絵里「風を切る音、心を射て。」

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2: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:33:17.17 ID:Ftr9+zSm0.net
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「それじゃ、行って来るわ。」


「うん、いってらっしゃい、えりち。」



希に軽く手を振って

生徒会室を出て、右に

私は、校舎内を歩く



運動場から聞こえる元気な声と

廊下から聞こえる、ブラスバンドの音



生徒会長としての責務を任されて

今日は、各部活に顔を出す

元スレ: 絵里「風を切る音、心を射て。」

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3: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:33:52.90 ID:Ftr9+zSm0.net
部活動の視察という名目で

それぞれの部長に挨拶する


業務的な会話を終え

資料を渡して、また次の部活へ


友達は…正直、多い方ではなくて

淡々と、坦々と

挨拶をして、活動を聞く


部費の捻出や生徒の状況を知る為に

これも、立派な責務のひとつだ


回り始めておよそ1時間が経つ頃

私は、武道場に足を踏み入れる
4: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:34:45.56 ID:Ftr9+zSm0.net
校舎から離れた別館に位置するこの場所は

少しだけ、漂う雰囲気が違った


…どこか、心地よく感じるくらいに



国立の高校であるが故か

音ノ木坂の部活動は多い


それを見て回るだけでも、大変な作業で

ひとつひとつにかけられる時間は幾ばくもない
5: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:35:15.74 ID:Ftr9+zSm0.net
次回の活動報告の会議の為に

記載してもらう書類一式と

私用のレポートを携えて

ひやりと冷えた、床に足を伸ばす



「…ッ。」

分かってはいたけれど、声が出そうになる



夏の終わりだからなのか

足の裏に伝わる冷たさは

私の、心を引き締めようとするかのように
6: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:35:46.65 ID:Ftr9+zSm0.net
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「…失礼します。」


少し大きな声で、中に入る


「あっ…絢瀬さん。」



弓道場に足を踏み入れると

こちらに気付いて、近寄ってくる、影


「お疲れさま。」

「どう?生徒会も慣れた?」


「…いいえ、まだまだよ。」

「やらなきゃいけない事が多すぎて…」


「それで、今日は視察って訳だ。」


「ええ、そんな所。」
7: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:36:13.52 ID:Ftr9+zSm0.net
弓道部の部長とは

クラスが同じ事もあってか

少しだけ、話せる仲にある


なにより、実力があるのに

それを見せない飄々とした雰囲気は

…どこか、惹かれる物があった



「…それじゃあ、それを書いておけばいいのね?」


「ええ、お願い。」

「あと、何か困った事とか…」


私語も程々に生徒会役員としての仕事を果たそうとした時

背後で聞こえた、凛、と鳴る風の声
9: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:36:44.72 ID:Ftr9+zSm0.net
聞こえた音の方へ目をやった時には

矢は、真ん中に命中していた


「絢瀬さん?」


呼ばれて、気がつく


「え、ええ、それで…」


ちらりと、横目で彼女を見る


矢を番え、胸の前で構える

彼女の纏う、空気が変わるのが分かった


その手から放たれた矢は

吸い込まれる様に、的の中心に
11: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:37:14.18 ID:Ftr9+zSm0.net
「…すごい。」


素直に、口から出た

感嘆する、とはこういう事かもしれない


「…気になる?彼女の事。」


「あ、えっと…」


「凄いでしょ♪」

「まだ、1年生なんだよ?」


「え…?」


「今年うちの部に入って、既に賞を総なめしてるの。」

「私でも、敵わないんじゃないかな?」


そう言って、あはは、と笑う彼女を見て

小さな想いが、胸に込み上げる


「家が名家らしくてね。」

「武道を、色々と嗜んでるみたいでさ。」
12: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:37:52.36 ID:Ftr9+zSm0.net
「やっぱり、才能って奴なのかな?」

「…羨ましいや。」


そう言って、彼女は少し視線を落とした


「才能…」


その言葉は、私の心に重くのしかかった

かつての、日々を思い出す


ぼーっと見つめる視線の先で

彼女は、また弓を引く


その表情は変わる事無く

放たれた矢は、ひゅんっという小さな音とともに

的の中心へと、一分の狂いも無く吸い込まれていった
13: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:38:20.96 ID:Ftr9+zSm0.net
彼女の纏っていた空気が掠れ始めると

彼女は、こちらに気がついた


部長が、彼女に軽く手を振る

私に気付いたその瞳は

柔らかい笑顔で、深々と頭を下げる


…その雰囲気に気圧されてか

私も、慌てて頭を下げた


「…あっ。」


その時に、手を滑らせて書類を床に落とす


「ほら、大丈夫?」


部長にも手伝ってもらい、まとめて手に取った
14: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:39:30.25 ID:Ftr9+zSm0.net
「ごめんなさい。」


無駄な、手間を取らせて


「ふふっ。」

「完璧超人に見える貴女も…」

「案外、おっちょこちょいなのね♪」


「わ、私は、別に…」


自分の与り知らぬ所で上がる評価

期待と、畏怖の混ざり合った視線は

今まで、いくつも経験してきた


…でも、彼女のそれは

どこか、心があたたまる様に感じられた
15: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:39:55.06 ID:Ftr9+zSm0.net
「それじゃ、明日までには用意しておくから。」


「…ありがとう。」

「助かるわ。」


「お互い様、でしょ?」

「残りの視察も、頑張ってね。」


「…ええ、勿論。」



小脇に抱えた資料をまとめて

私は、弓道場を後にする


最後に見た、あの1年生は

また、厳かな空気を纏っていた



「…失礼しました。」


入って来た時と同じ様に

ぺこりと、頭を下げて---
16: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:40:54.45 ID:Ftr9+zSm0.net
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「…さて、こんなところかしら?」


一通りの視察と資料の提出を終えて

私は、荷物をまとめる


バイトで希は先に帰って

私一人が残った生徒会室に

聞こえる、運動場からの声



「才能…か。」


いつかの、かつての自分に想いを馳せる

才能があると、ちやほやされて

いつか、きっと…って


少し、鞄を持つ手に力が入った時

今日見た、あの1年生の顔が浮かんで来た
17: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:41:15.11 ID:Ftr9+zSm0.net
寄せられる絶大な信頼と

今まで成し遂げて来た物の重さ


かつて挫折した自分にはない、もの

諦めた私とは…違う


ほんの少し見ただけで、分かった

あの場所にいる彼女は、輝いて見えた



「羨ましい…の、かしら?」


まさか、とは思ったが

胸に浮かんだ、素直な気持ちだった


「あの…」


「…!」


不意に、後ろから声をかけられた
19: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:41:43.56 ID:Ftr9+zSm0.net
「貴女は…」


「すみません。」

「ノックをしても、反応がなかったので…」


どうやら、ノックの音に気付かなかったみたい

それにしても…


「いえ、いいのよ。」

「それで、どうしたの?」


「部長から、書類を預かってきました。」

「何でも、違う書類が混ざっていたと…」


「…ああ。」


きっと、あのばらまいた時に


「ごめんなさいね、ありがとう。」


「いえ…それでは、失礼しました。」
20: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:42:08.83 ID:Ftr9+zSm0.net
「あっ、ちょっと待って…!」


「…?」


出て行こうとするその姿を、引き止める

不思議そうな顔を浮かべる、彼女


「さっき、挨拶できなかったから…」

「貴女の名前は?」



「…園田です。」

「園田海未。」



「園田さんね、よろしく。」

「私は…」



「絢瀬生徒会長、ですよね。」

「よろしくお願い致します。」


目尻の下がった無垢な笑顔に

私は、どんな顔を見せていたのだろう



あの日、2人で初めて言葉を交わした---この場所で
21: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:42:45.02 ID:Ftr9+zSm0.net
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「へえ…そんな子がいるんやね。」

「ウチも、見てみたいなあ。」


「ふふっ、そのうち見られるわよ。」

「それより、早く終わらせるわよ?」


「はーい。」



新たな出会いがあったとしても

私達の日常が大きく変わる事は無い


まして、彼女は1年生で弓道部


特にこれといった接点も無かったのだから
22: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:43:12.09 ID:Ftr9+zSm0.net
「えりちっ。」

「じゃーんけーん…ぽんっ!」


「…ッ!?」


希の突然の声に

思わず手のひらを突き出す


「ふっふっふ~♪」


希が私にピースをした


「それじゃあ絢瀬くん、りんごジュースでよろしく♪」


「もう…」


いつも急な希の提案に呆れつつも

そういえば休憩を挟んでなかったな…

なんて我に返る


本当に、希はよく見ている
23: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:43:37.80 ID:Ftr9+zSm0.net
「…仕方ないわね。」


「それじゃ、軽く資料をまとめておいてくれる?」

「一旦、休憩にしましょう。」


「はーい!」


そう言って、少し乱雑な紙の束を集める希

目の前の開いた机上スペースに

身体ごと倒れ込んだ


「いってらっしゃい、えりち~。」


「はいはい。」


また違った無邪気な笑顔で送り出されて

苦笑を浮かべつつも

私は、生徒会室を後にした
24: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:43:59.13 ID:Ftr9+zSm0.net
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運動場からは、いつもの部活の声

それとは別に

各教室からも、賑やかな声が聞こえる


生徒みんなが、日に日に迫る舞台に向けて

団結しようとしているのが見て取れる


生徒数が少ないというのは

必ずしも悪い事ではないと思う

…こんな光景が、見られるのなら



その風景を横目に見て

私は、一階の踊り場へと足を伸ばす


中庭の自販機へは、少し遠いから
25: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:45:09.78 ID:Ftr9+zSm0.net
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「えっと、りんごジュース…」


がこん、という音と共に

足下の取り出し口に、ジュースが落ちる

ひやり、と冷たいその缶を持つと

冬が近付いて来た---なんてしみじみ思う


私は…何がいいかしら?


自分の飲み物を選んでいると

背後に、誰かの気配を感じた


私が振り向くより先に、声がかかる


「生徒会長。」


「…園田さん。」
26: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:45:31.70 ID:Ftr9+zSm0.net
「貴女も、飲み物を買いに?」


「ええ。」

「頼まれてしまいまして。」



「ふふっ、貴女もなのね。」



「…という事は、生徒会長も?」



「ええ、そうなの。」

「うちの副会長は、人使いが荒くて…」


なんて、言ってみる


「ふふっ…お互い、大変なんですね。」


そう言って、明るく笑顔を見せる園田さん

本当に、いつも、彼女の笑顔は綺麗に見える
27: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:45:56.81 ID:Ftr9+zSm0.net
「今日は、道着じゃないのね。」


「ええ、今日はクラスの方で…」


「園田さんのクラスは、何をするの?」


「喫茶店…を、するそうです。」

「私は、部活もあってなかなか参加できないので。」

「そう決まったのも、今日初めて知りました。」


喫茶店…か

なんとなく、メイド服姿を想像してしまう


…うん、可愛い


「メイド服なんかも、着てみたりするの?」


もし本当にそうなら、顔を出して…




「むっ…無理ですっ!!」
28: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:46:27.56 ID:Ftr9+zSm0.net
そう言って彼女は目を瞑り

顔を真っ赤にする


「そっ、そんな、メイド服だなんて…」

「恥ずかしすぎますっ!!」


そういえば、次の日部長に言われたかしら

『あの子、案外可愛いんだよ。』って


ようやく、意味が分かった気がする


「ふふ、ごめんなさい。」


そう言いながらも、目の前の少し小さくなった彼女が可愛くて

…なんだか、仲良くなれそうな気さえする



「それじゃ、私はそろそろ行くわね。」
29: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:47:30.56 ID:Ftr9+zSm0.net
「あ…はい。」

「失礼します、生徒会長。」


その言葉使いと、先ほどまでの彼女の姿が

…どこか、噛み合ってなくて、おかしくて


同時に、もどかしくも感じてしまう


「絵里でいいわ。」


「え…?」


「生徒会長、なんて呼ばれるのは、集会の時だけで十分。」

「それに…」


今ここにいる私は、生徒会長としての私じゃないから


「で、でも…」


少し慌てる、彼女
30: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:47:52.06 ID:Ftr9+zSm0.net
「…駄目かしら?」

そっと、首を傾げてみる


「う…分かりました。」

「その…絵里…せんぱい。」


どうやら、それが彼女の精一杯みたい


「それじゃ、私は行くわ。」

「ありがとう、そ…」


「先輩も、です。」


「え…?」


「海未、でいいですよ。」

「皆からも、そう呼ばれてますから。」


そう言って、またあの笑顔


「…そう。」

「よろしくね、海未。」


「はい、絵里先輩。」
31: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:48:55.71 ID:Ftr9+zSm0.net
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彼女と別れて、来た道を戻る

生徒会室には

気持ち良さそうに寝ている希が待っていた



「…ひゃあっ!?」


希の首に、缶を当てる


「もう、えりちはひどいなあ…」


そう告げて、缶を受け取る希


「あれ?えりち、自分のは?」


「え…?」


ああ、話に夢中で気がつかなかった
32: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:49:16.32 ID:Ftr9+zSm0.net
「…何か、良い事でもあったん?」


「どうして?」


「んー、何となく。」

「嬉しそうやん♪」


そう言いながら

プルタブに指を掛ける、希



顔に出ていたのかしら

…なんて、頬を軽くつねりながら


廊下を歩いて

ほんの少し火照った体を冷ます為に


誰かさんが開けたばかりのりんごジュースを

喉に、こくこく、と注ぎ込んだ
33: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:58:35.98 ID:Ftr9+zSm0.net
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季節は10月中旬

街並に茂る木々が色褪せ始めた頃

ここに来て2度目の催しが開催された


各クラスや部活が一丸となって

様々な彼女達らしさが見られる、そんな一時


強いて言えば

今年は純粋にそれを楽しむだけではいられないのが

少し…心残りかしら?



「あっ、えりち、クレープ食べへん?」


「ほら、あと少しで休憩なんだから。」

「それまで我慢しなさい。」


「も~、えりちは固いなあ…」
34: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:59:07.09 ID:Ftr9+zSm0.net
隣でしゅんとなる希を見て

少し可哀想にさえ思えたけれど

まずは、仕事を終わらせないと



「せっかくの学園祭なんよ?」


「だからこそ…でしょう?」

「全て上手く行く様にするのが、私達の仕事。」


「上手くいってるか確認する為に。」

「まずは、味見を…♪」


「ほら、後で買ってあげるから。」


「わ、分かったから引っ張らんといてーっ。」


子供みたいな誰かさんの腕を引いて

私達は、講堂の方へと足を動かす
35: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/15(火) 23:59:33.18 ID:Ftr9+zSm0.net
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「~♪」


講堂から聞こえて来たのは

最近よく聞くアイドルソング


といっても、テレビで流れてる曲を聞いただけで

誰の、なんて曲かは知らないけれど…


「あ…にこっちや。」


「…知ってるの?」


「ほら、よく門前でビラ配りしてる…」


「ああ、アイドル研究部ね。」

「知り合いだったの?」


「まあ…ちょっとね。」
36: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:00:28.65 ID:Bh8yHydg0.net
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少しだけ、講堂の中をのぞいてみる

お客さんは、決して多いとは言えない


「頑張ってるなあ、にこっち。」


送られる拍手は、まばらで

スポットライトに照らされた先で

それでも笑顔で踊る、彼女は


…一体、何の為に頑張るのだろうか


「行くわよ、希。」


「…うん。」


講堂を出て、中庭に繋がる踊り場に出た時

ふいに、希が声をかけた
37: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:00:51.66 ID:Bh8yHydg0.net
「えりちは…やっぱり、ああいうのは嫌い?」


「…どうしたの?急に。」


「ううん、なんとなく。」


「別に、私は…」


何を持ってそれが有意義と決めるのか

それは、当人にしか分からないもの


ただ、正直な気持ちを言わせてもらえば…


「…えりち?」


きっとそれを口に出してしまえば

目の前の彼女は、きっと悲しそうな顔をする


「いいえ、何でも無いわ。」

そっと、それを胸にしまって

私は、振り切る様に足を動かした
38: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:02:33.65 ID:Bh8yHydg0.net
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「これで、だいたい半分ぐらいは見回れたかな?」


「そうね。」

「特に大きな問題も無いみたいだし…」

「そろそろ、一息つきましょうか。」


「やったー♪」


そう言って笑顔になる希を見て

少しだけ、気分が晴れる


「それじゃ、何か食べにいこっ!」


「ちょっ、ちょっと希…!」


さっきまでとは反対に

ぐいぐい、と腕を引っ張られる
39: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:03:00.95 ID:Bh8yHydg0.net
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「はあ~、満足、満足♪」


通路にある屋台に片っ端から声をかけ

仲良く談笑しつつも、減らない食欲に驚きながら

…気付けば、思っていた以上に散財していた


「本当、どうしてそんなに食べて体重が変わらないのよ…」


彼女の、豊満なそれに目を向ける


「ふふんっ♪」


何処かその姿は、誇らしげにさえ見える


「ウチの、チャームポイントやからね。」


そう言って、一層胸を張る、希

…いやいや、別に羨ましくなんてないから
40: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:03:37.50 ID:Bh8yHydg0.net
「…それにしても。」

「やっぱりこうして見ると、飲食関係が多いわね。」


今まで通って来た廊下を見て、そう思う


「そりゃあ、みんな笑顔になれるからと違う?」


「…え?」


「みんなで協力して何かを作って。」

「待ってるお客さんに、喜んでほしくて。」

「それを食べたお客さんに、笑顔になってほしいから。」

「そんなお客さんを見て、自分達も笑顔になれるんよ。」


「こんなに嬉しい事って…ないよ?」
41: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:04:16.38 ID:Bh8yHydg0.net
「誰かの笑顔が、自分の笑顔に繋がるって事。」

「何となく…似てるような気、しない?」


希が何を言わんとしているのか

私にも分かる


それでも…


「もう、えりちは頑固なんやから。」


「…希もでしょ。」


「ウチは、えりちの味方だよ?」


「…知ってる。」


そう告げて、また一歩踏み出した
42: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:04:54.74 ID:Bh8yHydg0.net
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「ほら、えりち、あそこ!」


希に引っ張られて連れてこられたのは

周囲に比べて、やや混み合ってる教室


「何でも、店員さんがめっちゃ可愛いらしいんよ♪」


「でも希、もうすぐ休憩終わり…」


「2名です!」


「って、聞きなさい!」


「まあまあ♪」


気付けば、ズルズルと中に連れられて…
43: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:05:25.33 ID:Bh8yHydg0.net
「いらっしゃいませ~♪」

「お好きな席へどうぞ♪」


案内してくれた彼女は、確かに可愛らしくって

でも、何処かで見た事が…


「2名様、ご案内でーすっ!」



「いっ、いらっしゃいませー…」


何処か、か細い声が聞こえて来たと思ったら…



「え、り…先輩?」


「…海未?」


目の前には、頬を真っ赤に染めた

メイド服姿の、海未がいた
45: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:07:11.12 ID:Bh8yHydg0.net
「あれ?知り合いなん?」


「は…」


「は?」


「恥ずかしすぎますっ…!」


「もう、海未ちゃん逃げちゃだめだよ~♪」


そう言ってさっきの店員に捕まる、海未


「は、話して下さい、ことりっ!」


「ダ~メ♡」



ああ、可愛いって、そういう…


どこか、妙に納得した
46: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:07:51.93 ID:Bh8yHydg0.net
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「それで…結局、押し切られちゃったのね。」


「はい…」


商品を持って、海未がテーブルへ


「何度も嫌だと言ったのですが、ことりが…」


ああ、道理で見た事があると思った

あの子、理事長の…


「…でも、似合ってるわよ?」


ひらひらしたレースとステッチのついた

可愛らしい、メイド服

こんなに似合うのに…もったいない


「なっ…、えり先輩ぃ…」


どこか懇願するような口調で、海未は声を出す
47: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:08:15.27 ID:Bh8yHydg0.net
「海未ちゃーん、こっちお願い!」


元気な声に呼ばれる、海未


「そ、それでは、失礼しますっ…」


そう言って、声のする方にパタパタと駆け出した


「…あの子が、えりちの言ってた?」


「ええ、そうよ。」


「でも、なんか、聞いてたのと印象違うね。」


「ええ、私も意外だった。」


でも、どこかそれが印象深くて


「ふーん…」


何やら意味深に、希が声に出す
48: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:08:42.84 ID:Bh8yHydg0.net
カチャ…と、ソーサーにスプーンを置いて

カップを、口元へ

うん、いい香り…


「それで、えりちはあの子の事、好きなん?」


「ぶっ…!?」


「もう、えりち汚いよ?」


そう言って、おしぼりを出す、希


「のっ、希…!」


「だって、えりちが誰かの話するのって、珍しいし。」

「てっきり、そうなんかと…」


「ちっ、違うわよ!」


決して、そんな訳じゃない

私があの子を気にかけるのは、ただ…
49: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:09:26.66 ID:Bh8yHydg0.net
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その後も、学園祭は滞りなく進んで

気付けば、夕日が校舎を照らし始める時間に


どのクラスも後片付けを初めて

昼間の活気が、まるで幻だったかの様に



「…さて、私達は最後の見回りね。」


「はーい。」


お腹いっぱいで、どこか眠たそうな希を連れて

また、校舎内を歩く


「…後一回すれば、卒業なんやね。」


「もう、気が早いわよ?」


あと、1年以上もあるんだから


「来年のウチらは、どうなってるんかな?」


「きっと…変わらないわよ。」
50: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:11:22.98 ID:Bh8yHydg0.net
受験生として、勉強して

大学の事を考えて

生徒会も全うして

きっと、楽しかったって言える様に


「…えりちは、今、楽しい?」


「急にどうしたの?」


「ううん、なんとなく気になって。」

「何か…」



「…希?」


希の瞳は、一体何を見ているのだろうか


視線の先に目をやると

かつて訪れた弓道場が目に入る


何の気無く、足を向かわせてみた
51: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:11:41.62 ID:Bh8yHydg0.net
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「ウチ、実は弓道場って初めて来た。」


「そうなの?」


「あんまり関わる事ってないし。」

「生徒会室での資料作成とかの方が多いしね。」


「そう…」


また、入る時には一礼して

そっと、冷たい床に足を伸ばす


やっぱり、私達に一番に気付くのは部長で


「あれ、今日も視察?」


「いいえ、何となく立ち寄ってみて…」
52: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:12:09.16 ID:Bh8yHydg0.net
「あ、そっか、れなっちは弓道部の部長やったね。」


「忘れてたの?」

「酷いなあ…」


「ふふっ、ごめんごめん。」



2人が他愛無い会話をしている間に

そっと、目で彼女を探す自分がいた


…いた


今日もやっぱり、彼女は同じ様に弓を引いて

そして、心地よい音と共に吸い込まれる、矢
53: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:12:33.19 ID:Bh8yHydg0.net
お昼にクラスで見かけた

あの可愛らしい姿と相反する

凛々しくも気高く纏った雰囲気


「…凄いね、彼女。」


いつの間にか、希もその姿に見惚れていた


人を惹き付ける魅力というのは

テレビに映る偶像や

甘いスイーツなどではなく


こういった、類希なる才能を指して言うのではないだろうか
54: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:13:06.28 ID:Bh8yHydg0.net
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弓道場を後にして

生徒会室への帰り道


「…なんとなく、えりちがあの子に惹かれる理由が分かったよ。」


「そう?」


「うん。」


きっと、希も感じたんだろう

出会ったときの希を、思い出す


「もう…秋なのね。」


「…そうやね。」


肌に触れる温度が夏の終わりを告げる


そろそろ、コートを買わないと

…なんて事が頭によぎりながら


家の冷蔵庫の中身を思い出そうとしていた
55: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:24:03.33 ID:Bh8yHydg0.net
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「「ハッピーバースデー!!」」


「…えっ?」


「んもう…えりち、ノリ悪いなあ。」


「そうだよー。」

「せっかく希ちゃんと、考えたんだよ?」


学園祭が終わって一週間

冬服に身を包む生徒が増え始めた頃

私は、放課後に空き教室に呼ばれて…



「ああ…今日だっけ。」


どこか、他人事の様に呟く


「うわっ、華の女子高生が自分の誕生日忘れる?」


「し、仕方ないじゃない…」
56: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:25:32.72 ID:Bh8yHydg0.net
どこか、自分には縁がないと思ってた

いや、それも寂しいけど…


そこまで多くない友達に

祝ってもらえるなんて思ってもみなかったし


…そういえば去年は

希がプレゼントをくれたかしら


なんて事を思い出す


「ほら、座って座って♪」


部長…もとい、玲奈に手を引かれ

いわゆる『お誕生日席』に座らされる
57: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:26:01.52 ID:Bh8yHydg0.net
「みんな、今日の為に予定開けてくれたんだから♪」


玲奈にそう言われて、気がついた

クラスのメンバーを中心に

各部活の、部長達まで…



「どうして…」



理解が追いつかずにいると

希が、私に声をかける


「…みんな、えりちのために集まってくれたんよ?」


「え…?」
58: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:26:25.68 ID:Bh8yHydg0.net
正直、どっきりなのかとも思った

だって、ちゃんと喋った事なんて数回で

業務的な会話がほとんどだったのに…


「…どこか、納得してない、って顔してるね。」


そんなに、分かりやすい顔をしているのかしら


「みんな、ちゃんと知ってるんだよ?」

「いつも難しい顔して、厳しい絵里だけど。」



「…一生懸命、みんなのために頑張ってくれてる事。」


「…ッ。」


慌てて、目頭に力を入れる

それが溢れてしまわないように
59: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:26:57.74 ID:Bh8yHydg0.net
正直、分かってもらえなくても良いと思ってた

自分の性格は変えられないと分かっていたし

理解してほしいとも思ってなかった


…ただ、私の努力が

いつか、みんなの、生徒の役に立てればって

そう…思っていたから


そう思って、私は生徒会長になったんだから



「それじゃ、改めまして…」


「「誕生日おめでとう!!」」



「…ありがとう。」



きっと、私は今、幸せだ
60: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:27:39.39 ID:Bh8yHydg0.net
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みんなが開いてくれた

ささやかでも、最高の誕生日会を終え

私は、帰路につく


『ウチらは、後片付けがあるから。』


そう言って、早々に一人で帰されると

…少し、寂しくも感じてしまう


さっきまでの楽しいひとときが

まだ、胸の中に残っている

冷たくなって来た風を受けても

心は、とてもあたたかかった



「…」


校門の前に、その姿を見つけた

綺麗な長い髪をたなびかせて

誰かを待つ様に佇む、一人の少女


「…お疲れさまでした、絵里先輩。」


「海未…」
61: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:28:15.16 ID:Bh8yHydg0.net
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「すみません、引き止めてしまって。」


駅前のカフェで、海未が告げる


「…いいのよ。」

「ちょっと、寂しくも感じてたから。」


そう言って、メールを送信して

海未に、優しく笑いかける


「ありがとうございます。」


そんな私を見て、彼女も笑顔になった


「今日、お待ちしてたのは…」


「もしかして、玲奈に言われた?」


「…はい。」


おせっかいなのは、希と似ている



「お誕生日、おめでとうございます。」
62: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:28:39.81 ID:Bh8yHydg0.net
「あの、ご迷惑かとは思ったのですが…」


そう言って、小さな包みを差し出す


「これは…」


「プレゼント、です。」

「絵里先輩の好みに合うかは分かりませんが…」


可愛らしく彩られた、小さな箱

中身は…何かしら?


「…ねえ、開けてみてもいい?」


「こっ、ここでですか!?」


少し、赤くなる表情


「…気に入らなかったら、すみません。」


弱々しく告げる声に笑みを浮かべつつも

そっと、リボンを外す
63: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:29:06.31 ID:Bh8yHydg0.net
「これ…」


明るい外装に反して

出てきたのは、万年筆


「あっ、あの…」

「絵里先輩が、どんなものが欲しいか分からなくて…」


慌てながら、そう口を開く


「結局、使える物で当たり障りの無い物に…」


だんだんと、声が小さくなる


「…もう。」


少し苦笑しながらも

うつむいている海未の頭を撫でる


「絵里…せんぱい?」



「ありがとう、海未。」
64: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:29:33.64 ID:Bh8yHydg0.net
「迷惑じゃ…なかったですか?」


「どうして?」


「その、会ってまだそんなに経ってないのに。」

「プレゼントをもらっても困るんじゃないかと…」


「どうせ、玲奈に何か吹き込まれたんでしょ?」


「それは…」


すぐ、顔に出る

嘘が、つけないタイプみたい


「でも、貴女はちゃんと考えて、これを私にくれたんでしょう?」


「…はい。」


「なら、私が嫌がるはずないじゃない。」


「え…?」
65: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:29:58.43 ID:Bh8yHydg0.net
「例え出会ってからの時間が少なくても。」

「今、こうして私と貴女は仲良くなれた。」


「そして、貴女はほとんど何も知らない私の為に。」

「悩んで、それでも選んでくれた。」


「…」


「そんな貴女の気持ちを、無駄になんて出来ない。」

「何より…嬉しいの、海未。」



「…先輩。」



「私ね、正直に言うと、友達が多い方じゃないのよ。」

「いつも、自分の気持ちを率先して。」

「…誰かに、歯向かう事ばかりで。」
66: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:30:38.65 ID:Bh8yHydg0.net
「…いつかは、直さなきゃとは思うんだけどね。」

「でも、まだしばらくは無理そうだから。」



「だからね、今日、皆が私の誕生日会を開いてくれた事。」

「皆と仲良くなるような事、してこなかった私が。」

「ここにいていいんだよ、って…言ってもらえたみたいで。」


「すごく、嬉しかった。」


「そしてそれは、貴女にも言えるの。」

「ありがとう、海未。」


「これをくれた事も。」

「…私と、ともだちになってくれた事も。」



「ともだち…」


「…あら、違った?」


私の言葉に、ぶんぶん、と首を振る
67: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:31:32.17 ID:Bh8yHydg0.net
「でも…」


「でも、どうして…?」


「?」


「どうして絵里先輩は、私の事を、そんなに…」



「…憧れるから。」



「…え?」


私の声を、賑やかな声がかき消す

…よかった

心の中で、小さくそう呟く



「…ふふっ。」

「貴女の事、好きになっちゃったのかも♪」


「なっ…!?」
68: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:33:21.04 ID:Bh8yHydg0.net
「じょ、冗談はやめて下さいっ!」


顔を真っ赤にして、否定する


「あら、冗談に聞こえる?」


その顔が可愛らしくて

ついつい、からかってしまう


「そ、それは…」



「ふふ、冗談♪」



「怒りますよ!?」



ああ、こんな顔もするんだ、なんて

ぼんやりと考える


さっきまで頭に浮かんだ言葉を

かき消す様に、塗りつぶす様に
69: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:33:46.98 ID:Bh8yHydg0.net
「それはそれとして…」

「本当に、ありがとう海未。」



「…いえ、気に入って頂けたらよかったです。」


「早速明日から、使わせてもらうわ。」


「そう言って頂けると、嬉しいです。」



「…それじゃ、そろそろ帰りましょうか。」


「すみません、こんな時間まで引き止めてしまって。」


「いいのよ。」

「楽しい時間をありがとう。」


「こちらこそ、です。」

「あ、出る前に、化粧室に。」


「ええ、待ってるわ。」


海未が席を立ってから、伝票を持ってレジに

…たまには、先輩らしいとこ見せなきゃね♪
70: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:34:12.87 ID:Bh8yHydg0.net
-----



「…どうも、ありがとうございました。」


「ほら、そんな暗い顔しないの。」


「ですが…!」


「いいのよ、これくらい。」


「…ありがとうございます。」


深々と、頭を下げる


「もう、気にしなくていいわよ。」

「またの機会に…ね?」


「う…分かりました。」

「それでは、連絡先を教えて頂けませんか?」


「そういえば、知らなかったわね。」

「…はい、どうぞ。」


お互いの携帯を振り合って

なかなか繋がらない事に笑い合って


私は、帰路についた
71: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:34:55.16 ID:Bh8yHydg0.net
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「おかえりなさいっ、お姉ちゃん!」


「遅くなってごめんなさい、亜里沙。」


「ううん、大丈夫だよっ!」

「ちゃんとメールくれたし…」

「あ、それと、お誕生日おめでとう♪」


「…ふふ、ありがとう。」


そっと、そのふわふわしたの髪の毛を撫でる


「えへへ~♡」

「はいこれっ、プレゼント!」


「開けても良いかしら?」


「モチロン!」


その可愛い包みを開くと…

一層可愛い、バレッタが


「…どう?似合う?」


そっと、それを頭に当ててみる
72: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:37:23.60 ID:Bh8yHydg0.net
「うん、すっごく似合ってる!」

「雪穂と選んだの♪」


「そう、ありがとう。」

「今度出かける時に、必ずつけるわね?」


「約束だよ?」


「ええ♪」

「…それじゃ、ご飯にしましょうか。」


「はーい!」


パタパタと、廊下を駆けていく亜里沙


「さて、今日は…」


ブレザーを脱ぐのとほぼ同時に、携帯が鳴る


「…?」


光る画面を、覗いてみると…
73: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:37:53.02 ID:Bh8yHydg0.net
=============
改めて、お誕生日おめでとう
ございます。

プレゼントも、受け取って頂
けて何よりでした。

それと、カフェでの事も、
ありがとうございました。

また、よければ先輩とお話で
きたらと思います。

その時は私が払いますので。


          海未
=============


「ふふっ。」


女子高生らしからぬ飾り気のないメールに

また、笑みがこぼれる

律儀だなあ、とか

そんな事を考えながら

手早く、メールを返信した
74: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7440-wFTf) 2015/12/16(水) 00:38:47.11 ID:Bh8yHydg0.net
-----



「…お姉ちゃん、何か良い事あった?」


「そう見える?」


「うん、いつもより笑ってる気がする!」


「…そうね。」

「すっごく、良い事があったの。」





=============

プレゼントも、メールも、
どうもありがとう

また、会って話しましょう

その時に、海未の事聞かせて
くれるかしら?

もっと、仲良くなりたいから

それじゃ、また学校で会いま
しょう♪

          絵里
=============
97: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/17(木) 01:48:01.58 ID:ZTmdkH6W0.net
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暦は霜月に突入して

その名の通りか、朝の窓に霜が降りる


ああ、掃除がめんどくさい

…なんて思ったりもするけれど


そこは誰かさんと違うから、ちゃんとやらなきゃね



一昨年買った厚手のコートを羽織って

今年は、赤いのが欲しいわね…

なんて考える


妹からもらった誕生日プレゼントをつけて

いつもの私の、いつものポニーテール
98: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/17(木) 01:48:31.35 ID:ZTmdkH6W0.net
特にこだわりがある訳じゃないけれど

何となく楽だからこうしてる

…というより、自分に似合う髪型が分からなくて

何より、お婆様に褒められた髪だから


「…寒い。」


玄関を開けて、閉めて

マフラーを巻き直す


「いってきます。」


誰も応えない、がらんとした我が家に

そっと告げて、またドアを開けた
99: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/17(木) 01:49:00.29 ID:ZTmdkH6W0.net
こんな寒さにも負けずに

街は、活気づいている


秋葉だからこそなのか

それとも、どこでもこうなのか



街に飾られたイルミネーションは

少し早いクリスマスカラー

街中のカップルが増えだすのを見ると

…浅はかね、なんて呟いてしまう



「はーっ…」


両手に、吐息を吹きかけて

私は、目的地へと足を速めた
100: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/17(木) 01:49:26.11 ID:ZTmdkH6W0.net
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「まだ…着いてないのかしら?」


全く、希ももっと早く言ってくれれば…

そんな気持ちを浮かべながらも

そんな彼女だから、私といられるんだろうとも思う


仕方が無いから、駅前のカフェに入る

待ち合わせの広場を見渡せる様に

ガラス張りのカウンター席へ



「…ふう。」


少しだけ、身体が温まる

ホットのチャイティーなんて初めて飲んだけれど

案外、悪くはないものね
101: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/17(木) 01:49:48.63 ID:ZTmdkH6W0.net
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「絵里先輩。」


ぼーっと曇った空を見ていると

真横から、声がかかった


「…海未。」


「こんにちは。」


隣には、カプチーノを持った海未がいた


「…隣、いいですか?」


「断ると思う?」


「いいえ、思いません。」


そう告げて、席に座る
102: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/17(木) 01:50:24.65 ID:ZTmdkH6W0.net
今日はお出かけかしら?

…なんてぼんやり考えていると


「希先輩、遅いですね…」


「え?」


「あれ?」



「海未、今日は希に呼ばれたの?」


「ええ、絵里先輩と3人で出かけようって…」


「希ぃ…」


私は、そんな事一言も聞いて…


「…!」


机に置いた携帯のバイブが鳴る
103: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/17(木) 01:50:55.15 ID:ZTmdkH6W0.net
「希…?」


明るい画面に映る、一文


=============

後は、お2人で楽しんで~♪

          希
=============


「…やられた。」


素直に声が出る

海未にも、携帯の画面を見せる


苦笑しながらも海未は

希先輩って、こんな方なんですね、なんて笑ってた


「…それじゃあ、行きましょうか。」


「いいの?」


「ええ、暇でしたから。」


そう言って始まった

私達の、初めてのお出かけ
112: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:06:54.76 ID:17ozLSpV0.net
-----



…なんだけど

正直、遊びに行くのなんて

希とどこかに立ち寄ったりするだけで

あんまり、案がある訳じゃなくて…


「どうする?海未。」


…なんて、すぐに頼ってしまう


「うーん、そうですね…」


それでも、嫌な顔ひとつせずに

海未は、一緒になって考えてくれる


「とりあえず、歩いて決めましょうか。」


ただの女子高生らしく

駅前を、ぶらぶらと
113: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:07:32.22 ID:17ozLSpV0.net
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「海未は…よく、こういう所へ来るの?」


「ほとんど連れてこられて、ですけどね。」

「幼馴染みが、じっとしていられないタイプなので。」


「幼馴染み…か。」

「羨ましいわね。」


私には、ない物


「…いつも、騒がしいんですよ。」

「無邪気に、無鉄砲に走り回るから。」

「それに着いていく私達は、振り回されてばかりで…」


「嫌になった事は、無いの?」


「…どうなんでしょう。」
114: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:08:10.28 ID:17ozLSpV0.net
「確かに、振り回されてばかりで、疲れるときもあります。」

「…ですが。」

「不思議と、嫌になった事はないんですよね。」


「どうして?」


「…私にも、正直な所よく分かりません。」

「でも、そうして振り回された結果。」

「自分では出来なかった事や…」

「知らなかった事と出会えるんです。」


「…案外私も、じっとしていられないタイプなのかもしれませんね。」


また、あの笑顔

朗らかで、明るくて…そして、本当に楽しそうで


羨ましくて…切なくて

私の目は、つま先を向く
115: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:08:52.93 ID:17ozLSpV0.net
「ああ、すみません絵里先輩。」

「私の話ばかりで…」


「いいのよ?」

「それに、海未の事、もっと知りたいと思ってたから。」


「ありがとうございます。」

「先輩は…優しいですね。」


「えっ?」


その言葉に、ふと、足を止める


「…違うのですか?」


きょとん、とした顔の海未を見て

どこか、自分の反応こそおかしいのではないかとさえ思える


「きっと…違うと思う。」
116: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:09:36.45 ID:17ozLSpV0.net
…違うと思う

どこか、煮え切らない返事

それは、あの日の事があったから


あの日、変わらない日々を過ごしていたら

あの日、みんなに祝ってもらってなければ


きっと…私は自分の事をそうは思えなかった


だからこれは、一種の自己暗示だ

私は、優しくなんて無い

けど、もしかしたら…なんて

そんな『たられば』を口に出す


…きっと、私は弱いから



「でも、もしかしたら…なんてね。」
117: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:10:12.18 ID:17ozLSpV0.net
「絵里先輩は、優しいですよ。」

「私は…そう思います。」


さっきよりも、強い声で彼女は告げる


「海未…?」


「…実はですね。」

「私、恋愛映画が少し苦手なんです。」

「そして、得意料理は餃子とチャーハンです。」


「え…?」


「意外だと、思いますか?」


「まあ…そうね。」


「確かに、この事を知った皆には、驚かれます。」

「ですが…これを知って、先輩の目に私はどう映りますか?」


「え…?」
118: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:10:43.80 ID:17ozLSpV0.net
いきなり向けられる、なぞなぞの様な質問

海未は、一体何を言いたいのかしら



「…何が言いたいのかは、察せられないけれど。」

「でも…特に変わらないわ。」

「貴女は、海未だもの。」



「…私も、そう思います。」

「絵里先輩は…絵里先輩ですから。」


「…」


「私が言うのも烏滸がましいですが。」

「自分の評価は、決して自分が決める物ではないのですよ。」


「海未…」


「絵里先輩。」

「貴女は、優しいです。」

「少なくとも…私の目には、そう映ってますから。」
119: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:13:00.21 ID:17ozLSpV0.net
どこか上手く言えているようで

その逆、そんな事はないような


…案外、こういう話は苦手なのかも


「…」


それでも目の前の彼女は

私の事をちゃんと見てくれている

…そんな気がした



きっと彼女は、こちらが思っているよりも不器用で

思っていたよりも…いい子なんだと
120: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/18(金) 13:13:45.20 ID:17ozLSpV0.net
「…ありがとう、海未。」

「私にも…貴女は、優しく映ってるから。」



「ありがとう…ございます///」


「さ…さあ、おなかが空きましたね!」

「何処かに入りましょうか!」


真っ赤になった顔を見せない様に

彼女は、先陣を切って歩き出した


「自分が決める物じゃない…か。」


また、胸に刺がささる

ちくちくと…ずきずきと


「…ッ。」


振り切る様に、足を前に

さあ、何を食べようか…なんて

どうでも良い事に、思考を埋めさせて
125: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:48:16.74 ID:QSWEtNla0.net
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「…ごちそうさまでした。」


「本当、綺麗に食べるわね。」


動作ひとつひとつが凛、として

まるで、年下だなんて思えない振る舞い


「そんなことないですよ。」

そう言って、彼女はまた笑う

こうして幾度、彼女の笑顔を見て来た事か


「そろそろ、行きましょうか。」

「少し、失礼しますね。」


ああ、またトイレかな…なんて考えていると

机の上にあった伝票が無い事に気付く


「…やられた。」


まるでその顔は、いたずらっ子の様に
126: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:48:47.76 ID:QSWEtNla0.net
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「もう…」


「ふふっ、やりました。」


その顔は、どこか誇らしげで


「今日は、決めていましたから。」


なんて言う彼女の気遣いを無碍にするなんて出来なくて

いつかの、おおよそ倍のお礼をしてもらった


「ごちそう様、海未。」

「ありがとう。」


「どういたしまして…です。」


2人で、笑い合う


…ああ、やっぱり

貴女といると、等身大でいられるから
127: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:49:15.40 ID:QSWEtNla0.net
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「ねえ、海未。」

「こんなのはどうかしら?」


「ええ、似合ってますよ。」


「さっきから、それしか言わないじゃない。」


「本当に、そう思ってますから。」


「むぅ…」


なんてやりとりをしてみたりして

歪な始まりから一転

女子高生らしい、身の丈に合った行動


「それじゃ、あっちも見てみましょう。」


どこにでもありふれた時間が

早く---早く、過ぎる
128: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:50:56.07 ID:QSWEtNla0.net
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「ゲームセンター…」


「先輩は、あまりこういった所に来ないんですか?」


「…そうね。」

「生徒会長になって仕事も忙しくなったし。」

「あんまり、遊ぶ機会もなくて…」


そもそも、遊ぶような相手さえ多くはない


「今日は、海未がエスコートしてくれるんでしょう?」


大丈夫、今は目の前に海未がいる


「…!」


目についた物は

奥まった場所にある、あるひとつのゲーム

目を…そらした
129: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:51:30.72 ID:QSWEtNla0.net
「絵里先輩?」


めざとい、なんて言葉は失礼だけれど

海未は、よく気がつく

それは、きっと優しさからくるもので…



「ダンスゲーム…ですか。」


今は、正直後悔した



「海未は…やっぱり、ああいうのも得意なの?」


「どうなんでしょう?」

「幼馴染み達が良くやっているのを見る事はありますが…」

「私は正直、あまりした事が無いですね。」


「どうして?」


「…人が集まって来て、恥ずかしいですから。」
130: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:52:30.09 ID:QSWEtNla0.net
「海未らしい…の、かしら?」


『らしい』なんて、まだ知らない海未に対して失礼だけど

以前の学園祭の様子を見ると

決して、間違ってはいないらしい


「でも…そうですね。」

「今日は、何故か人も少ないですし…」

「絵里先輩がいますから、少しだけ勇気をもらえます。」


恥ずかし気も無くこんな事を言える海未は

…やっぱり、どこかおかしかったりする


「…やってみますか?」


「え、でも…」


ふと、それが頭をよぎる


「私も、一緒にやりますから。」


「…」




…そっと、その手を取った
131: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:53:54.02 ID:QSWEtNla0.net
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最後に身体を動かしたのは、いつだっけ?


勿論、体育の授業ではちゃんと参加しているし

お風呂上がりの、柔軟も欠かしてない


でも、いつだったか…


最後に---踊ったのは




耳に響く音楽と

流れてくるノーツに合わせて

私の足は、動く、動く


頭に浮かぶバラバラな日々が交錯し合っても

身体は、こんなにもしっかりと動く物なんだと…ある意味感心した


『パーフェクト!やったね!』


無機質な音声が、声を告げる

同時に上がる、歓声
132: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:54:26.06 ID:QSWEtNla0.net
「えっ…?」


まばらだった人影は

気がつけば、私達を取り囲んでいた


「なっ…こっ…~~~!」


海未の頬を染めるピンク色が

紅色へと変わっていく

…ああ、これはまずいわね


どこか他人事の様に感じながらも

私は、後ろからの刺さるような視線が気になった


「…」


入り口辺りで佇む、3人の少女達

どこかで、見た事あるような…
133: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:55:10.75 ID:QSWEtNla0.net
私の視線に気がつくと

…そっと、その場から離れていった


誰…だったかしら?



「とりあえず…」


今は、この状況をなんとかしないと


脱ぎ捨てた上着を手に取って

使い慣れた鞄を、肩に担ぐ


未だに放心状態の海未の手を取って

群衆を抜けて、外へと歩き出した
134: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:55:42.37 ID:QSWEtNla0.net
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「…すみません、落ち着きました。」


「よかった。」


少し離れた位置にある

公園のベンチに座って

…私は、飲み物を手渡す



「それにしても、あんなに人が集まるとはね。」


「ええ、意外でした。」

「でも…なんとなく、皆の気持ちも分かります。」


「…え?」


「絵里先輩のダンスは…とても、魅力的でしたから。」


「魅力的?」



たった…あれだけの事で?
135: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:56:16.86 ID:QSWEtNla0.net
「…凄いです、絵里先輩は。」


彼女の賞賛の言葉は

…どこか、自分に向けられた物ではない気さえ、して



「何か、やっているんですか?」


「え?」


「動きが、素人のそれとは明らかに違いましたので。」

「てっきり、スポーツか何かでもやっているのかと…」


「…」

「昔…ね。」


暗くなってきた、空をあおぐ


「今は…」


言いかけた海未が、口をつぐむ


本当にこの子は、察しがいい

その気持ちがどこか…私を、狂わせるぐらいに
136: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:57:14.64 ID:QSWEtNla0.net
「今は…何も、やらないんですか?」


「…ええ。」


「勿体…ないと思います。」

「それだけの素質があるなら…」



分かってる


分かってる


その気持ちは、痛い程、嬉しい


それが、本心からの言葉だと分かっているからこそ

私の拳に、力が入る


『貴女みたいな人とは違う』


喉を焼尽そうとするその言葉を

噛み砕いて、飲み込んで
137: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:57:44.62 ID:QSWEtNla0.net
「あの、絵里せんぱ…」


「さて、今日は帰りましょうか♪」


「…そうですね。」


強引に作った空気を読んで

彼女は、いつもと似た笑顔を作る


分かってる


…今のそれは、似て非なる物だと


分かってる


…そうしなければならない程

私を包む空気が---違っている事に



「今日はありがとう、海未。」


「私も…です、絵里先輩。」
138: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/19(土) 22:59:10.28 ID:QSWEtNla0.net
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海未と別れ、日が落ちきった逢魔が時

私は変わらず、空を見上げる


「今は…か。」


私は、何を勘違いしていたんだろう

…いや、もしかすると、逃げていただけかも


その方が楽だから


そう考えてしまえる程、居心地が良くて

そして…笑顔になれたから


ともだちと言ったあの時の私は

貴女の放つ矢に魅入った私は

…果たして、どちらの『私』なのか



噛み合ったと思った歯車は

かつての日々の代用品で

徐々に…それが軋む音を告げる


気付かなかった小さな亀裂から

少しずつ、少しずつ…



気付いた時には---もう
145: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:15:56.64 ID:g71Yl+Jp0.net
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「どうやった?この間のデートは。」


「…ええ、楽しかったわよ?」

「誰かさんのおかげでね。」


資料をまとめる手を動かしながら

私は希を見ずに、答える


「なら、よかった。」


隣で、彼女が微笑むのがわかる


「偶然、前の日に海未ちゃんと会ってな?」

「お喋りしてたら、次の日は暇だ、って言うから。」


こっちは、いきなり前日に連絡が来て吃驚したのだけれど
146: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:16:27.14 ID:g71Yl+Jp0.net
「それにしても…今日はどうしたんやろ?」


そっと、希が手を止める


「定例会議なら、先月やったばかりなのに…」


「真意は分からないけれど…」

「理事長の事だから、何か意図があるはずよ。」


あの人は、本当に頭がいい

だからこそ、理解する


…何かが、おかしい


「何にせよ、年越しで大忙しな時にしなくても…」


そう言いながらも、希も分かってる

何だか分からない、焦りが加速する
147: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:17:28.07 ID:g71Yl+Jp0.net
「とにかく、急ぎましょう。」


不安を振り切る様に

資料を持って、生徒会室に鍵をかける


「…えりち。」


「行きましょう。」


第2会議室の方に向き直って

そっと、一歩を踏み出す


理事長は、本当に頭がいい

いつも何かを考えていて、必要な事は会議で話す

私達の時間を、奪わない様に


イレギュラーなんて、存在しなかった---今までは


何処かで聞いた事のある噂

噂であってほしいと…願った
148: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:17:54.38 ID:g71Yl+Jp0.net
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「…失礼します。」

「失礼します。」


会議室の空気は、どこか重たかった

学年主任の方々が、こちらを見る


何かしてしまったのだろうか


そんな不安は、彼らの視線に寄って打ち消された

…何処か哀れみを含んだ、その目に


「遅くなって申し訳ございません。」


「いいえ、大丈夫よ。」

「こちらこそ、今日は急に集まってもらってごめんなさいね。」


「いえ…」


理事長に促されて、席に着く
149: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:19:32.01 ID:g71Yl+Jp0.net
「それでは、会議を始めます。」

「まずは、急であるにも関わらず…」

「こうして皆さんに集まって頂き、本当にありがとうございます。」


理事長が、軽く頭を下げる


「…本来ならば。」

「これは職員会議でのみ共有すべき事だとは思いますが。」

「今日は、絢瀬さんと東條さんにも、参加して頂きたいと思いました。」

「この場を借りて、報告させて頂きます。」


彼女の瞳は、どこか優し気で

それでも、呼ばれた理由が掴めず、困惑の表情を浮かべる


「議題について、ですが…」


どくん、と心臓が高鳴る音が聞こえる

ポンプから押し出された血液が

体中を駆け巡る


…まるで、危機が迫っている時のように
150: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:20:36.82 ID:g71Yl+Jp0.net
「…音ノ木坂学院は。」

「来年度の新入生の入学をもって…」


…それ以上、聞きたく無かった

途中で、気付いてしまう


生徒の中に、気付く人がいて

そして…それが噂になったように


その噂が、実は本当の事でした---なんて



「廃校になる事が、決定しました。」



目の前が真っ白になる…なんて表現を聞く事があるけれど

その言葉は、どこか語弊がある




だって…今、目の前に光は無いのだから
151: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:21:06.88 ID:g71Yl+Jp0.net
「理由を…教えてもらえますか?」


私の代わりに、希が口を開く


「…」


「我が校は年々、生徒数の減少に悩まされてきました。」

「歴史のある…国立の高校として、出来る事はやって来たつもりです。」


「それでも、最近の傾向としては。」

「学区外の高校への受験希望者の増加。」

「…そして、UTX高校の設立。」


「色々な要因が重なり合った結果が、現状に繋がっています。」


「その現状を鑑みた結果。」

「そして、夏期の中学生一斉模試の情報を考慮した結果。」

「来年度の入学希望者は、およそ一クラスにとどまる事となりました。」



「そんな…」
152: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:21:33.43 ID:g71Yl+Jp0.net
私達の絶望的な---表情を察してか

理事長は、話を続ける


「…勘違いしないでほしいのは。」

「この決定は、あくまでも現時点での状況を鑑みて、という事です。」


「端的に言うならば…」

「生徒数が増えさえすれば、解決するという事。」

「我々教職員一同は、まだ諦めてなどいないという事。」


「その事は…理解してくれるかしら?」



「…はい。」


「私が今日、貴女達にも話したのは。」

「貴女達の今までの行動を、見て来たから。」

「それに…」


彼女は、言い淀む


「とにかく、知っておいてほしかったの。」

「貴女達には…ね?」
153: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:22:05.71 ID:g71Yl+Jp0.net
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「…失礼しました。」


あの後は、通例通りの会議を終えて

これからの方針を、決めて

あとは…何を話しただろうか


気がつけば会議室をでて

生徒会室に、戻って来ていた


がちゃり、と鍵の開いたドアの前で

掛けた手に、力が入るのが分かった


「…ッ。」


「えりち。」


「希…?」


「…」

「パフェ、食べにいかん?」


優しい顔の、彼女
154: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/20(日) 13:22:35.14 ID:g71Yl+Jp0.net
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「いただきます♪」


「…いただきます。」


無理矢理に、連れてこられて

無理矢理に、パフェを頼まれる


そびえ立つような大きな生クリームに

そっと、スプーンを突き刺す


「甘…」


口の中に、甘ったるい香りと白いクリームが広がる

濃い味のクリームは、水分を求めて

横に添えられたフルーツと一緒に、喉に吸い込まれる


「…えりち、クリームついてる。」


そっと、それを指で取って咥える、希


笑顔な希とは対照的に

無言で、目の前のタワーを喉に押し込む



…あの日も、こうして食べたっけ
166: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:35:09.97 ID:bgCoYnSE0.net
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「パフェ、食べにいかない?」


そう言われたのは、今年の春だったか

進級して、クラスが変わって

…わずか、2日


桜が散り始める少し前に

私と彼女は、出会った…らしい



「…え?」


らしい、とどこか他人事なのは

その出会いはあまりにも唐突すぎたから


「貴女…誰?」


あくまでもまともな、率直な意見だった
167: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:35:38.49 ID:bgCoYnSE0.net
「あ…ごめんなさい。」


咄嗟に出た言葉を、自ら遮る


「…まあまあ、行こっ♪」


そう言って私の手を引いて

彼女は、鞄を持って駆け出した


「ねえ、ちょっと…!」


「いいから、いいから♪」


どんな思いで、あの時走ったのかなんて

もう覚えてすらいないけれど

あの時の笑顔は、今でも胸に残ってる
168: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:36:08.04 ID:bgCoYnSE0.net
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「…で、一体どういう事?」


この時の私は、ただただ帰りたかったんだと思う

ましてや、知らない顔に連れられて

たどり着いたのは、駅前のカフェ

そして目の前には特大のタワー


ただ、かかっていたチョコソースには興味をひかれた


「どうって…」

「パフェ食べにいこ、って誘ったよ?」


「そうじゃなくて…」


どこか不思議そうな顔をして彼女は言う

どうして、私の方が間違ってるようなのかしら
169: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:36:34.33 ID:bgCoYnSE0.net
「貴女は…」


「絢瀬絵里さん、だよね?」


こくん、と喉をならして

紅茶で一息ついた彼女は、言う


「どうして…」


後から考えれば、当たり前の事だったけれど


「自己紹介、してたでしょ?」


彼女の言葉で、クラスメイトである事を理解した


「ともだちに、なろう!」


えへへ、と差し出した小さな手を

取るのは、まだ、もう少し経ってから
170: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:37:05.73 ID:bgCoYnSE0.net
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「…はあ。」


ようやく分かった

きっと彼女には、振り回される事になるんだろう


一週間と経たずに

また、目の前に置かれる大きなそれを見つめる


「いただきます♪」


「…頂きます。」


ただ、あまりこういう所に出入りする機会は無かったから

そこにだけは、感謝をしていた


「どうして?」


こんなに私に、構うのか
171: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:37:35.01 ID:bgCoYnSE0.net
出会ってから、たった一週間

私は、一人でいる事が少なく…いえ、ほぼ無くなった


気がつけば、隣にいて

振り向けば、そこにある笑顔


「憧れ…だから。」


だからこそ、ドキッとした

目の前にいるのは、本当にさっきまでの彼女なのか


「…で、生徒会長、立候補するの?」


そこにさっきまでの空気はなくて

いつもの様に、彼女は笑う


「…どうして、知ってるのよ。」


「ふふふ♪」


また一口、スプーンを咥える
172: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:37:59.30 ID:bgCoYnSE0.net
「…手伝おうか?」


「まだ、決定事項じゃないんだけど。」


「でも、もうほとんど決定事項でしょ?」


「…呆れた。」


決して、その態度にではなくて


「きっと、良い学校に出来るよ。」

「貴女と…私なら。」


その真意は、到底理解できる物ではなかったけれど

どこかで、決意が固まった気がした


「…って事で、改めてよろしく♪」


「ちょっと、とうじょ…!」


「ウチの事は、希って呼んで。」


「…な?えりち。」
173: 名無しで叶える物語(玉音放送)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:38:30.37 ID:bgCoYnSE0.net
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「生徒会長就任おめでとう、えりち♪」


「…他人事みたいだけど、貴女も副会長なのよ?」


「ウチはほら、名前だけだから♪」


「…もう。」


なんて言っているけれど

彼女の功績は、目に見えないものばかりで


広報活動や、公開演説の段取りを含めて

何度も助けられた事は、言うまでもない


「さて、今日も食べよっか♪」


もはや常連と言っても過言ではない

季節に合わせたパフェを口に運んで

クーラーの風を、肌に感じていた
174: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ (ワッチョイ 7140-qd5c) 2015/12/23(水) 21:39:13.16 ID:bgCoYnSE0.net
-----


それから幾度となく、この場所を訪れた

問題が起こる度、二人で遅くまで活動して

過ぎ去れば、ここへきてパフェを食べて

…また、新たな取り組みに


何かある度に、希は私をここへ連れてくる

その何かは…いつも

私一人では気付けない事で



「…美味しい?えりち。」


にこにこと、いつもの笑顔に対して


「ええ、そうね。」


少しぶっきらぼうに答える


「…えりちは、どうしたい?」


この質問も、いつもと変わらない

いつも彼女は優しくて

…そして、答えをくれないから
216: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:32:01.14 ID:nI9lPxV8.net
「そんな事、決まってるわ。」


そう…伝えたかった

いいえ、伝えるべきだった


あの時も貴女は同じ様に笑うばかりで

そして、私の気持ちを分かっている


いつだって貴女は分かっていて

そして、間違った時はヒントをくれる


そんな日常が、その時にはあって

そして、その日も同じだと思っていたから


あの時告げなかった自分に

今は、後悔しか残っていなかった


ほつれ始めた糸が、元通りにならないように---
217: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:33:00.84 ID:nI9lPxV8.net
-----



「…南さんのとこ?」


「…ええ。」


去年と同じ桜を見て

あれから一年が経ったと実感する


私は、何か変われたのだろうか


「まずは、知らないと。」


あまりにも無知な私には

もう、これしか無い様に思えた


「でも…」


何か言いたそうな、希

その顔に、目は向けなかった
218: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:33:35.22 ID:nI9lPxV8.net
-----



「廃校」


その二文字が現実となって生徒に公表されたのは

通算三度目の桜を見た時だった

残り四ヶ月の努力も虚しく

ただ、静かにそれは張り出された


「…ッ。」


学内アンケート

近隣中学への広報活動


一学生の私が努力した所で

この結果は目に見えていた


「私は…」


それでも、諦め悪く藻掻いてみようと思ったのは…
219: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:34:09.10 ID:nI9lPxV8.net
-----


「…!」


「…えりち?」


「いいえ、何でも無いわ。」


一瞬、止めた足をまた動かして

彼女の---彼女達の元に向かう


「…ねえ。」


「「!!」」


「ちょっといい?」


「「はっ、はい。」」


突然の最上級生の襲来に

驚く顔は無理も無いのかしら


「え…」

「だ、誰…?」


その子の声を塞ぐ様に

サイドテールの彼女が声を発した
220: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:34:48.16 ID:nI9lPxV8.net
「…生徒会長ですよ。」


「…南さん。」

「はいっ!」

あくまで、目的は彼女


「貴女確か、理事長の娘よね?」


「は、はい。」


「理事長、何か言ってなかった?」


「いえ…私も、今日しったので…」


「…そう、ありがとう。」


そう言って私は、踵を返した


「あの…!」

「…?」


「本当に学校、無くなっちゃうんですか?」


その手にパンを握りしめて

サイドテールの彼女は告げる


「…貴女達が気にする事じゃないわ。」


何か言いたげなその瞳は

あの時、何を思ったのだろうか---
221: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:35:12.85 ID:nI9lPxV8.net
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「…海未ちゃん、いたね。」


ぽつりと、独り言の様に呟く


「あの子達が、海未ちゃんの友達なんやね。」


「…希。」

足を、止める


「気を使わなくても、大丈夫よ。」


「…そっか。」


あの日、デートと呼ばれるような事をした日から

一度も、会ってはいなかった

希も、それに気付いたからこそ


…それが、彼女の優しさだから


呼吸を整えて、ノックをする

トン、トン、トン


よし…切り替えた
222: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:35:58.57 ID:nI9lPxV8.net
「失礼します。」


「…あら、絢瀬さん。」

「東條さんも、いらっしゃい。」


「…理事長、お話があります。」


「…どうぞ。」


あくまで優しく、諭す様に

この人もまた、何についてなのか悟っている


「入学希望者が定員を下回った場合。」

「廃校という決定をせざるを得ない、とありました。」


「つまり定員を上回れば…」


「…確かに。」

「ですが、そう簡単に生徒が集まらないからこそ、この結果なんです。」

「何か良い方法があるのですか?」
223: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:36:32.55 ID:nI9lPxV8.net
「思いつきで行動しても、簡単に状況は変わりません。」

「生徒会は、今いる生徒の学園生活をより良くする事を考えるべきです。」


「でも、このまま何もしない訳には…っ!!」

「えりち!」


希の声で、我に返る

切り替えた…はず、だったのに


「…ありがとう、絢瀬さん。」

「私は、私の決定が間違っているとは、思いません。」

「そしてそれは、貴女にも言える事です。」


「あの時、貴女を会議の場に呼んだのは。」

「貴女が、この学園の事を本当に考えて動いていてくれたから。」

「そしてそれは、会議の後も、本年度が始まるまで…ずっと。」

「貴女は、学校のために努力してくれました。」
224: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:37:08.24 ID:nI9lPxV8.net
「それは…!」


「貴女はもう、解放されてもいいと思うの。」

「残りの学園生活を、謳歌してほしい。」

「貴女を生徒会長に選んで、本当によかったと思っているの。」

「それは今までの貴女の、努力を見て来たから。」


「…だからこそ、一人の子を持つ親として。」

「最後の1年間ぐらい、笑っていてほしいのよ。」


「…ッ。」


大人は、ずるい

意地になって食らいつこうとする私を

こんなにも優しく、無気力にする


…分かっていた

何も変えられない事は

…分かりたくなかった

そんな力も無い、自分を


「…失礼しました。」


ただ、唇を噛み締めて---
225: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:37:33.21 ID:nI9lPxV8.net
-----


「先…戻ってるな?」


希はそう告げ、生徒会室へと戻る

私は、校内をぶらついた



「うわぁっ!?」


連絡通路を歩いていると

花壇の方から声が聞こえた

それは、どこかで聞いたような…


「あの子…」


確か、今日パンを握りしめていた…


立ち上がる彼女は、おぼつかない足取りでとんだり跳ねたり

何をやっているのか、一瞬分からなかった程
226: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:38:02.58 ID:nI9lPxV8.net
「…ダンス?」


いや、まさか

あんなステップで?


…ほら、また転んだ


バランスも、むちゃくちゃ

足首の動きだって、固い


まずは体幹を鍛えないと…


「…ッ。」


はっと、気付く

どうして私は、こんな事を考えているのか


「…くだらない。」

吐き捨てる様に口に出して

その場を、後に…
227: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:38:37.19 ID:nI9lPxV8.net
する、つもりだった

私の足を止めたのは


かつて見た彼女が、手を差し伸べたから


「…」


その姿から目をそらす様に

私は、もう一度足を動かした


おかえり、と告げる希をよそに

生徒会室の席に腰をかける


「…なにかあった?」


「…別に。」


そう言って、机につっぷす


何も無い

きっと、友達だから


なぜか宿った焦燥感を消そうと頭を振ったとき

扉をノックする音が聞こえた
228: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:39:26.69 ID:nI9lPxV8.net
「…失礼します。」


入って来たのは、さっきまでの3人

その艶髪の彼女と、目が…合う


「生徒会長、これを。」


「…これは?」


「アイドル部、設立の申請書です!」

屈託の無い笑顔で、彼女は口を開く


「それは見れば分かります。」


「では、認めて頂けますね?」


「いいえ。」


「部活は同好会でも、最低5人は必要なの。」


「ですが、校内には部員が5人以下の所も沢山あるって聞いてます。」
229: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:40:18.40 ID:nI9lPxV8.net
「設立した時は、みんな5人以上いたはずよ。」


「…あと2人やね。」


さっきまで黙っていた希が、そう告げる


「あと2人…」

「分かりました。」


「いこ。」


「…待ちなさい。」

ただ、聞いておきたかった


「どうしてこの次期にアイドル部を始めるの?」

「貴女達2年生でしょう?」


「廃校をなんとか阻止したくて!」

「スクールアイドルって、今すごい人気があるんですよ?」

「だから…!」
230: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:41:22.01 ID:nI9lPxV8.net
「だったら…」

「例え5人集めて来ても、認める訳にはいかないわね。」


「えっ!?どうして…」


目の前の彼女がかつての姿と重なる気がしたから


「部活は生徒を集める為にやる物じゃない。」

「思いつきで行動した所で…」

「状況は変えられないわ。」


「「…」」


目の前の申請書を、かざす


「変な事考えてないで…」

「残り2年自分の為に何をするべきか、よく考えるべきよ。」


「せいとか…!」

「分かったら、さっさと帰りなさい。」


海未の言葉を遮る様に言葉をかぶせる


「…失礼しました。」
231: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/01/31(日) 00:42:27.95 ID:nI9lPxV8.net
-----



「…さっきの。」

「誰かさんに聞かせたい台詞やったなあ…」


「いちいち一言多いのよ…希は。」


「ふふっ♪」

「それが副会長の仕事やし…♪」


名前だけと言っておいて、こんな時だけ…なんて

少し、拗ねてみる


「海未ちゃん、何か言いたそうやったけど…?」


「別に、彼女を特別扱いするつもりは無いわ。」

「ただ…」


「ただ?」


…勿体ない

言葉には出さずに…ただ、心の中で呟く

あの懐かしい、声が響く


希の仕事がそうなら

私の仕事は、きっと…


二つに分かれ始めた糸は、その速度を上げて---
241: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:38:12.55 ID:DWPUBVlC.net
-----


「失礼しますっ!」


朝の雰囲気を纏わずに

彼女は勢い良く扉を開ける


「生徒会長、これを!」


「…朝から何?」


「講堂の使用許可を頂きたいと思いまして。」


「…部活動に関係なく。」

「生徒は自由に講堂を使用できると、生徒手帳に書いてありましたので。」


「新入生歓迎会の放課後やなあ。」


申請書に目を通して、希が答える


「何をするつもり?」


嫌な予感…しかしない


「ライブです!」


---ほら
242: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:38:55.30 ID:DWPUBVlC.net
「3人でスクールアイドルを結成したので。」

「その初ライブを講堂でやる事にしたんです。」


溌剌と答える彼女の後ろで

残りの2人の顔には、不安の色


…そこまでして、どうして彼女といるのか


「…できるの?そんな状態で。」


こんな言葉しか、出ては来なかった


「だっ、大丈夫です!」


「新入生歓迎会は遊びではないのよ?」


今でさえこの状況、そして昨日の話

こんな企画を、押し進める意義なんて…


「3人は講堂の使用許可を取りに来たんやろ?」

「部活でもないのに、生徒会が内容までとやかく言う権利はないはずや。」


「それは…」


確かに、希の言う通りかもしれない

でも、だからといってこんな事で何かが生まれるとも思えない
243: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:39:27.76 ID:DWPUBVlC.net
-----


「…なぜあの子達の味方をするの?」


「何度やっても、そうしろって言うんや。」

「カードが…ウチにそう告げるんや。」


春風に舞う、希のタロット


「カード…ね。」


足下に落ちた、1枚を拾い上げる


「…それで、貴女の気持ちは?」


そっと、それを希に向ける


「えりちの、そのカードと一緒。」


そう言ってまた、外に目を向ける



THE WHEEL OF FORTUNE…運命の輪


意味は、確か---
244: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:40:25.34 ID:DWPUBVlC.net
-----



「…気になる?」


「えっ…?」


「弓道場、見とったよ。」


「…別に。」


そう言って、また足を踏み出す

おそらく、そこにまだ姿はあるんだろう


矢を放つ、弓也の音

見なくても分かる

きっと…これは彼女だと


「えりちは…どうして、反対するん?」


「え…」


「何か、意固地になってるんと違う?」


「私は…」
245: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:41:04.53 ID:DWPUBVlC.net
-----



「ふぁ…」


小さなあくびをして、生徒会室に入る

机の上の書類を見て、少し苦笑した


今日は希がバイトだから、頑張らなきゃね


そう思って席に付き、書類の山に手を伸ばす


淡々と、澹々と

毎日のルーティンの様にそれを片付ける


頭の中で、リズムを刻む

流れるのは、クラシック


流行の曲は、どれも同じに思えるから


「…こんな所かしら。」


一息ついて、パソコンをネットに繋げる

「今日の記事は…」


ニュースサイトを検索していると

小さな、それが目に止まる
246: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:41:38.45 ID:DWPUBVlC.net
「…」


何の気もなしに、ただ漠然と

そのリンクをクリックしてみる


特設ページに現れる、色鮮やかな文字達


そこに、NEWの文字を見つけた

音ノ木坂学院という、見慣れた文字の隣に


「…」


ただの、気まぐれ

専用ページに移ると、ランク外と書かれていた


「どうして…か。」


電源を切って、パタンと閉じる

少し、早起きしすぎたかしら


…そっと、軽く、目を閉じた
247: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:42:01.37 ID:DWPUBVlC.net
-----



「ちょっと…いいかしら。」


彼女達がどこで活動してるのか

希が教えてくれた

本当に…どこから知ってくるんだか


「…スクールアイドルが今まで無かったこの学校で。」

「やってみたけどやっぱり駄目でした、となったら。」

「みんなどう思うかしら…?」


「それは…」


「私もこの学校が無くなってほしくない。」

「本当にそう思っているから…」

「簡単に考えてほしくないの。」


「「…」」


「別に…貴女達が、憎い訳じゃない。」


---本当に?
248: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:42:38.28 ID:DWPUBVlC.net
-----



「絵里っ。」


「あ…」


ある日の放課後、校門の辺りで声をかけられる

振り向くと、玲奈が駆け寄って来た


「久しぶりだね。」


「…そうね。」


「どう?調子は。」


「まあまあ…かしら。」


「廃校かあ…何だか、実感湧かないや。」


そう言って、気だるそうに伸びをする


「生徒会でも、頑張ってるんでしょ?」

「色々、話は聞いてるよ。」
249: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:43:06.58 ID:DWPUBVlC.net
「でも…」


結果、どれも上手くいかなくて

砂をかむ、日々が続いている


「最近さ、海未も部活に来る事が減ってさあ…」

「今の内に追い抜こう、って、みんな頑張ってるんだよね。」


微笑みながら、彼女は告げる


「最初は何事かと思ったけど…」

「スクールアイドル、やるんだって?」

「応援してあげなきゃね♪」


「あ、えと…」


彼女のその笑顔に、言葉に、鼓動が跳ねた


「…絵里?」


「…何でもない。」
250: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:43:43.59 ID:DWPUBVlC.net
「しっかし、人一倍恥ずかしがり屋の海未がねー。」

「一体何があったんだか…」


「…」


「絵里の事、気にしてたよ?」


「…え?」


「海未が…さ。」

「何かあったのか、って。」


「そう…」


「ねえ、玲奈。」

「ひとつ、聞いても良い?」


「ん?いいよ?」



「諦めようとか…思った事、ない?」
251: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:44:11.14 ID:DWPUBVlC.net
「弓道の事?」


「…」


私は、何を聞いてるんだろう


「…そりゃあ、今まで何度も思ってきたよ。」


「え…?」


「私だって、ずっと努力してきたし…」

「それでも、やっぱり私より凄い人はいくらでもいて。」

「才能無いんだ、って思った事もある。」


「…でもね。」

「やっぱり、好きだから。」


「…!」


「好きな事だから、諦められないんだよ、きっと。」
252: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:44:41.18 ID:DWPUBVlC.net
「好きでも、諦めてしまったら…?」


「…」

「絵里が、何について悩んでるかは分からないけどさ。」


「諦めちゃったのなら、また違う何かを探せばいいんじゃ無いかな?」


「違う、何か…」


「…好きなんでしょ?」

「諦めても、忘れられないくらい好きなら。」

「きっと、似た何かが必ずあるよ。」


「…」


「私は諦められないから、絵里の気持ちは分からないけど…」

「それでも、絵里にはきっと、絵里だけにしか無いものがあるんだよ。」
253: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:45:10.52 ID:DWPUBVlC.net
-----



「えーりちっ♪」


「希…」


「奇遇やね、こんなとこで会うなんて。」


「ええ…バイト帰り?」


「ま、そんなとこ♪」


「…」


「な、えりち。」


「…?」


「今日も、パフェ食べて帰ろっか。」


「また…?」


「ふふっ…なんとなく、えりちも食べたいんじゃないか、って♪」


「希が食べたいだけでしょ?」


「ほら、行くよっ!」


「…はいはい。」
254: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/01(月) 13:45:43.13 ID:DWPUBVlC.net
-----


「帰るわよ、希。」


いつもの業務を終えて、帰り仕度をする


「はーい。」


そう言いつつも、携帯とにらめっこをする、希


「さ、いこっか♪」


一瞬笑顔になって、携帯をポケットにしまう


「…何かあったの?」


「ま、そんなとこやね♪」




帰って何気なくつけたパソコンは

彼女達にある票が入った事を私に知らせた

てっきり、希が入れたと思ったそれだったけれど…


「違う、何か…か。」


歪なその輪は、軋んだ音を響かせつつも、廻り始める---
259: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:32:30.93 ID:RrTrLwjQ.net
-----



「希、用意できた?」


「うん、ばっちり♪」



講堂での最終確認を終えて

もうすぐ、時間が来る


先生達の誘導に従って

少ないながらも、新入生達が講堂に


「緊張しとる?」


「…まさか。」


今まで、何度だってやって来た事

これが、私の仕事だから


壇上に立って、生徒を見渡す

私が、彼女達に出来る事

私が、やらなければならない事


生徒会長として

でなければ、ここにいる意味なんて…
260: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:33:04.06 ID:RrTrLwjQ.net
-----



進行はつつがなく進んで

各部活のPRタイムに

刻々と流れる時間の中で

生徒達に、アピールをする


「…次は、弓道部です。」


「…!」


マイクに向かう前の、ほんの一瞬

玲奈と、目が合った気がした



「…新入生のみなさん、はじめまして。」

「弓道部の部長です。」

「本当は、色々誘い文句があったんだけど…」

「あまりに緊張して、忘れちゃいました!」


彼女の言葉に、少しの笑い声が聞こえる
261: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:33:40.45 ID:RrTrLwjQ.net
「えー…ですので。」

「ここで私が言える事は、そんなに無いんです。」


「そんなに大きくない部で、部員も多くはありません。」

「弓道というと、凄く難しいイメージがあるかもしれません。」

「私も、部長をやらせてもらってはいるけど、成績では後輩に負けちゃったりしてます。」


玲奈が、恥ずかしそうに笑う


「それでも、今まで続けてこられたのは。」

「私が好きな、『何か』に出会う事が出来たからです。」


心臓が、高鳴る


「単に格好いいから、なんて理由で始めた弓道で。」

「練習はしんどいし、指は痛いしで、正直辛かったです。」

「でも、引けなかった弓が引ける様になって。」

「飛ばなかった矢が的に当たった…あの瞬間が、忘れられなくて。」


「たったそれだけの事で、あの時私の世界は変わりました。」
262: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:34:20.27 ID:RrTrLwjQ.net
「正直言って、私に弓道の才能はありません。」

「好きだからここにいる。」

「ただ、それだけなんです。」


「部員のみんなも、ほとんどが未経験者です。」

「それでも、そんな『何か』が好きだから、一緒に頑張っています。」


「きっとそれは、弓道じゃなくてもいいんです。」

「おしゃべりが好き、道着が好き、理由なんて、いくらでもあると思います。」


「ぶっちゃけちゃうと、練習は結構しんどいです!」

「足は冷たいし、指は力が入らなくなったりします!」


「…それでも、貴女が好きな『何か』を、私達と一緒に見つけてみませんか?」


「ありがとうございました。」



一瞬の、間

続いておこる、まばらな拍手


…一体、何人にこの言葉は届いたのだろうか
263: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:34:53.46 ID:RrTrLwjQ.net
「…えへへ、忘れちゃった♪」


舞台袖で、下を出す玲奈

さっきまでの彼女とは、まるで正反対で


「…私は、弓道が好き。」

「でも、それと同じくらい。」

「絵里や、みんなと笑ってるのが好きなんだよ。」


「玲奈…」


「きっとさ、諦めたつもりでも。」

「本心は、諦めてないんだよ。」


「…本当に、大好きなら。」

「後悔しちゃ、駄目なんじゃないかな?」


「…」


「さっ、終わった終わった♪」

「何人来るか分かんないけど、準備しなきゃねー。」


その姿を見送って、ほんの少し、想いを馳せた
264: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:35:20.03 ID:RrTrLwjQ.net
-----


「えりちっ。」


「…!」


「ほら、もう終わるよ?」

「そろそろ準備しないと…」


「え、ええ、分かってる。」

「ありがとう、希。」


「りんごジュースな?」


「…もう。」


ぱしっ、と軽く頬を叩いて壇上に上がる



「これで、新入生歓迎会を終わります。」

「各部活とも、体験入部を行っているので…」

「興味があったら、どんどん覗いてみて下さい。」



…書類を、片付けないと
265: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:35:47.93 ID:RrTrLwjQ.net
-----



「…希?」


「ん?どうしたん?」


「これは一体どういう事?」


「…いやあ、何だか今日は頭が冴えてな?」

「すらすらーっと、手が動いてくれたんよ♪」


「…もう。」


そこにあったはずの書類は、全ての作業が終わっていて

積み上げられていた冊子は、元通りの位置に


やる事が無くなって、ふと、窓の外を眺める

瞳に映るのは、さっきまでいた大きな箱


「…気になる?」


「希…」


「ウチは帰ろうかな。」


そう告げて、生徒会室を後にした
266: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:36:37.41 ID:RrTrLwjQ.net
-----



「…失礼します。」


「はい…っ!?」


「ここで、見させてもらってもいいかしら?」


「は、はいっ!」


生徒会権限…なんて物じゃないけれど

全体を見られるのがここしかなかった

それに、気付かれたら面倒そう

下の映写室に入る時も、十分注意したから



「…開演は?」


「もう…間もなくです。」


とても静かな観客席に、目を落とした
267: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:37:05.95 ID:RrTrLwjQ.net
-----



アナウンスを終え、幕が開く

目に入る、可愛らしい衣装


対比する、暗い客席


「…やっぱり。」


そこに座ってた子も、出て行った


「…」


どれだけ努力しても、叶わない事がほとんどで

越えられない壁はいくらでもある


今だって、そう

好きなだけじゃ、到底続けられない壁を目の当たりにして


彼女達は今、何を思うのか
268: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:37:32.23 ID:RrTrLwjQ.net
いい気味だ、なんて思う訳じゃない

でも、その泣きそうな顔を見て

いつかの光景を思い出す


「…ここまでね。」


荷物を片付けて帰ろうとすると

一人の生徒が、駆け込んで来た


正直、単なる冷やかしかとさえ思った

だけど、その姿はあまりにも…


気付いた時には、

さっきまでの悲壮感は彼女たちから微塵も感じられなかった


「…っ!」


さっきの子が、飛び込んでくる

2、3合図をして


…曲が、流れる
269: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:38:09.58 ID:RrTrLwjQ.net
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「…」


この曲は、一体どうしたんだろう


あの、衣装は?


振り付けは?



拙いそれを見ながらも

ただ、笑顔で踊る彼女達


静まり返っていた講堂は

彼女達の歌で、溢れていた


いつの間にか増えていた、観客とは言えない程度の人数

歌い終わった彼女たちに

まばらな、拍手が届く


「…潮時ね。」
270: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:38:54.79 ID:RrTrLwjQ.net
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止んだ拍手と、向けられる視線

これが映画なら、最高のヒールになれるのかもしれない


「生徒会長…」


「どうするつもり?」


そんな事、分かりきっているはずなのに

返ってきた答えは、予想を大きく外れていた


「…続けます!」


「何故?」

「これ以上続けても、意味があると思えないけど。」


「やりたいからです!」


「今…私、もっともっと歌いたい。」

「踊りたいって思ってます。」


「きっと海未ちゃんも、ことりちゃんも…」
271: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:39:27.44 ID:RrTrLwjQ.net
「こんな気持ち、初めてなんです!」

「やってよかったって、本気で思えたんです!」


「…今はこの気持ちを信じたい。」

「このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない。」

「応援なんて、全然もらえないかもしれない。」


「でも、一生懸命頑張って…」

「私達がとにかく頑張って届けたい…!」

「今、私達がここにいる、この想いを…!」


「いつか…いつか私達、必ず…」

「ここを満員にして見せます!!」


そう叫ぶ、彼女の瞳に

後悔なんて、感じられなかった


「どうし…」

言葉を、飲み込んで


「…貴女達も?」
272: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:40:40.16 ID:RrTrLwjQ.net
「「…!」」


「貴女達は、どう思うの?」


「…」


「…海未ちゃん?」


「評価は、決して自分が決める物ではありません。」

「私が今、ここにこうして立っているのは。」

「ここにいる2人がいてくれた事と…」

「私自身が、ここに立とうと決めたからです。」



「…そう。」


下った階段を、上り始める


「生徒会長!」


彼女の言葉に、反応はしなかった

ただ、鞄の中に1枚のディスクを忍ばせて…
273: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 02:42:04.13 ID:RrTrLwjQ.net
「…帰るわよ、希。」


「…バレてたん?」


校門の前で、風に揺れる長い髪


「希が仕事に真剣になるなんて、あり得ないもの。」


「うわ、酷いなあえりち。」


「本当の事でしょう?」


「ふふ~ん♪」

「ウチかって、やる時はやるんよ?」


「なら、次のテストの結果が楽しみね。」


「えりちぃ~…」


「…もう。」


どうでも良い事を口に出す

まるでそれさえ、どうでも良いと言いたげに



「どうして…」


口に出来なかった想いは

ただ、風に飲まれるばかりで---
277: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:35:32.37 ID:RrTrLwjQ.net
-----



「えりち…」


「…」


「失礼します。」


「あら、絢瀬さん。」

「歓迎会、お疲れさま。」


「…いえ、仕事でしたから。」


「それで、今日は…?」


「…」

「生徒は全く集まりませんでした。」


「そう。」


「きっと、このまま活動を続けても…」


「学校の事情で、生徒の活動を制限するのは…」


「でしたら、学院存続のために生徒会も独自に活動させて下さい。」
278: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:35:59.01 ID:RrTrLwjQ.net
「それは駄目よ。」


「っ…何故ですか?」


「それに…」

「全然人気がない訳じゃないみたいですよ?」


理事長が見せてくれた、パソコン

そこに映っていたのは…


「この前のライブの…」


「…」


「誰かが撮ってたんやなあ。」


その閲覧回数に、素直に驚いた


「絢瀬さん。」


「…はい。」


「貴女は今、迷ってるんじゃないかしら。」
279: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:36:32.66 ID:RrTrLwjQ.net
「…」


「迷っても良いのよ?」

「私だって、迷う事もある。」


「まして、貴女はまだ子供なんだから。」


「私は…!」


「子供である事が、悪い訳じゃないの。」

「どれだけしっかりしていても、貴女はまだ17歳。」

「無理して、大人になる必要はないの。」


「無理している訳じゃ…」


「子供だからこそ、出来る事は沢山あるのよ?」

「貴女達は皆、可能性に満ちてるんだから。」


「…失礼します。」


「失礼します、理事長。」
280: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:37:02.45 ID:RrTrLwjQ.net
-----


「…」


目の前の書類を、片付ける

カタカタとキーボードを打つ手が、止まる


「…」


私は、今…


「ひゃあっ!?」


「んふっ♪」


首元に感じた冷たさに

思わず、素っ頓狂な声を上げた


「ッ…希!」


「ふふっ、ごめんごめん。」

「心ここにあらず…って感じやったから。」



「…ありがとう。」
281: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:37:32.49 ID:RrTrLwjQ.net
手渡された缶を受け取り

プルタブに、指をかける


カシュッという気持ちのいい音を響かせて

ふいに、甘い香り


「えりち、最近疲れてるんじゃない?」


「別に、疲れてなんか…」


「ぼーっとしてる事、多いよ?」


「…」


「前の、理事長の言葉、気になる?」


「…別に。」

「自分の娘のやっている事を、否定したくはないでしょ。」


「…本気で、そう思ってるん?」


「…」
282: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:38:21.41 ID:RrTrLwjQ.net
「ウチらは可能性に満ちてる…か。」


慣れた手つきで、キーボードを叩く


「これって…」


彼女達の、トップページ


「お客さんが集まらなかったんと違う。」

「あの子達の仲間は、確かにあの場におったんよ。」


そこには、6人になった、笑顔が


「…ウチらは、果たしてどっちなんやろね♪」


そう言って流す、彼女達の曲


一体何度、この曲を聴いただろう

街に流れるポップサウンドより

記憶に残った、この歌を




「私は…」
283: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:38:58.81 ID:RrTrLwjQ.net
-----



上手くまとまらない気持ちを抱いたまま

季節は6月を迎える


あれだけ青く澄んでいた空は

鈍い、曇天の色を映す


雨、雨、雨…

止む事の無い雨空は

一体、誰の心を表しているんだろうか



生徒会室の窓から見える、あの屋上に

彼女達の姿を、見る事も無くなった




…諦めたのか

なんて、言えるはずも無く

ただただ、仕事に没頭する


これが、今までも、これからも

私の、いつも通りだから
284: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:39:28.12 ID:RrTrLwjQ.net
「雨、やまないね。」


ぽつりと、希が告げる


「…気になる?」


察しが良いと言えばいいのか

それとも、単におせっかいなだけか


「昔の事…?」


本当に、希には敵わないと知る


「…ウチな。」

「れなっちの言った事が、全てやと思うん。」


「希は、彼女たちの味方なの?」


「…ウチは、えりちの味方だよ?」


そう言っていつも通り笑う、希


「…そう。」


外に向けた視線は、手元の資料に注がれた
285: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:39:53.99 ID:RrTrLwjQ.net
-----



「アイドル研究部?」


それから数日

彼女たちは、生徒会室にやってきた


「そう。」

「既にこの学校には、アイドル研究部というアイドルに関する部が存在します。」


「まあ…部員は一人やけど。」


「えっ…でもこの前、部活には5人以上って…」


「設立する時は5人必要やけど…」

「その後は何人になってもいい決まりやから。」


「…生徒の数が限られている中。」

「いたずらに部を増やす事はしたくないんです。」
286: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:40:44.63 ID:RrTrLwjQ.net
「アイドル研究部がある以上、貴女達の申請を受ける訳にはいきません。」


「そんなあ…」


「これで話は終わり…」


「になりたくなければ。」

「アイドル研究部とちゃんと話をつけてくる事やな。」


「希…!?」


「ふたつの部がひとつになるなら、問題はないやろ?」


「…」


「部室に行ってみれば?」


「「はいっ!」」


希に勧められて、彼女達は生徒会室を後にする


「…私の味方じゃなかったの?」


「モチロン♪」


そう言って希は、無邪気に笑った
287: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/03(水) 12:42:28.02 ID:RrTrLwjQ.net
-----



「…頃合いやね。」

「ちょっとウチ、出てくるな?」


「希…?」


「大丈夫、ちゃんと仕事は終わってるから。」


資料に目を落とすと、確かに希の分は終わっていた


「ほな、またあとで~♪」


「…」


こういう時の希は

いつも、誰かのために動く時だ

そこまで、彼女に…

彼女達に期待するのは、どうしてなのか


「んっ…」


そっと、伸びをして

窓の外を、眺める


理事長に子供だとは言われたけれど

こうして、昔ばかり思い出すのは…
293: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:15:02.87 ID:rs5roxwz.net
-----


「えーりちっ♪」


「もう、その呼び方辞めてって…」


「えー、呼びやすいやん?」


「知らないわよ…」


いつからだったか

こう呼ばれる様になった

彼女の事もいつからか

希、と呼べる様に


「それより、このあと暇?」

「講堂いこ?」


「講堂…?」


「いいから、いいから♪」


そう言って、手を取って走り出す
294: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:15:28.26 ID:rs5roxwz.net
-----


「もう、いきなりどうしたのよ…」


「ふふ、ちょっと見てみたい物があったんよ♪」


扉を閉めていても聞こえる

何処かで、聞いた事のある…


「うわあ…!」


そこには可愛い衣装を身に纏った

可愛らしい、少女達がいた


「これ…」


「アイドル研究部、やって。」

「自分達も、スクールアイドルしてるみたいよ?」


「スクール…アイドル…」


それは、私が初めて彼女を目にした時だった
295: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:15:51.72 ID:rs5roxwz.net
「去年から活動してたみたいやけど…」

「なかなか、見に来る機会なくて。」


「なら、どうして私を…?」


「えりちも、興味あるかな、って。」


そういって無邪気に笑う希から目をそらして

彼女達に、目を向ける


「…」


あえて、それを口には出さなかった

いくら私でも、この場の空気は読める


ただただ、純粋に

心のどこかで、そっと


目の前の活動に---呆れていた
296: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:16:44.78 ID:rs5roxwz.net
-----


「…えりちは、何かやってたん?」


「え?」


パフェをつつきながらの、突然の台詞

前後に、何か話をしていた訳ではない


「何かスポーツとか、やってたんかな…って。」


「どうしたの、急に。」


「…」


「希…?」


「矢澤…にこちゃん、って、言うらしいんよ。」


「…?」


「真ん中で踊ってた、ツインテールの子。」


心臓が、少しだけ跳ねた
297: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:17:47.71 ID:rs5roxwz.net
「一年の頃から、ずっと。」

「ああして、頑張ってたみたい。」


「それと、さっきの話がどう繋がるの?」


「…最初、驚いた顔して。」

「徐々に…難しい顔になった。」


「嫌いとか、そんなのやなくて…」

「なんだか、別の所を見てた気がして。」


「…」


本当に、よく見ている

どこか、それが怖くも感じた


「だから、何かダンスとかやってたんかな、って思っただけ。」

「間違ってたら、ごめんな?」
298: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:18:36.28 ID:rs5roxwz.net
「…」


どうして、素直に答えたのかは覚えていない


「バレエを…やってたわ。」


「今は?」


「私には…才能、無かったから。」


どこかで、知ってほしかったのかもしれない


「才能が無きゃ…続けたら駄目なんかな?」


「それは、個人の自由でしょう?」


カップに入った、ミルクティに口をつける


「えりちの目に、あの子達はどう映った?」


「それは…」
299: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:19:27.61 ID:rs5roxwz.net
正直な感想なんて、言えないけれど

1年頑張ってきた結果があれなら

彼女達にも、才能はない


自分をよく言う気は更々無いけれど

それでも…届かなかったから


「どうして…続けられるのかしら。」


「…きっと。」

「ただ、好きなんよ。」


「たとえ今がどんなに辛くても。」

「結果が伴う事が無くたって…」

「続けたい、って思えるくらい。」


「…」



「ね、えりちがバレエしてたとこ、見てみたい!」


「へ?」
300: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:20:16.04 ID:rs5roxwz.net
「きっと、凄く可愛かったんやと思うし。」


「いきなりどうしたのよ。」


「だって、仲良くなったって言っても。」

「まだ、お互いの事知らない事の方が多いやん?」


「もっと…えりちの事、知りたいなって。」


にこにこと笑う、希

さっきまでの、雰囲気とは違って…


「別に、教えたんだからいいでしょ?」


「えー、えりちのいけずぅー」


にこにこと、その右手を差し出してくる


「…この手は?」


「見ーせてっ♪」
302: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:21:42.34 ID:rs5roxwz.net
断ろうと思えば、できた

理由なんて、いくらでもつけられる


でも、私がそうしなかったのは…


「…はい。」


ケータイを、希に渡す

食い入る様に見つめるその瞳は

一体、どう感じるのだろう


「…」


どこかで、認めてほしかったのかもしれない

どこかで、言ってほしかったのかもしれない

才能あるよ、って

頑張ったね、って


誰かの事を蔑みながら

自分は過去の栄光にすがろうと…
316: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:35:45.52 ID:vwUGnSmv.net
再開する前に、>>302の後に入れ忘れた部分を
そこまで話に影響しませんが、気になるので…

-----


「…すごい。」


たった一言の、感想


「すごいよ、えりち…!」

「ウチ、バレエの事とか全く分からんけど…」


「でも、とにかく凄い!」


あの時、私はどんな言葉を期待していたんだろう


そんな思いを無視して

『すごい』と連呼される



安直だ、なんて思うかもしれないけれど


希の瞳は、目の前にいる私じゃなく

動画の中の少女に対して向けられた

素直な…気持ちだったから
303: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:22:08.59 ID:rs5roxwz.net
「えりちには…」


「…?」


「ううん、何でも無い。」

「それにしても…綺麗やね。」


「あ…ありがとう。」


「やっぱりウチは、もったいないって思うな。」


「希…?」


「だってこんなに、綺麗なんよ?」

「バレエの事、何も知らないけど、でも…」


「…でも、やっぱり私には才能ないから。」


「でも、好きなんやろ?」


「え…?」


「好きじゃなかったら…」

「諦めた物を、手元に置いとくはずないよ。」
304: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:22:39.79 ID:rs5roxwz.net
「…」


何も声を発せずにいると

不釣り合いな電子音が、目の前から聞こえた


「ふふっ。」

「えりちの動画、もらっちゃった♪」


「なっ…!?」

「ちょっと、消しなさ…!」


「…ウチは。」

「頑張ってる誰かを、応援するのが好き。」

「頑張ってる誰かの笑顔を見るのが好き。」


「それは、えりちにも言える事なんよ?」


「…」


「でも、私は…!」
305: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:23:09.63 ID:rs5roxwz.net
「諦める事が、悪い事じゃないよ。」

「才能は、確かにあると思う。」


「…でも、好きなら。」

「いつかきっと、どんな時でも。」

「たとえ諦めた事だって…」


「叶える事は、できるよ。」


「希…」


「だからこれは、ウチのお守り。」

「いつか、ウチらの夢が叶ったとき。」

「…叶えられる様に。」


「えりちの頑張りは、ウチがちゃんと横で見てるよ。」


裏表の無い、その瞳で

その口で、そんな事を言われたら…


「もう…」


どこかで、錯覚してしまう自分がいた
306: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:24:00.82 ID:rs5roxwz.net
-----



それから、おおよそひと月経った頃

生徒会選挙の準備をしていると

教室に希が駆け込んでくるのが見えた


「えりち…っ!」


今まで見た事の無い

焦りと、泣きそうな顔


アイドル研究部が一人になった事を---知らされた


「…そう。」


希の言葉を否定したかった訳じゃない。

ただ、やはりどこか納得したのも事実で


『やっぱり』

なんて言葉が、頭をよぎる

希の、次の言葉を聞くまでは…
307: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:24:35.06 ID:rs5roxwz.net
「にこっちは…アイドル、続けるらしい。」


「え…?」


いつの間に仲良くなったのか

なんて話は、どうでもよくって

ただただ、聞き間違えたのかと思って、希を見る


「一人でも、続けるって決めたみたい。」


「どうして…」


訳が、分からない

努力していたのは、知ってる

それでも、届かないから諦めて、分裂した

結果は、分かりきっている

ましてや、たった一人で…



「それでも…大好きなんよ。」
308: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:25:02.08 ID:rs5roxwz.net
「にこっち…」

「一人でも、絶対夢を叶えてみせるって言ってた。」

「たとえ何があっても、諦めないって…」


「えりち、ウチ…!」


そっと、その泣きそうな顔の頭を撫でる

初めて見る、希の顔と

初めて知った、話した事も無い誰かの意志に

ただただ…困惑する、ばかりで



それからの事は、何故か良く覚えている


何度も校内で、彼女の姿を見る様になった

一人で、チラシを配って

声をかけて、踊って



それでも、その背中はどこか小さく見えて…
309: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:25:30.44 ID:rs5roxwz.net
-----



「…ふう。」


もう一度、伸びをする

彼女に関しての記憶は、それが最後だった

3年に上がってからは

その姿を、見る事もほとんど無くなって…


あの時も、今と同じ6月頃だったか

雨が降り続いてた、季節


「…ただいま。」


「おかえりなさい。」


そして今、彼女は渦中にいる


「どうして、そこまで頑張るの?」


「ただ…好きだから、やん?」


それでもあの頃と想いは一分も変わらずに

この2人の叶えたい夢は、そこにあるらしかった


なら、私は…?
310: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/06(土) 09:26:23.84 ID:rs5roxwz.net
-----


今日も、書類に目を通す

かたかたと、カタカタと

キーボードを覆う、両手

まるでこの雨雲のように


「…はい、えりち。」


「これは…!」


彼女達は、7人になった


「えりち。」


「…?」


「見てみ。」

「雨…止んでる。」


曇天の空の切れ間から射す、あたたかな光の下で

いつかの小さな背中の彼女の

見た事も無い、笑顔が見えた


私に、あるひとつの想いを芽生えさせて---
317: ここから続き↓(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:37:06.27 ID:vwUGnSmv.net
-----



「ビデオ?」


「そう♪」

「各部活の紹介ビデオを作らないか、って話になったんよ。」

「後は、えりちの承認だけよ?」


「いつの間に…」


「えりちには、自分の仕事があるやろ?」

「こっちで出来る事は、やろうってみんなで決めたんよ。」


「…」


確かに、学校をアピールする上で

部活動の紹介は大きな材料になる

もうすぐ始まる、説明会に向けて

用意するのは、間違ってはいない

でも…
318: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:37:42.19 ID:vwUGnSmv.net
「一体、何を企んでるの?」


「何も企んでなんてないよ?」

「ただ、ウチらで話し合って出た事や♪」


「…はあ。」

「まあ、確かに必要だとは思うし。」

「私から、先生に伝えておくわ。」


「ありがと、えりち。」

「あ、撮影はウチらで手分けしていくから。」

「えりちは、自分の仕事頑張ってな♪」


「え、でも…」


「いいから、いいから♪」


そう言うと、各々カメラを持って生徒会室を後にする

何だか、釈然とはしないけれど…
319: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:38:17.20 ID:vwUGnSmv.net
-----



気がつけば、たくさんの映像が集まって

日々、それを編集する作業に没頭する


そんなに得意な訳ではないけれど

それでも、皆の頑張りはカメラを通して感じられる


「あとは、天文学部、料理研究部。」

「それと…」


目に入る、その7文字が

徐々に、現実味を帯びだす


「ただいまー。」


「希…」


「はいこれ、天文学部の分。」


「…ええ、ありがとう。」
320: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:38:38.37 ID:vwUGnSmv.net
「…彼女達のは?」


「ん?」

「えりちもようやく、興味出て来たん?」


「違うわよ…」

「ちゃんと、期限に間に合うのかを聞いてるの。」


「ああ、それなら大丈夫。」

「もうすぐ完成って、言ってたから♪」


「…そう。」


「楽しみやね。」


「別に…」


別に、楽しみな訳じゃない

ただ、この感情は…
321: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:39:11.88 ID:vwUGnSmv.net
-----


そんな話をしていた2日後

希から、一枚のディスクを渡された


パソコンを起動して見ると

彼女…高坂さん達の簡単な挨拶の後

流れて来た、初めて聞く曲


「…もう、ネットにも上がってるよ。」


慣れた手つきで、希がパソコンをいじる


「何を言ったの…?」


「ウチは思った事を素直に言っただけや。」

「誰かさんと違うて。」


「…」


「もう認めるしかないんやない?」
322: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:39:44.77 ID:vwUGnSmv.net
「えりちが力を貸してあげれば、あの子らももっと…」


「なら、希が力を貸してあげれば?」


「ウチや無い…」

「カードも言ってるの。」


「あの子達に必要なのは、えりちや。」


「…駄目よ。」


「なんで、そこまで意地はるん?」

「現に、あの子らは…」


「駄目っていってるでしょう!?」


「えりち…」


「私が、手を貸す必要なんてないじゃない!」

「私に出来る事なんか…!」


「出来るよ。」


「…!?」


「えりちなら、出来るよ。」
323: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:41:05.25 ID:vwUGnSmv.net
-----



「…最低。」


先に帰った希を追う事もせず

椅子に、深く腰掛ける


「最低ね…私。」


自分がただ、目を背けているだけだと分かっているのに


「一体、私に何が出来るって言うのよ…」


諦めた、その事実が胸に突き刺さる

もう、諦めたのに…


玲奈の言葉が、頭をよぎる


「今更、どうやって…」


認めたくない

認めて、しまったら…
324: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:41:36.02 ID:vwUGnSmv.net
「…ッ。」


あれだけ頑張って、届かないと諦めた私


諦めずに頑張って、もがき続ける彼女達


この違いは…何?


認めてしまったら

私は、きっと後悔するだろう

認めてしまったら

今、私がやっている事は無駄になるんじゃないか


今の…今までの私は、一体…


奥歯を、噛み締める

心に生まれる苛立ちと

どこにもぶつける事の出来ない、愚かさに
325: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:42:20.13 ID:vwUGnSmv.net
「…やればいいんでしょう。」


もし、彼女達が間違っていないのだとしたら

今の私がやっている事も、間違っていないはず


努力すれば叶うのなら

私の力で、廃校を阻止してみせる


そのために私は生徒会長になったのだから

これは、私の仕事だ

他の誰でもない、私だけの…責務だから



この時に気付く事が出来たなら

私は、もっと早くに素直になれたんだろうか

また、違った道を歩めたんだろうか



拾い上げた、落ちていた歯車を

はめ込む場所が分からずに

ただ、間違った場所で、噛み合う音がした

ゆっくりとそれは、逆向きに音を立てて---
326: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:42:58.72 ID:vwUGnSmv.net
-----



「失礼しました。」


話は、ずっと平行線のままで

理事長は、頑に私を否定する

なんで

どうして


何故、彼女達とこんなにも違うのか…


「お揃いでどうしたん?」


理事長室の扉を開けると

さっきまで考えていた彼女達が、そこにいた


「…何の用ですか?」


「理事長にお話があって来ました。」


「…各部の理事長への申請は。」

「生徒会を通す決まりよ。」
327: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:43:50.13 ID:vwUGnSmv.net
「申請とは言ってないわ。」

「ただ話があるの。」


「…真姫ちゃん、上級生だよ。」


熱くなった彼女を、高坂さんが止める


「…!」


後ろから聞こえるノックの音に振り返ると

理事長が、立っていた


「どうしたの?」


理事長に促されて

高坂さん達と中に戻る


そこで彼女達が発した内容は

ラブライブという物に、ついてだった
328: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:44:12.73 ID:vwUGnSmv.net
「…へえ、ラブライブねえ。」


「はい、ネットで全国的に中継される事になっています。」


「もし出場できれば、学校の名前を皆に知ってもらえる事になると思うの。」


「私は反対です。」

咄嗟に、声が出た


「…理事長は、学校の為に。」

「学校生活を犠牲にするような事はすべきではないと仰いました。」

「であれば…」


「…そうね。」

「でもいいんじゃないかしら?」

「エントリーするくらいなら。」


「…!」


「ちょっ、ちょっと待ってください!」
329: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:44:52.09 ID:vwUGnSmv.net
「どうして彼女達の肩を持つんです…!」


「別に、そんなつもりは無いけど…」


「だったら生徒会も学校を存続させる為に活動させて下さい。」


「うーん…それは駄目。」


「…意味が分かりません。」


「そう?」

「簡単な事よ?」


理事長が、分からない


「えりちっ。」


軽く頭を下げて、部屋を後にする

後ろ髪を引かれる、思いで…
330: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:45:30.30 ID:vwUGnSmv.net
-----


「…」


彼女達の動画に、集まったコメント

そのどれもが、彼女達を応援する、誰かの声で


かつで自分が行った事を、少しだけ後悔する


「…!」


机の上の携帯が、震える

画面には、見慣れた文字が映っていた


「もしもし?」


「ええ、どうしたの?」


「…分かった。」

「それじゃ、終わったら迎えにいくから。」


「ええ、校門で待ってて?」

「お願いね…それじゃあ。」


携帯を、鞄にしまって

そっと、パソコンを閉じた
331: 名無しで叶える物語(玉音放送)@\(^o^)/ 2016/02/07(日) 01:46:50.01 ID:vwUGnSmv.net
-----



「…ふう。」


あれから、希は戻ってこない

まあ、仕事は無いから構わないけれど

希の事だから、きっと…


「いけない、待たせちゃうわね。」


生徒会室の鍵を職員室にもどして

夕暮れの中に、足を踏み出した


「…亜里沙!」


紅色に染まり始めた空の下

光る髪色に声をかける

隣にいる誰かが、彼女である事に気付いたのは

もう2、3歩近付いた時で


「貴女…」


「絵里…先輩。」


---視界は、そっと鈍色に変わり始めた
339: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:21:52.90 ID:fne+f+Az.net
-----


「ごめんなさい、亜里沙。」

「これで、飲み物買って来てくれないかしら…?」


「うんっ!」


財布からお札を一枚取り出して、亜里沙に渡す

元気よく駆けていく、その姿を見送って…


「久しぶり…ですね。」


「…そうね。」


「何度か…メールも、送りましたが…」


「ごめんなさい、忙しくて。」


当たり障りの無い…

いえ、私が逃げているだけの会話を繰り返す


「おまたせしました!」


戻って来た、その手に目をやる
340: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:22:41.41 ID:fne+f+Az.net
「ありがとう。」


下を向いた海未の瞳に映る

そぐわない、飲み物ではないもの


「ごめんなさい。」

「向こうの暮らしが長かったから…」

「まだ日本に慣れてない所があって。」


「ロシアの…ですか?」


「ええ。」

「亜里沙、それは飲み物じゃないの。」


「…!」

「ハラショー。」


手に持ったそれを、まじまじと見つめる


「別なの買って来てくれる?」


「はい!」
341: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:23:14.30 ID:fne+f+Az.net
「…それにしても。」

「貴女に見つかってしまうとはね。」


「前から…穂乃果達と話していたんです。」

「誰が撮影してネットにアップしてくれたんだろう、って。」


「でも、絵里先輩だったなんて…!」


「…」


「あの映像が無ければ。」

「私達は今、こうしてなかったと思うんです。」


「あれがあったから、見てくれる人も増えたし。」

「だから…」


「やめて。」


「えっ…」


「別に貴女達の為にやったんじゃないから。」
342: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:23:48.18 ID:fne+f+Az.net
「…むしろ逆。」

「貴女達のダンスや歌が、いかに人を惹き付けられないか。」

「活動を続けても意味が無いか、知ってもらおうと思って。」


「だから…今のこの状況は想定外。」

「無くなるどころか、人数が増えるなんて。」


「…でも、私は認めない。」


「ッ、どうして…!」


「人に見せられる物になっているとは思えない。」

「そんな状態で、学校の名前を背負って活動してほしくないの。」


「…話はそれだけ。」


鞄を肩にかけて、亜里沙の荷物を手に取る

分かってる、こんなの…


「待って下さい!」
343: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:24:32.83 ID:fne+f+Az.net
「…」


「なに?」


「それは…先輩の、本心ですか?」


「何を言ってるの?」

「言ったでしょう。」

「そんな貴女達に、学校の名前を背負って…」


「その事じゃありません!」

「貴女は…絵里先輩はどう思っているんですか!?」


「…同じよ。」


「本当に?」


「…」

「意味があるとは、思えないもの。」


「意味…?」
344: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:24:58.16 ID:fne+f+Az.net
この言葉の意味は、分からなくていい

伝えたかった訳じゃない

ただ、口に出てしまっただけ

だから、きっと…


「じゃあ、もし私達が上手くいったら。」

「人を惹き付けられる様になったら…認めてくれますか?」


「…」


「無理よ。」


「どうしてですか?」


「貴女に…」

「貴女達に、そんな才能なんて無い。」


「そんな…」
345: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:25:47.23 ID:fne+f+Az.net
「お姉ちゃん、ごめんね。」


駆け寄って来た亜里沙に、告げる


「もう、話は終わったからいいわ。」


「…?」


後ろから、聞こえてくる足音


「その言葉が本心なら…」

「貴女に私達の事、そんな風に言われたくありません!」


「…行くわよ、亜里沙。」


「え?あ、えっと…」


決して、振り向いたりはしない

振り向かなくても、どんな顔なのか分かるから


だから…この顔も、見せたりなんてしない

貴女の瞳に映るのは、頭の固い、生徒会長で十分だから
346: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:26:41.89 ID:fne+f+Az.net
-----



「…はい。」

「元気にやっていますわ、おばあさま。」


「もちろんです、おばあさまの母校ですもの。」


「私が必ず守ってみせます。」


「…はい、おやすみなさい。」


流石、とでも言いたくなるくらいのタイミングで

かかってきた電話を終えて、棚の上を見る


並べられた、いくつかの写真と

かつての栄光が目に入る


「…違う。」


もう、昔の話だ

そう心に決めて、ベッドに入る


「私の、やりたい事なんて…」
347: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:27:20.29 ID:fne+f+Az.net
-----



「そんな!」

「説明してください!」


唐突に告げられたその言葉に

納得なんて出来るはずも無く


…声を、荒げてしまう


「…ごめんなさい。」


「でもこれは決定事項なの。」


机に置いた手のひらに

嫌な、汗がにじむ


「音ノ木坂学院は、来年より生徒募集を辞め。」


「…廃校とします。」


突きつけられる、現実

それはいつかの、オーディションに似ていた
348: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:28:49.79 ID:fne+f+Az.net
「今の話、本当ですか!?」


いきなり、ノックもせずに飛び込んでくる、彼女達


「貴女…!」


「本当に廃校になっちゃうんですか!?」


「…本当よ。」


「お母さん、そんな事全然聞いてないよ…!?」


「お願いします!」

「もうちょっとだけ、待って下さい!」

「あと1週間…いや、あと2日でなんとかしますから!!」


彼女の気迫に圧されつつも、理事長は言葉を続ける


「い、いえ、あのね…?」

「廃校にするというのは、オープンキャンパスの結果が悪かったらという話よ?」
349: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:29:42.94 ID:fne+f+Az.net
「お、オープンキャンパス…?」


「一般の人に…見学に来てもらうってこと?」


「見学に来た中学生にアンケートを取って。」

「結果が芳しくなかったら廃校にする。」

「…そう、絢瀬さんに言っていたの。」


「なんだ…」


ほっとした顔の彼女が、どこか気に入らなくて


「…安心してる場合じゃないわよ。」


「オープンキャンパスは2週間後の日曜日。」

「そこで結果が悪かったら本決まりって事よ。」


年度末までじゃ、無い

あとたった14日足らずで、決まってしまうのだから
350: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:30:22.69 ID:fne+f+Az.net
「…理事長。」

「オープンキャンパスの時のイベント内容は…」

「生徒会で提案させて頂きます。」


もう、迷ってなんていられないから

私がやらなければいけない事を、しよう

例えそれが…



「止めても聞きそうにないわね。」


どこか、呆れ顔のその表情に、頭を下げて


「…失礼します。」


扉を閉めると、後ろから声がかかる


「…どうするつもり?」


いつもの、あの台詞に

私は…


「決まっているでしょう。」
351: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:31:07.50 ID:fne+f+Az.net
-----

生徒会で、緊急に会議を開く


「これより生徒会は独自に動きます。」

「なんとかして廃校を食い止めましょう。」


「「…」」


何処か場違いな雰囲気が、包み込む


「…なにか?」


「あ、いえ…」


いち早く気付いた希が、口を開く


「言いたい事あったら、言った方がいいよ?」


「…はい。」

「あの、これってこの学校の入学希望者を増やす為に…」

「何をするかの話し合いですよね?」


「ええ。」
352: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:31:36.28 ID:fne+f+Az.net
「だったら…!」

「楽しい事をいっぱい紹介しませんか?」


「学校の歴史や、先生が良いってことも大事だとは思うんですけど…」

「ちょっと…今までの生徒会は堅苦しい気がしていて。」


「例えば、ここの制服って、可愛いって言ってくれる人、多いんですよ?」


「それいい!」

「そういうのアピールしていきましょうよ!」


「スクールアイドルとかも、人気あるよね!」


「いいねえ!うちらの学校にもいるし!」

「μ'sだっけ?」


「あの子達に頼んで、ライブやってもらおうよ…!」


「「いいねえ!!」」


「他にはっ!?」
353: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:32:23.40 ID:fne+f+Az.net
-----



「…」


意味も無く、声を張り上げて

彼女達には、少し悪い事をした


決して、今まの中で一番盛り上がっていたからじゃない

決して、彼女達の名前が挙がったからじゃない…と思う


ただ、それじゃあ今までの私達は…



「これ、ですか…?」


唐突に目の前に現れたもふもふした物に

思わず、思考が止まった


「はい!」

「他校の生徒にも、意外と人気あるんですよ…?」


そうは言っても


「ちょっと、これでは…」
354: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:32:59.67 ID:fne+f+Az.net
「…ッ」


一瞬、何が起きたかさえ分からなかったけれど…

後ろで希が、お腹を抱えて笑っているのだけは分かった


急いでハンカチで制服を拭いてくれる役員の子達を見て

…まだ、嫌われてはないのかなんて思ったりもしてしまう


「生徒会長…さん?」


「貴女達…!」


「あっ、スクールアイドルの!」


「丁度良かった!」

「今度オープンキャンパスがあるんだけど。」

「良かったら、ライブとか…」


「待ちなさい!」

「まだ何も決まってないでしょう!?」


「あ…はい。」


ああ、もう、どうしてなのよ…
355: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:33:37.51 ID:fne+f+Az.net
-----



「このように、音ノ木坂学院の歴史は古く…」

「この地域の発展に、ずっと関わってきました。」


「更に、当時の学院は音楽学校という側面も持っており…」


亜里沙の学校の友達にも協力してもらって

オープンキャンパス時の演説も聞いてはもらったけど…

結果は、火を見るより明らかで


「…ごめんね、退屈だった?」

慌てて入るフォローも

仕方が無い事ではあるのだろうけど…


「亜里沙はあまり面白くなかったわ。」


「…!」


「なんでお姉ちゃん、こんな話しているの…?」


「学校を、廃校にしたくないからよ。」


「私も音ノ木坂は無くなってほしくないけど…」


「でも…」

「これがお姉ちゃんのやりたい事…?」
356: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:34:05.50 ID:fne+f+Az.net
-----



「そっか、亜里沙ちゃんがそんな事…」


「だって…嫌でしょう?」

「自分の学校が廃校になったら…」


「それはそうやけど…」


「廃校をなんとか阻止しなきゃ、って。」

「無理しすぎてるんやない?」


「そんな、無理なんて…」


「えりちも頑固やね。」


「私はただ…学校を存続させたいだけ。」


「…何の為に?」


「何のため…?」


「そ。えりちは、何の為に今、頑張ろうとしてるん?」


「そんなの…!」


扉を叩く---音
357: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:34:38.35 ID:fne+f+Az.net
「何しに来たの…?」


「私達に、ダンスを教えて下さい!」


「私にダンスを…?」


「はい、教えて頂けないでしょうか?」

「私達、上手くなりたいんです!」


「どうして…」


「生徒会長のバレエ、見させてもらいました!」


「な…っ!?」


「凄いって、思ったんです!」

「羨ましいって…憧れたんです!」

「お願いします!」


…きっと、これは気の迷いだ

後で希にお仕置きするのは置いておいて

私は…


「…分かったわ。」
358: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:35:10.08 ID:fne+f+Az.net
「本当ですか!?」


「貴女達の活動を認めるつもりは無いけど。」

「人気があるのは間違いないようだし…」

「引き受けましょう。」


どうせ、きっとすぐに…


「でも、やるからには私が許せる水準まで頑張ってもらうわよ…?」

「いい?」


「…はい!」

「ありがとうございます!」


去っていく、彼女達の背中を目で追いながら

逃げ出そうとする希の襟首を、そっと掴む


「あ、あのなえりち…」


「問答無用。」


生徒会室に引きずり込んで

…そっと、鍵をかけた
359: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:35:39.10 ID:fne+f+Az.net
-----



「はあ…はあ…ッ。」


「ま、こんな所かしら?」


乱れた衣服を整えて

ぬるくなった缶に、口を付ける


「ウチ…もうお嫁に行かれへん…」

「えりちぃ…」


「はいはい。」

「希が料理できる様になったらね。」


軽くあしらいつつ、荷物をまとめる


「…でも、どうして引き受けたん?」


ほら、やっぱりわざとじゃない


「…別に。」


脳裏にちらつくかつての日々を

振り切る様に、屋上へ足を速めた
360: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:36:14.06 ID:fne+f+Az.net
-----



思っていた通りに

いや、それ以上に

彼女達の現状に、辟易する


「…よくこれでここまで来られたわね。」


どうして、この程度で人気がでるのかしら

凛、って子の背中を、目一杯押し込む


「痛いにゃあ~っ!!」


イライラする?

何に?

…分かっていた、はずでしょう


「…もういいわ、今日はここまで。」


向けられる敵意に、どこかでほっとする自分がいた


「…待って下さい!」


もういやだ、なんて言葉が出るのだと思った

その方が、有り難かったから


「ありがとうございました!」


「えっ…」


「明日もよろしくお願いします!」

「「お願いします!!」」
361: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:36:42.69 ID:fne+f+Az.net
-----


どうして?


誰も私に、答えなんてくれない


どうして彼女達は…


「…覗き見ですか?」


「!」


「っ…ちょっと!!」


後から来た彼女達に、背中を押されて、屋上に


「おはようございます!」


「まずは、柔軟ですよね?」


もう、聞かずにはいられなかった


「…辛くないの?」


「「えっ…」」


「昨日あんなにやって、今日また同じ事をするのよ?」
362: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:37:08.19 ID:fne+f+Az.net
「第一、上手くなるかどうかも分からないのに…」


「やりたいからです!」


「!」


「確かに、練習は凄くきついです!」

「体中いたいです!」


いつかの、玲奈の言葉が頭をよぎった


「でも、廃校をなんとか阻止したいと思う気持ちは。」

「生徒会長にも負けません!」


「だから今日も…よろしくお願いします!!」


「「お願いします!」」


「…ッ。」


「生徒会長!?」


ただ、その瞳から逃げたくて…
363: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:37:42.77 ID:fne+f+Az.net
-----


「…ウチな?」


「!」

「希…」


「えりちが友達になってくれて。」

「生徒会一緒にやって来て…」

「ずーっと思ってた事があるんや。」


「えりちが、本当は何がしたいんやろう、って。」

「…ううん。」

「えりちは…何が好きなんやろう、って。」


「一緒にいると、分かるんよ。」


「えりちが頑張るのは、いつも誰かのためばっかりで。」

「だから、いつも何かを我慢してる様で…」

「全然自分の事は考えてなくて…」


「貴女に何が…!」


「学校を存続させようって言うのも、生徒会長としての義務感やろ!?」
364: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:38:30.94 ID:fne+f+Az.net
「だから理事長は、えりちの事を認めなかったんと違う!?」


「えりちの…」

「えりちの本当にやりたい事は!?」


「…何よ。」


「なんとかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!!」


「私が今までどんな気持ちで…!」


「…分かるよ。」


「希になんて分かる訳…」


「分かるよ。」

「だって…」

「だからこそウチは、えりちと友達になれたんだから。」


「希…」


「…いつまで経っても。」

「えりちは、ウチの憧れなんやから。」
365: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:39:16.06 ID:fne+f+Az.net
-----



「…」


私が…

私の、気持ちは…



「…生徒会室にいたんですね。」


「!」


「もう…探したんですよ?」


「どうして…」


「やっと…見つけました。」


「…ッ。」


「もう、逃げるのはやめにしませんか?」


「逃げてなんか…!」


「…逃げてますよ。」

「自分の、気持ちから。」



「貴女に分かる訳…!」


「…そうですね。」

「貴女の気持ちがわかる程。」

「私達、一緒にいなかったですから。」


「だったら…!」
366: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/12(金) 02:39:51.82 ID:fne+f+Az.net
「だからこそ。」

「ちゃんと、向き合いたいと思ったんです。」


「貴女と…貴女の、心と。」


「でも…っ。」


「…ふふっ。」


「?」


「やっぱり貴女は、優しい人です。」


「…やめてよ。」


「優しいですよ。」

「出会った時から…ずっと、今まで。」

「違いますか?」


「絵里先輩。」


「海未…」




貴女と初めて言葉を交わしたこの場所で

貴女はあの時と変わらない、笑顔のままで---
378: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:44:49.67 ID:L6Jsoxy3.net
-----



「ここ…か。」


今日は日曜日

オープンキャンパスまで

残り…一週間


本当なら、登校許可申請をして

あのいつもの場所で、資料をまとめて

希を引き連れて、挨拶の練習をしたり

各クラス・部活の進捗状況を確認して

それに、受験勉強だって…


なのに、何故か私はここにいる

都が運営する、市民体育館

その一番奥にある、この、厳格な雰囲気を纏う、この場に…
379: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:45:17.76 ID:L6Jsoxy3.net
「…」


改めて、どうしてここに来てしまったのか

今までの私なら、意味が無いと言うだろう

さっさと帰って、準備をして、学校に…


なら、どうして?


呼ばれたから?

それとも…



『週末の日曜日。』

『来て頂きたい、場所があるんです。』


あの時の言葉を

そのまま、受け取ったのは…


それは彼女が、彼女だったから?

心の中で、何かが

燻って、燻って…
380: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:45:41.42 ID:L6Jsoxy3.net
-----



「…私が、行くと思う?」


「絵里先輩は、優しいですから。」


「ッ、それは卑怯よ…」


「私はただ、伝えたい事があるだけです。」


「…」


「それは、きっと。」

「今の貴女には届かない気がするんです。」

「私の…言葉、だけでは。」


「なら…なに?」


「単に、私が望んでいるだけなのかもしれません。」

「それでも…」



「…海未?」



「待ってますから。」
381: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:46:13.42 ID:L6Jsoxy3.net
-----



あの時、貴女はどんな顔をしていたのかしら

差し込む夕日が、貴女の顔を照らして

顔色から心は掴めず

高揚していたのか…それすら、分からずに


色々な想いを逡巡して

気がつけば、こんな時間

指定された時間から---1時間が経っていた


「…ッ。」


踏み出そうとする足を

どこかの、誰かの声が止める


「そういえばさ、園田海未って子、いるでしょ?」


「ああ、あの大きな道場の?」


それは、他校の生徒の、単なる会話なだけで…
382: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:47:33.31 ID:L6Jsoxy3.net
「最近、練習にすらほとんど出てなかったらしいよ?」

「何だっけ…ほら、スクールアイドル?やってるんだって。」


「ああ、最近噂の…」


「それでさ、練習でなくなったから成績も落ちてるんだってさ。」

「しかも、噂によればアイドルは学校を存続させるためって…」


「何それ、本気?」


「そんなの、出来る訳ないのにね。」


「一時期、天才だとかずっと持ち上げられてた人がねえ…」


「ほんと、ザマアミロって感じ。」

「調子乗ってはやし立てられたくせに、今日だって…ほら。」


「ま、たかが部活に熱くなってもねえ。」
383: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:48:01.04 ID:L6Jsoxy3.net
「貴女達に…!」


一体、何が分かるのか

どれだけ、彼女が頑張って来たか知らないのに


私が言えるはずも無い言葉が喉までこみ上げた時

後ろから、声が聞こえた


「…じゃあ、君らはなにか熱くなれるもの、ある?」


「「!?」」


「玲奈…」


「君らが言う、たかが部活だけどね。」

「本気で頑張ってる人がいるんだよ?」


「どれだけ努力しても、届かない目標に。」

「それでも諦めたくないって皆、もがいてるんだよ?」


「結果は、伴わないかもしれないし。」

「初戦で潰える事だって…勿論ある。」
384: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:48:43.02 ID:L6Jsoxy3.net
「じゃあ、そこで諦めなきゃいけないの?」

「本気で悔しくて、悲しくて、泣いて。」

「それでも諦めず努力する誰かを。」

「君たちは、たかが部活と切り捨てるんだ?」


玲奈が、声を張る


「じゃあそんな君たちは、どうしてこんな所にいるの?」


「「…」」


「ま、どうせ何言っても響かないだろうけど…」


「戦わない奴らが、戦ってる奴らを笑うなよ。」



「…もう行こっ。」


「あっ、ちょっと待ってよ…!」


駆けて行く、2人の生徒を見送りながら


「…ま、単なる漫画の押し売りだけどね♪」


そう言って玲奈は、小さく笑った
385: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:49:08.67 ID:L6Jsoxy3.net
「玲奈…」


「奇遇だねえ、絵里。」


「えっと…」


なんだか、急に自分が恥ずかしくなって来た

さっきの、玲奈の言葉が---


「…ありがとね、絵里。」


「えっ…?」


「彼女達に、言い返そうとしてくれたでしょ?」


「あれは…」


「正直ね、嬉しかった。」

「私達、部活の仲間だけじゃない。」

「ちゃんと…海未の努力を見て来てくれた人がいるんだ、って。」


「それとも、海未だからかな?」


さっきまでと違い無邪気に笑う彼女から

ただただ、顔を勢いよく背ける事しか出来なかった
386: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:49:42.69 ID:L6Jsoxy3.net
-----



「…それで。」

「今日は、たまたま通りかかった訳じゃないんでしょ?」


「あ…ええ。」

「そうだ、海未は…」


「…」


「玲奈?」


「ま、とりあえず来なよ。」


玲奈に促されて、彼女の後をついていく


「玲奈、海未は…?」


「今ちょうど、戦ってるとこ。」


そう言って、少し足が速まったのが分かった
387: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:51:19.05 ID:L6Jsoxy3.net
-----



「…絵里って、弓道のルールは知らないよね?」


「え…」


歩きながら、玲奈が口を開く


「色々とルールはあるんだけどね。」

「今日の大会では、射詰で勝敗を決めるんだ。」


「いづめ…?」


「今日は人数が多いからね。」

「各ブロック3人ずつのリーグ戦みたいになっててね。」

「各ブロック勝ち上がった人が最後に決勝戦をする、って感じなんだよね。」

「ま、決勝戦のルールはまた別にあるんだけど…」


頭の中で、何となくのイメージを作る


「それで、今は射詰ってルール。」

「言わば、最初に中てた人が勝ち。」
388: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:51:59.85 ID:L6Jsoxy3.net
玲奈の説明が終わるのと同じくらいに

会場2階の、観客席にたどり着いた


「…それで、今は3射目。」


海未の射た矢は…外れていた


「え…?」


「あくまで、一人一射ずつ。」

「次の人が中てれば、海未の負けが決まる。」


それでも、まだ海未の目に諦めは見えなかった


「玲奈は…」


「あはは、それ聞いちゃう?」

「負けちゃったよ…海未に。」


「あ…」


「もう、個人戦だからってあの引きはないよー。」

「海未の気迫がすごいのなんの…」
389: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:52:30.02 ID:L6Jsoxy3.net
「でも、3回戦が始まる時にね。」

「なんだか海未、そわそわしててさ。」

「心ここにあらず…って感じで。」


「海未…」


「もしかしたら、誰かを待ってたのかもね。」


「…」


海未の次の生徒が、矢を番える

その動きは、凛々しくて

放たれた矢は---的の、わずか数センチ横で


「さ、海未の番だよ。」


「…」


今まで見て来た通りに、矢を番え

背筋をピンと伸ばして、弓を張りつめて、矢を放つ


わずか1秒にも満たない時間で

中たる矢は、的の右下、ぎりぎりに留まった
390: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:53:27.04 ID:L6Jsoxy3.net
-----



「うーみっ!」


「部長、一体どこに行って…!」


『次が決勝戦だから、激励しなきゃね♪』


そう告げる玲奈に連れられて

うちの学校の更衣室に


「絵里先輩…」


「あ、えっと…」


「来て…くれたんですね。」


「もー、見ててハラハラしたよ!」


何となく気まずい空気を察してか

玲奈が、明るく声をかける


「ささ、気分転換しておいで!」


玲奈が、私達の背中を押し出して…
391: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:54:00.17 ID:L6Jsoxy3.net
-----


「見苦しい所をお見せしました。」


広場になっている場所で

そっと、海未が頭を下げた


「…どうして?」


「いえ、私が誘って来て頂きましたので。」


どこか、少し言いづらそうに


「来ないかと…思ってました。」


少し、寂しそうに海未が笑う


「あ…」


「でも、来てくれてありがとうございます。」


「どうして…?」


「え?」
392: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:54:31.69 ID:L6Jsoxy3.net
「どうして、今日は呼んだの?」


「…言ったでしょう?」

「絵里先輩と、向き合いたいと思ったからです。」


その海未の瞳は、あの時と少しも変わらずに


「…」

夏風が、海未の髪を揺らす


「絵里先輩の目に。」

「今の私は、どう映ってますか?」


「え?」


「かつての私と…変わらずに映っていますか?」


「…」


「改めて、来てくれてありがとうございます。」

「もう、迷ったりしませんので。」

「見ていて下さい。」

「話は…その後に。」
393: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:58:35.29 ID:L6Jsoxy3.net
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「…ほんとはね。」

「絵里をこの場に呼んだら、って言ったの、私なんだ。」


「玲奈が…?」


「頑固な絵里には、言葉だけじゃ伝わらないと思ったから。」


「…」


「あの子は、良くも悪くも向き合う事しか知らないからさ。」

「きっと…絵里が嫌われない限り、ずっと向き合い続けるよ。」


「どうして…」


「ん?決まってるじゃん。」

「海未も、絵里が好きだからだよ。」

「私と、同じ。」


「…ッ。」


「誰かの為に、って頑張る絵里が。」

「私達は、みんな好きなんだよ。」
394: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:58:59.68 ID:L6Jsoxy3.net
「でも…!」


「海未から聞くまでもないけどさ。」

「絵里と、彼女達との話は知ってる。」

「絵里の…気持ちも、全部じゃないけど分かるよ。」


「でも、その気持ちってさ…」


「…玲奈?」


「ううん。」

「この先は、私が言うのはちょっと違うかな?」


「…」


「ほら、始まるよ?」


アナウンスがかかり、会場の空気が張りつめる


「次が最後、決勝戦。」

「海未は…どうするのかな?」

「それに、絵里はどう答えるの?」



「私は…」
395: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 17:59:36.04 ID:L6Jsoxy3.net
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「決勝戦はね、さっきまでの射詰とは、少しルールが違うんだ。」

「ま、決勝戦まで上がってくる子達が外すまでは時間がかかるからね。」

「だから、遠近競射ってルールで決める。」

「モチロン、今回の大会では、だけどね♪」


一人目の矢が、的に当たる

遠くてよく見えないけれど…

的の中心から、わずかに離れた位置に


「一人一射ずつなのはさっきと変わらないけど…」

「これは、一発勝負。」

「全員が射て、中心に一番近い人が優勝。」

「…ね、簡単でしょ?」


簡単に言ってのける玲奈とは裏腹に

会場の空気が、とても重くのしかかる


二人目の矢は、的の左上

一人目よりも、わずかに膨らんで
396: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:00:11.43 ID:L6Jsoxy3.net
「例え中ったとしても、所作が崩れてたら減点。」

「だから外れても落ち込めないし…」

「中てても、喜んだら駄目なんだよ。」


「そんな雑念をこっちに置いて。」

「彼女達は、あそこに立ってる。」


三人目の矢は、ぎりぎり的を逸れる

それでも、落ち込んだそぶりは見せない

ただ、その目だけは潤んでいる気がした


「…ほら、海未の番だよ。」


射場に足を踏み出す、その前の一瞬

海未と、目が合った気がした


どこかの誰かが壇上に上がる際

私に見せた、あの微笑みと共に


「海未…すっごく、良い表情してるね。」


どこかの誰かも、気付いたみたいだった
397: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:00:45.70 ID:L6Jsoxy3.net
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会場が、息を飲むのが分かる

今、この場で弓を引くのはただ一人

そしてそれは、最後の一人で…



28メートル先を見つめる、その瞳が映すのは

直径36センチの的か、それとも…



「…綺麗。」


思わず、声が漏れる

隣で誰かがニヤついているのが分かった


その動き、ひとつひとつが

かつて見た彼女の、どの動きよりも凛として

吸い込まれる様に、的の中心を---貫いた



「…お見事。」


玲奈の声に、ハッとする

それほどまでに魅入っている自分が、そこにいた
398: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:01:27.21 ID:L6Jsoxy3.net
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「ちょっ…やめ…ッ」

「んっ…もう…ッ///」



「やめて下さいっ!!」


その叫びは意味を成さず

他の部員にもみくちゃにされる、彼女


大会は、海未の的中で幕を閉じた


制服に着替える事も忘れて

更衣室は部員の歓声で包まれる


嫌がりながらも、どこか頬の緩んだ海未が見て取れて

…そっと、その場を後にした



「声かけなくて、いーの?」


「今は…邪魔しちゃ悪いから。」


外にいた、玲奈に声をかけられる
399: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:01:54.76 ID:L6Jsoxy3.net
「どうだった?感想は。」


「…凄かった。」


本当に、凄いとしか思えなくて

ただ、それ以外は口に出来なかった

「…初めての時も、そう言ってたっけ?」

「じゃあ、それを本人に言ってあげなきゃね♪」


「え…?」


玲奈が、私の後ろを見る

振り返ると…彼女がいた


「それじゃ、お邪魔虫は退散しますね~。」


飄々と、海未の背中---更衣室へと消えていく


「少し…歩きましょうか。」


海未に示され、外へ
400: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:02:24.01 ID:L6Jsoxy3.net
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「今日は、本当にありがとうございました。」


「もう、いいから。」


一体何度、彼女はお礼を言うのか


「いえ、凄いと言って頂けた事も含めて、です。」


「それは…」


「絵里先輩に、良い所を見せる事が出来ました。」


その笑顔に、思わず胸が痛む

…これじゃまるで、恋に恋する女の子みたい


「…それで、話って?」


無理矢理に、話題を変える


「言いたい事が、いくつかあったんですが…」

「忘れてしまいました。」


本当に、どこか彼女達は似ている

それも、良くない方向に
401: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:03:19.76 ID:L6Jsoxy3.net
「ですから、伝えたい事はひとつだけです。」

「私達と一緒に、踊りませんか?」


「なっ…!?」


それは、あまりにも真っ直ぐで


「どうして…そうなるのよ。」

「私は…」


「…絵里先輩の、やりたいことって、何ですか?」


「え…?」


「絵里先輩の、本当にやりたい事と。」

「私達と…μ'sと一緒に活動する事。」


「絵里先輩の好きな、『何か』と。」

「私が、私達が好きな『何か』は。」


「…共に歩む事は出来ませんか?」


「そんなの…」
402: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:03:51.84 ID:L6Jsoxy3.net
分かっていた

彼女達の想いに

分かっていたからこそ…逃げ出した

過去の自分から、目を背けるために


「…無理よ。」


「無理なんかじゃ、ないですよ。」

「学校を存続させたい、その想いは同じでしょう?」

「最初から、皆同じ方向を向いていたんです。」

「方法が、違うだけだったんです。」

「だから…」


「そんなの無理よ!」

「だって私は…!」


「絵里先輩。」


「貴女なんかに…ッ!」


「分かりますよ。」

「私も…諦めた事、ありますから。」
403: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:04:32.03 ID:L6Jsoxy3.net
「え…」


「…やっぱり、そうでしたか。」


「海未?」


「ずっと…気になっていたんです。」

「どうしてそこまで、絵里先輩が意地になるのか。」


「別に、そんなのじゃ…」


「初めて会ったときから…ずっと。」

「どこか、触れてほしくないようで。」

「それでいて、知っていてほしいような。」

「…そんな気が、したんです。」


「…」


「変な所で、意地になって。」

「頑固で、素直じゃなくて。」

「どこか不器用で、でも、いつも誰かの為に動いて。」


「だからこそ…私は、貴女に憧れたんです。」
404: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:05:02.31 ID:L6Jsoxy3.net
「…」


「信じられませんか?」


「だって…」


「きっとそれは、私だけじゃないと思いますよ?」

「みんな、そんな貴女が大好きなんです。」


「海未…」


「私も、何度も諦めてきました。」

「ほんの些細な事も含めて、何度も。」


「その度に、穂乃果やことりが励ましてくれたんです。」

「何度も何度も、私なら出来る、って。」

「そばにいてくれたから、今、私はここにいるんです。」


「今度は、私が貴女にとってそうありたいんです。」
405: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:05:33.19 ID:L6Jsoxy3.net
「私はそんな…」


「いつか、言ったでしょう?」

「その人の評価は、その人自身が決めるものではない、と。」


「私の目に映る貴女は…」

「いつまでも、私の憧れなんです。」


「…」


「私が今、やりたい事は。」

「貴女と、同じステージに立つ事ですから。」

「…絵里先輩。」


「どうして、そこまで…」


「自分でも、らしくない事を言っていると思います。」

「でも、そうですね…」

「少し、クセになってきたのかもしれません。」
406: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:06:15.28 ID:L6Jsoxy3.net
かつて見た、朗らかな笑顔で

頬を赤らめる、目の前の彼女


「勿論、強制はしません。」

「貴女が、選んで下さい。」


「でも、欲を言えば…」

「先輩のステージ衣装には、少し興味がありますね。」


どこかふざけて、でも真面目に答えるその姿に

いつか、遊びに出た日を思い出す


「それでは、今日は失礼しますね。」

「それと…」


どこか少し、言いにくそうに


「また…よければ、遊びに行きましょう。」

「いつかの、貴女と同じ様に。」

「ここにいる私は、ただの園田海未ですから。」
407: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:06:45.36 ID:L6Jsoxy3.net
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「…」


青い、空を見上げて

はあ、とため息をつく


仕事に身が入らずに

思い出すのは、昨日の記憶


「私の、やりたい事…」


もし私が、生徒会長なんかでは無かったら

もし私が、もう少し自分に素直だったなら


「そんな物…」


それはきっと…


「…!」


不意に、視界が捉えた誰かの右手


「貴女達…」
408: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:07:17.36 ID:L6Jsoxy3.net
「生徒会長…いや、絵里先輩。」

「お願いがあります!」


「な、何…?」


「絵里先輩!」

「μ'sに、入って下さい!」


強制じゃないって、言ったじゃない


「一緒にμ'sで踊ってほしいです!」


海未の…嘘つき


「…スクールアイドルとして!」


「…」


けど、差し出されたその手を取ってみたくなるのは…


「やってみればいいやん?」


「希…」
409: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:07:50.45 ID:L6Jsoxy3.net
「ウチらは皆、可能性に満ちてる。」

「やりたいなら、やってみればいい。」

「その手を取ったら…きっと。」

「えりちの好きな、新しい『何か』と出会えるよ。」


「…いつかの、ウチみたいに。」

「本当にやりたい事って、そんな感じで始まるんやない?」



『ともだちに、なろう!』


そうやって始まった---私達のように


「私も…そう思います。」


背中にふれた、ぬくもりの先

目を奪われた---私達のように


ただ、今だけは


「…」


---ありがとう

なんて、口にはせずに


そっと、右手のあたたかさを感じて
410: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:08:30.28 ID:L6Jsoxy3.net
「絵里さん…」


「これで、8人…!」


「…いや。」

「9人や、ウチをいれて♪」


「希先輩も…?」


「占いで出てたんや。」

「このグループは9人になった時、未来が開けるって。」

「だからつけたん。」

「9人の歌の女神…μ'sって。」


「じゃっ、じゃあ…あの名前つけてくれたのって希先輩だったんですか!?」


「うふふっ♪」


「希…」


ずっとやりたかったくせに

なんて、言いたくなるのを我慢する

一人だった頃から…ファンだったのを、知っているから
411: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:09:07.20 ID:L6Jsoxy3.net
「…」


そっと、足を踏み出して


「…どこいくん?」


「…決まってるでしょ?」


今度こそ、答えは決まってるから


「練習よ!」


「「やったあ~!!」」


…なんて言ってみた物の

私を押しのける勢いで、走っていく彼女達


「もう…呆れるわ。」


「そんな事言って、楽しみで仕方ないんやろー?」


「はいはい、さっさと行く。」


「はーい!」


あの日、ここで初めて言葉を交わした日

きっと…私は、笑っていたと思うから
412: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:09:38.72 ID:L6Jsoxy3.net
-----



「決めたんだ?」


「いつからいたのよ…」


「『私の、やりたい事…』からかな?」


「…全部じゃない。」


「ふふ、ホントは励ましに来たんだけどね♪」

「そんな必要なかったかな?」


「…ありがとう。」


そっと、彼女に頭を下げる


「んふっ♪」

「なんか、優越感♡」


「っもう…!」


憎めないくらいの、笑顔
413: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:11:20.45 ID:L6Jsoxy3.net
「…決めたから。」


それは、いつもの日常で

山も谷もない、平凡な日々で

劇的な快進撃も、涙溢れる喜劇もなくて

…ただの、ノンフィクションの一日で


「…」


あの日初めて聞いた風を切る音は

今はもう、聞こえる事は無くなって


「絵里先輩!」


駆け寄って、手を取って

代わりに聞こえる、心に届く声

繋いで、紡いで

ここからが、新しい…



「頑張りなよ?」

「μ'sの、絢瀬絵里♪」


「…ええ!」


私の---私達の、物語
414: 名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/ 2016/02/19(金) 18:14:08.50 ID:L6Jsoxy3.net
これにて完結です
一度落ちたにも関わらず、読んで頂きありがとうございました
定期的に来られず、保守してくれた方々もありがとうございます

質問等あれば、どうぞ。
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『絵里「風を切る音、心を射て。」』へのコメント

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