ことり「ヴァーチャル世界で殴り合いちゅんちゅん!」

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ことり-アイキャッチ12
1: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:29:13.34 ID:rEGw3Tsx.net
 黒光りする大鎌の刃をギラつかせ、真姫がことりに迫る。

 ことりは白く発光することりソードを右手に掲げ、襲いかかってくる真姫へと構えた。

 音ノ木坂を模した校舎内の廊下。
 ことりの立つ『3F小教室2』の前で、二つの影がぶつかる。


真姫「ことり……っ!」

ことり「…………真姫ちゃんっ!」


 二つの刃がぶつかり合い、ここに戦いの火蓋が切られた。

元スレ: ことり「ヴァーチャル世界で殴り合いちゅんちゅん!」

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2: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:30:23.59 ID:rEGw3Tsx.net
―――


ことり「…………」


 ゲームの中に入ったときに感じたような、意識が別の場所に滑り込んでいく感覚に囚われる。
 チーム分けのため一時的に分断された意識が蘇ってくる。
 再び目を開けたときには、深い眠りから無理やり目覚めさせられたような気分だった。

 辺りを見渡すと、さっきまでいた仮想世界上の校庭じゃなくて、屋内に移っていた。
 この場に立つ人影の数も減っている。


穂乃果「ここ……体育館?」

凛「そうみたいだねー」

希「やっぱり現実の世界とそっくりやなあ」

雪穂「音ノ木坂の体育館ってこんな感じなんだ」

亜里沙「広ーい」


 穂乃果ちゃん、凛ちゃん、希ちゃん、雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん、そして私。
 ここにいるみんなが同じチームみたい。

 同じ目的を持った六人の集まり。
 私たちの次のライブを、中止させるためのチーム。
3: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:32:00.25 ID:rEGw3Tsx.net
ことり「私たちは六人チームみたいだね」

希「人数多いやん」

凛「それだけ海未ちゃんの体調を心配してる人が多いってことだよ!」

希「顔ぶれ的に、ウチらは【チーム休養】かな?」

穂乃果「海未ちゃんのためなら休んだほうがいいよ! 海未ちゃん抜きでライブするなんて言っ

たら、無理して参加しそうだもん」

凛「穂乃果ちゃんに言われたら形無しだにゃー」

穂乃果「なんだってー!」

ことり「雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんも、私たちが次のライブをしなくてもいいの?」

雪穂「はい。海未さんは頑張りすぎる人ですから、無理はしない方がいいと思います」

亜里沙「海未さんがこれ以上大変なことになったらもっと大変!」

ことり「……うん、そうだね」

希「海未ちゃんファンの鑑みたいな二人やね」
4: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:33:28.97 ID:rEGw3Tsx.net
 今、私たちがこうしたやり取りを交わしているのは現実世界じゃない。
 ゲーム内に作り出されたヴァーチャルの世界に私たち六人はいる。

 この場にはいないけど、真姫ちゃん、絵里ちゃん、にこちゃん、花陽ちゃんも別の場所にいる

はず。
 あっちの四人も私たちみたいに仮の空間や次のライブについて話しているのかな。

 私たち十人は、ここに戦いに来ている。
 間近に迫った次のライブ、行うか中止するか、争うために。

 海未ちゃんを巡って起こった騒動を収めるため、真姫ちゃんが用意してくれたゲームの舞台。
 ヴァーチャルで作り出された仮想世界っていう話だけど、本当の世界としか思えないくらいに

リアル。
 夢の中で夢であることに気付く明晰夢みたいな感覚じゃない。
 本当に現実そのまんまの感覚だった。


ことり(今からここで、私たちは戦うんだ……)

ことり(しかも、武器を持って……)


 チーム分けがされた後にそれぞれ武器が支給される。
 真姫ちゃんがそう説明していた。

 まるで現実世界のようにしか思えないこの空間で、武器による殴り合いをするんだ。
 そう考えたら、少し怖くなった。


ことり(海未ちゃん……)


 この場にいない海未ちゃんに助けを求めてしまう。
 私が海未ちゃんを助けるために頑張ろう……そう思っていたはずなのに。
5: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:34:58.67 ID:rEGw3Tsx.net
《武器が支給されました》


凛「わっ!? なにこれ!?」


 突然凛ちゃんの頭上に文字列が表示された。
 半透明のウィンドウに文字列が浮かんで、ゲーム画面のウィンドウのように見える。


穂乃果「なにもないところに出てくるなんて、未来の技術みたいだねー」

雪穂「武器って書いてますけど、どうやって確認するんですか?」

ことり「えーっと……どうやるんだろ」

凛「あ、なんか持ってた」

ことり「え?」

凛「なにこれ? コントローラー?」

亜里沙「正にゲームですね」

凛「ゲームの中でゲームするの?」


 凛ちゃんは手にしていたコントローラーのボタンを押す。
 すると、どこかから小型の機械が飛んできて、凛ちゃんの周辺を回り出した。
6: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:36:21.74 ID:rEGw3Tsx.net
凛「今度はラジコンみたいなの飛んできたー!」

希「凛ちゃん、また頭の上になんかウィンドウ出とるよ」

凛「え?」


《星空凛 武器:ファンネル(×3)》


凛「ファンネル……? これの名前?」

雪穂「空飛ぶ小型のレーザー射出装置を操作できるみたいですね」

凛「え? ポチッとな」


 コントローラーのボタンを押すと、対応した番号の機体からビャーーーーーという電子音と共にレー

ザーが射出された。


凛「なんか出た! これがレーザー? カッコイイ!」


 手に入れたばかりの三機のファンネルを操って、凛ちゃんは焦点もつけないまま周囲にレーザ

ーを射出し始めた。
 楽しそうに操作している様子を目にして、自分にもこんな武器がくるのかなって不安になる。
 思っていた以上に攻撃的な印象で、少しだけ怖い……。
8: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:38:08.88 ID:rEGw3Tsx.net
穂乃果「いいなあ! 私の武器なんだろ!」

亜里沙「あの、目に見えるところの端っこに丸いボタンみたいなものが映って、そこを触ったらウィンドウが出てきました」


 視界の端を意識的に見渡す。
 実体はそこに無いのに、丸いボタンとしか言いようのないものを見つけた。


ことり「本当だ。これ、みんな視界の中に見えてるのかな」

希「そうみたいやね」


 希ちゃんが中空のなにもない場所へと手を伸ばす。
 そこに希ちゃん用のウィンドウボタンがあったみたいで、半透明のウィンドウが現れた。


希「どれどれ、ウチの武器は……」


《東條希 武器:10秒透明マント》


希「《10秒透明マント》?」

雪穂「名前だけでどんな効果かわかりそうですね」

希「そういう雪穂ちゃんの武器もね」

雪穂「え? ……武器、《復活スイッチ》、って書いてある」

希「なんやウチのも雪穂ちゃんのも攻撃力がなさそうな武器やなあ」

穂乃果「……ねえ…………これ…………」


 さっきまではしゃいでいた穂乃果ちゃんの声色が沈んでいた。
 不思議に思って見てみれば、足元に大きな鉄球を据えて、無骨な鎖を両手にしたげんなり顔があった。
9: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:39:41.23 ID:rEGw3Tsx.net
雪穂「なにそれ!? ゴツっ!」

凛「わーいファンネル楽しいにゃー! え、穂乃果ちゃんそれなに? 凶悪そう! 鉄球大きい!」

穂乃果「……《加速器付モーニングスター》って書いてあったの……」

亜里沙「モーニング? 朝専用の武器ですか?」

 
 鉄球に無数の鋭いトゲが付いていて、更には鉄球から鎖がジャラリと伸びていた。
 遠心力を利用して投げ縄のように投げつけて、鉄球の重量でトゲを突き刺す武器みたい。


穂乃果「こんなゴツいのやだよう! 凛ちゃんみたいに格好いいのがよかった!」

凛「穂乃果ちゃん可哀想にゃー……あ、ファンネル練習しよっと」

穂乃果「いいなあファンネル楽しそう!」

凛「ファンネル楽しいにゃー!」

雪穂「亜里沙の武器はなんだったの?」

亜里沙「これだよ。よいしょっと」

雪穂「うわっこっちもデカっ! 何メートルあるのそれ?」

亜里沙「じゅうてぃーって書いてあるから、じゅうてぃーハンマーだよ!」

希「うん? ……ああ、《10tハンマー》やね。まーた古典的な武器が出てきたわあ」

亜里沙「ジュットンハンマー? 有名なんですか?」

希「若い世代には通用しないネタなんよ」
10: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:40:40.28 ID:rEGw3Tsx.net
雪穂「とにかく亜里沙の武器は、超巨大なハンマーだね」

亜里沙「こんなに大きいのにちゃんと持てる! ブンブン振り回せる!」


 10tと表示されているハンマーを軽々と振り回す亜里沙ちゃん。
 振る度に風切り音がブォンブォンと唸る。
 小柄な少女が1m×2m程もある鉄塊を振り回す画は異様の一言だった。


雪穂「それ10トンとか書いてあるけど実は軽いんじゃない?」

亜里沙「えっなに?」


 振り向こうとして、ハンマーを振り回していた亜里沙ちゃんは誤って雪穂ちゃんを思いきり叩いてしまった。
 叩かれた雪穂ちゃんの体はハンマーの軌道のままに高く高く舞って、距離にして十メートルは吹き飛んだ。


雪穂「ぎゃーーーっ!?」

亜里沙「きゃー! 雪穂平気!?」
11: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:42:44.35 ID:rEGw3Tsx.net
 亜里沙ちゃんはハンマーを手から落とすと、飛んでいった雪穂ちゃんの下へ駆け寄る。
 だけど駆け寄るより早く雪穂ちゃんはムクリと半身を起こして、何事も無かったかのように立ち上がった。


雪穂「いたた…………あれ、痛くないや。思いっきり殴られて、十メートルくらい飛ばされたのに」


 ピンピンしてる様子を見ながら、ゲーム開始時に受けた真姫ちゃんの説明を思い出していた。
 確か、ヴァーチャル世界で殴り合いをするけど、そこでの武器による痛みや傷は無いものとされる、という話。
 つまり今目前で見たように、この世界ではいくら殴られようが一切の外傷は負わないってことかな。


希「あー、そういえば真姫ちゃんがそんなこと言ってたね」

雪穂「便利だなあ」

希「今の雪穂ちゃんの飛び具合見てもハンマーが重いのは嘘じゃないみたいやね」

亜里沙「ハンマーとても重いです! 柄を持たないととても持てない! でも柄を持てば簡単に振り回せる!」


 重量の詳細は計れなくとも、これだけの鉄塊を軽々振り回すことができるのは、やっぱり仮想世界特有だからなのかな。


希「便利なもんやなあ」
12: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:43:44.73 ID:rEGw3Tsx.net
凛「行けーファンネル!」

穂乃果「ほげえええええええ!」

凛「穂乃果ちゃん痺れてるにゃー」


 少し離れたところでは凛ちゃんが穂乃果ちゃん相手に自前の武器を試し打ちしている。
 使い勝手がよさそうで、わかりやすい武器の有り様が羨ましかった。

 それに比べて私の武器は…………。


希「で、最後にことりちゃんの武器はなんなん?」

ことり「……………………ちゅんちゅん」

希「うん?」

ことり「ちゅんちゅん」

希「は? どうしたん?」

ことり「…………《ことりソード》、です」

希「…………お?」
13: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:45:19.83 ID:rEGw3Tsx.net
 私は諦めて、自身のウィンドウに書かれている説明文を読み上げた。


ことり「《手からことりソードが伸びる。発動時に「ちゅんちゅん」と叫ばなければならない》、です」

希「…………???」

ことり「だから……ちゅんちゅん」


 気乗りしないまま掛け声を発すると、ヴーンという謎の効果音と共に、右手からビームサーベルのようなものが伸びた。
 五センチ程のそれは真っ白に光っている。
 あまりに短いから、剣と言うより手を包み込んでいるオーラとその先っちょのように見える。


雪穂「あ、右手からなんか出てますね」

亜里沙「わお! スターウォーズみたいです! ハラショー!」

希「掛け声って毎回言わなきゃあかんの?」

ことり「そうみたい」

希「……不便な武器やね」

ことり「…………ちゅんちゅん」


 なんで私の武器だけこんなこと言わないといけないだろ……。

 気分が落ち込みかけるけど、でも落ち込んでる場合じゃないって気を取り直す。
 どんな形だって、私は頑張らなきゃいけないんだ。
 このゲームに勝って、次のライブの中止を勝ち取るために。

 私たちが無理をさせてしまった結果、体を壊してしまった海未ちゃんのために。
14: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:53:59.76 ID:rEGw3Tsx.net
―――――
―――



 事の発端は、ライブを間近に控えたある日の練習中に起こった。


海未「ぅ…………あっ……」

ことり「……海未ちゃん?」

穂乃果「海未ちゃんっ!」


 練習を指揮していた海未ちゃんが突然倒れた。
 日頃私たちの体調管理に注意を配って、自己管理ができると皆が見做していた海未ちゃんの、まさかの事態だった。
 海未ちゃんが倒れたことだけでも心許ないのに、ライブ直前だったことが諸々の悪い流れを引き起こした。


真姫「ねえ、ライブはどうするの?」

穂乃果「今はそれどころじゃないよ! 海未ちゃん倒れたんだよ!?」

にこ「わかるけど、でもライブだって大事でしょ!?」

絵里「まさかこのタイミングで倒れるなんて……しっかり者の海未なのに……なんでよ」

希「えりち、今その発言は良くないよ」

穂乃果「なんでみんな海未ちゃんの心配しないの? 可哀想だよ!」


 迫るライブ本番、そこにきてのトラブル。
 緊張感と張りつめた空気が、私たちの仲を真っ二つに引き裂いた。


ことり(どうしよう……)
15: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:54:56.25 ID:rEGw3Tsx.net
―――


穂乃果「……海未ちゃん、もう学校きて平気なの?」

海未「大丈夫ですよ。激しい運動をしなければ、日常生活も問題なく過ごせるそうです」

ことり「ならいいんだけど……」

海未「それよりもすみませんでした。大事な時期だというのに、倒れてしまって……」

穂乃果「海未ちゃんは悪くないよ!」

ことり「色んなこと海未ちゃんに任せすぎた私たちがいけないんだよ!」

穂乃果「練習の指揮もフォーメーションの変更も全部……もっと手伝えたはずなのに」

海未「いえ。以前穂乃果が同様に倒れたことがあったというのに、同じ轍を踏んでしまいましたから……」

穂乃果「あれは私が勝手にやったことだもん!」

ことり「海未ちゃんはみんなのことも見て、指揮とか任せて、私たちが負担賭けすぎちゃったんだよ」

海未「ならばこそ、指揮する立場にありながら己を律することができなかった私の落ち度です」

穂乃果「でもっ……」

ことり「……言い合い、もうやめよっか。ただでさえ最近みんなの仲がよくないもん」

海未「……そうですね。すみません」

穂乃果「ごめん……」
16: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:57:00.18 ID:rEGw3Tsx.net
海未「真姫がほとんど口を効かなくなったと聞いたのですが」

ことり「海未ちゃんが倒れて、ライブをどうするかで揉めてから一度も話してないの」

穂乃果「ライブをやるって主張してる絵里ちゃんやにこちゃんとは話してるみたい」

海未「二人はライブをしないでもいいのですか?」

ことり「ライブは……したいよ。あんなに一生懸命練習してきたんだもん。でも……」

穂乃果「私は一回ライブ中に倒れてるから、海未ちゃんの気持ちはわかるし、心配だから」

ことり「私も海未ちゃんのことの方が大事だもん。ライブはまた今度できるよ」

海未「ですが私のせいで、大切なライブを中止するなんて……」

ことり「……ライブ強行派のみんなも言ってた。ライブをやめたら、海未ちゃんが余計責任感じちゃうって」

穂乃果「でもそんなの気にしないでいいよ! 今は体のこと考えよ?」

ことり「海未ちゃんだって体調が大事っていつも言ってるもん」

海未「そうですが……」

穂乃果「……やっぱり、責任感じるよね」

ことり「そうだよね。海未ちゃんだもんね……」
17: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:58:05.64 ID:rEGw3Tsx.net
―――


ことり「…………」

ことり(部室……入るの、気が重いなあ……)


 ここ数日間、私たちはまともな練習ができていない。
 原因はライブの敢行か中止かを巡る対立。
 練習ができず、集まる理由が失われつつあった部室の雰囲気は、日を追う毎に重くなっていった。


ことり「……お疲れ様ぁ」

凛「あっことりちゃん、おつかれー!」

希「やっほーことりちゃん」

花陽「……ことりちゃん、お疲れ様です」

真姫「…………」

にこ「…………おつかれ」

ことり「……」


 同じ場にいても、会話をするメンバーとそうでないメンバーとの亀裂はハッキリしてる。
 特に真姫ちゃんは言い争い以降、敵対する立場の私みたいなメンバーとは一切口を利こうとしなかった。
18: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:59:10.97 ID:rEGw3Tsx.net
希「なんやさっきから暗いわあみんな。もっと元気にいかんと!」

凛「そうだよ、やっと授業終わって放課後になったんだもん、練習だよっ!」

にこ「でも牽引役がいないじゃないの」

希「それは、ほら……まあなんとかなるやん?」

にこ「じゃあアンタが海未の代わりになんとかしなさいよ」

希「そう言われても……」

にこ「ったく、海未がいないとこれだから……」

ことり「にこちゃん、そんな言い方は……」


 敵対心は徐々に隠すことなく表れ始めて、雰囲気は一層悪くなる。
 嫌な雰囲気にあてられて、皆疲れちゃってる。
 仲を取り成そうとするのは今はもう私くらい。


穂乃果「いやー海未ちゃん帰すのに苦労したよー」

絵里「みんなお疲れ。……なによ、まだ空気が重いままなの?」

ことり「お疲れ様。海未ちゃんは……」

穂乃果「さっき強引に帰らせたよ! 部室きたら絶対練習したくなっちゃうもん」

希「ここにきたら絶対申し訳なさそうにするやん。そんなことのために来るなんてよくないよ」

絵里「強制帰宅ってところね」
19: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 17:59:55.64 ID:rEGw3Tsx.net
にこ「絵里、今日の練習どうすんの?」

絵里「そうね……海未がいないとなってもライブは近いから、練習はいつも通りかしら」

穂乃果「ねえ、本当に練習するの? ライブ、出ないんでしょ?」

絵里「…………それはわからないわ」

穂乃果「どうして!? 海未ちゃんがいなくちゃ私たちμ'sじゃないよ!」

絵里「穂乃果の言うこともわかるけど、だからといってライブを中止したら、海未が自己責任に苛まれて自分を押し潰すわよ」

穂乃果「そうしたら私たちが支えればいいじゃん!」

にこ「支えられないことだってあるでしょ!」

穂乃果「そんなのわかんないじゃん!」

希「まあライブ用の練習かは置いといて、練習自体はやってもいいんやないん?」

凛「ライブはやらなくても、ライブ用じゃない簡単な練習ならできるもんねっ」

花陽「そうだね……」
20: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:01:51.03 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「……そんな軽い心積もりで練習する気なの?」


 真姫ちゃんが口を利いたことで、歪ながらも会話が続いていた流れがピタリと止まる。
 険悪な態度を隠すことなく発している真姫ちゃんの動向は、私たちにとって特に意識しちゃうことだった。


ことり「真姫ちゃん……」

真姫「本気で練習するわよ。練習だって、ライブだって、私たちだけでもなんとかなるでしょ」

ことり「だけどそれじゃあ……」

真姫「じゃあ今までの苦労はなんだったっていうのよ! 努力が報われないままだと海未だって苦しむわよ!」

ことり「そうだけど……でも……」

真姫「言い合ってるからキリがないのよ。いいから体動かして、色々発散させればいいでしょ」

凛「真姫ちゃんらしくないにゃー」

真姫「なにが?」

凛「いいから体動かそって、そういうのは凛とか、それこそ海未ちゃんが言いそうなことなのに」

真姫「凛たちが言うことなら私が言ったっていいでしょ」

凛「でも今の真姫ちゃんは強引に練習するよう話を持っていくために言ってるよね」

真姫「だからなんなのよ!」

絵里「ちょっと、落ち着きなさい!」
21: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:02:53.90 ID:rEGw3Tsx.net
花陽「二人とも、喧嘩はよくないよ……」

にこ「埒が明かないじゃない。どうすんのよ」

絵里「双方の言い分はわかるわ。どっちも海未のため、って主張でしょ?」

穂乃果「そうだよ。海未ちゃんのために、これ以上無理がないようライブは休もうよ!」

絵里「けれど反対意見だって、海未がこれ以上責任を感じないよう海未無しでもライブを行おうって意見なのよ」

穂乃果「それだと海未ちゃんが可哀想だよ!」

にこ「本当に可哀想って思うなら、責任感で自分を責める海未のことも考えないわけ?」

穂乃果「責任感とか言ってるけど、本当はライブがしたいだけじゃないの!?」

にこ「……アンタ、ライブしたくないっていうの!? 私たちなんのために練習してきたのよっ!」

希「ほらほら、言い争うのは無しや。ヒートアップしたらまとまる話もまとまらんよ」

穂乃果「……」

にこ「ふん……」
22: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:05:50.17 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「…………帰るわ」

ことり「あっ、待って……」


 反射的に真姫ちゃんの前に立ち塞がる。
 どうしたらいいのかわからないけど、このまま悪い雰囲気のまま帰すのはもっとよくないと思った。


真姫「どいてよことり。このままじゃ言い争いが続くだけでしょ。練習しないなら一緒にいる必要はないわ」

ことり「……だけど…………」

真姫「ねえ、ことりはなにがしたいの?」

真姫「ライブさせたくないんでしょ? じゃあライブ強行派の私のことは放っておけばいいじゃじゃない」

真姫「今じゃ私たちの仲を和解させようとしてるのなんてことりくらいのものよ?」

真姫「意見がぶつかるんだからしょうがないじゃない! それを止めるって、なにがしたいわけ!?」

真姫「少しくらいはライブやっても良いって思ってるってことなの? だったら私と一緒にみんなを説得して、」

ことり「それは違うよ」


 真姫ちゃんの言葉をピシャリと言い留めた。

 剣幕に押されてなにも言えなくなっていたけど。
 海未ちゃんのことだけは退くことが出来ない。
23: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:07:05.27 ID:rEGw3Tsx.net
ことり「ライブは、絶対にさせない」

ことり「これ以上海未ちゃんに負担をかけさせることは、私がさせないから」

真姫「…………」


 一転して態度を変えた私に、真姫ちゃんはなにも言い返してこない。

 こういう言い方をしたら、せっかく仲を取り持とうとしたのに、余計溝が深まることはわかってる。
 でも、海未ちゃんのことだけは、絶対に譲るつもりはないの。


ことり「ごめんね、真姫ちゃん」

真姫「……謝っておきながら、絶対に譲る気はないって態度じゃない」

ことり「……うん」


 真姫ちゃんは悔しそうに口元を歪めて、乱暴な動作で私の脇をすり抜けて部室から出ていった。
 立ち去る背中を、私はただ眺めることしかできなかった。
24: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:09:21.16 ID:rEGw3Tsx.net
―――


ことり「お邪魔しまーす」

穂乃果「いらっしゃーい!」

雪穂「あ、ことりさん、こんにちはー」

ことり「こんにちは、雪穂ちゃん」

穂乃果「あー家だと落ち着くーついついダレちゃうー」

雪穂「お姉ちゃんいっつもダレてるじゃん」

ことり「言われちゃったね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「そんなことないもん! 最近部室行ったらいっつも空気悪くてダレるどころじゃないよ!」

雪穂「空気悪いって、まだ海未さんのことで揉めてるの?」

ことり「うーん、海未ちゃんっていうか、それでライブをどうするかの言い争いというか……」

穂乃果「海未ちゃんが倒れたのにライブ強行するなんて酷いでしょ!?」


 穂乃果ちゃんはヒートアップした様子で座卓を思いきり叩いた。
 ビックリした私と雪穂ちゃんに気付くと、ごめんと呟いて申し訳なさそうにしていた。
25: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:11:00.60 ID:rEGw3Tsx.net
 穂乃果ちゃんも私と同じで、絶対にライブをさせないって強く思っている。
 私と違うのは、仲が悪くなった状況を取り成す様子はあまりなくて、とにかく海未ちゃんの安静だけを意識してるみたい。
 今回の海未ちゃんみたいに、以前穂乃果ちゃんはライブ中に倒れたことがあった。
 だから今回のことに関して意見を引く気がないんだと思う。

 私はみんなの仲もなんとか元通りにしたいって思ってる。
 でも、真姫ちゃんに真っ向から言い返したように、穂乃果ちゃん同様意見を取り下げるつもりは一切ない。
 きっと私たちが一番ライブを中止させることを強く主張してるんじゃないかな。


雪穂「ライブをやろうって言う皆さんだって、海未さんのためっていう言い分があるんじゃないの?」

ことり「海未ちゃんの体調面じゃなくて、精神面を心配してるみたい」

穂乃果「もう! 雪穂はどっちの味方なのっ!?」

雪穂「そりゃお姉ちゃんたちの味方だよ」

穂乃果「……そうなの?」

雪穂「海未さん心配だもん、安静にさせた方がいいに決まってるじゃん」

穂乃果「…………雪穂ぉ!」

雪穂「ぎゃっ!? なにっ、気持ち悪い! こっちくんな!」

穂乃果「やっぱり私の妹だよう!」
26: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:13:02.53 ID:rEGw3Tsx.net
雪穂「まったく……ことりさんも、お姉ちゃんと同じでライブ休養派なんですよね」

ことり「うん。あの海未ちゃんが倒れちゃうくらいだから、よっぽど無理してたんじゃないかなって」

雪穂「ですよねえ。海未さんのこと知ってる身としては、これ以上無理はさせられません」

穂乃果「なのに真姫ちゃんやにこちゃんはライブするって聞かなくて……」

ことり「海未ちゃんがこれ以上責任感じないように、っていう理由はわかるんだけどね……」

穂乃果「絶対自分たちがライブしたいだけじゃん!」

ことり「それも当然の気持ちだよ。そのために頑張ってきたんだもん。穂乃果ちゃんもライブしたいでしょ?」

穂乃果「したいけど……」

ことり「両方考えた上でどっちを選ぶのか正解なのか、誰にもわからないよ」

穂乃果「でもこのままじゃいつまでも喧嘩したままだよ!」

ことり「そうだね……なんとかしないと」

雪穂「大変そうだなあ……」
29: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:18:04.73 ID:rEGw3Tsx.net
―――


凛「ことりちゃぁん!」

ことり「ど、どうしたの?」

凛「かよちんが口利いてくれないよー!」

ことり「え? 花陽ちゃん? どうして」

凛「かよちんにライブは諦めても仕方ないよねって言ったら、そうだねって言ってくれなかったの!」

凛「だから、かよちんは真姫ちゃんたちみたいにライブ賛成なのって聞いたら、それから話続かなくて……」

ことり「花陽ちゃんはアイドルに対して思い入れが強いから、ライブを大事にしても仕方がないよ」

凛「そうなのかな……アイドルへの思い入れが強いってことは、にこちゃんも同じ理由でライブしたいって言ってるの?」

ことり「うん、そうだと思うよ」

凛「でもそれって海未ちゃんが倒れてもまだ一番に考えること?」

ことり「……わからない。ライブをしたいって言うみんなだって、海未ちゃんのことはちゃんと考えてるとは思うよ」

凛「体を大事にして一緒に休んであげるよりいいことなんてわからないよ」

ことり「それは私も同じ。でも……それだけが海未ちゃんのためを思ってるって話じゃないんだよ」

凛「かよちんも真姫ちゃんたちも、凛とは違うけど、海未ちゃんのことをちゃんと考えてるってこと……?」

ことり「きっとそうだよ。だから花陽ちゃんたちも、私たちも、勿論海未ちゃんだって、誰も悪くないんだよ」

ことり(…………そうだよ。誰も悪くない。だから、このままじゃいけないんだよ……)
30: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:19:39.23 ID:rEGw3Tsx.net
花陽「…………」

凛「…………」


 今日も、部室の空気が重い

 あれからまともに練習もできてないけど、みんな毎日集まってる。
 なんとかしないといけないって全員がわかってるんだ。
 だから嫌な雰囲気でも、みんなすぐには帰らない。

 そうだよ……やっぱりなんとかしないといけない。
 海未ちゃんのことが大切なら、尚更そうだよ。


ことり(なんとか、しなきゃ……!)

真姫「……」

希「あ、真姫ちゃんいつの間に。お疲れー」

絵里「そんな怖い顔していないで、みんなに挨拶くらいはしてもいいんじゃない?」

真姫「……おつかれ」

ことり(真姫ちゃん…………やっぱり、空気が重いよ……)
31: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:21:53.33 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「隣、失礼するわよ」

ことり「う、うん」

ことり(誰かが…………ううん、誰かがじゃない。ここで私が、頑張らないと!)

ことり(せっかく真姫ちゃんから隣に座ってきてくれたんだもん、今が話すチャンス!)

ことり(頑張れことり! 負けるなことり! さあ、声かけるよ!)

真姫「ことり」

ことり「ひゃいっ!? え?」

真姫「そろそろはっきりさせるわよ」

真姫「いい加減話が進まないし、このまま互いをいがみ合ってもしょうがない」

真姫「まあ、ことりだけは私たちの仲をなんとかしようとしてるみたいだけど」

ことり「…………」

真姫「でもね、そろそろ決めないといけない。ライブをするのか、しないのか」

真姫「はっきりさせないと私たちの仲だって悪くなるだけ。ここは事を進めるべきよ」

ことり「……うん、そうだね。今後に引きずらないよう、ちゃんと決めないとね」

真姫「だから用意したわ。後腐れなく、文句なしに、今後の私たちの動向を決定する手段を」

ことり「本当っ!?」

真姫「ええ。ライブの有無を決定する方法。それは……」

真姫「ヴァーチャル世界で殴り合いよ!」

ことり「……………………え?」
32: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:38:42.21 ID:rEGw3Tsx.net
―――


ことり「…………ヴァーチャル? 殴り合い?」

真姫「そうよ。いい加減みんなの雰囲気も悪くなって、鬱憤が溜まってるでしょ」

にこ「そりゃそうだけど、ヴァーチャルなんとかで解決できるわけ?」

真姫「そうよ。ちょっとしたツテで面白そうなものを手に入れたの」

希「それがヴァーチャルとかいうやつなん? まーた突飛なもん持ってきたね」

真姫「家の関係で昔から変なものばかり集まるのよ」

希「医者の家系関係なくない?」

花陽「そのヴァーチャル世界ってどういうものなの?」

真姫「近未来の技術を先取り、なんて言ってるけど、単なる実践型ゲームみたいなものよ」

凛「ゲーム? 面白そう!」

真姫「出来は悪くなかったからそこそこ楽しめると思うわ。要はプレイヤーが仮想世界に入って、実体験的に遊ぶの」

穂乃果「そういうのテレビで見たことあるかも。もうそんな技術があるんだ!」

真姫「まだ全然普及できる水準じゃないみたい。色々と偏りがあるからって、ゴミ同然にもらっちゃった」
33: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:40:01.67 ID:rEGw3Tsx.net
 真姫ちゃんを中心にして共通の話題で盛り上がっている。
 一番険悪な雰囲気を醸し出していた真姫ちゃんから進んで話してくれることで、私たちも気兼ねなく話すことができる。
 久しぶりに部室の空気が軽くなったみたいで、それだけでも私は嬉しかった。


絵里「それで、殴り合いっていうのは? 随分と物騒な話に聞こえるけど」

真姫「そこは仮想世界だから、現実世界と違って痛みもなければ怪我もしないわ。でも感情のぶつけ合いはできるってわけ」

にこ「ストレスを殴り合いで解消するってこと?」

ことり「だから、私たちの言い争いも解決できて、同時に溜まった鬱憤も解消できてスッキリする方法、ってことなんだ……」

真姫「……言っとくけど。私だって、みんなと喧嘩したかったわけじゃないんだから」

真姫「ただ、ライブへの意気込みとか、海未の心労をこれ以上増やしたくないってのも本気。だから譲る気はなかった」

ことり「真姫ちゃん……」

ことり「うん、そうだよね。みんなわかってるよ」

真姫「私たちの空気を一番悪くしたのが私だってこともわかってる。だから解決方法を用意したの」

ことり「ちゃんと解決して、後腐れなく納得できるように……だね」
34: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:42:42.94 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「正直、ライブをするかしないのか、まだ双方わだかまりがあると思う」

真姫「解決しようにも、双方とも海未のためっていう主張の根本は変わらない。だから話は平行線のまま」

真姫「だからここは罵り合いとかじゃなくて、一度本気で体動かして喧嘩して、スッキリさせたらいいって思うのよ」

凛「やっぱり真姫ちゃんらしくない発言だよねー」

穂乃果「体動かしてスッキリさせるなんて私たちがいいそうなことだもんねえ」

真姫「そこ! うるさいわよ!」

凛「えへへぇ」

ことり「……私は賛成かなあ」

穂乃果「ことりちゃんはそれでいいの?」

ことり「考え方は違くても、みんなが海未ちゃんのことを心配してるのは本当だもん」

ことり「どんな形の答えを出しても、きっと海未ちゃんは納得してくれる。だから後は私たちが納得するだけ」

ことり「妥協とかじゃなくて、後に引きずらないように、全部はっきりさせたほうがいいと思うの」

ことり「そういうことだよね、真姫ちゃん」

真姫「ええ。ことりの言う通りよ」

ことり「みんなが文句ないなら、真姫ちゃんの用意してくれたゲームで決着つけよう!」
35: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:45:46.10 ID:rEGw3Tsx.net
―――


穂乃果「放課後だー!」

海未「今日から練習再開でしたっけ。そんなに待ち遠しかったのですか?」

穂乃果「え? あ、うんそう、そうだよ! いやー楽しみだなー練習、うん!」

海未「急に演技じみましたね……」

ことり「海未ちゃんは明日から少しずつ体動かしてもいいんだっけ」

海未「そう診断はされていまが、一度身体の疲れを自覚してしまったせいか、まだ随分と身体が重く感じます」

ことり「海未ちゃんがそう言うなんて、よっぽどなんだね……」

海未「これまでは根性論でなんとかしてきた面もあったので、反動がきてしまったのでしょう」

ことり「明日から練習復帰って言っても無茶はしないでね?」

海未「倒れたばかりということもありますが、現状を見るに、まだ動き回るには不安があります。もうしばらくゆっくりしていますよ」

ことり「うん、それがいいよ」

海未「今日は生徒会の仕事をのんびりしてから、先に帰ります」

穂乃果「海未ちゃんごめんね、生徒会の仕事全部任せちゃって」

海未「いいんです。やることがないと、どうしても部室に足を向けたくなってしまいますから」

ことり「そっか。ありがとう」

海未「ことりも、穂乃果も、練習頑張ってくださいね」
37: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:48:28.34 ID:rEGw3Tsx.net
―――


にこ「これがその、ヴァーチャルなんとかってやつなの?」


 海未ちゃんを除いた八人が揃った放課後の部室。
 今日ここで、今後の私たちの動向を決定する。
 そのために真姫ちゃんが用意してくれたゲーム機を前にして、私たちはどこか気分が高揚していた。


花陽「箱みたいな機械と、ケーブルでつながったヘルメットみたいなものしかないね」

凛「これ被ってゲームするの? カッコイイ!」

希「ヘルメットがプレイヤー用のなん? 数多くない?」

真姫「面倒だから家にあるの全部持ってきちゃったのよ。余る分にはいいでしょ」

絵里「この機械でどうやって決着つけるの?」

真姫「簡単に言うと、今から私たちは共通の夢を見るみたいな形で、仮想世界に意識を持っていかれるわ」

真姫「そこではまるで本当の世界みたいに動けるし、感触もあるし、意識もある」

真姫「そしてそこではただ一つ、殴り合いだけができるの」

穂乃果「なんでそれしかできないの?」

真姫「欠陥品のゲームだって言ったでしょ」

穂乃果「そっか」
39: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:51:12.62 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「ゲームだから色々とルールがあるけど、それは追々説明するわ」

真姫「まず先に決めることは、ゲームの勝者が今後のライブの動向を決定できるって決め事よ」

ことり「ライブの有無を決めるために、今からこの機械で決着をつけるんだもんね」

真姫「ゲームはチーム制よ。主張の別れたチーム毎に分けて、相手を殲滅させたら勝ち」

希「チームで戦での対戦格闘ゲームみたいやね」

真姫「どちらかというとFPSかしら」

絵里「なにそれ?」

にこ「さあ」

穂乃果「ゲーム用語?」

真姫「知らなくても支障はないから気にしなくていいわ」
41: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:52:38.51 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「で、勝ったチームが今後のライブを行うか中止するか決めること」

花陽「決定に文句はなし、だよね」

真姫「そうよ。待ったも言い訳もなし、そしてその後には後腐れもなし。全部スッパリまとめるの」

穂乃果「これ以上喧嘩しないために、最後に思いっきり喧嘩するんだね!」

真姫「そういうこと。だからみんな思うところはあっても、それはゲームで全部ぶつけること」

希「ちゃんと全部綺麗に収まりそうな話やん」

にこ「真姫ちゃんはこのゲームやったことあるの?」

真姫「複数プレイ専用みたいだから未経験よ。だから実力に偏りはないわ」

絵里「いいわ。ゲームの勝者が今後を決める、その後は一切言い合い無し。まずはこれだけしっかり決めましょう」

真姫「じゃ、後は実際に仮想世界に入って説明するわね。みんなヘルメットを被って、頭の横についてるボタンを押して」

ことり「よいしょ。ボタン……これかな」

真姫「準備はいい? ゲーム中は現実世界の意識がないし、途中で戻れないから。先にトイレとかの用は済ませてよ?」

にこ「そういうのは先に言いなさいよ!」
44: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 18:58:28.33 ID:rEGw3Tsx.net

―――
―――――


ことり「……………………あれ?」


 説明書通りに部室でみんな一緒にヘルメットを被って、横に付いていたボタンを押した。
 なんだか頭が重くなって目を瞑った。
 落ち着いてから目を開くと、晴天の校庭に立っていた。
 放課後なのに周囲は随分と静かで、人影も私たちしかいない。


花陽「校庭にいる……部室にいたはずなのに」

真姫「ここが仮想世界、ヴァーチャル空間よ」

絵里「ここが? もうヴァーチャル空間にいるってこと? 完全に音ノ木坂の敷地内にしか見えないわ」

希「でも他に誰も生徒が見えへんし、やっぱり作り物の世界ってことやね」

穂乃果「本当にそうなの? 痛っ! ほっぺいたーい」

花陽「古典的な夢の確認方法だね……」

絵里「あら、でも今から殴り合いをするんでしょう? 痛みは感じないんじゃなかったの?」

真姫「そこは上手い具合にできてるの。通常の触感やその延長線程度の痛みは知覚しても、武器での攻撃は痛みを感じないわ」

絵里「武器?」

真姫「この世界ではプレイヤー毎に別々の武器が支給されて、それで互いに攻撃して相手のHPを削るのよ」

絵里「HP、ヒットポイントって言うのが、所謂体力代わりなのね」
45: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:01:06.96 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「誰がどんな武器を持っているのかも戦略だから、武器はチームで場所が分かれてから支給されるわ」

真姫「でもチームを分けるにはまず全員揃わないと……」

希「にこっち遅いね」

凛「トイレ長引いてるのかなー」

真姫「ゲームは起動させたから、後はヘルメット被ってボタンを押せばいいって伝えてはいるけど……」

ことり「……あれ、なんかここに靄が…………きゃっ!?」


 すぐ隣に不自然な灰色の靄が立ち上ってきて、人の形を作っていく。
 靄は形を変えて特定人物の影を作り上げたと思えば、靄の中からにこちゃんが出てきた。
 私もこうやって出てきたのかな……? 


にこ「ぷはあっ! え、なにここ」

真姫「きたわね」

にこ「これが仮想世界? 完全に本物じゃない。痛っ! ほっぺいった!」

真姫「遅いわよにこちゃん。やっとチーム分けができるわ」

にこ「あ、そうよ! 部室にちょっと変なのが……」

真姫「は? 変なの?」

ことり「……あれ? また靄が出てきて……………………え?」

雪穂「のわー! なにここ!?」

亜里沙「ハラショー!」
47: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:03:28.22 ID:rEGw3Tsx.net
穂乃果「雪穂!」

絵里「亜里沙!」

雪穂「あ、お姉ちゃん」

穂乃果「なにしてんの!?」

雪穂「だって、今日ライブどうするか決着するって言ってたじゃん」

穂乃果「言ったけど……え? それできたの?」

雪穂「本当は校門で待ってようとしてたんだけど、亜里沙が部室まで行こうって聞かなくて」

亜里沙「私、お姉ちゃんから話聞いて、居ても立ってもいられなかったんです!」

絵里「だからってどうして亜里沙まで……これは私たちの話なのよ?」

亜里沙「私たちはμ'sの一番のファンだもん! それに、海未さんのことを思ったら我慢できないよ!」

絵里「だからってこんなところまで入ってこなくても……」

亜里沙「にこさんがヘルメット被ったまま気を失って、気になって私たちもつい……ゴメンナサイ」

真姫「はあ……ゲームは途中でやめられないし、参加させるしかないわね」

雪穂「やったね!」

真姫「二人も今からなにをしようとしてるのか、自分たちのお姉さんから話は聞いてるのよね?」

雪穂「バッチリです!」

亜里沙「いきなりゲームみたいな世界にきてビックリですけど大丈夫です!」

真姫「じゃあ話を続けるわ。この世界についてわからないことがあったら後で誰かに聞いてちょうだい」

ゆきあり「はーい」
49: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:07:12.55 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「これからチーム別に居場所を移すわ。チームは任意に設定できて、各自の所属意識に応じて分けられるの」

希「今回のチーム分けは、チーム休養と、チームライブ強行?」

真姫「そんなところね。自分がどっちの所属かわかるでしょ? みんなの意識に応じて勝手にチーム分けされるから」

絵里「チームが別れたら武器が支給されるのね?」

真姫「そう。各武器の説明や相手の倒し方、あとはこの世界について補足説明もあるわ」

穂乃果「早速チーム分けしよう!」

真姫「じゃあ始めるわよ。みんな、今後ライブを行うか、やめるべきか、意識して」

凛「ライブ……」

花陽「…………」

穂乃果「チームで別れて、戦いだね。恨みっこなしだよ!」

にこ「当然よ。負けてから言い訳するんじゃないわよ」

真姫「今から意識が飛ぶわよ!」


 真姫ちゃんの号令と共に、視界がぼんやりと揺れた。
 遠のく意識の中、私は改めて、自分の気持ちを再確認した。


ことり(私は……海未ちゃんを……)
50: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:09:19.65 ID:rEGw3Tsx.net
―――


 ことりを始めとする【チーム休養】六人のプレイヤー。
 初期位置として選ばれた『体育館』に飛ばされた。
 全員で武器を確認し、各々使い方を確かめていると、スピーカーの電源が入る際に生じるノイズ音が体育館に響き渡った。


真姫『…………あー、あー。そっちも聞こえる?』

穂乃果「あ、真姫ちゃんだ」

希「相手チームからの通信かな。どうやって答えたらええんやろ」

真姫『大丈夫、聞こえてるから。ルール説明の続きをするから、今だけ全員に通信しているの』

希「そっか」

真姫『武器は確認したわね。言っちゃ駄目よ。まあバラしてくれるなら別にいいけど』

真姫『で、後で武器のマニュアルを見て貰えばいいんだけど、武器には威力値ってものが割り振られているの』

真姫『つまり武器の攻撃力ね。その武器で攻撃すれば、相手のHPをその分減らせるってわけ』

真姫『プレイヤーのHPは各自10ポイント。攻撃を喰らい続けて、10ダメージ以上溜まった時点でゲームオーバー』

真姫『武器については本当にランダムだから、文句は無しね』

真姫『あ、でもごく稀にプレイヤーの特性に沿った武器が支給されるらしいけど、もしかしたらそういうプレイヤーもいたのかしら』

ことり「……ちゅんちゅん」
53: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:11:42.02 ID:rEGw3Tsx.net
真姫『今から準備時間があるから、その間に武器の練習やルールの再確認とかしておくといいわ』

真姫『あといきなりゲーム本番じゃキツイかもしれないし、まずはエキシビジョンマッチ、模擬試合よ』

凛「最初は練習なんだね」

雪穂「練習って言っても、私はこの武器でなにを練習すれば……」

真姫『エキシビジョンと言っても、ルールも人数も武器も本番と同じだから、本気で練習しなさいよ』

真姫『今から少し経ったら合図が出るから、そうしたらエキシビジョンの開始』

真姫『ゲームのマップも見れるはずだからそれだけは事前に確認しておいてね』

真姫『じゃあまた後で。次会ったときは敵同士、恨みっこなしよ。覚悟してなさい』

穂乃果「……通信切れちゃった」

希「それじゃ各自武器やルールの確認といこか」

ことり「ちゅんちゅん」

穂乃果「ことりちゃん……」

ことり「…………本当にこれでやるの?」
54: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:20:07.27 ID:rEGw3Tsx.net
――――――――――

【ルール】

【勝利条件】
・チーム別による殲滅戦。敵チームを全滅させれば勝利。

・各プレイヤーには『HP(体力値)10』が設定されており、武器による攻撃を受けるとHPが減少、0を下回った時点でリタイア。
 また、後述する『仮想ボタン』による攻撃が有効と見なされるとリタイア。
 同一チームのプレイヤー全員がリタイアした時点でチームの敗北。
・プレイヤーがリタイアすると、全プレイヤーにリタイアしたことが知らされる。

【攻撃手段】
・各武器には『威力値』が設定されており、その数値だけ攻撃命中時に相手プレイヤーのHPを減少させることができる。
・武器は摩耗するものもある。『威力値』は減少しない。

・武器を使用しない攻撃手段として《各プレイヤーの後頭部にある『仮想ボタン』を素手で10秒間抑えつける》というものがある。
 各プレイヤーの後頭部には『仮想ボタン』が存在しており、『仮想ボタン』を素手で10秒間抑えつけられるとHP残量に関わらずリタイア。

【禁止事項】
・戦闘時を除き、同一チームプレイヤーが三名以上固まって行動することはできない。(エキシビジョンマッチを除く)
・戦闘時を除き、同一フィールドに30分以上居続けることはできない。(エキシビジョンマッチを除く)

【その他】
・ゲーム中は各プレイヤーがウィンドウを開くことで、ゲームマップと自身の現在位置を確認することができる。
 他プレイヤーの位置は基本的に確認できない。
・ゲーム中は各プレイヤーがウィンドウを開くことで、全プレイヤーのHP、リタイヤ状況を確認することができる。

・仮想空間内での武器による攻撃を受けても痛覚は感じず、怪我はしない。(一部例外有り)
・仮想空間内での出来事は現実世界には反映されない。


――――――――――
125: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 07:45:31.07 ID:DxD4E9OW.net
(スマホブラウザ用にマップ修正 内容は>>57と同様)
【ゲームマップ】

『三階』        北  
           北階段~至『屋上』
            |
      ・――――――――――・
      |『小1』  『小2』|
      |          |
      |          |
      |          |
      |   『大1』   |
      ・――――――――――・
      |          |
     南西階段       南東階段
            南

『二階』        北
           北階段
            |
      ・――――――――――・
      |『小1』  『小2』|
      |          |
      |          |
      |          |
      |   『大1』   |
      ・――――――――――・
      |          |
     南西階段       南東階段
            南
126: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 07:47:02.28 ID:DxD4E9OW.net
(スマホブラウザ用にマップ修正 内容は>>57と同様)
【ゲームマップ】

『一階』        北
           北階段
            |
      ・――――――――――・
      |『小1』  『小2』|
      |          |
『体育館』~|          |~『講堂』
      |          |
      |   『大1』   |
      ・――――――――――・
      |          |
     南西階段       南東階段
            南
58: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:33:36.10 ID:rEGw3Tsx.net
【ゲームマップ情報】

・音ノ木坂学院をモデルとした校舎が舞台

・全体構成は一階、二階、三階、及び『屋上』『体育館』『講堂』の造り

・各階には長方形の形をした廊下、並びに『小教室1』『小教室2』『大教室1』がある

・各教室の出入り口は二か所

・『小教室』は授業を受ける教室のサイズ並びに造り
 『大教室』は職員室のように広いスペースに作業机や作業台などの遮蔽物がある造り

・各教室並びに屋上等フィールドの出入り口に扉は無い

・各階を結ぶ階段の数は『北階段』『南西階段』『南東階段』の三つ

・『屋上』は三階の階段のうち『北階段』から一つの出入り口で繋がっている

・『体育館』『講堂』は一階のそれぞれ西と東から一つの出入り口で繋がっている

・『屋上』/『体育館』は広さのある屋外/屋内ステージ
 『講堂』は舞台と観客席があるステージ


【フィールド外に出た場合に関して】

・廊下や教室には窓があるが、窓から屋外へ一定距離出ると、一定時間経過後に屋外へ出た窓の内側に強制的に戻される

・『屋上』から落ちると、一定時間経過後に落ちる前にいた場所へ強制的に戻される


――――――――――
60: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:36:36.05 ID:rEGw3Tsx.net
――――――――――

【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり HP:10
武器:ことりソード/威力1~5(威力2)
《手からことりソードが伸びる。
 発動時に「ちゅんちゅん」と叫ばなければならない。
 ことりソードのサイズ並びに威力は「ちゅんちゅん」発声具合に依存。基本威力値は2》

・高坂穂乃果 HP:10
武器:加速器付モーニングスター/威力4
《取っ手のボタンで鉄球に付いている加速器のON/OFFを操作可能。射程は5m程》

・星空凛 HP:10
武器:ファンネル×3/威力1
《小型のレーザー射出装置を手元のコントローラーで操作可能。
 ファンネルの操作は宙を自由に移動できるが、操作範囲はコントローラーから半径2m以内。レーザーの射程は15m程。
 各ファンネルは1秒に1度レーザー射出可能、回数制限は無し》

・東條希 HP:10
武器:10秒透明マント/威力0
《身に纏うと10秒間不可視化する。効果範囲は一人分。
 不可視化中も実体は存在し、攻撃は受けるが、不可視化しているプレイヤーからの攻撃及び接触は不可能。
 再使用まで1分の猶予あり》

・高坂雪穂 HP:10
武器:復活スイッチ/威力0
《一度だけリタイアした任意のプレイヤーを体力3の状態で復活させることができる。
 復活させるにはプレイヤーがリタイヤした場所付近でスイッチを押さなければ無効。
 復活スイッチ保持者にはリタイアしたプレイヤーの位置が把握できるようになる》

・絢瀬亜里沙 HP:10
武器:10tハンマー/威力5
《デカい。殴打面積直径1m、横2m、柄2,5m。実体は重いが柄を握れば振り回すことができる。本当の重量は不明》


――――――――――
61: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:37:52.79 ID:rEGw3Tsx.net
メモ

・設定に沿った描写を細かく記すので適宜作中データをご確認ください
>>57のマップ『三階』について、『北階段』から『屋上』に至る経路があるという表記です
 表記ズレ失礼しました
62: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:40:25.83 ID:rEGw3Tsx.net
希「ルールとかはこんな感じかな」

凛「微妙に音ノ木坂の校舎と造りが違うから気を付けないといけないね」

雪穂「その点私たちは先入観がないのでマシかもしれません」

穂乃果「ねえ私の武器重くて動かないんだけど!」

亜里沙「穂乃果さん、ファイトです!」

穂乃果「むーりー! 亜里沙ちゃんの武器より小さいのになんで動かないのー!」

希「言うてもバスケットボール大の鉄球やし、そら動かへんやろ」

ことり「取っ手のスイッチで加速器を操作して鉄球を動かすみたいだよ」

穂乃果「こう?」


 鉄球とは逆側の鎖の先に取り付けられていた取っ手には、いくつかボタンがついている。
 穂乃果が適当に押すと、鉄球の一箇所から火花が飛び出し、うんともすんとも言わなかった鉄球が思いきり動き出した。


穂乃果「うわわわわわ急に動き出した!」


 そうして先程亜里沙のハンマーを喰らったように、雪穂の鳩尾に鉄球が突き刺さった。


雪穂「うごぇぇぇぇぇっ!」

亜里沙「雪穂おおおおおっ!」
63: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:42:37.98 ID:rEGw3Tsx.net
穂乃果「どうしよう止まらないよう!」

凛「別方向に動かすにゃ!」

穂乃果「こう?」


 穂乃果が取っ手の別のボタンを押すと、加速器から飛び出す火花の位置が変わる。
 同様に鉄球の飛び回る方向も変わり、進行方向の先にいた凛の脳天に直撃した。


凛「ふぎゃー!」

穂乃果「ぎゃー!」


 二人目の犠牲者を出したことで穂乃果は我を忘れ、むやみやたらとボタンを押した。
 そしてその度に飛び回る方向を変えた鉄球が【チーム休養】プレイヤーに襲い掛かった。


ことり「穂乃果ちゃん止めてー!」


 ことりの静止の声を聞き、穂乃果はようやく停止ボタンを押した。
 鎖一杯伸びきる程に飛び回っていた鉄球から飛び出していた加速器の火花が消える。
 ゴトンと大きな音を立てて鉄球が床に落ちた。


穂乃果「…………はあっ……止まった…………なんなのこの武器!?」
64: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:45:11.78 ID:rEGw3Tsx.net
希「うーん、人数はこっちの方が多いけど、色々と使い勝手が難しい武器が多いんかなー」

ことり「今のところ主戦力になりそうなのって、凛ちゃんと亜里沙ちゃん?」


 穂乃果のモーニングスターにやられた凛だが、何事も無かったかのようにことりの下へと戻ってきた。


凛「穂乃果ちゃんにぶっ飛ばされたけどファンネルの扱いはもう慣れたよ!」

亜里沙「私は思いきり振り回せばいいだけなので大丈夫です!」


 ドデカいハンマーを担ぐ亜里沙が自慢げにしている。
 その姿を見ながら、希と雪穂は肩身を狭そうにしていた。


希「ウチと雪穂ちゃんは完全にサポート役やからなあ」

ことり「穂乃果ちゃんの武器は扱いが難しそうだし……」

雪穂「そうですね……」

穂乃果「ぎゃー! 同じ方向ばっかり回してたら鎖が体に巻き付いちゃった! 雪穂ー!」

雪穂「今鎖取ってあげるから加速器のボタン止めて!」

希「穂乃果ちゃんはアレやしなあ……」
65: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:47:45.55 ID:rEGw3Tsx.net
希「後はことりちゃんやけど」

ことり「…………ちゅんちゅん」

希「なんか小っちゃくない? 五センチくらいしか剣出てないよ?」

亜里沙「スターウォーズで見たビームサーベルはもっと長かったです」

希「ほら、ちゅんちゅんの掛け声でサイズも威力も変わるって説明にも書いてあるし、もっと元気よく言わな」

ことり「ええー、ホントにぃ?」

希「海未ちゃんのためだよことりちゃん!」


 その名を言われると弱かった。
 照れが上回っていたことりの胸の内に、海未の姿が蘇る。


ことり(海未ちゃん……)

ことり「ううっ……くすん……ようし…………ちゅ、ちゅんぢゅーーーん!」


 気合いたっぷりにことりが叫ぶと、手先から伸びていたことりソードの長さが一メートル程まで伸びた。
 あからさまな効果の反映のされ方に、逆にことりはしょんぼりする。
 
 剣先が伸びると同時に、手元に『Ⅱ』という数字が浮かんでいることに気付いた。
 視界の端に映るウィンドウボタンを押し、武器の説明書きを確認する。

《ことりソード/威力1~5(威力2)》

 威力2の状態であるこれが基本的な性能となる。
 つまり、毎回これくらい叫ばなければいけないということ。
 映画で見たビームサーベルと同等のサイズになった、とはしゃぐ亜里沙を尻目に、ことりの気は一層沈み込んだ。 

ことり(うううっ…………恥ずかしいよぅ…………海未ちゃぁん)
66: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:49:35.52 ID:rEGw3Tsx.net
 そうこうしているうちに、フィールド内にブザーが鳴り響いた。
 全員の視界の前に大きなウィンドウが開かれ、エキシビジョンマッチの開始が表示された。


希「あ、練習試合始まってもうた」

凛「盛り上がってきたー!」

亜里沙「絶対に海未さんの休養を勝ち取ります!」

穂乃果「全然武器の練習できなかったー!」

雪穂「これ同じチーム内でもダメージ喰らうんでしょ? もうぶつけないでよ?」

希「ま、ボチボチ頑張ろかー」

ことり「う、うん……」



ことり(海未ちゃんがちゃんと休めるように……)

ことり「私、頑張る!」


【エキシビジョンマッチ スタート】
68: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:54:45.27 ID:rEGw3Tsx.net
『1F 体育館』


穂乃果「ねえ、まずどうしたらいいの?」

希「んー、体育館は広いけど他に逃げ場所とかないし、一旦廊下に出てみよっか」

凛「了解です希隊長!」

亜里沙「隊長!? ハラショーです希隊長!」

希「隊長なんて言われるとなんか照れるわー」


 自然と指揮役となった希を先頭にことりたちは体育館を出る。
 廊下に出たところでことりはウィンドウボタンを押し、ゲームマップの確認をした。


ことり「えっと……ここは、一階の西側の廊下だね」

雪穂「相手チームはどこにいるんでしょう」

希「マップを見る限りウチらの初期位置は一階の端やったから、逆に【チームライブ強行】は屋上とかじゃないんかな」
69: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 19:56:42.80 ID:rEGw3Tsx.net
凛「じゃあまだみんなと会わないかもねー」

穂乃果「今のうちに体育館で武器の練習してくる!」


 今しがた出てきたばかりの体育館に穂乃果は逆戻りしてしまった。
 雪穂の静止の声が飛ぶが、すぐに体育館からモーニングスターの加速器音と穂乃果の絶叫が聞こえてきた。


雪穂「まったく、単独行動したら危ないじゃん!」

希「まあ武器が使えないことには始まらないし、穂乃果ちゃんはエキシビジョンはお休みでいいかもね」

雪穂「お姉ちゃんたら……」

亜里沙「私たちはどうしますか?」

希「せやねえ……とりあえず固まって移動してみる?」

ことり「ステージがどんな感じなのか見て回ろっか」
70: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:00:10.38 ID:rEGw3Tsx.net
『1F 南廊下』


ことり「南側の廊下には、真ん中に大教室があるんだね」


 一階南側廊下に面する『1F大教室』は、ことりの知る音ノ木坂の家庭科室のような様相をしていた。
 遮蔽物代わりの作業台が多く並び、スペースも普通の教室より広い。
 比較的広域な戦闘場所と言える。


希「遮蔽物が多いし、身を隠しての打ち合いとかがありそうやんなあ」

凛「凛の出番だねっ! いつでもいけるよ!」

希「ファンネル捌きが上手やなあ凛ちゃん」


 穂乃果と打って変わって既に操作方法を熟知したのか、凛の操るファンネルは自在に飛び回っていた。
 武器に自信のないことりからすると、ただただ頼もしい。

 凛がファンネルを操る横で、亜里沙は家庭科室の中へと入り、手近な椅子を手元に移動させた。
 なにをしているのか見ていると、亜里沙は10tハンマーを思いきり振りかぶり、椅子に思いきり叩きつけた。
 ドゴンッ! という音が響く。
 破片が飛び散るまでもなく、押し潰された椅子の残骸だけが跡に残った。


雪穂「ひえっ!?」

凛「……ぺしゃんこにゃー」

亜里沙「校舎の備品とかも壊せるんですね」

希「にしても椅子がぺっちゃんこって…………流石威力『5』の10tハンマーやわ」

ことり「いいなあ使いやすそうな武器で……」
71: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:01:57.07 ID:rEGw3Tsx.net
雪穂「あの、一ついいですか?」

ことり「どうしたの?」

雪穂「私たちは海未さんの体調を気遣う理由で【チーム休養】なんですよね?」

亜里沙「海未さんを休ませてあげないと大変!」

ことり「うん、そうだね」

雪穂「じゃあ【チームライブ強行】の皆さんの主張はどういうものなんですか?」

雪穂「お姉ちゃんから話聞いても、敵対心が強いからか、なに言ってるのよくかわからなくて」

亜里沙「私もお姉ちゃんからちゃんと説明されてません」

亜里沙「どうして海未さんのために一緒に休んであげないんだろう……」

希「そうやねえ……あっちはあっちで、深く考えた結果なんだと思うん」

雪穂「深く、ですか?」
72: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:03:49.75 ID:rEGw3Tsx.net
希「海未ちゃんが倒れたって聞いてどう思った?」

亜里沙「海未さんが大変!」

雪穂「きっと無理したと思うから、休ませてあげるべきだと思いました」

希「そやね。海未ちゃんと接点が近かったりする子ほど真っ先ににそう考えるのかも」

希「でもね、だからと言って海未ちゃんの体を心配しない子が海未ちゃんと距離があるってわけでもないんよ」

雪穂「そうなんですか?」

希「例えばウチは、最近ユニットで集まることとか多くてね、ちょっと海未ちゃんと仲が良い期間なん」

凛「凛もだよ! やっぱリリホワは最高だにゃ!」

希「そうするとついつい甘えが出ちゃって、海未ちゃんが倒れたってなったらすぐ休ませなって思ったん」

希「せやけど、もしウチがもう少し冷静やったら、真姫ちゃんたちみたいな意見を持ってたかもしれへん」

亜里沙「海未さんのことを心配するからこそライブをする、ですか? お姉ちゃんもそう言ってたけど、私にはわかりません!」

希「えりちはね、海未ちゃんの精神面を心配したんよ」

希「ライブをやめれば海未ちゃんが自己責任を感じる。倒れて憔悴してる海未ちゃんには酷な話や、ってね」

雪穂「精神面……」
73: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:07:01.16 ID:rEGw3Tsx.net
希「倒れたんやからまず体調を大事にせなって考えは間違いとは思わんよ」

希「ウチだって最初にそう感じたからか、色々考えた今でも意見は変わらなかったしね」

希「ただ、みんながみんな考えることがあって、今回は意見が二つに分かれちゃっただけ」

希「みんな海未ちゃんのためを思ってるってことは、改めて理解しておいていいと思うん」

雪穂「そっか……わかりました」

凛「かよちんはきっとライブをやりたい思いが強かったから、あっちのチームに行っちゃったんだ……」

ことり「当然そういう理由もあると思うよ。私たちだってライブをしたいって気持ちが全く無いわけじゃないはずだもん」

ことり「それぞれに譲れないものがあるから、私たちは別々の考えを選ぶことになったんだよ」

希「ことりちゃんは特に考えがハッキリしてたけどね。海未ちゃん一筋って感じ」

ことり「そうかな……」

希「向こうでいったら真姫ちゃんがそうかな。ライブ一筋」

凛「真姫ちゃんきっと手強いんだろうなー」

ことり「大丈夫だよ。みんなで頑張ろう!」

希「せやね」

凛「勿論! かよちんや真姫ちゃんには悪いけど、凛負けないよ!」
74: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:08:28.16 ID:rEGw3Tsx.net
『2F 南廊下』


凛「二階も一階と同じ感じの造りだねー」

希「二階には体育館や講堂がないのと、『2F大教室』が職員室っぽい感じになってるくらいやな」

ことり「北廊下の方にあった『小教室』は一階も二階も同じ感じだったねぇ」

雪穂「みなさん普段ああいう教室で授業受けてるんだ」

ことり「やっぱり中学校とは違うよね」

亜里沙「そうですね、なんとなくハイスクールでハイソなスクール感がします」

ことり「ハイ……?」

希「まーたえりちにいらんこと吹き込まれたんかな」

亜里沙「?」

凛「…………うん?」

ことり「? 凛ちゃんどうしたの?」

凛「今遠くで変な音しなかった? 重いものが落ちたみたいな」

ことり「え? そう? 聞こえなかったなぁ」
75: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:10:57.39 ID:rEGw3Tsx.net
希「んー、そろそろ向こうチームと遭遇するかな?」

ことり「そうだよね、二階まで来たし……」

雪穂「あ、みなさんあっち!」

希「んー? おっ」


【チーム休養】の一行が歩いていた南側廊下、その突き当りの南東階段の方向。
 敵チームのプレイヤーである真姫とにこが、向かいから近づいてきていた。


真姫「…………」

にこ「発見、ね」

ことり「にこちゃん、真姫ちゃん……」


 真姫は、大きくも鋭く、黒光りする刃物のような武器を肩に構えていた。
 にこはボンベらしきものを背負っているようだが、前方からでは詳細は計れない。


希「あっちのチームはあの二人と、花陽ちゃん、えりちの四人か」

凛「数はこっちが多いにゃー突撃ー!」

ことり「あっ凛ちゃん!」

亜里沙「お供します!」


 静止する間もなく、凛と亜里沙の二人が真姫とにこに向かって飛びかかっていった。
76: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:14:10.57 ID:rEGw3Tsx.net
凛「いくよ! ファンネル!」


 遠距離武器の特性を活かし、凛がフェンネルで先制攻撃を仕掛けた。

 後手を取った形の真姫は、しかし慌てることなく、凛の攻撃の正体を見極める。
 自身に迫るレーザーが被弾する寸前に、肩に構えていた巨大な刃物を一閃。
 軌道上に触れたファンネルのレーザーは完全に掻き消された。


凛「あっ!? ガードされた!」

亜里沙「大きな刃物……鎌?」

真姫「大鎌……《デスサイズ》、っていうそうよ」


《デスサイズ》。
 死神の鎌と呼ばれる、真姫の身長丈程もある大鎌。
 黒曜石の光沢にも負けぬ映え様を見せる刃のギラつきは、否が応でも切れ味の鋭さを予感させた。

 刃物という、相手を威嚇するには十分な武器。
 それを肩にする真姫もまた、大鎌に負けぬ程の鋭い眼光を凛たちに向けていた。


凛「なんか真姫ちゃん目つきが凶悪だよう」

真姫「凶悪でいいのよ……私たちは、勝ちに来たんだから!」


 真剣な面立ちで真姫は応じると、今度は真姫から仕掛けんと凛へと向かって駆け出した。
77: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:17:32.25 ID:rEGw3Tsx.net
凛「わっ来た! 行けー!」


 凛は三機ともファンネルを操作し、バラバラに角度を付けて真姫を迎え撃つ。
 左右斜め、そして正面からのレーザーが真姫を襲った。


真姫「一直線でわかりやすい軌道ね……はあっ!」

凛「ああっまた消された!」


 三射ともが真姫の大鎌一閃に掻き消された。

 力任せに振るう鎌は暴力的で、どこか直情的な挙動に見える。
 まるで普段の自分のようでらしくないと感じながら、慌てて凛は第二波を用意した。
 しかし多少凛がもたついた間に、真姫の刃がファンネルの一機を貫いた。


凛「あっ!?」


 ちょうど破壊された一機を操作しようとしていた凛は更に後手に回る。
 その隙を突き、宙を浮く二機のファンネルを真姫は潜り抜ける。
 凛に迫ると、今度は凛に目がけて大鎌の刃を斬りつけた。
78: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:20:51.94 ID:rEGw3Tsx.net
 大鎌の一閃は凛の体を頭から股下へと線を描き、凛の体が斬られた方向に揺さぶられ……それだけだった。
 仮想空間では傷は負わない。
 体は切れず、出血もなく、切りつけられた反動で体が揺さぶられるだけ。

 傷を負う代わりに、凛の頭上に半透明の数字が大きく灯った。
 数字は『10』から『7』へと変化した。


真姫「有効ね」


 真姫は確認するように呟くと、返す刃で凛の腰を左から右にかけて切り付けた。
 呻き声と共に凛の体が右に振られ、頭上の数字が『4』へと更に減少する。

 容赦なく三度目の刃を構えたところで、踏み込もうとした足を止めた。
 鋭い視線を真横に飛ばすと、後方へ跳ぶ。
 直後、真姫の立っていた場所に巨大なハンマーが振り下ろされた。


亜里沙「凛さんは倒させませんっ!」


 後方へ跳んだ真姫は、凛への攻撃を妨害した亜里沙を睨みつける。
 対峙する亜里沙の背後で、凛は体勢を立て直した。
79: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:22:30.21 ID:rEGw3Tsx.net
凛「やられたあ……痛くないけど、攻撃されたよ」

亜里沙「凛さん大丈夫ですか?」

凛「うん、平気! まだ動けるってことはリタイアじゃないよね?」

亜里沙「さっき凛さんの頭の上に半透明の数字が出たんです。最初が『10』で、今は『4』になってました」

凛「『4』? なにそれ」


 相談する二人の下に、真姫が再度躍りかかる。
 会話を中断された亜里沙は、頭上左側から迫る真姫の大鎌を自前のハンマーで受け止めた。

 凛はコントローラーを操作し、二機のファンネルからレーザーを射出。
 正確性より射出速度を重視したレーザーは、一つは逸れたが、一つは真姫の肩を貫いた。


真姫「っ!」


 肩を思いきり殴られたかのように真姫はバランスを崩し、その頭上に『9』という数字が灯る。


亜里沙「あ! あれです! あんな感じの数字がさっきは凛さんの頭の上に出たんです」

凛「攻撃が当たって数字が減った……あれ残りHPの数字だよ!」
80: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:24:12.31 ID:rEGw3Tsx.net
真姫「やってくれたわね……!」


 攻撃を当てるなんていい度胸だと、真姫の血が沸騰した。

 凛のレーザーを受けてたたらを踏んだ真姫は、そのまま足を止めることなく、姿勢を戻した直後に三度飛びかかった。
 真横から襲い来る大鎌を亜里沙はハンマーで弾く。
 鎌とハンマーがぶつかる度に金属の擦れる音が短く響き、防御する亜里沙の両手に痺れが走った。

 第二打第三打と亜里沙は攻撃を受け止めるも、真姫の大鎌の方が動きが早い。
 亜里沙が両手を使ってハンマーを振り回すのと違い、ハンマーに劣らぬ巨大さを誇る鎌を真姫は片手で軽々と手繰っている。


亜里沙(なんでこんなに慣れた動きができるの……!?)


 軽快なフットワークと共に繰り出される上下左右からの一閃に徐々に追い遣られ、亜里沙の脚は数歩後退した。
 反撃を目してハンマーを振り回すも、真姫に避けられて空振ってしまう。
 そのままハンマーの重量に従って亜里沙の上体が崩れた。


亜里沙「あっ!?」

真姫「隙あり!」


 大鎌を大上段に構え、がら空きになった亜里沙の体へと真姫は刃を定めた。
81: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:28:06.19 ID:rEGw3Tsx.net
 しかし実際に鎌を振り下ろす前に、真姫は視界の端に二機の存在を認めた。
 振り上げた鎌を盾にして、斜め後方へ跳ぶ。
 直後、二つのレーザーが線となって真姫の立っていた場所を襲った。


凛「今度は凛が守る番だよ!」


 亜里沙の後方で凛はコントローラーを操り、自前のファンネル二機を亜里沙の上空に設置した。

 真姫は舌打ちを一つ落としてから、狙いを定めさせぬよう左右に大きくステップを踏みながら二人の下へと攻め入る。
 狙いを定めさせぬよう横の移動を多く織り交ぜたことで、凛の繰り出す攻撃は悉く空を切った。


凛「当たらないーーー!」


 そうしているうちに真姫の鎌が亜里沙へと迫り、亜里沙はハンマーで防御に徹する。
 何度も攻撃を受けるうちに亜里沙の両手は痺れで感覚が無くなってきており、真姫を迎撃する反応速度が鈍くなってきた。
 真姫の動きに追いつけなくなり、接近を許してしまう。
 
 真姫が亜里沙に密着したことで、凛のレーザー攻撃は味方への被弾を注意するあまり攻撃しあぐねる。
 ファンネルを連射することができず、援護が覚束ない。
 凛の援護が途絶えたところで、遂に亜里沙は大鎌の一撃を受けた。
82: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:30:16.47 ID:rEGw3Tsx.net
凛「亜里沙ちゃん!」

亜里沙「くっ……! 痛くはないけど、効きますね」


 真姫の追撃を抑えるため、味方への誤射を恐れずに凛がレーザーを放ち、真姫は後方に跳んで回避。
 レーザーの一つが亜里沙に被弾。
 亜里沙の頭上に半透明の数字が灯り、『10』から『7』、そして『6』へと減少した。


凛「亜里沙ちゃんごめん……」

亜里沙「いえ、あのまま追撃されるよりずっとよかったです。ありがとうございます!」

真姫「押し込めるけど、時間かかるし、なんだか面倒ね」


 曲芸のように大鎌を体の周囲を巡らせ、肩にかける定位置の形で鎌を落ち着ける。
 凛と亜里沙を睨みつける鋭い眼光を、反対方向、自身の後方へと一度投げた。


真姫「…………」


 無言のまま前方の敵へと視線を戻すと、肩にかけた鎌を僅かに浮かせ、再度敵勢に飛びかかった。
83: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:32:51.95 ID:rEGw3Tsx.net
 凛は亜里沙に接近させまいと真姫の進行方向を読んでレーザーを放つが、真姫の巧みな足運びを捉えられない。
 身体能力に自信があった凛以上により激しく動けている様を目の当たりにし、驚きが生まれる。
 それでも一秒に一発という連射性能を活かし、なんとか簡単に接近させることを拒んでいた。

 じりじりとしか接近できず、業を煮やした真姫は、鎌と共に踊るようにして大胆なステップを踏みながら二人に近づいた。
 くるくると舞う体捌きに翻弄されるも、凛は連射を止めない。
 やがて一本のレーザーが真姫の胸を貫いた。


真姫「っ……!」


 しかし前進を止めず、強引に真姫は突き進む。
 亜里沙へと攻撃できる射程まで近付き、右斜め上方から刃を振った。
 亜里沙は攻撃を受け止め、鎌とハンマーが噛み合ったまま互いを押し合う。
 凛はファンネルの位置を微調整し、亜里沙と接近する真姫にだけ攻撃が当たるよう仕向けた。

 だが凛コントローラーの攻撃ボタンを押す前に、真姫の雄叫びが響いた。


真姫「にこちゃん!」


 直後、真姫の背後から接近していたにこが前方に飛び出した。
 日頃見せつけている自慢の愛らしい顔に、今は無骨な灰色のカスマスクが被せられている。
 至近距離で見る異様な姿に慄いた亜里沙と凛は一瞬手を止め、その隙に真姫はにこの後方へと退避。
 にこは十センチ程あるチューブの射出口を亜里沙たちに向けた。


にこ「にこちゃんアタックを喰らいなさい!」


 掛け声と共に射出口から白煙が勢いよく吹き出し、廊下一帯を覆い尽くした。
84: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:34:17.35 ID:rEGw3Tsx.net
凛「がはっ! 痛い! なに!? げっほ!」

亜里沙「前が……! 目が……!」


 にこの武器から射出された白煙を浴びた凛と亜里沙は猛烈な目への刺激を受けて両目を瞑った。
 痛みともしれない刺激に耐えかねて、凛はコントローラーを手放し、涙が止まらなくなった両目を擦った。


真姫「にこちゃん何秒待つの!?」

にこ「10秒!」


 前方から敵勢の会話が聞こえるも、目への刺激が強すぎて視界を開くことはおろか、まともに会話内容さえ理解できない。
 猛烈な目の痛みは、しかし思いの外短時間で和らいできた。


亜里沙「あ、目が開くかも……」


 片手で両目を擦っていた亜里沙は、目への刺激が落ち着いてきたことで瞼を開く。
 辺りにはまだ完全に消えきっていない白煙が薄らと残り、視界を白く埋めていた。

 半透明の煙の世界。
 その中を、真姫が煙を切り裂きながら突っ込んできた。
86: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:37:38.89 ID:rEGw3Tsx.net
亜里沙「!?」

真姫「遅い!」


 片手でハンマーを握っていた亜里沙はそのまま迎撃を試みるも、ハンマーの動きが追い付かず、大鎌による攻撃を身体に受ける。
 頭上に灯る数字が『6』から『3』へと減少。
 返す刃をなんとかハンマーで受け止めるも、無理な体勢で受けたために体が大きく振られる。
 無防備となったところへ黒光りする刃が迫った。


凛「危ない!」


 コントローラーを手元から失った凛は、空いた両手で亜里沙を突き飛ばした。
 代わりに自身が真姫の攻撃を受けてしまう。
 頭上の数字が『1』を刻んだ。

 凛は切り付けられた衝撃で廊下に転んでしまうも、即座に立ち上がり、今しがた突き飛ばした亜里沙の手を取った。


凛「逃げよう亜里沙ちゃん!」


 残りHPが僅かになったことで凛は戦闘を諦め、後方にいることりたちの方へと走った。
 まともな攻撃手段を持つ二人が退くことでチームを危険に陥らせる危険はあったが、現状ではどうしようもなかった。

 真姫とにこの追撃は、しかし予想外にも二人を追っては来ず、逆に凛たちとは逆方向へと走り出した。
 追撃がないことを疑問に感じるも、今は逃げられるならよいとそのまま逃げる。
 
 直後、凛の耳が異音を捉えた。

 真姫たちとの戦闘より前、凛が聞いた異音と同じ、重いものがズン、と降り立ったような音。
 その正体を想像するより先に、後方へと逃げようとした凛の目が異音の発生源を捉えた。

 チームプレイヤー五人の叫び声が重なった。
87: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:40:38.45 ID:rEGw3Tsx.net
雪穂「うわああああなにアレ!」

希「でっか!」

ことり「怖いいいい!」


 阿鼻叫喚の【チーム休養】に迫るのは、巨大な鉄のローラー。
 真姫たちが襲撃した方向とは逆方向である南西側から、ローラーがガチャンガチャンと音を立て、勢いよく突き進んできた。
 
 ローラーの横幅は廊下と合わせたかのように隙間なく、高さは一メートル半はあろうか。
 脇からすり抜けようがないため反対方向へと逃げるしかない。
 振動で周囲を細かくを震わせ、地鳴りのような音を響かせて、超巨大ローラーが五人の下へと勢いよく迫ってきた。


凛「ぎゃー! おっきい! 怖っ!」

亜里沙「誰かが向こうから押してるんです!」


 真姫たちから逃げようとした足を止め、正面から向かってきた超巨大ローラーを見やる。
 その向こうには、ローラーを押して走る頭が辛うじて捉えられた。


凛「かよちん!?」

花陽「やっと追いついたよ、みんな!」


 現実世界ではどう考えても動かすことなど不可能に思えるサイズの鉄のローラー。
 それを花陽は一人で事もなげ運びながら、【チーム休養】のプレイヤーを押し潰さんと駆けてきた。
88: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:44:28.11 ID:rEGw3Tsx.net
亜里沙「皆さん下がってください!」


 突如現れた超巨大ローラーの圧倒的な圧力。
 足が竦んでしまったチームプレイヤーたちの前に、ハンマーを持った亜里沙が飛び出した。
 迫りくる花陽に対し斜めに体を開き、腰を落とし、思いきり振りかぶる形でハンマーを掲げた。


亜里沙「私が迎撃します!」

雪穂「亜里沙危ないよ!」

亜里沙「雪穂たちは早く逃げて!」


 現実問題、亜里沙以外の武器ではどうする手立ても見つからず、ことりたちは亜里沙に従ってローラーから距離を取った。
 そうしているうちに花陽とローラーは接近し、最前線の亜里沙と接触せんと迫る。


亜里沙「やあーーー!」


 野球のバッターがするように、腰を回転させながらハンマーを前に振り回す。
 迫りくる超巨大ローラーと10tハンマーが激突した。
 
 轟音が一面に響き渡る。
 亜里沙の両手にこれ以上ない程の衝撃と痺れが走った。
 痛みともしれない手の感触は、しかし微塵も速度を落とすことなく自身の体を轢き潰したローラーのダメージにより、リタイアという形で消失した。
90: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:46:36.04 ID:rEGw3Tsx.net
雪穂「わあああああ亜里沙あああああ!」

ことり「逃げようっ!」

 
 靄を残し、ローラーに押し潰された亜里沙をの姿見て、残る四人は一斉に逃げ出した。
 しかし最も亜里沙の近くにいた雪穂は出足が遅れ、走る速度が出ないうちにローラーに追いつかれた。
 断末魔も虚しく、一撃で靄となってリタイアとなる。

 先頭を走っていた凛は一階南東廊下の角にくると、右手にある階段と一瞬迷ってから、左への曲がり角を曲がった。


真姫「いらっしゃい」


 そこへ、先にローラーから退避していた真姫の大鎌が迫る。
 認識しても防ぐ手立てがないまま、凛の体に一閃が走り、HPが『0』を表示した。
 凛の体が靄となって消えた。

 真姫が顔を上げると、正面の南東階段をことりが駆け上がるところだった。
 追うか迷ったものの、こちらへと迫る花陽を思い出し、追うのをやめる。
 待っていると、超巨大ローラーを押す花陽が曲がり角でまでやってきて動きを止めた。


花陽「ふーっ。えっと、二人倒したのかな?」

真姫「三人よ。私が凛を倒したわ」

花陽「そっか、じゃあ残り半分だね」


 灰色のマスクを頭上に押し上げたにこがローラーに近づき、一度ノックする。
 自身の身長程もあるというサイズ感に、呆れたように溜め息をついた。
91: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:49:28.47 ID:rEGw3Tsx.net
花陽「挟み撃ち作戦、上手くいってよかった」

にこ「予定より花陽がくるタイミングが遅かったけどね」

真姫「もう少しで私が全員倒すところだったじゃない」

花陽「ごめんね、間違えて別の階に行っちゃって、ぐるっと回ってきたの」

にこ「あー確かそのローラーって」

花陽「うん、一方通行だから」


 花陽は日頃見せるのと同じ穏やかな笑みを浮かべながら、ローラーに取り付けられている持ち手を手前に引く。
 前方には簡単に転がったローラーも、後方へは1ミリたりとも動かなかった。


にこ「後退できないなんて、便利なのか厄介なのかわからない武器よね」

真姫「要は使い様よ。実際花陽のお陰で半数倒して、残りの相手プレイヤーもバラバラにできたんだから」

花陽「この後はどうしよう?」

真姫「ことりが階段を上がっていったから、まずはそっちかしらね。また挟み撃ちでも試してみましょ」

花陽「わかった」
93: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:51:33.19 ID:rEGw3Tsx.net
 花陽はローラーの方向を階段に向けると、階段の幅に合わせるよう慎重に動かし、段差に密着させる。
 そのまま前に押し込むと、重量やら段差やらを無視したように、ガコンガコン音を鳴らしながら階段を上がっていった。


にこ「こんなに重そうなローラーが階段を自由に上がり下がりするなんて異様な光景よね……」

花陽「そういうゲームの仕様みたい」

真姫「階段移動ができなきゃ勝負にならないでしょ」

にこ「それもそうね。便利なもんだわ、ゲームって」

花陽「真姫ちゃん、にこちゃん」


 踊り場まで上がった花陽はローラーと共に横を向くと、階下の二人に顔を向けた。


花陽「勝って、ライブしようね」

真姫「任せなさい、絶対に勝つわ」

にこ「当然でしょ」


 力強いチームプレイヤーの言葉を聞き、花陽は笑顔の見せながら階上へと姿を消した。
94: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:54:11.32 ID:rEGw3Tsx.net
―――

『3F 小教室2』


 逃げ込んだ教室の隅で、膝を抱えて震えていた。
 ヴァーチャル世界で殴り合い。
 その言葉の意味を、ようやく理解した。

 与えられた武器を見て、その使い辛さから、全てを冗談のように思っていた。
 でもそうじゃなかった。

 真姫ちゃんたちが行ったのは、間違いなく戦闘と呼べるものだった。
 花陽ちゃんが操る超巨大なローラーが迫ってきたのはこれ以上ないくらい怖かった。
 
 右手を目の高さに持ってくる。
 所定の掛け声を発せば、手の先から白く光る剣が出現する。
 だけど、とてもそんな気にはなれなかった。
 戦意というものが完膚なきまでに喪失していた。


ことり(…………海未ちゃん……………………)

 
 事の発端となった、大切な幼馴染みのことを思う。

 海未ちゃんのためならなんだってしてみせると意気込んでいた。
 その意気込みは今、目前に迫る恐怖に覆い隠されてしまった。
 余りある恐怖感は体の震えとして、恐れの大きさを私自身に訴えかけてきている。


花陽「あ……ことりちゃんだ」


 名を呼ばれ、膝を抱えたままことりの体がビクンと跳ねる。

 出入り口の向こうに見える廊下から、超巨大ローラーを従えた花陽がことりのことを見ていた。
 今しがたあのローラーに蹂躙されたチームプレイヤーの姿が脳裏に蘇る。
 花陽に挑み、勝利する姿が、微塵も想像できなかった。
95: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:56:54.19 ID:rEGw3Tsx.net
 教室の端で震えることりを見つめながらも、花陽は教室内へと入ってこなかった。
 どうにも手に余るといった表情をしている。
 しかし恐怖に震えることりはなにもできないまま、花陽と視線を合わせるだけだった。
 
 やがて花陽は廊下の先へと視線を移すと、その表情に穏やかな笑みが広がった。
 どうしたのかと思っていると、花陽が何事かを言いながらこちらに指を差してきた。

 花陽の所作をぼんやりとしたまま眺めていると、花陽の立つ位置とは別の出入り口から真姫が表れ、教室へと踏み込んできた。


真姫「…………」

ことり「…………」


 一切会話はなかった。
 ことりはただ恐怖に震え、真姫はそんなことりを冷めた目で見下ろしていた。
 感慨もなにもないといったままに、ことりの間の前に立ち、大鎌が上段に構えられる。

 ことりは昨日の真姫の姿を思い出した。
 しばらく会話がなかったものの、ことり同様事態の収集を計ろうとして、明るい表情で解決策を用意してくれた姿。

 今、ことりの眼前で鎌を構える真姫は、仲違いしている最中でも見ることがなかった程に冷やかな眼をしている。

 ことりが海未のことを思い、ライブを中止しようと主張していたのは、心からの本気の意思だった。
 しかし、ライブ敢行を主張する真姫の態度もまたこれ以上ない程に本気であることを、ようやくことりは理解した。


ことり(真姫ちゃん……)


 害意は抱いておらず、悪意も抱いていないだろう。
 けれどことりの目には、鎌を構える眼前の真姫が、恐怖の権化たる死神のように見えた。

 真姫は機械的な動作で、大鎌を四度振るった。
96: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 20:58:44.27 ID:rEGw3Tsx.net
―――

『2F 大教室』


 ことりが真姫の刃に引き裂かれる数刻前。

『2F大教室』の前の南側廊下を花陽の超巨大ローラーが地鳴り音を上げて通り過ぎた。
 チームプレイヤーたちの絶叫が遠のき、やがて静かになる。

 場が落ち着いたことを確認して、希は身に纏っていたマントを下ろした。


希(…………あ、そっか。とっくに効果切れてるんやった)


 単なる黒いマントへと姿を戻した武器を小さくまとめて手に収める。
 静かになった廊下へと顔を突き出し、辺りの様子を伺った。
 周囲には誰もいない。
 みんなどこかへ去ったんかな。

 花陽ちゃんに挟み撃ちにされた直後、ウチは武器である《10秒透明マント》を使用した。
 全員から不可視化されたまま、南廊下に面していた『2F大教室』の中へ逃げ込む。
 直後、花陽ちゃんが押すローラーが、教室の前を通過していった。
 不可視化を行ったのは花陽ちゃんの目を眩ませる目的だったけど、結果的に大教室へ逃げ込んだことが直接の回避行動へと繋がったみたい。
 
 必要以上の時間身を潜めて、完全に安全を確認してから、今こうして廊下へと姿を表す。

 確認した限り、亜里沙ちゃんがリタイアした。
 雪穂ちゃんのものと思われる断末魔も聞いている。
 凛ちゃんとことりちゃんは上手く逃げられたんかな。

 不安を抱きながらも、移動を開始した。
 ゲーム開始直後から別れてしまっていた、もう一人のチームプレイヤーの下へと。
97: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:00:53.10 ID:rEGw3Tsx.net
『体育館』


 体育館は凄惨な様相を呈していた。
 壁と床に無数の破損の跡がある。
 どんな戦闘が行われたというのだろう。


希(……あ、違う。これ、全部穂乃果ちゃんが武器の練習した跡やわ)


 穂乃果ちゃんの武器、《加速器付モーニングスター》は、威力だけはやたらと高そうやった。
 操作方法に難があるようで、結局ゲーム開始までに操作可能とまで至っていない。
 ゲームが始まった直後はそこまで緊張感がなかったから単独行動を許してたけど……。


希(穂乃果ちゃんがいないってことは……武器を扱えるようになって移動したか、あるいは……)


 不安を感じ、希は踵を返す。
 しかし移動しようとした足は、一歩で踏み止まることとなった。


希「あちゃー……」

真姫「……」


 体育館の入口に、大鎌を肩に構えた真姫が立っていた。
98: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:02:50.14 ID:rEGw3Tsx.net
 凛と亜里沙を一人で相手取った真姫相手では、直接的な攻撃手段のない自分一人では勝負にならないと希は読んだ。


真姫「希、あなた一人なのね」


 一対一の構図に余裕を感じたのか、真姫が悠長に口を開いた。
 隙を突くならここしかない。

 希はマントを広げで身に纏い、十秒間の不可視化という効果を発動させた。


真姫「!? 消えたっ!?」


 今しがた目前に姿を捉えていた希が消えたことで真姫の動揺が伺えた。
 油断している今が好機。

 不可視化した希は数メートル先の真姫に迫りながら、武器以外での攻撃手段について記されたルールを思い出していた。


『・武器を使用しない攻撃手段として《各プレイヤーの後頭部にある仮想ボタンを素手で10秒間抑えつける》というものがある。
 各プレイヤーの後頭部には『仮想ボタン』が存在しており、『仮想ボタン』を素手で10秒間抑えつけられるとHP残量に関わらずリタイア。』


 後頭部にあるという『仮想ボタン』の存在は、チームプレイヤーの後頭部を見てその存在を認識していた。
 ウィンドウやHP数値のように半透明の形で、それらしきボタンが各プレイヤーの後頭部にあった。
『仮想ボタン』での攻撃は十秒間の拘束時間が必要となる。
 完全に動きを封じ込めた上で押さなければならないと気を引き締めた。
99: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:06:15.20 ID:rEGw3Tsx.net
 姿が消えている最中は一切の手出しができない、とマントの効果にあった。
 なので今のうちに真姫の背後をとり、効果が消えた瞬間後ろから抑えにかかろうと希は考えた。

 対して真姫の対応も早かった。


真姫(姿が消えたのは武器の効果しかありえない)

真姫(そういう効果の武器ってことは、武器の威力は無いはず)

真姫(なら、ルールにあった、武器を使用しない『仮想ボタン』での撃破を希は狙ってくるはず!)
 

 そこまで思考が至った時点で、真姫は手にする《デスサイズ》を振りかぶった。
 狙いもなにもない。
 ただがむしゃらに自身の周囲を守るように、華麗にして豪快に舞い、大鎌を縦横無尽に振ってみせた。

 感触を得たのは双方同時だった。


真姫「!」

希「!?」


 真姫は背後にいる何者かに斬りつけた感触を得る。
 真姫の背後を取っていた希は突如大鎌を振り回した真姫に対応できず、不可視化したまま攻撃を受けた。
100: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:08:40.42 ID:rEGw3Tsx.net
 不可視化した状態では希からは攻撃できないが、希は被弾する。
 そこまで見破っていたわけではないだろうと希は推察するも、結果は同じ。
 最悪な形で効果の幅を真姫に知られてしまった。

 真姫は体を反転し、今しがた手応えがあった場所に向けて鎌を構える。
 口元には邪悪な笑みが浮かんでいだ。


希(あかんわ、これ……!)


 希は当初の予定を早々に破棄した。
 警戒されないうちに近づき、背後をとって組み敷き、『仮想ボタン』による攻撃を狙うのが自らのやり方だとわかっていた。
 だからこそ、一度警戒されてはもう背後を取ることは難しい。
 真姫を体育館の中に残し、希は出入り口を抜けて廊下へと駆け出した。

 しかし、十秒は短い。
 希が廊下の角を曲がり、真姫の視界から逃れる前に、不可視化の効果が切れた。
 同時に、黒いマントを身に纏う希の後ろ姿を真姫は捉えた。


真姫「……見つけた」


 追ってくる漆黒の刃に、希は戦慄を覚えた。
101: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:11:37.27 ID:rEGw3Tsx.net
『2F―3F 南東階段踊り場』


希「…………はあっ…………ふう」


 あれから真姫ちゃんの追撃を受けながら、マント再使用までの一分をなんとか生き延びた。
 次に不可視化を実行したら、真姫ちゃんは先程同様自身の周囲を斬りつけながら小刻みに移動し出した。
 でもウチにはもう反撃の意思なんて無くて、十秒で真姫ちゃんの視界の外に消えることだけ考えた。
 結果的に真姫ちゃんの追走から逃れ、効果の切れたマントを手に、諸々の情報を分析している。

 視界に現れる半透明のウィンドウをタッチして、チームの状況を確認。
 現在のところ生き残っているのはウチと穂乃果ちゃんのみ。
 穂乃果ちゃんはノーダメージやけど、ウチは真姫の攻撃を二度受けたからHPは『4』やった。

【チームライブ強行】のプレイヤー四人は未だ健在で、真姫ちゃんのHPが『8』以外はダメージ無し。
 最初の人数では勝っていたにも関わらず、ここまで大きな差が出てしまった現状を重く受け止めるしかない。

 武器はランダムやって言うてたから、人数差による優遇とかはないはず。
 真姫ちゃんも初プレイみたいだから、実力差もなし。
 じゃあ後は…………覚悟の違い、やね。

【チームライブ強行】は始めから本気やった。
 仮想空間を楽しんだりせず、初手から戦略でもってウチらを強襲した。


希(それだけ本気でライブやりたいってことやな)


 ウチら穏健派に気の緩みはあったかもしれないけど、それでも、いい加減な気持ちでライブ中止を支持する者はいなかったはず。
 でもまだ覚悟が足りなかったのかも。
 少なくとも、真姫ちゃんたち敵チームと同等と言えるまでには。
102: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:13:44.46 ID:rEGw3Tsx.net
絵里「希」


 頭上からの声に反応し、ウィンドウを消して顔を上げる。
 三階の廊下に立つえりちが、踊り場に立つウチを見下ろしていた。


希「ヒーローは遅れて登場って感じ?」

絵里「そんなつもりはないわ。ただ、本番まで手札は隠しておくのも有効だっていう作戦よ」

希「チームの人数が少なくて、更に一人温存して、それで挑もうってつもりやったん?」

絵里「でも結果的にそれで問題なかったでしょ? 希たちはもう崩壊寸前じゃない」

希「……そうやね」

絵里「ねえ、なにがここまで大きな差になったと思う?」

希「覚悟、やないん? どこまで本気で、意地でもライブを止めてやるって意識があったのか、っていうね」

絵里「そうね。私たちはみんな本気だった。四人とも、なにがなんでもライブをやるって団結していたわ」

希「ウチらだって団結はしてたと思うよ。ただ、殴り合いをそこまで重く捉えてなかったのは否定できひんけど」

絵里「そんな中途半端な気持ちでライブを中止しようだなんて言ってほしくないわ」

希「……海未ちゃんのことが心配っていう気持ちは、中途半端じゃないよ」

絵里「でも、みんなを倒しても、殴って、斬りつけて、叩きのめしてまでも、意思を貫こうっていう気概がなかった」

希「……その通りや」
103: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:16:30.94 ID:rEGw3Tsx.net
絵里「希、意味がないってわかった上で、一度だけ聞くわ」

希「なにを?」

絵里「今は演習試合だけど、この結果を結果に反映させない? 次の本戦だってどうせ同じ結末よ」

希「わからんよ。相手の手口がわかればやりようもあるし」

絵里「それは私たちだって同じメリットでしょ。ここまでの差は詰まらないわ」

希「実力差はそうかもしれんね」

絵里「実力差だけじゃない。ライブに対する意識だって、同じよ」

希「そっちは違うよ。みんな、もっと本気になる」

絵里「どうかしら」

希「真姫ちゃんやにこっち、花陽ちゃんの本気を見て、ウチらも本気で挑もうって思い直すよ」

絵里「私にはそうは思えない」

希「やめよっか、言い合い。キリのない言い合いをやめるために、こうして殴り合いするって決めたんやし」

絵里「……そうね」


 会話の切れ目を見つけて、希は階段を駆け降りた。
 追ってくるようなら適当なところでマントを使用し、できることなら絵里の背後を取れれば良いと考えていた。

 しかし絵里は、階段を駆け下りるのではなく、手摺りを乗り越える形で飛び降りてきた。
 身体能力にものを言わせた距離の詰め方に思わず虚を突かれる。
 慌てて不可視化を図ろうとマントを翻した。
 だが身に纏う前に、広げたマントが希の視界から飛び降りてくる絵里の姿を隠した、その瞬間。

 衝撃が一発二発と、マント越しに希を貫いた。
104: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:18:44.98 ID:rEGw3Tsx.net
―――

『【チーム休養】リタイアルーム』


希「……………………あれ? ここどこ?」


 絵里による攻撃を受けたと認識した直後、一時的に希の意識は飛んだ。
 すぐに意識を取り戻すも、今までいた校舎内とは明らかに異なる空間へと移動していた。

 音ノ木坂の校舎を模した様子もなく、黒い壁面に六方向を囲まれている。
 各壁が薄らと発光していることで辺りの様子を伺うことができた。
 十メートル四方の周囲を見渡すと、同じ空間に亜里沙、雪穂、凛、ことりの姿があった。


ことり「希ちゃん……」

希「ああ、ここってもしかしてリタイアしたプレイヤーが来るところ?」

雪穂「そうみたいです」

亜里沙「私たち、倒されちゃいました……」
106: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:21:11.81 ID:rEGw3Tsx.net
凛「この部屋結構便利なんだよ。頭の中で想像すると椅子とかテーブルとか出てきて、案外居心地いいんだ」

希「え? そうなん?」


 希は目の前に椅子の形を想像してみる。
 薄らと発光する床から同じ色の椅子が生えてきた。


希「つくづく便利やなあヴァーチャル世界って。リタイア後のケアもバッチリや」

凛「ベッドで寝頃がりながらモニター越しにゲームの様子も見れるよ」


 希が顔を上げると、壁面のうち一面が幾つものモニター分かれていた。
 モニターの画面には校舎内至る所の映像が映っており、ゲーム内の様子を見ることが出来るようだ。


希「これでリタイアしたプレイヤーもゲームの続きを見れるんやね」


 残っているはずの穂乃果の姿をモニター越しに探してみる。
 しかし穂乃果の姿を見つける前に、リタイアルームが強く発光し、再び意識が飛んだ。
108: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:23:41.03 ID:rEGw3Tsx.net
―――


希「……今度はなんなん?」


 光に目を瞑った五人が目を開くと、初期位置の体育館へと戻されていた。
 ゲーム中に破壊されたような痕跡はなく、初期の姿そのままだった。


穂乃果「……………………」

ことり「あ、穂乃果ちゃん」


 ことりの横に、穂乃果の姿があった。
 全員がリタイアしたことで、エキシビジョンマッチが終了し、初期位置に戻されたと思われる。
 穂乃果は片手に鎖を、もう片手にモーニングスターの取っ手を握りながら、俯き加減で立っていた。


ことり「……穂乃果ちゃん? どうしたの?」


 穂乃果の様子がおかしいと察し、ことりは穂乃果の隣へ立つ。

 モニターに映っていた様子だと、一人校舎内を移動していた穂乃果は真姫と遭遇し、一方的にやられていた。
 ゲーム中は単独行動に緊張の色を見せていた穂乃果だったが、今はそういった様子ではない。
 もっと張りつめたような、感情の揺らぎが内に秘められている。
 ことりはそう感じた。
109: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:25:57.82 ID:rEGw3Tsx.net
ことり「穂乃果ちゃん……大丈夫?」

穂乃果「…………真姫ちゃん、本気だった」


 俯いたまま、穂乃果がポツリと呟いた。


穂乃果「本気で、ライブやろうとして…………本気で私のこと、倒しにきた」

穂乃果「私、本気じゃなかったのかな……海未ちゃんのこと、本気で心配してなかったのかな……」


 穂乃果の呟きは、ことりの胸に深く刺さった。

 先程のゲーム中、教室内で真姫に迫られたことを思い出す。
 恐怖に慄き、とにかく自分の身の安全だけを心配していた。

 しかし本来の目的は違うはずだった。

 このゲームは、ことりが想像していた以上に、殺伐とした方法かもしれない。
 恐怖に震えてしまうかもしれない。
 それでも、本来の目的は敵対勢力を叩き潰すことでも、鬱憤を晴らすことでもない。


ことり「…………私、さっきのゲーム中、怖がってばかりだった」

穂乃果「ことりちゃん……」

ことり「でもそれじゃ駄目なんだよ。これは…………海未ちゃんのために、頑張ることなんだから」
110: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:29:22.93 ID:rEGw3Tsx.net
 練習中、不意に倒れた海未の姿を思い返す。

 あの時胸に過った悲しみと後悔。
 大切だと思っていた存在の異常に倒れるまで気付けなかった自身を責めた。
 そして誓った。
 大切な幼馴染みに、もう負担を与えたりしないと。

 μ'sの中で意見が割れ、グループの危機を迎えても、そこだけは譲らなかった。


ことり「海未ちゃんのため……もっとちゃんと頑張らないといけなかったんだよ」

ことり「もっと本気で……真姫ちゃんたちみたいに、必死に頑張らないと」

穂乃果「……そうだね」


 俯いていた穂乃果が顔を上げた。
 表情は厳しいままでも、暗い部分は消え去っていた。


穂乃果「私、やるったらやる! 海未ちゃんのために、絶対にライブを止めてみせる!」

ことり「私も。海未ちゃんのために、次は絶対に負けない!」
111: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:31:21.68 ID:rEGw3Tsx.net
希「……吹っ切れたみたいやね」


 希が全員を手招いた。
 六人が近くに集まる。


希「さっきは、確かに緊張感が足らんかったかもしれへん。でも今は、どれくらい真剣にやればいいか、もうわかったね」

凛「次は真姫ちゃんたちくらい真剣にやるよ!」

希「それに、海未ちゃんのことを心配してる気持ちなら、最初から負けてへんもんね」

雪穂「勿論です!」

亜里沙「海未さんの休養を守ります!」

希「ことりちゃんの言う通り、海未ちゃんのことを考えれば、怖いのもへっちゃらやんな」

穂乃果「私、次は負けない!」

ことり「私も次はちゃんと頑張る!」

希「その意気やでえ。さ、改めて気合い入れていこか!」
112: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:33:14.15 ID:rEGw3Tsx.net
 希が六人の中心に手を差し出した。
 雪穂、亜里沙がその上に自分の手を添えたところで、ことりは思いついた。


ことり「ねえ、私たちだったらこっちじゃない?」


 そう言いながら、ピースサインで手を前に出す。
 希はそれを見て口元に笑みを浮かべると、改めてピースサインにしてことりの隣に指を添えた。


希「せやね、こっちでいこっか」

亜里沙「わあ! μ'sです!」

希「今日は六つ角の星やけどね」

雪穂「私たちも混ざっていいのかな?」

凛「今は凛たちの仲間だから一緒にやろうよ!」

雪穂「はい!」

穂乃果「よーし、じゃあ行くよ!」

ことり「掛け声どうしよう? いつも通りのでいく?」

穂乃果「そうだなー……」


 数秒悩んでから、穂乃果が名案を思い付いたと言わんばかりに笑って見せた。


穂乃果「じゃあ行くよ? せーのっ!」


「「「チーム休養ー! 殴り合いー、スタートッ!」」」
114: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:35:03.08 ID:rEGw3Tsx.net
―――


 準備時間が過ぎ、本戦開始のブザーが鳴る。
 次いで自動的にウィンドウが表示される。


《本戦での初期位置は各プレイヤー毎ランダムに配置される》


 表示を確認し、チーム内のプレイヤーを見渡した。
 穂乃果、凛、希、雪穂、亜里沙、全員と視線を交わし、頷き合った。

 やがて一人ずつ、体が靄に包まれる。
 チームメイトの姿が消えゆく中、ことりの身も靄に包まれた。
 意識が薄れ、視界から景色が消える。

 薄れゆく意識の中、みんなと交わした言葉を思い起こした。


ことり(大丈夫……みんなとなら、絶対に勝てる)


 幼馴染みのことを思った。


ことり(海未ちゃん……)


 守るべき彼女の穏やかな笑顔を思い浮かべる。
 それを最後に、ことりの意識は彼方へと飛んだ。


【ゲーム スタート】
115: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:38:50.94 ID:rEGw3Tsx.net
――――――――――

【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり HP:10
武器:ことりソード/威力1~5(威力2)
《手からことりソードが伸びる。
 発動時に「ちゅんちゅん」と叫ばなければならない。
 ことりソードのサイズ並びに威力は「ちゅんちゅん」発声具合に依存。基本威力値は2》

・高坂穂乃果 HP:10
武器:加速器付モーニングスター/威力4
《取っ手のボタンで鉄球に付いている加速器のON/OFFを操作可能。射程は5m程》

・星空凛 HP:10
武器:ファンネル×3/威力1
《小型のレーザー射出装置を手元のコントローラーで操作可能。
 ファンネルの操作は宙を自由に移動できるが、操作範囲はコントローラーから半径2m以内。レーザーの射程は15m程。
 各ファンネルは1秒に1度レーザー射出可能、回数制限は無し》

・東條希 HP:10
武器:10秒透明マント/威力0
《身に纏うと10秒間不可視化する。効果範囲は一人分。
 不可視化中も実体は存在し、攻撃は受けるが、不可視化しているプレイヤーからの攻撃及び接触は不可能。
 再使用まで1分の猶予あり》

・高坂雪穂 HP:10
武器:復活スイッチ/威力0
《一度だけリタイアした任意のプレイヤーを体力3の状態で復活させることができる。
 復活させるにはプレイヤーがリタイヤした場所付近でスイッチを押さなければ無効。
 復活スイッチ保持者にはリタイアしたプレイヤーの位置が把握できるようになる》

・絢瀬亜里沙 HP:10
武器:10tハンマー/威力5
《デカい。殴打面積直径1m、横2m、柄2,5m。実体は重いが柄を握れば振り回すことができる。本当の重量は不明》


――――――――――
116: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/19(日) 21:40:23.99 ID:rEGw3Tsx.net
――――――――――

【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP:10
武器:デスサイズ/威力3
《大鎌。刃の全長が1m、柄が1,5mと巨大かつ重量もあるが、操作は片手でも容易く、空気抵抗もほとんど無視することができる》

・絢瀬絵里 HP:10
武器:???/威力???
《???》

・矢澤にこ HP:10
武器:催涙ガス噴出装置/威力0
《ボンベに繋がった射出口から強力な催涙ガスを噴射することができる。
 催涙ガスの効果は即効性がありほぼ行動不能状態に陥れることができるが、効果が薄れるのも早く10秒程度で行動可能となる。
 専用のマスク着用時のみ催涙ガスを無効化できる。
 ガス噴出の勢いはおおよそ消火器と同等。
 10秒ほどでボンベは空になり、時間経過と共に徐々に再装填される》

・小泉花陽 HP:10
武器:巨大ローラー/威力10
《ロードローラーに付属されているような巨大な鉄のローラーを重量を無視して手押しで移動させることができる。
 高さ1,5m程、横幅はゲームステージの横幅と同一。
 階段の移動は仕様により可能。幅の問題で通れない箇所もある。
 進行方向にしか押し進めることができず、反転及び後退は不可能》


――――――――――
140: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:31:14.92 ID:DxD4E9OW.net
―――

『3F 小教室2』 ことり


ことり「……………………」


 本戦が始まり、開始位置に着く。

 飛ばされた意識を取り戻した先、見覚えのある風景だと感じた。
 エキシビジョンマッチの際にリタイアした場所に戻ってきたとわかった。
 ウィンドウを開いて自分の位置確認をしてみる。
 予想通り、私の初期位置は、エキシビジョンで真姫ちゃんに倒された場所『3F小教室2』だった。


ことり(リタイアした場所からやり直し、だね……)


 教室には私一人で、辺りには静寂が流れている。
 こんな形で、本戦では各プレイヤーが個別に飛ばされみたい。

 エキシビジョンマッチの最後を思い出す。
 眼前に迫る死神の黒刃に恐怖しか感じられなかった。

 けれど、恐れてはいけなかった。
 海未ちゃんのために、頑張ると決めたはずなんから。

 無理をしないようにと、日々私たちを労わる海未ちゃん。
 みんなのことを労わってくれる海未ちゃんのことも、私たちは労わらないといけなかった。
 みんなが気を回さなくても、私は労わってあげるべきだった。

 起きてしまったことを悔やんでも仕方がない。
 今はこれ以上海未ちゃんに負担をかけさせたくないという気持ちしかない。
 海未ちゃんの静養を勝ち取るために、もう恐怖に竦んで震えたりはしない。


ことり(今度は……ちゃんとやってみせる……!)
141: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:34:07.28 ID:DxD4E9OW.net
 右手を見つめる。
 武器を出現させるため、思いきり息を吸った。


ことり(……あ、でも)


 掛け声を叫ぶ直前思い留まる。
 もしかしたら、近場に敵チームプレイヤーがいるかもしれない。
 大声を出す行為は居場所を教えるようなものだよね。

 気を改めて、小声で掛け声を呟く。
 右手の周りを白い光が包み込んで、そこから五センチくらいの光の剣が伸びる。
 手の横に『Ⅰ』の数字を表示させて、武器である《ことりソード》を出現させた。


ことり(とりあえずこれで……)


 短い剣先が伸びる右手を軽く振ってみる。
 電子音みたいな音と共に、右手と一体化したように動く白刃が空を切った。

 エキシビジョンでは一度もこの武器を使用することがないまま終わってしまった。
 今度こそ、私が持ち得る武器で戦ってみせる。

 意思を強く持って、武器を出現させたまま教室の出入り口へと向かう。
 どこに敵がいるかわからないからって恐る恐る首を廊下へと出して、左右の廊下を見渡した。

 左側、遠く廊下の先に見える『3F小教室1』の出入り口。
 私と同じタイミングで顔を出した真姫ちゃんと目が合った。
142: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:35:37.15 ID:DxD4E9OW.net
ことり「……っ!」


 思わず教室内に顔を引っ込める。
 だけど思い直して、また廊下に顔を出して『3F小教室1』の方を伺う。
 遠くでは真姫ちゃんが廊下に身を晒して、こっちへと駆け出してきていた。


ことり(来た……!)


 怯える気持ちを抑え込んで、剣の伸びる右手を強く握る。

 次はちゃんとやると決めた。
 海未ちゃんのために、頑張るって決めた。
 真姫ちゃんにも負けない覚悟で、真姫ちゃんの意思に打ち勝つつもりで。

 大きく息を吸い込み、今度こそ思いきり声を出した。


ことり「ちゅんちゅんっ!」


 廊下に飛び出す。
 右手の先からは一メートル程のことりソードが『Ⅱ』の数字と共に現れていた。
143: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:36:24.14 ID:DxD4E9OW.net
 黒光りする大鎌の刃をギラつかせ、真姫がことりに迫る。

 ことりは白く発光することりソードを右手に掲げ、襲いかかってくる真姫へと構えた。

 音ノ木坂を模した校舎内の廊下。
 ことりの立つ『3F小教室2』の前で、二つの影がぶつかる。


真姫「ことり……っ!」

ことり「…………真姫ちゃんっ!」


 二つの刃がぶつかり合い、ここに戦いの火蓋が切られた。
144: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:38:43.10 ID:DxD4E9OW.net
『3F 北廊下』 ことり 対 真姫


真姫「ことり……っ!」

ことり「…………真姫ちゃんっ!」


 真姫は大鎌を振り翳しながら駆け寄り、ことりは真姫を真正面から迎え撃った。

 初手は真姫。
 上段に構えた鎌を振り下ろすと見せかけて、ことりの目前で時計回りに体を回転。
 勢いをつけたまま真横に薙いだ刃がことりの右脇腹を襲う。
 
 ことりは右手から伸びることりソードで大鎌の刃を受け止めるも、回転により増した鎌の勢いに負けて右手が弾かれた。

 上体が左に流れたところを、大鎌が今度こそ上段から襲いかかる。
 防衛反応というより、未だ残っていた恐怖心が体を動かした形でことりは鎌の攻撃を避けた。
 真姫に背を向け、廊下の壁に身を擦るようにして走って逃げる。

 十分な距離を取ったと見て体を反転させると、ことりが逃げた分真姫が距離を詰めていた。


ことり「!?」

真姫「簡単には逃がさないわよ! 喰らいなさい!」


 再びことりから見て右側、胸元の高さから真横に薙ぐ形で迫る刃。
 三日月状の刃で抱え込まれるような軌道で迫られ、身を退くことができない。
 しゃがみこんで攻撃を回避した。
 
 ことりの頭上を空振りした大鎌の刃は、勢いのままに切っ先から壁へとめり込む。
 壁に突き刺さったことで鎌の動きが止まり、その隙にことりは這って鎌の下から離れた。
 立ち上がり、慣れぬ格好でことりソードを前に構える。
 震える右手を左手で必死に抑えた。
146: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:40:08.41 ID:DxD4E9OW.net
真姫「今、壁に私の鎌が刺さっている間に攻撃すればよかったのに」


 真姫は力を入れて刃の切っ先を壁から引き抜き、肩にかける形で鎌を構える。
 ことりと違い、大鎌を扱う真姫の動作は随分とこなれたものだった。


ことり「エキシビジョンもそうだったけど、なんでそんなに動けるの……?」

真姫「やる気の違いよ」

ことり「やる気じゃ、負けないもん」

真姫「まだまだ温いってことでしょ」

ことり「……えいっ!」


 気持ちだけは負けてはいられない。
 今度は私から行かないと!

 右手を高く振り上げながら、過去の記憶が蘇った。

 以前、遊びの延長で海未が剣道をする姿を見に行ったときのこと。
 ことりもどうかと勧められて、触り程度に海未から教わった剣道の姿勢や剣の振り方を思い出す。

 海未の立ち居振る舞いを脳裏に描いたら、自然と背筋が伸びた。
 優しくも凛とした声が耳に響いた気がした。
147: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:42:15.92 ID:DxD4E9OW.net
海未『剣を真っ直ぐ振り下ろす際、手首の動きで剣先を加速させるのです』


 ことりの目の前で竹刀を振り下ろす海未。
 想像以上に激しい風切り音と竹刀の速度に驚き、振り下ろした先でピタリと動きが止まることも凄いと思った。
 なにより、凛々しい姿が素敵だった。


海未『振り方一つにも色々と注意点やコツがありますが、いきなりでは難しいでしょう』

海未『なので、まずは手首を意識して見てください』

ことり『手首をどうするの?』
 
海未『振り下ろす際、竹刀を握る手首を前方に傾ける意識です』

海未『腕で振り下ろす勢いだけでなく、竹刀の角度そのものを前方に傾けることで、竹刀の速度を更に増すことができます』


 もう一度ことりの前で竹刀の振り方を実践した海未は、先程とは少し振り方が違う気がした。


海未『こんな感じですね。正規のやり方とは違うかもしれませんが、これならことりにもできますよ』

ことり『ようし! やってみる!』


 海未に姿勢や腕の位置を修正されながら、見様見真似で剣を上段に構えた。
 横で見守る海未にいいところを見せたくて、張り切ってことりは剣を振り下ろした。


ことり『えーいっ!』
148: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:44:25.48 ID:DxD4E9OW.net
ことり(……剣を真っ直ぐ振り下ろして、手首の動きで剣先を加速させる!)


 教えを思い出したら勇気が湧いてきた。
 その勇気を支えに、真姫へと迫る。


ことり(海未ちゃん、力を貸して!)


 ことりソードは手首から指先を真っ直ぐ伸ばした際、その延長線上に伸びる。
 その性質を活かして、上段に構える際には手首を自分の方へと引き、角度をつける。
 そして相手へと振り下ろす際に、腕を下ろすと同時に手首も前方へと傾けた。
 振り下ろした腕の速度に手首の向きが傾いたことによる加速が加わり、素人ながら十分な剣先の速度となった。

 迎え撃つ真姫は、上手くいけばことりの剣を受け止めるまでもなくカウンター攻撃を与えようと考えていた。
 しかし予想以上に鋭い剣先に目を見張り、慌てて鎌を掲げて防御。
 白刃と鎌の刃がぶつかり合い、ジジジッという、電子音とも火花が散る音とも言えぬ音が鳴った。


真姫「……やるじゃない」


 真姫は鎌を引き抜く形で攻撃を受け流し、一度距離を取るため後退した。
149: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:46:05.33 ID:DxD4E9OW.net
真姫「エキシビジョンとは随分とやる気が違うみたいね」

ことり「さっきとは、もう、違うよ」

真姫「慣れてない構えの割に随分と剣の動きは早かったけど。そういう習い事でもしてたの?」

ことり「昔海未ちゃんからちょっとだけ教わったの」

真姫「そう…………海未……」

ことり「うん、海未ちゃんから……」

真姫「……ねえ。ことりが海未のことを心配して、ライブを中止しようって言うのもわかるわ」

ことり「真姫ちゃん……」

真姫「でもそれって表面的な心配をしているだけに感じるの」

真姫「海未は責任感が強い。ライブを中止したら、余計に責任を感じて自分を責める」

真姫「少し考えればこれくらい、ことりにだって想像つくでしょ?」

ことり「…………うん、わかるよ」

真姫「わかっているのに、そういう海未の気持ちは汲んであげないのね」
150: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:47:36.72 ID:DxD4E9OW.net
ことり「海未ちゃんは責任感が強いよ。だから、私たちがライブをするなら、絶対参加するって言うと思う」

ことり「一度倒れていても、体が動かなくても」

ことり「自分の欠けたμ'sのライブなんて良くないからって、絶対無理しちゃう」

ことり「私はそんなことさせたくない。海未ちゃんにこれ以上無理してほしくないの!」

真姫「多少無理をしたとして、それが海未の意思でも?」

ことり「海未ちゃんが無理をするのは海未ちゃん自身のためじゃない。私たちのためなんだよ」

ことり「不十分なステージに私たちを立たせないために、自分を犠牲にしても頑張っちゃう」

ことり「もう海未ちゃんにそんなことはさせない」

ことり「私たちのために、これ以上無理はさせない!」

真姫「……」


 真姫は肩に鎌を構え直し、鋭い眼光でことりを睨みつけた。
 視線の鋭さは変わらないが、そこに含まれるニュアンスは先程までと若干意味合いが異なっている。
 込められていた敵意が消え、純粋に、討つべき者を前にした集中力の高まりが表れていた。


真姫「……ことりの主張はわかった。さっきまでとは、本気の度合いが違うってことも」

真姫「それでも私だって曲げられない。だから、殴り合いで決着をつける」

ことり「うん。全部ぶつけ合うために、こうしてるんだもんね」

真姫「そうよ。後腐れなく、言い訳もなく……これ以上反論させないためにねっ!」
151: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:49:25.96 ID:DxD4E9OW.net
 細かくステップを刻み、左右に体を振り、どこから攻撃させるか的を絞らせないまま真姫がことりに接近する。
 横に広がる的をまとめて攻撃するため、迫りくる真姫に向かってことりは横薙ぎに剣を振るった。

 横からの攻撃を読んでいた真姫は難なく鎌でガードする。
 一瞬の鍔迫り合いの後、ことりの剣を受け流した勢いでその場で回転。
 ことりが仕掛けた方向から今度は真姫が攻撃。

 ことりは横に跳んで回避して、勢いで壁に両手を付く。
 そこに真姫の追撃が及び、ことりは背を向けて逃げた。

 ことりは反転しながら狙いをつけずにことりソードを振るい、身に迫っていた鎌を弾く。
 逃げるのをやめて真姫に向かうも、真姫の攻撃の手が早く、反撃できぬまま床に転がる様にして避ける。
 真姫の側面へと転がりながら、斜め下方向から腰辺りを狙って剣を振った。


真姫「わかりやすい攻撃ね!」


 真姫は剣先をひらりと躱すと、距離を取ってから再度ステップを踏みつつ接近。
 立ち上がったことりは真姫の刃を何度も受け止めるも、防御に手が回ってしまって反撃ができない。

 幾度目かの攻撃を防御した後、若干の隙を狙ってことりソードを上段から振り下ろした。
 しかし真姫は身を躱し、更にはことりの攻撃に被せるように、大鎌が斜め上空から弧を描いてことりに迫った。
 
 攻撃をしかけていたことりは防御が間に合わずに被弾。
 三日月状の刃の切っ先が左の鎖骨辺りに深々と突き刺さる。
 仮想世界故に傷も出血も無いが、刺されたことでことりの体が大きく崩れた。
152: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:51:38.63 ID:DxD4E9OW.net
 崩れた体勢を狙った真姫の刃を勘だけで躱して、真姫の方を向いたまま三歩四歩と下がる。
 ことりの頭上に半透明の数字が浮かび、『10』から『7』へと減少した。


ことり(やっぱり、強い……!)

ことり(凛ちゃんと亜里沙ちゃんが二人がかりでも止められなかったのに、一対一なんて……)

ことり(…………弱気になっちゃダメ! もう逃げないって決めたんだから!)


 一瞬竦んだことりの意思に反応してか、右手から伸びることりソードが消えかけた。
 ことりは改めて意思を示すように、声高に叫んだ。


ことり「ちゅんちゅんっ!」


 白刃が蘇り、ことりは真姫に躍りかかる。
 しかし真姫の迎撃を受け、代わりに攻め入られると、ことりの立ち位置は徐々に後退していった。
153: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:53:37.03 ID:DxD4E9OW.net
 戦闘開始位置は『3F小教室2』の出入り口付近だったのが、気付けばことりは北東の廊下の端付近まで追いやられていた。
 逃げ場所を確保しようとするも、東廊下への行き先を阻むように真姫が鎌を構えて逃げ道を塞ぐ。


真姫「逃がさない」

ことり「……逃げないもん!」


 逃げ道を塞がれたことで真っ向から真姫に挑むも、数回の刃の交錯の末、廊下の角に追い込まれてしまった。
 大鎌を構え、慎重に真姫が距離を詰めてくる。
 ことりは逃げる手立てを失ったが、それでも諦めなかった。


ことり「負けない……絶対、負けない……………………っ!?」


 廊下に第三者の足音が響いた。

 真姫の後方に現れた人影をことりの視界が捉えたのはほぼ同時。
 次いで真姫が気付いて振り向くのと、声が響き、レーザーが射出されるのがほぼ同時だった。


凛「喰らえーーー!」
154: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:55:36.24 ID:DxD4E9OW.net
『3F 北廊下』 ことり・凛 対 真姫


真姫「凛っ!?」


 真姫の背後、北階段の方から凛が飛び出してきた
 二人目の敵の姿を認めた真姫は、身を捻るようにしながらファンネルのレーザーを回避した。


ことり(今だっ!)


 意識が自分から離れた隙にことりは廊下の角から脱出しようとする。
 しかしことりの行く先に、真姫が鎌を伸ばして邪魔をする。


真姫「逃がさない!」

凛「真姫ちゃんこっちだよっ!」


 三機から同時にレーザーを射出され、真姫は防御に専念せざるを得なくなり、ことりへの注意が今度こそ逸れた。


凛「ことりちゃん今のうちに逃げて!」

ことり「っ…………凛ちゃんありがとう!」


 ことりは東廊下を南下し、そのまま戦場から離脱した。
 逃げる背を真姫は目で追いながら、一秒ごとに三発ずつ飛んでくるレーザーを躱すのが精一杯で、ことりを追うことはできなかった。


凛「へへーん、どうだ!」
155: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 21:57:35.63 ID:DxD4E9OW.net
真姫「……ことりを逃がすことができても、私と一対一で相手をするつもり?」

凛「しないよっ!」


 ことりが真姫から十分距離を取ったと見做すと、凛は即座に真姫から背を向けて逃げ出した。
 慌てて真姫がその後を追うと、凛の後方についてきているファンネルからのレーザーが強襲する。
 ガードする度に足を止めていると凛との距離は開いてゆき、ファンネルの射程から外れる程にまで広がった。


凛「凛の武器は射程が長いから、打ったら逃げる戦法が良いって希ちゃんが言ってたもんね!」

真姫「下手な知識覚えさせてくれたわね……厄介だわ」

凛「このまま追ってきてもいいけど、凛に近づく分レーザーが当たりやすくなっちゃうかもよ」

真姫「脅しのつもり?」

凛「試してみてもいいよ?」

真姫「……いいわ。この場は見逃してあげる」

凛「凛こそ見逃してあげるよっ!」


 真姫が追うのをやめたことを確認すると、凛は逆に一度だけ近づき、ファンネルの射程内に戻ってからレーザーを放つ。
 真姫が鎌で凌いでから、凛は再度離脱。
 したり顔を見せつけながら、真姫の視界から消えた。


【ことりHP:10→7】
161: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/20(月) 22:03:27.64 ID:DxD4E9OW.net
>>157雪穂武器威力修正

――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP10 加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP10 ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP10 10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP10 復活スイッチ/威力0
・絢瀬亜里沙 HP10 10tハンマー/威力5


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP10 デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP10 ???/威力???
・矢澤にこ  HP10 催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


――――――――――
188: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:35:14.12 ID:M6ZEYyzG.net
『1F 南西階段』 凛


 真姫からことりを逃がし、追走を振り切った凛は、再びプレイヤー探しのためフィールドを巡っていた。
 南西の階段を下りて二階の様子を伺う。
 階段から廊下に出ても、凛の位置から見える南西二方向の廊下には誰もいない。
 再び階段の方へと戻ると、そのまま一階へ。
 同様に廊下へと降り立って周囲を確認。


凛「……いた!」


 凛の立つ位置からは何十メートルも距離があるが、南側の廊下に面する『1F大教室』の前に人影を捉えた。

 相手の姿を見つけるのと同時、相手も凛の姿を認める。
 すかさず逃げるように向こうへと駆け出した。


凛「にこちゃん待てー!」


 人影、にこを反射的に追いかける。
 走りながら、エキシビジョンマッチが終わった後に設けられた休憩時間の内容を復習していた。
189: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:38:19.12 ID:M6ZEYyzG.net
希『凛ちゃんの武器はなんといっても射程の長さが武器やね』


 希の言葉に首をコクコク頷かせながら真剣に聞き入る。


希『ファンネルは三機あるけど、それを掻い潜られて敵に接近されたら操作どころじゃなくなってまう』

希『だったら遠くから撃って、近づかれたら逃げればええやん』

希『名付けてヒット&アウェイ戦法!』


 チームプレイヤーの中で最上級生の希が自然と皆のまとめ役になっていた。
 ユニットでも世話になっている三年生の存在はどんなときも頼もしい。
 
 一方で、この場にいないユニット仲間の二年生のことを考えた。


凛(海未ちゃん……)


 限界を超えて無茶をするなら、凛みたいな子だと思ってた。
 でも倒れたのはしっかり者の海未ちゃんだった。

 いつも頼りになりっぱなしだったから、手を貸すことを忘れていたのかな。
 それともつい甘えていたのかな。

 倒れたときこそ海未ちゃんを助けよう。
 いつも大変そうな海未ちゃんだから、今は休ませてあげたい。
 ライブはいつでもできるよ。
 今は、仲間の安静が一番!

 希からの作戦、そして凛自身の気持ちを再確認しながら、凛はにこの背中を追った。
190: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:40:26.17 ID:M6ZEYyzG.net
 一階南東位置の廊下を左に曲がり、曲がった先を見るも、にこは遠く廊下の先の角を更に曲がるところだった。
 距離にして三十メートル程開いたものを詰めるのは難しいかもしれない。
 無闇に追うのを諦め、足を止めた。

 一階東廊下、その中央からは『講堂』へと繋がる廊下が伸びている。
 ちょうど講堂への別れ道へと差し掛かっていた凛は耳を潜める。
 講堂の中からは、定期的に激しい衝突音が聞こえてきていた。


凛(誰か戦ってるのかな?)


 緊張感を持ちながらも、それ以上に勝気な態度のまま、凛は講堂へと駆け込んだ。

 薄暗い室内に入ると、講堂に並ぶ座席の最後方から全体を見渡してみた。
 舞台上に一人分の人影があった。


凛「……穂乃果ちゃん?」


 ガゴンッ! という重々しい音が、人気の少ない講堂内に響き渡る。
 舞台上で武器であるモーニングスターを操り、トゲ付きの鉄球を座席目がけて振り回していた穂乃果は、講堂入口に立つ凛の姿に気付いた。


穂乃果「凛ちゃん……」

凛「まだ武器の練習中?」

穂乃果「うん。これ、まだちゃんと扱えてないから」


 短く応じると、穂乃果は再び加速器を点火させ、鉄球を宙へ浮かせる。
 狙いをつけた座席目がけて振り下ろす姿を見ながら、凛は舞台上へと近づいていった。
191: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:41:11.28 ID:M6ZEYyzG.net
凛「穂乃果ちゃん、なんか、本気って感じだね」

穂乃果「本気? ……そうかな」

凛「怒ってるって感じかも。あんまり見たことない顔してるよ」

穂乃果「…………怒ってるのは、そうかも」

凛「真姫ちゃんたちに怒ってるの?」

穂乃果「…………うん。そうだね。そういう思いも、強いよ。真姫ちゃんたちにも怒ってる」

凛「真姫ちゃんたち以外に、他に誰かに怒ってるの?」

穂乃果「私に。本気になれてなかった私に怒ってるんだよ」


 鉄球が宙を舞い、激しい破壊音と共に座席へと沈む。


穂乃果「私ね、真姫ちゃんたちは言い訳してるんだって思ってた」

穂乃果「海未ちゃんの責任感の強いところを心配して、心に負担かけないようにっていうのは、言い訳なんだって」

凛「言い訳ってなんの言い訳?」

穂乃果「自分たちがライブをしたいから、その言い訳」

穂乃果「海未ちゃんのためって言いながら、本当は真姫ちゃんたちがライブしたいんじゃないのかなって、そう思ってた」
192: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:43:04.71 ID:M6ZEYyzG.net
穂乃果「だけどね、練習試合で真姫ちゃんにやられたとき、少しだけ話したの」

穂乃果「勿論ライブをしたいっていう気持ちは否定してなかった。でも、海未ちゃんの心を心配してるっていうのも、本当だと思った」

穂乃果「私たちとは形は違っても、海未ちゃんのことを心配してるのはみんな同じ」

穂乃果「じゃあ後は体と心、どっちを心配するか、その違いなんだよ」

凛「体調を心配するのか、気持ちを心配するのか、だよね」

穂乃果「後は、みんなの自分自身のやりたいことだね」

穂乃果「ライブをしたいのか。海未ちゃんがライブをするために無理するのを防ぎたいのか。その違い」

穂乃果「そういうことに気付けなくて、私はただ単に海未ちゃんの心配して」

穂乃果「真姫ちゃんたちに怒るだけで、なにも考えてなかった」

凛「凛もきっとそうだよ。穂乃果ちゃんとあまり変わらないと思う」

穂乃果「凛ちゃんはどうしてライブを中止する側に来たの?」

凛「穂乃果ちゃんやことりちゃん程付き合いが長いわけじゃないけど、海未ちゃんとはユニットで一緒だから」

凛「その分海未ちゃんのことはわかってると思うんだ。きっと、リリホワのときじゃないと見せない部分もあると思うの」

穂乃果「そうだね。私の知らない海未ちゃんを、凛ちゃんは知ってるかも」
193: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:44:47.26 ID:M6ZEYyzG.net
凛「それでね、海未ちゃんはやっぱりしっかり者だけど、でも全部がそうじゃないと思うんだ」

凛「もっと楽したり、もっとゆっくりしたり」

凛「そういう風にしたいときだってあるんだよ」

凛「でもね、みんなと一緒にいてそういう風にをしないのは、みんなの分も頑張ってくれてるから」

凛「みんなのために、海未ちゃんは我慢して、無理しちゃうんだと思うの」

穂乃果「うん。絶対そうだよね。海未ちゃんそういう人だもん」

凛「海未ちゃんもライブはしたいと思うよ」

凛「でも今のままライブをするって決まったら、自分のためじゃなくって、凛たちのために頑張っちゃうと思う」

凛「一人足りないμ'sのまま私たちが舞台に立たないように、ってね」

凛「どうせライブをしたいって言うなら、海未ちゃん自身がやりたいって気持ちを持ったときがいいなあ」

凛「そうじゃなくて凛たちのために無理させるんだったら、別にライブをしなくてもいいかなって思ったんだ」

凛「次のライブしないでも、またその次を待ってもいいかなーって」

穂乃果「うん。私も、やっぱり凛ちゃんと同じだよ」
194: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:46:53.39 ID:M6ZEYyzG.net
穂乃果「色々考えても、やっぱり私は海未ちゃんに無理をさせたくないって思った」

穂乃果「本気で思ったよ! 真姫ちゃんたちの本気に負けないくらい!」

凛「凛もだよ!」

穂乃果「だからもう負けないよ。絶対に海未ちゃんに無理はさせない」

穂乃果「そのためだったら、殴り合いでもなんでもしてみせる!」


 穂乃果の真面目な顔つきを見て凛は思った。
 なにかを成し遂げるとき、大事なことを決めるとき、必ずやり遂げる際の表情だと。
 日頃面白おかしく接している上級生の、頼りになる一面だった。


凛「穂乃果ちゃん、このまま武器の練習する?」

穂乃果「どうしよっかな。私が武器の練習して単独行動してると、その分チームの戦力が減るって希ちゃん言ってたもんね」

凛「凛は色々回ってみようかなって思うんだけど、穂乃果ちゃんも一緒に行かない?」

穂乃果「……じゃ、行こっかな! 次はちゃんと戦うよ!」

凛「うん! 一緒に頑張ろっ!」


 二人は元気の良い笑顔を見せあって、講堂から出ていった。
195: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:49:56.05 ID:M6ZEYyzG.net
―――

『屋上』 希 対 絵里


 本戦開始のブザーが鳴り、【ゲーム スタート】のウィンドウが開かれる。
 開始位置は各プレイヤーが個別に分かれて配置されると見て、希は考えた。

 エキシビジョンと異なり、ゲームの開始位置は各々で異なる。
 それに伴ってか、ゲームフィールドに飛ばされる順番も一人ずつだった。
 チーム内で最も遅く飛ばされた希は、その時点から既に思考を働かせていた。


希(ゲームマップ見る限り、戦闘用のフィールドは広いようで、十人が分かれて配置されると間隔は結構近いね)

希(せやから本戦始まった直後から油断することができんわあ)

希(特に、自分で攻撃手段を持たないウチみたいなプレイヤーはね)


 希の本戦開始位置は屋上。
 屋上はスペースこそ広いが、これ以上逃げ場がなく、出入り口も一箇所しかない。
 ある意味袋小路と同様であり、この場へと敵勢に追い込まれるのは上手くない。
 そう判断し、早々に屋上から出て階段を駆け下りた。

 しかし三階へと降り立つ前に、屋上へと上がってくるプレイヤーと遭遇した。


希「! えりち!」

絵里「また会ったわね希!」


 瞬時に反転し、屋上へと希は駆け上がる。
 当然絵里はその後を追い、希に次いで屋上へと飛び出した。

 希は出入り口から少し距離を取った場所で様子を伺っている。
 絵里は無理に希を追わず、出入り口の前で逃げ場を塞ぐようにして立ち塞がった。
197: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:54:04.21 ID:M6ZEYyzG.net
絵里「エキシビジョンが終わってまたすぐに会えるなんて、運命かしら」

希「スピリチュアルやね」

絵里「希の武器、姿を消す効果があるそうね。きっと、エキシビジョンの最後に広げたマントの効果でしょう?」

希「御名答。真姫ちゃんに聞いたんかな?」

絵里「情報共有は基本だもの」

希「だからウチを逃がさんよう出入り口付近に立ってるん? そこにいれば、姿が見えなくても力づくで止められるもんね」

絵里「御名答、よ」

希「でもそこからはウチを攻撃できひんやん? さっきウチに飛びかかってきたんやから、接近戦用の武器なんやろうし」

絵里「ええ、そうよ。でももしこのタイミングで私の味方が援軍に来たらどうかしら」

希「味方に出入り口は任せてえりちが自由に動けるようになったら、ウチは一方的にやられるやろね」

絵里「もし希の仲間が駆けつけてきても、そっちを突破してここから逃げれば私は致命傷は負わないでしょ」

希「だけどえりちの仲間が来たら、ウチはこの場でリタイアするかもしれない……賭けに出たね」

絵里「悪い賭けじゃないもの」

希「人数はウチらの方が多いよ。えりちは分が悪いかもね」

絵里「……そうね。けど…………残念ね、希。今回のあなたは運がないのかも」


 絵里の余裕ある態度を見て、希は悪い予感を覚える。
 絵里が出入り口の奥へと手招きすると、屋上にもう一人ノプレイヤーが上がってきた。
198: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:56:12.36 ID:M6ZEYyzG.net
『屋上』 希 対 絵里・にこ


希「あーあ…………」


 屋上に上がってきたにこの姿を見て、希はあからさまに残念そうな態度で溜め息をついた。


にこ「希じゃないの。いきなり大ピンチじゃない」

絵里「にこ、出入り口を守ってもらっていい? 私は希を叩きに行くわ」

にこ「わかったわ。やっちゃいなさい」


 短いやり取りを交わして、出入り口の見張り番を交代した絵里が希の下へと近づいてくる。
 希は後ろ向きに後退したまま、絵里の武器を想像した。


希(えりちだけ武器の正体がわかってない……でも、接近戦向きなのは間違いない)

希(エキシビジョンでウチがリタイアしたときには大きなもので殴られたような衝撃だった)

希(攻撃を受けたのは確か一発じゃなかった……あの時のウチのHPは『4』やったから、威力は『3』以下)

希(とはいえここで分析して、仮にえりちの武器を確認することができたとしても、逃れられないと意味があらへん)

希(となると…………)


 向かってくる絵里を見据える体を装いながら、その背後に立つにこを意識した。


希(にこっちなら、あるいは……!)
199: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 22:59:38.68 ID:M6ZEYyzG.net
絵里「希、私たちの考えの違いはあるけど、海未を思う気持ちは……」


 立場の余裕がさせた油断か、絵里が恭しく口を開く。
 その隙を見逃さない。
 語りだす絵里を無視して、不可視化の使用もせずに、絵里に向かって一直線に走った。


絵里「!? 嘘でしょ!?」


 実質的に丸腰である希から仕掛けてくるとは微塵も考えていなかった絵里は思いきり動揺した。

 この場で注意すべきは、不可視化の効果を利用した希を屋上から逃がさないこと。
 なので希を攻めながら隙を作らないことを特に注意するつもりだった。
 にこが待ち構えているとはいえ、自身の攻撃の隙を突いて出入り口まで通させはしない。

 そう強く意識していたために、先手を取って真っ向から襲い掛かってくる際の対処法をまるで想定していなかった。

 希が右腕を伸ばし、絵里に掴みかからんとする。
 絵里は迎撃するのではなく、斜め後方に跳んでその手を避けた。
 それから武器を発動させ、反撃を開始しようとした。

 しかし希はこれ以上絵里へ向かわず、絵里が逃げたことで開いた道筋のまま、真っ直ぐにこの方へと駆けた。
 そしてこのタイミングでマントを纏い、不可視化の効果を発動させる。


希(えりちの武器の確認はまた今度や!)


 背後を一切振り返ることなく、この場からの退避のみを意識した。
 不可視化が発動した後、真っ直ぐにこへ向かう格好から、左側を突くように経路を迂回した。
200: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:03:37.56 ID:M6ZEYyzG.net
 出入り口で待ち構えるにこもまた慌てた。
 まさか絵里が簡単に突破されるとは思っていなかった。


にこ「ちょっと、やめてよ……!」

絵里「にこ! ガスを出して!」


 言われるまでもなく、にこは頭頂部まで押し上げていたマスクを眼前に引き下ろす。
 背後に背負うボンベから伸びる射出口を構えると、付近広範囲に散らすよう催涙ガスをばら撒いた。
 あっという間に屋上出入り口付近は白煙に包まれた。

 絵里は武器を展開したまま、ガスの範囲から離れた位置で待機する。
 にこはマスクを装着したことで狭くなった視界に若干怯えながら、無暗にガスをまき散らした。
 やがて貯蔵量を全て噴出し終えると、射出口からは白煙が出てこなくなる。
 そのまま腰を低くして、透明化した希からの襲撃に備えた。

 しかしその頃には既に、希は屋上から退避し終えていた。


希「げっほ! キッツいわあ」


 にこがガスの噴射準備をしている間に、にこの体と出入り口の隙間を縫って脱出していた。
 直後撒かれたガスの煽りを僅かに受けて視界が効かなくなるも、なんとか耐える。
 
 不可視化の効果が消え、それから催涙ガスの効果が薄れ、屋上からは完全に離脱。
 ふう、と一息つき、涙に滲む目を擦りながら、口元に笑みを浮かべた。


希「そんなにウチを捕まえたいんなら、もっと激しく来てくれんと捕まってあげへんよ。うふ」
201: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:06:46.03 ID:M6ZEYyzG.net
―――

『1F 西側廊下』 雪穂


 本戦の初期位置だった体育館から離れ、一階の西側廊下へと雪穂は移動した。
 攻撃手段のない雪穂は早々にチームプレイヤーと合流すべき。
 そう希が言っていたことを思い返して、仲間の姿を探す。


希『戦略を練ろか』

凛『どうやって戦うの?』

希『本戦は三人以上固まって移動できないってルールにあるから、これがポイントかな』

ことり『みんなバラバラに行動するんだね』

希『せやけど一人だと戦えないプレイヤーもいる。ウチや雪穂ちゃんみたいにね』

雪穂『私、戦いじゃ役に立てそうにないですからね……』

穂乃果『だったら私と一緒に行動すればいいよ! 守ってあげる!』

希『そう、できれば雪穂ちゃんは誰かと一緒に行動しておきたいね』

亜里沙『無防備のまま一方的に倒されるのを防ぐためですね』

希『だから、まずは合流すること。もしそれが難しいなら、極力一人で歩き回らないこと』

ことり『大教室とかは遮蔽物があったから、上手くいけば隠れられるかもしれないね』

雪穂『じゃあ私は隠れながら皆さんと合流ですね……ようし』


 本戦前の作戦会議を思い出す。
 エキシビジョンマッチのように、手も足も出ないまま倒されることは真っ平御免だった。
202: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:09:10.62 ID:M6ZEYyzG.net
 体育館から出て突き当りの位置から右を向くと、その先に二階に上がる南西階段と、南側廊下に通じる曲がり角という造り。
 左を向くと、突き当りは北側廊下に通じる曲がり角で、曲がった先には右手側に『1F小教室1』、更にしばらく進むと左手に北階段が。
 どちらに進むか軽く迷うも、適当に左方向へと進んだ。

 しかし進んでから僅か、北側廊下への曲がり角に到達するまでもなく、前方から重量感のある音が聞こえた。
 ズン、と、重いものが降り立ったような音。


雪穂(まさか……)


 似たような音をエキシビジョンでリタイアする直前にも聞いた気がした。
 嫌な予感が抱き、曲がり角を注視しながら、雪穂は後ずさった。

 やがて、それは表れた。


雪穂「ひっ!」


 思わず漏れた声に反応して、超巨大ローラーの向こうから、目から上だけを覗かせた花陽が声をかけた。


花陽「その声……雪穂ちゃん、だね」

雪穂「あ…………あ…………」

花陽「よかったあ。最初に、敵に会えて」
203: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:11:37.95 ID:M6ZEYyzG.net
雪穂「わあああああ!」


 叫び声を上げながら雪穂は全速力で走った。

 後方からは、ゴロゴロともガラガラとも聞こえる地鳴り音と共にローラーが迫る。
 脇をすり抜けることが出来ぬよう、廊下の横幅ときっちり合わさったローラーが動く様は、さながら壁が迫りくるような迫力があった。
 気のせいか、圧縮された空気圧が背後から雪穂を押してくるようにさえ感じてしまう。

 南西の角に来た際、目前の階段を上らず、廊下を左に曲がった時点で雪穂は少し後悔した。


雪穂(あんなに大きなローラーだったら階段上がれないんじゃないの?)

雪穂(上がれるにしても、時間がかかるとか?)


 そんな疑問を抱きつつ、一階南側の廊下を西から東へ一気に駆ける。
 南側廊下の中間地点には左手に『1F大教室』への入口があったが、そこは無視して通り過ぎた。
 尚、この時点で『1F大教室』に入っていた場合、初期位置のまましばらく移動しなかったにこと鉢合わせしていたことになる。

 更なる敵との遭遇を知らずうちに回避していた雪穂は、南東階段に辿り着くと迷わず駆け上がった。
 二階に上がり、南側廊下へと数歩進んでから背後を見やる。


雪穂(……………………こない?)


 期待通り、ローラーは上階へは上がれないのかもしれない。
 そんな希望を見出して、内心喜んでいたところへ、

 ガコン ガラガラガラガラ

 そんな音が聞こえてきた。
204: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:13:53.88 ID:M6ZEYyzG.net
 異音が聞こえた時点で雪穂は喜ぶのをやめ、再び背後に向けて走っていた。
 直後、二階の階段前から、ズン、という重々しくローラーが降り立つ音が響く。


花陽「そっちだね、雪穂ちゃん」


 背後から聞こえる花陽の声は幻であって欲しいと切に願った。

 走る速度は概ね雪穂も花陽も同じくらい。
 ローラーを押す花陽の体力切れを願うも、それがおそらく叶わないことを雪穂は思い出した。


希『いい? これはエキシビジョンを経験してからの推測なんやけど』

希『ゲーム中、ウチらはほとんどスタミナを消耗しないと思うん』

希『だって散々走っても息切れしなかったやん?』

希『亜里沙ちゃんはハンマー振り回しても、体力的には平気やったろ?』

希『……やっぱりそうだよね。だから、身体能力はそのままでも、スタミナの面ではゲームのサポートがあるんよ』

希『戦場では体力こそ一番大事、なんて聞くけど、このゲーム中はその点心配しないでいいのかもね』


 本番前に話していた希の推測はおそらく的中している。
 現にここまで二百メートル程全力疾走を続けている雪穂は未だ元気なまま。
 それでもごく僅かに疲労を感じているあたり、スタミナ面も無尽蔵というわけではないらしい。
 とはいえ、この程度の疲労の進行具合では、花陽の体力切れを待つのは厳しいと判断した。
205: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:16:47.31 ID:M6ZEYyzG.net
『2F 南西階段前』 雪穂 対 花陽


 二階の南側廊下を東から西へ一気に走り抜け、雪穂は南西階段に辿り着こうとしていた。
 背後からの地鳴り音が凄い。
 背に感じる圧力だけで押し潰されてしまうんじゃないかと思った。

 ローラーは階段の移動も可能だが、僅かに距離を離すことができると知った。
 ならばと、雪穂は南西階段へ向かおうとする。
 しかし階段側へ曲がる直前、そちらから誰かが姿を現したことで、思わず避けるように右側の廊下へと曲がってしまった。


雪穂「ぎゃっ!?」

ことり「きゃっ!?」

雪穂「あれ、ことりさん!?」

ことり「雪穂ちゃん! うん? きゃあああ!」


 ことりは雪穂と一瞬目を合わすも、追走してきたローラーに気付いて慌てて駆け出した。
 焦っていたため進路選択する余裕もなく、雪穂を追う形で西側廊下を走ることになる。


花陽「敵、増えた」


 後方から聞こえる花陽の声が、不気味な響きを伴っているように感じた。
206: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:19:46.17 ID:M6ZEYyzG.net
 ことりと雪穂は二階西側廊下を並走する。
 その後ろからローラーが続いた。


雪穂「こっち来ちゃったんですか!?」

ことり「だって急だったんだもーん!」

花陽「待ってー雪穂ちゃーんことりちゃーん」


 俄かに距離を詰められ、地鳴り音が更に強く耳に届く。

 ガガゴッ ガガッ ゴガガガガガ

 超巨大ローラーの圧に怯えながら二人は走る。
 更に曲がり角を右折したところで雪穂は叫んだ。


雪穂「階段だとローラーは少し遅れます! この先にある北階段に逃げましょう!」

ことり「わかった!」


 一も二もなくことりは同意し、北側廊下の中央左手にある北階段を目指す。
 花陽のローラーにはまだ追いつかれることはないと判断し、安心したところで、

 階段側から、真姫が廊下へと姿を現した。
207: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:21:50.04 ID:M6ZEYyzG.net
『2F 北階段前』 雪穂・ことり 対 花陽・真姫


雪穂「うわっまた敵だ!」

ことり「真姫ちゃん!」


 階段側から現れた真姫は、自身の方へと向かってくる敵プレイヤー二名を視認した。
 急いで大鎌を肩に構え、迎え撃とうとするも、


真姫「え?」


 ことりと雪穂の更に背後から迫る超巨大ローラーを目にして、口をあんぐりと開いた。


真姫「ちょっとちょっと!」


 このまま廊下に出たままことりたちを待ち構えていると自分までローラーの餌食になってしまう。
 それを避けるために北階段側へと身を退いて、ローラーの経路から逃れた。

 対して慌てたのはことりと雪穂だった。


雪穂「どうしましょう!? 階段には真姫さんがいます!」

ことり「このまま真っ直ぐ行こう!」


 北階段へ逃げる予定を変更し、そのまま直線に走ることを決める。
 だがその前に関門が立ちはだかった。
208: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:23:30.87 ID:M6ZEYyzG.net
ことり「! いけないっ!」


 北階段の前へと到達する数秒間、ことりは確かに目にした。

 階段側に退避した真姫は、安全地帯に避けながら、大鎌を振りかぶっている。
 おそらくは階段側に逃げることを防止すると同時に、階段前を通過する際に攻撃してくる。

 ことりは迷わず叫んだ。


ことり「ちゅんちゅん!」


 右手から白く輝くことりソードを出現させると、雪穂に指示を飛ばす。


ことり「階段の方に近付いちゃ駄目! 攻撃されちゃう!」

雪穂「えっ!?」

ことり「私の後ろにきて!」


 背後にローラーが迫る恐怖に怯えながら、雪穂は一歩足を遅らせ、ことりの背後に移動した。
209: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:25:50.80 ID:M6ZEYyzG.net
 雪穂がことりの背後に退避した直後、北階段の前まで辿り着く。
 角からは真姫の鋭い眼光が覗いていた。


ことり(真姫ちゃん……!)

真姫(来なさい……!)


 擦れ違う瞬間、確かに二人の視線は重なった。
 同時に自身の武器を前に出す。


真姫「はあっ!」

ことり「やあっ!」


 ことりの構えた白光することりソードに、漆黒の大鎌がぶち当たる。
 力任せに一閃した剣と鎌はそのまま互いを大きく弾き合い、追撃の機会を逸した。

 大鎌を受け止めた衝撃でことりの重心が背後に傾くも、すぐ後ろを走っていた雪穂が支えた。
 走る速度をロスすることなくことりは体勢を立て直す。


雪穂「ことりさんしっかり!」

ことり「ありがとっ!」


 二人は真姫をやり過ごし、北階段前を無傷のまま通り過ぎた。
210: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:27:38.56 ID:M6ZEYyzG.net
 北側廊下を直進し、突き当りを右折しようとしたところで雪穂が叫んだ。


雪穂「ことりさん! 花陽さんが追ってきません!」


 廊下を曲がろうとした足を止め、ことりは背後を振り返る。
 見れば、北階段の付近でローラーは止まっていた。

 ローラーの上から僅かに頭の先だけが覗き、花陽は真姫となにかを話しているようだった。


雪穂「どうしたんでしょう」

ことり「このまま単純に追いかけても私たちに追いつくのは難しいと思ったんじゃないかな」

雪穂「そっか。お互いスタミナ切れがなさそうだから、延々走り回るだけになるんだ」

ことり「別の誰かと遭遇したら事態は変わるけど、どう転ぶかわからないから、リスクを避けたんだと思う」

雪穂「危険を冒さないでもあっちのチームは強いですもんね」

ことり「うん……」


 ローラー越しに、花陽、真姫の視線とぶつかった。
 ことりは向けられる視線をしっかりと受け止めてから、雪穂を促して廊下を曲がった。
211: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:29:33.52 ID:M6ZEYyzG.net
真姫「花陽」


 北階段付近で真姫は声をかけた。
 ちょうど前を通過しようとしていた花陽はブレーキをかけ、真姫の目前で立ち止った。


真姫「一方的に追いかけて捕まえらえそう?」

花陽「難しいかも。近い距離なら追いつけるかもしれないけど……」

真姫「無闇に追いかけるより、今みたいに挟み撃ちにできる機会を狙ったほうがいいかもしれないわ」


 ローラー越しに、敵プレイヤーが逃げた先を見つめる。
 特に、本戦開始直後に刃を交えたことりへと注視した。


真姫「エキシビジョンみたいに簡単には終わらないかもしれない」

花陽「そうなの?」

真姫「一回ことりと戦ったの。私の優勢だったけど、でも簡単じゃなかった」

花陽「じゃあ、気を引き締めないとね」

真姫「ええ」


 遠く視線を合わせていたことりは、雪穂を促して角の向こうへと消えた。
 それを合図に真姫は花陽に指示を出し、それぞれ別方向へと散開した。
212: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/22(水) 23:30:40.19 ID:M6ZEYyzG.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP10 加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP10 ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP10 10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP10 復活スイッチ/威力0
・絢瀬亜里沙 HP10 10tハンマー/威力5


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP10 デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP10 ???/威力???
・矢澤にこ  HP10 催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


――――――――――
231: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:31:33.80 ID:P/L9h53x.net
―――

『3F 南西階段』 希


 屋上にて絵里、にこ相手に無傷のまま離脱することに成功した希は、一度は低い階層に降りつつも、すぐに上層階へと移動することを決めた。
 理由はやはり、絵里とにこの存在だった。


希(最初は二人相手にウチ一人で挑むなんて無茶やって逃げたけど……)

希(あっちの二人相手に苦戦するのは、ウチ以外の仲間も同じやね)

希(だったら一対二で遭遇させる危険を減らすためにも、ウチがそこに加わって二対二にしたほうがええやん)


 自身が再び一対二の劣勢で絵里・にこ組と遭遇した際には、即座にマントを使用して退避すればよい。
 それで十分逃げ切れると判断し、希は自分よりチームプレイヤーの安全を優先した立ち回りをしていた。


希(あらら……)


 三カ所ある階段のうち南西の階段を上り三階へと到達した希は、物陰に隠れるようにしながら廊下の様子を伺った。
 すると案の定、南側廊下の中央付近、『3F大教室』前に絵里とにこの姿を見つけた。
 だが既に、仲間のプレイヤーが二人と対峙しており、こちら側も二人体制だった。


希(これ、どうしよっかな……こっちも二人いるなら慌てて駆けつけんでもええやろし、ウチが出ても戦力にならへんし)

希(透明化も一度使ったら一分間使えなくなるからタイミングが重要なんよね……)

希(しばらく様子見しとこか)
232: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:33:10.66 ID:P/L9h53x.net
『3F 南廊下』 穂乃果・凛 対 絵里・にこ


 三階南側廊下の中央に位置する『3F大教室』入り口付近。
 敵対するチームの絵里とにこを前にし。
 そして当人たちは気付かずとも、後方から希の視線を背に受ける形で。
 穂乃果と凛は前後に陣形を取り、臨戦態勢を整えた。


凛「絵里ちゃんにこちゃん勝負だよ!」

穂乃果「次は、絶対に負けない!」

絵里「随分な強気ね……」


 前衛穂乃果、後衛凛の布陣を敷くのに対して、絵里は一人前に出た。


絵里「にこ、私一人でいいわ。にこがフォローしようと前に出たら、きっと凛の攻撃を受けるもの」

にこ「わかった。ピンチになるまで後ろで待機してるから」

絵里「待機したまま終わっちゃうわよ」


 自ら数的不利な状況を作るも、絵里の自信は揺るがない。
 単身で前に出ながら、不敵な笑みは口元から消えなかった。
233: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:35:38.24 ID:P/L9h53x.net
凛「なんか絵里ちゃん不気味だよ……」

穂乃果「一人だけ武器の正体がわかってないもんね」


 本戦までの待機時間に行った作戦会議では、当然絵里についての話題も上がった。


雪穂『絵里さんだけ武器がわかっていないんですよね』

希『えりちにやられたウチが見てればよかったんやけど、タイミングが悪くてね』

希『わかってることは、威力が『3』以下で、連続攻撃ができて、打撃タイプの近距離戦向き武器ってことかな』

希『できれば正体を掴むまでは一対一を避けたいところやけど』

凛『エキシビジョンで真姫ちゃんと戦ったみたいに二人でいけばいいんだね!』

亜里沙『次は二対一なら負けません!』

希『できれば安全を期した戦いで、えりちの武器を暴きたいところやね』


 作戦会議の内容を思い出した凛は、二対一である今この場でこそ絵里に挑むべきだと決意を固めた。


凛「武器がわかんなくても攻撃しなきゃね! 先手必勝が凛の戦法だよ!」


 凛は自らを鼓舞して、射程の長さを活かしたレーザーによる攻撃を仕掛けた。
234: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:37:18.54 ID:P/L9h53x.net
 三機のファンネルから三本の射線が伸びる。
 十メートル程の距離を置いて対峙する絵里は、距離がある分レーザーを見極める余裕がある。
 大きくステップし、軽やかな動きでレーザーを避けた。
 同様のやり取りが何発分か続くと、絵里は口元に浮かべていた笑みを深めた。


絵里「凛のレーザーは遠距離だと武器を使うまでもなく避けられるって真姫が言ってたけど、その通りみたいね」


 目にレーザーの速度を慣れさせた絵里は、穂乃果たちに向かって猛然とダッシュした。

 凛はファンネル三機を操り、タイミングをずらした射撃で延々攻撃するも、素手のまま絵里は距離を詰めてくる。
 しかし射出位置からの距離が近づくと、流石に避けるので手一杯となった。
 五メートルを切ったかという距離間で絵里の前進は止まり、回避行動が多くなった。


穂乃果「喰らえー!」


 レーザー攻勢が続く中。
 絵里が穂乃果の武器であるモーニングスターの射程五メートルに入ったことで鉄球の攻撃も加わった。
 正面真上から素直な軌道で飛んできた鉄球を絵里は余裕をもって躱すも、その速度と威圧感に押されて数歩後退した。


絵里「これはさすがに怖いわね」


 口ぶりは不安げながらも、その緊張感を楽しむようにして、再度二人へと接近を図った。
235: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:39:59.14 ID:P/L9h53x.net
凛「当たれ当たれ当たれ当たれー!」

穂乃果「とりゃー!」


 間断なく飛び交うレーザー、その合間に飛来する鉄球。
 頭を狙うものをしゃがみ、腰を狙うものを体を翻し、脚を狙うものを跳んで躱す。
 常に動き続け、全ての攻撃を避けながら、絵里は三メートルの距離まで近づいてきた。
 口元からは笑みが消え、真剣な面立ちで躱すことに専念しつつも、被弾寸前にまで際どい躱し方になってきた。


絵里「流石に無理があるわね……」


 身体能力にものを言わせた接近に限界を感じ、回避を諦める。
 絵里は前方へと体を向けて、目を大きく開いた。


絵里「ならば見せてあげるわ、私の力を!」


 横移動による回避中心の動きから一転、絵里は真っ直ぐに前衛の穂乃果へと踏み込んだ。
 レーザーが真正面から絵里を捉える。
 だかレーザーが体に及ぶ前に、絵里の前方に展開した何物かが被弾を阻んだ。


絵里「喰らいなさい!」


 交差するようにして絵里の身を守っていた二本のそれは、左右に大きく開くと、巨大な拳を穂乃果に向けて叩きつけた。
236: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:41:50.59 ID:P/L9h53x.net
穂乃果「うわっ!?」


 真正面から絵里の攻撃を受けた穂乃果はそのまま後方へ吹き飛ばされ、凛の真横を通過して後ろ向きに倒れた。
 凛は穂乃果を守るために雄叫びを上げながらレーザーを繰り出すも、穂乃果に攻撃を仕掛けた拳が再び絵里の前面で交差する。

 宙に浮かぶ巨大な両腕が、さながら盾のようにして絵里の体を守っていた。


凛「穂乃果ちゃん平気!?」

穂乃果「大丈夫!」


 急いで立ち上がった穂乃果の頭上では、『8』の数字が灯っていた。


穂乃果「あれなんなの!?」

凛「わかんない! おっきな腕みたい!」


 立ち位置が前衛になっていた凛が後退するも、同時に絵里の突進が再開され、間合いは離れない。
 穂乃果は急いで武器の取っ手のボタンを操り、絵里の死角から鉄球をぶつけようとする。
 後方から迫る鉄球に反応した絵里は体を反転させると、ガードしていた腕の一つを大きく振るった。
 裏拳のような形で鉄球を弾き、被弾を許さない。


穂乃果「鉄球が弾かれた!?」

絵里「私の第二の両腕はね……強力なのよ」
 

 絵里自身の両腕とは別にもう一組、中空から垂れ下がった巨大な両腕。
 第二の両腕を体の横に従えながら、勝ち誇るように笑ってみせた。
237: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:43:58.59 ID:P/L9h53x.net
絵里「私の武器は見ての通り、この両腕よ。私の意のままに動く、素晴らしい武器ね」


 絵里の肩の上あたりから出現している巨大な両腕。
 水色がかり、筋肉質な腕の太さは人間離れしていて、一般人の5倍程の太さがある。
 腕の長さは横幅程のサイズ感はないが、それでも一メートルは優に超えていよう。
 よく見ると、水色の両腕は薄らと透けて見えた。


凛「腕…………その大きな腕が、絵里ちゃんの武器なんだ」

絵里「ええ、そう。《スターエリチカ》よ!」

穂乃果「……は?」

絵里「《スターエリチカ》っていう名前なの。真姫が名付けてくれたわ」

凛「ん?」

絵里「『スタンド』のもじりらしいわ。わかる人にはわかるって言ってた」

穂乃果「なにそれ? 絵里ちゃんわかるの?」

絵里「さあ、知らない。でもいい名前でしょ? 《スターエリチカ》って」

「わっ!?!?」

絵里「なにか言った?」

穂乃果「?」


 真面目な顔してドヤられるも、どう反応してよいものかわからない。
 二人の頭上には半透明のクエスチョンマークが浮かんでいるようだった。
238: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:46:09.35 ID:P/L9h53x.net
穂乃果「えっと……とにかく、あの両腕を掻い潜って、絵里ちゃんに攻撃当てないといけないんだね」

絵里「そうよ。《スターエリチカ》の防御を掻い潜ってみなさい」

凛「ファンネルのレーザーも、穂乃果ちゃんの鉄球も、腕に防がれちゃうもんね」

絵里「私の《スターエリチカ》が防いで見せるわ」

穂乃果「…………うん、そうだね……………………えっと……す、《スターエリチカ》……?」

絵里「ハラショーよ穂乃果! 名前を言ってくれてありがとう!」


 急激にテンションを上げた絵里は自身の両腕を腰に構える。
 それに連動した動きで、絵里の武器である巨大な両腕も腰の横に構えを取った。


絵里「喰らいなさい! 私の《スターエリチカ》ラッシュを!」


 絵里が数歩近づくと、穂乃果と凛は両腕の射程に及ぶ形となり、巨大な拳に襲われた。

 凛は咄嗟にファンネル一機ずつを自身と穂乃果の前に移動させた。
 絵里の右腕が凛の前を、左腕が穂乃果の前を飛ぶファンネルごと殴り飛ばし、二人揃って後方に転がった。
239: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:50:09.42 ID:P/L9h53x.net
穂乃果「いった! でも痛くない! 堅そうな機械が鼻に刺さったのに痛くない!」

凛「頭の上に数字が出てない……防げた!」

穂乃果「ナイス凛ちゃんファンネルクッション! 堅かったけど!」

絵里「ホラ、ホラホラ、ホラホラホラホラァ! 何度でも殴りかかるわ!」


 宣言通り、巨腕二本は更なる追撃をしかけんと、絵里の動きに連動して高く持ち上がった。

 穂乃果と凛はたまらず後退した。
 追ってくる絵里に向けて穂乃果は一度鉄球を仕掛けるも、今度もまた絵里の拳に撃ち落されてしまう。
 凛は逃げながらではファンネルの操作が覚束ない。
 まともな反撃ができないまま、逃げる二人と追う一人は三階の南西階段付近にやってきた。

 穂乃果と凛が階段側に逃げると同時。
 階段側から人影が飛び出してきた。

 驚いて足を止める二人の間を人影はすり抜けていく。
 逃げる足を止めた穂乃果たちの背に向かって繰り出さんとしていた絵里の拳を、真っ向からぶん殴った。
 大きな衝突音と共に二つの武器は互いを弾き合い、被弾を防いだ。


絵里「…………やるわね、亜里沙」

亜里沙「…………お姉ちゃん。私は、海未さんを守る!」
240: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:53:37.26 ID:P/L9h53x.net
『3F 南西階段』 希・亜里沙


 絵里の武器である《スターエリチカ》が姿を現し、南西階段の陰から戦闘を見ていた希はその姿に慄いた。


希(なんなんあの太い腕……あんなんでエキシビジョンじゃ殴られたん?)

希(要所で飛び出て形勢を変えようと思っとったけど、アレ相手じゃウチなんもできひんやん)

希(どないしよ)


 劣勢になる穂乃果たちを階段の角から覗いていると、後方からにゅっと首が伸びてきて、希同様廊下を覗き込んだ。


亜里沙「穂乃果さんと凛さんが戦ってますね……」

希「わっ!?!?」


 不意打ちに思わず大声を出してしまい、慌てて首を引っ込めて両手で口を押えた。
241: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:55:12.11 ID:P/L9h53x.net
亜里沙「どうも、希さん」

希「亜里沙ちゃん!? 脅かさんといて!」

亜里沙「希さんは様子見ですか?」

希「……そうだよ。いいところで駆けつけようかなって思ってたんやけど、あれが相手じゃ……」

亜里沙「お姉ちゃん……凄い腕……」


 廊下での戦いを覗きながら、亜里沙はハンマーを握る両手に力を入れた。

 二人して絵里たちの戦闘を見ていると、穂乃果と凛が希たちの方へと逃げてきた。
 希は絵里に追われることを避けるために迷わず階下へ降りようとした。
 逆に亜里沙は、迷わず廊下へと身を投げ出していた。
 味方へと迫る絵里の巨腕をハンマーで防ぎ、戦線の最前線の位置に乗り出した。


亜里沙「…………お姉ちゃん。私は、海未さんを守る!」
242: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 20:58:32.70 ID:P/L9h53x.net
『3F 南西階段』 穂乃果・凛・希・亜里沙 対 絵里・にこ


絵里「……あら、亜里沙だけじゃなくて、よく見たら希までいるじゃないの」

穂乃果「亜里沙ちゃん! 希ちゃん!」

希「いやー陰から見てたんやけどね。出るタイミング逃してたら、亜里沙ちゃんに先越されたよ」

亜里沙「お姉ちゃん、ライブなんてやめようよ!」

絵里「……できないわ。海未の心労を考えると、これ以上責任を負わせられないもの」

亜里沙「じゃあこれ以上海未さんの体に負担かけてもいいの!?」

絵里「そうじゃない! でも、もっとよく考えてみたら、ライブを強行することこそ海未のためになるはずなのよ!」

亜里沙「私、そんなのわからない……わからないよ!」


 亜里沙は《10tハンマー》を振るい、絵里の武器である巨大な左腕ごと絵里本体を叩こうと試みた。
 絵里は左腕で受け止めるも、猛烈なハンマーの威力に巨大な左腕がギシギシと軋んだ。
 右足を踏ん張ってその場に踏み止まる。

 ガード越しの攻撃に耐えたと思いきや、次はハンマーを横殴りに振ってきた。
 先程よりガードの位置を下げた形で受けたことで力が入らず、十分に受け止められないまま数歩押し退けられた。


絵里「……私の巨腕を押し込むなんて……流石ね、亜里沙」

亜里沙「お姉ちゃんには負けないよ!」
243: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:00:42.74 ID:P/L9h53x.net
穂乃果「凄い、亜里沙ちゃん…………私じゃ相手にならなかった絵里ちゃんを押してる」

凛「凄いよっ! よーし、凛も援護だー!」

穂乃果「……私だって……もっと、頑張らなきゃいけないのに……っ!」

凛「いけー!」


 各自それぞれの動きを見せながら戦況は動いた。

 最前線に立つ亜里沙は絵里に挑みかかる。
 凛は亜里沙に被弾しないよう注意しながらレーザーを放つ。

 絵里と凛との距離は五メートル以上離れていたために、レーザーを躱したり巨腕で防ぐことは容易だったが、その分動きが制限される。
 行動に制限がかかったところに亜里沙が迫り、力任せのハンマーが容赦なく絵里の巨腕を揺すった。


絵里「くっ……!」

亜里沙「えいっ! やあっ! はあっ!」

凛「いけいけー!」


 突如、絢瀬姉妹の殴り合いの脇を抜け、灰色のマスクが前線に飛び出した。


にこ「……………………苦戦してるじゃないの」


 絵里の後方で待機していたにこが、亜里沙と凛たちの間に割り込んできた。

 コントローラーを手繰っていた凛は思わずギョッとする。
 自慢の愛らしい顔を無骨な灰色のマスクで覆っている姿に気付き、最後方にいた希が叫んだ。


希「凛ちゃん穂乃果ちゃん逃げて!」


 直後、にこが持つチューブから噴出された催涙ガスが、階段付近にいた凛、穂乃果、希を襲った。
244: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:04:02.73 ID:P/L9h53x.net
凛「あっ痛い! 目が痛い!」

穂乃果「ゲーム中痛くないんじゃないの!? なんでにこちゃんの武器はいっつも目が痛いの!?」

希「にこっちの武器はきっとそういうヤツなんよ! ゲホッゲホッ!」

にこ「ほらどんどん行くわよー!」


 にこは一気にガスを撒き散らすのではなく、断続的にガスを出してはその都度階段側へと迫っていった。
 凛たちはガスの噴出と共に後退を余儀なくされる。
 凛の援護がなくなった亜里沙は絵里との互角の打ち合いになるも、合間を見つけて、背後に立つにこに襲いかかった。


亜里沙「とりゃー!」

にこ「おっと!」


 大振りな攻撃をにこが躱すと、すかさず絵里が亜里沙に攻め入り、にこへの追撃を阻止する。
 絵里の援護で自由になったにこは、更に階段側へと進軍していった。
245: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:05:35.00 ID:P/L9h53x.net
希「凛ちゃん穂乃果ちゃん、一旦ここは退くよ!」

凛「ゲホッ! でも亜里沙ちゃん、ゲホッ、亜里沙ちゃんがっ!」

亜里沙「私は一人で大丈夫です!」


 階段での会話を耳にした亜里沙が叫ぶ。
 最後方の位置で亜里沙の叫びを聞いた希は、一番前でガスに苦しんでいる凛の位置を確認。
 目を瞑り、口を覆って、白煙の中に飛び込んだ。
 ガスにやられて行き場を見失っていた凛の手を取り、階下へと誘導しながら叫ぶ。


希「凛ちゃんコントローラー操作して! ファンネルちゃんとついてこさせて!」

凛「えっふ! わかった、ゲホッ!」


 咳と涙に苦しめられながら、なんとか三人はその場を後にすることができた。

 マスク越しの狭い視界から希たちが階段を下りて離脱したことを確認する。
 にこはガスの噴出を止め、マスクを頭上へと押し上げた。
246: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:09:47.09 ID:P/L9h53x.net
 にこの背後では絵里と亜里沙が大型武器同士による殴り合いを続けている。
 しかし合間合間に亜里沙はにこへと視線を飛ばしており、襲いかかる機会を計られていると感じた。


にこ「絵里」

絵里「なに!?」

にこ「位置関係的には亜里沙ちゃん挟み込んでるけど、こっちに攻め込まれたら私じゃ対処できないんだけど」

絵里「いいわ、亜里沙が一人でやるっていうなら私も同じよ。にこは行ってちょうだい」

にこ「そうするわ。ガスも出なくなっちゃってサポートもできないし、補充されるまで待たないといけないもの」

絵里「援護ありがと!」


 絵里が亜里沙との武器の応酬に専念したと見て、にこは戦闘の場から離れた。
 背後を伺っていた亜里沙もにこが去ったことを確認し、今度こそ姉に対して全意識を向けた。


絵里「さあ……海未と私たちの今後を賭けた、姉妹喧嘩よ。責任は海未に取ってもらおうかしら」

亜里沙「負けないよ!」


【穂乃果HP:10→8】
247: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:14:09.66 ID:P/L9h53x.net
―――

『2F 南西階段』 穂乃果・凛・希


 にこの武器である催涙ガスに追いやられ、絵里と亜里沙の戦線から離脱した三人は、一つ下の二階に逃げ込んだ。
 ガスの刺激に耐えながら階上を確認し、にこの追撃が止まったことに安心する。


希「凛ちゃん、もう平気?」

凛「うん、咳も収まってきたし、目も痛くなくなってきたよ」


 ガスをまともに浴びた凛の無事を希が確認している間、穂乃果は二階の廊下を見渡していた。
 すると、二階南廊下の中央に面する『2F大教室』の中から、超巨大ローラーが廊下に出てくるところだった。


穂乃果「わあああああ! 花陽ちゃんきた!」

花陽「あ、穂乃果ちゃん。それに凛ちゃんと希ちゃんも」


 立て続けに敵と遭遇したことで希たちの狼狽は再び蘇る。
 希は数の優位を一瞬考えたが、ガスを浴びた直後であること、そしてローラーへの攻撃手段が無いことから、安全策を取った。


希「一旦逃げるよ! 下や!」


 希のかけ声に応じて穂乃果を先頭に再び階段を降りる。
 穂乃果の後を凛が、そしてまだ少し足取りが覚束ない凛に付き添って希が続く。
 更に後を追って、花陽と超巨大ローラーが階下へと急いだ。
248: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:15:34.60 ID:P/L9h53x.net
『1F 南西階段』 穂乃果・凛・希 対 花陽・真姫


穂乃果「わっ今度は真姫ちゃん!?」

真姫「! 穂乃果っ!」


 先頭を行く穂乃果は南西階段を降りた先、直線上の西側廊下ではなく右手に曲がる南側廊下へ飛び出した。
 しかし南側廊下では真姫が穂乃果の方へと歩いてくるところで、危うく鉢合わせするところだった。

 穂乃果は急いで足を止めて方向転換し、西側廊下へと急ぐ。
 当然真姫も後を追うが、穂乃果を追って西側廊下へと走った後に、南西階段から他にまだ降りてくる人影を認めた。


真姫「希に凛まで!」

凛「今度は真姫ちゃんにゃー!」

希「マズイっ……!」


 西側廊下から続く『体育館』フィールドへと曲がった穂乃果を追うか迷うも、真姫はその場で一度足を止める。
 階段からは凛と希の他に、花陽が操る超巨大ローラーの移動音が聞こえてきたためだった。


真姫(挟み撃ちにできるけど、今凛たちに攻撃をしかけると後からやってくる花陽に押し潰されかねない)

真姫(だけど穂乃果が逃げた方の廊下に立っていれば、凛たちは別の方向に逃げて、相手チームを分断できる!)


 凛と希を威嚇するように鎌を大上段に構えると、予想通り二人は真姫のいない南側廊下へと逃げた。
 勢力の分断を図った真姫はニヤリと笑みを浮かべた。
250: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:18:12.95 ID:P/L9h53x.net
 希と凛に続いて階段を下りてきた花陽は、正面に真姫が立っていることに気付いた。


花陽「あれっ、真姫ちゃんもいたんだ」

真姫「凛と希はあっちに行ったわよ」

花陽「わかった、ありがとう! 真姫ちゃんは負わないの?」

真姫「花陽の前を走ったら潰されちゃうかもしれないでしょ。あっちの二人は任せるわ」

花陽「うん、じゃあ追いかけるね」


 階段を降りてきた花陽に指示を出し、凛たちの後を追わせる。
 花陽の背を見送ってから、真姫は鎌を構えつつ、体育館へと続く曲がり角へ向かった。
 角を曲がったすぐ先で穂乃果が待ち構えてはいないことを確認して、そのまま体育館の出入り口へ。

 体育館の中では、広いスペースの中央で穂乃果が待ち構えていた。


真姫「逃げないのね」

穂乃果「…………逃げないよ。絶対に、海未ちゃんを守るんだから」

真姫「まるで私たちが海未を責めてるみたいな言い草じゃない。むしろ海未が自分を責めないよう頑張ってるのに」
251: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:19:21.94 ID:P/L9h53x.net
穂乃果「真姫ちゃんの言うこともわかるし、本気だってこともわかった」

穂乃果「だけど、やっぱり同意はできない」


 穂乃果は取っ手を握る手に力を込めた。
 加速器の作動ボタンの位置を指で確認する。


穂乃果「私は一回ライブで倒れてるから、無理をしちゃった海未ちゃんの気持ちがわかる」

穂乃果「この後海未ちゃんが元気になったら、自分のせいでライブが中止になったって自分を責めるかもしれない」

穂乃果「でも今はとにかく海未ちゃんの安静を大事にしたいよ!」

穂乃果「元気になって、自分を責める余裕が出てきたら、そのときに海未ちゃんを支えるよ」

穂乃果「それまで、元気になるまでは、私は海未ちゃんに無理をさせない!」

真姫「…………やっぱりあなたたち幼馴染みは、なによりも海未が大切なのね」


 真姫は視線を鋭くさせると、大鎌を肩に構えて臨戦態勢を取った。


真姫「私だって、半端な気持ちでやってない。だから容赦はしないわ」

穂乃果「わかってるよ。私だって、遠慮しないから」


 真姫が駆けだすと同時、穂乃果の操る鉄球の加速器が点火された。
252: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:22:17.64 ID:P/L9h53x.net
『体育館』 穂乃果 対 真姫


 エキシビジョンマッチで真姫に倒されて以降、穂乃果はずっと疑問を抱いていた。


穂乃果(どうして真姫ちゃんはこんなに動けるんだろ……)


 今もまた、穂乃果が飛ばした鉄球を華麗に躱し、流れのままに二度三度と斬りつけてくる。

 真姫の武器である大鎌《デスサイズ》は刃渡りの直径だけで1メートルを超している。
 刃物という使い勝手の良い武器であっても、それだけ身の丈の大きいものを、こうも自在に操れるものなのか。


穂乃果(真姫ちゃんは武術の心得なんてないはず)

穂乃果(海未ちゃんとかならまだわかるけど、真姫ちゃんがこんなに動けるのはどうして?)


 エキシビジョンマッチの内容をチームプレイヤーから聞いた際にも、多くが真姫にやられたと言っていた。
 素人にはとても見えない程に流麗な鎌捌きで、舞うように体を移動させ、斬りつける一閃は鋭い。
 どうしてそこまでできるんだろう?


穂乃果(例え武術の心得とかあっても、こんな動き、普通できないはずだよ)

穂乃果(じゃあどうして……どうして真姫ちゃんはこんなに動けるの!?)


 消えぬ疑問を抱えたままの穂乃果に、真姫の刃は容赦なく襲いかかった。
253: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:25:26.26 ID:P/L9h53x.net
真姫「どうしたのよ! 動きが鈍いんじゃないの!?」

穂乃果「っ!」

真姫「せっかく強そうな武器持ってるんだから、もっとちゃんと使えばいいじゃない!」

穂乃果「たあっ!」


 真姫の繰り出す剣閃の隙間を縫って鉄球を飛ばすも、また避けられてしまう。


穂乃果(なんでっ……! 鉄球の速度は遅くないのに!)

真姫「遅い遅い!」


 真姫は鉄球から伸びる鎖を左手で掴むと、鉄球の飛ぶ方向とは別の向きに思いきり引っ張った。

 鎖を引っ張られたことで鉄球の軌道が滅茶苦茶になり、更には鎖と繋がる取っ手を手離しそうになる。
 穂乃果が慌てて腕を伸ばしたところに真姫が迫る。
 前に伸びた右腕を大鎌で狙われた。

 黒い刃から逃れるためにため、穂乃果は取っ手から手を離して腕を引っ込める。
 しかし武器を手放すのは悪手だとすぐに察した。


真姫「やっちゃったわね」

穂乃果「しまった……」


 鎖を掴んでいた真姫は取っ手ごと後方に投げ捨てると、無防備になった穂乃果へと容赦なく襲いかかった。
254: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:27:36.06 ID:P/L9h53x.net
穂乃果(アレがないと、なにもできない……!)


 未だ扱いきれぬモーニングスター。
 しかしこれを使わなければ、自分たち意向は叶えられない。
 守ろうとした幼馴染みを守ることができない。


穂乃果「…………うああああ!」


 自身の下へ迫る真姫に向かって、穂乃果もまた駆け出した。

 素手のまま迫ってくるとは想定しなかった真姫だが、問題はないとばかりに刃を振り下ろす。
 穂乃果は刃を避けることなく、両手と肩口で真っ向から受け止めた。


真姫「……嘘でしょ!?」

穂乃果「たあーっ!」


 肩口から体内へ深々と突き刺さる切っ先を、穂乃果は素手のまま引き抜く。
 そのまま思いきり横に振り回した。

 大鎌の柄を握る真姫も横へと飛ばされるも、辛うじて体勢を保つ。
 その隙に穂乃果は真姫の脇を通り抜け、自前の武器の取っ手を掴んだ。


穂乃果(やらなきゃ…………これで、やらなきゃ!)


 後方からはすかさず真姫が迫ってきた。
255: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:29:18.47 ID:P/L9h53x.net
 武器を取り返した穂乃果は即座に加速器を点火させた。

 鉄球を操作しても、五メートル分の長さがある鎖の距離を手元まで移動させるまでに時間がかかる。
 真姫を迎撃するには間に合わないかもしれない。
 それでも、穂乃果の意思は変わらなかった。


穂乃果(ここでやらなきゃ! この武器でやらなきゃ! 海未ちゃんを守れない!)


 加速器が火を噴きながら穂乃果へと近づく。
 同時に、空いている左手で鎖を思いきり手元に引っ張った。
 加速器自体の移動だけでなく、鎖を引いた分縮まった距離が、真姫へと迫る時間を削った。


真姫「!?」


 想定よりも早く飛来した鉄球に驚き、真姫は鎌の側面をぶつけてどうにか防ぐ。
 舌打ちをしてから穂乃果に向き直る。
 だがそのときには既に、正面から鉄球の第二波が迫ってきていた。


真姫(次の攻撃が早い!)


 半ば転ぶような動作で体を折り、真姫の顔面を狙った鉄球を避けた。

 これまで鎖の射程の五メートルいっぱいに伸びた鉄球は、飛来するスパンは長かった。
 そのためいくら強力な武器とは言え、一度攻撃を躱すことに専念し、その後の大きな隙に乗じて攻撃に移ればよかった。
 しかし、今の第二波は即座に飛んできた。


真姫(今までと違う! どうして!?)


 これまでの攻防と一転した状況に、真姫の攻め手は一度途絶えた。
256: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:31:36.55 ID:P/L9h53x.net
 真姫の顔面を外した鉄球は、攻撃を外した直後にはもう方向転換を済ませていた。

 鉄球を避けながら、攻撃頻度の増した鉄球をよく観察してみる。
 よく見れば、方向転換中には加速器が起動していない。
 加速器ではなく、穂乃果自身が鎖を掴んだ腕を振り回し、強引に方向転換をさせていた。
 穂乃果が引っ張った鎖に応じて鉄球が方向転換を済ませてから、加速器は再度点火され、速度を増して真姫へと迫った。

 常時加速器を点火することで鎖いっぱい伸びた大きな軌道を描くのではない。
 ストップ&ゴーの要領で、小回りの利いた機敏な動きを可能としていた。

 鉄球は中空を半月状に弧を描くと、真姫を真上から押し潰そうと勢いよく迫る。
 真姫は真横に飛び、体を床に転げさせ、なんとか攻撃を避けた。
 上空から飛来した鉄球はそのまま体育館の床にめり込み、ようやく落ち着いた。


真姫「……穂乃果…………」

穂乃果「…………私、わかったよ」


 ジャラ ジャラ

 鎖の音がする。
 穂乃果は取っ手を左手に移すと、空いた右腕に鎖を何重にも巻きつけていた。


穂乃果「これがこの武器の…………私の、本当の戦い方なんだ」


【穂乃果HP:8→5】
257: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:34:23.25 ID:P/L9h53x.net
――――――――――

【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり HP:7
武器:ことりソード/威力1~5(威力2)
《手からことりソードが伸びる。
 発動時に「ちゅんちゅん」と叫ばなければならない。
 ことりソードのサイズ並びに威力は「ちゅんちゅん」発声具合に依存。基本威力値は2》

・高坂穂乃果 HP:5
武器:加速器付モーニングスター/威力4
《取っ手のボタンで鉄球に付いている加速器のON/OFFを操作可能。射程は5m程》

・星空凛 HP:10
武器:ファンネル×3/威力1
《小型のレーザー射出装置を手元のコントローラーで操作可能。
 ファンネルの操作は宙を自由に移動できるが、操作範囲はコントローラーから半径2m以内。レーザーの射程は15m程。
 各ファンネルは1秒に1度レーザー射出可能、回数制限は無し》

・東條希 HP:10
武器:10秒透明マント/威力0
《身に纏うと10秒間不可視化する。効果範囲は一人分。
 不可視化中も実体は存在し、攻撃は受けるが、不可視化しているプレイヤーからの攻撃及び接触は不可能。
 再使用まで1分の猶予あり》

・高坂雪穂 HP:10
武器:復活スイッチ/威力0
《一度だけリタイアした任意のプレイヤーを体力3の状態で復活させることができる。
 復活させるにはプレイヤーがリタイヤした場所付近でスイッチを押さなければ無効。
 復活スイッチ保持者にはリタイアしたプレイヤーの位置が把握できるようになる》

・絢瀬亜里沙 HP:10
武器:10tハンマー/威力5
《デカい。殴打面積直径1m、横2m、柄2,5m。実体は重いが柄を握れば振り回すことができる。本当の重量は不明》


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258: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:35:12.59 ID:P/L9h53x.net
――――――――――

【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP:10
武器:デスサイズ/威力3
《大鎌。刃の全長が1m、柄が1,5mと巨大かつ重量もあるが、操作は片手でも容易く、空気抵抗もほとんど無視することができる》

・絢瀬絵里 HP:10
武器:スターエリチカ/威力2
《巨腕が絵里の両肩付近から出現し、プレイヤーの腕に連動して動く。
 見た目は半透明の水色で筋肉質。太さは常人の5倍程で長さは1m超え》

・矢澤にこ HP:10
武器:催涙ガス噴出装置/威力0
《ボンベに繋がった射出口から強力な催涙ガスを噴射することができる。
 催涙ガスの効果は即効性がありほぼ行動不能状態に陥れることができるが、効果が薄れるのも早く10秒程度で行動可能となる。
 専用のマスク着用時のみ催涙ガスを無効化できる。
 ガスの噴出勢いはおおよそ消火器と同等。
 10秒ほどでボンベは空になり、時間経過と共に徐々に再装填される》

・小泉花陽 HP:10
武器:巨大ローラー/威力10
《ロードローラーに付属されているような巨大な鉄のローラーを重量を無視して手押しで移動させることができる。
 高さ1,5m程、横幅はゲームステージの横幅と同一。
 階段の移動は仕様により可能。幅の問題で通れない箇所もある。
 進行方向にしか押し進めることができず、反転及び後退は不可能》


――――――――――
259: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/23(木) 21:36:10.60 ID:P/L9h53x.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP5  加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP10 ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP10 10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP10 復活スイッチ/威力0
・絢瀬亜里沙 HP10 10tハンマー/威力5


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP10 デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP10 スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP10 催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


――――――――――
281: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 20:49:56.18 ID:wiVcyIHj.net
―――

『3F 南階段』 亜里沙 対 絵里


 断続的な衝突音が鳴り響く。


亜里沙「はあっ!」

絵里「ホラホラァ!」


 二人分の唸り声が絶えず飛び交う。

 三階の南側廊下で行われている絢瀬姉妹の一騎打ちは、一進一退を極めていた。

 戦場も変化せず、状況も変化せず、何度も殴り合う。
 片側が攻撃を仕掛ければもう片側が受け、お返しとばかりに反撃をすれば、その攻撃は避けられる。
 大型武器同士故に噛み合った戦いを見せるも、裏を返せば、一撃の応酬ばかりで互いに読みやすい攻防だった。

 ゲームの仕様で消費速度が抑えられたスタミナも徐々に削れ、ここにきて息が上がり始める。
 しかし攻撃の手を緩めれば即座に相手から攻め入られてしまう。
 二度三度殴り合い、その回数だけ衝撃音が鳴り響き、僅かに間が生まれる。
 延々と続きそうなやり取りを亜里沙と絵里は繰り返していた。

 戦闘開始から変化した点があるとすれば、それは一つ。
 絵里のHP表記は『10』。
 対する亜里沙のHP表記は、当初無傷だったのと異なり、今では『8』の数字が刻まれていた。
282: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 20:51:40.12 ID:wiVcyIHj.net
絵里「…………いい加減、粘らなくてもいいのよ」

亜里沙「お姉ちゃんこそ!」

絵里「このままじゃ埒が明かない、でしょっ!」


 言葉を交わしながら、絵里は右の巨腕を大きく横の軌道を描いて亜里沙に仕掛ける。


亜里沙「ふんっ! じゃあお姉ちゃんが負けちゃえばいいんだよ! てぇい!」


 亜里沙は最小限のハンマーの動きで右腕を受け流すと、真正面から絵里を押し潰すように突進した。

 頭上より振り下ろされた鉄塊を絵里は左腕の拳で横合いに殴ると、軌道が変わったハンマーが脇を空振る。
 上半身ががら空きになった亜里沙に向かって右のストレートを伸ばすが、直前になって手を止めた。


亜里沙「とりゃー!」

絵里「おっと!」


 防御を捨て、一度攻撃が外れたハンマーをそのまま横殴りにぶつけようとしてきたことに気付いた。
 相撃ち狙いの攻撃を読んだ絵里は後方に跳び退き、事無きを得た。


絵里「相撃ちだと武器の威力の差でこっちが不利益を被るものね」

亜里沙「ちょっとくらいサービスしたっていいんだよ?」

絵里「駄目よ。今は真剣勝負なんだから、ね」

亜里沙「お姉ちゃん厳しい!」
283: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 20:54:06.97 ID:wiVcyIHj.net
絵里「……ねえ亜里沙、一つだけ聞いていいかしら」

亜里沙「……なに?」


 戦闘中の問いかけに亜里沙は警戒するも、構えていたハンマーの高さを少し下ろした。


絵里「どうして亜里沙はライブをしない側についたの?」

亜里沙「当然だよ。海未さんにこれ以上苦しんで欲しくないもん」

絵里「けど、前に少しだけ話したでしょう? ライブを中止するのもそれはそれで海未を苦しめるのよ」

亜里沙「どっちも同じ苦しめるなら、今は体調を崩した海未さんの体を心配してあげるべきだよ!」

絵里「その主張だって十分納得できる。けどね、それは本当に海未の為になるの?」

亜里沙「……なにが言いたいの?」

絵里「海未の体が心配なら、私たちがライブをするとしても、海未を舞台に立たせなければいいじゃない」

絵里「海未を休ませた上で、海未がいない舞台でも十分なパフォーマンスを見せて観客を納得させれば問題ないわ」

絵里「そうすれば体を休ませられるし、なにも気に病むことも無い」

絵里「海未が倒れたからと言ってライブの中止もなければ、パフォーマンスの低下もないんだから」

絵里「これがベストの選択じゃない?」
284: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 20:56:29.05 ID:wiVcyIHj.net
亜里沙「…………お姉ちゃんの話を聞いて、よくわかったよ」

絵里「そう? 理解してくれた?」

亜里沙「ううん、違うよ。その逆」

亜里沙「お姉ちゃんは海未さんのことを考えてるっていうけど、やっぱり考えてない」

絵里「……どういうことよ」

亜里沙「一人足りない舞台でも成功できたら、倒れたことで迷惑をかけたことは後悔しないかもしれない」

亜里沙「だけど自分がいないライブが成功しても、それって本当に嬉しいの?」

絵里「……それは…………」

亜里沙「私だったら嫌! もしも私がいなくても他のみんなだけで全部成り立つようなら、絶対寂しくなっちゃう!」

亜里沙「みんなの成功を喜びたいけど、本心じゃ寂しさが残るよ!」

亜里沙「海未さんは優しいから、表では我慢して、みんなの成功を祝って……だけど裏では悲しんでる!」

亜里沙「お姉ちゃんはそういうことを考えられてない!」


 亜里沙は一度下げたハンマーを、再度高く掲げた。


亜里沙「それに……私は、μ'sのファンだもん」

亜里沙「私が見たいμ'sは……海未さんのいないμ'sは、μ'sじゃない!」
285: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 20:58:08.52 ID:wiVcyIHj.net
絵里「…………そう。わかったわ」


 絵里もまた、下ろしていた両腕を構え直し、ファイティングポーズを取った。


絵里「亜里沙の言い分は、正しいものに聞こえる。けれど、私たちの主張だって、間違ってない」

絵里「それにね、やっぱり私は演者の立場だもの」

絵里「やるかやらないかで言えば、ライブはしたいのよ」

亜里沙「……当然だと思うよ。お姉ちゃんは、私とは立場が違うから」

絵里「わかってくれるのね」

亜里沙「わかるよ。私も、お姉ちゃんも、譲れない」

絵里「そうね。だからやっぱり、こうするしかないのね……!」


 戦闘再開の合図とばかり、絵里は亜里沙の構えるハンマー目がけて拳をゆっくりと突き出した。
 亜里沙も応じてハンマーで巨腕を軽く叩き、再戦のゴング代わりとした。

 亜里沙はダイナミックな動きでその場で一回転し、遠心力のままにハンマーを振り回した。
 勢いよく迫るハンマーを、絵里は右の拳で正面から殴り返す。

 瞬間、拳に違和感を覚えた。


絵里(!? 今、右の拳が……)


 力負けして受け止めきれなかったハンマーを躱しつつ後方に跳んだ。
 瞬間的に過った違和感の正体を調べるため、武器の右拳を確認しようとする。

 だがその確認は、背後から迫る地鳴り音を耳にしたことで中断された。


【亜里沙HP:10→8】
286: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 20:59:39.78 ID:wiVcyIHj.net
―――

『一階 北廊下』 希・凛 対 花陽


凛「かよちん止まってよー!」

花陽「駄目だよ、凛ちゃんたち倒さないと」

希「ウチら追いかけても良いことなんてあらへんよ!」

花陽「このまま追いかけていれば二人を潰せて良いことだらけだよ」


 穂乃果と別れた希と凛は、花陽の超巨大ローラーから近距離で追われながらどうにか押し潰されずにいた。
 一階から二階に上がり、廊下を一周巡ってから一階に戻る、その繰り返し。
 階段での移動を挟んでも中々花陽を振り切ることができず、ローラーの地鳴り音がいい加減うるさく感じてきた。


凛「希ちゃんどうしよう振り切れないよー!」

希「階段移動のときに少しだけ距離開くとはいえ、花陽ちゃんも階段に慣れてきたみたいやしなあ」

凛「このままじゃ潰されちゃうよう!」

希「せやね、なんとかせな……」
287: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:05:28.76 ID:wiVcyIHj.net
 廊下を走りながら凛は後方に向けてファンネルのレーザーを飛ばす。
 しかし当然のようにローラーに弾かれ、花陽までダメージが通る予兆などまるで感じさせない。


凛「あのローラー怖すぎだよー!」

希「ガラッガラうるさいし、後ろから空気圧みたいなの感じるし、威嚇されてるみたいやん」


 軽口を叩きつつも、走り続けていることで徐々に疲労感を覚え始めており、余裕はなくなってきている。
 一階を一周し、二人は無言の意志疎通で北階段を駆け上がる。
 すかさずローラーのガリガリという音が階段をのし上がってきた。


凛「階段移動がまたスムーズになってるー!」

希「……あ、そうや」

凛「なにか思いついたの!?」

希「思いついたんよ。このまま三階まで上がろっか」


 二人はそのまま階段を上がって三階へ。
 当然花陽もその後に続く。


凛「希ちゃんどうするのー!?」

希「ま、物は試しだよ。上手くいけば花陽ちゃん振り切れるかもしれへんよ?」


 三階に上がった希たちはローラーを従えた形で角を何度か曲がる。
 すると前方に、向かい合う二人分の人影が目に映った。
 走る勢いを止めぬまま、希たちは対峙する人影を目指して走った。
288: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:07:49.63 ID:wiVcyIHj.net
『3F 南階段』 亜里沙・希・凛 対 絵里・花陽


 絵里は右拳に生じた違和感を確かめるのを止め、後方へと目を向けた。
 すると、対面からこちらへと駆けてくる希と凛が。
 そしてすぐ後ろに花陽の超巨大ローラーが迫ってきていた。


絵里「希!?」

希「ビンゴ!」


 したり顔を見せた希は武器であるマントを肩にかけると、即座に不可視化を発動させた。


絵里(花陽から逃げるため私を盾にするつもり!?)


 走るだけでは振りきれない花陽でも、味方を巻き込んでしまいそうになれば足を止めるはず。
 そうした思惑の下、姿を消したまま絵里を素通りしようという魂胆だろう。
 事実、不可視化されては希を捉えられない。
 絵里はがむしゃらに巨腕を振るうも、一向に手応えを感じられなかった。


凛「隙ありにゃー!」


 見えない希相手に巨腕を振っていると、もう一人走ってきていた凛のレーザーが襲った。
 片腕で一発ずつ防ぐも、三機目のレーザーが絵里に被弾。
 全身に痺れを感じて身を強張らせ、その間に凛に脇を通過された。


絵里「くっ……! 花陽! 止まって!」

花陽「うん!」


 絵里は希と凛の通過を許し、花陽は絵里を轢かないようローラーの進行を止めた。
289: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:10:35.93 ID:wiVcyIHj.net
希「ふう。作戦通りやね」


 マントの不可視化の効果が切れ、希が亜里沙の後ろに姿を表した。


凛「希ちゃん凄いよ! 本当にかよちんから逃げ切った!」

希「まだそこにおるから逃げ切ってはないんやけどね。ごめんね亜里沙ちゃん、姉妹喧嘩の邪魔しちゃった」

亜里沙「大丈夫です! ずっと膠着状態だったので」


 南廊下には、西側から希・凛・亜里沙、少し距離を取って絵里・花陽の構図で並んでいる。
 当初この場で勃発した絢瀬姉妹の戦闘開始直後と似た混戦模様だが、先程とは情勢が異なっていた。


凛「いっけー!」

亜里沙「お姉ちゃんいくよ!」


 前衛亜里沙、後衛凛のポジショニングで絵里に迫る二人。
 対する絵里は、にこの助力を仰いで敵勢を分断できない。
 それどころかすぐ後ろを花陽のローラーが阻んでいるため、まともに後退すらできなかった。


絵里「マズイ……!」


 亜里沙との攻防ですら互角だったところに凛の援護が加わる。
 武器の威力値から見て、優先的に亜里沙のハンマーを喰らわないことを意識するも、その分隙はできる。
 殴り合いが再開された直後、早々に二発目のレーザーを身に受けてしまった。
290: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:14:15.91 ID:wiVcyIHj.net
絵里「っつ!」


 先程までの足を止めた殴り合いから転じて、フットワークを使用した避けの動きに変える。
 だが亜里沙の強烈な一撃は足を踏ん張らずには受け止められず、その瞬間だけは足が止まる。
 そこを執拗に凛のレーザーから狙われた。


凛「それそれそれーい!」

絵里「邪魔よレーザー!」


 悪態をつこうにも波状攻撃は止まず。
 レーザーを叩き落としていたら、ハンマーへの対処が疎かになるという悪循環。
 亜里沙が飛び上がり、頭上に高々と振り上げたハンマーが絵里の脳天を狙っていた。


亜里沙「当たってー!」

絵里「きゃー!?」


 ズゴン! 

 床にめり込んだハンマーを鼻先寸前で躱す。
 ハンマーの威力に気圧され思わず動きを止めたところ、側頭部に思いきりレーザーの痺れを感じた。
291: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:16:14.59 ID:wiVcyIHj.net
絵里「ああああああっ!? ったくなによこのレーザー、痛くないけど痺れるじゃない!」

凛「へへーん!」


 痺れに耐え、頭上に『7』を表示させながら体勢を立て直し追撃を躱すも、状況はよくないまま。
 このままでは一方的に嬲られるだけ。

 ジリ貧の現状を打破するため、賭けに出ることを決めた。


絵里「花陽!」

花陽「え?」

絵里「後ろで見てるだけじゃ退屈でしょ!?」

花陽「うん、確かに、進むと絵里ちゃんを轢いちゃうからなにもできないけど……」

絵里「構わないわ、前に進んじゃって! でも本当に私を轢かないでよ?」


 絵里は巨腕二つの肘を畳み、体をガードするように前方に寄せ、両腕をぴったりとくっつけた。


絵里「行くわよ花陽!」

花陽「うん!」


 合図と共に二人は突進した。
292: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:18:24.98 ID:wiVcyIHj.net
 例の如く絵里を迎撃しようと構えた亜里沙だが、ほぼ同時にローラーが迫ってきてるのを見て恐怖した。


亜里沙「ぅわあっ!?」


 迫る絵里を殴りつけるのも適当なままに、絵里と並走してローラーから逃げる形になる。
 亜里沙が下がれば当然凛も後退する。
 そして最後尾に位置する希も。

 花陽のローラーに押し込まれる形で五人は南西廊下の曲がり角に差し掛かった。
 絢瀬姉妹の戦線に乱入するまで延々と階段移動を繰り返していた希と凛は、今度もまた同様に南西階段へと逃げる。
 対して亜里沙は廊下を右に曲がり、西側の廊下へと逃げた。


絵里「花陽止まって!」


 分かれ道である階段の前に来た絵里は、一度花陽の進攻を押し止める。
 分断した敵勢を確認。
 階段を下りる二人、廊下を走る一人を見比べてから、再度指示を出した。


絵里「階段よ!」
293: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:21:03.02 ID:wiVcyIHj.net
 絵里の指示を皮切りに、西側廊下に逃げた亜里沙を除いた四人が同時に動いた。

 南西階段を先頭に立って駆け下りる希は凛に指示を飛ばした。


希「凛ちゃんこのまま階段下りて!」

凛「え!? 希ちゃんは!?」


 問いの確認を取る前に、階段の手摺りを飛び越えた絵里がすぐ後方に着地する音が聞こえた。
 距離を詰められたことに動転した凛は、希の指示のままに一階へと階段を急いだ。

 一方の希は二階まで降りると、凛と別経路を選び、右に曲がって二階南側廊下を走った。
 絵里、そしてその指示を受ける花陽は、廊下に出て共に希を追う。


絵里(私と亜里沙の戦いに花陽ごと飛び込んできたのは、きっと希の戦略)

絵里(私を盾代わり使って花陽のローラーから逃げ切る算段だったはず。そしてそれはほぼ成功した)

絵里(希の武器に攻撃力が無いからって侮っていたけど、それは間違いだった)

絵里(敵を倒すなら、まずは司令塔から!)


 絵里は狙いを希に絞り、最優先に叩くつもりでその背を追う。

 対して、終われる希は内心ほくそ笑んでいた。


希(計画通りやん!)
294: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:22:33.64 ID:wiVcyIHj.net
希「えりち!」


 三人が並ぶ南側廊下の先頭を走りながら、希が声を飛ばす。


希「いい加減疲れたやろ! 一旦鬼ごっこやめにせえへん!?」

絵里「そうね、いいアイディアだけど、今は認められないわ!」

希「言うてもえりち、まともな考えが出来ひんほど疲れとるやん! 無理せん方がええって!」

絵里「まともな考えが出来ないってどういうことよ! むしろ思い通りに追い詰めてるわ!」

希「どうだかなあー」

絵里「私と希の足の速さならそのうち追いつくもの!」

希「でもその前に、三択問題の時間です」


 クスクスと笑い、背後を振り返る余裕さえ見せつける。
 希は前方、南東の曲がり角を指さした。


希「えりちには三分の二を当てられるかなー?」
295: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:24:16.06 ID:wiVcyIHj.net
希「問題です。この先は南東の角。なにがある?」

絵里「なによ!」

希「答えはたくさんの分かれ道や!」


 この先に待つのは、左の曲がり角と、右の階段。
 更に現在地点が二階であるため、階段は上と下どちらにも通じていた。


絵里「……あっ!?」

希「さてさて、ウチは果たしてどこに逃げるやろね?」


 別れ道に到達したと同時に希はマントを羽織ると、不可視化の効果を発動。
 絵里の目の前で希の姿は消えてしまった。


絵里(しまった……っ! 希を追うのはいいけど、希が一番逃げやすい武器を持っていたんだった!)


 後悔先に立たず、希の言う三択問題であるところの南東の別れ道にきてしまった。


花陽「絵里ちゃん、どこに行こう!?」


 花陽の催促を受けるも、まるで見当がつかない。
 運に任せるしかなかった。
296: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 21:26:30.99 ID:wiVcyIHj.net
絵里「……! 花陽はこのまま二階を回って!」


 花陽に指示を飛ばし、絵里は階段を三階に向かって駆け上がる。
 三階の廊下に飛び出し、しばらく二方向の廊下を見渡すも、人影は一向に表れなかった。


絵里「やられた…………花陽は!?」


 二階を回るよう指示された花陽も、十秒以上経過した後も希の姿が表れないことから、二階に逃げたのではないと悟った。


 希は南東階段を一階へと降りながら、笑いを押し殺していた。


希(上手くいきすぎやん)


 三つの分かれ道で希が選んだのは、三階へと上る階段。
 しかし希は三階までは上がりきらず、二階と三階の踊り場の隅で不可視化のまま身を小さくしていた。
 そのすぐ前を絵里が通り過ぎてから、希は階下へと進路を変更。
 マントの効果が途切れる頃には絵里の視界から外れており、花陽は階段から目を離していたため、悠々と一階に向かうことができた。


希(正解は三分の二のようで、ローラーの脇を通れない花陽ちゃんさえ外せばこっちの勝ちなんよ)

希(残念やったね、えりち)


【絵里 HP:10→9→8→7】
304: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/25(土) 22:18:15.04 ID:wiVcyIHj.net
>>297亜里沙HP修正
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP5  加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP10 ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP10 10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP10 復活スイッチ/威力0
・絢瀬亜里沙 HP8 10tハンマー/威力5


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP10 デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP7  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP10 催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


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313: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:25:37.92 ID:5JOhklS0.net
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『体育館』 穂乃果 対 真姫 
 

 穂乃果の武器、《加速器付モーニングスター》。
 威力が高く、加速器による飛来速度も速いが、一撃の重さと引き換えに連撃に向いていない。
 一度伸びきった鎖を回収するには時間がかかり、次の行動に移るまで間が空くためだ。

 そう判断していた真姫は、己の考えを訂正する必要に迫られていた。

 今、真姫の目の前では、穂乃果が右腕に鎖を巻き付けている。
 これは鉄球の操作を誤ったために自ら鎖で拘束してしまったのではない。
 鉄球操作の一環だった。


穂乃果「ふっ!」


 鋭いかけ声と共に穂乃果は鉄球を繰り出す。
 穂乃果の右腕に巻き付いたことで鎖の射程が短くなった分、鉄球は小回りが効くようになった。
 短いスパンで何度も続けざまに鉄球が真姫を襲う。
 
 一度真姫が避ければ、穂乃果は鉄球の加速器を消し、腕ごと鎖を引っ張る。
 加速器が消えたことで推進力が弱まった鉄球は、穂乃果の腕の動きのままに進行方向を変える。
 大きく迂回することなくその場で方向転換を済ませた後に加速器を再点火。
 再び速度を増した鉄球が別方向から間断無く真姫を狙う。

 紐に括りつけたカラーボールを扱うような軽快さで、穂乃果は鉄球を四方八方から飛来させた。


真姫(さっきから防戦一方……!)

真姫(この武器、こんなに強かったの!?)


 真姫の動きも流麗なまま、被弾を避けて鉄球の雨を捌ききっていた。
 しかし、意識の全てを防御に回され、あと一歩で手が届く距離にいながら攻撃が一切できなくなっていた。
314: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:28:20.02 ID:5JOhklS0.net
穂乃果(できる……)


 手応えを感じていた。

 これまでは加速器の勢いに振り回されるようにして、狙いも定かにできぬままに鉄球を振っていた。
 五メートルという射程を活かしきれず、闇雲に一撃を狙う武器だと捉えていた。


穂乃果(ちゃんと扱える……)


 戦いの最中、真姫に鎖を掴まれたことで鉄球の軌道が変わったのを見て、アイディアが浮かんだ。

 鎖の長さである五メートル、この長さを持て余しているのだとしたら。
 五メートル分の遠心力を毎回利用せずとも、トゲつきの鉄球の威力には期待できる。
 ならば、自ら射程を狭め、その分操作性の向上を意識してもいいはず。


穂乃果(真姫ちゃんみたいに、上手に武器を操れる)


 加速器の勢いを制御できずに振り回されるのなら、鉄球を加速させる瞬間だけ加速器を点火させればいい。
 方向転換は自らの腕で鎖を引っ張って操り、鉄球の勢いを増すときだけ加速させる。
 基本的な操作は腕力で動かして、加速器はあくまでも速度を増すための付属品として扱う。

 元々モーニングスターという武器には加速器など付いておらず、鎖を操ることで鉄球を投げつける武器だった。
 穂乃果にそのような知識はなくとも、実戦で研磨されたことで、より洗練された戦闘スタイルを獲得していった。


穂乃果(やれる……私、真姫ちゃんと戦える!)
315: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:29:39.74 ID:5JOhklS0.net
 そこからは互角の攻防となった。


真姫(鉄球を潜って仕掛ける!)

穂乃果(潜らせない!)


 穂乃果は右腕のすぐ先でブンブンと鉄球を回転させると、下手投げの要領で真姫に放る。
 鉄球が手元から離れるに連れ、腕に巻き付いていた鎖がジャラジャラと音を立てながら伸びていった。

 真正面から飛んできた鉄球を真姫は横に弾くが、同時に攻め入ろうとした足が止められる。
 再び攻め入ろうとする前に、大鎌に弾かれて宙に飛んだ鉄球の加速器が点火、続けざまに真姫へと飛来。
 再度鎌で弾くも、同様にして鉄球は何度も何度も真姫を襲った。


真姫「……邪魔よ!」

穂乃果「近寄らせないよ!」

真姫「近寄る、わよっ!」


 飛んでくる鉄球に向かって斬りつけると見せかけ、体を回してそのまま回避する。
 次の攻撃が飛んでくるまでの短い時間を突いて穂乃果に接近。
 構えも適当なまま、とにかく鎌による一閃を仕掛けた。


真姫「喰らいなさい!」

穂乃果「やなこった!」


 鉄球による迎撃が間に合わないながらも、穂乃果は焦ることなく、迫る鎌に向かって右腕を振り翳した。
 ギィン! という衝突音。
 右腕に巻き付けた鎖で大鎌の刃を受け止めた。
316: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:31:42.85 ID:5JOhklS0.net
真姫「……鎖で止めた!?」

穂乃果「鉄球だけじゃないってことだよ!」


 鎌による攻撃を止められると同時、真姫の背後から鉄球が迫った。
 床に転がって真姫は回避、穂乃果と距離を取る。

 自分の方へと返ってきた鉄球の鎖を穂乃果は掴み、ぐいと奥に押す。
 鎖に連動する形で鉄球の軌道が変わった。
 軌道の変化を巧みに操り、遠方に退避した真姫に向かって飛ばす。
 真姫は真っ向から鎌で受け止めたものの、握っていた鎌の柄からビリビリと痺れるような衝撃が走った。


真姫「急に扱いに慣れすぎなのよ……」

穂乃果「鎖を掴んで方向を変えるのは真姫ちゃんから教わったんだよ!」

真姫「だからって一度見ただけでマスターするなんてね」

穂乃果「やろうと思えばなんだってできるよ」

穂乃果「気合いとかの話じゃない。ここは、そういう場所なんでしょ」

真姫「そう……気付いたのね。このゲームの世界で戦うコツに」

穂乃果「わかったよ。真姫ちゃんがどうしてこんなに上手く動けるのかもね」
317: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:34:36.30 ID:5JOhklS0.net
穂乃果「ここはゲームの世界……作り物の世界の現実」

穂乃果「今こうしている私は私だけど、でも本当の世界に生きる私じゃない」

穂乃果「仮想現実の私……まるで本当のことみたいにイメージすれば、それを実現することができる私なんだ」

穂乃果「だから実際にはできないような動きでも、ちゃんとイメージすればできる」

穂乃果「人の力を超えたことまではできなくったって、例えば戦うための動き方とかは、イメージすればできるんだよ」

穂乃果「だから真姫ちゃんはそんなに綺麗に動けるんだね」

真姫「そういうことみたいね。やろうと思えば、最初から鎌は自在に扱えたわ」

真姫「意地でも勝ってやる、こんな武器簡単に扱ってやる……」

真姫「強引にでもなんでも、高いモチベーションと強いイメージで戦いに臨めば、なんとでもなるってわけよ」

真姫「もっとも、仲間にもそう説明したところで、他のみんなは私みたいにできないみたいだったけど」

穂乃果「イメージの差、かな」

真姫「個人差や武器の差もあるかもしれないわ。モノによっては戦い方を工夫しようがないもの」

真姫「けど一番はやっぱり、どこまで感情を爆発させることができるかの違いね」

穂乃果「そっか……どこまで本気で思えるか、だね」

穂乃果「だったら……私は、なんでもやってみせるよ!」
318: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:37:28.77 ID:5JOhklS0.net
 穂乃果の繰り出す鉄球の嵐が吹き荒れた。

 真姫の心境的に、この戦いは分が悪いと感じていた。


真姫(連撃が可能になって、且つ一撃が重い鉄球の攻撃はそう易々と防ぐことはできない)

真姫(だからといって防御に徹すれば攻撃の機会を失う。このままじゃ嬲られるまま)

真姫(なら……賭けに出るわ)


 突然強さを発揮した穂乃果。
 きっと胸の内に譲れないものがあるから、ここまで強くなれたんだろう。
 けれど私も譲れない。
 絶対にライブを勝ち取ってみせる。

 ライブに出て無事成功させることで、海未を安心してみせる!


真姫「はあーっ!」


 迫る鉄球に向かって真正面に体を開き、大鎌を大上段に構えた。
 

真姫(……かかってきなさい!)


 鉄球飛来のタイミングに合わせ、鎌の切っ先を真上から突き刺すように振り下ろした。
 振り下ろした鎌の切っ先は鉄球に当たり、軌道を変えて真姫の真横を通過した。

 横切る際に鉄球のトゲが頬を掠め、その部分の肉を抉られたような錯覚さえ覚える。
 しかし真姫は一切怯えることなく、床に突き刺さった鎌の切っ先を引き抜き、次の一撃に備えた。


真姫「もう一度……来なさいっ!」
319: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:40:39.33 ID:5JOhklS0.net
 再びタイミングを計り、真正面から対峙できる軌道を見定める。
 狙い通りの軌道で迫ってきた鉄球に向かって真上から鎌を振り下ろす。
 今度は鉄球にではなく、鎌の切っ先は鎖の穴に突き刺さった。
 切っ先が鎖の輪を通したまま鎌を真下に振り下ろし、そのまま床に突き立てた。

 真姫へと飛来した鉄球。
 眼前まで迫りながら、あと一歩のところで動きを止めていた。

 体育館の床に突き刺さした大鎌。
 その切っ先は鎖の一つを捉え、楔のように鎖ごと鉄球を地面に固定し、動きを封じていた。


真姫「よしっ!」

穂乃果「止められた!?」


 床に刺さった大鎌は引き抜くまで使用できず、モーニングスターは鎖が鎌に固定され動けない。
 双方の武器が一時的に使用不可能状態となる。
 使えなくなった武器を、真姫は迷わず手放した。


真姫「穂乃果ぁ!」

穂乃果「!?」


 素手のまま穂乃果に飛びかかった。

 武器を捨てての襲撃など予想していなかったため、穂乃果は簡単に押し倒されてしまった。
 真姫はいつか目にした人間を組み敷く動作を見様見真似で再現しながら、穂乃果をうつ伏せに組み伏せる。
 本当に効果がある極め方ができているかわからないながら、穂乃果の腕の間接を極めた。
320: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:41:57.39 ID:5JOhklS0.net
穂乃果「いだぃいだぃいだぃいだぃ!」

真姫「やっぱり、武器じゃなければ痛覚は残るのね」

穂乃果「肘折れる肘折れる!」

真姫「あと十秒我慢しなさい!」


 穂乃果の背に跨った真姫は、穂乃果の腕を極めているのとは逆の手で、穂乃果の後頭部を床に抑えつけた。
 正確には穂乃果の後頭部ではなく、後頭部に備え付けられている『仮想ボタン』を押し込んだ。

 素手による唯一の攻撃方法、『仮想ボタン』。
 後頭部に設置された『仮想ボタン』を素手で十秒間押されると、HP残量に関わらずリタイアというルール。
 そのルールを脳内で反芻しながら、思惑通りに事を運べた状況に手応えを感じた。


真姫(武器同志での撃ち合いで劣勢なら、互いの武器を使えなくしてしまえばいい)

真姫(威力設定のない武器を持ってるにこちゃんとかがする攻撃手段だと思ってたけど、こんなところで役に立った!)


『仮想ボタン』が押されると、穂乃果の眼前に半透明の数字『10』が表示された。
 その数字は一秒毎にカウントダウンを刻む。


穂乃果「あっ!? そっか! 真姫ちゃんやめて!」

真姫「誰がやめるものですか!」
321: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:44:01.25 ID:5JOhklS0.net
穂乃果「このままじゃリタイアしちゃうじゃん!」

真姫「リタイアさせようとしてるのよっ!」

穂乃果「はなっ、してっ、よっ!」


 抵抗した穂乃果が首を大きく振ると、一瞬真姫の手が後頭部から離れる。
 一瞬手が離れただけでカウントダウンはリセットされた。


真姫「あっ」

穂乃果「やった!」

真姫「このっ! 大人しくしてなさい!」

穂乃果「ぶっ!」 


 リセットされたカウントダウンを再始動すべく、今度は穂乃果の顔面を床に擦りつけるようにして『仮想ボタン』を押し込む。
 床に口を押し付けられた穂乃果の言葉にならない呻き声を聞き流しながら、真姫はボタンを押すことに集中する。


真姫「ちょっと離しただけですぐやり直しなんだから……我慢、しなさいっ!」

穂乃果「ふごぁー!」


 首を振る穂乃果の頭を抑えこんで、カウントダウンを進める。
 残り秒数も指折りという段階に来て、次こそリセットさせないよう一層手に力を込めた。
322: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:45:37.41 ID:5JOhklS0.net
 聞き覚えのある掛け声を耳にしたのはそのときだった。


ことり「ちゅんちゅんっ!」


 甲高い叫び声には似つかない程の危機感を覚えた。


真姫「……ことりっ!?」

ことり「やあーっ!」


 穂乃果の『仮想ボタン』への攻撃が有効となる二秒前。
 突如体育館の中に飛び込んできたことりに、思わず真姫は狼狽えた。


真姫(どうすれば……)


 このとき真姫が冷静に考えることができていれば、被弾を受け入れたとしても、穂乃果の拘束を続けるべきだった。
 例えことりの攻撃を何度か受けたとしても、自身のHPを全て削られるまでには二秒という時間は短かすぎる。
 ならば残り二秒穂乃果を抑え込み、リタイアへと追い込んだ後、ことりの迎撃へと移る。
 これがベストの選択肢だった。

 しかし、真姫はことりの進攻を認めた直後、穂乃果の背から離れた。

 穂乃果の後頭部から手が離れ、『仮想ボタン』のカウントはリセットされる。
 真姫はモーニングスターの鎖を突き刺していた大鎌へと走ると、急いで床から引き抜き、敵に向かって身構えた。


真姫「ことりぃ…………!」

ことり「させないよ……真姫ちゃん!」
323: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:47:53.12 ID:5JOhklS0.net
―――

『講堂』 ことり・雪穂


 ゲーム序盤に花陽のローラーから逃げ切って以降、ことりと雪穂の二人は講堂の座席の間に身を潜めていた。

 ゲームマップ内で身を隠せる場所があるのは、大教室内に並ぶ遮蔽物代わりの作業机か、講堂の座席しかない。
 攻撃手段を持ち得ない雪穂を必然的に守らねばならないことりだったが、自身の戦闘力もそう高いものではない。
 考えた末、二人はあまり移動をせず、極力敵プレイヤーとの遭遇を避けることに決めた。


雪穂「私はいいですけど、ことりさんが出回らない分、私たちの戦力は減りますよね」

ことり「仕方ないよ。雪穂ちゃんを守ることも必要だもん」

雪穂「すみません、なにも力になれなくて……」

ことり「雪穂ちゃんの責任じゃないよ。それに雪穂ちゃんの武器だって、一発逆転の武器になるよ!」

雪穂「そうですかね」

ことり「そうだよ! 亜里沙ちゃんや凛ちゃんがもし倒されても、復活させることができたらまだ頑張れるもん!」

雪穂「……そうですね! 落ち込むのはやめにします」
324: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:49:39.91 ID:5JOhklS0.net
ことり「雪穂ちゃんは、私たちがライブをしないでも本当によかったの?」

雪穂「当然ですよ。海未さんのためです。この前ウチに遊びにきたときに話したじゃないですか」

ことり「だけど、お客さんとしての雪穂ちゃんは、私たちのライブを楽しみにしてくれてると思うから……」

雪穂「そりゃあ楽しみにしてますよ。でもだからって、μ'sのみなさんに無理はしてほしくないです」

雪穂「元は学校を守るために頑張って、今でも私たちのために素敵なライブを披露してくれる」

雪穂「そんなみなさんに無茶させるような強要はできません」

ことり「そっか……」

雪穂「それに、私だって一応、海未さんの幼馴染みですから」

ことり「そうだよね。海未ちゃんのこと、心配だよね」

雪穂「ことりさんと海未さんには、お姉ちゃんをしっかりさせてくれたことでも感謝しているんですよ!」

ことり「あははっ! そうなんだ」

雪穂「ですから、海未さんには今は安静にしてもらいたいですし、海未さんのいないライブなら休んでもいいと思います」

ことり「……うん。海未ちゃんが元気になったら、今度こそ九人揃ってライブをするからね!」

雪穂「はい! 楽しみにしてます!」
325: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:51:34.60 ID:5JOhklS0.net
ことり「……………………講堂、誰もこないね」

雪穂「仲間の誰かがきてくれればよかったんですけど……」

ことり「そろそろ講堂にきて三十分経っちゃうよね」

雪穂「ゲームのルールだと、戦闘以外で同じ場所に三十分以上居続けることは禁止ってありました」

ことり「そろそろ動かないと……」

雪穂「そうですね。敵のプレイヤーと会っちゃうかな……」

ことり「私、ちゃんと雪穂ちゃんのこと守るから!」

雪穂「……あの、ことりさん。むしろ、いざとなったら私が壁になります!」

ことり「え?」

雪穂「私、本当になにもできませんから。せめてことりさんに攻撃が当たりそうなときは私が代わりに受けます」

雪穂「いくら『復活スイッチ』があっても、守ってもらったことでリタイアなんてされたら元も子もないですし」

ことり「雪穂ちゃん……」

雪穂「だから必要以上に守るって思わなくていいです! ことりさんは自分の身を守ってください!」

ことり「……わかった。ちゃんと自分のことも守るね!」

雪穂「はい! じゃあ……行きましょう!」
326: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:52:47.39 ID:5JOhklS0.net
『1F 西廊下』 ことり・雪穂


ことり「……誰もいないね」

雪穂「静かです」

ことり「廊下も、小教室も、一人もいない……」

雪穂「みんなどこにいるんでしょう」

ことり「…………? 待って。今、なにか聞こえなかった?」

雪穂「え?」

ことり「ドンって、堅いものがぶつかるような…………あっまた聞こえた」

雪穂「本当ですか? どっちからです?」

ことり「こっち……この先の角の向こうから……」

雪穂「この先は体育館ですね。私が最初にいた場所です」

ことり「……中に、誰かいる」

雪穂「これ、戦ってる声と音ですよね」

ことり「様子、見てみるね」

雪穂「はい……」
327: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:54:32.74 ID:5JOhklS0.net
穂乃果「はあーっ!」

真姫「ふっ! はっ!」



ことり「穂乃果ちゃん……!」

雪穂「お姉ちゃんと真姫さん……」

ことり「穂乃果ちゃん……あの真姫ちゃんと、一人で戦ってる……」

雪穂「凄い、いつの間に武器の使い方覚えたんだろ」

ことり「……………………。ねえ、雪穂ちゃん」

雪穂「はい」

ことり「私、ここに残って、穂乃果ちゃんを守るよ」

雪穂「……」

ことり「本当は、攻撃手段のない雪穂ちゃんを一人にするのはよくないんだと思う」

ことり「でも穂乃果ちゃん、エキシビジョンの後とか凄いやる気で、今度は絶対に負けないって言ってた」

ことり「私、そんな穂乃果ちゃんに、力を貸したい」

ことり「……ううん、それだけじゃない。私だって、力になりたいの!」

雪穂「……わかりました! お姉ちゃんを助けてあげてください」

ことり「雪穂ちゃん……ごめんね」

雪穂「大丈夫ですよ! ずっと隠れられてましたし、またどこかに隠れながら誰かと合流します」

雪穂「だからことりさん、お姉ちゃんをお願いします!」

ことり「うん……ありがとう!」
328: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:57:11.97 ID:5JOhklS0.net
ことり(…………穂乃果ちゃん、真姫ちゃんと互角に戦ってる)

ことり(助けに行きたいけど……穂乃果ちゃんの周りに鉄球が振り回されて、周りのもの全部攻撃するみたいになってる)

ことり(あれじゃ下手に近付いたら私も攻撃を受けちゃうから、穂乃果ちゃんの邪魔になるかも……)

ことり(出入り口には扉がないからいつ見つかるかわからないけど、ここでこっそり見ていよう)

ことり(そしてもし穂乃果ちゃんが危なくなったら、そのときは私が……!)


 穂乃果ちゃんを見守ると判断してからしばらく経って。
 真姫ちゃんの大鎌が鉄球の動きを封じ込めて、穂乃果ちゃんは真姫ちゃんに押し倒された。


ことり(穂乃果ちゃん!)


 穂乃果ちゃんは後頭部の『仮想ボタン』を押し込まれて、リタイアへのカウントダウンが始まる。


ことり(今だ……今こそ、行くんだ!)


 私は勇気を振り絞って、ことりソードを出現させるために大きく叫んだ。
329: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/26(日) 22:57:58.60 ID:5JOhklS0.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP5  加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP10 ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP10 10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP10 復活スイッチ/威力0
・絢瀬亜里沙 HP8 10tハンマー/威力5


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP10 デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP7  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP10 催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


――――――――――
344: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 22:50:48.33 ID:uyFOQJyX.net
『体育館』 穂乃果・ことり 対 真姫


『仮想ボタン』による攻撃で穂乃果がリタイアさせられる寸前、ことりが体育館内に飛び込み、真姫を遠のかせる。
 すかさずことりは穂乃果に駆け寄り、肘を抑えている穂乃果を立ち上がらせた。


ことり「穂乃果ちゃん!」

穂乃果「いったぁい腕もげそう!」

ことり「大丈夫?」

穂乃果「うん、平気だよ! ことりちゃんありがとう!」

真姫「…………形勢逆転、ってところね」


 好機を逃し、劣勢に立たされた真姫は口元を歪める。
 対する穂乃果とことりは互いに寄り添いながら、各々の武器を構えた。


ことり「真姫ちゃん……私たちは、負けられないの」

穂乃果「海未ちゃんを守るために、私たちはこの勝負に勝つよ!」

真姫「言いたいことはわかってるわ。そして、私の言いたいことだって、もうわかってるでしょ」

ことり「うん」

穂乃果「ここでは殴り合いで決着をつける、だね!」


 穂乃果は加速器を巧みに操り、高く掲げた右腕に鎖を巻き付けるよう鉄球をぐるぐると飛ばした。
345: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 22:52:54.54 ID:uyFOQJyX.net
ことり「穂乃果ちゃん、凄い上手に武器扱えるようになったんだね」

穂乃果「その気になればなんだってできるんだよ。ヴァーチャル世界なんだもん!」

ことり「そういうものなんだ」

穂乃果「ことりちゃん、私の戦い方って周りに鉄球ぶんぶん振り回すから、離れてたほうがいいかも」

ことり「うん。基本的には離れたところにいるね。けどチャンスがあったら……」

穂乃果「そのときは真姫ちゃんをお願い!」


 相槌を一つ返して、ことりは剣を構えながら穂乃果から距離を取った。

 射程外までことりが離れたことを確認すると、穂乃果は加速器を点火。
 右腕を振り、手首を回して、体の周囲を縦横無尽に巡らせる。
 鉄球によるバリアのようなものを形成した。

 穂乃果が歩くと共に体を覆う鉄球のバリアも移動する。
 床を擦る際に鉄球のトゲが掠めると、その部分だけ床が抉れた。


真姫「そのままでこっちに来ないでくれない? 近付いただけで攻撃されそうじゃないの」

穂乃果「そのつもりでやってるからね」

真姫「ま、そうよね……わかってるわよっ!」


 鉄球に身を守られたまま接近してくる敵に向かって、真姫は自ら距離を詰めに行った。
346: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 22:55:10.76 ID:uyFOQJyX.net
 穂乃果の周囲二メートル程を高速のまま飛び交う鉄球。
 その合間を突いて攻撃するのは難しい。
 牽制のつもりで軽く振った大鎌は、鉄球の射程に入った途端、簡単に弾き飛ばされた。


真姫(隙が無い……攻防一体ってわけね。それなら!)


 鉄球の軌道を見極め、タイミングよく鎌を突き出し、刃の腹の部分で受け止めた。
 鎌により軌道を塞がれた形となった鉄球は明後日の方向へと飛んでゆく。
 鉄球のバリアが崩れたところで大鎌による一撃を狙った。


穂乃果「おっと! まだだよ!」

真姫「ちぃっ!」


 鉄球の軌道が変わっても、穂乃果は即座に加速器の向きを変化させ、真姫へと投げつける。
 攻撃を仕掛けようとした真姫は回避行動に移行、距離を取る。


穂乃果「まだまだぁ!」


 互いの距離が開くに合わせて、穂乃果は右腕に巻き付けていた分の鎖を解放して鉄球の飛距離を伸ばした。
 真姫が仕掛けてこない分、射程が伸びたことで攻撃の隙が大きくなってもリスクはない。
 距離が広がる度に遠心力による威力が増した鉄球の攻撃を避けながら、真姫は五メートル以上押し戻された。
347: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 22:58:13.23 ID:uyFOQJyX.net
真姫「なんて厄介な武器なの……!」

穂乃果「厄介なのは私だけじゃないよ!」

ことり「えーい!」

真姫「!?」


 穂乃果の射程外へと追いやられた真姫の背後に、いつの間にかことりが回り込んでいた。


真姫「きゃっ!? このっ! 次から次へと!」

ことり「えいっ! えーいっ! やあっ!」


 不意打ちのために反撃もできず、大鎌でことりソードをやり過ごすので手一杯となる。
 ことりに押し込まれる形で数歩下がれば穂乃果の射程に押し戻される形となり、背後から鉄球で狙われる。


真姫「わあっ!? 危ないじゃない後ろからなんて! きゃっ!? こらっことり!」

ことり「やあやあやあ!」

穂乃果「挟み撃ちだよ!」

真姫「ああああもうこの二年どもっ!」


 堪らず真姫は二人から離れるように逃げ出した。
 一度離れても、次にどうやって攻め入ろうか考えが及ばない。
 悔しさに耐えながら、そのまま大きく迂回して体育館の出入り口へと走った。
348: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 22:59:18.44 ID:uyFOQJyX.net
穂乃果「あー逃げる気だ!」

真姫「うるさいわね! 戦略的撤退よ!」

穂乃果「いいよ別に、次に会っても私とことりちゃんでまた撃退しちゃうからね!」

真姫「このぉ……首を洗って待ってなさい!」


 捨て台詞を残し、真姫は体育館から逃走。
 穂乃果とことりは追うことはせず、その場に留まった。


穂乃果「やったよことりちゃん! あの真姫ちゃんを追い返したよ!」

ことり「うん! 凄いね穂乃果ちゃん!」

穂乃果「私だけじゃないよ、ことりちゃんのお陰だよ!」

ことり「穂乃果ちゃんが凄い強くなったからだよ」

穂乃果「……負けたくなかったんだ。だから頑張った」

ことり「うん……海未ちゃんのために、負けられないもんね」

穂乃果「私、もう負けないよ。この調子でゲームに勝つ!」

ことり「そして海未ちゃんのためにしっかりと休養を取ろうねっ」

穂乃果「勿論!」


 穂乃果とことりは満面の笑みを浮かべて、渾身のハイタッチを交わした。
349: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:02:29.90 ID:uyFOQJyX.net
『1F 西廊下』 真姫


 体育館から逃げるように距離を取る。
 初めて迎えた窮地から脱したことで、大きく息をついた。


真姫(まさかあそこまで苦戦するなんて……)


 穂乃果の成長は目覚ましかった。
 武器の扱い方、発想、どれも私同様に素人離れしている。


真姫(ゲームの世界ならなんでもできる、その発想に至ったのね)

真姫(あの武器であそこまで動かれると本気で手を焼くかもしれないわ)


 エキシビジョンとはまるで手応えが異なる敵チームの勢いに若干の不安が過る。
 私たちが負けるとは思わないし、そんなつもりもない。
 けれど、舐めてかかって倒せる相手では最早無くなってしまったのかもしれない。


真姫(それに…………ことり)


 本戦開始直後に続いて刃を交わした相手。
 穂乃果を落とす寸前までいきながら、阻まれてしまった。
 ゲームを始める前、言い争いをしていた時点で既に揺るがなかった決意が、剣筋からも表れてきている気がする。
 このまま放っておきたくはない。


真姫(穂乃果とことり……できるだけ早めに倒さないと)


 戦略を練り直し、戦況を立て直すために場所を移った。
350: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:05:11.86 ID:uyFOQJyX.net
―――

『2F 大教室』 絵里


 ゲームステージで身を隠すことが出来る場所は限られる。
 その代表例は大教室のステージ。
 作業机が遮蔽物となって、出入り口から覗くだけでは中に誰が潜んでいるのかわからない。

 敵プレイヤー散策のため、絵里は『2F大教室』内に踏み入った。
 今のところ敵味方含めて他プレイヤーとの接触は廊下や階段に限られている。
 武器を扱っての戦闘故に、室内で邪魔なものがあると戦いにくいのかもしれない。


絵里(一応こういうところも探してみるものの……)


 職員室のような外観をしている室内には、作業机が並べられているシマがいくつかあるだけ。
 探すといっても、木目上に区切られた作業机の間を巡ったり、机の下を覗いてみたりする程度で終わってしまう。
 一通り作業机の間を縫って見回るも、誰も見つけられなかった。


絵里(探せば簡単に見つかりそうな場所で本格的に身を潜めるわけもないかしら)

絵里(私の移動に合わせて体を低くしたまま遮蔽物の陰を移動していたりすれば隠れられるのかもしれないけれど)

絵里(戦うためにゲームをしているのだから、そこまでして隠れないわよね)


 適当に見切りをつけて出入り口に向かうと、廊下からガラガラという音が聞こえてきた。


絵里「あら」

花陽「あ、絵里ちゃん」


 先程希を追う際に別れた花陽と再開した。
351: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:06:21.50 ID:uyFOQJyX.net
花陽「あの後希ちゃんは見つからなかったよ。絵里ちゃんの方は?」

絵里「こっちもハズレよ。まんまとしてやられたわ。ごめんなさい」

花陽「絵里ちゃんのせいじゃないよ。希ちゃん、運が良いから」

絵里「だからといって運で勝利を持っていかれたらたまったものじゃないけどね」

花陽「そうだね……」


『2F大教室』の前で花陽と話していると、花陽が来たのとは逆方向から今度はにこがやってきた。


にこ「あ」

絵里「あら」

花陽「にこちゃん、無事だった?」

にこ「問題ないわ、まだ無傷よ。武器の威力が無くったってなんとでもなるわよ」

絵里「頼もしいわね」
352: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:07:57.29 ID:uyFOQJyX.net
絵里「今のところの感触だけど、エキシビジョンみたいに簡単にはいかなそうよ」

にこ「それ、さっき真姫ちゃんも言ってたわ」

花陽「あっちのみんなも、本気になったんだね……」

にこ「だからって私たちに変わりはないわ。本気でぶつかって、ライブをするって決定させるだけよ」

絵里「そうね。作戦通りにいきましょう」

花陽「四人ともバラバラに動いて、有利なときにはそのまま攻撃だね」

にこ「膠着状態になったら、味方が駆けつけたら攻め込んで、不利になったら撤退よね」

絵里「私たちは強いわ。オーソドックスな戦い方が最も効果的よ」

花陽「あ、そう言えばゲームのルールで、戦ってるとき以外は同じチームで三人一緒にいたら駄目だったような……」

絵里「そうね、こうして集まるのもいけないわね……」

にこ「まともに集まって作戦会議もできないじゃない」

絵里「問題ないわ、私たちならやれるもの。じゃあ各自別れましょ」

花陽「じゃあね絵里ちゃん、にこちゃん」

にこ「やられるんじゃないわよ!」


 各々の状況を確認しつつ、絵里たちは『2F大教室』の前から散開し、それぞれの方向に進んでいった。
353: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:08:55.53 ID:uyFOQJyX.net
 絵里たちが去った『2F大教室』。
 人気が無くなった静かな室内で。
 遮蔽物代わりの作業机が並ぶ一角から、ひょっこりと顔を覗かせるプレイヤーがいた。


雪穂(…………………………………危なかったあああああああ!)


 絵里の散策から逃れ、辛うじて見つかることなく隠れ続けることに成功した雪穂。
 誰にも知られないまま窮地を脱した雪穂は、ゆるゆると顔を引っ込めて、そのまま再び遮蔽物の影へと隠れた。
354: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:14:34.27 ID:uyFOQJyX.net
―――

『1F 西廊下』 穂乃果・ことり


 真姫ちゃんとの戦いの後、私たちは体育館を出て、一階の西側廊下まできていた。
 この後は、自分じゃ戦えない味方を探したり、戦える私たちが敵と交戦するために、別れて移動するつもり。

 ことりちゃんが来てくれたお陰で私は負けないで済んだ。
 よかった、まだ戦える……。


ことり「穂乃果ちゃん、本当に強くなってたね」

穂乃果「ことりちゃんもエキシビジョンじゃなにもできなかったって言ってたけど、さっきは私を助けてくれたよ!」

ことり「今度は怖がらないで、海未ちゃんのために戦うって決めたから」

穂乃果「そうだね。絶対に勝とう!」


 武器も使えるようになって、私はだんだん元気になってきた。
 だけど、逆にことりちゃんはちょっとだけ気分が沈んでるみたいだった。


ことり「…………ねえ、私たちが考える海未ちゃんのためって言ってることって、考えが浅いのかなぁ」

穂乃果「浅いって?」

ことり「海未ちゃんが倒れた体の心配するのって、簡単すぎて浅い考えなのかなぁ」

穂乃果「そんなことない! 当然の心配に決まってるよ!」

ことり「でも、真姫ちゃんたちはもっと深く考えてるみたいだったから……」

穂乃果「確かにそうだけど……そもそも元気じゃないなら意味がないよ! 当たり前じゃん!」

ことり「そうだよね……」
355: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:16:19.79 ID:uyFOQJyX.net
ことり「私、このゲームが始まるまで、絶対にライブはやらないって言って退かなかった」

ことり「海未ちゃんのためを考えたら絶対にそうした方が良いって思ってたの」

ことり「今でも勿論そう思ってるよ。でも、もし違ったらって考えたら、少し怖いの」

穂乃果「ことりちゃん……」

ことり「ゲームでね、真姫ちゃんたちの本気を実感したの」

ことり「言葉を交わすだけじゃわからない、感覚みたいなものだけど、でも本当に伝わってきた」

ことり「そうしたら、少しだけ不安になってきちゃった……」

穂乃果「……私ね、ことりちゃんが一歩も退かないで海未ちゃんのためって言ってたから、ライブをやめるって言い続けられたんだよ」

ことり「そうなの?」

穂乃果「私って周りが見えなくなることがあるから、本当に自分の考えがあってるかわからなくなるんだよね」

穂乃果「今回だってとにかくライブは止める! 絶対ダメ! って言ってたけど」

穂乃果「みんなみたいに色々考えて言ったんじゃなくて、ただ気持ちを真っ直ぐ口にしてただけなの」

穂乃果「とにかく海未ちゃんが心配で、ライブなんてしてる場合じゃないって」

穂乃果「だからもし私だけが中止しようって言ってたら、本当にそれであってるのか不安になってたと思う」

穂乃果「でも、ことりちゃんも私と同じように言ってくれてたから、私は私の考えが正しいって自信が持てたんだ」
356: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:17:39.38 ID:uyFOQJyX.net
ことり「……私ね、海未ちゃんを守ってあげたいの」

ことり「いつも私たちのことを考えてくれる海未ちゃんを、今度は私が助けてあげたいの」

ことり「だから、海未ちゃんに対してなにかできることを選んだんだつもり」

ことり「海未ちゃんのいないライブを成功させるんじゃなくって、海未ちゃんと一緒にライブを休んで」

ことり「海未ちゃんが元気になれるよう手を貸して、また一緒にライブに向けて頑張る」

ことり「そうしたかったんだ」

穂乃果「それがいいんだよ。ゲームの中ではことりちゃんがやりたいことを目指そう!」

ことり「本当にそれでいいのかな?」

穂乃果「勿論!」

穂乃果「真姫ちゃんたちだって自分たちのやりたいことを目指してる。だからあんなに強いんだよ」

穂乃果「それがゲームで戦う秘訣なんだもん」

穂乃果「だから私たちも、やりたいことを目指して一生懸命頑張ろう!」
357: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:20:01.93 ID:uyFOQJyX.net
ことり「……うん、わかった! 私頑張る!」

ことり「穂乃果ちゃんと話せてよかったぁ」

穂乃果「えへへ、ならよかった!」


 ことりちゃん、少しは元気になったみたい。
 本当によかった。

 私が自分のやりたいことを信じられたのは、ことりちゃんが海未ちゃんのためを思って一歩も退かなかったから。
 だからことりちゃんには、ことりちゃんのやりたいことを信じて欲しいんだ。


穂乃果「絶対勝とうね、このゲーム」

ことり「うん!」


 改めて、私とことりちゃんはそれぞれの気持ちを確かめ合った。

 ゲームを通じて、私たちの気持ちがよりはっきり表れてくる。
 これがゲームをやる本当の意味なのかもしれない。

 だったら、尚更負けられない。
 気持ちがはっきりするから、一層勝ちたいって思う。
 私は、私が信じる、私がやりたいって望むことを、絶対に叶えてみせる。

 ことりちゃんたちと一緒に、海未ちゃんを守るんだ!


穂乃果「ようし……頑張るぞー!」
358: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/28(火) 23:20:51.76 ID:uyFOQJyX.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP5  加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP10 ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP10 10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP10 復活スイッチ/威力0
・絢瀬亜里沙 HP8 10tハンマー/威力5


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP10 デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP7  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP10 催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


――――――――――
366: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:10:45.29 ID:ZQ1lJnb6.net
―――

『3F 小教室2前』 凛・希・雪穂・亜里沙 対 真姫・絵里・にこ


 大混戦が起こっていた。
 参加プレイヤーの七割が同じ場所に集い、互いに睨みを効かせていた。
 
 この場での戦闘開始時点で、凛、希、雪穂、真姫、にこはノーダメージだった。
 最終的には亜里沙と絵里を含め、全員のHPが削られた。


にこ「喰らいなさい!」


 戦陣の真っただ中に飛び出したにこが催涙ガス噴出用のチューブを腰に構えた。


亜里沙「雪穂下がって!」


 にこに応じて、亜里沙が前方に駆け出した。
367: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:12:47.24 ID:ZQ1lJnb6.net
―――

『3F 小教室2前』 凛


 三階北東の角、『3F小教室2』付近。
 凛はファンネルを飛ばして辺りを警戒しながら移動を続けていた。

 希と別れて以降、敵味方双方との接触がない。
 ゲームは若干の停滞状況に入ったのかもしれないと凛は感じていた。


凛(誰もいないなー)

凛(廊下だけじゃなくて、教室とか体育館とか、色んなところを見て回ったほうがいいのかな)


 武器であるファンネルは遮蔽物のある場でも十分な力を発揮できると自ら踏んでいる。
 なので捜索範囲を広めて、各教室等も見て回ることを決めた。
 その一カ所目が『3F小教室2』だった。


凛(上から順番に見ていこーっと)


 北東の廊下の角付近にある教室に近付く。
 廊下から伺う限り人影は見えないが、室内全域を見渡せるわけではなく、死角ができる。


凛(ここからだと誰も見えないけど……一応中も見ておこっかな)


 ファンネルを先行させてから、教室へと足を踏み入れようと近付き、

 出入り口付近の死角から灰色のマスクが飛び出してきた。
369: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:14:25.99 ID:ZQ1lJnb6.net
凛「にゃっ!?」


 ファンネルを操作する間もなく、眼前に白煙が吐き出される。
 覚えのある目への刺激から相手の正体を悟った。


凛「ぎゃあああにこちゃん! これ目痛くなるからやめてよー!」

にこ「これが武器なんだからやめるわけないでしょ!」


 瞬間的に視界を奪われた凛は目を擦るも、余りの刺激にまるで目を開けられる気がしない。
 咳をしながら目を覆っていると、小さな体に押し倒された


凛「痛っ! なんなの!?」

にこ「このままリタイアしちゃいなさい!」

凛「あっ『仮想ボタン』!? げほっ、嫌ああああどいてっ!」

にこ「あーばーれーるーなー!」


 身体能力には自信があっても視界が効かなければまともに動けない。
 にこに簡単に組み伏せられ、背中に体重を感じた。


にこ「おりゃー!」


 かけ声と共に、なにかが頭の後ろでカチリと鳴る音が聞こえた。
370: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:16:09.04 ID:ZQ1lJnb6.net
 凛の眼前に半透明の数字が灯る。


にこ「9、8、7……」


 視界が塞がれたままだったが、にこのカウントダウンを耳にして不吉な予感を覚える。
 押し倒された身体を横に転がるようにして抵抗した。


にこ「わっ!? あっ離れた! ったく、いい加減にしなさい!」


 後頭部を押さえていた手が離れ、代わりにガチャリと器具を手に取る音がした。
 催涙ガスの効果が切れると見て、にこが再度ガスを噴出させようと準備をした音だ。
 頭を押さえつける手が空いた隙に凛は思いきり背中を逸らした。


凛「どいてっ!」

にこ「わっ!?」


 凛を押さえつけていた手を離していたため、背に乗っかっていたにこは脇へと転がされた。
 体が自由になった隙に凛は飛び上がる。


凛「目も治った! このう、お返しだーっ!」


 目の前に落ちていたコントローラーを拾い、にこに向かってファンネルを飛ばす。
 しかしレーザー射出前に、二度目のガスが凛を覆い尽くした。
371: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:18:28.75 ID:ZQ1lJnb6.net
凛「わああああげほっげほっ! 嫌にゃああああ!」


 再度ガスを浴びたことで目が開けられなくなり、狙いをつけないままレーザーを射出。
 にこの苦しげな声が短く聞こえるも、今度もまた床へと押し倒された。


にこ「大銀河宇宙ナンバーワンアイドルにこちゃんの可愛い顔に傷がついたらどうするのよ!」

凛「ゲーム中は傷つかないって言ってたもん!」

にこ「うっさい! 顔に一発当たったの! マスク越しにでも攻撃した罪は重いわ!」


 頭上に『9』を灯したにこは凛をうつ伏せにすると、後頭部に手を添える。
 二度目の『仮想ボタン』への攻撃を試みた。


にこ「10! 9! 8!」

凛「だからやーめーてー!」

にこ「黙ってなさい!」


 抵抗を始めた凛に向かって頭上から催涙ガスを短く噴出。
 再び激しく咳き込んだ凛は抵抗できなくなる。


凛「げっほ! がっ、がほっ!」


 抵抗が止んだことを確認し、カウントダウンを再開した。


にこ「5! 4! 3!」
372: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:21:09.00 ID:ZQ1lJnb6.net
 凛の背に跨っていたにこ。
 その小さな体がポーンと飛んだ。


にこ「?」


 マスク越しの狭い視野から見える光景が九十度回転してもすぐには事態を把握できず、一瞬わけがわからなくなる。
 直後、廊下に頭を打ち付けた衝撃で理解した。
 誰かに突き飛ばされた!


にこ「っなにするのよ!」

雪穂「ごめんなさいいいいいでも敵ですから!」

にこ「あ? 雪穂ちゃん!?」


 凛の上に乗っていたにこを突き飛ばしたのは、雪穂。
 突き飛ばした勢いで自分自身も床に手を付き、にこに覆いかぶさるようにしていた。


にこ「あーもう! いいところだったのに!」

雪穂「凛さん大丈夫ですか!?」

凛「あー目痛かったー。平気だよ、ありがとっ!」


 催涙ガスの効果が切れ、立ち上がった凛はコントローラーを操る。


凛「さあ、今度こそ反撃だよにこちゃん!」
373: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:23:30.55 ID:ZQ1lJnb6.net
 にこに向かってファンネルの照準が合わされる。
 床に転がった催涙ガスを射出しようとしたところで、にこは手を止めた。
 チューブを手放し、代わりに雪穂に抱き着いた。


雪穂「ほぇっ!?」

にこ「凛、いいの!? このままだと雪穂ちゃんにもレーザーが当たるわよ!」

凛「わっ!? 卑怯だっ!」

にこ「なんとでも言いなさい!」


 雪穂を盾にするようにしながら勝ち誇るにこ。
 味方を盾にされたことで凛は攻撃ができない。

 自身が拘束されたことで凛が攻撃を躊躇している。
 そのことに気付いた雪穂は、すぐに覚悟を決めた。
 自分がされているように、雪穂もまたにこに抱き着いた。


にこ「ほぅわっ!? なに!? えっそういう意味じゃないんだけど!?」

雪穂「凛さん! 私ごとにこさんを撃ってください!」

凛「え!?」

にこ「はあ!? そうしたら一緒にやられちゃうでしょ!」

雪穂「いいんです! 私がやられて《復活スイッチ》が使えなくなっても、足引っ張ってみんなやられるよりマシです!」

にこ「え? なにスイッチ?」

雪穂「どうせ役に立たないなら、どんな形でも役に立ったほうがいいです!」

凛「雪穂ちゃん……」
374: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:25:02.47 ID:ZQ1lJnb6.net
雪穂「だからこのまま攻撃してください! 海未さんのために、勝ちたいんです!」

凛「! 海未ちゃん…………わかった!」


 凛が雪穂に応じてコントローラーのボタンに指をかけた。
 そのとき。
 不意の声が戦場に響いた。


絵里「なんだか感動的な話をしているわね」


 凛の背後から声が響いた。

 ボタンを押しかけた指を止め、凛が背後を振り返れば、いつの間にか絵里が接近していた。
 当然のように、武器である二つの巨腕も展開されている。


凛「絵里ちゃん!?」


 身に迫る巨椀の拳を見て、大きく跳んで回避。
 しかし間に合わず、横っ腹に深々と拳が突き刺さった。
 殴られた勢いで壁に身を打ち付けた凛の頭上に『8』の数字が灯った。
375: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:26:45.15 ID:ZQ1lJnb6.net
 にこへの攻撃を阻止された凛は急いで絵里から距離を取る。

 離れる凛を無視して、絵里は駆け出した。
 向かうは、互いに抱き合う形のにこと雪穂。


絵里「にこ、ちょっと我慢してよ?」


 にこと抱き合っている形の雪穂相手には攻撃ができない。
 ならばまずは二人を引き剥がせばいい。

 絵里は二本の巨腕を広げて突き出すと、抱き合うにこと雪穂をまとめて掴む。
 大きな手で包み込まれた二人は軽々と持ち上げられた。


にこ「ちょっとちょっと!?」

雪穂「やめてー!」


 静止の声を聞かず、絵里は二人の体を遠くに投げ飛ばした。
 勢いよく飛んだ二人は床に落ちると揃って呻き声を上げ、それぞれの体が離れた。


絵里「さあ、これで戦線の立て直しができるわね」
376: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:29:17.45 ID:ZQ1lJnb6.net
 同時に立ち上がった雪穂とにこは、近距離で互いに牽制し様子を伺う。
 立ち上がった二人を横目に見つつ、絵里は反対方向へと目を向ける。
 絵里を挟んで雪穂とにことは逆側に、凛がファンネルを構えて絵里を見据えていた。


絵里「雪穂ちゃんは言っては悪いけど脅威ではないから、ここは凛の対処かしら」

凛「どうしよう……打ったら逃げるが作戦だけど、雪穂ちゃん置いてっちゃうし……」

絵里「別に逃げてもいいわよ? そっちのチームのプレイヤーが一人減るだけだもの」

凛「……逃げないよっ!」

絵里「そう? じゃあ私と一騎打ちになるわね」


 凛を威嚇するように、巨腕がファイティングポーズを取る。
 絵里の背後では、にこもチューブを雪穂に向け、いつでも催涙ガスを出せるようにしていた。

 凛と雪穂、二人はそれぞれ相対する敵の動きを見据えながら、内心追い込まれていた。


にこ「絵里、こっちはいつでもいいわよ」

絵里「そうね。凛からは動けないみたいだし、こっちから仕掛けてあげましょうか」

凛「っ…………」

絵里「睨んでも無駄よ。せいぜい幸運でも祈ってちょうだい」

希「幸運ってウチのこと?」

絵里「え?」


 絵里の真後ろから声が聞こえた。
378: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:31:34.31 ID:ZQ1lJnb6.net
にこ「はあっ!?」


 にこの視点からだとなにがなんだかわからなかった。
 絵里の言葉に応じる形で、突然希が絵里の背後に出現した。

 絵里の立ち位置は戦線のど真ん中。
 そんな場所へ脇からのこのことやってくる姿など当然目撃していない。
 にも関わらず、容易に絵里の背後を取った希は、そのまま絵里本人の両腕を自身の腕で絡め取った。
 後ろ手にされた絵里の腕に連動して、宙に浮かぶ巨腕も拘束されたように動かなくなった。


希「やっぱりこういう造りの武器やんな」

絵里「希!? えっ、どうして!?」

希「いいからウチと一緒にお休みタイムといこうやん」


 両腕を固定したまま絵里の足を軽く蹴ってバランスを崩すと、二人は一緒に廊下に倒れた。


希「今や雪穂ちゃん!」


 突然の希の乱入に全員が呆然とする中、名を呼ばれた雪穂がいち早く我を取り戻した。
 近くに立つにこに向かって飛びつき、離れないよう必死に抱きついた。


にこ「わっまた!」

希「凛ちゃん攻撃!」

雪穂「凛さん!」


 にこに密着する雪穂にも確実に被弾する。
 それでも、先程の雪穂の覚悟を噛み締めて、凛は今度こそレーザーを射出した。
379: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:34:27.09 ID:ZQ1lJnb6.net
にこ「ぎゃっ!」

雪穂「っ!」


 ファンネル三機同時の攻撃は、一発は外れ、残りは雪穂とにこに一発ずつ命中した。
 雪穂の頭上に『9』、にこの頭上に『8』の数字が浮かぶ。
 レーザーの衝撃で二人は倒れるが、雪穂はにこを拘束する腕は離さなかった。


雪穂「凛さんもっとです!」

凛「わかった!」


 雪穂に応じて凛は再度レーザーを射出。
 今度は雪穂が上手い具合ににこを盾にして、にこにだけ一発命中。
 にこの頭上に『7』の数字が浮かんだ。


絵里「マズイわ……!」

希「その調子やん!」

にこ「あーっ! もう、離れてっ!」

雪穂「離しませんー!」


 仲間を巻き込む形で攻撃するという行為は凛の心を締め上げ、痛みを生んだ。
 けれど雪穂の捨て身の姿勢を見て腹を括る。
 三度目の攻撃のためボタンに指を添えた。


真姫「……なによこの混戦」


 何人目になるかという乱入者の声が響いたのはそのときだった。
380: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:37:07.97 ID:ZQ1lJnb6.net
真姫「こっちから叫び声がすると思ったら……」


 北階段の方から悠然と歩いてくる真姫の姿を見て、凛は愕然とした。

 現状真姫に最も近い位置にいるのは、今正に凛が攻撃せんとしていたにこと雪穂。
 今はまだ距離があるものの、このまま接近されると雪穂の必死の拘束が剥がされてしまう。


真姫「にこちゃん、随分楽しそうね」

にこ「楽しくないわよ! 早く攻撃して!」

真姫「任せなさい」


 真姫が駆け出すと同時に、凛はにこから狙いを変更して真姫に向かってレーザーを撃った。
 足止めは一瞬できたが、レーザー自体は鎌の一閃により掻き消され、再接近を許す。
 一秒の間を置いてファンネルから再度射出。
 真姫はレーザーを避け、最接近。
 ジリジリと距離を詰められていった。


凛「ぐぬぬぬぬ……!」

真姫「無駄よ! 遠距離のレーザーなんてちょっと邪魔なだけだわ!」


 真姫の接近を止めることができず、雪穂との距離を着実に詰められる。
 雪穂は逃げようにも、抱き着いていたはずのにこから抱き着かれ、その場から逃れられない。
 味方を守れない予感に怯え、凛は唇を噛んだ。

 しかし、凛の視界の中に、希望が舞い降りた。


凛「! ……………………ようし! 行けー!」


 凛の瞳に力が宿り、レーザーでの攻撃が改めて繰り返された。
381: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:38:19.13 ID:ZQ1lJnb6.net
真姫「無駄だって言ってるでしょ!」


 横薙ぎに振った大鎌でレーザーを掻き消す。


凛「行け行け行けーーーーー!」


 レーザーは執拗に真姫を足止めする。

 真姫の進軍は止まらず、雪穂とにこまで残り数歩と迫った。
 ここまで雪穂に接近されると、真姫を狙う際に雪穂まで誤って撃ってしまうことを注意しなくてはならなくなる。
 だが凛は危険を冒してまでも、残り数秒を耐えるために一斉掃射を続けた。


凛「行けーーー! 行けーーー!」

真姫「無駄よ、無駄無駄! ほら、何度でも掻き消してあげるわ!」

凛「行けーーーーー!」

真姫「射程に捉えたわ! チェックメイトよ!」

凛「いっけーーーーーーー!」


 最後には真姫はレーザーの迎撃を無視し、一発を身に受けながらもそのまま鎌を構え、雪穂に狙いをつけた。
 凛は叫んだ。


凛「行けーーーーー亜里沙ちゃん!」


 真姫の背後から猛烈な風圧が迫ってきた。
382: 名無しで叶える物語(もんじゃ【21:35 震度1】)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:41:18.91 ID:ZQ1lJnb6.net
 ドガン

 そうとしか言い様のない衝撃音が床から鳴り響いた。

 立っているままでも、足元から振動を感じる程の威力。
 勘だけで避けた真姫の眼前を上から下へと通過した10tハンマー。
 猛然と振り下ろされ、廊下に突き刺さり、足元に大きくヒビを入れた。


真姫「……………………」


 あと一歩遅ければ、脳天から全身押し潰されてしまったのでは。
 そう感じてしまうほどの恐怖に、攻撃しようとしていた手は完全に止まっていた。


亜里沙「……」


 真姫の背後から迫り、会心の一撃を躱された亜里沙だったが、すかさず狙いを変更。
 雪穂と抱き合うにこへとハンマーを振るう。


にこ「わあっ!?」


 にこは雪穂を突き飛ばす形で飛び退き、ハンマーを避けた。
 攻撃を外した亜里沙は空振りの勢いのままつんのめり、にこと雪穂の間を通り過ぎる。
 戦線の真ん中まで移動し、足を踏ん張って体勢を立て直すと、ハンマーを構えて真姫とにこの方へと目を向けた。


亜里沙「雪穂、大丈夫!?」

雪穂「亜里沙……うん、大丈夫! ありがとう!」
383: 名無しで叶える物語(もんじゃ【21:35 震度1】)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:43:41.05 ID:ZQ1lJnb6.net
『3F 小教室2前』 凛・希・雪穂・亜里沙 対 真姫・絵里・にこ


『3F小教室2』の前に、都合七名のプレイヤーが集まった。

 北廊下の東端から順に、ファンネルを構える凛、少し間を置いた場所に倒れて拘束する希とされる絵里。
 中央には最後に乱入してきた亜里沙。
 亜里沙の側に寄った雪穂と、亜里沙から離れたにこ、そして真姫。

 大人数での戦場を迎え、これまでにない異様な緊張感に満ちていた。
 全員が固唾を呑み、互いを注意しつつ、動けずにいる。
 戦場は一触即発の雰囲気に包まれた。


雪穂「助かったよ亜里沙」

亜里沙「うん。真姫さんを攻撃できればもっと良かったんだけど」

真姫「凛……私の後ろから来た亜里沙ちゃんが追いつくまでの時間を稼いだのね」

凛「チームワークの勝利だよ!」

にこ「まだ勝ってないでしょ!」

絵里「いい加減、離れてなさいっ!」

希「いやん激しいわあえりち」

真姫「楽しそうね、奥の二人……」


 互いに口を開くも、視線は各プレイヤー間を激しく行き交い、予断を許さない。
 誰もがきっかけを見出せることのないまま、焦りだけがどんどん募っていった。
384: 名無しで叶える物語(もんじゃ【21:35 震度1】)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:45:08.63 ID:ZQ1lJnb6.net
 最も早く思考を働かせたのは、床に転がって絵里の両腕を抱え込んでいた希だった。


希(人数の対比は四対三でウチら有利)

希(せやけど雪穂ちゃんは素手、ウチも同じ)

希(ここはこのまま戦うより、一旦退いた方が……)


 戦略を練り、集中力を欠いたことが仇となった。
 ずっと腕を拘束されていた絵里が、僅かな力の緩みを見逃さず、両腕を振り回す。


希「あっ!?」

絵里「隙ありよ!」


 寝転がったまま希の拘束から逃れると、その体勢のまま左腕を振るう。
 上方から振り下ろされた巨腕が希の腹に突き刺さり、希の体がくの字に折れた。
 頭上に『8』の数字が灯る。

 絵里の攻撃を合図に、膠着状態を迎えていた戦場は一斉に動き出した。
385: 名無しで叶える物語(もんじゃ【21:35 震度1】)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:46:47.30 ID:ZQ1lJnb6.net
 敵勢へと突撃とした真姫を制し、にこがその前に立った。


にこ「喰らいなさい!」


 目前に立つ雪穂と亜里沙に向かってチューブから催涙ガスを噴出させる。
 白煙は雪穂と亜里沙、絵里の攻撃を受けた希、そして戦線の中央に向かおうとした絵里を巻き込んだ。

 ガスを受けた内、三名がガスから逃れようとにこの立つ側から離れる中。
 最前で受けた亜里沙だけが、逆ににこの方へと走った。


亜里沙「雪穂下がって!」


 目をやられ、視界が効かないままに、ガスの白煙を突き破ってにこの真横に出る。
 催涙ガスを撒き散らすことに必死になっていたにこは、真横に立つ亜里沙のハンマーを見てもすぐには動けなかった。


亜里沙「やああああ!」


 ゴッ、という音は、床に叩きつけるよりは若干柔らかい衝撃音だった。
 それでも、バットのスイングのような形で真横から背中にハンマーを叩きつけられたにこの体は、面白いくらいに勢いよく吹き飛んだ。

 自身が撒いたガスの中をにこの体がバウンドしながら飛んでいき、戦線を一直線に横切る。
 頭上には『2』の数字が灯る。
 にこサイドの不運は重なり、飛ばされた体はにこの味方である絵里にぶち当たった。


にこ「ごげぇ!」

絵里「ぶわっ!」


 それでも吹き飛ぶ勢いは止まらず、にこと共に絵里の体も数メートル飛ばされた。
386: 名無しで叶える物語(もんじゃ【21:35 震度1】)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:48:29.78 ID:ZQ1lJnb6.net
 催涙ガスを浴びた中では最も遠くにいた希が真っ先に視力を取り戻した。
 足元には、ガスの向こうから吹き飛んできたにこと絵里が床に転がったまま伸びている。
 今のうちにこちら側から逃げれば攻撃を受けることはないと判断。


希「雪穂ちゃんこっち! ウチの声が聞こえる方にきて!」

雪穂「はい!」


 未だガスに視界をやられ、覚束ない足取りで希の声を頼りに雪穂は歩き出す。
 それを見て、ガスにやられていなかった凛が白煙へと飛び込み、手探りのまま雪穂の手を取って引っ張った。


凛「こっちだよ!」

雪穂「ありがとうございます!」

 二人して転がっている絵里とにこの横を駆け抜ける。
 ガスを抜けたところで雪穂の目も回復し、希と三人揃って戦線を離脱。

 逃げる間際、上体を起こした絵里に向かって凛はレーザーを撃った。
 狙いをつけないまま射出した攻撃だったが、一発が絵里に命中した。


絵里「!?」


 体の痺れを覚えた絵里は頭上に『6』を浮かべながらも、すかさず臨戦態勢を取る。
 しかしその頃には、凛たち三人の姿はその場から立ち去っていた。
387: 名無しで叶える物語(もんじゃ【21:35 震度1】)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:50:28.31 ID:ZQ1lJnb6.net
亜里沙「げほっ! げほっ!」


 チームプレイヤーを助けるために一人ガスの中を突っ切り、目をやられた亜里沙はその場で咳き込んでいた。
 にこを吹き飛ばしたまではなんとなくの位置関係で済ませることができても、これ以上は動けなかった。

 視界を閉ざされた亜里沙の体に、斬りつけられるような衝撃が走った。


亜里沙「くっ……!」


 予想はしていた。
 にこがガスを噴出した際、その背後には、真姫が立っていた。
 彼女はガスを浴びていない。
 周囲の様子は伺えないが、おそらくは間近で大鎌を構え、こちらを狙っているはずだ。


亜里沙「たあっ!」


 目を瞑ったまま適当にハンマーを振り回すも、当然のように手応えはない。
 攻撃が命中しないことには構わず、ハンマーを振り回しながら、真姫の背後へと突破し戦場からの離脱を計った。
 
 ようやく視界が薄らと回復する。
 ぼやけた視界に、斜め上空から迫る漆黒の刃が映った。


亜里沙「うぐぅ!」


 鎌は大きく弧を描き、その軌道の中に亜里沙の左半身を確かに捉えた。
388: 名無しで叶える物語(もんじゃ【21:35 震度1】)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:51:34.13 ID:ZQ1lJnb6.net
 二度目の攻撃を受け、亜里沙の頭上に『2』の数字が灯る。


真姫「逃がさないわよ……」


 大人数が集まり、一挙に敵を倒せるチャンスと見て攻め入ろうとした戦場。
 それを滅茶苦茶に破壊した張本人。
 せめて亜里沙だけは仕留めんと、真姫の刃が容赦なく迫る。

 亜里沙は逃げる足を止め、ハンマーで鎌を弾いた。
 そして先程にこに攻撃したときと同じく、野球のバッターが振りかぶるようにハンマーを高く構えた。


亜里沙「そおおおい!」


 目一杯の力を込めて、腰の高さで横殴りに振る。
 大振りな攻撃は容易に鎌でガードされるも、そのままハンマーを振り切った。


亜里沙「てやああああ!」

真姫「ぐうっ!」


 ハンマーの威力を殺しきれず、真姫の体は鎌ごと後方に吹き飛ばされた。
 体勢を立て直される前に、亜里沙は北階段へと離脱、階下へと逃れた。

 後には、凛たちの去った方を見つめる絵里、ハンマーに飛ばされ未だ目を回しているにこ。
 そして同じくハンマーの勢いで地に手を付けたまま、亜里沙を追うことができなかった真姫が残った。
389: 名無しで叶える物語(もんじゃ【21:35 震度1】)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:55:13.43 ID:ZQ1lJnb6.net
真姫「押し込めると思ったのに……」


 個々の戦力差では未だ自分たちに分があると感じており、事実その通りだろう。
 真姫個人として特に注意している穂乃果、そして成長していることりもこの場にはいない。
 にも拘らず、この場では一人も倒せなかった。


真姫(最後の邪魔さえ入らなければ……)


 亜里沙が消えた北階段の方を恨めしそうに睨みつけてから、絵里たちの下へと近づいた。


真姫「平気?」

絵里「なんとかね。私は直接叩かれていないもの」

真姫「でもにこちゃんが随分消耗させられたみたい」

絵里「亜里沙ね……あの子に完全に掻き乱されたわ」

真姫「姉の威厳を見せつけた方がいいんじゃない?」

絵里「ええ。次に会ったら、もうこんな勝手は許さない」


 床で伸びているにこを見ながら、絵里は両の拳を一度ぶつけ合わせた。


【凛 HP:10→8  希  HP:10→8
 雪穂HP:10→9  亜里沙HP:8→5→2
 真姫HP:10→9  絵里 HP:7→6
 にこHP:10→9→8→7→2】
390: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/29(水) 21:56:11.75 ID:ZQ1lJnb6.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP5  加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP8  ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP8  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9 復活スイッチ/威力0
・絢瀬亜里沙 HP2 10tハンマー/威力5


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP9  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP6  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


――――――――――
408: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 21:52:19.91 ID:CEJiQFrD.net
―――

『1F 体育館』 花陽


 体育館の広いフィールド。
 遮蔽物もなにも無い平坦な空間に、超巨大ローラー一つだけが異様な存在感を放っている。
 花陽は出入り口付近に陣取り、体育館に入ってくるプレイヤーを待ち続けていた。

 ローラーの高さにほとんど体が隠れる中。
 目線をローラー越しに出入り口へと向け、辛抱強く待つ。
 その眼光には、日頃内気な彼女には珍しく、強い意志が込められていた。


花陽(私はライブをしたい……)

花陽(スクールアイドルをやっている子なら、誰だってそう思うはずだもん)

花陽(海未ちゃんだって、この気持ちを理解してくれるはず)

花陽(私たちは全員揃っていなくても、ライブをするべきだよ……)


 スクールアイドルという存在へ向ける熱意。
 その意志が、日頃は温厚な花陽に、容赦なく敵を轢き潰さんという気概を持たせていた。
409: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 21:53:21.98 ID:CEJiQFrD.net
 花陽の武器である超巨大ローラーは、轢き潰せば一撃でプレイヤーを倒せるも、諸々の弱点がある。
 その最たるものが、反転と後退ができないという点。
 前方に敵を捕らえれば追うばかりだが、進行方向を一度誤ればそれ以降追うことはできない。
 更には、今のところそうした状況には陥っていないものの、背後を取られると一方的に攻撃されることになる。

 そうした弱点を緩和できる戦いの場が、体育館のような広域フィールドだった。


花陽(広い場所なら自由に方向転換できるから、みんなを追いかけやすいよね)

花陽(後ろを取られたってすぐに曲がれるし)

花陽(広い場所で戦うことができれば、もっと頑張れる)


 これまでの経験からして、フィールドの広さはそのまま武器の操作性の高低に直結することがわかっていた。
 例えば、ローラーは大教室内には入れても、小教室へはスペースの狭さから入れない仕様となっていた。
 また大教室内の移動にしても、遮蔽物の合間を縫っての移動となるので自由には動きづらい。
 廊下移動における一方通行の方が経路が定まっている分、まだ楽とも言えた。

 その考えの下、広域フィールドである体育館と屋上を定期的に移動しながら待ち伏せを続けている。
 だが今のところ一人として花陽の待つ場にやってくるプレイヤーはいなかった。


花陽(どうしたんだろ……そろそろ一人くらい来てもいいと思うのに……)


 体育館での潜伏も相応の時間を経過しており、花陽は見切りをつける。
 重々しい地鳴り音を鳴らしながらローラーを押し、出入り口から一階西側廊下へと出ていった。
410: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 21:54:27.09 ID:CEJiQFrD.net
 体育館から一階西側の廊下に出たところで左右を見渡す。
 すると、右側の突き当りに見える南西階段からちょうど誰かが下りてきたところだった。


花陽(……希ちゃんと、凛ちゃん。雪穂ちゃんも一緒だ)


 三人は花陽のいる方とは別の廊下へと走って行く。
 その様子を見て花陽は考えた。


花陽(もしかして、思ってる以上にみんな一緒に固まってるのかな)

花陽(ルールだとそんなに固まって動いちゃいけないってあるけど……)

花陽(でも、みんな固まって行動してるから、あんまり会わないのかも)


 予想を立てた花陽に、一つの策が思い浮かんだ。
 口角がゆっくりと上がる。


花陽(じゃあ……まずはみんなをバラバラにしないとね)
411: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 21:56:37.09 ID:CEJiQFrD.net
―――

『1F 講堂』 凛・希・雪穂


希「さーて、どうしよっか」

雪穂「亜里沙大丈夫かな……」

凛「亜里沙ちゃんのお陰で逃げられたもんねー」


『3F小教室2』前での大混戦から離脱した三人は、ひとまず固まって講堂まで逃げた。
 座席の陰に隠れ、落ち着きを取り戻してから現状を振り返ると、三人を逃がすために一人残った亜里沙のことが気にかかった。


希「本当は亜里沙ちゃんも一緒に逃げたかったんやけど」

凛「亜里沙ちゃん強いもんね!」

希「強いし、それにほら、ルールでは同じチームのプレイヤーが三人以上集まったら駄目ってあったやん」

希「せやから今は逃げた直後だからいいとして、この後少なくとも誰かは別行動しないといけないんよ」

雪穂「そっか、単独行動を避けるために二人と二人で分けられるのが理想だったんですね」

希「そういうこと。せやけど亜里沙ちゃんがおらんから、少なくとも一人は単独行動になるね」

凛「誰が一人になるの?」

希「ま、ウチやろなあ。雪穂ちゃんは誰かと一緒がええやろし、ウチなら一人でも逃げ切れるから」

雪穂「すみません……」

希「ええって。これがウチの武器の強味やからね」
412: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 21:57:48.28 ID:CEJiQFrD.net
凛「ねえ、亜里沙ちゃんの様子見に行ってみない?」

希「見に行くって、また三階のさっきのところに戻るってこと?」

凛「うん。もし亜里沙ちゃんがまだ戦ってたら一人対三人だもん!」

希「さすがにそうなったら逃げると思うけど、逃げられない可能性はあるね」

雪穂「私もできれば亜里沙を助けたいです!」

希「こうやって講堂に隠れ続けるつもりもないし、じゃあちょっと戻ってみよっか」

凛「うん!」

希「でもさっきみたいに大乱闘はせえへんよ。もしまだ戦っていても、サッと乱入して、サッと亜里沙ちゃん連れて逃げる」

希「もし亜里沙ちゃんがいなくてえりちたちだけなら、戦わないまま逃げる」

凛「了解にゃ!」

雪穂「わかりました!」

希「じゃ、ウチは北階段の方から行こっかな。二人は南東の階段から上がってみてよ」

雪穂「『3F小教室2』で合流ですね!」

凛「ようし、雪穂ちゃんよろしくね!」
413: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 21:59:30.30 ID:CEJiQFrD.net
『3F 北階段』 希


希(……誰もおらへん)


 北階段を三階まで一人で上がった希は、角からこっそりと北側廊下の様子を伺う。
 先程まで自身を含め七人のプレイヤーが集っていた『3F小教室2』前には誰も残っていなかった。


希(ウィンドウで確認する限り、亜里沙ちゃんはまだリタイアしていない)

希(となると上手く逃げられたんかな)


 予想を巡らせていると、階上から話し声が聞こえてきた。


希(! 屋上の方や!)


 相手の正体を知るまでは姿を見せるのは良くないと判断し、廊下側に隠れ、階段側から姿を見られないようにする。
 角に潜んで聞き耳を立てていると、屋上から二人分の声が降りてくるのがわかった。


希(…………真姫ちゃんと、にこっちか……屋上の様子見てたんやね)
414: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:03:57.82 ID:CEJiQFrD.net
 屋上から下りてきた真姫とにこは今後の策について話しながら、降り立った三階の廊下を一度見渡す。
 誰もいないことを確認すると階段側へと引き戻し、そのまま北階段から二階へと降りた。

 二人が去った後、三階と屋上間の踊り場に、ひょっこりと希の姿が表れた。
 マントを畳みながら階下を伺い、二人が去ったことを確認する。


希(ウチが北階段選んで良かったわ)


 ホッと一安心してから、再度廊下の様子を伺いつつ、『3F小教室2』の方へと慎重に移動する。
 廊下だけでなく、教室内を覗くも、誰の気配もない。
 北東の曲がり角の先を覗き込んでも誰もいない。
 東廊下の先に続く南東階段を見据えながら、希は一つの懸念を覚えた。


希(凛ちゃんと雪穂ちゃん、まだ上がってこないんかな……)


 今しがた真姫とにこをやり過ごしたことで少しばかり時間を使っている。
 にも関わらず、ほぼ同時に別ルートでの行動を開始した仲間たちの姿が未だ現れない。


希(真姫ちゃんたち以外の敵と遭遇してしまったん?)


 頬に冷汗が流れた。
415: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:06:38.67 ID:CEJiQFrD.net
『2F 南東階段』 凛・雪穂


 一階南東の曲がり角を慎重に覗き込み、南側廊下に人影がいないことを確認。


凛「ふう」

雪穂「誰もいませんね」

凛「やっぱりまだ上の方にいるのかも」


 二人は南東階段へと向かい、敵が待つかもしれない上層階へと上がる。


雪穂「亜里沙、無事だといいけど……」

凛「さっきは危なかったもんねー」

雪穂「あのとき亜里沙がいなければ私は真姫さんに攻撃されていました」

凛「それにあんなゴチャゴチャしてる中からみんなで逃げられなかったよ」

雪穂「まだ戦ってるのかなあ」


 話をしながら階段を上る二人。
 凛が先に二階へと上がり、そのまま三階へ向かおうと手摺りに沿って反転する。

 階上から重々しい音が下りてくる。
 凛の正面に音の正体が現れた。
416: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:09:01.56 ID:CEJiQFrD.net
花陽「見つけた」

凛「うわっかよちん!」


 凛が上ろうとした階段のすぐ先。
 南東階段の二階と三階間の踊り場を、超巨大ローラーが阻んでいた。


花陽「話し声がしたから、一人じゃないよね」


 ローラーの重さに任せるように、花陽は階段を一気に駆け下りる。
 思わず凛は階段から離れ、二階の廊下側に逃げた。
 遅れて花陽も二階へ出るも、走り去る凛を追わず、階下へと顔を向ける。


雪穂「あっ…………」


 二階に上がる寸前で、目前に現れた鉄塊に愕然としている雪穂を視界に捉える。
 花陽は満足そうに微笑んだ。


花陽「分断作戦……早速成功だね」
417: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:11:02.47 ID:CEJiQFrD.net
『2F 南東階段』 雪穂 対 花陽


 花陽は迷わず階下へと進路を決めた。

 自身へと向くローラーを目にして雪穂は即座に反転した。

 ガランガランと、鉄のぶつかる音が鳴り響く。
 階段の高低差により高所から降ってくる騒音は余計に恐怖心を煽った。
 怯えるあまり声も出せないまま、涙を浮かべて南東階段を駆け下りる。
 一階へ降りると左に曲がって南廊下へ。
 間を置かず、花陽のローラーが廊下に着地するズドンという音がした。


雪穂(また! またきた! 怖い! しかも階段移動したのに全然離れない!)


 ほんの数メートルという間を置いての鬼ごっこが始まる。
 近づく程に大きくなる地鳴り音と足元の振動は悪夢でしかなかった。


花陽「雪穂ちゃん捕まっていいんだよ」

雪穂「絶対に嫌です!」

花陽「ゲームに乱入する形で参加したんだもん、リタイアしても変わらないよ」

雪穂「変わります! 海未さんの休息を手に入れるんです!」

花陽「大丈夫、安心して」


 地鳴り音に掻き消されつつある花陽の声色が変わった。


花陽「雪穂ちゃんたちが満足してもらうために、最高のライブができるよう、頑張るから!」


 ローラーの速度が増した気がした。
418: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:13:03.40 ID:CEJiQFrD.net
 南側廊下を走り、南西階段に辿り着いた雪穂は階段から二階へと向かう。
 しかし、本戦開始直後に花陽に追われた際とは異なり、階段移動によるアドバンテージは生まれない。
 階段の移動を経ても、雪穂と花陽の距離は広がらなかった。


雪穂(移動がスムーズになってる……全然引き離せない!)


 二人の距離は広がるどころか、僅かに狭まってきていた。
 追う側の花陽が、意地でローラーを押し込んでいた。


花陽(絶対勝つ…………いい加減、追うだけじゃ駄目)

花陽(追いついて、敵を、倒すの!)


 ジリジリと迫る圧力に雪穂の気がやられそうになる。
 南東階段前まで戻ると、先程と同じく一階へと降りる。
 すぐさま追いついた花陽はローラーを横滑りさせて階段のスペースに無理やり捻じ込んだ。

 ギャリギャリギャリギャリズゴン!


雪穂(なんなのあの音!?)


 背後に迫る音が怖すぎて涙が出てくる。
 体が震えてきて、走る足にまで震えが伝わってしまいそう。
 あまりにも恐怖が大きすぎて、後ろを振り向くことさえできなかった。
419: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:14:41.70 ID:CEJiQFrD.net
 同じ経路をループするように、一階南側廊下を西へと向かって走る雪穂。
 距離にして五メートルも開けずに追う花陽。
 そこまで長時間走っていないにも関わらず、雪穂は心なしか息が切れてきた気がした。


雪穂(違う、これは怖がって息が詰まっただけ! 疲れてるんじゃない!)

雪穂(負けるな負けるな! せめてもっと役に立つ格好でリタイアしなきゃ!)

雪穂(ああああでも音うるさいいいい怖いいいい嫌あああああっ!)


 階段移動により距離を開けなくなった雪穂はただ廊下を走るしかなく、南西の角を右に曲がる。
 廊下の移動だけでは距離を詰められているが、最早そこまで考えが至らなかった。


雪穂(嫌! 嫌! 嫌! 嫌! 嫌!)

雪穂(怖い怖い怖い怖い怖い!)


 背後で唸る地鳴り音が耳に反響しすぎて思考がまとまらなくなる。
 なにがなんだかわからなくなってきた。
420: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:15:41.42 ID:CEJiQFrD.net
雪穂(助けて…………助けて…………)


 ローラーに追いつかれそうになりながらも、ギリギリのところで北西の角を右折。
 一秒前に雪穂の曲がった角を即ローラーが通過。
 北側廊下を雪穂は死にもの狂いで走る。


雪穂(…………助けて!)


 人影が、あった。

 視界は涙に滲んで霞み、まともに前も見えない。
 距離にしてもまだ遠く、容貌もはっきりと映らない。
 それでも、正体はすぐにわかった。

 声の限りに雪穂は叫んだ。


雪穂「助けてっ! お姉ちゃんっ!」
421: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:19:03.37 ID:CEJiQFrD.net
『1F 北廊下』 雪穂・穂乃果 対 花陽


 北階段を一階まで降り、廊下に出た穂乃果は、右から迫る圧力を察して身構えた。
 直後絶叫が響く。


雪穂「助けてっ! お姉ちゃんっ!」


 目を見張る。
 ローラーに追われる雪穂が穂乃果の方へと逃げてきていた。

 走るフォームは崩れかけていて、まともに走ることができていない。
 体の動かし方は不恰好で、表情もぐちゃぐちゃで。
 あんなに泣き散らしている雪穂を見るのは久しぶりだった。

 妹が、恐怖に怯えて泣きながら、私に助けを求めている。


穂乃果「…………」


 雪穂の姿を捉えた瞬間、穂乃果の表情が消えた。
 体の熱が一気に冷えていく感覚。
 それとは真逆に、胸の内には激しく湧き上がる感情の爆発が生まれた。


穂乃果(…………助けなきゃ)

穂乃果(ゆきほがないてる)

穂乃果(たすけなきゃ)


 構えを解き、雪穂へと向かって全速力で駆け出す。
 奥から迫るローラーへの恐怖は無かった。
422: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:21:21.20 ID:CEJiQFrD.net
 雪穂―――

 走りながら、右腕を背後に振りかぶる。

 雪穂―――

 物を投げつけるように、高く持ち上げた右腕を前に突き出す。

 雪穂―――

 腕の振りに沿って動く鎖、その先に繋がる鉄塊の軌道を定め、加速器を点火。


 ―――今、お姉ちゃんが助けてあげる


 穂乃果を越え、雪穂も越え、超高速のモーニングスターがローラーへと飛んだ。


穂乃果「うわああああああああああっ!」


 持ち得る全力を投じて鉄球を放った。

 高く翳した腕の軌道のままに上空を飛ぶ鉄球は、当然のように廊下の天井にぶつかる。
 だか穂乃果はそのまま腕を、鎖を、鉄球を押し出すようにして、天井を深く削りながら鉄球を前方に飛ばした。


穂乃果「止まれえええええええええっ!」


 逃げる雪穂と入れ違いにローラーへと立ち向かう。
 腕を思いきり振り下ろし、鉄球の軌道を下方向へと変更。
 天井に跡を残して飛んでいた鉄球は一気に床へと落ちた。
 遠心力と加速器の勢いのまま超高速で降下した鉄球は、激しい衝撃音と共に、床の真ん中に深々と突き刺さった。

 花陽が押すローラーが、半ば床に埋まった鉄球と接触した。

 重量のある鉄と鉄がぶつかる重低音。
 衝撃波のようなものさえ発生したかのように感じられた。
423: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:23:01.21 ID:CEJiQFrD.net
穂乃果「………………………………はあっ…………はあっ」


 妹を押し潰さんとしていた超巨大ローラーを、自身に触れる寸前の位置で、穂乃果は睨みつけていた。

 真正面から迫るローラーは、動きを止めていた。
 床に半分埋まっていた鉄球が楔となり、ローラーを押し止めた形となった。
 鉄球は埋まったままに五十センチほど押し込まれるも、それ以上の接近を許さなかった。

 全力で駆けていた花陽は、壁と正面衝突したかのように突如止まったローラーに体をぶつけ、反動で後方に飛ばされていた。


花陽「痛い…………止まった……? 私のローラーが?」

穂乃果「花陽ちゃん……」


 倒れた格好の花陽からはローラーの陰に隠れて見えないが、穂乃果の声がする。
 穂乃果が花陽の方へと走ってきているのは見えていた。
 だからといって、進攻を止められるとは微塵も思っていなかった。

 花陽は立ち上がり、ローラー越しに穂乃果へと視線を向ける。


花陽「穂乃果ちゃん……止めたんだ、私のローラー」

穂乃果「雪穂は潰させない…………絶対に守る」
424: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:24:51.38 ID:CEJiQFrD.net
 穂乃果の視線は怖かった。

 なにか大切なことをするとき、決断をするときに穂乃果が見せる、意志の強い眼差しだった。
 その瞳が、今、敵意をもって花陽へと向けられている。

 花陽は動きを止めたローラーの表面に手を当てた。
 ゲーム中、何者を相手にしても、蹴散らしてきていた自慢の武器。
 この武器に思いを乗せて、阻むものを全て押し退けて、自分の願いを叶えられると思っていた。

 ライブという、アイドルが光り輝く特別な舞台。
 その機会を大切にすることが間違いだとは思わなかった。
 例え仲間が倒れても、状況が悪くても。
 ライブをすることは、スクールアイドルである花陽にとって、絶対に必要なことだった。


花陽「穂乃果ちゃん…………お願い。邪魔、しないで」

穂乃果「できないよ。私は海未ちゃんのために、ライブを止める」

花陽「駄目だよ……ライブはしないと。スクールアイドルなんだから」

穂乃果「ライブだけがスクールアイドルじゃないよ! 他にも大切なことはある!」

花陽「じゃあライブをしないスクールアイドルってなんなのっ!?」


 花陽の叫び声がローラー越しに穂乃果に突き刺さった。
425: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:26:38.48 ID:CEJiQFrD.net
花陽「問題があったからライブをやめる、万全じゃないからライブをやめる」

花陽「それじゃいつまでもライブなんてできないよ!」

花陽「私だってみんなで一緒にライブをしたい……海未ちゃんと一緒にしたい……」

花陽「だけどスクールアイドルってそういうのじゃないの!」

花陽「厳しいこともあるけど、それを受け止めて、乗り越えないといけないのっ!」


 アイドルへの憧れが強い花陽にとって、アイドルに関する拘りだけは譲れなかった。

 今回の騒動で海未が倒れたとき、心から胸が痛んだ。
 だからといって、ライブを中止するという判断はできなかった。

 かつて、同じようなことが穂乃果の身に起きた。
 そのときはみんなの判断で、もっと大きな決断をした。
 様々な状況が折り重なっていたタイミングでもあり、あの場では諦めることが適切だったと感じていた。

 しかし、今回は以前と異なり、タイミングの悪さが極まっているわけではない。
 一度だけ万全ではないライブを乗り切れば、その後は元の軌道に戻せる。
 だから今回はライブをすべきだと花陽は考えていた。


花陽「私は海未ちゃんのことが好き…………でも、同じくらい、スクールアイドルが好き…………」

花陽「ライブを強行しようっていうのが、海未ちゃんを苦しめちゃうっていうのもわかる」

花陽「でも、ライブをしなくても、別の意味で海未ちゃんが苦しんじゃうっていう意見もわかるの」

花陽「だったら、同じことなら…………私は、私のやりたいことを選ぶ!」
426: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:29:20.36 ID:CEJiQFrD.net
 花陽はローラーの持ち手を握る。
 動かなくなったローラーを押す足を踏ん張る。


花陽「このゲームで決着がつけば……例え負けても、私は結果に納得できる」


 いくら押そうとも、床に突き刺さった鉄球が邪魔となり、ローラーは微動だにしない。


花陽「だからこそ、私の希望が叶う可能性がある限り、私は諦めない」


 何度押してもローラーは動かない。


花陽「絶対に、ライブを強行してみせる!」


 握っていた持ち手を離し、少しだけローラーとの距離を空けてから、体ごとぶつけるようにして押し込んだ。
 
 ズッ
 
 ローラーと鉄球のズレる音がした。


穂乃果「…………完全には止められないみたいだね」

花陽「…………私は……絶対に、止まりません!」
427: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:30:52.90 ID:CEJiQFrD.net
 花陽が体をぶつける度に、ローラーは僅かに前に進んだ。
 ローラーの動きを止めていた鉄球は、めり込んでいた床から少しずつ浮き上がる。


穂乃果「雪穂、そのうち止められなくなるから先に逃げて」

雪穂「でも……」

穂乃果「今はまだ大丈夫だけど、このままだと多分鉄球を持ち上げられちゃう」

穂乃果「私は大丈夫だから。先に行って」

雪穂「…………わかった。助けてくれてありがとう、お姉ちゃん」

穂乃果「うん」

雪穂「格好良かったよ!」

穂乃果「へへっ」


 穂乃果の指示を受け、雪穂は先にこの場を後にする。
 そうしている間にも、鉄球は床から徐々に剥がされていた。


花陽「……私はっ…………ライブをっ…………絶対にっ…………やりたいっ……」


 ズッ ズッ ズッ ズッ

 体をぶつける毎に動くローラー。
 楔の意味を成さなくなる鉄球。
 均衡が崩れる瞬間を、緊張感を湛えながら穂乃果は待ち構えた。
428: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:33:05.87 ID:CEJiQFrD.net
 何度目かに押し込まれたローラーに力負けし、遂に鉄球が床から抜けた。


花陽「行けーーー!」


 身動きが取れるようになった花陽は即座に穂乃果へと迫った。

 鉄球を外された穂乃果は、一瞬加速器を点火させて自らの方に鉄球を戻す。
 途中で鎖を掴み、戻ってきた勢いをそのままに鎖を振り回して方向転換、高く弧を描いて前方に飛ばす。
 ローラーを跳び越し、その向こうに立つ花陽を上空から狙った。


花陽「きゃっ!?」

穂乃果「……惜しいっ!」


 ローガー越しの攻撃に驚いた花陽は、両腕で頭を守ってしゃがみ込む。
 鉄球は花陽の脇に逸れ、ローラーに当たって重い衝突音を鳴らした。

 初めて攻撃を受けたことで持ち手から手を離してしまい、ローラーの動きは止まる。
 動きが止まった隙に穂乃果は鉄球を回収して逃走。
 不意の攻撃を受けた花陽もなんとか立ち上がり、距離が開いてしまった穂乃果の後ろ姿を追った。
429: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:35:04.49 ID:CEJiQFrD.net
―――

『2F 南廊下』 雪穂 対 絵里
 

 穂乃果の足止めのお陰で花陽から逃げることができた雪穂。
 北階段から二階に上がり、ひとまずは落ち着ける場所を求めた。


雪穂(怖かった…………ゲームだけど死ぬかと思った…………)

雪穂(お姉ちゃん……)


 姉への感謝を胸に、隠れられる場所を求め、遮蔽物のある『2F大教室』へ向かうことを決めた。
 各階の大教室は南側の廊下にあることを思い出し、雪穂は行動を開始。
 時計回りに廊下を移動し、曲がり角に差し掛かる度に向こうの様子を確認して、慎重を期して進んでいった。


雪穂(私は本当に駄目だ……敵と遭遇したら、なにもできない)

雪穂(仲間と合流するんじゃなくて、ずっと隠れてたほうがいいのかも)


 弱気な感情が芽生えだした雪穂は、逃避のために大教室へと向かう足を急ぐ。
 南東の角から飛び出し、南側廊下の中央にある大教室へと走った。

『2F大教室』まで十五メートル程と迫った頃合い。
 正に向かおうとしていた教室の出入り口から、プレイヤーの一人がゆるりと廊下に身を現した。


雪穂「……嘘…………また…………」

絵里「……僥倖、かしらね」


 一難去ってまた一難。
 無防備の雪穂は、再び敵勢である絵里と対面した。
430: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:36:59.54 ID:CEJiQFrD.net
 一も二もなく逃げた。


雪穂(なんでっ、なんでいっつも敵とばっかり会うのっ!?)


 当然後方からは絵里が追ってくる。
 三年分年上で身体能力の高い絵里は、僅かな時間ですぐに距離を詰めてきた。


雪穂(駄目だ、花陽さんよりずっと早い!)


 曲がり角を折れて東側廊下を北上するが、背に迫る気配はありありと感じられた。
 立て続けの逃走にうんざりしたくなるも必死過ぎてそれどころではない。

 逃げることに専念していた雪穂は、名を呼ばれるまで気付かなかった。


亜里沙「雪穂っ!」

雪穂「!?」


 逃げる雪穂の前方。
 北東の角に亜里沙が立っていた。

 今度もまた仲間に駆け付けて貰い、心底安心した。
431: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:39:20.29 ID:CEJiQFrD.net
『2F 東廊下』 雪穂・亜里沙 対 絵里


 亜里沙はハンマーを構え、親友を追う姉の姿をしっかりと捉えた。


亜里沙(お姉ちゃん……!)


 絵里もまた、二人目の敵として登場した妹の姿を認めた。


絵里(亜里沙……もう邪魔はさせない!)


 亜里沙が駆け出し。
 絵里は雪穂ではなく、迫る亜里沙を見据える。
 
 亜里沙は雪穂との擦れ違いざまに叫んだ。


亜里沙「先に行って雪穂!」


 後方に置いてきた親友から名を呼ばれるも、意識は目前に迫る姉にのみ集中させた。
 絵里もまた、二度目となる姉妹対決を迎え、集中力を高めた。


絵里「ケリをつけるわよ亜里沙!」

亜里沙「行くよお姉ちゃん!」
432: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:40:44.14 ID:CEJiQFrD.net
亜里沙(お姉ちゃん……お姉ちゃんの敵に回る形で、海未さんを守る側についてごめんなさい)

亜里沙(だけど私は九人揃ったμ'sが好きなの!)

亜里沙(お姉ちゃんも大好き。だけど今回だけ、海未さんの味方をさせて!)

亜里沙(海未さんをこれ以上無理させないために、お姉ちゃんを叩く!)



絵里(亜里沙…………今まではずっと私の味方をしてくれたわね)

絵里(けれどあなたには、海未っていう、私以外に大切にしたい人ができたのね)

絵里(いいわ。妹であり、私たちを応援してくれるファンである亜里沙を、敵と見做す)

絵里(海未の心の平穏のために、散りなさい!)


 姉と妹の唸り声が重なった。
 二人は同時に己の武器を前に突き出す。
 正面から噛み合ったハンマーと拳は、各々を大きく弾き飛ばした。

 ハンマーを弾かれた亜里沙は、弾かれた勢いのままに時計回りに回転。
 姉に向かって左側の脇を狙った二発目を振り回す。

 右腕を弾かれた絵里は足を踏ん張り、続けざまに左腕を振るう。
 弧を描くフックのような軌道で亜里沙の側頭部を狙った。

 打撃音と共に、攻撃を受けた体が吹き飛んだ。
433: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:43:06.54 ID:CEJiQFrD.net
 横合いに攻撃を受ける形となった絵里は、右脇腹に衝撃を感じるも、直後壁に叩きつけられた左半身に意識を持っていかれた。

 対する亜里沙もまた、殴られた頭から絵里とは向かい側の壁へと飛ばされ、体をしたたかに打ち付けた。

 武器による殴打、並びに吹き飛ばされた痛みは感じない。
 それでも余りに激しい勢いで壁に身を打ち付けた衝撃は残る。
 二人は共に身動きの取れぬまま、向かい合う壁にそれぞれ背を付けて床に座り込んだ。


絵里「……相撃ちね」

亜里沙「……うん」


 絵里の頭上に『1』の数字が灯る。
 そして、亜里沙の頭上には『0』が。


亜里沙「負けちゃった……」

絵里「チームでは、ね。個人の戦いでは、私と互角だったわ」

亜里沙「そっか……」


 亜里沙の全身から靄が生じ、体の末端から亜里沙の体が掻き消えてゆく。
 武器であるハンマーも共に徐々に形を崩していく。
 その様子を絵里は寂しく思い、そんな姉の表情を亜里沙は悲しく思った。
434: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:44:39.92 ID:CEJiQFrD.net
亜里沙「ごめんねお姉ちゃん、仲間になれなくて」

絵里「いいのよ。このゲームの間だけは本気の喧嘩をして、終わったら後腐れなしなんだから」

亜里沙「うん。私、敵だったけど、お姉ちゃんのことも、敵チームの皆さんのことも、大好きだよ」

絵里「知ってるわ。みんなだって、亜里沙のことを愛してくれてるいるもの」

亜里沙「そっか……よかったぁ」


 亜里沙の意識が遠のいてゆく。
 最後だからと、自身のチームプレイヤーには申し訳なく感じながら、亜里沙は本心を口にした。


亜里沙「私、敵だけど、お姉ちゃんのことも応援してるからね」

絵里「…………ありがとう、亜里沙」

亜里沙「じゃあ、また現実世界で会おうね」


 薄らと浮かべた笑顔を最後に、亜里沙の意識が失われ、同時にその姿もフィールドから消えた。


絵里「…………」


 絵里は感慨に浸るも、周囲を見渡し、雪穂が既にこの場から去っていることを確認する。
 追うべき相手がいなくなったことを認識して、今度こそ集中力を霧散させ、大きく息をついた。
 
 今だけ、もう少し、このまま休んでいよう。


【絵里 HP:6→1

 亜里沙HP:2→0  リタイア】
435: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/07/31(金) 22:45:42.28 ID:CEJiQFrD.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り5名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP5  加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP8  ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP8  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP9  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


――――――――――
451: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:12:01.03 ID:IAd6BKdV.net
―――

『1F 南廊下』 穂乃果 対 花陽


 角を曲がり、廊下を走り、鎖を握る手に力を入れる。
 しばらく走った後に体を反転、加速器を点火。
 今しがた曲がった角を同じくこちらへと曲がってくるローラー目がけて鉄球を投擲。


穂乃果「たあー!」

花陽「ふんっ!」


 高い軌道を描く鉄球は天井を擦りながら飛び、ローラーの向こうの花陽を狙う。
 ローラー越しの攻撃を察知し、持ち手から離れ、しゃがんで避ける花陽。
 持ち手を離したことでローラーの進行は止まり、避けられたことで鉄球も外れる。

 双方攻撃の手が止まり、間を置いてから追いかけっこを再開。
 穂乃果は鉄球を手元に回収して逃走、花陽は立ち上がって持ち手を握りローラーで追走。

 同じやり取りが一階廊下にて何度も繰り返されていた。

 時計回りに一階を駆け回り、曲がり角を曲がったところで穂乃果が勝負を挑む。
 軌道を工夫し、ローラーを飛び越える形で鉄球を飛ばす。
 花陽はその攻撃を避け、且つ極力ローラーの動きを止めずに距離を詰める。

 おおよそ三メートルから五メートルの間隔を維持しながら、二人は延々と走り続けていた。
452: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:13:37.99 ID:IAd6BKdV.net
穂乃果(花陽ちゃんはよくしゃがむから、もう一歩踏み込まないと!)


 対策を練った穂乃果は、次の廊下の角を曲がった際に再度鉄球を飛翔させる。
 一歩踏み込むことでローラーとの間隔を詰められるが、攻めの姿勢は崩さない。


花陽(さっきより穂乃果ちゃんが近い!)


 同じ回避行動ばかりでは的になると読んでいた花陽は避ける動きを工夫。
 持ち手を左手一本で掴みながら、右半身を思いきり退く。
 半身になった花陽の鼻先を通過した鉄球は、ローラーにぶつかって火花を散らした。


穂乃果(しゃがまないで避けた!?)

花陽(怖いっ! 目の前通った! でも持ち手を離さない分穂乃果ちゃんとの距離は縮んだ!)


 追走までのブランクを短縮した花陽は距離を詰める。
 接近を許した穂乃果は急いで逃げる。

 これまで誰しもが花陽のローラーを前にしては無力だったが、初めてまともな戦闘が行われていた。


穂乃果(私がやらなきゃ……)

穂乃果(このローラーだけは、私が倒さなきゃ!)
453: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:16:08.67 ID:IAd6BKdV.net
 廊下を曲がり、花陽を待ち構えて鉄球を投擲。
 今度は花陽は動きを一歩だけ遅らせることで狙いをズラし、鉄球をローラーで弾く。
 即座にローラーを走らせ尚距離を詰める。

 ローラーから逃げる穂乃果は、遠く廊下の先に人影が見えるのに気付いた。


穂乃果(誰だろ!? 味方なら逃げて欲しいっ)

穂乃果(敵なら挟み撃ちにされるけど、でもローラーに巻き込まれるかもしれないからこっちに攻めてこないかも)


 目を凝らして見ると、向こうも穂乃果たちの存在に気づき、自前の武器を掲げた。
 黒光りする大きな刃には見覚えがあった。


穂乃果(……真姫ちゃんだ!)

穂乃果(どうしよう……挟み撃ちにされるけど、真姫ちゃんだって花陽ちゃんのローラーは怖いはず)

穂乃果(このまま逃げてくれないかな)


 しかし希望通りにはいかず、真姫は果敢に穂乃果の方へと走ってきた。
 ローラーに巻き込まれる危険を顧みない腹の据わった行動だった。


穂乃果(さすが真姫ちゃんだね、逃げたりしない)

穂乃果(わかった、それでいいよ。ここで決着をつけよう!)


 穂乃果は廊下を周回しての攻防に見切りをつける。
 南廊下の中央付近に面している『1F大教室』の前に来ると、迷わず中に飛び込んだ。
454: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:18:40.68 ID:IAd6BKdV.net
『1F 大教室』 穂乃果 対 花陽・真姫


『1F大教室』の造りは家庭科室を模した外観だった。
 しかしゲームフィールドとしての機能を考えると、外観はさほど重要ではない。
 大切なことは、フィールド内の作業台が遮蔽物になることだった。

 作業台は等間隔で並べられ、その間を通路として移動できる。
 通路の幅はローラーの移動が可能となるように十分な距離がある。
 長方形の作業台は縦に三つ、横に三つ並び、その間を4×4の木目上に通路が展開されている形となる。

 大教室うち、前方の出入り口から花陽が踏み込んできた。


花陽「逃げるのやめるんだね」

穂乃果「前から真姫ちゃんがきたから挟まれちゃうもん。ならここで戦うよ」

真姫「覚悟はいいけど、逃げ場はないわよ」


 続いて大教室の後方にあたる出入り口から真姫が入ってくる。
 花陽と真姫は各々出入り口の前に陣取り、穂乃果を逃がさないとばかりに立ち塞がった。


真姫「ここから逃がさない」

穂乃果「逃げないよ」

花陽「一人で私たちと戦うんだ」

穂乃果「そう……私は逃げないで戦う」


 作業台の周辺には背もたれのない椅子が並べられている。
 穂乃果はそこに足をかけ、窓際中央の作業台の上によじ登る。
 右腕に鎖を巻き付けながら、敵である二人を見下ろした。


穂乃果「私がみんなを倒す!」
455: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:21:03.07 ID:IAd6BKdV.net
 作業台の上に立つ穂乃果へと、両脇から花陽と真姫が迫った。


花陽(ローラーじゃ台の上には上れない)

花陽(まずは真姫ちゃんに頑張ってもらって、作業台から下ろしてくれるのを待たないと)


 花陽の意図は当然真姫にも伝わっていた。


真姫(まずは台の上から通路に引き摺り下ろす)

真姫(そこに花陽を向かわせて、穂乃果を倒す!)


 穂乃果の立つ作業台によじ登るため、台周辺の椅子を足掛かりにしようとしたところで、


穂乃果「させないよ!」


 足をかけようとしていた椅子に向かって鉄球が飛んできた。
 真姫は椅子を目前にしたところで踏み止まる。
 鉄球が命中した椅子が粉々に砕け散った。

 高低差のある攻防は、射程のある武器を持つ穂乃果の独壇場となった。
 加速器の唸りと鎖の擦れる音を鳴り響かせながら、作業台の周囲を回る真姫を一方的に攻撃した。


真姫「ったく、こっちの武器は遠くまで届かないのに……!」

穂乃果「ここは私が有利かもね!」

真姫「調子に乗らないでよっ!」


 立て続けに飛来する鉄球の雨を捌きながら、真姫は意地で椅子に飛びつく。
 そのまま穂乃果の立つ作業台に飛び移り、台上の狭いスペースで二人が向き合った。
456: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:23:59.16 ID:IAd6BKdV.net
真姫「至近距離は私の支配下よ!」


 距離を詰めた状況では鉄球のダイナミックな動きも威力が半減する。
 真姫は鎌の柄を短く持ってコンパクトなスイングを繰り出した。

 一振り目を穂乃果は後退して避け、二振り目は鎖を使って鎌の軌道を逸らした。
 立て続けに鎌を振るいながら、近距離に立てば有利と踏んでいた真姫は違和感を覚えた。


真姫(射程の長い武器を持つ穂乃果相手なら、流石に近距離戦じゃ私の方が有利……のはず)

真姫(なのに、この距離で攻撃してるのに、全部捌かれてる)

真姫(武器の扱いだけじゃない、体捌きまで巧みになってるっていうの?)

真姫(まるで、そう……私のように)


 横から迫る鎌を潜り、縦から迫る鎌を体を一歩ズラすことで避け、飛んでくる刃を鎖を巻いた右腕で防ぐ。
 至近距離からの攻撃を捌く穂乃果は自身の体の軽さを感じていた。


穂乃果(やろうと思えばなんだってできる。ヴァーチャル空間って、そういうものなんだ)

穂乃果(今なら真姫ちゃんに負けないくらい、華麗に舞うことだってできる……!)


 真姫の真後ろから迫るように鉄球を手前に引く。
 背後からの攻撃を避けるため真姫は作業台から跳び下りた。
 的を外した鉄球を腕を振って軌道を変更し、加速器を点火。
 通路に降りた真姫を狙った。


真姫(穂乃果……また強くなってる!)


 高低差を利用した攻撃をなんとか捌きながらも、真姫は活路を見出せなかった。
457: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:26:01.47 ID:IAd6BKdV.net
 台上から退かせた真姫へと鉄球を振り下ろす穂乃果。
 優位を感じて攻撃に専念する。

 突然足元の作業台が大きく揺れ、バランスが崩れた。


穂乃果「えっなにっ!? 地震!?」

花陽「……私は作業台の上に乗れないないけど」


 呟きながら、作業台の脇に立つ花陽が力を溜める。
 通路間で方向転換する際にできる、ローラーと作業台の角とのほんの僅かな隙間。
 その短い距離の分だけローラーを一気に押し込み、作業台の角へとローラーをぶち当てた。

 ガンッ、という音と共に作業台が大きく揺れる。
 台に立つ穂乃果は思わず手を台の上に付けた。


穂乃果「わっ、またっ! 花陽ちゃん揺らさないで!」

花陽「ずっと台の上に登らせたままにはしません!」

穂乃果「このぉ!」


 片手を台に付けたまま穂乃果は取っ手のボタンを操作、加速器を点火させる。
 天井にぶつかるような高い軌道を描き、ローラー越しに上空からの攻撃をしかける。
 花陽は持ち手から片手を離し、半身を思いきり引いて眼前で鉄球を回避。
 体勢をそのままに、片手でローラーを押して作業台を揺らし続けた。
458: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:28:26.22 ID:IAd6BKdV.net
真姫「ナイスアシストよ花陽!」


 作業台の横に接近した真姫は水平に鎌を振る。
 立つことができない穂乃果は右腕に巻いた鎖でガードするも、揺れる足元も合わさってバランスを崩す。
 更に迫る鎌を避けるため、作業台から下り、台を挟んで真姫の反対方向に立った。


花陽「やっと下りてくれたね」


 作業台へとローラーをぶつけていた花陽は穂乃果の立つ窓際に向かって方向転換。
 穂乃果は急いで移動し、花陽に轢かれる間際に台の脇を移動して隣の作業台の方へ走る。
 窓際前列の作業台によじ登るも、再び花陽から足元を揺さぶられ、即座に飛び降りる。
 通路を挟んで隣の作業台に向かい、椅子に足をかけ、手を使わないまま軽快な動きで台の上に飛び乗った。


花陽「せっかく下りてくれたのに、すぐ別の台に登るなんてずるいよ……しかもそんな簡単に……」

穂乃果「今、とっても体が軽いんだ! 作業台くらい飛び越えられそう!」

真姫「そこまでできるわけないでしょ!」


 穂乃果の死角から真姫が迫り、台の上に立つ足を斬り落とさんと鎌を横に薙ぐ。
 その攻撃を穂乃果は台の上で跳躍して躱した。


穂乃果「言ったでしょ! 体が軽いって! 鎌くらい何度でも飛んでみせるよ!」

真姫「ちょこまかと……!」


 攻撃を躱しながら、教室中央の作業台の方へと穂乃果は飛び降りた。
459: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:31:29.96 ID:IAd6BKdV.net
花陽「やあああ!」

穂乃果「惜しいねっ!」


 一時的に通路に降りた穂乃果を轢き潰さんと花陽が駆けるが、ローラー到達前に穂乃果は作業台へと上っていた。
 作業台の脇を通過したことで花陽が背を見せ、初めてローラーの盾のない無防備な姿を晒した。
 その背に向かって台の上から鉄球を飛ばした。


真姫「させないわよ!」


 脇から回り込んだ真姫が寸前でカットし、花陽へのダメージを防いだ。


穂乃果「ようやく花陽ちゃんに攻撃できそうだったのに!」

花陽「今まで誰にも負けなかったのに……穂乃果ちゃんだけは攻撃されちゃう……!」

真姫「弱気にならないの! こっちは二人なんだから!」


 真姫は今一度穂乃果と同じ台の上へよじ登ろうと、足をかけるための椅子へと向かう。
 しかしそれを読んだ穂乃果は、真姫が足をかける前に椅子を破壊した。
 椅子の破壊は一つに留まらず、鉄球を何度も振り回して二つ三つと壊していく。
 穂乃果の立つ教室中央の作業台周りに並んでいた椅子が全て消え去った。


穂乃果「さあ、どうするの!? 椅子無しで台の上に来るのは大変だよ!」

真姫(椅子を使わずに台の上によじ登るのは簡単じゃない……上る間に絶対に攻撃される……)

真姫(まずい……手が付けられなくなってきた……!)
460: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:38:04.22 ID:IAd6BKdV.net
穂乃果「来ないならこっちからいくよ!」


 室内中央の高みから、鉄球の嵐が巻き起こった。

 穂乃果を起点として、鉄球がドーム状の軌道で無尽に飛び交う。
 天井を抉り、床を穿ち、台の端を破壊していく。

 作業台を周りながら接近を狙う真姫だが、360°をカバーした攻撃に隙を見つけられない。
 花陽も台へのアタックを仕掛けるも、一度体当たりする度に必ず反撃を喰らい、まともに足元を揺さぶることさえできない。


真姫「……どこまで強くなるっていうの……穂乃果……」

花陽「真姫ちゃん……どうしよう」


 近付く者全てを破壊せんとする鉄球と、それを操る一人の少女。
 高みから見下される眼光の鋭さに思わず気圧される。


真姫(膠着状態……いや、このまま接近を狙ってたらこっちが攻撃を受けてもおかしくはない)

真姫(花陽のサポートがあっても、作業台がある限り完璧な協力は期待できない)

真姫(二対一でも崩せないっていうの……)
461: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:39:23.56 ID:IAd6BKdV.net
 臨戦態勢を維持しながらも、真姫と花陽は攻撃を仕掛けられずにいた。
 かと言って動きを止めていると、すかさず鉄球が猛スピードで飛んでくる。
 余りのプレッシャーに、穂乃果の姿が人間以外の別の何者かにさえ見えてきた。

 鉄球の雨を躱しながら周囲を巡るしかできない閉塞状況の中。
 穂乃果が支配する場の空気を打ち破り、四人目のプレイヤーが『1F大教室』へと足を踏み入れた。


絵里「……正に戦闘真っ最中、ってところね」

真姫「絵里っ!」


 更なる援軍の姿を見て、真姫は内心大きな安堵を覚えた。


穂乃果「絵里ちゃん……」


 悠然と大教室の中へを足を踏み入れる絵里。
 両肩の辺りからは、薄らと透ける水色の巨腕がダラリと下げられていた。
462: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:40:24.01 ID:IAd6BKdV.net
絵里「次は穂乃果、ということね」

穂乃果「……次って?」

絵里「亜里沙の次は、穂乃果をリタイアさせるってことよ」

穂乃果「リタイア? 亜里沙ちゃんが?」

絵里「さっき亜里沙のリタイアが知らされたでしょ?」

穂乃果「……きっとそのとき、私は花陽ちゃんと戦ってたから……」

花陽「私も初めて知りました……絵里ちゃん、亜里沙ちゃんを倒したんだね」

絵里「ええ、そうよ。そして、ここで二人目ね」


 力なくぶら下がっていた両腕が、絵里の動きと連動し、徐々に持ち上がる。
 ファイティングポーズを台上に立つ敵に向けた。

 相手の数が二人から三人に増えても、穂乃果の意向は変わらなかった。


穂乃果「いいよ。相手が三人でも、私は戦う!」

絵里「随分な強気ね。けれどその自信、打ち砕かせてもらうわ!」
463: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/02(日) 21:41:11.40 ID:IAd6BKdV.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り5名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP5  加速器付モーニングスター/威力4
・星空凛   HP8  ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP8  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP9  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP10 巨大ローラー/威力10


――――――――――
473: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:01:49.27 ID:yR+bF+Hd.net
『1F 大教室』 穂乃果 対 花陽・真姫・絵里


 一対三となった戦況。
 新たに現れた絵里が先陣を切り、穂乃果の立つ教室中央の作業台向かって躍りかかった。

 台の上の穂乃果は鉄球を飛ばして迎撃。
 飛んでくる鉄球を巨腕の裏拳が弾くと、もう片方の巨腕を振って尚も穂乃果へと迫る。


穂乃果「……っ!」


 真姫の鎌と違い、片方を防御に回してももう片方の腕で攻めることができるため、攻撃の回転速度が絵里の方が早い。
 迫る巨腕を回避するため、台を挟んで絵里の反対方向へと飛び降りる。
 巨腕は穂乃果が立っていた台へと突き刺さると、勢いのままに台の一部が破壊され、大きく欠損した。


真姫「……そうよ! 絵里、そのままどんどん作業台も攻撃して! 台の上にいたら花陽が直接攻撃できないの!」

絵里「え? ……なるほど。でも私が殴って少し壊れる程度なら、ローラーで台ごと轢けばよかったんじゃない?」

花陽「ローラーは遮蔽物で区切られた通路を通らないといけないみたいで、作業台を壊せないの!」

真姫「きっと武器に合わせた調整が入ってるんだわ!」

絵里「そういうこと……」


 説明を受けた絵里は、ヒビの入った台をもう一度殴り、台全体の三分の一程度を破壊した。


絵里「わかったわ。穂乃果に有利なフィールドごと、全部破壊してあげる!」
474: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:03:36.73 ID:yR+bF+Hd.net
 敵勢三人の中では絵里が先頭に立って迫ってきた。

 台の上から飛ばす鉄球も、防御に徹した片腕で確実に阻まれる。
 空いているもう片方の腕が台ごと穂乃果に殴りかかり、その都度穂乃果は飛び降りなければならない。
 ハッキリと、相性の悪さを感じていた。


穂乃果(固い腕が二本もあるから絵里ちゃんには接近されちゃう)

穂乃果(私が逃げても作業台が壊されて、そのうち台の上から戦えなくなる)

穂乃果(……だけど)


 窓際前方の作業台上へと追いやられ、迫る絵里を警戒する。
 しかし、意識の端では、脇に控える真姫のことを考えていた。


穂乃果(絵里ちゃんみたいな武器の強さと違って、真姫ちゃんは鎌一つで……動きの凄さだけで私たちを倒してきた)

穂乃果(やろうとすればなんだってできる。だからあんなに凄い動きができる)

穂乃果(それがここ、ヴァーチャル世界)

穂乃果(だったら……私だって、きっとできる!)
475: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:06:29.77 ID:yR+bF+Hd.net
 絵里が片腕を持ち上げて鉄球をガードをしながら、もう片腕で握り拳を作る。
 このままでは足場ごと狙ってくる攻撃が飛んでくる。
 だからその前にと、穂乃果は自ら絵里に向かって跳躍した。

 作業台から跳んできた穂乃果に驚き、絵里は拳で叩き落としにかかった。

 真っ直ぐに自身へと向かってくる拳を、穂乃果は鉄球の加速器を操作して真向いから迎撃。
 拳と鉄球、二つの武器がぶつかったまま中空で押し合う。

 その巨腕の上に、作業台から跳んだ穂乃果は跳び移った。


絵里「!? なにをっ」

穂乃果「飛ぶんだよ!」


 絵里の巨腕に乗せた片足で、更に宙を飛んだ。
 床から何メートルもの高さで体が舞う。
 飛びながら、加速器のボタンを操作。


穂乃果「飛んだら、三百六十度、全部の方向に攻撃ができる」


 絵里の頭上を飛び越すようにしながら、穂乃果は鎖を振り回し、鉄球を暴れさせた。
 体の周囲をぐるんぐるんと鉄球が飛び回り、周囲のあらゆるものとぶつかっていく。
 作業台を壊し、天井にヒビを入れながら、絵里の巨腕にも横合いに衝突した。
476: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:07:59.67 ID:yR+bF+Hd.net
絵里「飛びながらだなんて……なんて無茶な攻撃方法よ!」


 自慢の巨腕を踏み台にされたことに対して悪態が漏れる。
 高く舞い、別の作業台の上に降り立った穂乃果は悠然と鎖を構え、薄らと口元に笑みを浮かべた。


穂乃果「無茶じゃないよ……ここは仮想世界。なんだってできるんだよ!」


 そこからは穂乃果を中心とした室内の破壊活動が始まった。
 
 作業台の間を縦横無尽に穂乃果は舞う。
 一度跳躍する度に体の前後左右上下を鉄球が飛び交い、その都度室内のどこかしらが破壊された。
 天井にぶつかれば剥がれる塗装と瓦礫、作業台を掠めれば抉られる表面。
 壁も床も窓も関係なしに、室内はどんどん崩れていった。


真姫「相変わらず滅茶苦茶するわね!」

花陽「ゲームでも現実世界でもそこは同じだね!」

穂乃果「そうだよ! それにゲームだから、もっと凄いことだってできる!」
477: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:09:22.56 ID:yR+bF+Hd.net
 半壊しつつある作業台から跳び、通路から迫ってきた花陽のローラーにも足をかける。
 そのまま滑って落ちてしまいそうなものを、ローラーを踏み台にして、悠々と飛び越えてみせた。


花陽「……凄いね!」

絵里「感心してる場合じゃないわよ!」

真姫「このまま台を崩して有利な状況を作れなくするわ!」

穂乃果「いいよ! 私も全部壊しちゃうから! 巻き込まれないよう気を付けてね!」


 崩壊に加速がかかる。
 飛び交う四種類の武器が破壊の爪痕を深く残していった。
 余りの勢いの激しさに、ともすれば天井や壁に穴さえ開けてしまいそうだった。

 縦横無尽に跳ねる穂乃果を追う。
 絵里は真っ向から迫り、花陽は通路を駆け、真姫は作業台の上から引き摺り下ろそうと躍起になる。

 絵里の拳は悉く空を切り、足場となる作業台の破壊だけが進行した。
 宙を飛んでいる間は攻撃を躱せないと踏んだ真姫の一撃も、中空で穂乃果が振り回す鉄球や鎖が邪魔になってまともに刃が当たらない。
 穂乃果が跳ぶタイミングで花陽がローラーを仕向けようとも、鉄球をローラーにぶつけた反動で自らの体を方向転換させる。

 さながら本当に飛んでいるかのように躍動し、三人の敵を翻弄した。
478: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:10:33.44 ID:yR+bF+Hd.net
 それでも、やはり人数差というものは、甘く見ることができない。


真姫「当たりなさい!」

穂乃果「駄目だよ! 当たらないよ! こっちの鉄球が当たってよ!」

花陽「穂乃果ちゃんっ!」

穂乃果「ローラーだって、鉄球だって、飛んでる間なら踏みつけることも飛び越えることもできる!」

絵里「でも流石に飛ばし過ぎたみたいね」


 隙を見て作業台の上によじ登った絵里が、中空で穂乃果と正面衝突するような軌道で飛びかかった。

 穂乃果は鎖を振り回し、鉄球によるバリアを形成するよう縦横無尽に振り回す。
 飛び交う鉄球に守られる穂乃果に向かい、絵里は両横から拳を突き出し、挟み込むように攻撃した。
 左腕が鉄球に弾かれたが、同時に穂乃果の身を守る鉄球の動きも止まる。
 そこへ右腕が突き刺さり、宙を跳んでいた穂乃果の体を勢いよく吹き飛ばした。
479: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:13:05.43 ID:yR+bF+Hd.net
 巨椀に殴られた穂乃果は、そのまま壁際まで吹き飛ばされた。
 クラクラする頭を支えて立ち上がると、真っ向から花陽のローラーが迫ってきていた。


花陽「通路にようこそ、だよ!」

穂乃果「まだ飛べるよ!」


 穂乃果は直ちに立ち上がり、半壊していた作業台に足をかけると、そこを足場にしてローラーに向かって思いきり飛ぶ。
 続けてローラーを踏み台代わりにすると、更に高く舞い、そのまま飛び越えてみせた。

 アクロバティックな回避方法に花陽は目を奪われ、頭上を舞う穂乃果を見上げる。
 そこへ鉄球が飛んできた。
 頭上からの攻撃により背中に鉄球を受けた花陽は、ローラーとの間に体を挟まれた。


穂乃果「やった!」


 敵の攻撃を宙を舞って躱し、見事な反撃を返した穂乃果。
 バランスを崩しながらもなんとか通路に着地した。
 だが、直後、脳天を揺さぶられるような大きな衝撃が側頭部を襲った。
 半壊した大教室内を視界が高速で回転し、窓際まで吹き飛ばされた。

 穂乃果が着地した地点では、絵里が右腕を振り切った体勢で立っていた。
 殴られたことに理解が追い付いた穂乃果は、鎖を掴みながら倒れていた体を起こす。
 追撃せんと迫ってきていた真姫を視線で制しつつ、現状を把握しようと思考を巡らせた。
480: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:14:03.35 ID:yR+bF+Hd.net
穂乃果「……二回、殴られちゃったね」

真姫「お陰でこっちのチームも無傷のプレイヤーが消えたわ」

絵里「でも穂乃果、あなたはもう一歩でリタイアよ」


 頭上の数字を確認するまでもなく、自身の残りHPが『1』だということは理解していた。
 それでも躊躇は無かった。
 リタイア寸前にまで追い込まれながらも、穂乃果は鉄球を振り翳し、自ら敵勢に迫る。
 穂乃果に二度攻撃を与えた絵里も、穂乃果から迫られれば守りに回るしかない。


穂乃果「たああああっ!」

絵里「ぐっ……無駄よ! 無駄ッ、無駄ッ、無駄ァ!」


 左右そして上空から飛来する鉄球を適宜拳で叩き落とす。
 そうしている間に穂乃果の後方から真姫が迫るが、真姫の方に飛ばされた鉄球の一撃で簡単に足止めされてしまう。


真姫「っつう!」

穂乃果「とりゃああああ!」

絵里「しぶといわねっ!」

花陽「絵里ちゃんどいてっ!」


 穂乃果と絵里が撃ち合うところへ花陽がローラーごと迫った。
 二人は床に転がりながら互いに両脇へと回避。

 現状、既に大教室内の作業机は半数が全壊しており、残りの作業台も元の形は見る影もない。
 作業机の間を縫うように移動する必要がなくなった花陽は、瓦礫の山を押し込みながら、先程よりも自由に動けていた。
481: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:17:02.33 ID:yR+bF+Hd.net
 ローラーがUターンして再び迫ってくる。


花陽「さっき攻撃してくれたお礼だよ!」

穂乃果「まだまだたくさんあげるよ!」


 ローラーに真っ向から挑んでも、さすがに鉄球は弾かれる。
 積み上がった瓦礫の山を駆け上がるように穂乃果は逃げた。
 遮蔽物が減ったとはいえ、瓦礫の上まではローラーは上ることができず、穂乃果の後を追えない。

 代わりに瓦礫の山を絵里と真姫が追った。


絵里「お終いにするわよ!」


 かけ声と共に、絵里は半壊のまま辛うじて形を保っていた作業台を殴った。
 ヒビの入っていた作業台は今の一撃で倒壊する。
 崩れた作業台の破片群が穂乃果のいる方向に向かって飛ぶよう、絵里は大きく腕を振った。


穂乃果「邪魔っ、だよっ!」


 飛んでくる破片を鉄球の軌道で一掃する。
 その隙を縫って真姫が接近。
 鎌で躍りかかるも、穂乃果は瓦礫の山から滑り落ちるようにして回避。

 瓦礫の山から床へと下りるとすかさず花陽が迫り、それを迎撃せんと腕を振って鎖を引く。
 斜め上空から振り下ろした鉄球が天井を削りながらローラー越しに花陽へ飛ぶ。
 鉄球を避けるために花陽は斜めに方向転換して、結果的に双方の攻撃が外れた。
482: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:19:28.42 ID:yR+bF+Hd.net
 一度脇に逸れたローラーの向きを変えて、花陽が穂乃果へと狙いをつける。
 同様に絵里と真姫も各々距離を置いて臨戦態勢を取る。
 三人に囲まれるような位置関係で、穂乃果は周囲を見渡した。


穂乃果「酷いね、私も家庭科室もボロボロだよ」

真姫「少なくとも家庭科室が破壊された原因はほとんど穂乃果のせいでしょ」

絵里「そんなボロボロな姿のまま頑張らなくても、リタイアすれば楽になれるわよ?」

花陽「穂乃果ちゃん、終わりにしよう」

穂乃果「いいよ、終わらせよう。だけど終わりになるのはみんなの方だよ!」


 勇ましさを失わないまま、穂乃果は頭上で円を描くように鉄球を回す。
 それに応じ、最も近くにいた真姫が真っ先に飛びかかった。

 真姫の接近に応じて穂乃果は握っていた鎖を操り、大きな弧の軌道を描いて横合いに真姫へと攻撃。
 真姫は一歩踏み止まることで鉄球をやり過ごし、再度穂乃果へ接近。
 避けられた鉄球の加速器が点火し、通り過ぎた円の軌道を逆行した形で再度真姫を襲う。
 なんとか鎌で弾くと、その間に穂乃果自身が真姫に迫ってきていた。


穂乃果「武器はこれだけじゃないよ!」


 鎖を巻いた右腕で鎌を除けながら、穂乃果は自らの体で真姫にぶつかって行った。
483: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:23:14.30 ID:yR+bF+Hd.net
 正面から体当たりされた真姫は背中から後方に倒される。
 倒れたところにすかさず鉄球を飛ばした。


穂乃果「はあっ!」

花陽「させない!」


 鉄球の軌道上に花陽が割り込み、ローラーで鉄球を弾き飛ばした。
 倒れた真姫への攻撃を阻んだ勢いのままローラーが穂乃果へと迫る。
 鉄球を弾かれた穂乃果は横に逃げるしかなく、床を転がって回避。
 逃げたところに絵里が襲いかかった。


絵里「終わりよ!」

穂乃果「まだだよ!」


 左右から挟み込むように迫る拳両の拳。
 二度攻撃を受けた武器相手だとしても、もう武器への恐怖になんて負けない。
 拳が交差する前に絵里に向かって飛びついた。


絵里「わっぷ!」


 穂乃果に押し倒される格好となり、絵里の攻撃は不十分なまま終わる。
 立ち上がった穂乃果は一歩だけ距離を取って、加速器を操作して鉄球を絵里へと飛来させた。
484: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:25:01.66 ID:yR+bF+Hd.net
 HP残量の少ない絵里にとどめを刺そうという一撃。
 だがそれを防ぐために、真姫が二人の間に割り込もうと特攻をしかけてきた。


真姫「させない!」

穂乃果「なら真姫ちゃんを叩くだけだよ!」


 絵里から距離を取らせるよう、二人の間の空間を切り裂くように真姫の大鎌が走る。
 距離を取って回避した穂乃果は、絵里に飛ばすつもりだった鉄球を真姫へと方向転換。
 絵里を守るためにがら空きになった真姫の横っ腹に、深々と鉄球のトゲが突き刺さった。

 鉄球の軌道のままに、真姫の体が教室の端へと飛ぶ。
 一人退かしたことで再度絵里を狙おうとするが、穂乃果が狙いをつける前に花陽が背後より迫る。
 ローラーの地鳴り音で察した穂乃果は、振り向きざまに鉄球を体の前に飛ばして盾にした。


穂乃果「わあああああ!」

花陽「んんんんんん!」


 ギャギャギャギャギャギャ!

 回転するローラーと鉄球が互いを擦り、凄まじい音が発せられる。
 鉄球をクッション代わりにした形の穂乃果だが、花陽は鉄球ごと穂乃果の体を押し込んだ。


花陽「もう私を止めさせない! 絶対に止まらない!」


 摩擦音と共に火花が散り、穂乃果の目を眩ませる。
 ズズズ、と、足を踏ん張る穂乃果の体が後方にどんどん押し込まれた。
485: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:26:42.86 ID:yR+bF+Hd.net
穂乃果「花陽ちゃあああん!」

花陽「穂乃果ちゃん! 潰れて!」


 廊下側の壁へと花陽は穂乃果を追いやっていく。
 力勝負ではローラーに勝てる者はいない。

 しかし穂乃果は諦めない。
 踏ん張った足に力を入れると、鉄球でガードしていた体を横に走らせ、腕に巻いた鎖でローラーを弾きながら回避を試みた。


穂乃果「あああああっ!」


 ローラー脇へと飛び込んだ穂乃果は、辛うじてローラーと壁との間に挟まれる前に横へと逃げることに成功した。

 ズガン、と、ローラーと壁が衝突した音が響く。

 既に幾筋もの亀裂が走っていた壁はローラーの衝撃に耐えきれず、広範囲で壁が崩壊。
 壁の向こう側の廊下が露わになり、さながら室内への第三の出入り口となった。
486: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:28:41.34 ID:yR+bF+Hd.net
 壁に衝突したことで動きが止まったローラーに自ら頭をぶつけ、花陽は目を回していた。
 その無防備な姿を目がけて穂乃果は狙いをつけた。
 倒れた格好から上半身を起こして取っ手を操作、加速器を点火させる。

 しかし飛来させる方向を切り替えざるを得ない状況に陥った。


絵里「穂乃果ああああっ!」

穂乃果「!? 絵里ちゃっ……」


 地面に座り込む格好の穂乃果に絵里が迫る。
 低い軌道でアッパーのように繰り出された拳。
 先程ローラーを防いだように、またもや鉄球をクッションにする形で被弾を避けた。
 しかし拳の勢いは止められず、鉄球ごと穂乃果は後方へと思いきり飛ばされる。
 巨腕に持ち上げられた体は、花陽が開けた壁の大きな隙間から教室の外、廊下にまで転がされた。


穂乃果「……………………ゲホッ」


『1F大教室』の前の廊下に横たわる穂乃果。
 痛覚は感じないものの、鉄球越しに腹を殴られたことで詰まった呼吸が苦しい。
 掌を床に付けて体を起こそうと力を入れる。

 だがそれより早く、壁に開いた大穴から漆黒の刃が躍り出た。
487: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:31:10.97 ID:yR+bF+Hd.net
穂乃果「…………」


 穂乃果が吹き飛ばされた壁の隙間から飛び出してきた真姫が、廊下に倒れている体に焦点を定めた。

 迎撃するために体勢を整える猶予はない。
 大鎌を構えた真姫は寸前にまで迫っている。

 取っ手から伸びる鎖は大教室内へと続いていて、鉄球は室内に残っている。
 手元まで回収しようにも、廊下に出ている真姫に攻撃を仕掛けるだけの時間はない。


真姫「ふっ」


 短く息を吐いて、鎌が振り上げられる。


穂乃果(諦めない……)

穂乃果(最後まで…………私は…………戦うんだ……!)


 穂乃果は手放さなかった鉄球の取っ手を手繰り、ボタンを押し込んだ。

 加速器によって高速で飛んだ鉄球が側頭部に命中。
 被弾した体は持ち手から離れ、大きく吹き飛ばされた。
488: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:33:24.18 ID:yR+bF+Hd.net
花陽「っっっ……」


 ローラーに頭をぶつけ、大教室内で半ば意識を失っていた花陽。
 棒立ちしていたところに飛んできた鉄球を頭に受けたことで、完全に意識を飛ばした。

 自身の防御を捨てた穂乃果に向かって、大鎌が振り下ろされる。
 黒い刃が穂乃果の首を通過した。


真姫「……」

穂乃果「……」


 斬首された頭部は、しかし胴体から切り離されることはない。
 代わりに斬りつけられた部分から、零れ落ちるように靄が生じる。

 穂乃果の頭上に『0』の数字が灯った。


穂乃果「…………私の、負け、だね」


 悔しそうに呟いた穂乃果は、それでも表情だけは晴れやかなままだった。
 静かに真姫へと視線を向ける。
 穂乃果に斬りつけた真姫もまた微動だにせず、穂乃果の視線を無言のまま受け止めていた。

 やがて全身を靄と化して、猛威を振るった鉄球と共に、穂乃果はフィールドから去っていった。
489: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:36:31.80 ID:yR+bF+Hd.net
真姫「……………………はあっ…………はあっ…………」


 止めていた呼吸を再開し、大きく息を吸う真姫の耳に、アナウンスが入る。


【『チーム休養』高坂穂乃果 リタイア】


 同じ文面が書かれた半透明のウィンドウが視界を邪魔しない程度に映り、やがて消えた。

『1F大教室』前の廊下に一人残った真姫は、手から大鎌を離した。
 床に跳ねた黒い刃が光を反射する。
 手放した鎌と同じように、真姫は崩れ落ちて膝を床に付けた。


真姫「…………」


 僅かな時間放心状態に陥る。
 しかしすぐに立ち上がると、鎌を手にして、壁の大穴から大教室へと戻った。

 家庭科室を模した室内は、改めて見渡すと、惨状の跡としか表現できなかった。
 作業台は全滅。
 床や壁は深く抉られ、天井の中央は崩落しかけている。
 全てが瓦礫の山と化し、辺りに瓦礫のに小山として積み重ねられいる。
 瓦礫の一部は粉塵と化して床一面を埃のように覆い、所々にローラーの跡が残っていた。
490: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:39:33.62 ID:yR+bF+Hd.net
 崩壊した室内で、絵里が花陽へと近づき、倒れていた体をそっと抱き起した。


絵里「花陽、大丈夫? 意識はある?」

花陽「…………ん……っ……」


 失われていた意識を取り戻し、薄らと目を開ける花陽を見て、ホッと溜め息をつく。
 絵里は小さく微笑みを浮かべると、花陽の様子を伺っていた真姫に向かって一度頷いて見せた。

 花陽の無事を確認した真姫は視界の端に移る半透明のボタンを押し、ウィンドウを開いた。
 チームプレイヤーのHP残量を確認する。


真姫「……これのどこが、私の負け、よ」


 人数差を考えたなら、今の戦いで圧倒的な痛手を負ってしまった。
 さながら自身がリタイアを被ったかのように、悔しげに呟いた。
491: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:41:26.00 ID:yR+bF+Hd.net
 廃墟跡のような様相と化した室内に今しばらく留まる。
 花陽の回復を待ってから、三人は現状の確認をした。


絵里「私は亜里沙によって、花陽は穂乃果の手で、リタイア寸前まで追い込まれた形になったわ」

花陽「穂乃果ちゃん……強かった」

真姫「最後は自分の身を守るのを諦めて、確実に攻撃できる花陽のHPを削ったのね」

花陽「凄いね…………私だったら、最後まで自分を守ると思う」

真姫「自分がやられても、チームのための戦いを諦めなかったのよ」

絵里「自分のこと以上にチームのためを思う精神もそうだけど、穂乃果の動き自体も凄まじかったわ」

花陽「うん、人間業じゃないみたいだった」

真姫「穂乃果程の意思があれば、あれくらいできたってことなんでしょ」

花陽「意思の、強さ……」
492: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:43:27.13 ID:yR+bF+Hd.net
絵里「けれど、おそらく相手チーム最大の障害を倒した」

真姫「亜里沙ちゃんもいないから、向こうの火力を一気に削ることができたわ」

花陽「穂乃果ちゃんみたいに意思の強さで激しく動けるメンバーも他にいないもんね」


 自チームの被った大きな爪痕を鑑みながらも、より確実に優勢へと傾いた。
 そう真姫は分析をしていた。
 最大の障害を排して、勝利への道筋が一層はっきりと見える。

 しかし一点。
 目前に迫る危機ではないのかもしれないが、気がかりなことがあった。


真姫(特別に意思の強い者は、このゲーム内でなんでもできる……)


 穂乃果が急成長を見せたのが意思の強さからだとしたら。
 本戦開幕時、最初に戦った相手から感じた、幼馴染みを思う強い意思の表れがフラッシュバックする。


真姫(あの意思の強さは、果たして穂乃果以上か)

真姫(あるいは、私以上か)


【西木野真姫 HP:9→5  小泉花陽 HP:10→6→2

 高坂穂乃果 HP:5→3→1→0  リタイア】
493: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/03(月) 23:44:45.34 ID:yR+bF+Hd.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り4名/6名

・南ことり  HP7  ことりソード/威力1~5(威力2)
・星空凛   HP8  ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP8  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP2  巨大ローラー/威力10


――――――――――
516: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 20:54:36.85 ID:TCeiifJF.net
―――

『3F 北階段』 ことり


 穂乃果がリタイアしたというアナウンスが各プレイヤーに伝わった。
 亜里沙に続き、これで二人目のプレイヤーが退場したことになる。

 北階段を三階へと上ったところで流れたアナウンスに、思わずことりは足を止めた。


ことり(穂乃果ちゃん……)


 ヴァーチャル世界での殴り合いで今後の動向を決めることになってから。
 誰が仲間になって、誰が敵となるのか、ずっと気になっていた。 

 けど、穂乃果ちゃんだけは仲間になってくれると思った。
 私と同じで、一番に海未ちゃんのことを心配してくれているはずだから。
517: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 20:55:18.40 ID:TCeiifJF.net
 過労で倒れたなら、体を休ませる。
 単純な理由と言われるかもしれない。
 けれど、それ以上に海未ちゃんのためになることが思いつかなかった。

 真姫ちゃんたちの言うように、海未ちゃんの心労こそ軽くするべきだっていう意見もわかる。
 日頃内面的にも苦労を抱えているはずの海未ちゃんには、その方がいいのかもしれない。
 だけど、そういう深い考えができないくらい、海未ちゃんのことが心配なんだっていう気持ちが先走っていた。

 きっと穂乃果ちゃんも同じ。
 だから他の誰が敵になっても、穂乃果ちゃんだけは私の味方だと思っていた。

 その穂乃果ちゃんが、倒された。


ことり(戦ったんだ……穂乃果ちゃん…………そして…………)
518: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 20:57:21.93 ID:TCeiifJF.net
にこ「あ」


 三階に片足をかけたまま動きを止めていたところ、すぐ先の北廊下の角からにこが顔を出した。
 ことりはビクンと体を反応させ、急速に緊張感が高まる。
 しかしにこ相手なら、即座に争うこともないかもしれないと感じた。

 少し前にも、ことりはにこと顔を突き合わせていた。
 今のように数メートルという近距離ではないものの、互いの顔を確認できるくらいには接近した形で。

 出合った直後、ことりはことりソードを発現させながらも身を引いていた。
 戦いに臨む覚悟はできても、自ら攻め入るまでには好戦的にはなれなかった。

 にこもにこで、逃げる素振りを見せた。
 互いに距離を取ろうとする動作を確認し、交戦に積極的ではない態度が通じ合う。
 双方に共通見解があることを察して、結局ことりとにこはそのまま戦わずして別れた。

 それから多少間を置いて、二度目の遭遇。
 近い距離だけに、下手に動けない。
 しかしことりは、今度もまた交戦することはないのではと予感していた。


ことり「にこちゃん……」

にこ「……穂乃果がリタイアしたみたいね」

ことり「……うん」


 予想通り、にこは即座に攻めてはこなかった。
519: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 20:58:46.34 ID:TCeiifJF.net
にこ「諦めたら? そっちのチームで威力の高い武器を持った二人が真っ先にやられたんでしょ?」

ことり「できないよ……諦めることは、絶対にできない」

にこ「ま、そうよね。諦めるくらいなら私たちと言い争ってたとき、あんなに頑固になってないでしょうし」

ことり「……頑固? 私が?」

にこ「意識してなかったの?」

にこ「私たちの仲を取り持とうとしてた割に、絶対にライブは休むんだって顔に出てたわよ」

にこ「それこそ、こっちで一番頑固な真姫ちゃんに負けないくらいの頑固さでね」

ことり「そう思われてたんだ…………私、そんなに頑固だったのかな」

にこ「表立ってたわけじゃないけど。でもあんたたちの中だと、一番心が折れなさそうって感じね」
520: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 20:59:29.83 ID:TCeiifJF.net
にこ「私は絶対にライブをしたいけど……海未のことを考えたら、意見を曲げて、折れても仕方ないって思う」

にこ「でもことりは違うでしょ」

にこ「敵対する私たちを宥めておきながら、絶対にライブは許さないって態度だった」

にこ「穂乃果みたいにただ意地を張るのとは違って、なんかね……強固な意思って感じよ」

ことり「…………そっか」

にこ「今だって、穂乃果と亜里沙ちゃんがリタイアしてもちっとも諦めてないんでしょ?」

ことり「うんっ」

にこ「ほら、即答した」

ことり「……もう逃げないよ。私は、絶対に海未ちゃんの安静を守る」
521: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:01:49.17 ID:TCeiifJF.net
にこ「アンタは本当海未が大切なのねえ」

ことり「うん。海未ちゃんには、ずっと元気でいてほしい」

ことり「今回海未ちゃんが倒れちゃったから、もうこれ以上負担をかけたくないの」

にこ「海未を思う気持ちはみんな同じよ」

にこ「私たちだって海未に負担かけちゃいけないってことくらいわかってる」

にこ「それでも、ライブっていう舞台を目指してきたからには、当然ライブが大切なものになるわよ」

にこ「特に私みたいな人間には」

ことり「にこちゃんは誰よりもアイドルへの熱意が強いもんね」

にこ「あったりまえじゃない!」

ことり「じゃあ、なにがなんでも絶対にライブはしなきゃダメって、思ったんだ」

にこ「……絶対じゃないわ」

ことり「え?」
522: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:03:52.61 ID:TCeiifJF.net
にこ「海未は、大切な仲間よ」

にこ「過労って聞いたら、体に負担をかけるライブは休むべきだって思う」

にこ「でもね、大切なもの同士でも、比べないといけないことがあるのよ」

にこ「倒れたのは自己責任とか、一人欠けても残った仲間が乗り越えるアイドルだとか……そう言う風に理由をつけて」

にこ「私がライブする派になったのは、何が何でもっていうより、両方の意見を比べた結果ね」

ことり「にこちゃんはアイドル精神を基準に比較したんだね」

にこ「でもことり、アンタの考えはそうじゃない」

にこ「海未のためなら、頑張って準備していたライブのことも全部捨てられる」

にこ「私たち同様にライブを大切に思って、その価値をわかっていながら、ライブを諦めることに微塵も躊躇がないでしょ」
523: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:05:03.39 ID:TCeiifJF.net
ことり「……海未ちゃんのためなら、他のどんなことでも比べられないよ」

にこ「だけどそこまで割り切れるのはきっとことりだけよ」

にこ「だって、人間誰しも思いやりだけで生きてないんだから」

にこ「穂乃果だってきっとそうよ。海未が大切って言いながら、ライブをしたいって気持ちだって絶対に残ってた」

ことり「穂乃果ちゃんは仕方がないよ」

ことり「一度自分が倒れたからこそ、逆にライブを中止させたくはないって気持ちがどこかにあったはずだもん」

にこ「そうね。ライブと比べるなら間違いなく海未を選ぶだろうけど、選択肢の中にライブは残っていた」

にこ「けどことりには、選択肢の中に海未以外はなにも残ってなかったんじゃない?」

ことり「……どう、かな。考えたことないや」

にこ「考えるまでもなく海未を選んだってことなのかもね」

ことり「にこちゃんに言われて、少し、そんな気がしてきたよ」

にこ「呆れた。気付いてないなんて」

にこ「ことりが海未を思う気持ちは、私がアイドルに向ける気持ちといい勝負かもね」

ことり「ふふ。そうだったらいいな」
524: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:06:24.10 ID:TCeiifJF.net
にこ「……ことり」


 多少気の抜けていたにこの声色が、急に締まったものになる。
 和やかな空気が一変した。
 にこの表情は険しくなっていた。


にこ「最初に決めたように、ゲームの勝者がライブの有無を決める」

にこ「例えことりの中に海未以外の選択肢がなくても、私たちが勝ったら、全力のライブをするのよ」

ことり「……うん。わかってる」

にこ「ライブに出られるなら海未だって私たちの中に含むし、当然、ことりにだって本気を出してもらう」

ことり「勿論だよ」

ことり「負けたらみんなで最高のライブをするし、練習もライブも頑張る」

ことり「だから…………私は負けないように、まずはこのゲームを頑張るよ」

にこ「わかってるならいいわ。私だって負けるつもりはない。本音は簡単に曲げられないもの」
525: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:07:17.36 ID:TCeiifJF.net
にこ「今のところこっちが有利だったから、武器の威力が無い私は単独で戦わないようにしてた」

にこ「だからさっきはことりと戦いを避けたし、今もここでは戦うつもりはないわ」

にこ「でも、こうして互いの考えを話して、改めてぶつからないと駄目ってわかった」

ことり「うん。もうとっくに、戦いは始まってるもんね」

にこ「今回は退くわ。だけど次からはもう、不意打ちでもなんでも、ことりに襲いかかるから」

ことり「わかった。私も、もう逃げたりはしないよ」


 警戒を続けながら、にこは口元に笑みを浮かべた。
 ことりも同じような表情で応えた。


にこ「覚悟してなさい。どっちにしろ納得できるように、全力でやってやるわ!」

ことり「私も!」


 にこは摺り足で後方へと身を引き、ことりも後ろ向きのまま階段を下りる。
 双方距離を取り、視界から相手の姿が消えた時点で、別地点へと移動した。
526: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:09:18.53 ID:TCeiifJF.net
―――

『2F 大教室』 希・凛


凛「……ここにもいないみたいだね」

希「せやね」


 職員室のような外観をしている『2F大教室』を探し回った凛と希は、目的を達することができずに嘆息した。

 いくら移動しても雪穂と遭遇しない。
 こうして遮蔽物に隠れることができる部屋を探してもいない。
 希は現状から考えて、早急に雪穂と遭遇する必要性を感じていた。


希「ウチらが援護して、どうにか雪穂ちゃんを安全に移動できるようにしないと……」
527: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:10:05.12 ID:TCeiifJF.net
 現状、ウチらのチーム状況はよくない。
 亜里沙ちゃんに次いで穂乃果ちゃんがやられたのは、正直痛手やった。

 穂乃果ちゃんが頑張ってくれたのか、向こうのチームプレイヤーのHPは随分と減った。
 ほとんどのプレイヤーがリタイア寸前にまで陥ってる。

 ただ、真姫ちゃんだけはまだHPが『5』残ってる。
 ことりちゃんでも三回斬りつけないといけないし、凛ちゃんは五発レーザーを当てないと倒せない。
 真姫ちゃんは戦闘時の立ち回りと身のこなしが格段に上手。
 その真姫ちゃん相手にそれだけの回数攻撃を当てることができるか怪しい。

 だから、一発逆転の目が欲しい。
 亜里沙ちゃんか穂乃果ちゃん、高威力の武器を持つ誰かが残っていて欲しい。


希(そのための鍵が、今は雪穂ちゃんなんや)
528: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:10:50.25 ID:TCeiifJF.net
凛「雪穂ちゃん隠れてるのかなー」

希「多分ね。一人のときはあまり動き回らないよう最初の作戦で伝えてたから」

凛「でも状況が変わったんでしょ?」

希「今は雪穂ちゃんの武器《復活スイッチ》が必要なん。高い威力の攻撃ができる仲間が欲しいんよ」


 雪穂ちゃんの《復活スイッチ》は起死回生の一手に成り得る。
 状況が変わった今、穂乃果ちゃんか亜里沙ちゃんを復活させられるのは大きい。

 だけど、きっと雪穂ちゃんは最初の作戦のまま、あまり動かないでいるはず。
 リタイアした仲間の位置に向かうにしても、一人だと敵と遭遇した場合が危険だから。
 そう考えると、どっちにしろ味方との合流を優先したほうが安全だ。


希「しばらくウチらは雪穂ちゃんの捜索隊やなあ」

凛「敵チームに見つかる前に急がないとね!」

希「せやね」
529: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:14:45.43 ID:TCeiifJF.net
凛「凛が真姫ちゃんと戦えればいいんだけど、ファンネルは威力『1』だもんねー」

希「凛ちゃんだって頑張ってくれてるよ。ただ、真姫ちゃんのことを考えると、ね」

凛「五回もレーザー当てられる気がしないよう」

希「せやから一気に攻められる子が欲しいんよ」


 おそらく雪穂ちゃんはどこか身を隠せる場所にいる。
 大教室か、講堂か……その辺り。
 早めに見つけられればええんやけど。


希「……ん?」


『2F大教室』の中央付近の床を歩いた際、足元に違和感を感じた。
 恐る恐る足を上げてみる。
 ヒビの入る音が聞こえて、床に小さく穴が開いた。


希「穴、て……建物の造りに欠陥があるとか? まっさかねえ、ヴァーチャルなんやし」

希「ここで戦った跡はないし……この下で天井破壊するくらい激しい戦いがあったとか?」

凛「希ちゃんどうしたの?」

希「なんでもないよ。じゃあ下の大教室見に行こっか」


 疑問を覚えつつ、床に開いた穴を避けるようにしてその場から離れた。

 去り際、床に走ったヒビは更に広がっていった。
530: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:17:58.94 ID:TCeiifJF.net
―――

『2F 北西廊下』 ことり 対 絵里・真姫


ことり(誰も見つからない……)


 にこちゃんと話してから、またしばらく誰とも会わない。
 一度花陽ちゃんがローラーを転がしてるところを見かけたけど、慌てて隠れたから見つからなくて済んだ。
 だけど、他には味方にも、敵にも、中々会わない。


ことり(穂乃果ちゃんと亜里沙ちゃんがリタイアして、人が減ったからなのかな)

ことり(これからどんどんみんなと会わなくなるのかも)


 今後は一度の遭遇がより大切になる。
 仲間として一緒に行動するにしても、敵として戦うにしても。
 だからさっきにこちゃんとも、次は戦うって宣言した。
 より大事になる戦いに、本気で挑むために。
531: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:20:42.51 ID:TCeiifJF.net
 ことりソードは気分が落ち着くと消えちゃうみたいで、頻繁に掛け声を口にしないといけない。
 だけど今大声を出すとどこから敵プレイヤーに聞かれるかわからないから、こっそりと「ちゅんちゅん」って呟いてる。
 今、右手には、手を覆うオーラ程度のことりソードしか出ていない。
 威力『1』で、剣というよりは手を覆う光と言った方が近いくらいの、心許ない武器。


ことり(これで勝てるのかなぁ)

ことり(絶対に勝たないといけない。負けるわけにはいかない)

ことり(でも、実際に戦うとして、私が誰かを倒すことなんてできるのかな……)


 不安を抱き、思考に没頭する度合いが深まった。
 考えを巡らせたまま、どこか注意力が散漫なままに、二階北西の角を曲がる。

 ぶつかり合うくらいの近距離で絵里と真姫と遭遇するも、後悔するには既に遅かった。
532: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:22:10.47 ID:TCeiifJF.net
ことり「…………あ」

絵里「!」

真姫「ことりっ!」


 いけない!
 もっと注意していればよかった!

 反転して逃げるにしても遅く、当然のように絵里と真姫はことりに攻撃をしかけてきた。
 不幸にもことりの右手には射程の短いことりソードしかなく、まともな反撃すらできない。

 元来た廊下の方に逃げ帰るも、背に殴られた衝撃を覚え、体が浮いた。


ことり「あっ!?」


 絵里の拳により吹き飛ばされたことりは、廊下を一直線に転がった。

 転がり方がよかったのか、立ち上がるまでの動作はスムーズで、飛ばされたことで絵里たちとの距離も広がった。
 頭上に『5』を灯しながら、ことりは必死に逃げた。


ことり(逃げなくちゃ……二人相手なんて無理……今は戦うより逃げなくちゃ……!)


 数的不利の状況に捕まらないよう必死に逃げながら、ことりは声高に叫んだ。


ことり「ちゅんちゅーんっ!」
533: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:23:54.13 ID:TCeiifJF.net
真姫(ツイてる……!)


 好機到来と感じていた。

 真姫にとって、現状に残る不安の種こそ、目前で背を見せて逃げていることりだった。
 そのことり相手に、絵里と一緒にいたタイミングで遭遇することができた。

 今回の騒動の種となった、ライブをするか否かの言い争い。
 他の誰よりも強情を張っていた真姫も、ことりだけは言い含められないと感じていた。


真姫(ことりには説得できるだけの余地すらない)

真姫(それだけ海未のために心を割いている)


 その強情な意思は、本戦が始まって間もなく交戦した際にも、戦いの中に感じ始めていた。

 三人がかりで倒した穂乃果のことを連想する。
 ことりの武器からしても、おそらくは穂乃果ほどの脅威にはならないはず。
 それでも、ことりが今後どういう変化を見せるかわかったものではない。


真姫(なら……今倒す!)

真姫(不安の種は早めに潰す)

真姫(この距離ならそうそう見失なうこともないはず)

真姫(ここで不安を解消して、私たちの勝利まで、また一歩近づける!)
534: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:25:05.52 ID:TCeiifJF.net
『3F 大教室』 希・凛


希「ここにもおらんかー」


 三階の大教室の外観は理科室に近い。
 ゲーム用のフィールドだけに、余計なものが排除された教室はどこか物寂しい。
 ここにも雪穂の姿はなかった。


凛「一階の大教室はあんなだったし、講堂にもいないし、どこ行ったんだろ?」

希「そやねえ……」


 先に見てきた『1F大教室』は大変なことになっていた。
 室内で竜巻でも起きたんじゃないかってくらい、全てが壊れていた。
 遮蔽物代わりの作業台だけではなく、壁や窓、床や天井まで、悉く破損の跡があった。


希(二階の大教室で床が欠けたんは、やっぱり一階の天井が崩れかけたせいやったんやね)


 状況から見るに、おそらくはあそこが穂乃果たちが戦った場だろう。
 あれほどの破壊の跡を残した戦闘、どれほど壮絶な争いだったか。


希「しゃーない、他あたろっか」


 希は凛を呼び、廊下へと出る。

 廊下に出たところで、希の方へと走ってくる遠くの陰に気付いた。
535: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:28:08.03 ID:TCeiifJF.net
『3F 南廊下』 ことり・希・凛 対 絵里・真姫


 廊下の先、南西階段を駆け上がってきた人影。
 その数は三つ。

 先頭を走ることりは、向かいの『3F大教室』前に希が立っていることに気付いた。


ことり「希ちゃんっ!」

希「ことりちゃん……! 凛ちゃん早くきて!」


 希に急かされ廊下に出た凛は、逃げることりと、それを追う絵里と真姫を視界に捉えた。


凛「ことりちゃん!」


 凛は即座にファンネルを展開。
 射程に入るや否や、ことりを避けるように注意して、背後に迫る敵勢二人を撃った。

 レーザー攻撃を受けた絵里と真姫は各々の武器で防ぎながら、異なる思いを抱いていた。


絵里(敵が増えた……ここで一気に叩くチャンス!)

真姫(ことりを集中的に狙えなくなる……邪魔よ!)
536: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:29:35.62 ID:TCeiifJF.net
 前方からはことりちゃんたちが迫り。
 真後ろでは凛ちゃんがレーザーを飛ばしている。


希(どうしたらいい?)


 まともな戦闘じゃ、一人二人の数的有利なんてアテにならないことはもうわかってる。
 だから今、ここで足を止めて戦ってええんやろか?

 一番に優先することはなに?
 一番したらいけないことはなに?

 単純に、武器の威力値を考えた。
 凛ちゃん『1』。
 ことりちゃん『2』、せやけどもしかしたら、1~5の『5』を出す方法があるかもしれへん。
 ウチは『0』。

 考えは決まった。


希「ことりちゃん凛ちゃんウチの言うこと聞いて!」


 希は叫んだ。
 これが一番の作戦だと信じて。


希「凛ちゃんそのまま撃って! ことりちゃんそのまま走って逃げて!」


 ちょうど希の脇を通ろうとしたところで逃げる足を緩めたことりの背を、希は思いきり押した。


希「ことりちゃん行くんや! ここでことりちゃんがやられたらアカン! 逃げるんや!」
537: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:31:08.66 ID:TCeiifJF.net
 レーザーを飛ばす凛も、その凛の背後にまで押されたことりも迷った。

 三人で固まって逃げるか戦うかすると思っていた。
 なのに、希はことりだけ逃げろと言う。

 戦うなら、固まっていた方が絶対に良いのでは。
 逃げるにしても、一人だけ逃げるのは良い策では無いのでは。
 諸々の疑問が瞬間的に脳裏に走る。

 それらの疑問を、希は一蹴してみせた。


希「ウチに、任しとき」


 不敵な笑みは、いつもの希が見せる、メンバーみんなに安心を与えるもの。
 いつでも頼りになる上級生。

 今のことりと凛にとって、チームのリーダーからの言葉だった。


ことり「……っ!」

凛「……! わかった!」


 ことりは走った。
 希と凛を残し、止めたくなる足を動かし、振り向きたくなる気持ちを抑えて走った。

 凛は撃った。
 攻撃手段を持つのが自分一人になっても、希を信じ、迫る絵里と真姫に向かって撃った。
538: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:32:51.16 ID:TCeiifJF.net
絵里「いくわよ希! 凛!」


 武器である巨腕を大きく広げ、威嚇するように敵勢へと迫る絵里。
 その横で、真姫は計算を働かせていた。

 ことりが一人だけ逃げた。
 この状況、そして私の不安。
 色々考えるなら……。


真姫「絵里、ここはあなたに任せるわ!」

絵里「え?」


 敵勢を二人がかりで一気に叩くつもりでいた絵里は、不意の言葉に足を止める。


真姫「ここは絵里一人にお願いしてもいいでしょ?」

絵里「平気だけど……希と凛を倒さないの?」

真姫「私はことりを追うわ」

絵里「目の前で確実に倒せる敵を無視しても優先すること?」

真姫「ことりはちょっと気がかりな存在なの。それに、この二人を倒すだけなら絵里一人でも確実でしょ?」


 真姫が口にすることりへの気がかりについて、絵里は共感することができない。
 しかしこの状況でわざわざ口にするからには明確な理由があるということだけは察せられた。
539: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:35:29.68 ID:TCeiifJF.net
絵里「……いいわ。ここは引き受ける」

真姫「ありがとう!」


 絵里の承諾を受けた真姫は一人先に飛び出す。
 凛のレーザーに対して防御に徹しながら、希と凛の脇を通過していった。


凛「真姫ちゃん、逃がさないよっ!」

希「えりちから目ぇ離したら駄目!」


 背を向けて遠ざかる真姫に背後からのレーザー攻撃をしかける前に、絵里が二人に迫る。
 凛は真姫に攻撃する間もなく、迎撃に専念せざるを得なくなった。
540: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:38:12.93 ID:TCeiifJF.net
希「うーん…………中々全部は上手くいかんなあ」

凛「どうしてことりちゃんだけ先に逃げるよう言ったの!?」

希「今一番威力のある武器を持ってるからだよ。ここで倒されたら、増々ウチらの形勢が悪くなる」

絵里「だからって希と凛の二人で私たちに勝てるわけでもないでしょう? 捨て身のつもりだったの?」

希「そうだよ」

凛「そうなの!? 凛たちここでリタイアする予定だったのー!?」

希「でも、捨て身なのはウチだけ。凛ちゃんは途中で逃がすつもりやった」

凛「え?」

希「本当はウチだけがここでリタイアするつもりやったん」

希「まずは確実にことりちゃんを逃がして、その後できるなら凛ちゃん逃がす、って感じやね」

希「けど、真姫ちゃんがことりちゃんを追ったかあ……」


 背後から飛ぶレーザーと迫る巨腕の間に挟まれながら、希は更に考えを巡らせ始めた。


希「まーた色々と作戦が変わりそうやね」
542: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:40:09.48 ID:TCeiifJF.net
『2F 大教室』 ことり


 希と凛の援護を受け、ことりは絵里と真姫から逃げることができた。


ことり(あのまま置いてきてよかったのかな……)

ことり(だけど、希ちゃんは逃げてって言ってた)

ことり(きっとなにか考えがあるんだ)


 希を信じ、ことりは完全に逃げ切ることに集中する。
 職員室のような外観をした『2F大教室』に入ると、一度身を隠すことを考えた。


ことり(作業机の陰に隠れれば、すぐには見つからないはず……)


 適切な隠れ場所を探し、教室内を走っていた。
 そのときだった。
543: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:42:01.83 ID:TCeiifJF.net
『2F大教室』中央の床には、希が気付いたように、ヒビが入り小さな穴が開いていた。
 それは真下の『1F大教室』で行われた、穂乃果と敵プレイヤー三人による争いの跡。
 幾度も天井に武器をぶつけられ、抉られ、穿たれ、半ば崩壊した形の表れだった。

 ことりが床に開いていた穴に足を乗せる。

 ビギ

 嫌な音がした。


ことり(あ……)


 気付いたときには、ことりの立つ周辺の床一面、瞬間的に広範囲のヒビが走っていた。
 ヒビの形に合わせて、床が一気に崩れ落ちる。

 ガラガラという大きな音。
 体のバランスが崩れ。
 下へと落ちていく感覚。

 ことりの意識はそこで途絶えた。
544: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:45:18.08 ID:TCeiifJF.net
『2F 南東階段』 真姫


 ことりを追って二階に降りた真姫は、そこでことりの姿を見失った。
 南と東の二方向へ伸びる廊下、一階へと続く階段、どこへ行ったのかわからない。

 ことりがいつ変調するかわからない。
 現にエキシビジョンでは怯えるばかりだったのと違い、本戦では戦う意思を持っていた。
 穂乃果だって、いつの間にか武器をあんなに扱えるまでになっていた。 


真姫(ことりが海未のためを思う気持ちはきっと誰よりも強い)

真姫(おそらくは、私がライブを行おうとするものよりも)


 ライブを強行すると頑なに言ってきた私だって、海未を思えば、まだライブ中止の選択肢は捨てきれなかった。
 だけど、ことりは何があっても意見を変えるつもりはないだろう。
 私たちにとって大切なライブという選択肢を、海未のために完全に捨てることができていた。
 そこまでの潔さは中々見せられるものではない。
545: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:48:42.80 ID:TCeiifJF.net
真姫(みんながどう感じているかわからないけど、私はことりが一番の敵だと思っている)

真姫(希と凛の二人を差し置いてでも倒しておきたい)

真姫(絵里ならきっと一人で希たちを倒せる)

真姫(ならば私は、ことりを追わなければならない)

真姫(ここで見失うわけには……!)


 逡巡の後、真姫は階下へと移動する。
 ひとまずは講堂へと向かおうと考え、足を急がせた。

 一階に降りた真姫は、講堂へと伸びる東側廊下を走った。

 仮に、進んだ廊下がもう一方の南側廊下だったなら。
 瓦礫が崩れた際に巻き起こった砂煙を未だ残して。
 崩れた瓦礫の下敷きとなっていたことりの姿を、『1F大教室』内で見つけられたかもしれなかった。


【ことりHP:7→5】
546: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/06(木) 21:49:33.49 ID:TCeiifJF.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り4名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・星空凛   HP8  ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP8  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP2  巨大ローラー/威力10


――――――――――
565: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:31:26.37 ID:/x2wRBZz.net
―――

『3F 南階段』 希・凛 対 絵里


 ことりと真姫が去り、二対一となった戦況。
 巨腕を盾に、凛のレーザーを躱しながら絵里が迫ってくる。

 後衛でファンネルによるレーザー攻撃をする凛の前に希は立ち、絵里を待ち構えた。


絵里「なにも持たないで前衛に立とうっていうの?」

希「ウチが凛ちゃんを守るんよ!」

絵里「武器もないまま?」

希「ウチはね、壁役なん!」


 言葉の通り、希は素手のまま絵里に立ちはだかる。
 レーザーを弾きながら接近した絵里は攻撃の射程に入ると、防御を解き、無防備な希に拳を叩きつけた。
566: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:32:30.40 ID:/x2wRBZz.net
 抵抗なく後方へと希が吹き飛ばされ、一時的に凛の守り手がいなくなる。
 しかし凛へと攻め入ろうにも、防御を捨てて巨腕を振った絵里はレーザーに晒される。
 今一度守りを整えるために後退し、その間に、吹き飛ばされた希が再び凛の前に立ちはだかった。


絵里「殴られる度に戻ってきて……それが戦法ってわけ?」

希「そうだよ! ウチはなにもできひんからね、これが精一杯なん」


 頭上に『6』を灯しながら、希は計算していた。


希(これは悪い策やない)


 このままだと、こっちはHPを削られるばかり。
 せやけどえりちの残りHPはたったの『1』。
 凛ちゃんが一度レーザーを当てたら勝ちなんや。
567: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:34:14.36 ID:/x2wRBZz.net
希(あのデカい腕が二つあるえりちは、レーザーを防御する範囲も広い)

希(せやけどウチを攻撃する際には絶対に防御が緩くなるし、そうしたら後退しなくちゃいけない)

希(ウチが前に立っている限り凛ちゃんには攻撃が当たらんし、一気に攻め入られたりはしない)

希(えりちかて後一回でも攻撃受けたらリタイアっていうプレッシャーがあるはず)

希(そう簡単にはウチらもやられへんやろ)

希(ま、上手くいけばの話やけどね)


 しかし、希の予想程には絵里の動きは鈍くならない。
 フットワークを活かし、被弾するギリギリのところでレーザーを避けながら、接近速度を速めていく。


希(もう少しレーザー怖がってくれてもええんやけどねえ……!)


 学内の誰をも寄せ付けなかった肝の太い生徒会長時代の姿を思い出しながら、希は苦笑するばかりだった。
568: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:37:27.74 ID:/x2wRBZz.net
 絵里の拳が希へと伸び、希は一方的に吹き飛ばされる。
 頭上に『4』を灯しながらも即座に立ち上がり、再度凛の前へ。
 一度後退した絵里は、尚も接近を試みてきた。


希(ウチが耐えれるのもあと二発……逃げることも考えなアカンかな?)


 しかしその手は上手くないことを悟った。


希(えりちは一度ウチを狙おうとして、目の前でウチを逃がしてる)

希(せやから例え狙いをバラけさせるために凛ちゃんと別れても、次は確実に倒せる凛ちゃんから狙うかもしれへん)

希(一対一で凛ちゃんを追わせるのはよくない……)

希(逃げるのは無しや……ここでえりちを食い止めな)
569: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:39:14.80 ID:/x2wRBZz.net
 迫る絵里をよく観察する。

 希への攻撃が届く距離に迫るまでは基本的に防御を優先させ、巨腕を身体の前に構えたままにしている。
 凛のレーザーが飛び、それを躱すか弾くかして、レーザー射撃の間隙を縫って距離を詰めてくる。
 そうして希へと射程が及べば、閉じていた腕を開いて攻撃態勢に移る。


希(腕の防御を解くタイミングはわかってる……なら……)


 希は絵里の動きをじっと目で追った。


希(……………………今や!)


 凛がレーザーを撃ち、絵里が防御を固めたのを見計らい、希は前方に飛び出して自ら距離を詰めた。
 レーザーの被弾を恐れない飛び込みの結果、一発のレーザーが希の背に当たった。
570: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:40:17.02 ID:/x2wRBZz.net
 絵里はレーザーを防ぐと、閉じていた腕を少し広げて視界を確保、前方へと距離を詰めようとする。
 その前に、空いた両腕の間をこじ開けるようにして、希の方から勢いよく絵里の懐に飛び込んできた。


絵里「ちょっ!?」

希「本日二度目ー!」


 希は絵里に抱き着くと、そのまま床に押し倒し、二人並んで転がった。


希「凛ちゃん今や!」

凛「わかったにゃー!」


 希と重なった絵里に向かい凛は一斉掃射した。
571: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:43:11.34 ID:/x2wRBZz.net
 床に転がった絵里は倒れた姿勢のまま巨腕を振り回し、辛うじて被弾を回避。
 レーザーは防げたものの、正面から希に抱きつかれているため体が動かしづらいため、希を引き剥がしにかかる。
 だが巨腕を振るおうにも、体に密着するゼロ距離の的は下手をすると自分自身を攻撃しかねない。
 思いの外狙いにくい的に手を出しあぐねた。


希「手ぇ止まってるよ? ウチに抱き着かれて嬉しくなっちゃったん?」

絵里「なに言って……」


 希の相手をしている間にもレーザーは襲う。
 床に転がったままでの防御は難しく、希に構うどころではなくなる。


絵里(……こうなったら!)


 絵里は両巨腕の掌を床に付けると、床を押す勢いで自身の身を壁に向かって思いきり飛ばした。
 絵里の倒れていた場所を狙った凛のレーザーが空を切る。
 回避行動と共に、抱き着かれていた希ごと脇の壁にぶつかった。
572: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:44:29.82 ID:/x2wRBZz.net
希「んぐっ!」

絵里「がっ!」


 壁に身を打ち付けた二人はそれぞれ悶絶し、ようやく各々の体は離れた。
 苦しむ絵里に向かって凛はレーザーを射出。
 不十分な体勢ながらも絵里は捌き切る。

 絵里から身を剥がされた希は、凛の方へと戻った。


希「惜しい……!」

絵里「残念だったわね、捨て身の策だったのに」


 決死の覚悟で絵里に挑んだ希だったが、力ずくで凌がれたことで焦りが生じた。


希(今ので倒し切れないのはマズイかも。これ以上は手がない)

希(次からはウチが突っ込むのも警戒されてまう……どないしよ……)


 打つ手なしの希に、背後から声がかかった。


凛「希ちゃん、今度は凛が試してみていい?」

希「え?」


 気付けばレーザー掃射の手を止めていた凛が、希の前へゆるりと躍り出た。
573: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:46:47.20 ID:/x2wRBZz.net
 常に飛び交っていたレーザーによる攻撃が止む。
 守りを意識せずに済むようになった絵里は猛然と距離を詰めにかかった。

 凛は攻撃をしないまま、左右と真上に広く距離を取ってファンネルを配置した。
 絵里が近づいても一向にレーザーを射出しない。

 巨腕が凛に迫る。
 希が慌てて手を伸ばして叫ぶ。
 絵里は凛の顔面に狙いをつけた。


希「……………………どうして?」

絵里「……参ったわね」


 凛の目の前まで迫り、殴りかかろうと振りかぶった絵里の拳。
 しかし腕を大きく伸ばさないまま、動きを止めていた。

 攻撃される寸前だった凛は、目前まで迫られようとも、顔を背けたり腕やファンネルでガードしたりはしない。
 厳しい表情で絵里を見据えたまま、微動だにしなかった。
574: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:49:08.04 ID:/x2wRBZz.net
希「なんでえりちの攻撃が止まったん……?」

絵里「……凛。今、相撃ち狙ってたでしょ」

凛「…………バレちゃった?」


 真面目な顔をしていた凛は、堅い表情を崩し、にへらと笑ってみせた。


凛「希ちゃん見てたらね、相撃ちでもいいんだって気付いたんだ」

絵里「私が攻撃しようと腕を伸ばせば、その方向だけは無防備になる……」

凛「そこに凛が攻撃! 絵里ちゃんリタイア! ってなってたらよかったんだけどねー」

絵里「まったく、策士は希だけじゃないってわけね」


 腕を伸ばせば届くくらいの近距離で睨み合いながらも、双方攻撃を仕掛けないまま膠着状態に陥った。
575: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:50:25.80 ID:/x2wRBZz.net
絵里(私から手を出すと反撃されるから攻撃できない……だからって、詰めた距離を退くのも惜しい)

凛(どうしよ、こうなってからのことは考えてなかったや……うぇぇ希ちゃぁん助けてぇ)


 一瞬の気の緩みも許されないまま、二人は身動き取れずにいた。


希「さーてさて。えりち、今から駆け引きのお時間です」


 そんな間の抜けた声が緊迫した空気を破った。
 希は武器であるマントを広げると、ひらひらと振って絵里に見せつけた。


希「ウチは今からマントを使って不可視化する。さて、どうするやろね?」

絵里「……どうするのかしらね」
576: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:52:08.19 ID:/x2wRBZz.net
 気を抜けば至近距離からレーザーを撃たれかねない絵里は緊張を解くことができない。
 その上更に希が妙なことを言い出し、警戒心は更に高まった。


希「もしかしたら透明になってる間にえりちの背後に回って、不可視化が切れると同時にえりちに襲いかかるかもね」

絵里「透明になってる間もこっちの攻撃は当たるんだから、背後は取らせないわ」

希「効果が切れるまでその腕が届かないところにいて、効果が切れたと同時に跳びかかったりしたら?」

希「それにね、えりち。周り見てみ。ウチに構ってる余裕があるんかな?」


 言われるまでもなく、絵里は宙に浮かぶ脅威を意識していた。
 いつ攻撃してくるかわからない三機のファンネル。
 どんな形でも攻撃に手を回せば、三方向から容赦なく攻撃の手が伸び、被弾する確率は高いと読んでいた。
577: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:53:21.76 ID:/x2wRBZz.net
希「さあ答え合わせの時間や! 凛ちゃん攻撃の準備しとってね!」

凛「うんっ!」


 希は無駄な動きなくマントを身に纏い、不敵に笑って見せる。


希「十秒間のナゾナゾタイムやでえ!」


 宣言と共に希が不可視化した。
 凛はいつでも絵里へとレーザーを撃てるよう、射出ボタンに添えた指に神経を集中させた。


絵里(マズイ……これは、マズイ……! 攻めてる場合じゃない!)


 希の姿が消えた瞬間、絵里は迷わず後方に逃げた。
 凛の方を向いたまま、斜めにジグザグにステップを踏むよう後退し、的を散らす。

 絵里の攻撃範囲から解放されたことで凛も攻撃を再開。
 遠のく絵里に向かってレーザーを繰り返し飛ばす。
 姿を消した希の居所を常に意識しつつも、絵里はレーザー攻撃の全てを防ぎ切った。
578: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:56:47.77 ID:/x2wRBZz.net
 十秒が経過した。
 凛は攻撃を止め、絵里も後退を止め、希の居場所を探った。

 するりと、希は十秒前と変わらず、凛のすぐ横に姿を表した。


希「正解は、凛ちゃんの横から動かない、が答えでしたー」

希「前に出たらレーザー当たるやん。えりちの後ろに回り込むなんてムリムリ」

絵里「……してやられたわ」

希「こういうのはハッタリが命やもん」


 せっかく詰めた距離を自ら開けてしまった状況を悔いて、絵里は歯噛みした。


希「さて、どうするん? また突っ込んできてもウチが壁になるし、凛ちゃんは相撃ち狙うかもよ?」

凛「撃っても当たらないなら相撃ち狙って待ってても同じだもんね!」


 希と凛は揃って口元に手を当てて、キシシと似たような笑い方をする。
 息の合った二人の仕草に苦笑が漏れるも、絵里は現実的な判断を下した。
579: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 22:57:44.95 ID:/x2wRBZz.net
絵里「ここは退くわ」

希「あれ、いいの? せっかくウチらを倒すチャンスやったのに」

絵里「どうせ今攻め入っても、また凛の目前で膠着状態になるのがわかりきってるもの」

凛「凛間違って攻撃ボタン押しちゃうかもしれないよ? そしたら一秒隙ができるかもよ?」

絵里「好きに言ってなさい」


 防御体勢を維持しながら、絵里は更に後退を続けた。
 ファンネルの射程外に来たと見て、完全に防御を解くと、諦めたように首を横に振った。


絵里「今回は完全に私たちの読み間違い。一人で倒せるほど甘くなかった」

希「ウチら見直されたやん」

凛「凛たち見直されたね」

絵里「でも次は油断しない。そのときに出せる総力をかけて、今度こそ叩きに行くわ」


 こわーい、という緊張感のないハミングを耳にしながら、絵里はその場から去っていった。
580: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:01:39.08 ID:/x2wRBZz.net
凛「……ごめんね希ちゃん、絵里ちゃん倒せなくて」

希「ええんよ。凛ちゃんこそ、ウチの言う通りここに残ってくれてありがとね」


 絵里の去った方を眺めながら、希はことりのことを考えた。


希「ことりちゃんを逃がしてから真姫ちゃんが追うまで少し間があったから、逃げきれてたらええんやけど」

凛「HPも減ってないみたいだし、逃げ切れたって願うしかないよねー」

希「せやね。ウチらはまた改めて、雪穂ちゃんの捜索隊に戻ろか」

凛「了解です希隊長!」


 凛はわざと畏まって敬礼のポーズをする。
 どんなときでも元気と茶目っ気を忘れない仲間を頼もしく感じるも、やはり不安は残った。


希(今ことりちゃんが倒されたら、致命傷に近いからね……)


【希HP:8→6→4→3】
582: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:05:24.07 ID:/x2wRBZz.net
―――

『1F 大教室』 ことり


 二階の大教室から崩れ落ちた先。
 穂乃果と真姫、絵里、花陽の戦いにより、瓦礫の山と化した『1F大教室』。
 天上が崩れ、更に瓦礫の量が増した室内で、ことりは目を覚ました。


ことり(…………落ちたんだ)


 上の方に大きな穴が見える。
 天井には無数のヒビが入り、抉れた跡が何重にも走って、今にも崩れ落ちそう。

 横になっていた体を起こして周囲を見渡すと、天井以外も酷い有り様だった。
 大教室内の作業台が全部壊されている。
 壁にはへこんだ部分や切り裂かれた跡がほぼ全面的についている。
 窓は半分以上が割れていた。


ことり(激戦の後、って感じ……)
583: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:07:28.23 ID:/x2wRBZz.net
 ことりは立ち上がろうと下半身を動かそうとして、違和感に気付いた。


ことり「……あっ!?」


 二階から落ちた際に巻き込まれたのか、足が瓦礫の下に挟まれ、身動きが取れなくなっていた。
 足に乗る瓦礫の量はかなりのもので、両腕で持ち上げようとするもすぐには動かない。
 時間をかければ足を引き抜けるかもしれないが、座ったままで一つずつ瓦礫を退かすとなると相当な労力がかかると見える。
 ゲームの仕様で怪我が無く、痛みを感じず済んだことが幸いだった。

 
ことり(……そうだ!)


 案を思いつき、息を大きく吸った。


ことり「ちゅんちゅんっ!」


 かけ声に反応して、右手の先から一メートル程の白刃が伸びた。
585: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:09:22.14 ID:/x2wRBZz.net
 ことりソードを瓦礫の小山にぶつけると、上の方に乗っている瓦礫が少し崩れた。
 瓦礫が崩れる度に粉塵が舞い、軽く咳き込んでしまう。


ことり(でも、これなら瓦礫を退かせられそう!)


 武器による対処に手応えを感じて、何度も足に乗る瓦礫を斬りつけた。
 瓦礫の山を崩していくと、最後には一回り大きな瓦礫が残った。


ことり(最後にこれさえ退かせられれば……)


 大き目の瓦礫に向かって斬りかかる。
 しかしこれまでのサイズとは違い、斬りつけてもビクともしない。
 刃を叩きつけた衝撃で小さく粉塵が舞っただけだった。


ことり(こんなに大きいと、剣をぶつけただけじゃビクともしない)

ことり(瓦礫を切断しないといけないかも)
586: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:10:55.64 ID:/x2wRBZz.net
 ならばと思い、白刃を瓦礫に押し当ててみた。


ことり「……………………やった!」


 ジジ、ジジ、と音を鳴らし、ゆっくりとだが、白刃は瓦礫に食い込んでいった。
 刃の研ぎの悪い包丁が固いものに刺さっていくような動きだが、着実に刃は進んでいく。
 このままいけば瓦礫を切断できそうだった。


 ガラガラ ガラガラ


 重々しい音が響いてきた。
 こちらに近付いてきている。
 床に座っていることりには、地響きがハッキリと感じ取れた。

 瓦礫を切断せんとしていた手が止まる。
 全身から冷汗が一気に流れ出た。
587: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:12:01.76 ID:/x2wRBZz.net
 ガラガラ ガラガラ

 重々しい移動音は、『1F大教室』廊下側の壁に開いた、三つ目の出入り口とでも呼べる大穴の前で停止した。


花陽「…………声が聞こえて…………なにか崩れるような音がしてるなって思ったら……」


 いつ何時目にしても、絶望しか感じられない、巨大な鉄塊。
 身動きが取れないまま、座り込む形で見上げることりからは、今まで以上に大きく見える。
 絶望の淵へと突き落とされるような威圧感だった。


花陽「……大変なことになってるね、ことりちゃん」


 超巨大ローラーを操り、大教室内に向けて、花陽はゆっくりと方向転換をした。
588: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:15:22.15 ID:/x2wRBZz.net
『1F 大教室』 ことり 対 花陽


ことり「…………………………」


 ことりの方へと向きを変えた超巨大ローラー。
 座り込んでいることりの低い視線からは、花陽の姿が完全に隠れてしまった。


花陽「ことりちゃんはね、倒しておきたかったんだ」


 鉄塊の向こうから声が聞こえる。
 まるで鉄塊が話しているようで滑稽だったが、微塵も笑える場面ではなかった。


花陽「ことりちゃんはね、絶対にライブをさせたくないって、そう言う気持ちが一番強いと思っていたから」


 花陽の言葉で、恐怖に囚われていたことりの意識が思考力を取り戻した。

 大切な存在を守るために、ゲームに臨んだ。
 これ以上無理させないようにと、言い争っているときからずっと、ライブを休もうと言い続けてきた。
589: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:17:39.03 ID:/x2wRBZz.net
花陽「私ね……ライブ、したいんだ」


 ローラーの向こうで花陽は訥々と語る。


花陽「アイドルに憧れてたから……ライブ、したいの」

花陽「ライブをしたいって気持ちと、海未ちゃんを心配する気持ちがぶつかってた」

花陽「ずっと迷ってたけど、話し合いじゃなくて、ゲームで結果を決めることになった」

花陽「だから、ゲームの結果を受け入れる代わりに、私はゲームの中だけは素直になることにしたの」

花陽「ごめんね、ことりちゃん」

花陽「ことりちゃんだけじゃなくて、凛ちゃんたちにも、謝らないといけないよね」

花陽「でもね、私、やっぱり本心は変えられないよ」

花陽「私はライブがしたい。だからライブの行方を決めるゲームを、全力で戦うって決めたの」

ことり「花陽ちゃん……」
590: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:19:33.64 ID:/x2wRBZz.net
花陽「アイドルに憧れてたからライブがしたい、って言ったけど」

花陽「ことりちゃんがアイドルに憧れていないとか、アイドルに対する思いが足りないとか、そんな風に思ってないよ」

花陽「私と一緒の、同じスクールアイドルだもん」

ことり「……うん」

花陽「だけどことりちゃんは、それよりもやっぱり、海未ちゃんが大切なんだよね」

花陽「心の負担を軽くさせようっていう真姫ちゃんや絵里ちゃんみたいに、そこまで考えられなくなるくらい」

ことり「……そうだよ。私は、なによりも海未ちゃんが大事なの」

花陽「わかるよ、そういう気持ち。他に何があっても、捨てられないものってあるよね」

花陽「私にとっては……それが、アイドル……」

花陽「スクールアイドルとして立てる、ライブなんだ」
591: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:20:53.94 ID:/x2wRBZz.net
花陽「海未ちゃんやことりちゃんには悪いなって思うよ」

花陽「でも、ライブをしたいって気持ちだって、本物だもん」

花陽「譲る気は、ないよ」


 ガラ、と。
 止まっていた鉄球が僅かに音を鳴らした。


花陽「ことりちゃんも、海未ちゃんのことを心配する気持ちが本物だってわかる」

花陽「本物だから、ことりちゃんだけは、早く倒さないと」

花陽「このゲームはね、意思が強いと、きっとその分強くなれるから」

花陽「私たちの脅威になる前に、ことりちゃんを倒さないとね」
592: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:21:31.08 ID:/x2wRBZz.net
ことり「意思が強いと……?」

花陽「真姫ちゃん、ゲームの中だと凄い動きで、凄い戦い方ができるよね」

ことり「うん。まるで武器の扱いに慣れてるみたいに……」

花陽「あれってやる気になったらできるんだって言ってたんだ」

花陽「使い方なんてわからなくても、やってやろうって思ったら、できたんだって」

ことり「気持ちだけで、あんなに戦いが強く……」

花陽「穂乃果ちゃんが大暴れできたのも、きっとやる気になったからなんだよ」

花陽「お陰でこの教室はこんなに滅茶苦茶になっちゃった」

花陽「私も、今までゲームの中だとみんなローラーでどかせることができたのに」

花陽「穂乃果ちゃんにだけは攻撃されちゃったよ」

ことり「穂乃果ちゃん……」
593: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:23:31.39 ID:/x2wRBZz.net
花陽「だからね、私思ったんだ」

花陽「穂乃果ちゃんは本当に凄かった。穂乃果ちゃんみたいに出来る人は他にいないと思う」


 ローラーがゆっくりと動く。
 重量のある鉄塊が、小さな瓦礫を押し潰した。


花陽「けど、もしいるとしたら……」


 ことりは足を動かそうと力を入れる。
 けれど瓦礫に挟まれたままでは足を引き抜くことができない。


花陽「それはきっと、ことりちゃんだって」


 ことりに向けて、花陽はローラーを押し始めた。


花陽「だから……ことりちゃん、倒すね」
594: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:24:37.74 ID:/x2wRBZz.net
 ……嫌だ。

 負けたくない。
 私は負けられない。

 海未ちゃんを助けたかった。
 一度助けられなかった海未ちゃんを、今度こそ助けたかった。

 この先、ゲームが終了して。
 どんな結果になっても、海未ちゃんは笑って受け入れてくれると思う。
 今までの繰り返しみたいに、海未ちゃんが無理をする結果になったとしても。

 だけど、その笑顔の向こうでまた我慢してるんじゃないかって考えたら、私はもう耐えられない。

 海未ちゃんに無理をさせたくない。
 私たちのために海未ちゃんに負担をかけさせるようなこと、もうさせたくたくない。

 海未ちゃんを、守りたい。
595: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:26:06.92 ID:/x2wRBZz.net
ことり「……………………ぅぅぅぁぁぁあああああ」


 ローラーがきた。

 嫌だ。
 負けたくない。
 負けられない

 負けない。

 海未ちゃんを守る。



 あの日、練習中に倒れた海未ちゃんの姿が蘇った。



ことり「ああああああああああああああああちゅんちゅうううううううううううんっっっ!!!」
596: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:29:39.08 ID:/x2wRBZz.net
 右手のことりソードが伸びた。
 これまでの倍、それ以上、もっともっと長く。

 白刃の横に表示されていた数字が『Ⅱ』から『Ⅲ』に変わった。

 決めたんだ。
 なにがあっても海未ちゃんを守る。
 もう海未ちゃんが倒れるようなことはさせない。

 他のなにを捨て置いたとしても。

 
ことり「海未ちゃああああああああああああん!」


 腕を高く上げる。 
 伸びた白刃の切っ先が天井に突き刺さる。
 天井を削りながら、大きく後ろに傾く。
 そして、思いきり前方に振り下ろした。

 勢いをつけたローラーが、ことりを轢き潰さんと駆ける。
 天井を削りながら白刃が、ローラーへと振り下ろされる。

 激しい衝突音が響き渡った。
597: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:31:38.51 ID:/x2wRBZz.net
 巨大な物体が移動したことで、室内に積み上がっていた粉塵が激しく舞う。
 ことりと花陽の間を砂煙が包み、視界を半ば遮った。

 ローラーは、動きを止めていた。
 白刃もまた、動きを止めていた。

 双方の武器は互いをぶつけ合うようにして迫り……しかし。
 二つの武器は接触せずに終わった。

 砂煙が徐々に晴れてくる。
 ことりの視界に、ローラーの影が再び映る。

 花陽が全力をもって押し出した超巨大ローラー。
 薄手のグローブをつけた片手で、受け止められていた。

 これまでで最大の威力を発揮したことりソード。
 同様に、もう片方の手で、刃を掴まれていた。

 ことりの眼前に立つ者の手によって。
598: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:33:36.64 ID:/x2wRBZz.net
 砂煙の中から声が聞こえる。


 ―――あなたたち


 やがて舞っていた砂煙が消え去り、視界がクリアになる。
 座り込んだまま白刃を振るったことりの目に、刃を受け止めた者の正体が映る。


 ―――これは一体、どういうことなのか


 呆然と見上げるしかなかった。

 幻を、見ていると思った。
 思い描いた姿が強すぎて、本当に意識から飛び出してきたのかと思った。
 仮想世界の中で、イメージが生んだ、非実在の存在。


 ―――なぜ、戦うような真似をしているのか


 しかし、その凛々しい立ち居振る舞いは間違いなく、ことりの知る現実の姿そのものだった。
599: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:34:48.17 ID:/x2wRBZz.net
 
 
 
海未「―――私に、説明していただきましょうか」
 
 
 
600: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:38:34.45 ID:/x2wRBZz.net
――――――――――

【チーム休養】 残り4名/6名

・南ことり HP:5
武器:ことりソード/威力1~5(威力2)

×高坂穂乃果 HP:0 【リタイア】
武器:加速器付モーニングスター/威力4

・星空凛 HP:8
武器:ファンネル×3/威力1

・東條希 HP:3
武器:10秒透明マント/威力0

・高坂雪穂 HP:9
武器:復活スイッチ/威力0

×絢瀬亜里沙 HP:0 【リタイア】
武器:10tハンマー/威力5


――――――――――
601: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:39:26.54 ID:/x2wRBZz.net
――――――――――

【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP:5
武器:デスサイズ/威力3

・絢瀬絵里 HP:1
武器:スターエリチカ/威力2

・矢澤にこ HP:2
武器:催涙ガス噴出装置/威力0

・小泉花陽 HP:2
武器:巨大ローラー/威力10


――――――――――
603: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:40:01.32 ID:/x2wRBZz.net
――――――――――

【???】???

・園田海未 ???
武器???/威力???
《???》


――――――――――
605: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/08(土) 23:42:08.03 ID:/x2wRBZz.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り4名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・星空凛   HP8  ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP3  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP2  巨大ローラー/威力10



・???


――――――――――
22: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:32:47.53 ID:pM2gMJSJ.net
―――――
―――



 生徒会での仕事がひと段落ついた。

 一人で全ての作業をこなすのは大変でも、肉体的な疲労はさほど感じない分、気が楽だった。
 それに、まともに体を動かせない今、なにもしていなければ気持ちだけが悪戯に逸ってしまう。
 ならばまだやれることがある方が良かった。

 区切りをつけて下校する。
 廊下を歩いているだけで、明確な疲労は感じていなくとも、どこか体が重かった。

 犯してしまった失態は今でも悔いている。
 日頃他メンバーにあれだけ体調管理を注意しておきながら、当の私自身が倒れてしまった。
 更にはそれがきっかけで、次のライブを巡った諍いまで起こしてしまった。
 これでは面目が立たない。

 沈んだ気持ちのまま昇降口に着く。
 上履きを脱ぎ掛けて、ふいに頭の中に気紛れが過った。

 確か、ことりたちは今日から練習を再開させると言っていた。
 みんなは問題なく練習ができているだろうか。

 今、私が向かったところで、なにかできるわけではない。
 なにか手を出そうにも、体調を労わられて止められるだろう。

 けれど……。

 上履きを履き直して、昇降口から離れる。

 少しだけ、みんなに会いたくて。
 練習が終わるまで、部室で待っていよう。

※ ここからスレが変わります(管理人)

元スレ: ことり「ヴァーチャル世界で殴り合いちゅんちゅん!」2

23: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:33:37.70 ID:pM2gMJSJ.net

―――
―――――


『1F 大教室』 ことり 対 花陽 対


ことり「海未ちゃんっっ!!!」


 自然と大声を出していた。

 私を轢こうとしたローラーを片手で受け止めて。
 私が振り下ろした剣も片手で受け止めて。

 今度こそ守りたいと思っていた海未ちゃんが。
 あの日倒れた海未ちゃんが。

 海未ちゃんが、ここにいる……。
24: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:35:25.42 ID:pM2gMJSJ.net
海未「…………これはいったい、どういうことなのですか?」


 険のある声が響いた。
 海未の眼光は鋭く、ローラーとことりを交互に見比べている。


海未「部室に向かえば、練習中のはずのみんなが揃って眠っていて……」

海未「なにかと思えば、全員同じものを頭に被って……」

海未「試しに被ってみれば、突然このような場所に飛ばされ……」

海未「見れば、あなたたちはまるで、互いを傷つけようとする始末」


 海未は、瓦礫に足を挟まれていることりに視線を落とす。
 一瞬絡まった視線。
 ことりを労わるような表情。

 しかしすぐに海未は険しい表情に戻った。


海未「きちんとわかるように説明していただきます!」
25: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:37:11.33 ID:pM2gMJSJ.net
 海未の登場を面白く思わなかったのは、花陽だった。


花陽(このままいけば、確実にことりちゃんを倒せたはず)

花陽(なのに、海未ちゃんにローラーを止められた)

花陽(今まで誰にも完全には止められなかったのに……)


 口ぶりからして、事情を把握しているわけではないらしい。
 しかしそれとは関係なしに、今この場では真剣勝負をしている。
 μ'sの今後を賭けた、大切な勝負の真っ最中だ。


花陽「海未ちゃん……どこから来たの」

海未「上の階からです」

花陽「上……」


 花陽は視線を天井へと上げる。
 穂乃果と繰り広げた壮絶な戦いの跡が残った天井には、大きな穴が開いていた。
 ことりがそこから落ち、そして、海未もまたそこから飛び降りてきたということだろう。


海未「突然部室ではないところに移動したと思いきや、床に大穴が開いている」

海未「そこからはことりが倒れているのが見えて、身動きが取れずにいる」

海未「そんなことりを花陽はローラーで轢こうとしている」

海未「見過ごせるわけがありません」
26: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:39:08.34 ID:pM2gMJSJ.net
花陽「海未ちゃん、ごめん……ちょっと、そこ、どいて」

海未「……………………なぜです?」


 花陽の言葉に海未の眉根がピクリと動いた。
 視線が一層鋭くなっていく。


花陽「だって……海未ちゃんがどいてくれないと、ことりちゃんを、」

海未「どうすると!?」

 
 皆まで言わせず、厳しい声が遮った。

 ローラー越しに海未の眼光が突き刺さる。
 その視線の余りの鋭さに、花陽の喉から小さな悲鳴が漏れた。


海未「この、危険な、ローラーで……誰を、どうしようと、言うのですか!?」


 声に篭る怒気が強まっていた。
 
 なにをするつもりか察し、逆鱗に触れてしまったのかもしれない。
 事情を知らない海未からすると、ことりに対して明確な危害を加えようとしているように捉えられてもおかしくはない。

 堅い決意で戦いの場に挑んでいた花陽も、今の海未の態度には恐怖を感じ、竦んでしまった。
27: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:40:04.11 ID:pM2gMJSJ.net
 そして信じられないことが起きた。

 ガガ、ガガ、と。
 なにか堅い物同士擦れる音が聞こえる。


花陽「!? 嘘っ!?」


 ローラーを前へと押していた花陽が、そのローラーごと、後方へと押し返されていた。
 慌てて足を踏ん張るも、ローラーの後退は止まらない。


花陽「なんで……? なんで……っ!? ローラーは後ろに下がれないはずじゃ……っ!」


 これまで一ミリたりとも後方へと動かなかった超巨大ローラー。
 それが今、正面から海未の手に押され、花陽ごと後方へと押し返されている。

 ガガ、ガガ、と。
 回転しないままのローラーが床が擦る音がする。
 花陽はいくら押そうとも、いくら踏ん張ろうとも、耐えることができない。

 そのまま押し込まれ、壁の大穴から廊下にまで後退させられた。


海未「……はっ!」


 片手で押し返していた海未が、無理やりローラーの向きを変えるように手を横に振った。
 海未の手に応じてローラーは九十度向きを回転させられ、ローラーは廊下を進む進路を取らされた。
28: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:41:15.68 ID:pM2gMJSJ.net
 ローラーの向いている廊下の方向に、海未は真っ直ぐ指を差した。


海未「行きなさい」

花陽「…………」

海未「今、あなたたちがなにをしているのか、私はわかりません」

海未「もしかしたら私は余計なことをしているのかもしれません」

海未「ですがなんであれ、μ'sの仲間同士で危害を加える真似は、私が許しません」


 海未は真っ直ぐに花陽を睨んでいる。
 花陽は海未のことを見返せない。

 一度だけ勇気を振り絞り、花陽は顔を上げると、海未の向こうに見えることりを見据えた。

 未だ地面に座り込んだまま、表情は茫然としていて。
 見上げる瞳はキラキラと輝いている。
 きっと、その目にはもう、私のことは映っていない。

 花陽は下唇を噛みながら、海未の示すままに、廊下をゆっくりと進んでいった。
29: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:42:46.46 ID:pM2gMJSJ.net
 花陽の姿が見えなくなるまで見届けてから、海未は教室内へと視線を戻した。


海未「大丈夫ですか」


 慈しむような声色で、声をかけられる。
 ゆっくりと近づいてくる姿に、ことりの目は奪われていた。


ことり「……………………海未ちゃん……」

海未「今、瓦礫をどかしますから」


 ことりの足を挟んでいた最後の瓦礫が海未の手によってどかされる。
 自由になったことりに、海未が手を差し伸べた。


海未「ことり」

ことり「…………うみちゃぁん」


 ことりの手から伸びていた白刃が消えた。
 代わりにことりの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
30: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:45:52.83 ID:pM2gMJSJ.net
―――

『3F 大教室』 雪穂


雪穂(誰も来ない)

雪穂(こうして隠れているのは正解なのかな)

雪穂(誰かに守ってもらわなくていいから、足手纏いにならないだけマシなのかもしれないけど……)


 遮蔽物があり、物陰に隠れられる各フィールドを、雪穂は転々としていた。
『2F大教室』、『講堂』、そして『3F大教室』。

 移動を頻繁に繰り返していたため、雪穂を探している希や凛たちと擦れ違いになっていたのは不幸ではあった。
 しかし、その間敵プレイヤーとも遭遇することのなかった点は幸運だった。

 移動を繰り返す間、雪穂は隠れる場所とは別に、一度足を向けた場所があった。

『2F大教室』から場所を移す際に、そのまま東側の廊下へと向かう。
 移動しながらゲームのウィンドウを開き、ゲームマップを確認する。
 今、雪穂が見るゲームマップにだけ、他プレイヤーにはない特徴があった。
31: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:47:35.22 ID:pM2gMJSJ.net
雪穂(この先、二階の東側廊下で……亜里沙はリタイアした)


 雪穂の武器、《復活スイッチ》は、仲間がリタイアした場所付近で使用しなければ効果がない。
 そのため全プレイヤーのうち雪穂だけは、プレイヤーのリタイアした位置が把握できるようになっていた。

 自身の武器を握りしめながら雪穂は目的地へと向かう。
《復活スイッチ》は片手に収まり簡単にボタンを押せるもので、雪穂は爆弾の起動スイッチみたいだと連想した。
 けれどこれを所定の場所で押せば、爆発ではなく、復活劇を起こすことができる。


雪穂(本当は今使っていいのか、誰を復活させればいいのか、希さんあたりに聞きたかったけど……)


 ゲームを通じてたった一度しか使えない武器。
 使用するタイミングと仲間を自己判断で決めていいのか不安ではあったが、雪穂は亜里沙のリタイアした場所へと向かった。
32: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:50:49.95 ID:pM2gMJSJ.net
 二階南東の角にきて、そっと東側廊下を覗く。
 しかし、ちょうど向かいから、にこが雪穂のいる方へと歩いてきているところだった。


雪穂(! 駄目だ!)


 慌てて雪穂は方向転換し、先程まで隠れていた『2F大教室』内に戻る。
 出入り口から目だけ覗かせて南東の廊下の角を凝視する。
 だがしばらく経っても、にこは一向に表れない。


雪穂(こっちに向かってたはずなのに……どうしたんだろ……)


 にこを上手くやり過ごせばその後改めて亜里沙がリタイアした場所へ向かえると思ったが、にこがやってこない。
 だからと行って、こちらに向かってきていたはずの敵プレイヤーをもう一度見に行く勇気はない。

 雪穂は諦めて、別の場所へと隠れるため移動を開始した。
 それ以降も移動を繰り返し、今は『3F大教室』で身を潜めている。


雪穂(一回復活の機会を逃したら同じことやりにくいなあ)

雪穂(やっぱり先に誰かと相談した方がいいかも。それまでちょっと待っておこう)

雪穂(…………まだここに隠れて三十分経ってないけど……そろそろ移ろうかな)


 高頻度での移動が得策なのかどうかはわからない。
 けれど今のところ、移動中に敵から見つかってはいない。
 自身の行動を信じて、雪穂は次の隠れ場所へと移った。
33: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:53:23.22 ID:pM2gMJSJ.net
―――

『1F 大教室』 ことり   海未


 海未ちゃんと二人。
 廃墟のようにボロボロになった『1F大教室』で、瓦礫の上に座っていた。

 時間をかけて、今起こっていることを話した。
 私たちの言い争いは、まだ練習を再開できるほどまでに解決できていなかったこと。
 解決するために、真姫ちゃんがゲームを持ってきてくれたこと。

 ヴァーチャル空間での殴り合いで、これまでの諍いで溜まった鬱憤の全てを晴らす。
 そして後腐れなく、今後のμ'sのライブについて決定を下す。

 ライブを休もうと決めた子たち。
 ライブを強行しようと決めた子たち。
 それぞれが別々の理由だけど、みんな海未ちゃんのためを思って行動していた。


海未「……………………そうでしたか」


 私の説明を聞き終えた海未ちゃんは、少し元気がなくなっていた。


海未「私のために、このような騒動になって……」

ことり「海未ちゃんのせいじゃないよ! これは私たちみんなの話だもん」

海未「それでも結果的に、体を張るようなことまでさせてしまいました……」


 先日倒れたばかりの海未ちゃんだから、私たちに体を酷使させるようなことになって余計に責任を感じているみたいだった。
 そうやって、自分のことを責める海未ちゃんの姿に、私は胸を痛めた。
34: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:54:26.16 ID:pM2gMJSJ.net
海未「花陽には、やはり、余計なことをしてしまったのかもしれません」

ことり「どうして?」

海未「形はどうであれ、みんなはルールを定め、勝負をしていたのでしょう」

海未「そこに無関係の私が参入してしまったことで、結果を変えてしまったのかもしれません」

ことり「そんなこと……海未ちゃんは悪くない……」

ことり「少なくとも私は……あのとき助けてくれて、凄く嬉しかった」

海未「ことり……」

ことり「私、海未ちゃんを守りたいって思ってゲームで頑張ってたけど」

ことり「やっぱり海未ちゃんには、現実でも、ゲームでも、守られっぱなしだね」


 へへ、と、誤魔化すように笑う。
 力ない自分が情けなかった。


海未「私は、本当に嬉しいです」

ことり「……嬉しいって?」

海未「ことりが私のことをこれほどまで心配してくれていたことが、です」


 海未ちゃんの表情はとても穏やかで。
 その顔を見ていたら、不思議とまた涙が出そうになった。
 見られないように、顔を背けて目を擦る。


海未「心配をかけて、本当にすみませんでした。そして、ありがとうございます」


 隠そうとした涙が、また一つ零れた。
35: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:55:33.99 ID:pM2gMJSJ.net
ことり「……海未ちゃん、体調は大丈夫なの?」

海未「それが不思議と体が軽いんですよ」


 海未ちゃんは立ち上がって、腕を伸ばしたりと体を動かしてみる。
 快調みたいで、倒れる前の元気な姿に見えた。


海未「現実世界ではまだ体が重かったのですが、やはりそこは仮想世界の効果といったところでしょうか」

ことり「ここではね、やる気になったらどんな動きでもできるみたいだよ」

海未「やる気になれば、ですか」

ことり「真姫ちゃんとかね、特に凄いんだよ。武器の鎌をブンブン振り回して、凄い強いの」

海未「真姫にその手の心得があるとは聞いていませんから、やはり仮想世界の補正を受けているわけですね」

ことり「海未ちゃんは元々動けるから、もっと凄くなっちゃうね!」

海未「どうでしょう。意思の強さで動きが変わるというのなら、難しいかもしれません」

海未「私はまだ、この仮想世界の中でなにをするべきか、迷いがありますから……」

ことり「そっか……」
36: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:57:16.69 ID:pM2gMJSJ.net
海未「これから、まだことりは戦うのですか」

ことり「……。うんっ」


 涙を拭いて、海未ちゃんに元気な顔を見せる。
 これ以上、私のことを心配させないように。


ことり「ねえ、海未ちゃんは、どうするの?」

海未「私は……」


 海未ちゃんは迷ってるみたいだった。

 本当は、私と一緒に戦って欲しかった。
 一緒に戦って、勝負に勝って、安静を手にしたかった。
 海未ちゃんだって、今はまだ休んでいた方がいいって頭ではわかってるはず。

 だけど、きっと海未ちゃんは……。


海未「今はまだ、どちらかに肩入れすることはできません」

海未「みんなが必死に頑張っている中に、今の私の態度では、まだ参入することはできません」


 うん……。


ことり「そっか」


 そうだよね。
 わかってるよ。
37: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 20:58:28.91 ID:pM2gMJSJ.net
海未「双方の言い分とも、私にはただただありがたいものです」

海未「ですが同時に、やはり仮想現実とはいえ、互いに暴力を振るうことは認めたくありません」

海未「なので私は……できる限り、戦いの場を収めます」

ことり「収めるって……私と花陽ちゃんの間に割り込んだみたいに、戦いを止めるの?」

海未「はい。理由はどうであろうとも、実害を被らないと言っても、やはり見過ごせません」

海未「幸いにして、私がこのゲーム内で支給されたという武器は戦いを止めるには適しているようですから」

ことり「海未ちゃんはどんな武器を支給されたの?」

海未「これです」


 海未ちゃんは片手を上げて私に見せた。
 その手には、薄い革製の青い手袋をしていた。


海未「《武器無効化グローブ》だそうです」

ことり「武器……無効化」

海未「名の通りですね。《グローブをはめた手で触れた武器の効力を無効化する》とあります」

ことり「そっか、だからさっき、私と花陽ちゃんの武器を止められたんだ」

海未「この武器なら、私はみんなの戦いを止めることができます」
38: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 21:00:29.71 ID:pM2gMJSJ.net
ことり「海未ちゃんが一度戦いを止めても、また別のところで戦うかもしれないよ?」

海未「それは……それはそれで構いません」

ことり「いいの? 戦いを止めたいのに?」

海未「みんなは戦う目的でここにやってきて、各々戦おうとしています」

海未「それを今更どうしようと考えを改めさせることはできません」

海未「ですから代わりに、私もこのゲーム内で、私の目的を果たそうと思います」

ことり「今の海未ちゃんのやりたいことが、戦いを止めることなんだね」

海未「そして、できればことりから話を聞けたように、みんなからも直接話を聞いてみたいです」

海未「なぜ今のチームについたのか。どういう思いで今後のライブを捉えているのか」

海未「一人一人と話して、きちんと受け入れるつもりです」

海未「きっとそう言う話し合いの時間が、これまでの私たちには足りなかったんです」

ことり「うん。いい考えだと思うよ」

ことり「海未ちゃんのやりたいことをやって、ゲームが終わったとき、海未ちゃんも納得できるようにする」

ことり「そうした方が、みんなが結果に納得できるよ」
39: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 21:01:47.28 ID:pM2gMJSJ.net
海未「ことりには申し訳ありませんが、ことりたちのチームプレイヤーであっても、私は争いを止めますから」

ことり「それでいいんじゃないかな」

海未「構わないのですか? 私はことりたちとも敵対するという意味ですよ」

ことり「海未ちゃんは、私たちのチームでも、真姫ちゃんたちのチームでもない」

ことり「海未ちゃんは、海未ちゃんなんだよ」

海未「実際のところ乱入する形でゲームに参加していますから、特定のチームに属しているわけではないのでしょう」

ことり「私たちは海未ちゃんのことを巡って戦ってる」

ことり「だから海未ちゃんだって、どっちかのチームに所属していなくてもゲームに参加する権利はあるよ」

ことり「それでもし海未ちゃんが勝ったら、海未ちゃんが私たちの今後を決めればいいんだよ」

海未「いいのでしょうか……正規の手順を踏まずにゲームに参加した私が決めてしまっても」

ことり「誰も文句なんて言わないよ」

ことり「だって、みんなこのゲームを海未ちゃんのためにやってるんだもん」

ことり「海未ちゃんが勝ったら、みんなが一番納得できる結果になるかもね!」
41: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 21:03:34.24 ID:pM2gMJSJ.net
海未「…………わかりました」


 少しは納得できたみたいで、海未ちゃんの顔つきはサッパリしていた。

 海未ちゃんが思い悩むのはもう十分。
 周囲の人たちのことばかり考えるじゃなくて。
 これからはもっと楽な気持ちで、海未ちゃん自身がやりたいようにさせてあげたい。

 それが例え、私の敵になる結果だとしても。


海未「では……私は、戦いを止めに行ってきます」

ことり「うん」

海未「次に会ったときには……私はことりの、敵になっているかもしれません」


 敵、って言うときだけ、海未ちゃんは少しだけ悲しそうな顔をした。

 海未ちゃんは私を置いて、一人先に大教室を出ていく。
 私は、海未ちゃんのことを尊重するために、一緒には行けない。

 だけど……。

 大教室を出ていった海未ちゃんを追って、急いで廊下に出た。
43: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 21:05:43.69 ID:pM2gMJSJ.net
ことり「海未ちゃんっ!」

海未「……はい」


 廊下を少し行ったところを歩いていた海未ちゃんが振り返る。
 私は、伝えたいことを伝える。
 もし次に会ったときに敵になっていても、変わらない思いがあるから。


ことり「私、なにがあっても、海未ちゃんの味方だから!」

ことり「敵同士になっても、もし戦うことがあっても、私は海未ちゃんの味方だから!」

海未「……ありがとうございます」


 短く答えて、すぐに立ち去ろうとする。
 だけどまた私の方を振り向いて、口を開いた。


海未「私も…………」


 言葉の続きを待ったけど。
 結局その続きを聞くことはできなかった。
 そのままなにも言わないまま、海未ちゃんは背を向けた。

 迷いの無い足取りのまま、今度こそ遠くへ行っちゃった。

 最後の言葉は途切れたままだったけど。
 でも……十分伝わったよ。
 その気持ちだけで、私は海未ちゃんのために頑張れるよ。

 私は、このゲームに勝つ。
 そして、海未ちゃんにとって、一番いい結果を勝ち取ってみせる。

 見ててね、海未ちゃん。
44: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 21:08:22.24 ID:pM2gMJSJ.net
――――――――――

※初期状態※
【チーム休養】 残り6名/6名

・南ことり HP:10
武器:ことりソード/威力1~5(威力2)
《手からことりソードが伸びる。
 発動時に「ちゅんちゅん」と叫ばなければならない。
 ことりソードのサイズ並びに威力は「ちゅんちゅん」発声具合に依存。基本威力値は2》

・高坂穂乃果 HP:10
武器:加速器付モーニングスター/威力4
《取っ手のボタンで鉄球に付いている加速器のON/OFFを操作可能。射程は5m程》

・星空凛 HP:10
武器:ファンネル×3/威力1
《小型のレーザー射出装置を手元のコントローラーで操作可能。
 ファンネルの操作は宙を自由に移動できるが、操作範囲はコントローラーから半径2m以内。レーザーの射程は15m程。
 各ファンネルは1秒に1度レーザー射出可能、回数制限は無し》

・東條希 HP:10
武器:10秒透明マント/威力0
《身に纏うと10秒間不可視化する。効果範囲は一人分。
 不可視化中も実体は存在し、攻撃は受けるが、不可視化しているプレイヤーからの攻撃及び接触は不可能。
 再使用まで1分の猶予あり》

・高坂雪穂 HP:10
武器:復活スイッチ/威力0
《一度だけリタイアした任意のプレイヤーを体力3の状態で復活させることができる。
 復活させるにはプレイヤーがリタイヤした場所付近でスイッチを押さなければ無効。
 復活スイッチ保持者にはリタイアしたプレイヤーの位置が把握できるようになる》

×絢瀬亜里沙 HP:10
武器:10tハンマー/威力5
《デカい。殴打面積直径1m、横2m、柄2,5m。実体は重いが柄を握れば振り回すことができる。本当の重量は不明》


――――――――――
45: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 21:09:27.96 ID:pM2gMJSJ.net
――――――――――

※初期状態※
【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP:10
武器:デスサイズ/威力3
《大鎌。刃の全長が1m、柄が1,5mと巨大かつ重量もあるが、操作は片手でも容易く、空気抵抗もほとんど無視することができる》

・絢瀬絵里 HP:10
武器:スターエリチカ/威力2
《巨腕が絵里の両肩付近から出現し、プレイヤーの腕に連動して動く。
 見た目は半透明の水色で筋肉質。太さは常人の5倍程で長さは1m超え》

・矢澤にこ HP:10
武器:催涙ガス噴出装置/威力0
《ボンベに繋がった射出口から強力な催涙ガスを噴射することができる。
 催涙ガスの効果は即効性がありほぼ行動不能状態に陥れることができるが、効果が薄れるのも早く10秒程度で行動可能となる。
 専用のマスク着用時のみ催涙ガスを無効化できる。
 ガスの噴出勢いはおおよそ消火器と同等。
 10秒ほどでボンベは空になり、時間経過と共に徐々に再装填される》

・小泉花陽 HP:10
武器:巨大ローラー/威力10
《ロードローラーに付属されているような巨大な鉄のローラーを重量を無視して手押しで移動させることができる。
 高さ1,5m程、横幅はゲームステージの横幅と同一。
 階段の移動は仕様により可能。幅の問題で通れない箇所もある。
 進行方向にしか押し進めることができず、反転及び後退は不可能》


――――――――――
46: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 21:10:04.61 ID:pM2gMJSJ.net
――――――――――

【イレギュラー】残り1名/1名

・園田海未 HP:10
武器:武器無効化グローブ/威力0
《グローブをはめた手で触れた武器の効力を無効化する》


――――――――――
47: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/10(月) 21:10:56.32 ID:pM2gMJSJ.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り4名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・星空凛   HP8  ファンネル(×3)/威力1
・東條希   HP3  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP2  巨大ローラー/威力10


【イレギュラー】 残り1名/1名

・園田海未  HP10  武器無効化グローブ/威力0


――――――――――
62: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:15:55.68 ID:B2CUtxJF.net
―――

『1F 南廊下』 にこ


 ことりと海未が『1F大教室』で別れた後。
 人気のなくなった大教室前に、灰色のガスマスクを被ったにこが現れた。
 にこは壁に開いた大穴から室内を一望すると、マスクを頭上に押し上げ、余りの惨状に口を大きく開けた。


にこ「…………なにこれ」


 一階の大教室がエライことになってた。

 私のゲーム開始の初期位置がここだったから、元は家庭科室っぽい見た目をしてたのは知ってる。
 でも今はもうなんの教室かわかんない。
 完全に廃墟じゃないの。

 絵里たちに話を聞いていたから、ここで穂乃果との大激戦があったっていうのも知ってる。
 そして、ここ。
 大教室の壁の真ん中にデカデカと開いた大穴のところで、穂乃果を倒したっていう話も。

 この大穴の前で待つのが、私がここにやってきた目的だった。

 少し前、『3F小教室2』付近で繰り広げた、七人入り乱れての大混戦。
 そのとき敵プレイヤーが言っていたとある言葉が気になって、私はここに足を運んだ。
63: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:18:27.93 ID:B2CUtxJF.net
絵里『……《復活スイッチ》?』

にこ『そう。あの大混戦のときに、私に抱き着いてきた雪穂ちゃんが言ってたのよ』

絵里『それが雪穂ちゃんの武器っていう可能性ね……ええ、あり得るんじゃないかしら』

にこ『あのとき雪穂ちゃんだけ武器出してなかったもの。特別なタイミングでしか出せない武器なのかもしれないわ』

絵里『仲間がリタイアした後に使える蘇生専用武器、とかね』

にこ『でも今のところリタイアした亜里沙ちゃんも穂乃果も復活してない』

絵里『状況的に出し惜しみするとも思えないし……無条件に復活させることができるわけじゃないのかも』

にこ『条件があるとしたらどんなのがあると思う?』

絵里『そうね……リタイアした場所で使うとか、そのプレイヤーを倒した敵を倒せば使えるとか……』

にこ『リタイアした場所ってありそうじゃない?』

絵里『倒した敵を先に倒さないと蘇生できない、っていうのは条件が厳しすぎるかしら』

にこ『リタイアした場所っていうのが有力だと思うわ。なんかしっくりきた』

絵里『今のところ一番ありそうな説かもね』

にこ『私は自分から仕掛けて倒しにいく武器じゃないし、敵を探し回る必要もないから、リタイアした場所で待ってみるわ』

絵里『無暗に歩き回るよりは穂乃果たちがやられた場所で待ち構えた方が戦略的ってことね』

にこ『別に予想が外れても特に悪いことはないもの』

絵里『当たってればラッキーってくらいの気持ちで考えておいてよ』
64: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:20:06.64 ID:B2CUtxJF.net
 絵里との相談の後、私は敵プレイヤーのリタイア位置を見回っている。


にこ(……そうは言ったものの)


 左右に長く伸びる南廊下の中央に立つも、誰も見当たらない。


にこ(さっき亜里沙ちゃんがリタイアした場所にいる間も誰も来なかったのよね)


 ここに来る前は亜里沙ちゃんがリタイアしたっていう二階の東廊下で待っていた。
 結局雪穂ちゃんどころか誰もこなくて、退屈になって場所を変えてみた。
 だけど、見晴らしのいいここでも誰とも会わない。


にこ(あのとき間違いなく《復活スイッチ》って言ってたし、武器の名前で間違いないはずよ)

にこ(でも雪穂ちゃんはこない……やっぱり条件が違うとか?)

にこ(とは言え絵里の出した案以外に条件が思いつかない)

にこ(色々考えるのはいいけど、ただ待つだけってのは暇ねえ)


 真剣勝負をしてる真っ最中ではあるけど。
 こうまで長閑だと、つい欠伸の一つも出るってものよ。
65: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:21:24.51 ID:B2CUtxJF.net
にこ(……………………あっ。いた)


 私がそっちに顔を向けたらすぐに隠れたけど。
 でも、今絶対にいたわよね。
 雪穂ちゃん。

 結構距離はあるけど、ずっと向こうの南西階段。
 階段から廊下に出る手前で、雪穂ちゃんがこっちを見てた気がする。
 というか絶対見てた。


にこ(雪穂ちゃんがこっち伺ってたってことは……やっぱり絵里の予想は当たりかも)


 予想が当たっていたなら、リタイアした場所で張ってた私の行動も正解。
 さて、一つ正解したとして、次はどうしよっか。


にこ(ここにいれば穂乃果がリタイアした場所に近寄らせないことはできても、それだけでいいの?)


 穂乃果がリタイアした場所を守っていても、亜里沙ちゃんのリタイアした場所は同時に守れない。
 雪穂ちゃんが誰を復活させようとしてるかわからないから、どこを守ればいいかわからない。
 もし誰でもいいから復活させるってつもりなら、今から亜里沙ちゃんのリタイアした場所に向かわれるかも。


にこ(さ、どうしよ)


 そこで私は考える。
 この場所で穂乃果のリタイアした場所を守り続けるか。
 それとも……。
66: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:23:18.56 ID:B2CUtxJF.net
『1F 南西階段』 雪穂


 にこさんの視線がこっちに向いたと遠目で確認した私は、慌てて顔を引っ込めた。


雪穂(どうしよう……あれ、待ち伏せされてるよね……)


 お姉ちゃんのリタイアした場所を目指してたけど、まさかの先客がいた。
 しかも完全に待ち構えられてる。


雪穂(《復活スイッチ》のことや使用条件は知られてないはずなのに、どうして?)

雪穂(……もしかしてバレてるの?)


 各所を転々としながら、あわよくばリタイアした仲間の復活を狙っていたけど、これまで上手くいかなかった。
 その原因の一つは、にこさんに仲間のリタイア地点を守られていたからみたい。
 あれ、絶対私のこと狙ってるよね。

 こっちのチームのプレイヤーがこれ以上減る前に、早く復活させたほうが良いに決まってる。
 急ぎたいけど、でもにこさんが邪魔をしてる。
 どうしたらいいのかな。
67: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:25:11.81 ID:B2CUtxJF.net
 ふと思いつく。


雪穂(……ひょっとしたら、にこさんだけならなんとかなるかも?)

雪穂(直接攻撃される武器はないわけだし)

雪穂(ガスはキツイけど、我慢してお姉ちゃんのリタイア地点まで突っ切ったらスイッチ押せばいいんじゃない?)


 どうせ私だけじゃなんの力にもなれない。
 それなら少しくらい無茶しても誰かを復活させた方がいい。
 仮に私がリタイアしたところで、その前に味方の復活さえできるならお釣りは返ってくる。


雪穂(ようし……行っちゃおうか)


 覚悟を決めた。
 体当たりな作戦に少し怖くなるけど、チームの力になるためやってみせる。
 もう一度向こうを確認しておこう。

 角から顔を覗かせる前に、灰色の無骨なガスマスクがこっちに飛び出してきた。
68: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:26:33.16 ID:B2CUtxJF.net
『1F 南西階段』 雪穂 対 にこ


雪穂「ひっ!?」


 驚きの声を上げんと息を呑む間に、雪穂に向かって勢いよく催涙ガスが噴出された。
 視界が白煙に覆われると同時に目を開けられなくなる。


雪穂「げほっ! げほっ! ふわっ!?」


 咳き込んでいるところに背後から体をぶつけられる。
 ぶつかってきた相手共々うつ伏せに倒れ込んだ。
 背中に馬乗りにされながら、未だ止まぬ咳と目の痛みに耐えるしかなかった。


にこ「捕まえたわよお」

雪穂(しまった……にこさんに見つかってたんだ!)


 後悔するも時既に遅し。
 雪穂の背に跨るにこは再度ガスを噴出。
 改めて抵抗力を奪う。

 激しく咳き込む雪穂は苦悶に苛まれる一方で、まともに体を動かせない。
 その間に、後頭部をにこの両手で抑えつけられる。
『仮想ボタン』が押し込まれ、半透明の数字が表れた。
69: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:28:30.71 ID:B2CUtxJF.net
にこ(相手が武器を持たないならそうリスクはないわ!)


 雪穂の姿を遠く曲がり角の向こうに見つけたにこは計算した。
 ならばと、自ら攻撃を仕掛けることを決めた。


にこ(私のHPは残り少ない)

にこ(でも相手が雪穂なら反撃される危険も少ない)

にこ(どの道待ち構えてたんだから、こっちから仕掛けたって同じでしょ!)


 雪穂ちゃんの《復活スイッチ》を使わなくさせるのが目的。
 なら待ち伏せて復活を阻止するだけじゃなくて、倒しちゃっても結果は同じことよ。
 これでもう復活させられる危険もなくなるわ!


にこ(9、8、7、)


『仮想ボタン』のカウントを数えながら、反撃されないか動きに気を配る。
 以前、凛の背後を取った際には暴れられて随分苦労させられた。


にこ(今度こそきっちり決めてみせる!)
71: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:30:58.82 ID:B2CUtxJF.net
凛「あっ!」


 雪穂の挙動に意識を集中させていたにこだったが、頭上からの声には素早く反応した。


にこ(マズイ)


 にこは慌てて雪穂の上から退くと、雪穂の体を持ち上げて、声のした向きに対して雪穂を盾のようにして隠れた。
 直後、階段の上から三本のレーザーが降ってきた。


凛「あっぶない! 雪穂ちゃんに当てちゃうとこだった!」

にこ「凛、いいところで……っ!」


 盾にした雪穂の体から顔を覗かせ、階段の方を見上げる。
 南西階段の踊り場から姿を見せた凛と希を視認した。

 一瞬で判断を下した。


にこ(ここは諦めるしかないわ……!)


 牽制のつもりで煙幕代わりにガスを撒くと、雪穂への攻撃を諦め、にこは元来た南廊下へと逃走した。
72: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:33:16.13 ID:B2CUtxJF.net
希「雪穂ちゃん!」


 にこが去ったと同時に希は階下に降りた。
 希はガスの範囲から雪穂を引っ張り上げ、咳き込む雪穂の背を擦る。


凛「待てにこちゃーん!」


 一方の凛は白煙を突っ切ってにこを追った。
 希は凛と別行動になることを一瞬危惧するも、雪穂を一人残すよりは適切だろうと見て、その場に留まった。


希「雪穂ちゃん平気? ここまだガスあるから上の階行こっか」

雪穂「はい、げほっ、ありがとうございます」


 雪穂を介抱しながら希は二階へ移動する。
 探していた雪穂との合流が叶い、内心では喜ばしく思っていた。


希(よかった……やあっと見つけられたわ)

希(雪穂ちゃんが落ち着いたら、復活の話をしないとね)
73: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:35:20.25 ID:B2CUtxJF.net
『3F 小教室2』 凛 対 にこ


 雪穂を仕留めることを早々に諦めたにこは逃走を図る。
 しかしすぐ背後から追ってきた凛に迫られ、身の危険を感じていた。


にこ「わっ!? っこの、危ないでしょうがっ!」


 凛の操るファンネルのギリギリ射程内なのか、背後から定期的にレーザーが飛んできては脇を通過していく。
 にこも煙幕のつもりでガスを背後に撒き散らすも、逃げながらでは一瞬程度しか撒くことができない。
 凛も凛で走りながらのコントローラー操作に手間取っているのか、中々狙いが定まらない。
 二人ともぎこちない格好での追走劇だった。

 南東階段を駆け上がり、三階まで移動する。
 そのまま東階段を直進していると、再びレーザーが飛んできた。


にこ(このままじゃいつか当てられる!)


 北東の角を曲がったところで、すぐ近くにある『3F小教室2』に飛びこんだ。
 自分から逃げ場を無くす行動だったが、なにも遮蔽物がないのに比べればマシだと判断を下した。
74: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:36:49.87 ID:B2CUtxJF.net
 にこにやや遅れた形で、凛も『3F小教室2』に追いついた。
 以前ちょうどこの教室の中を確かめようとしたところで、出入り口からにこが飛び出してきたことがある。
 それを警戒して慎重に踏み込むも、にこが教室奥で机をバリケード代わりにしている姿をすぐに発見した。


凛「にこちゃんもう逃がさないよ!」

にこ「なに言ってんの、絶対逃げるわよ!」

凛「じゃあ逃げてみてよ!」


 勝気な台詞と共にファンネルを広く展開。
 二機を各出入り口付近に、残り一機を凛の身近に置く。
 各々角度をつけた配置から、牽制代わりに何度かレーザーを撃った。


凛「追い詰めたよ!」

にこ「ああもう! 凛のくせに!」

凛「凛のくせにってなにさ!」

にこ「凛のくせには凛のくせによ! 私のライブへの道を邪魔して!」

凛「にこちゃんこそ海未ちゃんの安静を邪魔してるじゃん!」

にこ「メンバーが倒れることだってあるわよ! トラブルを乗り越えてこそスクールアイドルでしょ!」

凛「冷たいにゃー!」


 絶叫と同時にレーザーが飛び、身を隠すにこの足元付近に着弾した。
75: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:38:21.95 ID:B2CUtxJF.net
凛「前に穂乃果ちゃんが倒れたときはみんなで休むって決めたじゃん!」

にこ「あれはラブライブの選考があったタイミングだからでしょ!」

にこ「今は比較的楽な時期なんだから、一回くらいメンバーが欠けたって平気よ!」

凛「天候の影響で仕方なく全員揃わないとかじゃないんだよ!?」

凛「ライブを休んでも周りに迷惑かからないなら休んだっていいよ!」

にこ「周囲のためじゃない! 私たちと海未のためなの!」

凛「海未ちゃんのためなら休もうよ!」

にこ「休むことが絶対良いわけじゃない!」

凛「休まないのは絶対良くないよ!」

にこ「だーかーらーそれだけじゃないって言ってるでしょ!」

凛「にこちゃんの分からず屋!」

にこ「アンタもでしょーが!」


 レーザーもガスも出さず、ギャーギャー騒ぎ立てる声ばかりが飛び交う小教室内。
 まるでゲーム開始以前の言い争いに戻ってしまった様子だった。

 二人の罵声が響き渡る中、三人目のプレイヤーがやにわに入り込んだ。


海未「凛、にこ」

凛「……え?」

にこ「……は?」

海未「どうか、私の失態を巡って、互いをいがみ合わないでください」
76: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:40:07.14 ID:B2CUtxJF.net
『3F 小教室2』 凛 対 にこ 対 海未


 二人の口論に割り込んで、海未は机の間を縫って教室の中央に進んだ。
 出入り口付近の凛も、教室の奥で机の盾越しに見るにこも、ポカンとしたままその姿を目で追っていた。


凛「……海未、ちゃん?」

にこ「なんでアンタがここにいるの?」

海未「乱入という形でゲームに参加することになりました」

にこ「乱入って……」

凛「海未ちゃん! 海未ちゃんはどっちの味方なの!?」


 凛はファンネルの向きを操作すると、狙いをにこから海未へと移した。
 その言葉を受けたにこもハッとして、背後からチューブを構える。


にこ「そうよ……海未、どっちのチームプレイヤーになったの」

凛「海未ちゃん答えて!」

海未「……どちらでもありません」

にこ「はあ?」

海未「ゲームのウィンドウで確認してもらえればわかるはずです。私は、どちらのチームにも属しません」
77: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:42:48.19 ID:B2CUtxJF.net
凛「本当だ……凛たちのチームでもにこちゃんのチームでもない……」

にこ「じゃあ、どういうことになるわけ?」

海未「言うなれば、第三のチームになります。なので私は、二人にとって、敵です」

凛「敵!?」


 敵という言葉だけに反応し、凛はついコントローラーを操作してしまった。
 海未に狙いを定めていたファンネルから同時に三本のレーザーが飛ぶ。

 これまで凛がレーザーを避けられた場合、大きく体を躱されることが多かった。
 しかし海未の動きは違った。
 始めから決めていたかのように、首だけを僅かに動かして一つの射線から身を躱す。
 残り二つのレーザーは、両の掌で受け止めた。


凛「……え? あれ? ダメージない? なんで?」

海未「私は、双方の主張を共に尊重することしかできません。ですから今はまだ、どちらかに肩入れはしません」

海未「しかし形はどうであれ、互いを殴り合うというのは、やはり見過ごせません」

海未「なので私は、争いを止めるためにゲームに参加します」

海未「できることなら、その際にみんなから話も伺うことができたならと、そう希望しています」
78: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:44:15.27 ID:B2CUtxJF.net
にこ「話って……私たちからなにを聞きたいわけ?」

海未「みんながどのような思いで所属チームを選んだのか、という話です」

海未「今回の騒動は全面的に私の責任です。なので口出しする資格などないのかもしれません」

海未「ですが、私を巡る形でμ's内に亀裂が入り、派閥のようなものができてしまった」

海未「ならばせめて、何故諍いが起こり、どういった主張がぶつかっているのか、それを知りたいのです」

海未「みんなから話を伺い、私も現状の騒動について、納得した形で受け入れたいのです……」

凛「海未ちゃん……」

海未「……凛。あなたはなぜライブを休んでもいいのか、そう考える理由を聞かせてもらってもいいですか?」

凛「……うん、いいよ」

凛「凛はね、海未ちゃんの体が一番心配だからライブを休んでもいいやって思ったの」

凛「理由っていうなら、それだけだよ」

にこ「簡単な理由ね」

海未「ではにこ。あなたはなぜライブを敢行しようとしたのか、聞かせてもらえませんか?」

にこ「……別に、私だって簡単な理由よ」

にこ「私たちがライブをやめたら、海未が増々倒れた責任感じるでしょ。そう思っただけよ」
79: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:45:45.78 ID:B2CUtxJF.net
海未「……双方とも、形は違えども、私のことを一番に考えてくれたのですね」

にこ「別にそれだけじゃないわ」

にこ「私にとっての一番は、アイドルにこにーだもの」

にこ「ライブへの拘りはあるし、メンバーが欠けたからってすぐライブを投げ出すものじゃないっていう思いもある」

凛「凛もそういうことは考えたかなあ」

凛「ライブはしたいし、ライブをしたいって言うにこちゃんたちと喧嘩もしたくなかったし」

凛「だけど色々比べてみて、やっぱり海未ちゃんの体調を一番に選んだっ」

にこ「私だってね、海未の体調の心配くらいしたわよ」

にこ「でも他にも色々考えることがあって、大切にしたいことがあって」

にこ「その中から一番のものを選んだから、ライブをするって結論になった」

にこ「きっとみんなそうよ。色々考えた上で散々迷って、それで今の立場に分かれたんだわ」

凛「うん、そうだよね」

海未「本当、どちらに対しても感謝するばかりで、申し訳なさしかありません」
80: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:47:36.23 ID:B2CUtxJF.net
海未「私にとってはどちらの主張も大事にしたい」

海未「ですが、これはゲーム。決着がつくまでは戦い続けるのですね」

にこ「そうよ。それを承知で私たちはやってるんだから」

凛「うん……そうだね」

海未「わかっています。しかしそれでも、私は目の前でみんなが戦うのは見たくありません」

海未「迷惑をかけた上で、これ以上なにを我が儘を言うのかと自ら呆れてしまいますけど……」

にこ「甘いわよ海未。そんな落ち込んでばかりじゃ駄目!」

にこ「やるって決めたんなら貫き通さなきゃ」

海未「にこ……」

にこ「これくらいの問題、どこのスクールアイドルたちにだってあることなんだから。一々気にしてたらキリがないわ」

にこ「だから悩む前に一度自分の気持ちのままに主張して、気持ちのままに動き回る」

にこ「それでスッキリさせて、話もハッキリさせるっていうのがこのゲームなのよ」

にこ「一度思い通りにならななかったり失敗した程度で全てが終わるわけじゃない」

にこ「そんなヤワな考えで私たちはスクールアイドルやってないでしょ」

にこ「だから海未、アンタも好きなようにやって、にこたち相手に好きなようにぶつかってきなさい」
82: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:49:06.07 ID:B2CUtxJF.net
凛「にこちゃん……敵ながら良いこと言うにゃー」

にこ「別に敵ながらは関係ないでしょ!」

にこ「ま、それにね。良いこと言ったのかもしれないけど、所詮は私がやりたいようにするための方便よ」


 会話の自然な流れを装って、にこは頭上に押し上げていたガスマスクを顔の前に戻した。
 躊躇なく海未に向けてチューブを向ける。


にこ「海未が嫌って言っても、私はもう戦うって決めてんのよ!」


 勇ましい声と同時に催涙ガスが噴出された。
 海未を中心に濃い白煙が立ち昇る。


にこ「悪く思わないでよ!」


 にこはこのまま小教室からの脱出を図ろうと考えた。
 煙幕のような形で辺りが見えなくなるまで延々ガスを出し続ける。

 立ち昇っていた白煙の一部が盛り上がると、にこの真横に何者かが飛び出してきた。


にこ「え?」


 片手で目を覆い、もう片手では口元を覆い。
 海未は白煙の中から飛び出すと、ガスを出し続けるにこを一瞬のうちに地面に組み伏せた。
83: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:51:09.16 ID:B2CUtxJF.net
凛「…………あれ? にこちゃんなんで捕まってるの?」


 しばらく漂っていた白煙が薄れ、教室内の様子が見えてくる。
 にこは教室の奥で、海未に後ろ手に取られたままうつ伏せにされていた。


海未「すみません。攻撃を止めるために拘束させていただきました」

にこ「は? なんで? だって、手で覆ってなんとかなるガスじゃないでしょ?」

海未「はい。僅かに隙間があったのか、多少咳き込んでしまいました」

にこ「いやいやだからそういう話じゃなくて……」

海未「にこ」


 にこを拘束しながら、見下ろす海未の表情はどこか晴れやかだった。


海未「ありがとうございます。にこのお陰で、少しだけ気が楽になりました」

にこ「なにがよ」

海未「にこが言ったように、私もゲーム内では好きなようにやろうと思います」

海未「私は戦いを止めたい。なので、視界に入る争いを止めます」

海未「だからといって争いが全て収まるわけでもないでしょうが、それは仕方のないことです」

海未「無益だとか、ゲームの進行を妨げるとか、そういった余計なことも考えません」

海未「私は私のやりたいように、みんなと戦おうと思います」

にこ「……あっそ。ま、いいんじゃないの」

海未「はい」
84: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:52:51.31 ID:B2CUtxJF.net
 海未はにこの拘束を解くと、そのまま立ち上がるのに手を貸した。


海未「凛。このままにこを逃がします」

凛「うーん。邪魔したくても海未ちゃんにはレーザー効かないみたいだし、しょうがないよねー」

海未「すみません」

凛「海未ちゃんがしたいことがあるなら凛も応援したいもん、平気だよっ」


 にんまりと笑うと、凛はドアの前に設置していたファンネルを自身の周囲に集め、退路を開けた。
 海未はにこを促し、念のためにこの盾になる形で並びながら、出入り口まで先導した。


にこ「……感謝はしないから。真剣勝負だもの」

凛「別にいいよ。次会ったら絶対倒すもんね!」

にこ「言ってなさい。これからだって、容赦はしないから」


 鋭い目つきで凛と海未を睨みつけると、にこは廊下へと走り出し、そのまま北階段に消えた。
86: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:53:52.65 ID:B2CUtxJF.net
海未「すみません。にこを倒せる状況だったでしょうに」

凛「海未ちゃんは戦いを止めるって決めたんだし、しょうがないよ」

海未「凛。ありがとうございます」

凛「? なにが?」

海未「私の身を案じて、休養の立場に立ってくれたことです」


 海未は神妙な面持ちで頭を下げる。
 改めてそうされると凛も照れてしまい、努めて気楽な態度で振る舞った。


凛「海未ちゃんリリホワのときもいっつも一生懸命なんだもん、もっと力抜けばいいんだよ」

海未「ですがそれは凛と希がっ……………………いえ、そうですね。考えてみます」

凛「あっ、これって今度からはリリホワみんなでおふざけできる感じ!?」

海未「それは許しません」

凛「えーケチー」

海未「ですが、そうですね……少しだけ、のんびりしてみますよ」

凛「……うん。それがいいと思うなあ」
88: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 22:58:25.20 ID:B2CUtxJF.net
凛「ねえ海未ちゃん、ことりちゃんには会ったの?」

海未「はい。一番最初に」

凛「そっか。ことりちゃんが多分一番海未ちゃんのこと心配してたから、会えたならよかったね」

海未「ことりにも心労をかけてしまって……」

凛「あ、ダメダメ! そうやって思い詰めるとまたみんな心配しちゃうよ!」

海未「……はい、気を付けます」

凛「へへっ、なんだか海未ちゃんに注意するの、いつもと逆の立場で面白いかも!」

海未「私も少しだけ楽にやってみます。まずはこのゲームから、ですね」

凛「そうそう。せっかくやりたいことがあるんだから、海未ちゃんも頑張ってね!」


 ようし、と気合を入れると、凛はにこが去って行った北階段へと目を向けた。


凛「にこちゃんの方追ってみようかなー。海未ちゃんついてこないでよ?」

海未「ふふ、わかりました。健闘を祈ってますよ」

凛「戦い止めるつもりなのに健闘祈ってくれるの?」

海未「私の思いとは別に、みんなのことを応援したい気持ちもあるんです」

凛「そっか。わかった、じゃあ健闘祈られたから頑張る!」


 見ていて元気の出るような笑みを残して、凛は勢いよく走っていった。

 凛たちと話せてよかったと、今の時間を噛み締める。
 やはり、私たちには対話の時間が必要だったのだと、改めて実感した。

 交わした言葉たちを反芻しながら、凛の姿が北階段の方へと消えたところで、海未も背を向けた。
89: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 23:01:52.75 ID:B2CUtxJF.net
 背後から衝突音がした。


 背を向けたばかりの北階段の方へ再度振り返る。
 北階段の真向いの壁にもたれかかるようにして、一度階段へと姿を消したはずの凛が座り込んでいた。


海未「凛……?」


 凛の様子はぐったりしている。
 手元からはコントローラーが離れており、ファンネルも宙を浮いたまま動かない。

 そこへ、階段から飛び出した人物が凛へと躍りかかった。

 背を壁につける凛の目前にまで迫り、拳を固めた自身の右腕を引き、容赦なく突き出す。
 腕の動きに連動する形で巨腕が前に突き出され、凛の体に勢いよくめり込んだ。

 一発、二発、三発。

 息をつかせぬ連打は凛のHPを根こそぎ奪い、戦闘不能へと追い込んだ。
 凛の体から靄が立ち昇る。

 海未の見る前で、凛の姿がフィールドから消えた。
90: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 23:03:47.86 ID:B2CUtxJF.net
 突然の事態に呆気に取られ、声を出すことさえできない。
 悄然とした面持ちのまま、凛を退場せしめた人物に焦点を当てる。

 向こうもまた、遠く廊下の先に立つ海未に目を向けていた。


絵里「海未……」


 巨腕を下げながら、ゆっくりと、絵里が海未の方へと近付いてくる。

 戦いを抑えるためにゲームに参戦する。
 凛たちとの会話で改めて抱いたばかりのその意思は、早々に打ち砕かれた。


海未(凛…………絵里……っ)


 争いを止めるためには如何に無力であるか思い知らされ、海未は拳を固く握った。


【凛HP:8→6→4→2→0  リタイア】
92: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/12(水) 23:04:33.09 ID:B2CUtxJF.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り3名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・東條希   HP3  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP2  巨大ローラー/威力10


【イレギュラー】 残り1名/1名

・園田海未  HP10  武器無効化グローブ/威力0


――――――――――
139: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 21:51:16.11 ID:xIHRyUHj.net
『3F 北廊下』 絵里 対 海未


絵里「海未がゲームに参加したことをにこから聞いたわ」


 五メートル程の距離を開け、絵里が立ち止まる。
 私へと向ける碧い瞳には冷たい光が宿っていた。


絵里「ねえ海未。戦いを止めると言っても、そんなこと無意味なのよ」

海未「……なぜですか」

絵里「今見たでしょ。止めようにも、海未の力じゃどうしようもないことだってある」


 絵里の言う通り、今しがたまで私と言葉を交わしていた凛が、いとも容易く倒されてしまった。
 この先、戦いを止めようと奔走しても、遠く手の及ばないところまでは介入できない。
 そこでは凛のように、戦闘の結果倒れるメンバーが出てくるだろう。


絵里「海未がやろうとしていることはゲーム進行の弊害とさえ成り得るわ」

絵里「そんな形で参加するのなら、大人しく隠れていたほうがまだマシじゃない?」
140: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 21:52:46.41 ID:xIHRyUHj.net
 絵里の言うことが正しいことは重々承知している。

 みんなはこの場所に戦うためにやってきている。
 争いを止めるという私の目的意識は、みんなの意向とは相反するものだ。

 一度失態を見せた身でありながら、更にみんなの行動を阻害しようとする。
 決して許されることではないのかもしれない。


ことり『海未ちゃんのやりたいことをやって、ゲームが終わったとき、海未ちゃんも納得できるようにする』


 けれど。
 ことりとの会話が思い出された。


ことり『そうした方が、みんなが結果に納得できるよ』


 私の意向を受け入れてくれた人がいた。
 このゲームは、各々がやりたいと願う気持ちに従って、互いにぶつかっていくのだと。
 私が本気でやる気なら、意思のままに振る舞えばいいと、そう教えてくれた。

 今、私が願うことは……。
 戦いを止めること以上に強く願えることとは……。
141: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 21:54:25.21 ID:xIHRyUHj.net
海未「……覚悟が足りなかったようです」

絵里「へえ?」

海未「私自身、全ての戦闘に介入できると思っていませんでした。どこかで手の出せない争いもあるのだろうと」

海未「そこで倒れるメンバーが出てきても致し方ないと、割り切っているつもりでした」

海未「ですが今、目の前で凛が倒されて、私の目的意識は生温い考えなのだと思い知らされました」

海未「ならば、私はより明確な意思をもって、このゲームに臨むべきなのでしょう」

海未「絵里たちが戦いに臨む意思に負けない程に、強い思いで」

絵里「……そう」

絵里「他の目的意識を持つっていうのは賛成よ」

絵里「いくら海未が戦いを止めようとしても、止められない戦いは必ずあるもの」


 自然のままに垂れ下がっていた絵里の巨腕がゆっくりと持ち上がる。
 拳の向かう先は、海未へと向けられていた。
142: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 21:55:46.25 ID:xIHRyUHj.net
絵里「止められない戦いっていうのは、海未が手を出せない場所で行われている争いだけじゃない」

絵里「例え海未がその場にいて、戦いを止めようとしても」

絵里「……力づくで押し切ってしまえばいいだけの話よ!」


 臨戦態勢に入った絵里が、二人の間に空いていた残りの距離を詰めた。


絵里(海未は戦いを止めようとしているってにこは言っていた)

絵里(私が凛を倒した場面を目の当たりにしたことで、その目的は揺らいだみたいだけど)

絵里(なんにせよ、このタイミングで不確定要素がゲームに介入するデメリットは見過ごせない)


 残りプレイヤー数の優位が逆転した今、【チームライブ強行】の優勢は揺らがないだろう。
 ならば現状を維持しつつ、着実に勝利へと運んでいくべきだ。


絵里(そのためには……海未)

絵里(あなたの乱入は邪魔でしかないのよ)

絵里(だから、ここで倒させてもらう!)
143: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 21:58:03.78 ID:xIHRyUHj.net
 先程凛を倒した際と同様に、巨腕による拳が轟然と放たれた。


絵里「ホラァ!」


 海未の足元近くまで踏み込み、思いきり振りかぶってから突き出した右腕。
 拳は風を切り、唸りを上げ、高速で海未へと迫る。

 海未は半身を引くと、最小限の動きで攻撃を避けた。


絵里「……簡単に避けてくれるじゃない」


 攻撃の回転速度が速い両の拳は次々と放たれた。
 海未は巨大な拳相手にも怯まず、視線を切ることもなく、一つ一つの攻撃を見切っていく。
 頭を傾け、上半身を引き、寸でのところで被弾を避ける。


絵里「避けてるだけじゃなにもできないわよ!」


 それでも、回避行動だけでは絵里の勢いと留めることはできず、最小限の動きと言えども後退は免れない。
 徐々に絵里に押し込まれてゆき、廊下を一歩二歩と下がっていった。


海未「絵里、聞いてください、」

絵里「口を開いてる余裕があるなんて舐められたものね!」

海未「私はこのゲームの中で、」

絵里「ホラァッ!」


 口を利く暇も与えぬとばかりに左のフックが迫る。
 説得を押し留められた海未は頭を下げ、回避に専念せざるを得なかった。
144: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 21:59:35.62 ID:xIHRyUHj.net
海未「絵里、私は、」

絵里「ホラホラァッ!」

海未「ゲーム内で、みんなの話を聞いて、」

絵里「そんな悠長なこと言ってて平気!? もう後ろには下がれないわよ!」


 説得を試みる間にも後退は続き、海未は背後に壁を背負うまでに追い込まれた。


絵里「私の攻撃を完璧に見切るのは流石だけど、逃げ場がなくなったらどうなるかしらね!」


 顔面を正面から狙った拳が突き出される。
 海未は頭を小さく振って突きを躱すと、拳は海未の背後の壁にめり込んだ。
 衝撃で壁にヒビが入った。


海未「絵里……」

絵里「追い詰めた」

海未「話を聞いてくれませんか」

絵里「だったら力ずくで聞かせてみれば?」


 壁を殴りつけた拳が引かれ、再度振りかぶられる。


絵里「私は力ずくで海未を黙らせる!」
145: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:02:19.60 ID:xIHRyUHj.net
 左右の回避行動で敵を逃がさないよう、絵里は拳を横合いに振った。
 右のフックが海未の側頭部を狙う。


海未「……わかりました」


 轟音と風圧を微塵も意に介さぬまま、海未は片手だけを動かし、巨腕を受け止めた。


絵里「……ようやく避けなくなったけど……簡単に受け止められるってことは、なにか仕掛けがあるのね?」

海未「……」

絵里「それにしても、私の《スターエリチカ》に怯まないなんて。ちょっと悔しいわ!」


 一発止められても次の一発と、左のボディを突き出す。
 しかし先程同様、掌を添えられるだけで巨腕の勢いは完全に無効化された。

 続けざまに放った左右のストレート、右のアッパー、左のボディ。
 その連撃全てを、海未は手を添えるだけで防ぎ続けた。


海未「話を聞いていただけないのなら……絵里の言う通り、力ずくで聞いてもらいます」

絵里「……まだまだ……まだまだこんなものじゃないわ」

絵里「私の本気、止められるものなら……止め切ってみなさい!」
146: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:05:46.93 ID:xIHRyUHj.net
 絵里は腰を沈め、両足を前後に大きく開き、重心を安定させる。
 両腕による攻撃の回転速度を更に増すため、上半身のブレを抑える姿勢を作る。
 大きく息を吸い込むと、唸り声と共に拳を突き出した。


絵里「ホラッ!」


 掛け声が一つ飛ぶ毎に巨腕による高速の突きが繰り出される。
 一度拳を放つと、即座に別の拳でもう一撃。
 息を呑む間も無い連続攻撃が飛ぶ。


絵里「ホラホラッ!」


 無数の突きの連撃が間断無く打ち出された。


絵里「ホラホラホラホラホラホラホラホラッッッ!!!」


 一撃ですら重い絵里の巨腕が何度も唸りを上げた。
 突き出される拳の一つ一つが風を切り、人を簡単に吹き飛ばす威力を持って、容赦なく海未に襲いかかった。


海未「……っ」


 海未は息を深く吸い、体を斜めに開き、腰を落とす。
 青いグローブをはめた両手を軽く開いたまま肩の高さまで上げた。

 高速で迫りくる拳の連打。
 その全てから目を離さず、軌道を見極める。
 巨腕の動きに負けぬ速度でグローブをはめた両手を動かし、全ての拳を叩き落とした。
147: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:07:28.03 ID:xIHRyUHj.net
絵里「ホラホラホラホラッ!」

海未「……」

絵里「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラッ!」

海未「……」


 一向に止まぬ拳の雨。
 その全てが海未の体寸前まで迫りながら、グローブ越しの手で受け止められる。


絵里(…………このぉっ!)


 渾身のラッシュを放っているにも関わらず、一度の被弾さえ許さない事態に絵里の苛立ちが募る。
 尚も突きの連撃を出し続けるが、次第に違和感を覚えるようになった。


絵里(なんなの……腕が伸ばしきれなくなって……拳を突き出しにくくなってる……!?)


 腕を思いきり振り切って、海未の体寸前まで迫っていた両の拳。
 それが段々と、腕を伸ばし切る前に、海未の手によって受け止められていることに気が付いた。

 身に迫る拳を被弾寸前で受け止め続けていた海未は、手を前へと伸ばしていき、巨腕による攻撃の出を潰しにかかっていた。
 絵里の巨腕は拳を突き出そうとした時点で海未の掌に遮られ、腕を前方に伸ばせない。
 攻撃をしかけている側の絵里が、防御する側の海未の両手によって封殺される形となっていた。
148: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:09:25.46 ID:xIHRyUHj.net
 壁際まで追い込まれていた海未が一歩前に出る。
 グローブをはめた右手を一度握ると、絵里の放つ巨腕に向かって正面からぶつけた。


海未「ふっ」

絵里「っつぁっ!?」


 拳の大小の差などお構いなしに、絵里の巨腕が一方的に弾かれた。


絵里(嘘でしょ……私の巨腕が、素手に負けるなんて……!)


 巨腕が後方へと弾かれると、海未は更に一歩踏み出した。

 追い込まれる立場から押し返す立場へ。
 絵里が巨腕を突き出しそうとした時点で掌で抑え込み、時折拳同士による殴り合いで弾き返す。
 拳を弾く毎に一歩、また一歩と足を踏み出していく。

 絵里に押し込まれた分だけ、海未は絵里を押し戻していた。


絵里「……………………はあっ…………はあっ…………」


 無呼吸運動のまま拳を放っていた絵里の息が続かなくなったところで、ようやく突きの連撃は止まった。
 絵里が最後に放った右の拳は、海未の左手によって止められていた。
149: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:10:35.98 ID:xIHRyUHj.net
海未「無駄です」


 たった一言の宣告。
 その一言が、絵里の両腕に重く圧し掛かる。


絵里「……無駄じゃ、ない」

絵里「私は、まだやれる……まだやれるもの……」

絵里「…………ぉぉぉォォォオオラホラホラホラホラホラホラホラホラ!」


 胸の内に生じ始めた予感を払拭すべく、巨腕を振るい続ける。
 しかし、そのどれもが海未の手に止められた。


海未「無駄です」

絵里「っっ……!」


 どうして、という思いが拭いきれない。

 拳を止められているのは、おそらく海未の武器の影響なのだろう。
 そうは言っても、この至近距離で攻撃を受け止め続けることが可能なのか。
 武器の問題だとか、そういう話ではない。


絵里(……こんなこと……人間技でできることなの……!?)
150: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:12:34.19 ID:xIHRyUHj.net
 延々と放たれ続けていた巨腕による突きの連撃。
 一度として有効打を与えられぬまま、遂に力尽きたかのように両腕がダラリと垂れ下がった。


絵里「…………どうして全ての攻撃を受け止められるの」

海未「それが私の武器の効果だからです」

絵里「そうじゃない!」

絵里「こんな大きな拳で殴りかかってるのに、どうして平然と立ち向かえるのかってことよ!」

絵里「真姫や穂乃果はゲーム内で異様な身体能力を発揮していた」

絵里「それはゲーム内なら意思一つでどんな動きだって実現できるからからよ」

絵里「でも海未のは違う……高速で避けるとか、有り得ない膂力を発揮するとか、身体能力云々の問題じゃない」

絵里「もっと、精神的な部分……攻撃を受けても、まるで揺らぐ様子が見えない」

絵里「普通少しくらい怖がるものでしょ!? 怯えて身を竦ませるものでしょ!?」

絵里「こんな大きな拳で殴りかかられてるのよ!?」

絵里「なのに海未はちっとも怯える素振りを見せないで、全て受け切ってみせた……」

絵里「なんなのよ……それもゲームの補正とでも言うわけ……?」

絵里「……どうしてよっ!」
151: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:14:28.97 ID:xIHRyUHj.net
海未「……経験から生まれた、知識の差なのでしょう」

絵里「経験の、知識……どういうことよ」

海未「私はみんなと違い、武道の心得があります」

海未「戦いの場では常に相手の挙動に目を向け、攻撃を受ける際にも目を逸らしてはいけません」

海未「そうした心得は、積み重ねた経験から生じた知識となり、私の内に蓄えられます」

海未「目を逸らすなと言って簡単にできることではありませんが、それもまた経験による研鑽により、意識を整えることができます」

海未「訓練を重ねた私には、それができます」

海未「……絵里の攻撃は凄まじかったです。恐れも抱きますし、とても強力でした」

海未「ですが、怯えなければ立ち向かえます。目を逸らさなければ、拳の動きは目で追えます」

海未「後は反応速度で劣らないよう集中して手を動かし迎撃する」

海未「それだけの話です」

絵里「……それだけって…………」


 余りにも簡素に過ぎる説明。
 反論を口にしかけたが、続く言葉は継げなかった。
152: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:16:32.03 ID:xIHRyUHj.net
 絵里は肩で息をしながら前方の海未を睨みつける。
 海未は一切呼吸を乱さないまま、絵里以上に強い視線を返してきていた。


絵里(そんな……そんな簡単な説明で……)

絵里(……でも、海未にとっては、本当にそういうことなのかも)


 目の前に立つ相手からは、海未ならばもしかしてと思わせるだけのものを感じさせていた。


絵里(例えば凛のレーザーを避ける際、私は大まかなレーザーの軌道を予測して、大きく身を退いて避けてきた)

絵里(ギリギリで躱すことがあっても、それは単に大きく躱せなくなった結果のこと)

絵里(けれどもし海未だったら……)


 敵からの攻撃に対して、一時も視線を逸らすことのなかった海未。
 勘や予測ではなく、目視で攻撃を避けることができるのだろう。

 誰を相手にしても、最小限の回避行動のみで、一歩と足を止めることなく敵に接近していく。
 そんな姿が容易に想像できた。
153: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:20:37.29 ID:xIHRyUHj.net
絵里(それに……きっと知識だけの問題だけじゃない)

絵里(いくら頭でわかっていたところで、覚悟もなにもなければ、怯えないなんて無理だもの)

絵里(……海未は、さっきまでは覚悟が甘かったと、より明確な意思を持つべきだと言っていた)

絵里(私たちに負けないくらい、強い意思を)

絵里(ならもしかしたら、今の海未にはその新しい意思があるのかもしれない)

絵里(その意思が、私の攻撃に対しても一歩たりとも退かず、全て受け止めるという決断に繋がったんだわ)

絵里(今、海未が抱いている明確な意思が、私に立ち向かうことを選んで、私を封じ込めた)

絵里(私たちも当然抱いていたけど……海未の胸の内にもまた、覚悟が生まれたのね)


 拳を交わしたことで、図らずも実力差を察してしまった。
 胸に去来する思いを、これ以上押し留めることはできない。


絵里(……海未には、敵わない)
154: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:22:04.78 ID:xIHRyUHj.net
海未「絵里……」


 呼びかけてきた海未の声色は労わるような響きをもっていた。
 絵里は肩で息をしながら視線だけで応じた。


海未「あなたはどうして、ライブを敢行すると決めたのですか?」

絵里「……いきなり、どうしたのよ」

海未「私はまだ、こういった話をみんなと十分にしていなかったと思うんです」

海未「なのでみんながどのように考えているのか、聞いてみたいのです」


 海未の視線は、ただひたすらに真摯なものだった。

 敗北を感じた相手に対して素直に答えるのは癪だった。
 けれど、その真っ直ぐな瞳で見つめられると、なぜだか反抗する気は起きなかった。


絵里「…………海未のことをちゃんと考えた上で出した結論のつもりよ」

海未「……そうでしたか」

絵里「過労で倒れたんだから、身体的な配慮は当然必要。でもそれだけじゃいけないと思った」

絵里「海未が倒れるまで無理を重ねたっていうのなら、そこに至るまでに相当思うことがあったはず」

絵里「どんな理由で我慢を重ねていたのか知らないけど、とにかく精神的な部分も考える必要があるって思ったのよ」

絵里「それに海未のことだから、倒れたことで私たちに対する申し訳なさとかも絶対感じるでしょ」

絵里「責任感を減らすためにも、海未が欠けたって私たちはちゃんとできるってところを見せるため、ライブを問題なく成功させるべき」

絵里「それがベストだって考えたのよ」
155: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:23:59.18 ID:xIHRyUHj.net
絵里「それにね……私、自分に正直でいたかった」

絵里「前の私は全然正直なんかじゃなくて、むしろやりたいことを抑えてきたから」

海未「絵里がμ'sに加入する以前の話ですね」

絵里「本当はやりたいことがあるのに、それを抑えるっていうのは……辛い」

絵里「だから私は素直になって考えてみて、ライブをやりたいって気持ちが最後まで残っていることに気付いた」

絵里「そうして今の立場につくことを選んだのよ」

海未「絵里はもっと自分に素直になっていいと思いますよ」

絵里「そうかもね。でも、それは海未にだって言えることよ? むしろ今は海未にこそ忠告することかも」

海未「私、ですか?」

絵里「いっつもみんなのことばかり優先的に考えて、どうせ普段から無理しているんでしょう?」

海未「お見通しですか」

絵里「勿論。無理をすることに関しては私の方が先輩かもしれないもの」

海未「自慢になりませんね」

絵里「そういうわけだから、海未が私たちを思って自分を抑えようとする気持ちも理解できるけど」

絵里「それだけじゃなくて、もっと己を出して、本当にやりたいことを探してみることを勧めるわ」

絵里「でないと、また私たちのために無理して倒れちゃうんだから」
156: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:24:58.58 ID:xIHRyUHj.net
海未「……別に、あの日倒れたのは、本当に大した理由ではないんです」

絵里「そうなの?」

海未「みんなには言わないでくださいね。今後気にするかもしれませんし、それに、少し恥ずかしいので」

絵里「いいわよ。約束する」

海未「あの日、重かったんです」

絵里「ぷっ! ……ごめん、馬鹿にできないわね」

海未「ええ。それと、前日に練習メニューの再編成のためかなり夜更かしをしていました」

海未「更には生徒会としても繁忙期で、諸々と手が回らなかったんです」

海未「当日はそんな体調不良のまま練習に臨み、気が付いたら体が限界を迎えていました」

絵里「そう。本当、なんてことない理由だったんだ」

絵里「でも海未はそういうなんてことないことを一生懸命やるのよね」

絵里「だって、海未だもの」

海未「理解していただけているようで、なんだか嬉しいやら、恥ずかしいやらです」

絵里「わかるわよ。背負い込むのは、私もよくやってたことだから」
157: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:27:24.53 ID:xIHRyUHj.net
海未「絵里がどういう意思の下にゲームに臨んでいるのか、話を聞けてよかったです」

絵里「そう。気が済んだ?」

海未「はい。絵里に対しては、ですが」

海未「これから他のメンバーとも同様の話をしていきたいと思います」

絵里「それでどうするの? みんなの話を聞いて、その先は? まだ戦いを止めるつもり?」

海未「……その考えは甘いと、思い知らされましたから。別の案を探してみます」

絵里「じゃあ、私たちの話を聞いてから、どっちにつくか決める?」

海未「できるなら、それが最良だと思います」

海未「決着をつけるためにゲームを始めたというのなら、そのルールに則って私も結論を出せるのが一番でしょう」

海未「みんなの話をきちんと聞けば、私のスタンスもより明確に定まるかもしれません」

海未「最終的にどちらかの立場を選び、みんなと同じ土俵で戦うことができるなら」

海未「私も、みんなと一緒になって、私たちの全員の答えを見つけることができる気がします」

絵里「そう……わかった。そうしてみるといいわ」

絵里「理性的に考えるなら、どっちにつくかわからない不確定因子をここで倒すのが正解なんでしょうけど」


 絵里は自嘲気味に笑うと、海未に止められた巨腕を上げ、降参とばかりに拳を広げた。


絵里「私じゃ海未に勝てないみたいだから、ね」
158: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:29:08.63 ID:xIHRyUHj.net
絵里「それに、海未がみんなの話を聞いて回るっていうの、悪くない考えだと思う」

絵里「今回の件について話し合いを行うのは良いことだもの」

海未「まともな話し合いの場を設けないまま、こうした極端な行動に走った点については苦言を呈したいところです」

絵里「まあ、それはそうね……私たちも、言い争いをしていて冷静じゃなかった」

絵里「もっと他に案もあったはず……ライブをしたい子たちだけでライブをするとか、海未本人から意見を聞くとか」

絵里「けれどそういう余裕なんて無くて、みんなの意識を一つにまとめるっていう思いばかりが先走った」

海未「ですがどんなに意見が食い違っていても、全員で一つの考えを共有しようとしていたのですね」

絵里「言われてみれば……私たちは全員で一丸となって行動する、っていう前提があったみたい」

海未「私たちは、μ'sという仲間ですから」

絵里「……そうね。だから0か1かっていう、ゼロサム的な言い争いになっちゃったのよ」

絵里「倒れた海未に付き添って全員で足を止めるか、全員で引っ張り上げるのか、っていう二択にね」

海未「倒れたことで迷惑はかけましたけど……そうした絆を再確認できたことは、嬉しいです」

絵里「怪我の功名だなんて言うつもりはないけど……同意するわ」
159: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:32:09.09 ID:xIHRyUHj.net
絵里「この先、海未がみんなの話を聞いたとして、その結果どっち側のチームに味方しても恨みはしない」

絵里「恨みっこなしっていうのがゲームの決め事だからね」

絵里「それに、海未を巡っての争いだもの。海未本人にやりたいことがあるなら誰も反対しないわよ」

海未「ありがとうございます」

絵里「けれど私たちの胸の内にも譲れない思いが既に生まれてる」

絵里「だから、海未にやりたいことができたとしても、一方的に受け取るだけってわけにはいかない」

海未「わかりました。戦いの末に決着をつける、ですね」

海未「もし再度絵里と敵対することがあったとしても、そこに敵意は含みません」

絵里「わかってる。そのときは、また正々堂々と戦いましょう」

絵里「味方になってくれるのなら嬉しいのだけれど、ね」
160: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:36:30.64 ID:xIHRyUHj.net
 海未に背を向けて、戦場から立ち去る。


絵里(背中を見せたって、海未は隙だらけの私を背後から攻撃したりはしないでしょ)

絵里(圧倒的な実力を持っているにも関わらず、結局海未からは一切攻撃する気がないのが憎らしいわ)


 私と話せてよかったと海未は言ったけど。
 それは私も同じだった。


絵里(ゲームの行方は不安になるけど……でも、海未と話せてよかった)

絵里(元々は海未を巡っての争いだったのに、当人の意見を聞く機会は少なかった)

絵里(私たちが勝手に争い、勝手にゲームを始めてしまった)

絵里(けれど、私たちμ'sの中には、当然海未だって含まれる)

絵里(当人を除いて勝手に争ってるだけじゃダメだったのかもしれない)

絵里(海未を含めて争って、その結果こそ、本当に私たち全員で出した結論になるのかもしれないわ)


 階下へと向かう去り際、海未の方をチラリと見やる。
 私を見送る海未は悠然とした立ち姿をしていた。
 戦場に立つその姿が様になりすぎていて、戦いで負けたことも相まって、ちょっとだけ悔しい。

 私は苦笑いを浮かべながら、軽く手を振ってみせた。
161: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/14(金) 22:37:19.58 ID:xIHRyUHj.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り3名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・東條希   HP3  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP2  巨大ローラー/威力10


【イレギュラー】 残り1名/1名

・園田海未  HP10  武器無効化グローブ/威力0


――――――――――
226: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 20:58:24.21 ID:pzgorohZ.net
―――

『2F 大教室』 希・雪穂


 雪穂を伴って移動した希は、身を隠せる場所として『2F大教室』の中に隠れた。
 大教室中央に開いた大穴に驚きつつ、そこを迂回。
 室内の奥まった側にある作業机の陰にしゃがみ込み、雪穂が落ち着くまで時間を取った。


希「雪穂ちゃん、もう平気?」

雪穂「はい。お陰様で助かりました」

希「危なかったね、武器に威力判定のないにこっちでも『仮想ボタン』押されたらアウトやった

わ」

雪穂「私たちはその方法でしか相手を倒せないですからね」

希「まあ今は無事でよかったってことで。それよりもずっと探してた雪穂ちゃんと合流できてよ

かったわあ」

雪穂「私のこと探してたんですか?」

希「そうだよ。多分一人で隠れてるんやろなーって、こういう教室とか講堂とか見回ってたん」

雪穂「あ、すみません、私こういうところに隠れながら結構頻繁に移動してたので……」

希「じゃあ入れ違いになってたかもね。仕方ないよ」
228: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 20:59:45.43 ID:pzgorohZ.net
希「で、大事なことなんやけど」

雪穂「はい」

希「今ウチらは状況的によくない。亜里沙ちゃんと穂乃果ちゃんがやられちゃったからね」

雪穂「強い武器を持ってる二人が倒されたからですよね」

希「せやから早めに雪穂ちゃんに頑張ってもらいたいんよ」

雪穂「《復活スイッチ》の出番ですね!」

希「そう。ウチらのチームにまた火力役を取り戻したいん」

雪穂「私も何度か復活させようと思ったんですけど、にこさんに邪魔されちゃってたみたいで

……」

希「そうやったん? んー、雪穂ちゃんの武器のことバレたんかな?」

雪穂「三階で七人くらい一気に戦ったじゃないですか。あのときに私、武器の名前言っちゃった

かもしれません」

希「名前から性能が計りやすいから、そこから色々推測したんかな」

雪穂「すみません、軽率でした」

希「気にせんでええよ。大事なことは復活させることやん」
229: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:01:29.82 ID:pzgorohZ.net
雪穂「復活については私も希さんに相談したかったんです」

雪穂「誰を復活させるべきか、いつさせるべきなのか、とか」

希「そやんなあ」

希「まずタイミングに関しては、早いことに越したことはないね」

希「終盤になって起死回生! 一発逆転! もカッコエエけど」

希「現実的に考えるなら、戦力が減った状況が長引くのはそれだけ不利になるからね」

雪穂「じゃあ早めがいいですね」

希「問題は……」


 今後の戦略について希が説明をしているときだった。


【『チーム休養』星空凛  リタイア】


 耳元にアナウンスが聞こえると同時に、視界の端に半透明のウィンドウが映る。
 その情報を受け取った二人は同時に目を剥いた。


希「凛ちゃん!?」

雪穂「嘘っ!? にこさん追ってたのに!」

希「にこっちがリタイアしたってアナウンスは無かったから、逆にやられてしもたん?」

雪穂「そんな……」


 凛の退場という凶報を聞き、希は黙り込んでしまった。
230: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:03:30.59 ID:pzgorohZ.net
希(ホンマやったら誰を復活させるかについて色々確認しておきたかったけど)

希(これは……誰を復活させるとか選りすぐってる場合じゃないかも)


 戦力バランスの更なる傾斜を突きつけられた希の脳内では、目まぐるしく思考が巡っていた。


希(ウチらは残り三人やけど、攻撃手段を持ってるのがことりちゃんだけになってもうた)

希(今ことりちゃんがやられたら実質的に詰みやん)

希(下手な話、今から敵チームがウチや雪穂ちゃん無視してことりちゃんだけ集中狙いしたら、それだけで負けてまう)

希(復活させる味方について理想像はあったけど、拘ってる場合じゃあらへん)

希(今は「誰を」より「いつ」復活させるかの方が重要になった)

希(……いや、でも、今後の方針だけでも固めておいた方が良い?)

希(雪穂ちゃんが復活を試みて無理だったって言うように、そう簡単に事は進まないかも)

希(せやったら、不測の事態に備えて多少なり戦略の指標だけでも立てておかな)

希(もしかしたらこの先、復活させられる前にウチがリタイアするかもしれへんし)

希(その場合の判断基準だけでも雪穂ちゃんに与えておきたい)


 チラリ、と、脇の雪穂に目を向けた。


希(ことりちゃんの合流を待ってる余裕はない)

希(ウチ一人でも、いざとなったら身を挺して雪穂ちゃんを守るつもりで護衛せないけないんや)
231: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:04:33.19 ID:pzgorohZ.net
 しばらくの間、希は熟考し続けていた。
 雪穂が作業机からチラチラを顔を覗かせて出入り口を伺っていると、ようやく希が口を開いた。


希「ますます状況が悪化したね。これで攻撃要員はことりちゃんだけになってしもたん」

雪穂「これまで以上に早く誰か復活させないと、ってことですよね……」

希「本来なら誰を復活させるかについてもゆっくり考えたかったんやけどね」

雪穂「もう手当り次第に復活できるときに復活させますか?」

希「結論としてはそうなると思うん。せやけど、最低限の指針は出しておきたいんよ」

雪穂「指針っていうのは……」

希「具体的に言うと、亜里沙ちゃんと穂乃果ちゃんどっちを優先的に蘇生させるか、かな」

希「理由は火力役の補填やね」

雪穂「武器の威力が高いどちらかの復活ってことですよね」

希「武器の扱いだけ見たら亜里沙ちゃんなんやけど……」

雪穂「亜里沙の方が上手に戦えてたと思いますけど……お姉ちゃんとも迷いますか?」
232: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:05:52.58 ID:pzgorohZ.net
希「……確認したいんやけど、今雪穂ちゃんってみんながリタイアした場所わかるよね?」

雪穂「はい、わかります」

希「穂乃果ちゃんがリタイアした場所ってこの下の『1F大教室』であってる?」

雪穂「……はい、正確には『1F大教室』前の廊下ですけど、そこでリタイアしたみたいです」

希「オッケー。雪穂ちゃん『1F大教室』が滅茶苦茶に破壊されてたの見た?」

雪穂「見ました。壁も窓も壊れてたし、天井に穴も開いて、二階のこの教室の床が抜けてましたもん」

希「多分アレやったんが穂乃果ちゃんたちなん」

希「割と頻繁にみんなのHP状況確認してたんやけど、穂乃果ちゃんがリタイアした直前に真姫ちゃんや花陽ちゃんのHPが減ってたん」

希「穂乃果ちゃんたちが『1F大教室』で戦って大暴れして、結果あんな滅茶苦茶になったと思うん」

希「せやから穂乃果ちゃんは、教室一つ破壊できるくらいには武器を扱えるようになったんやないかな」

雪穂「お姉ちゃん、私が花陽さんに追われてるとき、あのでっかいローラーを食い止めたんです」

希「え? アレを? 嘘やん」

雪穂「鉄球を勢いよく振って床にめり込ませて、楔みたいにしてそれ以上進ませなくしたんですよ」

希「はー、凄いことするわあ。そんなことできるんなら教室の一つや二つ全壊させられるんかな」

雪穂「だから、武器の扱いはきっと上手くなってると思います」
233: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:07:24.98 ID:pzgorohZ.net
希「敵チームプレイヤーのHPの減りから見ても、おそらく穂乃果ちゃんは複数人を同時に相手にしてたん」

希「それでも互角の戦いができてたって言うなら、穂乃果ちゃんは凄い強くなってたはず」

希「もし希望を見出すなら、穂乃果ちゃんに賭ける手もアリだと思うんよ」

雪穂「お姉ちゃんに私たちの勝利を託すんですね」

希「ま、それも今となっては理想論に留まるんやけどね」

希「穂乃果ちゃんを復活させるんが最優先やったけど、凛ちゃんまでリタイアした今、選んでられへん」

希「基本は誰であろうとも復活できるときに復活させて、できるなら……って感じやね」

雪穂「わかりました。じゃあとにかく手近なところで誰か……」


 新たな方針が決まりかかったタイミングで。

 ガラガラ ガラガラ

 重々しい地鳴り音が廊下側から聞こえてきた。
 
 希と雪穂は揃って口を閉じる。
 音を聞いただけで金縛りにあったかのように体は動かなくなり、萎縮してしまう。

 空気の振動一つ立てないように固まっている二人。
 その耳に、何度も聞いた超巨大ローラーの地鳴り音が響き、室内に入ってきたことを伝えてきた。
234: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:09:24.43 ID:pzgorohZ.net
『2F 大教室』 希・雪穂 対 花陽


 ガガッ ゴトッ

 ローラーの音は出入り口で止まった。
 室内の奥へと踏み入る前に、じっくりと観察されているような沈黙が広がる。

 奥まった場所で屈んで身を隠している希は状況を整理した。


希(嫌なタイミングできてくれたわあ……)

希(恐らく花陽ちゃんは潜伏しているプレイヤーがいないか室内を巡回するはず)

希(教室の奥まで進めば、当然見つかってまう)


 作業机に隠れたまま移動して、上手い具合に花陽の視界から逃れられる可能性を考えた。
 しかし実際にやってみるとしたら、屈んだままでの移動は想像以上に難しい。
 ともすれば机の上に体が出てしまうし、屈んだままでは移動速度を出せなければ、足音や布擦れまで気を回す必要がある。

 ならばここは安全策を取るべきか。


希(優先的に考えるなら、できれば雪穂ちゃんが隠れてることはバレて欲しくない……)


 ここに雪穂ちゃんがいることがバレたら間違いなく狙われる。
 雪穂ちゃんが《復活スイッチ》を使用できないままリタイアしたなら、攻撃要員が一人のままになる。
 それだけは避けなければならない。

 となると……。
235: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:11:10.98 ID:pzgorohZ.net
希「……雪穂ちゃん」


 極々小さな囁き声で呼びかけた。
 ……やっぱり、ウチは囮役やね。


希「今からウチが先に逃げるから、雪穂ちゃんはここに隠れてて」


 声を潜めて指示を伝える。
 慌てて雪穂は言い返そうとするも、それを希は手で制した。
 耳をそばだてれば、出入り口の方から地鳴り音が近づいてきており、時間的余裕はない。


希(最低限の指針は伝えた……後は頼むで……!)


 希は一度深く頷いて見せると、動きを制すように片手を上げたまま、物陰に隠れながらゆっくりと距離を取っていった。

 今現在、花陽は教室後方をじわり、じわりと奥に進んできている。
 希は窓側に近い作業机の島に隠れながら、教室の前方に向かって移動した。

 前方まで移動してから大きく息をつくと、意を決して立ち上がり、出入り口に向かって走った。


花陽「!? 希ちゃん!」


 教室後方にいた花陽は即座に希の姿を捉えると、ローラーの向きを変えて作業机の間を駆けた。
 途中教室の真ん中付近に開いた大穴の端がローラーの経路にかかるも、怯えることなく花陽は突き進む。
 ローラーの通過と同時に穴から伸びていたヒビが大きくなったが、床が崩れることはなかった。
236: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:12:32.39 ID:pzgorohZ.net
『2F 南廊下』 希 対 花陽


 雪穂を残して『2F大教室』から飛び出した希は背後を確認する。
 予定通り、花陽は希の姿に反応して後を追ってきた。


希(ええよええよー。で、ここでコレの出番や)


 廊下に出た希は武器のマントを身に纏い、不可視化の効果を発動させた。
 姿を消してから右方向に向かって走る。
 後を追って廊下に飛び出した花陽は、左右のどちらに希が逃げたのか判断が付かず、その場に足を止めた。


希(そのまま勘でどっちか選んで、上手く外れてくれれば良かったんやけど……)


 そこまで希の理想通りには事は運ばずに、花陽はその場で左右を見渡しながら立ち止っていた。
 しばらくした後、遠く走り去った希の後ろ方が廊下に現れた。


花陽「見つけた!」

希「時間切れやね……!」


 希の逃げた先を見つけた花陽が進行方向を定め、ローラーを押しながら廊下を突き進む。
 思いの外距離を開けなかった希だったが、それでも目的は最低限果たせたと得心しつつ廊下の角を曲がった。
237: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:14:32.90 ID:pzgorohZ.net
希(今のうちに雪穂ちゃんが大教室から逃げるとして……)


 二階の廊下を希は時計回りに走る。
 やや間を空けて、後方からは花陽のローラーが迫ってきていた。
 心なしか、今まで以上に追走の速度が速まっている気がする。


希(あとは雪穂ちゃんが自己判断で誰を復活させるか選んでくれるはず)

希(このまま穂乃果ちゃんのリタイアした一階に行って、ストレートに復活劇ってなればええんやけどなあ)


 思考を巡らせながら走っていた希だったが、徐々に背後からの地鳴り音に意識を持っていかれた。
 気のせいではなく、やはり距離は近づいてきている気がした。


希(なんか……花陽ちゃん、速くなってる?)

希(このままずーっと逃げ続けてたら追いつかれるかもしれへん)

希(まあそうは言っても、次の階段に着くくらいにはもう一回マントが使えるようになるやろ)


 北東の角を右に曲がり、正面遠くに南東階段を視野に入れる。
 そこで思いがけない光景を目にした。


希(えっ!? なんで雪穂ちゃん戻ってきてるん!?)


 未だ立ち姿も朧気な距離ながら、雪穂が南東階段経由で一階から二階に上がってきたところを確認した。
 希たちが迫ってくる様子を目の当たりにした後、雪穂は階段を三階へと上がっていく。
 更には、雪穂の後を追うようにして新たな人影一階から上がってきた。


希(あっ……アカンわっ!)


 花陽に追われながら、希は再使用できるか疑問を抱きながらも再びマントを身に纏った。
238: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:17:23.99 ID:pzgorohZ.net
『2F 大教室』 雪穂


 作業机に身を隠しながらでも、花陽さんのローラーが室内を縦断する音が聞こえる。

 様子を伺うために作業机から顔を出してみたら、ちょうど希さんが教室前方の出入り口から出ていくところだった。
 廊下に出る際に、マントを使って不可視化の効果を発動していた。

 同じ出入り口から廊下にでた花陽さんは、しばらくその場で左右を見渡してた。
 しばらくしたら花陽さんは顔を右に向けて、そのままローラーを右方向に押していった。
 きっと、希さんの不可視化の効果が切れて、右方向に逃げるのを見つけたんだと思う。

 花陽さんが去ったことを確認すると、私は即座に立ち上がって移動を開始した。


雪穂(復活させられるときに復活させる)

雪穂(だけど、できるなら優先順位も考えたい)

雪穂(それを決めるのは私なんだ……)


 これまで単独行動が多かったけど、一緒にいた希さんと別れたことで、孤独が改めて身に沁みた。
 一人で移動する恐怖心に耐えながら、私は出入り口へと向かった。
239: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:19:03.58 ID:pzgorohZ.net
 大教室から二階の南廊下に出ると、花陽さんが進んだのとは逆に左へと進んだ。

 廊下の突き当りには右手側に南東階段があって、左に折れると東側廊下に出る。
 お姉ちゃんがリタイアした一階に向かうつもりだったけど、別れ道に立ったまま左を向いた。


雪穂(左側には亜里沙がリタイアした場所がある……)


 二階東側廊下は、亜里沙がリタイアした場所だった。
 今はにこさんも誰も邪魔をする人はいない。
 だけど、さっき希さんと相談して、ちゃんと決まってはいないけどお姉ちゃんを優先させる流れになった。


雪穂(私が花陽さんのローラーに轢かれそうだったのを守ってくれたお姉ちゃん、凄かったもん)


 あのときの恐怖と、恐怖から守ってくれた安心感は強く覚えている。

 普段はダメダメで私が支えていないとなにもできないお姉ちゃんだけど。
 大切なときには誰よりも凄いことをしてみせる。
 それが私のお姉ちゃんなんだ。


雪穂(ごめん亜里沙……私も後でリタイア部屋に行くから! それまで待ってて!)


 私はお姉ちゃんの蘇生を選んで、右手の階段から一階へと降りた。
240: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:20:20.60 ID:pzgorohZ.net
 踊り場を曲がって、南東階段を下りて一階の廊下に向かう。
 けど、またしてもお姉ちゃん復活の足取りは阻まれることになった。


雪穂「!?」

真姫「!?」


 互いの姿を見つけたのはほぼ同時。
 踊場から数歩降りたところにいる私と、一階の廊下から南東階段へと向かっていた真姫さんの目が合った。


雪穂(こっちは駄目だ!)


 私は即座にお姉ちゃんの蘇生を諦めて階段を引き返した。


雪穂(これで相手がにこさんだったら、まだ突破を賭けて突っ込んでもよかったけど)

雪穂(でも真姫さんはビックリするくらい動きが凄いから、背後に抜けることさえ出来る気がしない)

雪穂(流石に相手が悪い……!)


 後ろから真姫さんが追ってきたことを確認しながら、私は階段を駆け上がった。
241: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:23:03.59 ID:pzgorohZ.net
 二階へと戻りながら次の案を考える。


雪穂(お姉ちゃんが駄目なら……さっき諦めた亜里沙の退場地点へ向かう!)


 そう思って二階に出たら、正面東側廊下の奥から希さんと花陽さんが曲がってくるのが目に入った。


雪穂(なんで希さんたちがこっちに!?)

雪穂(……そっか! 二階をぐるぐる走って逃げてたんだ!)

雪穂(一度花陽さんをやり過ごさないと亜里沙の退場地点に行けない!)


 私は一瞬その場で立ち止まった。
 希さんたちはまだ向こうの角を曲がってきたばかり。
 まだ距離のある希さんの存在を認めつつ、背後から追ってきてるはずの真姫さんを意識する。


雪穂(亜里沙のリタイア位置に行けないなら、とにかく真姫さんから逃げないと……)


 私はそのまま階段を上がって三階に向かった。

 直後、私を追ってきた真姫さんが二階に上がってくる。
 私を追って三階に向かおうとするけど、その前に、東側廊下からこっちに向かってくる希さんたちに気付いた。
 そして、私を追う足を止めて、その場に残った。
242: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:24:14.09 ID:pzgorohZ.net
雪穂(真姫さん、私を追ってこない……)


 階段を駆け上がりながら、私は一つのことに思い当たった。

 逃げる足を止め、背後を振り返る。
 私を追っていたはずの真姫さんは、私ではなく、こっちに来る希さんと花陽さんを見ていた。

 本戦が始まる前、既に分かっていた情報を整理するため、相手プレイヤーの持つ武器の威力値とかを確かめた。
 そのときの記憶を思い出す。


雪穂(確か真姫さんの武器の威力は『3』だった)

雪穂(そして今の希さんの残りHPは……)


 希さんのHPの具体的な数字には自信がなかった。
 けど、真姫さんは私じゃなくて、花陽さんに巻き込まれる危険を背負いながら、希さんを狙おうとしている。
 不吉な予想が脳裏を駆け巡った。


雪穂(もし希さんが真姫さんの一撃でやられるような状態だったら……)


 希さんは肩にかけたマントを片手でイジってるけど、不可視化はされない。
 一度効果を発揮させてからのクールタイム一分がまだ経っていないのかもしれない。
 姿を隠せないなら、真姫さんの鎌を避けようがない。

 考える時間は残っていなかった。
243: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:26:45.99 ID:pzgorohZ.net
 花陽さんの超巨大ローラーに追われる希さんはもうすぐそこまで来てる。
 真姫さんは完全に希さんに狙いを定めている。
 希さんはまだ不可視化できない。


雪穂(このままじゃ希さんが……)

雪穂(……駄目だ!)


 希さんを優先的に助けることが正しいのか、私にはわからない。
 けど、私にできることがあるなら、それをしたいと思った。

 覚悟を決めた。


雪穂「たあああああああああああ!」


 階段数段分を駆け下りるんじゃなく、そのまま飛び降りた。
 怪我はしないっていうゲームの仕様を信じて、勇気を振り絞って。
 狙うは、真姫さんの後ろ姿。

 接近してくる希さんに狙いをつけていた真姫さんは、背後からの私の声に反応してこっちを振り返った。
 そこに飛び込んだ私のお腹が真姫さんの顔に当たって、二人揃って廊下に倒れ込んだ。


真姫「うぐぅ!」

雪穂「ったっ!」


 痛みを自覚する前に顔を上げる。
 思いきり飛び込んだことで、私と真姫さんの体は完全に廊下側まで出ていた。
 このままだと、花陽さんのローラーに巻き込まれる経路にまで。

 ローラーから逃げる希さんが擦れ違いざまに倒れた私に目を向ける。
 走りながら手を伸ばしてくれたけど、急なことで反応できない。
 脇を通過していく姿をただ見送るしかなかった。
244: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:28:29.49 ID:pzgorohZ.net
 希さんの救いの手を諦めて、私は顔を前に向けた。


雪穂(あ……)


 廊下に倒れる私の眼前まで、鉄の塊が迫ってきていた。
 希さんを追っていたから、真姫さんを巻き込まないよう花陽さんがブレーキをかけるも、間に合わなさそうだ。

 余りの恐怖に時間がゆっくりに感じた。
 私は数秒後、この超巨大ローラーに轢き殺されるだろう。

 私をローラーから助けてくれたお姉ちゃんは、ここにはいない。
 今度はもう助からない。

 だけど、希さんを助けることができた。
 それに、一緒になって倒れている真姫さんもリタイアに巻き込めたかもしれない。
 戦うための武器を持たない私にしては頑張ったんじゃないのかな。


雪穂(でも……やっぱり嫌……)


 ローラーに対する恐怖心は、完全に心の底まで刻み込まれている。
 こんなの完全にトラウマものだ。 

 けどしょうがない。
 エキシビジョンマッチに続いて、私はこのゲーム内ではローラーに轢き殺される運命みたい。

 私、頑張ったよね。

 あんな高い階段の上から飛び降りて。 
 素手のまま真姫さんに飛びかかって。
 こんなおっかないローラーの前に飛び出して。 

 もういいよね。

 だからもう、勇気なんて捨てて、怖いって思ってもいいよね。
245: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:30:44.89 ID:pzgorohZ.net
 衝突音が響き渡る。
 その音だけでローラーの重量が伝わるかのように、激しい重低音がその場に居る全員の鼓膜を震わせた。

 床に倒れたまま、恐る恐る、雪穂は目を開く。
 先程までと景色は変わらず、校舎内の廊下に身を横たわらせ、眼前にはローラーが迫ってきている。

 一瞬、時間が止まったのだと錯覚した。
 走馬灯のように圧縮された一秒間が、更に密度を増して、本当に時を止めてしまったのだと。
 けれど、頭上から聞こえてきた声で、その錯覚が間違いであることがわかった。


花陽「……また、私のローラーを…………」


 正に雪穂を轢く寸前であった花陽の、悔しそうな声が降ってきた。
 顔を上げても、視界いっぱいにローラーがあるため花陽の姿は見えない。

 しかし、花陽の姿は見えずども。
 突っ込んできたローラーを受け止めたような形で添えられている、薄手のグローブを付けた手は視界に入った。


海未「花陽。すみませんが、今一度止めさせてください」


 聞き覚えのある声がした。
 この場ではあるべきはずのない声。

 雪穂は体を起こし、視線を上げる。
 ローラーを押し留めた海未と視線が合うと、海未は優しく微笑んで見せた。


海未「怪我はありませんか、雪穂。もう大丈夫ですよ」
246: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:34:42.18 ID:pzgorohZ.net
『2F 南東階段前』 雪穂・希 対 花陽・真姫 対 海未


 自身を轢き殺さんと迫っていたローラーを食い止めた海未を見て、雪穂は慌てて飛び上がった。


雪穂「え? えっ!? どうして!? なんでここに!?」

海未「乱入という形で私もゲームに参戦しました」

雪穂「乱入……」


 海未から見て雪穂のすぐ後ろ、真姫もまた困惑した表情で鎌を構えている。
 予想外の海未の登場をどう捉えるべきか悩んでいる様子だった。


花陽「真姫ちゃん!」


 この中で唯一、既に海未と遭遇済みの花陽がローラー越しに真姫へと声を飛ばした。


花陽「海未ちゃん味方じゃないよ! 私がことりちゃん倒そうとしたとき邪魔されたの!」

真姫「!」


 花陽の発言を聞き、即座に真姫は表情を険しくさせる。
 手前に立つ雪穂を巻き込む形で、海未に向かって大鎌を振り回した。
247: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:36:35.40 ID:pzgorohZ.net
海未「させませんよ、真姫」


 片手でローラーを喰い止めながら。
 迫る切っ先を、海未はもう片方の手で掴み取った。


真姫「え!? 嘘!」

海未「私を攻撃するにしても、雪穂を巻き込む形ではさせません」

真姫「なんで……素手で防がれるなんて」

海未「雪穂。危ないので、希のいる場所まで離れてください」


 海未と真姫に挟まれた立ち位置で頭を抱えていた雪穂にそっと促す。
 雪穂は黙ったままコクコクと首肯して、逃げるように真姫の横を駆け抜けた。

 目前に捉えていた標的を一人逃し、真姫は舌打ちする。
 腕に力を込めて、捕まれている鎌の刃を引き抜いた。


真姫「海未、どういうことか説明してちょうだい」

真姫「いいでしょう。これまでの経緯と、今の私の考えを説明します」
248: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:38:50.69 ID:pzgorohZ.net
 しばらくの間、海未の説明が続いた。

 ゲームに途中参加し、ことりから事情を聞いたこと。
 当初は互いを傷つける争いを止めようとしたが、絵里との戦いの際に考えが変わったこと。
 現状では全員の意見を聞き、海未自身もどちらのチームの意見により賛同できるか見極めようとしていること。


海未「…………私は、みんなの意見を聞いてみたいのです」

海未「私にとってはどちらのチームの主張も私のことを考えて貰えていて、ただただありがたいとしか思えません」

海未「ですがそれが理由となって争いが起こっているのは悲しいです」

海未「そもそもの原因が私が倒れた失態ですから、本来口を出す権利などないのかもしれませんが……」


 海未は花陽のローラーを押さえつけながら、鎌を構える真姫に向かって体を開いている。
 希と雪穂は真姫から距離を取った場所に立ち、海未の話を聞いていた。


海未「ですが……ことりが言ってくれました」

海未「みんなが好きなようにやっているゲーム、私も私が思うままに行動していいのだと」

海未「ならば私も、このゲーム内では好きなよう行動することを決めました」
249: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:40:01.83 ID:pzgorohZ.net
真姫「……それで、海未は考えがまとまるまで、私たちの戦いを止めることを決めたの?」

海未「はい」

真姫「そう……」


 大鎌を構えたままの真姫が、僅かに腕に力を込める。
 不意を突くかのように海未に向けて一閃を放った。


真姫「…………不意打ちは無駄ってわけね」

海未「真姫……」


 海未の手によって阻まれた黒い刃。
 しかし攻撃は当たらずとも、真姫の意向は十分伝わった。


真姫「みんなから話を聞いた後、もしかしたら海未は私たちの敵になるかもしれないのよね」

真姫「いいえ……海未は優しいから、きっとことりたちのチームに同調するはずよ」

真姫「私たちみたいに海未の真意まで考えるんじゃなくて、ただ純粋に海未の体を心配していることりたちの方に」

海未「……それはわかりません」

真姫「私はそう思う。だから、海未のやりたいようにはさせられない」

真姫「この先敵になる可能性があるのなら……今ここで海未を倒す!」
250: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:43:00.09 ID:pzgorohZ.net
 海未に阻まれた刃を引き、再度真姫は大鎌を構え直した。


真姫「花陽! 少しでも力抜いたら押し潰せるようローラー押し続けて!」

花陽「わかった!」


 花陽への指示を飛ばして、真姫は海未に躍りかかった。
 心情では、海未に対する情けと、自身の目的意識とがぶつかり合っていた。


真姫(できるなら、既に十分自己責任を感じている海未の思うようにさせてあげたい)

真姫(だけど……海未には悪いけど、私だって私のしたいことをするのよ!)


 右手を花陽のローラーを押さえるために封じられ、海未は左半身を大きく真姫へと向けている。
 そんな不満足な体勢で片手しか使えずとも、安直な攻撃では効果がないことは知った。

 真姫は鎌を振るう前に、左手を海未の顔の前に突き出した。
 目的は海未の視界を阻むことだったが、軽い掌底のような挙動となる。
 視界を覆われそうになった海未は、しかし慌てることなく、左手の甲で真姫の手を跳ね上げた。

 左手が弾かれたと同時に鎌が狙いを付ける。
 海未の左腕が上がった隙に、がら空きになった左脇腹に向かって下方から刃を仕向けた。

 左半身を開いて対峙する海未からして死角からの攻撃ではあったが、しかし、海未は動じることはなかった。


海未(視界を阻んだからには波状攻撃……ですね)


 左下から振るわれた刃を素早く見定めると、再度左手の掌で容易く受け止めた。
251: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:44:56.88 ID:pzgorohZ.net
真姫「……次っ!」


 初激を防がれ、今度はジャグリングのように鎌を縦横無尽に振り回しながら海未を襲う。
 左手に鎌を持ち替えて真横から薙ぎ、股下から突き上げるように鎌を振るい、軌道の予測をつけさせない。
 フェイントも幾度も交えた。

 ゲームプレイヤーの中でも指折りの激しい動きを見せつけながら、真姫は舞うようにして海未への攻撃を続けた。


真姫(…………どうして)


 それでも、攻撃の全てが、海未の左手だけで阻まれた。

 顔に迫る刃を虫でも払うように軽く叩き。
 左右から降られる刃にはそのまま掌で掴み取り。
 下から迫る刃を腰を低くして押さえつける。


真姫(…………なんでよ)


 これまで超人的な立ち回りで他を圧倒してきた真姫。
 その真姫による、一向に決め手に欠ける連撃が延々繰り返された。
252: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:46:11.31 ID:pzgorohZ.net
真姫「……………………っ…………っはあっ! …………はあっ…………はあっ」


 一瞬たりとも動きを止めることなく攻め続けた真姫の大鎌。
 その漆黒の刃がグローブ越しの左手に捕えられ、強引に攻撃の手を止められる。
 動きを強制的に止められ、息をついたことで、溜まりに溜まった疲労が一気に真姫の体を蝕んだ。


真姫「…………片手なのに…………一方的に攻めてるのに…………駄目だって言うの……」

花陽「真姫ちゃん……」


 真姫の反対側では花陽が延々とローラーを押しているが、それも海未の右手に押し留められていた。

 二人の攻撃を完封した海未は、声の調子を柔らかくして真姫に話しかけた。


海未「真姫。あなたの動きはとても素人とは思えぬ素晴らしい体捌きですね」

真姫「……遠回しの自慢のつもりなの?」

海未「そのようなつもりは。みんな、真姫の動きが凄いと言っていた理由がわかりましたよ」

真姫「でも、海未には一回も攻撃できない……」

海未「武道未経験者の真姫が、ゲーム内では意思一つでここまで動ける」

海未「ならば経験者の私がそれ以上の動きができるのは、ある意味当然の話ではありませんか?」
253: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:48:04.80 ID:pzgorohZ.net
真姫「……ゲーム内では、やろうと思えばなんだってできる……ってことね」

海未「そのようですね。私だって、現実ではここまで攻撃を捌くことなどできませんよ」

海未「ゲーム内では怪我もしなければ痛覚もない、そう聞いています」

海未「ならば被弾する際の恐怖を鑑みることなく、ただただ攻撃から目を離さなければいいだけの話です」

真姫「そんなこと言ったって、普通刃物で斬りつけられたら反射的に目を背けたくなるものでしょ」

海未「あくまで覚悟の問題です。そして慣れ。その点私に有利なのは仕方のない話です」

真姫「だからって納得できるわけない!」


 真姫は力ずくで海未の左手から刃を引く抜くと、そのまま海未の頭上目がけて大鎌を振り下ろした。

 海未は体を逸らし、頭上からの攻撃を避けた。
 大鎌は海未の背後のローラーにぶつかり、甲高い音を鳴らして刃を弾いた。
 空ぶった攻撃の隙に海未は真姫へと一歩踏み込むと、大鎌の柄を掴み、そのまま真横に振った。


真姫「きゃっ!?」


 柄を握る腕ごと真姫の体を揺さぶり、バランスを崩す。
 そこへもう一歩踏み込み、短く息を吐くと、柄を握る真姫の手を狙って掌の固い部分を打ち当てた。


真姫「つっ!?」


 真姫の手から大鎌が剥がれ、床に落ちる。
 その鎌を海未が身を屈めて拾い上げる。

 鎌を構える側と、刃に狙われる側が交代した。
254: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:50:05.74 ID:pzgorohZ.net
海未「…………」

真姫「…………」


 自身の武器であった大鎌の刃で狙われる真姫は微動だにできず、ただ海未を見返すことしかできなかった。

 海未は大鎌を無造作に持ったまま、一向に攻撃をしない。
 しばしの沈黙の後、軽く鎌を浮かせて柄を握る手の向きを変えると、大きな刃を互いの体に触れさせぬよう回転させる。
 柄を突き出すような持ち方に変えると、そのまま真姫に向かって鎌の柄を差し出した。


真姫「…………攻撃、しないの?」

海未「少なくとも今はまだ、戦うつもりはありません」

海未「元々争いを止めるためにゲームに参加したのですから」


 攻められれば反撃はするも、決して自分からは攻撃をしないという姿。


真姫(なんか……こういうの、最近見たことあるわ……)


 別の場面でも目にした既視感。
 真姫はお手上げとばかりに嘆息した。
255: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:51:28.43 ID:pzgorohZ.net
 海未から手渡された鎌を肩に構えると、攻撃を諦めたことを示すように真姫は両手を広げた。


真姫「……海未ってことりと似てるわよね」

海未「ことりと、ですか?」

真姫「自分からは攻撃しない割に、自分への攻撃は一切受け付けないし、負けるつもりもないみたい」

真姫「ことりもね、ゲーム前に言い争いをしていた様子がそんな感じだったのよ」

海未「そうだったのですか」

真姫「ことりは私たちの中で唯一、最後まで全員の仲を取り持とうとしていたわ」

真姫「互いにいがみ合う中でずっと私たちとの距離が離れないよう努力していたのよ」

真姫「でもだからといって、ライブを許そうっていう気は微塵もなかったみたい」

真姫「それこそ表面的には私たちに一番噛みついてきた穂乃果にも負けないくらいの意思の固さを感じたわ」

真姫「海未の安静を守るの一点張り。あれは私より頑固だったわね」

海未「……ことりには、改めて感謝しなければなりません」

真姫「……やっぱり、そういう風に心配してくれることりたちに肩入れしたいって思う?」

海未「一概には、そうは言えません。真姫たちの主張もありがたいと感じているんです」

真姫「そう……」
256: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:54:51.83 ID:pzgorohZ.net
 海未は真姫から目を離すと、後方に聳えるローラー側へと顔を向けた。


海未「花陽」

花陽「……なに?」

海未「先程は語気の強い調子で迫ってしまってすみませんでした。あのときはまだ事情を理解していなかったもので」

花陽「うん……」

海未「改めて、花陽の考えを聞かせてもらえませんか?」

花陽「私がライブをしたいって考える理由?」

海未「はい」

花陽「…………スクールアイドルは、ライブをするものだって思うから、だよ」

花陽「私はそう思ってるし、そうあるべきものだと思う」

花陽「きっとみんなも同じ風に考えるはず。勿論、海未ちゃんも」

海未「そうですね、当然の話です」

花陽「だからね、そんな大切なライブを自分の責任で止めることになったら、海未ちゃんショック受けるんじゃないかなって思ったの」

花陽「体調不良っていう理由はあるけど、それでも海未ちゃんはきっと気に病んじゃう」

花陽「それなら私たちだけでもライブをやりきって、悩ませないようにした方がいいんじゃないのかなって……」

花陽「それが私がライブを強行しようと決めた理由だよ」
257: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:56:17.12 ID:pzgorohZ.net
海未「……ありがとうございます。私のことを、深くまで考えてもらいまして」

花陽「私がライブをやりたかったっていう理由も勿論あるよ」

花陽「でも、海未ちゃんのこと心配してるのだって、本当だから」

海未「はい、わかっていますよ」


 ローラー越しには目線程度しか覗くことができないが、それでも海未は花陽に微笑んでみせた。
 先程とは異なり、優しさを感じる海未の視線に、花陽の表情も綻んだ。


海未「真姫、あなたの理由も聞いてもいいですか?」

真姫「…………ふん。それが海未がゲームで戦う目的だっていうなら、言ってあげないと可哀想でしょ」

海未「すみません。助かります」

真姫「花陽と大体同じよ。私たちはライブに向けて頑張ってきた」

真姫「ライブが台無しになった場合、間違いなくは海未は自己責任を感じる」

真姫「それに、私たちだって必死に頑張って準備してきた機会が無くなるのは辛い」

真姫「自分の願望と海未の救い、共に合致するやり方を選んだ。それだけよ」

海未「わかりました。ありがとうございます」

真姫「まったく、やめてよね。あなたのためよ、だなんて、本人目の前にして言うものじゃないわ!」

海未「ふふ、失礼しました」
258: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 21:58:41.23 ID:pzgorohZ.net
 海未は視線を真姫の後方へと向けた。
 少し離れたところでは、海未たちの様子を伺っていた希と雪穂が立っている。


希「次はウチらの考え?」

海未「はい。よろしければ、聞かせていただけないかと」

希「ええよ。海未ちゃんのお願いやしね」

希「ウチはみんなを支えようとしてきた。そして今回海未ちゃんを支えられへんかった」

希「せやから次は支えてみせる。だから体の調子が戻らない間は絶対安静」

希「もし後になって海未ちゃんが自分を責めても、そのときに今度こそ支えてみせる」

希「ざっとこんな感じの流れやね」

希「ウチだけじゃなくて、ウチらのチームのみんなは大体こんな考えなんじゃないんかな」

海未「そうですね。ことりや凛からも同じようなことを言ってもらいました」

希「せやろ?」


 希は得意気な笑みを見せると、隣に立つ雪穂の肩を軽く叩いた。


希「はい、雪穂ちゃんの番だよ」

雪穂「私と亜里沙はμ'sのメンバーじゃないのに勝手に参加しちゃったんですけど、それでもいいんですか?」

海未「よろしければ聞かせてください。ここまでみんなと混じって戦ってくれたのです、参考にさせていただきたいです」
259: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:01:16.91 ID:pzgorohZ.net
雪穂「……私たちは一番単純な理由なんじゃないかなあ」

希「ま、でも当人が聞きたがってるから」

雪穂「はい……私は、海未さんを昔から知ってる立場として、色々と抱える人だってわかってるつもりです」

雪穂「だから気苦労を背負うのは仕方がないとしても、せめて体くらいは労わって欲しいなあって」

雪穂「亜里沙はもっとわかりやすいです。『次また海未さんが倒れたら大変!』って、それだけ言ってました」

雪穂「きっとそれしか考えられないくらい心配だったんじゃないのかなあ」

海未「そうですか。二人にも心配かけてしまいましたね」

雪穂「そんなこと! むしろ私たちこそ皆さんに迷惑かけちゃって……」

海未「私たちをずっと近くで見てくれていた二人です。迷惑なわけありませんよ」

雪穂「そう、かな……へへ」


 この場にいる全員の意見を聞き終えて、海未は満足そうに視線を上げた。
 中空のなにもない場所を見上げると、徐に口を開く。


海未「亜里沙、聞こえていますか。ありがとうございます。また後で、きちんとお礼を言わせてください」


 短く述べると、するべきことは済んだとばかりにゆっくりと顔を下ろす。
 海未は改めて四人の顔を見渡した。
260: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:05:53.53 ID:pzgorohZ.net
海未「……みんなの意見を聞くことができたので、私もまた、改めて考えてみたいと思います」

真姫「どっちに味方するかを?」

海未「みんながこうまで強い思いでぶつかっているのです。私もそれに則って、どちらかの立場は取るつもりです」

海未「ただ……それに伴って戦いに参戦するのかどうかは考え直そうと思います」

真姫「どうして?」

海未「みんなで始めた戦いなのに、途中参戦の私が本格的に介入するのはどう思いますか?」

真姫「……そうね……雌雄を決するような事態になったら、場合によったら悔しいかもしれない」

真姫「だけど、これは私たち全員の話なんだから。ここまできたら海未も参入するべきだと私は思うわ」

海未「ありがとうございます。その辺り含め、自ら問い質してみます」

真姫「そう……いいんじゃない」

海未「……みんなと話すと考えが色々と変わりますね。やはり、こういう話し合いができてよかったです」

真姫「強引に割り込んできたんだから、海未のためになってもらないわないと困るわ」

海未「はい……これから私自身の意思が固まるまでは、こうして無差別に争いに参入するのは今後控えます」

花陽「最初は戦うのを止めたかったはずなのに、もう大丈夫なの?」

海未「今は戦うための理由があるのだと知りましたから」

海未「今後は無制限にゲームの進行を妨げる行為ではなく、明確な意思をもって参加したいんです」

海未「なので結論を出せるまで、私は静かにしています」
261: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:08:13.34 ID:pzgorohZ.net
希「海未ちゃんがどうするかちゃんと決めたら、今度こそゲームに本格参戦やね」

海未「はい。ゲーム中にきちんと考えをまとめられると良いのですが」

雪穂「きっとできますよ!」

海未「そうありたいものです」


 全員と顔を合わせ、一度ずつ頷いて見せた。


海未「すみません、私の我が儘で、この場での戦いの進行を止めてしまって」

真姫「いいわよ。私たちと話すのが目的だったんなら、止めなきゃ無理でしょ」

花陽「でもこの後どうしよう? 続きから戦うの?」

希「続き、言うても、雪穂ちゃんと真姫ちゃんはローラーに轢かれてリタイアしちゃう流れやったし」

真姫「私はすぐ立ち上がってローラーから逃げられたわよ!」

雪穂「あ、じゃあ私も逃げられたかなーなんて……流石に駄目ですか?」

希「ほら、途中から再開させるにも互いに言い分があるし、難しいやろ?」

海未「あの、それならこの場は一度解散して、その後今まで通り戦いを続けるというのはどうでしょう」

海未「戦いを止めた私が提案するのもどうかと思いますが……」

希「でもそれが妥当やんなあ。真姫ちゃんたちはどう?」

真姫「……仕方ないわね。それでいいわよ」
262: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:09:26.45 ID:pzgorohZ.net
希「じゃあここで別れてからゲーム再開ね。というわけでウチらは先に……」

真姫「あ、待ちなさい!」


 雪穂を促して南東階段を下りようとしていた希たちに向け、真姫は静止の声をかけた。


真姫「せめて雪穂ちゃんは三階に上がって。一階は穂乃果のリタイアした場所でしょ」

希「あちゃー、バレとったね」

真姫「相変わらず抜け目ないわね、希」

希「真姫ちゃんもね。じゃ、ウチらはお先に失礼するよ。バイバイ海未ちゃん!」

雪穂「また後で!」


 真姫に咎められた希と雪穂は、指示通り三階へと上がっていった。
 二人の姿が階上に消えて、しばらくしてから真姫も動いた。


真姫「じゃあ私も行くから。花陽、この後は三階に上がって二人の後を追ってみて」

花陽「わかった!」


 短く指示を飛ばすと、真姫は海未に一瞬目を向けてから南側廊下を走って行った。
 真姫が去ると、海未はローラーから手を離し、階段の脇まで下がった。


海未「花陽は三階ですね?」

花陽「うん。じゃあ、行ってくるね」


 ローラーを避けるよう、一階へ通じる階段へと海未は身を寄せる。
 その横を通り、花陽はローラーの音を響かせながら三階へと上がって行った。
264: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:11:29.36 ID:pzgorohZ.net
 全員が去った二階南東階段前。
 最後に残った海未は、小さく息を吐いた。


海未(みんなの話を聞けて良かったです……)


 争いを止めるという、当初の目的を達成させるのは難しいかもしれない。
 しかし今は気持ちが変化しつつある。

 みんなの意見を聞き、各チームの主張は理解できた。
 後は、結論を出すだけ。
 正しい形で、自らの意思で、自分なりのやり方でゲームに参戦する。
 今はそうしようと考えられるようになっていた。


海未(できれば、穂乃果にも話を聞いておきたいところでしたが……)


 中空に視線を投げる。
 リタイアしたプレイヤーは、別の場所から見てくれているだろうか。


海未「答えを、出してきます」


 見ているかもしれない誰かに向けて。
 そして、ゲームに参加する全員に向けて。
 海未は宣言すると、静かな動きでその場から立ち去った。
265: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/24(月) 22:12:22.76 ID:pzgorohZ.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り3名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・東條希   HP3  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP9  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り4名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・矢澤にこ  HP2  催涙ガス噴出装置/威力0
・小泉花陽  HP2  巨大ローラー/威力10


【イレギュラー】 残り1名/1名

・園田海未  HP10  武器無効化グローブ/威力0


――――――――――
279: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:41:38.94 ID:cDAb0TY5.net
『3F 東廊下』 希・雪穂


 先んじて移動した希と雪穂は三階へ上がると、そのまま足を止めずに東側廊下を北に急いだ。


雪穂「この後どうするんですか?」

希「今ウチらが三階にいることが真姫ちゃんと花陽ちゃんにバレてる。せやからすぐに下りて挟み撃ちされないようせな」

雪穂「そのまま一階まで行ってお姉ちゃんの復活ですね!」

希「上手くいけば、ね」


 希が先導する形で走る。
 北東の角を曲がる際、後方南東階段から花陽のローラーが廊下へと降り立つ重々しい音が遠く響いた。


希「ギリギリウチらの姿見られてないかな」

雪穂「やっぱり追ってきたんですね」


 花陽の追走を避けた二人は北階段へと急ぎ、駆け足で階段を下りていった。
280: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:44:14.13 ID:cDAb0TY5.net
『1F 北廊下』 希・雪穂 対 絵里・にこ


 北階段経由で一階北側廊下に降りた二人は駆け足のままに左へと曲がる。
 しかしすぐに希の足は止まり、続いて雪穂も驚きの声を上げて前方を指差した。


雪穂「絵里さんにこさん……!」

絵里「! やっぱり下りてきたわね!」

にこ「また穂乃果の復活を狙いにきたんでしょ!」


 敵勢二人の様子から、既にこちらの狙いは看破されていると即座に希は読んだ。
 ならばやることは一つと、雪穂のために囮になることを決めた。


希「雪穂ちゃん走って! 逆方向から回り込んで!」


 背後に向かって希は指を差す。
 雪穂は数刻希と目を合わせてから、大きく頷いて背後に向かって駆けた。


にこ「逃がさないわよ!」


 雪穂を追ってこちらへと駆けてくるにこを希は迎え撃たんとする。


希(一対二で勝てるとは思えない)

希(かと言って不可視化で逃げれば時間稼ぎができないし、雪穂ちゃんを逃がした意味がない)

希(ウチがここで二人の邪魔して、いい加減リタイアするときやね!)
281: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:46:31.55 ID:cDAb0TY5.net
 腹を括って二人を迎え撃とうと腰を低くする希。
 しかし、にこと違って絵里は逡巡する様子を見せると、そのまま背後へと駆けていった。


絵里「にこ! 希を止めておいて!」

にこ「そのつもりよ!」

希「!? しまった!」


 穂乃果がリタイアした場所は一階の大教室前、南側廊下の中央に位置する。
 現在希たちが立つ北階段前からは、廊下を半周回った真向いにあたる。

 雪穂が逆時計回りの形で移動するように、絵里は時計回りに穂乃果の退場位置へと向かったのだろう。
 若干雪穂の方がスタートが早かったが、絵里の身体能力を考えると安心はできない。


にこ「なーによそ見してんのよ!」

希「にこっち……!」


 しかも目前にはにこが迫り、例の如くマスクを眼前に下ろしてチューブをこちらに向けようとしている。
 二人の足止めという目的を果たせなくなった現状、まずはこの場を脱出しなければならない。


にこ「喰らいなさい!」

希「お断りやん!」


 にこの催涙ガスが噴出されるのと、希がマントを纏って不可視化を発動させたのはほぼ同時。
 一角は白煙により視界が覆われ、二人の姿は見えなくなってしまう。

 白煙が消えた後、北階段前からは両者とも姿が消えていた。
282: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:49:09.78 ID:cDAb0TY5.net
『1F 南廊下』 雪穂 対 絵里


 一階北西の角を曲がり、雪穂は廊下をひた走る。

 希が足止めをするという意図はすぐに伝わった。
 なんのために足止めをしてくれるのかということも。


雪穂(希さん、あそこでリタイアするつもりかも)

雪穂(そのつもりで私を逃がしてくれたんだ……!)


 希さんを見殺しにするのは辛い。
 だけど今大切なことはお姉ちゃんの復活。
 そう二人で話してきたんだ!

 背後を振り返っても誰も追ってこない。
 希さんが抑えてくれてるんだ。


雪穂(希さんの頑張りを絶対に無駄にしない!)


 足を緩めないまま南西の角を曲がって南側廊下に出る。
 この先にある『1F大教室』の真ん前、破壊された壁の穴付近にお姉ちゃんのリタイア位置がある。


雪穂(そこまで行けば……!)


 遠く目に映る目的地。
 その更に先、廊下の向かいの曲がり角。
 私から少しだけ遅れたタイミングで、こっちに誰かが曲がってきた。
283: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:51:25.23 ID:cDAb0TY5.net
雪穂(誰……)


 嫌な予感がして、走る足を更に急がせる。
 南側廊下の両端から、互いに駆け足で同じ場所に向かう。

 距離が近づいてきて、その鮮やかな金髪がハッキリと目に映った。


雪穂(絵里さんだ!)

雪穂(希さんを倒すんじゃなくて、私を抑えにきた!)


 一瞬胸の内が恐怖に支配される。
 けど希さんが身を挺して作ってくれたチャンスを無駄にはできない。


雪穂(急げ、急げ急げ!)


 ポケットに入れていた《復活スイッチ》を取り出して力いっぱい握る。
 絵里さんも右の巨腕を高く掲げて私に迫ってくる。

 自分から殴られに行くのは怖い。
 でも、恐怖に立ち向かうだけなら、戦う武器のない私にだってできる。
 心の底から恐れた超巨大ローラーの前にだって飛び出すことができた。


雪穂(絶対に間に合わせる!)


『1F大教室』の前後の出入り口を同時に通過する。
 壁の穴に近付いた私は、手を伸ばしてスイッチを押した。
 絵里さんもまた、巨腕を私に突き出した。
284: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:53:44.70 ID:cDAb0TY5.net
雪穂「がふっ!」


 自らぶつかりに行くような形で絵里さんの拳に殴られて、思いきり後ろに吹き飛ばされる。
 背中、頭と床に打ち付けながら後ろ向きに転がって、ようやく勢いが止まった。
 頭上の上に『7』の数字が出てきた。

 前方では絵里さんが周囲を見渡している。
 立っているのは、お姉ちゃんがリタイアした場所。
 ギリギリのタイミングだったけど、私の《復活スイッチ》が間に合っているならお姉ちゃんが復活してくれるはず。

 だけど……。


雪穂「……………………来ない……」

絵里「……私の方が早かった、のかしらね」


 ゆらりと、絵里さんの視線が倒れたままの私に向く。
 悪寒に見舞われた私は慌てて立ち上がって、すぐに背後に逃げた。


雪穂(駄目だった……駄目だった……!)


 ボタンを押す位置がリタイアした場所まで距離が遠かったのか。
 ボタンを押す前に殴られたのか。
 とにかくお姉ちゃんの復活に失敗した。

 悔しさに歯噛みしながら、今はとにかく逃げることを考える。


雪穂(今逃げ切れれば、まだチャンスが……!)


 雪穂の後方では、絵里がもうしばしの間その場で周囲を警戒していた。
 穂乃果復活の兆候がないと見做すと、若干距離の空いた雪穂の背中を追っていった。
285: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:55:21.48 ID:cDAb0TY5.net
『3F 南廊下』 雪穂 対 絵里・真姫


 復活を阻止されたことで、絵里に迫られている状況では復活させることを諦めた。


雪穂(一度完全に撒いて、改めて一階の大教室前を狙わないと……!)


 一端目的地から離れようと、南西階段から三階まで上がる。
 身を隠そうと『3F大教室』を目指した。
 しかしながら、南側廊下をしばらく走ったところで、その『3F大教室』から真姫が姿を表した。


雪穂「真姫さん……!?」

真姫「あ……見つけたわよ、雪穂ちゃん!」


 急いで逆方向に逃げようとするも、雪穂を追った絵里が南西階段から上がってきて、挟み打ちにあってしまった。


絵里「真姫、いい場所にいてくれたわ」

真姫「ええ。今度こそ完全に倒すわよ」


 戦闘手段の無い雪穂相手にも油断せず、真姫と絵里はじりじりと距離を詰める。
 間に挟まれた雪穂は、遂に命運尽きたと感じた。


雪穂(結局駄目だった……復活、できなかった……)


 涙が浮かぶのを必死に堪えて、真姫と絵里を交互に見る。

 雪穂が駆け上がり、次いで絵里が上ってきた南西階段。
 そこから三階の南側廊下へと、ことりが勢いよく呼び出してきた。
286: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:56:49.31 ID:cDAb0TY5.net
『3F 南廊下』 雪穂・ことり 対 絵里・真姫
 

ことり「ちゅんちゅんっ!」


 威勢の良いかけ声と共にことりの右手から白刃が伸びる。
 声を発したことで不意打ちとはいかず、背後のことりに気付いた絵里は慌てて防御態勢を取る。
 ことりは絵里の身を守る巨腕を一度斬りつけてから、絵里をやり過ごして雪穂の下へと付いた。


ことり「よかった、間に合った!」

雪穂「ことりさん……!」

ことり「絵里ちゃんが雪穂ちゃん追ってるのを見かけたの」


 ことりは雪穂を守るようにして、左右の廊下に立ち塞がる敵勢二人を見比べた。


真姫「自分から不利な状況に飛びこんできたわね」

ことり「雪穂ちゃんは倒させない……!」

絵里「味方の窮地に助けにくるのは格好良いけど、だからってここから逃げられるかしら?」
287: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:58:58.36 ID:cDAb0TY5.net
 勢いのままに戦場へと飛びこんだけど、打開策は無かった。
 とにかく雪穂ちゃんを守らないといけない、その一心でここまでやってきた。

 今、私たちのチームで敵と戦えるのは、私一人。
 雪穂ちゃんには、リタイアした三人のうちの誰かを復活してもらわないと……!


真姫「絵里」

絵里「ええ」


 短いやり取りで、真姫と絵里はタイミングを合わせる。
 二人は同時にことりたちへと飛びかかった。


ことり(剣は一本しかない……どっちかしか守れない!)


 雪穂を守りながら考える。
 攻撃を防ぐなら、せめて武器の威力が高い方を防がなければ。

 即断したことりは真姫へと体を向けると、斜め上段から振り下ろされた大鎌をことりソードで受け止めた。
 真姫の攻撃を防ぎながら、背後から襲ってくるであろう打撃に備えて背中に力を入れた。

 その背中に、なにかが覆い被さってくる感触があった。


ことり(なに!?)


 直後、クッション越しに感じるような衝撃を背中に受け、ことりは真姫の脇を抜けて大きく吹き飛ばされた。
288: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 21:59:53.96 ID:cDAb0TY5.net
ことり「きゃっ!」

雪穂「いった!」


 揃って絵里の拳に飛ばされた二人は、殴り飛ばされた勢いで絵里と真姫の包囲網を抜けた形となった。
 ことりは急いで立ち上がり、一緒に転がった雪穂へと目を向ける。
 雪穂の頭上には『5』の数字が灯っていた。


ことり「雪穂ちゃん……」

雪穂「私はまだ大丈夫ですから! ことりさんを守れてよかったです!」


 絵里に殴られる直前、背後に覆いかぶさってきたのが雪穂であることを悟った。
 自分の体を盾にしてことりを守ったのだろう。


ことり(……守る…………私が、雪穂ちゃんを守る!)


 チーム内で唯一残った攻撃手段を持つプレイヤーとして、ことりの自我が目覚めた。
 雪穂の前に一歩出ると、後ろ手に雪穂を背後へと押し遣った。


ことり「雪穂ちゃん、行って! 復活をお願い!」
289: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:01:50.38 ID:cDAb0TY5.net
絵里「させないわ!」


 立ちはだかることりに向かって絵里が詰め寄る。
 真っ向から迫る力任せの拳を白刃で受け止め、押し込まれる体を足を踏ん張って耐え切った。


ことり「雪穂ちゃん早く!」

雪穂「……すみません! ありがとうございます!」


 ことりが時間を稼ぐ間に雪穂が背後へと走る。
 しかし絵里も諦めず、何度もことりソードに拳を叩きつけ、どんどんことりを後方へと追いやった。


真姫「サポートするわ」


 脇から飛び出してきた真姫がことりへと大鎌の一閃を仕向けた。
 反射的に鎌を受け止めたことりは一時的に無防備となる。
 そこへことりの側頭部目がけ巨腕が迫る。
 ことりは倒れ込むように頭を下げて回避するも、その間に絵里の突破を許してしまった。


真姫「雪穂ちゃんを逃がしはしないわ」


 ことりの前に立ち、見下ろしてくる真姫の鋭い視線を受け止めながら、ことりはゆっくりと立ち上がる。


ことり(…………海未ちゃん…………私、やるよ!)


 目前の相手に対し、ことりは戦う覚悟を決めた。
290: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:04:03.75 ID:cDAb0TY5.net
『2F 南東階段』 雪穂 対 にこ・絵里


雪穂(希さんにも守ってもらった……ことりさんにも守ってもらった……)

雪穂(絶対にお姉ちゃんを復活させないと!)


 二人の先輩のお陰で私はまだリタイアしないで済んでる。
 生き残らせてもらったことを絶対に無駄にはできない。
 ことりさんが足止めしてくれているうちに、一階に急がないと。

 南東階段を急いで下りて、二階もすぐにパスして一階へと降りる。
 でもそこで、またしてもマスク姿のにこさんに道を塞がれた。


にこ「あっ、予想通りじゃないの!」

雪穂「うっそ!?」


 まるで先回りされていたみたいに、一階から上がってきたにこさんにガスを撒かれた。
 虚を突かれた攻撃に思わず後ずさる。
 ガスの突破を諦めて東廊下へと逃げた。


雪穂(頑張ればガスくらい突破するつもりだったけど、そんな生温いものじゃない)

雪穂(ちょっとしか吸い込んでないのに目が痛いし涙が止まらない!)


 立ち昇る白煙のお陰でにこさんから姿を隠せたみたいで、私を追ってはこない。
 逃げた方向を悟らせないよう頑張って咳を堪えながら、東側の廊下を急いで走った。
291: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:05:58.00 ID:cDAb0TY5.net
 雪穂に遅れて二階に下りた絵里は、にこの撒いた催涙ガスの煽りを受けて咳き込んだ。


絵里「げほっ! げほっ! にこ!?」

にこ「あ、絵里? ごめん巻き込んじゃった」

絵里「平気よ……げほっ! 雪穂ちゃんは?」

にこ「足止めできたけど、煙に隠れてどこに逃げたかわかんないわ」

絵里「このタイミングで姿が見えないなら、この階の大教室か、東廊下を曲がったか……とにかく追ってみる」

にこ「私は穂乃果のリタイアした一階に下りてみる。もしかしたらまた来るかもしれないし」

絵里「わかった。姿が表れなかったら適宜探してみてちょうだい」


 にこをその場に残し、絵里は東側廊下を走った。
 北東の角を曲がって先を見るも、北側廊下に雪穂の影はない。


絵里(小教室には遮蔽物もないし、隠れ場所としては不向きよね)

絵里(それよりは階段でどこかに移動したと見るべきか、追う廊下を間違えて大教室に向かうべきだったか……)


 若干迷いながらも、絵里は北階段の方へと急いだ。
292: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:09:27.08 ID:cDAb0TY5.net
『2F 小教室2』 雪穂


 教室前の廊下に絵里が姿を見せる。
 出入り口から見える範囲で室内を見渡した絵里は、すぐに走り去った。

 その絵里が見渡していた『2F小教室2』。
 教室前方に据えられている教卓の中に身を屈め、息を殺しながら絵里をやり過ごし、雪穂はホッと一息ついた。


雪穂(教室に踏み込まれたら逃げようがないけど、一度隠れるくらいならむしろ盲点なのかな……)


 なんとか絵里の追走を撒いたことで思考に余裕ができる。
 今後の自分の立ち回りを再考してみた。


雪穂(今、ガスに耐えて逃げるので精一杯だったけど、ちゃんと頭が回ってれば亜里沙の復活ができたのかな……)

雪穂(ただ、できるならお姉ちゃんを復活させたかったし……これでよかったかも)

雪穂(だけど敵チームの動きを見てると、多分私は警戒されてる)

雪穂(特にお姉ちゃんのリタイアした場所はガードがキツイみたい)

雪穂(それなら別の誰かを復活させるべきかもしれないけど、もう一度考え直したいな……)


 復活を急ぎ躍起になっていたが、一度落ち着いたほうがいいのかもしれない。
 幸いにして、捨て身の時間稼ぎを敢行してくれた希はまだリタイアしていない様子だった。
 指揮官である希との再合流を目指しながら、今まで通り身を隠す方が安全なように感じた。


雪穂(隠れるのは得意だし……いろんな場所を回りながら逃げてみよっと)


【雪穂HP:9→7→5】
293: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:11:28.68 ID:cDAb0TY5.net
『1F‐2F 南東階段踊り場』   対


 上から話し声が聞こえる。

 敵として対面して、別れて、それからずっと相手の後ろ姿を追い続けた。
 決定的なチャンスを狙って。
 なんとかバレずにここまで来れた。

 雪穂ちゃんが催涙ガスに阻まれたときは飛び出そうか迷ったけど、なんとか自力で乗り切れたみたい。
 今、すぐ後ろの立ち位置を取れている好機を逃したくなかったから、姿を晒さずに済んでよかった。

 階段の踊り場に潜んで、上の階からの話し声に耳を傾ける。

 あっちは二人固まっている。
 でも雪穂ちゃんの行方を巡ってまた別れるかも。
 そうなったら一対一に持っていけるチャンス。

 このままこっちに下りて来てくれれば。
 こっちに一人でやってきてくれれば……。


にこ「私は穂乃果のリタイアした一階に下りてみる。もしかしたらまた来るかもしれないし」


 階上からの声を聞いて、思わず手に力が篭る。
 きた。
 チャンスがきた。

 まだ焦っちゃダメ。
 まだ使っちゃいけない。

 話し声が止んで、一人こっちに下りてくる。
 階段の手摺りに隠れて、下りてくる足音をよく聞いて、タイミングを計る。

 ………………………………今や!

 にこっちが踊り場に下りてくる直前に、ウチはマントを操作して、不可視化の効果を発動させた。
295: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:13:42.56 ID:cDAb0TY5.net
『2F 南東階段』 にこ


 三階から下りてきた雪穂をガスで足止めして、絵里と合流した後。
 軽い相談を交わしてから絵里は雪穂を追って二階の東廊下を北上していった。
 一人になったにこは一階へ向かおうと階段に足をかけた。


にこ(雪穂ちゃんが復活させようとしてる相手って、穂乃果って決めつけていいかもね)


 一度穂乃果のリタイア位置で雪穂ちゃんを見つけたから、今度もまた来るかもって階段で待ち構えていた。
 そしたら読みがドンピシャ。
 あそこで私が喰い止めてなきゃ、穂乃果のリタイア位置に向かわれてたわね。


にこ(リタイアしない限りどうせまた復活狙ってくるでしょ)

にこ(だったら最初から待ってればいいじゃない)


 敵プレイヤーとの戦いは他の味方に任せる。
 戦いのサポートはできなくなるものの、今は穂乃果復活の阻止という役回りも必要になるだろう。


にこ(役割分担ってやつよね)

にこ(地味な仕事だけど、ま、みんなのために頑張ってあげるわ)


 踊り場に下りてUターン。
 一階廊下へと続く階段に足をかける。

 まだ残りの段数も多い中、階段の途中で背中を押された。
296: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:16:19.89 ID:cDAb0TY5.net
にこ「え」


 体を押されたにこは、勢いのままに残り数段分を飛び降りる形となった。
 高い位置から前のめりに落ち、全身と顔面を廊下にしたたかに打ち付けた。


にこ「がっは……! なんなの……ぐえっ!」


 文句の台詞も途絶える。
 うつ伏せとなっていたにこの背後に何者かが跨り、後頭部を思いきり押さえられた。


にこ「ちょっ、なによ!? 誰!?」

希「ウチやで、にこっち」

にこ「希!?」


 突然の事態に困惑するしかない。
 階段には誰もいなかったはずなのに、当たり前のように希がいる……!


にこ「いつからいたのよ!?」

希「そうやね。ずーっと後ろの方におったよ。にこっちが煙幕張ってどこかに消えたときからずっとね」

希「でもにこっちの真後ろについたのは、十秒前から、かな」

にこ「あれからずっと、後をつけてたってこと……!」


 にこは思わず歯噛みした。
 ここにきて、希の策略と不可視化に騙し打ちを喰らってしまった。
297: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:18:16.71 ID:cDAb0TY5.net
『1F 南東階段』 希 対 にこ


 希に組み敷かれたにこは当然のように抵抗した。
 しかし体格差のある相手に背に乗られると、思うように体を動かせない。


にこ「離しなさいよっ!」

希「動き封じながら『仮想ボタン』押し続けるんはやっぱり難しそうやね……!」

にこ「ったりまえでしょ! 私だって何回も失敗してるんだから、そう簡単にはさせないわよ!」

希「わかっとるよ、簡単にはやらへん」


 にこの背に跨った希は、にこが背負っていた武器のボンベも一緒に脚の間に挟んでいた。
 そこに手を伸ばして、ガス噴出用のチューブを取り上げた。


希「にこっち、一緒に苦しもうや!」

にこ「ちょっ……」


 床に伏せられたにこの眼前にチューブの噴出口が向けられる。
 被っていたガスマスクを無理やり剥がされた。


にこ「誰かっ」


 思いきり声を上げる前に。
 希が短くガスを噴出させ、自身共々白煙の中に包まれた。
298: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:19:37.84 ID:cDAb0TY5.net
にこ「げっほ! げぇっほっ!」

希「えほっ! うぇっふ!」


 二人して催涙ガスに包まれ、双方共に悶え苦しむ。
 希に組み敷かれたにこは抵抗力を無くし、助けを呼ぶ声を上げることさえできなくなった。


にこ(自分諸共ガスを浴びるなんて……これが希の覚悟なの……!)


 自らガスを浴びた希も目を瞑りながら咳に苦しんでいたが、それでも組み敷いたにこの体は押さえ続けていた。


希(今や……今のうちに……!)


 視界を閉ざしたまま闇雲に右手を動かす。
 特徴的なツインテールの片方が手に触れて、そこを辿ってにこの後頭部に手を這わせた。


希(見つけたっ……!)


 にこの顔面を床に擦りつけるように後頭部を押し付ける。
 手応えと共に、何かのボタンが押された感触を二人同時に感じ取った。
299: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:21:57.66 ID:cDAb0TY5.net
 ……完全に体が動かない。
 ガスを浴びて苦しくて力が入らない。
 頭も背中も体重をかけて押さえられてる。


にこ(ボタン……押されてる……マズイ……)


 目の痛みが和らいできて、薄らと目を開けられるようになる。
 ぼんやりとしたにこの視界には、半透明の『8』の数字が灯っていた。


にこ「もがっ!?」


 希は『仮想ボタン』を押し込みながら、左腕をにこの口元に回して声を上げさせないようにした。


にこ「んぐー! んんーっ!」

希「はーいもうちょっと黙っとってねえ!」


 体をピッタリくっつけて体重をかけられ、頭は動かせそうにない。
 両腕は比較的自由に動かせるものの、這いつくばった体勢で希を引き剥がすのは相当苦しい。


にこ(そっか……押さえつけるのって、こうやるべきだったんだ)


 窮地に陥りながら、どこか冷静な思考でそんなことを考えていた。


にこ(……逃げられないかも、ね)
300: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:24:55.84 ID:cDAb0TY5.net
希「にこっち。悪く思わんといてね」


 頭の後ろから声が降ってくる。


にこ(……なーに今更言ってんのよ)


 階段から突き落とすとか、ガス浴びせて抵抗力奪うとか。
 そこまでするくらいに本気だったってことでしょ。


にこ(戦いだもの、手段なんて選んでられない)

にこ(だから……場合によったら、負けることだってある)


 無駄な抵抗とわかっていた両腕の足掻きを止めて、力を抜いた。
 最後は静かに時を迎える。
 私の命を刻む数字が『0』を刻んで、表示が消えた。

『仮想ボタン』によるカウントダウンが終わったのを確認して、希が私の上から体を浮かせた。
 同時に私の体中から靄が湧いて、意識が遠のいてきた。

 言いたいことがあるなら今のうち。
 私は首を回して頭上の希を見上げた。


にこ「そこまで本気なら、ちゃんと海未のこと労わってやれるよう頑張りなさい」

希「……うん」


 情けない顔しちゃって。
 私を倒したんだからもっと胸張りなさいよ。


にこ(つまんないエール送っちゃった……らしくないわねえ……ふふ)
301: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:26:01.34 ID:cDAb0TY5.net
希「…………ふう」


 にこっちの体が靄になって消えた。
 ウチはようやく緊張感を解いて、ゆっくりと立ち上がった。


【『チームライブ強行』矢澤にこ  リタイア】


 アナウンスが流れ、ウィンドウが開かれる。

 ウィンドウを操作して、プレイヤー状況を確認してみた。
 にこっちのところにバツマークがついてる。


希(やった……やっと一人倒した……)


 こっちは三人倒されてからの、ようやくの一人目。
 遅すぎるのかどうかはわからないけど。
 反撃の狼煙代わりになったらいいね。


希(威力がなくても使い様、やんな)


 武器であるマントを軽く叩いて感謝する。
 これのお陰でウチも随分戦えてる気がする。
 このままなんとか頑張って、チームの勝利を勝ち取りたいね。


希(にこっちにもああ言われちゃったから……尚更頑張らへんと)
303: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:28:42.50 ID:cDAb0TY5.net
 一仕事終え、腰に手を当ててひと段落。
 相手を倒した余韻に軽く浸りながら次の手を考える。


希(さてさて…………これからどないしよ)


 ゴドン、と。

 階上。
 すぐそこ。
 南東階段踊り場。

 重々しい嫌な音が聞こえた。


希(この距離はマズイ……)


 危機感を募らせながらも、どうしても音の出処を確認してしまう。

 見上げた階上から、ローラーがゴリゴリと音を立て、階段を下りてきていた。


花陽「……希ちゃん…………見つけた」


【にこHP:2→0(仮想ボタン)  リタイア】
304: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/25(火) 22:29:48.40 ID:cDAb0TY5.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り3名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・東條希   HP3  10秒透明マント/威力0
・高坂雪穂  HP5  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り3名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2
・小泉花陽  HP2  巨大ローラー/威力10


【イレギュラー】 残り1名/1名

・園田海未  HP10  武器無効化グローブ/威力0


――――――――――
331: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:26:49.11 ID:lbOSiKFm.net
―――

『3F 南廊下』 ことり 対 真姫


真姫「はっ!」

ことり「たあっ!」


 雪穂と絵里が去り、一対一となったことりと真姫。
 互いに相手を倒すべく剣戟を重ねていた。

 終始有利なのは真姫。
 先手を取り、ことりを押し込んでいる。

 しかし本戦開始直後に同じ組み合わせで戦った際のような一方的な戦いとは違う。
 ことりもまた右手から伸びる剣を自在に操り、後れを取ることなく渡り合っていた。


真姫「さっさとっ……やられちゃいな、さいっ!」

ことり「いや、だよっ!」


 短い言葉の応酬を繰り返しながら刃を交える。
 剣も、語気も、ことりは真姫に引けを取らなかった。
332: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:28:34.41 ID:lbOSiKFm.net
真姫「しぶとい…………エキシビジョンのときみたいに、静かにしていればよかったものを!」

ことり「あのときはただ怖かった……でも今は違う!」

真姫「なによ、海未に力でも貰ったとでも言うの!?」

ことり「そうだよ!」

真姫「……ふん、減らず口を!」


 大振りの真姫の攻撃は、今のことりには簡単に避けられてしまう。
 更には大振りな分生じた隙を見逃さずことりは反撃する。
 すんでのところで白刃を躱した。


真姫「この先、例え海未がことりの仲間になったとしても、だからってそっちの意見が優先され

るわけじゃないから」

ことり「わかってる。ゲームの結果で私たちの今後を決めるんだもん」

真姫「理解してるならいいわ」

ことり「真姫ちゃんの言うことは、私にとっても同じことだよ」

ことり「もし海未ちゃんが敵になっても、私は自分の意思で海未ちゃんと戦う」

ことり「だから……海未ちゃんの気持ちがどっちに決まるかわかるまで、私は負けられない!」


 今度はことりの感情に任せた大振りの攻撃が真姫に飛ぶ。
 避けるのは容易だが、勢いのために気圧されてしまう。
 気概に負けるようではいけないと自ら叱責して、真姫は己を奮い立たせた。
333: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:30:27.45 ID:lbOSiKFm.net
真姫(……少しずつだけど、強くなってる)

真姫(予想していた通り、覚悟を決めたことりは、ゲーム内での動きが格段に良くなってきてる)


 一度鎌を振るえば、ことりはただ闇雲に避けるのではなく、ちゃんと攻撃を見切って体を避け

る。
 そしてすぐに私に向かって剣を振り返してくる。
 太刀筋は鋭く、生半可な気持ちでは対応できない。


真姫(やっぱり、ことりは脅威になった……)


 穂乃果と同じく、ライブ中止を一向に取り下げなかったことり。
 穂乃果と違って言い争いの際の態度そのものは柔らかくとも。
 己の意見を譲らないという意思は誰よりも揺るぎないものだった。

 少しずつだけど、ゲームを通じて着実に力をつけてきた。
 このままだともっと大きな脅威になるかもしれない。

 だけどそれは許されない。
 私たちが勝つために。


真姫「……ここで倒れなさいことり!」

ことり「嫌だよ!」

真姫「力ずくで倒す!」
334: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:32:44.72 ID:lbOSiKFm.net
ことり(真姫ちゃんの攻撃が激しくなってきた……)


 今までよりはちゃんと防げてるけど、それでもまだ真姫ちゃんに押されることが多い。
 上下左右から繰り出される大鎌に防戦一方になる。

 だけど、もう守ってるだけの私じゃない。
 ゲームに勝つために。
 海未ちゃんを守るために。


ことり「……私、負けない……私が真姫ちゃんを倒す!」

真姫「やってみなさい!」


 力比べと言わんばかりに真上から振り下ろされる鎌を白刃で受け止めた。
 真姫もことりも歯を食いしばりながら自身の武器を押し合った。

 剣の角度をことりがズラし、鎌の軌道を逸らして受け流す。
 腕の下がった真姫に向かって剣を横に薙いだ。

 真姫は体を反らしてことりの攻撃を回避。
 低い姿勢のまま床を滑り、移動しながらことりの足を狙って鎌を振るう。


ことり「やあっ!」


 鎌が迫るのに合わせてことりは高く跳んだ。
 スカートを翻し、足元を狙う攻撃を躍動感ある動きで躱してみせた。
335: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:34:44.82 ID:lbOSiKFm.net
 着地すると同時にことりは真姫へと迫る。
 床を這う真姫も直ちに立ち上がり、ことりを迎撃。
 ぶつかり合う刃が音を立てた。


ことり「負けない……負けない!」

真姫「私だって負けないわ!」

ことり「海未ちゃんのために勝つの!」

真姫「ライブは譲れない!」

ことり「海未ちゃあん!」


 ことりは一度剣を引くと、真姫の顔面に向かって切っ先を突きだす。
 これまで無かった突きの攻撃に思わず真姫は身を退き、必要以上に体を大きく倒して避けた。
 体の崩れた真姫に向かってことりは大きく踏み込み、真上から叩き切った。


真姫「っ、このっ!」


 大鎌の柄の部分でことりの剣を受け止めるが、崩れた体勢のまま上体を押し込まれ、真姫の体

は床に倒れた。
 容赦なく振り下ろされる追撃を柄で防ぎながら、転がって距離を取る。
 即座にことりが追うが、牽制で大きく振られた鎌の軌道に一歩足を止める。
 その間に立ち上がった真姫に向かって、ことりは突進した。


ことり「海未ちゃああああん!」
336: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:36:51.14 ID:lbOSiKFm.net
真姫「海未海未ばかり言って……ここに、海未は、いないっ!」


 振り下ろされたことりの剣を、真姫は横合いから叩いて大きく軌道をズラした。
 一度攻撃を阻まれたことりは構わず第二撃を振るう。
 しかしわかりやすい軌道で白刃が迫ったがために、完全に動きを読まれた。


真姫「甘い!」

ことり「あっ!?」


 迫ることりソードに向かって真姫は左手を伸ばすと、攻撃をしかけようとすることりの右手首

を掴んだ。
 真姫の首元へ触れそうだった白刃の動きがピタリと止まる。


真姫「捕まえた……!」

ことり「離してっ!」

真姫「離すと思う?」


 ことりの目を間近から覗き込みながら、真姫は強気の笑みを見せつける。
 左手でことりソードを掴みながら、右手に持つ大鎌を敵の胴体目がけて振るった。
337: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:39:05.62 ID:lbOSiKFm.net
 左側から真姫ちゃんの大鎌が迫ってくる。
 右手の剣は捕まれていて、このままだと防げない。


ことり(海未ちゃん……)


 私たちの言うことと、真姫ちゃんたちが言うこと。
 どっちか本当に海未ちゃんのためになるのか、今は正直わからない。
 だってどっちも海未ちゃんのことを思っているのは確かなことだから。

 でも今は、私がしたいと願うことを貫きたいの。
 海未ちゃんを支えられなかった私が、今度こそ海未ちゃんを支えられるように。
 今まで海未ちゃんに助けられてきたばかりの私が、今度は海未ちゃんを助けられるように。

 負けたくない。
 負けたら、海未ちゃんを思うこの気持ちが負けたように感じてしまうから。

 海未ちゃんを思うこの気持ちはだけは絶対に負けない。
 誰にも負けない。


ことり「……………………ゅん」


 海未ちゃんみたいに強くなりたい。
 海未ちゃんみたいに、絶対に気持ちでは負けない人になりたい。


ことり(海未ちゃん……)


 海未ちゃんを思う気持ちが、精一杯のかけ声に入り交ざった。


ことり「海未ちゅんちゅーーーーーーんっ!」
338: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:40:54.88 ID:lbOSiKFm.net
 ことりの右腕を掴み取り、がら空きとなった左半身に向けて振るった大鎌。
 黒い刃が腰付近に迫ったところで、それ以上は進まなかった。

 真姫は大きく目を開く。
 振るった大鎌は、長く伸びる白刃によって、それ以上の進行を阻まれていた。


真姫「…………こと、りぃ……!」


 真姫の左手に捕まれることりの右手。
 そこから伸びる白刃は動きを封じられたまま。

 その逆側、空いていたことりの左手。
 右手と同じように、左手の先から、二本目のことりソードが出現していた。


ことり「……負けない」


 着弾を確信していたのに、阻まれた。
 怒りさえ込められているかのような真姫の瞳がことりを射抜く。

 突き刺さりそうな鋭い視線を至近距離で受け止めながら、ことりはもまた一歩も退かずに睨み

返した。


ことり「私は、海未ちゃんのために、絶対負けない!」


 ことりの左手から伸びる白刃が、真姫の大鎌を大きく弾いた。
339: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:42:47.32 ID:lbOSiKFm.net
 ことりは左手を振るうと、自身の右手を掴んでいる真姫の手を狙う。
 思わず真姫は手を離し、二歩三歩と後退した。


真姫「……ここにきて、二刀流だなんて」


 ことりの両手の先から一本ずつ白刃が伸びている。
 今際の瞬間、高まったことりの感情が、武器の性能を更に引き出したのかもしれない。


真姫(こんな変化、他のメンバーじゃ見られなかった)

真姫(やっぱりことりは侮れない……!)


 どう対応すべきか考えている間にことりの方から迫ってくる。
 二倍となった攻撃頻度は大鎌一本では即応できない。
 特に、これまで配慮していなかった左手の白刃が厄介だった。


真姫「くっ…………ああもうっ!」


 押し込まれる流れを一度断ち切るために、隙を見て鎌を振るう。
 当然のようにことりには命中しないが、流れが途切れたことで大きく距離を取ることができた



 ことりとの戦いにおいて、初めて自分から距離を取った。
 突然の状況の変化に気圧される。

 苦しい立場に置かれた真姫の下へ、更なる凶報が届いた。


【『チームライブ強行』矢澤にこ  リタイア】
340: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:44:43.24 ID:lbOSiKFm.net
真姫「!? にこちゃん……」

ことり「にこちゃん……」


 初めて真姫たちのチームからリタイアしたプレイヤーが出た。
 真姫の心理にかかるプレッシャーが更に加重される。

 破裂しそうな感情を歯軋りして耐えながら、苦渋の決断を下した。


真姫「……一旦、退くわ」

ことり「もうゲームも大分進んできてるのに、戦わなくていいの?」

真姫「対処案を練るだけよ。いきなりことりの戦い方が変わったのに、無策のまま挑めない」

ことり「……私、真姫ちゃん相手でも、戦えるくらいにはなったんだね」

真姫「今更なに言ってるのよ。……次こそ、決着をつけるわ」


 捨て台詞を最後に、真姫は背を見せて駆け出した。

 遠のく背を見送りながら、ことりは静かに両手を下ろす。
 先端から姿を消していく二本の白刃を見つめながら、内心呟いた。


ことり(海未ちゃん…………私、頑張れたよ)
341: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:48:10.10 ID:lbOSiKFm.net
―――

『1F 西廊下』 希 対 花陽


 にこっちを倒した直後に遭遇した花陽ちゃんから追われている。
 すぐ背後、数メートルと距離もないところまで迫られて、後ろを振り向く余裕もない。


花陽「希ちゃん潰されて!」

希「そんなお願い聞けるわけないやん!」


 ツッコミ一つ返すのにも命懸けで、すぐ後ろから聞こえるローラーの地鳴り音が怖すぎて仕方

がない。
 一階廊下を逆時計回りに走りながら逃げて、角を曲がって南廊下を東へと駆ける。

 にこっちを騙すために使ったマントの不可視化もそろそろ使えるはず。
 ローラーと距離を詰められたまま敵に挟まれる前に、どうにかして花陽ちゃんを撒かないと。


希「花陽ちゃん! 選択問題やで!」

花陽「! また……!」

希「ウチはどっちに逃げるでしょう!」


 一度えりちと花陽ちゃんを同時に撒いたときみたいに、一階南東階段付近で謎々を仕掛ける。
 マントを羽織って不可視化を発動。
 右手の二階へと通じる南東階段、左手の東側廊下、二択問題を突きつけた。
342: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:50:32.76 ID:lbOSiKFm.net
花陽「…………こっち!」


 当て勘のまま花陽ちゃんは一階の廊下を左に曲がっていく。
 その後ろ姿を確認しながら、ウチは今日の幸運に感謝。
 階段を上がって二階へと向かった。


希(危なかったわ……完全に五割の勝負やった……)

希(あの距離やったらもう一分は逃げられへんかったかも)


 ホッと胸を撫で下ろして二階に上がる。
 だけどそこでもまた敵と遭遇してしまった。


希(ちょっ……えりち!?)


 階段を上がった先の曲がり角をえりちが通りかかっていた。
 ギリギリ不可視化が効いていたみたいで、まだバレてない。
 このまま背後を取ろうかと考えたけど、えりちの武器を思い出して即座にその案を放棄。


希(えりちの腕を抑えながら頭のボタン押すんは至難の技やん……)


 えりちを無視して三階へと逃げる。
 そこで不可視化が途絶えて、ウチの気配がえりちに気付かれた。


絵里「!? 希!? いつの間に!」

希「もうちょっと距離取りたかったわ……!」


 愚痴っても仕方なく、今度はえりちに追われることになった。
343: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:52:25.36 ID:lbOSiKFm.net
『3F 東廊下』 希 対 絵里


絵里「待ちなさいよ! ここまできて戦わないなんて無意味だわ!」

希「ウチは逃げながら戦うんが戦略なん!」


 軽口を飛ばし合いながらも全力で廊下を走る。
 今度もそう距離は開いていない。
 加えてえりちの身体能力を考えると、さっきよりも油断ならない状況かもしれない。

 廊下の先の角を曲がる。
 ブン、という風切り音が背後から聞こえた。
 既にえりちが巨腕を振るくらいには迫られてるのかもしれない。


希「ちょっとくらい遠慮してくれてもええんよ!?」

絵里「希はそういうちょっとした隙を突いてくるから侮れないのよ!」


 ブォン、と、また風切り音。
 心なしか背中になにか掠った気がした。


希「見逃してくれたらワシワシMAXしてあげるからー!」

絵里「それご褒美じゃないでしょ!」

希「じゃあウチの愛の篭ったチュウしてあげるからー!」

絵里「その前に私の愛が篭った拳を受け取りなさい!」

希「いけずー!」
345: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:54:13.36 ID:lbOSiKFm.net
希(あ……)


 ふと、背後から悪寒が走った。

 別にスピリチュアルとかそういうんやない。
 単に、えりちの足音が一歩だけ強く響いただけ。

 走りながら、予感だけを頼りに体を丸めた。
 当然走る速度は落ちるから、このままだと追いつかれる。

 だけどそのタイミングで、えりちもウチに向かって飛びかかってきていた。
 跳躍して、大きく腕を伸ばして、ウチの背中を殴ろうとしていた。

 体を丸めていたから巨腕が空を切った。
 えりちはその場で数歩たたらを踏んで、その間にウチは再び走り出す。
 また少し距離を広げることができた。


絵里「惜しい!」

希「あぶな……」


 繰り返される追いかけっこ。
 せやけど頑張って逃げたから、もう一度リセットをかけられる。


希「じゃあねえりち!」


 背後のえりちにウインクしてみせてから、ウチはマントを纏って、不可視化を発動させた。
346: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:57:19.88 ID:lbOSiKFm.net
絵里「また……っ!」


 三階をちょうど一周して、南東階段前に来たところで希が姿を消した。
 左の廊下を曲がったか、右の階段を下りたか。
 絵里は試される。


絵里「わかんない……勘よ勘!」


 絵里は直感のままに東側廊下へと曲がり、駆け足で走っていった。

 希が取った経路は、階段を移動するのではなく、廊下を曲がるのでもない。
 姿を消した瞬間希は反転して、絵里の真横を通って元来た南側廊下を逆走した。
 不可視化する十秒間のうちに南側廊下に面する『3F大教室』へと入り、そこから顔を出して

様子を伺っていた。


希(ようし……逃げるの成功や)


 長居には向かないとみて、早々に希は移動。
 南西階段を下りて一階へと急いだ。
347: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 21:59:07.58 ID:lbOSiKFm.net
『1F 南西階段前』 希 対 花陽


 南西階段から一階に降りた希。
 正面に見える西側廊下には誰もいない。
 角に隠れつつ、顔をひょっこり覗かせて南側廊下を確認した。


花陽「あ! いた!」

希「わっ!?」


 チラッと覗いただけのつもりが、南側廊下でローラーを転がしていた花陽と目がバッチリ合っ

てしまった。
 慌てて階段へと引き返し、階上へと急ぐ。
 二階に上がったところで、階段からゴリゴリとした硬質な音が聞こえてきた。


希(いい加減走りすぎてる……ちょっと休まへんと……)


 スタミナが消費されにくいゲーム環境でも、全力で走り続ければ消耗はする。
 逃げるためというより休む時間を得ようと考え、遮蔽物のある『2F大教室』へと向かった。
 大教室ならばイタチごっこになったとしても、遮蔽物越しに休めるかもしれない。

『2F大教室』へと飛び込んだ希。
 出入り口付近から室内を見て、息を呑んだ。

 後方からは階段を上がってきた花陽のローラー音が聞こえてくる。
 希は悟ったかのように、口元に薄らと笑みを浮かべた。


希「……潮時、やね」
348: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 22:02:28.78 ID:lbOSiKFm.net
 希が入っていった『2F大教室』に、遅れて花陽も追いつく。
 中を覗くと、出入り口から真っ直ぐ進んだ窓際で、希が悠然とした佇まいをしていた。


花陽(追いついた!)


 作業机に姿を隠す時間もなく、マントの不可視化も使えないのかもしれない。
 迷わず希に向かって突進した。

 迫る希の姿。
 微笑を顔に残したまま、これ以上逃げる気配はない。

 ローラーが希を轢く間際。
 地鳴り音に掻き消されてしまったが、希の口の動きで、なんと言っているのか伝わってきた。


希「バイバイ」


 全力で押し込んだローラーは、勢いのままに窓側の壁に衝突した。
 衝撃で大教室内が揺れ、窓ガラスが数枚割れる。

 窓際に立っていた希は一瞬でローラーに轢き潰され、全身を靄と化した。
 ローラーの下から微かに靄が湧き上がった。

 走った疲労からの解放、そして敵プレイヤーを倒したことで、花陽は大きく息を吐いた。
 衝突した影響でヒビの入った壁を見つめながら感慨に浸る。


花陽(やっと、敵チームの指揮官を……希ちゃんを倒すことができた……)
349: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 22:04:29.86 ID:lbOSiKFm.net
ことり「ちゅんちゅん」


 ヴン、と。
 電子音のような、形容しがたい音が鳴った。

 花陽の身がビクンと跳ねる。
 脇腹に覚えた違和感が、花陽の体を硬直させた。

 体の違和感に耐えながら、恐る恐る、背後を振り向く。


花陽「…………なん、で……」


 室内にいる気配など全く感じられなかったことりが、花陽の真後ろに立っていた。

 花陽は視線を下ろしていく。
 体に覚えた違和感の正体に気付く。
 ことりの右手から伸びた白刃が、花陽の脇腹に突き刺さっていた。

 再度視線を上げる。
 攻撃をしながらも、どこか悲しそうにしていることりの表情があった。
350: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 22:06:22.19 ID:lbOSiKFm.net
『2F 大教室』 希・ことり 


 花陽に追われ、『2F大教室』に飛び込んだ希。
 そこで室内に人影があることに気が付いた。

 敵プレイヤーだったらマズイ。
 瞬間そう思うも、相手と目が合い、その正体に安堵した。


ことり「希ちゃん?」


 切羽詰まった表情をしている希が突然表れ、ことりは困惑しているようだった。

 希は背後から追ってくる花陽のことを考えた。
 遭遇したなら逃げるしかない超巨大ローラーをいい加減倒さなければならない。
 そのためにはどう考えても無傷とはいかず、なにかを捨てる必要がある。
 そしてなにを優先すべきかはわかりきっている。


希「……潮時、やね」


 確実に敵プレイヤーを倒せる方法を選ぶ。
 その説明をしている時間はない。


希「ことりちゃんこっちきて」


 希の方へと近づいてきたことりの手を取ると、急いで窓際の方へと連れていく。
 そして、自身の武器である《10秒透明マント》を、ことりの肩にかけた。
351: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 22:08:24.33 ID:lbOSiKFm.net
ことり「えっ、なに? どうしたの?」

希「ことりちゃん今から言うことよーく聞いてな?」


 希はニッコリと笑って見せる。
 ことりの不安を拭ってあげようとする笑顔だった。


希「もうすぐ花陽ちゃんがウチを追ってここにくる」

ことり「えっ!?」

希「でもここにことりちゃんがおることは気付いてない。せやからマント使って隠れてて」

希「花陽ちゃんがウチを倒して油断したら、花陽ちゃんにトドメ刺してね」

ことり「それって、希ちゃんは、」

希「時間がないんよ。ごめんね」


 ことりの言葉を無視して、マントの不可視化を起動させる。
 希の目の前からことりの姿が消えた。
 なるほどみんなからはこう見えていたのかと、初めて不可視化を目の当たりにするのは面白か

った。

 花陽の超巨大ローラーが大教室前まで迫ってくるのが地鳴り音でわかった。
 希は姿の見えないことりを軽く押して、自分から遠のかせた。


希「後は頼むね」


 直後、室内に入ってきたローラーが希へと突進してきた。
352: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 22:12:58.77 ID:lbOSiKFm.net
『2F 大教室』 ことり 対 花陽


 突然現れたことりちゃん。
 ことりちゃんはリタイアしないのに、その肩口のあたりから、ほんの少しだけ靄が浮いた気が

した。

 希ちゃんの武器のことを考えたら、なにが起こったのかなんとなくわかった。


花陽「そっか……」


 希ちゃんを轢いたときに出たように、私の体からも靄が出てきた。
 リタイアするんだな、って思った。
 残念だったけど、あまり悔しいっていう気持ちは感じなかった。


花陽(ゲームの中だけは、誰にも気持ちで負けないつもりだったんだけどなあ……)


 普段は気持ちを表に出すのが苦手だけど。
 今だけは思いきりやってみようと、気持ちに素直になって、心の鬼にして戦い続けてきた。

 好きなことを好きだって思う気持ちはみんなにも負けないから。
 どうしてもやりたいことがあったから。


花陽(でも……負けちゃった)


 私が誰にも負けないって思っていたように。
 ことりちゃんも、きっと同じように思っていたんだよね。


花陽(終わっちゃったけど……これでもう、みんなと喧嘩しなくていいんだね……)
353: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 22:15:04.98 ID:lbOSiKFm.net
 私に武器を突き刺していることりちゃん。
 攻撃した側なのに、悲しそうな顔をしている。


花陽「いいんだよ、ことりちゃん。勝負なんだもん」

ことり「……ごめんね」


 私を倒したことを、本当に申し訳なさそうにしていた。

 いつもはことりちゃんのことを、優しいお姉ちゃんみたいだなって感じることがあったけど。
 今だけ、姉妹の立場が逆転したみたいで、ちょっとだけ微笑ましくなった。


花陽「ことりちゃん、頑張ってね」


 自然とエールを口にしていた。

 敵チームだけど。
 私を倒した相手だけど。


花陽(ことりちゃんが一生懸命なのは、私もわかってるつもりだから……)
354: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 22:17:20.46 ID:lbOSiKFm.net
 花陽の姿がフィールドから消えた。
 立て続けに二名のプレイヤーがこの場から去った後、ことり一人だけが残された。

 自身の攻撃で敵を倒した罪悪感と、チームプレイヤーから託された命が、ことりの両肩に重く

圧し掛かった。


ことり(…………希ちゃん…………花陽ちゃん…………)

ことり(……私、頑張るから)


【希 HP:3→0  リタイア
 花陽HP:2→0  リタイア】
355: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/28(金) 22:18:53.96 ID:lbOSiKFm.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り2名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂雪穂  HP5  復活スイッチ/威力0


【チームライブ強行】 残り2名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2


【イレギュラー】 残り1名/1名

・園田海未  HP10  武器無効化グローブ/威力0


――――――――――
376: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:15:12.64 ID:+M7cfADm.net
―――

『3F 小教室1』 雪穂


雪穂「嘘……」


 物陰に隠れていた私は、流れたアナウンスを耳にして息を呑んだ。

 希さんがリタイアした。
《復活スイッチ》を使用するために包囲網をどう突破するか、相談する相手がいなくなってしまった。


雪穂(希さんはもういない……これからどうするか、決めてくれる人はもういない……)

雪穂(……私が……私が決めないと)


 意を決して、身を潜めていた教卓から姿を表す。
 希さんがいなくなった今、私は自分で仲間を復活させる道筋を見つけなきゃいけない。


雪穂(相談してる余裕なんてない……行かなきゃ……決めなきゃ)

雪穂(……待ってて、お姉ちゃん!)


 出入り口から顔を出して、左右に誰もいないことを確かめると、北階段に向かって急いで走った。
377: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:17:26.11 ID:+M7cfADm.net
 北階段を経由して一階に向かって下りる。
 今までの傾向からすると、私がお姉ちゃんの復活を狙ってることは多分敵チームにもバレてる。
 だから、目的地である一階の南廊下、『1F大教室』の前に近付く程に包囲網は厳しくなっていくかもしれない。


雪穂(また、敵に見つかるかもしれない)

雪穂(だけどもう希さんもいないし、次またことりさんに助けてもらえるかなんてわからない)

雪穂(……お姉ちゃんは、私を助けてくれた。今度は私がお姉ちゃんのために頑張る!)


 階段を下りて、北階段の角から左右を見渡した。


雪穂(……! 絵里さん!)


 多少距離はあるけど、右側から絵里さんがこっちに向かって歩いてきていた。
 角から顔を出していた私と、しっかりと視線が合う。

 こっちに向かって走り出した絵里さんを見て、階段を上がって逃げようかと考えた。

 でも、違う。
 目的は逃げることじゃない。
 お姉ちゃんを復活させることなんだ!

 私は意を決して、左手の廊下に飛び出し、全力で走った。
378: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:18:59.95 ID:+M7cfADm.net
『1F 北廊下』 雪穂 対 絵里


 雪穂の背を追う絵里は、読みが的中したことに内心頷いていた。


絵里(狙い通り……)


 希がリタイアして、敵チームのプレイヤー人数は残り二人となった。
 同時に花陽のリタイアもコールされたときは焦ったけど、それでもまだ二対二。
 顔ぶれを考えれば、こちらの優位は揺るがない。

 現状で注意すべきことは、雪穂ちゃんの武器《復活スイッチ》の存在。
 誰を復活させるかにもよるけれど、復活させられて一番厄介な相手は、間違いなく穂乃果だった。

『1F大教室』で繰り広げた大激戦。
 私と真姫と花陽、三人を同時に相手取った脅威と、再び相見えたくはない。
 だから穂乃果復活を阻止する目的で、私は一階の見回りを行っていた。


絵里(大丈夫、追いつける。相手は三つも年下の子なんだから)


 多少開いている距離も、一階を半周するまでには追いついてみせる。
 私は自分の腕と連動した巨腕を大きく振って走りながら、前方の敵に狙いをつけた。
379: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:20:51.11 ID:+M7cfADm.net
雪穂「はっ! はっ! はっ!」

絵里「ふっ…………ふっ…………」


 後ろから絵里さんの息遣いが聞こえる。

 やっぱり追いつかれてきてる。
 普段からスクールアイドルの練習してる人たちはみんな体動きすぎだよ。
 こっちは最近勉強ばかりで体動かしてないんだから、もっと手加減してほしい。

 内心で愚痴を吐きながら時計回りに一階廊下を走り、角を曲がって南側廊下に出る。
 この長い廊下の中央には『1F大教室』が、お姉ちゃんがリタイアした場所がある。


雪穂(そこまで逃げ切ることができれば……!)


 情報を再確認する。
 私のHPは残り『5』で、絵里さんの武器の威力は『2』。
 あと二回までなら殴られても平気だって余裕が少しだけ気分を楽にした。
 追いつかれて殴られても、あそこにさえ着けばいいんだ。


雪穂(お姉ちゃん……お姉ちゃん……!)


 攻撃を受ける覚悟はしていたけど、絵里さんから攻撃を受けないまま、『1F大教室』が近づいてくる。
 壁に空いた大きな穴が見えてきた。


雪穂(お姉ちゃん!)


 ポケットから《復活スイッチ》を取り出して、ボタンに指を添えた。

 目的地を目前にしたところで、背中に大きな衝撃を受けた。
380: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:23:11.47 ID:+M7cfADm.net
雪穂「ぐっは! ぅえっ!」


 背中に受けた衝撃に押されて、私の体は大きく吹き飛んだ。
 目指していた壁の大穴付近をあっという間に飛び越えていく。

 飛ばされて床に転がった私だったけど、慌てて立ち上がった。
 肺から飛び出した酸素を求めて軽く咳き込む。
 頭上には『3』の数字が表示されていた。

 目指していた目的地、『1F大教室』前を大きく通り越していた。
 いや、無理やり跳び越させられた。


絵里「攻撃するタイミングさえ間違えなければ、すぐに体勢を整えられても安心ね」

雪穂「くっそぅ……」


 一度くらい殴られたって、すぐに起き上ってお姉ちゃんのリタイア地点を目指せばいいと思ってた。
 でも絵里さんは、私がちょうど目的地に近付いたところで攻撃してきた。
 そうすれば今みたいに、ちょうどリタイア位置を飛び越える形で私を吹き飛ばせるから。


雪穂(こんなことまで考えてたんだ……)


 お姉ちゃんの前の代の音ノ木坂生徒会長が垣間見せた聡明さが、今は悔しかった。
382: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:24:47.31 ID:+M7cfADm.net
 体勢を立て直した私と、お姉ちゃんのリタイア地点で周囲の様子を伺っていた絵里さんとの追いかけっこが再開される。
 殴り飛ばされたことでまた距離は開いたけど、このままもう一周回ったところで絶対追いつかれる。
 だからと行って無闇に絵里さんの横を通り過ぎようとしてもさせてくれないはず。


雪穂(どうしよう……どうしよう!?)


 次はもう、一周回りきる前には完全に追いつかれる。
 仮に一周回るまで粘って、またリタイア地点に近付いたところで、今度も後ろから殴り飛ばされたらお終いだ。
 

雪穂(このままじゃ駄目なんだ……)


 焦りと混乱で早くも息が苦しくなる。
 背後から迫ってくる絵里さんのプレッシャーが怖い。


雪穂(誰か…………希さん……ことりさん…………お姉ちゃん…………)


 助けを祈っても、既にリタイアしている仲間もいる。
 どこかで他の敵プレイヤーと戦ってる仲間だっているかもしれない。


雪穂(…………誰か、じゃない。私が……)

雪穂(私が、なんとかしないと!)
383: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:26:50.38 ID:+M7cfADm.net
 南西の角まできて、廊下を右に曲がろうとして、思い立った。


雪穂(……そうだ!)


 曲がり角に向かった足を止めて、逆方向にある南西階段へと急ぐ。
 一段飛ばしで駆け上がり、二階の南側廊下に出た。


雪穂(あそこからなら……)


 二階南側廊下、その先にある『2F大教室』。
 室内の中央付近の床には、下の『1F大教室』に通じる大穴が開いていた。


雪穂(一階をもう一周するだけの余裕はないかもしれない)

雪穂(だけど、二階の大教室から飛び降りれば、追いつかれずに済むかも!)


 教室一階分を飛び降りるなんて普通じゃ怖くて絶対に無理。
 飛び降りるだけでも怖いのに、下は瓦礫でいっぱいで、まともな着地なんてできるわけない。
 ゲームでは怪我はしないって言っても、そんなことで恐怖が減ったりはしない。

 でももうそんなこと言ってる余裕はないんだ。


雪穂(行け、行くんだ私、やるしかないよ)

雪穂(さっきは階段の上から真姫さんに向かって飛び降りたじゃん!)

雪穂(今度だって、絶対いける!)
384: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:28:25.14 ID:+M7cfADm.net
絵里「…………そうか!」


 後ろから追ってきている絵里さんの呟きが聞こえた。
 このタイミングでなにか気付いたとしたら、私が『2F大教室』から飛び降りようと考えてることを察したのかも。


雪穂(絶対逃げ切る!)


 早くも絵里さんに真後ろまで迫られたけど、構わず『2F大教室』に飛び込んだ。
 遮蔽物代わりの作業机に手を付きながら、室内中央に向かって教室内を走り回る。
 私の後を追って絵里さんが作業台に手を付く音も聞こえてきた。

 作業台の列の合間に、床に広がる大穴が見えた。

 正直、怖かった。
 覚悟なんて全然できてない。

 でも、今後ろを振り向けば、きっと絵里さんが拳を掲げて私を狙ってる。
 覚悟が決まるまで待ってくれる時間なんてないよ。


雪穂(飛べ!)

雪穂(飛べ飛べ飛べ! 飛べ私!)


 心構えなんてこれっぽっちもできないまま。
 勢いだけで、床の大穴に飛び込んだ。
385: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:30:11.11 ID:+M7cfADm.net
 落下している時間は数秒と短くても、高いところから飛び降りる恐怖は変わらない。
 下りた先、『1F大教室』の床が瓦礫だらけでまともに着地できない不安も恐怖に拍車をかける。

 落ちていく私の体から心臓だけが飛び出て浮き上がっていくような感じがした。


 一瞬の恐怖の末、瓦礫の山に向かって飛びこむように着地した。
 落ちた際に頭を瓦礫に思いきりぶつける。
 本来感じるべき痛みの程度が酷かったみたいで、痛覚は感じなかったけど、意識が少し朦朧とした。


雪穂(飛んだ……………………私、飛んだ…………)


 高鳴る心臓と一緒にリズムを刻むみたいに短い呼吸を繰り返す。


雪穂(やったんだ)

雪穂(私、本当に飛べたんだ……)
386: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:33:25.05 ID:+M7cfADm.net
 ダンッ!

 すぐ横で大きな音がする。
 四つん這いのまま、反射的に顔を向ける。

 絵里さんがすぐ近くに降り立っていた。
 私と違って綺麗に着地した絵里さんが、倒れている私に向かって顔をぐるりと回転させる。


雪穂(まずい)


 瞬間察した。


雪穂(今、この位置関係で殴られるのは駄目)

雪穂(せめて、殴り飛ばされる位置だけでも変えないと……!)


 私は瓦礫の山に這ったまま、体を思いきり投げて、狙った場所に飛び込んだ。
 大教室の壁に開いた、廊下に繋がる大穴の方へ。
 同時に絵里さんの巨腕が私を勢いよく叩いた。
387: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:36:22.67 ID:+M7cfADm.net
雪穂「がっは……」


 飛び込みざまに横っ腹を殴られて、またしても私の体が吹き飛ばされる。
 頭上に『1』が灯る。

 殴られた勢いのまま、壁に開いた大穴を通り、廊下の壁にぶつかった。

 揺さぶられた頭がぐわんぐわん鳴る。
 視界が朧気だった。

 節々に違和感を感じながら、腕を曲げる。
 握っていた《復活スイッチ》が無い。
 壁に背をつけたまま顔を巡らせる。


雪穂(…………あった)


 ちょっと離れたところに、手元から零れ落ちた《復活スイッチ》が転がっていた。

 壁に開いた大穴の先から瓦礫の崩れる音がする。
 絵里さんが瓦礫を蹴飛ばしながら、私の方へと走ってきていた。

 床にお腹を付けて転がって、上手く動かない体を気力だけで動かす。
 這いつくばりながら、伸びない腕と指を大きく伸ばす。


雪穂(届け…………)


 指先に私の武器が触れる。


雪穂(ボタン…………)


 背中に大きな衝撃を受けた私は、意識を一瞬のうちに失わせた。
388: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:38:19.35 ID:+M7cfADm.net
絵里「……………………ふっ」


 息をつく。
 たった今、目の前で、雪穂ちゃんが靄となって消えた。

 振り下ろした巨腕を持ち上げて、周囲を見渡す。
 異変はない。


絵里(…………間に合った、のね)


 三度、復活を止めた。

 危なかった。
 攻撃手段を持たない相手一人に、穂乃果復活の寸前まで迫られていた。


絵里(まさか二階から瓦礫の山に飛び降りるなんて……)


『1F大教室』へは、『2F大教室』の床に開いた穴から飛び降りることができることは途中で気付いた。
 けれど下は瓦礫の山であり、高さだってそう低いものではない。
 数メートルと口では言っても、飛び降りるには相当な勇気が必要だった。


絵里(痛みや怪我が無いって言っても、簡単に飛ぶ覚悟なんてできない)

絵里(それこそ海未くらいじゃないと……ね)


 それでも、想定外のルートを取られても、雪穂ちゃんを止めることができた。
 一安心して胸を撫で下ろす。


絵里(あと、一人)


 残る敵プレイヤーであることりの存在を脳裏に思い浮かべて、私はその場を後にした。
389: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:40:04.67 ID:+M7cfADm.net
『【チーム休養】リタイアルーム』 雪穂・亜里沙・凛・希


雪穂「……………………ああ、そっか」


 意識が戻ると、私は四方を黒い壁で覆われた部屋に立っていた。

 エキシビジョンマッチのときにここには一度来ている。
 ここはリタイアしたプレイヤーが飛ばされる場所だ。

 私、リタイアしたんだ。


亜里沙「雪穂ぉ!」

雪穂「わっぷ!?」


 後ろから華奢な体が飛びついてきた。
 声から亜里沙だってわかって、笑顔で振り返る。
 亜里沙の後ろには、凛さんも希さんもいた。
390: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:42:22.93 ID:+M7cfADm.net
亜里沙「頑張ったね雪穂!」

凛「凄かったにゃ!」

希「お疲れ様、雪穂ちゃん」


 先にリタイアした味方から労いの声をかけてもらうと、なんだか照れ臭くなる。
 小さく頭を下げてから、私は室内を見渡した。


雪穂「…………そっか、私……」


 ここにいる全員の姿を確認する。
 亜里沙、凛さん、希さん、そして私。

 三人の優しい表情から、私がゲーム内で迎えた最後を察することができた。

 リタイアルームの一面、モニターに映されたゲームフィールドへと目を向ける。
 その内の一つの画面を見つめて、願いを託した。


雪穂「…………後は任せたよ。お姉ちゃん」
392: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:44:24.12 ID:+M7cfADm.net
『1F 南廊下』 絵里 対


 背後に熱とも音ともしれないものを感じた。
 気配、とでも呼べるのかもしれない。
 立ち去ろうとした『1F大教室』前へと、少し離れた場所で振り返る。


絵里「嘘……」


 靄が発生していた。

 ゲーム中のプレイヤーがリタイアする際に生じる、すぐ掻き消えてしまうような小さな靄ではない。
 むしろ対照的なくらい広範囲の靄。
 漂う靄は次第に一箇所へと集まり、人の形を作り上げていく。
 私たちがゲーム内に現れた際にそうだったように。


絵里「…………っ」


 歯を噛みしめ、両腕を腰に構える。
 敵の出現に備えた。

 靄が晴れてゆく。
 先程雪穂が倒れていた場所に、新たな敵プレイヤーが立っていた。

 足元に長い鎖を垂らし。
 右手に掴む鎖の先に、トゲの付いた凶悪な鉄球を据えて。
 俯き加減のまま、小さく口を開いた。


穂乃果「…………後は任せて。雪穂」


【雪穂 HP:5→3→1→0  リタイア

 穂乃果HP:3(武器《復活スイッチ》)  戦線復帰】
394: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 22:45:30.57 ID:+M7cfADm.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り2名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP3  加速器付モーニングスター/威力4


【チームライブ強行】 残り2名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2


【イレギュラー】 残り1名/1名

・園田海未  HP10  武器無効化グローブ/威力0


――――――――――
422: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:43:01.50 ID:fxDzpEjQ.net
―――

『3F 北廊下』 ことり 対 真姫


 アナウンスが響く。
 雪穂ちゃんがリタイアした。
 これで私たちのチームは、残っているのは私一人。

 だけど同時に、今までなかったタイプのアナウンスも響いた。


【『チーム休養』高坂穂乃果  戦線復帰】


 ビックリして、ウィンドウを操作してプレイヤー状況を確認する。


ことり「……穂乃果ちゃん、戻ったんだ……!」


 思いがけない事態に嬉しくなって声が弾む。

 同時にリタイアと戦線復帰のアナウンスがあったから、きっとギリギリのタイミングだったんだ。
 危ないところで私たちのチームは踏み止まることができた。

 後は……。

 真向いに対峙しながら、私と同じようにウィンドウを開いていた真姫ちゃんと目が合う。


真姫「……最後の一人にはならなかったみたいね」

ことり「そうだね……」


 同時にウィンドウを消して、武器を構え直した。
423: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:44:30.62 ID:fxDzpEjQ.net
真姫「さっきは悪かったわ、逃げたりして」

ことり「もう大丈夫なの?」

真姫「無策のまま戻ってきたりはしないわ」

ことり「そっか。じゃあ……勝負、しないといけないよね」

真姫「どうせだったら、上のもっと広いところに行かない?」


 真姫ちゃんは北廊下の脇にある階段を指差した。
 三階の階段の中で、北階段にだけ、屋上へと続く上り階段がある。


ことり「完全に決着をつける、ってことだよね」

真姫「残りプレイヤーの数も減って、最早逃げ回ったりするのも有益じゃなくなったわ」

ことり「後は力ずくの勝負だね」

真姫「そうよ。ついてきて」


 真姫ちゃんは先に階段を上がっていく。
 後ろ姿は隙だらけだったけど、そこに襲い掛かるつもりはなかった。

 真姫ちゃんとはゲーム内で何度も戦った。
 元を辿れば、ライブを巡っての言い争いの時点からずっとぶつかってきていた。
 だから、最後まで真っ向からぶつかって、きちんと決着をつけたい。

 この戦いで、全てを決めよう。
424: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:46:02.55 ID:fxDzpEjQ.net
『1F 南廊下』 穂乃果 対 絵里


絵里「……間に合ったと思ったんだけど」


 巨腕を構えたまま、少しずつ穂乃果に近付いていく。
 靄が晴れた先、足元の鉄球に視線を落としていた穂乃果は、チラリと目を向けてきた。


絵里「間に合ったのは、雪穂ちゃんの方みたい」

穂乃果「……そうだね」

絵里「もう一度穂乃果を倒さないといけないなんて。骨が折れるわ」


 軽口を叩いてみるも、穂乃果の態度は険しい。
 敵としての脅威も相まって、醸し出される重い空気を空寒く感じた。


穂乃果「一度、倒されて……私はもう終わったと思った」

穂乃果「後はみんなに任せて、海未ちゃんのことをみんなに託そうって」

穂乃果「でも…………まさか海未ちゃんがゲームに参加してくるなんて思わなかった」

絵里「リタイアしてもゲームの様子はわかるの?」

穂乃果「そうだよ。ずっと見てた」

穂乃果「絵里ちゃんが雪穂をずっと邪魔し続けてたことも、全部ね」
425: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:47:36.17 ID:fxDzpEjQ.net
穂乃果「海未ちゃん、迷ってるみたい」

絵里「私たちのどちらに味方するべきか?」

穂乃果「そう。そのためにみんなに話を聞いて回ってた。絵里ちゃんも聞かれたでしょ?」

絵里「ええ。今は、明確な答えが出るまで隠れてるそうね」

穂乃果「海未ちゃんがゲームに参加したのを知って、私はもう一度ここにきたかった」

穂乃果「海未ちゃんの考えを聞いてみたかったし、私の話も聞いて欲しかった」

穂乃果「そうしたら……雪穂が私を復活させてくれた。願いを叶えてくれた」

穂乃果「だから、海未ちゃんに会うまで、私は負けられない」

絵里「それは宣戦布告のつもり?」

穂乃果「そうだよ」


 ジャラ ジャラ

 穂乃果が右腕に鎖を巻きつけていく。
 臨戦態勢に入って、一層威圧感が増したように感じた。


穂乃果「雪穂が頑張って私を復活させてくれた。その思いを無駄にはしない」

穂乃果「私、絵里ちゃんに……勝つよ!」


 私の全身に突き刺さる穂乃果の視線が痛みを覚える程に鋭い。

『1F大教室』で繰り広げた大激戦の記憶が蘇る。
 冷汗が肌を伝うのを感じた。
426: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:49:39.12 ID:fxDzpEjQ.net
―――

『講堂』 海未


 他に誰もいない講堂の中。
 ステージにのみライトが当てられた室内は薄暗く、全体的にひんやりとした印象を抱かせる。

 所々座席が破壊されている以外、音ノ木坂の講堂と瓜二つの空間で。
 私は一人、最前列中央の座席に座りながら、眼前の舞台を見上げていた。


海未(いつ見ても、鮮明に思い出しますね……)


 音ノ木坂の講堂は、私がスクールアイドルとして第一歩を踏み出した場所。
 パフォーマンスは拙く、チームワークも甘く、観客なんてほとんどいない。
 けれどとても大切なライブを、私たちはこの場所で行った。


海未(思えば、あれから始まったのですね)


 あの頃と比べれば大きく変わった。
 仲間の人数も増え、技術や知識を獲得し、名声も手にしつつある。
 スクールアイドルとして歩んできた日々が、身を結んできた結果だった。


海未(……………………行きましょうか)


 ゆっくりと、腰を上げる。
 考えはまとまった。

 今こそ、私は私の意思に従い、私なりのやり方で、結論を下そう。
427: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:51:31.61 ID:fxDzpEjQ.net
―――

『屋上』 ことり 対 真姫


 ヴァーチャル世界に初めて飛んだ際、空は晴天だった。
 今、屋上に立って見上げる空模様は夜。
 月の光が強く、一面にライトが当たっているみたいに明るかった

 大鎌の黒い刃を肩に構えた真姫ちゃんと。
 両手から二本の白い刃を伸ばした私。
 広いスペースにたった二人、お互いに向き合っている。


真姫「ことり」


 最後の確認を取るように声をかけられる。


真姫「どっちが勝っても、恨みっこは無しよ」

ことり「わかってる」


 私は力強く頷いてみせた。


ことり「これは、喧嘩を終わらせるための喧嘩だもん」


 お互いに口元だけで笑ってみせる。

 争っている最中なのに、不思議と真姫ちゃんと心が繋がっているような感覚があった。
 ゲーム以前はあんなに敵対していたのに。
 きっと、ゲームを通じてお互いの本音を全部曝け出して、わかり合うためにぶつかってきたからなんだね。
428: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:53:41.28 ID:fxDzpEjQ.net
 ふーっ、と、大きく息をつく。


ことり(……行こう)


 眼前に立つ、敵、に向かって。
 両手に力を入れて、私は駆け出した。

 手から伸びる剣が二つに増えてもやり方は同じ。
 私は真姫ちゃんみたいに上手く動けないし、海未ちゃんみたいに心得があるわけじゃない。
 だから、必死に攻撃を防いで、隙を見つけて斬りつけて、勝ちを目指す。


真姫「武器が増えたからって簡単には優位に立たせないわ……!」


 一度間を置いた真姫ちゃんの戦い方は、今までに比べると少し変わっていた。
 柄を短く握って、刃を振り回す軌道をコンパクトにしている。
 私の武器が二つになったから、鎌一つで両方捌くために小回りを効かせているのかもしれない。

 私の二本の剣は、一つの大鎌に阻まれてしまう。
 変化に早速対応できているみたいで、素直に凄いと思った。


真姫「ほら、どうしたの!? これじゃわざわざ策を練りに退かなくてもよかったかしら!」

ことり「うっ! くっ!」


 剣を二つ持っていても、だからと行って有利にはならないみたい。
 むしろ意識を二つの武器に割かないといけないから、そこまで自在に扱うことができない。
 ただ武器の本数が増えただけで、身を守る範囲が広くなったくらいの差しかなかった。
429: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:55:38.14 ID:fxDzpEjQ.net
海未『剣道にも二刀流はあるんですよ』


 真姫ちゃんの攻撃に耐えながら、以前海未ちゃんと剣道の話をしたこと思い出していた。


ことり『そうなの? 竹刀が二つもあったら強そうだね』

海未『ですがほとんどの選手は二刀流にしません』

ことり『あ、そういえば見たことないかも。どうして?』

海未『例えばことりは、一つの物を両手で扱うのと、二つの物を片手ずつ扱うの、どっちが簡単ですか?』

ことり『んーと、両手で一個を扱った方が楽だよね』

海未『簡単に言うなら、原理はそのようなものです。武器の数が増えたところで一概に強いわけではないんですよ』

ことり『そっか、難しいんだ』

海未『それでも二刀流に憧れる人はいますけどね。私も一度本格的に挑戦してみたいです』

ことり『どうして? 難しいからこそ挑戦したくなるの?』


 私が聞いたら、海未ちゃんは照れ臭そうに笑いながら、こう答えた。


海未『……だって、二刀流って浪漫があって、格好良いじゃないですか』
430: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:56:59.66 ID:fxDzpEjQ.net
ことり(……今の私、格好良いかな、海未ちゃん)


 無闇に振り回すばかりで、まともに攻撃すらできない二刀流の私。
 初めて二本の刃を出現させたときには勢いで押し切ることができたけど。
 一度間を置いて、真姫ちゃんに冷静に対処されている状況だと、とても上策とは言えなさそう。


ことり(海未ちゃんに格好良いって思われるような私になりたかったんだけどな)


 悔しいけど、やっぱり私には真姫ちゃんみたいに凄い動きはできないみたい。
 ゲーム内ではやればなんでもできるって言っても、人によって差があるのかな。

 だから私は、私なりに頑張る。
 海未ちゃんが憧れるような格好良い姿は見せられなくても。
 この勝負に勝つことが、今の私にとって、最も大切なことだから。


ことり「……ちゅんちゅん! たあーっ!」

真姫「!?」


 かけ声を上げて、左手から伸びることりソードを自発的に消した。
 右手一本になった武器で真姫ちゃんに飛びかかる。

 増えた武器を自分から消したことに真姫ちゃんは驚いてるみたいだった。
 その驚愕の中に生まれた隙を逃さないよう、剣を強く振って鎌を弾く。
 武器の数は減ったけど、さっきより自在に操れるようになったことりソードにはちゃんと力が伝わるような気がした。
431: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 22:59:06.13 ID:fxDzpEjQ.net
真姫「毎度毎度、変に驚かせてくれるじゃない……!」


 剣が一本になったのに応じて、真姫ちゃんの攻撃スタンスも元に戻った。
 私が振り回す剣の威力に負けないよう鎌の振りを大きくして、鍔迫り合いの回数が増える。
 力で押し合う度に真姫ちゃんと目が合って、どっちも自分からは逸らさなかった。


真姫「随分と強気な戦い方ね!」

ことり「真姫ちゃんみたいに動けなくても、真姫ちゃんには負けないよっていう意思表示だよ!」

真姫「言ってくれるじゃない! ならその意気込み、どこまでのものか試してあげるわ!」


 真姫ちゃんは頭上で鎌を何度か振り回すと、柄の握る位置を端ギリギリに変える。
 最も大きな弧を描く軌道で横合いに鎌を振ってきた。
 攻撃を防ぐのは簡単でも、勢いに負けて剣が大きく右に弾かれた。
 
 急いで剣を正面に構え直そうとするけど、それを防ぐように、大鎌の柄の部分で剣を受け止められる。
 剣を体の前に戻せないから、全身隙だらけになる。
 真姫ちゃんは鎌の柄で私の剣を押さえ込んだまま、刃の部分を私に押し出してきた。


ことり「うぅっ!」


 押し出された黒い刃から避けるために尻餅を付くような形で後ろに倒れる。
 慌てて立ち上がるけど、体勢が整わないうちに大鎌に追いかけられる。
 無理な姿勢で鎌を受け止めたらバランスが崩れて、また床に手を付いた。
432: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:01:58.87 ID:fxDzpEjQ.net
真姫「まだまだ私の方が強いみたいね!」


 座り込んだ私に向かって、真姫ちゃんはまた大きく弧を描いた軌道で横合いに鎌を振る。
 剣を差し出して攻撃を防ぐけど、やっぱり横に大きく弾かれる。

 弾かれた剣は、さっきと同じように鎌の柄で動きを止められて、無防備になった私に黒い刃が迫った。
 既に座り込んだ姿勢だから、これ以上後ろに身を引くことができない。


ことり「……ちゅんちゅんっ!」


 掛け声を上げる。
 左手から伸びた二本目の剣を、こっちに迫る鎌の刃にぶつけて押し留めた。


真姫「防御に関しては使い勝手が良い武器じゃない!」

ことり「最初は凄い恥ずかしかったんだよ、毎回掛け声言わないといけないんだもん」

真姫「そのまま苦労しておけばよかったものを!」


 一度鎌を引いた真姫ちゃんは、大振りのまま左右に鎌を振るう。
 私じゃなくて、武器の剣を揺さぶることを狙ったかのような攻撃で、両手の剣が何度も横に弾かれた。

 座ったままバランスを崩して、左右の剣が両方とも左によろけた。
 そこを真上から突き刺すよう鎌を高く掲げられる。
 頭上から振り下ろされた攻撃を、私は左側に転がって逃げた。
433: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:04:00.57 ID:fxDzpEjQ.net
 大鎌を大きく振りすぎたのか、空ぶった鎌の切っ先が床に少しめり込んでいた。
 すぐに引き抜いていたけど、その間に私は立ち上がって、二本の剣を構えて体勢を整えた。


真姫「本当、しぶとい。持久戦になりそうで嫌ね」

ことり「はあっ、はあっ」


 防戦気味の私は息が切れてきた。
 真姫ちゃんはまだ余裕があるみたい。

 けど、一番最初のときに比べたらずっとまともに戦えてる。
 あのときとは意気込みが違うから。
 海未ちゃんのために戦うって気持ちが、誰にも負けないくらいに大きくなってる。


ことり「持久戦でもなんでも、負けない」

真姫「負けないっていうからには、守ってばかりじゃなくてことりの方からも攻撃しないとね」

ことり「勿論、行くよっ!」


 真姫ちゃんの挑発に乗るような形で私は駆け出す。
 二つある武器の利点を活かして左右から同時に斬りつけようと、挟み込むように剣を振った。

 だけど、同時に攻撃を仕掛けた分、狙いが甘くなった。
 真姫ちゃんに大きく屈まれることで、私の攻撃は左右とも空振ってしまった。
434: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:05:43.58 ID:fxDzpEjQ.net
真姫「ふっ」

ことり「っ!」


 屈んだ姿勢のままカウンターのような形で仕掛けられた攻撃。
 低い位置から振り上げるように飛んできた鎌の切っ先は、手元に引いた私の左手にぶつかった。
 剣の付け根に当たる部分を攻撃されて、大きく跳ね上げられる。
 感覚が無くなる程に強く左手が痺れた。


真姫「下手な二刀流はやめたら? さっきの方がマシよ」

ことり「……!」


 挑発だってわかってるけど、真姫ちゃんの言う通り、やっぱり二刀流は難しいのかもしれない。
 痺れたこともあって、どの道左手はしばらく使い物にならない。
 掛け声を発して白刃を右手一本だけに戻す。


真姫「そうよ。そっちの方が、まだそれっぽいわ!」


 ニヤリと笑う真姫ちゃんが私に駆け寄ってくる。
 プレッシャーに負けないよう、私からも真姫ちゃんに向かって駆け寄った。
435: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:08:27.28 ID:fxDzpEjQ.net
 正面からぶつかり合った刃は大きく互いを弾く。
 甲高い金属音が月夜の下に響き渡った。


ことり「やあー!」


 弾かれた右手に力を入れて、真姫ちゃんより早く攻撃をしかけようとする。
 真姫ちゃんはまだ大鎌を振らない。
 こっちを観察したまま、私が攻撃モーションに入るのを見て、口元を僅かに上げた。


ことり「!? あっ!?」


 大きな動作で攻撃を仕掛けようとしたために攻撃の軌道を読まれてしまった。
 以前の戦いでそうされたように、私の右手首が真姫ちゃんの左手に捕まれる。
 身動きの取れなくなった剣を目にして、真姫ちゃんは口角を更に上げた。


真姫「まずは右手」


 無防備な私の左半身ではなく、わざわざ右側から狙うように、真姫ちゃんは鎌を振りかぶる。


ことり「ちゅんちゅん!」


 私は左手の剣を出現させると体の右へと動かして、迫ってきた鎌を防ぐ。
 でも痺れが抜けきっていなかった左手は力負けして、大きく左へと振られた。
436: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:11:06.19 ID:fxDzpEjQ.net
ことり「まだ痺れが……!」

真姫「こっちの剣も押さえてあげる!」


 左手のことりソードを体の外側に弾いた真姫ちゃんは、鎌の柄の部分を白刃に押し当てる。
 柄を押し当てられたことで、左手の剣も動きを封じられた。
 私は両手を大きく開いたまま、体の真ん前が無防備になった体勢で固定させられた。


真姫「両方止めたわよ」

ことり「くっ……ふぅっ……」

真姫「そうやってずっと踏ん張ってなさい!」


 私の両手を封じた真姫ちゃんは、柄で剣の一つを押さえ込みながら、柄を回して刃の向きと角度を変える。
 こっちの武器を封じながら、私に切っ先を振り下ろしてきた。


ことり「あっ……!」


 私は迫ってきた切っ先の下を潜って、前に一歩踏み込むことで振り下ろされた切っ先を避けた。
 だけど踏み込んだことで、大鎌の三日月状の刃に囲まれるような位置関係に立ってしまった。
437: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:13:59.31 ID:fxDzpEjQ.net
真姫「武器を封じられたまま攻撃されたのに前身してくるなんて……凄いわね、ことり」

真姫「でも残念。私の鎌の中にようこそ」


 目の前でギラつく真姫ちゃんの瞳が恐ろしい。

 大鎌の柄は未だに私の左手の剣を受け止め続けている。
 柄は私の首の横を通過するように伸びて、その先にある大きな刃は私の背後、頭上斜め上にあった。
 鎌に抱かれるようにしている私は、このまま真姫ちゃんに鎌を手前に引かれると、後ろから首を刎ねられてしまう。

 どうしよう……!


真姫「はあっ!」


 掛け声と共に真姫ちゃんは鎌を引いた。

 右手の剣も、左手の剣も動かせない。
 武器じゃ攻撃を防げない。
 私は大きく息を吸った。


ことり「ちゅんちゅんっ!」
438: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:15:25.13 ID:fxDzpEjQ.net
 出現させていた左手の剣を消した。
 鎌の柄で押さえつけられていた部分が消えて、動きを封じられていた左手が動かせるようになる。
 自由になった左手を伸ばして、鎌を手前に引こうとしていた真姫ちゃんの右手を掴んだ。


真姫「!?」

ことり「させない!」


 私の首の後ろ数センチまで迫っていた大鎌の動きが止まった。
 これ以上引かせないよう、私は左手を精一杯自分の方に引っ張る。


真姫「離しなさい……!」

ことり「嫌……!」

真姫「あとちょっとなのに……!」

ことり「駄目ー!」


 柄を握った真姫ちゃんの右手、その上から掴む私の左手。
 ぐぐぐっ、と、手元に引き合う力比べが続いた。

 目まぐるしく動き続けていた戦況が、膠着状態に入った。
439: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:16:52.25 ID:fxDzpEjQ.net
 真姫ちゃんの左手は私の右手の武器を抑え。
 私の左手は真姫ちゃんの右手を引っ張る。


真姫「…………!」

ことり「…………!」


 お互いの手を掴めるくらい近い距離で睨み合う。
 両手とも押し合いと引き合いが続いて、腕がプルプル振るえてる。


ことり「うっ……うぅっ……」

真姫「苦しそうね、力を抜いてもいいのよ……!」

ことり「海未ちゃん…………海未ちゃん…………!」

真姫「海未は助けてくれないわよ!」

ことり「……違う…………私が海未ちゃんを助ける……!」

真姫「本当に助けになるのならいいけどねっ!」


 両腕の押し引きを続けながら真姫ちゃんが一歩踏み込んできた。
 踏み込まれた分後退した私は、真姫ちゃんに負けないよう足を踏ん張った。
440: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:18:40.19 ID:fxDzpEjQ.net
真姫「ことりは海未のためっていう思いだけでこれまで頑張ってきたみたいだけど」

真姫「もし海未と気持ちのズレがあったらどうするつもりよ」

ことり「海未ちゃんとのズレって……どういうこと」

真姫「海未が私たちの方に味方して、ライブをしたいって言った場合の話よ」

ことり「……」


 海未ちゃんは迷っていた。
 私たちも、真姫ちゃんたちも、両方とも海未ちゃんのためを思って戦っている。
 その思いを両方受け止めて、今海未ちゃんは、どちらかの立場を選ぼうとしているはず。


ことり「…………それでも、いいよ」

真姫「いいの? あんなに海未の身を心配してたのに」

ことり「海未ちゃんが自分の意思で選んだなら、それが一番良いよ」

真姫「でもその場合、海未のためになにかしたいっていうことりの戦う理由がなくなるじゃない」

ことり「それは違うよ!」


 今度は私が一歩足を踏み出した。
 真姫ちゃんが一歩後退する。


ことり「海未ちゃんの気持ちは尊重したい……海未ちゃんの気持ちが一番っていうのも本心だよ」

ことり「だけど、今はゲームの最中」

ことり「ゲームの中では他の誰でもない、自分の気持ちに従ってやりたいことを目指すんだよ!」
441: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:20:07.59 ID:fxDzpEjQ.net
真姫「意味わかんないわ……ことりは海未のためになる選択をしたいんでしょう!?」

真姫「なのに海未とは別の選択をしても、それで構わないって言うの!?」

ことり「海未ちゃんの望むことが私にとっての一番だよ」

ことり「でも……このゲームの間に私が一番したいことは違う!」

真姫「じゃあなにがしたいって言うのよ!?」

ことり「『私が海未ちゃんのためにしてあげたい』って思うことを私はしたいの!」

ことり「そこに海未ちゃんの意思なんて関係ない! 私の気持ちの思うままにしたいのっ!」

真姫「……………………なにそれ……そんなのただのエゴじゃないっ!」

ことり「そうだよ! 我が儘だよ!」

ことり「でも今はみんなそうだよ! みんなが我が儘を言って、それぞれの主張を持って戦ってる!」

ことり「だから私も私の考えで戦うの!」

真姫「そんな身勝手な思いやりの押し付け、海未が喜ぶと思うわけ!?」

ことり「身勝手な思いやりでも、重荷や負担にはしないもん!」

ことり「押し付けだとしても、海未ちゃんを苦しめないように努力する!」

ことり「私の勝手な気持ちでも、海未ちゃんにありがとうって言ってもらえるように頑張る!」


 もう一歩前に踏み込んだ。


ことり「こんなこと、普通は言えない……私がこんな我が儘言えるの、海未ちゃんだけだもん」

ことり「海未ちゃんなら、私の気持ち、絶対受け止めてくれる……絶対に!」
442: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:22:41.17 ID:fxDzpEjQ.net
真姫「…………海未を、信じてるのね」

真姫「海未ならことりのことを受け止めてくれる……そう信じてる」

ことり「そうだよ」


 至近距離で睨みあっていた真姫ちゃんの目から、ふっと力が抜けたように見えた。


真姫「……正直、そこまで言い切れることりが羨ましいわ」

真姫「自分勝手なエゴの押し付けだとしても、海未なら受け止めてくれるだなんて……」

真姫「そこまでのことを断言できるのは、完全に相手を信用して、信用されてると確信してないと言えないもの」

真姫「……私には言えない。私には、ことりと海未みたいな絆はないのかもしれない」

真姫「でもね!」


 真姫ちゃんが足を前に出す。
 今度は後ろに下がらないで、その場で踏み止まった。
 額を擦りつけ合うくらいの距離まで近づく。


真姫「私の気持ちがことりに負けるなんて思わない!」

真姫「海未のためを思う気持ちだってそう!」

真姫「みんなそうよ! 私たちは全員、ことりの気持ちにだって負けてない!」

ことり「わかってる……」

ことり「でも……それでも!」

ことり「海未ちゃんへの気持ちは誰にも負けないっ!」
443: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:24:11.05 ID:fxDzpEjQ.net
 二人同時に掴んでいた腕を離した。
 密着する寸前まで迫っていた距離を離すために体を退いて、引き際に互いの武器を前方に振るう。
 ぶつかり合う刃同士が火花を散らした。


真姫「はあーーーーーっ!」

ことり「やあーーーーーっ!」


 私と真姫ちゃんの右腕が同じように斜めから振り下ろされる。
 ことりソードと大鎌が交差した。



 ガンッ!

 堅いものがぶつかる音が屋上に響く。
 音の出処は、私たちじゃない。

 攻撃しようとした手を止めて、私たちは屋上の出入り口の方を振り向いた。

 出入り口から、絵里ちゃんが飛び出してきた。
 両脇に巨大な拳を広げて、私たちの方に走ってくる。

 その後ろから、穂乃果ちゃんも屋上に上がってきていた。
 鉄球を飛ばしながら、絵里ちゃんを追ってこっちに向かってきた。


真姫「絵里……!」

ことり「穂乃果ちゃん……!」


 突然の登場に不意を突かれる。
 私たちは屋上への乱入者に向けて武器を構え直した。
444: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 23:25:03.07 ID:fxDzpEjQ.net
――――――――――

【戦闘可能プレイヤー】


【チーム休養】 残り2名/6名

・南ことり  HP5  ことりソード/威力1~5(威力2)
・高坂穂乃果 HP3  加速器付モーニングスター/威力4


【チームライブ強行】 残り2名/4名

・西木野真姫 HP5  デスサイズ/威力3
・絢瀬絵里  HP1  スターエリチカ/威力2


【イレギュラー】 残り1名/1名

・園田海未  HP10  武器無効化グローブ/威力0


――――――――――
457: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:12:19.41 ID:U6Eer0lc.net
『1F 南廊下』 穂乃果 対 絵里


 表示していたウィンドウを消した絵里は、臨戦態勢に入った穂乃果に向かって駆け出した。


絵里(復活した穂乃果のHPは『3』。二度叩けば倒せる)

絵里(一度殴りつけて、怯んだところに追撃を当てればそれで終わりよ!)


 再びフィールドに降り立った穂乃果は、早々に敵プレイヤーと相対しても受け手に回ることはなかった。
 そう大きく開いていなかった距離を、自らもまた詰めにかかった。


絵里(こっちに来た!)

穂乃果「はああああああ!」


 絵里が巨腕を突き出すように、穂乃果も右腕を殴りつけるように振ると、加速器により勢いづけられた鉄球が飛んだ。
 ガツンと音を立ててぶつかった二つの武器は互いを弾くが、鉄球がやや押し気味だった。


穂乃果「うおあああああ!」


 腕を振り、右腕に巻き付けた鎖を操り、加速器の点火で威力を増した鉄球が連続で絵里に襲いかかる。
 二本の巨腕が鉄球を躱し切るも、戦況を支配しているのは間違いなく穂乃果だった。


絵里(速い……! 重い……!)


 復帰直後にも関わらずキレのある動きと鉄球操作を見せつけた穂乃果は、絵里をぐいぐいと後方に押し返した。
458: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:14:31.33 ID:U6Eer0lc.net
 一階の南側廊下で始まった戦い。
 穂乃果の進攻により、開始早々から戦場は大きく移動していた。

 鉄球から伸びる五メートルの鎖のうち、大部分を右腕に巻き付けた穂乃果。
 二メートル程射程を余した鉄球は小回りの効く動きで絵里を翻弄した。

 押し込まれた絵里は一度鉄球の射程外に逃げる。
 改めて殴りかかるも、穂乃果は手元のボタン一つで加速器操作し、軌道を変えて一発ずつ巨腕を叩き落とす。
 巨腕の迎撃が済むと、再度鉄球の嵐が吹き荒れる。


絵里「くっ! このっ! やめっ、やめなさいよっ!」

穂乃果「やめるために戻ってきたわけじゃない!」


 穂乃果は右腕に巻き付けた鎖を腕から少し外し、射程を延ばす。
 思いきり腕を振り上げるとそれに応じて鉄球も高く舞う。
 天上に一筋の削り跡を残しながら飛ぶ鉄球が、絵里の頭上へと勢いよく降下した。


絵里「ぐっ……つぅっ!」


 軌道は読める分、両腕を交差させて頭上に掲げることで攻撃を防ぐのは容易い。
 しかし威力重視で投げられた鉄球は防ぐだけでもダメージが貫通してきそうな程に重い。
 受け止めた衝撃で膝が折れそうになった。
459: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:16:08.12 ID:U6Eer0lc.net
 防戦気味となった絵里は後退を余儀なくされ、廊下を下がりながら迎撃に回らざるを得なくなる。
 合間に絵里の方から飛びかかったとしても、穂乃果は体中を巡らせるように鉄球を振り回しバリアを形成、近づけさせない。
 下手に腕を伸ばせば鉄球に大きく弾かれ、余計に後退する羽目となる。


絵里(大教室で戦ったときにはそこまで押されてる印象はなかったのに……)


 武器による相性が悪いとは感じない。
 それでも、分の悪い勝負に立たされていることを認めざるを得なかった。


絵里(あのときは三対一でも、今は私との一騎打ち)

絵里(このあたりが押し込まれる原因かしらね)

絵里(あるいは一度リタイアっていうどん底から這い上がってきた底力……かしら?)


 仮にそうだとしたら笑えないと、戯言を切り捨てる。

 真姫曰く、真姫は穂乃果との相性が良くないと言う。
 奇策による優勢を奪えはしても、正面からぶつかるなら最早手が付けられないと。


絵里(なら、この暴れん坊は私が抑えないと……ね)
460: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:17:33.68 ID:U6Eer0lc.net
穂乃果「たあっ! はあっ! うあああっ!」

絵里(そうは言っても……この連続攻撃、なんとかしてほしいわ!)


 上下左右、隙なんて一分たりとも見つけることができないくらい、穂乃果の鉄球はあらゆる角度から飛んでくる。
 廊下を後退するだけに留まらず、絵里は階段を上がって退避を続けた。


絵里(穂乃果相手じゃ上を取っても意味はないわね……!)


 階段を先に上ったことで高低差を付けても、射程のない絵里の武器では大して意味はない。
 むしろ足場が安定しない場所で鉄球に襲われ、足を滑らせそうになる。


絵里「ちょっ!? 足を狙うのはズルイわ! 転げ落ちたらどうするのよ!」

穂乃果「そのときは絵里ちゃんを倒すだけだよ!」

絵里「容赦ないわね!」

穂乃果「絵里ちゃんも私を突き落せばいいじゃん!」


 できることならそうしたくとも、飛来する鉄球を叩き落とすので手一杯となる。
 階段上での戦いはすぐに諦めた。
 せめて相場だけでも落ち着ける場所を求め、上の階へと急いだ。
461: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:18:50.88 ID:U6Eer0lc.net
 鉄球の被弾を危ないところで避け続けながら、絵里は北階段の三階までやってきた。 
 北廊下に出ようとしたが、そのタイミングで頭上から声が聞こえてきた。


絵里(……? 今……)


 ゲームフィールドの三つの階段のうち、北階段にだけ屋上へと通じる経路がある。
 声はその先から聞こえてきた。


絵里(屋上から声?)

絵里(もしかして……上で戦ってるの?)


 もし誰かいるとしたら、残るプレイヤーは真姫とことりしかいない。
 向こうも自分たち同様一対一の勝負をしているのだろうか。

 一つ、脳裏にアイディアが閃いた。


絵里(一対一で穂乃果を止めるのが難しいなら……)
 

 止めることのできない穂乃果を倒すために、賭けに出ることを決めた。
462: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:20:58.19 ID:U6Eer0lc.net
『屋上』 ことり・穂乃果 対 真姫・絵里


 ことりと真姫が決着をつけるべく刃を交えていた屋上。
 そこに、絵里と穂乃果が乱入した。


真姫「絵里!」

ことり「穂乃果ちゃん!」


 互角の攻防を繰り広げていたことりと真姫は、乱入してきた二人に向かって武器を構えた。


絵里「やっぱりいたわね!」


 先行して屋上に上がった絵里は、後方から穂乃果を連れながら、真姫と向き合うことりへと突進。
 大きく振りかぶった右の巨腕を真っ直ぐに突き出した。

 ことりは両手の白刃で受け止めるも、勢いを殺し切れずにそのまま数歩後退する。
 力押しの巨腕を受け止めたまま屋上の脇へと追いやられた。


穂乃果「たあーっ!」


 ことりに攻撃をしかけた絵里の背に向け、穂乃果は鎖を全て伸ばして鉄球を飛ばす。
 しかし二人の間に割り込んだ真姫が鉄球を撃ち落した。


穂乃果「……真姫ちゃん!」

真姫「乱戦なんて面白いじゃない。受けて立つわ!」
463: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:22:45.99 ID:U6Eer0lc.net
 ことりと絵里の間に立ちはだかる真姫に向かって穂乃果は鉄球を飛ばす。
 五メートル分の遠心力をつけた勢いは凄まじいが、完全に防御に徹した真姫はなんとか受け止めることができた。


真姫「相変わらず凶悪な武器ね……!」


 一度攻撃を止めた真姫は前に出て穂乃果への反撃を図った。


穂乃果「今度は負けないよ真姫ちゃん!」


 伸びきった鎖を一度回収するため、穂乃果は加速器を点火。
 腕に一周回したところで、巻き付けた腕を支点とした鉄球の円を描いた。

 円の軌道上にいた真姫は横合いから殴られるも、鎌の切っ先で応戦。
 互いの武器を弾き飛ばし、穂乃果へ最接近。
 再度腕を一周させて同じ攻撃をさせる前に、先行して鎌を振り翳した。

 鉄球を操作して腕に巻きつけながら穂乃果は身を退いて鎌を回避。
 バックステップで逃げながら、弧を描いた鉄球で死角から攻撃する。

 それに目敏く察した真姫は脇に避けて攻撃をやり過ごした。
 一度避けてから、次はこちらの攻撃の番だとばかりに鎌を一閃。
 穂乃果は鉄球を体の前に持ってきて刃を受け止めた。


真姫「相変わらず鉄球捌きが上手いじゃないの!」

穂乃果「真姫ちゃんも相変わらず凄い動きだね!」

真姫「当然よ、穂乃果にだって負けないわ!」
464: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:25:03.74 ID:U6Eer0lc.net
 真姫は両手を使って大鎌をくるくると回すと、手先で回転させながら体の周囲を巡らせる。
 回転する鎌による防護壁が真姫の周囲に形成された。


穂乃果「凄い! ジャグリングみたい! でも負けないよ!」


 対する穂乃果も右腕に鎖を巻きつけると、短くなった射程でぐるんぐるん鉄球を振り回す。
 体の周囲を駆け巡る軌道は、鉄球の檻となって穂乃果の身を包んだ。


真姫「真っ向勝負よ!」

穂乃果「臨むところだよ!」


 飛び交う大鎌と鉄球が近づいていき、二つの軌道が重なり合う。

 ギン! ガン! ガキン!

 金属同士がぶつかる音が立て続けに鳴り響く。
 穂乃果、真姫双方の作り出す武器の軌道はその都度歪むも、すぐに修正して体を覆う守りを維持する。
 攻守両用の攻撃はぶつかったまま、互いに一歩も退かなかった。
465: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:27:05.89 ID:U6Eer0lc.net
 武器を振り回しての接近戦。
 拮抗した戦況に双方とも集中力を高めていく。

 そこへ、二つの巨腕が脇から迫ってきた。


絵里「穂乃果ぁ!」


 ことりを追っていた絵里が遠方にまでことりを遠ざけると、今度は穂乃果に向かって攻め入ってきた。
 穂乃果の全身を覆う鉄球のバリアにも怯まず巨腕の拳を振り抜く。

 一度は空振りした拳も、二発目の突きが鉄球と正面衝突した。
 穂乃果の周囲を覆っていた守りの勢いが緩む。



穂乃果「!?」

絵里「真姫!」

真姫「わかってる!」


 守りを解かれた穂乃果に向かって、鎌を振り回す手を止めた真姫が接近、隙を狙って鎌を振り翳す。
 だが鎌が穂乃果へと迫る前に、ことりが間に割り込んだ。


ことり「させないっ!」

真姫「っ! 邪魔しないで!」


 穂乃果を守るように前方に立ちふさがり、ことりが鎌を弾く。

 割り込んできたことり相手に真姫が躍起になっていると、上空から鉄球が飛来。
 攻撃を止めて真姫が後方に退避すると、寸前まで立っていた場所に鉄球が突き刺さった。
466: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:30:00.95 ID:U6Eer0lc.net
穂乃果「ありがとうことりちゃん!」

ことり「穂乃果ちゃん、戻ったんだね!」

穂乃果「雪穂が頑張ってくれたんだ!」

真姫「……やっぱり穂乃果は厄介ね」

絵里「ごめんなさい真姫、一人じゃ手に余ったから乱入させてもらったわ」

真姫「いいわよ。混戦でも負けはしないわ」


 鎌を一振りして風切り音を鳴らし、先んじて真姫が飛び出す。
 対して穂乃果も鉄球を振り回しながら真姫を迎え撃った。


真姫「絵里!」

絵里「任せて!」


 真姫へと飛んできた鉄球は、真姫に続いた絵里が拳で叩き落とした。
 その隙を突いて真姫は穂乃果との距離を詰め、鎌を振るう。

 穂乃果サイドも、ことりが穂乃果を庇う形で真姫の刃を受け止める
 真姫とことりの鍔迫り合いを崩そうと、穂乃果は鉄球の加速器を点火。
 しかし、操ろうとした鉄球が動かない。


穂乃果「……あれ!?」

絵里「ちょっとくらいじっとしてなさい!」


 一度鉄球を防いだ絵里は、そのまま二本の巨腕で鎖を掴み、その場に踏ん張って加速器による動きを封じていた。
467: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:31:09.27 ID:U6Eer0lc.net
穂乃果「動かない……! 離してっ!」

真姫「ナイスよ絵里!」

絵里「今のうちに穂乃果をやっつけて!」

真姫「当然!」


 攻め入り時と見た真姫は穂乃果へと猛攻を仕掛ける。
 穂乃果は加速器のボタンを連打するも、動かすことができない鉄球に焦りを覚える。

 しかし、穂乃果が動けぬ間も、穂乃果に仕向けた大鎌の攻撃は一切命中しなかった。


ことり「……っ! ……っ!」

真姫「チャンスだってのに……っ、邪魔だって、言ってるでしょっ!」

ことり「穂乃果ちゃんに攻撃はさせない!」


 舞うように立ち回り、間隙を生じさせぬ真姫の連続攻撃。
 それらを全てことりの二本の白刃が防ぎきっていた。


ことり「攻撃にはまだ上手に使えないけど、守りには二本とも使えるもん!」

穂乃果「ことりちゃん凄い……」

真姫「まったく、厄介なのは穂乃果だけじゃないってことね……!」

ことり「足手纏いにはならないよ!」
468: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:33:03.88 ID:U6Eer0lc.net
 焦ったことで真姫の攻撃の手が雑になると、ことりはそこを見逃さない。
 右の白刃で鎌を受け止めると、慣れない左手での攻撃を仕掛ける。
 真姫は身を捩って回避。


ことり「今だ……!」


 敵勢の攻めが止まったタイミングで、今度はことりが走り出す。
 目的は真姫ではなく、その後ろに立つ絵里。
 穂乃果の武器を抑えるために両腕で鎖を掴んでいる今、完全に無防備な状態だった。


真姫「しまった!」

ことり「鎖から手を離して!」

絵里「くっ!」


 迫り来ることりの白刃を受け止めるため、やむなく絵里は拳を手離し、ことりを迎撃した。

 鉄球を動かすことができるようになった穂乃果は加速器を操作して即座に手元まで回収。
 牽制代わりに一度真姫に向けて攻撃を行い足止めする。
 真姫が怯んだ隙に絵里の方へと走り、ことりを援護するように横合いからことりを迂回する軌道で絵里を殴りつけた。


ことり「たあっ! やあっ!」

絵里「一対一なら押し込まれないのに……!」


 ことりの奥から穂乃果の鉄球が飛んでくるため、絵里は中々攻撃に転ずることができない。
 二本の巨腕でガードを固め、ひたすらことりの斬撃を耐えた。
469: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:35:05.36 ID:U6Eer0lc.net
真姫「やめなさい穂乃果!」


 絵里へと攻め入るのを止めるために真姫が飛びかかる。
 ことりをサポートしていた穂乃果は身を反転させ、同時に鉄球の軌道も変更、絵里から真姫へと狙いを変える。
 飛びかかって来た真姫を鉄球で押し止めた。

 背を向ける形でことりと穂乃果はそれぞれの相手と対峙する。
 距離を近づけさせないよう細かく鉄球を飛ばす穂乃果は、完全に真姫の足を止めていた。


絵里「さぁて、鉄球が止んだわ……!」


 一方、穂乃果の援護が無くなったことで、絵里がようやく攻勢に転ずる。
 近距離戦では射程の短い武器である絵里の巨腕の方が攻撃の回転速度が勝る。
 ことりに押し込まれていた先程とは一転して、今度はことりをぐいぐいと押し込んでいった。


絵里「ホラァ! ホラァ! さっきまでの勢いはどうしたの!?」

ことり「うっ……あっ!」

絵里「一対一の撃ち合いじゃ負けられないわ!」


 後退していくことりの背が穂乃果の背中にぶつかった。
 背後でことりが押し込まれていることに気付いた穂乃果は一瞬そっちに目を向ける。


真姫「よそ見してるんじゃないわよ!」


 穂乃果の攻め手が止まった瞬間真姫が距離を詰めた。
 鉄球の操作が間に合わない穂乃果は、鎖を掴んで前に掲げ、真姫の振るう鎌を防いだ。
470: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:38:01.46 ID:U6Eer0lc.net
 四人が団子状態で揉み合う。
 近距離で振るう各々の攻撃が仲間にも触れそうになり、それを避けるために四人は同時に散開した。


穂乃果「やああああ!」


 全員が少し距離を取った中、射程が最も長い穂乃果が真っ先に動いた。
 五メートルの鎖の射程を目一杯使い、右手を頭上で大きく回しす。
 半径五メートルの大きな円を描きながら、鉄球を横合いに投げつけた。


真姫「きたわよ!」


 鉄球の軌道上にいた真姫は、一歩後退して辛うじて回避。
 しかし、その横にいた絵里は回避が間に合わない。
 鉄球を止めようと、右腕の突きで応戦した。

 ミシィ


絵里「!?」


 正拳突きによる相殺で被弾は免れるも、絵里は自身の武器に違和感を覚えた。

 右腕の違和感に連動して、過去の戦闘の記憶が蘇る。
 以前、亜里沙との真っ向勝負の際にも右の拳に同じような不安を感じた。
 その際は違和感に気付きながらも実情を確認することができず、そのまま放置していた。


絵里「まさか……」


 心なしか右の拳が思うように動かなくなっている気がする。
 故障、の文字が脳裏に過った。
471: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:39:23.75 ID:U6Eer0lc.net
穂乃果「ことりちゃんしゃがんで!」


 声高に叫ぶのに応じ、ことりは体を丸めるようにして屈み込む。
 その頭上を穂乃果が振り回す鉄球の鎖が通過した。


穂乃果「次いいいい!」


 頭上から見ると、穂乃果の立つ位置を支点にして、鉄球が五メートルの半径を描いてダイナミックな円の軌道を描く。
 先程と全く同じ軌道で全力の投擲を実行。
 右手の違和感に目を向けていた絵里は、その場でもう一度穂乃果の鉄球を受けることとなった。


絵里「ぐぅっ!?」


 右手の違和感が拭いきれず、突きによる迎撃が出来ない。
 左の巨腕で受け止めるも、余りの勢いに巨腕ごと絵里の体が吹き飛ばされた。


穂乃果「まだまだまだまだぁ!」


 鉄球は穂乃果の体を周り、三度大きな円を描いて絵里へと飛来する。
 真姫は大鎌のスイングで防ごうとするが、威力の差が大きすぎてまともに勢いを殺すことさえできない。
 鉄球は猛烈な速度を維持したまま、倒れ込んだまま防御する絵里の巨腕にぶち当たり、より激しく体を吹き飛ばした。
472: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:41:14.00 ID:U6Eer0lc.net
穂乃果「終わりだよ!」


 遠くに飛ばされた絵里を追って穂乃果が駆ける。
 絵里に迫る穂乃果を阻もうと真姫も走るが、途中でことりの邪魔が入った。


ことり「行かせない!」

真姫「どいてっ!」


 大鎌と白刃がぶつかる脇を通過して、穂乃果は鉄球をぐるんと回す。
 吹き飛ばされた絵里は背を向けたまま、未だ地面に両手を付いている。


穂乃果「絵里ちゃん……!」


 絵里は穂乃果の接近に気付くも、腕を上げることさえできない。
 その無防備な体に、穂乃果は狙いをつけ、鉄球を投げつけた。
473: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:42:56.03 ID:U6Eer0lc.net
ことり「……………………あっ」


 真姫を妨害していたことりの手が止まる。
 ことりの視線の先を追って、真姫もまた攻撃の手をピタリと止めた。

 瞑っていた瞼を開き、絵里は前方に目を向ける。
 少し離れた位置に立っている穂乃果の驚愕している表情が目に入った。


絵里「……?」


 完全に隙を見せたところに襲いかかってきた鉄球。
 被弾した感覚の無いことを疑問に思う。

 座り込んだ体勢のままで顔を上げた。


絵里「…………あ」

穂乃果「……来たね」


 攻撃を邪魔された穂乃果は、思わず苦笑いを浮かべた。


海未「…………答えを、出してきました」


 ゴトン、と。
 海未の足元に、勢いを失った鉄球が音を立てて転がった。
475: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:49:30.18 ID:U6Eer0lc.net
『屋上』 ことり・穂乃果 対 真姫・絵里 対 海未


 五人目のプレイヤーの登場で、目まぐるしく動き回っていた乱戦模様が動きを止めた。


海未「ずっと、考えていました」


 戦っていた四人の視線を受けながら、海未は話し出す。


海未「私のために争ってくれているみんなに、応えなければならないと」

海未「意見が大きく二つに分かれたのなら、そのどちらかに付くか、明確にしなければならないと」

海未「ゲーム内でみんなの意見を聞いて回り、どちらの立場に付くのか、ずっと考えていました」

海未「そして、決めました。私なりに、答えを選びました」

海未「…………ですがその前に……穂乃果」

穂乃果「……なに?」

海未「穂乃果からは、まだ話を聞けていませんでした。穂乃果がなぜライブを止める側についたのかを」

海未「話を聞かせてもらってもいいでしょうか」


 海未の表情は穏やかで、曇り一つなかった。
 迷った先に辿り着いた目的地で、目の前を覆っていた霧が晴れたかのように。


穂乃果「……いいよ」

穂乃果「私も、海未ちゃんと話がしたかったから」
476: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:52:20.34 ID:U6Eer0lc.net
穂乃果「私は前に一度、海未ちゃんみたいに倒れたことがあったよね」

穂乃果「しかもタイミングも酷くて、結果的にμ'sの今後を左右することになった」

穂乃果「ことりちゃんの留学の件もあったから、色々バタバタさせちゃったね」

ことり「……うん」

海未「そうでしたね」

穂乃果「私が倒れて……みんなのライブの機会を失わせたことは本当に辛かったけど」

穂乃果「でもみんなが支えてくれたから、私はまた歌うことができた」

穂乃果「それを知ってるから、きっと今回だって、自分のことを責めちゃう海未ちゃんのことを支えることができる」

穂乃果「だから私は、今はライブを休んでもいいって思ったんだ」

海未「説得力のある話ですね」

穂乃果「実体験だからね!」

海未「……ありがとうございます、穂乃果」
477: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:56:23.88 ID:U6Eer0lc.net
 穂乃果の話を聞いた海未は、顔を上げて息をついた。
 遠く夜の空を眺めている。
 まるで己の考えを改めて整理しているかのように。


海未「……今の穂乃果の話も含めて、どちらの味方に付くか決めました」

海未「もっとも、無闇に争いを止めないと言った上でこうして介入したことで、既に決意表明はしたようなものですが」


 海未はこの場にいる一同を見渡した。
 背後にいる絵里。
 向かいの穂乃果。
 その後ろの真姫。

 最後に、ことりと目が合った。
 ことりと見つめ合いながら、しばらくの間、そのまま黙っていた。


海未「……………………私は、ライブがしたいです」

海未「ですから私は、【チームライブ強行】側の意見に、賛同します」
478: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:58:05.72 ID:U6Eer0lc.net
真姫「海未……!」

穂乃果「…………そっか」


 一つ、大きなことを言い終えたように、海未は深く息をついた。


海未「……次のライブで、歌って踊っている私たちの姿を思い浮かべてみたんです」

海未「壇上に九人揃い、練習を積み重ねた成果を披露する姿を」

真姫「……本当に、そうできたらいいわね」

海未「本来ならば、体調面の不良で倒れた私は自粛すべきなのでしょう。頭ではわかっています」

海未「それでも、ライブをしたいと……最後まで願ってしまったんです」

海未「今はゲームの世界なので元気ですが、現実世界ではまだ体は重い」

海未「明日からすぐに練習を再開しようとしても難しいでしょう」

海未「ですが、可能性があるのなら、ライブに挑戦してみたいです」

海未「それに……私がこんなにライブをしたいと望むのなら、きっとみんなだってそう思っているはず」

穂乃果「……そうだね。私にだってそういう気持ちはある。当たり前だよ」

絵里「ライブ、したいわね」

海未「みんなの気持ちを、これ以上損ねたくなかったんです」

海未「だからみんなのためにも、ライブをする方の意見を選びました」
480: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 22:58:58.25 ID:U6Eer0lc.net
 ぴくり、と。
 海未の意向を受け止め、静かに話を聞いていたことりの眉が微かに動いた。

 その視線の先で、海未は話を続けている。


海未「ライブに挑戦して、また体調を崩しても、本番までに私が間に合わなくとも、後悔はしません」

海未「今はみんなとライブを目指して頑張りたい」

海未「なので結論として、私は【チームライブ強行】側に付きます」

真姫「じゃあ、海未」

絵里「私たちと一緒に……」

海未「ですが」


 海未は全員から視線を切る。
 絵里の前から移動して、全員から距離を取っていく。

 十分離れた場所まで歩いたところで、四人の方を振り返った。


海未「どちらにつくかは決めましたが……私は、自ら戦うことは選びません」
484: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 23:01:46.95 ID:U6Eer0lc.net
真姫「…………どういうこと?」


 味方になると知って喜んでいた真姫が気色ばむ。
 他のメンバーも、発言の意図がよくわからないという表情をしていた。


海未「私はライブを強行するという、真姫や絵里たちの立場と同じ側に付きます」 

海未「しかし、ことりや穂乃果たちの意見と比較してどちらを選ぶか、最後まで大きな差は付けられませんでした」

海未「気持ちの差を、割合で言えば六割と四割の差、パーセンテージならば51%と49%の差」

海未「それくらいの最小単位の差で選んだ結論なんです」

海未「ですから私は、この僅かな差の分だけ、真姫たちに味方しようと決めました」

海未「先程穂乃果の攻撃を防ぎ、一度だけ助力したことで、この差は既に埋まってしまったんです」

海未「なので……私はこれ以降戦いに参入しません」

海未「私の力が働くのではなく、みんなが掴み取った結論を答えにしたい」

海未「みんなの戦いを見守り、最終的に決まった結果を、私は受け入れたい」

海未「それが私が出した結論……私なりの、ゲーム内での戦い方です」
485: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 23:04:55.42 ID:U6Eer0lc.net
 しん、と。
 月夜に照らされた屋上に静寂が訪れる。
 皆、海未の話を受け止めるために、胸の内でゆっくりと吟味していた。


絵里「……私はそれでいいわ」


 真っ先に声を上げたのは絵里だった。


絵里「私は、一度攻撃から守ってくれただけで十分感謝してる。これで終わったと思ってたもの」

絵里「けれどそれを救ってくれた……私たちに対して力を貸してくれたっていう、明確な結果ね」


 右の巨腕の具合を確かめるよう何度か開閉してから、海未に笑みを見せた。


絵里「ありがとう、海未。助けてくれたあなた、格好良かったわよ」

海未「……この程度の助力しかできずに、すみません」

真姫「…………そう」


 諦めたように、真姫は溜め息をついた。


真姫「そうしたいって、海未は決めたのね」

真姫「それが、海未が最後に出した結論なのね……」
486: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 23:07:34.40 ID:U6Eer0lc.net
海未「……みんなと同じフィールドに立つため、明確な答えは出すべきだと思いました」

海未「その一方で、私はやはり、結果自体はみんなに任せるべきだとも感じました」

海未「みんな、私のために争ってくれていたのです」

海未「最後まで……私は見守っていたい」

真姫「どっちつかずのようで、そのくせはっきり線引きしたようでもあって……ふふ」

真姫「いいんじゃない。海未らしい結論よ」

海未「ありがとうございます」

穂乃果「私もそれでいいよ!」


 大きく頷く穂乃果に対して、海未は申し訳なさそうな表情を返した。


海未「一時的にですが私が戦いに参戦して、穂乃果の攻撃を止めたことで、戦いの結果が変わるかもしれません」

海未「もしくは変わらないまま、決着がつくのかもしれません」

海未「そのどちらに傾いたとしても、私は最後に辿り着いた結果に従います」

穂乃果「大丈夫、結果は変わらないから!」

絵里「言ってくれるわね」

穂乃果「へへっ」

穂乃果「だから海未ちゃんは、自分の決めた答えに胸を張って、私たちの戦いを見てて!」
487: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 201