凛「陽炎の頃」

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凛-アイキャッチ13
1: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 23:08:10.87 ID:8POhiXyX.net
花陽「ねえ、凛ちゃん。凛ちゃんってテレビあんまり見ないの?」

凛「テレビ? あんまり見ないかなー」

花陽「凛ちゃんとテレビの話とかあまりしたことないから気になって……」

凛「んー、テレビの前でジッとしてられないんだよね」

凛「テレビ見てる時間に身体動かしたりしたいにゃ」

花陽「そうなんだ。面白いバラエティ番組とかいっぱいあるんだけどなぁ」

凛(バラエティ番組ねえ。面白いということは知ってはいるけれど、わざわざ見るほどの物ではない)

凛(家では読書をしている時間が多いせいか、私にはテレビをチェックしている暇がないのだ)

元スレ: 凛「陽炎の頃」

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3: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 23:15:09.00 ID:8POhiXyX.net
凛「かよちんはバラエティ好きなの?」

花陽「アイドルがゲストに来ることが多いから、よく見るんだ」

凛(目の前にいる少女、小泉花陽のことを私はかよちんと呼んでいる)

凛(それは幼い頃からの取り決めのようなものなのだが、最近は些かその渾名を呼ぶのが恥ずかしくなってきている)

凛(何せ、『ちん』だ。うら若き16歳の乙女が口にするには中々にハードルが高い)

凛(かよちんという渾名を無くし花陽ちゃんと呼べば解決なのだろうが、渾名とは友情の証でもある)

凛(恥じらう旨を伝えれば花陽とて無下にはしないだろう。万事解決に至る)

凛(しかし、しかしだ。花陽の知る星空凛という少女は蟋蟀のような呑気で飄々とした存在なのだ)

凛(彼女の知る星空凛は『ちん』を口にすることを恥じらうか? 答えは否だ)
7: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 23:21:26.89 ID:8POhiXyX.net
凛(他者とのコミュニケーションにおいて必要不可欠なのは、相手に安心感と安定感を抱かせることである)

凛(○○はこういう性格で、こういう言動を取る。相手のそんな思い込み通りに行動しなければ、相手は不信感と気まずさを覚える)

凛(花陽にとっての私は、活発で飄々とした蟋蟀。だからこそ、違和の浮かぶ言葉を口にしてはいけない)

凛「かよちんの勧めるものなら、凛も見るにゃー! かよちんがおススメしてくれるもの、面白いのが多いもん!」

花陽「本当? 最近だと深夜バラエティの……」

凛(例えそれが偽りでも、私は彼女にとっての星空凛であり続けなければいけない)

凛(彼女と相対する私という存在が、陽炎のように揺らめく幻想だとしても)
9: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 23:28:03.28 ID:8POhiXyX.net
部室

凛(常々思うのだが、自分がこうしてスクールアイドルをしているという現状は中々に奇妙なものだ)

凛(元々、花陽をアイドルにして私は陸上部の一部員としてその活動を見守る予定だったというのに)

凛(それもこれも真姫が悪い。夕焼けに染まる屋上で、あんな状況に陥ったら首を振るわけにはいかないではないか)

凛(……青春小説の一場面のようで気分が高揚した、なんてどうしようもない事実は墓の下まで持っていこう)

真姫「……」

凛(スクールアイドルになってしまった現実は変えられない、変えられないならばそこで頑張るしかない。これも試練だ)

真姫「……」

凛「……」

凛(ただ、それが試練なのだとしてもこんな気まずい雰囲気は正直なところ御免こうむりたい)
10: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 23:35:25.01 ID:8POhiXyX.net
真姫「……」

凛(部室で真姫と二人きり、こんな光景はよくあることだ)

凛(花陽が掃除なり日直なりをし、真姫と私が一番乗りならこの状況はやむを得ない)

凛(別に真姫が嫌いなわけではない。むしろ同級生なのだから信頼で言えば花陽の次程度にはしている)

凛(問題は一つ。共通の話題が無さすぎて話が弾まない)

真姫「……そういえば、この間にこちゃんが」

凛「うんうん」

凛(真姫のにこさん自慢を聞くのもこれで何度目になるだろう。百七十八回を過ぎた辺りから数えるのをやめたせいで、正確な数字は分からない)

凛(ストックが少ないせいで、にこさんの話題に対する相槌の技量がめきめきと上がっていっているのが、何とも言い難い)
11: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 23:41:08.95 ID:8POhiXyX.net
真姫「その時雪が降ってきて……」

凛(この話ももう何度目だろう。話の大部分を聞いていなくとも相槌が打てる)

凛(私は沈黙を嫌う人間ではない。むしろ沈黙していたいタイプだ)

凛(しかし真姫は沈黙を嫌うようで、彼女は少し会話が続かないだけで気まずさを覚える)

凛(沈黙には気まずさなど覚えたこともないけれど、真姫の感じている気まずさが私を気まずくさせるのだ)

凛(だから、こうして繰り返し再生のビデオテープのような会話でも、気怠さどころか私にはとっては有難い)

凛(無論、誰か来てくれればそれが一番いいのだけれど)

真姫「七色に輝く龍がにこちゃんと相対したのよ」

凛「怖いにゃー」
13: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 23:51:52.98 ID:8POhiXyX.net
ガチャ

海未「失礼します……おや、まだ凛と真姫だけですか」

真姫「お疲れ様。穂乃果とことりは? 一緒じゃないの?」

海未「二人ともクラスの方で用事がありまして。私だけ先に来たんです」

凛「そうなんだ、穂乃果ちゃん達にも色々あるんだね」

海未「生徒会長ですからね、雑務や相談も多いですよ」

凛(海未さんは私の尊敬している先輩だ)

凛(勉強も運動も出来、日舞と弓道も一線級の文武両道を絵に書いたような人である)

凛(性格は厳しくも優しく、非の打ち所がまるでない。唯一難点を挙げるとすれば……)
15: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 23:56:32.25 ID:8POhiXyX.net
海未「ところで凛」コソコソ

凛「なに、海未ちゃん」コソコソ

海未「この間言っていた同人誌、手に入りましたよ。らしんばんで売ってました」コソコソ

凛「本当? 読ませてほしいにゃ」コソコソ

海未「家にありますから、近いうちに来てください。な、なんなら今日でも……」コソコソ

凛(園田海未の、恐らく唯一とも呼べる問題点。それは彼女が俗に言う腐女子であることだ)

凛(男同士の絡みを喜び、それを生きる糧とする。海未さんはそんな性的傾向を持ってしまっている)
17: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 00:05:02.71 ID:1WxbVyrd.net
凛(私は別に男が男と絡んでいようと興奮することもなければ、何とも思わない)

凛(しかし、海未さんには私が腐の一人であると誤解されてしまっている)

凛(今まで腐仲間というものが居なかった海未さんの為にBL好きのフリをしてはいるが、断じて好きではないのだ)

凛(本当だ)

真姫「……? 何よ、二人でこそこそして」

海未「何でもありませんよ。最近読んだ漫画が面白かったという話をしていただけです」

真姫「へえ、漫画なんて読むの。意外だわ」

海未「私だって漫画くらいは読みますよ? むしろ多いくらいです」

凛「凛が知らないような漫画もいっぱい読んでるんだ」

真姫「海未が読むマンガってちょっと興味あるわね、今度貸してくれない?」

凛(……あっ)
18: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 00:13:14.71 ID:1WxbVyrd.net
海未「……」

凛(やらかした。マンガじゃなく別の話題に転換すれば良かったのに)

凛(海未ちゃんが家にある漫画の九割は同人誌だ。それもR-18の)

凛(今回買った同人誌だって、この前言っていたということは福荒か黄黒だろう)

凛(一般人に貸せるか、そんなもの。縁を切られても文句は言えない)

海未「あ、あの、ですね、その……」

凛(かといって同人以外も腐要素があるものばかりだ。今の困惑している海未ちゃんは、いつ口を滑らせてもおかしくない……)

凛(仕方ない、フォローを入れよう)

凛「西洋骨董洋菓子店っていう漫画なんだ。面白いよ」
19: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 00:20:01.10 ID:1WxbVyrd.net
真姫「ああ、ドラマやってたやつね?」

凛「そうそう! 凄く面白いんだ!」

海未「そ、そうなんです。よしながふみさんにハマってまして……明日持ってきますね」

真姫「ありがとう、マンガを読むの久しぶりだから楽しみにしておくわ」

凛(個人的にはよしながふみ作品は、腐に耐性の無い一般人に勧めても問題の無い作品だと思う)

凛(BLという要素を抜きにしても興味深い内容で、ストーリーも面白い物が多い。洗脳するにも普通に勧めるにもおススメだ)

凛(短編集は若干怪しいが……まあ、短編集を読みたがるほど真姫がマンガにハマるとも思えない。心配はないだろう)

海未「助かりました……」コソコソ

凛「気を付けないと駄目にゃ。バレたら面倒なことになりそうだし」コソコソ
20: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/01(日) 00:35:48.62 ID:1WxbVyrd.net
凛「久し振りってことは、真姫ちゃんも昔は漫画読んでたの?」

真姫「ええ。ブラックジャックとか動物のお医者さんとか……後ホラーマンガもよく読んだわ」

海未「ホラー漫画を?」

真姫「病院の待合室に大量にあったのよ」

凛(成程、確かに床屋や病院の本棚には確実にホラー漫画がある)

凛(たまに何処で買ってきたんだと言いたくなるようなマイナーな漫画さえあるのだから驚きだ)

凛(昔何となく行ってみた床屋にひばり書房の本がずらりと並んでいた時は閉口してしまった。流石に売ってくれとは言えなかったが)

真姫「ただ中学校くらいからあんまり読まなくなって……多分読むの二、三年ぶりくらいね」

海未「凄いですね、私は一週間も読まなければ耐えられませんよ」
29: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:03:16.38 ID:QW+Bs+Xo.net
真姫「まあ、私はマンガを読むのが趣味じゃないから」

真姫「私だって定期的にピアノを弾かないとストレスが溜まるわ」

凛(趣味というものは人其々だ。海未さんがBLを好むように、真姫はピアノを好む)

凛(私は言うまでもなく読書……なのだけれど、最近あまり時間が取れていないことも事実である)

凛(何せ海未さんとの交友が増えてしまったことでBLを定期的に勉強しなければならない)

凛(今朝は花陽にバラエティ番組も勧められてしまった、それも確認しなけばいけない)

凛(無論、学校では読書をすること能わず。彼女達の思う凛は読書をする人間ではないからだ)

凛(今はまだ何とか時間を取れてはいるものの、また交友が増えれば今度こそ時間は無くなるだろう)

真姫「苦りきったような顔してどうしたのよ、眠いの?」

凛「なんでもないにゃー」
30: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:12:57.11 ID:QW+Bs+Xo.net
屋上

穂乃果「柔軟やるよ! はい二人一組になってー!」

凛「凛は当然かよちんとペアにゃ。かーよちん、一緒に」

希「花陽ちゃん、たまには一緒にやらへん?」

花陽「は、はい!」

凛「えっ……」

凛(ペアになって。この言葉はある種恐怖でもある)

凛(何せこのグループは九人で構成されている。つまり二人一組の場合、誰かがあぶれることになるのだ)

凛(今までは指導係になることの多い穂乃果ちゃんや海未ちゃんが一人で号令していたが……)

海未「絵里、やりましょう」

絵里「いいわね、お願いするわ」

穂乃果「ことりちゃん、やろ!」

ことり「うん!」

凛(二人が既にペアを決めてしまっている。となると残るは私、真姫、にこさんだ)

凛(終わった、真姫は確実ににこさんとのペアを取りにいく。これは確定事項と言ってもいい)
33: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:35:05.43 ID:QW+Bs+Xo.net
凛(一人で柔軟体操なんて、難易度が高すぎる。洒落にならない)

凛(にこさんと真姫は……真姫がにこさんに接近している!)

真姫「に、にこちゃん良かったら私と……」

にこ「ええ、いいわよ」

凛(確定してしまった。自分が一人だという事実が)

凛(しかし逆に考えてみれば、一人というのはチャンスとも言える)

凛(二人一組だと相手がいる以上迷惑はかけられず、他の事に思考を裂くことが出来ない)

凛(一人だとその時間のほとんどを、適当に身体を動かしながら思考に充てられる)

凛(思考とは人間の糧だ。そう考えればこれはむしろ良い事じゃないか)

凛(よし、今日は一人でゆっくりと考え事を)

希「凛ちゃんも一緒にやらへん?」

凛「あ、うん」
34: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:42:48.46 ID:QW+Bs+Xo.net
希「いやー、凛ちゃん達と柔軟するのも久々やね」

凛「希ちゃんいつも絵里ちゃんとやってるし、凛もかよちんとやってるからにゃ」

凛(この人は希さんだ。絵里さんがここに入ると同時に九人が云々と言いつつ入ってきた)

凛(スピリチュアルなことに並々ならぬ興味を持ち、神社の巫女としてアルバイトをしている)

凛(似非関西弁を使いやや胡散臭い印象を持たれることも多そうだが、その実聖母のような人である。胸も大きい)

凛(頼れる先輩で、迷った時や何かあった時に確実に助けてくれるという安心感を抱かせてくれる)

花陽「凛ちゃん、痛いよぉ」

凛「ごめんごめん、引っ張りすぎたにゃ」

希「三人やと勝手が分からなくて難しいな」
35: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:49:55.40 ID:QW+Bs+Xo.net
希「じゃあウチが押すから、二人とも座って座って」

花陽「はい」

希「隙あり! ワシワシMAXやん!」

花陽「ぴゃあっ!」

凛(頼れる先輩ではあるのだが、たまに奇怪な行動を取ることがある)

凛(ワシワシMAXなる呪文を口にしながら他者の胸を弄るのだ)

凛(すわ同性愛者的側面を持っているのではないかとも思ったのだが、それも違うらしい)

凛(では何故胸に執着するのか、恐らく彼女はマザコンなのだ)

凛(だからこそ母性の象徴たる胸に並々ならぬ愛情を持つ。簡単な話だ)
36: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 01:58:35.52 ID:QW+Bs+Xo.net
凛(先輩がマザコンという事実は中々に度し難いものではあるが、同性愛者よりはマシだ)

凛「……」チラッ

花陽「? 凛ちゃんどうしたの?」

凛「何でもないよー」

凛(花陽は同性愛に限りなく近い感情を私に向けている)

凛(無論それは憧れ、友愛という感情を恋愛だと思い込んでいるだけに過ぎないのだろう)

凛(思春期によくあるそれは、歳を経るにつれて消え失せ黒歴史となる)

凛(この間の温泉旅行も真姫を誘う筈だったのに、気付けば花陽と二人きりだった)

凛(無論楽しかった、楽しくはあったが……夜布団に潜り込まれた時、私は死を覚悟したよ)

凛(結局何も無かったけれど、あれほど緊張したのは生まれて初めてだった)
37: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 02:58:50.62 ID:QW+Bs+Xo.net
希「それにしても凛ちゃんは身体硬いな」

凛「生まれつきなんだ」

希「お酢とか飲むと身体柔らかくなるらしいやん? 一回試してみたら?」

凛(よく聞く話だが、それはあまり効果が無い)

凛(酢の主成分である酢酸が骨のカルシウムを溶かし、身体が柔らかくなる……なんてことは実際には無いのだ)

凛(また乳酸が減るので筋肉がほぐれ一時的に柔らかくなったようには見えるが、別に身体が柔らかくなっているわけではない)

凛(ほぼ効果が無い。そんなことは分かっているが……)

凛「お酢? 帰ったら飲んでみるにゃ」

凛(先輩からの助言を雑学で無下にするほど、私も野暮ではない)
48: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/07(土) 10:43:20.00 ID:rVeuGiGL.net
屋上

にこ「そろそろ休憩しない?」

穂乃果「えー、もっと頑張ろうよ。まだまだやれるって!」

海未「最近の穂乃果、気合いが入っていますね」

ことり「うん、今までは休憩したい休憩したいって言ってたのにね」

絵里「そうね……何だか違和感を感じちゃうわ」

凛(違和感を感じる、よく聞く言葉ではあるがこれは間違いだ)

凛(違和感は覚えるものであり、違和感を感じるでは二重表現となってしまう)

凛(感じるといいたいならば、違和を感じるとすべきだ。それならば間違いではない)

凛(そんな訂正を、日常会話上でする必要は一切無いが。そんなことをしても空気が壊れるだけだ)

にこ「何言ってるのよ絵里、違和感は覚えるものよ」
49: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/07(土) 11:28:39.41 ID:yb39Y42J.net
絵里「え? あ、ああ……そうだったわね、うっかりしてたわ」

凛「……」

凛(小説や映画など、他人に表現する場においてはその間違いは糾弾されるべきだ)

凛(しかし単なる日常会話上において、何故その間違いを正す必要がある?)

凛(違和感を感じるでも、間違ってはいるものの意味合いは通じる。汲み取れる)

凛(ならばいいではないか。会話など、最悪意味さえ通じればボディーランゲージでも構わない)

凛(違和感を覚えている人間に最初に掛ける言葉が、それ意味間違ってるよ? ならば)

凛(それを訂正する人間こそ違和感を感じて、頭が頭痛で痛くなる)
50: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/07(土) 11:48:20.47 ID:yb39Y42J.net
凛(にこ先輩は無論善人だ。口では何のかんのと悪態を吐くことも多いが、根は優しいということを皆知っている)

凛(私達のアイドル活動を邪魔しようとしたのだって、厳しい現実を見せないためだったのだろう。挫ける前に止めさせようという考えがあっての行動だったのだろう)

凛(口にしたことはないが、彼女には感謝している。見習うべき点も多い)

凛(しかし。にこ先輩は一種絶望的とも言いたくなるほどに空気が読めない)

凛(異常に鋭い時もたまにあるのだが、基本的にはうすのろの牛のように鈍感である)

凛(何せ、あれほどあからさまな真姫の好意にも気付かぬ程だ。それがどれほどの物か、十分察せられるだろう)

にこ「気を付けなさいよねー、アホに見られちゃうわよ」

絵里「ええ、気を付けるわ」

凛(その鈍感さをもって、空気を破壊してくる点については、あまり尊敬できたものではない)
51: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/07(土) 12:00:21.38 ID:yb39Y42J.net
真姫「やっぱり格好いいわね」

凛「ん? 何が?」

真姫「にこちゃんよ。皆が注意できない中ズバッと意見を言う」

真姫「芯が通った強い人なのよね、だから私もにこちゃんのこと……」

真姫「……って、な、なんでもないわ!」

凛(信じる者は信者である。字面からも意味合いからも一切変わらないそれは至極当たり前のことではあるが)

凛(中々どうして面白い。何が面白いって、あれを見て格好いいという結論に至る思考回路だ)

凛(彼女は確かに芯が通った人間かもしれない、自分の信念に従い注意をしたのかもしれない)

凛(その可能性は否定しないが、確率は限りなく低いだろう。ただ単に思い付いたから注意してみたという側面が大きいように思える)

凛(恋は盲目、真姫は今、思考を一方向に固定されているようだ)

凛「……」

凛(反応に困った私も沈思黙考するのみである)
57: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 21:37:41.94 ID:cZMuElEQ.net
真姫「けど凛も思わない? にこちゃん凄いって」

凛(沈思黙考、と言ってみたところで真姫の口撃が止む事も無い)

凛(此方が黙った程度で止むのならば、そもそも真姫のことを信者呼ばわりすることもないのだ)

凛(そもそも彼女のにこさん自慢に相槌を打つのは、延々続く話を早めに終わらせるためである)

凛(円滑なコミュニケーションは頷きと合いの手によって形成されるとは言うが、本当にこれをコミュニケーションと呼んでもいいのだろうか)

凛「にこちゃん? うーん、頭がいいとは思うにゃ。違和感は覚えるものなんて、凛は全然知らなかったよー!」

真姫「そう! にこちゃんは頭も良いのよ! それに気配りも出来て可愛くて……その上にこちゃんはね」

凛「う、うん……」
59: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 21:50:35.05 ID:cZMuElEQ.net
真姫「にこちゃんの魅力と言えばまず可愛さが挙げられるわよね。勿論それはぴょこんと生えたツインテールであったり、潤んだお目々であったり、うりゅうりゅの所作だったりするわ。

真姫「初見の人間は大概そう言うのよ。けどそれは、初歩の初歩……にこちゃんの可愛らしさはにこちゃん入門の玄関口に過ぎないのよね。

真姫「勿論にこちゃんを可愛いと言う人が皆素人にこちゃん好きなわけじゃないわよ? 玄人でもあえてその可愛さのみを追求し、新たな可能性を見いだす軸にしている人も存在しているわ。

真姫「しかし一段進んだ領域、にこちゃんの可愛さのその一段階先で皆はにこちゃんの隠された魅力に気付くの。

真姫「それは本性、ファンに見せる作られた人格ではなく素の、等身大の一人の少女としてのにこちゃん。

真姫「それがたまっらなく魅力的なのよ! 最高なの! 腹黒なんて言う人もいるけど、言いたい人には言わせておけばいいのよ、だってありのままで接してくれるにこちゃんはこの世の誰よりも、アイドルなんだから!

凛「うん」

凛(洗脳を受けた人間。あるいは押し売りを受けた人間なら分かるだろうか)

凛(此方に自己の意見を押し付けようとする人間は、とにかく反論の余地も無いほどに喋り続ける)

凛(それが盲目的であればある程、信じない者の目線からは異質に見える)
61: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 22:02:03.48 ID:cZMuElEQ.net
凛(異質な者は異端である。人々は前史より異端を迫害することに努めてきた)

凛(自分と意見が違うからと攻撃し、考えが理解できないからと村八分にし)

凛(それは人間という生物を、マシンへと作り替えるには必要なことなのかもしれない)

凛(人間は生きていく上で、いつかマシンになる必要性を迫られる。人々に準じ、輪に混じり、異端を迫害しなければいけない時がいずれ来る)

凛(異端を迫害しない人間はまた異端。ならば罪悪感を殺し、機械の心を持って他者に望まねばならない)

凛(しかしこういった洗脳に近いものの場合、此方が相手を異端と判断することは相手の思惑通りである)

凛(何故なら、異端と思った時点でその相手を意識してしまっているからだ)

凛(意識の中に存在するものは、いずれ脳の表層を過ぎり徐々に膨らんでいく。少しずつ、気になっていく)

凛(信じる者と書いて信者ならば、信じない者もまた信者ではないだろうか)

真姫「にこちゃんは甘い匂いがするのよ!」

凛「あ、それは凛も思ってた」
62: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/08(日) 22:13:09.39 ID:cZMuElEQ.net
真姫「何なのかしら、あれ」

凛「何だろう。ミルク系? の甘い匂いなんだよね」

真姫「そうそう。牛乳とかよく飲んでるから?」

凛「凛も牛乳飲んでるけど、あんな匂いはしないにゃ」

凛(とは言っても、自分の匂いは自分ではあまり分からない)

凛(花陽がよく擦りついてくるので臭くはないのだろうが、香水の一つもつけていない私は甘い匂いもしないだろう)

凛(練習後の今なんかは、制汗スプレーをしているおかげで抑えられてはいるものの若干の汗臭さを感じてしまう)

凛(真姫は練習後でもシトラス系の良い匂いだ。花陽は無臭、何故か無臭。意味が分からないくらい無臭だ)

凛(それにしても、にこさんの放つ甘い匂いは中々に謎である。汗が砂糖水というわけでもないだろうに)

真姫「体質とかかしら? 羨ましいわね……」

凛「確かに羨ましいにゃー……本当に」
72: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:08:40.41 ID:1VlUZ+UJ.net
部室

凛(ある種無為的とも言えるものにも、必然的に価値は定まる)

凛(私にとって無価値な物が、他者にとってはダイヤモンドにもひけを取らない価値があったり)

凛(そのまた逆も然り。他者にとって不必要な物が私にとって何よりも価値があるものであったりもする)

凛(つまりこの世に不必要なものというものはなく、全てに何らかの価値が定められている)

凛(いるのだが──)

にこ「にっこにこにー、はい!」

凛「にっこにこにー!」

にこ「中々やるじゃない、にこには遠く及ばないとはいえね」

凛「あ、ありがとうにゃー」

凛(これをやることに、果たして何の価値があるというのだろうか)
73: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 22:14:27.69 ID:1VlUZ+UJ.net
にこ「ほら、もう1セットよ。にっこにこにー」

凛「にっこにこにー!」

にこ「まだまだぁ!」

凛「にっこにこにー!」

凛(にこにこにーに価値があることは私も認める)

凛(かの名状し難き不可解な文字列でにこさんは、多大なる人気を得ているのだから)

凛(しかし、にこにこにーはにこさんがにこにこにーしてこそにこにこにーをにこにこにーたらしめるのだ)

凛(それを私がやる意味はないじゃないか。りんりんりーである)

凛(先輩命令とはいえ、これほど価値の見いだせない特訓もないものだ)
94: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 02:14:21.66 ID:gkzGbC3n.net
にこ「ほら凛、腕が下がってるわよ!」

凛「に、にっこにこにー!」

凛(このにこにこにーの訓練、一見すると簡単な舞いに見える)

凛(事実、一、二度ならば簡単である。しかし、数十回、数百回と繰り返せばどうだろうか)

凛(次第に腕に疲労が溜まり、笑顔は苦痛に歪み、澄んでいたはずの目に濁りが差す)

凛「はぁ……はぁ……に、にこちゃん、もう限界にゃ」

にこ「あら、そう? ならにこにこにー特訓はここまでにしときましょうか」

凛「そうしてくれると助かるよ」

凛(ようやく終わった。気紛れでこうして疲れさせられるのは中々どうして、辛いものがある)

にこ「じゃあ次は可愛いストローの咥え方と、にこにーにこちゃんのハモリやるわよ」

凛「えっ……」
95: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 02:19:55.46 ID:gkzGbC3n.net
帰り道

凛「……」

花陽「り、凛ちゃん大丈夫? なんか顔が灰色だよ?」

凛「にこちゃんの特訓のせいにゃ……あれは地獄としか言いようがないよ」

花陽「ごめんね、私も付き合えれば良かったんだけど」

凛「アルパカの世話があったんだからしょうがないよ。それに、あんなくだらない特訓にかよちんを付き合わせるわけにはいかないにゃ」

凛(体力というよりは、精神にダメージがある。こんな日は古書店に限るのだが……)

凛(先日桐谷古書堂の店主から、しばらく休業するとのメールが来たのでそういうわけにもいかない)

凛(少し前の読書会の時から顔色が悪かったけれど、大丈夫なのだろうか。もう歳だからなあ、店主)

花陽「そういえば凛ちゃんって、本とか読まないの?」

凛「にゃ?」
96: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 02:26:19.98 ID:gkzGbC3n.net
凛「え、いや……凛は」

花陽「どうしたの? 冷や汗凄いけど……」

凛(何で急にそんなこと……? またぞろ、ただの気紛れなんだろうけれど、どうにもおかしい)

凛(花陽に接している時の私のキャラクタアは、本という単語からは程遠くそんな発想も出てこない筈だ)

凛(じゃあ、何故? 何処かにとっかかりがある筈、私と本を結びつける何かが……) 

凛「かよちんこそ、急に何でそんなことを?」

花陽「……凛ちゃん、実は本好きなんじゃないかなって思って」

凛(……気付かれた? ここは若干焦り気味に答えて反応を探ってみよう)

凛「な、なんで!? 凛は本なんて、小学校の時に読んだかいけつゾロリ以降読んだことないにゃ!」

凛(あくまでフォロー出来る範囲での焦り。花陽は、どうでる?)
97: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 02:32:13.42 ID:gkzGbC3n.net
花陽「この前、二人で温泉に行ったよね?」

凛「う、うん。凄い楽しかったよね」

花陽「その時、凛ちゃんがお風呂に入りに行ってる時、見ちゃったんだ」

花陽「凛ちゃんの鞄から、表紙がボロボロの小説が飛び出てるの」

花陽「おかしいと思って、もう少し中を見てみたら、五冊の小説」

花陽「二泊三日の旅で五冊って、丁度本好きの持ち方だよね。行き帰りで二冊、現地で夜中に一日一冊」

花陽「しかも全部、携帯小説やライトノベルなんかじゃなく普通の小説。私が聞いたことないような作家の本もあった」

花陽「……ねえ、凛ちゃん。私に、隠し事してない?」

凛「……」

凛(どうしよう、思ったより普通に推理されてる。いやそれ以前に、小説を見られた時点でアウトかな)
98: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 02:41:12.51 ID:gkzGbC3n.net
凛(不思議と、心は落ち着いていた)

凛(あれほど、花陽にだけは気付かれたくなかった本当の凛。蟋蟀の皮を被った、その中身)

凛(それをこうして曝け出されてしまったというのに、何故か何も感じられない)

凛(常に何かを思考し、常に何かを感じてきた私にとって)

凛(生まれて初めてとも言える無感動。それはきっと、安堵という感情だった)

凛「私は……」

凛(ここで全てを認めてしまえば、今迄のような圧迫感はきっと無くなる)

凛(自分を見失うような、陽炎のような世界は終わる。その後には、永遠に続く安堵があるのだろう)

凛「私は……」

凛(きっと受け入れてくれる。今までの苦労が無に帰したとして、ここからの一生安堵感に満ち満ちた生活を送れるのならばなんと幸福なことだろう?)

凛(スクールアイドルを引退し、日がな一日書物に囲まれながら学校生活を過ごす。素晴らしいことじゃないか)

凛「私はっ……!」
99: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 02:48:17.92 ID:gkzGbC3n.net
花陽「凛ちゃんが小説を持ってるって知った時、私は怖くなったんだ」

凛「……え?」

花陽「私の知ってる凛ちゃんは、本なんて読まない。じゃあ、何で凛ちゃんは本を持ってるの?」

花陽「そう思った時、凛ちゃんが何処かに行っちゃうみたいで、夜中も目が覚めたら凛ちゃんがいなくなってる気がしてずっと抱き着いちゃって……」

凛「かよちん、そうだったんだ……」

凛(求愛行動の一種かと思っていたあれは、花陽の怯えから来ていたものだったんだ)

凛(言われてみれば、手が震えていたような気がする。襲われるかと気が気じゃなくて、その時はそこまで気を回すことが出来なかった)

花陽「ねえ、凛ちゃん。凛ちゃんは、本当に凛ちゃんなの?」

凛「……ねえ、かよちん」

凛「凛は、何処にも行ったりなんかしないよ。本当か偽物かなんてのも関係ない。星空凛は、かよちんの目の前にいる星空凛だけなんだから」
100: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 02:58:52.49 ID:gkzGbC3n.net
花陽「凛ちゃん、本当? ずっと傍にいてくれる」

凛「本当だよ。凛が、かよちんを置いて何処かに行くわけない。高校を卒業しても、大学を卒業しても」

凛「何があっても、傍にいるから」

凛(きっとこうなるから、私は気付かれたくなかったんだ)

凛(いつまでも一緒にいる。幸せな台詞だ、映画や小説ならここで大団円、ハッピーエンドのフィナーレだ)

凛(だけど、現実は物語じゃない。幸せな完結後も物語は続く)

凛(永遠の共有は不可能だ。未来に何があるかなんて保証は誰にも出来ないし、出来る筈がない)

凛(それでも今は、傍に居ると言いたかった。一緒に居たいと、言いたかった)

凛(陽炎のような関係性を、薄氷のように不確かな時間を)

凛(花陽と共に過ごしていきたいと、そう思ったのだから)
101: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 03:14:55.32 ID:gkzGbC3n.net
部室

穂乃果「若いっ日っはーみな何かを目指っせー」

ことり「ふ、古いね穂乃果ちゃん」

穂乃果「私は今、心も身体もさわやかなんだよ! というのもね……」

穂乃果「じゃじゃーん! 前から書いてた小説が完成したの!」

凛「……!」

凛(穂乃果さんが小説を書いてた……!? そんな話一度も聞いたことない)

凛(いや、今はインターネットの台頭によりクリエイターの敷居が下がっているから、よくある話か)

凛(小説なら小説家になろう、エブリスタ、野いちご。絵ならピクシブ辺りが有名だ)

凛(更に敷居が下がると、掲示板サイトでやるSSなんてものまである。二次創作メインだからこれはどうとも言えないが)
102: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 03:28:02.59 ID:gkzGbC3n.net
凛(ネット上では誰でも小説家を気取れる。どんな駄文であれ、未完成であれ、本人の気持ち次第で作家だ)

凛(片腹痛い、と一蹴したいが最近ではインターネット上の連載から書籍化する例も多い)

凛(今の出版基準が緩くなったのかもしれないが、素人のレベルが上がったと言った方が良いのかもしれない)

凛「穂乃果ちゃん、小説書いてたの? どんなやつにゃ?」

穂乃果「ん、気になる?」

凛「凛は小説とか読まないけど、友達が書いたとあれば気になるよ」

穂乃果「ふふんっ、いいよ、見せてあげる! これが穂乃果の書いた、本格推理小説だよ!」

ことり「ほ、本格?」

穂乃果「よく分からないけど、本格って付ければ何か格好よくない?」
104: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 03:53:43.24 ID:gkzGbC3n.net
凛(内容割愛)

凛(ことりちゃんと共に読んだそれは、行動とキャラクターがどう思ったかが短文で書き連ねられているだけのお粗末なものだった)

凛(圧倒的に描写力の無いそれは、まさに携帯小説と呼ぶに相応しく、クリエイターの敷居が下がりきったことを表している)

凛「凄いね、穂乃果ちゃん。よく完結させたね」

ことり「うん、面白かったよ!」

凛(完結させたこと以外褒めるところがない、と言えば中々辛辣に聞こえるかもしれないが)

凛(実のところ、小説を完結させるということは既に褒められるべきものである)

凛(世の作家志望を名乗る連中の果たして何割が、実際に作品を完成させているだろうか)

凛(小説賞に投稿されてくる作品にも、未完成品があるとも言われているくらいだ。そんな中、作品を完成させた穂乃果さんは凄い女である)

穂乃果「このトリックとか苦労したんだよー」

ことり「壁の向こうから気功を使って心臓を止めて、密室殺人を作り上げたなんて吃驚したよお」
105: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 04:04:28.26 ID:gkzGbC3n.net
凛「うんうん、ドキドキしたにゃ」

凛(まあ、そのトリック実は使われてるんだけどね)

凛(深見真のブロークンフィストでは、壁越しに気合で殺すというトリックが使われている)

凛(ブロークンフィストほど有名ではないが、鯨統一郎の哲学探偵という連作短編でも同様のネタが使われている回がある)

凛(哲学探偵は私にとっても思い出深い作品だ。何せ購入して一度読み、本棚のケストナーの飛ぶ教室と米澤穂信のボトルネックの間に挟み込んでおいた筈なのに)

凛(いつの間にか消えていたという、消失ミステリーを作り出した作品だからである。ミステリー小説だからってミステリーを起こさなくてもいいのに)

穂乃果「これ、乱歩賞に送る予定なんだ! 賞金で奢ってあげるね!」

ことり「うん、楽しみにしてるよ!」

凛(これが乱歩賞を取ったら、それこそミステリーだ。しかし、小説賞に送ることは良い事だ、自分の作品がどう評価されるかを知ることが出来る)

凛「頑張ってね、穂乃果ちゃん。応援してるにゃ」
106: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 04:09:27.65 ID:gkzGbC3n.net
カラッ

花陽「凛ちゃん、いる?」

凛「いるよー。かよちん、先生からの呼び出し何だったにゃ?」

花陽「授業中の音読でもうちょっと声を出せって、注意されちゃった」

ことり「ウィスパーボイスが分からないとは、頭の固い教員だね」

花陽「ううん、声が小さいのは本当だから。凛ちゃん、そろそろ帰ろう?」

凛「そうだにゃ、もう夕方だし……穂乃果ちゃん達はどうする?」

穂乃果「私はもう少しいるよー。絵里ちゃん達待つからね」

ことり「穂乃果ちゃんが待つなら、私も待ってようかな」

凛「そう? じゃあ凛達、先に帰るね」

穂乃果「うん、また明日!」
107: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 04:14:23.03 ID:gkzGbC3n.net
帰り道

凛「……」

花陽「……」

凛「……」

花陽「凛ちゃん、いつもの凛ちゃんなんだね」

凛「凛は凛だよ。いつも通りの、ね」

凛(あの日、私は花陽に真実を言わなかった。あの小説は父が勝手に入れたもので、凛が持ってきたものではない)

凛(そんな釈明が、花陽に通用したかは分からない。だけど花陽は、それを飲み込んでくれた)

凛(無理やりにも、飲み込んでくれた。だから、私は凛のままだ)

凛(圧迫感はある、隠している苦痛はある。けれど、花陽の前でだけでも、私は凛でいたい。私自身がそう望んだのだ)
108: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 04:20:35.88 ID:gkzGbC3n.net
凛「手、繋ぐにゃ」

花陽「……うん」

凛(差し出された手を、私は軽く握る。掌から伝わる冷たさに、私は自然花陽の手を強く握りしめる)

凛(繋がれた手と、若干離れた肩。それは私と花陽の今、いや今迄からも、そしてこれからも続く距離感を表している)

凛(心の底では繋がっているものの、表層が、言い表せない何かが乖離している)

凛「もうすぐ、冬だね」

花陽「冷えてくるから、ちゃんと着込まなきゃ駄目だよ」

凛「うん、分かってるにゃ」

凛(突然吹いた風に、身体が震える。秋と冬の境目に私達はいる)

凛(交わらない二つの影が、秋の夕暮に照らされて何処までも伸びていくような気がした)


109: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 04:23:07.24 ID:gkzGbC3n.net
拙作お読みいただきありがとうございました
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『凛「陽炎の頃」』へのコメント

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