ことり「白の寡婦人(ホワイト・ウィドウ)」

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ことり-アイキャッチ23
1: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:41:28.94 ID:V8og3LHJ.net
「あぁーーーーイくっ!イっッくぅっっ!!!ぁああんんっっっ!!!!」

元スレ: ことり「白の寡婦人(ホワイト・ウィドウ)」

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2: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:43:03.71 ID:V8og3LHJ.net
世に二つとない甘さで奏でられた嬌声が耳朶を揺さぶり、全身が常軌を逸するほど粟立つ。
俺の腰の上で、小さな白い肢体が溢れた快感に激しく身悶えていた。
身体の奥の奥から絞られるような強烈な感覚を受けて。
俺も同時にそいつの中で常にない浮遊感とともに果てる。
そして、果てなく遠く散っていった意識を手繰り寄せることも放棄した、束の間の忘我の入り口でーーーー
俺は確かに聞いたんだ。

白い小鳥が一羽。
美しく悲しく、涙のように一つこぼした、かすかなさえずりを。
3: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:43:41.59 ID:V8og3LHJ.net
「……助けて……穂乃果ちゃん……」
5: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:45:00.93 ID:V8og3LHJ.net
……俺は、この女のことが嫌いだ。
コネを使い先生に取り入り、ファッション後進の島国からのこのことこのスクールまでやってきた、こいつのことが心底嫌いだ。
当然言葉だって、満足に読めない書けない話せないと3拍子揃ってやがる。
では肝心のその才能はと言えば。
ゴテゴテと小うるさい装飾を重ねた、いかにもジャパニーズどもが小娘に着せて喜び群がってる三流の服しか作れやしない。
ただ、この女。
見てくれだけは、この国には珍しい黒髪も相まって、そこそこ纏まって見える。
そのせいもあり、留学して間もない頃から、この女の隣に男がいなかったことは無かった。
困ったように笑いながら片言で言い寄る男たちをなんとかあしらうこの女の姿を見るにつけ、
俺はこいつが何のために留学しに来ているのかいよいよもってわからなくなり、その都度無性に腹が立ったものだ。
6: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:46:15.47 ID:V8og3LHJ.net
奴が留学して来て、3ヶ月も経ったころからだろうか。
こんな話が、男たちの間でまことしやかに語られ出した。

曰わくーーーー

あのジャパニーズのメスは、ベッドでさえずるように甘く鳴いてくれる。
男の悦ばせ方を心得た献身的な性奉仕も捨てがたいだろう。
いや、あの小さな白い身体が責め立てられると薄く桃色に色付く様子こそがたまらない。

とまあ、だいたいこんな感じだ。

お里の行き過ぎた独自文化を勘違いした連中に持て囃され、わざわざ恥を晒しにここまで来てしまったことを、物分かりの悪い奴もようやく悟ったのだろう。
おままごとにはもう飽きたらしい。
いよいよ我慢していた男漁りに精を出し始めたと言うわけだ。
留学の目的が定まって結構なことだな。
そう俺は思った。
7: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:47:20.98 ID:V8og3LHJ.net
それからさらにひと月ほど経つころ。
ジャパニーズ・リトルバードの渾名を知らない男はスクール内には居ないと思われるほど、奴の噂は広まっていた。

俺が講義の時間以外で初めてこの女に話しかけられたのは、そんな折だった。

『ア……アノォ……』

ランチタイムにどよもす食堂で。酷く聞き分け辛い、鼻にかかった苛立つ片言が俺を呼ぶ。

『トツゼン……ゴメンナサイ……』

舌打ちも漏れんばかりの不機嫌な眼差しで、横にいた奴の顔を見下ろす俺を。

『アナタガ……ニッケイジンダッテキイテ……』

潤んだ瞳の上目遣いが。映り込んだ者を決して逃がさない蠱惑的な輝きでーーーー静かに、妖しく、見詰めていた。
8: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:48:37.90 ID:V8og3LHJ.net
確かに俺は日系二世だ。
日本出身の母親からは幼少の時分より日本語も教わっており、奴がふとした瞬間に独り言で零す母国の言葉も、
俺には全部ーーーーそう、全部。
理解できていた。

だから、嫌いだったんだ。
俺が、この女を嫌う何よりの理由。
それはーーーー

「すごい……こんなデザインも、みんなで着てみたかったな……」

これは、華やかなデザインを扱う講義の展示品に目を細めながら。

「こんなの、誰もいないライブに比べたらなんてことない……よね」

これは、先生に個別で下命された困難な課題製作に当惑しながら。

「穂乃果ちゃん……私、頑張ってるよ」

これは、理解できていない板書を必死に書き取りながら。

「ーーーーごめんね……穂乃果ちゃん……」

これは、ーーーー性欲を顔に貼り付けた男たちに囲まれ、講堂を後にしながら。
9: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:49:28.37 ID:V8og3LHJ.net
うんざりだった。
この女のつぶやく日本語に、俺はいつも心を押しつぶされそうになっていた。
こいつはーーーーこいつは、空っぽなんだ。
ここに、何も持ってきちゃいなかった。
強い思いも、憧れもーーーー夢すらも!

だからこいつは。いつも空っぽの心で、何かを求めるように男に身をゆだねるのだろう。
その空洞が決して埋められないことを知りながら。
そうする度、かつてそこにあった汚れなき願いまでもが堕ちていくことに、許しを乞いながら。
10: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:51:00.19 ID:V8og3LHJ.net
あの女と会話をするようになってからそれなりの時間が経過した、ある日の午後。
スクールのトイレで、こんな下卑た笑い声を聞いた。

『よう。お前の言ったとおり最高だったぜ、ジャパニーズ・リトルバードさんはよ。』

『ハッ、当たり前だろう。誰が仕込んだと思ってるんだ?』

『よく言うぜ。飲んだことねぇっつってる酒を浴びせるように飲ませて襲って、それでも結局大泣きされたんだってな。
知ってんだぜ?』

『ほざいてな。ジャパニーズの初モノはな、そりゃもうとんでもなくお固いんだよ。
お前のデカいしか能のねえ中折れ仕様じゃ開通すらできなかっただろうさ。
それを俺が何日もかけてじっくりほぐしたからこそ、今のリトルバードはあるんだぜ?
感謝しろよ、穴兄弟(ブラザー)。』
11: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:52:38.30 ID:V8og3LHJ.net
『言っとけ、下の穴にしか興味のねえ俗物が。』

『その言いぶり……さてはテメェ、やりやがったな?』

『当然だろ。雛鳥がエサをねだるみてぇなちっちゃなお口の、奥の奥までぶち込んでやったぜ。
そしたらよ、あの女。
嬉し涙に胃液まで添えて、俺の股ぐらで信じられねぇくらい良い声で鳴いてくれたぜ?
ほんとにたまんねぇよ、あの売ーーーー』

気付いたときには、その二人の男に殴りかかっていた。
理由を自分で理解する前に、身体が勝手に動いてしまった。

激昂した二人組に口汚く罵られ、便所の床を無様に転がされながら。
意識の混濁に紛れて、俺の脳裏にはある情景が明滅していた。
12: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:53:41.64 ID:V8og3LHJ.net
暗闇の中で。俺に背を向け、女が一人。静かに泣いていた。
母さん、と俺は呼びかける。
小さい頃、母はいつもこうして俺に隠れて一人で泣いていた。

留学先のこの国で父と出会い、弄ばれた末、不幸にも俺を孕んだ女は。
故郷を遥か遠くする地で、夢を捨て、母国の家族にすら見捨てられ。
どこへ行っても後ろ指を指されながら、誰にも頼ることも出来ずーーーー市民権も得られず。
訴訟の末、父が投げ捨てるように寄越した僅かな養育費と
命を削るように稼いだ金で、俺を物事の分別が付くまで育て終えたころ。
暖かく女性的だった身体を見る影もなく冷たく痩せさばらえさせ。
俺一人の葬列に見送られ、棺に入る。
そんな人生を歩んだのが、俺の母だった。
13: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:55:05.81 ID:V8og3LHJ.net
出来れば女の子が欲しかったけどーーーー
あなたがとっても可愛らしくて本当に助かったわ、と優しく冗談めかして微笑みながら。
まだ小さな俺に屑布とラッピングリボンで作り上げたみすぼらしいーーーーしかしどこか見る者の心を奪う子供用のドレスをあてがい、幸せそうに目を細めた母。
そのとき俺は、鏡に映った自分が見たこともないほどきらめき、特別な存在に変身したかのような高揚感とともに。
自分は将来、この人のような着る者を魔法にかける服を作り。
そして、その姿を見て誰よりーーーーその服を着た者よりも、喜びを感じる。
そんなデザイナーになるのだと、心に決めたのだ。
14: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:56:29.25 ID:V8og3LHJ.net
女は暗闇の中俺に背を向けたまま、いまだに嗚咽を止めなかった。
俺は更に呼びかける。
母さん、聞いてくれ。
俺、母さんにずっと着てもらいたかった服が、最近やっとでき上がったんだ。
母さんが故郷で出会い、この国に来てまで叶えたいほど胸焦がす夢を見せた、
着る者に勇気と輝きと、一夜限りのヒロインの座を与えることができるーーーー
あの厳格な先生もそう手放しで認めてくれるような、そんな服が。
母さん、だから泣かないで。
そして。俺を、もう一度俺のことをーーーー

女が顔を覆う両手から頭を上げ、ゆっくりと俺に振り返った。

美しく流れる黒髪を分けて現れた、涙に艶美に濡れそぼつその横顔はーーーー
15: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:57:37.79 ID:V8og3LHJ.net
「だ……大丈夫ですか?すごいケガされてますよ!」

スクールの帰り道に、あの女と出くわした。
奴はもう俺にこの国の言葉で話さない。
それは、遠い異国の地で見つけた僅かな安らぎに縋ってのことか。
それともーーーー共有する秘密を確認することで男の独占欲をくすぐるという、この女の仕掛ける術(すべ)のひとつなのか。
たとえ後者だとしても。俺はもうきっと、こいつの誘惑に抗えないのだろう。
16: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:58:54.44 ID:V8og3LHJ.net
頼んでもいないのに、取り出したハンカチで俺の顔を拭うため、奴が俺に密着した。
異性を魅了するためにほころんだ肉体の体温は、恍惚とするほど狂おしく強烈に性の予感を俺に与え。
その髪から、身体から。匂い立つほのかな香りは甘く。どこまでも甘く、心地良く。
するりと雄の心に入り込み、容易く正常な判断能力を狂わせる。

「血はもうほとんど止まってますけど……この腫れ、すぐに冷やさないと、ぜったい後にひいちゃいますよ?」

気付けば俺は、まるで降臨した聖人でも目の当たりしたかのように。
奴の一挙一動全てに目を奪われ、片時も視線を外せなくなっていた。

「ことり、応急手当て(こういうの)、結構得意なんです。良かったらーーーー」

いつの間にかハンカチ越しではなく、その冷たく柔らかな指で直に俺の頬を撫でながら。
女は俺の耳許にゆっくりと口を寄せると、拙い言語でーーーーしかし毒のように甘く、こう囁くのだった。

『ワタシノオウチニ、ヨッテイキマセンカ……?』
17: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 22:59:59.05 ID:V8og3LHJ.net
やわやわとーーーー繋がった左手が弄ばれるのを感じ、ようやく俺は意識を今に戻す。

俺の胸の上で涙の浮かんだ目を結び、余韻のさざ波に身を任せるまま、静かに息を整える女に視線を送る。
短くない回顧を終えて、この女に俺が改めて感じたものは、嫌悪でも憐憫でも情欲でもーーーーましてや愛情でもなく。
それは、そら寒い恐怖だった。

ニンフォマニアと言う言葉を聞いたことがある。
ギリシャ神話の色に狂う女神に名を借りた、性依存症の一類型の名称だ。
生来の性欲からではなく、後天的に精神の均衡を欠くことで発症しうる、その名が指す通り女性にのみ適用される精神医学用語でもある。
18: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:01:02.54 ID:V8og3LHJ.net
無二の友や得難い理解者たちとの別離も間もなく、言語、食、時間、文化。
全てが異なる場所での新生活。その末の、望まない陵辱の数々。
これらの甚大なストレスに曝され、いまだ十代半ば足らずの女の精神が異常を来さないはずもなく。
女はいつしか絶え間なくもたらされる歪んだ性の充足が、別離から生じた胸の空虚に替わるものだと、錯覚するようになった。
行為中の女はもはや、性に溺れる獣となんら変わりはなく。
日常生活においては意識せずとも周囲に淫蕩の予感を振り撒く、妖しい存在と化していた。

だが俺は、女の現状を身体を重ねるまでもなく知っていた。
この女に初めて話しかけられるその以前より、知っていたのだ。

俺がこの女になにより恐怖したのは、

ーーーー「……助けて……穂乃果ちゃん……」

そんな状態にあってすら、この女がただひとつの存在を信じ、異常性欲すら糧として発展を止めない、その姿だった。
19: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:02:15.14 ID:V8og3LHJ.net
留学当初、この女は確かにあらゆる面からこのスクールに相応しい存在ではなかった。
だが、この女があの渾名で呼ばれるようになった頃から。
女は急速に服飾の腕を上げ、今ではスクール内でも指折りのデザイナーとしても噂されるようになっていた。

今日俺は女を抱き、色に狂う様と、その果てにこぼれ落ちた偽らざる本心とを垣間見た。
ーーーーこの女は絶頂のさなか、偶像に助けを求めた。
つまり、それがそのまま今の女の精神構造を示していた。
女は異常性欲に身を任せきることをせず、堕落のみぎわに飼い慣らそうとしている。
そしてそれは概ね達成されつつある。
そう、女は目的を持って色に狂うのだ。
20: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:03:20.23 ID:V8og3LHJ.net
不安定な心、絶えることのない悔恨。
それらは異常性欲が満たされることにより一時だが意識の隅へと追いやられ、
仮初めの充足と安定の中、女は常にない集中力とイマジネーションを手に、自らをどこまでも高め行く。

女の服飾の腕は、この世界有数の学習の場も手伝い、こうして瞬く間に発展を遂げた。
誰が為に?
決まっている。
女は自分の信じる偶像のため、自身の肉体すら、いやーーーー壊れかけた精神構造すら利用し、高みを目指すのだ。
21: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:04:47.84 ID:V8og3LHJ.net
しかし。
やはりその瞳には強い思いも憧れも、夢すら宿らないことを、俺は知っている。
先生の辣腕も、デザイナーとしての栄誉も、男たちの暗い性欲も。
みな平等に無価値なものとしてこの女の中を通り過ぎるだけだ。
この留学に女が求めたものは、その課程が修了するまでに自分がどれだけ成長できたのかという、結果のみだったからだ。
女は留学を終えたとき。
ここでの生活が順風満帆のまま実り多きものとして、何もかもつつがなく過ぎ去ったかのように。
満ち足りた顔で、まるで凱旋するように母国へと帰るのだろう。
歪に高め上げた服飾の腕を、友との青春に代わり得る価値のあったものだと。
そう周囲に。なにより自分自身に、偽るために。
女の世界の中心にあった存在と、わだかまりなく、互いの空白期間を讃え合い、そして。
再びの変わらぬ日々をまた、その女と送るために。

ーーーー全ては、日本で分かたれた偶像への執着だけで女は動いていた。
22: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:05:52.55 ID:V8og3LHJ.net
この女は小鳥(リトルバード)などでは、決してない。
手段と目的を峻別し、色に狂うようでいながら決して過たず。
網に掛かったと知らぬ獲物に弄ばれるようで弄びながら、事後の微睡みに雄を食らう、
偶像に囚われた無垢なる怪物。
それがこの女だ。
そのあり方に敢えて名を付けるなら。
この女のように雄を食らう蜘蛛になぞらえて【白の寡婦人(ホワイト・ウィドウ)】こそが、きっとなにより相応しかった。
23: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:07:07.34 ID:V8og3LHJ.net
重なり合う二つの呼吸。境目を見失い溶け合う体温。
女への恐怖も忘れ、全てが溺れるように気だるく満ち足りてゆく中。
決して通じ合うことのない仮初めの二人の時間が、静かに流れていく。
24: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:09:40.10 ID:OHZj4L0G.net
俺は、多分。自惚れていたのかもしれない。
女と同系のデザインを好み、女のこぼした本心からの言葉を解し、そして何よりーーーー女に僅かだが母を重ねた俺は。
この女の力に、ときには理解者となり、互いに腕を高め合う存在となれるのではないかと。
そんな幻想を、いつしか抱くようになっていた。

2人は事実、傍目に互いを補う仲に映ったかも知れない。
女は俺に偶像たちと過ごした戻らぬ日々の尊いきらめきを母国の言葉で熱く囁き、懐かしみ。
青天井に伸び上がる女の実力に、俺は生涯の仕事と覚悟した母へと捧ぐ花嫁衣装のブレイクスルーを見た。
白状すれば。
俺は、そのときから。
この女のことを、なにより掛け替えのないものに感じ始めていたのかも知れない。
25: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:12:31.61 ID:OHZj4L0G.net
ーーーー利用されているのなら、それでも良い。

この女を理解していくなかで、俺はそんなことも考えるようになっていた。

女の正体を知った。女の空虚の根源に触れた。
それでも幻想は終わらずに、少しずつ俺を狂わせる。
僅かでも、過ちのようでも構わなかった。
異常性欲と壊れかけた精神(こころ)の狭間で。一度でも女がその口で俺の名を呼び、俺を求めてさえくれたなら。
俺は……俺は、きっとーーーー。
26: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:15:41.32 ID:OHZj4L0G.net
だが、女はやはり最後まで、偶像の名をしか口にすることはなかった。

女の空虚な心へ俺は留まることは叶わずーーーー女にとって、俺は自身の餌となる雄の数多の一人に変わりなく。
ただ俺もその糧として、搾取され続けることしかできないのだろう。

精も、思考も、時間も。
亡き母の為、全て擲ち磨き上げた服飾の技術すら。
余さず、全て。
27: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:17:58.82 ID:OHZj4L0G.net
「……私、こんなに満ち足りたの……初めて、です……」

ふと。女が微熱に浮かされるように寝物語を紡ぎ出す。
その頬を薄く桃色に染め上げ、潤んだ瞳の輝きは男を籠絡する全ての色を孕んでいた。

「出来ることなら……ずぅっと、こうしていたいくらい……」

その言葉は全てを信じたくなるほど耳に優しく、脳髄を溶かすように思考を奪い、あらゆる犠牲に替えてこの女を手中にしたい欲求を聞く者に惹起させる。

「叶うなら、今日みたいに私のことを、また……愛してくれますか……?」

返答に代わり。俺は無意識に空いた右手で女の髪を梳き分け、その頬を指で撫でつけていた。

「ぁ……嬉しい……」

女が頬に触れた俺の指先に頬擦りをしながら、静かに目を閉じると。一條の涙がこぼれ落ち、俺の指を僅かに濡らした。
28: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:19:17.64 ID:OHZj4L0G.net
「あなたが私のこと、こうしてまた愛してくれるなら…… 」

”だから泣かないで。”

いつか夢の中で母に呼び掛けた言葉が。何故か今、この女に呼ばれたように浮かび上がる。

俺はーーーー恐怖し、幻想にすら裏切られ。それでもある予感を脱け殻のように反芻し続けていた。

俺は、この女に全てを奪われることになってもーーーー

”そして。俺を、もう一度
俺のことをーーーー”

「何度でも、あなたのことをーーーー」

ーーーーもう離れることはできないのだと。
かつてないほど満たされていく心で、悟ることしかできなかった。

「私が、抱き締めてあげます……」

女が、俺を。その細い腕で、優しく包み込んでいく……。



【最初からバッドエンド】
29: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/03/30(水) 23:40:22.39 ID:OHZj4L0G.net
よくことりちゃんが天然なのか自覚的なのかって話を目にするけど、個人的にダークことりちゃん全開が見たかったので汚れて貰いました
その代わりことりちゃんの男をひたすら骨抜きにする仕草とか一瞬を思い付く限り入れてみたので、そこで許して下さい
オリキャラ、キツい描写、失礼しました
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