応接室を訪れると、机を挟んで置かれている椅子のうち、ドアに一番近い席で彼女は待っていた。

わたしとダイヤが部屋に入ると、すぐに気付いてこちらを振り返り立ち上がる。


聖良「お初にお目に掛かります。オハラ・鞠莉博士。カヅノ・聖良と申します」


Ms.聖良は丁重に頭を下げて、挨拶をする。


鞠莉「初めましてMs.聖良。遅くなってごめんなさい」

聖良「いえ……こちらこそオハラ博士の返事も待たずに申し訳ありません」

鞠莉「Sorry. ちょっと手違いがあったみたいで、手紙を受け取ったのが昨日だったの……」

聖良「そうだったんですか……」

鞠莉「何はともあれ、同じポケモンを研究する学者の一人として、会えて光栄だわ」

聖良「そんな学者だなんて……私はまだ、博士のような地位や名誉を持っているわけではないので」

鞠莉「謙遜しないで? あなたの噂はここにも聴こえて来ているのよ」


社交辞令を交わしながら、失礼にならない範囲で彼女のことを観察する。

伸びた背筋に、キリっとした顔立ち

やや紫掛かった黒髪を左側頭部でサイドポニーにまとめている。

噂通りの真面目そうな女史であることがわかる。


鞠莉「調査団の設立おめでとう。わたしも同年代の研究者として、実績を挙げている人間がいるのは心強いわ」

聖良「オハラ博士も、研究所設立おめでとうございます。そのように言っていただけて光栄です」


二人でお互いを労いながら、握手をする。

そのとき、聖良はわたしの後ろにもう一人いることに気付き、
178: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:40:47.49 ID:oTWJbR4y0

聖良「もしかして……クロサワ・ダイヤさんですか?」


そう訊ねてくる。

一応ジムリーダーということで容姿くらいは予め調べが付いていたのかもしれない。


鞠莉「ええ、ダイヤにも用事があると仕様人に聞いたから……」

ダイヤ「話を聞いて、たまたまこの場に居合わせたので、わたくしも同席しようと思いまして……初めまして、カヅノ女史。クロサワ・ダイヤですわ。事後承諾みたいになってしまいましたが、ご一緒しても迷惑ではなかったでしょうか?」

聖良「いえ、とんでもないです……! むしろ、ありがたい」


彼女はやや面食らった様子ではあったが、本当にありがたそうに言う。

どうやら、ダイヤを通したのは良判断だったようだ。


鞠莉「とりあえず、立ち話も難だし、席に着きましょうか」


わたしは二人にそう促す。

机を挟んで奥の席にわたし、その隣にダイヤ、そしてわたしたちの向かいにMs.聖良と言う形でそれぞれ腰を落ち着ける。


鞠莉「今日は忙しい中、研究所までありがとう。島だからここまで来るの、大変じゃなかった?」

聖良「いえ、そんなことは……こちらこそ、不手際でアポがしっかり取れていなかったようで申し訳ないです」

ダイヤ「カヅノさん、そんなに気に病まれなくても大丈夫ですよ」

聖良「あ、私のことは聖良と呼んでいただければ」

ダイヤ「そうですか? では聖良さん。わたくしもダイヤと呼んでいただけると……」

鞠莉「わたしも鞠莉で大丈夫よ。オハラ博士はちょっと馴染みがないから……」

聖良「わかりました、鞠莉さん、ダイヤさん」


恭しく挨拶を交わして、ダイヤが話の続きを始める。


ダイヤ「不手際と言うのもきっと鞠莉さんが手紙を見落としていたと言うところでしょう。この人は自分の研究所を持っても、相変わらず机の上がごちゃごちゃで……」

鞠莉「ちょっとダイヤ! 手紙はポストマンの手違いで受け取るのが遅れただけよ!」

ダイヤ「机の上が汚いのは事実でしょう?」

鞠莉「む……いや、今は確かにばたばたしてて散らかってるけど……」

ダイヤ「ほら、みなさい」


痛いところをダイヤに指摘されて、少し膨れてしまう。

そんなやり取りを見てか、聖良さんがくすくすと笑っている。


鞠莉「もう! ダイヤが余計なこと言うから笑われちゃったじゃない!」

聖良「ふふ、すみません……お二人とも仲がよろしいんですね」

鞠莉「まあ、同郷の人間としていろいろ助けてもらってるけど……正直腐れ縁なんだけどね」

聖良「いいではないですか。私は同郷の友人と言うものには余り恵まれなかったので、羨ましいです」


その言葉を聞いて、ダイヤがやや神妙な顔をする。

それを見てか、聖良は、


聖良「ヒナギクシティの更に北の山間部の生まれで、あまりご近所付き合いというものがなかったので……」


そう答える。
179: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:42:56.96 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「そうなのですか……あの辺は気候も厳しいと聞き及んでいますわ。苦労なされたのですわね」

聖良「いえ……家族も居ましたので……。あ……すみません、身の上話をするつもりはなかったんですが」

鞠莉「ふふ、気にしないで。同年代同士気楽に行きましょう?」

聖良「ありがとうございます」


元気な子たちに囲まれていたせいか、こうして格式ばったやり取りは久しぶりな気がする。

とはいえ、一応ルビィと花丸を待たせている以上、必要以上にまったりと話しているわけにもいかないと思い本題に入ろうとすると、


ダイヤ「そういえば、聖良さんはどのような研究をされているのでしょうか? 一応、事前に石や宝石の研究をしている方と伺ったのですが……」


ダイヤが先に切り出した。

それを受けて聖良は、


聖良「厳密に言うなら……特定のポケモンに効果を現す道具の研究を行っています」


と、答える。


ダイヤ「それは進化の石のような?」

聖良「それもありますが……“でんきだま”や“ふといほね”と言った特定のポケモンを著しく強化するアイテムや──」


そのとき、彼女の目の色が少しだけ変わった気がした。


聖良「──伝説のポケモンに関わる道具についての研究をしています」

鞠莉「伝説のポケモンに関わる道具……」


わたしはそのワードを聞いて、少しだけ考えてから、


鞠莉「ジョウト地方の“とうめいなすず”や“うみなりのすず”。ホウエン地方の“べにいろのたま”や“あいいろのたま”。シンオウ地方の“こんごうだま”や“しらたま”のことかしら?」

聖良「……流石ですね、鞠莉さん。その通りです」

鞠莉「わたしも“どうぐ”の研究をしている以上、何度か触れることがあった議題だからね」

聖良「本日、こうして鞠莉さんを尋ねたのも、他でもない、それらの“どうぐ”についての博士の見解をお聴きしたいと思いまして……」

鞠莉「……と言うと?」

聖良「ピカチュウの持つ“でんきだま”や、カラカラ、ガラガラの持つ“ふといほね”はどういう仕組みでポケモンを強化していると御思いですか?」

鞠莉「……そうね。前者は群れの中でも特に強い力を持った個体が繁殖の過程の中で生み出したエネルギーの結晶体のようなものだと考えてるわ。後者はより強い子孫を残すために、より鍛え抜かれた武器を子供に引き継がせる過程で生まれた頑強な骨、と言ったところかしら」

聖良「はい。私も概ねそのように捉えています。つまりはそう言った世代を経て生まれたエネルギー体や、練度を持った武具に相当するアイテムが、ポケモンたちを強化している。それはポケモンたちが、自らの種族を繁栄させるために生み出した道具、ということになります」

鞠莉「……ふむ」

聖良「ですが、先ほど鞠莉さんに言っていただいたような、伝説のポケモンの道具はどうでしょう」

ダイヤ「? どうとは……?」


ダイヤも教職ゆえ博識ではあるが、専門の研究者ではないためか、表情に疑問を浮かべる。

わたしはなんとなく、話の意図を汲み取り、


鞠莉「……そういったアイテムと違って、世代交代をすることが確認されていない伝説のポケモンの道具は出自がわからないと……」


そう返した。


聖良「そういうことです。私はその原点を調べるために、調査団を立ち上げ研究をしているんです」

ダイヤ「なるほど……」

聖良「少し話が逸れてしまいましたね……博士はこれについて、どのようにお考えですか?」
180: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:47:58.21 ID:oTWJbR4y0

聖良さんに質問をぶつけられ、再び考える。


鞠莉「……いわゆる伝説のポケモンと言われるポケモンたちに関係のある道具と言っても、他地方に目を向けて見てみると結構な数があるわよね」

聖良「そうですね……ジョウトでは伝説のポケモンルギア、ホウオウに纏わる道具として、“にじいろのはね”、“ぎんいろのはね”、“とうめいなすず”、“うみなりのすず”」

ダイヤ「……確か、数年前にホウエン地方ではグラードン、カイオーガをマグマ団・アクア団と言う組織が復活させ、大災害を引き起こしたと言う話がありましたわね」

鞠莉「そのときにGroudon、Kyogreに対応した道具が“べにいろのたま”、“あいいろのたま”……だったわね」
       (*Groudon=グラードン、Kyogre=カイオーガの英名)

聖良「他にもシンオウ地方でギンガ団という組織がディアルガ、パルキアをその手で御しようとした事案もありました。そんな彼らには“こんごうだま”や“しらたま”と言った道具が対応しています」

鞠莉「……“にいいろのはね”、“ぎんいろのはね”は文字通りHo-ohやLugiaの朽ちることのない羽根だと思うわ。二つの鈴は人間側が二匹の心を癒やすため、コミュニケーションを取るために作ったものと考えているわ」
                                   (*Ho-ohn=ホウオウ、Lugia=ルギアの英名)

まあ、恐らく彼女が聞きたいのは羽やら鈴のことではないと思う。


鞠莉「わたしに見解を聞きたいって言うのは、珠ね……」

聖良「はい。聞いた話ではポケモンそのものを御したり、ポケモンの真の力を引き出す道具と言われています」

ダイヤ「……あの、それならその道具は元はそのポケモンの一部だったのではないでしょうか」

聖良「何らかの原因でポケモンが自分の体の一部だったソレを失って、結果としてパズルの最後のピースのように、ポケモンの真の姿を引き出す道具になった、と言うことですね。確かに……そう言う考えも出来ますが、説明出来ないことがあるんです」

ダイヤ「説明出来ないこと?」

鞠莉「……何故、その道具にポケモンを御する機能があるのか、ないし何故一匹しかいないと言われている伝説のポケモンたちが自分の真価を発揮する道具を手放してしまったのか……ね」

聖良「はい」


もし自分の一部位にそんな効果があるなら、普通は手放さないように細心の注意を払うとは思う。

仮に自分以外のものが持つことがあったとしても、自分の制御権を持つ部位と言うとほぼ脳とも言えるものだ。

簡単に切り離せると考えるのは些か不自然である。


ダイヤ「……確かに」

鞠莉「……考えられるとしたら、強すぎるポケモンの力を封じるために、人間が後から制御する機構を取り出した……か、もしくは作った?」


頭の中でそれぞれの珠を思い浮かべる。

──タマ?


鞠莉「......ball」

聖良「……!」

ダイヤ「……鞠莉さん?」

鞠莉「……もしかして、モンスターボール……?」

聖良「!! ……そうです!! やはり、鞠莉さんもその発想に至りますか!!」

ダイヤ「えっと……?」


聖良さんが興奮気味に同調する中、ダイヤは怪訝な顔をしている。


鞠莉「モンスターボールには大なり小なり、持ち主が誰かを認識させる力があるわ」


もちろんボールに入れて連れ歩くと言う過程でポケモンが“おや”を認識し、信頼すると言うことが大きいのだけれど。


鞠莉「実際、今のモンスターボールには他の“おや”が捕まえることが出来なくする機構もある。表現があまりよくないかもしれないけど、特定の人間がポケモンを所持・制御するための補助道具と言う面があるわ」

ダイヤ「……確かにそれを問題視したポケモン倫理団体が、脱モンスターボールを唱えたことがイッシュ地方でありましたが……プラズマ団でしたでしょうか」

聖良「まあ、その話自体は結果として、プラズマ団は解散。幹部達が今でも国際指名手配されているのが現状ですが……」

鞠莉「でも、モンスターボールに大なり小なりそういう影響があることは否定できない。……そして、もし伝説のポケモンの珠が同じような制御機構だとしたら……」

聖良「! そう! そうです!」
181: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:55:01.00 ID:oTWJbR4y0

聖良の考えが読めてきた、が、


ダイヤ「ち、ちょっと待ってください!」


ダイヤが割って入る。


ダイヤ「モンスターボールが出来てからまだ100年も経っていないのですよ!? しかも、あの発明は完全に偶発的なものだったと言われていますわ」


──モンスターボールの誕生は1925年、タマムシ大学にてニシノモリ教授が、研究中にオコリザルへの投薬量を誤り衰弱させてしまった際に、そのオコリザルが生存本能からか教授の老眼鏡ケースの中に小さくなって入り込んだことから、ポケモンは『衰弱時に縮小して狭いところに隠れる』と言う本能が判明する。

それを利用して、開発されたのがモンスターボールだ。

今ではカントー地方のシルフカンパニーやホウエン地方のデボンコーポレーション、カロス地方のクノエシティと言った場所で生産出荷。我らがオトノキ地方でもローズシティのボール会社から生産出荷をして流通している。


ダイヤ「伝説のポケモンの伝承は少なくとも数百年前……長いものは数千年前や紀元前からのものもあります。いくらなんでも、近代で開発された道具を引き合いに出すのは無理がありませんか?」


ダイヤらしい、優等生な意見だけど、


鞠莉「それは収納性や携帯性の話でしょ? モンスターボールに洗脳的な機能がある、なんて極端なこと言うつもりはないけど……ポケモンを制御する方法として、同じように道具で持って御そうとしたと言う説は否定できないわ」

ダイヤ「それは、まあ……そうですが」

聖良「真偽はともかく、もしそのような制御機構が人工物なんだとしたら、予めそういう機構や製造法を把握することによって、ホウエンやシンオウのような事変も、あそこまでの大きな被害を出す前に対処が取れたのではないかと私は思ったんです」

鞠莉「……そういうことね」


わたしだけでなく、ダイヤを尋ねてきた理由を図りかねてたが、やっと話が見えてきた。


鞠莉「……聖良はその秘密がここにあると睨んでる、と言うことかしら?」

ダイヤ「……え?」

聖良「……話が早くて助かります」


聖良さんはダイヤに向き直る。


聖良「ダイヤさん……クロサワの入江の調査をさせていただけないでしょうか」

ダイヤ「なっ……」

聖良「クロサワの一族が代々管理・保護してきた場所と言うのは重々承知しています。ですが、あそこからは貴重な鉱物や、何より特殊な宝石を纏ったメレシーが多く見つかっています。私は伝説のポケモンたちの宝珠のようなものを、人間が拵えたんだとしたら、そういう特殊な鉱物を発掘出来る神聖な場所から発祥したんじゃないかと思うんです」

ダイヤ「……」

聖良「科学の発展のために、調査を許可してもらえないでしょうか」


聖良さんは立ち上がり頭を下げる。

……だけど、ダイヤは、


ダイヤ「許可を取ろうとわたくしを尋ねて来てくださった手前、申し訳ないのですが……そのお話は承服致しかねます」


一蹴する。


ダイヤ「……地元の人間ならまだしも、外部の人間からの調査依頼はちょっと……」

聖良「…………。……そう、ですか……」


ダイヤに了承の意思がないとわかったのか、聖良さんが残念そうに顔をあげる。


ダイヤ「意に添えなくて申し訳ないですが、どちらにしろわたくし一人で決められることではなくなってしまうので……」
182: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:56:04.79 ID:oTWJbR4y0

……まあ、仕方ない。

地元のわたしでさえ、ある程度自由な出入りを許可してもらうまで、それなりの時間を要したのだ。

一朝一夕で外の人が入り込むことをダイヤが了解するはずがないし、仮にダイヤが了承したとしてもクロサワの家そのものを通すのにさらに時間もかかるだろう。


聖良「……不躾なお願い、失礼しました」

ダイヤ「いえ……」

鞠莉「……ある程度だったら、内部の調査はオハラ研究所でしているし、もし思い当たるサンプルが取れたら連絡するわ」

聖良「ありがとうございます……」


なんとなく、空気が重い。

まあ、交渉が決裂したわけだから、仕方ないか。

そんな沈黙を破ったのは──


──少し離れたところで派手に何かが壊れる音だった。


ダイヤ「!? な、なに!?」


驚いて声を上げるダイヤ。

わたしは咄嗟に立ち上がり、壁に掛けられている連絡用の受話器を取る。


鞠莉「セキュリティ? こちら応接室、何かあった?」

メイド『お、お嬢様、大変です!!』


受話器からは仕様人の焦った声。

その焦り様はわたしのことをお嬢様と呼んでしまっていることに全く気付いてないところからも伝わってくる。


鞠莉「落ち着いて報告して」

メイド『──け、研究所が、何者かに襲撃されていますっ!!』


──知らないところで事態が大きく急転していた。


183: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 12:56:31.72 ID:oTWJbR4y0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【オハラ研究所】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口



 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:1匹

 主人公 花丸
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:1匹


 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



184: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:17:17.25 ID:oTWJbR4y0

■Chapter015 『襲撃』 【SIDE Hanamaru】





時は鞠莉さんとダイヤさんが応接室に行ったあとくらいのこと、


 「チャモッ!」

ルビィ「いたたっ! アチャモ突かないでよ~!!」

花丸「ルビィちゃんのお肌はもちもちだから気に入られたのかもね」

ルビィ「嬉しくないよー!! いたっ!!」


アチャモはルビィちゃんのことがよほど気に入ったのか(突き心地がよかったのか)ずっと逃げ回るルビィちゃんを追い回している。

マルには目もくれないし……。


花丸「これはパートナー決定かな?」
 「…zzz」


横で寝てるナエトルがきっとマルのパートナー

マルと同じのんびり屋さんだし、気は合うと思う。


 「チャモォー!!」

ルビィ「アチャモ~! いい加減にして~!」

 「チャモ」

ルビィ「……あ、あれ?」


ルビィちゃんが叫ぶと先ほどとは打って変わってアチャモは足を止める。


ルビィ「も、もしかして……ルビィの言うこと聞いてくれた?」

 「…」


しかし、アチャモはルビィちゃんの方ではなく──天井を見上げていた。

 「チャモーー!!!」

次の瞬間アチャモは天井に向かって叫びながら、“ひのこ”を吐き出した。


ルビィ「え、アチャモ!?」


何も無い場所に向かっての攻撃──と思ったんだけど、

その場から何かが音も立てずに素早く動くのが見て取れた、


花丸「え!?」

ルビィ「な、なに!?」

メイド「何かいる……? キルリア!」


メイドさんがすぐさま手持ちを繰り出す。


メイド「お二人ともお下がりください!」


天井を見上げると、依然何かが飛び回っている。

早すぎて見えない。
185: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:18:25.02 ID:oTWJbR4y0

花丸「この狭い室内を羽音もなく、縦横無尽に飛び回ってる……そんなの4枚羽根のポケモンじゃないと不可能ずら。……そうなるとアメモース、ヤンヤンマ、メガヤンマ、クロバット……あの大きさだと、メガヤンマかクロバット……」

メイド「キルリア! “サイコショック”!!」


マルがそんなことをぶつぶつと呟きながら考えていると、メイドさんは既に攻撃態勢に入っていて、指示を受けたキルリアから発せられ、実体化した念波がそのポケモンに向かって飛び掛る。


 「“かげぶんしん”!!」


天井のポケモンの方から人の声がしたと思ったら、その高速の影はさらに数を増やし、“サイコショック”が透かされてしまう。


メイド「っく!!」

 「ほっといてくれれば、見逃したのに」


そんな声と共に影の一つから、人影が飛び降りてくる。

──二つボールを放ちながら、


 「ゴォーリ!!!」


巨大な氷の顔面がボールから飛び出す。


花丸「お、オニゴーリずら!!」


そんなマルの叫びは全く間に合わず、


 「オニゴーリ!! “かみくだく”!!」
  「ゴォーリ!!!」


キルリアに襲い掛かる。


 「キルゥ!?」

メイド「キルリア!?」


大きな顎が噛み付いたあと、オニゴーリはその丸い体躯を回転させながら、キルリアを壁に向かって放る。

研究所の机ごと、その上にある書類やら書物を吹き飛ばしなら、キルリアが壁に叩き付けられた。


 「キルゥ…」

メイド「くっ……!!」


メイドさんが次のボールを構える。

が次の瞬間、


 「動くな」


背後から鋭い声がした。


ルビィ「え、え!?」

 「コイツの首が飛ぶわよ」

花丸「る、ルビィちゃん!!?」
186: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:19:39.39 ID:oTWJbR4y0

気付いたら背後には上から飛び降りてきた声の主の姿。

全身を真っ黒な服で包み、口にまで布を当てている。

まるで訓練を受けた、特殊部隊の人間のような出立ちだった。

声から察するに若い女の子だということはわかったけど……。

それどころじゃない、


 「マニュ…」


ルビィちゃんの首筋にはマニューラの鋭い鉤爪が充てられていた。


メイド「その方を離しなさい!!」


メイドさんが叫ぶ。この場を主人から預かった使命感からか、強い殺気さえ感じさせる剣幕。


謎の女「……動くなって言ったんだけど」

 「ゴォォーリ」


その女性が一声あげると


メイド「……!?」


メイドさんの手足が凍り付いていた。


メイド「い、いつの間に……!!」

謎の女「モブに用はない」
 「ゴォォーリ」


その台詞と共にメイドさんの体がどんどん凍り付いていく。


花丸「メイドさん!?」


マルが声をあげると、


謎の女「言ってる言葉の意味、わかんないの?」

花丸「!!」


今度はマルに向かって視線が飛んでくる。


ルビィ「は、花丸ちゃ……っ」

花丸「……っ」


ルビィちゃんはすでに恐怖でぽろぽろ涙を流しながら、オラの名前を呼ぶ。

──だけど、

足が動かない。

蛇に睨まれた蛙のように。


謎の女「…………」


目の前の黒尽くめの女の子は、マルとルビィちゃんを何度か交互に目を配らせたあと、


謎の女「……こっちか」
187: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:21:14.92 ID:oTWJbR4y0

そう言ってから、ルビィちゃんを小脇に抱えた。


ルビィ「ピギィッ!?」


同じくらいの体格──いや、ルビィちゃんよりも小さいかもしれないのに、ルビィちゃんを小脇に抱えて、


謎の女「クロバット」
 「クロバ」


天井のポケモンを呼び寄せる。

すぐにその背中に紫の4本の羽根が生えて、クロバットに背中を掴まれた状態で飛び立つ──


花丸「だ、ダメ!! ゴンベ!! “なげつける”!!」
 「ゴンッ!!」


ずっと研究所の端でご飯を食べていたゴンベに指示を出す。

咄嗟の指示を受けて、ゴンベが近くの分厚い本を投げつける。

──だけど、


 「ゴォォォーリ」


オニゴーリの凍った体から突出するように突き出た氷塊によって、投げつけた本が弾き返され、

──バサリ、と近くに置いてあった機械に当たってから虚しく床に落ちる。


謎の女「……無駄な抵抗ね」


冷たい言葉──


 「そうでもないロト」


──に返事をするかのように、本がぶつかった機械の方から声がした。


ルビィ「ピギッ!?」

謎の女「!? な、何……? ……電子レンジ?」

 「ロト」

謎の女「!?」

 「“オーバーヒート”ロトーー!!!!」


──部屋の隅の電子レンジが突然その蓋を開いて、熱波を噴出した──いや、あれは、


花丸「ヒートロトムずら!!」


電子レンジに乗り移ったロトムが、電子レンジに搭載されている合成音声で喋りながら、攻撃している。


 「ゴォォォーリ…!!」


激しい熱波がオニゴーリの体表の氷を溶かしていく。


謎の女「この研究所は……珍妙なのがいるのね」

 「ロトトトト!!!!!」

謎の女「マニューラ! “つららおとし”!」

 「マニュ!!!」
188: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:22:50.94 ID:oTWJbR4y0

今度はロトムに向かって、攻撃を放つ。

氷のエネルギーがロトムの頭上に飛んで行ったかと思うと、次の瞬間には大きなつららが出来上がり、ロトムに襲い掛かる。


 「ロトトトトトト!!!!!!」


続け様に熱波を発する、ロトムの頭上でつららが蒸発するが、


 「ロトトトトトト…!???」


精製され続け、振り続けるつららは次第に勢いを増し、融解が間に合わなくなり始める。

──いや、


花丸「“オーバーヒート”は繰り返し使ったら威力が下がっちゃうよっ!!」

 「そ、そうだったロトー!!!」


パタパタとレンジの蓋を開け閉めし、


 「ロトムに出来るのはここまで、ロト…」


そう呟いた。


ルビィ「ロトム!! 逃げてっ!!」

謎の女「終わりね」

 「ナムサン…」


ロトムが最後の言葉を残したそのとき──


 「No problem!! 十分よ! ロトム!!」


聞き覚えのある博士の声が響いた、


鞠莉「スターブライト号!! “ほのおのうず”!!」
 「ブルル、ヒヒィーン!!!」


研究所の大扉を蹴破る形で飛び込んできた、ギャロップが、

──ゴォと、ロトムの周りを“ほのおのうず”が包み込み、


謎の女「!!」


頭上のつららを蒸発させる。


 「マ、マリー!!!」

鞠莉「ロトム、よく堪えたわね! お手柄よ!」

謎の女「っち……」


謎の女性は、舌打ちする。


謎の女「マニューラ、迎撃──」

ダイヤ「──など、許すと思いますか?」


今度はダイヤさんの声が鋭く響く。
189: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:24:48.88 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「ジャローダ! “へびにらみ”」
 「ローダ…」

 「マニュ!!!?」


“へびにらみ”──睨んだ相手をまひさせる技だ。


ルビィ「お姉ちゃん……っ!!」

ダイヤ「ルビィ! 今助けますわ!」

謎の女「……くっ」


謎の女はまひしたマニューラを素早くボールに戻し、クロバットの肩に乗せたまま、後ずさっていく。


鞠莉「そっちは壁よ……チェックメイトね」

ダイヤ「観念していただけますか?」

謎の女「…………」


ダイヤさんのジャローダと鞠莉さんのギャロップがじりじりと謎の女に近付く。

──そのとき、

聖良「み、皆さんっ!!」


聞きなれない人の声が響いた。

──なんとなく、だけど、その瞬間、謎のトレーナーが、


謎の女「……ふ、あははは……っ!!」


突然笑い出した。


鞠莉「何、追い詰められておかしくなった──?」

聖良「そ、外に──」

ダイヤ「外──?」


──次の瞬間。

謎の女性が背にしていた、壁が、

刳り貫かれる形で、

引き剥がされた。

外に待機していた、大型のクマのようなポケモンによって。


鞠莉・ダイヤ・花丸「「「!?」」」

謎の女「リングマ!! “じならし”!!」
 「グルゥォォオオ!!!!」

ルビィ「ピ、ピギィ!?」


大きな揺れが巻き起こり、一瞬怯んだジャローダが視線を外してしまう。


ダイヤ「──し、しまっ──!? 予め外に手持ちを!?」



謎の女性はその刳り貫かれた壁から、真後ろに飛ぶように外に飛び出す。


ルビィ「あ、あわわっ!!?」
190: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:27:31.26 ID:oTWJbR4y0

彼女はリングマたちを素早くボールに戻しながら、ルビィちゃんを抱えて。


花丸「ルビィちゃん!!」


マルは叫ぶ。

飛行体勢に入って飛び立とうとするクロバットとそのトレーナーに向かって、


鞠莉「に、逃がしちゃだめ!! スターブライト号!!」
 「ヒヒィーン!!!!」


鞠莉さんがすぐに次の攻撃態勢に入るが、“じならし”の影響で足を取られてうまく進めない。

全員がルビィちゃんをその視界に捉えたまま、

今まさに目の前で連れ去られようとしている、その瞬間、

──小さくて身軽な影がルビィちゃんに向かって走り出していた。


 「チャモォーー!!!」

ルビィ「ア、アチャモ!?」


鳴き声を上げながら、アチャモがルビィちゃんの足元に飛びついた。

もうそのときには、ルビィちゃんの身体は完全に中空に居て、


ルビィ「だ、ダメ、アチャモ!!? 来ちゃダメだよぉっ!!」
 「チャモォーーー!!!」


ルビィちゃんの脚に器用に組み付いて、


謎の女「余計なのがいるけど……ま、いい。クロバット!」
 「クロバットッッ!!!」


そのまま、飛び立つ体勢を整えたクロバットが翼を広げる。


鞠莉「ま、待ちなさいっ!!」

ダイヤ「ジャローダ!! “グラスミキサー”!!」
 「ロローダ!!!!」


クロバットを追うように、ジャローダの尾から巻き起こる草の旋風も虚しく、

それを無視するかのように風を切って、

 「クロバッ!!!!」

クロバットは猛スピードでその場を飛び立ってしまった。


花丸「ず、ずら……」


マルは思わずペタンと尻餅をついてしまう。

──この短い間にとてつもないことが起こった。

……ルビィちゃんが連れ去られてしまった。


メイド「申し訳……御座いません……お嬢様……」


そんな頭を現実に引き戻したのは、先ほどオニゴーリから直接攻撃を受けた、メイドさんの声だった

声の方に目をやると、メイドさんはいつの間にか首の辺りまで厚い氷で覆われていた。


鞠莉「!! じっとしてて、今溶かすから……!! スターブライト号、お願い」
 「ヒヒン…」
191: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:28:50.89 ID:oTWJbR4y0

ギャロップが特性“ほのおのからだ”でメイドさんの氷を少しずつ溶かす。


鞠莉「スターブライト号……ゆっくり、ゆっくり溶かすのよ?」
 「ブルル…」


改めて研究所を見回すと、それはそれは酷い有様でした。

室内には物が散乱し、戦闘不能のキルリアと、氷漬けのメイドさん。

それを溶かす鞠莉さんのギャロップ──スターブライト号という名前みたいです──

研究所の壁には大きな穴が空き、そこからは皮肉にも陽気な太陽の日が差し込んでいる。


ダイヤ「っく……」


ダイヤさんが唇を噛みながら、その壁に出来た大穴のところへと足を運ぶ。


ダイヤ「ルビィ……どうして、こんなことに……」

鞠莉「ダイヤ……」

聖良「……あの、皆さん、今しがた警察に通報しました。すぐに来てくれるそうです……」

鞠莉「Oh...Thank you...聖良さん」

聖良「い、いえ……その……何か私にお手伝い出来ることは……」

ダイヤ「……結構ですわ」


──ユラリと、怒気を感じさせるダイヤさんの声。


鞠莉「ダイヤ……?」

ダイヤ「ルビィは……わたくしが取り返してきます……」


ダイヤさんはそのまま、壁の大穴から、外に歩き出す。


鞠莉「ち、ちょっと、ダイヤっ!! 落ち着いて!!」

ダイヤ「これが、落ち着いていられますかっ!!?」

鞠莉「ルビィが連れ去られた先もわかってないでしょ!?」

ダイヤ「…………」

鞠莉「気持ちはわかるけれど……一旦Cool down...」

ダイヤ「……ごめんなさい。確かにその通りですわね……今ここで騒いでも、事態は解決しませんわね……」

花丸「……せめて、ルビィちゃんの居場所がわかれば……」

 「わかるロト」

花丸「え?」


気付くと、図鑑モードになったロトムがふよふよとこっちに近付いてきていた。


鞠莉「わかるって……?」

 「ルビイちゃんは図鑑を持っていたはずロト」

花丸「ずら?」

鞠莉「……あ、それなら」

ダイヤ「追尾が……!!」


ダイヤさんは咄嗟に上着のポケットから真っ赤な図鑑を取り出した。
192: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:29:52.35 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「追尾……追尾……」

鞠莉「ダイヤ、落ち着いて……あなたの図鑑は旧式だから、ルビィの図鑑を追尾する機能はないわ……」

ダイヤ「…………そう」


ダイヤさんは相当うろたえていた。

こんなダイヤさん見たことないってくらいに。

──そりゃそうだよね、目の前で実の妹が攫われたんだから……。


鞠莉「花丸、ちょっと図鑑貸して貰っていい?」

花丸「ずら!? は、はい!!」


言われて図鑑を差し出すと、鞠莉さんがポチポチと操作を始める。

ルビィちゃんの図鑑の行き先をサーチしているんだろう……。


花丸「ルビィちゃん……」


ルビィちゃん……無事で居て……。

そう祈りながら、結果を待つ。

程なくして、


鞠莉「──結果、出たわ……!!」


鞠莉さんの声にオラとダイヤさんが画面を覗き込むと、


鞠莉「Oh...」

花丸「ここって……」

ダイヤ「……またですか」


そのマップに表示されたルビィちゃんの居場所を確認して、マルたちは思わず顔を見合わせる──。





    *    *    *





視界には太陽の光を反射している海面が凄い勢いで流れていく。

そんな中、宙ぶらりんのルビィの足元では、


 「チャモォーーー!!! チャモォォォーーー!!!」


アチャモが声を上げて、しがみついている。


ルビィ「ア、アチャモっ!! 大人しくして!!」

謎の女「……そのアチャモうるさいんだけど、ボールにしまってくれない?」

ルビィ「ぴぎっ!?」


上空で小脇に抱えられながら、冷たい声でそう言われる。
193: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:31:26.50 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「い、いやっその、ル、ルビィこの子のボール、も、持ってない……っ」

謎の女「別に落としてもいいのよ?」

ルビィ「ダ、ダメ!!」


研究所を飛び出したクロバットはとてつもないスピードで飛行し、すでにアワシマを抜け、海上を移動している。


ルビィ「ほのおタイプのポケモンなんだよ!? 海になんか放り出したら死んじゃうよっ!!」


そう叫ぶ。


謎の女「じゃあ、静かにさせて」

 「チャモォーーー!!!」

ルビィ「アチャモ……!!」


足に必死にしがみついているアチャモにどうにか手を伸ばして、

 「チャモッ?」

胸に抱きかかえる。


ルビィ「お願い……大人しくして……ね……」
 「…チャモ」

ルビィ「……ありがとぅ」


全力でお願いしたら、アチャモは先ほどまでの様子からは信じられないくらい、スンと大人しくなる。


謎の女「……やれば出来るじゃない」


そんな声が上から降ってきて、思わずルビィはそっちの方に視線を向ける。


ルビィ「……な、なにが……も、目的ですか……っ……」

謎の女「そんな震える声ですごまれても怖くないんだけど」

ルビィ「……ル、ルビィのこと、さ、攫っても……い、いい、いいことなんか、ないです……よ……っ!」

謎の女「それはあんたが決めることじゃない」


必死に抵抗の声をあげたけど、振り絞った勇気も虚しく一蹴される。

海上まで連れて来られてしまった以上、どちらにしろ逃げ場はないから、落ちるか連れ去られるかしかもうないんだけど……。

高速で飛翔するクロバット、その進行方向に洞窟ようなものが見えてくる。


ルビィ「え」


ちょっと、待って……あの場所って……。


ルビィ「クロサワの入江……?」





    *    *    *




図鑑に表示されたマップはクロサワの入江に妹が──ルビィがいることを示していた。

場所がわかれば次の行動は早い。
194: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:32:29.46 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「今すぐ、入江に向かって発ちますわ。鞠莉さん、花丸さんのことお願いできますか?」

鞠莉「わかった」


鞠莉さんは、今研究所から離れるわけにもいかないだろう。

そう思い、花丸さんを任せようと思った矢先、


花丸「ま、待ってダイヤさん!!」


花丸さんがわたくしと鞠莉さんに割って入る。


ダイヤ「……花丸さん?」

花丸「マルも連れてって!」

ダイヤ「……ダメです。……危険ですわ」


わたくしは花丸さんにそう伝えましたが、


花丸「そんな危険な場所に連れ去られたルビィちゃんはもっと怖い思いしてるずら……っ!!」


花丸さんは目にいっぱいの涙を溜めて、そう主張する。


ダイヤ「花丸さん……」

花丸「オラ、怖くて動けなかった……ルビィちゃんが泣いてたのに……オラに出来ることなんにもないかもしれない……だけど、だけど、ルビィちゃんのこと考えたら……待ってるだけなんて……っ……」

ダイヤ「…………」


目の前で、ずっと一緒に居た親友を連れ去られたのです。

今、彼女の中では猛烈な後悔が押し寄せて来ているのかもしれません。


ダイヤ「……すぐに仕度しなさい」

花丸「ダイヤさん……」

ダイヤ「ただし、勝手にわたくしの傍を離れないたりしないこと。約束できますか?」

花丸「はいっ」

ダイヤ「……そういうことですので、鞠莉さん」

鞠莉「OK. こっちは任せて……ってわたしの研究所だけど。何かあったらポケギアに連絡してネ」

ダイヤ「わかりましたわ」


そんなやり取りの中、

 「ナェー」

気の抜ける声が足元からする。


花丸「ずら……ナエトル?」
 「ナェー」

花丸「一緒に来るずら?」
 「ナェー」


花丸さんがナエトルを抱きかかえて訊ねるとナエトルはまた気の抜けそうな声をあげる。


鞠莉「アチャモのことが心配なのかもね。研究所でずっと一緒に遊んでたわけだから」

花丸「そっか……! じゃあ、一緒に行こう」
 「ナェー」
195: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:32:56.49 ID:oTWJbR4y0

ナエトルは依然気の抜ける返事をしながら、コクンと頷いた。

花丸さんはモンスターボールにナエトルを戻して、


花丸「ゴンベも」
 「ゴン」


二つのボールを腰に携える。


ダイヤ「準備はよろしいですか?」

花丸「はいっ!!」

ダイヤ「では、行きましょう!」


わたくしたちは研究所を飛び出しました。


花丸「──ルビィちゃん……待っててね」


196: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 15:33:26.56 ID:oTWJbR4y0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロサワの入江】【アワシマ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./             ●回/         ||
 口=================口


 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.5 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:2匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.5 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:2匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



197: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:28:15.74 ID:oTWJbR4y0

■Chapter016 『クロサワの祠』 【SIDE Ruby】





謎の女「クロバット、ここで降ろして」
 「クロバッ」


研究所から連れ去られて僅か数分。

見慣れた場所です。

ここはクロサワの入江の内部……。


謎の女「さて……」


ルビィのことを小脇に抱えていたトレーナーは、突然ルビィをパッと放す。


ルビィ「え!?」


咄嗟のことに反応出来ず、ルビィは地面に身体を打つ。


ルビィ「ぴぎぃ!? い、痛い……あ、アチャモ? 大丈夫?」


岩肌がむき出しになった地面に落とされて、痛かったけど……胸に抱えたアチャモが押しつぶされてないか心配になって声を掛ける。

 「チャモ」

……よかった、元気そう。


謎の女「さっさと立ってくれない?」


頭上から声が降ってくる。


ルビィ「……」


ほぼうつ伏せになるように落とされたルビィは、どうにか転がってお尻を付く形で地面に座り、アチャモを抱き寄せて、座ったまま後ずさる。


謎の女「どっちにしろ、もう逃げ場とかないから」

ルビィ「……な、何が……目的なの……?」


クロバットをボールに戻しながら、ルビィたちを見下ろすトレーナーさんを見ながら、声を絞り出すように訊ねる。


謎の女「祠に案内しなさい」

ルビィ「!」


──祠。その言葉に一瞬反応してしまう。


謎の女「その反応……やっぱり、ここには祠があるのね」

ルビィ「!? な、ない!! 祠とかないよ!!」


カマを掛けられたと気付いたときにはもう遅くて、


謎の女「私、あんまり気長い方じゃないから、さっさと教えた方が身の為よ」

ルビィ「ぴぎ……っ……」


布で覆われて目しか出ていないけど、その鋭い眼光で睨みつけられ、身体が強張る。

──でも、
198: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:33:27.82 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「ほ、祠なんて……知らない、です……っ」


ルビィはそう答える。


謎の女「あくまでシラを切るつもり?」

ルビィ「だ、だって……知らないものは……知らない……です……」

謎の女「ふーん……」


トレーナーさんはルビィに冷たい視線を送りながら、腰からボールを放る。

 「グォゥ…」

ボールからはさっき研究所の壁を引っぺがした大きな体躯のクマのようなポケモン──リングマが飛び出す。


ルビィ「ピ、ピギィ!?」

謎の女「リングマ、こいつ持って」
 「グルゥ…」

ルビィ「ピ、ピギィーー!?」


今度はリングマさんにヒョイとつまみ上げられ、再び宙ぶらりんになる。


ルビィ「は、放してー……!!」

謎の女「とりあえず、このまま練り歩いてみて、あんたの反応を見ることにするわ。どうやら、顔に出るタイプみたいだし」

ルビィ「ぅゅ……っ」


そう言って、トレーナーさんが先導する形で歩き出すと、リングマさんもそのままルビィを掴んだまま、のしのしと歩き出す。


謎の女「……しかし、本当にメレシーだらけね」

ルビィ「……ぅゅ」

謎の女「色とりどり……普通のメレシーとは違う。まさにメレシーの楽園……」

ルビィ「……」


口は噤んだまま、ルビィもなんとなく周囲を見回す。

子供の頃から何度となく訪れたことのある入江の中は今日も七色の光に包まれて……。

七色の光が……あれ?


ルビィ「……なんか、足りない……?」


強い違和感を覚え、思わず声が漏れてしまう。


謎の女「足りない? 何が?」

ルビィ「……!? な、なにも言ってないです!」


うゅ……ルビィどうしてこう余計な事言っちゃうんだろう……


謎の女「……リングマ」

 「グォゥ!!」


トレーナーさんが合図をすると、リングマさんがルビィを掴んだまま腕を上下左右に振るう。


ルビィ「ぴぎぃぃぃぃ!? や、やめてぇぇぇぇぇ!!?」
 「チャモォー!!?」
199: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:37:40.99 ID:oTWJbR4y0

そのまま振り回される。抱きかかえたアチャモもろとも。

しばらく、振り回された後、


謎の女「リングマ、ストップ」


トレーナーさんの声で止まる。


謎の女「やめて欲しいなら話しなさい」


トレーナーさんはそう言うけど、


ルビィ「い、いや……です……」


ルビィは拒否します。


謎の女「……あんた自分の置かれてる状況わかってるの?」

ルビィ「……」

謎の女「……思ったより強情じゃない」

ルビィ「……こ、ここは……っ」

謎の女「?」

ルビィ「……ここは、大切な場所……なんです……っ……顔も見せない、自分の名前も、名乗ってくれないような人に……教えることなんて……ない、です……っ」

謎の女「…………」


精一杯睨みつけながら──ちゃんと睨めてたのか自信はないけど──ルビィはそう答えます。


謎の女「……一番弱そうだから、選んだけど……それでも良家の人間ってことね」


そういうと、トレーナーさんが突然顔や頭を覆う布を取り、素顔を晒す。

整った顔立ちに、赤みがかった紫色の髪をツインテールに縛っていた。

晒された素顔はまだ幼さを残していて、ルビィと同年代……うぅん、もしかしたら年下かも? と思ってしまうくらい。

こんな状況じゃなかったら、普段周りから子供っぽいと言われるルビィは親近感を覚えたかもしれません。


謎の女「これで信用できる?」

ルビィ「……か、顔見せられただけじゃ、信用出来ないよ……」

謎の女「……理亞」

ルビィ「……え?」

理亞「名前。理亞」


ルビィから信用を得るために名乗った、ってことかな……?


ルビィ「それ……」

理亞「?」

ルビィ「ホントの名前なの……?」


この状況で本名を出す理由がない。恐らく偽名のはず。


理亞「……あ」


──と、思った矢先、理亞(偽名?)さんは短く声をあげて、しまったと言わんばかりな顔をした。
200: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:38:59.95 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「え」

理亞「ぎ、偽名よ……あ、いや……」

ルビィ「……」

理亞「……」

ルビィ「……くす」


この誘拐犯さん、思ったよりお間抜けさんなのかもしれないと思ったら、笑いが漏れてしまった。


理亞「……何笑ってんのよ」

ルビィ「ぴぎっ!? ご、ごめんなさい……!」


不機嫌そうな声に思わず謝ってしまう。


理亞「……あ、あんたが好きに判断すればいいじゃない……」


そう言ってプイっと顔を背けて、歩き出す。

その後ろをルビィを摘んだままのリングマがのっしのっしと付いていく。


理亞「……で?」

ルビィ「え?」

理亞「何が足りないのよ」

ルビィ「……」

理亞「あんたさっき私が名乗ったら喋るって言ったじゃない」

ルビィ「……言ってないけど」

理亞「……」


理亞さんはルビィの返答を聞いて、少し考えたあと、


理亞「…………」


バツが悪そうに再び顔を逸らす。

また、自分が勘違いしていたことに気付いたみたいです。

……うーん……やってることの割にちょっと可愛い性格なのかも……?

いや……とはいっても、現にルビィは攫われてるし……。


ルビィ「あの……理亞さん」

理亞「……何?」

ルビィ「……理亞さんはどうしてルビィをここに連れてきたんですか……?」

理亞「……はぁ? 祠を案内させるためって言ったでしょ?」

ルビィ「……ほ、祠なんてないですよ?」

理亞「そんなわけないでしょ」

ルビィ「……」


とにかくここにある祠に用があることはわかる。


ルビィ「……じゃあ、仮に祠があったとして……どうするつもりなの?」

理亞「それは……」
201: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:41:08.32 ID:oTWJbR4y0

──祠。

このトレーナーさん──理亞さんが探してるのは祠。

だけど、祠を見つけたとして出来ることなんてお祈りするくらいしかないんじゃないかな?

……あ、泥棒さんなのかな……。

いくらかやり取りしていて、少しだけ余裕が出てきたのか、さっきよりも冷静にいろんな考えが頭の中を回っている。

そもそも、気が長くないなどといいながら、結局のところルビィは傷一つ負っていない。ホントに悪い人ならもっと強引に脅して来そうなものだけど……。

……ちょっと振り回されて気持ち悪いくらいはあるかな……。


理亞「……あんたに言う必要はない」

ルビィ「……」


でもやっぱり、仲良くは出来なさそうです……。

リングマに摘み上げられたまま、ノシノシと洞窟を奥へと運ばれていく。

──そのとき、

カタカタカタカタ──と、ルビィの腰についている真っ白なボールが震えだした。


ルビィ「え!? コラン!?」


真っ白なボール──コランの入っているプレミアボールだ。

ルビィの次の言葉を待たずして、コランがボールから勝手に飛び出す。


 「ピィー!! ピピィー!!」

ルビィ「ち、ちょっとコランーっ」

理亞「……」


理亞さんが怪訝な顔をしている。


ルビィ「え、えっと、ごめんなさいっ」


反射で思わず謝ってしまう。


ルビィ「この子やんちゃで……!! 今大人しく……」
 「ピィー!!! ピピピピィーー!!!」


大きな声で鳴き声をあげるコラン。

生まれたときから一緒のこの子が出す鳴き声だから、わかる。

これは……。


ルビィ「威嚇してる……」

理亞「威嚇? 私を?」


敵を威嚇する鳴き声、周りの仲間たちに外敵がいることを知らせる鳴き声、

外敵? 誰? 理亞さん?

コランの視線を追うと、理亞さんは完全に無視している。

そのもっと奥、洞穴のもっともっと奥に向かって、激しく鳴いている。


ルビィ「…………」


目を凝らすと──闇の奥に、溶けるようにそいつは居た。
202: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:42:54.23 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「……!」


闇の中に浮かぶ宝石のような硬い質感の目玉、闇色の体色をカクカクと不気味に動かしている、子供の頃から教えられてきた、メレシーの天敵──


ルビィ「……ヤミラミ……!!」

理亞「ヤミラミ……なんでこんなところに」


理亞さんもルビィの言葉で気付いたのか、闇に溶けるヤミラミに視線を送る。

そんなルビィたちを端に、外敵を排除したい一心なのか、

 「ピピィーー!!!」

コランが飛び出した。


ルビィ「!? ま、待って!! コラン!!」


有無を言わさずにコランが突進をお見舞いするが、

 「ピ、ピピィ!?」

その体はヤミラミをすり抜ける。


ルビィ「“たいあたり”はヤミラミには当たらないよぉ!!」

 「ヤミィ」


ヤミラミはすり抜けたコランを振り向き様に爪を引っ掛けるように腕を振るう、


 「ピィ!?」

ルビィ「コラン!?」


そのまま、コランはヤミラミに抑え付けられる。

──い、いけない!!


ルビィ「コラン!! 振りほどいて!!」


メレシーがヤミラミに抑え付けられる──即ち、それは捕食されそうになっているということだ。

コ、コランが食べられちゃう……!!


 「ヤミィ」

 「ピ、ピィ…!」


ヤミラミはコランを吟味するようにジロジロと宝石のような目玉で観察したあと、

予想外なことに、


ルビィ「……え!?」

 「ピピィ!?」


コランをこちらに向かって放り投げてきた。


ルビィ「コ、コラン……!!」

 「グォォ!?」

理亞「え!? ちょ、あんた!?」
203: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:44:38.32 ID:oTWJbR4y0

咄嗟にルビィが大きく体を捩ったのに驚いたのか、リングマの掴む力が一瞬緩む。

その隙にどうにか抜け出して、

こちらに向かって投げ飛ばされた、コランを全身でキャッチする。


ルビィ「ぴぎぃ!?」


とは言っても、実質岩の塊みたいなものだから、その勢いを殺しきれず、コランを抱きしめて、後ろにゴロゴロと転がる。

岩肌だらけの洞窟の地面を転がされ──


ルビィ「──い、いた……くない……?」


──たが、痛みはなかった。

全身擦り傷や切り傷、打ち傷だらけになると思っていたんだけど……。

気付くと周りにはオレンジ色の羽毛が敷き詰められていた。


 「チャモォ」

ルビィ「も、もしかして……アチャモが助けてくれたの……?」

 「チャモ!」

理亞「あんた何考えてんのよ!!」

ルビィ「ぴぎ!?」


アチャモと話していたら、すぐに理亞さんがルビィに駆け寄ってきて、大きな声をあげる。


理亞「飛んできたメレシー受け止めるとか、このポケモン岩の塊よ!? そのアチャモが“フェザーダンス”してなかったら、大怪我してたわよ!?」

ルビィ「ぅ、ぅゅ……」


確かに理亞さんの言う通り、ちょっと考えなしだったかもしれないけど……けど、


ルビィ「……この子はルビィのポケモンだから……」
 「ピ…」


コランを強く抱きしめて、そう言った。

と言うか……なんでルビィこの人に叱られてるんだろう……。


理亞「……」


理亞さんは呆れたようにルビィを一瞥してから、今度はの方をヤミラミを見据える。


理亞「……んで、あいつ何? ここってメレシーしかいないんじゃないの?」

ルビィ「ヤミラミはメレシーの天敵なんです……メレシーを食べちゃうポケモン。メレシーがたくさんいる場所にはどうしても出てくるから、定期的にお母さんやお姉ちゃんが退治するんだけど……」


闇の先で依然カクカクと不気味な動きをしているヤミラミを見ていると、


ルビィ「あれ……?」


違和感に気付く。


ルビィ「あのヤミラミ……胸の宝石が……透明だ……」


本来赤いはずのヤミラミの胸の宝石が、透明。あの輝きは恐らく、


ルビィ「ダイヤモンド…………もしかして」
204: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:46:27.58 ID:oTWJbR4y0

ルビィは上下左右を見回す。

ヤミラミに驚いたメレシーたちが、“一種類だけ欠けた”玉虫色の宝石たちがもぞもぞと動いている。


理亞「なに?」

ルビィ「ダイヤモンドのメレシーが居ない……」


投げ飛ばされたコラン──真っ赤な宝石を持ったメレシー。

どこを見回しても、姿が見えない、ダイヤモンドタイプの宝石を持ったメレシー。

そして、奇怪なことにダイヤモンドを胸に携えたヤミラミ。

先ほどの違和感の正体が確信に変わる。


ルビィ「……た、食べたんだ……」

理亞「え?」

ルビィ「……あのヤミラミが……ダイヤモンドタイプのメレシーたちを……選んで食べたんだ……」

理亞「……な!?」


ルビィは図鑑を開いた。

さっき研究所で操作して試したように、ヤミラミのデータを表示する。

 『ヤミラミ くらやみポケモン 高さ0.5m 重さ11.0kg
  硬いツメで 土を 掘り 太い キバで 宝石を
  バリバリかじる。 石に 含まれた 成分は 結晶となり
  体の 表面に 浮かび上がってくる。 メレシーが 好物。』

 「ヤミ…」

ここには獲物がいないと気付いたのか、ヤミラミはその身を再び闇の中に隠そうとゆっくり洞窟の奥へと歩き出す。


ルビィ「に、逃げちゃう……!!」


理由はわからないけど、執拗なまでにダイヤモンドタイプのメレシーに拘って襲っている、逃がしたらまたその子たちが捕まって食べられてしまう。


理亞「マニューラ!!」


そう思った瞬間、

理亞さんの元から、何かが高速で飛び出した。


理亞「“おいうち”!!」
 「マニュ!!」


さっき、ルビィの首筋に鉤爪を立てていたポケモンだと気付いた頃には、


 「ヤミィ!?」

ヤミラミにその爪を引っ掛け、転倒させていた。


ルビィ「理亞さん!?」

理亞「……あいつ、メレシーのこと食べるんでしょ」

ルビィ「え、うん」

理亞「メレシーがいなくなるのは私も困るのよ」

ルビィ「え?」

理亞「だから、あいつは私にとっても敵よ」


這ってでも逃げようとするヤミラミに、理亞さんとマニューラは、
205: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:47:28.66 ID:oTWJbR4y0

理亞「マニューラ!! “つじぎり”!!」
 「マニュ!!」


追撃を叩き込む。


 「ヤミィ!!?」

理亞「“ダメおし”!!」
 「マニュ!!」


さらにもう一発。

 「ヤ、ヤミィ…」


ヤミラミが大人しくなると、理亞さんは近付いて、

空のボールを投げつけた。

──カツーンとモンスターボールが弾むときの特有の音が洞窟内に響き渡ったあと、それを拾い上げ、


理亞「捕獲完了……」


そう呟く。


ルビィ「……」


その光景を見てルビィは、ポカンとしてしまう。


理亞「──何?」


この人の目的はなんなんだろう?

ただの悪人だったら、なんでメレシーを助けるんだろう?


ルビィ「あなた……一体……」

理亞「……変なのが割り込んできたから、忘れてたけど、リングマ」
 「グルゥゥ」


理亞さんが指示をすると再びリングマがノシノシと私に近付いてくる。

──そこでふと気付く。

理亞さんはルビィに祠の場所を案内させようとしている。

だけど、ルビィは答えないから拘束して虱潰しをしようという魂胆だ、

──ならこれはチャンスです。


ルビィ「アチャモ! 付いてきて!!」
 「チャモッ」

理亞「なっ!?」


ルビィは踵を返して、洞窟の奥に走り出す。

それなら、リングマの手を離れたこの瞬間に逃げてしまうのがベストだ。


理亞「この入江に逃げ場なんてないでしょ……!!」


後方で理亞さんはそう言うけど、

ここはルビィにとっては庭のような場所です。

子供の頃から、コランと一緒に何度も通ってきた。
206: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:49:06.85 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「確か、この辺だったら……あった!」


洞窟内部はこれくらい入口に近い場所だったら、それなりに覚えている。

すぐ近くにある狭い横穴を見つけ、体を潜り込ませる。


理亞「っ……! マニューラ!!」
 「マニュッ!!!」


小さな横穴にはリングマでは入れないと咄嗟に判断したのか、身軽なマニューラで追跡を試みようとしてくる。


ルビィ「コラン! “リフレクター”!」
 「ピピィ!!」


その入口を遮るように、物理攻撃を防ぐ壁を張る。

──ガッ、とマニューラの爪が突き刺さるが、

攻撃は抜けてこない……!


ルビィ「アチャモ! “ひのこ”!」
 「チャッモッ!」


入口で立ち往生する、マニューラに向かって“ひのこ”を放つ。

 「マニュッ…!!」

レベル差があるとは言え、完全に反撃不能な状態で攻撃されたら、少しは怯む。


ルビィ「今……!!」


そのまま、ルビィは体を滑らせるように横穴を中腰になったまま、出来る限りのスピードで走り出す。

この横穴は少し先に行くと開けた空間がある。更にその先は迷路みたいになっている、逃げるには打ってつけだ。

──このまま、完全に撒いてしまえば、どうにか──


理亞「──舐めんじゃないわよ……!!」

ルビィ「……!?」


背後から怒声が響いた。


理亞「マニューラ! “かわらわり”!!」
 「マニュ!!!」


理亞さんの指示の声と共に──バリン、と薄い硝子が割れるような音がする。


ルビィ「リ、“リフレクター”が……!!」


奥の大部屋には出ることが出来たが、壁が割られてしまう。

早く次の通路まで──


理亞「リングマ!! “いわくだき”!!」
 「グォォォォル!!!!」


そんな余裕を許さない、とでも言わんばかりに、背後の岩壁が激しく音を立てて、


ルビィ「ぴぎぃ!!?」
207: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:50:28.37 ID:oTWJbR4y0

リングマによって、殴り崩される。

──ガラガラと音を立てながら崩れ、大きな穴を空けた岩の先では、


理亞「…………」


理亞さんがこちらを睨み付けていた。


理亞「ザコの遊びに付き合ってる暇はないのよ……」

ルビィ「う、うゅ……」


理亞さんがこちらに向かって歩いてくる、


理亞「さっさと祠に案内しなさい……」


苛立ちの篭った声で言う。

──そのとき、


 「──その必要はありませんわ」

理亞「!?」

ルビィ「この声……!!」


子供の頃から、ずっと傍で聞いてきた、安心する声が響き渡る。

次の瞬間──リングマが、

 「ガゥゥ!!?」

一直線に飛んできた水流が直撃し、吹き飛ばされる。


理亞「……っ……“ハイドロポンプ”か……!」


“ハイドロポンプ”の飛んできた方向に目を配ると、

艶やかな黒髪を揺らして、毅然と立つ女性。


ダイヤ「ルビィを……返してもらいますわよ」

ルビィ「……お姉ちゃんっ!!」


ダイヤお姉ちゃんの横ではミロカロスが戦闘態勢に入っている。


ダイヤ「先ほどは、油断しました」

理亞「……っ」

ダイヤ「ここからは……手加減なしですわ」


お姉ちゃんがスッと空を切るように手を真っ直ぐ上に振り上げると、

──地が揺れ始める。


理亞「な、何……!?」


──理亞さんの驚きの声も束の間、

理亞さんの足元の岩石を砕いて、

鋼の蛇が、飛び出した、
208: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:52:04.97 ID:oTWJbR4y0

 「ンネェェェェーーーール!!!!!!」

理亞「!?」

ダイヤ「ハガネール!! “かみくだく”!!」

理亞「オニゴーリ!!!」
 「ゴォォーーーリ!!!!!!」


ハガネールの大きな顎が理亞さんに襲い掛かる、

理亞さんは咄嗟に腰のボールからオニゴーリを出して応戦する。


理亞「“こおりのキバ”!!」
 「ゴォォリ!!!!!」


ハガネールの開いた下顎に噛み付く形で牙を立てる。


ダイヤ「ハガネール!! そのまま“たたきつける”!!」
 「ガネェェェル!!!!」


声と共に、ハガネールが噛み付いたオニゴーリをそのまま地面に叩き付ける。

 「ゴォォォーーリ!!!!」

──バキャリ、と言う岩が砕けるような音と共に、噛み付いた顎ごと噛み砕かれたオニゴーリが崩れ落ちた。


理亞「……っ」

ダイヤ「…………」


攫われたルビィが言うのもアレなんだけど……お姉ちゃん、相当怒ってる。

怒ったときのお姉ちゃんは見境がなくなる。

このままじゃ、巻き込まれちゃうかも……。

そのとき、背後から、


「ルビィちゃん!」


肩を叩かれる。


ルビィ「ぴぎ!?」


一瞬驚いて声をあげてしまうが、


花丸「オラだよっ!」


それは、花丸ちゃんだった。


ルビィ「は、花丸ちゃん!」

花丸「ダイヤさんに裏から回るように言われたずらっ 後はゴンベの“かぎわける”でルビィちゃんの匂いを辿って……」
 「ゴン…」

ルビィ「そ、そうだ……ここにいるとお姉ちゃんの戦闘に巻き込まれちゃうから……!!」

花丸「うん! ここに来るまでの間、道標を撒いてきたから!」

ルビィ「みちしるべ……?」


言われて、花丸ちゃんの視線を追うと、

岩肌に突き刺さるように蔓を伸ばした植物がそこらじゅうに生えているのが目に入る。
209: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:53:14.13 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「え!? あ、あれどうしたの?」

花丸「ナエトルの“やどりぎのタネ”ずら!」
 「ナエー」


場にそぐわない間の抜ける声が足元から聴こえる。


花丸「このまま、裏道を使って脱出しよっ」


そう言って花丸ちゃんがルビィの手を引く。


ルビィ「う、うん!!」


釣られてルビィも走り出す、最中


ルビィ「…………」


お姉ちゃんと戦う、理亞さんのことが何故だか、気になっていた。

メレシーやルビィたちを気にかけてくれる……悪い人のはずなのに、優しい人。

後でちゃんと──なんでこんなことをしたのか、理由が聞けたらいいな。





    *    *    *





目の前の少女──先ほどしていたマスクを外してしまっているので、外見は多少違いますが、

服装が同じですし、何より状況証拠から、ルビィを攫った犯人だと断定できる。


理亞「マニューラ──」

ダイヤ「ハガネール!! “アイアンテール”!!」
 「ンネェーーール!!!!」


その長い体躯を振り回すように動き出す前にマニューラに鋼鉄の一撃を食らわせる。


 「ンマニュッ!!!!」
理亞「マニューラ!! ……っく」


目の前で戦闘不能になったマニューラをボールに戻している、少女に向かって声を掛ける。


ダイヤ「……今回わたくし相当頭に来ていますの……」

理亞「……クロサワの人間なのに、こんなに派手に入江ぶっ壊していいのかしら……?」

ダイヤ「人の妹を拐かし、それだけでは飽き足らず人様の庭を土足で踏み荒らしている人間に言われたくありませんわ」

理亞「…………」

ダイヤ「今更降伏など受け入れるつもりもないのですが……もう打つ手もないでしょう?」


マニューラ、リングマ、オニゴーリ戦闘不能。

逃げ道を作らないように彼女の周りをハガネールがその長い体躯で取り囲んでいる。


理亞「……ふふ、流石ジムリーダーね」

ダイヤ「……ハガネール、“ジャイロボール”!!」
 「ガネェーール!!!!」
210: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:54:41.83 ID:oTWJbR4y0

最後の一撃を加えるために、ハガネールが全身の節を高速回転し始める。


理亞「──これは奥の手だったんだけど」


そのとき、目の前の少女はそう呟いた。

 「ガネェェェーーーール!!!!!」

そのままハガネールが高速回転した頭で飛び込んでいく。

──瞬間。

彼女の腕に装備されたアクセサリーのようなものが七色の光りを発した。


ダイヤ「!! ……一筋縄ではいきませんわね」

 「ガ、ネェ…!!!」


その光りが晴れると、そこには全身の節を凍らされ、回転を無理やり止められたハガネールの姿。

そして──


 「ゴォォォォォオオオオオリ!!!!!!」


大きな顎を一際大きく空けた、オニゴーリが──

いや、メガオニゴーリが──!!


ダイヤ「メガシンカ……!」

理亞「オニゴーリ!!!」
 「ゴォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」

理亞「“だいばくはつ”!!!!!」

ダイヤ「…………!!!」


特性“フリーズスキン”により強力な冷気を纏って周り全てを吹き飛ばす破砕の一撃、

加速度的に膨張する冷気が、冷波となって襲い掛かってくる。


ダイヤ「っ!!」


咄嗟に顔を庇う。

──腕が足が、冷爆風とでも言えばいいのか、自分の体を凍りつかせていく、

その横を──

紫色の影が飛翔しながら通り過ぎる、


ダイヤ「!! お待ちなさいっ!!」


音速で飛び荒ぶ影は、更に爆風を“おいかぜ”にして、爆発的に加速し、飛び去っていった。


ダイヤ「…………」


気付けば洞窟内の灰色の岩肌は、霜によって白くなり。

すぐ目の前で爆風を受けたハガネールは凍ったまま横たわっていた。

案の定、その場には先ほどの少女の姿はなく、オニゴーリ、リングマを回収したのち、クロバットで逃走を測ったのだとわかる。


ダイヤ「……そうですわ、ルビィと花丸さんは……!?」
211: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:55:50.13 ID:oTWJbR4y0

先に脱出する手筈になっていた、もし脱出中のところを追いつかれていたら──

わたくしはすぐさま、入江の入口に走ろうとして、


 「お、お姉ちゃーん!?」


声が聴こえて安堵する。

洞窟内を反響して、声が聴こえてくる。

キョロキョロと声がする方を探す形で見回すと、


花丸「ダ、ダイヤさん……」


花丸さんが洞窟内の通路から顔を出しているのが目に入る。


花丸「大きな音がして……壁が凍りだしたから、隠れてたずら……」

ダイヤ「その判断で正解ですわ。ありがとう……花丸さん」


花丸さんに礼を言った直後、


ルビィ「お姉ちゃん……!!」

ダイヤ「ルビィ……!!」


ルビィがわたくしの胸に飛び込んでくる。


ダイヤ「ルビィ……よかった……よく頑張ったわね……」

ルビィ「お姉ちゃん……っ……」


ルビィの頭を撫でながら、どうにか妹を無事、救出出来たことに胸を撫で下ろすのでした。





    *    *    *





ダイヤ「クロサワの入江は当分は完全封鎖。今回の件に関しては……自己評価としては30点と言ったところね……」

鞠莉「それはStrictだネ……」

ダイヤ「ルビィは救出出来ましたが……犯人には逃げられてしまいましたし……」

鞠莉「でも、顔は見たんでしょ?」

ダイヤ「ええ、まあ……」

鞠莉「完璧じゃなかった、かもしれないけれど……ルビィが無事で何よりだったと思うわ」

ダイヤ「そう……ですわね」


鞠莉さんの言葉に同意しながらも、犯人を取り逃がしてしまったことを後悔している自分がいる。


鞠莉「ルビィの証言から、犯人の名前は理亞って言うこともわかったし……警察の方で指名手配になると思うから」


今現在、鞠莉さんは戻ってきたルビィから事情を軽く聞いて、警察へ提出するための情報を整理している。

わたくしもそれを一緒に手伝っていたら、もう日も暮れる時間になっていた。
212: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:57:25.07 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「そういえば、鞠莉さん」

鞠莉「What ? 」

ダイヤ「聖良さんはもう帰られたのですか?」

鞠莉「ええ……一通り落ち着いたところで帰ってもらったわ。軽く警察が事情聴取はしたけど……聖良はたまたま居合わせただけだし……」

ダイヤ「……そうですか」

鞠莉「ねぇ、ダイヤ……ルビィのことなんだけど……」

ダイヤ「……たぶん、同じことを考えていると思いますわ」

鞠莉「そ……なら、今回の旅立ちは当分先送りね……。しばらくは、ダイヤの目の届く場所で──」


残念ですが、こんな事態が起こってまで旅に出すわけには行かない、

と、思った矢先。


ルビィ「ま、待ってくださいっ!」


部屋に響くルビィの声。


ダイヤ「ルビィ!? 今は隣の部屋で大人しくしてなさいと……!!」

ルビィ「ルビィ、旅に出たい……!!」

ダイヤ「!? な、何を言ってるのですか!! あんなことがあった後なのですわよ!?」


ルビィの言葉を聞いて、わたくしは思わず強い語調で捲くし立ててしまう。


ダイヤ「貴方は当分は此方で……」

鞠莉「ダイヤ、落ち着いて。ルビィの意見も聞きましょう?」

ダイヤ「…………っ」

鞠莉「ルビィ、どうして旅に出たいの? ダイヤやわたしが止める理由は……言わなくてもわかるわよね?」

ルビィ「……研究所も入江も、こんなことになっちゃったのはルビィの所為だと思うんです……」

ダイヤ「ち、違いますわ! これはルビィのせいでは……!!」

ルビィ「聞いて、お姉ちゃん……」

ダイヤ「…………」

ルビィ「理亞さんの目的は……ルビィに入江の中を案内させることだったから……。ここにいたら、また襲いに来るだけだと思うんです」

ダイヤ「それは……」

ルビィ「だから、ルビィはここに留まるより、移動していた方がいいと思う……それにね」

鞠莉「それに……?」

ルビィ「祠を案内するだけなら、ルビィじゃなくても出来る人がいます……お姉ちゃんもお母さんも……それなのにルビィが攫われたのはルビィが弱かったからだと思うんです……」

ダイヤ「ルビィ……」

ルビィ「旅をしていれば……少しは強くなれると思う、だから、だからね……!!」

ダイヤ「……。……わかりました」

ルビィ「い、いいの……?」


……まさか了承してくれるなどと思ってなかったとでも言わんばかりの表情でルビィが確認をしてくる。


ダイヤ「但し、いろいろと準備が御座いますので、出発は明日以降で宜しいですか?」

ルビィ「う、うん! わかった!」


ルビィはぱぁっと明るい顔になり、嬉しそうにその場を後にした。
213: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:58:46.44 ID:oTWJbR4y0

鞠莉「ダイヤ……いいの?」


ルビィが去った後、鞠莉さんがわたくしに問うてくる。


ダイヤ「……敵方の目的がはっきりしている以上、クロサワの入江が近くにある、ここに留まるのも危険、と言うのは一理ありますし……。それに……」

鞠莉「それに……?」

ダイヤ「昨日まで、あんなに旅立つことに消極的だった、妹の決意を無碍にするのは……」

鞠莉「……そう、わかった」


もちろん今日のことも含め、お母様に報告・了解を得ないといけない。

わたくしは妹の願いを叶えるために、明日の準備を始めるとしましょう──。





    *    *    *





花丸「ルビィちゃん、どうだった……?」

ルビィ「あ、うん。お姉ちゃんには許可貰えたよ!」

花丸「ホントに!?」

ルビィ「うん! 明日までは待ってって話だったけど……」

花丸「じゃあ、マルもそのときにルビィちゃんと一緒に行くね!」

ルビィ「ホントに!?」

花丸「うん! というか、実は最初からマルはルビィちゃんと一緒に旅したいなって思ってたし……えへへ」

ルビィ「えへへ、実を言うとルビィも……」


花丸ちゃんと明日のことを話しながらも、ルビィの中ではあることが引っかかっていた。

──理亞さんの言った言葉。

 理亞『メレシーがいなくなるのは私も困るのよ』

あの言葉の真意はなんなのか。

悪い人だとは思うんだけど……ただの悪い人とは少し違う気がする。

ルビィは理亞さんにちゃんとお話を聞かないといけない気がする。

そのために、旅の中で強くなるんだ……アチャモとコランと一緒に……。


214: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/01(水) 23:59:13.06 ID:oTWJbR4y0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【オハラ研究所】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口



 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.7 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.7 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.5 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:17匹 捕まえた数:2匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



217: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:14:36.82 ID:bTwUl7S20

■Chapter017 『グレイブ団』 【SIDE Chika】





メテノ騒動の翌日。

ホシゾラ天文台に泊まった私たちは、朝一番最初のロープウェイで下山し、


千歌「それじゃ、凛さん! ありがとうございました!」


ホシゾラシティを発つところ。


凛「こちらこそ、ありがとね千歌ちゃん!」


凛さんはニコニコと笑いながら御礼を言うが、その目の下にはうっすらと隈が見える。

今朝はチカたちよりも早く起きていたし……もしかしたら、徹夜明けなのかもしれない。


凛「ホシゾラの近くに寄ったらまた星を見に来てね!」
 「~~~」


そう言って手を振る凛さん。そして、一緒に戦ったメテノがチカチカと光る。


千歌「はい! また来ます! メテノも、元気でね!」

凛「またねー」
 「~~~」


凛さんたちに見送られながら、私たちはホシゾラシティを後にします。


千歌「……よし、じゃあ行こうか!」
 「マグ」「ワフッ」「ピィー」


マグマラシ、しいたけ、ムクバードと一緒に再び旅路を歩き出しました。





    *    *    *





──コメコの森。

ロープウェイで降りる最中、凛さんがいろいろ教えてくれたんだけど、オトノキ地方南部に所在する、オトノキ地方最大の森林地帯がこのコメコの森です。

とはいっても、鬱蒼とした森と言う程でもなく、森の木々からは木漏れ日が差し込んでいて視界も良好。

道も森と言う割に歩きやすくて、


千歌「これなら、ホントにお昼前には抜けられちゃいそうだね」
 「マグ」


私がそう言うと、足元をトコトコと歩くマグマラシが相槌を打つ。

道中には森特有のくさポケモンやむしポケモンが飛び出してきたけど、

 「ピピィー」

やや先の方を旋回して飛ぶひこうタイプのムクバードと、ほのおタイプのマグマラシのお陰で難なく進めています。

ただ──


千歌「相変わらず、みんな加減苦手だよね……」
 「マグ?」「ピィ?」
218: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:16:33.06 ID:bTwUl7S20

飛び出してきたクルミルやスボミーと言ったポケモンたちは一撃で撃退してしまうため、やっぱりここでも捕獲が捗らない。


千歌「そろそろ新しい仲間が欲しいんだけどなぁ……」


曜ちゃんだったら、簡単に捕獲しちゃうんだろうけど……。

やっぱりチカは捕獲が苦手みたい。

 「ワフッ」

千歌「ん、どしたの、しいたけ?」


私の横をのそのそと歩くしいたけが軽く吼えたため、足を止める。


 「ワフ」


しいたけは少し道から外れた森の奥を見つめていた。

──そこには大きな岩が鎮座していた。


千歌「うわ……おっきな岩……」


その岩は表面がコケに覆われていて 触るとなんとなく気持ちいい感じがします。


 「ワフ」

しいたけはどうやらこの岩が気になるみたい。


千歌「あれ?」


なんとなく岩の周りを確認していると、たくさんのくさポケモンが集まっていることに気付く。

先ほども見かけたスボミーを始め、キノココ、タネボー、チェリンボ、チュリネ、ナゾノクサと言った小型のくさタイプのポケモンが岩の周りでお昼寝をしている。


千歌「くさタイプのポケモンの休憩所みたいな感じなのかな?」

 「ワン」


野生のポケモンだけど、敵意などは全く感じられずほんわかとした雰囲気。


千歌「……新しい仲間は欲しいけど、ここは戦う感じの場所じゃないね」

 「ワフ」「マグ」 「ピピ?」


しいたけ、マグマラシが相槌を打ち、少し離れた場所を飛んでいたムクバードが私の肩に留まりながら、首を傾げた。


千歌「んー……」


私はなんとなく胸いっぱいに空気を吸い込みながら身体を伸ばす。

森林浴ってこういう感じなのかな。なんだか気持ちがいい。


千歌「ちょっと、休憩にしよっか」


そういって大きな岩を背もたれに腰を降ろして、リュックを漁る。


千歌「ふふふ~ ホシゾラシティ名物スターシュガーだよ! 皆で食べよっか」
 「マグッ!」「ピピィッ」「ワフ」
219: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:18:36.58 ID:bTwUl7S20

スターシュガー……まあ、いわゆるコンペイトウだけど、

ホシゾラシティでは星にちなんだお菓子として、いろんなところでカラフルなコンペイトが売っていたので、おやつにと思って買っていたのです。

袋から小さめのお皿に出してあげて、3匹はそれを身を寄せ合って食べている。

私も星型の砂糖のお菓子を口に放り込む。


千歌「甘い」


朝からずっと歩いていたせいか、甘さが身体に染みる。


千歌「おいしぃ……」


幸せの味がする……。

森の木々が風にそよいでかさかさと葉っぱ揺れる音が絶え間なく鳴り続け、高い木の上からは鳥ポケモンたちの鳴き声が微かに響いてくる。

森林浴を満喫しながら、ぼんやりと視線を泳がせいると……。


千歌「……ん?」


少し離れたところで、何かが集団で漂っているのが目に入ってくる。

白とピンク、黄緑もいる……ポケモン?

私はポケモン図鑑を取り出した。


 『モンメン わたたまポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.6kg
  風に 吹かれて 気ままに 移動する。 集団で いると 
  落ち着くのか 仲間を みつけると くっついて いつも間にか 
  雲のように なる。 身体の ワタは 何度も 生え変わる。』

 『ハネッコ わたくさポケモン 高さ:0.4m 重さ:0.5kg
  とても 身体が 軽く そよ風が 吹いただけで ふわふわと
  浮かんでしまう。 風に 乗って 漂う ハネッコが 野山に
  集まりだすと 春が 訪れると 言われている。』

 『ポポッコ わたくさポケモン 高さ:0.6m 重さ1.0kg
  太陽の 光を 浴びるため 花びらを 広げるだけでなく
  近付こうと 空に 浮かんでしまう。 温度に より 花の
  開き方が 変わるので 温度計の 代わりを することもある。』


どうやら体重の軽いくさタイプのポケモンたちが集団で漂っているようだ。


千歌「何かあるのかな……?」


ハネッコやモンメンたちが流れてくる風上の方向に目をやると、


千歌「あれ……?」


なんだか見覚えのある光が、森の影の中で光っている。

チカチカと力なく光る、ソレは──


千歌「メテノ……?」


コアをむき出しにし、力なく漂うメテノだった。





    *    *    *

220: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:21:06.48 ID:bTwUl7S20



昨日、音ノ木から落ちてきたメテノの一部かもしれない。

私はリュックを背負うと、森の奥に弱々しく逃げていくメテノを駆け足で追う。


千歌「っは……!! っは……!!」


歩きやすい道から外れたため、木の根っこや地面の凸凹に足を取られ、少し走りづらいが、

それでも弱ったメテノを追うには十分で、


千歌「こ、これなら追いつける……!!」
 「マグッ」


手持ちたちと共にメテノに迫る。

──その次の瞬間。

後ろから私の顔を掠めるように、虹色の光線が一閃し、


千歌「!?」

 「~~~!!?」


メテノを撃ち落した。


千歌「な、なに!?」
 「ワフッ!!!!」


しいたけが身構えているのがわかる。私もすぐさま振り返り、光線の出元を見やると、

森の影で、頭の上に水晶玉みたいなものを乗っけた豚が跳ねていた。

咄嗟に図鑑を開いて正体を確認する。


 『バネブー とびはねポケモン 高さ:0.7m 重さ:30.6kg
  尻尾を バネがわりに して 飛び跳ねることで 心臓を
  動かしているため 止まると 死んでしまう。 頭に
  乗せていてる パールルの 真珠が サイコパワーの 源だ。』


どうやら、あのバネブーが攻撃したようだ。

その少し後方に、木に半身を隠した人間の姿が見える。


千歌「今のあなたが攻撃したんですか!?」


大きな声で訊ねると、


 「……ちっ」


少し離れているため、わかりづらかったけど、たぶん舌打ちをされた。


千歌「……なに?」


チラリとメテノを見ると、飛ぶ体力も残ってないのか、とうとう地面に墜落して、力なく点滅している。

……とりあえず、ボールに入れないと。

私はバネブーの方向にも警戒しながら、半身を捩ってモンスターボールをメテノに向かって投げる。

──その瞬間、
221: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:22:59.51 ID:bTwUl7S20

トレーナー「バネブー! “サイケこうせん”!!」
 「ブーー」


命令と共に七色の光線が飛び出して、私の投げたボールを弾き飛ばす。


千歌「! さっきメテノを攻撃したのと同じ技……!!」

トレーナー「そのポケモンは私が先に見つけたんだけど、横取りしないで貰える?」


バネブーのトレーナーが私に向かって、そう言葉をぶつけてくる。


千歌「じゃあ、早く捕獲してください! このままじゃメテノが死んじゃいます!!」

トレーナー「死ぬ? 別にいいけれど」

千歌「……なっ!!」

トレーナー「我々の目的は、メテノじゃなくて、そのポケモンの持ってる“ほしのかけら”だ」


トレーナーはそう言いながら、私に冷たい視線を送ってくる。


千歌「我々……?」


その不可思議な物言いに、トレーナーをよく観察してみると。

若い女性で、髪を薄紫の帽子の中に纏めている。

服は襟付きで帽子と同じ色のパンツルックを身に纏っていた。

……なんというか、色は少し目に痛いけど、その姿は、会社員……ううん、兵隊さん? のような印象を受ける。

胸には墓石……のようなシンボルの上にGと言うアルファベットがあしらわれたワッペン。

何かの団体なのかもしれない。


千歌「……」

トレーナー「さぁ、お嬢さん。わかったら、どいてもらっていい?」


高圧的な物言い。


千歌「……」


私はずり……っと、半歩後ろに足を下げてから、


千歌「ムクバード!! “すなかけ”!!」
 「ピピィィィ!!!」


低空を羽ばたいてたムクバードが私の前に躍り出て、翼で起こした風によって砂を巻き上げる。


トレーナー「!?」


目の前のトレーナーがそれに怯んだ瞬間に、私は身を翻してポケモンたちと一緒にメテノの方へと走り出す。


千歌「しいたけ!!」
 「ワフッ!!」


合図と共に、床に転がるメテノをしいたけが口に咥えて持ち上げる。


トレーナー「あくまで我々グレイブ団の邪魔をする気か……!!」


立ち込める砂の向こうからそんな声がする。
222: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:24:43.14 ID:bTwUl7S20

グレイブ団下っ端「バネブー! “パワージェム”!!」


砂の向こうから、光る石礫が飛んでくる。


千歌「わわっ!?」
 「ピピッ!!」


あてずっぽうな攻撃であったが、無造作に飛んでくる石の一つがムクバードを掠める。


千歌「ムクバード、だいじょぶっ!?」
 「ピピィ~…!!」


掠っただけなので大きなダメージではなかったようだが、いわタイプの技はこうかはばつぐんだ。


千歌「戻って!」


走りながらムクバードをボールに戻す、

そのとき──


千歌「──った!?」


身体が宙に浮く。

空を飛ぶムクバードに視線を向けていたため、足元への注意が疎かになっていた。

木の根っこに躓いたんだと気付いたときには、身体は既に前のめりに地面に転んでいた。


千歌「……いつつ……」

グレイブ団下っ端「バネブー! “じんつうりき”!」

 「マグッ」


転んだ私のすぐ傍を吹き飛ばされたマグマラシが横切る。


千歌「! マグマラシ!」

グレイブ団下っ端「子供は黙って大人の言うことに従っていればいいのにね……我々に逆らった報いを受けてもらおうかしら」


もうもうと立ち込める砂煙の先から、声がする。


千歌「……」


私は体勢を立て直しながら、考える。

たぶんだけど……この人たちは、この弱ったメテノそのものが目的じゃないと言っていたし、ここで道を通しても助けたりしないと思う。

……逃げる余裕はない。

そうなると、


千歌「倒すしかない……」


手持ちは手負いのムクバード。

マグマラシは“じんつうりき”が直撃し、吹き飛ばされたまま木の下で蹲っている。

恐らく戦闘不能。


千歌「……」


そうなると残っているのはトリミアンのしいたけだけだ。
223: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:25:51.46 ID:bTwUl7S20

千歌「しいたけ……」
 「ウォフ」


私は傍に居た、しいたけから口に咥えられたメテノを、受け取って胸に抱き寄せる。

そのまま、流れるように


千歌「いけっ!! しいたけ!!」
 「ワフッッ!!!」


しいたけが飛び出す。


グレイブ団下っ端「なに!? “サイコショック”!!」


突然飛び出した、しいたけに動揺したのか、相手のトレーナーは咄嗟に攻撃を撃って来る、が


 「ワォォォ!!!」


鳴き声を挙げて、勢い良く突撃するしいたけは全く怯まない。

そのままバネブーを至近距離に捉え、


千歌「しいたけ!! “かたきうち”!!」

 「ワォォォ!!!」


マグマラシの、仲間の“かたきうち”、

全身全霊のパワーを込めて、突進する。


 「ブブーー!?!?」


バネブーはしいたけに撥ね飛ばされて、


 「ブブゥ…」


バネブーは少し離れたところに落ちた後、気絶した。


グレイブ団下っ端「……こ、こんな子供に……」

千歌「……」


私が軽く睨むと、


グレイブ団下っ端「……お、覚えてなさい」


バネブーをボールに戻しながら、そう捨て台詞を吐いたあと、そのトレーナーは逃げていきました。


千歌「はぁ……か、勝った……」


トレーナーがいなくなったのを確認して、安堵する。

どうやら相手の手持ちはバネブーだけだったようだ。

他にも居たらどうなっていたか……。

と、考えを廻らせてから、思い出す。


千歌「……そうだ、メテノ!」


胸に抱いたメテノを見ると、より一層点滅が弱くなっていた。
224: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:27:02.49 ID:bTwUl7S20

千歌「ボ、ボール!!」


慌てて、バッグから空のボールを取り出して、抱えていたメテノを捕獲する。

……これでひとまずは安心かな。

 「ワフ」

気付くと、しいたけが私の近くに戻ってきていた。

長年の付き合いのせいか、その鳴き声だけで、しいたけが早く森を抜けることを促しているのがわかるような気がして、


千歌「……うん、森早く抜けちゃおうか」


私はそう答える。

木の根っこ辺りで倒れているマグマラシをボールに戻しながら、


千歌「早くポケモンセンターにいかないとね」
 「ワォ」


満身創痍な手持ちたちを回復させるために、しいたけと歩き出しました。


千歌「……そういえば、あの人グレイブ団って言ってたよね」
 「ワォ?」


団ってことは……他にも同じような人がいるってことだよね……。

──私はなんだか得も言われぬ不安を胸に抱きながら、コメコの森を抜けるのでした。


225: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 01:28:18.41 ID:bTwUl7S20


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコのもり】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回●__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.18  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.19 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.16 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:7匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



226: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 10:57:44.90 ID:bTwUl7S20

■Chapter018 『ポケモンコンテスト』 【SIDE You】





 「ミャァミャァ」


──キャモメの声が聴こえる。


曜「ん……んぅ……」

果南「あ、曜。おはよ」

曜「果南ちゃん……おはよう」


目が覚めると、夜が開け朝日がこちらに向かって主張してきている。


果南「足の調子、どう?」

曜「えっと……」


果南ちゃんに訊ねられて、足を軽く動かしてみる。

痛みはほとんどない。


曜「だいぶよくなったみたい」

果南「それはよかった」


果南ちゃんはそう言いながら、優しく笑う。


果南「次の目的地も見えてきたし、またすぐ旅に戻れそうだね」

曜「次の目的地?」


果南ちゃんの言葉に反応して、彼女の視界の先を見ると、


曜「……島だ」

果南「あれが13番水道の先にある、フソウ島だよ」


新たな町が見えてきていた。





    *    *    *





──フソウタウン。

さっき果南ちゃんが言っていたとおり、13番水道の先にある島の上の町だ。


曜「島なのに、アワシマとは大違いだね」


船着場にギャラドスを着けて貰って、降り立った私はそこに広がる活気に目を白黒させる。

港から、すぐに市場が広がり、まだ朝方だと言うのに、漁師や船乗りの人達が海沿いの道を行ったり来たりしている。
227: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 10:59:37.28 ID:bTwUl7S20

果南「魚市場は朝が勝負だからね。それにこの島自体はリゾート地だから、内地の方に進んでもそれなりに賑わいがあるよ」

曜「リゾート地……! 楽しそう!」

果南「それはいいけど、曜はまず病院」

曜「ん、いや、もう大丈夫だよ! 一人で歩けるし!」

果南「ダメ」


はしゃいで飛び出す私は服の襟首を掴まれ、


曜「ぐぇっ」


喉が絞まって、変な声を出してしまう。


果南「全く、千歌じゃないんだから……毒もまだ応急手当てしただけなんだよ?」


そう言いながら果南ちゃんは私をずるずると引き摺っていく。


曜「か、果南ちゃん……一人で歩けるから……」

果南「そ? じゃあ、ちゃんと歩いて病院行く。いいね?」

曜「は、はーい……」


気を取り直して、果南ちゃんと一緒に町の方へと歩き出す。


曜「……そういえばさ」

果南「ん?」

曜「果南ちゃんもここに用事があったの?」

果南「ああ、もともと目的があったわけじゃないけど……こいつをね」


果南ちゃんはそう言って腰につけたダイブボールを手に持って、私に見せる。

僅かに透けて見えるボールの中には、


曜「……ドヒドイデ」


私が戦って、勝てなかったドヒドイデが居た。


果南「明らかに普通の野生の強さじゃないからね。報告の意味も込めて、協会に送るつもりだから、ポケモンセンターに行こうかなって」

曜「協会?」


私は首を傾げる。


果南「リーグ協会のことだよ」

曜「リーグ協会って……確かポケモンリーグとか運営してる団体だっけ」


前に学校で習った気がする。確かジムリーダーは協会に所属している人間なんだっけ。


曜「果南ちゃんって、リーグ協会の人なの?」

果南「いや、違うよ~」

曜「でも、報告はするんだ」

果南「知り合いが協会の割と偉い人でね。その人に地方内で何か異常なことがあったら教えて欲しいって頼まれてるんだ」

曜「なるほど……」

果南「ポケモンセンターには人用の病院も併設されてるから、目的地は一緒ってこと」
228: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:01:10.54 ID:bTwUl7S20

果南ちゃんは自慢のポニーテールを揺らしながら、そう言う。

港沿いの魚市場を抜けて、そろそろ町が見えてこようとしている。


曜「そういえば、果南ちゃんって今何してるの? 人を探してる……とか言ってたっけ?」


なんか、うろ覚えだけど、何故か海に潜って人を探してた気がする。


果南「何って言われると、返答に困るなぁ……。まあ、現在進行形なのは人探しかな」

曜「どんな人なの?」

果南「……どんな人……一言で言うなら、めちゃくちゃ強いトレーナーかな」

曜「そうなんだ……? 会ってどうするの?」

果南「戦って、勝つ」

曜「ふーん……?」


そういえば果南ちゃんは昔からポケモンバトルが好きな人だった気がする。

強敵を探して地方中を旅してるってことは、それは今でも健在ということだろう。


果南「ま、これは完全に個人的な理由で探してるだけだから、そんなに深い話ではないよ」

曜「そう……?」

果南「それより、ほら。ポケモンセンター、見えてきたよ」


促されて、視線を向けると、ポケモンセンター特有の赤い屋根の建物が見えてきた。





    *    *    *





ジョーイ「おまちどおさま! お預かりしたポケモンは、皆元気になりました!」

曜「ありがとうございます!」

ジョーイ「あなたのケガも問題ないですよ。応急処置がよかったみたいですね」


ポケモンセンターにポケモンを預けた後、病院で足を見てもらい、お墨付きを貰う。


曜「応急処置がよかったってさ」

果南「応急処置って言っても、どくけし使っただけだけどね」

ジョーイ「全身に毒が回る前に使ったのが幸を成したんだと思いますよ」

果南「まあ、そういうことなら、私の勘は間違ってなかったってことかな」

ジョーイ「ただ、次からは出来ればポケモン用じゃなくて、人間用の薬で消毒・解毒してくださいね」

果南「うへぇ……そうします」

曜「それじゃ、ありがとうございました!」

ジョーイ「またいつでも、ご利用くださいませ!」


ジョーイさんに注意され、複雑そうな顔をしている果南ちゃんと一緒にポケモンセンターの外に出る。

時刻は昼前でご機嫌な太陽が私たちを照らしつける。


果南「さて……」
229: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:04:11.21 ID:bTwUl7S20

果南ちゃんが切り出す。


果南「曜はこのあとどうするの?」

曜「うーん……島を見て周りたいかなって思うけど……」

果南「……けど?」


何気なく腰のボールに触れる。

その仕草を見て果南ちゃんは察したのか、


果南「……当分はバトルは避けたい感じ?」

曜「あはは……うん」


そう言う、果南ちゃん。先日の戦いでいたずらに手持ちを傷つけてしまったためか、またすぐに冒険の旅に繰り出す気にはならなかった。


果南「一緒に行動してあげたいのは山々なんだけど……私も頼まれごとがあるからなぁ……」

曜「あ、いいよ! 大丈夫! ポケモンたちと一緒にフソウタウンの観光してるからさ!」


果南ちゃんにこれ以上迷惑掛けるわけにもいかないし。


曜「この街、リゾート地なんでしょ? 見る場所いっぱいありそうだもん!」


恐らく繁華街なのであろう、島の奥地は日も高くなってきたためか、賑わいを見せ始めている。


果南「そう? ごめんね」


私が気遣ってそう言ってることもバレてるのか、果南ちゃんに謝られる。

しばらく会ってなかったとは言え、伊達に幼馴染ではないということだろう。


果南「何かあったら、遠慮せずにポケギアに連絡するんだよ?」

曜「うん、ありがとう」

果南「それじゃ、またね」


果南ちゃんはそう言って、再び港の方向へと足を向ける。


果南「……あ、そうだ」


──と、思ったら、何かを思い出したかのように振り返り、


曜「?」

果南「もし、今バトルをする気分になれないならさ」

曜「うん」

果南「この街にはうってつけの場所があるから、そこに行ってみるといいかもよ」

曜「うってつけの場所……?」

果南「ちょうど今日が上のランクの開催日だったと思うし。繁華街の先にあるから、興味があったら見に行ってごらん」

曜「う、うん?」





    *    *    *


230: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:06:10.62 ID:bTwUl7S20


進むにつれて、数を増す人混みの中、

果南ちゃんの言った通り、繁華街を抜けた先に“ソレ”はあった。


曜「……うわぁ……!!」


絢爛豪華な装飾を施されたドーム状の建造物。

建物の近くには看板が置いてあり、私は思わず一人でそれを口に出して読み上げてしまう。


曜「ここが……ポケモンコンテスト会場……!」


──バトルをする気分じゃないときに来るにはうってつけの場所。

あたりを見回すと、トレーナーと一緒にキュウコンやドレディアと言った見栄えするポケモンたちが闊歩している。

……あ、この場合はトレーナーじゃなくて、コーディネーターって言うんだっけ?


曜「とにかく中に入ってみよう……!」


自動ドアから会場内に足を踏み入れると、


曜「わぁ……!!」


再び感嘆の声が漏れる。

落ち着いたオレンジ色の照明に照らされた、華美な装飾たちが会場内を彩っている。

内装を見渡すと、高いところに額縁が飾ってあり、そこにはチョウチョのようなポケモンが描かれている。

その絵に描かれたポケモンは小さな胴体のレース状の衣装を身に纏っているように見える。


曜「さすがに最初から服着てるわけじゃないよね……? ……あの服、自分で作ったのかな?」


エントランスでポカンと口を開けて、圧倒されていると──


 「ごめんなさい、通してもらっていいかしら?」


後ろから声を掛けられる。

その声で我に返り、入口を塞いでしまっていたことに気付く。


曜「あ、ご、ごめんなさい! ……あんまりに豪華な内装にびっくりしちゃって」


私は横にずれて入口を開けながら、頭を下げる。


女の人「ふふ、そうでしょ~? なんせ、ここフソウ会場は地方最大のコンテスト会場だもの」

曜「そうなんですか……?」


私が顔を上げると、そこにはゆるふわロングなブラウンヘアー、加えてサングラスとマスクをつけた女性が一人。

変装……? ……有名人か誰かなのかな……?


女の人「あら~その反応……もしかして、コンテスト会場は初めてなのかしら?」

曜「あ、はい」

女の人「そう、それなら……」


お姉さんは肩に掛けたバッグに手をいれ、ケース状の物を差し出してくる。
231: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:07:33.60 ID:bTwUl7S20

女の人「どうぞ」

曜「え?」

女の人「これはアクセサリー入れよ。ポケモンコンテストの必需品」

曜「あ、いや……私は別に出場するつもりで来たわけじゃ……」


周りを見回すと、それはもう華美な様相のポケモンたちがコーディネーターと一緒にパフォーマンスの練習や打ち合わせをしている姿が見える。


女の人「そうなの? じゃあ、どうしてここに?」

曜「あ、えっと……ちょっとバトルから離れたい気分だったんですけど……そしたら、ここを案内されて」

女の人「なるほど、気分転換ってことね」


お姉さんは少し考えた後、


女の人「……やっぱり、これ渡しておくわね」


再び、アクセサリー入れを差し出してくる。


曜「え、でも……」

女の人「どうせ、受付に話したら初めての人は無料で貰えるものだしぃ……な・に・よ・り」

曜「何より……?」

女の人「今日ここでコンテストを見たら、きっとあなたも出場せずには居られなくなるから♪」


──そう言う顔はサングラスとマスクで隠れてるのに、何故だがお姉さんはいたずらっぽく笑っているのがわかるような気がした。





    *    *    *





曜「……結局貰ってしまった」
 「ゼニ?」


私は観客席でゼニガメと一緒に座りながら、アクセサリー入れを開けたり閉めたりしている。

先ほどのお姉さん曰く、


 『あぁ、わたし会場の関係者でコンテスト普及の意味合いも込めてるから。遠慮せずに受け取ってくれると嬉しいわ~』


──と言われ、断るのも忍びなかったため、そのまま受け取ってしまった。


曜「まあ……タダで貰えるものなら、誰から貰っても同じ……なのかな?」
 「ゼニィ」


ケースの中に最初から入っていた光る棒をチカチカさせながら呟く。そんな私の言葉に相槌を打つゼニガメとお話しながら、待っていると、


 「あら? もしかして、曜ちゃん?」

曜「え?」


ふいに声を掛けられる。

──そこには見慣れた幼馴染の姉の姿が……。
232: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:08:38.94 ID:bTwUl7S20

曜「し、志満姉!? なんでここに!?」
 「ゼニ?」

志満「それはこっちの台詞……と言いたいところだけど、曜ちゃんだったら確かに海を渡るルートを通りそうよね。その子最初に貰ったゼニガメね?」

曜「あ、うん」
 「ゼニ」

志満「初めまして、ゼニガメ。千歌ちゃんのお姉さんの志満です」

 「ゼニィ」

そう言ってゼニガメの頭を撫でながら、志満姉は私の隣の席に腰を降ろす。


志満「フソウまでって、ウチウラシティから定期船が出てるんだけど……好きでよくお休みの日に見に来てるのよ」

曜「そ、そうだったんだ……」

志満「でも、ばったり会うなんて驚いたわ」

曜「私も! 旅してると思いがけない出会いって結構あるもんなんだなーって」

志満「? 他にも誰かと会ったの?」

曜「あ、うん。13番水道で果南ちゃんと会って……さっきまで一緒だったんだけど」

志満「あら、ホント? 果南ちゃん最近ウラノホシにはあんまり帰って来てないから、私も会いたかったわ……」


そういって残念がる志満姉。


志満「それはそうと……」

曜「?」

志満「ここにいるってことは曜ちゃん、コンテストに興味があるのよね?」

曜「えーと、まあ、成り行きだけど……興味はあるかな」

志満「ふふ、じゃあお姉さんがコンテストについて教えてあげるわ」

曜「え? 志満姉が?」

志満「これでも、私ポケモンコーディネーターだったのよ?」

曜「え、そうなの!?」

志満「今は旅館の仕事があるから、そんなに頻繁に参加したりは出来ないけど……観客的で眺めながらいろいろ教えてあげることくらいなら出来るわよ」

曜「お、おぉ……頼もしい」


──まあ、考えてみればわざわざ休みの日に定期船を使ってまで足を運ぶくらいなんだから、出場経験があっても、なんらおかしい話ではない。

そんなことを考えながら、志満姉と談笑していると、次第に辺りの照明が落ち始め──


曜「お……」

志満「そろそろみたいね」
233: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:09:36.09 ID:bTwUl7S20

──ドルルルルルルルルル!!!!

というドラムロールと共に、マイク越しに司会の声が響く。


司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!!』


お決まりの口上と共に、


司会『本日はお集まりいただきありがとうございます!! ポケモンコンテストへようこそ!!!!』


その声と共にワアアアアアと会場が沸く。


曜「わわ、すごい歓声」
 「ゼニ」

志満「ふふ、すごいでしょ?」


ステージ上に目をやると、落ち着いた栗色の髪をデコ出しポニーテールでまとめているメガネの似合う女性が、マイク片手に司会をしている。


志満「彼女コンテストでは名物司会者なのよ」

曜「へー」


司会『さて今週もやってまいりました、ポケモンコンテスト・フソウ大会のお時間です!』


曜「今週ってことは毎週やってるの?」

志満「フソウの大会は毎週やってるわね。他の会場はもうちょっと頻度が少ないけど……ここは地方で最大規模の会場だから」

曜「あ、さっきそんな話聞いたよ! とにかくおっきい会場なんだね!」


司会『さて、皆さんご存知の通り、このフソウ大会ではポケモンの“うつくしさ”を競う大会となっております』


曜「“うつくしさ”……かぁ」

志満「ポケモンコンテストには5つの部門があって、それぞれ“かっこよさ”、“うつくしさ”、“かわいさ”、“かしこさ”、“たくましさ”のそれぞれを競い合うの」

曜「今回は“うつくしさ”だけなの?」

志満「ええ、そういうことになるわね。この地方特有のルールになるんだけど……会場ごとに審査科目がわかれてて、ここフソウ会場は基本的に“うつくしさ”を競う大会なの」


司会『それでは皆様お待たせしました! 出場するポケモンとコーディネーターの入場です!!』


志満姉の説明を聞きながら、入場してくるポケモンたちを見る。

外で見た、キュウコンやドレディアに加えてドラゴンタイプのハクリューと言ったポケモンが出てくる中、

一際目を引く──白いポケモン。

そのポケモンを目視したと思った瞬間、大きな歓声が湧く。


曜「わわ!?」

志満「……珍しいポケモンね」


先ほどのキュウコンと同じ九本の尾を持つが……雰囲気が少し違う。


曜「あ、あれも……キュウコン?」

志満「アローラ地方にだけいるキュウコンね」

曜「へぇー……?」

志満「アローラ地方のポケモンを持ってるコーディネーターなんてそんなにいないんだけど……」
237: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:26:21.81 ID:bTwUl7S20
>>236 訂正


そういう志満姉の視線を追って、コーディネーターの方を見ると、

綺麗な金髪をポニーテールにまとめた女性だった。


司会『おーっと!!! エントリーナンバー4のアローラキュウコンに大歓声!! これは一次審査は圧勝かぁー!?』


志満「一次審査はポケモンの見た目や毛並みを見てお客さんが投票するのよ。アクセサリーいれの中にペンライトあったでしょ?」

曜「あ、この棒って審査に使うんだ」

志満「これで、第一印象で良かったポケモンに投票するのよ」


志満姉の言葉を聞いて背後を振り返ると──会場が水色一色に染まっていた。


志満「今回はキュウコンが赤、ドレディアが緑、ハクリューが白……アローラキュウコンが水色だから」

曜「うわ……圧倒的……」

志満「流石ね……」

曜「? 流石って……知ってる人?」

志満「実際に見たのは初めてなんだけど……アローラ出身の姉妹が気まぐれにコンテストに出てくることがあるって噂があってね。たぶん、その一人だと思うわ」

曜「ふーん……やっぱ、珍しいポケモン使う人はそれだけで目立つんだね」


司会『さてさてさて!! 一次審査の集計が終了しました!! それでは次はお待ちかねのアピールタイムです!!!』


志満「二次審査では、実際にポケモンが技を出してアピールするわ」

曜「バトルとは違うの?」

志満「妨害とかもあるにはあるけど……そこまでストレートに攻撃したりすることはないかしら」


そう言ってる間に二次審査を開始した、コーディネーターが指示を出す。


金髪のコーディネーター『キュウコン! “オーロラビーム”!』
 『コォォォーン』

 《 “オーロラビーム” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥♥
   キュウコン(リージョン) +♡♡ ExB(*)+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》          (ExB=エキサイトボーナス)

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


コーディネーターの指示と共にアローラキュウコンが口から放った“オーロラビーム”が会場の天井に散布され、広がる。


曜「うわぁ……!!」


司会『これは素晴らしい!! 初手から“オーロラビーム”によって、会場全体をオーロラで魅了しています!!』

志満「ポケモンのアピールにはそれぞれ得点と部門タイプがあって、大会部門と技の部門タイプが一致すると会場が盛り上がるから、少しだけボーナス点がもらえるのよ」

曜「へぇー!」


ドーム内が七色に光り、思わず目を奪われる。

オーロラビームは直線的なビームの技なのに、こんな風にわざと散らして美しく魅せてるんだ……。


コーディネーター2『ハクリュー! “れいとうビーム”!!』
 『リュー』

 《 “れいとうビーム” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
   ハクリュー +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》
238: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:28:14.77 ID:bTwUl7S20

と、思ったら会場中のオーロラが上書きされるように冷凍光線で凍りつき、掻き消えてしまう


 《 キュウコン(リージョン) -♥♥♥♥
   Total [ ♥ ] 》


司会『おっと、ここでハクリューが妨害に出ました!!』


志満「出場ポケモンはそれぞれ順番に技を出すんだけど、全員の技が出し終わった時点でそのターンの審査をするから、こういう風に会場を彩る技を使っても、脅かされたり技そのものを妨害されることがあるの」

曜「妨害もあるって言ってたのはそういうことなんだ……」


コーディネーター3『ドレディア! “エナジーボール”!』
 『レディ~』

 《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ドレディア +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


コーディネーター4『キュウコン! “かえんほうしゃ”!』
 『コーーンッ!!!!』

 《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   キュウコン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


それを無視するように、キラキラとしたエネルギーの光と、火の粉がステージ上で舞い踊る。


志満「ドレディアもキュウコンも、氷技の流れを無視して自分のアピールに集中するみたいね」


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン(リージョン) ♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♥    ]
          ハクリュー ♡♡       [ ♡♡    ]
          ドレディア  ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡ ]
          キュウコン ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡ ] 》


司会『さて、2ターン目です!!』


司会者がそう言うと、ドレディアの足元がライトアップされる。


曜「あれ? 今度はドレディアからなの?」

志満「前のターンによりアピールが出来たポケモンから、次のターンのアピールが出来るの。だから、今回のターンはドレディア、キュウコン。妨害に走った分自分のアピールが出来てなかったハクリュー、邪魔されてほとんど技が目立たなかったアローラキュウコンが最後みたいね」

曜「そういう駆け引きもあるんだ……」


思ったより奥が深いかも、


コーディネーター3『ドレディア、“せいちょう”』
 『ディディアー』

 《 “せいちょう” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
   ドレディア +♡♡ +✪
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ドレディアは陽光を浴びるように両手を広げる。すると、ドレディアの体が太陽の光に反応して光り輝く。


志満「あれは調子をあげる技ね。調子をあげると、このあとのアピールがいつもよりうまく出来るようになるの」

曜「ふむふむ」
239: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:29:29.97 ID:bTwUl7S20

司会者『ドレディア、うつくしい輝きです!! 度重なるうつくしさアピールの応酬により、会場のボルテージも最高潮まで高まっております!!』


志満「アピールが最高潮まで高まって、会場のエキサイトゲージが5つ溜まりきると、そのときにアピールしていたコーディネーターとポケモンは“ライブアピール”って言う特別な技を追加で使うことが出来るの」


コーディネーター3『ドレディア、“グレースフラワーガーデン”』
 『レディア~~』

 《 “グレースフラワーガーデン” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 くさタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ドレディア✪ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


コーディネーターの指示でドレディアがその場でクルリと周る。

すると、ドレディアを中心にステージ上に一気に緑が広がり、花が咲き誇る。


曜「うわぁ……! すご……綺麗……!!」


司会者『“グレースフラワーガーデン”決まりました!! 花の香りに心が透き通るようですね……。さあさあ、ライブアピールの成功でエキサイトゲージはリセットされ、次のポケモンへと移りますよ!』


コーディネーター4『キュウコン、“にほんばれ”』
 『コーン』

 《 “にほんばれ” うつくしさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡
   キュウコン +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


出番が周ってきたキュウコンは空を見つめ、日を照らせる。

キュウコンのアピールから間髪いれず、


コーディネーター2『ハクリュー! “ふぶき”!』
 『リュー』

 《 “ふぶき” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥
   ハクリュー +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


突然、ハクリューの全身から冷気が吹雪きだし、アピールを終えたポケモンたちに襲い掛かってくる。

 『コン!』

 《 キュウコン -♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》


 『ディア!』

 《 ドレディア -♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》


司会『おぉーっと、補助技に集中していた2匹ですが、“ふぶき”に驚いて体勢を少し崩しました! これはマイナスポイントですね』


志満「あのハクリューは妨害特化みたいね」

曜「妨害特化?」

志満「うつくしさ部門だとちょっと珍しいんだけど……かっこよさやたくましさ部門だと、他のポケモンをびっくりさせてアピールの邪魔をする戦い方もあって、他のポケモンのアピールを掻き消すことで相対的に自分の順位を稼ぐのが妨害技なの」


しかし、そんな流れを意にも留めていないのか、
240: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:31:07.84 ID:bTwUl7S20

金髪のコーディネーター『キュウコン、“あられ”』
 『ココーン』

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥~
   キュウコン(リージョン) +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


アローラキュウコンの高い透き通った声と共に会場内をハラハラと霙のようなものを降り始め、照っていた日を遮ってしまう。

ついでと言わんばかりに大量の氷の粒が他のポケモンたちに降り注いで邪魔をする。


 《 ドレディア -♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 キュウコン -♥
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 ハクリュー -♥
   Total [ ♡♡♡ ] 》


司会『おっとぉ!? 1ターン目の仕返しかぁ!?』


曜「うわ、すご……」

志満「後手に回った分、まとめて妨害を出来る技を選んだみたいね……」


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
         .ドレディア✪  ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ]
          .キュウコン ♡♡ ♥♥♥♥        [ ♡♡♡     ]
          .ハクリュー ♡♡ ♥           [ ♡♡♡     ]
   キュウコン(リージョン) ♡♡♡            [ ♡♡      ] 》


他のポケモンに大きく減点が付いたためか、今度はアローラキュウコンの足元が真っ先にライトアップされる。


司会『3ターン目です!』


金髪のコーディネーター『キュウコン、“オーロラベール”』
 『コーーーーン』

 《 “オーロラベール” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡♡ ◆
   キュウコン(リージョン)◆ +♡♡ ExB+♡ (*)CB+♡♡♡ (*CB=コンボボーナス)
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


コーディネーターの指示と共に、再び会場がオーロラに包まれる。

さっきの“オーロラビーム”のときとは非にならない規模で。


曜「ほわぁ……きれい……」


司会『おーっと!? これは前ターンの“あられ”から繋いだようです!! 審査員の方たちも思わずニッコリしています!!』

曜「……繋いだって?」

志満「技のコンボが成立したってことよ。次のターンを見据えて、前のターンに次の技が栄える技を使っておくの。これで大きくポイントを稼ぐのがコンテストの定石なのよ」

曜「そういうのもあるんだ……! それじゃ、“あられ”から“オーロラベール”を使ったからコンボになったんだね。……あ、でもこれまた妨害されて掻き消されちゃうんじゃ……」

志満「……“オーロラベール”なら、平気だと思うわ」

曜「え?」
241: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:33:02.46 ID:bTwUl7S20

コーディネーター3『ド、ドレディア! “ギガドレイン”!!』
 『レディア~~』

 《 “ギガドレイン” かしこさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
   ドレディア✪ +♡ (*)✪B+♡ (*)ExP-♥  (*✪B=調子アップボーナス、ExP=エキサイトペナルティ)
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ドレディアがアピールするアローラキュウコンにピンポイントで狙いを定めて“ギガドレイン”を使うが、


 《 キュウコン(リージョン)◆
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


志満「“オーロラベール”は防御の技……相手からの妨害を防ぐ能力の高い技だから、あれくらいの技じゃ妨害が成立しない」

曜「妨害を防ぐ技もあるんだね」

志満「それに、急な妨害が重なったせいでコーディネーターも焦ったみたいね」

曜「え?」


司会『おっとぉ? 審査員の皆さん、強引な妨害の“ギガドレイン”に少し苦笑い……うつくしさ部門でかしこさ技はあまり好まれませんねぇ。エキサイトが減少してしまいました』


志満「“ギガドレイン”は部門にあわないアピールだったから、エキサイトもさがっちゃったし、減点になっちゃったわ」


コーディネーター2『ハ、ハクリュー! “ふぶき”!!』
 『リューーーー!!!』

 《 “ふぶき” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥
   ハクリュー +♡
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ハクリューは再び“ふぶき”を放ち、妨害を試みるが、


 『レディーーッ!?』

 《 ドレディア✪ -♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 『コン』

 《 キュウコン(リージョン)◆
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


ドレディアは妨害を受けてしまうが、キュウコンは相変わらず“オーロラベール”で妨害を防いでいる。


志満「これまた、ことを急いたみたいね」

曜「?」


司会『おっと……ハクリューの“ふぶき”、これは前のターンと同じ技ですねぇ。同じ技の連発はあまり印象がよくなく、減点の対象になってしまいます。妨害合戦で判断を誤ってしまったのでしょうか』


 《 ハクリュー -♥
   Total [ ♡♡♡ ] 》


志満「同じ技を連続で使うのは基本的に減点の対象になるの。同じ技ばっかりだと見てる側も飽きちゃうから……この場合は部門と同じタイプのアピールでも、エキサイトはあがらないわ」

曜「なるほど……」
242: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:35:34.32 ID:bTwUl7S20

コーディネーター4『キ、キュウコン!! “ねっぷう”!!』
 『コーーーンッ!!!!』

 《 “ねっぷう” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   キュウコン +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


最後尾、キュウコンが“ねっぷう”を吹きつけ全力の妨害。


 『コン』

 《 キュウコン(リージョン)◆
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


 『レディアーー!!!?』

 《 ドレディア✪ -♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》


 『リューーーッ!!!』

 《 ハクリュー -♥♥
   Total [ ♡ ]》


他の二匹が妨害を受けて減点されるが……やはり、アローラキュウコンは“オーロラベール”のお陰で平気な顔をしている。


曜「ん……皆なんで、アローラキュウコンは“オーロラベール”を使ってるのを見てるに、妨害技を使うんだろう……?」

志満「技はライブアピール以外はターンの最初に全員何を出しておくか予め決めておかないといけないのよ」

曜「え、そうなの?」

志満「そうじゃないと、防御技の駆け引きの意味合いが薄まっちゃうからね」

曜「言われてみれば……それもそうか。じゃあ、コーディネーターはターンが始まったときに決まったアピール順だけで、アピールするか防御するか妨害するか、考えないといけないんだね」

志満「ええ、そういうことよ。さすが曜ちゃんね、飲み込みが早くて、あんまり私が説明することがなくなっちゃうわね」

曜「いやそれほどでも……」


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン(リージョン) ♡♡♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ]
         .ドレディア✪ ♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡    ]
          .ハクリュー ♡ ♥♥♥   [ ♡        ]
          キュウコン ♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡   ] 》


司会『さあ、4ターン目はアローラキュウコン、キュウコン、ドレディア、ハクリューの順です!』


金髪のコーディネーター『キュウコン! “こなゆき”!』
 『コーーーンッ』

 《 “こなゆき” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   キュウコン(リージョン) +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


アローラキュウコンが鳴き声をあげると共に細雪が辺りに舞い散り始める。

“こなゆき”は差し込む太陽の光や、会場内のスポットライトを反射して幻想的に光る。

その光景に思わず息を呑むオーディエンス。

そして、そこに畳み掛けるように、
243: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:36:39.85 ID:bTwUl7S20

金髪のコーディネーター『キュウコン! ライブアピール行くわよ!』
 『コーーンッ!!!!』

金髪のコーディネーター『“アイシクルグレース”!!』
 『コーンッ!!!!!』

 《 “アイシクルグレース” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 こおりタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   キュウコン(リージョン) +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


アローラキュウコンの息吹と共に、周囲が一気に冷やされ、空気が凍り、辺りに複数の氷の結晶が浮かび上がる。

その結晶は、同時に炸裂して、砕けた結晶が光を乱反射して、会場に七色の光を降らせる。


司会『決まりました!! ライブアピール!! 圧倒的な美しさです!!』


曜「うわぁ……綺麗……」


思わず見蕩れてしまう。

さっきのドレディアの技もそうだったけど、ライブアピールは本当に圧倒的な演技で会場を魅了している。


司会『さあ、コンテストライブは続行中です。次のアピールはキュウコン……えっと、ほのおタイプのキュウコンです!!』


コーディネーター4『キュウコン! “かえんほうしゃ”!!』
 『コンコーン!!』

 《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   キュウコン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


キュウコンが吐いた炎熱が会場に火の粉を散らす。


司会『これは手堅くうつくしい“かえんほうしゃ”! 文句なしの高評価ですね!』


志満「手堅いアピールね」

曜「ふんふん」


司会『次はドレディアの番です!』


コーディネーター3『ドレディア、“すいとる”』
 『レディァー』

 《 “すいとる” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ドレディア✪ +♡♡♡♡ ExB+♡ ✪B+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


司会『さあ、手堅いアピールが続きます!』


コーディネーター2『ハ、ハクリュー!! “はかいこうせん”!!!』
 『……リュウウウウウウウウウ!!!!』

 《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   ハクリュー +♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》


曜「うわ!?」


不意に、破壊の一閃がステージ上を跳ね回る。
244: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:38:49.82 ID:bTwUl7S20

 『レディッ!?』

 《 ドレディア -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》


 『コーンッ!!!』

 《 キュウコン -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡ ] 》

 『コンッ』

 《 キュウコン(リージョン) -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》


“はかいこうせん”と言うだけあって、その凄まじい威力に先ほどまで凛としていたアローラキュウコンまで僅かにその身を引いてしまう。


曜「ま、まさか、まだ逆転を狙って……」

志満「うーん……あれは破れかぶれかな」

曜「え?」


司会『目論見どおりか、大きく周りの妨害には成功しましたが、“はかいこうせん”は残念ながらかっこよさの技なので、エキサイトボーナスはありません……それに加えて──』


志満「反動で次のターンは行動不能」

曜「……あ、そっか」


“はかいこうせん”ってそういえばそういう技だった。


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン(リージョン) ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ]
          .キュウコン ♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡     ]
         .ドレディア✪ ♡♡♡♡♡⁵♡ ♥♥♥♥       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡        ]
          .ハクリュー ♡♡♡♡              [ ♡♡♡♡♡           ] 》


司会『さぁ、運命の最終ターン!! ここまで華麗にアピールを成功させているアローラキュウコンからのアピールです!』


金髪のコーディネーター『さて、キュウコン』


金髪のコーディネーターがアローラキュウコンと共にライトアップされる。

と、共に腕を目の前でクロスさせた。


曜「え?」


私は突然のその行動に驚いて、志満姉に解説を求めようとしたが、


志満「え……」


志満姉も驚いた顔をしていた。

金髪のコーディネーターの手首にしてあった腕輪が突然キラリと光り、そのまま、機敏な動きで腕の交差を何度か組み替え、


金髪のコーディネーター『行くわよ!!!』


掛け声と共に、横に、縦に、素早く、両腕を真っ直ぐ伸ばす。まるで鋭利な刃物のようなジェスチャー、

──と、共に腕輪はますます大きく光り輝き。

アローラキュウコンも光り輝いていた。


司会『おぉぉぉぉぉぉおおーーーーっと!!!? これはーーーーー!!!?』
245: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:40:29.20 ID:bTwUl7S20

金髪のコーディネーター『キュウコン!! 全力のZ技!! “レイジングジオフリーズ”!!!!』
 『コォォォォォォーーーーン!!!』


キュウコンの透き通る雄叫びと共に、キュウコンの足元から巨大な氷柱が突き出し、自らの身体をステージの上部に持ち上げる。

 『コオオオオオーーーン』

そして、高所からステージ状に向かって一気に冷気を放つ、

──バキリ

そんな、空気が凍りつく音と共に巨大な氷の大結晶が出来上がる。


曜「す……すご……!!」


金髪のコーディネーター『キュウコン』
 『コォーン』


コーディネーターの呼び声と共にキュウコンは氷柱を滑らかな動きで駆け下りて、


金髪のコーディネーター『フィニッシュ』
 『コン』


合図と共に氷の柱と大結晶が粉微塵に砕けて、キラキラとした宝石のようなダストが会場を包み込む。

会場は何が起きたのかわからなかったのか──静まり返っていたが。

パチ……

パチパチ……

パチパチパチパチ──

と、誰かが打った拍手をきっかけに、

──ウオオオオオオオオオオ

大歓声に包まれた。


曜「……すご……」

志満「まさか、コンテストZ技を使う人がいるなんて……」


Z技って言うのがなんなのかよくわからないけど、とにかくすごい技だったってことはわかる。


司会『……す、素晴らしいアピールに司会の私も言葉を失ってしまいました……!! これはすごい、コンテストでZ技を見ることになるとはー!!!』


司会のお姉さんもアローラキュウコンのアピールに興奮気味に喋っている。


司会『あ、っと……まだコンテストは終了していません! キュウコンのアピール、お願いします!!』

コーディネーター4『……え?』


原種キュウコンのコーディネーターは自分の番が回ってきたのに、完全にさきほどのZ技に見蕩れていたのか、


コーディネーター4『あ、え、えっと、キュウコン! “だいもんじ”!?』


ハッと我に返って、焦って技を指示する。


志満「……対戦相手すらも魅了する……。勝負あったわね」


私は志満姉の言葉を意識の端で聞きながら、未だ先ほどの余韻でキラキラとステージ上を煌くダイヤモンドダストの先で、

悠然と立つアローラキュウコンと金髪のお姉さんに、思わず見蕩れていた。


246: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:41:24.26 ID:bTwUl7S20



    *    *    *





ステージ会場の外に出ると、


曜「うわ……あれ、何?」


ものすごい人だかりが出来ていた。


志満「ステージを見ていたファンの人たちだと思うわ。あれだけすごいパフォーマンスだったから、無理もないかな」


言われてみて、人だかりの中心部の方を見ると、確かに少しだけ金色の髪がチラチラと見える。

あの人、長身なんだなぁ……などと、どうでもいい感想を胸中に抱いていると、


志満「曜ちゃんはいいの?」


志満姉がそんなことを言って来る。


曜「え? わ、私は別に……」

志満「完全に見蕩れてたでしょ? すっかりファンになっちゃったのかなって」

曜「え、あ、うーん……確かに見蕩れてたのは否定しないけど……」

志満「……けど?」

曜「なんというか……私もコンテストに出たら、あんな風にキラキラ出来るのかなって……気持ちの方が……強いかも」

志満「……ふふ、そっか」

曜「ポケモンたちに服とか作ってあげて……綺麗に着飾って……どんな風に技を組み合わせたらいいかな……!!」

志満「……着飾って……」


ステージ状で美しく振舞う、ラプラスの姿が脳裏に浮かんでは消えていく。


志満「曜ちゃん」

曜「え?」

志満「すっかりコンテストの虜みたいね」

曜「あ、いや……なんというか……。……そうかも」


まんまとアクセサリーいれをくれたお姉さんの言う通りになっている自分がいる。


志満「……ねえ、曜ちゃん。さっきのアローラキュウコン……すごかったけど、あれでも、まだコンテストの頂点じゃないのよ」

曜「え?」

志満「コンテストクイーン」

曜「くいーん……?」

志満「本当の上位コーディネーターのみが参加出来る『グランドフェスティバル』で優勝した人だけが得られる称号なんだけど……」

曜「う、うん……」

志満「……もし曜ちゃんが今ホンキでコーディネーターになってみたいって思ってるんだったら……せっかくだし、会ってみない?」

曜「? 誰に?」

志満「コンテストクイーンに、よ」

曜「え?」
247: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:42:14.42 ID:bTwUl7S20

私は志満姉の言葉に眉を顰める。

それってつまり、この地方で最も優秀なポケモンコーディネーターということだ。


曜「会えるなら会ってみたいけど……でも、そんなすごい人ってことは有名人でしょ? そんなに簡単に会えるの?」

志満「会えるわ」


志満姉は私の目を見据えてそう言う。


志満「付いて来て」

曜「え、あ、はい!?」


私は志満姉に手を引かれて、言われるがままに付いて行くのだった。





    *    *    *





──『STAFF ONLY』と書かれた扉の前に、黒服にサングラスを掛けて頭をスキンヘッドにしている怖そうなガードのお兄さんがいる。

私は志満姉に手を引かれて、そこに向かって一直線に進んでいた。


曜「え、ちょ、志満姉!?」


そのままずんずんと進んでいく志満姉。

ええ!? まさかの強行突破!?


曜「ちょ、それはまずいって……!!」

志満「こんにちは」


──と、思ったら普通にガードの人に挨拶してるし!!


スキンヘッド「ああ、志満さんですか。そちらの子は?」

志満「妹の友達なんだけど、コンテストにすごく興味があるみたいで……通して貰っても大丈夫ですか?」

スキンヘッド「ええ、志満さんのご紹介ということなら」


そう言ってガードのお兄さんがドアの前を開けてくれる。


曜「……ええ……?」


予想外の展開に呆けていると、


志満「ほら、曜ちゃん」

曜「え、あ、はい」


志満姉に手を引かれ、一緒に『STAFF ONLY』のドアを潜る。


曜「……??????」


完全に置いてけぼり状態の中、入った室内の奥の方から、女性の声が聴こえて来た。
248: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:43:08.02 ID:bTwUl7S20

 「絵里さん、あのままだともみくちゃにされちゃうと思うんだけど……。あの人ステージ上やバトルだとビシっとしてるのに、プライベートはなんかヌケてるのよねぇ……。適当なところで救出してあげてもらっていい?」

 「はい、承知しました」


そんなやり取りのあと、黒服の人が私たちと入れ替わるように外に出て行く。

──その先に、声の主が居た。


曜「……え?」


そこには見覚えのある、そこにはゆるふわロングなブラウンヘアーの女性が、


志満「あんじゅちゃん! 久しぶり!」

あんじゅ「あら? もしかして、志満?」


そう言いながら、志満姉はその女性──あんじゅさん?──と抱擁を交わす。


曜「ええ……???」


もう今日私は何回馬鹿みたいに口を開けて呆ければいいんだろうか。

状況についていけず、ポカンとしていると、


あんじゅ「あら? あなた……」


あんじゅさんがこちらに気付いたのか、


志満「あら? もしかして、あんじゅちゃん、曜ちゃんと既に知り合いなの?」

あんじゅ「知り合いと言うか……まあ、ちょっと運命的な邂逅を交わしちゃった子ってところかしら」

曜「え、えぇーと……?」


さっきアクセサリーいれをくれた自称コンテスト会場関係者のお姉さんと志満姉が知り合いで……???


志満「あ、えっと、曜ちゃん」

曜「は、はい」

志満「この人が、現クイーンよ」

曜「──は?」


もう、今日の私はダメかもしれない。

顎が呆けた形で固定されそうだ。


あんじゅ「ふふ、それじゃ改めて」


──フワリとスカートドレスとはためかせながら、一歩前に出て、彼女は、


あんじゅ「コンテストクイーンのあんじゅよ。よろしくね。えっと……曜、でいいかしら?」


そう自己紹介してくれました。

かくして、私は超有名人と簡単に知り合いになってしまったのであります──。


249: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 11:43:34.43 ID:bTwUl7S20


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】
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 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.13  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:9匹


 曜は
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...To be continued.



250: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:27:48.37 ID:bTwUl7S20

■Chapter019 『グランドフェスティバルを目指して』





あんじゅ「それで志満」

志満「?」

あんじゅ「確かに曜とは運命的な邂逅をしたところがあるから、ここに連れて来たその勘は流石だと思うんだけど……」


あんじゅさんはそう言いながら私のことをジロジロと観察し始める。


あんじゅ「そうは言っても、あなた素人よね……?」

志満「あんじゅちゃん、若い芽を摘むようなこと言っちゃダメよ……?」


志満姉はそう言ってくれるけど、

──そりゃそうだ。

私はコンテストの経験もない。志満姉があんじゅさんとどういう関係なのかはわからないけど、たまたま知り合いだったからという理由でこの地方の頂点にいる人の楽屋にタダで通して貰うなんて都合が良すぎる。


曜「い、いや……会えただけでも光栄なんで! 私、やっぱり失礼しますっ」


そういって、すぐさまスタッフルームを飛び出そうとする私を、


志満「待って、曜ちゃん」


志満姉が引き止める。


あんじゅ「……志満はその子に何か期待してるの?」

志満「曜ちゃんはきっとすぐに伸びるわ」

曜「えぇ!?」

あんじゅ「根拠は?」

志満「私の勘がそう言ってるの」

曜「えぇ……」


勘って……千歌ちゃんみたいな……。

落ち着いてるように見えて、やっぱそういうところは姉妹ってことなのかな。


あんじゅ「んー……志満の勘はバカに出来ないところがあるし……」

曜「ええ……」


あんじゅさんもあんじゅさんで、なんか納得しかけてる……。

私なんかただコンテストを見て、口開けて感激してただけだと思うんだけど……。


あんじゅ「曜、だったわね」

曜「え、あ、はい!」

あんじゅ「あなたコーディネーターを目指すに当たって目標とかあるのかしら?」

曜「え、目標……」


いきなりそう問われて、困ってしまう。

今さっきやってみたいなって思っただけだし、
251: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:29:27.87 ID:bTwUl7S20

志満「もちろん、コンテストクイーンよね!」

曜「え、えぇ!?」


さっきから私、『え』で構成された台詞ばっかり言ってるんだけど……。


あんじゅ「コンテストクイーン、目指すの?」

曜「え、えーと……まあ、やるんだったら、目指したい……かな?」

あんじゅ「……へぇ~♪」


言ってみてから、それが目の前にいるあんじゅさんを打ち負かすと言う意味なのに気付き、


曜「え!? あ!! いや!? な、なれたらいいなーみたいな話で、あんじゅさんに勝てるとかそういう話じゃなくて!!?」


そもそもデビューもまだだし。


あんじゅ「ふふ、わかってるから大丈夫よ~。でも、現役クイーン目の前なのに、思わずそんな言葉が出ちゃうところは嫌いじゃないわ」

曜「あ、あう……ご、ごめんなさい……」

あんじゅ「あなたなかなか面白い子ね」


あんじゅさんは縮こまる私を見ながら、くすくすと笑う。

……どうやら、悪い印象ではなさそうで安心したけど……。

と、思いながらチラっとあんじゅさんの方を見ると、


あんじゅ「……」


あんじゅさんが志満姉にアイコンタクトを送っているのがなんとなくわかった。

『まるで、ホントに理由はこれだけ?』とでも聞いてるような、

それを受けてか、


志満「ねえ、曜ちゃん」


志満姉が私に話しかけてくる。


志満「今日のコンテスト……どうだった?」

曜「え?」

志満「率直な感想でいいから」

曜「え、えっと……すごかった……かな?」

志満「他には?」

曜「え、えーと……そうだな……二次審査は戦略があって、奥が深かったなって感じたけど……」

志満「けど?」

曜「それに比べると、一次審査が地味だったような……それこそ、もっと工夫が出来るんじゃないかなって」

あんじゅ「……工夫?」


私の言葉に何故だか、あんじゅさんが食いついてきた。


曜「いや、その……アクセサリー入れがあるってことは、ルール上ポケモンにアクセサリーを付けるのはいいんですよね?」

あんじゅ「ええ、むしろ推奨されるわ」

曜「その割には、出場してたポケモンたち、ワンポイントのリボンとかをしてたくらいで……私だったら──」
252: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:31:20.14 ID:bTwUl7S20

──私だったら、


曜「もっと自分のポケモンをうつくしく魅せるために、衣装から全部考えてあげたいかなって……」

あんじゅ「……うふふ、なるほどね……」

曜「って、あ、ご、ごめんなさい! 生意気でしたよね!」

あんじゅ「志満がこの子をここに連れて来た理由、なんとなくわかったわ」

曜「……え?」

あんじゅ「まあ、気持ちだけでどこまであがってこれるかはわからないけれど……いつかグランドフェスティバルで会えること、楽しみにしてるわ」

曜「え……あ、はい……」


それだけ言ってあんじゅさんは、室内の時計を一瞥する。


あんじゅ「そろそろ次のお客さんが来ちゃうんだけど……同席する?」

志満「あ、ううん。他に用事があるなら、この辺でお暇しようかな。ごめんね、アポもなしに」

あんじゅ「全くよ……旅館継いで落ち着いたと思ったら、そういうところ昔と変わらないんだから……」

曜「昔……?」

志満「あー!! 妹の友達の前でそう言う話しないでー!! おしとやかなお姉さんで通ってるんだからー!!」

あんじゅ「おしとやかなお姉さんねー……」

志満「それじゃ、またね! あんじゅちゃん! 曜ちゃん行きましょ!」

曜「え、あ、はい」


再び志満姉に手を引かれ、退室を促される。

──その背に、


あんじゅ「志満」


あんじゅさんが呼び掛ける。


あんじゅ「楽しみにしてるわ」

志満「……ええ」

曜「……?」


意味深なやり取りを残して、私たちは現クイーンの楽屋を後にした。





    *    *    *





──その後、日もとっぷり沈んで、志満姉と同じ部屋で宿を取ったところで……なんとなくさっきのやりとりを言及してみる。


曜「志満姉って昔は、なんというか……おてんばだったの?」

志満「え!? えーと、どうだったかしら、おほほ……」


雑な誤魔化しに内心苦笑する。こういうところもなんだか千歌ちゃんに似てるし、

きっと昔の志満姉は、今の千歌ちゃんみたいだったんだろうなぁ……。

やっぱり歳は離れてても、姉妹と言うことか。
253: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:34:51.36 ID:bTwUl7S20

志満「そ、そんなことよりも、曜ちゃんのデビュー戦についての話をしましょう!」

曜「え、デビュー戦!?」


私、今日見たコンテストライブみたいなパフォーマンス出来る自信ないんだけど……。

そんな考えが顔に出ていたのか、


志満「そうは言っても、初心者用のレギュレーションよ?」


そう補足される。


曜「そういえば、さっきもグランドフェスティバルに出られるのは上位コーディネーターって言ってたっけ……」

志満「いきなりあのレベルを求められると競技人口なんてあっと言う間に減っちゃうもの」

曜「……どうすれば、上位コーディネーターになれるの?」

志満「あら……さっきはあんじゅちゃんの前であんなに遠慮してたのに、実はやる気まんまん?」

曜「い、いや、そんなつもりじゃ……でも目標を持つなら高いほうがいいし、知っておいて損はないかなって……!」

志満「ふふ、冗談よ。それじゃ、それも含めてオトノキ地方のコンテスト大会の仕組みについて説明するわね」


そう前置きしてから、志満姉が説明を始める。


志満「まず、さっきも言ったけど、この地方では会場ごとに競う部門が決まっていて、ここフソウタウンは“うつくしさ”部門の会場になるわ」

曜「ふむふむ」

志満「他の部門はそれぞれ“かっこよさ”はサニータウン会場、“かわいさ”はセキレイシティ会場、“かしこさ”はダリアシティ会場、“たくましさ”はコメコシティ会場になるんだけど……いきなり知らない街の名前言われても覚えられないだろうから、これは今後街に訪れたらそこに行くくらいの気持ちでいいと思うわ」

曜「はーい」

志満「そして、次に階級。ビギナーランク、ノーマルランク、グレートランク、ウルトラランクの4つが開催されていて、ビギナーランクは随時各会場で行われているわ」

曜「まず私が出るのはビギナーランクってこと?」

志満「ええ、そういうことになるわね。ただ、ビギナーランクはホントに初心者向けのレギュレーションだから、上の階級を目指すなら普通はノーマルランクからエントリーすることになるわ」

曜「なるほど」

志満「それでここからがちょっとややこしいんだけど……それぞれのランクで昇級点って言うものがあるの」

曜「昇級点?」

志満「次のランクに挑むための権利を得るためにコーディネーターはこのポイントを溜めていくの」

曜「あ、じゃあ……いきなりウルトラランクとかに挑むことはそもそも出来ないんだ」

志満「そういうこと。昇級点はコンテストで勝てば増えるわ。部門ごとにノーマルランクは誰でも参加可能だけど、グレートランクは1点以上、ウルトラランクは3点以上昇級点を持ってないと参加出来ない」

曜「ポイントはどうやったら貰えるの?」

志満「ノーマルランク以上の大会で1位は3点、2位は1点、3位は0点、4位は-2点ね。グレートランクはそれぞれ昇級点が2倍、ウルトラランクでは3倍になる」

曜「あ、減ることもあるんだね」

志満「0点以下になっても持ち点がマイナスになることはないけど、例えばグレートランクで4位を取ると持ち点は-4点だから、ほぼ降級が確定で、ノーマルランクからやり直しね」

曜「うへぇ、厳しいなぁ……」

志満「逆に言うなら無理に上位ランクに進まずノーマルランクで3回2位を取ってウルトラランクを目指す人もいるし、ノーマル→グレートでそれぞれ2位を取ってもウルトラランクに昇級出来るわ」

曜「あ、ポイントは全ランクで共通なんだね……となると」

志満「ええ、ノーマルランクで1位を取ればいきなりウルトラランクへの挑戦権を得ることも出来るわ。もちろんウルトラランクにあがっても4位で負けたら-6点でノーマルランクからやり直しだけどね」

曜「ポイント獲得のチャンスも増えるけど、負けたときの点の減り方も大きいから、そこは考えてレギュレーションを選ばないといけないってことだね……」

志満「ただ、一回上のランクに参加したら、降級が決まるまで下のランクへの挑戦権もなくなっちゃうのは注意点ね」

曜「あ、そっか……そうじゃないと上位ランクの人が下位ランクでポイント稼ぎ出来ちゃうもんね」

志満「そういうこと。まあ、でも曜ちゃんはグランドフェスティバルを目指すんだから、全部1位を目指しましょう!」

曜「えぇ!? い、いきなりハードル高すぎない……?」
254: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:39:35.65 ID:bTwUl7S20

……全部1位って、今日始めてコンテストライブを見たばっかなのに、

……あれ? そういえば……。


曜「上位コーディネーターって具体的にどれくらいの人のことを指すの?」


いわゆる、グランドフェスティバルなるものに参加出来るレベルの人はどれくらい点を稼げばいいんだろう?


志満「年間での獲得ポイントの合計が100点以上のコーディネーターよ」

曜「え、100点も!?」

志満「100点以上ポイントを稼ぐと、マスターランクって呼ばれるランクに昇級して、最上位大会のグランドフェスティバルに参加出来るようになるわ」

曜「え、えーっと……ウルトラランクで勝つと3倍ポイントだから……優勝で9点だよね? それだと100点になるには……」

志満「最初のノーマルランク含めて、12連勝すれば最速で100ポイント以上溜まるわね」


12連勝……気が遠くなりそう。

まあ、最強を競う祭典なんだし、そんなもんなのかな……?

──あれ?


曜「そういえば、志満姉……会場によってコンテスト大会の開催頻度が違うって言ってなかった?」

志満「そうね。ノーマルランク以下はどこの会場でも週に1回以上はやってる。けど、グレートランク以上の開催は、一番多いここフソウ会場で週に1回、一番少ない場所だとコメコ会場で月に1回の開催になるわ。加えて同じ週に複数回、同会場、同ランクに出場することは出来ないから、ノーマルランクでコツコツ稼ぐのはかなり大変なの」

曜「んー? それだとコメコシティの大会……えっと」

志満「たくましさ部門ね」

曜「そうそう! たくましさ部門だけだと、ポイント溜めるの大変だよね?」

志満「だから全会場の合計ポイントを競うんだけど……逆に言うなら開催頻度の少ないコメコ会場は自然と競技人口も少ないから、ライバルも少ないの。だから、逆にここを狙い撃ちでポイントを稼ぐ人もいるのよ」

曜「な、なるほど……」

志満「そして、年間昇級点が100ポイントに到達したコーディネーター──つまり、マスターランクのコーディネーターが3人になると、その時点でのコンテストクイーンを含めた4人でのマスターランク大会、グランドフェスティバルが開催されるのよ」

曜「ふむふむ……え?」


──その時点で?


曜「じゃあ今はまだマスターランクの人って3人いないの?」

志満「3回連続でクイーンになると、永世クイーンで殿堂入り扱いになるの。それに加えてマスターランク大会は2位は持ち点を半分に、3位以下はその時点で0点になるから、その兼ね合いもあって、今期のマスターランクの人はあんじゅちゃんを除くとまだ2人しかいないわ」

曜「う、うわ……厳しい……」

志満「こうしないと、毎回同じ人たちがマスターランクでぶつかることの繰り返しになっちゃうからね。あ、ただ一度マスターランクにあがると年間ポイントを次の年に繰り越し出来るから、先にマスターランクになったら同ランクが3人揃うのを待つだけになるわ」

曜「なるほど……」

志満「ちなみにあんじゅちゃんは次が2回目のクイーン防衛戦。永世への王手になるわね」

曜「あんじゅさんってやっぱり強いんだ……と、言うか既に他に2人、マスターランクの人がいるんだね」


じゃあ、残りの椅子は一つ……。


志満「きっとこのままだと、今日出ていたアローラキュウコンのコーディネーターさんがここから10連勝して、マスターランクにあがってくると思うけど……」

曜「あ、そっか……フソウ会場は一番頻度が多いから……」


うつくしさ部門で周りを圧倒できる人だと、理論上一番早くポイントが稼げるから……。


曜「次のグランドフェスティバルは無理かぁ……」


大会の仕組みや志満姉の口振りからしても、グランドフェスティバル自体、数年に1回くらいしか行われない行事みたいだし、

私が出場するってなると、どれくらい先になるんだろう……。
255: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:41:08.74 ID:bTwUl7S20

志満「……と、思うでしょ?」

曜「え?」

志満「これだけだとうつくしさ部門をこなすメリットが大きくなりすぎちゃうから、特例措置があるの」

曜「特例措置?」

志満「かっこよさ、うつくしさ、かわいさ、かしこさ、たくましさ……この5部門全てのウルトラランク優勝経験がある場合、持ち点を倍にして扱うの」

曜「倍……」


ノーマルランク優勝で3点、そこからウルトラランクで9点加算されたら合計12点……ってことは、


志満「あのコーディネーターさんが毎週大会に参加するとは限らないし、仮にそうだったとしても、曜ちゃんがこれからオトノキ地方を廻りながら、全部門ウルトラランクでストレート優勝すれば全然間に合うってことね」

曜「お、おぉ!!」

志満「もちろん全部門制覇は簡単じゃないけどね。それぞれの部門ごとに戦略も変えなくちゃいけないし……でもグランドフェスティバルは全部門のコンディションが要求される特殊レギュレーションだから、無駄にはならないわ」

曜「なるほど……!」


じゃあ、一応私にもまだチャンスはあるんだ!


曜「それを聞いたら、ちょっとチャレンジしてみる気が起きてきたかも……!!」

志満「ふふ、それなら説明した甲斐があったわ」

曜「よーし! それじゃ早速ビギナーランクに──」

志満「あ、えーと……今日はもう参加受付が終わっちゃってるから……」

曜「……出鼻を挫かれた」

志満「明日以降の出場登録だけして、帰りましょうか。どっちにしろ基礎技術を教えないといけないから、今からコンテストの戦略についていろいろ教えてあげるわ」

曜「ヨーソロー! よろしくお願いします!」





    *    *    *





 「ハ、ハラショー……」


そう言いながら、金髪の女性が楽屋のソファーで項垂れている。


あんじゅ「絵里さん、大丈夫?」

絵里「……あ、ありがとう……あんじゅさん。ウルトラランク優勝となるとあんなに人に囲まれるものなのね」

あんじゅ「いや、あそこまでのは稀よ? Z技使うなんてびっくりしたわ」

絵里「……アローラ出身の人間の特権みたいなところがあるから、使わない手はないと思って」

あんじゅ「お陰様でいいものを魅せてもらったわ」


──ふと、わたしは先ほど新人のコーディネーターが言ったことが脳裏を過ぎり、今日と言う日の衆目を独り占めにした彼女にも聞いてみようと思った。
256: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:42:31.07 ID:bTwUl7S20

あんじゅ「絵里さん、ちょっと聞きたいんだけど」

絵里「? なにかしら?」

あんじゅ「絵里さんはキュウコンに服とか作ってあげないの?」

絵里「服……うーん、たまに考えるんだけど、いい案が浮かばないし……結局ルール的にも二時審査のウェイトが大きいから、そこを意識して重点的にトレーニングする方が効率的だと思うのよね」

あんじゅ「じゃあ、服はいらない?」

絵里「いらないとは言わないけど……アクセサリーでも十分こと足りてるし、キュウコンの魅力も引き出せてると思っているわ」

あんじゅ「そう……ありがとう、参考になったわ」

絵里「そう?」


やはり、と言った回答。

頭もよく回り、比較的効率主義な絵里さんらしい回答だと思った。


あんじゅ「きっとそういう効率的な考え方だとバトルも強くなるんだろうけれど……」

絵里「あんじゅさん、バトルはからっきしだものね」

あんじゅ「ホント……どっちも出来る人が羨ましいわぁ……」


ふと、バトルの話をしていて思いだす。


あんじゅ「それはそうと……仕事の方は大丈夫?」

絵里「仕事? ……一応休暇申請出して来たけど……?」

あんじゅ「ここ数日、オトノキ地方南部がざわついてるから、何か忙しいんじゃないかと思ってたんだけど……」

絵里「……え」


わたしの言葉を聞いて絵里さんはすぐにポケギアを取り出して、ポチポチと確認をし始める。


絵里「……ハラショー……」


そして、引き攣った笑いを見せてくれる。

やっぱり、この人プライベートは少しポンコツなところあるのよねぇ……。


絵里「海未から恐ろしい数の着信履歴が……」

あんじゅ「早く戻った方がよさそうねぇ……関係者用の裏口を開けるから、そこから出るといいわ」

絵里「ありがと、そうする……もう、せっかくの休暇なのにぃ……」


さっきのステージ上の凛とした姿からは想像できないような情けない声を出しながら、よろよろと裏口への通路へと向かっていく。


あんじゅ「そうだ、絵里さん」

絵里「? なにかしら?」

あんじゅ「ツバサに伝言して貰っていい? たまには顔くらい見せに来なさいってあんじゅが言ってたと」

絵里「わかった、伝えておくわ」


旧友へのお小言を添えて、絵里さんを見送ったあと、


あんじゅ「……」


ボールを放る。


 「リリィリリィ」
257: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:44:28.80 ID:bTwUl7S20

綺麗な鳴き声と共に青と水色を基調とした上に黄色い放射状の羽模様を持つビビヨンが飛び出す。


あんじゅ「ビビヨン」
 「リリィー」


手の甲を持ち上げ、名を呼ぶと、ビビヨンはそこに止まる。

チョウチョ型のポケモン特有の翅に比べて、小さいスケールの身体には衣服が纏われており、

それを見て、昔のことを思い出す。


 『あんじゅさん、きっとこの服着せたら、ビビヨンちゃんもっと魅力的になると思うんですっ!』


敵であるはずの、ライバルであるはずのわたしに、そんな助言をしてきた彼女を思い出しながら……。


あんじゅ「真っ先にポケモンを着飾るなんて発想……わたしにはなかなか出なかったのに……もしかしたら、もしかするのかもしれないわね……」
 「リィーー?」


わたしは天井仰ぎ見ながら一人呟くのだった。



258: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/02(木) 15:46:02.84 ID:bTwUl7S20

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 主人公 曜
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      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:9匹


 曜は
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261: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:44:36.86 ID:ISz0KMwo0

■Chapter020 『コメコシティ』 【SIDE Chika】





千歌「──あ、あとちょっと……」


揺れる木々が続いた景色に切れ目が見える。


千歌「森、抜けたー!!」
 「ワフッ」


満身創痍なまま、森を抜けた先にはすぐに町が見えて、ポケモンセンターの赤い屋根がすぐに視界に入る。


千歌「皆を早く回復しなくちゃね! メテノも」
 「ワフッ」


凛さんからも忠告されたし、まずはポケモンセンターで回復!


千歌「いこ、しいたけ」
 「ワフッ」


コメコシティで最初にやるイベントはポケモンセンターでの休息になりそうです。





    *    *    *





ジョーイ「おまちどおさま! お預かりしたポケモンは、皆元気になりました!」

千歌「ありがとうございます! メテノも大丈夫でしたか……?」

ジョーイ「だいぶ衰弱していましたけど、回復をしたら外殻も復活しましたし、もう大丈夫ですよ!」

千歌「そっか、よかったぁ……」


これでひとまずは一件落着……かな?

さっき襲ってきたグレイブ団って言う人たちも気になるけど……それよりも、


千歌「なんか、さっきから人がいったりきたりしてる……」


ポケモンセンターで手持ちの回復を待ってる間も室内外関わらずあちこちで人が右往左往している。


千歌「なにかあったんですか?」

ジョーイ「町の北部に田園地帯があるんですけど……そこにもメテノが落ちたらしくて」

千歌「ここにも……そっか」

ジョーイ「幸い怪我人は出なかったし、家屋への被害もなかったんですけど……」

千歌「けど?」

ジョーイ「田園への道が……」


ジョーイさんが続きを話そうとしてくれたそのとき、

入口の方から、人の声。


牧場おじさん「今は無理に田園へ行くのは危険だよ、花陽ちゃん」

牧場おばさん「しばらく様子を見たほうが……」
262: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:46:17.41 ID:ISz0KMwo0

思わず振り返って見ると、農家の格好をしたおじさんたちとそれに囲まれた、小動物のような印象を受ける女の子が一人──花陽ちゃんと呼ばれたのは恐らくあの人のことだろう。


花陽「でも、田んぼの様子が心配だから……おじさんたちもそろそろ牧場のお仕事の時間でしょ? あとは花陽が一人でどうにかするので……」

牧場おじさん「いやぁ、でもなぁ……」


なにやら揉めている……?


千歌「あの……何かあったんですか?」


私はその集団に近付いて声を掛ける。


花陽「あ、えっと……大丈夫です。これからすぐにわたしが向かうので……」

牧場おじさん「いやぁ、でも今は無理に近付かないほうが……」

千歌「……?」

牧場おばさん「……はて、そういえばあなた見ない顔だねぇ? 旅人さんかい?」

千歌「あ、はい」

牧場おばさん「ならもしよかったらなんだが、花陽ちゃんについていってあげてくれないかねぇ……この子、田んぼのことになるとどんな無茶でもするから……」

千歌「え?」

花陽「お、おばさん! 関係ない人を巻き込むわけにいきません! これはコメコシティの問題であって……」

牧場おじさん「でも、止めても花陽ちゃん無理するだろぉ? 俺たちも仕事があるからずっとは手伝ってやれないし……」

花陽「大丈夫です! わたしこれでもコメコのジムリーダーなんですよ!」

千歌「え!?」


突然、飛び出した情報に私は驚いて声をあげてしまう。


花陽「え?」


花陽さんが不思議そうな顔でわたしの方を見つめてくる。


花陽「えっと……?」


困惑しているようだけど……。

これって前回と同じパターンじゃ……。


千歌「あのぉ……参考までに聞きたいんですけど」

花陽「な、なんでしょうか?」

千歌「今ポケモンジムに行っても……ジムリーダーの人、いないってことですよね」

花陽「……もしかして、挑戦者の方ですか?」

千歌「……はい」

花陽「ご、ごめんなさい……今はちょっと……」


ですよね。
263: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:48:39.14 ID:ISz0KMwo0

千歌「……わかりました! 私、千歌です! 花陽さん……でいいですか? お手伝いさせてください!」

花陽「え? えぇ?? でも……」

千歌「その代わり、解決したらジムバトルしてくれませんか!」

花陽「え、えぇーと……それは構わないですけど……」

千歌「だから、事情聞かせてもらえませんか?」

花陽「え、えーっと……」


花陽さんは私の申し出に戸惑っていたけど、


牧場おじさん「花陽ちゃん。こちらのお嬢ちゃんもそう言ってくれてるんだし」

牧場おばさん「手伝ってもらえるとわたしたちは安心だよぉ……」

花陽「……わかりました」


おじさんたちを納得させるためにか、花陽さんは渋々と了承し、


花陽「えっと……実はですね……」


事情を話し始めた──。





    *    *    *





千歌「……あの子ですか?」

花陽「はい、あの子です……」


私は花陽さんに案内される形で、ポケモンセンターの北にある田園へと続く道に来ていた。

その道を横切るように流れる小川があり、そこには更に壊れた桟橋のようなものの残骸が見える。


花陽「近付くだけで攻撃されちゃうんです……」


そう言う花陽さんの視線の先には……薄茶色のイタチのようなポケモンが辺りを警戒しているのが見える。

私はいつも通り図鑑を開く。

 『ブイゼル うみイタチポケモン 高さ:0.7m 重さ:29.5kg
  2本の 尻尾を スクリューの ように 回して 泳ぐ。
  首に ある 浮き袋は 空気を 溜め込む ことが でき
  浮き輪の ように 膨らみ 水面に 出るときに 使う。』


──話を聞いたところによると、昨晩田園地帯にメテノが落ちたあと、そのメテノを保護しに行った帰り、突如桟橋を破壊しながらあのブイゼルが現れ、川に近付く人やポケモンを攻撃し始めた、ということらしい。

……でも、


千歌「うみイタチポケモン……海のポケモンじゃないんですか?」

花陽「普段は海の近くに暮らすポケモンなんですけど……何故だか、今はあんな風に川の一帯を警戒していて……」

千歌「これだと田んぼまで行き来が出来ないですね……」

花陽「田んぼだけなら、まだ……良い……いや、全く良くはないんですけど……!!」

千歌「!? は、はい!?」

花陽「あ……ご、ごめんなさい。ちょっとお米のことになると、興奮しちゃって……」

千歌「は、はぁ……」
264: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:51:15.77 ID:ISz0KMwo0

なんか独特のテンポを持った人だなぁ……。


花陽「あの小川から田んぼの水や、その他にも農園や畑に水を引いてるんですけど……その際に近くで仕事をしていた、ドロバンコやディグダも手当たり次第に襲われる始末で……」

千歌「戦闘で勝てないんですか……?」

花陽「うーん、最終手段はそれでもいいんですけど……出来れば、平和的に解決したいんです……お互い自然に暮らす生き物同士、排除すればいいと言うのは乱暴だと思うし……それに、海辺に暮らすブイゼルが小川を占拠するなんて何か特別な事情があるんじゃないかって思うので……」

千歌「なるほど……」

花陽「せめて、理由さえわかれば……」


理由……かぁ。

小川に近付かれたら困る理由がある……ってことだと思うけど、


千歌「水の中に何かがある……?」

花陽「……だとは思います」


そのとき、近くをふわふわとアブリーが小川の方に近付いていくのが見える。

恐らく野生のアブリーだと思う。


 「ゼルルル!!!!」

 「アブリ!?」


アブリーを視界に捉えたと思ったら、激しく威嚇し、

 「ゼルゥ!!!!」

激しく“みずでっぽう”を撃ち出す。

 「アブリリィ~~」

何もしていないのに突然攻撃されて驚いたアブリーはすぐさま反転して、森の方へ逃げていく。


花陽「あんな感じで水の中を確認するどころじゃないんですよ……近付くだけで、攻撃されちゃうんで」

千歌「うーん……」


……確かにこれは困った状態だ。

けど、ここで話していても始まらない。


千歌「平和的解決が目的なんですよね?」

花陽「は、はい……」

千歌「それじゃ、本人に聞いてみるしかないですよね! あ、この場合、本ポケモン……?」

花陽「え、えぇ?」


私は草陰から立ち上がる。

すぐにその草音に気付いたのか、

 「ゼルルルルル!!!!!」

ブイゼルが威嚇してくる。


花陽「ち、千歌ちゃん!? 危ないから!」

千歌「大丈夫です! こういうの慣れてるんで!」

花陽「え、ええ!?」


自然の中でポケモンと遊んで育ったんだ、多少攻撃されるくらいなら──
265: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:52:20.39 ID:ISz0KMwo0

 「ゼルーーー!!!」

千歌「──わぷっ!?」


──と、思っていたら顔面に思いっきり、水を吹き付けられ、しりもちを着く。


千歌「……いつつ」

花陽「千歌ちゃん!? 大丈夫!?」

千歌「大丈夫です……」


相当警戒している。

なら、とにかく敵じゃないことをわかってもらう必要がある。


千歌「よし、リトライ!」

花陽「えぇ!?」


私は今度は両手を挙げた状態──手に何も持っていないのをアピールしながら、草陰を飛び出す。

 「ゼルルルルル!!!!」

依然激しく威嚇してくるけど、


千歌「敵じゃないよー!!」

 「ゼルーーーー!!!!」

千歌「──どわっぷ!?」


再び水を吹き付けられる。

ただ、今度は予測出来ていたので踏ん張ることで転倒は防ぐ、


千歌「セーフ……!」

花陽「ち、千歌ちゃん!! ホント危ないですから」


そんなチカを見かねてか、花陽さんも飛び出してくる。


 「ゼルルルルルルル!!!!!!!!」

未だ激しい威嚇。


花陽「そこまで身体を張らせるのは、町の人間として申し訳ないです……!! そこまでさせるくらいなら、一旦バトルで戦闘不能にさせるので……」

千歌「待ってください」


ポケットのボールに手を伸ばす花陽さんを静止する。


千歌「皆あの子と争いたいわけじゃないんですよね?」

花陽「そ、それは……そうですけど……」

千歌「なら、ちゃんと争わないで解決した方がいいと思います!」

花陽「……」

千歌「私は大丈夫なんで、野生のポケモンとケンカなんてちっちゃい頃からたくさんしてきたし、これくらいなら慣れっこだし!」

花陽「……でも」

千歌「大丈夫です!」

花陽「………………はぁ……わかりました。でも……ケガをさせたら、立つ瀬がないので」


花陽さんはそういって、後ろに向かってボールを放る。
266: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:53:20.41 ID:ISz0KMwo0

花陽さんはそういって、後ろに向かってボールを放る。


 「メェーー」


ボールからはヤギのようなポケモンが飛び出す。


花陽「メェークル、“グラスフィールド”」
 「メェー」


花陽さんが指示をすると一帯に草が生い茂る。


千歌「うわ……草が生えた」

花陽「これならちょっと転んでも、草が衝撃をやわらげてくれると思います……」

千歌「えへへ、ありがとうございます」

花陽「本当に無理しないでくださいね……? 本来はわたしたち町の人間が自分たちの力で解決しなくちゃいけない問題ですから……」

千歌「はい!」


私は足を踏み出す。


 「ゼルーーー!!!!」


再び“みずでっぽう”が飛んでくる。


千歌「──わぷ……!! 大丈夫だよー!! 敵じゃないよー!!」

 「ゼルルルル!!!!」

千歌「あなたがそこを守りたいのはわかったけど、そこを通れないと困る人たちがいるのー!」

 「ゼルゥゥ!!!」

千歌「そこになにかがあるのー!? 別に取ったりしないからー!」

 「ゼルーーーー!!!!」

千歌「──わぷっ!!」


さっきよりも気持ち強い勢いで水が飛んできて、再びしりもちをついてしまう。


花陽「千歌ちゃん!!」

千歌「だ、だいじょぶです!! “グラスフィールド”のお陰であんま痛くないんで!!」

 「ゼルゥゥゥ!!!!」


私は依然威嚇し続けるブイゼルに向かって、両手を広げたままゆっくりと前進する。


千歌「ホントに敵じゃないからー!」


敵じゃないと必死に伝えながら。

一歩、二歩、ゆっくりと前に進む。

 「ゼルル…!!」

三歩、四歩、足を前に、

 「ゼルル!!!!」

ブイゼルが突然2本の尻尾を激しく回転させ始める。


花陽「!! 千歌ちゃん!!」
267: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:55:50.09 ID:ISz0KMwo0

背後から花陽さんの声が飛んでくる。

その声が届いてくるのと時を同じくして、前からは強い風が吹く。

私の頬を掠めるように、


千歌「いっつ……!!」


右頬に鋭い痛みを感じた。

──真空の刃が私を掠めたことに気付く。


花陽「“かまいたち”……!! こ、これ以上はダメです!! 下がって──」

千歌「ダイジョブですっ!!」

花陽「!?」


私はブイゼルを視界から外さないように、花陽さんに目を配りながら。


千歌「ダイジョブです」


そう、伝えた。

──私はさっきから、この光景何かに似てるな……とずっと思っていた。

それがなんなのか、切れた頬の痛みから思い出す。

あの時、爆ぜた“ひのこ”の熱さを、

あの入江で出会ったヒノアラシの炎を、

身を守るために必死にその場にうずくまっていたあの子のことを……。

今回もどんなに激しく攻撃をしてきても、ブイゼルは一歩もあの場所を動かない。

ヒノアラシのとき同様に何かを恐れてる。でも、今回は自身の身の安全だけじゃないと思う。

あれだけ激しい威嚇。仮にあの場所を独占したいだけなら、もっと動き回って、もっと思いっきり攻撃して、私を追い払ってもいいはずなのにだ、


千歌「そこに、キミの大切なモノがあるんだよね……!!」


何かはわからないけど、守りたいものがあるんだ


千歌「でも、周りをただ攻撃するだけじゃ、ダメなんだよ……っ!」

 「ゼル…!!」


五歩、六歩、距離を詰める。


千歌「ここに暮らしてる、いろんな人たちと、ポケモンたちと、助け合って一緒に守ろう……?」


七歩、八歩、


 「ゼル…」


九歩、


千歌「怖く……ないから……ね?」


十歩、


 「ゼル…」


少し脅えた顔のブイゼルが手の届く距離にいる。
268: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:56:53.91 ID:ISz0KMwo0

千歌「大丈夫……キミの大切なモノはきっと、チカにとっても大切なモノだから……」


ブイゼルの頭を撫でる。

震えているのがわかった。


千歌「怖かったんだよね。でも、守らなくちゃいけないって……思ったんだよね」

 「ゼル…」


大人しくなったブイゼル、そのお腹の下には、

 「ミィー」「ゼリュー」

小さな小さな子供のブイゼルが2匹。首の浮き袋を膨らまして、顔だけ出した状態で。


千歌「よく頑張ったね……でも、もう一人で頑張らなくても大丈夫……皆で守るから……」

 「ゼル…」


ブイゼルは、わかってくれたのか、


 「ゼルゼル」

一言二言、子供たちに声を掛けると、

 「ミィーミィー」「ゼリュリュゥ」

小さなブイゼルたちが小川からのそのそと私の足元まで這い上がってくる。


千歌「えへへ、信用してくれて、ありがと」


そういって、私はブイゼルを小川から抱き上げた。

 「ゼル…」


千歌「う……思ったより、重いんだね、キミ……」


そういえば、さっき図鑑に30キロくらいあるって書いてあったっけ……。


花陽「千歌ちゃん……」


私の背後で草を踏みしめながら、花陽さんが近付いてくるに気付いて、


千歌「えへへ……解決しました」


後ろを振り返りながら、ブイサインをしてみせる。

 「ミィミィー」「ゼリュリュゥー」

そんな私の足元では、ブイゼルの子供たちが元気にじゃれついているのでした。





    *    *    *





 「ゼルゼル」

千歌「こっち?」


ブイゼルに導かれて、田園の少し奥まった方向進むと、少し高めの草陰の中に、細くて柔らかい枝や落ち葉などを集めた痕跡が見られる、
269: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 00:59:31.46 ID:ISz0KMwo0

千歌「これって……もしかして、巣?」
 「ゼル」

花陽「……まさか……ブイゼルがこんな場所で育児をしていたなんて……」


そこにはブイゼルの巣──だったものがあった。


千歌「海辺は天候によって荒れたりするから……子供を育てる間だけ、流れの穏やかな小川まで登ってきてたんだね」
 「ゼル」


先ほどとは打って変わって、大人しくなったブイゼルは、事情を伝えるためか、

 「ミィー」「ゼリゥー」

子供たちをその背に乗せながら、私たちをこの場所に案内してくれた。


花陽「ここは……ちょうど昨日メテノが落ちた場所の近くですね」

千歌「そのときの衝撃で、巣が吹き飛ばされちゃったから……焦って子供たちを連れて、安全な水中に避難してたんだね」

 「ゼル…」

花陽「ごめんね……メテノを捕獲するのに必死だったから……たくさん人がいったりきたりしてて、びっくりさせちゃったんだね……」

 「ゼルゥ…」


花陽さんがそう言いながらブイゼルの頭を撫でる。

もう敵意がないことがわかったのか、反撃はしてこない。


千歌「子供たちを守るために……一人で戦ってたんだよね、偉い偉い」

 「ゼルゥ…」

花陽「千歌ちゃん……本当にありがとうございました。わたしだけじゃ、こんな風に平和的に原因は突き止められなかったと思います……」

千歌「えへへ……どういたしまして」

花陽「ブイゼルたちはポケモンセンターで健康を確認したのち、また小川に返してあげるので……」

千歌「ブイゼルくんたちもそれでいい?」
 「ミィー」「ゼリュゥー」

千歌「ありゃりゃ……随分なつかれちゃったな……」

 「ゼル……」


私の言葉がわかったのか、ブイゼルは小さく頷いた。


千歌「じゃ、いこっか」

 「ゼル」


270: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 01:00:36.66 ID:ISz0KMwo0


    *    *    *





──さて、ポケモンセンターでジョーイさんに3匹のブイゼルたちを引き渡したあと、


花陽「……先ほどは本当にありがとうございました」

千歌「えへへ、もういいですって」


約束通り、花陽さんとコメコジムに訪れていた。


花陽「ですけど……ジムバトルでは手加減するわけにいかないので……」

千歌「もちろん! 全力でお願いします!」

花陽「それでは……使用ポケモンは3体。先に相手の手持ち3体のうち、2体を戦闘不能にさせた方が勝ちです……っ!」


花陽さんは、ゆっくりとポケットから、黄緑色のボールを出し、構える。


花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽。よろしくお願いします……っ!!」


花陽さんがそう言いながら、構えて、

ボールが放たれました──。


271: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 01:01:34.69 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.18  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.19 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.16 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:7匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



272: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:23:14.99 ID:ISz0KMwo0

■Chapter021 『決戦! コメコジム!』





花陽「お願い! ドロバンコ!」

千歌「いっけー! ムクバード!」


お互いの初手が繰り出される。

花陽さんの一匹目はドロバンコ──確かじめんタイプのポケモンだ。

さっき持っていたメェークルから考えて、くさタイプを使うのかと思ってたけど、違うみたい。

ダイヤさんと同じで普段使うポケモンと専門のタイプが違うのかもしれない。


千歌「でも相性有利……! ムクバード! 上空で旋回しながら、体勢を整えるよ! “こうそくいどう”!」
 「ピピィ!!」


じめんタイプの攻撃はひこうタイプには届かないもんね!


花陽「ドロバンコ、“すなあらし”!」
 「ンバンコ」


一方花陽さんのドロバンコはフンと一回荒く鼻息を出した後、その場で地団駄を踏むように砂を巻き上げる。


 「ピピッ」

千歌「ムクバード! ひるまないで! そのまま、“ふるいたてる”!」

 「ピピピィ!!!」

花陽「ドロバンコ、“ステルスロック”!」
 「ンバー」


今度はフィールド上に無数の石が漂い始める。


千歌「させない! “きりばらい”だよ!」

 「ピィーー!!」


ムクバードは上空から力強く羽ばたいて、すぐに撒かれた石を吹き飛ばす。


花陽「ドロバンコ、“かげぶんしん”」
 「ンバ」


今度はドロバンコの姿がぶれるように増える、回避をあげる技だ。


千歌「ぅ……“みやぶる”!」

花陽「なら、“てっぺき”です」
 「ンバコ」

千歌「お、“オウムがえし”!!」

 「ピィ~~」


“てっぺき”を奪う形、見様見真似で防御を上げるが……。
273: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:24:53.04 ID:ISz0KMwo0

千歌「ぐぬぬ……」

花陽「千歌ちゃん、攻めあぐねてますね」

千歌「うっ……」

花陽「ムクバードは“かぜおこし”も“エアカッター”も覚えませんから、上空から様子を見ているだけだと、“すなあらし”で消耗するだけですよ」

千歌「ば、ばれてる……」


流石ジムリーダー、自分のポケモンじゃないのに、使える技を把握してる……。

──そう、ムクバードには実はほとんど遠距離攻撃の手段がない。

あっても、“さわぐ”くらいで、あとは遠距離で使えるのは、ほとんどが補助技。

どうにか上空で攻撃を敬遠しながら、体勢を整えようと思ったんだけど……。

甘えた時間稼ぎを許さない、“すなあらし”がムクバードの体力をじわじわと奪っていく。


千歌「なら──!!」


花陽さんは完全に待ちの姿勢、ならノルカソルカ!


千歌「“すてみタックル”!!」

 「ピピィ!!!」


──ムクバードの十八番!!

空中を軽くサマーソルトしながら、その勢いを乗せて、


 「ピィーー!!!」


地上のドロバンコに向かって一直線に飛び込んでいく!!


花陽「ドロバンコ! “アイアンヘッド”!!」
 「ンバンコ!!」


それに合わせる形で、鋼鉄の頭突きを繰り出すドロバンコ。

──ガキィン!!

打ち合って、硬い音がジム内に響く。


千歌「ムクバード!」

 「ピピィ!!」


すれ違い様に一撃を叩き込んでそのまま空に離脱、


花陽「ドロバンコ、平気だよね」
 「ンバコ」


先ほどの“てっぺき”の影響か、相殺しあった攻撃は余り効果を出していない。


千歌「ならもう一発!!」

 「ピピィ!!!」


私の言葉に呼応するように、ドロバンコの背中向かって、一直線に『翼を立てる』

──まるで一刀の刃のように──


千歌「“はがねのつばさ”!!」
 「ピィィィ!!」
274: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:25:45.40 ID:ISz0KMwo0

硬質化した鋼のような翼を上空から振り下ろす。


千歌「いっけぇえ!!!」


── 一閃

目一杯翼で斬り付ける。

「ピィィ!!!」

「ンバゴッ!!」


その勢いのまま、低空を伝って、離脱──


花陽「させません!」
 「ンバ」


──と、思った瞬間。

ドロバンコの後ろ脚がムクバードを捉える。


花陽「“ローキック”!」

 「ピピッ!?」


脚を掛けられ、ムクバードがよろめく、

──凛さんとの対戦のときにもやられた戦法だ。


千歌「まずっ!? ムクバード! とにかく離脱!」

 「ピピ…!!」

花陽「逃がしません! “ふみつけ”!」
 「ンバコ」


今度は正確にドロバンコの蹄がムクバードを捉える。


 「ピギャ」

千歌「ムクバード!?」


踏みつけられて、ムクバードが普段聞かないような鳴き声を出す。


千歌「く……! “フェザーダンス!!”」
 「ピィィ!!」


──でも、ここで私が動揺しちゃダメだ……!

指示を受けて、ムクバードがドロバンコの脚の下でもがくように暴れると、羽根があたりに舞い散る。

 「ンバゴ…ッ」

纏わり付く鬱陶しい羽毛は、攻撃の阻害をする。


花陽「“のしかかり”!!」


それを無視するように、力が自慢のドロバンコは上から更に激しくプレスを掛けてくるが、

力が自慢なのはこっちも同じ──


千歌「“リベンジ”!!」

 「ピィィィィィ…!!!」


地面を踏みしめて、
275: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:27:35.26 ID:ISz0KMwo0

花陽「……!」


ドロバンコを下から押し上げる、


 「ンバコ…!」

花陽「ドロバンコ、無理に力比べしなくていいから!」


だが、花陽さんも切り替えが早い

押し返されると気取ったのかすぐさま、プレスを止めて次の攻撃に手を移す。


花陽「“にどげり”!」
 「ンババッ!!」


一瞬の隙を突いて、隙間から逃げようとした、ムクバードを後ろ足で蹴り上げる。


 「ピピ!!」

千歌「ムクバード!」


そのまま、蹴り飛ばされた勢いにまかせてどうにか空に離脱する。


千歌「大丈夫ー!?」

 「ピィィ…!!」


まだ闘志は見えるが、ダメージは大きい。

降りたら、降りたでまた掴まっちゃうだろうし……。


千歌「なら、“さわぐ”!!」

 「ピ!!」


私の合図で、


 「ピイィィィィィィィ!!!!!!」


鳴き声がジム内を劈く、


花陽「わわ!?」
 「ンバゴ!?」


狂乱状態になって、しばらく落ち着かなくなっちゃうけど、


千歌「掴まるくらいなら、全力で突撃ー!!」

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」


大きな鳴き声を挙げながら、再び上空からドロバンコに向かって飛び掛かる、


 「ンババコ!?」
花陽「ド、ドロバンコ……!! 落ち着いて……!!」


一方ドロバンコは急な爆音に動転して、

意識が逸れている。


千歌「突っ込めぇぇ!!!」

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!」
276: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:28:24.22 ID:ISz0KMwo0

花陽「ぼ、防御!! ドロバンコ!!」
 「バゴッ!?」


──ズドン、と

上空からの杭のように、落ちてきた、

ムクバードの下で、


 「バゴォ…」
花陽「……っ」


──ドロバンコが伸びていた。


千歌「……よっし!」


私は思わず拳を握り締める。


花陽「……ドロバンコ、戦闘不能です。戻って」


花陽さんの言葉と共にドロバンコがボールに戻される。


千歌「ナイス! ムクバード!」

 「ピピィィィィ!!! ピピピピィイイイ!!!」

千歌「うわっ わ、わかったから」


そういえば、まだ騒いでる状態だった。


花陽「2匹目、行きます! ディグダ、お願い!」


ボム、と言う音と共に放たれたボールから飛び出す、小さなポケモン。

2匹目もじめんタイプ……!


 「ディグディグ」


可愛らしい、見た目とは裏腹に力強く地面を掘り返しながら、俊敏な動きで、ディグダがムクバードに向かって突撃してくる。


千歌「ムクバード!!」

 「ピイイイイイ!!!!!!」


狂乱状態のままだけど、どうにか動いてる敵を認識は出来てる、


千歌「よっし! そのまま!」

 「ピィィィイイイイイ!!!」


──迎え撃つ!!


花陽「ディグダ! “ひっかく”!!」
 「ディグ!!」


ディグダから放たれる斬撃を迎撃しようと思ったが、


 「ピィィィイイイイ!!!?」


ディグダは小さな体躯を生かして、ムクバードの周りを俊敏に耕しながら、ちまちまと引っ掻いて来る。
277: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:29:09.06 ID:ISz0KMwo0

千歌「わわっ!? ムクバード!!! 落ち着いて、一旦空に逃げて!!!」

 「ピィィピィィィ!!!?」


しかし、狂乱状態のムクバードは私の声が届いていない。


花陽「今度は逃がしません!」


花陽さんはそんな隙を見逃すはずもなく。

ディグダはもこもこと、周囲の地面を掘り返す最中、

だんだんと大きめの石塊が混じり始める


 「ピィィィィ!?!!?」

千歌「やばっ!!? ムクバード!! 逃げて!!!」

 「ピィィィィィ!!!!!!」


声が届いていない、不味い、


花陽「ディグダ!」
 「ディグ!!!」


花陽さんの合図と一瞬地面に潜ったディグダが、

その頭で押し上げるように一層大きめの岩塊を地面から投げ飛ばす


千歌「ムクバード!!」

 「ピピピピィィィィィイイイ!!!!!?」


混乱した、ムクバード

足を奪う石と岩、

そして、その頭上に、

落ちてくる──


花陽「“がんせきふうじ”!!」


岩塊の着陸と共に激しい砂煙がトレーナースペースまで吹き込んでくる。


千歌「わぷっ!!!?」


その勢いで砂が軽く口に入る。


千歌「うぇ……っぺっぺ……」


そして、少しの間を置いて砂塵が晴れた先では──


千歌「……くっ……」

 「ピ…ピィ…」


ムクバードが気絶していた。


千歌「戻って、ムクバード」


“さわぐ”のデメリットが抑え切れなかった。
278: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:30:28.68 ID:ISz0KMwo0

花陽「これで戦闘不能はお互い一匹ずつ……」

千歌「……」


と、なると。

相性の悪いマグマラシだと、一方的に押し切られる可能性が高い。

まだ花陽さんの手持ちには裏もいる以上、様子を見たい。

なら……。


千歌「しいたけ! お願い!」


私はボールを放る。


 「ワフッ!!」


しいたけが飛び出す──と、共に


 「ワオッ!?」


しいたけの脚がずぶずぶと地面に埋まりだす。


千歌「え!?」

花陽「……よかったです」

千歌「……!?」


声のする方を見ると、“すなあらし”の先に花陽さんの笑顔が見えた。


花陽「飛んでいる子の相手はドロバンコでって決めてるから……やられちゃったときはどうしようかと思ったけど……ふふ」

千歌「……!!?」


その笑顔に背筋が一瞬ゾクリとする。

大人しく、優しく、怖い、笑顔。


千歌「し、しいたけ! “コットンガード”!!」
 「ワフッ!!」


咄嗟に、しいたけの防御を固める。


花陽「動かないなら、それはそれで……」

千歌「……っ」


物静かな迫力に気圧される。

しいたけの足元はどんどん地面に……いや、砂に埋まり始めている。

そんな中──


花陽「わたし、たがやしガールなんて呼ばれてるんですよ」

千歌「え」

花陽「普段はこの、じめんポケモンたちと一緒に畑を耕すんです」

千歌「……」


花陽さんはにこにこしながら楽しそうに喋る。
279: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:31:53.57 ID:ISz0KMwo0

花陽「ドロバンコは硬い岩地でも踏み砕いて柔らかく……ディグダが動きやすい地面を作ります。そして、ディグダは地面を掘り返しながら、どんどん柔らかくするんです」


そういう間にもディグダがもこもこと地面を耕し、フィールドを形勢していく。


花陽「わたし本当はくさポケモンの方が好きだったんです……最初に貰ったポケモンもフシギダネだったし……だけど、一緒に過ごす間にくさポケモンや植物が育つためには、地面を耕して健康にしてくれる、この子たちがいるからなんだって」


繰り返し耕された地面は岩から石に、石から礫に、礫から……砂に、


花陽「だから、この子たちと作る“じめん”が好きなんです……いっぱい耕して、いっぱい実ります……♪」


──だから、


花陽「ここは、もう……わたしたちの作った“じめん”です……♪」

千歌「……しいたけ……!! 全力ダッシュで砂から逃げて!!」
 「ワフッ…!」

花陽「無理ですよ……ディグダの特性“ありじごく”からは簡単に抜け出せません」

千歌「なら、交代……!!」


これなら、マグマラシの方が軽い分きっと動ける──

一旦引かせようとボールを投げるが、


 「ワ、ワオッ…」

千歌「な……!?」


ボールはしいたけをその中に収納することなく、地面にポトリと落ちる。


花陽「特性“ありじごく”はひこうタイプかゴーストタイプのポケモン以外の交換を許しません」

千歌「……!!」

花陽「もう……千歌ちゃんにはそのトリミアン……? ……で戦うしか、選択肢はありません」

千歌「……なら!! しいたけ!!」


選択肢が無いなら、やるしかない。


千歌「“ずつき”!!」
 「ワフッ!!」


周囲でぴょこぴょこと頭を出したり引っ込めたりしながら、地面を耕すディグダに向かって、その頭を振り下ろす。

──が、

ぼすっという間の抜ける音が砂の上に立つだけ、


 「ディグディグ」


しいたけの真後ろでディグダが顔を出す。


 「バウッ!!!」


そのまま首を捻って、後ろのディグダに再び頭を振り下ろす。

──ぼすっ


 「ディグディグ」


今度は少しズレた場所でディグダが顔を出して鳴き声を挙げる。
280: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:33:05.48 ID:ISz0KMwo0

 「ワフッ!!」

──ぼすっ

 「ワフッッ!!」

──ぼすっ

──ぼすっ

──ぼすっ

…………


花陽「ふふ、まるでもぐらたたきですね」

 「クゥゥーン……」


しいたけが情けない鳴き声を挙げながら私の方を見つめてくる。


千歌「ぐぬぬ……」


しかし、足を取られて自由が利かない、しいたけが出来ることは限られる。


花陽「でも、このまま持久戦をしていても埒が明かないので……ディグダ、準備できた?」
 「ディグディグ」

花陽「よし。じゃあ、“すなじごく”」


花陽さんの指示と共に、しいたけがいるところを中心に砂が飲み込まれるように沈んでいく、

ディグダが移動し続けることによって柔らかくなった地面が土に、土はより細かくなって砂に──


千歌「し、しいたけ!!」
 「ワ、ワオ……」


ずぶずぶとしいたけの体が砂に埋まっていく、


 「ワォォ…」

千歌「とにかく、抜け出さないと……!! “からげんき”!!」
 「……! バゥワゥ!!」


私の指示でしいたけは体を大きく動かして、少しでも砂から出るように身を捩る。


花陽「抵抗……しますよね。ディグダは防御力が低いポケモンなので、攻撃が当たるとすぐに戦闘不能になっちゃうので……ディグダ、戻って」

千歌「!」


“がむしゃら”に暴れるしいたけから、貰い事故を防ぐために一旦引いてくれた。

チャンス──


花陽「お願い、ナックラー」
 「…ナク」


と、思った瞬間ボールから飛び出したそのポケモンは窪んだ流砂の中央の陣取り、


 「ワフッ ワフッ!!」

花陽「“すなじごく”」


先ほどよりもアグレッシブに、しいたけをその砂に巻き込んでいく。


千歌「また、“ありじごく”!?」
 「ワォォ…」
281: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:35:43.30 ID:ISz0KMwo0

そのまま、中心の方に引きずり込まれ、


花陽「ナックラー、“むしくい”」
 「ナク」


ナックラーが大きな顎でしいたけの前足に噛み付く。


 「バゥッバゥッ」

千歌「ぐぅ……“ずつき”!!」
 「ワゥッ!!」


砂に足を取られながら、どうにか上半身を捻って、頭突く。

だが、体勢も悪いせいか攻撃に威力が乗らない。


花陽「ナックラーはディグダよりも力持ちなので、このフィールド上で力負けはまずしません。更に……“ギガドレイン”!」


噛み付いたままの顎から、体力を吸収してくる。


千歌「く……ど、どうしたら……」

花陽「勝負……ありましたね」

千歌「ま、まだ何か……」


思考を巡らせる。

組み合ったまま、体力を吸われるしいたけを見て──

──あれ、なんだろ

──デジャブ?

なんか、似たような光景が前にもあったような……。


 ──梨子『“ウッドホーン”は相手のHPを吸う技なの。ただの力比べをしてたわけじゃないのよ』──


千歌「……そうだ」


初めて梨子ちゃんとバトルした、あのときと同じだ。


千歌「あのときから、何も変わらない……? ……いや、そんなこと、ないよね……!!」
 「ワフッ」


あのときは初めてのバトルだった、でも、


千歌「まだまだ、初心者かもしれないけど、もう初めてじゃないから……!! しいたけ! “わかるよね”!?」
 「ワフッ!!」


しいたけが身を捩って硬質化させた、尻尾をナックラーに向かって突き立てる──


千歌「……“アイアンテール”!!」
 「バゥッ!!」

花陽「……ナックラー、“ばかぢから”」


硬い尻尾に噛み付くように、ナックラーが受け止める。
282: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:37:02.42 ID:ISz0KMwo0

花陽「この足場で力比べをしても、ナックラーに分があります」

 「ワフッ……!!」

花陽「“すなじごく”と“すなあらし”、それに加えてこっちは“ギガドレイン”でHPを吸収し続けます」

千歌「……」

花陽「……諦めないのは花陽も大事なことだと思います。だから、ジムリーダーとして、一人のトレーナーとして、千歌ちゃんのその姿勢は賞賛します」

千歌「……」

花陽「とてもじゃないけど、降参なんて、してくれなさそうですね……ナックラー、“かみくだく”」

千歌「……」

花陽「……?」

千歌「……」

花陽「ナックラー……? “かみくだく”……」

千歌「しいたけ、たぶんもうおっけーだよ」
 「ワゥ」

花陽「え……?」


しいたけが尻尾をブンと上に振り上げると、

ナックラーが引き摺りだされ、空に放られる。


花陽「ナ、ナックラー!?」


花陽さんが放り出されたナックラーにすぐさま駆け寄って、


花陽「……!」


驚いた顔をした後、私の方に顔を向けた。


花陽「……やられました」

千歌「……はぁ……どうにか、間に合った……」
 「ワフッ」

花陽「ナックラー……戦闘不能です。手持ち三匹のうち、二匹が戦闘不能……。このバトル、挑戦者、千歌ちゃんの勝利です」


こうして、私たちは静かに勝利を喫しました。





    *    *    *


283: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:38:05.74 ID:ISz0KMwo0


花陽「……最初からあの“アイアンテール”は攻撃目的じゃなくて、ナックラーの内部に出来るだけ身体の一部を差し込むのが目的だったんですね……」

千歌「えへへ……目立つおっきな顎だったし、“アイアンテール”を指示したら、ナックラーは噛み付いて反撃してくるかなって」

花陽「まさか……それはフェイクで……」


──花陽さんはどくけしをナックラーに使いながら、


花陽「“どくどく”を使うのが目的だったなんて……」


そう言う。


千歌「えへへ……しいたけが私の思いつきに気付いてくれなかったら、絶対負けてたんですけどねっ」
 「ワフッ」


──そう、“アイアンテール”はフェイク。

本当の目的はその尻尾の先から毒を注入することだったのだ。


花陽「言葉にしなくても、意図を汲み取ってもらえる自信があったんですか……?」

千歌「しいたけは……小さい頃からずっと一緒に育ってきたから……たまーに私の心を読めるのかな? なんて思っちゃうこともあるくらいで……だから、たぶんわかってくれるって思って!」
 「ワフッ」

花陽「……信頼、しているんですね」


花陽さんは戦闘を終えたナックラーを撫でて労いながら、


花陽「その点に置いては……ジムバトル用に育てたこの子とのコミュニケーションが足りなかったことが、わたしたちの敗因なんだと思います……」
 「ナック…」

花陽「ナックラーがもうどく状態になってるって……もっと早く異常に気付けば、負けていなかった。フィールドを完成させて、“ありじごく”の型を完成させたと思い込んでいた花陽の完敗ですね……」

千歌「い、いや、こっちもギリギリでしたし……!!」

花陽「いえ……今日は千歌ちゃんには教わってばっかりですね。……わたしももっと頑張らないといけないと思い知らされました」


花陽さんはそう言ってから、抱きかかえていたナックラーを降ろして立ち上がり、私の方に歩を進めてくる。


花陽「……そんなあなたに、千歌ちゃんに、コメコジムを突破した証として、この──」


花陽さんは上着の裏ポケットから、麦穂のようなシルエットをした“ソレ”を取り出して──


花陽「──“ファームバッジ”を進呈します。おめでとうございます……♪」


ニコりと優しく笑いながら、そう言いました。


千歌「えへへ……しいたけ、やったね♪」
 「ワフッ♪」


──こうして、私たちは無事、2つ目のジムバッジを入手したのでしたっ。


284: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 03:39:18.85 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.18  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.19 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:57匹 捕まえた数:7匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



285: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:39:36.14 ID:ISz0KMwo0

■Chapter022 『旅立ちの条件』 【SIDE Ruby】





理亞と名乗る少女の襲来を受けてから、一連の話をお母様にしたところ、


琥珀「ルビィ本人が希望しているのでしたら、旅に送り出してあげれば良いのではないですか?」


お母様はそう言った。


ダイヤ「え」


わたくしはここまですんなり快諾されると思って居なかったため、逆に困惑してしまう。


琥珀「え……って、貴方がルビィを旅に送り出したいと言ったのでしょう?」

ダイヤ「それは、そうなのですが……お母様は心配ではないのですか?」


結果として未遂に終わったとは言え、ルビィは誘拐されたのです。

もう少し反論があってもいいものではないかと思ったのですが……。


琥珀「7年前のこと覚えていますか?」

ダイヤ「?」

琥珀「貴方の旅立ちの直前」

ダイヤ「……お、お母様、今はルビィの話をしていて……」

琥珀「一人で旅に出るなんて不安だ、ここに残ると泣き喚いていたのは誰ですか? そのあとボルツに引きずられるように旅立っていきましたわよね? それに比べたら、ルビィは随分と逞しいではないですか」

ダイヤ「ぅ……」


昔の話を出されて思わず、言葉に詰まる。


ダイヤ「で、ですが……わたくしのときとは少し状況が……」

琥珀「ダイヤ」

ダイヤ「な、なんでしょうか」

琥珀「貴方の旅は何のトラブルもなく、順風満帆、怪我一つなく終わることが出来ましたか?」

ダイヤ「それは……」

琥珀「何度も予想外の出来事が起こったり、危ない目に逢う事もあったのではないですか?」

ダイヤ「……」

琥珀「それに、貴方は本当に一人でしたか?」

ダイヤ「いえ……ツタージャとボルツがいつも傍に居ましたわ。旅の中で出会ったこの子たちも……」


なんとなく、腰に下げた6つのボールを撫でる。

相棒たちの入れられたボールを。


琥珀「その上で、旅に出て、後悔していますか?」

ダイヤ「いえ……あのとき旅に出て、よかったと思っています」

琥珀「その中で貴方は確実に強くなった。そして、今このオトノキ地方でも最上位の実力者である証として、ジムリーダーと言う立場に就いている」

ダイヤ「はい」

琥珀「ルビィはそんな貴方の背中を見て、自分も旅に出て強くなりたいと言っているのでしょう? なら止める理由はないではないですか」

ダイヤ「……」
286: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:41:27.52 ID:ISz0KMwo0

確かにそれはそうかもしれない。ですが、


ダイヤ「やはり、わたくしとは状況が違いますわ。もう少し慎重に考えても……」

琥珀「ダイヤ、貴方はルビィを旅に出したいのか出したくないのか、どっちなのですか」

ダイヤ「……」

琥珀「それに、あのルビィがなんで自分から旅に出たいと言い出したのか……」

ダイヤ「……? ですから、ルビィは強くなって自衛の力を……」

琥珀「それも理由だとは思いますが……たぶん口実だと思いますよ」

ダイヤ「口実? 何故そのような口実を……」

琥珀「ルビィ自身が頭の中で何を考えているかまではわかりませんが……ルビィなりに何か他に目的があるのではないですか?」

ダイヤ「目的……」

琥珀「確かに危険な旅になるのかもしれませんが……旅に危険は付き物です。それをわかった上で自分から旅立ちたいと娘が言うなら、それを見守るのが親の努めでしょう」

ダイヤ「そういう……ものなのでしょうか」

琥珀「そういうものなのですよ、貴方もいつか子を持つ親になれば、わかることですから……」





    *    *    *





母との会話を反芻しながら、家の軒先に足を運ぶと、


ルビィ「あ、お姉ちゃん!」

花丸「ダイヤさん、おはようございます」


そこで、ルビィと花丸さんが待っていた。


ダイヤ「二人とも、おはようございます」

ルビィ「お姉ちゃん、お母さん……許可してくれそう?」


ルビィは少し不安げに瞳を揺らしながら、そう訊ねてくる。


ダイヤ「……ええ、お母様は許可をくださいましたわ」

ルビィ「ホントに!?」

ダイヤ「ええ」

ルビィ「えへへ、やったー!」

花丸「ルビィちゃん、よかったね」

ルビィ「うんっ!」


本当に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる妹を見ながら、わたくしは思う。

噫、今この子は本当に旅に対して前向きなんだな、と。

唯、わたくしはどうしても自分の中にある不安がうまく消化しきれず、


ダイヤ「ですが、条件があります」


気付いたら、ルビィに向かって、そう言っていた。


287: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:43:35.58 ID:ISz0KMwo0


    *    *    *





──2番道路。

ルビィは花丸ちゃんと一緒にウチウラシティの外に来ていました。


花丸「ルビィちゃん、やっぱりマルも協力した方が……」

ルビィ「うぅん、大丈夫。それに、お姉ちゃんのこと安心させてあげるためにもルビィが一人で達成した方がいいと思うから」


──さて、さっきお姉ちゃんから出された条件はこういうものでした。

『今日中に手持ちを4匹以上にすることが出来れば、旅立ちを許可します』

今ルビィの手持ちはアチャモと、メレシーのコラン、その2匹。つまり後2匹新しくポケモンを捕まえなくてはいけません。


ルビィ「ルビィも少しは戦えるところを見せないと!」

花丸「ルビィちゃんが燃えてる……珍しいずら」


花丸ちゃんがそう言うのを聞いて、確かに我ながら珍しくやる気に満ち溢れてる気がします。


花丸「そういうことなら、マルはあくまで見守ることにするずら」

ルビィ「うん、ありがとう」

花丸「ただ、方針とかはあるの?」

ルビィ「? 方針って?」

花丸「手持ちを4匹にするだけなら、捕まえやすいポケモンを狙う方が効率がいいと思うんだけど……」

ルビィ「捕まえやすいポケモン……」

花丸「コラッタとかオタチとかは、捕まえやすいポケモンだけど……」


なんとなく、花丸ちゃんの言いたいことはわかる。

これはルビィの実力試し。

ただ手持ちを4匹にするだけでも、お姉ちゃんは予め出した条件を引っ込めたりはしないだろうけど……。


ルビィ「ただ数をそろえるだけじゃ、実力を示したことにならないよね……」

花丸「うん」

ルビィ「強いポケモン? とか、珍しいポケモン? の方がいいのかな」


正直どんなポケモンが強くて、どんなポケモンが珍しいのかもよく知らないんだけど。


花丸「それなら、ここ2番道路で一番珍しいって言われてるポケモンは……たぶん、ヌイコグマずら」

ルビィ「ヌイコグマ……」


ヌイコグマなら、本当に数えるほどしかないけど、町の近くで見たことはある。

ピンクの体に黒い足のぬいぐるみみたいなポケモン。
288: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:48:53.96 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「じゃあ、目標はヌイコグマともう一匹捕まえる!」

花丸「了解ずら! じゃあ、まずはウォーミングアップで一匹捕まえて、そのあとヌイコグマを探すといいと思うずら」

ルビィ「うん!」

花丸「あ、そうだ」

ルビィ「?」

花丸「今回この課題達成のためにルビィちゃんに秘密兵器を渡そうと思ってたんだ」

ルビィ「ひみつへいき?」


花丸ちゃんはそう言いながら、ごそごそとリュックの中を漁る。


花丸「あったずら!」


花丸ちゃんが取り出したのは、色とりどりのモンスターボールが収納されたボールケースだった。

花丸ちゃんは収集癖なところがあって、珍しいボールを集めるのが好きだったっけ、


花丸「ボールによって、いろんな効果があるから、きっとルビィちゃんの役に立つかなと思って」

ルビィ「え……ルビィが使っていいの?」


モンスターボールは基本的に消耗品です。

たまに繰り返し使うことが出来ることもあるけど、基本的には捕獲に失敗したら割れたり、砕けたりしてしまうし、

成功したらしたで、そのポケモンと紐付けされるので、あとでそのボールを空に戻すことは出来ません。


ルビィ「大事に集めてたのに……」

花丸「道具は使ってこそ意味があるんだよ。本来の用途で使わないまま、後生大事にしまっておくなんて、逆に道具が可哀想ずら」

ルビィ「花丸ちゃん……」

花丸「それに、マル一人でこれ全部は使い切れないから、ルビィちゃんと一緒に使えればいいかなって」

ルビィ「……えへへ、花丸ちゃん。ありがと」

花丸「どういたしまして。それじゃルビィちゃん、どのボールにする?」

ルビィ「えっと……」


ボールケースに整然と並べられたボールはかなりの種類がある。

……けど、ルビィには違いがよくわからない。


花丸「さすがにマスターボールとかサファリボール、パークボール、コンペボールは持ってないけど……」


マスターボールが一番すごいボールなのは聞いたことあるかも……他の3つはわかんないけど、


花丸「とりあえず、使いやすくて高性能なのはスーパーボールとハイパーボールかな」

ルビィ「それ高いやつじゃないっけ……お姉ちゃんのハガネールとかオドリドリはそれに入ってたよね」

花丸「ダイヤさんのボール選択は手堅いからね。リピートボール、レベルボールは今回は使いづらいかな……」

ルビィ「それってどんなボールなの?」

花丸「リピートボールは捕まえたことのあるポケモンが捕まえやすくなるボールで、レベルボールは自分のポケモンより相手のレベルが低いと捕まえやすくなるずら」


確かにそれだとはじめての捕獲向きじゃないかも。


花丸「ネストボールは……レベルの低いポケモンを捕まえやすいってボールだけど、今回はルビィちゃんの目的に沿ってないかも。でも、状況によって使い分けるボールなら捕獲の知識や実力の証明にもなるから……」


花丸ちゃんが一個ずつボールを指差しながら、
289: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:49:57.70 ID:ISz0KMwo0

花丸「ルアーボール、ムーンボール、ラブラブボール、ヘビーボール、スピードボール、タイマーボール、ネットボール、ダイブボール辺りかな。時間帯を考えてもダークボールは最終手段だね」


……確かにこれだけ使い分けられたら、捕獲名人かも。


花丸「どれにする?」

ルビィ「えっと……違いがよくわからないんだけど……」

花丸「それぞれ捕まえやすいポケモンが違うずら」

ルビィ「それ覚えるだけで日が暮れちゃうよ! 最終的に捕まえるポケモンはヌイコグマって決めてるんだから、そんなに使い分けを考えなくても……」

花丸「む……それは確かに……」


花丸ちゃんは少し眉を顰めてから、


花丸「じゃあ、これなんかどう?」


そう言って、花丸ちゃんが黄緑色のボールを手渡してくる。


ルビィ「これは?」

花丸「フレンドボールって言って、捕まえたポケモンがすぐになついてくれるボールずら」

ルビィ「あ、それいいかも!」


これから一緒に旅する仲間が、最初からなついて力になってくれる姿を見れば、お姉ちゃんも少しは安心してくれるかもしれない。


花丸「じゃあ、フレンドボールを持ってって。5個くらいしか持ってないけど……」

ルビィ「それだけあれば大丈夫! ありがと、花丸ちゃん!」


ルビィは花丸ちゃんからボールを受け取って、


ルビィ「アチャモ! コラン! 出てきて!」


腰からボールを外して放る。

 「チャモ」「ピピィ」


ルビィ「よっし! 捕獲作戦スタートだよ!」
 「チャモ!」「ピピ」


ルビィの旅立ち前の実力試しがスタートしました。





    *    *    *





ルビィ「まずは一匹……試しに、だよね」


身を屈めて、こそこそと草むらを移動する。

──すると、

 「タチッ」

尾を垂直に立ててその上で辺りをキョロキョロと監視しているポケモンがいる。

オタチだ。
290: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:51:23.09 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「まずは図鑑で、相手がどんなポケモンか調べるんだよね……えっと」


身を屈めたまま、ポチポチと図鑑を押していると

 「チャモ?」

アチャモが横から図鑑を突いてくる。


ルビィ「ぅゅ……アチャモ、今はちょっと大人しくしててね」
 「チャモ」


 『オタチ みはりポケモン 高さ:0.8m 重さ:6.0kg
  遠くまで 見れるように 尻尾を 使って 立つ。 群れの
  見張り役は 敵を 見つけると 鋭く 鳴いたり 尻尾で
  地面を 叩いて 仲間に 危険を 知らせる。』


オタチのデータを確認していると、


ルビィ「あれ? 他のポケモンも近くにいる?」


図鑑が近くに他のポケモンを察知したようで、


 『オニスズメ ことりポケモン 高さ:0.3m 重さ:2.0kg
  食欲旺盛で 忙しく あちこちを 飛び回り 草むらの
  虫などを 食べている。 羽が 短く 長い 距離を
  飛べないため いつも 忙しなく 羽ばたいている。』


ルビィ「オニスズメ……」


顔をあげて、頭上を見回すと、確かにオニスズメが飛んでい──


 「オタアアアアアアアアアアアアアアチ!!!!!!」

ルビィ「ぴぎぃっ!?」


ルビィがオニスズメの姿を認めると同時に、地上のオタチが甲高い声をあげた。


ルビィ「ぅ、うるさい……オタチもオニスズメを見つけて、威嚇してるんだ……」


このままだと野生のオタチとオニスズメが戦闘を始めるかもしれない。

どうしようかと考えていると、


 「チャモーーー!!!!」

ルビィ「え、ちょ、アチャモ!?」


何故かアチャモが飛び出した、


 「ピピィーーーーー!!!!」

ルビィ「え、コランも!?」


何故かコランも上空に飛び出した。


 「チャモーーー!!!」

 「タチッ!!!?」


草むらから突然飛び出して、アチャモがオタチに向かって“ひのこ”を放つ、
291: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:53:44.77 ID:ISz0KMwo0

 「ピピー!!」

 「オニィッ!!?」


上空のオニスズメも突然飛び出してきた、コランに“たいあたり”される。


ルビィ「ちょっと、二人とも! 勝手に行動しないでよぉ!!」


 「チャモ!! チャモ!!」

一方、アチャモは“ひのこ”と“つつく”をオタチに向かって連打している。


ルビィ「あ、アチャモ! そんなにやったらオタチが戦闘不能になっちゃうから!! ほどほどに弱らせないと、捕獲出来ないからっ!」


そんなアチャモの頭上に、突然の落下物、直撃。


 「チャモ!?」

ルビィ「わっ!? アチャモ!?」


先ほど上空でコランが突撃した、オニスズメだった。

 「ピーピピピピッ!!!」

その上空ではコランが楽しそうに笑っている。


ルビィ「コランー!? 勝手に“うちおとす”使わないでよー!?」

 「チャモ…」


アチャモは散々攻撃していた、オタチのことをもう忘れてしまったのか、

上空のコランを睨み付けた。


 「ピピピ」

 「チャモォ…」


ルビィ「ちょっと、二人ともそんなことしてる場合じゃ……!」


 「オニ…!!!」


ルビィが指示を出すのを待たず、墜落してきたオニスズメが起き上がり、アチャモを標的に──


 「チャモォ!!!」


──そのオニスズメの頭をアチャモが踏みつけて、


 「オニ!?」


高く、高く、跳んだ。

コランのところまで、

“とびはねる”。

 「ピピ!?」

オニスズメをその健脚で蹴り飛ばした反動を使って、前中をするように中空で縦回転しながら、コランに向かって鋭い鉤爪を立てる。

“ブレイククロー”だ。

 「チャッモォ!!」

──ガキン。硬い爪と岩がぶつかり合う音のしたあと、
292: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:55:03.39 ID:ISz0KMwo0

 「ピピ!!!!」


ルビィの顔の横を掠めるように、岩──もとい、コランが降ってきた。


ルビィ「……」

 「チャモ…!!」


そして、地面にめり込んだコランの上にアチャモが着地する。


ルビィ「…………」


辺りを見回す。

戦闘不能で気絶した、オタチとオニスズメ。

めり込んだコランと、その上でふんぞり返るアチャモ。


ルビィ「……花丸ちゃん……やっぱりルビィ、ダメかも……」


ルビィの捕獲劇は、初戦から無事失敗で始まりました。





    *    *    *





花丸「ナエトル! “たいあたり”!」
 「トル!!」

 「ポポ!!?」


ナエトルの“たいあたり”でポッポが怯んだところに、


花丸「いくずらー!」


マルはすかさずボールを投げつける。

そのボールは見事ポッポにぶつかる──ことはなく。1mも前に飛ばずに、マルの足元に落ちる。そしてテンテンと、音を立てて地面を転がる。


 「ポポ…!!」


その隙にポッポが起き上がって、逃げようとするところ、

 「ゴン…」


ゴンベがモンスターボールを拾い上げて、


花丸「ゴンベ! “なげつける”ずら!」
 「ゴン」


ボールを投げつける。一直線に飛んでいくボールは、


 「ポポッ!?」


ポッポに直撃して、そのままボールの中にポッポが吸い込まれた。


花丸「よし! ずら」
293: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:56:39.66 ID:ISz0KMwo0

ボールは無事3回ほど揺れたあと大人しくなった。


花丸「これで5匹目だね。ゴンベ、毎回外してごめんね」
 「ゴン…」


ゴンベは慣れっこだと言う感じで鼻を鳴らした。

マルはどうしても運動が苦手だから、ボールがうまく飛ばないんだけど、そこはゴンベがうまくカバーしてくれているから、捕獲はかなり順調。


花丸「オタチ、ミネズミ、オニスズメ、ムックル、ポッポ……ホントに順調ずら」


この辺りにいるポケモンはもしかしたら今日中に大方捕まえきってしまうかもしれない。


花丸「あとはこの辺りだと、レディバとかアゴジムシとかコフキムシみたいな虫ポケモンがいたかな? ……夜にはコラッタとかホーホー、イトマルが出るはず」


夜行性のポケモンは日中の時間はあまり姿を見せないから、とりあえずお昼のポケモンを端から捕まえる。


花丸「実際やってみたら、捕獲って苦労するのかなって思ってたけど……案外平気だね」
 「ゴン…」「ナエー」


そんな風に言ってると、前方からナエトルがとてとてと歩きながら戻って来る。


花丸「この分だと、ルビィちゃんも最初の捕獲は終えて、今はヌイコグマを探してるところかな?」


じゃあ、マルもヌイコグマを探してみようかな。

見つけたらルビィちゃんに教えてあげないと。





    *    *    *





ルビィ「…………」


ルビィの目の前に広がる光景──黒こげの草むら、撃ち落とされ気絶している大量のポッポとオニスズメ、ムックル。その数は10匹以上。

遠巻きにオタチが巣穴からこっちを警戒している。

少し遠目に逃げ惑うミネズミ、日中の時間帯なのに、逃げるポケモンたちの中にはコラッタの姿も見える。

巣穴で寝ていた子たちが驚いて逃げているのかもしれない。

そして、ルビィのすぐそばでは、


 「チャモォ!!!」

 「ピッピピィ!!!!」


アチャモとコランが爪と岩をぶつけ合って、戦っていた。


ルビィ「……ぅゅ」


捕獲どころじゃない。

周りの野生ポケモンを巻き込みながら、手持ちの2匹が大喧嘩をはじめて、もう数十分経つ。

縄張りを荒らされたと思って攻撃してきたオニスズメを撃ち落とし、騒ぎに気付いて鳴きだしたムックルも撃ち落とし、ついでにたまたま近くを通り過ぎたポッポも撃ち落している。

ただ、アチャモもコランもケンカが第一のようで、野生のポケモンには目もくれない。

そんな状況で警戒心の強い陸上のポケモンたちは巣穴に逃げ込んだり、とにかくこの場からはほとんどが逃げてしまった。
294: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:58:39.30 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「もうー!!! 二人ともいい加減にしてよぉ!!」


ルビィの言葉は虚しくも、そのまま空に飲み込まれていく。


ルビィ「ぅぅ……。クロサワの入江では言うこと聞いてくれたのに……」


ルビィは思わず体育座りをするように地面にへたり込んで、ぼんやりと二匹のケンカを眺める。


 「アブブゥ」


腕に止まったアブリーがルビィに向かって、鳴き声を挙げる。


ルビィ「ありがと……慰めてくれてるんだね……」


…………。


ルビィ「え」


ルビィは自分の目を疑いました。

体育座りの姿勢の自分の手の甲から、膝を伝って、のんきに歩いている、小さなポケモンが一匹……。


ルビィ「えっと……」

 「アブブゥ?」


大きさは10cmくらい。

割とよくそこらへんを飛んでいるので、知っているポケモン。

アブリーだ。とりあえず、図鑑を開く。


 『アブリー ツリアブポケモン 高さ:0.1m 重さ:0.2kg
  花のミツや 花粉が 餌。 オーラを 感じる 力を
  持ち 咲きそうな 花を 見分けている。 また
  花に 似た オーラを 持つ 人に 集まってくる。』


ルビィ「花に似たオーラって、なんだろう……」

 「アブ?」


膝を伝って、アブリーがそのまま胸の辺りに潜り込もうとしてくる。


ルビィ「わわっ!? ルビィ、花粉とかミツとか出ないから!?」


驚いて、立ち上がると、

 「ブブ」

コロコロと地面を軽く転がったあと、


ルビィ「あ、ご、ごめんねっ」

 「アブブブ」


小さな翅を羽ばたかせて、空に浮き立つ。

そのまま、ルビィの頭の上に留まる。


ルビィ「……」


とりあえず、ポーチから空のフレンドボールを取り出して。
295: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 11:59:31.62 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「えい」


アブリーに押し付けてみる。

 「アブブ──」

鳴き声を残して、ボールに吸い込まれるアブリー。

ほとんど、ボールが揺れることもなく。

そのまま大人しくなった。


ルビィ「……えーっと」


ルビィは困りました。


ルビィ「これは捕獲成功でいいのかな……」


捕獲したにはしたんだけど……これって捕獲に入るのかな?


ルビィ「……とりあえず」


 「チャモォ!!!」
 「ピピピピピピ!!!!」


二匹のケンカを止めようかな……。それから考えよう。





    *    *    *





ルビィ「考えてみれば、最初からこうしてればよかったんだよね……」


二匹を無理やりボールに戻してから、ルビィは2番道路の草むらを行ったり来たりしていました。

ただ、ルビィの手持ちが大暴れした情報が野生ポケモンの間で行き渡っているのか。


ルビィ「うぅ……ポケモンたちが近寄ってこない……」


思わず項垂れてしまう。


花丸「る、ルビィちゃーん!」


そんなルビィに遠くから名前を呼ぶ声。


ルビィ「花丸ちゃん……」

花丸「……は……はっ……!!……る、ルビィ……ちゃ……」

ルビィ「は、花丸ちゃん! ゆっくりでいいから!!」


運動が苦手な花丸ちゃんは少し走るだけで、肩で息をしていた。


花丸「る……ルビィ……ちゃんが……落ち込んでる……気が……した、から……」

ルビィ「ルビィは花丸ちゃんの方が心配だよ……大丈夫?」

花丸「ち、ちょっと休憩ずら……」
296: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:00:50.23 ID:ISz0KMwo0

花丸ちゃんはそう言ってルビィの傍でへたり込む。


ルビィ「もう……花丸ちゃんったら……」

花丸「えへへ、ごめんずら……」


ルビィもちょっと休憩しようかな。


花丸「捕獲は順調?」

ルビィ「えーと……あんまり」

花丸「そっかぁ……」

ルビィ「花丸ちゃんも捕獲してたの?」

花丸「あ、うん。さっきまで順調だったんだけど……急に野生のポケモンが出てこなくなって……」

ルビィ「あ、そうなんだ……なんか、ごめんね」

花丸「?」


たぶん当分、ここの一帯のポケモンはトレーナーに近付いてこない気がする。


花丸「あれ? 腰のボール一個増えてる? 捕獲したの?」

ルビィ「あ、うん。たまたまというか……」


言われて黄緑色のボールを放ると、中からアブリーが飛び出す。

 「アブブ」


花丸「アブリーずら! マルはまだ捕まえてなかったんだよね」

ルビィ「この子、全然ルビィのこと警戒しなくて……」
 「アブブ」


そのまま、頭の上に停まって来る。


ルビィ「捕まえる前から、こんな感じで……」

花丸「ルビィちゃんが優しいことに気付いてたんじゃないのかな?」

ルビィ「完全に運が良かっただけだよ……」

花丸「運も実力の内だよ?」

ルビィ「あはは、ありがと……花丸ちゃん」


他のポケモンの気配のしない2番道路に、そよそよと風が吹いて、ルビィたちの髪を揺らす。


花丸「ねぇ、ルビィちゃん」

ルビィ「なぁに? 花丸ちゃん」

花丸「どうして、旅に出たいって思うようになったの?」

ルビィ「え……」


花丸ちゃんが急に核心を突くようなことを言ってくる。
297: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:02:15.11 ID:ISz0KMwo0

花丸「うぅん、そうじゃないね。クロサワの入江で何があったの?」

ルビィ「な、何……って……」

花丸「ルビィちゃんを攫って行った犯人と関係があるのかな?」

ルビィ「……ぅゅ……」

花丸「あ、ごめんね……別に責めてるわけじゃないんだけど……」

ルビィ「……」

花丸「無理に聞き出したりはしないけど、気にはなってたんだよね」


ルビィはずっと旅に出ることに消極的だった。それを一番よく知ってるのは他でもない花丸ちゃんだ。

そんなルビィがなんで急に旅に出たいなんて言い出したのか、一番気になってるのも花丸ちゃんな気がする。


ルビィ「……花丸ちゃん聞いたら怒るかも」

花丸「怒らないずら」

ルビィ「本当?」

花丸「マルはルビィちゃんに嘘吐かないよ」

ルビィ「……うん、そうだね」


じゃあ、ルビィも嘘や隠し事は花丸ちゃんにはしたくない。


ルビィ「……理亞さん──あ、ルビィのことを攫おうとした人だけど……」

花丸「うん」

ルビィ「たぶんなんだけど……ルビィ、あの人は悪い人じゃないと思うんだ」

花丸「そうなの?」

ルビィ「たぶん……」

花丸「そっか」

ルビィ「メレシーたちを大切にしてたし……やり方は乱暴だったけど、ちゃんとお話すれば……もっと分かり合えれば誰も悲しい想いしなくて済むんじゃないかなって、たぶんなんだけど……」

花丸「……じゃあ、その人を探すために旅に?」

ルビィ「そう、なるのかな……でも、今のまま会っても意味ないから」

花丸「強くなって、なんであんなことをしたのか、ちゃんと聞きたいんだね」

ルビィ「うん」

花丸「やっぱり、ルビィちゃんは優しいね」

ルビィ「そんなんじゃないよ……ただ──」

花丸「ただ?」

ルビィ「メレシーを大切にする人に悪い人はいないから」

花丸「ふふ、そっか。昔からばあちゃんも同じようなこと言ってたずら。じゃあ、その……理亞さん? は悪者じゃないんだね」

ルビィ「信じてくれるの?」

花丸「ルビィちゃんはそう思うんでしょ? なら信じるよ」

ルビィ「花丸ちゃん……ありがと」

花丸「どういたしまして、ずら。そのためには、早くヌイコグマ探して捕まえないとだね」


花丸ちゃんはそう言って立ち上がる。


ルビィ「うん、そうだね」
298: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:03:33.08 ID:ISz0KMwo0

ルビィもつられて立ち上がる。

とは言っても、どうしようかな……。野生のポケモンたちはこの辺りからほとんど逃げちゃったし……。


 「…アブブ?」


そのとき頭の上でアブリーが鳴き声をあげた。


ルビィ「アブリー? どうしたの?」
 「アブブ」


パタパタと翅を動かして、ルビィから放れたアブリーは西の方を見ていた。


花丸「何か居たずら?」

ルビィ「ん……」


アブリーの見ている方向に目を凝らすと、


ルビィ「……お車?」


ポケモン輸送用の軽トラックがこっちに向かって走ってきていました。





    *    *    *





 「メェー」「メェー」「メェーメェー」


花丸「わ、メリープがいっぱいずら」


そのトラックには花丸ちゃんの言う通り、たくさんのメリープが輸送されていた。

確か西のコメコシティに牧場があったはずだから、そこから来たのかな?


 『メリープ わたげポケモン 高さ:0.6m 重さ:7.8kg
  ふかふかの 体毛は 空気を たくさん 含んで 夏は
  涼しく 冬は 温かい 優秀な 服の 素材になる。 ただし
  静電気が 溜まりやすいので 特殊な 加工を する。』


安全運転でのんびりと走る、トラックに積まれたメリープを二人で眺めていると、運転手のおじさんが窓から顔を出して、


牧場おじさん「お嬢ちゃんたち、この辺りの子なのかいー?」


そう訊ねてきた。


ルビィ「あ、は、はいっ」

花丸「こんなにたくさんのメリープ、どうしたずら……どうしたんですか?」

ルビィ「こ、この先には、港……しか、ないよね」


なんとなく、知らない人なのでルビィは花丸ちゃんの後ろに隠れてしまう。
299: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:06:40.32 ID:ISz0KMwo0

牧場おじさん「その港へのお届けなんだよー」

花丸「港に?」

牧場おじさん「なんでも、急にメリープの綿毛を発注した人がいるらしくってなー。拘りが強い人らしくて毛刈りも自分でってことさー。明日の朝一の船に載せてフソウタウンまでメリープを送らないといけないんだよー」

ルビィ「明日……随分急だね」

牧場おじさん「おじさんも長いことメリープやらミルタンクやら運送してるけどー。ホシゾラより東に運ぶのは久しぶりだよー」

花丸「大変ですね……」

牧場おじさん「まあ、これも仕事さーそれに今日は野生のポケモンも随分少なくて運転が楽だよー」

ルビィ「……あはは……」


なんとなく、目を逸らして苦笑いする。


牧場おじさん「2番道路は力の強い野生ポケモンがいるから、気をつけろー。なんて言うけど、この分なら問題ないなー」

ルビィ「力の強いポケモンですか?」


そんなポケモンこの辺りにいたっけ……?


牧場おじさん「なんでもぬいぐるみみたいな見た目してるわりにー。随分力が強いポケモンらしくてなー」

ルビィ「え?」

牧場おじさん「かわいい見た目の割に気性が荒くてー。縄張りに入られると機嫌が悪くなるっていうからなー。うっかり縄張りに近付かないようしないとなー」

ルビィ「え??」

花丸「……もしかして、ヌイコグマずら?」

牧場おじさん「確か、そんな名前だったなー」

ルビィ「え???」

牧場おじさん「ただ、普段はあまり表に出てこない珍しいポケモンさー。こっちから行かない限りは、他のポケモンが縄張りに侵入してきて、その拍子に表に飛び出してきたーなんてことがなければまず出くわすこともないさー」

ルビィ「…………」


ルビィは嫌な予感がして、あたりをキョロキョロと見回してしまう。


ルビィ「あの……」

花丸「ルビィちゃん、どうかしたの?」

牧場おじさん「お嬢ちゃん、顔色悪いけどだいじょうぶかー?」

ルビィ「ヌイコグマって……そこにいるポケモンですか……?」

花丸・牧場おじさん「「……え?」」


メリープを積んでいる、貨物車の後輪辺りに、ピンクと黒のぬいぐるみみたいなポケモンが、居ました。





    *    *    *





牧場おじさん「ど、どわああああー!?」
 「メェーー」「メェェーーー」


 「クーーマーーー」

ヌイコグマが身体を車輪に潜り込ませるようにすると、トラックがいとも簡単に後輪から浮き始める。
300: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:07:49.52 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「わ、わっ!?」

花丸「ずら!?」

牧場おじさん「た、倒れちまうー」

花丸「い、いけないずら! ゴンベ、ナエトル!」
 「ゴンッ」「ナエー」


花丸ちゃんがバスを挟んで、ヌイコグマとは対角線上の車輪の方にゴンベとナエトルを繰り出す。


花丸「“かいりき”!」

 「ゴンッ!!」「ナエー!!」


逆側から押すことで少しだけ、傾く速度が遅くなるが、

すぐにまた押し負け始める。


 「メェー」「メェェー」
牧場「なんて“ばかぢから”だー!?」

ルビィ「あ、あわわ……!!」


ヌイコグマをどうにかしなきゃ……!!


 「アブゥーー」

慌てるルビィの目の前にアブリーが飛んでくる、


ルビィ「! 指示を出せってこと!?」
 「アブアブ」


花丸ちゃんは二匹の指示に精一杯だ、それなら、


ルビィ「ルビィがやるしかない……!! アブリー“ようせいのかぜ”!」
 「アブーリィー!!」


アブリーから、放たれた風がヌイコグマを直撃する。

 「クーーマーー」

ヌイコグマはアブリーに攻撃されたことを認識すると、

──ガン、とトラックに一発頭突きをかましてから、


 「ゴンッ!!」

牧場おじさん「おわわー」

花丸「倒れるずらー!? ナエトル、“ワイドガード”!!」
 「ナエー」


ヌイコグマがこっちに向かって、走ってきた……!!


ルビィ「アブリー! 一旦ここから引き離そっ!」
 「アブブ」


ルビィは踵を返して、アブリーと一緒に走り出した。

トラックはたぶん、花丸ちゃんがどうにかしてくれる……。

だから、ヌイコグマはルビィが引き付けて……!!

振り向くと──


ちょっと走っただけで、ヌイコグマとかなり距離が離れていた。
301: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:09:53.73 ID:ISz0KMwo0

花丸「ルビィちゃーん!! ヌイコグマは脚が遅いずらー!!」

 「クーーーマーーー」

ルビィ「ええええーー!!!!?」


全速力で走り出したせいか、ヌイコグマはすでにルビィたちを見失いかけて、トラックの場所へもどろうとしていた。


ルビィ「な、何かおびき寄せる技……!!」


ルビィは図鑑を開いて、アブリーの技を確認する。


ルビィ「こ、これ!! アブリー、“ないしょばなし”!」
 「アブブー」

アブリーがヌイコグマの元へ近付いて、周囲をぶんぶんと飛び回る。

 「クーーーーーーマーーーーーー…」

ヌイコグマの意識がまたアブリーに向いた。


ルビィ「よっし、アブリーまたおびき寄せようーっ!」

 「アブブー」


またアブリーがルビィの元に戻って来るけど、


ルビィ「ぬ、ヌイコグマ……遅い……!」


さっきは全速力で走りながら背を向けたから見ていなかったけど、こうして見てみると確かに遅い。

でも、あの“ばかぢから”で暴れられたらトラックに被害を与えかねないし、出来るだけ引き付けたい……。

再び図鑑でアブリーの技を調べて──


ルビィ「! この技なら……! アブリー!」
 「アブアブ」

ルビィ「“スピードスワップ”!」
 「アブアブブ」


ルビィの指示と共にアブリーのスピードががくっと落ちる。

そして、

 「クーマー」


ルビィ「ぴぎぃ!!?」


ものすごいスピードでヌイコグマがこちらに近付いてくる。


ルビィ「た、タイミング速すぎた!? アブリー頑張ってー!」
 「アブー」


“スピードスワップ”でアブリーとヌイコグマの素早さを入れ替えた結果、ヌイコグマが猛スピードで追って来はじめた。

あの可愛い見た目とあのパワーのポケモンが猛スピードで迫ってくるのは、謎の迫力があって、正直怖い。

意図したことだけど、ヌイコグマに追い回される形になる。


ルビィ「は、はっ……!! アブリー!!」
 「アブ」
302: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:11:20.81 ID:ISz0KMwo0

ルビィは素早さの下がったアブリーと併走する。

背後を見ると、ヌイコグマが後ろから迫ってくる。

引き付けるのには完全に成功したようだ。

視線を前に戻す。

すると、遠方に浜辺が見えてきた。


ルビィ「す、スタービーチ!!」


ここまで来れば十分、


ルビィ「アブリー、“ねばねばネット”!」
 「アブブーーー」


アブリーがその場で粘着性のネットを散布する。

 「クーーマーー」

そのネットに足を取られて、ヌイコグマの動きが少しだけ遅くなる。


ルビィ「ぬ、ヌイコグマさん! ルビィとバトルしてください!」


ここまでくれば、もう一対一。あとはルビィがヌイコグマを捕まえるだけ、

 「クーマー」

と、思った瞬間、ヌイコグマが跳ねて、そのままの勢いでアブリーを前足で蹴り飛ばした。“メガトンキック”だ。


 「アブゥーーー」

ルビィ「!? あ、アブリーッ!!?」


ルビィは蹴り飛ばされたアブリーをどうにか腕を伸ばしながらジャンプしてキャッチする。


 「アブブ…」
ルビィ「アブリー、ありがと。あとは休んで」


アブリーをボールに戻す。

 「クーーマーーー」

ヌイコグマの視線がルビィに向く。


ルビィ「ぅゅ……」


一瞬身が竦んだけど……。


ルビィ「ダメだ……戦わなきゃ……!!」


自分を叱咤する。ルビィの手持ちは残り二匹、アチャモかコランか、

腰からボールを選ぼうとしたら、


 「チャモー」「ピピー!!」


アチャモとコランが同時にボールから、勝手に飛び出した。


ルビィ「!」

 「チャモチャモ」「ピピィ」
303: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:12:29.12 ID:ISz0KMwo0

それぞれ、アチャモが“フェザーダンス”を、コランが“ステルスロック”を放つ。

二匹とも、ヌイコグマの足止めの技だ。


ルビィ「二人とも協力できる!?」
 「チャモ!」「ピピ!」


やんちゃな二匹だけど、いざというときは心強い。


ルビィ「アチャモ! “ひのこ”! コラン! “たいあたり”!」
 「チャモ!!」「ピピ!!」


アチャモの“ひのこ”と共に、弾けるようにコランが飛び出す。

 「クーマー」

ヌイコグマは攻撃を避けようと、身体を横にずらそうとする、が。

 「クーーマーー」


“ねばねばネット”に引っかかって、うまく移動が出来ていない。

そこに“ひのこ”がヒットする。

 「クーーマーー」


ルビィ「効いてる!」


ヌイコグマが怯んだところに

 「ピピーーー!!!」

そのままコランが突撃する。

 「クーーーーマーーー」

ヌイコグマが鳴き声をあげながら、怯んだ──ように見えたが、

 「クマー」

突撃してきた、コランを捕まえるように、前足で押さえつける。


 「ピピ!?」
ルビィ「コラン!?」


そのまま、前足でコランを掴み、後ろ足で回りながら、コランを“ぶんまわす”

 「クーーマーー」


ルビィ「コラン!!?」


ルビィがコランに向かって叫ぶと、

 「チャモ!!」

アチャモが一歩前に出た、


ルビィ「あ、アチャモ!?」
 「チャモ!!」


任せろと言わんばかりに、


ルビィ「!」


その姿を見てハッとする。ここでルビィが動揺しちゃダメだ……!

この前、千歌ちゃんが見せてくれたみたいに、トレーナーがポケモンの力を引き出すんだ……!!
304: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:13:21.25 ID:ISz0KMwo0

 「クーーーマーー」

ヌイコグマが回転した反動を乗せたまま、コランを投げ飛ばしてくる。


ルビィ「コラン!! “かくばる”!!」

 「ピピーーーー」


コランの身体をより攻撃的にして、


ルビィ「アチャモ! “ブレイククロー”で片足だけ、地面を踏みしめて!」
 「チャモォ!!」


ルビィ「アチャモ! コラン!」

 「チャモ!!」「ピピ!!」


一直線に飛んできた、コランをアチャモが片足で受け止め、踏みしめた逆の脚を軸足に回転して、コランをさらに投げ返す……!!


 「クーーマーー!?」

ルビィ「いっけー!!!」


かなり特殊な形だけど、二匹の力を合わせて、ヌイコグマに攻撃を倍返しする! “カウンター”!!

 「ピピーーーー!!!」

その激烈な勢いで、飛んできたコランに、

 「クマーーー!?」

今度は受け止めることが出来ずにヌイコグマが後ろに大きく吹き飛んだ。


ルビィ「い、今だ……!!」


ルビィは地を蹴って走り出す。

 「ク、マー」

ヌイコグマに近付いて、花丸ちゃんから貰ったフレンドボールを構えて、

投げた。


 「クマ──」


──パシュン、カツンカツーン。

ヌイコグマを吸い込んだボールが音を立てて、地面で跳ねる。


ルビィ「はぁ……はぁ……!!」


ボールが一揺れ、二揺れ……三回揺れて……大人しくなった。


ルビィ「はぁ……はぁー……」


ルビィは思わずへたり込んでしまう。
 「チャモ…」「ピピ」

そんなところに二匹が近寄ってくる。


ルビィ「えへへ……ちょっと、気が抜けちゃったね」


そうはにかんでから、アチャモとコランを抱き寄せる。

 「チャモ」「ピピ」
305: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:14:17.07 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「えへへ、みんなのお陰で捕獲出来たよ……アチャモ、コラン、アブリーも……ありがと」
 「チャモ」「ピピ」


激闘の末、ルビィはヌイコグマの捕獲に成功したのでした……!!





    *    *    *





あの後、ルビィたちがトラックの方に戻ると、花丸ちゃんとおじさんが待っていました。


牧場おじさん「いやーほんとに助かったー」

花丸「ルビィちゃん、怪我とかしてない?」

ルビィ「うん、大丈夫だよ」

牧場おじさん「何かお礼させて欲しいさー」

ルビィ「あ、えっと……お礼は大丈夫、というか……ある意味ルビィたちが原因というか……」

花丸「ずら?」

ルビィ「と、とにかく大丈夫なんで!」

牧場おじさん「そうかー? 最近の子は謙虚なんだなー この恩は忘れないさー」
 「メェー」


おじさんはそう残して、港の方へとトラックを走らせて去って行きました。


ルビィ「花丸ちゃんは怪我してない?」

花丸「うん、ルビィちゃんがヌイコグマをひきつけてくれたお陰で無傷ずら」

ルビィ「そっか、よかったぁ……」

花丸「それで、あのヌイコグマは……」

ルビィ「あ、うん、ここにいるよ」

花丸「ずら!? あの状況から捕まえたの!?」

ルビィ「え? だって、最初からヌイコグマ捕まえるって話だったし……」

花丸「そうだけど……ホントにどこも怪我してないの? あのヌイコグマ、結構強かったんじゃ……」

ルビィ「強かった、けど……」


ルビィは、3つのボールを撫でながら、


ルビィ「皆が助けてくれたから……」

花丸「…………」

ルビィ「……? 花丸ちゃん?」

花丸「あ、ううん、なんかルビィちゃんすごいなって思っただけ」

ルビィ「え、えへへ……なんか花丸ちゃんに改めてそう言われると照れちゃうな」


ルビィは少しだけ恥ずかしくなって、頬を掻く。

……さて、
306: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:14:44.94 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「後はお姉ちゃんに報告して、認めてもらうだけだね……」

花丸「ふふ、そうだね」

ルビィ「ぅ……なんで、笑うの、花丸ちゃん……ここが一番緊張するんだよ?」

花丸「そんな心配いらないよ」

ルビィ「そうかな……?」

花丸「だって、今日のルビィちゃん」


花丸ちゃんはニコっと安心する笑顔を作ってから、


花丸「100点満点通り越して、はなまる200点満点だったから! ダイヤさんも絶対認めてくれるずらっ」


そう言って笑うのでした。


307: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 12:15:55.21 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【2番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_●_|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口



 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.13 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.13 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.7 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.11 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:30匹 捕まえた数:4匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.12 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:29匹 捕まえた数:12匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



308: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:34:09.18 ID:ISz0KMwo0

■Chapter023 『犬ポケモンの楽園』 【SIDE Chika】





──コメコジムでのジムバトルを終えた後……。

コメコのポケモンセンターにて、


花陽「千歌ちゃん、もう行っちゃうんですね……?」

千歌「はい! あんまりのんびりしてると、梨子ちゃんに置いてかれちゃうんで!」

花陽「梨子ちゃん……ちょっと前にジムでバトルしましたけど、あの子は千歌ちゃんのライバルなんですか?」

千歌「ライバル……になるのかな? 同じときに図鑑とポケモンを貰った子だから、負けてられないなって!」

花陽「そうですか……そろそろ日も暮れ始めると思うから、気をつけてください」

千歌「はい、ありがとうございます!」


花陽さんとそんな会話をしている千歌の足元に、

 「ゼリュー」「ミィー」


千歌「わわっ?」


小柄なブイゼルが二匹寄って来る。


千歌「なんだ、君たちか……」
 「ゼリュ」「ミミィ」


じゃれつく子ブイゼルの後ろからゆっくりと、

 「ゼルゥ」

この子たちの親のブイゼルが歩いてくる。


花陽「巣や小川の修復は順調に進んでるみたいだから……何日かしたら野生に帰してあげられると思います」

千歌「そっか、よかったぁ……ブイゼルくんたち、またね」


私がそう言って、手を振ると。

 「ゼル」

ブイゼルは礼儀正しくお辞儀をする。


千歌「ポケモンセンターの中では自由に動き回ってるのかな?」

花陽「もう敵意もないみたいだし……町の人たちも事情を聞いてからは、ブイゼルに優しくしてくれてます。元々牧場の町なので、ポケモンが自由に歩き回ってることにも、皆慣れてますし」

千歌「そうなんだ。じゃあ、もう心配なさそうですね」

花陽「ふふ、そうですね」


ブイゼルたちはまた自然に帰って、子育てを再開するんだろう。

それを見届けることが出来ないのはちょっと残念だけど……。


花陽「そういえば、千歌ちゃんはホシゾラシティから来たんでしたよね?」

千歌「あ、はい」

花陽「そうなると……次は北西のダリアシティのジムを目指すんですよね」

千歌「そう、なるのかな?」


正直道なりに進んでるだけだからよくわからないけど、次のジムがあるなら、そういうことだと思う。
309: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:35:26.69 ID:ISz0KMwo0

花陽「それなら、手持ちの数を揃えた方がいいと思いますよ」

千歌「数……ですか?」

花陽「はい。ダリアジムはちょっと変わったジムで……ポケモンが6匹いないと挑戦できないので……」

千歌「え、そうなんですか!?」

花陽「だから、後回しにする人も多いんですけど……ストレートに進むならダリアに付くまでに6匹揃えた方がいいと思います」

千歌「な、なるほど……」


考えてみれば、捕獲はダイヤさんが付いてくれていたときに捕まえたムックルが最初で最後だ、

いい加減新しい手持ちを増やさないととは思ってはいたんだけど……。

 「ゼル?」
  「ゼリュゥ」「ミィミィ」

気付くと、ブイゼルたちが再び千歌の足元に近付いてきていた。


花陽「そのブイゼルたち……千歌ちゃんによく懐いてるし、連れて行ってもいいんじゃないですか?」

千歌「うーん……」


そう言われて、私は少し悩む……が、


千歌「子供の内はちゃんと自然の中で育った方が、いいと思います」

 「ゼル」

千歌「だから、子育てが終わって、二匹の子供が独り立ちしたら……また、戻ってこようかな。そのときまで、私のこと覚えててくれたら、またそのとき考えます」

花陽「……ふふ、そうですか」


……となると、この先でポケモンを3匹捕まえないといけない。

そんな私の考えてることに気付いたのか、


花陽「大丈夫ですよ、この先にはポケモンがたくさん生息してる場所があるから……」


花陽さんはそう言うのだった。





    *    *    *





──4番道路。


千歌「わぁー……!!」


私は見渡す限りにたくさんのポケモンがいるのが一目でわかる、光景を目の当たりにして感嘆の声を挙げた。

元気に走り回ってるのはガーディかな?

反対にのんびりとしているブルーやロコンの姿。

何匹か群れているのはポチエナだ。その群れの中心にはグラエナもいる。

その群れを横切るように俊足で走りぬけるのは、ラクライたちの群れ。

その後方から追いかけるように一直線に走るマッスグマ、それをじぐざぐと走りながら追いかけるジグザグマの群れ。

ちょっと遠目にある、切り立った岩肌にポツポツ見えるポケモンも、犬のようなシルエットをしている。
310: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:40:07.48 ID:ISz0KMwo0

千歌「ここが、ドッグラン……!!」



────────
──────
────
──



千歌「ポケモンがたくさん生息してる場所?」

花陽「はい、コメコの西の4番道路は犬ポケモンの楽園──通称『ドッグラン』って言われてる場所なんです」

千歌「ドッグラン……」

花陽「昔コメコの牧場犬を育てるために犬ポケモンを集めて放牧してた名残なんだそうです。今では、そういうことはしていないので全部野生ですけど……千歌ちゃんのしいたけちゃんも犬ポケモンだし、もしかしたら犬ポケモンが好きなのかなって思ったから……」

千歌「はい! 犬ポケモン好きです!」

花陽「それならきっといい仲間が見つかると思いますよ」



──
────
──────
────────



そう言われて来た、ここ4番道路は本当に犬ポケモンの楽園だった。


千歌「確かにここなら、新しい仲間に出会えそう……!!」


ただ、あまり敵意がないのか、近くを通っても、吼えたり、襲い掛かってきたりする様子は全然ない。


千歌「昔は放牧場だったって言ってたし……人に慣れてるのかな?」


ブルーたちの群れの横を通りすぎながら、ぼんやりと呟く。

私が周囲を見回していると、


千歌「あ……あのポケモン……」


一際大きな身体をした、犬ポケモンが目に入ってくる。


千歌「あれって、確かムーランドだよね」


私は図鑑を開く。


 『ムーランド かんだいポケモン 高さ:1.2m 重さ:61.0kg
  山や 海で 遭難した 人を 救助する ことが 得意。
  長い 体毛は 包まれると 冬山でも 一晩 平気なほど 暖かく 
  レスキュー隊の 相棒と して 連れられる ことも多い。』


どっしりと構えたムーランドの周りには、進化前のハーデリアとヨーテリーがたくさんいる。


千歌「うちの手持ちは落ち着きがない子が多いから、ああいうどっしりとしたポケモンが居るといいかも……あ、でもしいたけは落ち着いてるか」


しいたけの場合、どっしりというよりは、のんびりだけど……。

そんなことをぼやきながら、ムーランド率いる群れを観察していると。


千歌「ん……?」
311: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:41:38.12 ID:ISz0KMwo0

ムーランドのすぐ近くに明らかに犬ポケモンとは違うシルエットが飛び出てるのが目に入る。

──というか、あれって……。


千歌「……人の脚?」


なんだか綺麗な脚……女性の脚かな?

ハーデリアやヨーテリーが群がっていて、それ以上はよくわからない。

犬ポケモンたちと、じゃれてるのかな……?

いや、その割には、ピクリとも動かないし……


千歌「……あの人、大丈夫かな……?」


私は心配になって、その人影に駆け寄る。


 「ウォフ…」


私が走ってきても、ムーランドは毅然としたまま、そこに鎮座していた。


千歌「ち、ちょっとごめんねー」

 「ワンワン?」「ワォフ」


その女性の安否を確認するために、ヨーテリーとハーデリアを手で掻き分けて、


千歌「え」


私はそこに倒れている人の顔を見て、驚きの声を挙げた。


千歌「梨子ちゃん……?」


ヨーテリーとハーデリアにもみくちゃにされて、気絶していたのは、


梨子「…………」


私よりも遥か先を旅してるはずのライバル──梨子ちゃんだった。





    *    *    *





千歌「梨子ちゃん、梨子ちゃーん?」


ぺちぺちと頬を叩いてみる。


梨子「……ん……」

千歌「あ、よかった……息はあるね」


それにしても、なんでこんなところに……まさかお昼寝してたとか……?


千歌「うーん……梨子ちゃんって私の中で、そういうイメージじゃないんだけどなぁ……ムーランドくん、なんで梨子ちゃんこんなところで寝てたの?」

 「ヴォッフ…」
312: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:42:30.19 ID:ISz0KMwo0

ムーランドに訊ねてみるも、ムーランドは鼻を鳴らすだけだった。

原因が全くわからず、頭が捻っていると、


梨子「ん……あれ……わた、し……」

千歌「あ、梨子ちゃん!」


梨子ちゃんが目を覚ました。


梨子「……あれ? 貴方……」

千歌「貴方じゃなくて、千歌だよ! いい加減覚えて!」

梨子「ぁぁ、うん……千歌、ちゃん……なんで私、こんなところ……に……」


目を覚ました梨子ちゃんが見る見る青ざめていく。


千歌「梨子ちゃん?」


梨子ちゃんの視線を追うと、私の後ろにいるムーランドを見て、


梨子「────」


口をパクパクとさせている。


千歌「梨子ちゃん?」

梨子「……い──」

千歌「……い?」

梨子「いやああああああああ!!!!!」


──突然、梨子ちゃんが絶叫して、私に抱きついてきた。


千歌「え!? な、なに!?」

梨子「いぬ!!!! 犬!!!!!」


梨子ちゃんは半狂乱で何度も『犬、犬』と叫んでいる。


千歌「り、梨子ちゃん落ち着いて……!!」

 「ヴォッフ…」

梨子「た、助けてっ!! か、噛まれるっ……!!」

千歌「だ、大丈夫だからっ 梨子ちゃん!?」


明らかに異常な脅え方。


梨子「千歌ちゃん、助けっ……!!!?」


すごい力で腕にすがり付いてくる。

その騒ぎに周りのヨーテリーやハーデリアがわらわらと近寄ってくる。


梨子「こ、来ないでっ……!!!? 来ないでぇっ!!!」


それに反応するように、パニックはどんどん激しくなっていく、このままじゃ不味い。
313: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:43:57.35 ID:ISz0KMwo0

千歌「ちょっとごめんね皆! いけ、ムクバード!」

 「ピピィーーー!!!」


腰のボールからムクバードを繰り出す。


千歌「ムクバード! “ふきとばし”!!」
 「ピィーー!!!」


周囲一帯に強風を巻き起こし、

 「ワフ!?」「ウォッフ!!」

ヨーテリーやハーデリアを吹き飛ばす。


千歌「梨子ちゃん、大丈夫だから!」

梨子「はっ……!! はっ……!! 千歌ちゃ……っ」


だけど、

 「ワンワン!!!」「ウォッフウォフ!!!!」

敵対行動と見做されたのか、追い払っても追い払っても、ヨーテリーとハーデリアが寄って来る。


梨子「ひっ……!!」

千歌「くっ……!!」


そのとき、

 「ヴォッフ!!!」

近くで腰を据えていた、ムーランドが吼えた。


梨子「ひ……!!!」

千歌「む、ムーランドも……!?」


ムーランドに攻撃される、と思ってマグマラシのボールに手を掛けたが、

 「ワフ…」「ウォフ」

予想に反して、周りのヨーテリーとハーデリアの動きがピタリと止まり。


 「ヴォッフ…」


ムーランドは再び鼻を鳴らして、その場に腰を降ろした。


千歌「あ、あれ……?」

梨子「ふー……ふー……っ!!」


涙目でガタガタと震えながら、私の腕にすがりつく梨子ちゃん。

ヨーテリーとハーデリアは、さっきとは打って変わって、のそのそとその場から離れていく。


千歌「ムーランドくん……キミが助けてくれたの?」

 「ヴォフ…」


ムーランドは先ほど同様、鼻を鳴らすだけだった。


梨子「千歌ちゃん……っ……!! い、今のうち……に、逃げなきゃ……っ……!!」


梨子ちゃんがそう言って引っ張ってくる。
314: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:45:00.96 ID:ISz0KMwo0

千歌「わわっ!?」


ただ、激しく動揺していたためか、


梨子「きゃっ!?」


脚をもつれさせ、私を巻き込んで倒れそうになる。


千歌「あ、あぶなっ!!?」


そのとき、うつ伏せに倒れそうな背中を、何かに引っ張られる。


千歌「っ!!」


そのまま、腕に力を込めて、梨子ちゃんごと体勢を持ち直した。


梨子「!?!?」


梨子ちゃんの顔色がまた恐怖の色に染まるのを見て、

ムーランドが転びそうなところを、服に噛み付いて持ち上げ、助けてくれたんだと気付く、と同時に、


千歌「ごめん、梨子ちゃん!!」


梨子ちゃんの口を手で塞いだ。


梨子「!? むーっ!!! むーっ!!!?!?!?」


このままじゃ埒があかない、


千歌「ムクバード!! 手伝って!!」
 「ピィーー」


指示を待ってすぐ近くを旋回していた、ムクバードを呼び寄せ、リュックの上の部分を掴ませる。


千歌「梨子ちゃん! すぐ、犬がいないところに連れてくから、少しだけ我慢して!!」

梨子「……!!」


梨子ちゃんが目を見開いて、コクコクと頷いた。

そのまま、お姫様抱っこの要領で梨子ちゃんを抱きかかえる。

梨子ちゃんは私の首に腕を回して、身を縮こまらせたあと目を瞑った。


千歌「ムクバード!! 全速離脱!!」
 「ピピィーー!!!」


私はムクバードの揚力を借りる形で、梨子ちゃんを持ち上げて、その場から全速力で退散したのだった。


 「ヴォッフ…」


離れた背後で、ムーランドがまた鼻を鳴らした気がした。





    *    *    *


315: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:47:21.32 ID:ISz0KMwo0


千歌「梨子ちゃん……落ち着いた?」

梨子「あ……うん……」


4番道路の犬ポケモンの群生地から、やや東に戻り、コメコの町の近くにあった小さな旅人用の小屋で私たちは腰を落ち着けていた。

時間はもう夕暮れ時を過ぎて、東の空からは宵闇が迫り始めていた。

……あのあと、徐々に落ち着きを取り戻した梨子ちゃんは、小屋の隅っこで縮こまっていた。

まだ少しだけ、震えている。


梨子「あの……千歌ちゃん……」

千歌「ん、何?」

梨子「ごめんなさい……」


梨子ちゃんは謝ってから、俯いてしまう。


千歌「うぅん、気にしないで……それより、何があったか、訊いていい……?」


どうして、あんな場所にいたのかもだけど、

それよりもあの尋常じゃない脅え方。何もないわけがない。


梨子「……私、犬ポケモンが苦手なの……」

千歌「うん」

梨子「4番道路にあんなに犬ポケモンがいるなんて知らなくて……他の犬ポケモンから逃げ回ってたら、ヨーテリーたちの群れに囲まれちゃって……その後はよく覚えてないんだけど……あまりに怖くて、あそこで気を失っちゃったんだと思う……」

千歌「……そっか」


そういえば、初めて出会ったときも私のしいたけを怖がってたような気がする。

知らなかったとは言え、悪いことしたかな。


千歌「でも、怪我とかしてなくて、よかったよ」

梨子「……お陰様で……ありがとう……」


梨子ちゃんは少しだけ照れくさそうにお礼を言ったあと、


梨子「……今まで邪険に扱って……ごめんなさい」


頭を下げた。


千歌「あはは、チカは気にしてないから大丈夫だよ。顔をあげて?」

梨子「でも……」


梨子ちゃんはおずおずと顔をあげる。依然不安そうな表情を見て、


千歌「ちっちゃい頃はお姉ちゃんから、もっと酷い扱い受けてたから……末っ子はそういう扱いには慣れっこなのだっ」


私はそうおどけて返した。


梨子「……ふふ、ありがと……」


私の冗談を汲んでくれたのか、梨子ちゃんの表情が少しだけ和らいだ。
316: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:48:58.82 ID:ISz0KMwo0

千歌「えへへ、やっと笑った」

梨子「え?」

千歌「梨子ちゃんいっつも苦しそうな顔してたから……」

梨子「私……そんな顔してた……?」

千歌「してたよ。しかめっつらで、来るもの全部を睨みつけるみたいな感じで……」


千歌が眉を怒らせるような表情の真似をすると、


梨子「い、いや……さすがにそこまで怖い顔じゃなかったと思うんだけど……」

千歌「えーそうかなぁ? 結構睨まれてるなーって思ってたんだけど」

梨子「というか、さっき気にしてないって言ったのに、気にしてるじゃない……意外と根に持ってる?」

千歌「妹は姉からされた仕打ちを忘れることはないからね……そういうところあるかも」

梨子「さっき慣れっこって言ってたじゃないっ!」

千歌「あ、確かに……じゃあ、両立出来るってことだね」

梨子「……ふふ、もう、それじゃなんでもありじゃない」

千歌「あはは、そうだね」


二人して、クスクスと笑ってしまう。


梨子「千歌ちゃん」

千歌「何?」

梨子「最初に会ったとき、私ロクに自己紹介もしなかったから……改めて」


梨子ちゃんが私を真っ直ぐ見て、


梨子「私はサクラウチ・梨子。カントー地方から来ました」


改めて、そう名乗りました。





    *    *    *





──日が完全に沈み、小屋の中にあったロウソクを見つけて、


千歌「マグマラシ、“ひのこ”」
 「マグ」


明かりを灯す。


梨子「……私ね、カントー地方のタマムシシティの出身なんだ」

千歌「カントー地方……ここからずーっと東の方にある地方だっけ?」

梨子「ええ」


梨子ちゃんは相槌を打つ。
317: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:55:48.26 ID:ISz0KMwo0

千歌「どうして、オトノキ地方に来たの?」

梨子「うんとね……旅のやり直し、なのかな」

千歌「やり直し……?」

梨子「普通ポケモントレーナーが旅に出るのって、10歳くらいでしょ?」

千歌「うん、らしいね。チカたちは近くに研究所もなかったから、10歳のときに旅に出れた人はあんまりいないんだけど……」


果南ちゃんやダイヤさんが旅立って行ったのが、確か7年前とかだったから……前はウラノホシタウンでも10歳くらいで旅に出てたのかもだけど、


梨子「私もね、10歳のとき、タマムシシティから旅に出ることになってたの」

千歌「そうなの? ……なってた?」

梨子「うん……結果から言うと、旅には出られなかった」


梨子ちゃんは悲しそうにそう言った。


梨子「旅の前日にね、下見をしようと思って、タマムシの近くある7番道路に一人で行っちゃったの」

千歌「……」

梨子「そのときにね……噛まれたの」


梨子ちゃんはスカートの上から、左脚の内腿辺りをさすっていた。

たぶんそこを噛まれたってことだと思う。


千歌「……犬ポケモンに噛まれたってこと?」

梨子「うん。デルビルってポケモン。“ほのおのキバ”で噛まれて、大怪我だった」

千歌「……」

梨子「なんであのとき、一人で下見なんてしようとしちゃったのかなぁ……旅立ち前で浮かれてたのかも」

千歌「あはは……ちょっとわかるかも。チカもトレーナーの真似だって言って、ちっちゃいころから勝手に1番道路に出て怒られたことあるもん」

梨子「ふふ……なんかトレーナーとして旅に出るなんていうとちょっと大人になった気分になるもんね」


梨子ちゃんは自嘲気味に笑った後、話を続ける。


梨子「とにかく痛くて……熱くて……怖かったことはよく覚えてる。実際怪我の具合も相当酷かったみたいで、それから1年間はまともに歩けなかったくらいでね。……もちろんトレーナーとして旅立つなんてもってのほかで、私はお母さんのポケモンと、昔から仲の良かったチェリンボとずっと家の中に居たわ」

千歌「そうなんだ……」

梨子「でもね……それでも私は、お母さんから見たら、旅に出たそうにしてたんだと思う」

千歌「……そんなことがあったのに?」

梨子「……お母さんがね、タマムシシティでもちょっとした有名な芸術家なの。最初旅に出るときは、お母さんの薦めで……旅に出て、いろんなものを見てきて欲しいって言われて……でも、私がバカなことしたせいで全部出来なくなっちゃって……」

千歌「……」

梨子「お母さんのツテで図鑑も最初のポケモンを貰う約束を取り付けてくれてたのに、全部無駄になっちゃって……それからは機会もなくて、気付いたら16歳。お母さんは、怪我が完治した後も、ずっと旅立ちの機会を探してくれてたんだけど……そんなときに」

千歌「偶然、ここで条件に合う旅立ちの機会を見つけた……」

梨子「そういうこと」


言われてみれば、旅立つ3人は歳の近い人を選ぶって言ってたっけ……。

本来10歳くらいで旅に出る人が多いから、16歳や17歳みたいな半端な年齢で旅に出る人はかなり珍しい。実際私たち4人も地元の人間だけじゃ数が集まらなかったわけだし。
318: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 13:57:29.06 ID:ISz0KMwo0

梨子「これでやっと罪滅ぼしが出来るって……思ったの」

千歌「罪滅ぼし……?」

梨子「お母さんが、せっかく用意してくれた、舞台を私がめちゃくちゃにした……私の勝手で、めちゃくちゃに……」

千歌「そんな……」

梨子「お母さんの後押しで旅には出たけど……それでも、今回の旅立ち前もすごい心配してて……自分の育てたポケモンもたくさん持たせてくれた」


そう言って梨子ちゃんは腰から3つのボールを放った。


 「ブルル…」

梨子「一匹はこのメブキジカ。いつも桜の花を咲かせてる不思議な個体なの」


 「リコチャンリコチャン!!」

梨子「二匹目はこのペラップ。その場その場でいろんな声や音を記憶出来る不思議なポケモン」


メブキジカにペラップ……でも、私は三匹目に目を引かれた。だって……。


 「ドブルー…」

千歌「犬……ポケモン……」


筆のような尻尾の先から、桜色のインクを滴らせたポケモン。


 『ドーブル えかきポケモン 高さ:1.2m 重さ:58.0kg
  尻尾の 先から にじみ出る 体液で 縄張りの 周りに
  自分の マークを 描く。 5000 種類以上の マークが
  見つかっており その 独創性から 芸術家に 好まれる。』


梨子「三匹目はこの色違いのドーブル……芸術家のお母さんの相棒でね。三匹ともちっちゃい頃から私の面倒を見てくれてたから……犬ポケモンだけど、多少は平気なの」

 「ドブル…」


でも、ドーブルはペラップやメブキジカに比べると梨子ちゃんから距離が遠い。


梨子「ただ……ちっちゃい頃はあんなに仲良しだったのに、あのときから触ることは出来ない……」

千歌「……」

梨子「どうしても、犬ポケモンに触られるとパニックを起こしちゃって……ダメなんだ」


梨子ちゃんはそう言いながら、三匹をボールに戻す。


梨子「それでも、お母さんがドーブルを持たせてくれたのは……期待なのかなって」

千歌「期待……?」

梨子「芸術家として、私が旅の中で何かを見つけてくることを期待して……ね」

千歌「……そう……なのかな……」

梨子「……きっと、そうなんだと思う」


私はなんとなくもやもやとしたけど、梨子ちゃんがそういうなら、そうなのかもしれない。

会ったことのない梨子ちゃんのお母さんが何を考えて、梨子ちゃんにポケモンを託したのかまではさすがにわからないし。


梨子「だから、私は結果を出さないといけない……。まだ、芸術として残せそうなインスピレーションは見つけられてないし……正直それが見つかるのかわからない。……それなら、せめて他に何かの結果を……ジム制覇をしたら、こうして旅に送り出してくれたお母さんにも報えるのかなって」

千歌「……そっか」
319: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 14:01:00.28 ID:ISz0KMwo0

ここまで来て、やっと梨子ちゃんが何を焦っているのかがわかった気がした。

全部ではないにしろ……お母さんのために、梨子ちゃんは精一杯なんだ。


梨子「でも、それもここで終わりみたい……」

千歌「え……?」

梨子「だって……今日の私、見たでしょ? この地方にはデルビルは生息してないって言うのは先に調べてたんだけど……あんなに犬ポケモンが居る場所があるなんて知らなかったから」


確かに私も知らなかったくらいだし、カントー地方から来た梨子ちゃんが知らなくても無理はない。


梨子「さて……これから、どうしよっかなぁ……。私はこの先は進めないし……戻って、船で海路かな……」

千歌「……梨子ちゃん」

梨子「何?」


私は思わず、立ち上がって、手を差し伸べていた。


千歌「私と一緒に行こう」

梨子「え……」

千歌「あそこの犬ポケモンたち、人に慣れてるから寄って来ちゃうけど……変に刺激しなければ、十分素通り出来ると思う」

梨子「……」

千歌「それに、もしパニック起こしちゃっても、チカが近くに居れば今日みたいに助けてあげられるし」

梨子「いや、でも……悪いよ」

千歌「お互い目的地は一緒なんだし、折角ここまで来たのに、わざわざスタービーチまで戻るの?」

梨子「それは……。……でも、千歌ちゃんにそこまでしてもらうわけには……」

千歌「私たち、一緒に図鑑と最初のポケモンを貰った仲間……うぅん、友達でしょ?」

梨子「友達……」

千歌「困ったときはお互い様だよ!」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「だから、一緒に行こう!」

梨子「……」


梨子ちゃんがソロソロと手を伸ばす。

私はその手を強引に、掴む。


梨子「……!」

千歌「一人で乗り越えられないなら、二人で乗り越えよう! ううん、私たちは二人だけじゃないよ。ポケモンがいる!」
 「マグッ」

梨子「……うん……うんっ!」


精一杯想いを伝えたら、梨子ちゃんは私の手を握り返して、力強く頷いてくれたのでした。


320: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 14:01:37.39 ID:ISz0KMwo0



    *    *    *





小屋で夜を明かすために出した寝袋の中で、千歌ちゃんが寝息を立てている。


千歌「……えへへ……なかまがいっぱいー……ふえたー……」


というか、寝言を言っている。

明日は千歌ちゃんの厚意に甘える形になるけど……。

……明日を想像して、思わず震える手を、押さえつける。


梨子「……きっと、今乗り越えなくちゃいけないことなんだ……」


私は一人そんなことを呟きながら、


梨子「千歌ちゃん、ありがと……おやすみ」


少し遅れて、眠りに就くことにしました。


321: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 14:02:53.58 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
 口================= 口
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 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.19  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.20 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:68匹 捕まえた数:7匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.19 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.37 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



322: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:07:23.60 ID:ISz0KMwo0

■Chapter024 『ドッグランを駆け抜けろ!』





──4番道路。夜が明けて、十分視界が確保できるようになった頃。


千歌「梨子ちゃん! 行くよ!」

梨子「う、うん!」

千歌「マグマラシ、ムクバード、頑張って付いて来てね!」
 「マグッ」「ピピィッ」

梨子「メブキジカ、お願いね。チェリンボは振り落とされないように」
 「ブルル…」「チェリリ」


私と梨子ちゃんはメブキジカの背中に乗って。


千歌「そういえば、私が前に座ってて良いの?」


私は前でメブキジカに馬乗りする形、梨子ちゃんはそのすぐ後ろに座っている。


梨子「それなりに慣れが必要で、いきなり後ろに乗ると振り落とされちゃうと思うから……」

千歌「なるほど、了解!」


時間を経るほど、ポケモンたちが起き出してくる。雑談もほどほどに出発しなくちゃ。

もちろん、野生のポケモンたちも視界が確保され始めるこの時間帯にはすでに活動を始めてる子も多いけど、


千歌「とにかく、最短時間で駆け抜けよう!!」

梨子「うん! メブキジカ!」
 「ブルル!!!」


梨子ちゃんの合図でメブキジカが走り出した。





    *    *    *





千歌「──うわっとと!?」

梨子「千歌ちゃん!?」

千歌「だ、大丈夫! 確かに結構揺れるね……!」


全速力で走るメブキジカに掴まったまま、ドッグランを駆け抜ける。


梨子「ち、千歌ちゃんっ」

千歌「何!?」

梨子「う、後ろからっ」
323: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:09:00.64 ID:ISz0KMwo0

言われて半身を捻ると、早速後ろからジグザグマが追ってきているのが見える。

 『ジグザグマ まめだぬきポケモン 高さ:0.4m 重さ:17.5kg
  好奇心 旺盛な ポケモンで 何にでも 興味を 持つため
  いつも あっち こっちへ ジグザグ 歩いている。 そのためか
  よく いろいろな ものを 拾ってくるため 探険家に 重宝される。』

ジグザグに走っているため、そこまで速くないけど、

メブキジカも二人を乗せている分スピードが落ちている。

でも、一匹ずつ相手するのは効率が悪い、


千歌「マグマラシっ!! “えんまく”!!」

 「マッグッ」


私たちの横を併走するマグマラシに指示を出す。

 「ジグザ!?」「クマー!!」

噴出した黒煙に目をくらまされて、何匹かのジグザグマの足が止まる。



千歌「そういえば、ジグザグマは梨子ちゃん的に犬ポケモンに入るのー!?」


風を切って走るメブキジカの背中の上で声を張り上げて訊ねる。


梨子「い、一応タヌキポケモンかなって思ってるけどー! 犬と言われれば犬かもー!?」


と、なると、他の犬ポケモンに比べれば犬っぽさみたいな怖さはあまり感じてないのかもしれない。

なら、必要以上の迎撃は無用。前方に視線を戻す。

その刹那──。


 「ワンワンッ」

梨子「ひっ!?」


前方から鳴き声がして、梨子ちゃんの身体が大きく揺れる。


千歌「梨子ちゃん!?」


咄嗟に身を翻して、梨子ちゃんを抱き起こ──せずに、一緒に落ちそうになる。


千歌「わわっ!? ムクバード!?」

 「ピピィーーー!!!」


咄嗟にムクバードを呼び寄せて、リュックを引っ張らせる。

 「ピピピィーーーー!!!」

ムクバードのパワーで後ろ向きに引っ張られ、


千歌「……せ、セーフ!!」


体勢を崩す、すんでのところで持ち直す。


千歌「梨子ちゃんは!?」

梨子「ち、千歌ちゃん……っ!!」


腰に抱きついている。一先ずは落ちていない。
324: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:10:55.03 ID:ISz0KMwo0

千歌「なら、とりあえず……!!」


声の主を探す。

ただ、私も犬ポケモンは好きだし、あの犬ポケモンの代表みたいな鳴き声は知っている。

 「ワンッ ワンッ!!!」


千歌「ガーディ!!」


 『ガーディ こいぬポケモン 高さ:0.7m 重さ:19.0kg
  嗅覚に 優れ 一度 嗅いだ 臭いは 何が あっても
  絶対に 忘れない。 見知らぬ者や 縄張りを
  侵す 者には 激しく 吠え立てて 威嚇 する。』


ガーディの姿を認めると、同時に攻撃態勢に移ってるのが確認できる。


千歌「マグマラシ! “ひのこ”で迎撃!」

 「マグ!!」

 「ウーーワウッ!!」


ガーディの飛ばしてくる、“ひのこ”をマグマラシの同じ技で撃ち落す。

ガーディは基本的に、縄張りからは動かない。

攻撃さえやり過ごして、縄張りを抜ければ問題はない。


 「ピィー!! ピィー!!」


千歌「ムクバード!? どうしたの!?」


今度はすぐ近くを飛んでいたムクバードが声を挙げる。

ムクバードの視線を追うと、背後から──土煙を上げて一直線に追って来る影、


千歌「つ、次から次へと……!!」


 『マッスグマ とっしんポケモン 高さ:0.5m 重さ:32.5kg
  獲物 目掛けて 一直線に 突っ走る。 時速 100キロを
  超える スピードを 出すが 緩やかな カーブを 曲がるのは
  苦手な ため 直角に 折れ曲がって 避ける。』


千歌「100キロ!? それは無理ー!!?」

梨子「ち、チェリンボ!!」
 「チェリリ!!」


図鑑を見て思わず叫ぶ私の後ろで、梨子ちゃんがチェリンボに指示を出す。


梨子「“くさぶえ”!」
 「チェリ~♩♪♬」


チェリンボが自分の頭の葉っぱで音楽を奏でると──

程なくして、土煙が止まる。


梨子「よ、よかった……一発で眠った……!!」

千歌「梨子ちゃん、ナイス!!」

梨子「でも、あんまり命中しない技だから、あんまり迎撃に向いてないのー!」
325: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:15:44.40 ID:ISz0KMwo0

──スタート地点から、岩山を目印にして、だいたい中腹くらいまで駆け抜けてきた、

ジグザグマの群れと、ガーディの縄張りをやり過ごして……。

ムーランドやグラエナが率いてる群れはもっと手前だったし、最初の山を抜けた感じだ。


 「ブルル!!!」

梨子「メブキジカ!?」


今度は前方でメブキジカが声をあげた、視線を前方に集中すると、


千歌「ブルーの群れっ!!」


 『ブルー ようせいポケモン 高さ:0.6m 重さ7.8kg
  顔は 厳ついが 実は 結構 臆病。 人に
  よく懐き よく甘える。 必死に 威嚇する 仕草と
  顔に ギャップが あり それが 女性に 人気。』


今度はブルーの集団のようだ。

猛進してくるメブキジカを見て、ブルーたちは散り散りに逃げているが、逃げ遅れた何匹かが前方でうろうろしている。


千歌「避けられるっ!?」

梨子「た、たぶん無理っ!!」


ブルーたちはあちこちめちゃくちゃに走り回っているため、避けるのは難しいと判断し、


梨子「ど、どうしようっ!! 千歌ちゃんっ!!」


梨子ちゃんから焦りが見える。

この速度で迂回も出来ないけど、引き帰したらもっと意味がない。


千歌「梨子ちゃん! ちょっと、目瞑って、チカの背中に顔押し当てててっ!」

梨子「ええっ!?」

千歌「いいからっ!!」

梨子「し、信じるからねっ……!!」


梨子ちゃんが顔を押し付けた感触を背中で確認しながら、


千歌「メブキジカ!!」
 「ブルル!!!」

千歌「“メガホーン”で走り抜けながらブルーを投げ飛ばせる!?」
 「ブルル!!!!」

千歌「お願いね!!」


今までの行動を見ていても、梨子ちゃんを守りたい気持ちが一番伝わってくる、このメブキジカなら、“おや”じゃないチカの言うことも多少は訊いてくれるはず……!!


千歌「ムクバード!!!」
 「ピピーー!!!」

千歌「飛んでった、ブルーお願いね!」
 「ピピーー!!!!」


それだけ伝えると、ムクバードはそのまま高度をあげていく。

前方、進行ルート上に逃げ遅れたブルーが2匹!

 「ブルル!!!!」

メブキジカが走りながら、首を低く下げ、ツノで掬い上げる姿勢を取る、
326: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:16:43.02 ID:ISz0KMwo0

梨子「……っ!!」


 「ブルル!!!!」

完全にびびって逃げ遅れたブルーをメブキジカのツノが掬い上げて、

 「ブルー!?!?」

上に向かって放り投げる。

上空に放り投げられた2匹のブルー。

 「ピピー!!!」

その二匹は空中でパワーが自慢のムクバードがキャッチする。


千歌「ナイス、ムクバードっ!! 安全な場所に降ろしてあげたら、追いついてきてー!!」

 「ピピーッ!!!」


千歌「梨子ちゃんっ! もう顔あげていいよっ!!」

梨子「ぬ、抜けたの……っ!?」

千歌「メブキジカのお陰でどうにかっ!!」


全速力で駆けて来て、もうじき岩山だ、

その瞬間──前方を稲妻の大群が走る。


梨子「ら、ラクライの群れ……!!」

 『ラクライ いなずまポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.2kg
  電流で 足の 筋肉を 刺激して 爆発的な 瞬発力を
  生み出し 目にも 止まらぬ スピードで 走る。 その際
  空気の 摩擦で 電気を 発生させて 体毛に 蓄える。』


バチバチと静電気の音がする。

稲妻がメブキジカを併走している。

そのうちの一匹がバチリと“スパーク”する。


梨子「きゃぁっ!?」

千歌「い、威嚇してきてる!?」


このドッグランの中ではかなり好戦的なポケモンのようだ。


千歌「戦意があるなら、もうここからはバトルだよねっ! マグマラシっ!!」
 「マグッ」

千歌「“ニトロチャージ”!!」
 「マグッ!!!」


マグマラシが全身に炎をまとって、加速する。

 「ライ!?」「ギャウ!?」「ラク!!!?」

加速しながら、稲妻の閃光たちに炎の体当たりをし、一匹ずつ倒していく。


千歌「いいよ! マグマラシ! このまま、岩山を迂回して──」


瞬間、


梨子「キャァッ!?」


梨子ちゃんの悲鳴。
327: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:17:41.26 ID:ISz0KMwo0

梨子「“マジカルリーフ”ッ!?」
 「チェリリリ!!!」

 「ギャウッ」


千歌「梨子ちゃんっ!?」

梨子「だっ……だいじょぶっ!! どうにか倒した……っ!!」


どうやら仕留め損なったラクライが飛び掛ってきたようだが、梨子ちゃんがチェリンボで迎撃したようだ。


千歌「うんっ!!」


出来るだけスピードを維持しながら、岩山を迂回し始める。

その際、チラリと岩山の山肌を見てみると、ドッグランに初めて訪れた際にも見えた、ポケモンたちが点々としていた。


梨子「千歌ちゃんっ!!!!!」


また梨子ちゃんが突然私の名前を叫んだ、

──瞬間、

視界が回転した、


千歌「なっ!!?」


──メブキジカから投げ出された!?


梨子「──“グラスフィールド”ッ!!!!!!!」


視界が回転するなか、梨子ちゃんの声が響き渡る。


千歌「っ!!」


草の生い茂った地面を身体が転がる。


千歌「いったぁっ……!!」


投げ出されて、全身を打ったけど、梨子ちゃんの機転で硬い地面に身体を打ち付けずに済んだ。


千歌「そうだ、梨子ちゃんっ!!?」


視界が揺さぶられたせいで、目が回っているが、どうにか身体を起こして、状況を確認する。


 「ブルルッ…」


少し離れたところで、メブキジカが蹲っているのが目に入ってきた。


千歌「メブキジカ!」


そして気付く、何かに“ふいうち”されたんだと、

たぶん、岩山の影に隠れていたポケモンがいたんだ……!!


千歌「梨子ちゃんはっ!?」

 「チェリリリ!!!」
328: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:19:23.07 ID:ISz0KMwo0

チェリンボの声がして反射的にそっちを見る。

声のした方向に、


梨子「……っ」


梨子ちゃんが倒れてぐったりとしていた。

そして、その近くに赤い体毛の狼のようなポケモンの姿があった、

直感がそいつに攻撃されたんだと告げてくる。


千歌「梨子ちゃん!!」

 「ルガン…」

梨子「……ぅ……」
 「チェリリ!!!」


そいつは赤い目を冷酷に光らせて、梨子ちゃんに鋭い爪を振り下ろそうとしていた、


千歌「マグマラシーーーー!!!!」


三半規管が混乱の中から戻ってきていない。

今、マグマラシがどこにいるかわからなかったから、とりあえず指示が届くように叫ぶ。

──バチバチと、音が聴こえる。炎熱を纏って加速したマグマラシが、先ほどの稲妻たちのように、今度は電気を纏って走っている。


千歌「“ワイルドボルト”ーーーーー!!!!!!!」

 「マッグゥ!!!!!!」

 「ルガン!!!?」


視線を梨子ちゃんに戻すと、そこにはパチパチと放電の余韻を残した、マグマラシ。

そして、その少し離れたところにさっきの赤いポケモンが倒れていた。


千歌「マグマラシッ! 信じてたよ!」


足を踏ん張って立ち上がる。

まだ少し足はふらつくけど、そのまま梨子ちゃんの元へ走る。


千歌「梨子ちゃん!!」

梨子「ぅ……っ……千歌……ちゃん……っ」


蹲る梨子ちゃんに声を掛けると、ぼんやりとした瞳で私を捉えている。

どうやら、意識が朦朧としているようだ。

メブキジカから放り出された、私とチェリンボを庇って、軽く頭を打ったのかもしれない。


千歌「あとちょっとだから……っ!!」


梨子ちゃんに肩を貸す形で立ち上がらせる。


梨子「千歌……ちゃん……」

千歌「メブキジカ、戻してあげて……!! 戦闘不能だから……!!」

梨子「う……ん……」


メブキジカの近くまで梨子ちゃんに肩を貸しながら、移動する。
329: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:20:03.65 ID:ISz0KMwo0

 「ブルルゥ…」
梨子「メブキジカ……戻って……」

千歌「よし……あとは、歩い……て……」


私は周囲を見回して、


千歌「……うそ……」


愕然とした。


 「ルガン…」「ガルルルル…」


気付けば、私たちの周りには、前方に灰色の狼ポケモンの群れが、後方にさっきのと同じ赤色の狼ポケモンの群れが集まってきていた。


千歌「囲まれてる……」


完全にあのポケモンたちの縄張りに迷い込んだらしい、


梨子「千歌……ちゃん……?」

千歌「……っ……大丈夫、後ちょっとだから……っ」


梨子ちゃんの意識が朦朧としてて、かえってよかったかもしれない。

意識がはっきりしていたら、この状況だと、どうやってもパニック状態になってしまう。


千歌「ふー……」
330: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:20:59.50 ID:ISz0KMwo0

落ち着け。

どっちにしろ脱出するなら後退はダメだ。

なら前方の灰色のポケモンを倒すべきだ、

勝算は? ……ないかも……。でもやるしかない、


千歌「マグマラシ……!!」


私が前方の群れに標的を定めた、瞬間。


 「──そこのあんたたち!! 耳塞ぎなさい!!」


よく通る、少し幼さを感じる声が一帯に響いた。


千歌「!?」


だけど、そんな一瞬で咄嗟に耳を塞ぐ余裕なんてなく、


女性の声「ニンフィア!! “ハイパーボイス”!!!」

 「フィイイアアアアアアアアア!!!!!」


千歌「……っ!!?」

梨子「……っ」


ビリビリと大地を振るわせるような、轟音が響き渡る。


千歌「……梨子……ちゃ──」


手で塞ぐとか、そんなことは関係なしに、その轟音の衝撃で、私の意識はそこでプツリと落ちてしまった。


331: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 15:22:33.84 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
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【4番道路】
 口================= 口
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 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:70匹 捕まえた数:7匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



332: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:12:14.05 ID:ISz0KMwo0

■Chapter025 『旅立ちの船』 【SIDE Hanamaru】





──ウチウラシティ。早朝。

ジムの前でこれから旅に出ると言うところで、

マルたちの旅立ちの瞬間をダイヤさんと鞠莉さんが見送りに来てくれていました。


ダイヤ「ルビィ、身体には気をつけるのですよ?」

ルビィ「うん」

ダイヤ「もし何かあったら、ポケギアにすぐ連絡を入れるのですよ?」

鞠莉「ダイヤ、そんなに心配してたら、ルビィたちが旅に出づらいでしょ?」

ダイヤ「それは……」


鞠莉さんが過保護なダイヤさんを嗜めるようにそう言う。


ルビィ「お姉ちゃん、心配しないで」

ダイヤ「……」

ルビィ「花丸ちゃんもいるし」

花丸「ずら」

ルビィ「何より、皆がいるから」
 「チャモ」「ピピィ」「アブブ」「クーーマーー」


ルビィちゃんの4匹の手持ちが鳴き声をあげる。


ダイヤ「……わかりました」


ダイヤさんはそれでも尚不安そうにルビィちゃんを見つめる。


ルビィ「ぅ、ぅゅ……お姉ちゃん。ホントに大丈夫だから……」


そんな、二人のやり取りを眺めていると、


鞠莉「……マル。ちょっと」

花丸「ずら?」


鞠莉さんがこそこそと話しかけてくる。


花丸「なんですか?」

鞠莉「今回の旅、ルビィのサポートがメインになるとは思うんだけど……そのついでいいから、図鑑収集……してくれないかしら」

花丸「図鑑収集……捕獲ってことですか?」

鞠莉「Yes. 一応データ集めって名目で送り出してる割に、旅に出てる子、みんなちゃんと捕獲してくれてるのか怪しいのよね……」

花丸「……言われてみれば」


ルビィちゃんや千歌ちゃんは捕獲が苦手って言ってたし、先に旅に出た二人も話を聞く限り、あんまり図鑑収集に積極的なのかは怪しい。

海のポケモンに関しては曜ちゃんに任せちゃってもいいのかもしれないけど。


花丸「尽力するずら」

鞠莉「お願いね、マルのこと頼りにしてるから……!」
333: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:13:36.60 ID:ISz0KMwo0

鞠莉ちゃんは両手を合わせて、軽くウインクした。

ホントに期待されてるみたい……頑張ろう。


鞠莉「じゃ、マル。あなたも先生に最後の挨拶して来なさい」

花丸「あ、はーい」


そう言われて、ダイヤさんとルビィちゃんの元に駆け寄る。


花丸「ダイヤさん」

ダイヤ「花丸さん……」

花丸「ルビィちゃんのことはマルがしっかり見守ってるから、心配しないで」

ダイヤ「……頼もしいですわね」


ダイヤさんは思いに耽るように一度目を瞑ってから、

マルとルビィちゃんのことを抱き寄せた。


ルビィ「わわっ、お姉ちゃん?」

花丸「ダイヤさん……?」

ダイヤ「ちょっと変な旅立ちになってしまったかもしれないけれど……二人とも、旅を楽しんできてくださいね」


背中に回された腕に力が込められる。


花丸「ダイヤさん……」

ルビィ「お姉ちゃん……行ってくるね」

ダイヤ「ええ……」

鞠莉「ふふ」


少し離れたところで鞠莉さんが微笑ましそうに笑う。

──程なくして、恩師と旅立ち前の抱擁を終えて。


ダイヤ「最後に……これは餞別ですわ」


ダイヤさんが“ほのおのジュエル”と“くさのジュエル”を差し出してくる。


ダイヤ「千歌さんと曜さんにも渡したものです。花丸さんなら、使い方も知っていますよね?」

花丸「はい」


“ほのおのジュエル”をルビィちゃんが、“くさのジュエル”をマルが受け取る。


ダイヤ「……それと──」

鞠莉「ダイヤ」

ダイヤ「な、なんですか」

鞠莉「名残惜しいのはわかるけど、いい加減送り出してあげましょ、ね?」

ダイヤ「……そうですわね」


ダイヤさんはマルたちに向き直って、
334: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:16:32.26 ID:ISz0KMwo0

ダイヤ「二人とも……」

ルビィ・花丸「「はい」」

ダイヤ「いってらっしゃい」

ルビィ・花丸「「行ってきます!」」


マルとルビィちゃんの旅が、始まりました。





    *    *    *





花丸「ところで、ルビィちゃんはどこを目指すつもり?」


そういえば、目的は聞いたけど、目的地を聞いていなかった。


ルビィ「んっと……理亞さんの情報を集めたいから……とりあえず、人の多いところに行ってみるのがいいのかな……」

花丸「人が多い場所……この地方だと、おっきな街はセキレイシティとローズシティ……次にダリアシティかな」

ルビィ「あとフソウ島も観光地だから、人がたくさん来るって聞いたよ」

花丸「確かに……そうなると、マルたちはまず船でフソウ島に渡ろうか」

ルビィ「うんっ」


と、いうわけでウチウラシティの東の港に足を向ける。

その道すがら、ふとさっき鞠莉さんに言われた話を思い出す。

──旅に出た他の子たちの話。


花丸「そういえば、ケロマツを貰った人ってどんな子なんだろう」

ルビィ「言われてみれば……まだ一度も会ってないよね」


所謂、最初の三匹のうち、一匹を連れている、マルたちの同期。


ルビィ「確か、ウラノホシタウンとかウチウラシティの外の人って言ってたよね」

花丸「この辺り子供が少ないから……」

ルビィ「あはは、そうだね……それこそ子供はルビィたちくらいしか……」

花丸「……昔は居たんだけどね」

ルビィ「昔?」

花丸「うん、子供の頃ウチウラシティのはずれに友達が住んでたずら」

ルビィ「そうなの……? ルビィは会ったことないけど……」

花丸「ルビィちゃんは、ちっちゃい頃はウラノホシタウンの方の実家からあんまり出てなかったからじゃないかな?」

ルビィ「確かに……そうかも……。花丸ちゃんのお家は1番道路の脇道にあるお寺だもんね」

花丸「元気な子でね。よくウチウラシティから、マルを連れ出しに家まで来てたんだよ」

ルビィ「そうなんだぁ」

花丸「うん、いっつもムウマを連れてる子でね。『わたしはポケモンマスターになるんだから!』って言うのが口癖な子だったずら。9歳くらいのときに都会の街に引っ越しちゃったんだけど……」


話が脇道に逸れてしまったけど……。ルビィちゃんと雑談しながら、歩を進めていると、波止場が見えてくる。
335: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:18:34.31 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「あれ?」

花丸「ずら?」


そして、二人してその波止場の様相に、思わず疑問の声をあげた。


ルビィ「お船……なんで、あんなに停まってるんだろう?」


船着場に溢れんばかりに着けられた船の大群を見て、ルビィちゃんが首を傾げた。





    *    *    *





ルビィ「──え!? 船出てないんですか!?」


港についたマルたちは早速出鼻を挫かれました。


船乗り「13番水道でヒドイデが大量発生しててね……怪我人も出てるらしいから、安全を考慮して一旦定期便を止めてるんだよ」

花丸「他にフソウ島へ行く方法はないんですか……?」

船乗り「一応、ウラノホシタウンの南の港から船は出てるには出てるけど……」

ルビィ「あそこの港ってちっちゃいし……お船って一日に一回あるかないかだよね……」

花丸「それに13番道路を通る船に比べると、かなり遠回りだから、何倍も時間がかかるずら……」

ルビィ「どうしよう……ウラノホシまで行ってみる……?」


二人して、頭を抱える。


船乗り「申し訳ないね……ただ、こればっかりは自然の問題だから」

ルビィ「うぅ……大丈夫です……他を当たってみます……」


口ではそうは言うものの、ルビィちゃんはガックリと肩を落として、落ち込んでしまう。

マルはルビィちゃんと港沿いに停泊されてる海岸を沿うように歩きながら、


花丸「……西に進んで、ダリアシティを目指す……?」


そう提案する。

まあ、選択肢はそんなにないし……。


ルビィ「うーん、どうしよ……」


二人して波止場に泊めてある船を眺めるが、確かに出港しようとする船は個人のものを含めてほとんどない。

途方に暮れたまま、ぼんやりと船着場を歩いていたそのとき、


 「あんれー? お嬢ちゃんたち、どうしたさー?」


聞き覚えのある間延びした口調で声を掛けられた。


花丸「あ、昨日の牧場おじさん」


声の方に振り返ると、昨日メリープたちを運んでいた、牧場おじさんでした。

見るとおじさんは、手持ちらしきガーディを使って、メリープを船に誘導しているところだった。
336: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:23:36.84 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「おじさんも、港で足止めされてるの?」


ルビィちゃんがそう訊ねると、おじさんは首を振って、


牧場おじさん「いんやー。メリープがみんな乗ったら、このままフソウ向かってに出るつもりさー」


そう答える。


花丸「大丈夫なんですか……? 今13番水道って、ヒドイデが大量発生してるって……」

牧場おじさん「らしいなー。だがまー。仕事だし、しょうがないさー」

ルビィ「で、でも危ないんじゃ……」

牧場おじさん「それでも漁師たちは早朝に出て行ったしなー。行く人は行くのさー」

ルビィ「ぅゅ……お仕事って大変なんですね……」


そこで、ふと……マルの頭に妙案が浮かんだ。


花丸「この船っておじさんのなんですか?」

牧場おじさん「コメコシティの皆で共同で使うものだけどなー」

ルビィ「おじさん、お船も運転……操縦……? 出来るんですね……!」


船は操舵ずら。

まあ、そんなことはどうでもよくて、


花丸「ねーねーおじさん」

牧場おじさん「なんだいー?」

花丸「前言ってた、お礼って……今お願い出来たりしないですか?」

ルビィ「花丸ちゃん……?」


神様仏様閻魔様、ごめんなさい。マルは今からちょっとだけ、人の足元を見る悪い子になるずら──。





    *    *    *





──船に揺られて、数十分。

ウチウラシティの港から、もうそれなりに離れた頃。

 「メェー」    「メェー」
ルビィ「それにしても、びっくりしたよ……マルちゃんが突然あんなこと言い出すなんて」
  「メェー」
                        「メェー」
花丸「オラも普段なら、あんまりこういうことはしないけど……ルビィちゃんはフソウタウンに行きたがってたし、頼んでみようって思って」
「メェー」
             「メェー」
ルビィ「花丸ちゃん……お陰で、島まで渡れそうだね。ありがとっ」
   「メェー」                  「メェー」
          「メェー」
花丸「まあ、こういう無茶も旅の醍醐味かなって……」


さて、マルが何をお願いしたのか。

まあ、この鳴き声を聴いてれば、誰でもわかると思うけど……。

337: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:24:52.49 ID:ISz0KMwo0

────────
──────
────
──



花丸「──マルたちもフソウ島まで、一緒に乗せてもらえませんか?」

ルビィ「え、花丸ちゃん!? そんないきなりはおじさんに迷惑だよぉ……!!」

牧場おじさん「別に構わないさー」

ルビィ「いいの!?」


ダメもとで頼んでみたけど、おじさんはすんなりと了承してくれる。


牧場おじさん「ただ、何人も人が乗る用に出来てないからなー 乗るんだったらー……」


おじさんはメリープたちを積んでいる、積荷室の方を見る。


花丸「それでも大丈夫です。ね、ルビィちゃん」

ルビィ「え!? う、うん! 大丈夫ですっ!」


牧場おじさん「そうか、じゃあ、ちょっと窮屈かもしれないけどなー乗り込んでくれるかー?」



──
────
──────
────────



──と、言うわけで。

 「メェー」「メェー」「メェー」

マルたちは、メリープたちと一緒に海の上を運ばれている。


ルビィ「ぅゅ……それにしても、メリープさんたちって一匹一匹がなんか……もこもこなせいで……見た目以上に狭いかも……ボールに入れて運んだりしないのかな……」
 「メェー」 「メェー」
    「メェー」
花丸「ボールに入れると、それがストレスになって毛の質が落ちちゃうらしいよ」
   「メェー」         「メェー」
ルビィ「この子たち、注文されて運ばれてるって言ってたもんね……ぅゅ……それじゃあ、ルビィたち一緒に乗っちゃってよかったのかな……メリープさんたちのストレスにならないかな……」
               「メェー」
花丸「あんまり考えすぎずに気軽にいくずら。どっちにしろ、何が起こっても、もう海の上に出ちゃった以上、泳げるポケモンを連れてないマルたちはどうにも出来ないし……」
  「メェー」   「メェー」
ルビィ「マルちゃん! さらっと怖いこと言わないでよっ!? ホントに沈んだりしたらシャレにならないよっ!?」
      「メェー」                      「メェー」「メェー」
花丸「それにしても、メリープの綿毛ってふわふわで気持ちいいずらぁ……」
  「メェー」           「メェー」
ルビィ「もう……のんきなんだから……」
         「メェー」
花丸「こういうのは、なるようになれだよ。それに……旅は“みちずれ”、あの世行きって言うでしょ?」
  「メェー」             「メェー」
ルビィ「聞いたことないよ!? そんなことわざ!?」
       「メェー」

どっちにしろ、ほとんど身動きが取れない状態で運ばれるんだし、考えるだけ無駄だよね。


花丸「お昼寝でもして、のんびり待ってればそのうち着くずらー……」
  「メェー」              「メェー」
ルビィ「ぅゅ……まあ、完全に行く充てがないよりはいいけど……」
           「メェー」


マルがメリープたちの中で横になると、

「メェー」

一匹のメリープが、マルの顔の辺りに寄ってくる。
338: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:26:19.71 ID:ISz0KMwo0

花丸「君も一緒にお昼寝するずら?」
 「メェー」


なんか気の合う子発見かも。

ふかふかのメリープの身体に頭を乗せる。
 「メェー」


花丸「ルビィちゃんもお昼寝、するずら」

ルビィ「……花丸ちゃん、たまに千歌ちゃん以上に肝が据わってるなって、思うことあるよ……」

花丸「あはは、ありがとー」

ルビィ「……はぁ」


マルはもこもこに包まれて、目を瞑る。

ちょっぴり、幸せな気分で、リラックスしていると──だんだんと意識がまどろんできた。

……うん、このままフソウ島に着くまで一眠りしよう……。

おやすみなさん。





    *    *    *





花丸「…………zzz」
 「メェー」

ルビィ「花丸ちゃん、ホントに寝ちゃった……」


よくこんな状況で寝られるなぁと、もはや呆れるというより、関心してしまう。


牧場おじさん「ルビィちゃんも寝てていいだよー?」


前の操縦席からおじさんがそう声を掛けてくる。


ルビィ「あはは……ルビィは何かあったら怖いから……」

牧場おじさん「そうはいってもなー思った以上に今日の海は平和さー。ヒドイデも話に聞いてたほどいないみたいだしなー」

ルビィ「そうなんですか?」

牧場おじさん「大量発生の後の対処が早かったのかもなー。本当に今日定期便が止まってたのは、大事をとってだったのかもしれないなー」


誰かすごい人がヒドイデの群れをやっつけてくれたのかな? それだったら、いいんだけど……。


牧場おじさん「ほらー。もうフソウ島見えてきたさー」


おじさんに言われて、

 「メェー」
ルビィ「ちょっと、ごめんね、メリープさん……」


メリープを掻き分けて、船首の方に移動する。

前方の窓から、外を確認すると、確かに前方に島が見えてきていた。


ルビィ「あれが、フソウ島ですか?」

牧場おじさん「そうさー ここまで来ればもう心配ないさー。窮屈かもしれんが、もうちょっとだけ我慢してなー」

ルビィ「は、はい」
339: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:27:53.89 ID:ISz0KMwo0

そう言って、ルビィはお船の窓から、ぼんやりと目的地の島を眺める。

あそこがルビィたちの最初の目的地……まあ、たぶん経由するだけだけど。

おじさんの言う通り、見えるところまで来てしまえば安心感はだいぶ増してきて。

あとは徐々に近付いてくる、島でこれからどうするかを考えようかな。

……とりあえず、理亞さんの特徴を伝えて、知ってる人が居るか探す、とかかな?

お姉ちゃんや鞠莉さんの口振りだと、肖像画を元に作られた指名手配書が全国にばら撒かれちゃうから、その前に何か情報を得られればいいんだけど……。

あ、でもそれはそれで情報を集めやすくなるのかな……?

そんなことをぼんやりと考えながら、ルビィは再び前方の島に視線を戻す。

さっきと変わらず、同じように、島が前方に見える。


ルビィ「……?」


何か、違和感を覚えた。

なんだろう……?


牧場おじさん「……? なんだー?」


どうやらおじさんも何か違和感を覚えたようだ。


ルビィ「どうかしたんですか──」


ルビィがそう言った瞬間、


ルビィ「ぴぎっ!?」

牧場おじさん「ぬわー!?」


──ガタンと船が揺れ、その振動で前につんのめって、貨物室の壁におでこをぶつける。


ルビィ「い、いたい……」


……いや、それどころじゃない。

ルビィは、再び船内のメリープたちを掻き分けて、花丸ちゃんの居るところに駆け寄ってから、


ルビィ「は、花丸ちゃん!! 起きて!!」


花丸ちゃんを揺する。


花丸「……ずら……?」


花丸ちゃんは眠そうに目をこすったあと、


花丸「ルビィちゃん、おはようずら……」
 「メェー」


寝起きの挨拶を言う。


ルビィ「それどころじゃないよっ!!」

花丸「ずら?」


ルビィはそう言って、船の両側部についている、覗き窓を指さす。

そこでは、景色がものすごいスピードで流れていた。
340: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:28:20.95 ID:ISz0KMwo0

花丸「すごいスピードずらぁ……未来ずらぁー……」

ルビィ「そうじゃなくって!!!!」

花丸「ずら……?」

ルビィ「逆なの!!!」

花丸「逆……?」


花丸ちゃんは寝起きの頭をふるふると軽く振ってから、もう一度窓の外を見て、


花丸「え……ど、どうなってるの、これ?」


ルビィに訊ねてきた、


ルビィ「ルビィにもわかんないけど……!!」


窓の外を見る。

そこでは、景色がものすごいスピードで流れていた。

──船の本来の進行方向とは……真逆に。


341: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 17:28:47.56 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【13番水道】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥●  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口



 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.14 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.14 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.9 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.12 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:4匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.13 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:30匹 捕まえた数:13匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



342: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 20:50:08.75 ID:ISz0KMwo0

■Chapter026 『開催! ビギナーコンテスト!』 【SIDE You】





──さて、件の期待の新人、曜のデビュー戦を見ようと、久しぶりにビギナーランクの会場に私は訪れたのだが、

観覧用の関係者席に見知った人物を見かける。


あんじゅ「ことり……来てたのね」

ことり「あー、あんじゅちゃん! 久しぶりだね~」
 「ホーホ」


彼女はモクロー抱きかかえながら、オペラグラスの度を調整していた。


あんじゅ「全く、今週はいろんな人に会うわね……」

ことり「いろんな人?」

あんじゅ「一昨日くらいに、志満に会ったのよ。たぶん、今日も会場にいると思うわ」

ことり「わっ! 志満ちゃんも来てるの? それなら、関係者席に通してあげればよかったのに」

あんじゅ「志満は普通の観客席が好きだからね。誘っても断られると思うわ」

ことり「んー……確かに関係者席って、ちょっと遠いもんね。ことりも前の席行こうかな~?」

あんじゅ「随分のんきだけど……仕事は大丈夫なの?」

ことり「んー? んー……どうかな……」

あんじゅ「どうかなって……」

ことり「まあ、これも仕事みたいなものだからっ! それにね、昨日急に衣装のアイデアが降って来ちゃって、メリープの綿毛を発注しちゃったから、届くまで帰れないんだ~」

あんじゅ「わざわざ、フソウに送って貰う様に頼んだの……?」

ことり「うん! 会場に届くと思うから、後で取りに行くね」

あんじゅ「……そういうのは宿泊先とかにしてもらえないかしら……」


長い付き合いだし、自由人だと言うのは知っているけど……。

ここ数年でそれに拍車が掛かった気がする。


ことり「ところであんじゅちゃんこそ、ビギナーランク会場に顔出すのって珍しいよね?」

あんじゅ「志満の知り合いが今日コンテストデビューするから、見に来たのよ」

ことり「え、ホントに? どの子かな」

あんじゅ「たぶん、あなたなら見ればわかると思うわ」

ことり「?」


──さて、お手並み拝見と行きましょうか。曜。



343: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 20:51:21.55 ID:ISz0KMwo0

    *    *    *





司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、本日も新人コーディネーターたちの最初の羽ばたきの場!! ビギナーランク大会のスタートです!!!』

司会『さあ、早速ですが、出場するポケモンとコーディネーターの入場です!!』

司会『エントリーNo.1 クロバット! エントリーNo.2 ライボルト! エントリーNo.3 バタフリー! エントリーNo.4 ラプラス! となっております──』

司会『……? エントリーNo.4のポケモンとコーディネーターが見当たりませんね……。……ん、何々? 準備に戸惑ってて、少し遅れてる……? 成程、こういうハプニングもビギナーランクならではで、微笑ましいですね!』

司会『……ですが、ステージにあがれば、ここは勝負の場でもあります! 一組足りない状態ですが、早速一次審査を開始しようと思います!!』





    *    *    *





ことり「どの子が志満ちゃんの知り合いの子?」

あんじゅ「……ラプラスのコーディネーターよ」

ことり「ありゃりゃ、はじめてで緊張しちゃったのかな?」





    *    *    *





司会『さて、そろそろ集計の時間に──』

曜『ち、ちょっと待ってくださーい!』

司会『おっとぉ! ここでラプラスのコーディネーター、ギリギリ一次審査に間に合ったようです! アピールタイムは少ないですが、加点0ではなくなりまし──おお!? これは!!』





    *    *    *





ことり「!!」


横で見ていた、ことりが思わず立ち上がった。


あんじゅ「……丸一日できっちり、仕上げてきたわね」





    *    *    *

344: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 20:56:57.97 ID:ISz0KMwo0



私がラプラスと一緒に会場に踊りだした瞬間、会場中のペンライトが、続々と私たちへの投票色──青色に変わっていくのがわかった。

──大成功だ。


 「キュゥー」


司会『こ、これは……!! ラプラス、全身に衣装があしらわれています!!』


今日のイメージは──中世貴族。

前に大きく鍔の伸びたボンネット帽子。右耳の辺りにアクセントとして、中央に宝石をあしらったコサージュ。

全体にゆったりとした深い青色のドレスを纏い、首元に大きな白いリボンを拵えた。

一日の突貫作業で作ったから完璧とは言えないけど……手応えはある……!!


司会『ビギナーランクで遅刻から、まさかの自作衣装でのフルコーディネート!! 会場がどよめきから、歓声に変わっていきます!!』


曜「よっし……!!」


準備時間の短さにやや面食らったけど……逆に目立てて、よかったかもしれない。


司会『おっと、ここで一次審査の投票締め切りです!! ここからは二次審査! 技によるアピールのお時間です──!』





    *    *    *





ことり「……!! ……!!」


ことりが声にならない声を出している。

内心叫びたくて堪らないのだろうけど、

さすがにマナーを弁えているというか、興奮しても大声をあげて騒ぎ出したりしないのは、流石と言うべきかしら。


 「ホー…ホー…」


胸に抱かれたモクローが潰されないか心配だけど……。





    *    *    *





曜「二次審査、いくよ!」
 「キュゥー」


司会『さあ、アピールタイム開始です!』


司会の人が、そう言うと、スポットライトはまっさきにラプラスを照らし出した。

──アピールは私たちが一番最初のようだ。

昨日、志満姉に叩き込まれた、コンテストの戦い方を思い出す。
345: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 20:58:35.54 ID:ISz0KMwo0

曜「ラプラス! “いやしのすず”!」
 「キュウー!」

 《 “いやしのすず” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆
   ラプラス◆ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


綺麗な鈴の音が会場中に響き渡る。

──もし、最初からアピール一番手に回るようなら、他の出場者から狙われやすくなる。

だから、妨害に対する様子見。

“いやしのすず”は他のポケモンからの妨害を受け付けなくなる防御の技だ。


司会『これは綺麗な鈴の音です! 美しい! そのままアピールは二番手のバタフリーに続きます!』


コーディネーター1「バタフリー! “ぎんいろのかぜ”!」
 「フリーフリー」

 《 “ぎんいろのかぜ” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
   バタフリー +♡ ExB+♡ ✪+1
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


“ぎんいろのかぜ”は確か自分自身の調子を上げる技。今後のアピールにより磨きを懸けるための布石の技だ。

そのまま続くように、クロバットがアピールをする。


コーディネーター2「クロバット! “ねっぷう”!」
 「クロバッ」

 《 “ねっぷう” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   クロバット +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


会場に“ねっぷう”が吹き荒ぶ。

 「フ、フリー」


 《 バタフリー✪ -♥♥
   Total [ ] 》


司会『おっと、バタフリーの“ぎんいろのかぜ”が熱波で吹き飛ばされてしまいました!』


バタフリーは“ねっぷう”に驚いて、技を中断させられる。減点だ。

でも私のラプラスは、

 「キュゥ」

“いやしのすず”で守られている。

 《 ラプラス ◆
   Total [ ♡♡ ] 》


コーディネーター3「ライボルト! “ほうでん”!」
 「ボルッ」

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   ライボルト ♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


次に動くはライボルト、会場全体に稲妻が走る。
346: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:02:24.36 ID:ISz0KMwo0

 「フリーッ!!?」
 「クロバッ!?」


 《バタフリー✪ -♥♥
   Total [ ♥♥ ] 》

 《 クロバット -♥♥
   Total [ ♡ ] 》

 《 ラプラス ◆
   Total [ ♡♡♡ ] 》


妨害に集中していたクロバットも、バタフリー同様後続の技に脅かされてしまったようだ。


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
      ラプラス   ♡♡      [ ♡♡  ]
   バタフリー✪  ♡♡ ♥♥♥♥ [ ♥♥  ]
     クロバット  ♡ ♥♥     [ ♥   ]
     ライボルト   ♡♡♡     [ ♡♡♡ ]                》



司会『1ターン目、妨害技が続きます! このまま2回目のアピールはライボルトから!』

コーディネーター3「“かえんほうしゃ”!」
 「ボルル!!」

 《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ライボルト +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ライボルトが薙ぐように、炎を吐くとその炎が散り散りになりながら、光のように、会場を舞う。

度重なる、うつくしさ技の応酬によって、会場のボルテージが最高潮に達しエキサイトゲージがMAXになった瞬間──コーディネーターは“ライブアピール”を使用することが出来る……!!


コーディネーター3「ライボルト!! “電影のアポカリプス”!!」
 「ライボッッ!!!!!!!!」

 《 “電影のアポカリプス” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 でんきタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ライボルト +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


ライボルトが天空に向かって電撃を放つ──すると、天空に雷雲が発生し、ライボルトの周囲に雷が降り注ぎ、舞い踊る。

会場中に電撃が走り、うつくしい火花を会場中に散らした。


司会『ライボルト! 素晴らしいライブアピールです!! 会場の盛り上がりも最高潮に達しております!! さあ、この空気を引き継いだまま、次のポケモンのアピールです!!』


二番手──ラプラスにスポットライト。

速いけど、ライボルトが頭一つ抜けてることもある。仕掛けよう……!


曜「“あられ”!」
 「キュウーー」

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥~
   ラプラス +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


会場内に“あられ”が降り始める。

 「ギャゥ…!?」


 《 ライボルト -♥♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》
347: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:07:32.10 ID:ISz0KMwo0

激しく降り注ぐ氷の粒に、炎は掻き消え、更にライボルトを驚かせる。


司会『おっと、これは布石でしょうか!? ラプラスの次の技に期待が集まりますね!』

コーディネーター2「クロバット! “くろいまなざし”!」
 「クロバッ」

 《 “くろいまなざし” うつくしさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡
   クロバット +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


中空に出現する大きな黒い目。

後続のポケモンを緊張させて、技を出させなくする技……だけど、

 「フリーフリー」


司会『おっと、“ぎんいろのかぜ”で調子をあげていた、バタフリーは緊張せずに済んだようです!』


調子を上げる技は今後の展開を有利にする。攻防両立した技だ。

そのままバタフリーがアピールに入る。


コーディネーター1「“ちょうのまい”!」
 「フリーフリー」

 《 “ちょうのまい” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
   バタフリー✪ +♡ ✪B+♡ ExB+♡ +✪
   Total [ ♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


最初と同じく自身の調子をあげる“ちょうのまい”


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
      ライボルト  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥♥ [♡♡♡♡♡⁵♡♡♡]
       ラプラス  ♡♡♡                [♡♡♡♡♡   ]
      クロバット  ♡♡♡               [♡♡      ]
   バタフリー✪✪ ♡♡♡               [♡       ] 》


司会『バタフリー、あくまで自己補強に努めます! 3回目のアピールもライボルトから!』

コーディネーター3「えっと……“ほうでん”!」
 「ボルル!!」

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   ライボルト +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


ライボルトは二度目の“ほうでん”


司会『再びうつくしい稲妻が会場を包みます!』


最初と同じ技。うつくしさに該当する技が他になかったのかな? でも、連続じゃないから減点にはならない。一番手だから、妨害にもならないけど。

さて、次の番は──


司会『会場も大きな盛り上がりを見せ始めました! それではラプラスのアピールをお願いします!』

曜「!」


絶好のタイミングだ!
348: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:09:09.95 ID:ISz0KMwo0

曜「ラプラス! “こごえるかぜ”!!」
 「キュウゥゥーー」

 《 “こごえるかぜ” うつくしさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


“あられ”を巻き込みながら、会場全体に凍て付く風が吹き荒び、

会場のライトの光を反射しながら、キラキラと舞い踊る。


司会『これは素晴らしい! 期待通り、“あられ”から“こごえるかぜ”へとコンボを繋げて来ました! 会場のボルテージも一気に最高潮まで登って行きます!!』


──今だ……!!


曜「ラプラス!! ライブアピール行くよ!! “アイシクルグレース”!!」
 「キュゥーーー!!!!!」

 《 “アイシクルグレース” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 こおりタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


合図と共にラプラスの周囲が凍て付き、周囲に浮かぶのは氷の結晶。

その氷が砕けると共に、氷の結晶がライトの光を乱反射し、ステージを映えさせる。

──そのアピールを見て観客の歓声が大きくなる。ライブアピール成功だ。


曜「よっしっ!」





    *    *    *





あんじゅ「決まりかしらね」

ことり「まだ3ターン目だよ?」

あんじゅ「そういう割に……さっきからラプラスのことしか見てないじゃない」

ことり「それは……だって、あの衣装……♡」


衣装もそうだが、二次審査もかなり手堅い。

初手の防御から、会場の盛り上がりにピッタリコンボをあわせてた。

現時点でバタフリー♡1、クロバット♡2、ライボルト♡11だが……。


あんじゅ「ラプラスは今のコンボだけで♡13……合計♡18」


完全にコンテストの内側からの視点だけど、ここから他の出演者は勝ちきれるかしら?




    *    *    *


349: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:14:11.95 ID:ISz0KMwo0


コーディネーター1「バタフリー、“エナジーボール”!」

 《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   バタフリー✪✪ +♡♡♡♡ ✪B+♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


バタフリーの手堅いアピールからの、


コーディネーター2「クロバット、“くろいきり”!」

 《 “くろいきり” うつくしさ 〔 アピールが 終わった ポケモンの 調子を さげる 〕 ♡♡♡
   クロバット +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


他のポケモンが自己補強で上げた調子を元に戻す“くろいきり”


 《 バタフリー✪✪ ⇒ バタフリー
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   .ライボルト ♡♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡        ]
    ラプラス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ]
   .クロバット ♡♡♡♡            [ ♡♡♡♡♡⁵♡              ]
   バタフリー ♡♡♡♡♡⁵♡♡        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡            ] 》


司会『さて、コンテストも終盤に差し掛かって参りました! 4回目のアピールタイム!』


かなり、他のコーディネーターに差を付けたとは思う、が。


曜「最後まで、手は抜かない……ラプラス、“うずしお”!」
 「キュウー」

 《 “うずしお” うつくしさ 〔 このアピールの後 会場が しばらく 盛り上がらなくなる 〕 ♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


激しい“うずしお”が発生する。


司会『おっと、ここでラプラス、“うずしお”を発生させました!』


“うずしお”は会場全体の勢いを固定する。周りのポケモンのアピールによる、エキサイトの上昇を抑える効果がある。


コーディネーター1「バタフリー、 “エナジーボール”!」

 《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   バタフリー +♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


コーディネーター2「クロバット、“ベノムショック”!」

 《 “ベノムショック” うつくしさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと タイプが 同じなら 気に入られる 〕 ♡♡~♡♡♡♡♡♡
   クロバット +♡♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》
350: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:16:29.72 ID:ISz0KMwo0

コーディネーター3「ライボルト、“ほうでん”!」

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   ライボルト +♡♡ 繰り返しP-♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


 「キュウッ」
 《 ラプラス ♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 「フリィー!!?」
 《 バタフリー ♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 「クロバッ!!!!」
 《 クロバット ♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》


他のコーディネーターたちはここまで使った技、使ってない技を様々繰り出すが、


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
    ラプラス  ♡♡♡♡ ♥♥   [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ]
   バタフリー ♡♡♡♡ ♥♥   [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡          ]
   クロバット  ♡♡♡♡♡♡ ♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡          ]
   ライボルト ♡♡ ♥      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡       ] 》


司会『さあ、最後のアピールです!』


“うずしお”の影響で、変わらぬ雰囲気のまま、最後のアピールへと突入する。


司会『クロバットからお願いします!』

コーディネーター1「クロバット、“りんしょう”!」
 「クロバーーーッ」

 《 “りんしょう” うつくしさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと タイプが 同じなら 気に入られる 〕 ♡♡~♡♡♡♡♡♡
   クロバット +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


1番手、無難な技だ。


司会『次はラプラスの最後のアピールです!』


曜「ラプラス! “りゅうのはどう”!」
 「キュウウー!!」

 《 “りゅうのはどう” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ラプラスが口から、渦巻く大きな衝撃波を繰り出し、それを薙ぐ。


司会『さあ!! ここに来て再び会場のボルテージはMAXに達しております!!』


──二度目のライブアピールのチャンス……!!


曜「ラプラス!! “グレースブレッシングレイン”!!」
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!!!」

 《 “グレースブレッシングレイン” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 みずタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》
351: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:20:56.19 ID:ISz0KMwo0

ラプラスの鳴き声と共に水中が立ち上り、それは天空からうつくしい雨となって会場に降り注ぐ……。


司会『ラプラス! 二度目のライブアピールもしっかり決めました! 雨がライトを照り返していてうつくしい光景が広がっております!』


コーディネーター3「バタフリー、“しんぴのまもり”!」

 《 “しんぴのまもり” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても 一回 くらいは がまんできる 〕 ♡♡ ◆
   バタフリー◆ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


コーディネーター2「ラ、ライボルト! “はかいこうせん”!!」

 《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   ライボルト +♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》



    *    *    *





司会『──さあ、“はかいこうせん”によって最後まで波乱の展開となった、ビギナーランク二次審査でしたが、あとは最終結果を待つのみとなります!』


最後の最後まで、盛り上げる流石の名司会だが──最終結果は見るまでもない。クロバット♡9、バタフリー♡13、ライボルト♡17、そして……。

 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   クロバット  ♡♡♡ ♥♥♥♥          [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡                  ]
    ラプラス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡ ]
   バタフリー ♡♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡             ]
   ライボルト ♡♡                [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡          ] 》


司会『今大会、優勝は……。……エントリーNo.4 ラプラスです!! 皆様、出場ポケモンのラプラスとコーディネーターに大きな拍手を!』


ラプラスは♡24で二次審査も大差をつけて圧勝。

……それに加えて──。

結果発表で、ある程度目に見える形で伸びた一次審査二次審査の得票率のゲージは、


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査
   【 クロバット】 〔 ♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                       〕
   【ライボルト】 〔 ♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                〕
   【バタフリー】 〔 ♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                  〕
  ✿【 ラプラス 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》


一次審査の時点で周りのポケモンに既に大差を着ける形になっていた。


あんじゅ「どうかしら、ことり。わたしがわざわざ見に来た理由はなんとなく、わかったんじゃ──」


わたしがことりに声を掛けながら、振り返ると──


あんじゅ「……? ことり……?」


──既にそこに、ことりの姿はなかったのだった。





    *    *    *

352: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:22:43.11 ID:ISz0KMwo0



志満「曜ちゃん、優勝おめでとう!」


控え室に戻ると、早速志満姉に出迎えられる。


曜「えへへ、ありがとう志満姉」

志満「やっぱり、私が見込んだだけあったわ!」

曜「そんな……志満姉が昨日のうちに戦術を叩き込んでくれたお陰だよ」

志満「それだけじゃないわ! あの衣装も……ギリギリまで調整してたのよね? 入場に遅れたときはちょっとひやひやしたけど……」


確かにそこは反省点だ。

あそこまで、準備に手惑うとは思わなかった……。今後はもうちょっと詰めて準備をしてこないと……。


志満「とにかく、優勝したのは曜ちゃんとラプラスの実力よ」

曜「えへへ……」


志満姉に褒めちぎられ、なんだか照れくさくて、もじもじしてしまう。

……そのとき──


 「──あ、いたーーーー!!!」
  「ホー」


控え室の扉が開くと共に、胸にペンダントを煌かせ、同時に目をきらきらさせた女性が入ってくる。

その人は、私の方に向かって、とてとてと近寄って来る。


曜「え、誰……?」

志満「……ことりちゃん?」

曜「ことりちゃん……?」


志満姉から、ことりちゃんと呼ばれた女性は、私の目の前まで来ると、


ことり「あなたがラプラスのコーディネーターさんだよねっ!?」
 「ホーホー」


身を乗り出して、興奮気味にそう訊ねてくる。


曜「え、えっと……はい、そうですけど……」

志満「ことりちゃん……久しぶり……?」

ことり「あ、うんっ 志満ちゃん久しぶりっ!」


志満姉との挨拶もそこそこに、


ことり「あなた名前は!?」


名前を聞かれる。


曜「えっと、曜です」

ことり「曜ちゃんって言うんだね! わたし、ことりって言うの、よろしくね!」

曜「よ、よろしくお願いします……?」

ことり「服作るの好きなんだよね? いい素材があるの! ついてきて!」

曜「え」
353: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:23:30.17 ID:ISz0KMwo0

ことりさんはにこにこしたまま、私の腕を引いて、走り出す。


ことり「れっつごー!」

曜「え、えええええええ!?」


そのまま全速力で連れ去られました。





    *    *    *





あんじゅ「遅かったか……」

志満「あんじゅちゃん……」


志満はポッポが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。


あんじゅ「ここに、ことり……来なかった?」

志満「来た……そのまま、曜ちゃんを連れてっちゃった……」

あんじゅ「ことり、興奮すると見境なくなるから……曜、大丈夫かしら」


さて、頭の中がコンテストで埋め尽くされている、ことり女史……今度は何をする気なのかしら。

わたしは曜を憂いて、思わず天井を仰いでしまった。





    *    *    *





曜「──あのー……」


コンテスト会場から連れ去られた先は、ホテルの一室だった。


 「ホー」 「ホーホ」
  「ホー」 「ホー」 「ホーホーホ」

 『モクロー くさばねポケモン 高さ:0.3m 重さ:1.5kg
  狭くて 暗い場所が 落ち着く。 そのため トレーナーの
  ふところや バッグを 巣の 代わりに することも  ある。
  刃物の ように 鋭い 羽を 飛ばして 攻撃する。』


ものすごい数のモクローのいる部屋。


ことり「あ、ちょっと待ってね!」


そして、恐らくその部屋の主である──ことりさん? は何やら大きなスーツケースの中をまさぐっている。


ことり「あった、これ!」


そう言って、ことりさんが取り出したのは──大きめのケープハット?
354: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:24:39.31 ID:ISz0KMwo0

ことり「曜ちゃん、ラプラス出して」

曜「え?」

ことり「すぐ、仕立て直しちゃうから」

曜「……?」


ことりさんは帽子を構えて、こっちをじっと見つめている。

──とりあえず、ラプラス出せばいいのかな?


曜「出てきて、ラプラス」


室内にラプラスを出す。


 「キュゥー」


ことり「こんにちは、ラプラスさん♪」


ことりさんはメジャーと先ほど出したケープハットを持ち、ラプラスに近寄る。


 「キュゥ?」

ことり「ラプラスさん、頭少しさげてもらっていい?」

 「キュウ」


それだけ言うと、ラプラスは何故か初対面のはずのことりさんの言うことを聞いて、頭を下げる。

そのまま、ことりさんは手際よく、メジャーをラプラスの頭部に当てて、寸法を測り。


 「ホーホ」

ことり「ありがと、モクロー」


一匹のモクローが持ってきた、裁縫箱を受け取り、帽子を仕立て直し始めた。


ことり「よし、完成」

曜「え、はや!?」

 「キュウ」

ことり「んー……ケープハットもいいかなっておもったんだけど、やっぱりさっきのボンネット帽子が衣装にはマッチしてたよね……でも、服の組み合わせによっては、まだ全然可能性はあるし──曜ちゃんはラプラスの衣装についてどう思う?」

曜「え、私!?」


突然話を振られる。
355: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:26:12.98 ID:ISz0KMwo0

曜「うーんと……今回はあくまで服に印象を持たせたかったから、人が着る服のリメイクって感じで中世の婦人が着ていたようなドレスをイメージしましたけど……ラプラス自体に合う衣装はもっと他にあると思います」

ことり「ふんふん、例えば?」

曜「もっと、ラプラス自身の持つ気品──みたいなのを生かすにはスパンコール……のキラキラはちょっと品がないかな。……そうだなぁ」

ことり「シルクとか」

曜「! そうですね、シルクのレース生地を基調として……」

ことり「色合いは派手になりすぎず、かつ個性を殺さない白かな」

曜「それ、いいかも……! ウェディングドレス風にしたら」

ことり「! やーん♪ そんなの絶対可愛いよ~♪ じゃあ、帽子はケープハットじゃなくて、マリアベールとか──」

曜「いい……すごくいいです!」

ことり「よし、じゃあ作ろうっ 衣装のアイディアは鮮度が大事だから!」

曜「了解でありま──」


ハッとする。


曜「ち、ちょっと待ってください……。そもそも私なんでここに連れて来られたんですか?」


完全にことりさんのペースに飲み込まれてしまっていた。


ことり「あれ、説明してなかったっけ……」


ことりさんは小首を傾げたあと、


ことり「アナタをことりの弟子に任命します!」


そう言い放ってくる。


曜「……え? 弟子」

ことり「コンテストライブの弟子だよ~ 曜ちゃん今日がコンテスト初参加だったんだよね?」

曜「は、はい……」

ことり「将来有望すぎるので、ことりが一人前に育てることにしましたっ」

曜「え、えっと……」


話が唐突すぎる。困惑する私に、


ことり「……わたしじゃ……ダメかな?」


そう言って、上目遣いをしてくる……。なんか可愛い生き物がいるであります。


曜「ま、まず自己紹介を……」

ことり「! それもそうだね」


ことりさんは、私の前に来て、


ことり「私はセキレイシティのことり──前々回大会までコンテストクイーンをしてました♪」


ニコっと笑ってお辞儀をした。





    *    *    *

356: ◆tdNJrUZxQg 2019/05/03(金) 21:29:07.75 ID:ISz0KMwo0



曜「……クイーン……?」


完全に予想外の方向からのパンチを食らって呆然とする。

……前々回大会までコンテストクイーンってことは、あんじゅさんは二連覇って言ってたから、前回のクイーン……ってことだよね……??

自分の中で自問自答がぐるぐるする。


ことり「前々回のマスターランクであんじゅちゃん負けちゃって、今のクイーンはあんじゅちゃんに譲ってる形だけど……ことりじゃ役者不足かな?」

曜「め、滅相もないでありますっ!!!!」


一回頂点を取ったことのある人から、まさかの師事の申し出。

──そんなことある?


ことり「じゃあ、決定ね♪」


ことりさんはニコニコと笑いながら、私のことをじーっと見た後、


曜「え、えっと……」

ことり「ゼニガメとホエルコだね」

曜「……え?」

ことり「その子たちにも衣装考えなきゃだから、ラプラスの後に考えようね♪」


そう言って、部屋の中にいるラプラスの元へ戻っていく。

──え、何今の……?

私の手持ちを言い当てた……?

ラプラス以外は会場では出した覚えがない……なんで?

コンテストでクイーンを取るような人は、ボールからポケモンを出さなくてもわかるのかな……?


ことり「ほら、曜ちゃん! ラプラスの衣装案出して!」

曜「え、は、はいっ!」


めちゃくちゃ気にはなるんだけど……今はそれを聞く空気じゃない気がする。

後で、時間が出来たら聞いてみようかな