海未「鴉が鳴いたので、私は泣きたくなりました」

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海未-アイキャッチ52
1: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 04:16:44.95 ID:aG4Y/8x3.net
穂乃果「何の声だろう?」

海未(穂乃果が、不意にそう言いました)

海未(夕暮れの赤紫に染まる世界の中、あぁー、あぁーとか細い声が)

海未(樹の香りに乗って響いていました)

海未「あれは、鴉ですね」

ことり「鴉なのかな? 何だか、赤ちゃんみたいな声だよ?」

海未「いえ、鴉です。夕暮れの鴉は、あんな声をあげるんですよ」

海未(ユウグレカラスは、赤子の悲鳴にも似た声を出す。それが、夜に差し掛かる一瞬、本当の夕暮の始まりを告げる合図だ)

元スレ: 海未「鴉が鳴いたので、私は泣きたくなりました」

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2: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 04:22:24.87 ID:aG4Y/8x3.net
海未「二人とも、この時間に帰ったことはありますか?」

海未「いえ、夕暮れに鴉の声を聞いたことが――」

海未(言いながら振り向くと、もうその場に二人の姿はありません)

海未(彼女達はユウグレカラスに会ったことが無かったようで)

海未(私一人が夕暮れに入ってしまったようでした)

海未「……二人とも、私の事など気にせず帰ってくれるといいのですが」

海未(二人には、私が突然消えたように見えたことでしょう。明日会ったら、何と説明しましょうか)
4: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 04:29:10.34 ID:aG4Y/8x3.net
海未(いえ、今は夕暮れを楽しみましょう。明日の事は、明日考えればいいんです)

――ずるり、ぺたり

海未(音が、しました。粘性の何かを、無理やり引き摺って歩いているような音が)

「とお、とお」

海未(私の傍を、巨大な蛞蝓に似た何かが通り過ぎます。これは、此方の住人です)

海未(この時間帯にはいつも、散歩をしているとユウグレカラスが言っていました)

海未「こんばんは」

「うみ、とお、またきた」

海未「ええ、ユウグレカラスの声を聞いてしまいまして」
5: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 04:33:59.99 ID:aG4Y/8x3.net
「あまりこない、ほうがい。とお」

海未「気を付けてはいるのですが、部活で遅くなってしまいまして」

「とお、とお」

海未「散歩の邪魔をしてしまい、申し訳ありません。ユウグレカラスは何処に居ますか?」

海未(蛞蝓は少々考えるような素振りを見せた後、歩いてきた方の道を目で指しました)

海未「ありがとうございます」

「いい、はやく、かえれ、うみ」

海未「はい。神隠しに遭うのは嫌ですからね」
6: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 04:41:10.77 ID:aG4Y/8x3.net
海未(この近辺では、昔から神隠しが多かった)

海未(決まって夕方に、人がいなくなる。消えた人間は二度と戻ってこない)

海未(単なる行方不明事件。そう思う人も多いし、事実一部はそうなんだろう。けれど私は、大多数の消えた人間が何処に行ったのか知っている)

海未(行方不明の人間は皆、夕暮れの中にいるのだ)

海未(ユウグレカラスの声を聞いて、夕暮れの薄闇の中に囚われているのだ)

海未「ユウグレカラスは何処にいるのでしょうか」

海未「蛞蝓さんに詳しい場所を聞いておくべきでしたかね。入る度に場所を変えるんですから、もう……」
7: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 04:47:33.26 ID:aG4Y/8x3.net
海未(少し行くと、露天商が店を出しています)

海未(売っているものはよく分かりません。様々な色の付いた空気が入ったビンです)

「嬢ちゃん、買っていかないか」

海未(私の姿を認めると、顔中に付いた目玉を全て此方に向けて、私に声を掛けます)

海未(露天商の声は、罅割れた瓦のようで、聞いていると気分が悪くなってしまいそう)

海未「いえ、結構」

「いつも買ってくれないねえ。値段も目玉一つだってのに」

海未(ぼやく露店の主人をあしらいながら、私は彼の目の前を通り過ぎました)
8: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 04:59:17.92 ID:aG4Y/8x3.net
「嬢ちゃん、もう何回目だ? そろそろこっちにも慣れてきただろう?」

海未「四回目、ですかね。慣れはしましたが、勝手に連れてこられただけですよ」

「こっちは幸せなのにねえ、この辺で買っておけば、ずっとこうしていられるよ」

海未「私は向こうの世界も好きですから」

「願いが叶うのにねえ、向こうじゃ絶対に叶わないのにねえ」

海未(遠ざかっていく露天商の声に、私はもう答えませんでした)

海未(露天商はきっと、終わらない夕暮れの中目玉をぎょろぎょろと動かして次の客を待つのでしょう)

海未(顔に目玉を増やすために)
9: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 05:06:31.45 ID:aG4Y/8x3.net
海未「願いが叶う、ですか」

海未(ユウグレカラスも言っていましたね、ここは願いを叶えるために作られた世界だと)

海未(だから、誰も帰ってこない。此方の世界が余りに幸せだから)

「お姉ちゃん!」

海未(此方に来ると声を掛けられることが多い。皆、普通の人間が珍しいのでしょう)

海未(善意で声を掛けてくる相手も、悪意で声を掛けてくる相手も)

海未「近付かないでください」

「何でさ、僕は何もしない善良な人間だよ?」

海未「……人間とは思いませんし、善良とも思いませんが」

「酷いことを言うなあ」

海未(言って、目の前の巨大な男は頭を掻きました。至る所から陰茎のようなイボの生えた、髪の無い頭を)
10: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 05:15:42.52 ID:aG4Y/8x3.net
海未「その姿を見れば、貴女が何を望んだのか一目で分かりますからね」

海未「子供のような顔と、その巨躯、どちらが本当の姿ですか?」

「僕は子供だよ? ほら、可愛いでしょう?」

海未(にんまりと微笑むその顔は、幼子のようで愛らしいと言えます)

海未(けれど、目が笑っていません。笑顔の裏に、下卑た思想が透けて見えます)

海未「まあどちらでもいいですよ。ユウグレカラスの場所を知りませんか?」

「ユウグレカラス? あいつなら、穂むらで饅頭を食べてるんじゃないかな」

海未「穂むらで? 逆方向じゃないですか」

「あいつは飛べるからね。数秒前に何処かに居ても、数秒後には別の何処かにいるのさ」
11: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 05:20:02.98 ID:aG4Y/8x3.net
海未「厄介ですね、飛べるようになったのですか」

「ずっと前から飛べるじゃないか」

海未「また、嘘を吐いていませんか? 嘘だったら怒りますよ?」

「怒ったらどうするって言うのさ」

海未「引きちぎりますよ、頭のソレ」

「ええ、それは困るなあ。また生やさなきゃいけない」

「ユウグレカラスなら、あっちだよ。山の麓の方」

海未「ありがとうございます。では」

「次に来るときは、下着姿で来てよ。歓迎するからね」

海未「考えておきますよ」

海未(下着姿なんて、絶対になりませんけどね)
12: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 05:26:48.41 ID:aG4Y/8x3.net
海未(男は今度は嘘を吐かなかったようで)

海未(山の麓で、ユウグレカラスは芋虫を食んでいました)

海未「こんばんは、ユウグレカラス」

「おやあ、海未ちゃん。こんばんは」

海未(苛立ちを覚えるほどに間延びしたトーンで、ユウグレカラスは返事をします)

「また来たのかい、君、本当はこっちに来たがっているんじゃあないか?」

海未「そんなことはありませんよ。戻りたいので、早く夕暮れを終わらせてください」

「私の声は、来たい人間しか呼ばない筈なんだけどなあ。おかしいなあ」

「今日は観光していかないのかい?」

海未「ええ、早く帰してください。友人の前で消えてしまったので、心配している可能性がありますから」
13: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/04/08(水) 05:31:13.05 ID:aG4Y/8x3.net
「友人に心配をかけるのはいけないねえ、じゃあ帰すよお」

「こっちに居付きたくなったら、いつでも言いなさい。私も皆も、住人が増えるのは歓迎するからね」

海未(言って、ユウグレカラスはあーっ、あーっと二度鳴きました)

海未「……ん」

海未(気付くと私は、夜の闇の中道の真ん中に立っていました)

海未(鞄から携帯電話を取り出すと、穂乃果やことりからの着信やメールが山のように来ています)

海未(どうやって説明すればいいのか分からず、私は明日を思って溜め息を吐く)

海未(夕暮れが終わった街の中、普通の人間とすれ違いながら、私は帰路につきました)


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