にこ「魔法なんてなくたって」

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1: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 15:04:03.14 ID:tglPBErc.net
SS5作目、行くニコっ☆
色々と拙いと思いますが、よろしくお願いします。
注意
・地の文多いです
・独自解釈あり、かも
・書き溜めがあんまりないのでちまちま更新します
・予定では性描写なしです

ではちょっぴり投下します。

※ 同作者さんによるSSはこちらのトリップ検索から閲覧出来ます(管理人)

元スレ: にこ「魔法なんてなくたって」

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3: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 15:06:40.82 ID:tglPBErc.net
にこ。

ニコちゃん。

にこっち。

にこにー。

私は、いろんな呼ばれ方をする。

一人称だって、「私」だったり、「にこ」だったり、「にこにー」であったり。こちらもたくさんある。

気付いたら場面によって自然に使い分けていたのは私自身不思議だなぁと思っているわ。

呼称の違いは、そのまま、呼ぶ人の違いであったり、シチュエーションの違いであったり、あるいはーー呼ばれる世界の違い、であったり。

今、この「場所」で、私は、「ニコ」という、そういうキャラクターを演じている。
5: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 15:12:26.34 ID:tglPBErc.net
「……なんて、突拍子も無い話よね」

にこは、誰ともなくひっそりと呟く。

屋上での練習の合間、休憩の時間のこと。
周りには幸い、誰もいない。みんな、それぞれ仲の良いメンバーと談笑したり、苦手なステップを個人的に練習したりしているわ。

希だけは、にこの言葉に気づいたようで、こちらを振り返ってまたすぐ絵里の方に向き直った。

わかっているわ、あまり他の人に知られるわけにはいかないんだもん。ひとりごとにも気を遣わなきゃ、っていうんでしょ?

大丈夫よ、そんなに心配しなくてもそろそろみんなにーー。
なぜだか胸がすぅ、と空くような、そんな感じがした。思わず目を細めながら空を見上げる。

流れそうな涙は、あくびでごまかした。

静かに見上げた八月の空は、切なさを感じるほど青く、澄んでいた。
6: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 15:13:37.51 ID:tglPBErc.net
- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


そもそもこんなことになったのはどうしてだろう?
今となってはわからないけれど。

私は気付いたらここにいた。
周りにはμ'sの仲間たちがいて、それでも何か違和感があって。

慌てて、普段はママがめくってくれてるから自分では全然見ない筈のカレンダーを確認したにこは、言葉を失ったわ。

所狭しと飾られたポスターの隙間にかけてある、明らかに場違いな日めくりカレンダーには、7月7日と書いてあったんだもの。
道理で暑いはずね。
8: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 15:18:08.43 ID:tglPBErc.net
おかしいな、私は昨日、雪が積もるかもしれないという天気予報を聞いたはずなんだけれど。

時が戻っているみたいね。

いや、正確には「戻った」わけではないのかしら。

「ねぇ、にこちゃん。平行世界、って知ってる?」

いつか真姫が言っていたことを、ふと思い出す。

それに私は確か、「知らないわ」と答えた。

本当はーー知っていた。
なにせ私は大銀河宇宙No.1アイドルだもん。知らないことなんてないわ。

けれど、無知で可憐で純真な、そんなにこの方が、愛されると思ったから、そう答えただけ。下らないわね。
9: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 15:19:42.94 ID:tglPBErc.net
とにかく、うまく状況を飲み込めないけれど、どうやら私は違う世界に来てしまったみたい。

今いる世界がまさにその「平行世界」という奴だと、なんとなくわかった。

私の知っている世界とよく似ていて、それでいて全く違う、そんな世界。

それを確信したのは、その日の朝。

希と二人きりで話した時だったの。
10: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 15:21:09.43 ID:tglPBErc.net
「ニコ、どないしたん?
なんや思い詰めた顔して……あ、わかった! ウチみたいなふんわりマシュマロバストになるにはどうすればええかって悩んどるんやね? 」

まず第一に、私の知っている希は、私のことを「ニコ」なんて呼ばない。

「希、アンターー私のことにこっちって呼ばないのね」

「そういうニコこそ、ウチのことを希って呼ぶんやね。
ーーねぇ、ニコ。本当にどないしたん? ウチ、御狐さんにでもつままれとる?」

第二に、私の知っている希は、すべてを見通したような人だ。

「……スピリチュアル、やね……」

「なぁに? スピリチュアル……?」

「アンタの真似よ、希」

第三に、私の知っている希は、スピリチュアルな奴だ。

よってこいつは、私の知っている希じゃ、ない。

「ねぇ希、アンタに話があるわ。ーーアンタなら何かわかるかもしれない」

少なくとも、私の知っている希は、こういう時に頼りになるんだから。
20: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 15:22:26.36 ID:vpwGfhWk.net
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「なるほど。つまり、ニコーー『にこっち』は、未来からやってきたんやね。それも違う世界? の未来から。
それはなんというか……スピリチュアル、やね?」

「アンタ、今ナチュラルに私をバカにしたわね。ったく、こういうところばっかりそのまんまなんだから……」

安心したような、心配になるような。
ともかく、この「希」は、私の知る「希」じゃあないみたいだ。そう思った。

だから結局、特に状況は好転しなかった。

「はぁ……こうなりゃ頼れるのは賢いかわいい生徒会長と知性溢れるツンデレだけね」

そう言うと、私は嘆息した。

スピリチュアルどころの騒ぎじゃないわね、これは。

その様子を見てか、希が真剣な面持ちで口を開いた。

「ウチでも役に立てることはあると思うんよ。
このままやとニコ、おかしくなったと思われるやろ。いつもと違う喋り方やし、性格なんか全然違うんやもん!
せやからーーこののぞみんが、バッチリご指導いたします♪
なんちゃってーーくすくす♡」

お茶目にウィンクなんて決めてみせちゃって。

キャラは違うけど、やっぱりなんだかんだで希は頼りになるわね。

やっぱり、さっきの言葉は取り消すわ。
21: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 15:26:40.92 ID:vpwGfhWk.net
「まぁ、このままだとみんなのにこにーが別人に入れ替わっちゃった、なんて不安にさせちゃうもんね。
ありがたく受けるわ、その話」

まぁ、「みんなのにこにー」っていうのは、私の世界での話だけれど。

こっちの世界の「ニコ」が私と同じで「みんなのニコニー」であるとは限らないわね。

希は一息つくと、勢いよく話し始める。

「まず、ニコは自分のことをニコニーとかニコとかそんな感じで呼んどったなぁ。
それから、ウチのことはのぞみん、他のメンバーは基本的にちゃん付けで呼んでて、真姫ちゃんの事はマッキーって呼んでるで。
それからニコは超ぶりっ子なんや。
語尾に『〜ニコ♡』とかつけとったさかい、かなりのレベルやったんやろなぁ。
あー、あとそれから」

「ちょ、一気に言わないでっ!
メモ取ってるんだから少しゆっくり言ってよね。えーと……よし、っと。それで?」

「それからな、ニコは……真姫ちゃんのことが好きだった。ウチ、よく相談されてん。まだ出会ってからそんなにたってへんはずやけどなぁ。
ーーニコ? どないしたん?」

「あぁ……なんでもないわ」

どうやら、変なところばかり同じなのは、希だけじゃないみたい。
想い人こそ違うけれど、「ニコ」も女の子に恋しちゃってるんだから。

胸が苦しくなって、にこはため息をついた。
26: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/28(土) 10:43:09.82 ID:kc7tXrmU.net
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「ありがと、希。
おかげで『ニコ』を演じることができそうだわ。
まぁ、とりあえずは様子見で……あんまり喋らないようにしなきゃね。ボロが出ると良くないわ」

不安なことばかりだったけれど、希に聞いてもらえて安心したわ。

まぁ、正直まだ頭の中の半分くらいははてなマークで埋め尽くされてるけれど。

……とりあえずは、今日を乗り切らなければならないわ。

放課後にまた希との話し合いをしようかしら。
今度は絵里と真姫も呼んで、意見を聞いてみなきゃ。

「ニコ! これからは、キミのことはにこっちって呼ぶな。
元いた世界のこと、忘れんように。寂しくないように。
ウチにできるんは、これくらいやから」

希が、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
アンタの気遣いには毎度感心させられるわ。お陰でほら、涙が出てきたわ。

ーーちょっぴり情けないわね。
27: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/28(土) 10:48:23.95 ID:kc7tXrmU.net
「ごめんね、希。ありがと。
ーーアンタのそういうところ、嫌いじゃないわよ」

にこは素直にそう言った。殺しきれない嗚咽が、口から漏れてしまったけれど、希の前で泣くのには正直慣れている。
あぁ、でもこっちの希は慣れてないのか。

「ええってええって! ほら、これで涙拭いとき?
朝のホームルームもそろそろ始まるし、早いとこ教室に戻らな。また遅刻して怒られるんは嫌やし♪」

多分どんな世界でも、希はこういう奴なんだろうなぁ。

アイドル研究会のみんなが退部した時も、泣いていたにこに希はこんな風にハンカチを差し出してくれたっけ。

それから、悩み事があるとなんでも希に相談したし、希が悩んでいるときには私が相談に乗った。

そのうち、にこの中には淡くて青臭い感情が芽生えていたのよね。

その想いは、未だに変わらないわ。

こっちの世界では真姫のことが好きだったみたいだけど、それはあくまで「ニコ」の話。

「にこ」はーー希のことが好き。

この想いはずっと消えないし、上書きもされない。少なくとも私は、こう思っていたわ。





そう、あのときまでは、ね。
33: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 17:46:37.13 ID:21pzmVvK.net
もう少し待ってください!
今全力で書いてます!
35: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 19:44:09.45 ID:21pzmVvK.net
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そういえば何かあったような気がしたけど、7月7日といえば七夕よね。

なんでカレンダーを見たときに気付かなかったのかしら。
にこにー一生の不覚だわ。

ま、そんなにおおげさなもんじゃないけど。

今日が七夕なんだと気付いたきっかけは、穂乃果の一言だったわ。

「短冊に願い事を書こうよ!」

いつだってこの子は突然行動を起こして、周りを巻き込んで振り回して、その結果みんなが笑顔になる。

それはこの世界でも変わらないみたいだ。

やっぱり、この世界のみんなは、自分の知っているみんなとはどこか少しずつ違うんだけど、穂乃果はなんだかあんまり変わらない気がするのよね。

「はぁ、今日はそういえば七夕でしたね。
穂乃果のことだから短冊だって用意していないんでしょう?
用意周到な穂乃果は穂乃果じゃありませんし」

海未が若干失礼なことを言っていたけれど、まあ実際それには私も完全に同意ね。

だって穂乃果よ?

「うっ……ま、まぁ短冊は折り紙とかで作れるし、すぐ用意できるよね?

花陽ちゃん、折り紙持ってる?」

「えーっと……あ、ありました♡
せっかくだからみんなのイメージカラーで作りたいですね!」
36: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 19:47:02.30 ID:21pzmVvK.net
というわけで、橙、水色、白、青、黄色、赤、緑、紫、そして桃色の折り紙を取り出して、それぞれ短冊のサイズに切っていく。

15cm×15cmの折り紙だと、二枚ずつってところかしら?

……欲張りなアホもいるみたいだけど。

「穂乃果、なんであなた短冊三つも作ってるのよ。
そんなに叶えたい願いがあるわけ?」

真姫が穂乃果の短冊を見ながら半眼で問う。

当の穂乃果は真姫を見上げるなり、

「えーっと、『これからもずっとみんなと一緒に入られますように!』でしょ?
『目指せ、ラブライブ!優勝!』でしょ?」

なんて、指折り数えながら言うんだもの。穂乃果はやっぱり、穂乃果なりにいろいろ考えてるのよね。

μ'sのリーダーとして、自分のことよりも周りのこと考えて動けるって、アンタ立派よ。

こういうところに惹かれて、私はμ'sに入ったのかもしれないわ。

――あくまで、「にこ」の話だけどね?

「それから、『お腹いっぱいパンが食べられますように!』」

って、なんだ。
自分の為の願い事のために一個増やしたのね。

穂乃果らしいっちゃ穂乃果らしいわ。
ほんとこの子ってば……。
37: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 19:50:49.74 ID:21pzmVvK.net
「……最後ので台無しです、穂乃果。
まぁ、貴女らしいですけどね――クスクス♡」

「でも、穂乃果ちゃんはしっかりμ'sのこと考えてくれてるんだから、やっぱりリーダーって感じだよね♡
ことりも、短冊の数、三つにすればよかったなぁ……」

ことりがちょっぴり残念そうにそうこぼした。
――私にも、短冊が三つあれば。

「なかったら、作ればいいでしょ?」

何でそんな単純なことにも気づかないのかしら? といった様子で真姫が呟いた。

まぁ、その通りなんだけれど、そう簡単な話ではないのよねぇ。

「真姫、実際その通りなんだけど、これは花陽の折り紙なんだから。
それに、どうも何色かは一枚しかなかったみたいよ」

「うっ……そ、そう。
誰か、ほかに折り紙持ってたり――しないわよね」

残念そうに唇を尖らせたそのさまが可愛らしくって、つい見つめてしまったわ。

「ニコちゃん、真姫ちゃんをじーっと見つめちゃって、どうしたのかニャ?」

凛が首を傾げながらこっちを見ていた。

「べっつにー?
ただ、真姫ちゃんが可愛いから見つめてただけニコよ?」

――大体、こんな感じだろうか。「ニコ」のことを思いつつ、私は「ニコ」を演じてみた。

多少の違和感を感じたのか、海未がこちらをちらりと見た。

ヤバい。やっぱり一回希に聞いただけじゃ完全に演じることはできないわよね。

これ以降はあまりしゃべらないようにしなきゃ。
悟られないようにしなきゃね。
41: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/31(火) 03:23:47.97 ID:DU0W9Zmm.net
「ふぅん。ニコちゃんは今日も相変わらず真姫ちゃんのことが大好きなんだねっ!
凛はぁ、かよちんのことが大好きだニャ☆」

そういうと凛は、花陽にぎゅうっと抱き着く。
花陽が頬を真っ赤に染めて、

「や、やめて、苦しいよ凛ちゃんっ」

と叫ぶ。
嘘つきなさい花陽、口角がだいぶ上がってるわよ?

思えば向こうの世界でも、花陽は凛のことが好きだったわね。

凛だって、花陽のこと大好きだったから、にこりんぱなとしての活動は大変だったわよ。

ラジオ収録をしてる時なんかはおとなしいんだけど、マイク入ってないときなんて終始いちゃいちゃいちゃいちゃ……。

思い出すだけで若干辛いわ。
いや、本当に辛いわけじゃないんだけどさ。

……なーんか、にこっていろんなところでこういう目に合ってるような気がするわ。
三年生の三人でいるときだって、絵里と希がずっと引っ付いているし。

そりゃあ、最初こそ嫉妬もしたけれど、途中からはもう諦めたわ。

だってお似合いなんだもの。

生徒会の会長と副会長よ?

それでいて一年のころからの付き合い。
ってそれはにこもそうか。
まあとにかくなんて言うか、入り込む余地もない? とかそんな感じよ。

わかってもらえた?
42: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/31(火) 03:30:28.69 ID:DU0W9Zmm.net
思考の海に溺れかかっていると、目の前に桃色の折り紙がすっと差し出された。

「にこっち、これ。
ウチからにこっちにプレゼント!」

顔を上げると、そこにはまるで狸のような笑顔を一面に広げたアイツがいた。

「……の、ぞみ?」

「ウチやでっ! びっくりした?
にこっち、なんかよう知らんけどぼうっとしとったケド、大丈夫?
ほら、ウチ、なーんか『たまたま』折り紙持ってたん。
これで短冊作って願い事を書けば、なんとっ!
このスピリチュアルなのぞみんパワーによって、何でも叶えられてしまうのだっ!
どや、すごない?」

あぁ、期待した通りのことは起こらず、「希」は「希」じゃあなかった。
けれど精一杯、「にこ」の為に「希」を演じているのかもしれない。

実際、「にこっち」って呼ばれると、くすぐったい感情が顔を覗かせるんだもの。
こんなの――
にこは考えるのを止めた。それから、

「――すごいわね、アンタは」

希以外の他の誰にも聞こえないように、ぼそり、と呟く。

そっと折り紙を裏返すと、右半分にはもうすでに何か書かれていた。

「ねぇ、コレ……」

「んー? 何のこと?
あっ、ことりちゃん、ウチの折り紙でよければ是非使ったってな!」

そう言いながら、希はことりと海未のいる方に歩いて行った。
43: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/03/31(火) 03:44:27.66 ID:DU0W9Zmm.net
私は、さっきの折り紙を一度表に向けると、心の準備をした。悪戯に対するリアクションによっては、今日すらまともに乗り切れないかもしれないし、ね?

それにしてもあの狸、どんな悪戯を仕掛けたって言うのよ。

どうせ『ニコの胸が大きくなりますように!』とか下らないこと書いてるんでしょうけど。

まったく、希ってば絶対このことを見越して折り紙持ってきてたでしょ。
微妙に飛び出したアイツの髪。
あれは面白いことを常に察知しているセンサーなのかも?
なんちゃって……そんなはずないけどさ。

ただ、そんなセンサーなくてもそれこそ占いでこうなるってわかっていたのかもしれない。
もしそうなら気味が悪いけど。

でも、「希」ならやりかねないわ。
私の知ってる「希」なら、ね。

さて、心の準備はできたわ。改めて、折り紙を裏返す。
変なこと書かれてたら、どんな風に仕返ししてやろうかしら?

果たして、折り紙にはこう書いてあったわ。




『にこっちが、無事に元いた世界に帰れますように』




「――バッカじゃないの」

私は、カーディガンの裾で涙をぬぐった。
50: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 16:47:04.07 ID:3aPvmB+a.net
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短冊の一件から二日くらいたったけれど、あれ以来、にこはどうもモヤモヤとしてるの。

だって、希のことが好きで好きで、でもこの希は希じゃなくって、でもやっぱり希は希で……。

どっちの希だって大事なんだもん。

参っちゃうわ。
どうせなら元の世界での記憶なんて残しておかないで欲しかったわよ。

……それでも。
「希」を忘れるのなんて、絶対に嫌だ。
だから、これでよかったのかも。

いえ、違うわね。
そもそも世界を移されなければよかったんだわ。

――けれど、こっちの世界に来なければ、こっちの「希」とは出会えなくて。
いやだから、もともと出会わなければこんなことで悩まなくてもよかったんだし。

ああもう!

神様がもしもいるんなら、私は神様のこと、恨むわよ。

なんで私をこんな目に合わせたわけ? 私はこんなこと、望んでなかったっての。

まあ、今更よね。今はとにかく、元の世界に戻ることを考えなきゃ。
51: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 16:50:34.85 ID:3aPvmB+a.net
そんな風に一人考えながら歩いていると、

「あ、ニコちゃん」

と、声がかかる。
夕方の廊下は薄暗くて、この距離では誰だかわからなかった。
でも、この声は紛れもなく真姫のものだ。

「真姫……ちゃん、どうしたニコ? 今日は練習お休みでしょ?」

「そういうニコちゃんこそ、一年生の教室に何か用かしら?
――あの話?」

そう、にこはあの七夕の日、真姫と絵里を呼んで全てを話したの。

にこが違う世界から来たこと。

元の世界にもμ'sがいて、私はそこの一員だったこと。

そして、希のこと。
これは話す意味はなかったのかもしれない。けれど何故だか、話さなくてはいけない気がしたのよ。

「そ、あのことよ。ちょっと相談したいことがあって、ね」

周りに人がいないことを確認すると、私は「にこ」に戻った。

「ニコ」の仮面をかぶり続けるのって案外疲れるのよ。
だって常時かわい子ぶってるのよ?
気疲れするわ、本当に。
52: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/04/03(金) 16:53:27.07 ID:3aPvmB+a.net
「……やっぱり、本当に別人みたいね。ニコちゃんがこんな喋り方するなんてありえないもん」

「ね、語尾に『〜ニコ』とかありえないわよ。こっちの世界の私、いったいどこに向かってるの……」

「私と一緒に、UTXに向かってるわよ。その為に『ラブライブ!』優勝を目指してるわ」

こっちの真姫は冗談も言えるのね。ずいぶん社交的というかなんというか、ねぇ?

「面白い冗談ねぇ。なにそれ、意味わかんないって?
……っくく」

向こうの世界での真姫を思い出して比べつつ、そう言うと、

「いや、本当に」

と返ってきた。

「え、本気?マジで?」

「うん、マジで」

えっ……じゃあ「ラブライブ!」に優勝したらこの学校にもいられないってこと!?
確かに、UTXは魅力的だけど、それだと私、μ'sのみんなと離れ離れになっちゃうわ。
それに、編入したところで居られるのはたかだか数ヶ月よ!?
「ニコ」は何を考えてそんな……。

――いえ、世界は違っても私は私。なにかしら考えがあってのことだろうし……さり気なく真姫を巻き込んでいるんだから、抜け目ないわ。

「えっと、この話は、そうね……秋葉原にオムライス屋さんがあるんだけど、そこでしない?」

真姫は私の手を握ると、「早く行くわよ」と急かした。
61: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/09(木) 15:42:27.29 ID:DNqtLqcP.net
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「……ここに来るの、実は二回目なのよ。前にニコちゃんと賭けをして、結果も出てないのに奢らされたのよね」

懐かしそうに目を細めながら、真姫が笑った。

「なんの賭けをしたの? どうせそんなにたいした内容じゃないんでしょうけど……」

「μ'sにエリーが加入するかどうか、よ。
あの当時はエリーもまだまだ堅物って言うか、生徒会長然としていたって言うか。
とにかく、幼馴染のお願いだから揺らいではいたけど、なかなか入ろうとしなかったのよ。
それでも、ニコちゃんは入るに決まってる、って言ってたし――実際加入したわけなんだけど♡」

そっか。
じゃあ「ニコ」は、賭けには結局勝ってたってわけね。

絵里の幼馴染って誰かしら?

まあ、絵里をそこまで強引に誘うなんて、あの子以外に思いつかないけどさ。
62: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/09(木) 15:44:49.31 ID:DNqtLqcP.net
「幼馴染って、ひょっとして穂乃果のこと? 」

「そうよ。
穂乃果と海未とことり、それからエリーは昔から小学校が一緒だったりで遊んでたみたい。
それから、確か凛と花陽も穂乃果たちと同じ中学だったから仲が良かったわね。
――ひょっとして、ニコちゃんがいた所ではまるっきり違うの?」

「いえ、穂乃果たち二年生はみんな幼馴染よ。
ただ、花陽たちのことは知らなかったみたいだし、絵里なんて最初は誰だかわからなかったって穂乃果に聞いたわ。
生徒会長なのに顔すら知らないなんて笑っちゃうわよね。
さっすが穂乃果ね」

ここまで一気に話すと、にこはお冷やを傾けた。
久しぶりにこんなに人と喋ったからか、喉がカラカラになっちゃったのよ。

「まあその話は置いといて、本題に入るわよ。
『ニコとマッキー』がUTXに向かっているっていう、最高のジョークについて、解説願うわ」

「えっと、UTXが主催で『ラブライブ!』が開催されるのはもちろん知ってるわよね。
優勝したら無試験編入って話を知ってたんだものね」

にこは黙って頷く。

その話は、希に聞いたから知っていたわ。

ただ、まさか「ニコ」がその無試験編入を考えていた、なんていうのは知らなかったけど。
63: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/09(木) 15:56:34.43 ID:DNqtLqcP.net
「だったら話は早いわ。
私は元々オトノキに入学する気なんてなかったのよ。
堅物の両親が勝手に決めただけで……。
ニコちゃんは、ちょっと言いにくい話なんだけど、ほら、お金の問題でUTXには行けなかったんだって。
でも、優勝さえすれば特待生として学費を払わずに通えるから、って」

「――なるほどね。
でも、ちょーっと抜けてたわよね、『ニコ』も、アンタも。
だって、『ニコ』がたとえ編入できたとしても、半年も通えないんだし、それに、真姫はUTXの芸能科で学ぶメリットなんてあるのかしら?」

「ニコ」はどうせ、アイドルになることしか考えていなかったんでしょうけど。
真姫は将来アイドルになりたいって訳でもないだろうし、音ノ木坂で普通に学んでから大学に行く方がリスクは少ないんじゃないかしら?
特に、医学部に行くなら芸能科じゃ学べないことが多そうだし。

「そう言われると確かに、私が芸能科で何をしたいか、なんて思いつかないのよね。
当時の私ってば、ニコちゃんに毒されてたのかしら。
……多分、缶のおしるこがあまりにも美味しかったせいね」

「缶のおしるこ?」

「ううん、なんでもないわ」

ちょうどそこで、注文していたオムライス二人前と、飲み物が運ばれてきた。

オムライスはとろけるような半熟のもので、にこでもなかなか再現できなさそうね。

それにしても、頼んでもいない飲み物に、ストローが二つ刺さっているのは、どういう了見かしら?

「……なに、これ?」

「あぁ、お客様、今日はカップルデーですので!
ドリンクは当店からの、ほんの気持ちです」

「いや、私たち女の子同士なんですけど……意味わかんない」

本当にね。
私たちはカップルじゃないっての。
71: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/13(月) 11:13:01.48 ID:AYdTxkHp.net
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「……ニコちゃん、飲まないの?」

真姫が私の顔を覗き込んだ。
近くで見ると、妙にどきりとしてしまう。

「恥ずかしいから、アンタが飲んじゃって。私、今そんなに喉渇いてないのよ」

視線を真姫からそらしながら、そう促す。

「……こんな量、一人で飲めると思う?
それに、別にストローだって一本ずつあるんだし、気にせず飲めばいいでしょ?」

確かに、一理あるわね。

ストローが一本しかないなら、それは間接キスというヤツになるわけで、とても恥ずかしいけど――でも、二本あるわけだし、どうってことないわよね。

「わかったわよ。しょうがないわねぇ。
宇宙ナンバーワンアイドルとカップルごっこが出来るんだから、ありがたく思いなさいよね?」

なんて、照れ隠しを一つ。

お得意の半眼でこちらを睨むように見ながら、真姫がオムライスを一口、小さな口に運ぶ。

「おいし……」と一言漏らし、再びそれをすくい取った。
72: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/13(月) 11:19:15.81 ID:AYdTxkHp.net
「あ、そういえば、前にもこんなことがあったような……」

ふと、夏頃のことを思い出した。
――って、こっちの世界では今も夏か。

ことりがバイトしてたメイド喫茶に遊びに行ったとき、真姫と私の前に置かれたのは、堂々たる存在感を放つカップルジュースだったのである。

「へぇ、そんなことがあったのね。
私たち、なんだか関係性が誤解されがちってことかしらね。
別に、悪い気はしないけど。
……でも、好きな人にでも見られたりしたら、たまったもんじゃないわよね」

真姫がスプーンを置きながらそう言った。

口の周りに、ちょっとだけドミグラスソースが付いているのを見つけると、私はすぐさま静音カメラのシャッターを切る。
――SNSにでも上げてやろうかしら?

って、ちょっと待って。

「好きな人?
もしかして真姫、恋をしているの?
アンタねぇ、アイドルは恋愛禁止って知らないわけじゃないでしょ?」

人のこと、言えないのに。
自分のことは棚に上げて、真姫に問いかけた。

「そりゃ知ってるわよ。
私が恋愛っていうのは柄にもないことだっていうのも、アイドルが恋愛するなんてもってのほかだっていうのも。
でも、私の好きな人は穂乃果なんだから。女の子との恋愛なら問題ないんじゃない?」

あぁ、そっか。
真姫も同じ穴の狢だったのね。
想い人は違っても、真姫も――。

じゃあ「ニコ」も、片想いをしていたってわけか。
少し同情すると共に、にこはストローを咥えた。

「あ、それ私のストロー……」

「ごめん」
84: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/21(火) 16:54:22.04 ID:9v+7VnLh.net
- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


「そういえばニコちゃん、希に告白とかしなかったの?
確か結構長い付き合いだって言ってたわよね……?」

恋をする乙女というのは、やっぱり可愛いものね。素直にそう思うわ。

と言うことは、必然的ににこは可愛いって訳ね! ま、当たり前だけど!

例えばだけど、穂乃果に恋をしている真姫からは、幸せなオーラが漂っている。

「ニコ」も多分それに気付いてたんだ。だから希に相談してたのかも。
希に……「希」に会いたい。

「……にこは、アイドルだから」

それが、精一杯の答えだった。

「そうね、アイドルは恋愛禁止。そう思って日和っちゃった?
……他の人に盗られちゃうかも知れないのに。それも指をくわえて見てるつもりだったの?」

「そういうアンタはどうなのよ。穂乃果に告白しないの? あの子こそモテそうなんだし、さっさと告白しなきゃ盗られるわよ?
ほら、特に幼馴染組とか」

「わ、私は、別に……穂乃果とどうなりたいとか、そんな風には思ってないわよ。ただ純粋に、穂乃果を愛しているだけ。だから別に……」
86: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/21(火) 16:57:15.13 ID:9v+7VnLh.net
なんだかハッキリしない真姫に、私は苛立ちを覚えた。
ジュースを一気に飲み干すと、真姫ちゃんお得意の半眼を真似して睨みつけてやる。

「な、何よ……」

怯えた小動物みたいな上目遣いで、真姫が私を見つめる。悔しいけれど、不覚にもキュンとしてしまった。むむむ。

「ほんっと、アンタって素直じゃないわよね。好きなら好きだと伝えなさいよ。いつ伝えられなくなるか、わからないんだから!」

「あ……。ごめん、そうよね。私、会おうと思えばいつでも会えるところに好きな人がいるのに。自分の想いから逃げてる。
……情けない、わよね、私」

情けなくなんかない。それが普通なのよ。
とは、言えなかった。

だって、それなら私の方が情けない。一年生の頃からずっと見てきたのに。三年生になった今でも、想いを伝えられないままで。
それどころか、こんなことになっちゃって。

「……ごめん、真姫。私も人のこと言えないわよね。はぁ、揃いも揃って情けないわねぇ、私たち」

「……そうね。ふふっ」

くすりと笑った真姫の顔はやっぱり可愛くて――「ニコ」の気持ちがわかった気がした。
結局私にとっては、希の意地悪なタヌキ顔も、真姫の捻くれた猫みたいな顔も、どちらも愛おしいのだから。
87: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/21(火) 16:58:30.50 ID:9v+7VnLh.net
そんなことを考えているとき、突然、ピコン、と携帯が何かを通知する。

何かしら?

画面を見ると、どうやらリプライ通知――いえ、これはダイレクトメッセージね。

滅多に使わない機能だし、学校の知り合いからは直接メールが来るはずだ。

ちょっとだけ考えて、ファンの人から来たのかもしれない、と思った。

SNSだけで繋がっているなら、ダイレクトメッセージかリプライしか連絡手段はないものね。

でも、そのメッセージを開いたとき、そうでないことがわかった。


『ニコの居場所を返してよ!』


それは、私がつい最近まで使っていたアカウントから送られてきてたんだもの。
92: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/22(水) 20:14:32.32 ID:FVTSRxuv.net
- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


「…………なによ、これ」

それ以上の言葉は、なにも出なかったわ。

私は別に、「ニコ」の居場所を奪おうとして奪ったわけじゃあない。

気付いたら「ニコ」としてこの世界にいただけなのだから、とんだとばっちりじゃないかしら?

私だって、返せるもんなら返したいわよ。

「ニコちゃん? 急に固まってどうしたの?
……って、これ……!」

「……『ニコ』からみたいね、どうやら。きっと想像するに、私が元いた世界にいるんだわ。
――ほら、これ。私がもともと使っていたアカウントから届いてるのよ。でもこのアカウント、検索してもやっぱり見つからないし」

だとすれば、私は「ニコ」と、そっくりそのまま入れ替わってしまったってわけね。

「にこ」の世界に「ニコ」が、「ニコ」の世界に「にこ」が、それぞれ何故か飛ばされてしまった。

カミサマのイタズラで、「ニコ」も災難にあっているってことよね。
93: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/22(水) 20:16:58.64 ID:FVTSRxuv.net
「本当、ID検索しても見つからないわね。って事は、存在しないってワケね。
……待って、それなら向こうのニコちゃんはどうやってこのメッセージを送ったのかしら? 向こうも同じような状況だと仮定すると、このアカウントは見つけられないはずよ」

それについては、心当たりがないでもなかった。きっと「ニコ」も相談したんだろう、アイツに。

「そうね、普通なら絶対に見つからないだろうけど――向こうには、スピリチュアルな奴がいるから。ソイツに頼んだらこのくらい、なんとかなりそうな気もするわ」

やっぱり、こういう時に頼りになるのだ、「希」は。

――あれ?
じゃあ、「希」と連絡を取ろうとすれば、「ニコ」を通じて出来なくはないって事?

少し、ほんの少しだけど、元の世界に戻る希望が湧いてきたような気がした。

とりあえずは、「ニコ」に返信をしなきゃね。



『ニコへ
いきなり居場所を奪ったりして悪かったわね。でも、私だって悪気があったワケじゃない。気付いたらあんたと入れ替わってたんだから、こればっかりはどうしようもないわよ。
そうそう、そっちに希いるわよね? できれば連絡取りたいんだけど、ちょっとそのアカウント貸してやってくれない?』
94: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/22(水) 20:18:46.17 ID:FVTSRxuv.net
「ニコ」へのラブレターをしたためると、そっと送信ボタンを押す。文字数の制限があるから細かい状況は伝えられないけど、まあ向こうもきっと似たようなもんだろうし、大丈夫かしらね。

返事は、五分と経たずに帰ってきた。希ってば、普段はメールを返すのも遅いくせに、こういうときばっかり早いんだから。心配、かけちゃったかしらね?



『にこっちへ
ウチも驚いてるんだけど、本当に連絡取れるみたいやね。
単刀直入に言うけど、ウチじゃこの問題の解決策は思い浮かばんかったよ。ごめんな?
でも、きっとこれは、誰かに仕組まれたものだと思うんよ。それが誰かはわからんけど、きっと身近な人。
まあ、ウチの方でも色々調べてみるわ!』



「希」は、相変わらず頼りになるヤツだし、案外思慮深いのだ。アイツのそんなところが、私は――なんてね。

「希……ありがと。
よっし、真姫! 私が元の世界に帰れるよう、私たちも色々調べてみましょ!」

「え、私もぉ!?
まあいいけど。どうせ最初からニコちゃんのお守りは私の仕事なんだし」

「ちょっと、それどういう意味よ!?」

こんなやり取りも、そのうち思い出になっちゃうのかな。そう思うと、少しだけ寂しくなった。
100: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/27(月) 23:12:39.59 ID:33nNM0sa.net
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まぁ、結論から言うなら、にこはどうも元の世界に戻れないらしいわ。

夢も希望もない話だけれど、これは現実なんだから、納得できなくても無理やり納得するしかない。



『ごめんな、にこっち。
あらゆる手を尽くしたんだけど、やっぱり別の世界に飛ばされるなんて前例がないことだし、スピリチュアルとか言って何とかなるわけじゃあなかった。
ウチ、肝心な時にこうやもんなぁ。ほんとに、ごめん』



「希」と連絡を取ることに成功してから三日経った日、そんなメッセージが届いた。
やっぱりね……そりゃあそうだ。そんなに簡単に元の世界に戻れる方法なんか、転がってるわけないわよ。
……アンタは悪くないわ、希。私だっていろいろ探したけれど、やっぱり元の世界に戻る方法なんて見つからなくって。だから、これは誰が探したって無理だと思うのよ。

でも、だからと言ってそんなメッセージを送るなんて、野暮なことはできないわ。
101: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/27(月) 23:14:15.66 ID:33nNM0sa.net
「――ニコちゃん。私、まだ諦めてないから。必ずニコちゃんをもとの世界に……!」

真姫が「希」からのメッセージを見ながら、呟く。

「真姫、アンタ……優しいわね。でも、もういいのよ。
確かに悔しいわよ。悲しいわよ。希のことも諦めなきゃならない。
『ニコ』の気持ちも諦めてもらわなきゃいけない。
私だけの問題じゃないのはわかってるけど、でも、無理なものは無理なのよ。だから――」

だから、もういいわ。そう言おうとしたけれど、それは遮られたわ。

「それは違うんやないかなぁ、にこっち」

教室のドアが開いて、いつからそこにいたのか分からないけれど、希が入ってきたのだ。
102: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/27(月) 23:17:55.76 ID:33nNM0sa.net
「希、アンタ聞いてたの? ……まぁいいわ。
それより、元の世界に戻れる算段は無いそうよ。向こうのアンタが言ってたわ。
だから、『にこ』は今日から『ニコ』として生きていくつもり。
『ニコ』にもこのことを伝えて、向こうの世界で『にこ』として生きてもらうことにするわ。
辛いだろうし、私も辛いけど……こうするしか方法がなさそうだし。
だからアンタも――『のぞみん』も、『ニコ』って呼んでくれたらいいわ」

「にこっち、それは違うよ。ウチはにこっちのこともニコのことも、どっちも大切。
どっちも大好きだし、どっちもウチのことが好きなんやろ? 違う?
だったら、ウチは最後まで諦めんよ。真姫ちゃんだってそのつもりなんやろ?
エリチカ会長も張り切ってたしなぁ。なんでも、ニコのためならオトノキの生徒全員に協力して貰ってでもなんとかするって言ってるんや。
――あ、言うの忘れとったケド、すでに理事長と真姫ちゃんのお母さんにはいろいろと協力して貰ってるで。一応、財力がいるかと思ってウチも考えたん。
もちろん、ことりちゃんたちには話さないように念を押しといたから、安心してな?」

あぁ、やっぱり。
こういう時にどこまでも頼りになるのは、希、アンタなのよ。
向こうの世界でも、こっちの世界でも、ね。
108: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/29(水) 19:57:51.32 ID:OSSgRIty.net
「希、エリーはまだ他の生徒には何も話してないのよね? 勿論、μ'sのメンバーにも。
もし話すなら、そのときは最終手段という事だから、ニコちゃんのためにもそれは避けたいところよね……」

「真姫、私ね、そのことでちょっと考えたんだけど――μ'sのメンバーには話した方がいいかなって思ってるのよ。
だって、あの子たちには隠し事なんてしたくないもの。同じ夢を追いかける仲間として。何より――友達として」

それは、にこにとっては相当な覚悟だけど。けれど、このまま隠し通すのは辛いんだもの。

隠し事や秘密は誰にだってあるんだし、みんなも少なからずメンバーに隠し事があるんだと思うの。
でも、にこの「コレ」はちょっと違う。

穂乃果が体調の悪さを隠してライブに臨んだことや、ことりが留学するつもりであることをみんなに隠していたことなんかとはわけが違う。

いや、そのどちらにも困らされたもんだけどさ。
109: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/29(水) 19:59:50.93 ID:OSSgRIty.net
そういうのじゃなくって、私の「コレ」は、世の中の常識にすら当てはまらないのだ。

だって、別の世界から来たなんて。

「ニコ」が「にこ」と入れ替わっているだなんて、そんなのって。

幸いにも、メンバーの性格は私が知っている皆とそれほど変わらないようだし、案外「へぇ、そうなんだ」ですませてくれるかもしれない。
でも、やっぱりどこかぎこちなくなるんだと思う。

他のみんなには悪いけど――そこまでみんなの性格ができているとも思えないもの。

絵里や真姫、それに希みたいな大人びた性格なら問題ないかもしれない。海未なら、あるいは。

まぁ、さっきも触れた通り、海未に隠し事ができるようには思えないから、海未に話してしまうと穂乃果とことりには筒抜けになるだろうし。

穂乃果に知られてしまったら、もう諦めた方がいいだろうなぁ。

あの子、「ニコ」のために特に考えもないまま周りのみんなを巻き込んでしまうでしょうし。いや、そこがあの子のいいところなんだけど、今回ばかりはね。
110: ◆n0J2IfBFxY (ふく)@\(^o^)/ 2015/04/29(水) 20:01:00.25 ID:OSSgRIty.net
「にこっち、真姫ちゃん。
ウチな、思うんよ。にこっちのためを思うなら、このままもうしばらく黙っとった方がええんやないかって。
真姫ちゃんの言うとおり、みんなに話すんは、協力して貰うんは、最終手段ってことにして。
ウチらにできることはまだまだあるはずやし、もう一か月くらいは頑張ってみぃひん?
勿論、その間辛い思いをさせることになると思うケド――」

希が、私の目を見る。「そのくらい大丈夫よ」という意味を込めて見つめ返すと、希は強く頷いた。

「そうね、やっぱりみんなに話すのはしばらく後にするわ。
いきなり話されてもみんな困るでしょうし。
――だから、8月最後の日までに帰る方法が見つからなければ、そのときはみんなに話しましょう」

「――ウチらには、特にウチには真っ先に話したくせに♪
ひょっとしてウチ、他のみんなより頼りにされてるんかなぁ? なーんちゃって♡」

場の空気が少し暗くなったのを明るくしようとしたのかしらね、希がおどけてそう口にした。
勿論、希が頼りになるから話したのは事実なんだけど。もっとほかの理由だってちゃんとあって。

「アンタに真っ先に話したのはね――」



――希のことが好きだったからよ。



なんて言えず。

ただ下を向いて、「そうね」と相槌を打つことしか、私にはできなかった。
116: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/01(金) 21:22:03.13 ID:L5dNl9hf.net
- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


今日から夏休み!

やっぱり、長期休暇ってのはテンション上がるわよね! 若干の空元気は含まれているけれど、でも今年二回目の夏休みなんだし、折角だから楽しまなくちゃ損よね!

「ニコ、えらく開き直ったわね……」

絵里が少し心配そうに言う。

「だって夏よ? 真夏よ!?
いくら悩んでることがあったって、その全部を焼き尽くしてくれるあの夏よ!
それに……アンタたちが私を元気付けようとしてくれてるんだもん、そりゃ元気出さなきゃねっ!」

ぐるり、とあたりを見回す。
そこには一面に広がる砂浜と、海。

別に泳ぎに来たわけじゃない。

泳ぐにはまだ少し早い気もするし、急なことで水着もまだ買っていないのだ。

……っていうか、そもそも私って泳げないし、海に来ると砂浜でしか遊ばないのよねぇ。
117: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/01(金) 21:24:04.47 ID:L5dNl9hf.net
今日の目的は、実は特に決まってないのよ。

賢くて可愛い絵里のことだから何かプランでもあるのかと思ったけど……聞いてみたらぽかんと口を開けて一言、

「え? 海は行くだけでも十分楽しめるじゃない」

とだけ。

絵里は多分、何か勘違いしてるんだわ。

海に行って楽しめることって、泳ぐか、魚釣りか、お城作るくらいしかないんじゃない?

さすがに砂のお城を作るほど私たちは子供でもないし、釣りをするためには道具がないと……。

――あれ、じゃあ本当に何したらいいのかしら?

「ニコー! こっちこっち!
ほら、早く! 一緒に素敵なお城でも建築しない?」

絵里が、柄にもなくはしゃぐ。

……訂正。絵里は勘違いなんてしてないわ。絵里にとってはお城作りもまだまだ楽しめる遊びらしいし。

って言っても、私も可愛い妹や弟と一緒に砂のお城くらい作るし、楽しめるのは確かだわ。まぁ、ちょっと恥ずかしいけど。
118: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/01(金) 21:25:23.56 ID:L5dNl9hf.net
「……ねぇ、どうする? 真姫、希」

後ろを振り返ると、あのタヌキ顔に満面の笑みが広がっていた。

「そんなん決まってるやん?
よっしゃ、今行くで、エリち〜っ!」

……ったく。
希が穂乃果と付き合いだしたのはついこの間だけれど、アイツもほんのり穂乃果色に染まってしまったわね。

ま、普段余裕ぶって影でこっそり動いてる「希」から考えると、これで良かったのかもね。

こっちの世界で希がどうなろうと、向こうの「希」に影響はないだろうけど、アイツもこのくらい素直になれたらいいのに。

あ、もし帰れたら「さっさと絵里に告白しなさい」って言ってやろうかしら。
あの様子じゃ、大学生になってもずっとあのままの関係でいそうなんだもん。

「……希、行っちゃったわね。
どうする? 真姫」

同じ質問を、もう一度。
今度は、真姫だけに向けて。

でも、返ってきたのは質問に対する答えじゃなかったの。

「……ニコちゃん、話があるの。聞いてくれない?」
125: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 14:52:52.15 ID:gly5K0qd.net
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「……で? 話って何よ。穂乃果のことかしら」

なんとなく、表情からそんな気がして、真姫に問いかける。

「そうよ、穂乃果のこと。
私、失恋しちゃったんだ……。
ねぇ、ニコちゃん。失恋ってこんなに心が痛むものなのね。
私、泣いても泣いても涙が止まらなくなって、それでもひっそりと終わるのなんて嫌だから、穂乃果に想いだけは伝えて、でもそんなの結果なんて火を見るよりも明らかで、だけど頑張って穂乃果の前では泣かないようにしたの。
……ごめん、言ってることが支離滅裂で、自分でも何を言ってるのかよくわかんないわ。でもね、でもね――」

真姫の辛そうな表情は、見ていられなかったわ。

「真姫、とりあえず深呼吸して、それからこのハンカチ貸してあげるから涙拭きなさい。まったく、世話の焼ける妹かっての」

何処までも素直じゃない私と、いつの間にか素直になっていた真姫。

二人はどことなく似ていて、それでもやっぱり正反対なのかしらね。

例えるなら、そうね。磁石が一番近いのかしら。
正反対の、でも性質が似た二人は、いつの間にか惹かれあっていて――いや、惹かれあってはいないのか。

真姫が好きなのはやっぱり穂乃果だし、私は……。




――私、「希」が好きなのよね?
126: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 14:56:06.41 ID:gly5K0qd.net
いや、想いが薄れたわけじゃあないんだけれど、どうも最近思考の隅っこには真姫が引っかかるようになっているのよ。

これって、やっぱりそうなのかなぁって考えてみるけれど、でもそんなはずはない。
二人の人を同時に好きになるなんて、なんだか不純じゃない! そんなのなしよ!

それに、にこはアイドル。スキャンダルは避けなきゃなのに、こんな――あれ、でも二人とも女の子だし、でも、あれ?
って、違う違う。別に私、真姫のことそんな目で見てるわけじゃないし!?

「――ちゃん? ニコちゃん? 話、聞いてた……?
もしかして、私の失恋話なんてどうでもいいっていうの……? これでもマッキーは乙女なんだから、硝子のハートの持ち主なのよ!?」

「……わ、悪かったわよ。ちょっとぼうっとしてて。
あー、涙は拭いた? じゃ、いっちょにこにー大先生の恋愛相談室でもはじめましょっか!
うーん、通称は、そうねぇ……」

脳裏には、やっぱり狸顔が浮かぶ。
だから、もちろんあの名前を使うしか選択肢はなかったのだ。

「『乙女式れんあい塾』、ね!
さぁ真姫、もちろん受講、するでしょ?」

真姫は、ちょっと目を見開いて、それからふわっと笑う。
やっぱり、最近コイツは素直になったみたいね。こんな表情ができるんだから、今の真姫はとっても魅力的よ。

……まぁ、私の方は素直じゃないから、そんなこと言ってやらないけどね。
127: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 14:58:37.88 ID:gly5K0qd.net
真姫が可笑しそうに喉を鳴らしながら、笑顔で言った。

「ふふっ、お断りします!」

「えぇっ……な、何で!?」

「そんなの――ううん、やっぱり教えてあげないっ!」

真姫は悪戯っぽく口角を上げ、あかんべーなんてしてくる。
そうか、この娘は実は小悪魔なんだ。ずるいことはしちゃダメってことを、いつか教えてあげなきゃ、ね。

そのいつかが来るのを、私は望んでいるのかしら。望んでいいのかしら。

――ねぇ、「希」、私、こっちの世界で生きていくべきなのかしら。
「ニコ」は、そっちの世界にいて生き辛くないかしら。やっぱり私、そっちに――

「ねぇ、ニコちゃん。私……私ね、ずるい女なの。
穂乃果だけじゃなくって、他にも好きな人がいる、って言ったらどうする?」

「んー、まぁいいんじゃないかしら?
アイドルたるものスキャンダルには気をつけなきゃだけど――
って、え? なななななんですって?」

「私、穂乃果とは別にもう一人好きな人がいるのよ」
129: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 15:05:24.65 ID:gly5K0qd.net
ま、まさかこんなところも似てるなんて。本当に私たち、磁石なんじゃないの?
な、なんて……は、はは。

まぁ、期待なんて――期待って何よ!?
まるで私が真姫のこと、好きみたいじゃ……そんな筈ないって言ってるでしょ!?

あー、もうっ!
私も十分、ずるいことしてるんじゃないの!

「へ、へぇ〜っ! だ、誰のことかしら!」

恐る恐る、聞いてみたわ。
だってどうしても気になるんだもん。……他意はないわよ?
返事次第じゃぁ、私、気絶するかもしれないけど。

「そんなの、教えるわけないじゃない!」

気絶云々は杞憂だったようで、今度はウインク付きであかんべーをされる。
ちくしょう、可愛いじゃないか、この小悪魔め。

「おーい! にこっちーっ! まきちゃーん!
早くこっち来てみーっ! もうすぐ砂の名古屋城が完成するでーっ!」

「ってアンタらどんだけ器用なのよっ!?」

私と真姫は顔を見合わせて笑うと、希と絵里の元へと向かう。
正直、ちょっと助かったかもね。
130: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 15:08:19.74 ID:gly5K0qd.net
ゴールデンウイーク中に間に合わせるとかほざいた奴がいたそうですね。私です。
普通に間に合わない気がしてきましたができればもう一、二回くらいの投下ですっきりおさめたいと思います。
早くしなきゃ真姫ちゃんイベント走れなくなるし…

イベント開幕までもう少し書きます。分量がいい感じになったらもう一回投下したいですね。

んだば、また。
131: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 16:01:08.98 ID:gly5K0qd.net
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海からの帰り道。電車に揺られて心地よくなったのか、真姫と絵里はうたた寝を始めた。

「何やにこっち、随分ご機嫌やんな?」

希がニヤニヤしながら話しかけてくる。

「なっ! べ、別に……にこは」

「真姫ちゃんの寝顔、可愛いもんなぁ。こっそり写真撮ってもええんよ?
ウチはばらしたりせぇへんし、なんならウチが撮ろか?」

すっかり見透かされていたようね。

そうよ、あんな話された後じゃ、意識するなって方が無理だもん。

いやまぁ、私の事じゃないかもしれないんだし、むしろその可能性の方が高いんだし、自意識過剰も甚だしいかもしれないけどさ。

……でも、気にしてしまうのはしょうがないじゃない。
132: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 16:02:50.79 ID:gly5K0qd.net
「……なーんで私が真姫の寝顔なんか盗撮しなきゃなんないのよ。
大体、私にはちゃんと好きな人だって」

「向こうの世界のウチ、やろ?」

「へっ!? な、な、何で知ってるのよ!
私、アンタには、アンタにだけはばれないようにして――」

「ふぅん? ま、でもウチにはバレバレやったけどなぁ。
これがいわゆる……スピリチュアル、やね?」

希はやっぱり、ひょうひょうと物事を見透かしているのだ。

コイツには一生敵わない、こっちの世界でも、向こうの世界でも。改めてそう思ったわ。

「もしかして、お得意の占いかしら。
アンタの占いは恐ろしいほどよく当たるんだもん……まったく、ずるいわね。
それで? この場合はハイパースピリチュアル占い師のぞみんに従って盗撮するのが吉なのかしら?」

悔しいので、少し煽り気味に返す。

やっぱり私はどこまでも素直じゃない。
133: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 16:03:47.95 ID:gly5K0qd.net
「――もしかして、にこっちってば自分の気持ちに気付いてないん?
たしかににこっちは向こうの世界のウチの、『希』のことが好きや。
それは、今でもきっとそうなん。
けどな、にこっち。それと同じくらい、いや、ひょっとしたらそれ以上に。
にこっちは、真姫ちゃんにどうしようもなく惹かれてるんよ」

「そんなのありえないわ! 私が好きなのは、『希』だけで――」

「……んぅ……にこ、ちゃ」

突然、真姫の声が隣から聞こえる。
心臓が止まった気がするわ。

「ひゃぁっ!? まままままままま真姫っ!?
いつの間に起きて……!?」

と思ったけれど、またすぐに可愛らしい寝息が聞こえてくる。

何ってタイミングでそんな寝言言ってくれちゃってんのよアンタはァ!

「あはは……真姫ちゃんもいいタイミングで寝言を言うなぁ。
けど、にこっち。今のリアクションではっきりしたんとと違う?
にこっちは、真姫ちゃんのこと――」
134: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/05(火) 16:04:57.67 ID:gly5K0qd.net
……そうよ。もう分かりきってたことじゃない。それなのに、素直じゃない私はずっと否定してて。

思えば、最初に「希」の話をした時から、いつかこうなるんじゃないかって分かっていたのかもしれないわね。

だから、あんな話を――

「――分かったわよ、いい加減認めるわ。
私は、真姫のことが……」

そのとき、携帯電話が通知音を鳴らした。

案の定、それは「ニコ」からのダイレクトメッセージで、つまりは「希」からの連絡だろう。

「ちょとごめん」と希にことわると、私はすぐにメッセージを開封した。




「にこっちへ
ご無沙汰やね。あれからウチ、ずっと調べてたんだけど、帰る方法、見つかったかもしれない
このメッセージに気付いたら、すぐに折り返し連絡して!
それから、謝っておくわ。にこっち、ごめんね」
139: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 00:38:42.49 ID:IhE7SJru.net
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「の、希、これって……どういう意味だと思う?」

私はメッセージを受け取るや否や、希に見せる。

希は私の携帯を受け取ると、しばらくまじまじと画面を見つめていた。

そして、口を開く。

「にこっちは、もう悩まなくて済むってことやね。だって、帰る方法があるんやから!
……あ、でも……」

そう、そうなのよ。

こっちは折角真姫への想いに気付いたってのに、ちょっとタイミングが悪くない?

このまま、自覚しないまま元の世界に戻れたならどれほど楽だっただろうか。

「希」だけへの想いで満ちていた心に、少しシミができたくらいの気持ちで帰れたなら、どれだけ心が軽かっただろうか。

……まぁ、考えたって無駄ね。
帰る手段があるんだったら、「ニコ」も「にこ」も、元の世界へ帰るべきで、それが当たり前で。

こんなときに、わがままなんて言えやしないのよ。

「……勘違いよ、勘違い」

「にこっち、でも……」

「うっさいわね、全部勘違いよ!
私は真姫のこと、そういう目で見てないし、『希』のことだけを愛してるの。それで、いいでしょ?」
140: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 00:41:13.55 ID:IhE7SJru.net
つい語気が荒くなってしまうが、今の私には言葉遣いに気を遣う余裕なんてなかった。

だって、二度と会えないと思っていた「希」に会える。
元の世界のみんなに会える。
こんなの、願ってもみなかったことじゃない! なのに!
いや……悲しくなんて、ない。
寂しくなんて、ないわよ。

「……ごめん、希。電車酔いしちゃったみたい。
ちょっとクッションの代わりが欲しいから、その胸貸しなさい。少し濡れるかもしんないけど、文句言うのはナシだから」

「……うん、好きなだけ使い、うちでよかったら。
ゆっくり時間使って考えればええよ。こんなの、すぐに決められんもん」

希が、向かいの席から私の頭に手を伸ばす。普段なら避けていたと思う。
でも、今はただ。



――温もりが、欲しかったのだ。



ひとしきり泣いて、私は希への返事をしたためることにした。すぐに返事をして欲しいって言われてたのに、20分はたっぷり待たせちゃったかしら。
――でも、こればっかりは許して欲しいな。想いを天秤にかけるのなんて、私には無理だったから。


「希へ
あれからいっぱい調べてくれたのね、ありがとう。私も調べたんだけど、やっぱり見つからなかったので、助かるわ
あの、さ。ちょっとわがままを言いたいんだけど、いいかな
私ね、8月が終わるまで、こっちにいていいかしら
やらなきゃならない、大事なことがあるんだ」
141: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 00:45:04.24 ID:IhE7SJru.net
「にこっち、それでよかったん?
元の世界に帰るまでの時間は確かに伸びたけど、真姫ちゃんとの思い出が増えて帰り辛くなるだけだと思うよ。
――それでも、にこっちが選んだ道なら、ウチは応援する。だから、深くは聞かない。頑張れ、にこっち……!」

希が、右手を掲げる。

元いた世界で誰かにイタズラを仕掛けたとき、成功したらよくハイタッチをしたっけなぁ。

そんな話、目の前にいるやつには全くしたことなんてないけれど、やっぱり希は希なんだ。どの世界でも。


――ぱしんっ!


空気を押しつぶす感覚がして、希の掌と私の掌がぶつかり合う。

「……私、頑張るから、見てなさいよ、希」

それから、「ニコ」、アンタもね。

私は深く息を吸い込むと、希と顔を見合わせてまた笑った。

悔いの残らない夏休みにしなきゃ、「ニコ」に申し訳ないな、なんて思いながら。
146: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 16:01:54.50 ID:/Hkr4Er/.net
- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


8月最後の日。
私は、部室にみんなを呼んで、全てを話すことにした。

そうするのが当初の予定だったわけだし、何よりこのまま、さよならも言わずに去るのなんて、フェアじゃないし、卑怯だから。

「わざわざ集まってもらってごめんね?
……ちょっと大事な話があって」

「ニコちゃん? いつもとなんだか違うけど……髪型とか、喋り方とか。イメチェンってやつ?」

穂乃果はあれでよく人のことを見ているんだなぁ、と、少しずれたことを考えながら、それに返す。

「ん? あぁ……それもまとめて話すわ。いい? 今から話すことは、ちょっと突拍子もないことだと思う。私も最初は信じられなかったしね。
まあとにかく、全部本当のことだから、信じて欲しい。それから……みんななら大丈夫だと思うけど、『ニコ』と、ずっと仲良くしてやってね」

一呼吸おくと、私は今までみんなに黙っていたことを全部話した。

私が違う世界から来たこと、私が元いた世界にはこの世界の「ニコ」がいること、そして今日、元の世界に帰るつもりだということ。

最後のは、希にしか話してなかったから、真姫も絵里もずいぶん驚いてたなぁ。

それから……元の世界に帰る方法だけど、実は私もまだ知らないのよね。

今日の正午にはその方法を教える、って「希」は言っていたけれど。

なんだか、知りたいような、知りたくないような。……って、何を言ってるのかしらね。今更。
147: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 16:03:39.05 ID:/Hkr4Er/.net
「ねぇ、ニコちゃん。平行世界、って知ってる?」

真姫が私に質問する。

それに、私は。

「もちろん、知っているわ」

あのときみたいに変な意地を張らず、キャラなんて捨てて、そう答えた。

あぁ、少しは素直になれたかしらね。

ねぇ、カミサマ。私、素直になるわ。

元の世界に戻っても、この世界でのことを忘れたくない。辛くても、苦しくても、これはとっても大事な思い出なんだ。

私の、大事な宝物なんだ。

だから、お願いします。

奇跡だって魔法だって、なんでも信じてやるわ。

だからお願い。

携帯の通知音が鳴り響く。
待っていたけれど、来てほしくないような、そんなメッセージだ。

大きく深呼吸をして、私はそれを開いた。




「にこっちへ
今から、元の世界に帰る方法を書くね
ウチらの世界から持ち込んだ何かを大切な誰かに預けて、その人からそっちの世界の何かを受け取って!
そのあと、ただ願うんや。元の世界に帰りたい、って
そしたら、きっと帰れる。ウチにまかしとき!」



……なんだ、そんな簡単なことだったのか。そんなに簡単に、あっさり元の世界に帰れるのか。

拍子抜けして思わず笑い出す。

にこを散々悩ませたクセに、あっけないなぁ。
148: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 16:06:59.96 ID:/Hkr4Er/.net
「……真姫、これ、あげるわ。
その代わり、アンタも何か私にちょうだい。なんでもいいわ、それこそガムの包み紙でも」

私は自分の髪を結っていたリボンを外し、そのうちの一つを真姫に渡す。

どうしてそうしたのかは、話さなかった。
話したら、もっと辛くなる気がして。

――いいのよ、これで。今更一方的な想いを伝えたって、すぐにお別れなんだ。

……あの日、自分で言った言葉を思い出す。

『ほんっと、アンタって素直じゃないわよね。好きなら好きだと伝えなさいよ。いつ伝えられなくなるか、わからないんだから!』

自分が一番、素直じゃない。
だから、また伝えられなかったんだ。

「ニコちゃん、本当に何でもいいの?
そんなこと言われたら、私は意地悪だから本当に紙切れとか渡しちゃうわよ?」

「うん、本当に何でもいいわよ。もらうことに意味があるんだからさ。
だから、紙切れでもなんでも――」

その先は、言えなかった。
だって、唇を塞がれたんだもの。あの可愛らしい唇でね。

まったく、本当に意地悪ね、真姫は。


……ずるい奴。


最後に私の初めてを奪っていった相手をぼんやりと見ながら、私の意識は薄れていった。


――さよなら、真姫。さよなら、みんな。
153: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 17:18:00.12 ID:HN+MbvWT.net
- - - ◆ - - - ◆ - - - ◆ - - -


目がさめると、部室にいた。

壁際にある大きな棚には、私が集めたアイドルグッズが所狭しと並ぶ。

――あぁ、帰ってきたんだ。そう思った。

「……っくしゅ!」

くしゃみをして、そういえばこっちの世界は今冬真っ只中だったなぁ、と思い出す。
ん? こっちの世界……帰ってきた……?

「……あっ、そっか。私……」

一気に記憶が流れ込んでくる。

私、違う世界に飛ばされて――。
154: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 17:20:04.08 ID:HN+MbvWT.net
「もう、にこっちったら。こんなトコで寝てたら風邪引くよ?
……それとも、ひょっとしてウチに看病されたいん?」

懐かしい声がして、振り返る。

当然、目に飛び込んできたのはあのタヌキ顔だった。

思わず涙が溢れてきてしまい、希にギョッとした顔をされる。

「……希、ただいま」

「……にこっち、おかえり」

お互いに顔を見合わせて、揃いも揃って声を上げて泣いた。

それから、どちらともなく片手を上げ、掌と掌をあわせる。

――ぱしんっ!

心地よい感触。どちらの世界でも、やっぱり希は希なのだ。
155: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 17:24:40.58 ID:HN+MbvWT.net
「……そうや、今の状況を整理したいんだけど、ここでクイズ!
今日は何月何日でしょうかっ!」

希は、泣き止んですぐだからか、ちょっと震えた声でおどける。

私は、じっくり考えた。
私があっちの世界にいたのが約7週間、もともとこっちの世界での最後の記憶は12月16日だから……。

「2月9日……向こうにいた日数的にそんなもんじゃない?」

「ところがどっこい!
なんと! 正解は12月17日なのです!」



「……………………はっ?」



そんなことって、あるの?
……じゃあ、こっちの世界では1日しか……?

「いやぁ、それがな、にこっち。
ウチにもわからないんだけど、確かにさっきまでは2月だったんよ。でもな、一瞬意識が飛んだと思ったら、ほら!
カレンダーが12月になってたん。携帯のだから信用はできると思うんだけど、どうやろ?」

タチの悪い冗談かと思って、私も携帯を取り出して確認する。

けれどやっぱり、カレンダーは12月17日になっていた。

……ってことは、向こうの世界でもそうなっているってことね。多分。
156: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 17:29:38.90 ID:HN+MbvWT.net
――そうだ! 「ニコ」はどうなったの?

SNSをすぐに開き、ダイレクトメッセージの履歴を見る。
……やっぱり消えている。

私は記憶の中にあるIDを打ち込み、メッセージを打ち込む。



「ニコへ
元の世界に帰れた? 私は無事に帰れたわ
そっちの世界はどうなってる?」



送信ボタンを押すが、エラーメッセージが返ってくる。
何度試しても、エラーになってしまう。

ID、間違えたかしら……いえ、あんなにわかりやすいID、間違えるわけないわ。

じゃあ、どうして……?

「にこっち。もう、向こうの世界とは繋がってないんよ。奇跡か魔法でもない限り、もう連絡は取れないと思う。
……きっと向こうの世界では、今頃ニコとみんなが再会しとる頃や。それで、ええやろ?」

――そうだ、これでよかったんだ。全部。

「……そうね。これで全部元どおり、とまではいかなくても、半分くらいは元どおりだし。
あ、ところで、あの時、希はなんで私に謝ったの? それに、結局誰の仕業だったのかしら。こんなことどうやったら――」

「そのこと、なんやけど。
ごめん、にこっち。悪いんは全部ウチだったんや」
157: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 17:35:20.79 ID:HN+MbvWT.net
「ええっ!? ど、どういうことっ!?」

「ウチがな、七夕の時にふざけて書いた短冊、覚えとる?」

……私は黙って首を横に振った。
体感としてはもう半年以上前なんだもん。覚えてないのも仕方ないわよ。

「短冊にはね、『にこっちが運命の人に出会えますように♡』って書いてたんよ。
だから、にこっちの運命の人が、たまたまあっちにいたってことになるのかな……」

「……そっか。そうだったんだ。
だったら、希。謝らなくていいわよ。
運命の人になら、多分会えたから」

そのとき、カーディガンの右側のポケットが振動した。
……おかしいな、携帯なら左手に持っているんだけど。

ポケットを探ると、見覚えのある携帯が入っていた。これは――

急いでスリープモードを解除すると、そこにはダイレクトメッセージの通知ポップが表示されていた。

開封して、思わずくすりと笑う。

なんだ、アイツ、本当に素直になったじゃない。

――そこには、こう書かれていた。
158: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 17:36:28.75 ID:HN+MbvWT.net
「ニコちゃんへ
あなたのこと、ずっとずっと愛しています
あなたのマッキーより♡」


――なんだ。
奇跡なんてなくたって、魔法なんてなくたって、まだ私たちは繋がっていられたのね。




おしまい
159: ◆n0J2IfBFxY (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/05/06(水) 17:39:53.84 ID:HN+MbvWT.net
くぅ疲ね。
今回のテーマは、「奇跡も魔法もないんだよ」でした。
いつもとはだいぶ違う味付けでしたが、いかがでしたでしょうか。
次回作は、またメドが立ち次第、ということで。スレ残っていればご報告に参りますゆえ、しばしお待ちください。

んだば、また。
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『にこ「魔法なんてなくたって」』へのコメント

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