【SS】亜里沙「13月」

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亜里沙-アイキャッチ3
1: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:10:51.94 ID:eC5LpZFV.net
ねえ、13月って、どんな月なのかな?
もし、それを望んでもよいのだとしたら……

(中略)

でも、13月について語ろうなんて、大それたことはやめようか。
霞がたなびいて、13月の顔は、かくれたままだ。
わたしたちは、思い知らされるんだ。
12枚の古い絵から、新しい絵はつくれないってことを。

(中略)

耐えてくれ、わたしの心。
旅は、廻りながら進む。
12月のあとには、1月がくる。

     (エーリッヒ・ケストナー、『13月』より)

元スレ: 【SS】亜里沙「13月」

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3: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:12:22.22 ID:eC5LpZFV.net
【絢瀬家、絵里の部屋】

亜里沙(ノックしてドアを開ける)
   「お姉ちゃん、あけおめ!
    まだちょっと早いけどね」

絵里 (おどろいて赤本を閉じ、顔を上げる) 
   「ヌ?」

亜里沙「お姉ちゃん、受験勉強でいっぱいいっぱいなのは分かるけど、
    せめてヒューマン語をしゃべってくれないかな?」

絵里 「ふふふ、ごめんね。
    急にドアがあいたから、びっくりしちゃって。
    あけましておめでとう、亜里沙」

亜里沙「ことよろ!」
5: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:13:54.66 ID:eC5LpZFV.net
絵里 「ごめんなさいね。
    亜里沙も受験勉強をがんばってるのに、
    姉の私が、余裕のないところを見せてしまって……」

亜里沙「無理もないよ。
    だってお姉ちゃんには、ライブの決勝大会もあるんだもんね。
    亜里沙、今からすっごく楽しみなんだ!
    ぜったい見にいくからね!
    だけど……」

絵里 「だけど、どうしたの? 亜里沙」

亜里沙「どうして12月のあとには、1月がくるのかな?
    なんだか、少しずつ色んなことが終わりに近づいてる気がして、寂しいんだよ。
    亜里沙、ずっと中学生でいたかったな。
    亜里沙、ずっとμ’sのライブを見ていたかったな。
    ねえ、お姉ちゃん……」

絵里 「何かしら?」

亜里沙「12月のあとには、13月がくればいいのにね。
    いままでみたいな毎日が、ずっと続けばいいのにね」
7: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:15:59.82 ID:eC5LpZFV.net
絵里 「……そうね。私も、寂しいわ。
    でも、かしこいかわいいアリーチカなら、わかるでしょ。
    12月のあとには、1月がこなきゃいけないの」

亜里沙「どうして?
    そんなこと、誰が決めたの?」

絵里 「カレンダーの神さまが決めたのよ」

亜里沙「亜里沙、カレンダーの神さま、知ってるよ!
    雪穂のお父さんだよね!
    だって雪穂のお父さん、毎年、うちに和菓子の写真入りカレンダーをくれるもんね」

絵里 「うーん、たしかに穂むら和菓子店は、お得意先に毎年カレンダーを配ってくださるわね。
    そうか、穂乃果のお父さん、カレンダーの神さまだったのか。
    ずいぶん身近なところに、おわしましたのね。
    じつにハラショーだわぁ」
8: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:18:06.96 ID:eC5LpZFV.net
亜里沙「ねえねえ、お姉ちゃん。
    それならどうして、雪穂のお父さんであるところのカレンダーの神さまは、
    12月の次に1月がくるようにしたの?」

絵里 「だって、カレンダーを毎年おんなじ絵柄にするわけにはいかないからね」

亜里沙「どうして13月の絵を、新しく描くことができないの?」

絵里 「12枚の古い絵からは、もう新しい絵を描き出すことはできないのよ。
    新しい絵を描くためには、新しい年を、いちから始めないといけないの」

亜里沙「でも亜里沙、μ’sの絵なら、いつまで見ていても飽きないよ!
    新しい絵が無くたって、いつまでも……」

絵里 「ありがとね。
    でもお姉ちゃんは、新しい絵が見たいな。
    すてきな高校生として4月の絵を飾る、亜里沙と雪穂ちゃんが見たいな」

亜里沙「……」
10: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:24:08.34 ID:eC5LpZFV.net
絵里 「さあ、亜里沙、神田明神に二年参りに行きましょうか。
    お願いしたいことはたくさんあるからね。
    ライブの成功祈願、合格祈願、家内安全……
    それから、エセ関西弁の習得祈願」

亜里沙「神田明神さまは、エセ関西弁まで教えてくれるの?」

絵里 「そうなのよ……せやねん。
    希がそう言って……言うとってん。
    神田明神さんは、難波の神さまと仲良しなんやって。
    難波の神さまは、江戸っ子の言語中枢に、エセ関西弁パワーを注入してくれるんやって」

亜里沙「難波の神さまは、どうやって東京まで来たの?
    Suicaを使って、電車で来たの?」

絵里 「いいえ、ICOCAで来たのよ」

亜里沙「カッコいー! なにそれ?」

絵里 「関西人が、駅の改札で唱える魔法の呪文よ。
    『これを唱えればどこにでも行けるんよ』って希が言ってたわ。
    実にグローバルでハイテクな響きの言葉よね」

亜里沙「ハラショー……」

絵里 「ほな、ICOCA、亜里沙」

亜里沙「おう、ICOCA、お姉ちゃん」
11: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:26:02.80 ID:eC5LpZFV.net
お姉ちゃんの言葉は、いつも亜里沙を元気づけてくれます。
ときどきポンコツだと言われますけど、お姉ちゃんは、ほんとはかしこいんですよ。
だって、お姉ちゃんのポンコツな言葉はすべて、みんなを元気づけるための言葉ですから。
小さい頃から、いつもお姉ちゃんは、そうやって亜里沙に色んなことを教えてくれました。
亜里沙、そんなふうにかしこいお姉ちゃんが大好きです。
12: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:27:23.05 ID:eC5LpZFV.net
それから、μ’sの歌と踊りも、いつも亜里沙を元気づけてくれます。
もちろんその中には、お姉ちゃんもいます。
お姉ちゃんは、μ’sに入ってから、またすてきな笑顔を見せてくれるようになりました。
小さい頃、バレエのステージで見せてくれた笑顔と、おなじ顔。
亜里沙、そんなふうにかわいいお姉ちゃんも大好きです。
13: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:28:42.06 ID:eC5LpZFV.net
亜里沙は、お姉ちゃんのように、かしこいかわいい高校生になれるのかな?
自分が元気づけてもらえたように、誰かを元気づけることができるのかな?
掃除機に言うと(注1)、ぜんぜん自信がありません。
だから、ジンジャーで乾杯して(注2)「すてきな高校生になれますように」ってお願いするのが、怖いんです。
カレンダーの神さまが来ていたら、こっそり、別のお願いをしてみようかな。

ああ、カレンダーの神さま。
12枚のμ’sの絵が描いてある、応募者限定サービスの特製カレンダーをもらえますように。
そして最後のページには、『13月につづく』って書いてありますように。


――――――――
(注1)正直に言うと。
(注2)神社で参拝して。
――――――――
14: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:41:45.48 ID:eC5LpZFV.net
【神社の参道】

絵里 「うー、やっぱり夜は冷えこむわね。
    亜里沙、寒くない?
    大事な時期に風邪をひいたら大変だから、寒かったらお姉ちゃんのホッカイロを……」

亜里沙「大丈夫だよ。
    亜里沙、ちゃんと自分でホッカイドー持ってきたから」

絵里 「ずいぶん力もちなのね、亜里沙……
    北海道じゃなくてホッカイロ、ね。
    それにしても、こういう寒い日は、ロシアのことを思いだすわね」

亜里沙「寒い日も、よく二人でバレエ教室に通ったよね。
    お姉ちゃんのほうがずっと上手だったけどね。えへへ……」

するとお姉ちゃんが、優しく笑って、亜里沙の頬にホッカイドーを当ててくれました。

絵里 「そんなことはないわ。亜里沙。
    あなたの踊りは、私よりもずっと、朗らかだった。
    見ている人を惹きつける力をもっていたのよ。
    泣きべそをかきながら踊っていた私より、ずっとね」
15: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:45:12.17 ID:eC5LpZFV.net
亜里沙「いや、亜里沙は、お姉ちゃんの踊りを客席で見てるほうが、好きだったな。
    青森上がりのお客さんといっしょに、お姉ちゃんの入賞を岩手、
    もらったお宮城の包みを秋田こと、まだ覚えてるよ。
    こうして思いだすと、なんだか福島梨みたいだね」

絵里 「亜里沙、北海道から東北地方へと南下しているのね。
    大盛り上がりのお客さんと一緒に、私の入賞を祝ってくれて、
    もらったお土産の包みを開けたこと、まだ覚えてくれてるのね。
    たしかに、こうして思いだすと、なんだか昔話みたいね。
    お土産は、フルーツケーキだったかしらね。
    どんな味がしたんだっけ」

亜里沙「山形。ちょーおいしかった」

絵里 「ヤバかった、ちょーおいしかった、のね。
    若干強引なところもあったけど、これで東北地方を踏破できたわね。
    ふふふ、亜里沙、最初はほんとに言い間違えてたみたいだけど、
    岩手あたりからはわざとだったんじゃない?」

亜里沙「えへへ」

絵里 「お姉ちゃん、うれしいな。
    ダジャレが言えるようになったってことは、
    日本語がすごく上達したってことだからね」
16: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:48:29.12 ID:eC5LpZFV.net
亜里沙「そんなわけで、亜里沙はこれからもお姉ちゃんの活躍を応援するよ」

絵里 「応援してくれるのはありがたいけど……
    亜里沙、なにか自分でやってみたいことはないの?
    何でもいいのよ。あなたのほんとうにやりたいことを……」

亜里沙「宗谷ね……まだ亜里沙には、稚内よ」

絵里 「こんどは、いきなり最北端に飛んだのね。
    でも、たしかに宗谷ね。まだ焦る必要はないわ。
    高校に入学してから決めても、遅くないもんね。
    ついこないだまで決められなかった私が、偉そうなこと言えないわね。ふふふ」

そうやね……まだ亜里沙には、わかんないよ。
亜里沙は、最近めきめきと上達した日本語能力を駆使したダジャレによって、本音を隠しました。
ねえ、お姉ちゃん。
亜里沙、ほんとは、お姉ちゃんみたいなスクールアイドルに、憧れてるんだよ。
でもこんなこと、言えないな。
これまでずっと応援してきたスクールアイドルに、自分が入ってみたいなんて、言えないな。
だからずっと、客席でサイリウムを振っているままでいいよ。
お姉ちゃんが卒業しない、私が入学しないカレンダーの中で。

亜里沙「ウラジヴォストーク!」

絵里 「わああ、必殺技みたいなことを言ってホッカイドーを私の首に当てるのはやめて!
    ついにロシアに上陸したのはいいけど、もはやダジャレですらないじゃない……
    あはは、くすぐったい、くすぐったいから!」
17: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:49:45.90 ID:eC5LpZFV.net
【神社の境内】

希  「あけましておめでとう、絵里ち、亜里沙ちゃん」

絵里 「あけましておめでとう、希」

亜里沙「あけましておめでとうございます、希さん!」

絵里 「今年は、巫女さんのアルバイトはお休みなのね」

希  「せやね。受験もあるからね」

にこ 「オエー」

希  「にこっち、あけましておめでとう。
    まだ、受験という言葉に免疫つかへんの?」
18: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:52:50.88 ID:eC5LpZFV.net
にこ 「あけましておめでとう。
    真姫が私に、受験勉強しろしろってうるさいのよ。
    言われなくても分かってるっつーの、あいつめ……」

真姫 (背後から近づき、耳もとで囁く)
   「サイン、コサイン、タンジェント……」

にこ (むせび泣く)

真姫 「別に、一年生の分際で、にこちゃんに勉強を教えようなんて、
    生意気なことを言ってるわけじゃないのよ。
    ただ、矢澤先輩のなかなか点火されないやる気スイッチを、
    無理やり焚きつけるくらいのことは、してあげないと。
    にこちゃんは、やればできるのよ」

にこ 「それにしたって、あんまりよ。
    至近距離で数学用語を唱えられることによる精神的苦痛は、
    ホーテーに訴えるに値するわ。
    起訴してやる、復讐してやる!」

真姫 「そんなことするヒマがあったら、五教科の基礎を復習なさい」

にこ (嗚咽する)
19: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:54:19.15 ID:eC5LpZFV.net
亜里沙「に、にこさん……
    私から偉そうなことは言えないですけど……
    受験、がんばってください」

にこ 「ありがとう、亜里沙ちゃん。
    亜里沙ちゃんにそう言われたら、
    θなんていう食べかけのキノコの山みたいなフザケた記号に向き合う勇気が湧いてきたわ。
    亜里沙ちゃんも、高校受験、がんばってね。
    絵里から聞いたけど、音ノ木坂を目ざしてるんだって?」

亜里沙「はい、そうです!」

にこ 「ふふふ、そんなにかしこまらなくていいのよ。
    亜里沙ちゃんは、どこぞのポニーテールのお姉さんとは大違いで、素直で朗らかよね。
    亜里沙ちゃん、スクールアイドルの素質があるかもね。
    私たちがいなくなったあとでも、あなたならきっと……」

希  「にこっち、そういう話は、決勝大会が終わるまで禁句って言ったやろ。
    でもたしかに、亜里沙ちゃんは、スクールアイドル、似合いそうやね……
    あ、ごめんな亜里沙ちゃん、ほかにやりたいことがあるなら、
    うちらの言うこと気にせんと、好きなことをやってな」

亜里沙「えへへ。
    私がやりたいことは……みなさんの応援ですよ。
    それ以上でも、以下でもありません」
20: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:55:27.72 ID:eC5LpZFV.net
そう言って亜里沙は、お茶を濁しました。
にこさんと希さんからそう言われるのは嬉しくもあったけど、それ以上に、居たたまれなかったのです。
じぶんの話をすることが、μ’sのうちの三人が「いなくなる」話につながるのが怖かったのです。
ファンとして、これほど恐ろしい話題があるでしょうか。
そんな寂しい話をせずにすむには、どうすればいいのやら。
そう思いながら、あてどなく辺りを見まわすと、はたして、話の接ぎ穂が見つかりました。
いや、より正確にいうと、雪穂が見つかりました。
21: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 21:58:54.92 ID:eC5LpZFV.net
雪穂 「おーい、あけおめ、亜里沙!」

亜里沙「謹んで新年のオヨロコビを申し上げます!
    カレンダーの神さま……のご息女さま!」

雪穂 「どうしたんだよ、亜里沙!
    私だよ、雪穂だよ!」

亜里沙「お父さまはご一緒ではないのですか、神の子、雪穂よ」

雪穂 「おいアリーチカ、新年早々、何があったんだよ!
    ちなみにお父さんは、家でアンコとキナコを作ってるよ」

亜里沙「カレンダーだけでなく、アンコとキナコまで創造するとは、さすが神……」

雪穂 「髪? うん、確かにお父さんの髪はまだあるよ。
    ていうかカレンダーって何だ……
    わああ、どうして絵里さんまでお辞儀してるんですか!
    何の罰ゲームをやらされてるんですか?
    お願いですから頭を上げてください!」
22: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:00:36.47 ID:eC5LpZFV.net
にこ 「雪穂ちゃん、絵里が不可思議なことをするのは、
    今に始まったことじゃないから、気にしなくていいわ」

希  「穂乃果ちゃんたちと合流したら、みんなで参拝に行こうね」

絵里 「毎年、カレンダーの神さまには、お世話になっております。
    ペコります、ありがとう」

雪穂 「ああ、もしかして、このカレンダーですか?
    商売ですから、お得意さまに配ってるんですよ。
    そんな大したものじゃないから、裏にお絵描きでもしてくれればいいんです。
    今日もみなさんのお宅に配るように、持たされちゃって。
    ちょっとくらい遅くなってもいいのに、融通がきかないんだから、お父さんたら」

そう言って雪穂は、私たちにカレンダーを配ってくれました。
当然のことながら、1ページ目は、13月ではなく、1月でした。
24: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:02:30.05 ID:eC5LpZFV.net
亜里沙「まあ、そりゃそうか……
    でも、カレンダーの神さまなら、どうにかしてくれると思ったんだけどな」

雪穂 「何をどうすればいいの?」

亜里沙「ゆく年の12月が、最後のページにならないようにしてほしいの。
    最後のページだと思ってめくったら13月に続いてるみたいな、安心カレンダーがあったらなあ……
    とはいえこのカレンダー、すごくきれいだよ、ペコリます、ありがとう!
    わあ、この写真の和菓子、おいしそう!
    なにこれ、シュークリーム?」

雪穂 「亜里沙……」

雪穂は、それから、何かを察したようすで、考えごとをはじめました。
それから私たちは、穂乃果さんたちと合流して、みんなで新茶で乾杯……じゃなかった、神社で参拝しました。
25: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:05:09.20 ID:eC5LpZFV.net
二拝、二拍手、一拝。
頭を下げながら、お願いをしました。
お願いの数は、役割の数だけあります。
孫として、娘として、妹として、友達として、中学生として……

いろんなお願いをしたあとで、最後にもう一つ、お願いをしました。
μ’sのラストライブが、うまくいきますように。
これは、μ’sの一ファンとしてのお願いです。

でも、心のどこかで、私は別のお願いをしていました。
ラストライブなんかせずに、ずっとμ’sが解散しないでいてくれますように。
これも、μ’sの一ファンとしてのお願いです。

もちろん、月日が廻りながらも前に進んでいくかぎり、後者のお願いが叶うことはありません。
それくらい、亜里沙にも、わかっているんです。
そのあと私は、みんなで甘酒を飲んで、新しいカレンダーをもって、お姉ちゃんと家に帰りました。
26: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:06:44.37 ID:eC5LpZFV.net
【数日後、絢瀬家、亜里沙の部屋】

三が日が終わって間もないある日のこと、雪穂が家に遊びに来ました。

雪穂 「おじゃましまーす、亜里沙。
    勉強は順調?」

亜里沙「うーん、どうにかこうにか。
    ところで今日は、急にどうしたの?」

雪穂 「うふふ。
    お勉強をがんばってる亜里沙ちゃんに、お年玉をあげようと思ってね」

そう言って雪穂は、プレゼントの箱をかばんから取り出して、亜里沙に手渡してくれました。

亜里沙「ハラショー!
    ありがとう、雪穂。
    いま開けてみてもいい?」

雪穂 「ハラショー」

亜里沙「これ……アルバムだ!」
29: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:08:22.92 ID:eC5LpZFV.net
雪穂 「亜里沙、この前、神社で言ってたよね。
    12月のあとにも続くカレンダーが欲しいって。
    残念ながら、カレンダーの神さまであるお父さんは、それを用意できなかったけどね。
    そこで、代わりといっちゃあ何だが、カレンダーの神の娘である私が、
    12月が過ぎても終わらないものをプレゼントしようと思ったんだよ」

亜里沙「アルバムは、カレンダーと違って、12月のあとにも続きがあるの?」

雪穂 「うん。そうだよ。
    アルバムは、自分で好きな日付を入れられるからね。
    亜里沙、μ’sの写真が好きで、よく撮ってたよね。
    それを一枚ずつ、ここに収めていくというのはどうかな」

亜里沙「わー、すごくステキな考え!
    雪穂だいすき! ありがとう!」

雪穂 「わああ、急に抱きついたら危ないよ、亜里沙!」

実はこのとき、私の心に、ひとつの思いつきが生まれていました。
とはいえそれは、まだ雪穂には黙っておこう。
そのあと雪穂と私は、今までに撮った写真や、もらった写真を、さっそくアルバムに納めました。
31: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:09:57.16 ID:eC5LpZFV.net
最初のページには、オープンキャンパスでのライブの後の写真。

雪穂 「ほらこれ、初めて9人そろったときのライブでしょ。
    なんだか、ずいぶん前のことみたい」

亜里沙「お姉ちゃんがこんな笑顔になったの、久しぶりだったな。
    μ’sに入る前は、笑わない王女みたいな厳めしい顔ばっかりしてたんだもん。
    あ、見て見て、こっちでは、希さんとお姉ちゃんが、顔を合わせて笑いあってる」
32: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:10:36.54 ID:eC5LpZFV.net
次のページには、海未さん特集その1。

亜里沙「ほら、これは、合宿のときの写真だよ。
    お姉ちゃんにお願いして、海未さんの写真を焼き増ししてもらったの」

雪穂 「水着を着て、恥ずかしがってるね」

亜里沙「何というか……すごくハラショーな写真だよ。
    いつ見ても、胸のドキドキを、おさえきれないよ」

雪穂 「こっちは、枕をもって暴れているね」

亜里沙「そんなワイルドな海未さんも、もちろん好きだよ」
33: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:11:21.23 ID:eC5LpZFV.net
次のページには、文化祭のライブの後の写真。

雪穂 「このときお姉ちゃん、風邪が治ったばっかりだったんだよね。
    すっかり元気になって、トレビアーンな笑顔を浮かべてる」

亜里沙「外は雨が降ってたんだよね。
    体育館のライブって、文化祭って感じがして、ステキだったね」
34: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:11:57.95 ID:eC5LpZFV.net
次のページには、講堂での二度目のライブの後の写真。

雪穂 「ライブが終わったあとの撮影会の写真だね。
    希さんが、スクールバッグを頭からかぶってるね。
    真姫さんはハゲカツラをかぶっているし、
    ことりさんはスケバンメイド服でヒョットコのお面をかぶってる」

亜里沙「ふふふ。みんなフリーダムな格好だね。
    講堂を満員にすることができて、はっちゃけていたのかもね」
35: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:12:58.56 ID:eC5LpZFV.net
次のページには、海未さん特集その2。

雪穂 「これはμ'sじゃなくて、2年生の修学旅行の写真かな?
    お姉ちゃんから海未さんの写真を焼き増ししてもらって、
    それを亜里沙にあげたんだったね。
    でも天気が悪かったせいで、今度は水着の写真がないね」

亜里沙「そのかわり、室内での写真は充実してるよ。
    これは海未さんがババ抜きで21連敗したときの表情。
    こんなビックリ顔の海未さんも、もちろん好きだよ」

雪穂 「海未さんのこんな顔、見るの初めてかも……」

亜里沙「これは、小一時間かけて作ったトランプタワーが崩れたときの表情。
    こんなお茶目な海未さんも、もちろん好きだよ」

雪穂 「海未さん……」
36: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:14:01.94 ID:eC5LpZFV.net
次のページには、ファッションショーでのライブの後の写真。

雪穂 「あ、これは、修学旅行の飛行機が欠航になったときに、
    6人でやったライブの写真だね」

亜里沙「控え室でかんぴょう巻きとイトコンニャクごはんを食べてるね。
    このときの凛さん、可愛くて、きれいだったなあ」

雪穂 「ほかの5人のタキシード姿もステキだったよね。
    とくに花陽さん、普段とのギャップが大きくて、かっこよかったね」
37: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:15:38.57 ID:eC5LpZFV.net
次のページには、秋のレクリエーションの写真。

雪穂 「ことりさんと花陽さんとお姉ちゃんが、気持ちよさそうに寝てるね」

亜里沙「校庭にテントを張ってお昼寝したみたいだよ。
    撮影したのは、うちのお姉ちゃん」

雪穂 「これは、海未さんと希さんと凛さんが公園で遊んでる写真だ」

亜里沙「ほんとは海未さんは登山がしたかったんだけど、都心に山があるはずもなく、
    近所の公園の遊具に山頂アタックを試みてるんだよ。
    そんなバイタリティあふれる海未さんも、もちろん好きだよ」

雪穂 「海未さん……」

亜里沙「最後はみんなで集まって、部室でカレーを食べてる写真だね。
    にこさんと真姫さんとお姉ちゃんが作ったのかな。
    こんな笑顔のにこさんと真姫さん、珍しいなあ」
38: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:17:32.79 ID:eC5LpZFV.net
次のページは、一次予選と最終予選のライブのあとの写真。

雪穂 「一次予選のときの海未さん、ちょっと疲れてるみたいだね」

亜里沙「何たって海未さんは、スクールアイドルをしつつ、
    弓道部と生徒会副会長を掛けもつというスーパーハラショーなヤマトナデシコだからね。
    でもそのせいで、このときは、ちょっと疲れがたまってたみたい」

雪穂 「でも最終予選のときは、疲れがとれて、清々しそうな顔してるね」

亜里沙「その活力の源は、これだよ。
    ほら見て。
    最終予選の直前に、穂乃果さんとことりさんに『ぎゅー』をしてもらって、
    弛みきった表情の海未さんの写真」

雪穂 「海未さん、いつもお疲れさまです……」

亜里沙「そんなリラックスした海未さんも、もちろん好きだよ」
39: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:18:55.90 ID:eC5LpZFV.net
雪穂とワイワイはしゃぎながら写真を見ていたら、写真を入れる作業はあっという間に終わりました。
それぞれのページに日付をいれたら、作業はおしまいです。

雪穂 「残りのページは、これからまた写真を一杯撮って、埋めていこうね」

亜里沙「やった! まだこんなにページが残ってるよ!
    これから、まだまだμ’sのステキな写真を集められるんだね」

雪穂 「ふふふ。そういうわけだよ。
    ところで、さっそく今週の週末に、
    うちで最終予選突破記念の餅つき大会を開くんだけど……
    もし受験勉強が忙しくなかったら、亜里沙も来ない?」

亜里沙「うん、モチのロンで行くよ!
    嬉しいなあ、新しい月のページを、新しい写真で飾れるんだね」

雪穂 「それじゃ、ダスヴィダーニャ、亜里沙!」

亜里沙「うん、ダスヴィダーニャ、雪穂!」
42: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 22:22:28.94 ID:eC5LpZFV.net
玄関先で雪穂を見送ったあと、私はひとりで部屋に戻りました。
アルバムの新しいページの日付は、何て書こうかな。
しばらく考えて、私は、日付の欄に、油性ペンで、でかでかと書きました。

13月

みんなが新しいカレンダーをめくっているときに、私だけが、古いカレンダーのつづきを見ようとしていました。
みんなが新年の1月へと歩みを進めているのに、私のアルバムの中だけは、古い年のカレンダーがかけっぱなしになっていたのです。
先になんか進みたくない。ずっと13月のままでいい。
こんな気持ち、雪穂にも、打ち明けられません。
この日から、私だけの、長いようで短い13月が始まりました。


-------------

※ つづきます。
50: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 00:27:46.86 ID:m9q9Bqk5.net
※再開します。
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【数日後、穂むらの店先】

雪穂との約束どおり、週末に、お餅つき大会に参加しに行きました。
私が駆けつけてみると、何ということでしょう。
大きなウッドハンマーをもった凛さんが、かがみこんだ海未さん目がけて、それを振り下ろそうとしているではありませんか。
このままでは、海未さんが、ラブアロー・ペチャンコになってしまう。
アネモネの王子さまが、アネモネの押し花になってしまう。
私は、海未さんに覆い被さって、叫びました。

亜里沙「だめー!」

海未 「わああ、亜里沙?」

亜里沙「μ’sがケガしたらたいへん!」
51: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 00:33:53.43 ID:m9q9Bqk5.net
すると海未さんと凛さんが、顔を見合わせて、にっこり笑いました。

凛  「大丈夫だよ、亜里沙ちゃん。
    海未ちゃんと凛は、お餅をついていたんだよ」

海未 「ふふふ、亜里沙、心配してくれて、ありがとうございます。
    でも、凛と私がケンカなんかするわけないじゃないですか
    すぐに、おいしいお餅ができますから、安心して見ててください」

凛  「そうそう。
    拾いにくいラブアロー・ジョークを乱発する海未ちゃんに、
    ピコピコハンマーでツッコみたくなることはあるけど、
    さすがに杵で襲いかかろうなんて思わないよ」

海未 「拾いにくいですか?
    私は私なりに、ちゃんとオチをつけているつもりなのですが。
    そもそも、私は思うのです。
    ツッコミ役というのは、ピコピコハンマーをもって大上段に構えたりせずに、
    ミレーの描く農婦のように、忍耐強く注意深く、ボケ役の笑いの種を拾うべきだと」

亜里沙「みれー? ビスケットの名前か何かですか?」

海未さんが、凛さんと私に、不敵な笑みを浮かべて言いました。

海未 「オチ穂拾い」

凛さんがピコピコハンマーを取り出して、海未さんにピコンと一発くらわせました。

凛  「拾いにくいにゃ!」

海未 「おあとがよろしいようで」
52: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 00:37:10.86 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙、ラブアロー・ジョークを理解できるように、もっと勉強しないとな。
そんなことを考えながら二人のお餅つきを見ていると、一息ついた凛さんが、言いました。

凛  「あ、そうだ、亜里沙ちゃんも、お餅つきやってみない?」

亜里沙「え、亜里沙には無理ですよ!」

凛  「だいじょーぶだいじょーぶ。
    凛も今日はじめてやってみたけど、海未ちゃんの言うとおりにやったら、ちゃんとできたから。
    かしこいかわいい亜里沙ちゃんなら、きっと凛より上手にできるはずだよ」

海未 「亜里沙、怖がらずに、やってみませんか?
    ほら、こうやって杵を持って……」
53: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 00:47:07.03 ID:m9q9Bqk5.net
凛さんと海未さんのおかげで、私にもお餅がつけました。
できあがったお餅を取り分けているところに、ほかのみんなが手伝いに来てくれました。

穂乃果「亜里沙ちゃん、お手伝いしてくれてありがとう!
    アンコもキナコも溢れんばかりにあるから、たくさん食べてね」

雪穂 「お父さんが元日から作りまくっていたからね」

ことり「こんにちは、亜里沙ちゃん。
    そういえば、今日は絵里ちゃんは来てないのかな?」

亜里沙「はい!
    お姉ちゃんは、最近ずっと、マークシートに鉛筆で模様をつける作業に没頭していて。
    『エリチカかしこいもん、やればできる子だもん』と呟きながら、
    枕みたいに大きい真っ赤な本とにらめっこしてるんです」

真姫 「センター試験ね……
    同じ理由で、希とにこちゃんも、今日は来られないみたいよ。
    あとでみんなのところに、お餅を差し入れしてあげましょうね。
    エリーのぶんのお餅は、亜里沙ちゃんにお願いしようかな。
    ……あれ? そういえば、花陽はどこに行ったの?」

穂乃果「完成したお餅をみんなに配ってもらってるんだ!
    ほら、あそこ。
    ねえ亜里沙ちゃん、いっぱいがんばってくれたから、
    もうお餅を食べにいってもいいよ。
    ありがとね」

亜里沙「はい! いただきます!」

そう言って亜里沙は、お餅を受けとりに行きました。
花陽さん……いや、先生のところに。
54: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 00:48:08.31 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「先生!」

花陽 「ぴゃあ」

亜里沙「ごちになります!」

花陽 「うう……亜里沙ちゃん、その呼び方は、恥ずかしいからやめてほしいなあ……」

亜里沙「ニッポンでは、ガッコーの先生だけじゃなくて、
    師と仰ぐ人のことをみんな先生って呼ぶんですよね。
    ならば花陽さんは、まぎれもなく私の先生じゃないですか!」

花陽 「私は、そんなたいそうな者じゃないよ。
    これまでの追っかけ活動の成果は、
    亜里沙ちゃんの努力と、アイドルを愛する情熱の賜物だよ」
55: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 00:49:27.20 ID:m9q9Bqk5.net
何を隠そう、花陽さんは、私の憧れるμ’sのメンバーであるのみならず、
アイドルの追っかけの仕方を私に教えてくれた先生でもあるのです。
そうだ、私が最近考えてることについて、先生の意見を伺ってみよう。
私は、花陽さんの耳もとで、雪穂にアルバムをもらった日に生まれた思いつきを、こしょこしょ話で伝えました。

亜里沙「先生、じつは私、とっておきのこと思いついたんです」

花陽 「うふふ、亜里沙ちゃん、くすぐったいよ。
    それで思いつきというのは、何かな?」
56: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 00:57:00.89 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「先生、じつは最近、私、寂しかったんです」

花陽 「どうして?」

亜里沙「それは、えーと、その、μ'sが……」

花陽さんは、亜里沙の言いたいことを察してくれました。

花陽 「あ、うん、なるほどね。
    亜里沙ちゃんの気持ちは分かるよ。
    私も、えーと、その……寂しいんだ」

亜里沙「でも、雪穂からアルバムをもらったおかげで、とっておきのことを思いついたんです!
    私がもっともっとμ’sのファンをきわめれば、寂しくならずにすむんです。
    ねえ先生、私のもってるアルバムには、まだまだμ'sのための白いページがたくさんあるんですよ。
    そのページを、あふれんばかりのμ’sへの想いで満たせば、
    いつでもそれを見返して、寂しさを紛らすことができますよね。
    先生、私、もうこれ以上、新しいアルバムはいりません。
    今もっているアルバムに、すべてを捧げます。
    今もっているアルバムの中で、ずーっと生きていきます」

花陽 「亜里沙ちゃん……」

亜里沙「そんなわけで、訊きたいことがあるんです、先生。
    μ’sに対する私の愛を、もっともっと表現するためには、
    何をすればいいんでしょうか?」
57: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 00:59:00.51 ID:m9q9Bqk5.net
花陽さんは、それを聞いたあと、しばらく何かを考えているようすでした。
そして花陽さんは、優しく笑って、私の手にお餅のお皿を載せました。

花陽 「センエツながら、μ’sを代表してお礼を言わせてもらうよ。
    ありがとう、亜里沙ちゃん。
    そこまでμ'sのこと、好きになってくれて。
    でも、今までどおりで、十分だよ。
    むしろ亜里沙ちゃんは、自分の受験勉強に集中してね。
    受験が終わったら、最後のライブがあるから、お楽しみにね。
    そして、最後のライブまで見届けてくれたら、
    そのあと音ノ木坂で、自分のやりたいことを……」

亜里沙は、それ以上のことを聞きたくなくて、かぶりを振りました。

亜里沙「最後のライブ? そのあと? 
    サイゴノライブって何ですか?
    ソノアトって何ですか?
    亜里沙、むずかしい日本語、ワーカリマセーン!」
58: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 01:03:29.09 ID:m9q9Bqk5.net
ごまかそうとする亜里沙に、花陽さんが、穏やかに話しかけました。

花陽 「ねえ、亜里沙ちゃん。
    古いアルバムを大事にしてくれるのは、とっても嬉しいけど、
    私は亜里沙ちゃんの新しいアルバムも、見てみたいな。
    今の亜里沙ちゃんも、もちろん可愛いけど、
    これからもっともっと可愛くなる亜里沙ちゃんが、見てみたいな。
    きっと絵里ちゃんや、ほかのみんなも、おんなじことを思ってるはずだよ。
    そうだ、私も亜里沙ちゃんに訊きたいことがあるんだ、それはね……」

亜里沙(両手で耳を軽く叩きながら、奇声を発する)
   「アワワワワワワワワ、キーコエーマセーン、アワワワワ……」

花陽 「亜里沙ちゃん、聞いてほしいな……」

亜里沙が「アワワ」というのに疲れて息継ぎをしようとした隙に、花陽さんが言いました。

花陽 「亜里沙ちゃんは、高校生になったら、何がしたいのかな?」
59: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 01:05:15.41 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙(餅を一口食べて、延々と噛みつづける)
   「……」

花陽 「なるほど、ものを噛んでいる最中に喋らない。
    グッドマナーだね。さすが亜里沙ちゃんだよ。
    お餅を噛みおわったら、答えてくれるのかな」

亜里沙(さらに噛む)
   「……」

花陽 「そうだね、お餅は、よく噛んで食べなきゃいけないもんね。
    安全第一、健康第一。さすが亜里沙ちゃんだよ。
    それじゃあ、お餅を噛んでいるあいだに、かよちんの昔話を聞いてもらおうかな」

亜里沙(ひたすら噛む)
   「……」
60: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 01:08:04.24 ID:m9q9Bqk5.net
花陽 「中学生のころの私も、亜里沙ちゃんと同じように、アイドルのファンだったんだよ。
    もちろん、今もそうだけどね。
    それから私は、亜里沙ちゃんよりもずっと頼りなくて、アイドルらしくない、地味なやつだった。
    もちろん、今もそうだけどね」

亜里沙(懸命にかぶりを振る)

花陽 「えへへ、気を遣ってくれて、ありがとね。
    さて、そんな頼りないかよちん(たよちん)は、高校生になってからも、観客席にとどまるつもりでいたの。
    自分がステージに立つのが、怖かったの。
    えへへ、バレエの得意な亜里沙ちゃんなら、こんな悩みは、もたないのかな」

亜里沙(懸命にかぶりを振る)

花陽 「そうなの? そんなに可愛いのになあ。
    さて、それで、クヨクヨしたかよちん(くよちん)は、どうしたと思う?」

亜里沙(首をかしげる)
61: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 01:12:25.09 ID:m9q9Bqk5.net
花陽 「自分のやりたいことを、口に出したの。
    もちろん、頼りなくてクヨクヨしたかよちん(たよちんくよちん)は、
    最後まで友達に手を引っ張られてたんだけどね。
    それでも、やりたいことを口に出すのは、自分自身じゃなきゃいけないんだよ。
    そうしないと、周りの人は、お手伝いのしようがないからね。
    そこで、たよちんくよちんが、勇気をだして口を開いたら、
    友達が背中を押してくれて、先輩が手を差しのべてくれたの」

亜里沙(ようやく餅を飲みこむ)
    「ハラショー……」
62: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 01:14:39.95 ID:m9q9Bqk5.net
花陽 「ねえ、亜里沙ちゃん。
    私は、亜里沙ちゃんのやりたいことを決めつけるつもりはないし、
    亜里沙ちゃんに、何かやってほしいことを押しつけるつもりもない。
    でも、もし亜里沙ちゃんのやりたいことが、私にお手伝いできることだとしたら……
    私のところに来て、それを自分の言葉で伝えてもらえるかな。
    そしたら私、たよちんくよちんに出来るかぎりの力で、お手伝いするから」

亜里沙「……もうすこし、時間をください」

花陽 「うん。もちろん、私はいつまでも待ってるよ。
    亜里沙ちゃんが、ほんとうにやりたいことを、言葉にしてくれること。
    これが、スクールアイドル追っかけ隊の先生である私からの、最初で最後の宿題だよ」
63: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 01:16:14.09 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「はい、わかりました!
    亜里沙、がんばってその宿題を解きます!」

花陽 「あ、宿題を解くのは、もちろん受験が終わってからでいいからね。
    そうだ、亜里沙ちゃん、お餅、もっと食べる?」

亜里沙「はい、いただきます!」

このあと亜里沙は、アンコのお餅とキナコのお餅をお腹いっぱい食べました。
もちろんこの日も、大好きなμ’sのみなさんの写真を、たくさん撮らせてもらいました。
そして私は、お姉ちゃんへのお宮城(注:お土産)のお餅をどっさり持って、家に帰りました。
64: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 01:18:14.45 ID:m9q9Bqk5.net
それから数日後に、この日の写真を現像しました。
ピコピコハンマーで漫才する凛さんと海未さん。
お餅をおいしそうに食べる花陽さん。
学院のみんなと楽しそうに話す、穂乃果さん、ことりさん、真姫さん。
13月のアルバムのページが、少しだけ埋まりました。


-------------

※ つづきます。
71: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 10:21:16.89 ID:m9q9Bqk5.net
※ 再開します。
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【二週間後、絢瀬家、亜里沙の部屋】

先日、お姉ちゃんと希さんとにこさんは、マークシートに模様をつける作業の本番に行ってきました。
あんなに一生懸命、赤い枕みたいな本にかじりついていたのですから、きっとうまくいったに違いありません。
そのあとすぐ、お姉ちゃんは、別の赤い枕みたいな本にかじりつきはじめました。
(お姉ちゃんの名誉のために言っておくと、ほんとに口でかじりついていたわけではありません)
でもお姉ちゃんは、ときどき亜里沙を心配して、部屋にお話をしに来てくれます。
亜里沙、そんな優しいお姉ちゃんが大好きです。
72: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 10:22:57.12 ID:m9q9Bqk5.net
絵里 「どう、亜里沙、受験勉強は順調?」

亜里沙「うーん、たぶん。
    でも亜里沙、ほかのみんなより日本で生活した期間が少ないから、
    もっともっと、がんばらないと」

絵里 「ふふふ、亜里沙はがんばり屋さんなのね、偉いわ。
    お姉ちゃん、そんな亜里沙のために、試験が終わったあとのご褒美をあげたいな。
    ねえ亜里沙、なにか欲しいものはない?」

亜里沙「ううん、欲しいもの、何もないよ。
    無事に受かって、お姉ちゃんが通っていた高校に行けたら、それだけでいいの」
73: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 10:25:52.02 ID:m9q9Bqk5.net
絵里 「あら、欲がないのね。
    じゃあ、何かしたいことはない?」

亜里沙「えーと……いや、ないよ」

絵里 「あ、その反応は、ほんとはあるのね。
    お姉ちゃん、当ててあげましょうか。
    愛しの海未さんと、デー……」

亜里沙「デ、デート?
    いやいやいや、そんなまさかいくらなんでも」

絵里 「あら? 私デートってまだ言ってなかったのになあ。
    どうやら図星みたいね」

亜里沙「ズボシだよ……どうして分かったの?」

絵里 「最近よく、アルバムを見てるでしょ。
    そのとき、海未を見つめる顔だけが、何だかちょっと違うのよ。
    何ていうか、こう、ウットリしてるのよ。
    ババ抜きで負けた海未の顔を見てるときでさえも」
74: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 10:40:49.34 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「うーん、そうだったのか。
    もちろん亜里沙、μ’sのみなさんのことが大好きだよ。
    みんな、亜里沙の憧れの的だよ。
    でも、海未さんって、なんかこう、その、えーと……」

絵里 「どんな感じがするの?」

亜里沙「白玉とサクランボを一緒にしたみたいな、
    お盆とお正月が一緒に来たみたいな、
    ジークフリート王子が、ガラスの靴をもってやってきたみたいな……
    とにかくそんな、完璧な感じがするの。
    ねえお姉ちゃん、国語の勉強のために、教えてほしいな。
    そういう人って、日本語で何ていうの?」

絵里 「理想の人、かな」

亜里沙「リソー?」

絵里 「そうよ。考えうるかぎり完璧な人のこと。
    白玉のように美しく、サクランボのように慎ましく、
    お盆のように懐かしく、お正月のようにおめでたく、
    ジークフリート王子のように勇ましく、シンデレラの王子のように優しい、
    そんな人のことね」

亜里沙「そう、まさにそれだよ!」
75: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 10:44:12.71 ID:m9q9Bqk5.net
絵里 「うふふ。そんなふうに言われたら、海未、何て言うかしらね。
    ねえ亜里沙、そんな理想の王子さまと、デートしたいんでしょ」

亜里沙「いやいやいや!
    そんなリソーの人である海未さんは、客席から眺めるだけで十分だよ!
    畏れおおくて、お近づきになるなんてできないよ!」

絵里 「まあまあ、そう言わずに。
    あなたのお願い、合点承知之助よ。
    さて、そうと決まれば、押してポチリー」
   (歌いながら携帯電話のボタンを押す)

亜里沙「え? 何をガッテンしたの? 何をショーチノスケなの? 何を押してポチリしたの?
    まさかお姉ちゃん……」

絵里 「あ、もしもし、ズドラーストヴィチェ!
    かしこい、かわいい?
    ……そうそう、エリーチカよ。
    ところで、りこうでりりしいウミーチカ、あなたに折り入ってお願いがあるんだけど」

亜里沙「のわあああ!」
76: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 10:46:26.83 ID:m9q9Bqk5.net
絵里 「我が家のかしこいかわいいアリーチカは、ウミーチカのことが、トテモスキーなのよ。
    そこでエリーチカは、
    アリーチカとウミーチカの恋のキューピーチカにポチョムキンなのよ」

亜里沙「ちょ、お姉ちゃん、後半何を言ってるの?
    でもだいたい分かる気がするよ!
    海未さんに無茶を言って、私に会っていただこうとしてるんだね?」

絵里 「そうそう、亜里沙の合格発表の次の週。
    ……あ、この日の練習の後とかはどう?
    オーケーかしら……うふふ、ありがとう、ウミーチカ。ちゅー」
   (投げキスをして電話を切る)

亜里沙「……」

絵里 「さて、そんなわけで、亜里沙、お楽しみにね!」

亜里沙「海未さんとデート……」
78: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 10:52:01.31 ID:m9q9Bqk5.net
固まった私に、お姉ちゃんが歌いかけました。

絵里 「ずっとー」

亜里沙「ベイビー」

絵里 「ずっとー」

亜里沙「メイビー」

絵里 「ときめきをーわすーれーなーいよー」
   (立ち上がり一礼して、ドアを開ける)

亜里沙「お姉ちゃん、おやすみなさい」

絵里 「おやすみ、亜里沙。
    ポンコツなお姉ちゃんは、
    ステキな出会いがあなたの未来を開くように、願ってるからね」

亜里沙「お姉ちゃん、ありがとね」

絵里 「だいじょーぶー、いーつだってー、
    でーあいはあしたをまねいてるぅー……」
   (歌い踊りながら去る)
96: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 19:46:34.47 ID:m9q9Bqk5.net
【一ヶ月後】

そのあとも受験生組は、勉強に励みました。
希さんとにこさんとお姉ちゃんの大学受験は、高校受験より、ひとあしさきに終わりました。
三人とも、それぞれが目ざす道に進むことができたそうです。
嬉しそうに希さんとにこさんと連絡を取り合うお姉ちゃんの顔を、今でもよく覚えています。
それからしばらくして、ネコヤナギがちらほらと花を咲かせ始めたころ、雪穂と私の合格発表の日が来ました。
二人でお互いの受験番号を見つけて、手を取り合って喜んだこと、忘れません。
97: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 19:49:27.20 ID:m9q9Bqk5.net
それで一息ついたと思ったら、希さんとにこさんとお姉ちゃんは、さっそく決勝大会のための練習に参加し始めました。

絵里 「受験でなまった体を、きたえなおさないとね」

亜里沙「いそがしそうだね、お姉ちゃん」

絵里 「でも、大会が近いから、適宜休みを入れながらメニューをこなしていくつもりよ。
    とりあえず今日は一日休みだから、九人で遊びに行くの。
    さー、遊ぶぞー」

お姉ちゃんはそう言っていましたが、この日、ただ遊ぶだけではなくて、お姉ちゃんたちは何か大事な話をしてきたようです。
真っ赤な目でお姉ちゃんが帰ってきたのは、この日の晩のことでした。

亜里沙「お姉ちゃんたち、どんなお話をしてきたの?」

絵里 「そうね、聞かせてあげたいのは山々だけど……
    それは、いなくなる私たちじゃなくて、
    あとに残る部員たちの口から聞くべきことなの。
    安心して、亜里沙。
    近いうちに、あなたの大好きな人から教えてもらえるはずよ」
98: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 19:51:23.24 ID:m9q9Bqk5.net
それから数日後、海未さんが私に電話をかけてきてくれました。

海未 「もしもし、かしこいかわいいアリーチカ。
    こちらは、りこうでりりしいウミーチカです」

亜里沙「海未さん、こんにちは!」

海未 「今日は、来週のデートの件で相談がありまして」

亜里沙「すみません海未さん、おいそがしいのに、私なんかのために……」

海未 「いえいえ、練習が終わった後に会うんですから、何も問題ありませんよ。
    ただそうすると、昼すぎからになってしまうので、
    申し訳ありませんが、あまり遠くには行けないんです。
    亜里沙は、どこに行きたいですか?
    亜里沙の好きなところにしましょう」
99: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 19:53:02.95 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「えーと、それじゃあ……
    私のワガママ、聞いてもらっていいですか?」

海未 「モチのロン、オフのコースです」

亜里沙「海未さんと初めて会った日に、お姉ちゃんと三人で行った、あの公園がいいなあ」

海未 「ええ? あんな近場でいいんですか?
    もっとワガママ言ってもいいんですよ?」

亜里沙「ううん、亜里沙、あそこがいちばんいいんです。
    あのベンチで、海未さんと、オデンの缶詰が食べたいんです」

海未 「ふふふ、なるほど。すてきな考えですね。
    承知しました、それではまた来週。ダスヴィダーニャ」

亜里沙「はい、ダスヴィダーニャ! プスー」
   (絵里のように投げキッスしようとして失敗する)
101: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 19:54:40.93 ID:m9q9Bqk5.net
【一週間後、近所の公園】

海未 「ズドラーストヴィチェ、亜里沙。
    今日もとっても可愛いですよ。
    もうすぐ高校生になるだけあって、すっかりレディーの面持ちですね」

亜里沙「海未さん! ごめんなさい、お待たせしちゃいましたか?」

海未 「そんなことはないですよ。
    私も今来たところです」
   (優雅な身のこなしで、オデンの缶詰を開けて亜里沙に手渡す)

亜里沙「ハラショー……少女漫画で読んだのと同じだ。
    やっぱり海未さんは、リソーの人です」

海未 「理想? 私がですか?
    ふふふ、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、
    ほんとは、そんなこと全然ないんですよ。
    いったい誰がそう言ってたんですか?」

亜里沙「私……いや、私の友達です!」
102: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 19:56:07.03 ID:m9q9Bqk5.net
海未 「なるほど。
    まあ、立ち話もなんですから、そこのベンチに座りましょうか」

亜里沙「ハラショー! あの日と同じベンチだ!」

海未 「ふふふ、懐かしいですね。
    あの頃はまだ、絵里がμ’sに入ってませんでしたね。
    あの日は、結成して間もないμ'sのことで、いろんな話をしましたね。
    今日はどんな話をしましょうか」

亜里沙「私……の友達のことで、相談があるんです
    私じゃないですよ? 私のと、も、だ、ち、の話です」

海未 「わかりました。
    亜里沙のことじゃなくて、亜里沙の友達の話ですね」
103: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 19:58:17.68 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「その子、海未さんのことが大好きなんです。
    はじめて見たときから、ずっと。
    その子は海未さんのこと、自分のリソーの人だって思ってるんです。
    その子は、ステージで歌って踊る海未さんのこと、ずっと応援してました」

海未 「嬉しいですね。
    その子に会ったら、ありがとうって伝えてもらえますか?」

亜里沙「はい、私……の友達も、きっとそれを聞いたら喜ぶと思います。
    でもその子には、悩みがあったんです」

海未 「どんな悩みですか?」

亜里沙「リソーに手がとどかないっていう悩みです。
    ステージの上にいる海未さんは、そしてμ’sのみなさんは、
    その子の手には、届かないんです。
    海未さんたちがいるステージの上と、その子がいる客席のあいだには、
    バイカル湖より深くて大きい隔たりがあるんです」
104: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:00:00.47 ID:m9q9Bqk5.net
海未 「そんなことないですよ」

亜里沙「そんなことありますよ!
    だって私……の友達が見る海未さんは、いつもカッコよかった。
    サクランボの載った白玉アンミツみたいに、
    盆と正月が一緒に来たみたいに、
    ガラスの靴をもったジークフリート王子みたいに、完璧でした。
    そんなリソーの人がいるステージに、
    ついさっきまで客席にいた私……の友達が立つなんて無理です」
105: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:01:21.03 ID:m9q9Bqk5.net
海未さんが、こんにゃくを食べる手を止めて、私の目を見ました。

海未 「亜里沙、もし分かるなら、私に教えてくれませんか。
    その子は、ステージに立ちたいと思ってるんですか?」

亜里沙も、ちくわを食べる手を止めました。
でも、海未さんを正視して話すことができず、目を伏せてから、言いました。

亜里沙「はい……って、私の友達が、言ってました」
106: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:02:39.95 ID:m9q9Bqk5.net
海未さんは、食べかけのオデンの缶詰を私に手渡して、言いました。

海未 「教えてくれて、ありがとうございます。
    それなら、今から私がすることをよく見て、その子に伝えて下さい」

亜里沙「何をするんですか?」

海未 「山頂アタックです」

亜里沙「山なんてどこにもありませんけど!」

海未 「あそこにあるじゃないですか。
    山に高さなど関係ありません。
    そこに山っぽいものがあるから登るのです」

海未さんは、すべり台を指さしました。
107: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:06:28.36 ID:m9q9Bqk5.net
そして海未さんは、お手洗いでジャージに着替えたあと、颯爽とすべり台のてっぺんに駆け上がりました。

亜里沙「ハラショー!
    私、海未さんの山頂アタック、はじめて見ました!」

海未 「まだこれからですよ、亜里沙。
    家に帰るまでが遠足、山を降りるまでが登山です」

そう言うと海未さんは、すべり台から勢いよく滑り降りました。
そして、滑り降りた勢いで駆け出した海未さんは、そのまま公園の反対側にある砂場にダイブしました。

亜里沙「海未さん! 大丈夫ですか?」

うつ伏せで顔を砂に埋めた海未さんが、そのままボフボフと喋りだしました。

海未 「どうですか、私の山頂アタック」

亜里沙「リソーのアイドルの海未さんなのに、アホみたいです!」

海未さんは、砂まみれの顔を上げて、私に尋ねました。

海未 「どうですか、今の私の顔」

亜里沙「リソーのアイドルの海未さんなのに、アホみたいです!」

海未さんが満足したように微笑むと、さらさらと顔から砂が零れ落ちました。
108: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:10:20.85 ID:m9q9Bqk5.net
それから海未さんは、依然として砂まみれの顔を私の方に向けて、言いました。

海未 「私、亜里沙……の友達に謝らないといけないですね。ごめんなさい。
    私はその子に、演じられた理想の姿しか見せてこなかったから。
    そのせいでその子は、私とのあいだに、距離を感じてしまったのかもしれない。
    私はその子に、ステージに上がるのを怖がらせてしまったのかもしれない。
    でもね、理想の私も、砂場にラブアロー・ダイブするアホな私も、どっちも私なんですよ。
    今のアホな私を見たら、その子は、私と同じステージに立つ勇気を持てるんじゃないでしょうか」
109: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:13:09.65 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「でも、海未さんは、理想を演じてるのと同じように、アホを演じてるのかもしれない」

海未 「難しいところですね。
    ほんとの私がどんな顔なのかは、私自身にも、よくわからないですからね。
    でもね、亜里沙。
    あなた……の友達が、本当にアイドルとしてステージに立ちたいと思っていて、
    それでもステージに上がる勇気を持てずにいるのだとしたら、
    私は、いくらでもその子のためにアホなことをして、勇気をあげたいって思ってるんですよ。
    少なくともその思いだけは、演技じゃなくて、私の心の底からの思いなんですよ。
    その子に、そう伝えてくれますか」

亜里沙「海未さん……ありがとうございます。
    その子に、必ず、伝えます」
110: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:15:05.41 ID:m9q9Bqk5.net
海未 「そういえば、私も一人、私のファンをしてくれる方のこと、聞いたことあるんです。
    絵里と穂乃果が、名前を伏せて、私に尋ねてきたことがあるんです。
    『海未ちゃんのファンの女の子が、海未ちゃんの写真を集めてるみたいだから、
    焼き増しして譲ってあげてもいいかな?』って」

そして海未さんは、優しく笑って、私に訊きました。

海未 「ひょっとしたら、いま亜里沙の相談に出てきた女の子と、私の写真を集めてる女の子は、
    同一人物なんじゃないですか?」

亜里沙「はい、そうです。
    私が、すごく、すごくよく知ってる女の子です」
111: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:16:15.14 ID:m9q9Bqk5.net
海未 「それなら、お願いがあるんです。
    今の私の姿を、写真に撮ってくれませんか。
    砂まみれの私の顔の写真が、その子のアルバムに収めてもらえるように。
    理想の私の写真だけじゃなくて、アホな私の写真を見て、その子がステージに立つ勇気を持てるように」

亜里沙「ありがとうございます、海未さん。
    私が撮影して、きっとその子に渡します」

写真を撮り終えたあと、私は、顔を洗った海未さんと一緒にオデンの缶詰の残りを食べました。
113: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:18:14.62 ID:m9q9Bqk5.net
そのあと海未さんと私は、手をつないで帰途につきました。

亜里沙「海未さん、このまえμ’sのみなさんと海に遊びに行ったんですよね。
    お姉ちゃんから聞きましたよ」

海未 「そうですよ。
    そのときの写真も、焼き増しして亜里沙のお友達にあげましょうか?
    九人で、砂浜で遊んでいる写真です」

亜里沙「はい、ぜひお願いします!」

そのあと海未さんは、しばらく考えこんだあと、口を開きました。

海未 「絵里は、そのあとで何を話したか、あなたに教えてないそうですね」

亜里沙「はい、何も聞いてません」
114: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:28:08.10 ID:m9q9Bqk5.net
海未 「実は、絵里から頼まれているんです。
    絵里の代わりに、私からそのことを亜里沙に伝えるように、と。
    だから今、私からその話をしてもかまいませんか?」

亜里沙「はい」

海未さんは、夕焼け空を見あげながら、ぽつりと言いました。

海未 「μ’sという名前のグループは、次のライブを最後に、解散します」

それを聞いた私の心は、一瞬にしてピロシキの具のようにグチャグチャになりました。
しかし、かしこくて聞き分けのよいアリーチカは、平静を装って、言いました。

亜里沙「お姉ちゃんの様子で、うすうす見当はついていました。
    だから頭では分かってるつもりでした。
    でも実際に耳にするのは、辛いです。
    そのあと、残ったみなさんは、どうするんですか?」

海未 「もちろん、スクールアイドルは続けますよ。
    でも、どんなふうに続けるかは、私たちだけで決めるわけにはいきません。
    新入部員が何人入ってくれるか分からないし、
    新入部員がどんな活動をしたいのかも、まだ分からない。
    だから新学期になってから、みんなで話し合って決めないといけないんです」

海未さんの頬から、洗い忘れた砂の粒が、はらはらと零れ落ちました。
115: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:30:01.29 ID:m9q9Bqk5.net
私は、今度はきちんと海未さんの目を見て、言いました。

亜里沙「海未さん、最後のライブ、絶対に見にいきます。
    私、いっしょうけんめい応援しますから。
    μ'sの大ファンとして」

海未 「ありがとうございます」

そのあと海未さんは、私を家まで送ってくれました。
玄関の前で、海未さんと私は、お互いにラブアロー・キッス(注:投げキッス)をしましたが、
二人ともあんまり上手ではありませんでした。
今度お姉ちゃんからコツを教えてもらおうと約束したあとで、この日は別れました。
116: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:31:39.99 ID:m9q9Bqk5.net
それから数日後、海未さんは、砂浜での写真を焼き増しして送ってくれました。
私が撮影したラブアロー・デートの写真も、現像できました。
私は、砂浜で遊ぶμ’sの九人の笑顔の写真を、アルバムに収めました。
その次のページには、海未さん特集その3として、公園の砂場で砂まみれになった海未さんの写真。
13月のアルバムのページは、もうずいぶん埋まりました。
117: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:33:23.13 ID:m9q9Bqk5.net
私は、アルバムをぱらぱらめくりながら、あの日の帰り道の海未さんとの会話を反芻しました。
あの日、私は、海未さんの前で、聞き分けのよい子のふりをしていました。
μ’sが無くなるという事実を、受け入れたふりをしていました。

そりゃ、頭ではわかっています。
かりにμ'sという名前を残したとしても、いまの三年生のいないμ'sはもう、かつてのμ'sではありません。
だからもう、その名前は使わない。実に筋の通った話です。

でも、頭ではわかっているのに、心では、その事実が受け入れられないのです。
私は、どうにも抑えきれない気持ちに駆られて、雪穂に電話をかけました。
118: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 20:35:26.55 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「もしもし、雪穂?
    亜里沙だけど、いま話せる?」

雪穂 「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」

亜里沙「聞いてほしいことがあるんだ」

雪穂 「うん。何かな?」

亜里沙「亜里沙は、だめな妹で、だめな後輩なんだ」

雪穂 「何があったの?」

亜里沙「お姉ちゃんは、私にカレンダーの仕組みを教えてくれた。
    花陽さんは、私に宿題を出してくれた。
    海未さんは、その宿題に答える勇気を私にくれた。
    それなのに私は、宿題に答えるためにカレンダーを付け替えることができないんだ。
    ここまでしてもらったのに、まだ13月から抜け出せないんだ」

雪穂 「どうして?」

亜里沙「亜里沙は、μ’sの最後のカーテンコールを、受け入れることができそうにないから」
119: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:07:55.74 ID:m9q9Bqk5.net
【数日後、絢瀬家、亜里沙の部屋】

雪穂に電話をしたあの日、雪穂はずっと私の話を聞いてくれました。
でもあの日、雪穂は自分の考えを言わずに、ずっと何かを考えているようすでした。
それから数日経ったこの日、雪穂が私の部屋に遊びにきてくれました。

雪穂 「やっほー、亜里沙! おじゃましまーす」

亜里沙「どうぞ、あがってあがって!
    この前お母さんが作ってくれた、ロシア風フルーツケーキがあるんだよ。
    雪穂にも、食べてほしいな!」

雪穂 「ほんと? ありがとう!
    どんなケーキなの?」
120: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:12:16.15 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「これをミレーちょうだい」

そう言って私は、台所からケーキを持ってきました。

雪穂 「ええと、『これを見てちょうだい』と言いたいのかな。
    わあ、すごい、おいしそう!」

亜里沙「食べるときにポロポロこぼれるのがタマにキズだけどね。
    腰をかがめ、床にこぼれた食べかすを拾うその姿は、さながら……」

雪穂 「どんな様子なの?」

私は、海未さんのように不敵に笑って、言いました。

亜里沙「落ち穂拾い」

雪穂 「?」

亜里沙「あれ? 伝わらなかったかな?
    今のは、ケーキの食べかすを拾う姿を、
    バルビゾン派の画家ミレーの代表作『落ち穂拾い』に喩えたギャグで……」

雪穂 「おい、どうしたんだよ、アリーチカ!
    その拾いにくいジョークは、いったい誰の影響……
    海未さんか! 海未さんのせいだな?」

亜里沙「うーん、まだツッコミが弱いかな。
    こんど凛さんみたいなピコピコハンマーを買いにいこうか、雪穂」
121: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:16:31.01 ID:m9q9Bqk5.net
雪穂 「順調にボケ役への道を歩んでるんだね、亜里沙……
    それにしても亜里沙は勉強熱心だなあ。
    私、『ばるびぞん』なんて言葉、はじめて聞いたよ」

亜里沙「ラブアロー・ジョークが理解できるくらい、かしこくなりたいからね」

雪穂 「ふふふ。さすが、かしこいかわいいアリーチカだね」

そのあと雪穂は、真面目な顔になって、言いました。

雪穂 「亜里沙は、すごいね。
    絵里さんや花陽さんや海未さんと、大事なお話をして、
    一歩ずつかしこくなってるんだね。
    ねえ、亜里沙、今日遊びにきたのは、そのことと関係があるんだ。
    四人目の話相手として、私とも、一緒にお話をしてほしいんだ」
122: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:18:44.49 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「ありがとう! 
    こちらこそ、お願いするよ!」

雪穂 「私は、先輩方みたいに、亜里沙に何かを教えてあげられるほどかしこくないけどね。
    でも、ふたりでお話しすれば、ひとりで考えているときよりもグッドな考えが出てきて、
    一緒にかしこくなれるかもしれないよ」

亜里沙「うん、きっとかしこくなれるね!
    それじゃあ、何のお話をする?」

雪穂 「アルバムの話」

亜里沙「……」
124: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:21:33.11 ID:m9q9Bqk5.net
雪穂 「亜里沙、二年参りの日に、言ってたよね。
    『13月に続くカレンダーが欲しい』って。
    残念ながら、そんなカレンダーは無いんだけど、
    その代わりに私は、亜里沙にアルバムをプレゼントしたんだったね」

亜里沙「うん、そうだったね」

雪穂 「でも亜里沙は、このまえの電話の日に、言ってたね。
    『13月から抜け出せない』って。
    あの言葉がどういう意味か、教えてもらってもいい?」

亜里沙「亜里沙のこと、からかわない?」

雪穂 「からかうわけないじゃない」
125: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:22:33.26 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「じゃあ、これを見て」

私は雪穂に、お餅つき大会の日のアルバムのページを見せました。
そのページから始まる月は、13月。
だから、あとにつづくページは、めくってもめくっても、13月の一こまなのです。

雪穂 「なるほど、こんなふうに日付をつけてたのか。
    アルバムを贈った私も、そこまでは予想できなかったな」
126: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:26:18.15 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「亜里沙のこと、バカだって思う?」

雪穂 「思うわけないじゃない。
    私、亜里沙にエラそうにアルバムを贈ったけど、
    じつは私も、亜里沙と同じ気持ちだったんだよ。
    新しい年を迎えて、前に進むのが、怖かったの
    だから私も、心のどこかで、ずっと13月にとどまることを望んでたんだ」

亜里沙「そうなの?
    雪穂、私なんかよりずっとしっかりしてるのに……」

雪穂 「そんなことないよ。私は、いくじなしだよ。
    それに私だって、μ’sの熱烈なファンなんだからね」
127: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:28:29.33 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「雪穂……」

雪穂 「アルバムを亜里沙に贈った日に、私、こんなこと考えてたんだよ。
    ずっとこのアルバムの中にとどまれば、寂しくならずにすむんじゃないかって。
    とっておきのμ’sの写真でこのアルバムを満たして、
    それをずっと見返していれば、寂しさを紛らすことができるんじゃないかって。
    そのときは、亜里沙には黙ってたんだけどね」
    
亜里沙「ビックリだよ。
    私もあの日、おんなじこと考えてたんだよ」

雪穂 「うふふ。
    すると私たちは、やっぱり似た者どうしの、ダメダメなコンビだったんだね」
128: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:29:36.89 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「でもどうしようか、雪穂。
    このままじゃ、ふたりとも、13月から抜け出せないよ」

雪穂は、しばらく何かを考えている様子でしたが、意を決した様子で、口を開きました。

雪穂 「ねえ亜里沙。
    アルバムの贈り手として、私が、このアルバムの秘密を明かしてあげるよ。
    私たちが今見てるこのアルバム、実は、ただのアルバムじゃないんだよ」
129: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:30:31.08 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「どんな秘密があるの?」

雪穂 「私はあの日、『カレンダーと違って、アルバムには好きな日付を入れられる』って言ったね。
    でもあの言葉は、訂正するよ。
    世の中には、ちゃんと終わりの日付が決まっているアルバムというものがあって、
    実はこのアルバムも、そうなんだよ」

亜里沙「そのアルバムの名前は、何て言うの?」

雪穂 「卒業アルバム」
130: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:31:58.63 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「あ、それ聞いたことある!
    でも実は私、日本でそのアルバムをもらったこと、まだないんだ。
    卒業アルバムの終わりの日付は、いつなの?」

雪穂 「卒業式の日だよ。
    だから、このμ’sの卒業アルバムの終わりの日付は、μ’sの卒業式の日ということになるね」

亜里沙「それは、いつ?」

雪穂 「ラストライブの日だよ」
131: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:34:15.91 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「じゃあ私たちは、ずっとこのアルバムの中で、13月を続けることは、できないんだね。
    μ’sの卒業式の日が……ラストライブの日が終わったら、
    μ’sも私たちも、このアルバムから出ていかないといけないんだね」

雪穂 「そういうことになるね」

亜里沙「じゃあ、日付を書き直さないと……
    でも雪穂、どうしよう?
    私、油性マジックで13月って書いちゃったから、もう消せないよ」
132: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:35:18.77 ID:m9q9Bqk5.net
すると雪穂が、優しく笑って、言いました。

雪穂 「ねえ、亜里沙。
    私に、一本だけ線を引かせてもらってもいい?」

亜里沙「うん。お願い」

雪穂は、月の名前を書いたページを開きました。
そこには私がでかでかと、こう書いていました。

13月

雪穂は、そこに油性マジックで、ちょこんと一本線を足しました。

1-3月

亜里沙「1月から3月まで、か」
133: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:39:51.31 ID:m9q9Bqk5.net
雪穂 「そのとおり。
    ビックリだね、亜里沙。
    私たち二人は、ずっと13月に閉じ込められてる気がしていたけど、それは気のせいだったみたい。
    はじめから私たちは、ほかのみんなと一緒に、新しい年のカレンダーをめくっていたんだよ」

亜里沙「私たちの心は、私たちの気づかないところで、
    少しずつ新しいカレンダーに目を向ける準備をしてたんだね。
    そしてやっと、私たちにも、新しいカレンダーが見えるようになったんだね。
    ありがとう、雪穂。
    これで私たち、また一つ、かしこくなったね」
134: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:41:54.09 ID:m9q9Bqk5.net
雪穂 「そうだね、また一つかしこく……
    おい、どうしたんだよ、アリーチカ。
    かしこくなれたのに、何で目が潤んでるんだよ」

亜里沙「そういうユキーチカのほうこそ」

雪穂 「ねえ、どうしてアリーチカとユキーチカは、
    どんなにかしこくなっても、涙を止めることができないのかな」

亜里沙「どんなに頭をかしこくしても、胸のさびしさをなくすことは、できないからだよ」
135: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:42:36.16 ID:m9q9Bqk5.net
こうして雪穂と私は、13月の中で寂しさを紛らすのではなく、3月の中で寂しさに向きあうことができるようになりました。
数日後、雪穂と私は、μ’sの最後のライブを見にいきました。
ライブの間、雪穂と私は、ずっと笑っていようと約束して、それをちゃんと成しとげました。
胸の寂しさがなくならなくても、顔に笑みを浮かべることはできるからです。
136: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:45:14.59 ID:m9q9Bqk5.net
μ’sのみなさんも、ライブのあいだ、ずっと笑っていてくれました。
ライブのあとの撮影会でも、ずっと笑っていてくれました。
もちろん、μ’sのみなさんが胸の中に何を秘めていたかは、私には、知る由もありません。
いずれにせよ、13月……じゃなかった、1-3月のアルバムの残りのページは、笑顔のμ’sの写真で全て満たされました。
特に印象的な写真が、一枚あります。
ほかの六人のメンバーに囲まれて満面の笑みを浮かべる、にこさんと、希さんと、お姉ちゃんの写真です。
137: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:46:19.27 ID:m9q9Bqk5.net
【ライブの数日後、高坂家、雪穂の部屋】

亜里沙「できたー!」

雪穂 「これでμ’sの卒業アルバムが完成したね」

亜里沙「ねえ、雪穂。
    このアルバム、私の部屋じゃなくて、別のどこかに置いたほうがいい気がするの。
    μ’sのみなさんにも、見てもらえるように。
    そうしてもいいかな?」

雪穂 「うん、もちろんだよ。
    アイドル研究部の部室とか、ちょうどいいんじゃないかな?
    新部長の花陽さんに頼んでみようね」
138: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:50:02.75 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「そして、なんと今日は、私から雪穂に受けとってほしいものがあるんだ!
    ジャーン!」

そう言って私は、プレゼントの箱をカバンから取り出して、雪穂に手渡しました。

雪穂 「ハラショー!
    ありがとう、亜里沙。
    いま開けてみてもいい?」

亜里沙「ハラショー」

雪穂 「これ……アルバムだ!」

亜里沙「そう。新しいアルバムだよ。
    今度はこのアルバムに、4月からの写真を収めようね。
    雪穂と私が、やりたいことをやっている写真を」

雪穂 「すごくステキな考えだよ!
    亜里沙大好き、ありがとう!」

亜里沙「わああ、急に抱きついたら危ないよ、雪穂!」
139: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:53:08.24 ID:m9q9Bqk5.net
雪穂 「亜里沙のやりたいことは、何なの?」

亜里沙「聞いても、亜里沙のこと、からかわない?」

雪穂 「からかうわけないじゃない」

亜里沙「でも、ちょっと恥ずかしいな……
    こしょこしょ話で、聞いてもらおうかな」

そう言って私は、雪穂の耳もとで、ささやきました。

雪穂 「うふふ、亜里沙、くすぐったいよ……
    ……そうか、うん、やっぱりね。
    ねえ亜里沙。
    私のやりたいことも、おんなじことだよ」
140: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:53:59.95 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「ハラショー!
    そうだ! じゃあ、古いアルバムの最後のページに、こう書いてもいい?」

そう言って私は、また雪穂の耳もとで、こしょこしょ話をしました。

雪穂 「うふふ、亜里沙、くすぐったいよ……
    ……なるほど、それはステキな考えだね。
    じゃあ亜里沙の手で、それを書いてくれるかな」
141: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:55:34.91 ID:m9q9Bqk5.net
雪穂と私は、アルバムを、最初のページから、ゆっくりと見返しました。
どれもこれも、ステキな写真ばかりです。
そして最後のページには、こんな言葉を書きました。

次年度の4月につづく

たしかに、μ’sのアルバムは、今月でおしまいです。
でも、古いカレンダーが新しいカレンダーに続くように、古いアルバムは、新しいアルバムに続きます。
もうμ'sという名前は持っていないけど、μ’sのことが大好きな、新しいグループのアルバムに。
142: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:57:06.51 ID:m9q9Bqk5.net
【4月のある日の朝、絢瀬家】

絵里 「亜里沙、けさはずいぶん真剣な顔をしてるのね。
    今日はなにかあるの?」

亜里沙「花陽さんのところに、宿題の答えを伝えに行くの」

するとお姉ちゃんが、優しく笑って、言いました。

絵里 「そっか。花陽と、なにかステキな約束をしたのね。
    でも大丈夫よ、小泉部長も、アイドル研究部員の皆も、とっても優しいから。
    それに、もうちょっとリラックスして、にっこり笑ってもいいんじゃないかな」

亜里沙「にっこり笑うためには、どうすればいいのかな?」

絵里 「そのためには、にこが教えてくれた、魔法の呪文を唱えればいいのよ。
    こんなふうにね。
    にっこにっこにー!」

亜里沙「にっこにっこにー!
    わあ、ホントだ! うまく笑えたよ!
    やっぱり、にこさんの呪文は、すごい効き目だね!」

絵里 「スピリチュアルやね」
143: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 21:58:38.65 ID:m9q9Bqk5.net
亜里沙「ねえ、お姉ちゃん、大学のほうはどう? 楽しい?」

絵里 「ええ、楽しいわよ。
    3月のことを思いだして寂しくなることはあるけど……
    でも、3月のあとには、4月がくる。
    4月になったら、勇気を出して、さらに前に進まないといけないもんね」

亜里沙「前に進んだら、どこに行けるのかな?」

絵里 「どこにでも行けるのよ」

亜里沙「どこにでも行けるようになるには、どうすればいいのかな?」
    
絵里 「そのためには、希が教えてくれた、魔法の呪文を唱えればいいのよ。
    こんなふうにね。
    ほな、ICOCA、亜里沙」

亜里沙「うん、ICOCA、お姉ちゃん」
144: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 22:03:30.31 ID:m9q9Bqk5.net
【その日の午後、音ノ木坂学院】

放課後、私は、雪穂と手をつないでアイドル研究部の部室に向かいました。
その途中の廊下で、生徒会の仕事をしている穂乃果さん、ことりさん、海未さんと出くわしました。

穂乃果「おーい、亜里沙ちゃん、雪穂!
    どこに行くの?」

亜里沙「アイドル研究部の部室でーす!」

ことり「ごめんね、今日は生徒会役員は、仕事があって部室には行けないの。
    でも、かよちゃんと凛ちゃんと真姫ちゃんが待ってるよ。
    どんな用事があるのかな?」

雪穂 「うふふ。大事なお話ですよ」

海未 「ちゅー、ちゅー」
   (亜里沙と雪穂に投げキッスする)

亜里沙「ハラショー!
    海未さん、ラブアロー・キッス、すごく上達したんですね!
    ちゅー」
   (投げキッスを返す)

雪穂 「え、えーと……ちゅー」
   (投げキッスを返す)
146: 名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/ 2014/12/03(水) 22:07:12.80 ID:m9q9Bqk5.net
そして雪穂と私は、アイドル研究部の部室の前に着きました。
雪穂と私は、ドアをノックして、名前を告げました。

亜里沙「絢瀬亜里沙です!」

雪穂 「高坂雪穂です!」

すると中から、声がしました。

(ほら、かよちん、亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんが来たにゃー)

(大丈夫よ、私たちもついてるわ、花陽)

(ぴゃあ、ぴゃあ)

そして、花陽さんがドアを開けてくれました。

花陽 「どうぞ!」




――――――
※おわりです。
 読んでくれた方、ありがとうございました。
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