【SS】 ことりチャレンジ!【ことにこ】

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ことり-アイキャッチ7
1: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:11:07.52 ID:8DfVbg8D.net
「こらぁ!凛、こっち来なさい!」

「嫌だにゃあ、離すにゃあああ!」

鬼の形相のにこちゃん。凛ちゃんを部室へ連行していきます。

一年生には結構寛容な我らが部長ですが。

先程の、六十秒間ぐるぐると体を回転させ続けるというイタズラは許せなかったようです。

正直、見てるだけで少し気分が悪くなってしまうほどでした。

「それじゃ、しばらく抜けるから後よろしく」

「助け、誰か助けてっ、あ、かよちん!助けてかよちーん!」

元スレ: 【SS】 ことりチャレンジ!【ことにこ】

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3: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:12:24.15 ID:8DfVbg8D.net
助けを求める声に、答える声はありません。

名前を呼ばれたかよちゃんも、明後日の方向を向いてしまっています。

「誰か助け―――」

バタン。無情にも、屋上のドアは閉じられました。

しかし残された私達に動揺はありません。

凛ちゃんがにこちゃんに悪戯をして、お説教されるのはよくあることだからです。

「さ、ストレッチを始めるわよ。凛とにこがいないから、花陽と真姫で組んでね」

何事もなかったかのように、今日のトレーニングが始まります。
4: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:13:32.07 ID:8DfVbg8D.net



あれからしばらく経ちますが、二人が戻ってくる気配はありません。

今も部室にいるのでしょうか。

「凛ちゃん、まだ怒られてるのかなあ?」

「あはは、こってり絞られてるんだろうね。大変だよね~」

「実際にお説教受けることが多い穂乃果が言うと、説得力がありますね」

知られざるμ’s名物、にこちゃんのお説教。

大抵は凛ちゃんか、穂乃果ちゃんが叱られています。

きっと、限度を知らずに突っ走る二人だからでしょう。
5: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:15:55.76 ID:8DfVbg8D.net
「や、やだなあ海未ちゃん。顔が怖いよっ」

「ふふ、確かによくお説教されてるよね」

「ことりちゃぁん……」

「まったく穂乃果は。リーダーなのですからしっかりして頂かないと―――」

ギロリ。海未ちゃんの冷たい眼光に、穂乃果ちゃんは蛇に睨まれた蛙のように固まっています。

このままでは海未ちゃんのお説教が始まってしまうかもしれません。

助け舟を出すことにしましょう。

「そ、そういえば海未ちゃん。海未ちゃんは、にこちゃんにお説教受けたことはないの?」

「えっ、私ですか?そうですね……」

眉をハの字にしたまま、何やら考え込んでいます。

しばらく思案したあとに、話してくれました。
6: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:17:40.05 ID:8DfVbg8D.net
「……実は二度ほど、お叱りを受けたことがあります」

「へえ~、海未ちゃんもあるんだ!」

穂乃果ちゃんが何やら嬉しそうに驚いています。

あの海未ちゃんが叱られたことがあったなんて、私も驚きです。

反対に、にこちゃんが海未ちゃんに叱られている絵というのは想像がつくのですが……。

「それでそれで?なんで叱られちゃったの?」

「落ち着いてください。ちゃんとお話しますから」
7: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:19:29.41 ID:8DfVbg8D.net
お恥ずかしことですが。と前置きをしてから、その時のことを教えてくれました。

「にこが加入して間もない頃に、これからのSomedayの動画を撮影したでしょう?

 あの映像をアップロードする前に、私も映像の確認をしたのです。

 そこで、可愛らしいポーズをしている自分というのを目の当たりにした途端、無性に恥ずかしくなってしまいまして……。

 そういったポーズに躊躇いを覚えるようになって、パフォーマンスが下がってしまったのです」

「え、そうだったの?気がつかなかったなあ。ことりちゃんは気付いてた?」

「ううん。私も気がつかなかったよ。海未ちゃん、オープンキャンパスの時にもそうだったの?」

「いえ、その頃には平気になっていましたよ」
8: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:23:02.04 ID:8DfVbg8D.net
その頃を思い出しているのか、海未ちゃんは懐かしそうに屋上の中央のあたりを眺めています。

「ある日、放課後の屋上に呼び出されて、『あんたアイドル舐めてるの?』と、指摘されたんです。

 隠し通せていたつもりでしたから、とても驚きました。今なら、にこなら見抜くだろうと考えますけどね。

 その頃は、にこのことを余り知らなかったので侮っていたのかもしれません」

「おー!流石にこちゃんだねえ!」

「それで、お説教されて平気になったの?」

一番気になるところです。

海未ちゃんは結構頑固というか、理屈や言葉だけで切り替えられるタイプじゃありません。

お説教だけだとは思えないのです。
10: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:25:04.49 ID:8DfVbg8D.net
「ええ。ことりの考えている通り、平気になったわけではありません。正確には麻痺したとでも言いましょうか」

「麻痺したって一体何したの?」

「その、お説教受けた後にですね。屋上で、日が暮れるまで可愛らしいポーズを延々とですね……」

「うわあ、スパルタだね」

穂乃果ちゃんが絶句しています。

一体、どれだけの間やっていたんでしょう。

「ふふ、確かに恥ずかしさは消えたとはいえ、本当に大変でした。筋肉痛が酷かったのを覚えています。

 でも、そんなことより何より。私は嬉しく思っていました。にこは―――にこ先輩は、苦楽を共にしてくれる人だということがわかって」

「苦楽を共にってことは、もしかして……」

「翌日、にこは筋肉痛で学校を休んだんです」
11: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:27:46.33 ID:8DfVbg8D.net



未だ凛ちゃんが帰ってこないということで、絵里ちゃんの指名により海未ちゃんが部室へ赴いています。

「ねえ、ことりちゃん。さっきの海未ちゃんの話だけど」

「うん」

「にこちゃんもずーーーっと、一緒にポーズとってたって聞いて。なんかいいなって思ったんだよね」

「……うん、そうだね」

先輩との思い出。

それは私と穂乃果ちゃんには、縁のなかったものです。

μ’sにしても、先輩禁止というのもあってか、仲間意識のほうが強かったりします。

弓道部に入っていた海未ちゃんにも、きっとそういうことはなかったのでしょう。

今までに、聞いたことがありません。
12: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:29:36.73 ID:8DfVbg8D.net
「それに、海未ちゃんもお茶目になったよねえ……」

二度受けたというお説教のうちの、もう一つのことも聞こうとしたのですが。

『ふふっ。それは、私とにこだけの秘密です』

シーッという仕草をして悪戯っ子の様に笑う海未ちゃんに、私達は頷くことしかできませんでした。

「私達の知らないところで、仲良かったりするのかなあ」

穂乃果ちゃんも、別に仲が良くないと思っていたわけではないでしょう。

ただ、そんなことを思ってしまうほどに、海未ちゃんの笑顔は魅力的でした。

「なんだろう、この気持ち。ちょっと寂しいね」

いつも一緒だった海未ちゃんが、離れていくように思えたからでしょうか。

それとも、にこちゃんとの思い出が羨ましいという気持ちからでしょうか。

胸が、きゅうきゅうと締め付けられています。
13: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:31:20.07 ID:8DfVbg8D.net
「んんんー、やめやめ!考えてても仕方ないよね。

 私はこれからも、海未ちゃんとにこちゃんに叱られ続けるよ!

 そうしたら、この気持ちが何か、わかるかもかもしれないし!」

わからないときはわからないなりに突き進む。

とっても穂乃果ちゃんらしい答えに、思わず笑ってしまいます。

「あはは、穂乃果ちゃん、やりすぎないようにね。今日の凛ちゃんみたいになっちゃうよ」

「う゛っ。流石に今日みたいに長いお説教は勘弁だよ……。にこちゃんのお説教って心にグサグサ来るんだよね」
14: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:33:30.13 ID:8DfVbg8D.net
あの時はゲンコツされて、この時は正座させられた、でもその時の最後は優しかった、等々。

どういうお説教を受けたことがあるのかを、自慢のように語っています。

普段はそんなに力が強くないのに、お説教の時は力強いんだよー、と笑顔で言っています。

(穂乃果ちゃんは気がついてないけど。何度もお説教を受けたことが、にこちゃんとの大切な思い出になるんだろうな)

そこで、はたと気が付きました。

あれれ。

つまり、にこちゃんとの間に何にもないのは、私だけということでしょうか……?
15: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:38:58.26 ID:8DfVbg8D.net



「うぅ、眠れない……」

思わず、呟いてしまうほどに寝苦しい時間が続いています。

屋上で聞いた、幼馴染達の話に頭を悩ませているのが原因です。

今まで皆仲良しだと思っていたμ’sの面々。

学年の違う9人が集まって、みんな仲が良いのは奇跡のようなことだと思っていたのですが……。

今日の出来事によって、一つだけの例外を発見してしまったのです。

(私と、にこちゃん)

私と彼女は仲が良いと言えるのでしょうか?

昨日までの私であれば、仲良しだと即答できたでしょう。

ですが今日の、改めて関係を考えなおした私には。どうしても、即答出来るだけの確信を持てないのです。
16: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:41:00.93 ID:8DfVbg8D.net
例えば、三年生の他の二人。

希ちゃんと絵里ちゃんとは何の躊躇いもなしに仲良しだと言えるほど、楽しくお話をします。

私から話を振りますし、彼女たちからも話しかけてくれます。

でも、にこちゃんは?

アイ活に関わることと、会話の流れ以外で私に話しかけてくれたことがあったでしょうか。

少し……。いえ、かなり考えてみましたが思い当たることはありませんでした。

じゃあ、私はにこちゃんに話しかけているのか。

そのことを思い出そうとした時、私は愕然としました。

なにせ、記憶に残っているものが何もなかったのですから。
17: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:42:48.62 ID:8DfVbg8D.net
(きっと、なにか、なにかあるはず)

私とにこちゃんの共通点を考えてみます。

お洒落をするのが好きで、メイド喫茶でバイトをしたことがある、ということ。

それだけでも話題には事欠かないはずですが、実際にその話で盛り上がったことはありません。

(……)

思い返しても、思い返しても。

私と彼女の間を繋ぐものは、μ’s以外に、何も見つかりはしませんでした。

どれだけ頭の中を探してみても、

何度考えても、私と彼女の距離は縮まろうとはしません。

むしろ事実を知ることよって、その距離は広がろうとしています。

(海未ちゃん。穂乃果ちゃん)

幼馴染の二人にはあって、私にはない、何か。

……もしかして、嫌われているのでしょうか?

いえ、にこちゃんはハッキリ態度に出すタイプなので、たぶん嫌われてはいないはずです。

でも、μ’sを続けるために我慢していると思えば、ありえない話ではありません。
18: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:43:48.14 ID:8DfVbg8D.net
(にこちゃんと、私)

一生懸命頑張っている、かよちゃんの姿を見て微笑むにこちゃん。

悪戯をする凛ちゃんを、どこか嬉しそうに叱るにこちゃん。

意地っ張りな真姫ちゃんをからかって楽しむ、にこちゃん。

他のみんなに見せる、心からの表情の、にこちゃん。

……私には。

私のためだけに、感情が宿った表情を見せてくれたことがあったでしょうか。

にこちゃんが標準装備している、不機嫌そうな顔と、自信が満ち満ちた顔以外の、特別な表情。
19: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:44:38.88 ID:8DfVbg8D.net
「ふふ、私ったらどうして、にこちゃんのことばっかり考えてるんだろう」

今更、にこちゃんのことばかりを考える自分がおかしくなって、思わず笑ってしまいます。

でも、結局のところ。それだけ考えていても、私とにこちゃんの間に、仲良しといえる繋がりはありませんでした。

だけど、それも当たり前のことです。

今の今まで、そのことに気が付かなかったということは。

にこちゃんが私に興味を持っていない様に、私もにこちゃんに関心を持っていなかったということなのですから。
20: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:46:30.17 ID:8DfVbg8D.net



「それで、ことりちゃんったらねー」

「あはははっ、穂乃果ちゃんそれ本当?」

「穂乃果ちゃん!恥ずかしい話するのやめてよー」

ユニットごとに分かれて方針の会議中です。

Printempsの次の曲の大体の方向性は決まったので、その後はお喋りをしながらゆっくりとしています。

「もう、マカロン持ってこなきゃ良かった」

「まあまあ、ことりちゃん」

おやつにと用意したマカロンを、みんなで食べようと出したところ

マカロンの形をした入浴剤を私が食べようとしたというエピソードを思い浮かべた穂乃果ちゃんが、思い出し笑いをはじめたのです。

それからは、延々と私の恥ずかしい話を花陽ちゃんに披露しています。
21: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:48:42.32 ID:8DfVbg8D.net
「ほらほら、花陽ちゃんも楽しんでることだし」

「ご、ごめんね、ことりちゃん……。で、でも、ふふっ、あははっ」

最初は私に遠慮して苦笑気味だった花陽ちゃんも、穂乃果ちゃんの鉄板ネタである、携帯とリモコンを間違えて学校に持ってくる私の話でお腹を抱えて笑っています。うう、恥ずかしいよう。

「なにしてんのよ、あんたたち。外まで笑い声響いてたわよ」

にこちゃんが部室に入ってきました。

BiBiは音楽室で会議のはずですが、終わったのでしょうか?

「あー、にこちゃん。ミーティング終わったの?」

「まだよ。ちょっと調べ物が出来たから、パソコン使いに来たのよ」

「そうなんだ。そうだ、にこちゃんも聞いてよ!さっきまで、ことりちゃんの面白い話をしてたの!」
22: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:50:37.24 ID:8DfVbg8D.net
ああ、もうやめて穂乃果ちゃん……。

だけど調子づいた彼女を止めるのは至難の業。

どうやって止めよう。

「……へえ、それで花陽が珍しく大笑いしてたのね」

どうでもよさそうに呟いて、パソコンに向かっています。

私の話だから、あまり興味を持ってもらえないのでしょうか。

少し寂しいですが、仕方ないことかもしれません。

私は、昨夜の長きに渡る懊悩の結果、にこちゃんとの関係を半ば諦めていました。

今の少し離れている距離が私達にとって一番良いのだと、自分をなんとか納得させていました。
23: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:51:27.06 ID:8DfVbg8D.net
「ことりちゃんったら携帯と間違えてリモコンを―――」

「……」

「この間なんかマカロンの形をした―――」

「……」

「でね、後ろ姿が海未ちゃんそっくりの人に、だーれた♪って言って―――」

「……」

穂乃果ちゃんは反応がないことに気がついて、不満そうな顔をしています。

「もーう!にこちゃん、聞いてるー?」

「聞いてる」

やっぱり、どうでもいいのかな。そんなことを考えていたら。
24: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:53:48.25 ID:8DfVbg8D.net
「ことり」

射抜くような意思を感じさせる瞳が、私を捉えました。

「注意力散漫ね。普段から、もっと気をつけなさい」

「う、うん。わかった」

「もー、にこちゃん。そんなに真面目にならなくてもいいじゃんかー」

「……」

「無視しないでよぉ」

「はいはい。調べ物終わったから戻るわ。あんたたちもサボらないように」

チラリとマカロンを一瞥してから、部室から出て行きました。

「にこちゃんはもう少し余裕を持つべきだよっ」

普段の私であれば、ぷんぷんしている穂乃果ちゃんにフォローを入れたりするのですが……。

この時の私は、別のことに衝撃を受けていて、それどころではありませんでした。
26: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/06(金) 00:57:34.80 ID:8DfVbg8D.net
(にこちゃんが、私を、真剣に叱ってくれた)

私と距離をとっているであろう、あのにこちゃんが。

大した事ではないとはいえ、まっすぐと私の目を見ながら。

嬉しいと感じている自分がいます。

一歩、彼女に近づけた気がします。

(やっぱり、もっと仲良くなりたい)

無理やり抑えつけて、仕方ないで済ませようとしていた、仲良しではないという現実。

私から関わっていくことで、関係が悪くなってしまうのではないかという恐怖と葛藤。

そういうものに蓋をして、自分を誤魔化すのはもうやめます。

―――私は、決めたんです。

私はにこちゃんと、仲良くなりたい。

もっと私のことを知ってほしい。

そして、にこちゃんのことを、もっともっと知りたい。

(明日から、頑張ります!にこちゃん、覚悟しててね)

今日は作戦を練ることに集中です。

でも、その前に。

Printempsだけの、ささやかなお茶会を楽しみたいと思います。
48: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:07:33.75 ID:lZX60jcg.net
チャレンジ1:かしこいかわいいミナリンスキー

覚悟を決めた時から―――正確にはマカロンを食べ終わった日から、一週間が経ちました。

暇さえあればにこちゃんを観察したり、みんなから話をさり気なく聞いてみたりと、色々と準備をしてきました。

それらを元に考えに考え抜いた作戦。

"真似っ子作戦"の開始です。

温故知新。先人に学ぶ。おばあちゃんの知恵袋。

μ’sのみんなの、にこちゃんと親しくなった経緯を真似をしちゃおうという作戦です。
49: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:11:01.24 ID:lZX60jcg.net
まずは、かしこいかわいい元生徒会長。絵里ちゃんの真似っ子から始めます。

にこちゃんにとって同学年で、目立つ容姿を持っている彼女。

生徒会に所属していたので、部長だったにこちゃんに接触する機会も多かったでしょう。

なにより絵里ちゃんはスクールアイドルに余り良い感情を持っていませんでした。

ゆえに、その後μ’sに加入した彼女の、にこちゃんとの関係はマイナスからのスタートだったといってもいいのではないでしょうか。

だけど、今の二人はどうかといえば。

あのキリッとした絵里ちゃんが、甘々とでも言いましょうか。

何故か『流石にこね』『ほんとにね』と、にこちゃんを事あるごとに推しています。

大抵の場合、にこちゃんはその言葉をスルーしているのですが、たまに笑顔で応えていることもあります。

その時の絵里ちゃんのデレッとした顔は中々の見ものだったりします。
50: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:13:27.97 ID:lZX60jcg.net
『―――えっ。どうして私はにこと仲良くなれたかって?ふふ、急に変なこと聞くのね。

 ……うん、うん。ああ、確かに、ことりの言うとおり、それまでの私達は良い関係とは言えなかったわ。

 結構前から、対立していたし。希がいたから、致命的なものにはならなかったけど。

 それを不思議に思った?うふふ、それは私も不思議だったわ。

 μ’sに入った時、上手くやっていけるか不安だったもの。特ににことはね。

 でも、それは杞憂だったの。にこったら、何かあるんじゃないかって勘ぐりたくなるぐらい、世話焼いてくれたのよ。

 意外でしょ?……後から聞いた話だけどね。教室で勧誘されてた時の、素直になれない私が、妹のこころちゃんと重なったんだって。

 こころちゃんはね。にこが言うには、私と似たタイプらしいの。そのせいで妹みたいに思えちゃったんだって。

 ふふ、失礼な話よね。同い年の私を捕まえて、妹っていうのよ?

 そんなこと言うものだから、せっかくだと思って甘えてみたりしたんだけど。

 にこ、全部受け止めてくれるのよね。それでもう、愛おしくなっちゃってね。これからは、にこには全力で甘えようって決めたの。

 だからかしら。この前なんて、うちの妹に更に似てきたわね、なんて言われちゃったわ』
51: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:15:41.52 ID:lZX60jcg.net
このままだと私、にこの妹になっちゃうかも。

くすくすと嬉しそうに語られる言葉に、胸が暖かくなりました。

私が挑戦の果てに辿り着く関係が、気軽に甘えることが出来るものかはわかりません。

しかしそのお話から得られた、にこちゃんのお姉ちゃん体質という特性を活かさない手はありません。

「私が甘えても、大丈夫かなぁ」

冷たい目で、甘えないでなんて言われたら、それだけでノックアウトです。

二度と立ち上がれないかもしれません。私のメンタルは、そんなに強くないのです。
53: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:18:51.35 ID:lZX60jcg.net
「弱気になっちゃ駄目だよ、私」

自身に叱咤してみますが、不安な気持ちが消えることはありません。

普段の私はぽけぽけっとしているせいか、深く考えて行動することが余りありません。

そのせいか不安の迷路に一旦捉われてしまうと、なかなか抜け出せなくなってしまいます。

そうだ。だったら、自分を少しだけ偽ればいいのです。

ミナリンスキーの時のように。

可愛い自分、強い自分の仮面を被って、にこちゃんに接すれば……。
55: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:22:26.92 ID:lZX60jcg.net



放課後。部活はお休み。穂乃果ちゃん達とは、用事があると言って別れました。

それから、にこちゃんを探しに三年生の教室に行ったのですが、姿を見つけることは出来ません。

隣のクラスの希ちゃんに聞いたところ、部活が休みの日でも、部室で時間を潰してから帰っているそうです。

話の通りに部室に赴いてみると、頬杖をつきながら中庭をぼけーっと眺めているにこちゃんを発見です。

「に~こちゃんっ」

「……ことりじゃない。珍しいわね。どうかした?」

「衣装作りを少し手伝ってほしいと思ってきたんだけど……。ダメかな?」

あらかじめ用意していたセリフをスラスラと喋ります。

そして、にこちゃんが手伝おうかどうしようか考えたところで、持ちうる可愛さをすべて詰め込んだ<お願い攻撃>をぶつけるつもりでした。
56: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:24:43.06 ID:lZX60jcg.net
「別にいいわよ」

まさかの即答です。断られずに安心しましたが、最初の目論見は外れてしまいました。

だけどまだまだ、策はあります。

「ありがとにこちゃん!それじゃあ、被服室に準備してあるから、行こっ」

そう言って、にこちゃんに左手を差し出してみました。

これには流石に虚をつかれたようで、まじまじと私の手を見つめています。

「これは、何の手……?」

「繋ご?」
58: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:26:06.37 ID:lZX60jcg.net
唐突過ぎたかな?にこちゃんは思案顔になってしまいました。

だけど、ここで引いてはダメです。

甘えられるのに弱い、にこちゃん。甘えてる雰囲気を醸し出せば押しきれるはず。

首をかしげて、少し悲しそうな顔。そこからの上目遣い。

「だめ?」

「……まぁ、いいけど」

控えめに繋がれた、にこちゃんの右手。

これは一歩。

μ’sにとっての、小さい一歩。私にとっては、大きい一歩です。
59: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:28:54.74 ID:lZX60jcg.net



「それで、私は何すればいいの?」

「えっとね!手縫いじゃないと駄目なところをお願いしたいの。にこちゃんって丁寧で作業も早いからね!」

「わかったけど、なんでそんなにテンション高いのよ」

「……そんなことないよ?」

危ない危ない。気分が盛り上がりすぎていました。

びーくーる、ことり。不審に思われてしまいます。

そんなことを考えているうちに、にこちゃんは作業を始めていました。

私も遅れまいと作業を進めます。
60: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:30:18.02 ID:lZX60jcg.net
「それにしても。衣装作り、遅れてるの?手伝ってほしいだなんて」

にこちゃんからの質問。話しながら、針をテンポよく動かしています。

別に責めてるわけじゃないわよ?そう補足してから、私を窺っています。

「悩み事があって、最近よく眠れてないの。だから、あまり集中できなくて」

「……ふーん。睡眠不足は、アイドルの天敵よ。何が理由か聞かないけど、早めに解決することね」

寝不足は、あなたのことを考えていたのが原因なんです。

もしもそう言えたなら、どんな反応が返ってくるのでしょうか。
62: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:32:36.97 ID:lZX60jcg.net
「ええ~、にこちゃん。そういう時は、私に相談しなさいっていうのがお決まりの流れじゃないかな?」

「あんたには幼馴染がいるでしょ。そっちに相談しときなさい」

素気なく返されてしまいました。

これは、私に頼るなということなのか、気を遣ってくれているのか。

真剣な表情で作業をしているので、顔色では判断がつきません。

ならば、選ぶ道は攻めの一手。

「うん、わかった。そうするね」

今は、機会を窺うとき。
66: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:45:18.88 ID:lZX60jcg.net



「ふわあ~~~、はぁ」

「あんたね……。アイドルがそんな大あくびしていいと思ってんの?」

「あはは、ごめんね。でも、眠くて眠くて」

わざとらしく目をこすって、眠気アピール。

少し前から、頭をうつらうつらさせたりと念を入れています。

「ったく。針仕事してるのに、危ないでしょうが。明日も手伝ってあげるから、今日はもう帰りましょ」

「ダメだよ、にこちゃん。間に合わなくなるかもしれないから、今日もやらないと」
67: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:47:32.66 ID:lZX60jcg.net
周囲を見回して、人が寝ることが出来そうな場所―被服室の物置台です―を、さも偶然見つけたかのように目をやりました。

「少し眠れば大丈夫だから。ちょっとだけ、横になるね」

「それでいいんなら、別にいいけど」

チクチク。チクチク。

部屋の後ろのほうに眠りに行こうとしている私に目もくれず、針を動かし続けています。

むぅ、もう少し見てくれてもいいんじゃないかなぁ?

「……そういえば、あんたって自分の枕じゃないと眠れないんじゃないの?」

あ、覚えててくれたんだ。嬉しい……、じゃなくて。

待っていた機会が到来です。このチャンスを逃したら、今日はもうこれ以上の進展はないでしょう。
68: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:49:10.93 ID:lZX60jcg.net
「うん。でも、枕の代わりになりそうな柔らかいものがあれば、仮眠ぐらいは出来るよ」

「へえ、そうなの。柔らかいものねえ」

「何かないかなぁ~」

製作中の衣装の布地。ほぼ使用済みで、使えません。

今日は体育はなかったので、体操服袋はなし。にこちゃんも持っていません。

そして、被服室に置いてあった柔らかそうなものは隠し済み。

「見事に何もないわね」

「う~ん、どうしよう。……あ、そうだ」

いかにも今思いついたところです、という顔でにこちゃんに笑いかけます。

「膝枕、してほしいなぁ」

「は?」
69: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:51:47.72 ID:lZX60jcg.net



してほしい、嫌よ、お願い、駄目。

小競り合いがありましたが、結局にこちゃんは膝枕をしてくれています。

「十分だけだからね」

「ありがと、にこちゃん」

暖かくて、柔らかくて、極楽気分。

にこちゃんの膝枕は、私の首にちょうどいい高さです。足が細いからでしょうか?

しかも、目をひらけばにこちゃんの瞳が飛び込んできます。

針仕事を中断していて手持ち無沙汰のようで、暇つぶしにずっと私を見つめている様です。

ちらっちらっとにこちゃんの様子を窺おうする度に、視線がぶつかっています。

「さっさから私のこと見てるみたいだけど」

「ち、違うの。ちょっと気恥ずかしくて」

「自分から頼んどいて、よく言うわ」

くしゃっと顔を歪めて、皮肉げに笑っています。

にこちゃんって、そういう笑い方も、するんだ。
70: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:55:02.57 ID:lZX60jcg.net
「はぁ。仕方ないわねえ……」

こほんと息をついて、ゆっくりと歌い出しました。

「はしり~だす~、べりべりぃとれいん~」

私の歌です……。しかも、子守唄のように優しく、ゆったりと。

にこちゃん、器用だなぁ。妹さん、たちにも、してたのかな……。

「やんやんっ おくれそうです~」

ぽん、ぽんと左手で、肩を叩かれて、心がふわふわ……。

右手で、髪を梳いて……。

「不安なキモチがすっぱい ぶるーべりぃとれいん~」

ぐぅ。
71: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/08(日) 23:56:53.31 ID:lZX60jcg.net



(んぅ……?)

ぼんやりとした頭で、眠りに落ちる前のことを思い出す。

にこちゃんに、膝枕をしてもらって、子守唄を歌ってもらって、それから……。

まだ、頭には柔らかい感触があります。

(……あれ?何分たったんだろう?)

ああっ、完全に熟睡していました。

(しかも涎垂れてるよぉ!)

口の中の感触から、自分がやらかしていたことを理解します。

これって絶対、膝に行ってるよね……。

目を開けるのが怖い。どうしようどうしよう、嫌われちゃう。
72: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/09(月) 00:00:21.29 ID:+qmDLgrW.net
「ことり」

狙いすましたかのように、名前を呼ばれて、思わずびくっと体を竦ませてしまいました。

「言っとくけど目が覚めたの、バレバレよ?怒らないからさっさと起きなさい」

「あの、ごめんね。その、涎、とか……」

いそいそと膝枕から退去しながら、恐る恐る様子をうかがいます。

「だから怒ってないって言ってるでしょ」

怒っているどころか、にこちゃんは何でもないような顔をしていました。

安心して口元をハンカチで拭いていると、にこちゃんがプククと悪そうに笑いだしました。

「まあ、私としては?ことりの、涎を垂らしたレアなアホ面が見れて良かったし」

うぅ、恥ずかしい。

穂乃果ちゃんや海未ちゃんにも、そんな顔見せたことないのに。
73: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/09(月) 00:02:22.52 ID:+qmDLgrW.net
「ま、ことりも起きたことだし。そろそろ帰りましょうか」

「えっ、でも衣装作りの続き……」

「時計見てみなさい」

時計は、五時半を指していました。

どうやら私は、十分どころか小一時間も寝ていたようです。

帰ろうと言っているのは、今からでは時間的にキリが悪いからでしょう。

「あ、あ~……」

かなり、やってしまっていたようです。
申し訳なくて、にこちゃんと目を合わせられません。

「別に気にしなくても良いわ。起こさなかったの、私だし。ほら、いいから帰る用意始める!」

ああ。
にこちゃんに主導権を完全に握られてしまっています。
75: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/09(月) 00:07:40.45 ID:+qmDLgrW.net



「片付け終わった?帰る用意も出来たわよね?」

「うん、出来たよ」

「鍵閉めるわよ」

少しは、にこちゃんと親しくなれたでしょうか。

あとは帰るだけなので、何が出来るわけでもありません。今日のことを振り返りながら帰路につこうと思います。

恥ずかしい姿を見られてしまって、自分を奮いたたせる気力が沸かないというのが本当のところですけれど。

「それじゃ、はい」

鍵を閉め終えたらしいにこちゃんが、私に手を差し出しています。

職員室に鍵を返して来いということでしょうか?でも、鍵はにこちゃんが手に持っているし。
76: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/09(月) 00:10:59.60 ID:+qmDLgrW.net
「手、繋ぐんでしょ?」

「えぇ!?」

「……何よ。あんたから始めたことでしょ」

嫌ならやめとくわ―――そう言って引っ込めようとした手を急いで掴みます。

「行こっ、にこちゃん」

「下駄箱までだからね」

「うん!」

にこちゃんのほうから手を繋ごうとしてくれるなんて。

思ったより、私の言葉は届いているのかもしれません。
77: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/09(月) 00:19:21.27 ID:+qmDLgrW.net
「あ、そうそう。ことり」

私の目をジッと見据えて、何かを言おうとしています。

「なぁに?」

「私にまた甘えたいと思ってるんだったら、次は普段のあんたで来なさいね」

瞬間、顔が沸騰するようにカァーっと赤くなっていくのがわかります。

(全部全部、見透かされていた)

恥ずかしすぎました。即、速やかに撤退することに決めました。

「こ、ことり先に帰るね!じゃあね!」

ガシッ。繋いだ手が、私を逃がしてくれません。

にこちゃんを見ると、顔が笑っています。にやにやと笑っています。

(海未ちゃん。ことりも、にこちゃんを侮っていたようです)

そして、それから下駄箱まで。

頑張って片手で顔を隠そうとする私を、にこちゃんがじっくりと観察するという拷問が待っていました。

#チャレンジ1:終わり
106: 名無しで叶える物語(プーアル茶)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:32:41.13 ID:bmNupmG+.net
チャレンジ2:ことり、知ってるよ。ことり進んでにこ戻るってこと。

にこちゃんに完全に上手をいかれてしまった、甘えん坊作戦。

あれから一日が経ちますが、未だに引きずっています。

(昨日のことは、一旦忘れよう)

忘れようすればするほど、あの時の記憶が脳裏によぎります。

今だって、少しでも気を抜けば顔が赤くなってきそうです。
107: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:35:07.17 ID:bmNupmG+.net
(あ、そういえば……。今日も一緒に、衣装作りするんでした)

『被服室でも言ったけど、明日も手伝うから。……それじゃ』

昨日の別れ際、一方的に告げられた言葉。にこちゃんは返事も聞かずに去って行きました。

衣装作り自体は、本当に遅れているのでとても助かります。

ですが昨日の今日で、顔を突き合わせるのは恥ずかしいという思いもあります。

(でもでも。今日は他のみんなもいるから、二人きりにはならないよね)

そう考えると、少し安心です。
109: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:36:31.94 ID:bmNupmG+.net



ヴヴヴ。お昼休みの鐘がなって、さぁこれからお弁当を食べようとした、その時。

スマートフォンが何らかのお知らせを受け取ったらしく、ポケットの中で震えています。

(ラインがきてるみたいだけど、なんだろう?)

確認してみると、にこちゃんからです。

『今日の放課後、あんたの家で昨日の続きをするから。私が二年生の教室に行くから、衣装を持って待ってて』

「ほぇっ!?」

思わず、変な声が出てしまいました。

結構な音量だったようで、教室中の視線が私に集まっています。

一緒にお弁当を食べようとしていた穂乃果ちゃんと海未ちゃんも、驚いた顔で私を見つめています。
110: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:41:28.36 ID:bmNupmG+.net
「ことりちゃん、どうかしたの?」

「何かあったのですか?」

「ううん。何でもないよ、何でも」

何でないように装ってみたものの、心は驚きでバクバクと脈を打っています。

加えて、注目を集めてしまって恥ずかしいという気持ちが、お弁当を蓋を開けたり閉めたりを繰り返すという奇行に走らせました。

……これでは、とてもじゃないですが誰が見ても何でもなくはないでしょう。

「こ、ことりちゃん……?」

「ことり……?」

いけない、誤魔化さないと。

「ピュ、ピュ~♪」

私、誤魔化そうとして口笛を吹くの図。

幼馴染の二人をみると、残念なものを見る目で私を見ています。

「……うん。何でもないみたいだね」

「そのようですね……」

触れないでいてくれる二人の優しさが、辛い。
112: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:46:50.57 ID:bmNupmG+.net



昼休みが終わり、授業中。

授業をロクに聞かずに頭を悩ませていました。

幼馴染兼親友の二人に生暖かい視線を浴びせかけられた、にこちゃんのライン事件から十分後。

私と彼女が、本日の部活を休むことが皆に連絡されました。

穂乃果ちゃんと海未ちゃんに、私はどうして休むのかという疑問が生まれましたが、質問に上の空で答えていたら体調不良だと思われたようです。

『早退しなくても大丈夫?』

『保健室にお連れしましょうか?』

大丈夫だよ、と返事をしたのですが。二人は心配そうにしていました。

先程の可哀想なものを見る目から打って変わって、慈愛に満ちた二人に思わず涙ぐみそうになりました。

本当は、にこちゃんにどう接しようかを考えていただけなのに。

なんだか申し訳ないです。
113: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:50:00.48 ID:bmNupmG+.net
(ごめんね二人共。ことりは元気です)

それはそれとして。

(学校が終わったら、私の家で、にこちゃんと二人きり、かぁ……)

まさかの、自宅での二人きり。

黒歴史にしたいと思っていた甘えん坊作戦。実は効いていたのでしょうか?

『私にまた甘えたいと思ってるんだったら、次は普段のあんたで来なさいね』

そんな都合のいい風に考えてしまったせいでしょうか。

不意に、最も恥ずかしかった瞬間を思い出してしまいました。

(だめだめ、思い出しちゃだめっ)

自分の意思とは裏腹に、頬が火照ってきているのがわかります。

頭をぶんぶんと振って、気を取り直します。

冷静に考えないと。
114: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:53:02.75 ID:bmNupmG+.net
(単に、作業が遅れているから?)

アイドル活動に全力なにこちゃんのことです。

きっと、それだけの理由でしょう。昨日の今日で親しくなれるほど、にこちゃんは甘くないはず……です。

(だから、今考えるべきは次の作戦だよね)

昨日の甘えるという手段は、たぶん、失敗でした。

ならば、今日は別の方法で攻めます。

(う~ん、何か、良い作戦。うう~ん。)

悩みを解決するようなものが出てきそうな気配はありません。

脳裏に、昨日の醜態がチラついて邪魔をしているからでしょうか。

―――キーンコーンカーンコーン

(あ、チャイム鳴っちゃった……)

残り二時限。
焦りで、一向に良い考えは浮かびそうにありません。

「はぁ……どうしよう」




「ことりちゃん、顔が赤くなったり青くなったりしてるけど、大丈夫かなぁ?」

「いつも以上にボンヤリしているようですし、心配ですね……」
115: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:57:00.09 ID:bmNupmG+.net



終礼の鐘が放課後を告げて、穂乃果ちゃんと海未ちゃんは部室へ行ってしまいました。

私はというと、にこちゃんを今か今かと教室で待ち受けています。

二十分が経過しようとしたところで、やっと姿を見せました。

「ごめん、待たせたわね。ちょっと凛に絡まれちゃって」

「ううん、大丈夫。私も今来たところだよ」

「……あ、ああー、そうなの」

待っている間に思いついた小ボケを披露してみましたが、慣れないことはするものじゃないと後悔。

あんたずっと教室にいたんじゃないの―――という様なツッコミを期待していたのですが、不審に思われただけでした。

(もしかして、本気で言ってると思われたのでしょうか)

……確認するのが怖いので、なかったことにしましょう。

何食わぬ顔で呼びかけます。
116: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/16(月) 23:59:32.89 ID:bmNupmG+.net
「じゃあ帰ろっか」

「ん、そうね。帰りましょうか。……あ、ちょっと待って」

帰ろうと鞄と衣装などの荷物を持ったところで、にこちゃんに止められました。

「荷物半分持ってあげるわ。結構重いでしょ?」

その気遣いを妙に嬉しく感じるのは、にこちゃんと仲良くなりたいと思っているせいなのかな。

満面の笑顔でお礼をいってから、衣装が入った紙袋を半分渡しました。

(幸先の良いスタート。今日は上手く行きそう、かな?)

午後の授業を全て潰して考えた、新たな作戦。

昨日の距離の縮め方が突然すぎたことを反省して、マイルドに攻めて行くことにしました。
117: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:02:11.38 ID:qrT1LqLL.net
(あ、でも。手を繋ぐのは、大丈夫だよね)

千里の道も一歩からと言いますし。本来膝枕に到達するのには、もっと段階を踏むべきでした。

まずは手を繋ぐことから慣れていきたいと思います。

「にこちゃん、手を―――」

差し出そうとしたところで、気付きました。

「……どうしたの?」

にこちゃんは左手に鞄を、右手に衣装を持っています。

鞄を肩にかければ、片手で済むはず。それなのに、わざわざ両手を塞いでいる。
118: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:07:02.90 ID:qrT1LqLL.net
(もしかして、先手を打たれた?)

まさか。……いえ、私の考え過ぎでしょう。

タイミングが悪かったんだと自分を納得させて、今回は見送ることにします。

「ごめんね、何でもない。帰ろう」

言って、歩き出した瞬間。

にこちゃんはわざとらしい笑みを浮かべ、荷物を持ち直しました。

目の前には、ぶらぶらと揺れる右手があります。

……なるほど。どうやら、そういうことらしいです。

(ことり、これはちょっとトサカにきたよ)

マイルドに攻めるという方針は撤回です。

そちらがそうくるなら、こちらにだって考えがあります。
119: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:08:42.81 ID:qrT1LqLL.net



言おうか、言うまいか。

葛藤で瞳を揺らしている姿。私の事でそうなっていると思うと、少し嬉しくなります。

「ねえ、ことり。ちょっと、言いにくいんだけど……」

「なあに?」

それからまた数秒悩んだ後。

やっと意を決したのか、直球をぶつけてきました。
120: 名無しで叶える物語(プーアル茶)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:10:59.15 ID:qrT1LqLL.net
「さっきから距離近くない?」

「えっ、そうかなぁ?」

普通はこれぐらいだよ~、という言葉を返して、距離を取ろうとするのを牽制。

現在の、私とにこちゃん。接触まで、残り20センチメートル。

私の基準で言えば、穂乃果ちゃんや海未ちゃんへの距離が、それぐらい。

「……じゃあ、仕方ないわよね」
121: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:11:31.22 ID:qrT1LqLL.net
渋々といった様子。

しばらくの間は反論を考えていたようですが、結局何も思いつかなかったようです。

たぶんですが、μ’sを思い浮かべて、近いかどうかを悩んでいたのでしょう。

それが私の思う壺だとも知らずに。

(ふふ。離れろとは言いにくいよね)

にこちゃん独特のイジられキャラクターのせいか、メンバーの大半にくっつかれることが多いです。

希ちゃんにはわしわしをされて、凛ちゃんからは抱きつき攻撃を受けて。

ボディタッチの多い穂乃果ちゃんに、ベタベタ触っては甘やかしてくる絵里ちゃん。

現在進行中の、肩が触れ合うかもしれない程度の距離なんて、よく考えれば大したことがないという結論に至ったはずです。
122: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:12:04.50 ID:qrT1LqLL.net
(深く静かに接近せよ、です)

近くにいること、触れ合うことに違和感を覚えなくなることが、今回の目標です。

「あれ?にこちゃん。服に糸ついてるよ。払ってあげる」

家に到着するまでの二十分間。

何かしらの理由をつけては、触れてみたり近づいてみたりと、拒否しにくいような小さいこと。

(ふふ、困ってる困ってる)
123: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:12:30.03 ID:qrT1LqLL.net
タジタジになっている、にこちゃん。

やりすぎると嫌われてしまうので、適度に困らせます。

(これは、復讐)

荷物を半分持ってくれたのは、私のためではなかったということに気付いた時。

少し、へこみました。

だからこれは、後輩から先輩への、可愛い復讐です。

(これくらいなら、許してくれるよね?)
124: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:15:56.00 ID:qrT1LqLL.net



言おうか、言うまいか……どころではなく、明らかにおかしいでしょアンタという顔。

ジト目でねとーっと私を見つめています。

いつだったか絵里ちゃんがジト目のにこ可愛い!と言っていましたが、その気持ちが今ならわかります。

「……なんでこっち側に座ってんの?」

帰宅して、私の部屋。

作業机に裁縫箱と飲み物とお菓子を用意して、これで準備完了だねと言いながら、にこちゃんの隣に自然に腰掛けただけなのですが。

にこちゃんの対面に座ったほうが、使えるスペースは広いような気がしますが、これはどうでもいいことでしょう。
125: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:17:49.55 ID:qrT1LqLL.net
「空いてたからだよ~」

「狭いんだけど」

ピシャリと言葉を両断されましたが、当の私はというと何処吹く風。

今日はミシンを使わないので、問題があるわけでもありません。

「まあまあ♪」

まあまあで押し切ろうと心に決めて、作業を始めようと衣装を袋から取り出します。
126: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:19:04.06 ID:qrT1LqLL.net
「……そっちに座りなさいよ」

「まあまあ~♪」

「って作業始めようとしてんじゃないわよ」

「まあまあ?」

「まあまあまあまあ、うっさいわ!あんたはまあまあ村のまあまあさんか!」

まあまあ攻撃に痺れをきらしたのか、噴火したようなツッコミをされました。
お笑い芸人のように手もツッコミの形になっています。

「……」

「……」

互いに固まっています。しかし、その理由はそれぞれ違ったことでしょう。
私のほうは、ツッコミをいれられたことに感動していたのです。
127: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:19:53.64 ID:qrT1LqLL.net
(今のやりとりって、よく見てたやつだよね……)

希ちゃんあたりがボケて、それにツッコミをいれるにこちゃんという、いつものアレです。
それを、私がやったんだ…‥という感慨に浸っていて固まっていたのです。

(あ、にこちゃんをフォローしなくちゃ!)

フォローというか何というか。
声のトーンから言って、いつも聞いていたツッコミでした。
だから、それに対する返しを待っているのかと、そういうノリの経験が少ない私は思ってしまったのです。

(希ちゃんみたいに、上手いこと返せないよぉ)

何も思いつかなくて、えーい!という気分になって、そのまま返してしまいました。
128: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:20:56.77 ID:qrT1LqLL.net
「まあまあのツッコミだね!」

その時の、にこちゃんの消えてしまいたいとでも言うような表情と、急激に零下まで冷えた雰囲気。

こころなしか、ツインテールも垂れているように見えます。

全力で空回りしてしまったようです。

(あっ……)

後日、聞いたところによると。

にこちゃんも、やってしまったと思っていたそうです。

そして、私の言葉にトドメを刺されたとも言っていました。

(やっぱり、慣れないことは、するものじゃないです……)
129: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:23:29.70 ID:qrT1LqLL.net



作業を始めて、数時間。時計は午後7時を指しています。

(にこちゃん、時間いいのかなあ。衣装作りは、終わりそうだけど……)

私とにこちゃんの双方がやらかしてしまって出来た冷えた空気。

合間合間にポツリポツリと会話していたのもあって、普段の私達程度には戻っています。

針を使いはじめると意識がそちらに集中してしまって、気にならなくなったのです

そのおかげか、衣装作りの終わりが見えてきていました。
131: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:24:56.06 ID:qrT1LqLL.net
「にこちゃん。もう7時だけど、時間は大丈夫?」

「マ……お母さんに遅くなる言ってあるから、まだ続けるわよ。まあ、流石に8時には帰るけど」

「そっか。それじゃあ、今日中に終われるかも」

今のペースなら、あと30分もあれば衣装は完成するでしょう。

(早く終わったら、早く帰っちゃうのかな?)

にこちゃんのことですから、終わったらさっさと帰ってしまうことでしょう。

それは寂しいなと思う気持ちがあります。
132: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 00:27:14.36 ID:qrT1LqLL.net
(せっかくだし、少しはお喋りしたいけど……)

時間が時間なので、お茶に誘ってみても断られる可能性が高いでしょう。

食事の準備がしてあるとも言っていましたし、夕食に誘うわけにいきません。

それに、にこちゃんの帰りを待ちわびている妹ちゃんたちを悲しませたくもありません。

(失敗を繰り返しちゃいけないよね)

やりすぎがよくないのは、身にしみて知っています。

だから今日は、ここまで。

一緒に何時間も過ごしたというだけで、親密さは上がったと考えるべきでしょう。

(あ、そうだ。みんなに振る舞おうとして作っておいたクッキーがあったはず。持って帰ってもらおう)

手伝ってくれたお礼と称して、お土産を渡そう。

喜んでくれるといいな。
136: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 01:32:06.62 ID:qrT1LqLL.net



「いいの?クッキー貰っちゃって」

「手伝ってくれたお礼だよ。そのクッキー、結構自信作なんだ」

衣装が完成した途端に、一息もつこうともせず帰ろうとしたにこちゃん。

なんとか引き止めて、クッキーを詰めた紙袋を持って帰ってもらうことに成功しました。

「ご家族の分も入ってるから、いっぱい食べてね」

「……結構、重いなとは思ってたけど。そんなに入ってるの?なんか申し訳ないんだけど……」

そもそも衣装作りはμ’s全体の仕事ともいえるわけだし……と彼女が縮こまるのを制して、飾らない気持ちを伝えます。

「にこちゃん、昨日言ったよね?甘えるなら普段の私で来なさいって。これがそれなの。私が作った甘いお菓子を食べてもらって、喜んで欲しいの」
137: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 01:33:18.31 ID:qrT1LqLL.net
このお菓子は、にこちゃんの為だけの為に作ったものではないけれど。

美味しいと、笑いかけてくれるにこちゃんを想像するだけで、幸せになれる。

「だから、良かったら……。美味しいと思ってくれたなら、感想が欲しいなぁ、なんて……」

最初のうちは、勢いで恥ずかしいセリフを言い切ったけれど。

言ってる間に照れが入ってきて、最後は言い淀んでしまいました。

「ふーん」

(ええ~……?にこちゃん反応薄いよぉ……)

にこちゃんは、手に持っていた紙袋を置いて、中からクッキーが入った包みを取り出しています。

「わざわざラッピングなんてしなくてもいいのに」

そういって、呆れたよう笑って、ラッピングを丁寧に解いていきます。

リボンを外して封を開けて、クッキーを一枚だけ取り出して、私の口元に差し出しました。
138: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 01:34:25.11 ID:qrT1LqLL.net
「はい。食べて」

「……?」

展開についていけずに、思考は停止していました。

だけど、目の前のクッキーに言われたとおりに食いついてしまったのは、穂乃果ちゃんの影響でしょうか。

にこちゃんが持ったままのクッキーを半分ほど口に含んで、食べてみる。サクッとしてて、適度な甘さ。うん、美味しい。

「どう?」

「……美味しい、よ?」

私の感想を聞いて、にこちゃんは残った半分のクッキーを口に放り込みました。

しばらく咀嚼してから、言いました。

「うん、美味しいわ。でも私はもっと甘いほうが好きかも」

「そ、そうなんだ……。ごめんね」

良い感想は貰えませんでした。

ショゲてしまいそうです。

「ぐぬぬ……。やっぱりあんたと私って相性悪いのかしら……」

その言葉に受けた悲しみが、顔に出ていたのでしょうか。

慌ててにこちゃんが言い直します。
139: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 01:35:47.39 ID:qrT1LqLL.net
「あーもう、違うわよ!あんた言ったでしょ、食べてもらうのが甘えることだって!」

「でも、好みじゃないみたいだから……」

「だーかーらー!もっと甘いほうが好きだって言ってるの!」

にこちゃんの言葉が頭のなかでぐるぐる回転します。

甘える。食べてもらう。もっと甘いのが好き。何かを伝えようとしているにこちゃん。

もっと甘いの。もっと。次?

(……んん?もしかして)

「また、食べてくれるってこと……?」

それはつまり、また甘えてもいいということになるます。

……どうやら当たりを引いたようで、にこちゃんは頬を赤くしてそっぽを向いています。
140: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 01:36:33.46 ID:qrT1LqLL.net
「……。作ってきてくれるんだったら、私は嬉しいけど。好きにすればいいわ」

矢澤にこという人の心に、初めて触れることが出来た気がしました。

遠回しで、わかりにくい。微笑ましくて、愛らしい。

「にこちゃん!今度はもーっと甘くするね?」

「ああ、そう……。期待しないで待ってるわ」

(これは、期待してるってことだよね)

にこちゃんは、普段通りの私で来いといった。

だから、にこちゃんも普段通りに、憎まれ口を叩いている。

(やっと、私はにこちゃんのことを見ることが出来たのかな)

誰に聞いても面倒くさい人だと言われてしまいそうな、にこちゃんだけど。

そのいじらしさに気がついてしまったら……。
141: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/17(火) 01:37:59.09 ID:qrT1LqLL.net
「じゃあ、そろそろ帰るから。また、明日」

「うん、また明日」

クッキーの包装を完璧に元に戻して、紙袋に収めてから。

別れの挨拶もそこそこに、帰ってゆく小さな先輩。

見送る為に一緒に外に出ましたが、挨拶がすんでしまえば、私を振り返ろうとすることはありません。

少し前の私なら、こちらを全く見ない彼女に不安を覚えていたでしょう。

でも、今の私は。

(にこちゃんって呼んだら、絶対に振り返ってくれる)

その確信がありました。

そして、呼びかけなくても、私とにこちゃんは大丈夫だという想い。

絆、と呼べるものが。着実に芽生えていることを、心が感じています。


#チャレンジ2:終わり
157: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/22(日) 12:53:55.93 ID:Po0ZV09l.net
遅れぎみ
明日になるかも
夕方また報告するよ
161: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/22(日) 21:23:20.20 ID:Po0ZV09l.net



幕間:

「にこちゃん。はい、スポーツドリンク」

少女の胸の内は、驚愕に染められていた。

足は石の様に動かない。ちょっと待って、と言おうとした口からは、空気すら漏れ出さなかった。

渡す為に持っていたドリンクからは水滴が落ちている。

「……ん。ありがと」

一瞬戸惑った様にみえた、彼女―――矢澤にこは、ドリンクを受け取った。

飲み口に挿し込まれたストロー。躊躇いなく口に含み、喉を潤しはじめる。

こく、こくと喉が動く度に、気持ちよさそうな表情に変わっていく。
162: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/22(日) 21:24:32.12 ID:Po0ZV09l.net
「ぷはぁーっ!美味しいわね、これ。なんていう奴?」

「ふふふー。それ、私のお手製なんだ」

「……お菓子だけじゃなくて、こんなもんまで作れるとはね」

(お手製……。え、お手製……!?)

手渡す事を、先越されたというだけではない。

飲み物の質ですら負けていた。

(ふっ、今回は負けたわ……。でも、次は私が渡すんだから)

この程度のことで、少女の目の輝きが消えることはない。

チャンスは何度でもあることを知っていたからだ。

(練習の度にチャンスはやってくる。ライバルが居たほうが、張り合いが出るってものよ)
163: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/22(日) 21:25:20.31 ID:Po0ZV09l.net
ドリンクを事あるごとに渡してきたという実績。

今回こそ油断してしまったが、長い時間をかけて餌付け―――もとい、信頼を積み重ねてきたのだ。

(私とにこは、回し飲みしちゃう間柄なのよ!ふふん)

人知れず行われた勝利宣言は、動揺を回復するには十分なものだった。

ただ、少女は知らなかった。勝利宣言は、フラグと呼ばれることもあるということを。

「これからは、にこちゃんの分も作ってくるね♪」

(えっ?)

まさか、そんな。

これからも、私の癒やしの時間を奪っていくつもりなの、ことり―――!
164: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/22(日) 21:25:43.20 ID:Po0ZV09l.net
「いや、それは悪いし。遠慮するわ」

(そうよそうよ!悪いわよ!)

「作っちゃ、駄目?」

「ぐっ……」

(負けちゃだめよ、にこ!)

「ね、だめ?」

「…………勝手にしなさいよ」

「やった♪」

(あ、ああっ……。そんな……私の、役目……)
165: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/22(日) 21:26:39.74 ID:Po0ZV09l.net
くりくりとした愛らしい目。綺麗な黒髪。可愛いを形にしたような、ツインテール。

激しい運動で、上気した頬。滴る汗で張り付いた運動着。

息をついて、飲み物を探しているところに、ドリンクをさり気なく渡す。

喉が癒えていく度に、和らぐ雰囲気。目を細めて、にこは笑う。

いつかの思い出が、浮かんでは消えていく。

(これが、走馬灯ってやつね。エリチカ知ってる)

しかし、瞳から光はギリギリ消えていない。

(だけど。私には奥の手が残ってるわ)

にこが未だに汗をふいていないことを確認して、カバンからタオルを取り出す。
柔軟剤の優しい香りと、水気をよく吸いそうな柔らかさに、にわかに満足する。
166: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/22(日) 21:27:54.81 ID:Po0ZV09l.net
(待ってなさい、にこ)

休憩中の誰かに、タオルとドリンクを手渡すのは、定番といえば定番だろう。

それを、今までしなかったのは何故か―――?

(普通は、後輩が先輩にするものだと我慢していた。私も、よく下級生から受け取るし……)

同学年が渡すのはおかしいのではないかという疑念。

その先入観が、行動を控えさせていた。

しかし、その枷はもう外れてしまった。

(外したのは、あなたよ、ことり)

一人燃え上がる少女。

その目は野望に燃えている。

周りの声が聞こえないほどに、震える心は盛り上がっていた。

「にこちゃん、タオルもどうぞ♪」

「……ことり、あんたねえ。準備良すぎて、逆に引くんだけど」

「ええ~!にこちゃん酷いよぉ」

少女が気がつくまで、三秒前。


幕間:終わり
173: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:11:22.19 ID:qm1xJFtE.net
チャレンジ3:にこ追うものはいっこをも得ず


あれから。にこちゃんにお菓子を作っていって、感想を貰ったり。

そしてお茶の時間にかこつけて、色んなお話で盛り上がる。順調に仲は良くなりつつあると言えるでしょう。

このまま着実に進んでいけば、仲良しなんだと胸を張って言えるようになれる確信があります。

だから、堅実にゆっくりと進むべきだというのはわかるのですが……。

欲というのは、次から次へと出てくるもの。
174: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:13:07.27 ID:qm1xJFtE.net
「あはっ、あははっ、もう、にこちゃん、やーめーてーよー」

「ダメよ!あんたは罰を受けるべきよ!」

「ふふふ、こしょこしょしないで~!」

くすぐられているかよちゃんと、くすぐっているにこちゃん。

こんな場面を目の前で見せられると、なおさらその思いは深まります。

「こんな体しといて自信がないなんて……。私に喧嘩売ってるのね?そうなのね?」
175: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:14:39.74 ID:qm1xJFtE.net
スタイルに自信がないことを、かよちゃんが呟いていたのが発端です。

いつもなら、自分に自信を持てないのはファンに失礼などと、アイドル論を語り出す我らが部長でしたが。

今回は急に悪い顔をしたと思ったら、彼女の背後に回ってワキをくすぐり始めたのです。

「ま、これぐらいで許してあげるわ」

やっと、くすぐりの手を止めました。

結構長い間やってた気がしますが、大丈夫でしょうか。

「はぁっ、はぁっ……にこちゃん酷いよぅ。うぅ、ことりちゃんも止めてよぉ」
176: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:16:22.07 ID:qm1xJFtE.net
息も絶え絶えといった様子。恨みがましくも可愛らしい表情で、私を見つめています。

二人の様子に気を取られていて、完璧に観戦モードでした。

「かよちゃん。今のは、にこちゃんの愛だよ。かよちゃんをアイドルとして大成させたいがゆえの、厳しい罰……」

「―――はっ、確かに。ネガ発言は良くないっていつも言ってたもんね。にこちゃん、ごめんね。酷いだなんていって……」

「……え、えぇっ……別に?わかったなら、それでいいわ、よ?」

この時、心のなかの私は悪い顔をしていたことでしょう。

尊敬です!といいながらメモを取っている、かよちゃん。

単なる悪戯だったことを言い出せず、バツが悪そうにしているにこちゃん。

なんとなく、にこちゃんに意地悪してみようと思って場をかき回してみた私。

三者三様。

ちょっとだけ、いつもと違う部活風景。

(私にはちょっかい出してくれないのに)

これは、嫉妬なんでしょうか。
177: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:19:49.15 ID:qm1xJFtE.net



ミーティングという名のお茶会中。私はぼけっと部室内を眺めています。

絵里ちゃん、海未ちゃん、真姫ちゃんの三人は曲作りの詰めということで、音楽室へ行っていて不在。

穂乃果ちゃんとかよちゃんは、もち米で盛り上がっています。

(かよちゃん、もち米もイケる人だったんだね……)

もち米について熱く語っている穂乃果ちゃんというのも驚きですが、おうちは饅頭屋さんですし、なんとか納得です。

しかし、かよちゃん。もち米までカバーする情熱は、そこはかとなく尊敬の念を感じます。

お米全般に詳しいのでしょうか。気になります。
178: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:23:16.00 ID:qm1xJFtE.net
(もしかして、日本酒にも詳しかったりするのかな?)

……うん。余り深くは聞かないようにしましょう。

とりあえず、かよちゃんのお米力(ぢから)には蓋をして、置いておくとして。

今は、私的気になるランキング第一位のにこちゃんの様子を窺ってみましょう。

さっきから騒ぎ声が部室に響き渡っているので、窺う必要もありませんけど。

「ちょおっ、にこっち!あかんて、それはあかんー!」

「うっさいわ!たまには揉まれる側の気持ちを味わいなさい!―――凛!」

「合点承知にゃ!」

「ひゃあっ、離して凛ちゃん!にこっち勘弁してやあー!」
179: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:24:56.23 ID:qm1xJFtE.net
本日の部室予報です。希ちゃん地方はわしわしのち、わしわし。

ちょっかい確率は100パーセント。しばらく制服はしわくちゃでしょう。

(……柔らかそうだなあ)

続いて、ことり地方です。お茶のちお菓子。

ちょっかい確率はゼロパーセント。特に何も起きません。

にこちゃん眺めには最適な天気となるでしょう。

(一人、お茶を楽しむ優雅な私です。ええ、寂しくなんてありません!)
180: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:27:04.25 ID:qm1xJFtE.net
ここで、私の格好を振り返ってみましょう。

ヨレているリボン。髪型が少しクシャっとなっています。

仮に海未ちゃんならば、出会ってから数分後くらいに気がついてくれるでしょう。

そして『あら、ことり。身だしなみが乱れていますよ』と直してくれる程度の、自然な乱れ具合です。

実はこれは、にこちゃんに直してもらう為にセットしたのです。

(海未ちゃんも絵里ちゃんもいない今が、チャンスだと思ったんだけどなあ)

そういった世話を特に焼いてくれそうな、三人の内の二人が居ない、この状況。

残る一人、にこちゃん。今か今かと期待をしていました。

しかし、結果は。
181: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:29:11.55 ID:qm1xJFtE.net
(放置です。圧倒的、放置です……)

一瞥してスルー。特に言うことはないということでしょうか。

そもそも気がついてないという可能性も大きいです。

(わざわざ直すほどでも、ないのかも)

待てども待てども、『仕方ないわねー』が来る気配はありません。

凛ちゃんと一緒に希ちゃんに絡むのに夢中で、既にこちらに意識すら向いていないと思われます。
182: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:31:54.38 ID:qm1xJFtE.net
(むむむ。むむむむむむ)

別に、くすぐりやわしわしといった悪戯をしてほしいなどと、高望みをしているわけではありません。

ただ、軽く。そう、軽く手を出してほしいと思っただけなんです。

例えば、リボンを結びなおしてくれるとか。髪の毛を整えてくれるとか。

あくまで自発的な行動として、何かをやって貰いたいだけなのです。

(隙、見せてるんだけどなぁ……)

気だるい放課後が、ゆったりと過ぎゆきます。
185: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:41:58.04 ID:qm1xJFtE.net



結局、誰にも気づかれないまま帰宅の時間。

音楽室から戻ってきた海未ちゃんにも気づかれませんでした。

仕方なく自分で直すことになって、惨めな気分になったことを報告しておきたいと思います。

「早くしてよ。戸締まりできないじゃない」

「わー、にこちゃん待って待ってっ」

「もう、穂乃果。いつまでも漫画を読んでいるから!」

いつもながらの慌ただしい穂乃果ちゃんに、虚しい気持ちが癒やされます。

数十秒後、ようやく誰もいなくなった部室の鍵が閉じられました。
186: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:43:43.92 ID:qm1xJFtE.net
「凛、職員室までひとっ走り行ってきて」

鍵を預けに行く人は、にこちゃんによる指名制です。

「にこちゃんが自分で行けばいいんじゃないのー?」

「あーそう。じゃあ花陽頼むわ」

「うん、わかっ―――」

「行ってくるにゃ!」

ばひゅーん。にこちゃんから勢いよく鍵をひったくって、走り去って行きました。
187: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:46:03.36 ID:qm1xJFtE.net
(にこちゃんって、ほんとに凛ちゃんの扱い方が上手だよね……)

凛ちゃんにとってのウィークポイント。

即座に狙いをかよちゃんに変えるあたり、酷い人です。

しかし、ここに思わぬ伏兵が潜んでいました。海未ちゃんです。

「にこ。生徒会副会長としては、廊下を走らせるような言動は見逃せないのですが」

「かったいわねー。階段と曲がり角は注意しろって言ってあるから大丈夫よ」

「そういう問題ではありません!いいですか?規律の乱れは心の乱れ、何事も小さいことから崩れていくもので―――――」
188: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:49:09.91 ID:qm1xJFtE.net
くどくどくどくど……。お説教が始まりましたが、にこちゃんには馬耳東風。

まるで意に介してない上に、なんと気にせず歩き始めました。

海未ちゃんも海未ちゃんで、並走しながらお説教を続けています。なかなかシュールな二人です。

(黙って後ろをついていく私達も私達だけど)

飛び火を恐れて沈黙の生徒会組と、元生徒会組。

我関せずの真姫ちゃん。かよちゃんはおろおろしています。

(またμ’sが変なことになってるって言われちゃうかな…)

迷走していたあの日を思い出して、少し心配になる私でした。
189: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:50:55.63 ID:qm1xJFtE.net



「いいですか、にこ。そういった経緯で、私はラブアローシュートを―――」

「行ってきたにゃー!」

「はっ。私ったら何を……」

校門手前。職務を全うして合流した凛ちゃんの登場によって、お説教は終了しました。

我に返ったらしい海未ちゃんの顔は真っ赤になっています。

途中から可愛らしいポーズについての持論を語っていたことに気がついたのでしょう。

武士の情けで聞いてないふりをしてあげることにします。

(あ、でも。にこちゃんはちょっと残念そう)
190: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:56:26.06 ID:qm1xJFtE.net
ポーズが云々となってからは、適当に受け流すのをやめて真剣に受け答えをしていた彼女。

そういった事には常に真剣です。会話していた海未ちゃんが羨ましいとさえ思えるほどの熱の入りようでした。

(私もポーズを考えてみようかな)

にこちゃんのように、オリジナリティ溢れるポーズを……。

(こっとこっとこー)

ダメです。オリジナリティのカケラもありません。

他にも色々考えてみますが、にこちゃんの印象が強すぎて、どうしても『にっこにっこにー』に引っ張られてしまいます。

そんなこんなで悩んでいると、にこちゃんが凛ちゃんに何かしているのが目の端に映りました。
191: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/23(月) 23:59:16.82 ID:qm1xJFtE.net
「ったくもう。走れっていったのは私だけど、少しは身だしなみに気をつけなさいよ。リボンぐちゃぐちゃじゃない」

「にこちゃん細かいにゃー」

「細かかないわよ。私達は仮にもアイドルよ?常に最高に可愛い自分でいるべきでしょーが。……はい。次は髪ね、じっとしてて」

見間違いかと思いました。

追い求めていたものが、さも当然のようにそこで行われていたのです。

凛ちゃんは為すがままにリボンを直され、そしてクシで丁寧に髪を溶かされています。

「ふにゃぁぁ……」

「なんで髪梳いただけで眠そうになんのよ。……猫の毛繕いしてる気分だわ」

ぶつくさ言いながら、楽しそうに。
192: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/02/24(火) 00:03:30.90 ID:jvWGStqE.net
(―――なんで。どうして)

後ろ暗い感情が、ふつふつと沸き上がってきます。

(私も、して欲しかったのに)

気付いてくれなかった怒り。構ってくれなかった嫉妬。

冷静な自分が、むくれるのはやめなさいと言っています。

自分勝手なのはわかっています。

だけど、この気持ちは止まりそうにありません。


#チャレンジ3:つづく
209: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:00:25.86 ID:D4k+oUfr.net


チャレンジ3:つづき


「―――なるほど。そういう経緯で、あんな暴挙に出たってわけね」

にこちゃんはそう言うなり、正座をしている私に近寄ってきて、ふとももをペシッと一叩き。
痺れた足に追加ダメージを与えたかったのでしょうか。残念ですが、目論見通りにはいきません。
既に、長時間の正座によって足の感覚は消えていたからです。
十分前にされていたならなら、悶絶していたことでしょう。

「あの、にこちゃん、そろそろ……」

「ダメ」

(酷いよぉ)
210: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:01:31.28 ID:D4k+oUfr.net
かよちゃんや凛ちゃんに嫉妬して、凶行に及んでしまったことを赤裸々に曝け出しても、許してはくれないようです。

「ことりの足、もう感覚ないよぉ」

「捻挫するよかマシでしょ」

捻挫。その言葉に後悔の念が押し寄せます。

まさかこんなことになるなんて、思ってもいなかったのですから。

事は、一時間と少し前まで遡ります。
211: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:03:04.07 ID:D4k+oUfr.net



にこちゃんに、悪戯をしよう。

(逆恨みのような……ううん。これは正当な怒りだよ!)

嫉妬やら寂しい気持ちやらが、ごちゃごちゃに混ざって産まれた気持ち。
その激情が、私を行動に走らせました。

(にこちゃんを弄り回して可愛がる、なんて想像もしてみたけど。出来ないよね……)

しかし、私のような小心者に大したことは出来そうにありませんでした。

仕方なく悪戯の一つでもして気を晴らすことに。

(思い立ったが吉日だもんね。今からやろう)

勢いが消える前にやってしまおうということで、みんなと別れた後、早速にこちゃんの追跡です。

そして、にこちゃんが自宅に向かっていることを確認して、先回り。

何の問題もなく、到着。すぐさま周囲の安全の確認します。

危険物は見当たらないし、ここでなら、驚かしても大丈夫そう。

(悪戯が上手くいったら、小悪魔の称号はことりが貰っちゃおうかな♪)
212: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:04:19.85 ID:D4k+oUfr.net
計画自体は、急に現れて驚かすという単純なもの。

にこちゃんの家の前で、実行です。エレベーターと廊下を繋ぐ曲がり角がちょうど良い感じだったので。

(上手く行ったら、お家に誘ってもらえるかもしれないし♪)

下心ありありの行動ですが、誰が私を責められましょうか。こっちは寂しい思いをさせられているんです!

(そういえば、何もお土産持ってきてない……)

時間が経って、怒りが収まってきていたせいでしょうか。

少し弱気になってきました。手土産なしが気になります。

(ううん。悪戯に来たんだからいらないよね)

お土産が必要かどうかという自分との闘いは、ターゲットがやってくるまで続きました。

(あ!エレベータが動きだしました)

作動音が聞こえます。そして、私が待機している階層に止まったのがわかりました。

角から顔を一瞬だけ覗かせて、エレベーターのガラス窓越しに、中の様子を探ります。

ハッキリとは見えませんでしたが、音ノ木坂学院の制服と黒髪のツインテールが見えました。
213: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:09:18.25 ID:D4k+oUfr.net
(にこちゃんだ)

ついにその時が来たのだと、緊張に震えます。

決行の時。後は、足音を聴いて、驚かせるタイミングを図るだけ。

(さぁ、来て。にこちゃん!)

しかしドアが開いた瞬間、なんと走りだす足音が聞こえました。

想定外のことに、私はパニックに陥りました。バタバタと無情にも足音は近づいてきています。

(え~い、とにかく驚かすよ!)

「こら、ここあ。角を曲がる時はゆっくりと―――」

その言葉が聞こえる前に、既に私は飛び出て叫んでいました。

「わーっ!!」

「うわぁっ!……いたた」

私は目を疑いました。

何故か目の前では、ここあちゃんが尻もちをついていたのですから。
214: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:10:44.02 ID:D4k+oUfr.net
(にこちゃんじゃない!?)

「―――こらぁ!なにやってんの、ことり!」

「え、え……?」

それからはあっという間でした。

動揺で何も言えない私に、さっさと見切りをつけたのか、にこちゃんはここあちゃんが怪我をしていないか確かめ始めました。

尻もちをついた時に足をくじいて、軽い捻挫になってしまったようです。すぐに自宅へ連れて行って手当てをしていました。

私はというと、混乱と後悔の真っ只中。廊下で所在なさげに立っていました。

(ここあちゃん小さいから、見えなかったんだ……。怪我、大丈夫かな。謝ったら許してもらえるかな。嫌われてないかな)

しばらく経ってから、にこちゃんが家から出てきました。

鋭い目で私を睨んでいます。

「うちに上がって。……覚悟しなさい」

その声に震えそうになる体を、必死に抑えました。
215: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:12:51.47 ID:D4k+oUfr.net



お家にお邪魔して、まず、ここあちゃんのところへ連れられて謝罪を行いました。

『べつにいいよ。でも、こんどクッキーつくってきてね。この間のくっきーおいしかった!』

ここあちゃんは、今度クッキーを作ってくることを条件に許してくれました。

以前渡したクッキーがとても好評だったようです。

(あの時、ご家族の分も渡しといて良かったよぉ……!)

その後、にこちゃんの部屋に連行されて三十分のお説教。

悪戯をした理由を答えるのに、更に三十分。ずーっと、正座でした。

そしてたった今。足の限界を訴えたものの、却下されたというわけです。

「にこちゃん、その……。まだ怒ってる?」

「怒ってるに決まってるでしょうが」

「そうだよね……」

「でも、ここあの捻挫の件は、ここあがあんたのこと許してるし、もういいわ」

にこちゃんが、ふわりとした笑顔で私に語りかけます。

雰囲気が柔らかくなりました。ついに、正座から開放されるのでしょうか?

思わず笑顔になってしまいそうです。
216: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:13:52.64 ID:D4k+oUfr.net
「それじゃあっ」

「だけど!」

私の声を遮るように放たれた、低い声。

いつの間にか、鬼の様な怒り顔に様変わりしていました。

「あんた、まだ私に言ってないことがあるわよね」

「え?」

私がまだ言っていないこと。一体何のことでしょうか。

色々と思い返してみますが、思い当たるフシはありません。不思議そうに首を傾げてみます。
217: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:14:56.29 ID:D4k+oUfr.net
「?」

「……今日、わざとリボンと髪型崩してたでしょ」

「にこちゃん、気付いてたの!?」

びっくりしました。

何も言わなかったので、気づかれてないものだとばかり。

もっと大袈裟に崩しておけばよかったなんて考えていたのに。

「当たり前でしょうが。あんた、そういうとこには気を遣ってるでしょ」

普段はぼけぼけの癖にね、なんて酷いことを言っています。

確かに、その事は言っていませんでしたが……。何かいけないことだったのでしょうか。
218: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:15:58.66 ID:D4k+oUfr.net
「確信を持ったのは、花陽と凛に嫉妬したってのを聞いてからだけど。部室でもしつこくチラチラみてきてたし、気付くっての」

一拍置いて、私に告げます。

「私はね、まどろっこしいのが嫌いなの。ぐだぐだしてる奴がいれば尻を引っ叩きたくなるの」

「ずっと構ってもらえるのを待ってて、しかも服装をわざと乱れさせる?その根性が気に食わないし、アイドルとしても許せないわね」

「ってか、そもそもの話。あんた最近、私のところに妙に来るようになったけど。なんで?」

怒涛の勢いで吐き出される言葉。

なんとか理解できたのは、私がにこちゃんに近づく理由を問われたということだけ。

(なんて、なんて答えよう。下手なことは言えないよ)
219: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:16:54.53 ID:D4k+oUfr.net
怖い顔のにこちゃんが、こちらをジッと見つめています。

私の心の動きを全て読み取ろうとしているかのよう。双眸は爛々と輝いています。

適当に誤魔化すようなことを言えば、致命的なことになるのではないか。そんな予感が警鐘を鳴らしています。

(どうしようどうしようどうしよう)

仲良くなりたいと思ったの。という一言が言えません。

今日の自分の行為が、にこちゃんが嫌いな行動だったと聞いて、自信を失っていました。

その懊悩すら、にこちゃんは見抜いたのかもしれません。
220: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:18:01.55 ID:D4k+oUfr.net
「ま、それはいいか。答えにくそうだし。あんたのことだから、大した裏はないでしょうし」

裏なんてないよ。一緒に笑って、一緒に泣いて。同じ時間を過ごしたいだけなの。

だけど、それをそのまま言ったとして、にこちゃんの心に届くでしょうか。

私は、恥ずかしげもなく、恥ずかしいことを言ってしまうほうだから、精一杯の言葉も、いつもどおりのように見られて、心に響かないかもしれません。

「……もう許してあげるから。帰りなさい」

にこちゃんとの距離が、遠のいていく。

そんな錯覚に陥りそうです。
221: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:18:48.65 ID:D4k+oUfr.net
(本当に錯覚なんでしょうか)

にこちゃんの家族に傷を負わせてしまって、帰宅を促されています。

このまま帰ってしまえば、印象は最悪なままなのではないでしょうか。

(言わないと)

だから、今すぐにでも好意を伝えないといけないのに……。

言葉には自信が持てない。お菓子は持ってきていない。打つ手が、ない。

(……いえ。一つだけありました)
222: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:19:53.82 ID:D4k+oUfr.net
幼馴染の穂乃果ちゃん然り。一年生の凛ちゃん然り。

彼女たちは大好きなことを伝えるために、ある行動をしていました。

(あれなら私にも出来る!)

抱きついてぎゅーっ。至極単純で強力なコミュニケーションです。

―――ファイトだよ!

穂乃果ちゃんの声が聞こえた気がしました。

決意は固まりました。思いっきり抱きしめて、大好きだと言おう。

(いざ、抱きつきます!)
223: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:21:13.06 ID:D4k+oUfr.net
彼女に抱きつくため、立ち上がり、手を伸ばして―――

「にこちゃん、大好……きゃあっ!」

―――そのまま足をもつれさせて、ベッドに倒れこんでしまいました。

「むぎゅ」

伸ばした手はかすりもせずに、にこちゃんの横を素通りしてしまう失態。

しばらくの間、倒れこんだことによる衝撃で呆然としていました。

(足、痺れているんでした)

ああ、迂闊。にこちゃんも変な顔で見ているに違いありません。

目を開けて、表情を確かめるのが怖い。きっと呆れているに違いありません。

「えーと、ことり……?大丈夫?」

(なんで、なんで上手くいかないの……)
224: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:22:49.60 ID:D4k+oUfr.net
ただ構って欲しかった。好きだと伝えたかった。

にこちゃんに好きになってもらいたい、それだけなのに。

余りの上手くいかなさに、目頭が熱くなってきて。ぽたぽたと涙がこぼれだしました。

(何がダメなんだろう。何がいけないんだろう)

「うっ…ううっ…」

「ちょ、ちょっと!何泣いてんの!」

「ぅ……う"え"え"え"え"ーん!」

「勘弁してよ……」
225: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:24:26.61 ID:D4k+oUfr.net



にこちゃんは、泣きだしてしまった私をしばらく眺めていたかと思うと、はぁ、と溜息をつきながら寄ってきて、抱きしめてくれました。

優しく頭を撫でながら、よしよししてくれています。

「……うっ……くっ……」

「このにこにーがあやしてあげてるんだから、さっさと泣き止みなさいよね、まったく」

「っ……ひっぐ……にごち"ゃん、ごべんねぇ……」

「だから泣くなっての」
226: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:25:31.95 ID:D4k+oUfr.net
鬼のような怒り顔が消えて、滅多に見れないお姉さんの顔になっています。

にこちゃんの体温を感じます。包まれているような、とても安らぐ感覚。

不安や、焦燥が消えていきます。

「落ち着いた?」

「……うん」

その答えに、もう十分だと思ったのでしょう。

抱擁をやめて離れてしまいました。

「あっ」
227: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:26:36.94 ID:D4k+oUfr.net
私の名残惜しそうな声を聴いて、にこちゃんは笑います。

「くくっ、なぁに。泣き虫ことりちゃんは、まだまだ甘え足りないってわけ?」

からかうような笑い声に、羞恥心が沸き上がってきます。

しかし、既にボロボロ泣いたのを見られた後です。

今更、何を取り繕うことがありましょうか。

(足りません。全然足りませんっ)

油断している彼女の手を掴んで、力いっぱい引っ張ります。

そして引き寄せたにこちゃんを逃さないように抱きしめます。
228: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:27:12.83 ID:D4k+oUfr.net
「うぎゅっ」

今度は私の番です。

潰れた蛙のような声が聞こえました。

力を入れすぎたでしょうか?でも手を緩めることはしません。

離せー!苦しいー!という抵抗の声は、聞こえないふり。

(にこちゃん、あったかぁい♪)

だって、にこちゃんをもっと近くに感じていたいですから。
229: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:28:40.78 ID:D4k+oUfr.net



最初の抵抗はどこへやら。数分もするとその気もなくなったようです。

私の腕の中で、天井を見つめてボンヤリしています。

このまま抱きしめ続けるというのでも、私は満足なんですが、為すがままのにこちゃんというのは、やはり少し不気味。

「あの、にこちゃん?」

天井から私へと視線は移りましたが、返答はなし。

「え、えっと」

むっつりとした表情のにこちゃんが口を開きました。
230: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:29:43.31 ID:D4k+oUfr.net
「……あんたにわかるかしら。優しくしてあげた後輩に、裏切られたにこの気持ちが」

「別に、裏切ってないよ」

「私の意思を無視して抱きしめといて、よく言うわ。……前から思ってたけど、あんた内弁慶なんじゃないの」

がーん。ショックです。

本音でぶつかっていたら、内弁慶扱いされてしまいました。

しかも前から思われていたらしいです。

「穂乃果や海未ならともかく、私に弁慶ってるのが解せないけど」
231: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:31:22.39 ID:D4k+oUfr.net
「―――もう!」

本当にこの人は!

この小さくて可愛い頼りになる先輩には、未だに私の想いは届いていなかったようです。

もう、周りくどい行動はやめます。抱きついてもダメなら、言葉で直接言うしかありません。

一度言ってわからなかったら、何度でも言います。わかってくれるまで言い続けます。

にこちゃんの肩を掴んでくるっと回転させて、私と顔を突き合わせさせます。

「にこちゃん!」

「なによ、怖い顔して。文句言いたいのは私のほう……」

真剣な私の表情に何かを感じたのか、にこちゃんは怯んでいます。

すぅっと息を吸い込んで、万感の思いを詰め込んで、私自身をぶつけます。
232: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:33:18.86 ID:D4k+oUfr.net
「にこちゃんと仲良くなりたい!」

初めは、幼馴染に触発されて、仲良くなりたいと思っただけでした。

でも、にこちゃんを知っていく内に、その人柄に近づけば近づくほど、もっと親しくなりたいと思っている自分がいたのです。

甘えたい、頼りたい。私も見てほしい。今までに、感じたことのない感情が、とめどなく溢れてきていたのです。

「もっとお喋りしてほしいし、もっと構ってほしい!もっともっと、にこちゃんのことが知りたいの!」

「もし、良かったら、私を妹にしてくれませんか!」

全部、言い切りました。

テンションが上がりすぎて、余計なことまで言ってしまいました。でも、まごうことなき本音です。

にこちゃんの姉力が高いのがいけないのです。
233: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:34:19.41 ID:D4k+oUfr.net
「ことりが、私と……?」

にこちゃんは、目を見開いて驚いています。

最近ずっとラブコールを送っていたと思いますが、本当に何も届いていなかったのでしょうか。

それとも、私のような後輩は数多くいて、気づけなかったとかでしょうか。

どちらにしろ、むかっ腹が立ってきました。もう一度、ぎゅーっと強く抱きしめます。

「にこちゃん!」

五分はそのままだったでしょうか。

答えが出たのか、にこちゃんがやっと反応してくれました。

「……わかった、わかったわよ。だからいい加減、離して」

「わかったって何が、わかったの?」

「あんたの言ったことよ」

「言ったことって?」

重要なことです。

ここですれ違ったりしたら目も当てられないので、何度でも聞き直す覚悟があります。
234: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 20:35:26.77 ID:D4k+oUfr.net
「ほんと面倒くさくなったわねえ、あんた!もっと構えだとか妹だとかよ。構ってあげるし、してあげるって言ってんの」

「本当に!?」

祝福のラッパが頭のなかで吹き荒れます。

仲良くなるどころか、一足飛びに義姉妹です。にこちゃんのことだから、この場を逃れるために言ったということはないでしょう。

私とそれだけの関係―――あくまで言葉の上だけでの話ですが―――になってくれることを了承してくれたのです。

(嬉しい、嬉しい、嬉しい!)

「やったぁ!にこちゃん、大好き!」

もっぎゅー。

「いいから、本当にそろそろ離してよ……」

私が離れたのは、それからしばらくしてからのこと。

にこちゃんがげっそりしていたのが印象的でした。


#チャレンジ3:終わり
258: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:01:27.93 ID:F00fygE8.net
幕間:


「はい、あーん♪」

「はぐっ」

「どうかな?今日のクッキー」

「……うん、まぁ、いつも通り。美味しい」

二人の様子を横目で眺めながら、私は物思いにふける。

こっちに回ってこないかなぁ、クッキー。私にも食べさせてくれないかなぁ、ことりちゃん。はぁ。

気付いてもらえるように、ため息をわざとらしくついてるんだけどなぁ。気づかない。はぁ。

その様子を見かねたのか、海未ちゃんが声をかけてくれました。
259: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:02:42.17 ID:F00fygE8.net
「穂乃果、どうかしましたか?」

「……海未ちゃん。あれだよ、あれ」

「あれ?」

私が指差した方向。ことりちゃんが甲斐甲斐しく、にこちゃんの世話を焼いている光景。

最近はお馴染みとなった、あれ。

「もう一枚、はい♪」

「そんなにがつがつ食べたら太るっての。……はぐっ」

見てるこっちが胸焼けしてきそう。にこちゃんとあんなに仲良かったっけ?

ことりちゃんにどういう心境の変化があったのか。にこちゃんにしたって、あーんを平気で受け入れているのが不思議だよ。
260: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:04:25.15 ID:F00fygE8.net
「ああ、あれですか。……別に、いいのでは?」

「良くないよっ。穂乃果にクッキー回ってこないんだよ?」

「はぁ」

「ことりちゃんも最近構ってくれないし……」

「ああ、なるほど」

わかってるようなわかってないような、曖昧な顔。

だけど構ってくれないといった途端。どこか納得したような、呆れた表情に変わった。
261: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:06:44.95 ID:F00fygE8.net
「ことりがやっと穂乃果離れしたと思ったら……」

「なにさ」

「穂乃果もそろそろ、ことり離れしてください」

「ぐっ」

例の留学騒動の件以来、たまに海未ちゃんはこういうことを言ってくる。

将来、家を継ぐ予定の私達はともかくとして、ことりちゃんは遠くに行ってしまう可能性がある。

その時になって私がグズらないように言っているんだろう。

でも、寂しい物は寂しいのだから仕方ない。
262: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:08:15.03 ID:F00fygE8.net
「海未ちゃんは寂しくないの?最近のことりちゃん、にこちゃんにベッタリだよ?」

「そうですね……」

少し考えてから、思っていることを話してくれた。

「寂しくないわけではないですよ?ただ、私はそれ以上に嬉しいと思っているんです」

「嬉しい?」

「ええ。……穂乃果は、ことりとにこの相性、良いと思いますか?」

ことりちゃんと、にこちゃんの相性?

う~ん。二人とも世話焼きだし、趣味も結構似てると思うけど。

二人が和気あいあいとしているところは、最近まで想像できなかったと思う。
263: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:09:31.31 ID:F00fygE8.net
「ううん」

「でしょう?二人共、自分のことは自分でやって、他人の世話を焼きたがるタイプですからね。穂乃果と違って」

「わ、私の話は置いとおこうよ」

「……。にこは相手の反応で、距離を見定めるところがありますからね。柳のようにしなやかなことりとは、距離が取りにくかったことでしょう」

ことりちゃんを見て、海未ちゃんは嬉しそうに笑っている。

「でも、それをことりのほうから崩したんですよ?あの様子を見るに、普段の自分を変えてまで、押して押して押し切ったんでしょう」

「……うん」

「幼馴染が、自分の殻をひとつ破ったんです。祝福してあげましょうよ、穂乃果」

諭すような言葉。もう、私の心は完全に諭されていた。

反論も出来ないし、納得しきってしまっている。だけど。

「うぅ……それは、そうだけどさ。やっぱり、寂しいもん」
264: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:14:20.39 ID:F00fygE8.net
やれやれ、困った人ですね。

口では何も言わないけど、海未ちゃんの眉毛の形がそう言っている。

「それならウジウジしてないで、自分から言いに行けばいいでしょう。クッキーをください、食べさせてくださいと」

「今言いに行ったら、私がにこちゃんに嫉妬してるみたいじゃんか!恥ずかしいよっ」

「……してないんですか?」

半分笑いながら、容赦ない言葉を突きつけてくる。

最近の海未ちゃんは、少しいじめっ子気質になったようだ。隙あらば穂乃果をからかってくる。

「海未ちゃんのいじわる」

「ふふ。やるなら、早めにしたほうがいいですよ?そろそろ絵里が来ると思いますし」

絵里ちゃんかぁ。前から(鬱陶しそうにしている)にこちゃんを愛でたりしてるなーとは思っていたけれど。

ことりちゃんのお世話が始まったあたりから、更にそれが加速している。

二人が火花を散らすという光景も、たまに見かけるようになった。そして、にこちゃんが周囲に助けを求める光景も。

……あの姿を思い出したら、ちょっとだけ可哀相に思えてきたよ。
266: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:18:39.66 ID:F00fygE8.net
「やっぱり、今日はやめとく」

「そうですか。穂乃果がそれでいいなら、何も言いませんけれど」

部活中以外は、ずっと一緒なんだし。その時に、ことりちゃんを堪能すればいいや。

思いながらことりちゃん達を見てみると、にこちゃんがマクカップを差し出していた。

「ことり、お茶」

「はい、どうぞ♪」

ことりちゃんが手に持った魔法瓶から、琥珀色の液体が注がれている。

かすかに紅茶の香りが漂ってくる。にこちゃんに飲んでもらうために、家でいれてきたんだろう。
267: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:20:23.98 ID:F00fygE8.net
「ん。……美味しいわね、これ」

「そう?良かったぁ。これ、私が一番好きな銘柄なんだぁ」

……。

「あ、そうだ!ねね、にこちゃん。ことりにもクッキー食べさせてよ♪」

「はぁ?嫌よ恥ずかしい。自分で食べなさいよ」

「前は食べさせてくれたのに?」

「あの時とは状況が違うでしょうよ……。つーか近づきすぎ。離れなさいよ」

「ええ~、やだよぉ」

きゃっきゃうふふ。今更だけど、部室には私達もいるのに、見えてないのかな。

にこちゃんは気にしてるみたいだけど。ことりちゃんは、まるっきりこちらを気にしていない。

少し前まで、世話を焼かれるのは私のお仕事だったのに!……ぐぬぬ。
268: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 20:22:19.37 ID:F00fygE8.net
(それに私も、ことりちゃんのクッキー食べたいよ!)

「海未ちゃん、前言撤回。ちょっと行ってくるね」

結局行くんかいという顔の海未ちゃんをスルーして、ことりちゃん達のほうへと歩き出す。

二人とも、近づく私に気がついてない。せっかくだから驚かそうかな、なんて思ったけど、やっぱりやめた。

もしも、楽しそうな雰囲気を壊してしまったら、ことりちゃんを悲しませちゃうかもしれない。

だから、元気いっぱいに話しかけることにした。私もいるんだよって、忘れないでって、伝わったらいいなと思いながら。

「ことりちゃん!穂乃果も、クッキーほしいな!」

私のことりちゃん離れは、まだまだ先みたいです。



幕間:終わり
301: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:27:58.22 ID:+X+Krf7a.net
ラストチャレンジ:猛鳥注意


「にーこちゃん♪」

「何?」

「えへへ、呼んでみただけ~」

「……うざっ」

こんなやりとりが出来るぐらい仲良くなれるんだよって、一ヶ月前の私に教えてあげたい。

きっと嘘をつかれたと思って、困ったように笑うのではないでしょうか。
302: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:29:23.25 ID:+X+Krf7a.net
(昔の私は、にこちゃんの優しさに気づけないから)

だるそうな表情に、うんざりした声音。わざとらしく、溜息なんかついている。

あの頃ならば、気分を害してしまったと思って謝っていた。

でも、よくよく彼女を見てみれば。

編集作業の手を止めて、こちらにわざわざ振り向いて。目と目を合わせた上で、言葉を返してくれている。

きつい言葉と相反するような、丁寧な対応です。正直、内心ニヤケが止まりません。

(ああ、なんて可愛いんでしょうか。以前から、可愛いとは思っていたけれど)

思わず弄りたくなるような可愛らしさと、全てを受け入れてくれるような安心感。

気がつけば、彼女に構ってしまっている私。構って欲しいなんて言って、必死に気を引いていたのが遠い昔のような気分です。
303: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:31:57.63 ID:+X+Krf7a.net
『にこちゃんと仲良くなりたい!』

私と彼女の関係を変えるため。にこちゃんに私を知ってもらうため。

恥や外聞を捨て去り、思っていたことを思ったまま伝えた、あの時に。

何よりも変わったのは、私の意識でした。

(我慢なんて、もうしません)

もちろん、にこちゃんにも変化がありました。私の好意を素直に受け取ってくれるようになったんです!

例えば、廊下ですれ違うとき。校庭で目が逢ったとき。ウィンクをしてくれたり、手を振ってくれたり。

少しだけ変わった日常が、たまらなく嬉しい。

だから、でしょうか。

(ついつい、構いすぎてしまいます)

『構って欲しい』が『構いたい』に変わったのは、いつだったのか。振り返ってみてもわかりません。

自然に移り変わっていたことだけが、わかりました。

(こういうの、愛されたいより愛したいっていうのかな)

作業に没頭している彼女の後ろ頭を眺めつつ、そんなことを考えながら。

にへにへと、人には見せられないような顔をしていました。
304: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:34:16.98 ID:+X+Krf7a.net



カタカタカタ。カチッカチッ。

彼女の作業を眺めるだけの、静かな時間。沈黙が苦にならなくなった私達だけの、穏やかな空間。

世界が止まっているような感覚。この時間が、ずっとずっと続けばいいのに。そんなことを脳天気にも思っていました。

……その人が、部室にやってくるまでは。

「邪魔するでー」

突然、開かれた扉。希ちゃんです。

(私達以外に残ってる人がいたんだ)

「邪魔するなら帰って」

「あ、そう?それじゃお邪魔しましたー」

にこちゃんの返事を聞くなり、そのまま反転。扉を閉めて、本当に帰ってしまいました。

(えぇ~!?)

見間違いかな、と目をごしごししてみるものの、変化はありません。

希ちゃん、本当に帰っちゃったけど大丈夫なんでしょうか。

などと心配していたら、またもや扉が開きました。希ちゃんです。

「―――ってなんでやねん!」

(どうして満足気なんだろう……)
306: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:38:27.30 ID:+X+Krf7a.net
部室に入るなり、にこちゃんに対してツッコミを入れています。

にこちゃんはPCに向いたままなので、見ていないと思いますが。

それでも満足なのか、やりきった感溢れる表情です。

「はいはい。それで何の用なの?見ての通り、作業中なんだけど」

「いやー、にこっち寂しがってないかなーって思って、様子見にきたんよ」

心配しています、というような事を言っていますが、顔はニヤニヤとしています。

これは、にこちゃんをからかう時によく見る表情。そして何故か、私を見てにんまりとしています。

「そりゃご苦労なことね。忙しいから、もう帰っていいわよ」

「にこっち。心配して見に来た友人に対して、ちょーっとつめたいんとちゃう?」

「……」

にこちゃんは無視。会話の間も手を休めることはしません。
307: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:40:49.20 ID:+X+Krf7a.net
「やっぱり、ことりちゃんがおるからかなー?最近ことりちゃんと仲良いみたいやしねー」

(あ、私でからかうんだ)

気がついたと同時に、この後の展開の想像がつきました。

こういう風にからかわれた時のにこちゃんの反応は決まっています。

『仲良くないわよ!』と力いっぱい否定して、うがーと怒る。例に漏れず、私もそうなるのでしょう。

(私も言われちゃうのかな。『仲良くない』って……)

本当はそんなこと思っていないとしても、悲しいものは悲しい。

口を挟んで、二人の会話を有耶無耶にしようかと思ったけれど。

余計な方向に話を進めてしまいそうです。どうしたものでしょうか。

(ああ、にこちゃんが答えてしまえば、悩むことはなくなるのに―――)

作り笑顔を貼り付けながら、そんなことを考えていました。

そして、違和感に気が付きました。さっきから、彼女の答える声が聞こえてこない。
308: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:43:52.83 ID:+X+Krf7a.net
(―――あれ?にこちゃん?)

作業の手を止めて、沈黙しています。しかも、にこちゃんの時間が静止したように体勢が微動だにしていません。

普段と違う反応。少し、怖いです。顔が見えないので表情すら窺い知れません。

希ちゃんも見慣れない反応なのか、戸惑っているようです。

「あの、にこっち……?」

希ちゃんの不安そうな呼びかけにも、反応がない―――と思いきや、ゆったりと背伸びをしはじめました。

やっと動き始めた彼女。イスをくるりと回転させて、希ちゃんに向き直りました。

「そうね。ことりがいるから、寂しくないわよ」

そして、驚くべきことを口にしたのです。
309: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:46:06.32 ID:+X+Krf7a.net
(え、ええ……。私がいるから、寂しくない。もしかして、これってもしかして、いわゆる、デレ?)

「へ、へぇ~、そうなんや。……それじゃあ、うちはお払い箱やね。悲しいわぁ」

今度はヨヨヨと泣いたふりをしながら、チラッチラッとにこちゃんを見ています。

なんだか見覚えのある姿です。いつぞやの、構ってもらう為に色々やっていた自分を見ているような……。

(ちょっと恥ずかしいです)

しかし、にこちゃんのほうは大した用がないことがわかって、興味が失せたようです。

返事をせずに作業に戻ってしまいました。

「もう、にこっち!」

明らかに拗ねはじめている希ちゃん。それでも相手にする様子はありません。

「忙しいつってんでしょ。部室に居るんだったら、ことりみたいに静かにしてて」
310: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:49:36.31 ID:+X+Krf7a.net
(あっ―――)

私と比較するような言葉。

それが最後の引き金になったようで、希ちゃんの腕がプルプル震えたのが見えました。

ああ、既に涙目になっています。噴火三秒前といったところでしょうか。まずいです。

なんとか取りなそうと、フォローを入れようとしましたが、間に合いません。

「にこっちの、あほーっ!」

部室を飛び出していきました。初めて見る、希ちゃんの大爆発。

それだけのことがあっても、にこちゃんは変わらずに作業を続けています。

「希ちゃん、行っちゃったけど。……いいの?」

「いいのよ。あのアホは放っておいても」

そう言われると、私からは何も言えません。

ただ、その声から。機嫌が悪くなっていることが、伝わってきました。
311: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:52:19.62 ID:+X+Krf7a.net



「やっと終わったわ!完成!」

「お疲れさま~」

にこちゃんの苦労が実って、新曲のミュージックビデオの編集が終わりました。

細かい修正はあるけれど、ほぼ完成らしいです。

「ことり。終わるまで付き合ってくれて、ありがとね。帰りにクレープ食べに行きましょう!お礼に奢ったげるわ」

「そんな、お礼だなんて。好きで居ただけだよ?」

「いいからいいから。素直に奢られてなさい。……帰る支度するから、ちょっと待ってて」

(やったあ、にこちゃんの奢りです♪)

一度は遠慮したものの、本当は小躍りしそうなくらい嬉しかったり。

学校帰りに大好きな先輩と買い食いという、大イベントなのですから当然です。
312: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:54:00.23 ID:+X+Krf7a.net
「よし。準備終わったし、帰りましょうか。―――って、ごめん」

帰ろうとした、その時。ヴー、ヴーとバイブ音が聞こえました。

にこちゃんはスマートフォンを取り出して、画面に表示された文字を読んでいます。

(ラインでも来たのかな?)

はぁー。読み終えた途端に、長い溜息をついています。

申し訳無さそうに切り出しました。

「悪いんだけど、ちょっと寄るところ出来たわ」

「ううん、全然いいよ。……どこに行くの?」

とても面倒くさそうな表情で、行き先を教えてくれました。

「生徒会室」
313: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:56:21.97 ID:+X+Krf7a.net



道すがら聞いた話によると。ラインは、絵里ちゃんからだったそうで。

先生に手伝いを頼まれて、生徒会室で仕事をしているけれど、希ちゃんがいじけていて仕事にならない。

こうなった原因のにこちゃんに何とかしてほしい、という連絡だったようです。

「時刻的に言って、途中で抜け出して部室に来たみたいね。それに最初から長居するつもりはなかったと」

(それなのに、にこちゃんに冷たくされて、悲しくなって走り去ったというわけですね)

「にしても。希が出ていってから三十分は経ってると思うんだけど。絵里もよく我慢してたわね」

あいつがああなると結構面倒なのよね、と何でもない風に呟いています。

ここまで来ても気にしてる様子はありません。

(もっと相手してあげれば良かったのに)

今になって、にこちゃんに構いたい者同士の同族意識が芽生えだしました。

あんな風に冷たくされたら、きっと私も希ちゃんの様に……。なので他人ごとではありません。
314: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 20:57:46.96 ID:+X+Krf7a.net
「んー?何よ、その目は。もしかして、構ってあげれば良かったのにって思ってる?」

「……うん。ちょっと、ぞんざいな扱いだなって思ったかな」

精一杯の非難を込めて、にこちゃんに抗議です。

しかし、意外にも私の言葉を聞いて、彼女は笑いはじめています。

「くくっ、そうよね。あんたはそういうやつよね」

一人で納得して、嬉しそうにしています。

なにがなんだかわかりません。その疑問符が浮かび出ているような表情をみて、さらに愉快そうにしています。

「私もアイツも、虫の居所が少しだけ悪かったってことよ」

(まったく、わかりません)
315: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:03:27.25 ID:+X+Krf7a.net
そうこうしてる間に、到着してしまって、この話は打ち切られました。

にこちゃんはスマートフォンを取り出して何か操作をしています。

到着したら静かにしてて、と事前に言われていたので尋ねる事もできません。

「今、絵里に部屋から出るように言ったの。出てきたら、私が入って希を宥めてくるから。ことりは、ここで待ってて」

操作を終えたらしい彼女が、ささやき声で説明してくれました。

うん、わかったよ―――と、頷くジェスチャーをしたところで、生徒会室のドアが少しだけ開きました。隙間から、話し声が聞こえてきています。

『それじゃ、職員室に行ってくるわね』

『……うん。すぐ帰ってきてな』

更に扉が大きく開き、絵里ちゃんの姿が見えました。

にこちゃんは、ほぼ同時に扉のほうへと歩き始めて、入れ替わるように生徒会室の中へ。

二人は、すれ違いざまに握りこぶし同士をぶつけあっていました。何だかかっこいい。

(ああいうのも、憧れます。ちょっと男の子っぽいですけど)

小さく手を振りながら向かってくる絵里ちゃんに手を振り返しながら、そんなことを考えていました。
316: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:06:37.74 ID:+X+Krf7a.net



(出てこないなあ、にこちゃん。大丈夫かなあ。喧嘩になってないよね?)

結構な時間が経ちますが、出てくる気配はありません。

部屋から不穏な声が聞こえるわけではないので、言い争いにはなっていないとは思いますが。

しかし、気持ちが顔に出てしまっていたみたいです。絵里ちゃんに声をかけられました。

「にこなら大丈夫よ、ことり。そろそろ出てくるんじゃないかしら?」

「うん……」

にこちゃんへの信頼が溢れた微笑み。

三年生には三年生にしか、わからない絆があるようです。

「―――って言ったそばから出てきたわね」

再度、扉は開かれました。にこちゃんの表情は、入る前となんら変わりありません。

ただ一つ。ピースサインをつきだしています。どうやら、上手くいったようです。一安心。

「にこ、どうだったの?」

絵里ちゃんのの質問。当然、私達は上手くいったという答えが返ってくると思っていました。

しかし何故か、にこちゃんは首を傾げています。
317: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:10:30.90 ID:+X+Krf7a.net
「そうねえ。今日は、使い物になるんじゃない?たぶん…‥」

「えっ!……たぶんなの?」

ええっ。希ちゃんとお話して、和解をしたのでは……。

絵里ちゃんにとっても予想とは違ったのか、肩と眉が垂れ下がっていきます。

先程のキメ顔から打って変わったションボリ顔。絵里ちゃんのこういうところ、可愛くて好きです。

「最初、近づこうとしたら同じだけ逃げられてね。仕方ないから追いかけたら、また逃げて―――って感じで、部屋の中をぐるぐる周ってたんだけど」

にこちゃんも、私にもよくわかんないんだけど、と狐につままれたような表情をしています。

「仕方なく無理やり捕まえて、逃げられないようにしてから文句言ってたら、いつの間にか機嫌よくなってたのよ……。わけわかんないわ」

「本当にわけわからないわね」

当の本人すら、わからないのです。見てもいない私達にわかるはずもなく。
318: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:13:15.27 ID:+X+Krf7a.net
「うーん、困ったわね。また希の機嫌が悪くならないとも限らないし……。出来れば良くなった理由が知りたいんだけど」

「手伝うのって今日だけなんでしょ?それなら問題ないじゃない」

「そうだけど……。あ、そうだにこ。私にも中でやったことを再現してみてよ。そうしたら、わかるかも」

「はぁー?」

面倒くさいと全力で態度に表わしていますが、絵里ちゃんは気にもせず。

数分の押し問答の末に押し切ることが出来たみたいです。私達は場所を移動してから再現を始めました。

「ふふっ…うふふっ……」

そして始まる二人の追いかけっこ。追い掛けられている絵里ちゃんは、妙に楽しそう。

机の代わりになるものがないので、私を中心にぐるぐる回るというシュールな絵です。どことなくトムとジェリーを思わせます。

「で、これを5、6周した後に……絵里、壁のほうに立ってくれる?そう、その辺りでいいわ」

逃げられないように、というのは壁に追い詰めたということのようです。

「それで、こうやって右手で希の左手を掴んで、壁に押し付けて。左手で襟元を掴んで、絵里に迷惑かけんなバカ―――とか何とか言ってたのよ」

(あれ?これって……)
320: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:15:10.41 ID:+X+Krf7a.net
にこちゃん、気がついてないけど……。

いわゆる一つの、壁ドンというものに近いのではないでしょうか。

「に、にこっ……かお、ちかぃ……」

「え?……なに、絵里。もしかして照れてんの?」

襟元をグイと引き寄せられて、顔を真赤にしている絵里ちゃん。口をパクパクとさせています。

にこちゃんは動揺している絵里ちゃんが面白いのか、薄く笑いながら顔を近づけたり離したりを繰り返しています。

(にこちゃん、天然でこれをやったの?)

呆れながら、改めて目の前の光景を考えてみる。

乱れたリボン。壁に縫い止められた手と手。至近距離の二人。嗜虐的な笑みを浮かべた少女。

(なんだか、いけないものを見ている気分)

だけど不思議と、彼女たちの一挙手一投足から目が離せません。

同時に胸を締め付けるような感覚が、私を支配していくのがわかります。

「―――はい、再現終わり。後は自分で考えといて」

「……あ、うん。そうね、考えておくわ……ふぅ……」
321: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:17:05.28 ID:+X+Krf7a.net
ひとしきり絵里ちゃんで遊んで満足したらしく、あっさりと手を離して開放。私は、ほっと安心の吐息。

次いで、もう一度息を吐く。これは、憂鬱の溜息。

(希ちゃん、絵里ちゃんときたから、次は私の番……というわけには、いきませんよね)

それなら欲望のままにお願いしてみようか―――なんて考えはしてみても。

絵里ちゃんがいるので、それも出来ず。なら、今から理由をつけて、部室に戻ってからお願いしてみるというのは。

(ううん、駄目。そんなの、はしたないよ)

好きな人には、よく見られたいもの。だから、今は我慢して機会を待つべきででしょう。

(いや、よく考えみれば。そんなシチュエーションになることって普通はないよね?)

やっぱり今ここで、絵里ちゃんに見られるのも構わずに、お願いしてみるべきでしょうか。
322: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:21:36.16 ID:+X+Krf7a.net
「じゃ、もういいわよね?私達は帰るわ」

しかし、無情にも時間は流れるもの。

にこちゃんは、私が悩んでいる内に下校装備を整え直してしまったようで、私待ちの様です。

いつまでも待たせるわけにもいきません。悩みの先送りが決まりました。

「ことり、行くわよ」

「あ、うん。絵里ちゃん、また明日」

「ええ、また明日」

笑顔で手を振って別れの挨拶。

本当は生徒会の一員として、生徒会室で仕事をしている二人を残して下校することを、後ろめたく思う気持ちもありますが。

これ以上、学校に居残っていたらクレープが延期になるかもしれません。

二人に心の中で謝って、にこちゃんの背中を追ったのでした。
324: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:24:33.75 ID:+X+Krf7a.net



翌日。部室で私達二年生を迎えた光景は、思わず目を疑ってしまうものでした。

「にこっち~。なあなあ、にこっち~」

「さっきから、にこっちにこっちうっさいっての……」

そこには、やたらとにこちゃんにベタベタしている希ちゃんがいたのです。

いつものスピリチュアルな様子も、μ’sを見守るお姉さんといった感じも消え失せています。

「あの、絵里。希は、一体どうしたのですか?」

流石の海未ちゃんも、様子がおかしいことが気になるみたいです。

二人を微笑みながら眺めている、もう一人の三年生に質問をしています。

ちなみに穂乃果ちゃんは、仲良しさんだね!と楽しそうに眺めています。
326: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:26:13.48 ID:+X+Krf7a.net
「ごめんね、私にもよくわからないのよ。……でもまあ、楽しそうだしいいんじゃない?」

「それはそうですが」

絵里ちゃんに追求したところで聞けることはないと悟ったのか、逼迫した状況とは思っていないのか。

これ以上の質問はしないみたいです。

(それより……)

答えている最中に、一瞬ですが。絵里ちゃんからの目配せがありました。

もしかして、昨日の出来事が関係している……ということでしょうか。

あえて海未ちゃん達に説明をしないということは、それなりの理由があるのかもしれないので、私も黙っておきましょう。

(説明したら、私にもしてみてよ、にこちゃん!―――なんて、穂乃果ちゃんが言い出すかもしれませんし)
327: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:27:13.59 ID:+X+Krf7a.net
考え事をしている間も、二人の掛け合いはヒートアップしていっています。

「なあ、なあなあなあ、にこっち~」

「う・る・さ・いー!いい加減にしろー!」

(あ、本気で怒り始めたみたいです)

そろそろ止めたほうがいいのでは……。しかし、こういう時に頼りになる絵里ちゃんは静観の様子です。

自分で止めようにも、あの二人の間に入るのは勇気が必要です。

(一年生たちが来たら、不安に思っちゃうかも……)

仕方ありません。ここは私が止めるしか。

どうやって切り出そうかと迷っている内にも、にこちゃんの怒りは膨らんでいきます。

ああ、どうしよう。―――しかし、私は忘れていました。頼りになる人がもう一人、この場にいることを。
328: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:28:53.42 ID:+X+Krf7a.net
「希!いい加減、にこに絡むのをやめなさい!にこが困っているでしょう!」

部屋を揺るがす一喝。希ちゃんは驚きで飛び上がっています。

絡んでいたのを反省したのか、それとも海未ちゃんの顔が怖かったのか。

叱られた希ちゃんは部屋の隅でしょんぼりとしています。

(こういう希ちゃん、初めて見るかも)

「穂乃果、ことり。着替えましょう。」

ようやく落ち着きを取り戻したアイドル研究部。

その後の活動は、気落ちした希ちゃんを慰めながら進みました。
329: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:30:35.02 ID:+X+Krf7a.net



「……で、にこちゃん。あれは結局、何だったの?」

「私に聞かれても」

最近は練習が終わった後に居残って、こうやって、にこちゃんと話しています。

といっても、にこちゃんに残る用事がある時のみの話で、私はそれに金魚の糞のようにくっついてるだけですが。

昨日も、そういう理由で私達は残っていたのです。

「希ちゃんの様子、凄かったよ?こう……。上手く言えないけど」

今日の話題は、もちろん希ちゃんのこと。

にこちゃんが本気で怒りはじめたことすら気にもせず、熱に浮かされた様に話しかけていた。

そして、例の絵里ちゃんの目配せが気になります。希ちゃんから何か聞いていたんでしょうか。

(だとすると、昨日の出来事が関係してるってことだよね)

そして、なにより私の野鳥の感が告げています。

にこちゃんは、原因を知っていて誤魔化している。
330: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:32:38.43 ID:+X+Krf7a.net
「しらないって言ってんでしょ」

「‥…にこちゃん。嘘ついたら、ことり、悲しいよ?」

絵里ちゃんと再現していたことで、あそこまで大きく変わるとは思えません。

ということは、私達には言わなかった、何かがあったということ。

「……」

あらぬ方を見ながら沈黙。にこちゃんが黙秘するのは、都合が悪くなったとき。

やっぱり、何かしら思い当たるフシがあるのだとわかりました。

「にーこーちゃんっ。こっち向いてよ」

「私、今日はファンレターのチェック作業があるんだけど!」

「それならことりも手伝うよ?」

「……それは駄目」

全国から来るメールやお手紙の、内容のチェックと仕分け。

にこちゃんは絶対に他にメンバーにはさせてくれない。理由は大体、わかりますけど。

それはそれとして。
331: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:35:03.60 ID:+X+Krf7a.net
「にこちゃんがそうくるなら、私にも考えがあります!」

にこちゃんは気がついてないのかな。

部室には私達二人だけ。つまり、誰にも助けを求められないんだよ。

「知ってることを教えてくれないと―――今、この場で。今日の希ちゃんみたいになるよ?」

「うげっ」

嫌そうな顔に様変わり。ダシにしてごめんなさい希ちゃん。

心のなかで謝りながら、にこちゃんを更に追い詰める。

「それに。ああなったのって昨日のことが原因だよね?私にも知る権利があると思うの!」

我ながら無茶苦茶です。権利なんてあるわけありません。

しかし、にこちゃんは権利とかそういう言葉に弱かったりします。

効果てきめんだったようで、話してくれる気になったみたいです。

「……仕方ないわね。話すわよ、全部。知ってることをね」
333: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:42:23.22 ID:+X+Krf7a.net



「昨日、希を逃げられないようにしたって言ったでしょ?」

「絵里ちゃんにしてたみたいに、だよね」

「その時の希が、面白くてね」

追い詰めていた時の光景を思い返しているのか、頬をニタリと歪めて笑っています。

「絵里の時みたいに、恥ずかしがりだしてね。顔が真っ赤になってて―――」

いつもイジってくる希に、やり返すチャンスだと思って。色々やってたみたのよね。

手始めに絵里にやってたみたいに、顔を近づけてみたりしてみたりね。

他にも、可愛いとか綺麗だとか褒めまくったり、耳に息吹きかけてみたりもしたっけ。

いやー、どれもこれもよく効いてたわ。最初は多少は抵抗してたのに、途中から力抜けちゃってて。

私が支えてあげてたって言っていいぐらい。

んで、私もテンション上がったせいというか……悪ノリしちゃって。

『希、目つぶりなさい』なんて、目を見つめながら、言ってみちゃったりして。

いや、まさか、本当に目をつぶるとはね。

仕方ないからデコピンかまして、『やっぱり、仕事もちゃんとしない子には無し』とかなんとか言って逃げたけど。

「―――で、今日。絵里に聞いたんだけどね。昨日、私達が帰った後。物凄く仕事頑張ってたらしいのよ……」
335: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:45:20.62 ID:+X+Krf7a.net
ちょっと待って下さい。

そのセリフってどう聞いても、キスの前振りですよね。

しかも、その後の言葉は『仕事を頑張ればキスしてあげる』と約束したとも取れてしまいます。

希ちゃんも実際にそう思って、しつこく絡んでいたのでしょうし。

にこちゃんにも自分のせいだという自覚はあるらしく、どうしたもんかしら、と軽い口調で言っています。

「やっぱりキスしてあげるべきかしら。仲の良い友達同士なら、ノーカンよね?一応、ファーストキスだから、気になるのよね……」

女の子同士だし、セーフのはず。あんたも穂乃果や海未と、そういうのあったりしないの?―――という声が聞こえましたが、右から左。

他の事を考えていて、まともに頭が回りません。思ったことをそのまま口にしていました。
336: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:46:20.38 ID:+X+Krf7a.net
「にこちゃんって、すごい馬鹿なときあるよね」

「馬鹿とは何よ、馬鹿とは!たしかに、やりすぎたと思うけど……。あんな感じになるなんて思わないじゃない」

(そっちのことじゃないけど)

だって、よく考えてみてください。今、にこちゃんの目の前に居るのは誰でしょうか。

本人に親しくなりたいと直訴して、最近は好き好きオーラを出しっぱなしにしている、私ですよ?

そんな私の前で、親しい間柄同士ならノーカンだと言ってしまうなんて。

(誘っているようなものですよね?)
337: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:49:23.42 ID:+X+Krf7a.net
しかも、今の話によれば。希ちゃんには、にこちゃんとキスしてもいいと思うほどの好意があるようです。

にこちゃんにだって嫌悪感があるようには見えません。

この場合、本当にノーカンになるんでしょうか?

(にこちゃんの初めてが希ちゃんに……?)

このままだと起こりうる未来。

幸せそうな希ちゃんがキスされていて。にこちゃんも恥ずかしそうで。……でも、私はそこにはいない。

想像しただけで胸がきゅうきゅうと締め付けてくる。心が、悲鳴をあげています。

(そんなの嫌です。絶対に嫌)

だったら、どうすればいいのか。考えるまでもありません。

答えは最初から一つだけ。

『先に奪っちゃえばいいんだよ♪』

心の中の悪魔が囁いている声が聞こえてきて。やっと、私は認めることが出来ました。

私、南ことりは。他人を蹴落としてでも、にこちゃんを手に入れたいと思っている。
338: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:54:57.75 ID:+X+Krf7a.net
(―――ああ、そっか。私、にこちゃんのことが好きなんだ)

私の『好き』は、どういう『好き』なのか。無意識に、今の今まで考えないようにしてきたけれど。

仲間として『好き』。友達として『好き』。先輩として『好き』。そして……。

(嗚呼。本当の本当に、私を止めるものはなくなってしまいました)

「ちょっと、ことり。聞いてるの?」

その声にハッとします。考え事に集中しすぎてしまいました。

話を聞いていないと思われたのか、にこちゃんはぷんぷんと膨れています。

「ごめんごめん、にこちゃん。それで、希ちゃんにキスしてあげるべきか、どうかだよね?」

もう心の中は決まりきっています。

私の中の全てのことりが、全会一致で突っ走ることを決めました。

「やっぱり、こういうのは経験がないと判断できないと思うんだ。だから、まず―――私と、してみよ?」
339: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:56:52.04 ID:+X+Krf7a.net



にこちゃんの反応がありません。固まってしまっているみたいです。

私の言葉の意味を理解しようとしているのでしょうか?とにかく、このままでは埒が明かないので、席を立って笑顔で近づいていきます。

ぼけっと危機感のない様子で、私の接近を許しちゃっています。せっかくなので、このまま抱きついてしまいましょう。

「にーこちゃん♪」

ガバっとしたところで、にこちゃんは再起動。とっさにイスを引いて、後ろにかわされてしまいました。

思い切り空を切った両手が、寂しさに泣いているような気がします。

「……なんでよけるの?」

「いや……なんか急に怖くなって……」
340: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 21:57:58.09 ID:+X+Krf7a.net
椅子から立ち上がり、私を警戒しています。

走って逃げ出されると目的が達成できません。刺激しないように、ゆっくりと近づきます。

「酷い、私は良かれと思って提案したのに。もしかして、希ちゃんは良くて、ことりは駄目なの?」

うるうるとした瞳で涙ながらに訴える。にこちゃんは罪悪感に駆られたのか、少し気まずそう。

それはそうとして、尋ねる間も距離を詰めていく。しかし彼女も油断はせずに、ジリジリと後退しています。

「そんなことはないわよ?ただ、急すぎてびっくりしたっていうか」

「……じゃあ、急すぎないように、にこちゃんが希ちゃんにしたみたいに、順を追ってならいいよね?」

話を都合の良いほうに持って行きながら、ころっと表情を笑顔に変える。

にこちゃんは、やられたという表情をしていますが、別に騙していたわけではありません。

本当に悲しかったのが、にこちゃんの言葉で嬉しくなっただけで。

もしかしたら、とっても悪い顔をしているかもしれませんが、それは気のせいです。
341: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:00:19.59 ID:+X+Krf7a.net
「ちょっ、ちょい待って!落ち着いて!」

どんどん近づいてくる私に焦るにこちゃん。周囲を確認せずに、迫られるままに下がっていく。

「やだなぁ、にこちゃん。私は落ち着いてるよ」

(だって、こうやって移動してるのも、全部全部、計算づくなんだよ?)

気がついていたのでしょうか。私が、逃げ道を塞ぐように追い詰めていたことを。

思っていなかったのでしょうか。にこちゃんが絵里ちゃんや希ちゃんにしたことを、私が羨んでいたことを。

わかっていなかったのでしょうか。にこちゃんを独占したいと思う、私の気持ちを。

結局読めなかったようです。私がやりたかった展開を。

(本当は、にこちゃんにして貰いたかったけど。仕方ありません)

最後に、一歩だけ進む。つられて、にこちゃんも一歩後ろに下がろうとして。

トン。壁に体が当たる音が響きました。彼女の顔に、徐々に理解が広がっているのが見て取れます。

背後が壁ならば、もう逃げることが出来ない。そのことに動揺したんでしょうか。

この状況で、後ろを確認しようと振り返ろうとしています。
342: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:01:57.72 ID:+X+Krf7a.net
(駄目だよ、にこちゃん。スキだらけだよ)

右手で、彼女の左手を素早く掴んで、壁に縫い止める。

小さい悲鳴が聞こえたけれど、聞こえないふり。

左手は迷ったけれど、襟を掴むのをやめて、にこちゃんの右手を抑えるように絡めることにした。

これだけのことをしても未だに抵抗がないのは、きっと私の雰囲気に飲まれているから。

今のうちに、準備を始めましょう。にこちゃんから聞いた、希ちゃんにしたことを試してみます。

「それじゃあ、順番にやっていくね?」

まずは顔をグイッと近づけて、いつもより甘い声で囁いてみる。

「にーこちゃん♪」

「な、なによ……」

うーん。効果は余りないようです。

自分から近づけてからかったりするだけあって、耐性があるようです。次にいきましょう。
344: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:04:31.92 ID:+X+Krf7a.net
「みんながいるところじゃ言えないけど……。私、にこちゃんが一番可愛いと思ってるよ?

 ぴょこぴょこ動くツインテール、一緒に動く赤いリボン。鮮やかな紅い瞳と、白い肌。勝ち気で、面倒見が良くて、ちょっと面倒臭い性格。

 全部全部可愛くて、にこちゃんの全てが愛おしいと思ってるの。……あ。にこちゃん、照れてるの?肌が白いから、ほっぺが赤くなってるのもすぐわかるよ?ふふっ」

にこちゃんの顔が真っ赤になっています。効果は大きいみたいです。

普段、あまり褒められていないから―――というより、褒められても真面目に受け取っていないからでしょう。

大抵は適当に受け流しています。しかし今は、私と見つめ合いながらなので、真正面からすべてを受け止めざるをえないのです。

(次は耳に息、だよね。どんな反応してくれるかなぁ♪)

「耳、いくよ?」

羞耻心から喋れなくなったのか、にこちゃんは口を閉ざしています。

仕方がないので、返事を待たずに耳に口を近づけます。そして、ふーっと息を吹きかけました。

「……んっ……」

(びくびくしてる……)

密着させている腕から震えが伝わってきています。

気持ちいいのでしょうか……?されたことがないので、わからないですが。

にこちゃんの様子を見る限りでは、悪くはなさそうです。
345: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:07:25.49 ID:+X+Krf7a.net
(あ、そういえば。耳、こんなに近くにあるんですよね)

ジッと耳を眺めていると、くわえてみたい気持ちが、むくむくと沸き起こってきてしまいました。

しかし、ここは我慢です。にこちゃんが大人しいのは、にこちゃんが希ちゃんにしたこと、という前提があるからかもしれないからです。

そもそも私がにこちゃん役をしているのは、おかしいといえばおかしいのですが。そこは勢いです。

(それでは、本命に移ります)

可愛らしいお耳にお別れを告げて、正面に向き直って、にこちゃんを見つめる。

潤んだ瞳と、上気した頬。準備は整っているみたいです。

「ねぇ、にこちゃん。目つぶって?」

びくっと肩を震わせて、体を固くしたのが見えました。

流されるままにされていたとはいえ、ここまでは覚悟は出来ていたのでしょう。

……だけど、ここからは。彼女にとっても未体験の世界です。

「ね、ねえ、ことり?さっきノーカンとか言ってたけど、キスするの恥ずかしいってことわかったし、希ともしないことにしたから、だからっ」

「もう遅いよ」

「や、やめてって、」

抵抗の言葉を遮って、唇を近づけてゆく。目を見開いたままだけど、構いません。

見つめ合いながら。残り、十センチ、五センチ、そして触れ合う寸前。

赤い瞳が、怒りに染まった気がしました。
346: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:09:05.80 ID:+X+Krf7a.net



ひゅん、と風切り音が聞こえて―――

「―――やめろって言ってるでしょうが!」

「へぶっ」

左頬に衝撃。バチンと大きな音が部室に響き渡ります。

ついでとばかりに胸を突き飛ばされて、距離をあけられてしまいました。

……にこちゃんの右手が抜けだされていたみたいです。唇に集中しすぎて、気が付きませんでした。

「ひ、ひたいよぉ、にこちゃん」

「うっさいわ!無理やりキスしようとした癖に!このレズ!へんたい!」
347: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:10:45.21 ID:+X+Krf7a.net
むかっ。最初にノーカンとか言ったのは、にこちゃんなのに。

酷い言い草だと思いませんか?

「レズじゃないもん!にこちゃんが好きなだけだもん!」

「一緒でしょ!」

「違うよ!」

もう、雰囲気とか経験とか展開とか、そういうのはどうでもよくなりました。実力行使あるのみです。

「ちょっ、くんな!やめ、やめなさいよ!」

無理やりキスしようとして、もう一度組み付いたはいいものの。

顔を逸らされ、首を曲げられ―――と成功する気配がありません。

さらに、私の力が徐々に尽きています。にこちゃんの腕力に負けてきていて、押され始めています。
348: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:11:54.50 ID:+X+Krf7a.net
(まずい。このままだと、何も出来ずに終わっちゃう)

「いい加減、諦めなさい。もう力入んないんでしょ」

にこちゃんは余裕な顔で勝利宣言をしています。

そんな顔も可愛いと思うけれど、今は二の次です。

(キスは諦めよう)

苦渋の決断です。残った力を振り絞っても、きっとあの唇には届かない。

だから、狙いを変えることにしました。今得られる、最大のにこちゃんを狙って、手に入れてみせます!

もはや欲望が暴走しているだけの私です。

「今ならまだ許してあげるから―――うわっ!」
349: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:12:59.31 ID:+X+Krf7a.net
かぷ。

にこちゃんの優しいお言葉を完全に無視して、力いっぱい引き寄せる。そのまま抱きついて、首に噛み付く。

がじがじがじがじ。甘咬みとはいえないような強さで、傷をつける。

「いたっいたたっ!」

ダメ押しで、吸い付く。赤い跡が残るように、全力で吸うことに決めた。

マーキングされそうなことに気がついたにこちゃんが、本気で焦っている。

「ちょ、そこ目立つから!」

でも、知らない。

ちゅうー。

「ぎゃあああっ!」
350: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:14:19.10 ID:+X+Krf7a.net



「許して、にこちゃん」


あの後、力尽きた私はにこちゃんに取り押さえられて、何度も何度もビンタをされるという逆襲を受けました。

そのせいか両頬がとっても痛くて、ヒリヒリします。

きっと、私がにこちゃんにつけたキスマークの様に真っ赤になっているのではないでしょうか。

(でも、そんなことはどうでもよくて……)

今現在、にこちゃんが口を利いてくれていないという事実のほうが、私には辛い。

「ねぇ、にこちゃん。無視しないで欲しいな。ことり寂しい」

「……」

「にぃー、こぉー、ちゃーん。こっち向いて?おねがぁい♪」

「……」

何を言っても、なしのつぶて。

中断していたファンレターの振り分け作業を無心でおこなっています。
351: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:16:22.51 ID:+X+Krf7a.net
「好き」

ぴくっと肩が動いたのを、私は見逃しません。

「にこちゃん、好き」

「私は嫌い」

やっと返事をしてもらえました。そっけない返事ですが、『好き』で反応を貰えることはわかったのです。

後はひたすら許してもらえるまで好き好きと言い続けるだけです。

「好き、大好き。にこちゃん可愛くて、好き。優しくて、大好き。どれだけ言っても、言い足りないぐらい好き」

連呼していると、ジトーっと見つめられました。
352: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:18:16.00 ID:+X+Krf7a.net
「あんたって本当に私のこと好きなの?」

「大好きだよ?」

「……なーんか、言葉に重みがないのよね」

溢れ出る愛を伝えているだけなのに……。

それに、だからといって行動で表わそうとすれば、今以上にほっぺたが膨らむことになるでしょうし。

「はぁ……まぁいいわ。その気持ちに免じて、今回だけ許してあげる。―――二度目はないからね」

「ほんとうっ!?」
353: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:21:36.04 ID:+X+Krf7a.net
にこちゃんは優しくて可愛くて、とにかく凄い。

ああ、また独占欲がうずき出しているのがわかります。

自覚してしまった気持ちを、上手く抑える方法がわからないから。

次は許してくれないかもしれないのに、嫌われちゃうかもしれないのに、止まらない。もう一度、ガバっと襲いかかる私。

「にこちゃん!いいよね!?」

「よくない!こっち来んな!二度目はないって言ったの、聞いてなかったの!?」

早くも、にこちゃんの抵抗に押され気味になりながら、私は思います。

今度はもっともっと、とっても酷く怒られてしまうかもしれません。本当に許してくれないかもしれません。

例えそうなったとしても、私は諦めない。色んな方法で、色んなアピールをして、いっぱい好きを伝えて。いつか必ず、私だけのものにしてみせる。

(だって、にこちゃんが大好きだから)

だから、私は懲りずに、いつまでも。

にこちゃんへのチャレンジを続けることでしょう。


#ラストチャレンジ:終わり
355: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:25:46.48 ID:+X+Krf7a.net
投下は終わりです
エピローグは近日中に投下します。(今週はたぶん無理)
実質的な話はこれで終わりなので、かなりアッサリ風味で短いものになると思います。
そいでは
371: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:13:50.95 ID:sYnGmG26.net



「こらぁ、凛!花陽にくっついてないで、自分の練習をしなさい!」

「嫌だにゃあ!久しぶりのかよちんなんだにゃあ!」

一度の出場人数に制限のあるイベントに参加することが決まって、μ’sとしてではなく、ユニットごとに分かれての練習をしていた私達。

だけど、イベント前日の今日。最後の練習は、みんなでしよう!と穂乃果ちゃんが決めて、みんなが久しぶりに集まっています。

「あんたらいつも一緒にいるじゃない!」

「練習の時のかよちんは別腹なの!」

とはいえ、合同で行える練習は限られています。

柔軟とウォーミングアップ、軽いダンス練習を済ませた後は、今までと同じユニットごとの練習です。

みんな屋上にいるので、顔を合わせながらですけれど。
372: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:15:39.32 ID:sYnGmG26.net
「リリホワの練習場所からでも花陽は見えるでしょ。同じ屋上にいるんだし……」

「凛はかよちんの体温を感じていたいの!」

「流石に引くんだけど」

―――というわけで凛ちゃんが、かよちゃん相手限定のわがままぶりを発揮して、抱きついて離れようとしないのです。

にこちゃんが頑張って引き離そうとしていますが、厳しそう。

かよちゃんに至っては、諦めの境地なのか、静かに空を眺めています。

きっと、おにぎりの形の雲を探しているのでしょう。

以前、どうしようもないときはそうしていると聞いたことがあります。
373: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:17:55.48 ID:sYnGmG26.net
(引き離すの、手伝ったほうがいいかなあ?……でも、凛ちゃんの気持ちもわかりますし)

私だって、にこちゃんと一緒の練習は久しぶり。にこちゃんのところに今すぐ行って、ぎゅーっと抱きつきたい。

そして鬱陶しがられて、ビンタされて、叱られたい。あわよくばちゅーしたい。

そういうことを考えては我慢、という連続です。

「とにかく、離れないからね」

「ふーん……。それじゃあ、私が抱きついても仕方ないわよねえ?急に凛の体温を感じたくなってきたのよねー」

そう言って、かよちゃんに抱きついている凛ちゃんに、更に抱きつくにこちゃん。

凛ちゃんへの嫌がらせなのか、全身を密着させています。羨ましい。
374: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:19:11.18 ID:sYnGmG26.net
「暑苦しいにゃあ!離れるにゃあっ!」

「はー?何も聞こえないわねー?」

どうやら一緒に遊ぶモードに入りつつあるようで、じゃれあっているようにしか見えないです。

実際のところ、やるべきことは全て終わっているので問題ないのですが。

(みんなも休憩モードだし、大丈夫だよね)

他のみんなも、最初こそ凛ちゃんを離そうとしていましたが、今は雑談に夢中。

(よし、私も流れで混ざっちゃおう♪)

そろりそろりと、にこりんぱなの背後にまわりこんで、タイミングを窺います。

目指すは、彼女の小さい背中。久しぶりのにこちゃんの体温を求めて。いざ。
375: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:20:12.59 ID:sYnGmG26.net
「ことりも、にこちゃんの体温を感じたくなっちゃった♪」

「うわっ」 「にゃっ」

ガバっと背中を強襲して、がっちりと抱きつく。

勢いがついていたせいか、凛ちゃんが少しバランスを崩しちゃったみたい。ごめんね、凛ちゃん。

「ことり!暑苦しいわよ!」

「にこちゃんが言えるセリフじゃないにゃー…」

間近から聞こえるクレームはスルーして、思いきり、彼女を堪能する。

にこちゃんに密着して、深呼吸。すーはーすーはー、くんかくんか。

「暖かいよぉ。それに汗のいい匂い……」

「嗅ぐなばかっ!」
376: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:21:21.05 ID:sYnGmG26.net
ウットリとしながら、にこちゃんの頭に顔をうずめる。

胸のドキドキが落ち着いてきて、眠たくなってきてしまいました。

にこちゃんから、リラックス効果のある物質でも出ているんでしょうか……。

「にこちゃんも、私の匂い嗅いでもいいよ……?」

「誰が嗅ぐかっ」

「……流石の凛も引くにゃ~」

「あんたにだけは言われたくないわ!いつも花陽に―――」
377: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:22:11.10 ID:sYnGmG26.net
ギャーギャーと楽しげに何か言い合っているけれど、私にはよく聞こえてこない。

二人の言葉は私の耳には興味がなくて、素通りしているのかもしれない。

その代わり。さっきからトクン、トクンと心臓の鼓動が聴こえている。

心地よいその音に、にこちゃんと融け合っていくような錯覚を感じている。

(このまま、心も一緒になれたらいいのにな……)

ぼやけてきた頭で、体の距離が近くなればなるほど、心の距離も近くなったらいいのにと考えながら。

(ああ……幸せ……)

瞼が下がってくるのを自覚していたけれど。

包み込まれるような幸福感には、勝てませんでした。
378: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:23:06.73 ID:sYnGmG26.net



「にこちゃん、そろそろ限界だにゃ……」

「あと少し我慢して。もうちょっとだから」

大部分の体重を凛に預けて、体を支えてもらいながら、ことりをゆっくりと横たわらせる。

私の背中から屋上の地面へと、ゆりかごが変わってしまって、その表情は少し曇ってしまっている。

「凛、ありがと」

「どういたしまして!」
379: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:24:20.49 ID:sYnGmG26.net
しかし、まあ、背後からことりの寝息が聞こえてきた時は、どうしようかと思った。

叩き起こそうかとも思ったけれど、凛の『かよちんはいつも寝かしておいてくれるにゃ!』という言葉によって、なんとなくやめた。

そして、花陽にも協力を頼んで、地面に柔らかい布を敷いてもらって、凛と一緒に横たえたというわけ。

……なのに、当のことりときたら、背中から降ろすと不満そうな顔になってしまった。本当は起きてたりしないわよね?

「あっ、そうか。ねえ、にこちゃん。まくらがないからじゃない?」

「そういえばそうね」

苦しげなことりを見つめていた花陽の指摘。

確かにもっともな意見。ことりは自分のまくらじゃないと駄目とか言ってたわね。

ああでも、仮眠ぐらいなら、柔らかい物があればいいとも言っていた気がする。

そしてそれを聞いた時、私が膝枕をしてあげたような……。
380: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:26:52.85 ID:sYnGmG26.net
「はぁ。仕方ないか」

寝ていることりの頭上に座り込む。

眠りから起こさないよう、ゆっくりと頭を持ち上げて、膝の上にのせる。

この子、髪が多いから結構暖かいし、膝掛け代わりね―――なんて思いながら。

「にこちゃんの癖に、珍しく優しいにゃ」

「ふふ、凛ちゃん。にこちゃんはいつも優しいよ?」

「まったくよ。そこの猫と違って、花陽はよくわかってるわ」

ちょいちょいと手招きで花陽を呼び寄せて、素直で可愛い後輩の頭をなでる。

失礼な憎たらしいほうの後輩にはデコピンしてやりたいところだけど、膝枕中で動けないし。

後で、油断したところに執行することを決めた。
381: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:27:57.26 ID:sYnGmG26.net
(それにしても……)

膝の上で眠っている後輩に目を移す。

長い髪はサラサラで、スルスル。枝毛なんてあるように見えなくて、髪の感触に気持ちよさすら感じてしまう。

手入れに気を遣ってはいるのだろうけど。私の髪とは絶対的な差があるように思えてしまう。

(きっとストレスの差ね。いつもぽわぽわしてるから、あんまり感じてないのかもしれない)

対する私は、しょっちゅうイライラしている気がする。これでは髪艶で負けても仕方ないのかも。

しかもこいつは、膝枕にのせられた途端、穏やかな表情に戻るほど欲求に素直。

最近は会う機会が少なかったからなかったけど、いつもは私に好き好きと言い寄ってきたり、キスしようと迫ってきたりと、やりたい放題。

むしろ、私のストレス源はこいつなんじゃないだろうか。
382: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:29:36.29 ID:sYnGmG26.net
(……はは、そんなわけないわよね)

なんだかんだで、受け入れている自分がいる。好きだと言われて、邪険にしながらも嬉しいと思っている自分がいる。

だから、本当は逆。ことりの言葉、笑顔、愛情は……胸の中を、暖かくしてくれている。

(そりゃそうよね。嫌いじゃない相手に、好きだと言われて、嫌いになれるわけがない)

手櫛で髪をとかしながら、ことりの顔をみつめる。

私に負けず劣らずの可愛らしい容貌。料理や掃除洗濯は私のほうが上手だけど、下手なわけじゃない。

そして、他の女の子らしいことは、ことりのほうが上。

うーん、これだけのハイスペック少女に好かれている私って、なかなか罪作りなアイドルよね―――。
383: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:30:30.52 ID:sYnGmG26.net
(……)

ことりのことを考えていて、なんとなく思いついたことがあった。

実行するための準備として、凛と花陽にお願いを頼んで、どこかに行ってもらおう。

「ねえ、体の上にかけるもの持ってきてくれない?あと10分くらいは寝かしといてあげようと思うの」

「いいよー。行こ、かよちん」

「ちょっと待っててね、にこちゃん。すぐ持ってくるから」

二人が部室のほうに行ったのを確認。周囲で雑談してる面々も、こちらを見ていない。

それに私の背中が影になっていて、何をしてもわからないだろう。
384: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:34:57.06 ID:sYnGmG26.net
(まぁ、その、なんというか。普段のお礼というか)

アイドルは恋愛禁止だから、ことりの『好き』に『好き』で答えられない。アイドルじゃなかったとしても、答えはわからないけど。

少なくとも、今はダメということは、わかっていることで。

ことりが色々してくれていて、ずいぶんと助けられているのも、わかっていることだった。

(私は、それに報いることが出来ていない)

だからこれは、単なるお礼。

いつもは、キスを迫ってくることりに、ビンタでお返しをするんだけど。

たまにはビンタ以外で、私なりの愛情表現をしてもいいかなと思ったのだ。

それに、何かを私からやってあげようとしたこと、ほとんどないしね。

「寝てるから言っても仕方ないんだけど。……これは、ただのお礼だからね?勘違いしちゃダメよ?」
385: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:37:15.15 ID:sYnGmG26.net
そういって顔を近づけてゆく。

私の膝の上にいるせいで、角度的に場所が限定されている。顔の下半分にしか、届かない。

鼻や顎にするのも変だし、頬だとお礼として不足している気がする。

だから、ここにすることになったことも、仕方ないことだと思った。

―――。

顔が熱を持っているのは、ただの照れだと決めつける。

誰も見ていないから、知っているのは私だけ。結局は、何もなかったことになってしまうはずだけど。

それでも。寝てる相手に、言わずにはいられなかったのは、なぜだろう。

「……ノーカンだから」

そして、私は。

ことりの頬が真っ赤になっていることに、気がついてしまった。



#ことりチャレンジ:終わり
390: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 13:57:40.91 ID:sYnGmG26.net
やっとこさ完結です。長い間ありがとうございました。

・希ちゃんのその後は、どうしてもエピローグに入れることが出来ず。少し後悔気味です。

・次のことにこ(にことり)ですが。ことりちゃんがゲシュタルト崩壊気味なので、少し期間を置いて、また書きたいと思います。
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