希「ゴールデンデイズ」【のぞえりSS】

シェアする

のぞえり-アイキャッチ4
1: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:41:27.34 ID:jKlncHwU.net
※絵里推しのぞえりスキーの書くSSです
※色々迷いましたが台本形式+地の文ありで書いていきます。
 地の文も出来る限り簡潔に短く書くのでご容赦ください。
※上記の通りのぞえりSSです。苦手な方は申し訳ありません。
※非18禁です。パンツは履いててください。

元スレ: 希「ゴールデンデイズ」【のぞえりSS】

スポンサーリンク
2: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:42:32.59 ID:jKlncHwU.net
希「んっ……」

 カーテンの隙間から射す光に徐々に意識が覚醒していく。
 窓の外から聞こえる小鳥の囀りに抱かれ、私はゆっくりと身体を起こした。

希「ふぁぁ……ねむ」

 大きく伸びをし瞼を擦る。朝を迎える度に何度も繰り返したこの動作。繰り返す日常をこれ程象徴する動作もない。
 ベッドから抜け出した私はまずベランダに面した大きな窓のカーテンを開ける。

希「おはようさん。今日も元気やね」

 毎朝のようにベランダで羽を休める小鳥達に挨拶をする。寂しい人だと思われるかもしれないが、これもここで一人暮らしするようになってからずっと繰り返してきたのだから仕方ない。

希「シャワーでも浴びて朝ご飯作ろ」

 一人暮らしで誰もいないせいか分からないが、家の中だと随分と羞恥心が薄い私は寝室から衣服を脱ぎ始めお風呂場へと向かった。
4: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:43:51.96 ID:jKlncHwU.net
希「あ、炊飯器スイッチ入れるん忘れたなぁ」

 シャワーを浴び終えた私は下着姿のままキッチンに立ち、髪を拭きながら昨夜の自分を恨んだ。

希「まぁトーストでもいっか」

 別に花陽ちゃんのように拘りがある訳ではない。今日の朝食はトーストと目玉焼きにすることにした。

希「あー、でも野菜足りんなぁ」

 これだけだと流石にバランスが悪い。何かないかと冷蔵庫を見ると昨夜調子に乗って作りすぎた野菜スティックが目に入った。

希「おー、あるやん。作りすぎたんやなくてこの時の為やったんやね。スピリチュアルやん」

 昨日一人でふらっと立ち寄ったホームセンターで簡単に野菜スティックが作れる調理器具を購入し、試しに作ってみたところ中々に面白かったのだ。
 ……やめ時が見つからなくて結局冷蔵庫のスティックに出来る野菜を全て使ってしまったわけだが。
 どうにも一人暮らしを始めてからこういった便利グッズが着々と増えていってるのは気のせいではないだろう。

希「先に作ってしまお」

 制服を着るのを後回しにしフライパンと油を取り出す。別に制服を着るのが面倒だった訳ではなく料理の最中に汚れてしまうのを防ぐためだ。

希「今日の目玉焼きは~固め~」

 目玉焼きの固さについては人それぞれ好みがあるだろうが私は特に拘りはない。半熟でも固めでも、両面焼きでも美味しいと思える。要するにその時の気分だ。
6: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:45:13.64 ID:jKlncHwU.net
希「トーストも焼けたみたいやね」

 トーストと目玉焼きを皿に盛り付け冷蔵庫から野菜スティックと作り置きのドレッシングを取り出す。
 食卓につく頃にはお腹もいい具合に空いてきていた。

希「んー、美味しそうやん?いただきます」

 トーストにマーガリンを薄く塗り口に運ぶ。次いで目玉焼き。今日は特に何もつけずにそのまま食べることにした。

希「んまー」

 野菜スティックは流石に昨日程の新鮮さはないように感じられたが空腹さえ満たせればそれで良かった。
 今の自分は食事に時間を割くよりも早く学校へ行きたい。そう思っていたからだ。
 学校へ行けば大好きなμ’sのみんなに会える。いつも通りのありふれた日常に自分も入れる。そう思うと食事をする手は更に速くなった。

希「ごちそーさん」

 ものの数分で全てを胃に収めた私は今までの遅々とした動作が嘘のような速さで登校の準備を始めた。
7: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:46:41.26 ID:jKlncHwU.net
希「いってきまーす」

 誰もいない部屋へと挨拶をする。最初の内は多少なり寂しさを覚えたものだが慣れてしまえばなんの感情も沸くことはない。
 季節は秋。通学路の並木はその色を紅に染め四季を知らせる。
 音乃木坂の廃校問題も片付き学校全体もこの季節と同じように落ち着いた雰囲気が漂っていた。

希「あ、今日も朝練してるんやんな」

 μ’sのメンバーは全員毎日朝から基礎体力をつける練習やダンスの基礎を練習している。そんな中なぜ私はこんなところを歩いてるかというと、それは勿論受験生だからだ。
 元々朝は神社のお手伝いをしていたがそちらの方も受験に合わせてお休みをもらっている。
 同じように3年生のえりちとにこっちも朝の練習には参加していない。

希「そろそろかな?」

 毎日のように繰り返した日々。その中で私が一番心待ちにしている瞬間が近づいていた
8: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:47:55.90 ID:jKlncHwU.net
絵里「希、おはよ」

 後ろから肩を叩かれかけられる声。その瞬間体温が上昇し心音が跳ねるのを感じた。

希「おはようさん、えりち」

絵里「今日は少し肌寒いわね」

希「お、じゃあくっついて歩く?」

 悪戯っ子の様な笑顔を浮かべえりちの腰に腰を当てる。いつも通りのスキンシップ。ちょっとふざけすぎている方が私らしい。

絵里「もう、早く行くわよ」

希「あーん、いけずぅ」

 えりちは苦笑しながら歩き始める。その後を追いかけるように横に並ぶ。
 咲を歩くようにしながらも決して私を置いていくことはしない。時折少しだけ穂を緩め私へとペースを合わせてくれる。
 その優しさが、大好きだった。
 朝早くからそんなことを思い少し恥ずかしくなり俯いていた私が顔を上げると、そこには金色の髪が、風に揺れていた。
12: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:55:11.63 ID:jKlncHwU.net
学校へ到着し私とえりちは揃って教室へ入った。
 今日もここから私の1日が始まる。一人で過ごす家での時間なんて、私にとってはただのおまけだ。
 担当教科の教師が4人程入れ替わる頃には午前の授業が終了していた。

希「なぁえりち」

絵里「んー?」

希「今日は学食?購買?」

 えりちと私は弁当を持ってきていないので、毎日どちらかで昼食をとっている。特にどちらかと決まっている訳ではなく、その日の気分だ。

絵里「何言ってるの希。今日はパンを買って生徒会室行くんでしょ?」

希「あ、あれ?そうやった?」

絵里「穂乃果達の仕事ちょっと手伝ってあげましょうって言ったじゃない」

 どうやら完全に失念していたらしい。思い返してみればそんな会話をした覚えがあるようなないような。
13: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:57:13.16 ID:jKlncHwU.net
希「あ、ああー!せやんな!!忘れてたわー」

絵里「もう、らしくないわよ」

 仕方ないわね、と言うように苦笑するえりち。また、いつものように私の少し先を財布を持ちながら歩き出した。

希(生徒会……か)

 前期まで私とえりちが所属していた生徒会。今は在校生の強い要望により穂乃果ちゃんが生徒会長を務めている。
 それを支えるように海未ちゃんとことりちゃんも所属していた。

希(えりち……)

 えりちの後姿を見ながら、私はまだ私達が生徒会にいた頃、あの廃校問題と戦っていた日々を思い出していた。




 ――生徒会長。いえ……




希(アカン。早く行かんと……)

 思考をそこで打ち切り、私は足早にえりちを追いかけた。
 考えることを、拒否するように。
14: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 22:58:32.11 ID:jKlncHwU.net
 生徒会の手伝いは、手伝いと言うよりただの穂乃果ちゃんの愚痴大会で終わってしまった。
 穂乃果ちゃんはどちらかと言えば頭で物事を考えるよりは先に手を動かしてしまうタイプだ。そんな彼女に生徒会長の雑務は少しばかり退屈に感じるのだろう。
 それを注意する海未ちゃんとフォローに回ることりちゃん。3人の関係は本当に上手く出来ているな、と見ていていつも感心してしまう。

 あっという間に午後の授業も終わり、放課後となった。
 放課後には部活動がある。私達アイドル研究部の活動は勿論屋上での練習。
 全員で柔軟から始め、発声、歌、ダンス、ユニット毎の動きの確認などその練習の密度は濃い。
 だが、その日。屋上には大粒の雨が降り注いでいた。

凛「にゃー。これじゃあ練習出来ないにゃあ」

真姫「通り雨だとは思うけどね」

穂乃果「えー!?やっと身体を動かせると思ったのにー!!」

 屋上の扉の前でそれぞれが口々に愚痴を零す。
 穂乃果ちゃんは授業、生徒会の雑務でフラストレーションが溜まっているのだろう。本当に残念そうな表情をしている。
15: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 23:01:22.43 ID:jKlncHwU.net
海未「こればかりは仕方ありません。部室で練習する訳にもいきませんし……」

ことり「あはは、ちょっと狭いよねぇ」

 勿論μ’s……名義上はアイドル研究部には部室が与えられている。ただそこで9人揃って練習が出来るかと聞かれれば、流石に手狭だろうと答えざるを得ない。

絵里「仕方ないわね。今日は各自イメージトレーニングとしましょ」

花陽「そう……ですね。歌いたかったなぁ」

 残念そうに空を見つめる花陽ちゃんに、背後から凛ちゃんが飛びついていた。

凛「にゃー!じゃあかよちん!一緒にカラオケ行っくにゃー!!」

花陽「え、えぇ!?今イメージトレーニングって言われたばかりだよぉ!?」

凛「カラオケでも歌は唄えるにゃ。むしろ歌を歌うところにゃ」

 凛の言っていることは至極正しい。ただそれを海未ちゃんが許すかどうかというのは別問題で。
16: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 23:03:52.92 ID:jKlncHwU.net
海未「まぁ仕方ありませんね。確かにカラオケでも発声は出来ますか……」

 と思ったら海未ちゃんも随分と丸くなっていたようで。
 それに賛同した穂乃果ちゃんとことりちゃんも一緒に5人仲良く階下へと降りていった。

真姫「私はちょっと音楽室へ寄っていくわ。最近あそこのピアノ弾いてないし」

にこ「あ、それならにこも行っていい?」

 音楽室へ行くという真姫ちゃんの袖を掴みそう尋ねるにこっち。
 珍しい組み合わせではないけれどにこっちが音楽室へ行くという行動は珍しい。

真姫「ええ、いいわよ」

 特に何も言うことなく真姫ちゃんもそれを受け入れ2人で音楽室へと向かっていった。
 その場に残されたのは私とえりちだけ。
17: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 23:04:47.92 ID:jKlncHwU.net
絵里「……帰りましょうか」

希「ん、そやね」

 少し前まではこの状況であれば生徒会室に向かっていただろう。だが、私達はもう元生徒会役員。そこに向かっても仕事はない。
 それが少し寂しく、だがしかしえりちと共に帰れることに喜びも感じていた。

絵里「結構雨強いわね」

希「みたいやねぇ。……あ」

 下駄箱に辿り着き空を見上げるとどんよりとした雲から大粒の雨が降り注いでいた。
 そこで私は気付く。傘を……忘れた。いつもなら折り畳みの傘を鞄に入れているのだが先日使った後入れるのを忘れていたようだ。

絵里「ん?」

希「傘……忘れた」

 しまったなぁ、と笑う私に、えりちは苦笑し傘を差しだしてくれた。
18: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 23:05:27.72 ID:jKlncHwU.net
絵里「じゃあ一緒に入りましょ」

希「ええのん?えりち濡れてしまうかもよ?」

 えりちは天気予報でもしっかりと見ていたのか折り畳み式ではない普通の傘を手にしていた。朝登校した時には全く気付くことはなかったが、本当に用意がいい。
 その傘の大きさならば女の子二人を覆うことは可能だとは思うが何せ雨が強い。もしかしたら風に吹かれた雨に濡れてしまうかもしれない。

絵里「いいわよ。希を濡れ鼠にする方が問題だわ」

希「いや、雨あがるの待てば……」

 そこまで口にしたところで気が付く。
 私とえりち、こういうことした経験がない。
 えりちは勿論のこと、自分で言うのもなんだが私だって物事の事前準備はしっかりする方だ。
 だから雨の日は必ず二人とも傘を持っている。

希「あ、やっぱ入れてもらお」

絵里「ふふっ、どーぞ」

 だから、私はそれを、チャンスだと思った。
24: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 23:18:44.43 ID:jKlncHwU.net
希「えりち、大丈夫?濡れてない?」

絵里「ええ、平気よ。希こそ濡れてない?」

 ゆっくりと歩く帰り道。お互いがお互いを気にしながら歩くこの時間が堪らなく心地好かった。
 私が持った傘はかなりえりちよりに差されていて、実際は少しだけ右肩が濡れてはいたが、この幸福な時間を得られるのであればどうということはない対価だった。

希「ねぇ、えりち。ウチらこうやって相合傘なんてするの初めてやんなー」

 初めての経験に少しばかり心躍っているのか、自然と口角が上がる。
 ぴったりと密着している肩と肩が私の体温を更に高めていった。

絵里「え?えぇ……そうね」

 上の空、といった感じだった。
 何か考え事をしているのか時折眉間に皺を寄せ小さく唸るえりち。

希「どしたん?やっぱちょっと濡れる?」

 心配になり声をかけてはみたが、返事はなかった。
25: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 23:28:26.79 ID:jKlncHwU.net
希(どうしたんやろ。さっきまでは普通だったのに)

 そこからしばらく、会話らしい会話はなかった。ただ私がえりちに喋りかけ、えりちが上の空で返事をする、という会話にもならないただの一方通行。

絵里「あ……」

 しばらくしてえりちが返事以外で初めて声を発した。
 そこは、私の家とえりちの家の分かれ道だった。

希「えりち……」

 ただ無性に、えりちの声が聞きたかった。いつも通りのえりちの声を。
 上の空なんかじゃない、あの仕方ないなぁと笑う、えりちの声を。

絵里「希」

 えりちの声に顔を向けるが、その表情は俯いていて分からなかった。

希「んー?」

絵里「その……傘、使って」

希「え?」

 そんなことしたらえりちはずぶ濡れの濡れ鼠になってしまう。傘に入れてもらってる立場とかそんなことを抜きにしたって出来るはずもない。

希「あ、あかんよえりち。ウチはもうだいじょう――」

絵里「――ごめん、希!!」

 傘を返そうとした私の手をそのままに、えりちは傘から抜け走り出していった。
 
26: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/01(月) 23:36:20.43 ID:jKlncHwU.net
希「えりっ、えりち!?」

 その声は、ただ雨音にかき消されるだけ。
 後姿にも分かる。えりちの金色の髪が頬に、首に、服に張り付くその光景。私は唖然とその場で見ていることしかできなかった。

希「……ウチ、なんかしたんかな」

 思い返してみても、答えは出ない。

希「ちょっとはしゃぎすぎたんかな」

 だって、えりちとする相合傘が、嬉しかったから。

希「それとも、お昼に生徒会室に行くこと……忘れてたから……なんかなぁ」

 気付けば、頬は濡れていた。
 それもその筈だ。だっていつの間にか、傘は地面に落ちていたのだから。
 ただ、その濡れた頬に付いた水滴は雨なのか、もしくは自分の涙なのかは分からなかった。
 ただ一つ分かっているのは、頬を伝う水滴が、少しだけ暖かかったということだけだった。
34: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 21:45:40.67 ID:Lk+1M97i.net
戻りました。
続きゆっくり書いていきます
35: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 21:46:49.00 ID:Lk+1M97i.net
希「……あれ?」

 気が付けば、自宅のベッドで横になっていた。
 脱いだ制服は濡れたまま散乱し、自分の身体は下着しか纏っていなかった。

希「アカンなぁ、風邪ひいてまうやん。早く着替えんと」

 そう言葉にしてみるものの、身体は全く動かなかった。

希「あー……、ウチここまでどうやって帰ってきたんやろ」

 本当に、全くと言っていい程記憶は残っていなかった。
 だが、それでも唯一心に焼き付いているのは――

希「えりち、風邪ひいたらアカンよ」



 ――雨の中で揺れる、綺麗な金色。



希「……えりち」

 その名前を口にしてみたところで彼女が何を思っていたか分かる筈もない。
 だが、それでも。口からはその大好きな名前が零れていた。
36: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 21:51:20.20 ID:Lk+1M97i.net
希「アカン。このままだとほんとに風邪ひいてしまう」

 動く気にはなれない。なれないがしかし明日も学校はある。みんなにも、えりちにも会いたい。
 だから私は嫌がる身体を無理矢理起こし、熱いシャワーを浴びることにした。

希「あ……」

 お風呂場に向かう時、私の目に映ったもの。

希「えりちの……傘」

 水色に白の玉模様が描かれたその傘は、水滴を滴らせながら玄関に佇んでいた。
 その傘の存在が、ああ、やはりあれは夢なんかではないんだと確信させる。

希「……ほんのちょっと、期待したんやけどね」

 えりちに拒絶されたように感じたあの瞬間。
 いつも通りのえりちなら、私を送り届けた後傘を差して帰っただろう。そのままお茶の一杯でも出して暖まってもらっていたかもしれない。
 もしくは近くのコンビニまで行って私に傘を買わせたかもしれない。
 普段のえりちならどちらかだろう。だが、そうはならなかった。
 それはもう、偽り様のない事実。

希「シャワー浴びたら……寝よ」

 食事も喉を通らないというのはこういうことを言うんだろうな、と頭の片隅で思った。
 そのまま私は熱いシャワーで身体を暖め、一応風邪薬を飲んでからベッドへと入った。
37: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:07:38.07 ID:Lk+1M97i.net
冷蔵庫の野菜スティックは、また、鮮度を失っていった。
38: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:08:55.17 ID:Lk+1M97i.net
希「んぁ……?」

 自然に目が覚めた朝。カーテンの隙間から射す光はいつもより明るく、聞こえてくる筈の小鳥達の囀りは何故か聞こえてこなかった。
 ゆっくりと身を起こし身体の節々を確認する。気怠さはない。頭痛もない。念のためにと飲んだ風邪薬が聞いたのか、体調は上々だった。
 いつもの様に大きく伸びをし瞼を擦る。その後に遅々とした動作でベランダのカーテンを開け放った。

希「んー?」

 そこにいる筈の小鳥達の姿はなかった。昨日の雨でどこか他の所で雨宿りでもしているのかとも思ったが、思い返してみれば今までは雨だろうが彼らは毎朝ここにいた。

希「なんか……いつもより明るい?」

 神社の手伝いをしていた私は自然と早い時間に目が覚めるようになっていた。時には日の出前に目が覚めることだってあった。
 そんな私が寝ぼけ眼にこれ程明るい空を見たのは幾日ぶりだろうか。

希「今……何時なん」

 ベッド脇の時計を手に取り時間を確認する。
 その瞬間、寝ぼけた思考が一気に覚醒する感覚を初めて味わうこととなった。
39: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:17:23.62 ID:Lk+1M97i.net
希「く、9時~~~~!?」

 生まれて初めて、寝坊した。
 もうどれだけ急いでも始業には間に合わない。その事実が頭を支配したが、ならばもう焦ることはないんじゃないかという余裕も同時に生み出した。

希「ま、まぁ1日くらいええやん?いつもちゃんと起きてるし。授業のノートもえりちに見せてもらえば……」

 そこまで考えたところで、昨日の情景が頭を過った。
 雨の中で揺れる金色の髪。追うことの出来ない自分。雨か涙か分からぬ水滴に濡れた頬。

希「えりち……」

 えりちはちゃんと学校に行ったのだろうか。昨日の様子ではもしかしたら休んでいるかもしれない。
 風邪はひかなかっただろうか。あの後ちゃんと暖かくして寝たのだろうか。

希「一人暮らしの娘を心配する母親かっちゅーに」

 自分の思考に思わず苦笑してしまった。
 その時不意に、ベッドの枕元に置かれたスマートフォンが目に入り、ランプが点灯していることに気付く。

希「μ’sのグループチャット……じゃないやんな。にこっちからの個人チャットと……」

 もう一つの名前を確認した時、鼓動が跳ねるのを感じた。

希「えりちからや……」

 最初ににこっちの方から確認すると、こちらは私が登校していないことについてだった。寝坊した、と簡潔に返信しておく。お叱りは登校してから受ければいい。
 それよりもえりちだ。一体何が書かれているのか。にこっちのように私が登校していないことを心配してくれる文面だったらどれだけ気が楽か。
40: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:33:13.95 ID:Lk+1M97i.net
絵里<おはよう希。昨日はごめんなさい。

絵里<突然走り出しちゃって驚いたでしょう。

絵里<色々話はあるのだけど、とりあえず本題。

絵里<今日は家の用事で学校をお休みするわ。

絵里<みんなにも伝えてあるからよろしくね。



希「よかっ……」

 自分でも思っていた以上に緊張していたらしい。その文面を見て内容を理解した瞬間、一気に身体から力が抜けていった。

希「ったぁ……!!」

 心の底から安堵する。
 私がえりちに何かした訳ではないんだ。きっと他に気になることがあったんだ。


                          遅くなってごめんなぁ。>希
 
                         学校の件、了解したよー。>希
                         
                          また明日学校で会おなー>希
41: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:34:23.16 ID:Lk+1M97i.net
希「んふふ、流石に寝坊したとは言えんなぁ」

 急に世界が明るくなった気さえしていた。
 身体の気怠さは元々なかったが、心の、精神的な怠さが綺麗さっぱりなくなっていた。

希「さ、シャワー浴びて着替えて学校行こか」

 寝坊したことさえも頭から抜け落ちたまま、私は上機嫌で登校の準備を始めた。






にこ「希ぃ!!アンタ何やってたのよ」

 登校した頃には時刻は既に正午を過ぎていた。
 流石に授業中に教室へと入る勇気はなく、時間を調整し昼休み中に登校したのだ。
 まっすぐ教室へ向かう気にもなれなかったのでまずは部室へと向かったところ、扉の前で弁当箱を持ったにこっちと鉢合わせた。
42: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:43:19.47 ID:Lk+1M97i.net
希「いやー、寝坊してしまったんよ」

にこ「はぁ?希が寝坊?もっとマシな嘘つきなさいよ」

希「いや、ほんまなんやけど」

 私のことをそれなりに知っている人ならみんな同じような反応をするのだろう。
 私自身寝坊したことにびっくりしているのだから。

にこ「はいはい。じゃあアンタのその真っ赤になった目はなんなのよ」

希「え?」

にこ「え?じゃなくて。それどう見ても泣き腫らした跡じゃない」

 シャワーを浴び髪を乾かした。当然その時に鏡で自分を見ている筈だ。だが、全く気付かなかった。
 それだけ浮かれていたということだろうか。
43: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:43:42.42 ID:Lk+1M97i.net
希「これなー、にこっちだけに言うから内緒にしておいてほしいんやけど」

にこ「な、なによ。相談があるなら話くらい聞いてあげるわよ」

希「いやな?昨日遅くまであれ見ててん。最近話題になってたラブロマンスの映画」

 次から次へと口から溢れ出る言葉。
 偽りに染まったその言葉を自分が発しているのだと思うと、少し吐き気がした。
 だって、にこっちは本気で私を心配してくれている。その好意を私は嘘で裏切っているのだ。
 そうしてでも、昨日のことで泣いたことを思い出したくなかった。
 もう、あれは勘違いで終わったのだから。

希「あれめっちゃ泣けるんよ。もう涙腺ボロボロ。で、珍しく夜更かしなんてしてしまったウチはめでたく寝坊って訳」

にこ「……心配して損したわ」

希「あはは、ごめんごめん。でもありがとうな」

 にこっちの気持ちは本当に嬉しかった。
 それこそ昨日の夜にこうして話を聞いてもらっていたら全てを打ち明け、にこっちに縋り付いて泣いてしまっていたかもしれない。

にこ「まぁいいわ。放課後の練習には顔出しなさいよね」

希「あーい」

 にこっちはそのまま部室へと入っていった。
 一瞬見えた部室内には赤い髪が見えたような気がした。
 最近仲いいなぁあの二人。邪魔をしては悪いと思い部室を離れ教室へ向かった。
44: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:44:29.60 ID:Lk+1M97i.net
 えりちのいない教室はどこか空虚で、その場から色が失われたような錯覚を起こしていた。
 モノクロの世界。あるべき筈のものがそこにない不自然さ。形容し難い違和感。
 勿論クラスメイトが嫌いな訳じゃない。むしろ大好きだ。ただ、やはりえりちは私にとって特別な存在だった。
 午後から受けた授業は、全くと言っていい程頭に入っては来なかった。

穂乃果「あ、希ちゃん!」

 屋上に出て太陽の光を浴びると、世界に色が戻ったような気がした。
 私達μ’sの色。それぞれの華やかさが煌めく、暖かい世界。

希「昨日の雨が嘘みたいやね」

真姫「ま、通り雨だった訳だけど」

 既に屋上には全員が集まっていた。勿論そこにえりちの姿はない。
 そこに少しばかりの寂しさを覚えながらも、私は皆の輪の中へと向かった。
46: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 22:56:12.20 ID:Lk+1M97i.net
凛「あー、そういえば希ちゃん」

 柔軟をこなしていると、横で花陽ちゃんと身体を伸ばしていた凛ちゃんに声をかけられる。

希「んー?」






凛「絵里ちゃん、体調大丈夫かにゃー?」






希「……え?」

 今、凛ちゃんは何を言ったのだろう。頭がそれを理解するのには数秒の時を要した。
 えりちの、体調?えりちはどこか身体を悪くした?
 家の用事で休んでいるのではなかった?





 えりちは、私に、嘘をついた?





真姫「凛ッッ!!」

 よく通る真姫ちゃんの声が、怒声となって屋上に響いた。
 その大声を前にしても私は一瞬、何の反応も返せなかった。
47: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 23:01:59.33 ID:Lk+1M97i.net
凛「……あっ」

 しまった、という表情をした凛ちゃんから血の気が失せていく。

凛「あ、ごめっ。あの、希ちゃん、あのね」

希「んー?えりち風邪ひいたんやろ?」

凛「……え?」

 停滞する思考とは裏腹に、口からは言葉が次々と出てくる。

希「そんなん知っとるよー。それをえりちが皆に黙っててねって言ったんやろ?」

海未「そ、そうです。希には言ってないからって」

希「あはは。あの雨の中濡れたんだからそりゃ風邪もひくよー」

花陽「そ、そうなの?」

 きっと私に心配をかけないためにみんなにはそう伝え、私には家の用事だと言ったのだろう。
 私が、気にするから。
 分かっている。頭では理解している。
 だが、昨日のえりちの行動と今回の嘘が重なり、頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。
48: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 23:09:34.70 ID:Lk+1M97i.net
希「せやでー。えりちから家の用事で学校休むって連絡来てた時にはもうピン!ときてたんよ」

 悪戯っぽく笑う。笑うが、私は上手く笑えているのだろうか。

希「そうそう。言い忘れてたんやけど、ウチえりちのお見舞い行くな。ほんとは練習も顔出しに来ただけなんよ」

 いつから私は呼吸をするように嘘をつけるようになったのだろう。
 そう思ってしまうくらい、偽った言葉は簡単に吐き出される。
 私の嘘は、許されるだろうか。えりちと同じように誰かの為につく嘘なら、許されるだろうか。

希「そういうことで、みんな練習頑張ってな」

ことり「あっ……希ちゃん」

 ほとんど一方的に話を打ち切り屋上の扉へと向かう。
 目の前にある扉。それがやけに大きく感じられノブに手を出すのが少し躊躇われた。
50: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 23:47:22.45 ID:Lk+1M97i.net
 開いた扉が閉まると同時、私は駆け出していた。
 どこへでもいい。ここではないどこかへ消え去りたかった。

希(分かってる。えりちはウチに心配かけたくなかったんや)

希(ウチが気にしてしまうって思って……それは優しい嘘や)

 でも、それでも。本当のことを話して欲しかった。……いいや、違う。昨日のことを話して欲しかった。
 結局私の中で引っかかっているのはそこなのだ。
 何故、えりちは昨日あんな行動を取ったのか。
 何故、えりちは急に上の空になったのか。
 昨日のことがなければえりちだって風邪をひかなかった筈だ。

 私の勘違いで終わったと思っていた昨日の出来事が、途轍もない速さで私を追いかけてきていた。

にこ「希」

 もう屋上の扉が見えなくなる。そんなところまで走り出していた時、私の背中に声がかけられる。
 見下ろすように私を見つめるにこの目は、私から見てなんの感情を宿しているか分からなかった。
51: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/02(火) 23:57:27.85 ID:Lk+1M97i.net
希「……なに、にこっち」

 振り返らずに、それだけ言った。私の声は震えていなかっただろうか。

にこ「アンタ、その顔で絵里のとこに行くつもりなの」

希「その顔って……いややなぁにこっち。ウチはいつも通りやろ?」

 そうは言うものの、決して振り返ることは出来ない。

にこ「ねぇ希。私はね、本気でアイドルやってんの」

希「知っとるよ?」

にこ「アイドルってのはお客さんに夢のような時間を与え、笑顔にするもの」

 いつも話していたにこっちのアイドル論。にこっちがステージに立つ時、必ず口にする言葉。
 それはにこっちの信念であり、私達μ’s全員がにこっちを尊敬するだけに足る理由の一つだった。

にこ「自分自身が本当の笑顔を浮かべなきゃ、決してお客さんは笑ってくれない」

希「……」

にこ「だから分かるのよ。アンタの笑顔は、ただ貼り付けてるだけ。仮面と一緒よ」

 まるで鋭利なナイフで抉られたかのような感覚だった。
 私を見透かすその言葉に、私は返す言葉すら浮かばなかった。
52: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 00:35:35.67 ID:qT1sTl9n.net
にこ「恐らくことりだって気付いていたわよ。あの子だって秋葉の伝説とまで呼ばれたメイドよ?人の笑顔には敏感な筈」

希「それでも、ウチは……」

 それでも、なんだというのだろう。
 私は今、何をしたいのだろう。
 泣きたいのか、怒りたいのか。
 ここから去りたいのか、残りたいのか。


 えりちに会いたいのか、会えないのか。

にこ「私はね、希。アンタにそんな顔をさせてるってのが悔しいのよ」

希「え……?」

にこ「アンタにとって、私達はその程度の存在だったの?私達μ’sは、アンタを笑顔にすることすら出来ないの?」

希「ち、ちがっ」

 だって、言えるわけがない。
 叶う筈もない夢を語ることなんて出来るわけがない。
53: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 00:36:43.93 ID:qT1sTl9n.net
にこ「話してよ、希。アンタが、アンタが形にしてくれたμ’sは――」

希「――言えるわけないやろ!!ウチがえりちのこと好きなんて、言えるわけないやろ!!」

 咄嗟に出てしまった言葉はもう戻らない。
 感情に任せたままにこっちに向き直り、私は言える筈もなかった言葉を、口にしてしまっていた。

にこ「希……」

希「ええよ、笑っても」

 言葉が戻らないのであれば、開き直るしかなかった。

希「……気持ち悪いやろ。メンバーの中にこんなんがおったなんて」

 女の子が女の子を好きになる。常識も、モラルも、全てを敵に回すその行為に、そのまま軽蔑でもしてくれればもうそれで良かった。
54: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 00:38:57.03 ID:qT1sTl9n.net
にこ「……希、今なんて言ったの?」

希「女の子を……えりちを好きになってしまったウチは、気持ち悪いやろって言ったんよ!!」

 ただ感情のままに言葉を吐き続ける。
 最低だった。醜かった。これが自分を心配してくれた人に投げつける言葉か。

にこ「ふざ……ふっざけんじゃないわよ!!」

 だから、にこっちが怒るのは当たり前で。
 ただ、にこっちが怒った理由は、私が考えていたものと違っていた。

にこ「いつにこがアンタを気持ち悪いって言ったのよ!!分かってんの!?希、アンタはねぇ、自分の想いをそうやって拒絶することで、絵里との想い出を、アンタ達が積み重ねてきたものを全部!!全部全部!!アンタ自身で否定したのよ!?」

希「ッッ!!」

にこ「思わないわよ!!気持ち悪いなんて!!にこだって、にこだってねぇ――」

 その瞬間、薄暗い空間に光が差し込んだ。

穂乃果「ダメ、ダメだよにこちゃん!!」

 勢いよく開け放たれた扉から飛び出し、穂乃果ちゃんはにこっちを抑えつけていた。
 いつだって穂乃果ちゃんは誰かが暗い気持ちを抱えた時、そこに来てくれる。
 それが、今の私には耐えられなかった。

希「にこっち……穂乃果ちゃん……ごめんっ」

 その場にいることに耐え切れなくなった私は、今度こそ振り返ることなく走り出した。
 頭上からはにこっちの声が聞こえ続けていたが、それでも足は止めなかった。

 もう、戻れない。あれだけの言葉を吐いて、あの場所へは戻れない。

 だから私は、行く宛もなく学校を飛び出した。
55: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 00:40:11.77 ID:qT1sTl9n.net
にこ「穂乃果、離して」

穂乃果「もう落ち着いた?」

にこ「ええ、もう平気よ。っていうかなんであのタイミングで穂乃果が出てくるのよ」

穂乃果「あははー、それは……」

にこ「扉に誰も近づけないようにしてって真姫ちゃんに頼んだ筈なんだけど」

真姫「近づけなかったわよ」

にこ「じゃあなんで……」

真姫「二人の声が大きすぎたから」

にこ「え?」

真姫「途中から全部聞こえちゃってたのよ」

穂乃果「あ、あははー……」

にこ「それって……希が……」

真姫「……うん」

にこ「ああー、もうなんでこう――」

穂乃果「――そのことなんだけどね」

にこ「なによ」

穂乃果「穂乃果に考えがあるんだ。みんな、ちょっといいかな?」
68: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 22:32:55.70 ID:qT1sTl9n.net
希「……いつまでここにいるつもりなんかな」

 学校を飛び出してから宛も無く走り続けた。どこへでもいい。私のことを誰もが知らない場所へ行きたかった。
 最低で、醜悪な自分に吐き気がする。友人からの好意を踏み躙り、差し伸べられる手を掻き毟った。

希「もう……こんな時間なんやね」

  毎日の練習の成果だろうか。息が切れ身体が重くなるまでにかなりの時間を要した。どこかに一度腰を落ち着けようと思う頃には既に日は暮れていた。
69: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 22:33:26.43 ID:qT1sTl9n.net
希「ウチどうしたらええんやろな、神さん」

 気付けば足は神田明神へと向いていた。特に理由があった訳ではなくただなんとなくだ。
 自分のことを誰もが知らない場所へ行きたいと思いながらも、こうして足が向くのは馴染んだ場所。矛盾した自分の行動に苦笑した。

希「えりちのとこ……行かな」

 このままずっとここで黄昏ていても仕方ない。
 どんなに言葉で自分を責め、どんなに自分が醜く最低だと思っても、前には進みたかった。
 それにこのまま何もしなければ、えりちのお見舞いに行くという言葉まで嘘になってしまう。それだけはしたくなかった。




 だが、足の震えだけは、止まらなかった。
70: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 22:37:24.07 ID:qT1sTl9n.net
 
 

希「なんや……えらい時間かかった気がするなぁ」

 震える足を諌めながらようやくえりちの家が見える辺りまで辿り着いた。
 歩いている内に大分頭は冷えた。だが、えりちに会って何を話すのか。それはいくら考えても思いつかなかった。



「待ってたよ、希ちゃん」



 不意にかけられる声。
 声の主が電灯の下に一歩踏み出した時、思わず息を飲んだ。

希「穂乃果……ちゃん」

 どうしてここに、などという考えは浮かんでこなかった。ああ、やっぱりいるんだなとすら思ってしまったくらいだ。
 それくらい、彼女は誰かの悲しみに敏感だ。
71: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 22:50:01.09 ID:qT1sTl9n.net
穂乃果「もー、結構待ったんだよ?絶対に来ると思ってたから待ってたけど!」

希「……」

穂乃果「穂乃果の方が後になるかなーって思ってたけど、先に済ませちゃったよ。お見舞い」

 どうやら穂乃果ちゃんもえりちのお見舞いに来ていたらしい。
 ということは屋上での一件も既にえりちの耳に入っていると思っていいだろう。

穂乃果「あのね希ちゃん」

希「ごめん、穂乃果ちゃん。今は……」

穂乃果「ううん、今じゃなきゃダメなの」

 真っ直ぐな視線が私を射抜く。普段おちゃらけているように見える穂乃果ちゃんだが、真剣になった時の瞳は誰よりも鋭い。

穂乃果「希ちゃんに見てほしいものがあるんだ」

希「ウチに?」

 そう言って穂乃果ちゃんが取り出したのはスマートフォン。
 手慣れた操作で目的の画面を出すと、私に手渡した。
72: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 23:07:15.16 ID:qT1sTl9n.net
希「……動画?」

 そこに映っていたのは私とえりち、そして撮影者の穂乃果ちゃんを除いたμ’s全員。
 恐らくあの後撮られたものなのだろう。

穂乃果『それじゃあみんないくよー!!せーのっ』

μ’s『希ちゃん!!ファイトだよっ!!』

希「ッ!?」

 一体これはなんなのか。
 私に向けた応援。それは分かる。だけど、何故。
 思考が追いつく暇もなく動画は進んでいった。
 カメラのフォーカスが全体から個人へと移る。
73: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 23:07:59.30 ID:qT1sTl9n.net
 
 
 
海未『希、私達は貴女の味方です。何も気にすることはありません。貴女が思うようにしてください!!』



ことり『やんやん♪希ちゃんぴゅあっぴゅあだね!ことりもたーくさん応援しちゃいますっ』


花陽『こうやって応援することしか出来ないけど……頑張って、希ちゃん!!』


凛『希ちゃん、凛のせいで辛い思いさせちゃってごめん。そのかわりたっくさん応援してるにゃー!!』


真姫『ま、頑張んなさい。今時そーゆー関係は何も珍しくないわ』



 なぜ、ここまでしてくれるのだろう。
 なぜ、みんな笑ってくれているのだろう。
 分からなかった。理解できなかった。

 なのに、それなのに。 何故、こんなにも心が温かくなるのだろう。



穂乃果『ほら、にこちゃんも!!』

にこ『に、にこはいいわよ……。さっき言いたいだけ言ったわ』

穂乃果『いーから、ほらぁ!!』

 カメラに映るにこっちは渋々といった様子でカメラに視線を移した。


にこ『しょうがないわねぇ……。私からは一つだけ。……笑いなさい。私達はμ’sよ』


希「ッッ!!」

 私達は、μ’s。
 その言葉が弱く萎んでいた心に突き刺さった。
 にこっちの言った私達という言葉。その中には、確かに私も含まれていた。
 アンタはμ’sよ、とは言わなかった。私達は、と言ってくれた。私はまだ、皆の輪の中にいたんだと心から思った。

 カメラが反転し、穂乃果ちゃんの顔がアップになる。アップにはなったが、なりすぎて鼻の周辺しか映っていなかった。

穂乃果『穂乃果はこの動画を見せに行くから、その時直接言うね!!じゃあみんなもう一回!!せーのっ』



μ’s『希ちゃん、ファイトだよっ!!』
75: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 23:27:36.77 ID:qT1sTl9n.net
希「穂乃果ちゃん……」

穂乃果「ん?なになに?」

 今にも涙が零れそうだった。
 私のことを誰もが知らない場所へ。そんなことは、最初から無理だったんだ。
 だって、この場所はこんなにも暖かい。

希「穂乃果ちゃん、鼻しか映っとらんよ」

穂乃果「え、えぇー!?」

希「あはは、穂乃果ちゃんらしいなぁ」

 笑顔で涙を隠す。今はまだ、彼女達に涙を見せたくない。
 笑わなきゃ。だって私は、μ’sだから。

穂乃果「……穂乃果からは一つだけ」

 そう言って私の瞳を真っ直ぐに見据えると、穂乃果ちゃんは言った。
77: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 23:41:04.26 ID:qT1sTl9n.net
穂乃果「進もう!前に!!」

 そう言って私に差し伸べられた手。
 




――生徒会長。いや、絵里先輩!!お願いがあります!!






 あの時の光景が、鮮明に蘇る。
 私が出来なかったこと。彼女がしてくれたこと。
 前に進もう。たったそれだけの言葉なのに、何故、彼女の言葉はこんなにも私の心を揺らすのだろう。

希「ほんま……敵わんなぁ……」

 気付けばその手を握っていた。太陽の様な笑顔を持つ彼女の、太陽の様に暖かい手。

穂乃果「希ちゃんが本当にやりたいことは、こんな所で立ち止まることじゃないはずだよ」

希「うん……そうやね」

 掌から伝わる暖かさが、私の最後の壁を壊した。後ろにあるのは皆が一枚一枚壊してくれた壁の残骸だけだ。
 もう大丈夫。私にはこんなに沢山の暖かい仲間がいる。
 離れようと思っても離れられないんじゃない。決して離れようと思えない仲間がいる。
78: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/03(水) 23:50:56.66 ID:qT1sTl9n.net
希「ウチ、行ってくる!」

穂乃果「うんっ!ファイトだよっ!!」

 別れ際のその瞬間まで穂乃果ちゃんは笑顔を絶やさなかった。
 本当に穂乃果ちゃんはいつもいつでも、その笑顔で誰かを救う。


 きっと、あの時のえりちもこんな気持ちだったに違いない。


穂乃果「あ、そうだ」

希「ん?」

穂乃果「希ちゃんが今まで積み重ねてきたこと、ちょっとだけでいいから信じてみて」

希「……?」

穂乃果「それじゃあね!!」

 その言葉を最後に、穂乃果ちゃんは駆け出して行った。
 私が今まで積み重ねてきたこと。一体どれのことを差すのかは分からない。
 でも、穂乃果ちゃんが言うことだ。きっとは意味はあるのだろう。
 その言葉を大事に胸にしまい込み、私はインターホンを押した。
84: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 00:53:12.66 ID:OkQeYDUM.net
亜里沙「あ、希さん!!」

 インターホンを鳴らしてすぐ、亜里沙ちゃんが出迎えてくれた。

希「遅くにごめんなぁ。えりち、具合どう?」

亜里沙「いえいえ!おねぇちゃんならお部屋にいますから、会ってあげてください」

 亜里沙ちゃんに促され玄関を潜る。
 胸の鼓動が、徐々に大きくなってきていた。

希「うん、そうさせてもらうな」

亜里沙「あ、じゃあ亜里沙はにんm……いえ、お部屋にいますので何かあればいつでも声かけてください!!」

希「?」

 そう言い残し、階段を駆け上がっていった。

 えりちの部屋の前に着くと、胸の鼓動は抑えられない程に大きくなっていた。
 何を話せばいいのか。どんな顔をして会えばいいのか。頭の中は殆ど真っ白だった。
 ただ、その中で唯一色鮮やかに映るもの。μ’sの皆の顔。

 それだけあれば、私は大丈夫。

 控えめに扉をノックすると、中から返事があった。
85: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 00:53:57.33 ID:OkQeYDUM.net
絵里「どうぞ。入って、希」

希「よく分かるやん」

 姿を見る前から私だと彼女は言い当てた。
 きっと来ることを見越していたのだろう。体調不良が私に知られたと分かった時からきっと。
 扉を開けると、えりちがベッドの上で身体を起こし、手にした少女漫画を閉じたところだった。

希「体調どんなん?」

絵里「もう平気よ。というより元々そんなに悪くはなかったの」

 確かに顔色はそこまで悪くない。声も枯れていないし怠そうにも見えない。

絵里「亜里沙が大騒ぎしちゃってね。だから一応休んだの」

希「えりちは普段体調管理しっかりしてるからなぁ。亜里沙ちゃんもびっくりしたんやろ」

 自分でも驚く程、言葉はすんなりと紡がれていった。
 きっとえりちの前であたふたしてしまうんだろうな、と思っていただけに自分のことながら少し拍子抜けした。
86: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 00:56:33.77 ID:OkQeYDUM.net
絵里「希、そんな所で立ってないでこっち来て座ったら?」

 ぽんぽん、と自分のベッドを軽く叩く。
 部屋の扉を跨いだだけの場所で突っ立っているのに今更ながら気付いた私はいそいそとえりちのベッドに腰掛けた。
 ……やっぱり訂正。大分緊張しているみたい。

絵里「……」

希「……」

 しばらく無言の時間が流れた。
 決して居心地が悪い訳ではないが、お互いに次の言葉を選んでいる雰囲気が辺りに漂っていた。
 静寂を破ったのは、えりちだった。

絵里「昨日は……ごめんね」

希「え、ええんよええんよ。むしろウチの方こそ謝らないと」

絵里「違うの、違うのよ希。あれはね……全部私のせいなの」

 少しだけほっとした自分がいた。
 自分が何かをした訳ではない。それだけでも少し心は軽くなったが、理由を聞くまではこの胸の鼓動は収まらないだろう。
87: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 00:57:20.22 ID:OkQeYDUM.net
希「理由……聞いてもええ?」

絵里「ええ……。あのね、そこにある少女漫画を取ってくれる?4巻でいいわ」

希「ほい」

 可愛らしい女の子が表紙のいかにも女の子受けしそうな漫画だった。
 これがえりちの物だとしたら、新しい一面を発見したことになるかもしれない。

絵里「これね、ちょっと前に亜里沙に借りたの」

 どうやら新発見には至らなかったらしい。

絵里「それの……大体40ページ目くらいかしら」

 言われた通りのページを開くと、そこには相合傘をした男の子と女の子が描かれていた。
 男の子は傘を女の子寄りに差し、女の子ははにかみながら男の子の袖を握っていた。

絵里「昨日相合傘をした時にね、この漫画を思い出したの」

 そう言って、えりちはページの中の二人を撫でた。
88: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 00:57:51.73 ID:OkQeYDUM.net
絵里「思い出すだけなら良かったんだけど、どうしてか私はその時……もし私か希のどちらかが男の子だったらって考えたの」

希「それは……」

絵里「不思議なくらい、違和感はなかったわ」

希「えりち……」

絵里「きっとどちらかが男の子でも、私達は自然と……こういうことの出来る関係になっているんだろうなって思えた」

 そこまで言ったところで、えりちは深く息を吐いた。
 胸の鼓動は収まるどころか更に加速し、今にも口から飛び出そうな勢いだった。

絵里「でもそんなことを考えているっていうのが恥ずかしくなっちゃってね」

 えりちは、漫画の中の女の子と同じような笑みを浮かべていた。

希「それで……走って帰ったん?」

絵里「……ぅん」

 らしくない。非常にえりちらしくなかった。
 でも、そんなえりちが今まで以上に愛しかった。今すぐに抱きしめてしまいたい程に。
89: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 00:59:19.05 ID:OkQeYDUM.net
 そこまで考えたところで、ふと気づくことがあった。
 例え性別が違っても、相合傘をするような関係に自然となる。えりちはそう言った。
 ただの男友達と女友達が、相合傘なんてするだろうか。
 私の思考を見透かしたように、えりちは言葉を続けようとした。

絵里「私……きっと――」

希「――待って、えりち」

 きっとえりちは私が欲しい言葉をくれるだろう。
 でも、それは私が受け取っていいものではない。
 だって、私はえりちに……何もしてあげられていないのだから。

 廃校問題の時、私はえりちに何をした?穂乃果ちゃんのように手を差し伸べてあげられた?
 だから……私にはそんな資格がない。

希「ウチは……えりちに友達以上の好意を抱かれることを……」

 言葉は尻すぼみに小さくなっていった。
 吐き出される吐息は震え始め、視界は揺らいでいった。

希「ウチは……えりちに何もしてあげられてない……」

 精一杯踏ん張った。虚勢を張った。決して涙が零れないように。
90: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 00:59:58.15 ID:OkQeYDUM.net
絵里「……希」

 不意に、隣にいたえりちの手が私の両肩に伸びた。
 そのままゆっくりとえりちに相対する形に座りな直され、私達は向かい合った。

絵里「成程。これが穂乃果の言ってたことね。ようやく理解出来たわ」

希「……え?」

絵里「希が来てくれる前にね、穂乃果も来てくれたの。その時に言われたのよ」

絵里「灯台下暗しって知ってる?ってね」

希「どういう……こと?」

 身近なことほど気付きにくい。その言葉を穂乃果ちゃんがえりちに言った意味が、私には分からなかった。

絵里「さっきまでずっと考えてた。穂乃果達には当たり前の様に見えているのに、私と希には見えていないもの。それがなんなのか」

希「……?」

絵里「色々考えを巡らせたわ。私こういうのどうも苦手みたいなんだけど……さっき、希が部屋の扉を開けた時、答えが分かったの」

 そう言ったえりちの顔が、私に近づいてくる。
 吐息を感じられる程の距離。長い睫毛、スッと通った鼻。桃色に色づいた唇。全てが目の前にあった。
 そして、額と額が触れ合った。こつん、と本当に微かな音が響く。
91: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:00:36.23 ID:OkQeYDUM.net
絵里「私はね、希。確かにあの時穂乃果の手に救われた。それは変わらない事実だし、私は一生忘れない」

希「……うん」

絵里「でもね、本当ならそうはならなかったのよ」

希「え?」

 額と額をくっつけたまま、えりちは言葉を紡ぎ続ける。

絵里「穂乃果が手を差し伸べてくれたあの場所に辿り着く前に、私は……潰れていたはずよ」

絵里「ただがむしゃらだった。廃校問題さえどうにかできればそれで良かった。……でもね、どんどんどんどん、私の心は崩れていった」

 あの頃のえりちは、本当に見ていられない程だった。
 生徒会長としての重圧。祖母の母校を残したいという希望。色々な物に挟まれ、押し潰されそうになっていた。
92: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:01:31.13 ID:OkQeYDUM.net
絵里「でも、私はあの場所まで辿り着けた。……どうしてだと思う?」

 綺麗な紺碧の瞳が私を見つめる。
 真っ直ぐに、私に何かを知らせるように。

希「……分からんよ」

絵里「貴女がいたからよ、希」

 えりちの視線が、揺れた。
 いいや、違う。私の視界が揺れたのだ。

絵里「希はどんな時でも私の傍にいてくれた。どんな時でも私の支えになってくれた。……私はね、希――」








絵里「――ずっとずっと前から、貴女に救われていたの」








 私はえりちに何もできなかった。手を差し伸べてあげられなかった。私はただ、隣にいただけだった。
 でも、それでも。

絵里「近過ぎて、それが当たり前過ぎてずっと気付けなかった。でも、私は希のおかげで今ここにいる。貴女はどんな時でも私の傍にいてくれる。……こうして貴女に嘘をついた時でも、ね?」

 私にだけ本当のことを言わなかった優しい嘘。
 私が気付いてしまった優しい嘘。
93: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:02:10.72 ID:OkQeYDUM.net
絵里「私が嘘をついても、貴女はこうして来てくれた。そう思った時、全部分かったの」





絵里「ありがとう、希。大好き」





希「ッッ!!」

 ずっとずっと隠してきた。
 ずっとずっと想ってきた。
 その想いを、私ですら気付かなかったその行動の意味を、えりちは掬い上げてくれた。
94: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:03:21.38 ID:OkQeYDUM.net
絵里「ベタな言葉だけど一応言っておくと、LikeじゃなくてLoveだからね」

 まだ、額はくっついたまま。そのまま、えりちはふわりと笑う。
 その笑顔を何故か長い間見ていなかった様に思えた。


希「ウチ……面倒な女やよ?」

絵里「ええ、知ってるわ」


 もう、いいんだ。
 隠さなくても、いいんだ。


希「ウチ……えりちのこと束縛してしまうかもしれんよ?」

絵里「首輪とリードくらいにしておいてね」


 もう、いいんだ。
 言葉にしても、いいんだ。


希「ウチ……えりちから離れんよ?」

絵里「大丈夫、私が離さないわ」


 言ってしまってもいいんだ。
 伝えてしまってもいいんだ。


希「えりっ、ぢぃ……。ウチ、ウチな……」

絵里「うん」

 気付けば頬は濡れていた。言葉は上手く出てこない。
 でも、伝えたかった。私がしまい込んできた言葉を、想いを。




希「ウチ、えりぢのこと……大好きなんよぉ……」




 やっと、言えた。やっと、伝えられた。
 ずっとずっと叶う筈がないと思っていた願いが、叶ってしまった。
95: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:04:29.71 ID:OkQeYDUM.net
絵里「うん、うん……」

 目の前のえりちは、顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
 その瞳から零れる涙を拭うこともせず、ただ私を抱きしめてくれた。
 もう、それだけで良かった。
 私の世界は今、こんなにも、輝いている。






絵里「落ち着いた?」

希「うー……。なんか恥ずかしい……」

 しばらくえりちの胸の中で泣き続けてしまった。
 えりちは先に涙を拭い、ずっと私の背を撫で続けてくれていた。

絵里「ねぇ、希」

希「んー?」

絵里「……明日、皆にお礼言わないとね」

希「……せやね」

 私達が想いを繋ぐことが出来たのは、みんなのおかげだから。
 μ’s一人一人の笑顔が脳裏を過る。

希「ウチ、こんなに幸せでええんやろか」

 本当にそう思う。
 大好きな仲間がいて、大好きなえりちがいる。
 ずっとずっと、このまま時が止まってしまえばいいのにと思う。
96: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:05:22.39 ID:OkQeYDUM.net
 そう思っていたら、首筋に違和感を感じた。

希「ちょっ、えりち何してるん!?」

 違和感の正体は、えりちだった。
 私の首に顔を埋めたかと思うと、そのままそこに彼女の唇が着地する。

絵里「んふっ♪」

 そっと離れたえりちは枕元にあった手鏡をこちらに向けた。
 そこに映っていたのは泣き顔の私……ではなく。

希「あんなぁえりち。ウチは確かに束縛するかもよとは言ったけど……」

 私の首元にしっかりと残った、赤い印。

希「ここまでしようとは、思ってなかったんよ……」

 ああ、これにこっち辺りが見たら激昂するんだろうなぁ、なんて他人事のように思ってはみるが、そう思ったところで首筋の印は消えはしない。

絵里「え、あれ?恋人ってこういうことするんじゃないの?」

 どこか抜けた私の恋人。

希「こりゃ漫画は没収かなぁ」

 これからもずっとずっと傍にいたいと、改めて思った――
97: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:06:05.30 ID:OkQeYDUM.net
 
~Epilogue~


希「よしっ、学校いこか!!」

 えりちと想いを繋げた翌日。
 その日は寝坊することなく小鳥達に挨拶ができた。
 気分は上々。身体も軽い。
 ああ、現金だなぁと自分自身に苦笑してしまう。

 登校前の最後の確認に鏡を見ると、首筋の赤い印に目がいった。

希「知らんでぇ、えりち」

 思わず笑みがこみ上げる。
 あの後取り乱すえりちを宥めるのに随分時間がかかった。

 思い出し笑いにお腹を抱えそうになっていると、インターホンが鳴った。
98: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:06:37.91 ID:OkQeYDUM.net
絵里「おはよう、希」

 扉を開けるとそこにいたのは、私の大好きな人。

希「おはようさん……って珍しいやん。どしたん?」

絵里「一緒に学校に行こうと思っただけよ」

希「うぁー、やめてやめて。急にそんなんされたらウチ恥ずかしくて家から出れんくなってまう」

 普段から登校途中で合流して一緒に登校しているのに、今日に限って家まで来てくれるとは。
 関係、変わったんだ。これからはそういうことをしていいんだ。

絵里「ほら、早く行きましょ」

希「あ、ちょっと待ってー」

 思い出したように、一度キッチンへと戻る。
 冷蔵庫を開けて取り出すのは、萎びた野菜スティック。

希「これはもう、ぽーいってな」

 勿体ないオバケが出そうだが、私は構わずにそれを捨てた。
99: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:07:25.99 ID:OkQeYDUM.net
 秋の風が髪を揺らし、過ごし易い気温は私達を包むようにして季節を告げる。
 ほんの数日前にも似たようなことを思ったが、今見えている景色はあの時とは全然違っていた。

絵里「あ、あそこ」

希「んー?」

 えりちが指差す方を見ると、そこには見知った顔が並んでいた。

穂乃果「おーい、絵里ちゃーん、希ちゃーん!!」

 ちょうど朝練を終えたのか、μ’s全員が揃って登校していた。

ことり「おはよっ、二人とも……あっ」

希「ん?どうかしたん?」

ことり「ううん、なんでもないの!!」

 えりちを見つめ、一瞬驚いた表情をしたことりちゃん。
 何かと聞こうと思ったのだが、それはぐいっと前に出てきた凛ちゃんにより阻まれた。
100: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:08:02.12 ID:OkQeYDUM.net
凛「絵里ちゃん、希ちゃん。昨日はほんっとーにごめんにゃ!!」

 深々と頭を下げる凛ちゃん。でも、よく考えたらこの子があそこでうっかりをしなければ私はえりちの嘘に気付けなかったのではないだろうか。

 そう思った私の心を代弁するように、にこっちが凛ちゃんの頭を上げた。

にこ「いいのよ凛。むしろあれで良かったの」

にこ「近くにある大事なものにいつまで経っても気付かなかった絢瀬 鈍感チカちゃんと、自分がしてきたことを過小評価して一歩踏み出す勇気が出せなかった東條 ビビリちゃんにアンタはきっかけを作ったのよ。むしろMVPよ!!」

絵里「くっ……」

希「あはは、これは言い返せんなぁ」

 もしかしたらにこっちは早々に私達の気持ちに気付いて、ずっともやもやしていたのかもしれない。
 実際今回にこっちには沢山助けられた。

真姫「ま、収まる所に収まったって感じよね」

花陽「うんうん、素敵ですっ」

 というかなんでみんな結果がどうなったかを知っているのだろう。
 それだけは疑問だった。
101: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:09:05.29 ID:OkQeYDUM.net
にこ「ま、にこがあれだけ言ってあげたんだもの、当然よ。ねぇ、のぞ……」

 にこっちの視線が、私の首元で止まる。

にこ「絵里っ!!アンタねぇ!!」

 やっぱりバレた。
 特に隠してもいないし当然と言えば当然なのだが。

にこ「確か鞄の中に……あった!絆創膏!!ほら希、これ貼っときなさい!!」

 可愛らしいピンクの絆創膏を渡された私は、素直ににこっちの言うことに従うことにする。
 ……少しでもお説教が短くなればいいね、えりち。

にこ「ったく。リアルで硝子の花園やってんじゃないわよ。いい?私達はアイドルなのよ?もっと周りの視線を気にしなさい!!……さっきことりが気付いたのはこれだったのね」

ことり「ぴっ!?違う違う!!あ、いや違わないんだけどぉ……」

にこ「じゃあなんなのよ」

 にこっちがことりちゃんに詰め寄り、次の言葉を待つ。
102: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:10:40.48 ID:OkQeYDUM.net
 その時、私の耳元で小さくえりちが囁いた。

絵里「逃げるわよ、希」

希「ふぇ!?」



 私の手を取り、学校へと向かい駆け出す。



ことり「ことりがぁ、気付いたのはぁ……」

にこ「腰くねらせてないで早く言いなさいよ!!」



 私の一歩先を、私の手を引いて走るえりち。



ことり「絵里ちゃんって髪をアップにする時全部を纏めるんじゃなくて、サイドに少し残すでしょ?さっき風が吹いた時にその髪がふわってなってぇ……」



 今日からはもう、並んで走ろう。



ことり「見えちゃったの♪」

にこ「だから何を見たのよ!!」



 前を向けば、綺麗な金色の髪。
 陽光を照り返す、金色の華。
 視界一杯に広がるそれが、これからの私の日常。



ことり「だからぁ、キスマーク♪」

にこ「希ィィィィィィィィィ!!アンタもかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 これが私の、これからが私の――





希「ゴールデンデイズっ♪」



~Fin~
103: 名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/ 2015/06/04(木) 01:11:21.40 ID:OkQeYDUM.net
おわったあああああ
お疲れ様っしたああ
とりあえず寝ますまた明日レスとかします
スポンサーリンク

シェアする

フォローする

『希「ゴールデンデイズ」【のぞえりSS】』へのコメント

コメントの投稿には初回のみDisqusへのアカウント登録が必要です。Disqusの登録、利用方法を参考に登録をお願いします。
表示の不具合、カテゴリーに関する事等はSS!ラブライブ!Disqusチャンネルにてご報告下さい。