絵里「雨と蜜柑とコーヒーと放課後」

シェアする

にこのぞえり-アイキャッチ3
1: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:26:29.93 ID:zYLMCVzY0.net
にこのぞえりが蜜柑を食べてコーヒーを飲むSS、短編です

※地の文あり、絵里視点です
※晩秋もにこのぞえり

以上よろしければ、先にお進みください

元スレ: 絵里「雨と蜜柑とコーヒーと放課後」

スポンサーリンク
2: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:28:38.14 ID:zYLMCVzY0.net
「この雨が止んだら、ぐっと寒くなるらしいよ」

 希は向かいで丁寧に蜜柑を剥きながらそう言った。私は筋まで綺麗にとってからもそもそと頬張る希を見ながら、
意外と蜜柑の剥き方ひとつにも性格は出るのかしら、とそんな風に思って、

「秋霖、と言うらしいわ。この季節のこういった雨のこと」

 と、さっきにこに淹れてもらったコーヒーで掌を温めながら返した。

「へぇ、絵里って物知りなのね」

 蜜柑を頬張りながら微笑む希の奥で、自分の分のコーヒーを淹れるにこは、
そう言うとふうふうと湯気を逃しながら希の隣へ腰掛けた。

 朝から降り続くこの雨のせいで外はまだ放課後になったばかりの時間だというのに薄暗い。
そのせいか、今私たちのいるアイドル研究部部室を蛍光灯の灯りがいつもより煌々と照らしているような気がする。
私は立ち上がって、水たまりとぬかるみに足を取られないように帰っていく傘の群れをぼんやり眺めていると、
窓ガラスに映る惚けた顔の私と目が合って少し照れくさかった。
3: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:29:52.97 ID:zYLMCVzY0.net
「そう言えば、みんな遅いわね」

「あぁ、穂乃果ちゃん達は生徒会、真姫ちゃんと凛ちゃんは風邪ひいた花陽ちゃんのお見舞いに行くって言っとったよ」

「えっ、そうだったの? なんで誰もにこには言ってくんないのよまったく……」

「グループのLINEでみんな言ってたわよ、にこ」

「えっ……あっ、ほんとだ。にこにーったら、早とちりっ」

 所謂てへぺろポーズでその場を乗り切ろうとするにこに私と希はただただ苦笑いを浮かべて――
それからは、この部室に静けさが訪れた。誰も無理に話そうとも、笑おうともしない。
再び腰掛けた私の向かいで、希は三つ目の蜜柑を丁寧に剥くことに夢中だし、にこはひと仕事終えたと言わんばかりに、
コーヒーをゆっくり飲みながら何処からともなく取り出したアイドル雑誌のチェックに余念が無い。

 私はこの静けさがとても好きだ。三人がそれぞれのしたい事をしながら、三人でいる事を感じられる――この静けさが。

 私たちは元々、人当たりだけは良いのに人見知りで独りよがりな人間だった。希は人当たりの良さで本音を隠して、
にこは人見知りだからこそアイドルであろうとした。そして私は、独りよがりで孤独に酔っていた。

 そんな私たちを変えてくれたμ’s、その思い出が詰まっているこの部室で、私たち三人が一緒にいながら、
同じ静けさに身体を預けていられること――それがとても幸せだと思えた。
4: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:31:06.91 ID:zYLMCVzY0.net
「それにしてもよく降るわね、この二三日ずっとじゃない」

「そうね、最終予選も近いのに練習も出来ないのはちょっともどかしいわね」

「ほんと。まぁたまにはこんな日も――って希? あんた一体何個蜜柑食べるつもりなのよ」

「ふぇ? にほっひもいふ?(にこっちもいる?)
んぐ。いやぁこの前お母さんが送ってくれたんやけど、美味しくて……二人にもお裾分けしよ?」

「あぁ、ありがとう」

「私もいただくわね、希」

「どうぞー」

 そうして私たちは部室の机に向かい合いながら、今度は三人でもそもそ、蜜柑を剥き始めた。
にこは筋はあまり取らずに、私は薄皮まで剥いてから、それぞれ口に放り込む。
5: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:32:20.32 ID:zYLMCVzY0.net
「あら、ほんと。甘くておいしいわね」

「せやろー。こころちゃん達にも持って帰ってあげて?
ダンボールいっぱい送ってくれたから、一人やときっと食べきられへんし」

「ありがと。って! あんたそんな山盛りの蜜柑どっから出したのよ⁉︎」

「どこって……カバンから。あっえりちも亜里沙ちゃんに持って帰ってあげて? おいしいやろ?」

「えぇ、ほんととても甘いわね。亜里沙も喜ぶわ。どうもありがとう」

 希に手渡された小袋にはにこのものと同じように蜜柑が八つ、九つと入っていて……
確かにこれどうやってカバンに入れてたんだろう。そんな事を思ったがきっと希の事だ。
スピリチュアル、というやつなんだろうと、私は四つ目でやっと納得のいく剥き方が出来た果実を、
小さな達成感と共に口へ放り込んだ。うん、とても甘くておいしい。
6: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:33:09.97 ID:zYLMCVzY0.net
「いやぁ、二人にお裾分け出来て良かった。また食べたかったら、うちが食べ切っちゃう前に言ってね?」

「これだけあればしばらくいいわよ。それにあんまり私たちが蜜柑ばっかり
食べてたら真姫が拗ねるわよ? あの子確か食べられないでしょ、蜜柑」

「あぁ、そう言えばそうね」

 私にはお裾分けが出来た、と心から喜ぶ希と、些細な心遣いを決して忘れないにこが映った。
私はこの二人のおかげで、私のままここに居られるんだと、そんな事を思った。
8: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:34:02.62 ID:zYLMCVzY0.net
「んー? なんかえりち今日元気ないね。疲れでも溜まってるのかな?」

「いいえ、そんな事はないのよ。ただ……」

「ただ、どうしたのよ? 調子悪いんだったら帰りましょ、花陽に続いて絵里まで調子悪くなったら困るわ」

 そう言って私の瞳を覗き込むにこと希からは、私を心配してくれているからこそ、
心配しているような顔をしないという気遣いが伝わった。

 私が緩く微笑むと、二人は戸惑うようにしながら私の言葉を待っている。
9: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:35:18.79 ID:zYLMCVzY0.net
「なんか、いいなぁって思ったの。私には希とにこがいて、μ’sがあって。
いい仲間と、いい友達を持って良かったなって二人を見て思っていたの」

 そう言うと二人は顔を赤らめ、希は「え、えりち……」と俯いているし、
にこは「あんた何を言いだすのよ」と照れくさそうにしている――あれ? 今私そんな変なこと言った?

「そう言うことじゃなくて。ほんと、絵里って突然恥ずかしくなるようなこと言うわよね。さすがのにこにーも照れるわよ」

「ほんまになぁ……えりちは天然さんやから」

「えぇ……思ったこと言っただけよ……私」
11: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:37:25.13 ID:zYLMCVzY0.net
 思ったことがうまく伝わらないと、落ち込んでしまう。
私は軽く口を尖らせてため息を吐くと、二人はそんな私を見てやれやれ、と言わんばかり微笑んだ。

「えぇ。そうね。絵里はそれでいいと思うわ。ちゃんと伝わってるし……それに、にこだってそう思ってたところよ」

「うん、うちも。何も話してなくても、何もしてなくても、一緒にいるだけで心地いい――
そんな友達が出来て、うれしくて……気付いたら蜜柑いっぱい食べてた」

「だからあんなにリスみたいにもそもそ食べてたの?」

「うん……えへへ」

 その言葉に私も頬が緩んだ。これからもまだまだ、たくさんこうやってわかり合っていけるのが、楽しみになったからだ。

 私たちは元々、人当たりだけは良くて人見知りで独りよがりな人間たちだった。
だから穂乃果たちのような時間をかけて深めた絆も、真姫たちのような出会いもありはしなかった。
けれど、生まれも育ちも、蜜柑の剥き方一つから違う私たちが今こうして、長い間一人一人だった私たちが今こうして、
三人で過ごす時間はどこにもない奇跡みたいなものなのかもしれない――希がくれた蜜柑の、
その最後の一切れが今までで一番甘くて、にこの淹れてくれたコーヒーが、冷めていてもとても暖かかったように。
12: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:38:37.58 ID:zYLMCVzY0.net
「そろそろ、私たちも帰ろっか?」

「ええ、そうね――そうだ、今日は三人で相合傘でもして帰らない?」

「やーよ、にこは傘持ってるし。ってか三人で相合傘って、あんた欲張りすぎでしょ」

「あら、私は希もにこもどっちも大好きよ? 二人のうちどちらか選べと言われたら……二人ともさらって逃げるわね」

「だから……あんたは……」

「もう……えりちってば……」

 どうやら私はまた二人を赤面させてしまったらしいようで。
決まりの悪さに、三人揃って冷めたコーヒーを飲み干すと――
あんまりまずくて、顔を見合わせて笑った。
13: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイW 69d8-FPhQ) 2015/10/26(月) 06:41:49.17 ID:zYLMCVzY0.net
以上でございます。
今朝になって急に冷え込みました、皆様も風邪などひかないよう気をつけて下さいね
それではまた、どこかで
スポンサーリンク

シェアする

フォローする

『絵里「雨と蜜柑とコーヒーと放課後」』へのコメント

コメントの投稿には初回のみDisqusへのアカウント登録が必要です。Disqusの登録、利用方法を参考に登録をお願いします。
表示の不具合、カテゴリーに関する事等はSS!ラブライブ!Disqusチャンネルにてご報告下さい。