海未「桃の木の記憶」

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海未-アイキャッチ38
1: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:29:40.53 ID:OkQN5gxn.net
今日は3月15日。
以前インターネットで調べたところ、「靴の記念日」ならしいですが、世間的には特に何もない平凡な日のひとつと言えるでしょう。
ですが、私、園田海未にとっては一年に一度だけのとても特別な日なのです。

元スレ: 海未「桃の木の記憶」

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2: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:31:05.88 ID:OkQN5gxn.net
「海未ちゃん、お誕生日おめでとう!!」

海未「みんな…ありがとうございます!」

放課後に穂乃果が珍しく勉強を教えて欲しいと言うので、それに付き合うこと1時間。
遅れて部室に向かうと、案の定μ'sのメンバーが私のことを祝福してくれました。
案の定というのは、メンバーの誕生日には毎回このようなちょっとしたサプライズを用意するのがお決まりになっていたので、何となく察していたからです。

それでも、やっぱり嬉しくて…

凛「あれ~? 海未ちゃん、もしかして泣いてるの?」

海未「うぅ…だ、だって…仕方ないじゃないですか…。みんなからこうして祝福をしていただけるなんて…私は幸せ者ですね」

希「ふふ、海未ちゃんは可愛いなぁ~♪」ワシッ

海未「ひぅ!? ちょ、ちょっと希!!」
3: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:32:02.59 ID:OkQN5gxn.net
絵里「こら、希!今日はワシワシ禁止って言ったはずよ?」

希「あ…そうやったな。ついつい♪」

ことり「もう、希ちゃんったら~…。今日は海未ちゃんのお誕生日なんだからね?」

穂乃果「そうだよ! 穂乃果だって頑張って海未ちゃんを引き留めてたんだから!」

海未「私に勉強を教えてもらっておいて…威張ることですか…」ハァ

穂乃果「あ、あはは…そうでした…」

にこ「あんた、そんな引き留め方してたの? …まったく、誕生日くらい海未に迷惑かけるのやめなさいよね」

海未「いえ、それは全然構わないんです。むしろ普段からもっと積極的に勉強を教わりに来てくれたらいいのですが…」

穂乃果「うわーん! 何で海未ちゃんのお誕生会なのに穂乃果が怒られているのー!?」

絵里「ま、まあそれもそうよね。穂乃果へのお説教はこれくらいにして…海未、改めてお誕生日おめでとう! 大したものは用意できなかったけれど、今日くらいはゆっくり休んでちょうだい?」

海未「ええ、ありがとうございます」

凛「よーし、それじゃあパーティーの始まりにゃー!!」

「かんぱーい!!」
4: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:32:44.54 ID:OkQN5gxn.net
~~~

海未「ふぅ…」

時刻は夜の20時を少し過ぎた頃。お風呂上りに縁側に腰を降ろして夜風に当たると、流石にまだ少し寒いですが…なんだか清々しい気分になります。
障子から漏れる光にぼんやりと照らされた桃の花のほのかなピンク色。これを眺めるのが毎年誕生日の夜の習慣となっています。
昼間の騒がしさと真逆の夜の静寂に包まれると、だんだんと意識が集中してきて…そして、昔のことを思い出すのです。
5: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:34:42.84 ID:OkQN5gxn.net
………


「こんばんは」

うみ(4歳)「…きゃっ!?」ビクッ

「あっ…ご、ごめんなさい。驚かせてしまったみたいですね」

うみ「だ…だれ…?」

「わ、私…ですか?私は……あなたのお母さまの古い友人、ですよ」

うみ「お母さまの…おともだち?お名前は?」

「名前、ですか…。そうですね………桃子と言います」

うみ「ももこさん?」

桃子「はい、そうです。…私は桃子です!」

うみ「ももこさんはこんな時間にどうしたんですか?」

桃子「えーと…あなた、海未さん…ですよね?」

うみ「はい、そうですが」

桃子「やっぱり! 実は私はあなたのお誕生日をお祝いしに来たんですよ!」

うみ「ほんとう!? わたしのお誕生日のお祝い?」

桃子「ええ、お誕生日おめでとうございます、海未さん」

うみ「えへへ…ありがとう!」

桃子「海未さんは、いくつになったのですか?」

うみ「えーと…4つです!」
6: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:35:44.89 ID:OkQN5gxn.net
桃子「4つですか!凄いです!…それでは、もう幼稚園に通われているのですか?」

うみ「うん! ほのかちゃんと一緒です!」

桃子「そうですか。仲良しなんですね?」

うみ「うん!だって、わたしたちはすーぱーおさなじみなんです!」エッヘン

桃子「それを言うなら、スーパー幼馴染、ですよ?」クス

うみ「むっ…とにかく、わたしとほのかちゃんはとっても仲良しなんです!」

桃子「それはいいことですね。これからも仲良くしてあげてくださいね?」

うみ「うん!」

桃子「……それでは、私はこれで」

うみ「えっ…もう行っちゃうの…?」

桃子「はい、残念ですが…」

うみ「そっか…」

桃子「でも、来年もまた海未さんの誕生日をお祝いしに来ますね」

うみ「ほんとう?」

桃子「ええ、なので…またこの桃の木でも眺めながら待っていてください」

うみ「うん、わかった!…約束だよ?」

桃子「ええ、約束です」

うみ「またね」

桃子「…さようなら」
7: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:36:31.90 ID:OkQN5gxn.net
……

海未「あれからもう13年も経つのですね…時が流れるのは早いものです」

桃子さんとの出会い。
それは私が覚えている限り最も昔の記憶だったかもしれません。
だけど、今でも鮮明に思い出すことができる。よい思い出というのはきっとそういうものなのでしょう。
そして、今という時間もやがては…

桃子さんは約束通り次の年もそのまた次の年も私の誕生日を祝いに来てくれました。
毎年誕生日の夜、庭の桃の木を眺める習慣ができたのはこれがきっかけでした。
8: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:37:36.83 ID:OkQN5gxn.net
……

うみ(8歳)「うっ…えぐ…ぐすん」

桃子「海未さん…今年は少し元気がないみたいですね」

うみ「ぐす…桃子さん…。ほのかに嫌われてしまいました…」

桃子「…良ければ話を聞かせてくれませんか?」

うみ「うん…」

~~~

ことほの「うみちゃん、お誕生日おめでとう!」

うみ「ありがとうございます!」ニパー

うみ「やっと(年が)追いつきました!」

ほのか「うみちゃん、クラスでも最後から2番目だもんね」

ことり「これでみんな一緒だね!」

うみ「はい!うれしいです!」

ほのか「よーし、それじゃあ早速プレゼントをあげるねー!」
9: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:39:16.00 ID:OkQN5gxn.net
ことり「ことりからは、これ!ミサンガだよ~」

うみ「うわぁ、とってもきれい!」

ことり「ありがとう♪実はことりの手作りなんだ~」

うみ「手作りなんですか!?凄い…!お店のものかと思いました」

ことり「えへへ、喜んでくれてうれしいな」

ほのか「ほのかからはこれだよ!」

うみ「これは…恐竜のぬいぐるみですか?」

ほのか「うん、ステゴザウルスだよ!最近のほのかのおきにいりなんだよ!しっぽのトゲトゲがかっこいい!」

うみ「ほのかは恐竜好きですもんね。ふわふわしていてとっても可愛いです!大事にしますね!」

ほのか「うん!ほのかにも時々触らせてね?」

うみ「二人ともありがとうございます!どっちも私の宝物にします!」

ことり「ふふ、実はもう一つプレゼントがあるんだよね?」

ほのか「! そうそう!そうなんだ!」

うみ(もう一つのプレゼント…。それはきっと毎年ほのかが作ってくれる私の大好物のおまんじゅうですね!)
10: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:40:13.37 ID:OkQN5gxn.net
ほのか「じゃーん!これだよ!」

うみ「これは…ケーキ…ですか?」

ほのか「そう、ケーキだよ!毎年おまんじゅうばかりじゃうみちゃんも飽きちゃうかなって思ったんだ!」

うみ(お店のケーキでしょうか?いつもは手作りのおまんじゅうなのに…。きっと今年は時間がなかったのでしょうね)

うみ「たまにはケーキもいいですね。でも、私は(手作りの)おまんじゅうの方がよかったです」

ほのか「え…いま、なんて…?」

うみ「? 私はケーキよりおまんじゅうがよかったです」

ほのか「…っ!!」ダッ

ことり「ほ、ほのかちゃん!」

私の言葉を聞いたほのかは一瞬とても悲しそうな顔をした後、走ってどこかへ行ってしまいました。
11: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:41:11.53 ID:OkQN5gxn.net
うみ「ほのかはどうしたんでしょう? おトイレですかね?」

ことり「…うみちゃん、何であんなこと言ったの?」

うみ「ケーキよりおまんじゅうがよかった、と言ったこと?」

ことり「うん」

うみ「私は毎年ほのかが一生懸命作ってくれるおまんじゅうを楽しみにしていたんです。ちょっぴり不格好だけど気持ちが込められていて…食べるとあったかい気持ちになるんです。でも、今年は忙しかったみたいでお店で買ってきたケーキだったから残念だなって」

ことり「…このケーキはね。ほのかちゃんが作ったんだよ?」

うみ「!! このケーキをほのかが? そんな…まるでお店のケーキみたいです!確かほのかはおまんじゅう以外の料理は作ったことがないと言ってましたが…」

ことり「うん。だからね、ことりが教えてあげたんだよ?うみちゃんの誕生日においしいケーキをプレゼントしてあげたいって頼まれて…。最初はなんども失敗してたんだけど、それでもうみちゃんのためだからってあきらめないでがんばって…」

うみ「そんな…私はそのことを知らなかったとはいえ、なんてひどいことを…」

ことり「…ほのかちゃんに謝りにいこ?」

うみ「は、はい!」



ほのママ「ごめんね。さっき大泣きしながら帰ってきて、今日はもう誰とも話したくないって部屋にこもちゃったの…」

ことり「そうですか…」

うみ「わ、わたしのせいです…!」グスッ

ほのママ「う、海未ちゃん?」

うみ「うわーん!!」
12: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:41:58.35 ID:OkQN5gxn.net
~~~

桃子「そんなことがあったのですね…」

うみ「きっとほのかはもう私の顔も見たくないと思ってます…」

桃子「そんなことはないはずです!穂乃果も海未さんもお互いにちょっと勘違いをしてしまっただけですよ?ちゃんと本当のことを伝えれば仲直りできるはずです!」

うみ「…でも、ほのかは誰とも話したくないって言ってました」

桃子「さっきはつい勢いでそう言ってしまっただけです。時間が経てば海未さんの話を聞いてくれますよ」

うみ「…それってどれくらい?」

桃子「ふふ、もうすぐですよ」

うみ「もうすぐ?」

桃子「ええ。きっと穂乃果の方から会いに来てくれます」

うみ「そんなはずないです…だって、ほのかはすごく怒っていて…!」

うみママ「海未さーん!穂乃果ちゃんが会いに来ましたよー!」

うみ「!! は、はーい!」

桃子「ね、言ったでしょう?」

うみ「なんでわかったの?」

桃子「ふふ、何となくです」

うみ「なんとなくですか…」

桃子「ほら、穂乃果に早く会いに行ってあげてください」

うみ「…うん!」
14: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:43:03.66 ID:OkQN5gxn.net
……

思えばあれが初めての喧嘩だったかもしれませんね。喧嘩というより私が一方的に穂乃果を傷つけてしまっただけでしたが…。
あの時のしょっぱい涙の味と仲直りの甘いケーキの味は忘れません。

桃子さんには何か不思議な力があるようでした。
私の心は全部見透かされてしまっているようで…。ですが、それは悪い気分ではなく、むしろ心地の良いものでした。
15: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:44:54.28 ID:OkQN5gxn.net
……

海未(13歳)「こんばんは、桃子さん。今年もお会いできて嬉しいです」

桃子「こんばんは、海未さん。お誕生日おめでとうございます」

海未「ありがとうございます」ニコ

桃子「中学生になったんですね。制服よく似合ってます」

海未「桃子さんに見せたくて着て来ちゃいました。でも、中学に入学したのは一年前で、もうすぐ2年生なんですよ?」

桃子「ふふ、そうでしたね。中学校ではどうでしょうか?」

海未「勉強も部活もとても楽しいです。なんだか毎日世界が広がっていくような気がするんです」

桃子「それは素晴らしいですね。でも、勉強と部活だけじゃなくていろんなことに挑戦してみてください。思わぬところで新しい自分に出会えるかもしれませんので」

海未「勉強と部活以外にも…ですか?」

桃子「ええ、そうですね…例えば、恋とか?」

海未「こ、ここここ恋!?」

鯉「…」ポチャン
16: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:46:36.77 ID:OkQN5gxn.net
桃子「おや、何だか顔が赤いようですが…もしかして心当たりでも?」クスクス

海未「…もう、からかわないでください。私が通っている中学が女子校なの知ってますよね?」

桃子「ええ、もちろん」ニコニコ

海未「そ、そうですよね…」

桃子「…」ニコニコ

海未「はぁ…桃子さんには敵いませんね…。確かにちょっと気になる人がいるんです。でも、この気持ちが恋なのかはわからないんです…。ただ何となく気になってしまうといいますか…」

桃子「今はそれでいいんですよ。初めからなんでも分かる人なんていませんから。ただ、大切なのは焦らないことと初めの一歩を恐れないことです。そのあとは時間が解決してくれます。ゆっくりと学べばいいんです」

少し遠くを見るような彼女の瞳は吸い込まれてしまいそうなほど美しく…ついつい見惚れてしまいました

桃子「海未さん?どうかされましたか?」

海未「えっ!? …あ、いや…何でもないです」

桃子「…ふふ、変な海未さん」

うう…顔が熱いです…。
桃子さんには本当は全部わかっているのではないかと考えてしまいます。
私のこの気持ちの正体も…そして、それが向けられている相手も…
17: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:48:40.04 ID:OkQN5gxn.net
海未「…私にも答えは見つけられるでしょうか? このもやもやした気持ちが一体何なのか」

桃子「心配しなくても大丈夫ですよ。なんて言ったって私でも見つけられたんですから」

海未「桃子さんにも同じような経験が?」

桃子「はい、ちょうどあなたと同じくらいの頃に」

海未「そうなんですか…。でも、私にはあまり自信がありません。私は桃子さんみたいに立派な人間ではありませんので…」

桃子「…ぷっ」

海未「な、なぜ笑うんですか!?」

桃子「ふふふふっ、それも時期にわかりますよ」

海未「時期にっていつですか!?はぐらかさないでください!」

桃子「まあまあ。時機を見なさいってことですね」

海未「…もしかしてさっきから適当なこと言ってません?」ジトー

桃子「ふふ、質問ばっかりですね。先ほども言いましたよ?答えをあまり急いではいけません。時間を掛けてゆっくりと探すんです」

海未「むぅ…何だか誤魔化されたような…。そういうの、ずるいです…」

桃子「…それでは、少しだけヒントをあげましょう。大切なものほど答えは案外近くにあるもの。灯台下暗しっていうやつですね」

海未「…一応肝に銘じておきますね」

桃子「ええ。あなたがどんな答えを導くのか、楽しみに待っています」ニコッ
18: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:49:50.37 ID:OkQN5gxn.net
……

結局あのときの答えは未だに見つけられていません。
でも、それはきっと今はまだその時期ではない、ということなのでしょう。
あの時、彼女が言いたかったことが少しだけわかった気がします。

ひゅうっと冷たい風が吹いて、桃の花びらを攫っていきます。
はっと我に返り、同時に思わず身震いしてしまいました。
気づかない間にだいぶ時間が経っていたようです。…今日はもう寝ましょうか。
19: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:51:51.44 ID:OkQN5gxn.net
そう思い、雨戸に手をかけたときでした。


「おや?今年はもう寝てしまうのですか?」

海未(17歳)「桃子さん…」

桃子「お誕生日おめでとうございます、海未さん」

海未「毎年ありがとうございます。…でも、今年は随分遅かったのですね。もう来ないかと思ったので、戸締まりしてしまうところでした」

桃子「それはすいませんでした。ちょっとした厄介事が起きたもので…」

海未「厄介事ですか?それは大丈夫だったんでしょうか?」

桃子さんは俯いてしまいました。そして、しばらくの沈黙の後ふいに切り出したのです。

桃子「……ねえ、少し昔話をしてもよろしいですか?」
20: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:53:09.85 ID:OkQN5gxn.net
海未「? 突然ですね。別に構いませんが」

桃子「ありがとうございます。…海未さんはこの桃の木がいつからあるかは知っていますか?」

海未「ええ。この桃の木は私が生まれた日に記念樹として植えられたと母から聞きました」

桃子「そうです。桃の花はひな祭りでも飾られるように子供の成長を願う意味が込められているのでしょう。…実は私の誕生記念樹にも同じように桃の木が植えられたんです」

海未「そうなんですか。…もしかして、桃子というお名前も…」

桃子「…ちょっと安直すぎだと思いませんか?」

海未「私はとても素敵なお名前だと思いますよ」

私がそういうと桃子さんは静かに笑いました。

桃子「ですが、その桃の木ももうすぐ切られてしまうそうなんです」

海未「なんと…。大事な木のはずなのに一体なぜ…」

桃子「提案したのは私なんです」

海未「それなら余計に…!」

桃子「…大人になると色々あるんですよ」

海未「大人…ですか」
21: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:54:44.44 ID:OkQN5gxn.net
桃子さんは凛とした佇まいで着物を着こなしていて、如何にも大人という雰囲気がしました。
桃子さんは5年ほど前から突然着物姿で来るようになりました。その着物は母が昔持っていたものと非常によく似たものでした。
母とは古くからの付き合いと言いましたから、日舞の関係者の方でしょうか?
…そういえば、私は桃子さんのことをよく知りません。それは彼女はいつもわたしのことばかり聞いてくるからでした。
22: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:55:57.92 ID:OkQN5gxn.net
海未「…失礼ですが、桃子さんはおいくつなんでしょうか?」

…何故最初に出た質問がこれだったのでしょうか

桃子「うっ…言わないとダメですか?」

海未「えっと…無理にとは言いませんが…。あなたのこともっと知りたいと思いまして」

桃子「…もうあまり若くないんですよね。30…いえ、31ですね」

海未「まだまだお若いじゃないですか。…むしろ、私の母と古くから付き合いがあるにしては若すぎです」

桃子「あなたのお母さまとは私が生まれた時からの付き合いなんですよ」

海未「そうだったんですか。それは確かに古い付き合いですね」

桃子「ええ、とてもお世話になりました。…感謝してもしきれないほどです」
23: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:57:29.73 ID:OkQN5gxn.net
そこでまた冷たい風がびゅうっと桃の花を散らしていきました。
桃子さんの着物の裾もパタパタとはためいて…なんだか今にも散ってしまいそうなほど儚く感じられました。
24: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 01:59:39.21 ID:OkQN5gxn.net
桃子「ねえ、海未さん」

海未「はい、なんでしょう」

桃子「今日はお別れを言いに来たんです」

海未「…どこか遠くへ行かれるのですか?」

桃子「ええ、とても遠くへ…」

海未「それは…残念です…」

桃子「私も残念です…。でも、遠いけれど凄く近い場所でもあるんですよ?」

海未「遠いけれど近い場所…ですか?なんだかなぞなぞみたいですね」

桃子「なぞなぞと言えば…いつだったかの胸のもやもやが何なのか、とあなたに聞かれたことがありましたね」

海未「はい、ヒントが灯台下暗しのやつですね」

桃子「そうです。答えはあの問題と一緒です。…それで、答えは見つかりましたか?」

海未「いいえ、実はまだなんです。でも、あとちょっとでわかる気がするんです」

桃子「それならよかったです」

海未「あとちょっと…なんですけれど、そのあとちょっとがとても遠い気がするんです…」

桃子「あらら…その顔はどうやらまたヒントが欲しいって顔ですね」

海未「…お願いできますか?」

桃子「そうですね……一年後。一年後にきっと答えがわかります」

海未「一年後ですか…?早いような遅いような…」

いえ、一年後では遅すぎです。だって、その頃には桃子さんはもう…

桃子「心配しなくても大丈夫です。海未さんなら正しい答えを出せますよ」
25: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 02:00:36.94 ID:OkQN5gxn.net
違う。心配しているのはそんなことではない。
今、ここで答えを出さないと意味がないのです。
私の胸のもやもやの正体。そして、遠いようで近い場所…
26: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 02:02:28.38 ID:OkQN5gxn.net
海未「その答えは…」





海未「『あなた』です」


桃の花びらが舞い散る中で私たちはお互いの目を見つめあいました。
桃子さんは目を丸くして少し驚いたようでした。

しかし…
27: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 02:04:10.88 ID:OkQN5gxn.net
桃子「残念。惜しいですがはずれです」

海未「そんな…間違っているはずなんて…!」

私は少し感情が昂ぶり、思わず勢いよく立ち上がってしまいました。
ここで答えを外してしまったら二度と桃子さんに会えないような気がして…
しかし、それを宥めるように、桃子さんは私の唇に人差し指を軽くあてがいました。

桃子「全ては一年後です」

海未「一年後…では、遅いのです…」

桃子「大丈夫ですよ。あなたの導いた答えはあなた自身に元気をくれます」

海未「なんだか段々と答えがわからなくなってきました…」

桃子「ふふ、時期にわかりますよ♪」

そういうと彼女はいたずらにウインクをしてみせました。
今までそんな仕草を見せたことがなかったので、私は胸を矢で射抜かれたようにドキリとしてしまいました。

海未「あの…また会えますか?」

桃子「…ええ、会えますよ」

海未「本当ですか?」

桃子「…ええ、本当ですよ」

海未「それでは…また」

桃子「はい…また」
28: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 02:06:37.09 ID:OkQN5gxn.net
あたりは再び静寂に包まれます。

そんな美しき夜の静寂をポチャンという音が破る。池に浮かんだハート型の桃の花びら。それを餌と勘違いした鯉は、一度飲み込んだ花びらを吐き出すと何事もなかったかのように水底へと沈んでいった。

なるほど、私はひとつ大きな勘違いをしていたみたいです。

私は少しでもあなたに近づくことができたでしょうか?

さようなら。また、会いましょう。私の憧れの人……
29: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 02:08:18.11 ID:OkQN5gxn.net
以上で終わりです
海未ちゃん誕生日おめでとうございます
31: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2016/03/15(火) 02:35:18.91 ID:OkQN5gxn.net
何となく分かりにくかったと思うので一応解説しときます。
桃子さんの正体は未来の海未本人です。
一年後の誕生日で18歳となる海未は今度は過去の4歳の自分に会いに行くことになります。
桃の木は過去と未来の記憶を繋ぐ架け橋的な存在です。
しかし、13年後の31歳の時に桃の木を切ることになったため過去の自分に会いに行くことはできなくなりました。
桃の木を切った理由は家の増築のため。まあ、海未ちゃんも三十路なんで色々あるんですね。ご想像にお任せします。

海未ちゃんの胸のもやもやの正体ですが、恋心ではなく憧れです。相手はなんと未来の自分に対してです。×ほのうみ→○うみうみ
一応口調が段々桃子さんに近づいていくことで表現したつもりでした。
最後に「答え」についてですが、胸のもやもや(憧れ)の原因、遠いけれど近い場所、『あなた』ではない、より『わたし』です。

以上解説でした。本文で書くつもりの内容でしたが、書かない方がきれいかなと思ったのでやめました。
見てくださった方ありがとうございました
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